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特開2022-76603リチウム-硫黄系二次電池用電解液およびリチウム-硫黄系二次電池
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  • 特開-リチウム-硫黄系二次電池用電解液およびリチウム-硫黄系二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076603
(43)【公開日】2022-05-20
(54)【発明の名称】リチウム-硫黄系二次電池用電解液およびリチウム-硫黄系二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20220513BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20220513BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20220513BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0569
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020187052
(22)【出願日】2020-11-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業先端的低炭素化技術開発(ALCA)特別重点技術領域「次世代蓄電池」、「正極不溶型リチウム硫黄電池」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】石川 正司
(72)【発明者】
【氏名】松井 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】山口 観世
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AK05
5H029AL12
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ01
5H029HJ06
5H029HJ07
5H029HJ10
5H050AA02
5H050BA16
5H050CA11
5H050CB12
5H050HA06
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】多孔性炭素と硫黄との複合材料からのリチウムポリスルフィドの溶出を抑制可能な、リチウム-硫黄系二次電池用の電解液を提供する。
【解決手段】リチウム-硫黄系二次電池用の電解液であって、前記リチウム-硫黄系二次電池は、正極用材料として、多孔性炭素と硫黄との複合材料を備え、前記多孔性炭素は、孔径が2nm以上の細孔を含み、前記電解液の溶媒は、クロロ基を有するエチレンカーボネートを含有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム-硫黄系二次電池用の電解液であって、
前記リチウム-硫黄系二次電池は、正極用材料として、多孔性炭素と硫黄との複合材料を備え、
前記多孔性炭素は、孔径が2nm以上の細孔を含み、
前記電解液の溶媒は、クロロ基を有するエチレンカーボネートを含有する、リチウム-硫黄系二次電池用の電解液。
【請求項2】
前記多孔性炭素が有する細孔の総体積が0.4cm/g以上2.0cm/g以下である、請求項1に記載のリチウム-硫黄系二次電池用の電解液。
【請求項3】
前記多孔性炭素が有する細孔の総体積が0.9cm/g以上2.0cm/g以下である、請求項2に記載のリチウム-硫黄系二次電池用の電解液。
【請求項4】
前記多孔性炭素の細孔中に担持される硫黄の重量が、前記多孔性炭素の重量と、前記硫黄の重量との合計に対して30重量%以上、90%重量%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウム-硫黄系二次電池用の電解液。
【請求項5】
前記多孔性炭素の細孔中に担持される硫黄の重量が、前記多孔性炭素の重量と、前記硫黄の重量との合計に対して50重量%以上、90重量%以下である、請求項4に記載のリチウム-硫黄系二次電池用の電解液。
【請求項6】
前記多孔性炭素が有する細孔の総量に対する、孔径が2nm以上である細孔の量の割合が5%以上100%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のリチウム-硫黄系二次電池用の電解液。
【請求項7】
前記孔径が2nm以上である細孔の量の割合が40%以上100%以下である、請求項6に記載のリチウム-硫黄系二次電池用の電解液。
【請求項8】
前記溶媒におけるクロロ基を有するエチレンカーボネートの含有量が20重量%以上100重量%以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載のリチウム-硫黄系二次電池用の電解液。
【請求項9】
前記溶媒におけるクロロ基を有するエチレンカーボネートの含有量が30重量%以上100重量%以下である、請求項8に記載のリチウム-硫黄系二次電池用の電解液。
【請求項10】
前記溶媒が、ビニレンカーボネート、ハイドロフルオロエーテル、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、炭酸ジエチル、およびフルオロエチレンカーボネートから選択される1種類以上を含む、請求項1~9のいずれかに記載のリチウム-硫黄系二次電池用の電解液。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載のリチウム-硫黄系二次電池用の電解液を含み、
多孔性炭素と硫黄との複合材料を正極用材料として用い、前記多孔性炭素は孔径が2nm以上の細孔を含む、リチウム-硫黄系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム-硫黄系二次電池用電解液およびリチウム-硫黄系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、高エネルギー密度を有し、高電圧下で動作することができ、自己放電が少ないため長寿命である等の優れた性能を有する二次電池である。近年、電気自動車等の更なる普及を図るために、より一層の高エネルギー密度を備えることが要求されている。
【0003】
しかし、リチウムイオン二次電池は、コバルト、マンガン、ニッケル等を使用する電池であるため、高密度エネルギー化を図る上で、資源的な制約および価格的な制約を有している。
【0004】
正極に硫黄を用いたリチウム-硫黄系二次電池は、リチウムイオン二次電池よりも格段に大きい放電容量を得ることができる。加えて、硫黄は資源として豊富に存在するため、前記コバルト、マンガン、ニッケル等と比較して安価であり、入手が容易である。それゆえ、リチウム-硫黄系二次電池は次世代の二次電池として注目されている。
【0005】
一方、硫黄は電子伝導性を有さない絶縁体である。そのため、硫黄を電子伝導性物質と複合化させる方法が提案されている。非特許文献1には、前記電子伝導性物質の例として、カーボンナノチューブ、グラフェン、多孔性炭素、導電性ポリマー、ポリアクリロニトリル、金属酸化物等が提案されている。前記電子伝導性物質を用いた例としては、特許文献1に開示されるような、多孔性炭素のナノ多孔性内に硫黄を吸着させた電極材料が挙げられる。
【0006】
特許文献2には、リチウム-硫黄系二次電池の電極に使用するためのバインダが開示されており、硫黄と多孔性炭素との複合体を正極用材料として用いることも開示されている。
【0007】
一方、リチウム-硫黄系二次電池では、放電時に、負極においてリチウム金属が酸化され、リチウムイオンが電解液に溶解する。当該リチウムイオンは、正極において硫黄と反応し、反応中間生成物である多硫化リチウム(リチウムポリスルフィド)を経て、硫化リチウム(LiS)に還元される。
【0008】
しかし、前記多硫化リチウムは電解液中に溶出しやすいため、いわゆるレドックスシャトルによって自己放電を生じさせ、リチウム-硫黄系二次電池の急激な容量減衰および充放電効率の低下を招く。
【0009】
特許文献3には、前記多硫化リチウムの溶出を抑制する技術として、硫黄と多孔性炭素との複合体を正極用材料として用いるリチウム-硫黄系二次電池の電解液であって、フッ素化エーテルを含有する電解液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2013-118191号公報
【特許文献2】特開2016-100094号公報
【特許文献3】国際公開第2018/163778号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】X. Ji, K. T. Lee and L. F. Nazar, “A highly ordered nanostructured carbon-sulphur cathode for lithium-sulphur batteries”, Nature Materials. 8 (2009) 500.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ここで、多孔性炭素と硫黄との複合材料を正極用材料として用いる場合、多孔性炭素における硫黄の担持量が多いほど、リチウム-硫黄系二次電池のエネルギー密度を大きくすることができるため好ましいと言える。そして、多くの硫黄を担持するという観点からは、前記多孔性炭素の孔径は大きい方が好ましいと言える。
【0013】
しかし、本発明者は、前記複合体を正極用材料として用い、かつ、前記多孔性炭素が2nm以上の細孔を有するリチウム-硫黄系二次電池に対して、エチレンカーボネートを電解液の溶媒として用いた場合、充放電特性を得ることができないという問題が生じることを見出した。エチレンカーボネートは、リチウムイオン二次電池において、一般的に使用されている電解液の溶媒である。
【0014】
特許文献1及び非特許文献1は、前記複合材料について言及しているが、電解液と充放電特性との間の前記問題について何ら言及していないため、前記問題を解決することはできない。
【0015】
特許文献2は、前記多孔性炭素としてミクロ多孔性カーボンを用いること、および、電解液に用いる好ましい溶媒としてエチレンカーボネートを用いることを開示しているに過ぎない。特許文献2は、前記多孔性炭素が2nm以上の細孔を有する場合の問題については何ら認識していないため、前記問題を解決することはできない。
【0016】
特許文献3には、特許文献3に記載のリチウム-硫黄系二次電池の電解液が、リチウムポリスルフィドの中でもLiの生成を抑制し得ることが開示されている。しかしながら、後述するように、本発明者は、当該電解液を用いたリチウム-硫黄系二次電池は、充放電特性の分極について改善の余地があることを見出している。
【0017】
そこで、本発明の一態様は、孔径が2nm以上の細孔を含む多孔性炭素と硫黄との複合材料からのリチウムポリスルフィドの溶出を抑制し、かつ、リチウム-硫黄系二次電池の充放電特性を大きく向上させることができるリチウム-硫黄系二次電池用の電解液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、クロロ基を有するエチレンカーボネートを溶媒として用いた電解液を使用することにより、前記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明は以下の構成を含む。
【0020】
<1>リチウム-硫黄系二次電池用の電解液であって、前記リチウム-硫黄系二次電池は、正極用材料として、多孔性炭素と硫黄との複合材料を備え、前記多孔性炭素は、孔径が2nm以上の細孔を含み、前記電解液の溶媒は、クロロ基を有するエチレンカーボネートを含有する、リチウム-硫黄系二次電池用の電解液。
【0021】
<2>前記多孔性炭素が有する細孔の総体積が0.4cm/g以上2.0cm/g以下である、<1>に記載のリチウム-硫黄系二次電池用の電解液。
【0022】
<3>前記多孔性炭素が有する細孔の総体積が0.9cm/g以上2.0cm/g以下である、<2>に記載のリチウム-硫黄系二次電池用の電解液。
【0023】
<4>前記多孔性炭素の細孔中に担持される硫黄の重量が、前記多孔性炭素の重量と、前記硫黄の重量との合計に対して30重量%以上、90重量%以下である、<1>~<3>のいずれかに記載のリチウム-硫黄系二次電池用の電解液。
【0024】
<5>前記多孔性炭素の細孔中に担持される硫黄の重量が、前記多孔性炭素の重量と、前記硫黄の重量との合計に対して50重量%以上、90%重量%以下である、<4>に記載のリチウム-硫黄系二次電池用の電解液。
【0025】
<6>前記多孔性炭素が有する細孔の総量に対する、孔径が2nm以上である細孔の量の割合が5%以上100%以下である、<1>~<5>のいずれかに記載のリチウム-硫黄系二次電池用の電解液。
【0026】
<7>前記孔径が2nm以上である細孔の量の割合が40%以上100%以下である、<6>に記載のリチウム-硫黄系二次電池用の電解液。
【0027】
<8>前記溶媒におけるクロロ基を有するエチレンカーボネートの含有量が20重量%以上100重量%以下である、<1>~<7>のいずれかに記載のリチウム-硫黄系二次電池用の電解液。
【0028】
<9>前記溶媒におけるクロロ基を有するエチレンカーボネートの含有量が30重量%以上100重量%以下である、<8>に記載のリチウム-硫黄系二次電池用の電解液。
【0029】
<10>前記溶媒が、ビニレンカーボネート、ハイドロフルオロエーテル、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、炭酸ジエチル、およびフルオロエチレンカーボネートから選択される1種類以上を含む、<1>~<9>のいずれかに記載のリチウム-硫黄系二次電池用の電解液。
【0030】
<11><1>~<10>のいずれかに記載のリチウム-硫黄系二次電池用の電解液を含み、多孔性炭素と硫黄との複合材料を正極用材料として用い、前記多孔性炭素は孔径が2nm以上の細孔を含む、リチウム-硫黄系二次電池。
【発明の効果】
【0031】
本発明の一態様によれば、孔径が2nm以上の細孔を含む多孔性炭素と、硫黄との複合材料を正極用材料として用いた場合であっても、当該複合材料からのリチウムポリスルフィドの溶出を効果的に抑制することができる。また、本発明の一態様によれば、優れた充放電特性を有するリチウム-硫黄系二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】実施例および比較例で調製したリチウム-硫黄系二次電池の充放電試験の結果を示す図である。
図2】実施例および比較例で調製したリチウム-硫黄系二次電池を、サイクル特性試験に供した結果を示すグラフである。
図3】実施例および比較例で調製したリチウム-硫黄系二次電池を、サイクル特性試験に供した結果を示すグラフである。
図4】実施例で調製したリチウム-硫黄系二次電池を、サイクル特性試験に供した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能である。例えば、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意図する。
【0034】
〔1.リチウム-硫黄系二次電池用の電解液〕
本発明の一実施形態に係るリチウム-硫黄系二次電池用の電解液は、リチウム-硫黄系二次電池用の電解液であって、前記リチウム-硫黄系二次電池は、正極用材料として、多孔性炭素と硫黄との複合材料を備え、前記多孔性炭素は、孔径が2nm以上の細孔を含み、前記電解液の溶媒は、クロロ基を有するエチレンカーボネートを含有する。
【0035】
(1-1.リチウム-硫黄系二次電池の正極用材料)
本発明の一実施形態に係るリチウム-硫黄系二次電池用の電解液を用いる前記リチウム-硫黄系二次電池は、正極用材料として、多孔性炭素と硫黄との複合材料を備える。本明細書において正極用材料とは、正極を作製するために集電体に塗布もしくは充填される材料であり、正極活物質、導電助剤、バインダ等を含有する。
【0036】
前記硫黄は、正極活物質である。前記多孔性炭素としては、特に限定されないが、樹脂、化石資源材料等を炭化後、水酸化カリウム等のアルカリによって賦活することによって得られた活性炭等を好ましく用いることができる。前記活性炭等は、比表面積および細孔の体積が大きく、かつ、硫黄を多く担持する上で好適な構造を備えているため好ましい。また、鋳型法によって炭素の細孔構造を制御した多孔性炭素も好ましく用いることができる。前記多孔性炭素は公知の方法に基づいて製造したものでもよく、市販品であってもよい。
【0037】
前記「多孔性炭素と硫黄との複合材料」とは、多孔性炭素が有する細孔に硫黄が担持されてなる多孔性炭素である。すなわち、多孔性炭素と硫黄との複合材料とは、ポリスルフィドを吸着した多孔性炭素も含む。なお、前記吸着は物理吸着であってもよく、化学吸着であってもよい。
【0038】
前記多孔性炭素は、孔径が2nm以上の細孔を含む。多孔性炭素の細孔の形状としては、スリット状、広開孔状、連結孔等があるが、形状は特に限定されるものではない。多孔性炭素の細孔の種類としては、孔径が2nm未満のミクロ孔、孔径が2nm以上、50nm未満であるメソ孔、孔径が50nm以上であるマクロ孔がある。
【0039】
前述したように、特許文献2は、前記多孔性炭素としてミクロ多孔性カーボンを用いること、および、電解液に用いる好ましい溶媒としてエチレンカーボネートを用いることを開示している。
【0040】
特許文献2に開示されたミクロ多孔性カーボンは、細孔がミクロ孔である多孔性炭素である。この場合、エチレンカーボネートは、前記ミクロ孔に侵入することができないため、ミクロ孔に担持された硫黄がリチウムポリスルフィドとして電解液中に溶出することはない。
【0041】
しかし、ミクロ孔は孔径がごく小さいため、担持することができる硫黄の量も当然少ない。そのため、ミクロ孔よりも孔径が大きいメソ孔にも硫黄を担持させ、かつ、電解液中に溶出する硫黄を少なくすることが求められる。
【0042】
前記多孔性炭素は、孔径が2nm以上の細孔を含むため、ミクロ孔のみを有する多孔性炭素よりも多くの硫黄を担持することができる。よって、前記リチウム-硫黄系二次電池を高密度エネルギー化することができる。
【0043】
しかも、後述するように、本発明の一実施形態に係るリチウム-硫黄系二次電池用の電解液は、溶媒としてクロロ基を有するエチレンカーボネートを含有するため、前記硫黄がリチウムポリスルフィドとして電解液中に溶出することを抑制することができる。それゆえ、本発明の一実施形態に係るリチウム-硫黄系二次電池用の電解液は、充放電特性に優れたリチウム-硫黄系二次電池を提供することができる。
【0044】
前記多孔性炭素が有する前記細孔の総体積は、硫黄を多く担持する観点から0.4cm/g~2.0cm/gであることが好ましく、0.9cm/g~2.0cm/gであることがより好ましく、1.2cm/g~2.0cm/gであることがさらに好ましい。
【0045】
前記多孔性炭素の細孔の総体積が前記範囲である場合、前記多孔性炭素に硫黄を十分に担持させることが可能であるため、リチウム-硫黄系二次電池のエネルギー密度を一層向上させることができる。
【0046】
なお、細孔の体積は、例えば、Quantachrome社のAUTOSORB iQを用いて測定することができる。
【0047】
また、前記多孔性炭素の細孔中に担持される硫黄の重量は、前記多孔性炭素の重量と、前記硫黄の重量との合計に対して、30重量%以上、90%重量%以下であることが好ましく、50重量%以上、90%重量%以下であることがより好ましく、70重量%以上、90重量%以下であることがさらに好ましい。
【0048】
また、本発明の一態様において、前記多孔性炭素の細孔中に担持される硫黄の重量は、前記多孔性炭素の重量と、前記硫黄の重量との合計に対して、70重量%以下であってもよい。
【0049】
前記硫黄の重量が前記範囲である場合、多孔性炭素における硫黄の担持量を十分に増やすことができるため、リチウム-硫黄系二次電池の充放電特性を向上させることができる。なお、硫黄の担持量は多いほど好ましいが、多孔性炭素の担持能力等に鑑みると、上限値は90重量%程度である。なお、硫黄の担持量は、実施例にて後述する方法によって確認することができる。
【0050】
前記孔径が2nm以上である細孔の量の割合は、前記多孔性炭素が有する細孔の総量に対して、5%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、40%以上であることが特に好ましい。また、前記孔径が2nm以上の細孔の量の割合は、高い程好ましく、前記多孔性炭素が有する細孔の総量に対して、20%以下よりも40%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましく、80%以下であることがさらに好ましく、100%以下であることが特に好ましい。
【0051】
本明細書中、「細孔の量」とは、細孔の数、または細孔の体積のいずれを意味してもよい。すなわち、前記多孔性炭素が有する細孔の総量に対する、前記孔径が2nm以上である細孔の量の割合は、前記多孔性炭素が有する細孔の総数に対する、孔径が2nm以上である細孔の数の割合であってもよい。あるいは、前記多孔性炭素が有する細孔の総量に対する、前記孔径が2nm以上である細孔の量の割合は、前記多孔性炭素が有する細孔の体積の合計に対する、孔径が2nm以上である細孔の体積の割合であってもよい。
【0052】
前記割合が5%以上であることにより、ミクロ孔のみを備える多孔性炭素よりも硫黄の担持量を大きく増加させることができるため、高エネルギー密度のリチウム-硫黄系二次電池を提供することがより容易となる。
【0053】
なお、前記細孔に占めるマクロ孔の割合が多い場合は、電極の密度が低下する傾向がある。そのため、前記孔径が2nm以上の細孔は、メソ孔であることがより好ましい。
【0054】
前記孔径が2nm以上である細孔の数の割合、および細孔の孔径は、BET法によって前記多孔性炭素の比表面積を測定し、急冷固相密度関数法(QSDFT)によって細孔の分布および細孔の体積を測定することによって確認することができる。測定装置としては、Quantachrome社のAUTOSORB iQを用いることができる。
【0055】
前記多孔性炭素の比表面積、細孔分布、および細孔の体積の測定は、200℃で3時間真空脱気した試料について、液体窒素の温度にて、窒素の吸着等温線を測定することによって行うことができる。
【0056】
また、前記孔径が2nm以上である細孔の体積の割合は、上記AUTOSORB iQから得られる細孔分布図によって確認することができる。
【0057】
前記細孔への硫黄の担持は、例えば、多孔性炭素と硫黄とを乳鉢等を用いて混合した後、得られた混合物をマッフル炉内等で加熱することによって行うことができる。硫黄としては、市販の硫黄華等を用いることができる。
【0058】
本明細書において、硫黄の形態は特に限定されない。例えば、α硫黄(斜方硫黄)、β硫黄(単斜硫黄)、γ硫黄(単斜硫黄)、ゴム状硫黄、およびプラスチック硫黄からなる群より選択される1以上の硫黄を用いることができる。
【0059】
前記多孔性炭素の比表面積は、硫黄を多く担持する観点から、750m/g~3300m/gであることが好ましく、1200m/g~3300m/gであることがより好ましい。
【0060】
前記正極用材料である導電助剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定なく使用することができる。導電助剤として、通常、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラックが使用されるが、他の導電助剤を用いてもよい。例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンウイスカー、炭素繊維粉末、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金等)粉末、金属繊維、導電性セラミックス材料、カーボンナノチューブ等の導電性材料を使用してもよい。これらは単独で用いてもよく、2種類以上の混合物として用いることもできる。
【0061】
また、前記バインダとしては、例えば水系バインダを使用することができる。水系バインダは、前記多孔性炭素と硫黄との複合材料と、前記導電助剤等とを結着させることができるものであれば特に限定されない。例えば、ゴム系バインダであるスチレン-ブタジエンラバー(SBR)および分散剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)、水系バインダとしてのアルギン酸塩、並びにポリグルタミン酸塩等からなる群より選ばれるバインダを1種または2種以上用いることができる。
【0062】
前記正極用材料は、例えば、前記硫黄を担持した多孔性炭素と、前記導電助剤と、前記バインダとを均質に混合することによって調製することができる。当該混合の方法としては、前記硫黄を担持した多孔性炭素と、前記導電助剤とを乳鉢等に入れて混合し、得られた混合物を、更に自転・公転ミキサーを用いて撹拌する方法を挙げることができる。
【0063】
(1-2.リチウム-硫黄系二次電池用の電解液)
リチウム-硫黄系二次電池用の電解液(以下、単に電解液とも称する)は、溶媒と、リチウムを含有する電解質とを含む。
【0064】
前記リチウム-硫黄系二次電池用の電解液の溶媒(以下、単に電解液の溶媒とも称する)は、クロロ基を有するエチレンカーボネートを含有する。前記クロロ基を有するエチレンカーボネートのクロロ基の数は特に限定されず、1~4個であってよい。
【0065】
また、エチレンカーボネートに対するクロロ基の結合位置も特に限定されず、任意の位置に存在していてよい。すなわち、例えばエチレンカーボネート中の全ての炭素がクロロ基を1つまたは2つ有していてもよく、1つの炭素のみがクロロ基を有していてもよい。また、クロロ基が、エチレンカーボネートの炭素に直接結合せず、例えば、当該炭素にクロロメチレン基として結合していてもよい。
【0066】
クロロ基を有するエチレンカーボネートとしては、例えば、クロロエチレンカーボネート(4-クロロ-1,3-ジオキソラン-2-オン)、炭酸3-クロロプロピレン、4,4,5,5,-テトラクロロ-1,3-ジオキソラン-2-オン等が挙げられる。前記クロロ基を含むエチレンカーボネートは、1種類のみが電解液の溶媒に含まれていてもよいし、2種類以上が含まれていてもよい。
【0067】
前記電解液の溶媒が、クロロ基を有するエチレンカーボネートを含むことによって、多孔性炭素と硫黄との複合材料が、孔径が2nm以上の細孔を含んでいても、前記細孔から硫黄がリチウムポリスルフィドとして電解液中に溶出することを防ぐことができる。
【0068】
後述する実施例1に示すように、クロロ基を有するエチレンカーボネートを溶媒として含む電解液を用いた場合、前記複合材料(硫黄を担持した活性炭)の細孔に被膜が形成されたことを示すと考えられる充放電曲線が得られている。
【0069】
このことから、本発明の一実施形態に係るリチウム-硫黄系二次電池用の電解液は、まず、クロロ基を有するエチレンカーボネートが、前記細孔に被膜を形成するものと考えられる。次に、前記被膜が、前記硫黄と前記電解液との接触を抑制し、前記細孔からのリチウムポリスルフィドの溶出を抑制するものと考えられる。その結果、前記複合材料が備える硫黄の損失を防ぎ、硫黄を正極活物質として有効に作用させることができるため、リチウム-硫黄系二次電池に優れた充放電特性をもたらすことができると考えられる。
【0070】
また、後述する実施例では、前記溶媒としてフルオロエチレンカーボネートを用いた場合よりも、クロロ基を有するエチレンカーボネートを用いた場合の方が、リチウム-硫黄系二次電池に優れた充放電特性をもたらすことができることが示されている。
【0071】
前記電解液の溶媒中の前記クロロ基を有するエチレンカーボネートの含有量は、前記溶媒の重量を100重量%としたときに、20重量%以上100重量%以下であることが好ましく、30重量%以上100重量%以下であることがより好ましく、50重量%以上100重量%以下であることがさらに好ましい。
【0072】
前記含有量が20重量%以上である場合、前記電解液の溶媒として用いた場合に、リチウムポリスルフィドの溶出を十分に抑制し得る程度に前記被膜を形成し得るため、リチウム-硫黄系二次電池の放電容量を向上させる上で好ましい。
【0073】
前記電解液の溶媒中には、前記クロロ基を有するエチレンカーボネート以外の溶媒が共溶媒として含まれていてもよい。そのような共溶媒としては、エチレンカーボネート以外のカーボネート類、エーテル類、硫黄化合物、ハロゲン化炭化水素類、リン酸エステル系化合物、スルホラン系炭化水素類、およびイオン性液体からなる群より選択される1以上が挙げられる。
【0074】
前記エチレンカーボネート以外のカーボネート類としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート類;ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等の鎖状カーボネート類であることが好ましい。
【0075】
前記エーテル類としては、ジオキソラン(DOL)、テトラヒドロフラン等の環状エーテル類;ジメトキシエタン(DME)、トリグライム(G3)、テトラグライム(G4)、ハイドロフルオロエーテル等の鎖状エーテル類であることが好ましい。
【0076】
前記共溶媒の中でも、ビニレンカーボネート、ハイドロフルオロエーテル、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、炭酸ジエチル、およびフルオロエチレンカーボネートから選択される1種類以上であることが、リチウム-硫黄系二次電池の充放電特性を向上させる観点から特に好ましい。
【0077】
前記ハイドロフルオロエーテルとしては例えば、1,1,2,2-テトラフルオロ-3-(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)-プロパンが挙げられる。
【0078】
前記リチウムを含有する電解質としては、例えば、LiPF、LiBF、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)が挙げられる。中でも、LiPF、LiFSI、LiTFSIであることが好ましく、LiTFSIであることがさらに好ましい。前記リチウムを含有する電解質は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
〔2.リチウム-硫黄系二次電池〕
本発明の一実施形態に係るリチウム-硫黄系二次電池は、本発明の一実施形態に係るリチウム-硫黄系二次電池用の電解液を含み、多孔性炭素と硫黄との複合材料を正極用材料として用い、前記多孔性炭素は孔径が2nm以上の細孔を含む。
【0080】
当該構成によれば、後述する実施例に示すように、正極用材料に含まれる多孔性炭素の細孔中の硫黄の担持量を増加させ、かつ、前記電解液によって当該硫黄がリチウムポリスルフィドとして溶出することを防ぐことができるため、高い放電容量を示すリチウム-硫黄系二次電池を提供することができる。
【0081】
前記電解液、および硫黄を担持した多孔性炭素については、既に説明したとおりである。前記電解液は、例えば、リチウムを含有する電解質と、溶媒とを混合する方法によって調製することができる。
【0082】
本発明の一実施形態に係るリチウム-硫黄系二次電池は、正極、負極、本発明の一実施形態に係るリチウム-硫黄系二次電池用の電解液、セパレータ、筐体等を用いて、従来公知の方法によって組み立てることにより、製造することができる。
【0083】
前記正極は、例えば、正極用スラリーを集電体に塗布もしくは充填し、乾燥させた後、加圧成形し、さらに真空乾燥する方法によって調製することができる。
【0084】
前記正極用スラリーは、例えば、前記バインダを純水に溶解させて調製したバインダ溶液に導電助剤を添加し、次いで前記多孔性炭素と硫黄との複合材料を添加し、混合することによって調製することができる。
【0085】
前記正極用スラリーにおける前記複合材料と、前記導電助剤と、前記バインダとの重量比は、集電体への塗布もしくは充填を均一に行う観点から、80:10:10~97:0:3であることが好ましく、85:5:10~95:0:5であることがより好ましい。
【0086】
集電体としては、構成された電池において悪影響を及ぼさない電子伝導体を使用可能である。例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス等を挙げることができる。接着性、導電性、耐酸化性等の向上の目的で、表面をカーボン、ニッケル、チタンまたは銀等で処理した集電体を用いてもよい。
【0087】
集電体の形状については、フォイル状、フィルム状、シート状、ネット状等のいずれであってもよい。中でも、前記リチウム-硫黄系二次電池用の正極用材料をより多く充填することができ、大容量化が可能となるため、例えばハニカム状等の三次元構造を有する集電体が好ましい。当該集電体としては、例えば、3Dアルミニウム集電体を挙げることができる。
【0088】
負極は、例えば、負極用スラリーを集電体に塗布もしくは充填し、乾燥させた後、加圧成形し、さらに真空乾燥する方法によって調製することができる。
【0089】
前記負極用スラリーは、例えば、バインダを純水に溶解させて調製したバインダ溶液に導電助剤を添加し、次いで負極活物質を添加し、混合することによって調製することができる。負極活物質としては、例えば金属リチウムを用いることができる。
【0090】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0091】
<充放電試験>
後述する実施例、および比較例にて作製したリチウム-硫黄系二次電池の正極を作用極とし、BTS2400W(Nagano社製)を用いて、定電流充放電試験を行った。充電時のモードはC.C.法(「C.C.」はconstant currentの略称である。)とし、放電時のモードはC.C.モードとした。設定電流密度は167.2mA/gとした(電流密度1672mA/gを1Cと定義する。以下、167.2mA/gを0.1Cと示す。)。カットオフ電圧は、下限値を1.0V、上限値を3.0Vとした。試験は25℃の環境にて行った。
【0092】
なお、充電容量および放電容量は、硫黄の重量を基準とし、単位をmA・h(g sulfur)-1と定義した。
【0093】
<サイクル特性試験>
充放電レートを0.1/0.1Cとし、1-100サイクルの充放電を行った。各サイクル目での放電容量が高いほど、優れたリチウム-硫黄系二次電池とする。
【0094】
なお、クーロン効率、および容量維持率は、下記式によって求めた。
・クーロン効率(%)=(100サイクル目クーロン効率/2サイクル目クーロン効率)×100
・容量維持率(%)=(100サイクル目放電容量/2サイクル目放電容量)×100
〔実施例1〕
(硫黄を担持した活性炭の作製)
重量比が35:65となるように、孔径が2nm以上4nm以下のメソ孔を有する活性炭と、硫黄華(Wako pure chemical社製、純度99%超)とを、メノウ乳鉢を用いて混合し、混合物を得た。前記混合物を耐熱性金属容器に移し、これをマッフル炉に投入して、大気中で加熱処理を行った。
【0095】
なお、前記活性炭の細孔の体積は1.6cm/gであり、比表面積は1307m/gであった。また、前記活性炭が備える孔において、マクロ孔:メソ孔:ミクロ孔の数の比率は0:40:60であった。
【0096】
具体的には、前記金属容器を炉内に投入した後、炉内を155℃まで昇温させ、この温度を5時間保持し、硫黄を融解させた。前記硫黄は、毛細管現象によって前記活性炭の細孔内に吸着された。その後、炉内を室温まで十分に空冷して、炉内から金属容器を取り出し、硫黄を担持した活性炭を得た。当該活性炭は、本発明の一実施形態における「多孔性炭素と硫黄との複合材料」に該当する。
【0097】
前記活性炭における硫黄の担持量(多孔性炭素の細孔中に担持される硫黄の重量)は、以下の方法により測定した。すなわち、前記硫黄を担持した活性炭をアルミナセルに入れ、島津製作所社製、DTG-60AHを用いて、熱重量分析(TGA)を行った。測定は、測定ガスAr、ガス流量50ml/min、昇温速度5℃/min、および上限温度600℃の条件下で行った。前記硫黄の担持量は、硫黄を担持した活性炭全体の重量を基準として、65重量%であった。
【0098】
(バインダ溶液の調製)
バインダとして、ゴム系バインダであるスチレン・ブタジエンゴム(SBR)と、分散剤としてのカルボキシルメチルセルロース(CMC)とを純水に溶解させ、カルボキシルメチルセルロース(CMC)の濃度が1~2重量%であるバインダ溶液を調製した。
【0099】
(リチウム-硫黄系二次電池の正極用スラリーの作製)
前記バインダ溶液に、導電助剤であるアセチレンブラックを添加し、次いで前記硫黄を担持した活性炭を添加することにより、正極用スラリーを調製した。前記硫黄を担持した活性炭と、アセチレンブラックと、分散剤(CMC)と、バインダ(SBR)との重量比は90:5:3:2とした。
【0100】
(リチウム-硫黄系二次電池用正極の作製)
リチウム-硫黄系二次電池用正極として、2極式フラットセル用正極を作製した。
【0101】
2極式フラットセル用正極は、以下の方法によって作製した。まず、前記正極用スラリーを、前記硫黄を担持した活性炭の重量が、集電体の単位面積当たり1.3mg/cmとなるように、アルミニウム箔(集電体)に塗布し、大気圧下、オーブンを用いて40℃で1時間乾燥させた。次に、乾燥した集電体を、ロールプレス機を用いて圧延した後、直径12mmサイズに打ち抜き、成形体を得た。前記成形体を、50℃のベルジャーを用いて、さらに12時間真空乾燥させて、2極式フラットセル用正極を作製した。
【0102】
(リチウム-硫黄系二次電池用負極の作製)
リチウム-硫黄系二次電池用負極として、2極式フラットセル用負極を作製した。
【0103】
2極式フラットセル用負極は、露点-40℃以下の大気雰囲気中において、厚さ20μmのリチウム箔を直径16mmサイズに打ち抜くことによって調製した。
【0104】
(リチウム-硫黄系二次電池の電解液の調製)
リチウム含有電解質として、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(以下、LiTFSIと称する)を用いた。また、非水溶媒として、4-クロロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(クロロエチレンカーボネート)(以下、ClECと称する)と1,1,2,2-テトラフルオロ-3-(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)-プロパン(以下、HFEと称する)とを体積比で50:50になるように混合した混合溶媒を用いた。
【0105】
電解液の調製方法を、さらに具体的に記載する。ClECおよびHFEを、体積比で50:50になるように混合し、混合溶媒とした。次いで、LiTFSIを、1.0mol/LのLiTFSI/ClEC:HFEとなるように前記混合溶媒に溶解させた溶液を、リチウム-硫黄系二次電池の電解液とした。
【0106】
(リチウム-硫黄系二次電池の作製)
露点-40℃以下の大気雰囲気中において、前記(リチウム-硫黄系二次電池用正極の作製)により作製した正極、前記(リチウム-硫黄系二次電池用負極の作製)により作製した負極、前記(リチウム-硫黄系二次電池の電解液の調製)により調製した電解液、およびセパレータとしてのポリプロピレン系微多孔膜を用い、以下の手順でリチウム-硫黄系二次電池を作製した。
【0107】
リチウム-硫黄系二次電池のセルとしては、2極式フラットセル(塗布電極)を用いた。まず、前記セル内に、正極、セパレータ、および負極がこの順に積層するように収容した。次に、前記セル内に前記電解液を注入し、リチウム-硫黄系二次電池を作製した。
【0108】
当該リチウム-硫黄系二次電池を、前述した充放電試験およびサイクル特性試験に供した。
【0109】
〔実施例2〕
(硫黄を担持した活性炭の作製)
活性炭を孔径が2nm以上3nm以下のメソ孔を有する活性炭としたこと以外は実施例1と同様の方法により、硫黄を担持した活性炭を得た。
【0110】
なお、前記活性炭の細孔の体積は1.3cm/gであり、比表面積は2924m/gであった。また、前記活性炭が備える細孔において、マクロ孔:メソ孔:ミクロ孔の数の比率は0:5:95であった。
【0111】
また、前記活性炭における硫黄の担持量は、実施例1と同様の方法により測定した。前記硫黄の担持量は、硫黄を担持した活性炭全体の重量を基準として、61重量%であった。
【0112】
(バインダ溶液の調製)
バインダとして、水系バインダのポリグルタミン酸塩を純水に溶解させ、ポリグルタミン酸塩の濃度が5重量%のバインダ溶液を調製した。
【0113】
(リチウム-硫黄系二次電池の正極用スラリーの作製)
前記バインダ溶液に、導電助剤であるカーボンナノチューブ、次いで前記硫黄を担持した活性炭を添加することにより、正極用スラリーを調製した。前記硫黄を担持した活性炭と、カーボンナノチューブと、バインダとの重量比は94:1:5とした。
【0114】
(リチウム-硫黄系二次電池の作製)
前記硫黄を担持した活性炭の重量が、集電体の単位面積当たり1.1~1.3mg/cmとなるように、アルミニウム箔(集電体)に塗布したこと以外は実施例1と同様の方法により、2極式フラットセル用正極を作製した。
【0115】
その他の点は実施例1と同様にして、リチウム-硫黄系二次電池を作製した。
【0116】
〔実施例3〕
電解液を下記の通りに調製したこと以外は実施例2と同様の方法により、リチウム-硫黄系二次電池を作製した。
【0117】
ClECと、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(フルオロエチレンカーボネート)(以下、FECと称する)とを体積比で50:50となるように混合し、混合溶媒とした。次いで、LiTFSIを、1.0mol/LのLiTFSI/ClEC:FECとなるように前記混合溶媒に溶解させた溶液を、リチウム-硫黄系二次電池の電解液とした。
【0118】
〔実施例4〕
電解液を下記の通りに調製したこと以外は実施例2と同様の方法により、リチウム-硫黄系二次電池を作製した。
【0119】
ClECと、前記VCとを体積比で50:50になるように混合し、混合溶媒とした。次いで、LiTFSIを、1.0mol/LのLiTFSI/ClEC:VCとなるように前記混合溶媒に溶解させた溶液を、リチウム-硫黄系二次電池の電解液とした。
【0120】
硫黄を担持した活性炭における硫黄の担持量は、硫黄を担持した活性炭全体の重量を基準として、66重量%であった。
【0121】
〔実施例5〕
電解液を下記の通りに調製したこと以外は実施例2と同様の方法により、リチウム-硫黄系二次電池を作製した。
【0122】
ClECに、LiTFSIを、1.0mol/LのLiTFSI/ClECとなるように溶解させたものを、リチウム-硫黄系二次電池の電解液とした。
【0123】
硫黄を担持した活性炭における硫黄の担持量は、硫黄を担持した活性炭全体の重量を基準として、63重量%であった。
【0124】
〔実施例6〕
電解液を下記の通りに調製したこと以外は実施例2と同様に、リチウム-硫黄系二次電池を作製した。
【0125】
ClECに、LiTFSIを、1.0mol/LのLiTFSI/ClECとなるように溶解させ、溶液を調製した。次に、ビニレンカーボネート(VC)を、100Volume%の前記溶液に対して10Volume%添加し、リチウム-硫黄系二次電池の電解液とした。
【0126】
硫黄を担持した活性炭における硫黄の担持量は、硫黄を担持した活性炭全体の重量を基準として、66重量%であった。
【0127】
〔実施例7〕
電解液を下記の通りに調製したこと以外は実施例2と同様に、リチウム-硫黄系二次電池を作製した。
【0128】
ClECとHFEとを体積比で90:10となるように混合し、混合溶媒とした。次いで、LiTFSIを、1.0mol/LのLiTFSI/ClEC:HFEとなるように前記混合溶媒に溶解させ、溶液を調製した。次に、VCを、100Volume%の前記溶液に対して10Volume%添加し、リチウム-硫黄系二次電池の電解液とした。
【0129】
硫黄を担持した活性炭における硫黄の担持量は、硫黄を担持した活性炭全体の重量を基準として、66重量%であった。
【0130】
〔実施例8〕
ClECとHFEとを体積比で70:30となるように混合し、混合溶媒とした。次いで、LiTFSIを、1.0mol/LのLiTFSI/ClEC:HFEとなるように前記混合溶媒に溶解させ、溶液を調製した。さらに、VCを、100Volume%の前記溶液に対して10Volume%添加し、リチウム-硫黄系二次電池の電解液とした。その他の点は実施例7と同様にして、リチウム-硫黄系二次電池を作製した。
【0131】
硫黄を担持した活性炭における硫黄の担持量は、硫黄を担持した活性炭全体の重量を基準として、66重量%であった。
【0132】
〔実施例9〕
ClECとHFEとを体積比で50:50となるように混合し、混合溶媒としたこと以外は実施例7と同様にして、リチウム-硫黄系二次電池を作製した。
【0133】
硫黄を担持した活性炭における硫黄の担持量は、硫黄を担持した活性炭全体の重量を基準として、63重量%であった。
【0134】
〔実施例10〕
ClECとHFEとを体積比で30:70となるように混合し、混合溶媒としたこと以外は実施例7と同様にして、リチウム-硫黄系二次電池を作製した。
【0135】
硫黄を担持した活性炭における硫黄の担持量は、硫黄を担持した活性炭全体の重量を基準として、63重量%であった。
【0136】
〔実施例11〕
電解液、正極、負極および電解液を下記の通りに調製したこと以外は、実施例2と同様の方法により、リチウム-硫黄系二次電池を作製した。硫黄を担持した活性炭における硫黄の担持量は、硫黄を担持した活性炭全体の重量を基準として、66重量%であった。
【0137】
以下の方法によってラミネートセル用正極を作製した。
【0138】
まず、実施例1と同様の方法によって調製した正極用スラリーを、前記硫黄を担持した活性炭の重量が、集電体の単位面積当たり11mg/cm以上13mg/cm以下となるように、3Dアルミニウム集電体(住友電工株式会社製 セルメット)に充填した。次に、当該3Dアルミニウム集電体を、大気圧下、オーブンを用いて40℃で1時間乾燥させた。続いて、乾燥した集電体を、ロールプレス機を用いて圧延した後、24mm×24mmのサイズに鋏を用いてカットし、成形体を得た。前記成形体を、50℃のベルジャーを用いてさらに12時間真空乾燥させ、ラミネートセル用正極を作製した。
【0139】
ラミネートセル用負極は、露点-40℃以下の大気雰囲気中において、厚さ30μmのリチウム箔を30mm×35mmのサイズに鋏を用いてカットすることによって調製した。
【0140】
リチウム-硫黄系二次電池の電解液は、実施例6と同様の方法によって調製した。
【0141】
〔実施例12〕
ClECとHFEとを体積比で90:10となるように混合し、混合溶媒としたこと以外は実施例11と同様の方法により、リチウム-硫黄二次電池を作製した。硫黄を担持した活性炭における硫黄の担持量は、硫黄を担持した活性炭全体の重量を基準として、66重量%であった。
【0142】
〔実施例13〕
ClECとHFEとを体積比で70:30となるように混合し、混合溶媒としたこと以外は実施例11と同様の方法により、リチウム-硫黄二次電池を作製した。硫黄を担持した活性炭における硫黄の担持量は、硫黄を担持した活性炭全体の重量を基準として、64重量%であった。
【0143】
〔実施例14〕
ClECとHFEとを体積比で50:50となるように混合し、混合溶媒としたこと以外は実施例11と同様の方法により、リチウム-硫黄二次電池を作製した。硫黄を担持した活性炭における硫黄の担持量は、硫黄を担持した活性炭全体の重量を基準として、65重量%であった。
【0144】
〔実施例15〕
電解液の調製において、ClECとジメチルカーボネート(以下、DMCと称する)を体積比で70:30となるように混合し、混合溶媒としたこと以外は実施例11と同様の方法により、リチウム-硫黄二次電池を作製した。硫黄を担持した活性炭における硫黄の担持量は、硫黄を担持した活性炭全体の重量を基準として、67重量%であった。
【0145】
〔実施例16〕
電解液の調製において、ClECとDMCとを体積比で50:50となるように混合し、混合溶媒としたこと以外は実施例11と同様の方法により、リチウム-硫黄二次電池を作製した。硫黄を担持した活性炭における硫黄の担持量は、硫黄を担持した活性炭全体の重量を基準として、64重量%であった。
【0146】
〔実施例17〕
電解液の調製において、ClECとエチルメチルカーボネート(以下、EMCと称する)とを体積比で70:30となるように混合し、混合溶媒としたこと以外は実施例11と同様の方法により、リチウム-硫黄二次電池を作製した。硫黄を担持した活性炭における硫黄の担持量は、硫黄を担持した活性炭全体の重量を基準として、65重量%であった。
【0147】
〔実施例18〕
電解液の調製において、ClECと炭酸ジエチル(以下、DECと称する)とを体積比で70:30となるように混合し、混合溶媒としたこと以外は実施例11と同様の方法により、リチウム-硫黄二次電池を作製した。硫黄を担持した活性炭における硫黄の担持量は、硫黄を担持した活性炭全体の重量を基準として、67重量%であった。
【0148】
〔比較例1〕
電解液の調製において、リチウム含有電解質として、六フッ化リン酸リチウム(以下、LiPFと称する)を用いた。また、非水溶媒として、エチレンカーボネート(以下、ECと称する)と、DMCとを体積比で50:50となるように混合した混合溶媒(キシダ化学製 市販品)を用いた。
【0149】
その他の点は、実施例1と同様の方法により、リチウム-硫黄系二次電池を作製した。
【0150】
〔比較例2〕
電解液の調製において、非水溶媒として、ClECの代わりにFECを用いたこと以外は実施例1と同様の方法により、リチウム-硫黄系二次電池を作製した。
【0151】
〔比較例3〕
電解液の調製において、非水溶媒として、ECとDMCとを体積比で50:50となるように混合した混合溶媒(キシダ化学製 市販品)を用いたこと以外は実施例2と同様の方法により、リチウム-硫黄系二次電池を作製した。
【0152】
〔比較例4〕
電解液の調製において、非水溶媒として、FECとHFEとを体積比で50:50となるように混合した混合溶媒を用いたこと以外は実施例2と同様の方法により、リチウム-硫黄系二次電池を作製した。
【0153】
〔比較例5〕
電解液を下記の通りに調製したこと以外は、実施例11と同様の方法により、リチウム-硫黄系二次電池を作製した。
【0154】
電解液において、リチウム含有電解質として、LiPFを用いた。また、非水溶媒として、ECとDMCとを体積比で50:50となるように混合した混合溶媒(キシダ化学製 市販品)を使用した。次に、前記混合溶媒にLiPFを1.0mol/LのLiPF/EC:DMCとなるように溶解させた溶液を調製した。さらに、ビニレンカーボネート(VC)を、100Volume%の前記溶液に対して10Volume%添加し、リチウム-硫黄系二次電池の電解液とした。
【0155】
〔比較例6〕
電解液を下記の通りに調製したこと以外は、実施例11と同様の方法により、リチウム-硫黄系二次電池を作製した。
【0156】
電解液において、非水溶媒として、FECとHFEとを体積比で50:50となるように混合した混合溶媒を用いた。次いで、LiTFSIを、1.0mol/LのLiTFSI/FEC:HFEとなるように前記混合溶媒に溶解させ、溶液を調製した。次に、ビニレンカーボネート(VC)を、100Volume%の前記溶液に対して10Volume%添加し、リチウム-硫黄系二次電池の電解液とした。
【0157】
〔結果〕
図1は、実施例1、比較例1および2で調製したリチウム-硫黄系二次電池の充放電試験の結果を示す図である。
【0158】
図1より、実施例1および比較例2で調製したリチウム-硫黄系二次電池は充放電を100回以上行うことができたが、比較例1で調製したリチウム-硫黄系二次電池は、1サイクル目の放電特性しか示すことができず、再充電できなかったことが分かる。
【0159】
エチレンカーボネート(EC)は、活性炭のミクロ孔(孔径が2nm未満)には侵入することができないが、メソ孔には侵入することができる。実施例1、比較例1および比較例2で用いた活性炭の細孔の数の割合は、前述したように、マクロ孔:メソ孔:ミクロ孔=0:40:60である。比較例1の結果は、溶媒であるECがメソ孔内に侵入することによって、硫黄がリチウムポリスルフィドとして溶出してしまい、電流が発生しなくなったことに起因すると考えられる。
【0160】
また、図1より、実施例1および比較例1の1cycle目の1.8~2.3V付近において、特徴的な放電が発生していることが分かる。このことから、正極における硫黄を担持した活性炭の細孔に被膜が形成されたことが分かる。
【0161】
実施例1および比較例2で調製したリチウム-硫黄系二次電池は、前記被膜の形成により、前記細孔への溶媒の侵入が抑制された結果、比較例1とは異なり、100サイクル以上の充放電を行うことができたと考えられる。
【0162】
一方で、実施例1で調製したリチウム-硫黄系二次電池は、比較例2で調製したリチウム-硫黄系二次電池に比して、充放電特性の分極が非常に小さいことが分かる。すなわち、電解液の溶媒としてClECを用いることにより、FECを用いた場合よりも、リチウム-硫黄系二次電池の抵抗を大幅に小さくできることが明らかとなった。
【0163】
したがって、実施例1で調製したリチウム-硫黄系二次電池は、比較例1で調製したリチウム-硫黄系二次電池よりも優れた充放電特性を示すことができていると言える。
【0164】
図2および表1は、実施例1、比較例1および2で調製したリチウム-硫黄系二次電池を、前述したサイクル特性試験に供した結果を示す。
【0165】
【表1】
【0166】
図2および表1に示すように、比較例1で調製したリチウム-硫黄系二次電池は作動することができなかった。この結果は、前述したように、電解液の溶媒として用いたECがメソ孔に侵入し、硫黄がリチウムポリスルフィドとして溶出したことによると考えられる。
【0167】
実施例1で調製したリチウム-硫黄系二次電池は、比較例2で調製したリチウム-硫黄系二次電池に比して、2サイクル目で高い放電容量を示し、容量維持率および平均クーロン効率も高い値を示した。
【0168】
さらに、図2より、実施例1で調製したリチウム-硫黄系二次電池は、サイクル数を増やした場合でも、比較例2で調製したリチウム-硫黄系二次電池に比して高い放電容量を示し、サイクル数が増えるにつれて、その差は大きくなることが示された。
【0169】
すなわち、電解液の溶媒としてClECを用いることにより、前記溶媒としてECまたはFECを用いる場合よりも、リチウム-硫黄系二次電池の放電容量を向上させ得ることが分かる。
【0170】
図3は、実施例2、並びに比較例3および4で調製したリチウム-硫黄系二次電池のサイクル特性試験の結果を示す。表2は、実施例2および3、並びに比較例3および4で調製したリチウム-硫黄系二次電池の2サイクル目の放電容量を測定した結果を示す。
【0171】
【表2】
【0172】
図3および表2に示すように、比較例3で調製したリチウム-硫黄系二次電池は、20サイクルまでは作動することができたが、放電容量は低く、かつ、20サイクル以降はショートしてしまい、作動することができなかった。
【0173】
比較例3で調製したリチウム-硫黄系二次電池は、電解液の溶媒としてECを用いているが、前述した比較例1で調製したリチウム-硫黄系二次電池よりも、用いた活性炭の全細孔に占めるミクロ孔の割合が多い。すなわち、ECが孔内に侵入できない活性炭の割合が多い。そのため、比較例1で調製したリチウム-硫黄系二次電池とは異なり、20サイクルまでは作動することができたと考えられる。
【0174】
しかしながら、比較例3で調製したリチウム-硫黄系二次電池は、ECがメソ孔の内部に侵入することによって、メソ孔に担持された硫黄が溶出してしまった結果、20サイクル以降はショートしてしまったものと考えられる。
【0175】
表2より、実施例2および3で調製したリチウム-硫黄系二次電池は、比較例3および4で調製したリチウム-硫黄系二次電池に比して、2サイクル目で高い放電容量を有することが分かる。また、図3より、実施例2で調製したリチウム-硫黄系二次電池は、サイクル数を増やした場合でも、比較例3および4で調製したリチウム-硫黄系二次電池に比して、高い放電容量を示すことが分かる。
【0176】
実施例2および3で調製したリチウム-硫黄系二次電池は、電解液の溶媒としてClECを用いたことにより、被膜が形成され、多くの硫黄をメソ孔に保持することができたと考えられる。そのため、実施例2および3で調製したリチウム-硫黄系二次電池は、比較例3で調製したリチウム-硫黄系二次電池とは異なり、優れた放電容量を示すことができたと考えられる。
【0177】
また、前述したように、前記溶媒としてClECを用いた場合の方が、前記溶媒としてClECを用いず、FECを用いた場合よりも、充放電特性の分極を小さくすることができる。このことに起因して、実施例2で調製したリチウム-硫黄系二次電池の方が、比較例4で調製したリチウム-硫黄系二次電池よりも高い放電容量を示したものと考えられる。
【0178】
実施例3に示したように、前記溶媒としてClECとFECとを併用したリチウム-硫黄系二次電池は、溶媒としてClECを用いていない比較例4で調製したリチウム-硫黄系二次電池よりも、2サイクル目の放電容量が優れていた。このことからも、前記溶媒としてClECを用いることの有用性を理解することができる。
【0179】
表3に実施例2、4、5で調製したリチウム-硫黄系二次電池のサイクル特性試験の結果を示す。
【0180】
【表3】
【0181】
表3の実施例5に示すように、電解液の溶媒としてClECを単独で用いた場合でも、リチウム-硫黄系二次電池は高い放電容量を示すことが分かった。
【0182】
表4および図4は、実施例6~10で調製したリチウム-硫黄系二次電池を、前記サイクル特性試験に供した結果を示す。
【0183】
【表4】
【0184】
表4および図4に示すように、実施例6~10で調製したリチウム-硫黄系二次電池のいずれも高い放電容量を示した。実施例10に示すように、電解液溶媒中のClECの割合が30体積%以下(ClECとHFEとVCとの体積比が、30:70:10)であったとしても、リチウム-硫黄系二次電池は高い放電容量を示すことが分かった。
【0185】
つまり、電解液中の溶媒におけるClECの含有量は、必ずしも共溶媒よりも高い必要はなく、少ない含有量で高い放電容量を得ることができると言える。
【0186】
表5に、実施例11~18、比較例5および6のサイクル特性試験の結果である、2サイクル目および5サイクル目の放電容量、並びに容量維持率を示す。
【0187】
【表5】
【0188】
表5より、いずれの実施例で調製したリチウム-硫黄系二次電池も、2サイクル目の放電容量は、比較例5で調製したリチウム-硫黄系二次電池に比して大幅に高かった。すなわち、ラミネートセルに適用した場合でも、電解液の溶媒としてClECを用いることにより、ECを用いた場合よりも放電容量を大幅に向上させ得ることが分かった。
【0189】
また、実施例11~14,16,17で調製したリチウム-硫黄系二次電池の2サイクル目の放電容量は、比較例6で調製したリチウム-硫黄系二次電池よりも大幅に高かった。すなわち、ラミネートセルに適用した場合でも、電解液の溶媒としてClECを用いることにより、FECを用いた場合よりも放電容量を向上させ得ることが分かった。
【0190】
なお、実施例15,18で調製したリチウム-硫黄系二次電池の2サイクル目の放電容量は、比較例6で調製したリチウム-硫黄系二次電池と同等程度である。しかし、電解液の溶媒としてClECを用いた場合の容量維持率(5サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量×100)がFECを用いた場合よりも大きいことを示す表5の結果に鑑みると、ClECは、電解液の溶媒として有用であると言える。
【0191】
以上の結果から、本発明の一実施形態に係る前記リチウム-硫黄系二次電池用の電解液は、前記活性炭の細孔に占めるメソ孔の割合が高い場合であっても、活性炭からの硫黄の溶出を防ぐことができることが分かる。また、それゆえに、前記リチウム-硫黄系二次電池に優れた充放電特性およびサイクル特性を付与し得ることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0192】
本発明の一実施形態に係るリチウム-硫黄系二次電池用電解液、およびリチウム-硫黄系二次電池は、携帯電話や携帯情報端末(PDA)等の携帯端末機器、ノート型パソコン、ビデオカメラやデジタルカメラ等の小型電子機器、家電機器;電動自転車、電動自動車(電気自動車)、ハイブリッド自動車、電車等の移動用機器(車両);火力発電、風力発電、水力発電、原子力発電、地熱発電、太陽光発電等の発電用機器;自然エネルギー蓄電システム;等の分野において、広範に利用することができる。
図1
図2
図3
図4