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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076568
(43)【公開日】2022-05-20
(54)【発明の名称】微細水放出装置
(51)【国際特許分類】
   B05B 9/04 20060101AFI20220513BHJP
   B05B 1/14 20060101ALI20220513BHJP
   B05B 1/06 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
B05B9/04
B05B1/14 Z
B05B1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020186982
(22)【出願日】2020-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田端 友紀
(72)【発明者】
【氏名】平野 明良
(72)【発明者】
【氏名】井上 慎介
【テーマコード(参考)】
4F033
【Fターム(参考)】
4F033BA04
4F033DA05
4F033EA01
4F033FA00
4F033NA01
4F033RA14
4F033RD09
4F033RD10
4F033RE11
4F033RE17
(57)【要約】
【課題】帯電した微細水の放出による不具合を解消する。
【解決手段】微細水放出装置は、一端が開放した貯水タンク20と、貯水タンク20の開放端に設けられ、一方の面から他方の面へ貫通する100nm以下の孔径をもつ複数の細孔31を有する水放出膜30と、を備える。水放出膜30は、細孔31の周りの一方の面が疎水性を有する材料により形成される。貯水タンク20に水を送り込むことにより、複数の細孔31を通して水放出膜30から帯電していない100nm以下の微細水を放出させる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
100nm以下の孔径により一方の面から他方の面へ貫通する複数の貫通孔が形成され、少なくとも前記複数の貫通孔の周りにおける前記一方の面が疎水性を有する材料により形成された膜状の水放出部と、
前記水放出部の前記他方の面側に配置され、水分を貯留する水貯留部と、
を備え、
前記水貯留部に貯留された水分を前記複数の貫通孔を通して前記水放出部の前記一方の面側から放出させることにより、前記一方の面から微細水を放出させる、
微細水放出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の微細水放出装置であって、
前記水貯留部に貯留された水が前記複数の貫通孔から押し出されるよう加圧する水加圧部を備える、
を備える微細水放出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の微細水放出装置であって、
前記水貯留部は、開口部に前記水放出部が取り付けられたタンクを備え、
前記水加圧部は、前記タンクに水を供給する、
微細水放出装置。
【請求項4】
請求項2に記載の微細水放出装置であって、
前記水貯留部は、吸湿性かつ伸縮性を有する弾性部材を備え、
前記水加圧部は、前記弾性部材を圧縮する、
微細水放出装置。
【請求項5】
請求項2に記載の微細水放出装置であって、
前記水加圧部は、前記水貯留部を加熱するヒータを備える、
微細水放出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細水放出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微細水(ナノミスト)を放出する微細水放出装置が知られている。例えば、特許文献1には、毛細管現象によって水を搬送する水搬送部と、水搬送部に水を供給する水供給部と、水搬送部が搬送する水に対して電圧を印加する印加電極と、印加電極に高電圧を印加する高電圧印加部と、を備え、高電圧印加部により印加される高電圧によって、水搬送部の先端に保持される水を対向電極に向けて霧化させてナノイオンミストを発生させる静電霧化装置が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、貯水部と、貯水部に下部を水没させたすり鉢状の回転体と、回転体の外周に位置して回転体の回転と共に回転する円筒状の多孔体と、を備え、回転体による回転により吸い上げられ多孔体にぶつけられた水の破砕によってナノミストを発生させるナノミスト発生装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-131549号公報
【特許文献2】特開2009-268775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の技術では、水に電圧を印加して霧化するものであり、霧化された水は帯電する。また、特許文献2記載の技術では、水の破砕による衝撃により水をミスト化するものであるが、破砕された水は衝撃によって帯電する。微細水放出装置を、例えば美容目的などの用途で肌や髪へ使用する場合を考えると、帯電した水は、肌や髪の表面に吸着し易いものの、内部への浸透性が悪いため、十分な保湿効果を得ることができない場合がある。
【0006】
本発明の微細水放出装置は、帯電した微細水の放出による不具合を解消することができる微細水放出装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の微細水放出装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0008】
本発明の微細水放出装置は、
100nm以下の孔径により一方の面から他方の面へ貫通する複数の貫通孔が形成され、少なくとも前記複数の貫通孔の周りにおける前記一方の面が疎水性を有する材料により形成された膜状の水放出部と、
前記水放出部の前記他方の面側に配置され、水分を貯留する水貯留部と、
を備え、
前記水貯留部に貯留された水分を前記複数の貫通孔を通して前記水放出部の前記一方の面側から放出させることにより、前記一方の面から微細水を放出させる、
ことを要旨とする。
【0009】
この本発明の微細水放出装置は、一方の面から他方の面へ貫通する複数の貫通孔が形成された膜状の水放出部と、水放出部の他方の面側に配置された水貯留部と、を備え、複数の貫通孔を通して水貯留部に貯留された水分を水放出部の一方の面側から放出させることにより一方の面から微細水を放出させるものである。複数の貫通孔を、100nm以下の孔径を有するように形成し、少なくとも複数の貫通孔の周りにおける表面を疎水性材料により形成しているため、帯電していない微細な水を良好に複数の貫通孔から飛び出させることができる。
【0010】
こうした本発明の微細水放出装置において、前記水貯留部に貯留された水が前記複数の貫通孔から押し出されるよう加圧する水加圧部を備えるものとしてもよい。こうすれば、微細水を安定して複数の貫通孔から放出することが可能となる。例えば、水放出部の他方の面に対して水加圧部により均一な圧力で水を押し出すことで、微細水の放出をより安定させることが可能となる。
【0011】
水加圧部を備える態様の本発明の微細水放出装置において、前記水貯留部は、開口部に前記水放出部が取り付けられたタンクを備え、前記水加圧部は、前記タンクに水を供給するものとしてもよい。または、前記水貯留部は、吸湿性かつ伸縮性を有する弾性部材を備え、前記水加圧部は、前記弾性部材を圧縮するものとしてもよい。あるいは、前記水加圧部は、前記水貯留部を加熱するヒータを備えるものとしてもよい。いずれによっても、微細水放出装置を簡易な構成とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態(第1実施形態)の微細水放出装置の概略構成図である。
図2】水放出膜と貯水タンクの断面図である。
図3】疎水性表面をもつ実施例の水放出膜を使用した場合の微細水放出シミュレーションの結果を示す説明図である。
図4】親水性表面をもつ比較例の水放出膜を使用した場合の微細水放出シミュレーションの結果を示す説明図である。
図5】第2実施形態の微細水放出装置の概略構成図である。
図6】第3実施形態の微細水放出装置の概略構成図である。
図7】第4実施形態の微細水放出装置の概略構成図である。
図8】第5実施形態の微細水放出装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は、本実施形態(第1実施形態)の微細水放出装置の概略構成図であり、図2は、水放出膜と貯水タンクの断面図である。本実施形態の微細水放出装置10は、図示するように、一端が開放した貯水タンク30と、貯水タンク30の開放端に設けられた水放出膜30と、貯水タンク20に給水する給水ホース40と、を備える。
【0015】
貯水タンク20は、例えば上方が開放した有底筒状の部材により形成されており、その開放端には、水放出膜30が張った状態で設置されている。貯水タンク20の底部には、給水ホース40の一端が接続されており、給水ホース40の他端側には、図示しないポンプが設けられている。ポンプを駆動することにより、給水ホース40を介して貯水タンク20へ給水される。
【0016】
水放出膜30は、100nm以下の孔径により一方の面(表面)から他方の面(裏面)へ貫通する多数(複数)の細孔31を有すると共に表面が疎水性材料により形成された疎水性多孔質膜として構成される。疎水性多孔質膜としては、例えば、水のろ過などで使用される、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などで作製された疎水性分離膜や浸透膜、SiO2やTiO2、ゼオライト、シリカゲルなどの無機多孔質材料の細孔内の表面を疎水性基を有するカップリング剤などを用いて化学修飾した膜、細孔の孔径が0.4~100nmとなる0.1μm以下の厚みをもつカーボンナノチューブの積層体膜、金属有機構造体(MOF)で有機フッ素分子などを用いて細孔内を疎水化した膜などを挙げることができる。なお、疎水性多孔質膜としては、少なくとも細孔周りの膜表面が疎水性材料により形成されているものであれば、如何なる材料や構造により形成されてもよい。
【0017】
また、水放出膜30は、単体で用いることもできるし、金属ネットやパンチング材、不織布など、水が通過できる基材に上述した疎水性多孔質膜を成型したものを用いることもできる。
【0018】
こうして構成された微細水放出装置10では、図2に示すように、ポンプを駆動して給水ホース40から貯水タンク20へ水を送り込むことにより、貯水タンク20内の水が加圧され、加圧された水は、多数の細孔31を通過して水放出膜30から外部へ放出される。水放出膜30の表面は疎水性を有しており、水放出膜30の細孔31は孔径が100nm以下で構成されていることから、細孔31を通過した水は、100nm以下の微細水となって外部へ放出されることとなる。
【0019】
以上説明した本実施形態の微細水放出装置10では、水放出膜30の細孔31を、100nm以下の孔径を有するように形成し、膜表面を疎水性材料により形成しているため、貯水タンク20に貯留されている水を加圧して細孔31を通過させることで、通過と同時に細孔31を通過できる水分子数が限られ、それが空気中に放出させることで、エントロピーの増大により水素結合を弱める力が働き、表面張力により、水がクラスター化する。これにより、帯電していない100nm以下の微細水を水放出膜30から放出させることができる。この結果、加湿対象への水分の浸透性を向上させることができる微細水放出装置とすることができる。例えば、人間の肌や髪に微細水を噴出することで、肌や髪に高い保湿効果を得ることができる。その他、野菜や果物等の植物への吸水や保湿、微細水への吸水等にも高い効果を期待することができる。
【0020】
図3は、疎水性表面をもつ実施例の水放出膜を使用した場合の微細水放出シミュレーションの結果を示す説明図である。図4は、親水性表面をもつ比較例の水放出膜を使用した場合の微細水放出シミュレーションの結果を示す説明図である。実施例の水放出膜として、表面に疎水性材料であるポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)の会合体を配列し、一部に1nmの貫通孔を空けた膜を用意した。そして、その下に水分子を用意し、鉄の板を上部に移動させながら、水が貫通孔から飛び出る様子をシミュレーションで観察した。一方、比較例では、実施例と同じ系で表面に親水性材料であるポリスチレンスルホン酸(PSS)を配列させた膜を用意した。実施例では、疎水性表面をもつ水放出膜30に加圧した水を供給したものであり、この場合、図3に示すように、水放出膜30の細孔31を通過した水は、微細水となって勢いよく外部へ飛び出すことがわかった。これに対して、比較例では、親水性表面をもつ水放出膜に加圧した水を供給したものであり、この場合、図4に示すように、水放出膜の細孔を通過した水は、当該水放出膜の表面に濡れ拡がり、殆ど外部へ飛び出さないことがわかった。
【0021】
図5は、第2実施形態の微細水放出装置の概略構成図である。第2実施形態の微細水放出装置110は、両端が開放した容器120(シリンダ)と、容器120内に収容された吸水性かつ伸縮性を有する吸水部材121と、容器120の一方の開放端に設置された第1実施形態と同様の水放出膜30と、容器120の他方の開放端から摺動可能に挿通されたピストン140と、容器120内に水を供給する給水管122と、を備える。吸水部材121は、吸水性かつ伸縮性を有する合成樹脂(例えば、セルロースやウレタン、メラミンなどにより形成されるスポンジ)や海綿加工品により形成される。ピストン140は、図示しないモータの駆動により容器120内を往復動するように構成され、吸水部材121に保持されている水は、吸水部材121がピストン140によって圧縮されることで、水放出膜30を介して外部へ押し出される。給水管122には、開閉弁123が設置されている。この第2実施形態の微細水放出装置110では、開閉弁123を開弁すると共にピストン140を退避することにより容器120へ水を供給して吸水部材121に吸水させる吸水期間と、開閉弁123を閉弁すると共にピストン140を進出することにより吸水部材121に吸水させた水を押し出す放水期間とが交互に生じるように開閉弁123とピストン140の動作を制御する。これにより、ピストン140により吸水部材121から押し出された水は、水放出膜30の複数の細孔31を通り、100nm以下の微細水となって当該水放出膜30から放出されることになる。これにより、第1実施形態と同様に、帯電していない微細水を放出することが可能となる。なお、第2実施形態では、吸水部材121を圧縮する手段としてピストン140を用いるものとしたが、これに限定されるものではなく、例えば圧縮ローラなど、吸水部材121を圧縮して水を追い出すことができるものであれば、如何なる構成を採用するものとしてもよい。
【0022】
図6は、第3実施形態の微細水放出装置の概略構成図である。第3実施形態の微細水放出装置210は、一端が開放された容器220と、容器220の開放端に設置された第1実施形態と同様の水放出膜30と、容器220内に収容された吸湿部材221と、容器220の周囲に配置されたヒータ240と、を備える。吸湿部材221は、例えば、シリカゲルやポリアクリルアミド、ポリスチレンスルホン酸などの吸湿剤として構成される。容器220は、金属などの熱伝導性の高い材料により形成される。ヒータ240は、容器220を加熱することにより、容器220に収容された吸湿部材221から水を放出させる。そして、放出された水は、熱による容器220内の空気の膨張によって水放出膜30の細孔31を通って、100nm以下の微細水として追い出される。これにより、第1実施形態と同様に、帯電していない微細水を水放出膜30の細孔31から放出することが可能となる。
【0023】
図7は、第4実施形態の微細水放出装置の概略構成図である。第4実施形態の微細水放出装置310は、第3実施形態のヒータ240に代えて、容器220の内外で湿度勾配が生じるように、水放出膜30の表面に加湿された空気を流すことで、容器220内の吸湿部材221に水を吸着させ、水放出膜30の表面に乾燥した空気を流すことで、容器220内の吸湿部材221に吸湿された水を細孔31を通して水放出膜30から外部へ放出させるものである。この場合も、第3実施形態と同様に、帯電していない微細水を放出することが可能となる。なお、外部に乾燥した空気を流して吸湿部材221から水を放出するものに代えて、外部を減圧することで吸湿部材221から水を放出するようにしてもよい。
【0024】
図8は、第5実施形態の微細水放出装置の概略構成図である。第5実施形態の微細水放出装置410は、第3実施形態の吸湿部材221に代えて、熱応答性樹脂421を容器220に収容させたものである。熱応答性樹脂421は、ポリN-イソプロピルアクリスアミドに代表させる、加熱により親水性から疎水性に変化する材料を用いることができる。また、その他、スチレンスンホン酸ベースの樹脂なども用いることができる。この第5実施形態の微細水放出装置410では、吸水させた熱応答性樹脂421をヒータ240で加熱すると、熱応答性樹脂421が収縮すると共に特性が疎水性に変化し、当該樹脂から押し出された水が、水放出膜30の複数の細孔31を通って、100nm以下の微細水として放出されることとなる。これにより、第3実施形態と同様に、帯電していない微細水を水放出膜30の細孔31から放出することが可能となる。
【0025】
実施形態の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施形態では、細孔31が「貫通孔」に相当し、水放出膜30が「水放出部」に相当し、貯水タンク20や吸水部材121、吸湿部材221、熱応答性樹脂421が「水貯留部」に相当する。また、給水ホース40(ポンプ)や、容器120(シリンダ)およびピストン140、ヒータ240が「水加圧部」に相当する。
【0026】
なお、実施形態の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施形態が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施形態は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0027】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、微細水放出装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0029】
10,110,210,310,410 微細水放出装置、20 貯水タンク、30 水放出膜、31 細孔、40 給水ホース、120 容器、121 吸水部材、122 給水管、123 開閉弁、140 ピストン、220 容器、221 吸湿部材、240 ヒータ、421 熱応答性樹脂。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8