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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076614
(43)【公開日】2022-05-20
(54)【発明の名称】水性分散粒子の疎水性の定量化方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20220513BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
G01N21/64 F
G01N21/78 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020187067
(22)【出願日】2020-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小野 麻実
(72)【発明者】
【氏名】山内 豊昭
(72)【発明者】
【氏名】山中 淳平
(72)【発明者】
【氏名】豊玉 彰子
(72)【発明者】
【氏名】赤井 志帆
【テーマコード(参考)】
2G043
2G054
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043CA04
2G043DA01
2G043EA01
2G043KA02
2G054AA03
2G054BB10
2G054CE01
2G054EA03
2G054EB01
2G054GA03
2G054GB02
2G054JA02
(57)【要約】
【課題】水性分散粒子の疎水性の新規な定量化方法等を提供する。
【解決手段】水性分散粒子が分散した水性媒体中に疎水性物質を投入し、前記水性分散粒子へ前記疎水性物質を吸着させた後、得られた分散液の光学測定によって、前記水性分散粒子の疎水性を定量化する。前記疎水性物質は蛍光性物質を含み、前記分散液の蛍光強度測定で非接触に前記水性分散粒子の疎水性を定量化することが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性分散粒子が分散した水性媒体中に疎水性物質を投入し、
前記水性分散粒子へ前記疎水性物質を吸着させた後、
得られた分散液の光学測定によって、前記水性分散粒子の疎水性を定量化する
方法。
【請求項2】
前記疎水性物質が、蛍光性物質を含む
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記疎水性物質が、前記水性媒体中で一部及び/又は全部が溶解する
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記疎水性物質が、8-アニリノナフタレン-1-スルホン酸、2-アニリノナフタレン-6-スルホン酸、前記8-アニリノナフタレン-1-スルホン酸の金属塩、及び前記2-アニリノナフタレン-6-スルホン酸の金属塩よりなる群から選択される少なくとも1以上を含む
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性分散粒子の疎水性の定量化方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から知られている石鹸滴定法では、例えば水性媒体中で水性分散粒子へ界面活性剤量を吸着させて、その吸着された界面活性剤の量を定量することができる。しかしながら、石鹸滴定法では、標識性物質として用いている界面活性剤が両親媒性であるため、標的の選択性に劣る。
【0003】
一方、特許文献1には、ポリスチレン又はスチレン-ブタジエン共重合体であるラテックスポリマー粒子を予め有機溶媒を用いて加熱することで膨潤させておき、これに蛍光性物質等の標識性物質を加えて混合撹拌することにより、蛍光性物質等を含有する疎水性コア-親水性シェル型のラテックスポリマー粒子及びその製造方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、ポリマー微粒子懸濁液に、溶媒中に溶解されている蛍光性物質等を含む溶液を添加することによって蛍光性物質等を微粒子に吸収させ、次に微粒子の懸濁液において、懸濁液の液相から微粒子への蛍光性物質等の完全ではない分配が生じるように、蛍光性物質等と溶媒との相対量を制御することにより、ポリマー微粒子中の蛍光性物質等の最終濃度又は量を変化させる方法が開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、ポリスチレンまたはスチレン-ブタジエン共重合体等の高分子材料の表層内部に蛍光性物質等の標識化合物を包埋させてなる包埋型高分子担体及びその製造方法が開示されている。
【0006】
他方、非特許文献1には、8-アニリノナフタレン-1-スルホン酸(1,8-ANS)や2-アニリノナフタレン-6-スルホン酸(2,6-ANS)の蛍光特性が、ANS化合物類の周辺の環境により変化するため、蛍光プローブ分子として、例えば生体分子の周囲の水のミクロ物性評価(疎水性プローブ分子)として利用されており、さらには、ミクロ極性プローブ分子やミクロ粘性プローブ分子としての応用が期待されていると開示されている。
【0007】
そして、特許文献4には、疎水性蛍光物質を集積した、熱硬化性樹脂を母体とするナノ粒子であって、前記熱硬化性樹脂は疎水性置換基を有する原料から形成された構成単位を含み、前記疎水性蛍光物質は少なくとも、前記熱硬化性樹脂の疎水性置換基との間に働く疎水性相互作用によって、前記ナノ粒子内に集積されている、蛍光物質集積ナノ粒子、及びこれを用いた標識剤が開示されている。
【0008】
また、特許文献5には、熱硬化性樹脂の樹脂粒子および該樹脂粒子に固定された蛍光色素を有する色素樹脂粒子を染色成分として含有する組織染色用染色剤であって、前記樹脂粒子が前記蛍光色素と逆の電荷の置換基を有して前記蛍光色素とイオン結合、または、共有結合しており、前記色素樹脂粒子の粒径の変動係数が15%以下である、組織染色用染色剤及びその製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4963789号公報
【特許文献2】特許第4739180号公報
【特許文献3】特開平10-55911号公報
【特許文献4】国際公開第2017/104476号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2014/136885号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】分析化学 Vol.60、No.1, p. 11-18 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した石鹸滴定法では、水性媒体中で水性分散粒子の疎水性を定量化することは何ら意図されていない。また、そもそも標識性物質として用いている界面活性剤が両親媒性であるため、標的の選択性の向上が期待できない。
【0012】
また、特許文献1~特許文献3では、ポリマー粒子中に蛍光性物質等を埋包させて、蛍光材料として活用することを目的としており、ポリマー粒子そのものの疎水性を定量化することは何ら意図されていない。すなわち、本発明とは目的が異なる方法が開示されているに過ぎない。
【0013】
一方、非特許文献1では、タンパク質溶液中、生体多糖高分子溶液中、或いは細胞中等の不均一系で、水のミクロ粘性やミクロ極性を評価することを意図したものであり、水性媒体中で水性分散粒子の疎水性を定量化することは何ら意図されていない。
【0014】
また、特許文献4及び5では、疎水性の高い蛍光性物質を樹脂粒子に導入し、標識剤等として蛍光プローブの応用が意図されているが、樹脂粒子そのものの疎水性を定量化することは何ら意図されていない。すなわち、本発明とは目的が異なる方法が開示されているに過ぎない。
【0015】
そこで、本開示では、水性分散粒子の疎水性の新規な定量化方法等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、疎水性物質を用いた光学測定によって、水性分散粒子の疎水性を定量化できる方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、以下に示す種々の具体的態様を提供する。
[1]水性分散粒子が分散した水性媒体中に疎水性物質を投入し、前記水性分散粒子へ前記疎水性物質を吸着させた後、得られた分散液の光学測定によって、前記水性分散粒子の疎水性を定量化する方法。
【0018】
[2]前記疎水性物質が、蛍光性物質を含む[1]に記載の方法。
【0019】
[3]前記疎水性物質が、前記水性媒体中で一部及び/又は全部が溶解する[1]又は[2]に記載の方法。
【0020】
[4]前記疎水性物質が、8-アニリノナフタレン-1-スルホン酸、2-アニリノナフタレン-6-スルホン酸、前記8-アニリノナフタレン-1-スルホン酸の金属塩、及び前記2-アニリノナフタレン-6-スルホン酸の金属塩よりなる群から選択される少なくとも1以上を含む[1]~[3]のいずれか一項に記載の方法。
【0021】
また、さらに本発明は、以下に示す種々の具体的態様をも提供する。
[5]前記水性媒体は、水を含有する[1]~[4]のいずれか一項に記載の方法。
【0022】
[6]前記分散液は、アルカリ金属、及びアルカリ金属塩よりなる群から選択される少なくとも1種以上を含む[1]~[5]のいずれか一項に記載の方法。
【0023】
[7]前記光学測定が、蛍光強度測定である[1]~[6]のいずれか一項に記載の方法。
【0024】
[8]前記水性分散粒子が、ポリマー粒子を含む[1]~[7]のいずれか一項に記載の方法。
【0025】
[9]前記水性分散粒子が、アニオン性粒子を含む[1]~[8]のいずれか一項に記載の方法。
【0026】
[10]前記分散液の蛍光強度から、前記水性分散粒子の単位表面積換算の疎水性度(%)を算出(ポリスチレン水分散体の分散液の蛍光強度を疎水性度100%とし、シリカ水分散体の分散液の蛍光強度を疎水性度0%とする。)する[1]~[9]のいずれか一項に記載の方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、従来にはなかった、水性分散粒子の疎水性の新たな定量化方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されるものではない。すなわち、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いる。例えば「1~100」との数値範囲の表記は、その下限値「1」及び上限値「100」の双方を包含するものとする。また、他の数値範囲の表記も同様である。
【0029】
本実施形態の水性分散粒子の疎水性の定量化方法は、水性分散粒子が分散した水性媒体中に疎水性物質を投入し、前記水性分散粒子へ前記疎水性物質を吸着させた後、得られた分散液の光学測定によって、前記水性分散粒子の疎水性を定量化することを特徴とする。
【0030】
(水性分散粒子)
本実施形態において標的とする水性分散粒子は、水性媒体中で分散可能なものである限り、その種類は特に限定されない。水性分散粒子としては、例えばポリマー粒子、有機無機ナノコンポジット粒子、無機粒子等が挙げられるが、ポリマー粒子及び有機無機ナノコンポジット粒子が好ましく、より好ましくはポリマー粒子である。ポリマー粒子としては、アニオン性粒子が好ましく用いられる。
【0031】
樹脂粒子の具体例としては、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、スチレンアクリル系樹脂、スチレンブタジエン系樹脂、オレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられるが、これらに特に限定されない。好ましいアニオン性粒子としては、アクリル系樹脂等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0032】
有機無機ナノコンポジット粒子の具体例としては、シリカ/シリコン粒子、シリカ/アクリル粒子、シリカ/ポリプロピレン粒子、シリカ/エポキシ粒子等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0033】
無機粒子の具体例としては、疎水性シリカ微粒子等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0034】
水性分散粒子の粒子径は、特に限定されない。測定精度等の観点から、水性分散粒子の平均粒子径は、10nm~1000nmが好ましく、より好ましくは20nm~800nmである。なお、本明細書において、水性分散粒子の平均粒子径は、光散乱法による粒子径測定装置(FPER)を用いて算出される値であり、キュムラント解析値を平均粒子径とする。
【0035】
なお、水性分散粒子の疎水性の評価は、比表面積の影響に鑑み、単位表面積換算で行う。
【0036】
(水性媒体)
本実施形態において用いる水性媒体としては、特に限定されないが、少なくとも水を含む水系溶媒が好ましく用いられる。水系溶媒としては、水、水とアルコール、アセトン、グリセリン等との混合溶媒が挙げられるが、これらに特に限定されない。水系溶媒において、水と他の溶媒との混合割合は、特に限定されないが、10.0:0.0~5.0:5.0が好ましく、より好ましくは9.5:0.5~7.0:3.0である。
【0037】
(疎水性物質)
疎水性物質としては、蛍光性物質が好ましく用いられる。例えば、分子内に電子供与基と電子吸引基を有する電荷移動型蛍光性物質は、水溶液中では蛍光を発さず、親水性環境下に比べて疎水環境下において著しい増大を示すことが知られている。そしてさらに、本発明者らは、蛍光性物質が、一定の条件下、すなわち水中で水分散粒子表面に吸着することで、青色の蛍光を発し得ることを新たに見出した。すなわち、このような蛍光性物質の水分散粒子表面への吸着による光学特性の変化を利用して、水性分散粒子の疎水性を定量化することが可能である。かかる原理に基づいているため、疎水性物質は、水性媒体中で一部が及び/又は全部が溶解するものが好ましく用いられる。
【0038】
蛍光性物質の具体例としては、8-アニリノナフタレン-1-スルホン酸及びその金属塩、2-アニリノナフタレン-6-スルホン酸及びその金属塩等が挙げられるが、これらに特に限定されない。また、その金属塩の具体例としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの中でも、8-アニリノナフタレン-1-スルホン酸及びその金属塩や2-アニリノナフタレン-6-スルホン酸及びその金属塩は、水性媒体中で拡散させやすいため、特に好適に用いることができる。
【0039】
(分散液)
上述した水性分散粒子が分散した水性媒体中に、疎水性物質を投入することで、測定対象となる分散液が得られる。このとき、上述した水性分散粒子を水性媒体中に高分散(高拡散)させる観点から、或いは所望のpHにコントロールしたりpH変動を抑制する観点から、分散液に、酸や塩基を加えたり、アルカリ水溶液や各種の緩衝溶液を配合してもよい。これらの具体例としては、Na2CO3、NaHCO3、NaOH、NaCl等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの中でも、アルカリ金属及びアルカリ金属塩を含む緩衝溶液が好ましく用いられる。
【0040】
分散液のpHは、適宜設定することができ、特に限定されないが、ポリマー分散体を安定的に分散させる観点から、6.5~10.0が好ましく、がより好ましくは6.5~9.5、さらに好ましくは7.0~9.0である。
【0041】
分散液中の水性分散粒子(固形分)の含有割合は、適宜設定することができ、特に限定されないが、透析のしやすさ等の観点から、0.01~5.0vol%が好ましく、より好ましくは0.05~3.0vol%、さらに好ましくは0.10~2.0vol%である。
【0042】
なお、水性分散粒子の疎水性の評価において、水性分散粒子(水分散体)等に含まれ得る各種塩類、各種イオン、乳化剤、安定化剤等は、測定精度を低下させ得るため、これらを除去することが望まれる。そのため、測定対象となる水性分散粒子(水分散体)は、透析及びイオン交換した後のものを用いることが好ましい。これらの前処理は、常法にしたがって行えばよいが、本明細書では後述する実施例に記載の方法で行うものとする。
【0043】
(光学測定)
分散液の光学測定において、例えば電荷移動型蛍光性物質の蛍光の発行特性を利用する場合には、分散液の蛍光強度測定が好ましく用いられる。例えば、疎水性物質として8-アニリノナフタレン-1-スルホン酸又はその金属塩等を用いる場合、特に限定されないが、検出精度等の観点から、波長470nmの蛍光強度測定を行うことが好ましい。また、そのときの励起波長は、特に限定されないが、検出精度等の観点から350nmが好ましい。
【0044】
(疎水性度)
本明細書において、水性分散粒子の疎水性は、水性分散粒子の単位表面積換算で算出する。このとき、同条件で調製したポリスチレン水分散体の分散液の蛍光強度を疎水性度100%とし、同条件で調製したシリカ水分散体の分散液の蛍光強度を疎水性度0%とし、これらを基準に、測定対象の疎水性度を算出する。具体的な疎水性度の算出方法は、本明細書では後述する実施例に記載の方法にしたがうものとする。
【実施例0045】
以下、実施例等を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。すなわち、当業者は以下に示す実施例に様々な変更を加えて本発明を実施することができる。例えば、以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更することができる。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味を持つものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0046】
(ポリスチレン水分散体)
疎水性表面を持つ水性分散粒子として、ポリスチレン水分散体を用い、疎水性の指標とした。ポリスチレン水分散体は、市販のものを用いてもよいし、適宜公知の方法で重合したものを用いてもよい。
ポリスチレン水分散体の重合方法としては、特に限定されないが、以下に本実施例で用いたポリスチレン水分散体の乳化重合方法の例を示す。1規定水酸化ナトリウム(NaOH,ヒドラス化学)水溶液と適量のスチレンモノマー(和光純薬工業,Scheme1)を分液漏斗にて混合し、重合禁止剤を取り除いた。架橋剤であるジビニルベンゼン(DVB)も同様の方法で重合禁止剤を取り除いた。ポリスチレン粒子の合成は、アルゴンガス導入管、還流冷却器を取り付けた容量300mLの四つ口セパブルフラスコを用いて、ソープフリー乳化重合法により行った。具体的には、イオン交換水210mL、メタノール(MeOH)20mL、スチレンモノマー20mL、アニオン性コモノマーとしてp-スチレンスルホン酸ナトリウム(NaSS)0.4g、DVB1mLを混合し、ホットプレート付マグネットスターラー及びアルミブロック恒温槽で80℃に保ち、回転数600rpm、アルゴン雰囲気化で約30分間の攪拌を行った。その後ラジカル重合開始剤としてペルオキソ二硫酸カリウム(KPS)0.1gを添加して7時間攪拌することにより、ポリスチレン粒子(平均粒子径98.6nm)を合成した。
【0047】
(シリカ水分散体)
親水性表面を持つ水性分散粒子として、シリカ水分散体(株式会社日本触媒製、商品名:KE-W10、平均粒子径:100nm)を用い、疎水性(親水性)の指標とした。
【0048】
(アクリル系水分散体試料)
親水性と疎水性の両方の表面を併せ持つ水性分散粒子として、アクリル系水分散体を用いた。アクリル系水分散体は、市販のものを用いてもよいし、適宜公知の方法で重合したものを用いてもよい。
アクリル系水分散体の重合方法としては、特に限定されないが、以下に本実施例で用いたアクリル系水分散体の乳化重合方法の例を示す。撹拌機、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取りつけた反応容器に、イオン交換水1250質量部と、乳化剤として、「アクアロンKH1025」(登録商標、第一工業製薬株式会社製25%水溶液、「KH1025」とも記載する。)3.5質量部と、「アデカリアソープSR1025」(登録商標、株式会社ADEKA製25%水溶液、「SR1025」とも記載する。)3.5質量部と、を投入した。次いで、反応容器内部の温度を80℃に昇温し、80℃の温度を保ったまま、過硫酸アンモニウムの2%水溶液(「APS」とも記載する。)を0.3質量部添加した。過硫酸アンモニウム水溶液を添加終了した5分後に、下記の乳化液を滴下槽から反応容器に180分かけて滴下した。乳化液の滴下終了後、反応容器内部の温度を80℃に保ったまま120分間維持し、その後室温まで冷却した。得られたエマルジョンを、水酸化アンモニウム水溶液(10%水溶液。AWとも表記する。)を用いてpH9.5に調整し、固形分濃度36.3%のアクリル系水分散体(平均粒子径80nm)を得た。
【0049】
なお、上記の乳化液は、
(メタ)アクリル酸エステル単量体として;
メチルメタクリレート(「MMA」とも記載する。)161.9質量部、
シクロヘキシルメタクリレート(「CHMA」とも記載する。)300質量部、
ブチルメタクリレート(「BMA」とも記載する。)110質量部、
ブチルアクリレート(「BA」とも記載する。)266質量部、
2-ヒドロキシエチルメタクリレート(「HEMA」とも記載する。)150質量部、
カルボン酸基含有単量体として;
メタクリル酸(「MAA」とも記載する。)10質量部、
アクリル酸(「AA」とも記載する。)2質量部、
架橋性単量体として;
アクリルアミド(「AAm」とも記載する。)0.1質量部、
乳化剤として;
「アクアロンKH1025」(登録商標、第一工業製薬株式会社製25%水溶液)11.5質量部、
「アデカリアソープSR1025」(登録商標、株式会社ADEKA製25%水溶液)11.5質量部、
p-スチレンスルホン酸ナトリウム(表中、「NaSS」と表記。以下同様。)1質量部、
過硫酸アンモニウムの2%水溶液1質量部、及び
イオン交換水600質量部
の混合物を、ホモミキサーにより5分間混合させて調製した。
【0050】
(各水分散体試料の透析)
ヴィスキングチューブに各水分散体を封入し、両端を縛り、漏れないようにする。1mMのNaOH水溶液に漬け、2週間透析して、透析済の各水分散体試料を得た。
【0051】
(透析後の各水分散体試料のイオン交換)
PE容器に30g程度の透析後の各水分散体試料を分取し、イオン交換樹脂を4g加え、一日静置し、MIXROTORを用いて30rpmで1hr混ぜ、透析で取り除けなかった乳化剤や塩を取り除いた。その後、酢酸セルロースフィルターでイオン交換樹脂を取り除き、透析及びイオン交換済の各水分散体試料を得た。
【0052】
(pH9及び50mMのNaCl水溶液の調製)
Na2CO3(Mw=105.99)79mgを超純水(milliQ(登録商標)水)15mLに溶解して、50mMのNa2CO3水溶液を調製する。これを50mMのNaCl水溶液で125倍希釈して、Na2CO3水溶液を用いてpH9に調整した50mMのNaCl水溶液を調製した。
【0053】
(ANS-Na水溶液の調製)
ANS-Na水溶液5mgを超純水(milliQ(登録商標)水)15mLに溶解して、ANS-Na水溶液を調製した。なお、ANS-Na水溶液5mgに代えてANS飽和水溶液5mgでも同様に実施可能である。
【0054】
(ANS-Naの吸着処理)
透析及びイオン交換済の各水分散体試料(0.9vol.%)1mLに、1mMのANS-Na水溶液1mLと、Na2CO3水溶液を用いてpH9に調整した50mMのNaCl水溶液1mLとを容器内で混合し、軽く手動で攪拌し、水分散体が0.3vol%の分散液3mLを調製する。その後、遮光して16時間室温で静置した。
【0055】
(蛍光測定)
水性分散粒子が0.3vol%の吸着処理した分散液0.3mlを、測定用の石英セルに分取し、50mMのNaCl2.7mlを用いて0.03vol%に希釈し、この希釈後の分散液の蛍光強度を、分光蛍光光度計(株式会社島津製作所製、RF-6000)を用いて測定した。なお、蛍光強度の測定において励起波長は350nmとし、波長470nmにおける発光強度を読み取った。
【0056】
(平均粒子径)
光散乱法により、固形分濃度を4%に希釈後の分散液中の水性分散粒子の平均粒子径を、粒子径測定装置(FPER)を用いて測定した。このとき、キュムラント解析値を水性分散粒子の平均粒子径とした。
【0057】
(疎水性の評価)
以下の式から、水性分散粒子の表面積、及び水性分散粒子の単位表面積換算の波長470nm蛍光強度(補正蛍光強度)を算出し、シリカ水分散体の蛍光強度を疎水性度0%、ポリスチレン水分散体の蛍光強度を疎水性度100%として、アクリル系水分散体の単位表面積換算の疎水性を定量化した。
表面積=水分散体の濃度(vol%)÷100÷((4/3)π×(粒子径の半径)3)×4π(粒子径の半径)2
補正蛍光強度=470nmにおける蛍光強度÷比表面積
【0058】
結果を、表1に示す。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の定量化方法は、水性分散粒子の疎水性を非接触で定量化できるため、産業上、種々の技術分野において極めて有用である。