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特開2022-76627次亜塩素酸イオン発生素子ならびに次亜塩素酸イオンおよび次亜塩素酸アルカリ金属塩水溶液の発生方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076627
(43)【公開日】2022-05-20
(54)【発明の名称】次亜塩素酸イオン発生素子ならびに次亜塩素酸イオンおよび次亜塩素酸アルカリ金属塩水溶液の発生方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 11/04 20060101AFI20220513BHJP
   H01M 50/10 20210101ALI20220513BHJP
   C25B 11/04 20210101ALI20220513BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20220513BHJP
   C25B 1/26 20060101ALI20220513BHJP
   C25B 11/02 20210101ALI20220513BHJP
【FI】
C01B11/04
H01M2/02 A
H01M2/02 C
H01M2/02 G
C25B11/04 A
C25B9/00 C
C25B1/26 C
C25B11/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020187096
(22)【出願日】2020-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】畳開 真之
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
5H011
【Fターム(参考)】
4K011AA09
4K011AA15
4K011DA03
4K021AB07
4K021BA01
4K021BA03
4K021DA10
4K021DA11
4K021DA13
4K021DC07
5H011AA09
5H011CC06
5H011DD17
(57)【要約】
【課題】安全かつ簡便な次亜塩素酸イオンの発生素子および次亜塩素酸イオンの発生方法を提供する。
【解決手段】酸およびアルカリ水の存在下、電気分解反応における耐腐食性を示す材質で形成または被覆された電極を用いた電池構成体からなる次亜塩素酸イオン発生素子。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸およびアルカリ水の存在下、電気分解反応における耐腐食性を示す材質で形成または被覆された電極を用いた電池構成体からなる次亜塩素酸イオン発生素子。
【請求項2】
電極に使用する材質は、金、銀または白金である請求項1記載の次亜塩素酸イオン発生素子。
【請求項3】
電池は、マンガン乾電池、アルカリマンガン乾電池、鉛蓄電池、ニッケルカドミウム蓄電池、ニッケル水素蓄電池、リチウムイオン蓄電池またはコバルトチタンリチウム電池である請求項1記載の次亜塩素酸イオン発生素子。
【請求項4】
電池の形状が、円形、角形または平形である請求項1記載の次亜塩素酸イオン発生素子。
【請求項5】
酸およびアルカリ水の存在下、電気分解反応における耐腐食性を示す材質で形成または被覆された電極と、外装材とから構成される次亜塩素酸イオン発生素子用の電池筐体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の次亜塩素酸イオン発生素子を、塩化リチウム、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムの電解質水溶液に浸漬させることを特徴とする次亜塩素酸イオンおよび次亜塩素酸アルカリ金属塩水溶液の作製方法。
【請求項7】
電解質水溶液が塩化ナトリウム水溶液である請求項6記載の次亜塩素酸イオンおよび次亜塩素酸アルカリ金属塩水溶液の作製方法。
【請求項8】
請求項6または7で得られた次亜塩素酸アルカリ金属塩水溶液に炭酸水を加えることにより得られる次亜塩素酸水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は菌やウィルスの発生の抑制に効果を示す次亜塩素酸イオンの発生素子に関する、さらには本素子を用いた次亜塩素酸イオンの発生方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年様々な疫病が急速に蔓延し、個人の健康および社会生活に深刻な影響を与える事象が頻繁に発生している。このような疫病の原因となるウィルスや菌の増殖を抑制するためには日頃の消毒が非常に重要である。次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウムなどの次亜塩素酸イオン化からなる水溶液は消毒液として最も有用な薬剤の一つである。しかしながら、このような背景もあり、これらの薬剤は疫病の流行時には入手が困難となり、有事に簡便に消毒液を得る手段が求められている。また、薬剤の大量の流通により梱包するボトルなどの包装材が廃棄物として大量に発生する問題も生じる。
【0003】
次亜塩素酸ナトリウム水溶液は食塩水(塩化ナトリウム水溶液)の電気分解により家庭内の素材を用い簡便に作製することができる。さらに得られた次亜塩素酸ナトリウム水溶液に炭酸水やクエン酸を加えることで次亜塩素酸を得ることができる。しかしながら電気分解には配線や電極などの複雑な器具を必要とし(特許文献1、2)、これらの電解液への浸漬時に電極の腐食による消毒液への金属イオンの混入や操作時の感電の危険性がある。このため、安全かつ簡便な電気分解の手法や素子の開発が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-203138号公報
【特許文献2】特開平8-134676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、安全かつ簡便な次亜塩素酸イオンの発生素子および次亜塩素酸イオンの発生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は乾電池やボタン電池等に耐腐食性を付与し、この電池を電解液に浸漬することにより、配線や電極を必要とせずに次亜塩素酸イオンを簡便かつ安全に発生させることが出来ることを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は以下の内容から構成される。
【0007】
1.酸およびアルカリ水の存在下、電気分解反応における耐腐食性を示す材質で形成または被覆された電極を用いた電池構成体からなる次亜塩素酸イオン発生素子。
【0008】
2.電極に使用する材質は、金、銀または白金である前項1記載の次亜塩素酸イオン発生素子。
【0009】
3.電池は、マンガン乾電池、アルカリマンガン乾電池、鉛蓄電池、ニッケルカドミウム蓄電池、ニッケル水素蓄電池、リチウムイオン蓄電池またはコバルトチタンリチウム電池である前項1記載の次亜塩素酸イオン発生素子。
【0010】
4.電池の形状が、円形、角形または平形である前項1記載の次亜塩素酸イオン発生素子。
【0011】
5.酸およびアルカリ水の存在下、電気分解反応における耐腐食性を示す材質で形成または被覆された電極と、外装材とから構成される次亜塩素酸イオン発生素子用の電池筐体。
【0012】
6.前項1~5のいずれかに記載の次亜塩素酸イオン発生素子を、塩化リチウム、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムの電解質水溶液に浸漬させることを特徴とする次亜塩素酸イオンおよび次亜塩素酸アルカリ金属塩水溶液の作製方法。
【0013】
7.電解質水溶液が塩化ナトリウム水溶液である前項6記載の次亜塩素酸イオンおよび次亜塩素酸アルカリ金属塩水溶液の作製方法。
【0014】
8.前項6または7で得られた次亜塩素酸アルカリ金属塩水溶液に炭酸水を加えることにより得られる次亜塩素酸水溶液の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の次亜塩素酸イオン発生素子は配線や電極を別途用いることなく直接次亜塩素酸イオンを簡便かつ安全に発生させることが出来る。さらに素子の耐腐食性により電気分解時の金属イオン等の不純物の混入を回避が可能であり、純度の高い次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸を得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
(次亜塩素酸イオン発生素子)
本発明の次亜塩素酸発生素子は、酸およびアルカリ水の存在下、電気分解反応における耐腐食性を示す材質で形成または被覆された電極を用いた電池構成体からなる。
【0018】
本発明の次亜塩素酸発生素子は、好ましくは正極および負極を有し、正極および負極間で電位差を生じ放電能力を有する1次電池、2次電池構造体からなる。
【0019】
1次電池、2次電池構造体はマンガン乾電池、アルカリマンガン乾電池、鉛蓄電池、ニッケルカドミウム蓄電池、ニッケル水素蓄電池、リチウムイオン蓄電池、コバルトチタンリチウム電池などを挙げることが出来る。
【0020】
電池の形状は、円形、角形または平形であることが好ましく、具体的には円筒形、ボタン形、コイン形等が挙げられる。
【0021】
本発明で使用される電池構成体において、電極は、酸およびアルカリ水の存在下、電気分解反応における耐腐食性を示す材質で形成または被覆される。
【0022】
電池の電極である正極、負極は、電気伝導性を有し、酸およびアルカリにおける耐腐食性を有し、電気分解の条件下で電解液中に溶出しない材質で形成または被覆されていることが好ましい。電気伝導性を有し、酸およびアルカリにおける耐腐食性を有し、電気分解の条件下で電解液中に溶出しない材質としては、金、銀、白金等の貴金属、ニッケル、チタン、およびこれらの合金、炭素材料が好ましく用いられ、金、銀または白金がより好ましく用いられる。
【0023】
電池の電極において、電気伝導性を有しない材質を用いると電極周辺での電解液との電気分解の反応が進行せず好ましくない。また、腐食性を有する材質を用いると電解質中に電極の被覆材が溶出し電池としての機能が失われる可能性があるほか、得られる次亜塩素酸イオンへの混入が懸念され好ましくない。
【0024】
本発明の電池の電極以外の外装材の部分は、必ずしも酸およびアルカリ水の存在下、電気分解反応における耐腐食性を示す材質で形成または被覆されている必要はない。好適には、外装材の部分は、酸およびアルカリにおける耐腐食性を有し、電気分解の条件下で電解液中に溶出しない材質で形成または被覆されていることが好ましい。また、用いる材質としては電気伝導性を示さない絶縁性の材質を用いることもできる。電気伝導性の材質を用いる場合は電極と外装部分の間に絶縁処理を施すことが好ましい。絶縁性の素材としてはポリイミド、エポキシ、フェノール、メラミン樹脂、ガラスなどが好ましく用いられる。
【0025】
本発明において、上記特定の材質で形成または被覆された電極、外装材は、電池作製時にそのまま組み込むことで電池の構成体として用いることも出来る。また、従来の電池の構成体や市販の電池の外装材として、本発明における上記特定の材質で形成または被覆された電極、外装材を用いることもできる。
【0026】
さらに、本発明は、酸およびアルカリ水の存在下、電気分解反応における耐腐食性を示す材質または保護層から形成された電極と、外装材とから構成される次亜塩素酸イオン発生素子用の電池筐体も含まれる。
【0027】
(次亜塩素酸イオン発生方法)
本発明において、次亜塩素酸イオン発生素子を、塩化リチウム、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムの電解質水溶液に浸漬させることにより、次亜塩素酸イオンおよび次亜塩素酸アルカリ金属塩水溶液を作製することができる。
以下に、塩化ナトリウムを使用する場合について、説明する。
【0028】
上記次亜塩素酸イオン発生素子の存在下、塩化ナトリウム水溶液中では正極、負極それぞれにおいて以下のような反応が進行し次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)を生成する。
負極
Na + e → Na
Na + HO → NaOH + H
正極
2Cl →Cl+ 2e
Cl + NaOH → NaCl + NaClO
次亜塩素酸ナトリウムは水溶液中では以下のように電離しており、下記式のように次亜塩素酸イオン(ClO)としても存在する。
NaClO ⇔ Na + ClO
さらにこのようにして得られた次亜塩素酸ナトリウム水溶液に炭酸水を加えることで次亜塩素酸ナトリウム水溶液の中和反応により次亜塩素酸水溶液を得ることが出来る。
【0029】
また、塩化ナトリウムの代わりにリチウム、カリウム等アルカリ金属類の塩化物を用いることでも次亜塩素酸イオンおよび次亜塩素酸のアルカリ金属塩を作製することもできる。
【0030】
以上の様に次亜塩素酸イオン、次亜塩素酸アルカリ金属塩、次亜塩素酸は本発明の次亜塩素酸イオン発生素子を用い極めて簡便に作製することが出来る。また得られる次亜塩素
酸イオン、次亜塩素酸アルカリ金属塩、次亜塩素酸は金属などの不純物が少なく、ウィルスや菌の増殖を抑制のための消毒液に用いられるほか、機器の洗浄、排水溝などの汚染部分の洗浄に用いることが出来る。
【実施例0031】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0032】
[実施例1]
パナソニック社製アルカリ単4乾電池の正極、負極両面に銀ペーストを有機溶媒に分散させ塗布、乾燥させることで次亜塩素酸イオン発生素子を作製した。
【0033】
[実施例2]
実施例1で得られた次亜塩素酸イオン発生素子を飽和食塩水に浸漬した。40分間室温にて放置後、pH試験紙により溶液はアルカリ性に変化していることを確認し次亜塩素酸ナトリウム水溶液の生成を確認した。また、銀ペースト塗布部の電極の腐食は確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の次亜塩素酸イオン発生素子は、次亜塩素酸イオン、次亜塩素酸アルカリ金属塩および次亜塩素酸を作製することができ、ウィルスや菌の増殖を抑制のための消毒液、機器の洗浄、排水溝などの汚染部分の洗浄剤として有用である。