(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076631
(43)【公開日】2022-05-20
(54)【発明の名称】接合構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20220513BHJP
E04B 1/26 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
E04B1/58 504L
E04B1/58 505L
E04B1/58 506L
E04B1/26 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020187101
(22)【出願日】2020-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】辻 靖彦
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA12
2E125AB12
2E125AC23
2E125AG04
2E125AG21
2E125AG23
2E125AG41
2E125AG45
2E125BA55
2E125BB02
2E125BB12
2E125BB25
2E125CA44
(57)【要約】
【課題】部材を交差させた接合構造において、剛性及び耐力の低下を抑える。
【解決手段】第1方向を長手方向とする第1部材と、第1方向と交差する第2方向を長手方向とする第2部材とが接合されている接合構造であって、第1部材は、第1方向及び第2方向に交差する第3方向において、第2部材と対向する側に、第1切欠き部を有し、第2部材は、第3方向において、第1部材と対向する側に、第1切欠き部に篏合する第2切欠き部を有し、第3方向において、第1部材の、第2部材と対向しない側に、第2方向に沿って第1部材を跨いで配置され、かつ、第2部材に接合された第1補強板を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向を長手方向とする第1部材と、
前記第1方向と交差する第2方向を長手方向とする第2部材とが接合されている接合構造であって、
前記第1部材は、前記第1方向及び前記第2方向に交差する第3方向において、前記第2部材と対向する側に、第1切欠き部を有し、
前記第2部材は、前記第3方向において、前記第1部材と対向する側に、前記第1切欠き部に篏合する第2切欠き部を有し、
前記第3方向において、前記第1部材の、前記第2部材と対向しない側に、前記第2方向に沿って前記第1部材を跨いで配置され、かつ、前記第2部材に接合された第1補強板を有することを特徴とする接合構造。
【請求項2】
請求項1に記載の接合構造であって、
前記第1部材は、前記第3方向における前記第2部材と対向しない側において、前記第1補強板が篏合する第3切欠き部を有することを特徴とする接合構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の接合構造であって、
前記第3方向において、前記第2部材の、前記第1部材と対向しない側に、前記第1方向に沿って前記第2部材を跨いで配置され、かつ、前記第1部材に接合された第2補強板を有することを特徴とする接合構造。
【請求項4】
請求項3に記載の接合構造であって、
前記第2部材は、前記第3方向における前記第1部材と対向しない側において、前記第2補強板が篏合する第4切欠き部を有することを特徴とする接合構造。
【請求項5】
第1方向を長手方向とする第1部材と、
前記第1方向と交差する第2方向を長手方向とし、前記第2方向における前記第1部材の一方側の面に当接する第2部材と、
前記第2方向を長手方向とし、前記第2方向における前記第1部材の他方側の面に当接する第3部材と、が接合されている接合構造であって、
前記第1方向及び前記第2方向に交差する第3方向における前記第1部材の一方側に、前記第2方向に沿って前記第1部材を跨いで配置され、かつ、前記第2部材と前記第3部材に接合された第1補強板と、
前記第3方向における前記第1部材の他方側に、前記第2方向に沿って前記第1部材を跨いで配置され、かつ、前記第2部材と前記第3部材に接合された第2補強板と、を有することを特徴とする接合構造。
【請求項6】
請求項5に記載の接合構造であって、
前記第2部材と前記第3部材の間の前記第3方向のせん断力を、前記第1部材を介して伝達するせん断力伝達手段を有することを特徴とする接合構造。
【請求項7】
請求項6に記載の接合構造であって、
前記せん断力伝達手段は、ガセットプレートと当該ガセットプレートを貫通する貫通部材、又は、コッターと溝部であることを特徴とする接合構造。
【請求項8】
請求項3から7の何れか1項に記載の接合構造であって、
前記第1補強板及び前記第2補強板は、前記第1部材及び前記第2部材よりも強度の強い材料で形成されていることを特徴とする接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、柱の側面に梁の端面が対向した状態で接合された接合構造が開示されている。詳しくは、柱の側面と梁の側面に沿う一対の添板が、柱と梁の接合部を跨いで配置されている。そして、柱と梁を挟む一対の添板間を挿通されたボルトがナットに締結されることにより、柱と梁が接合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように、一方の部材(柱)の側面に他方の部材(梁)の端面を対向させる接合構造は、例えば2つの梁を交差させて接合する接合構造に採用できない。2つの部材を交差させて接合する方法として、相欠き接合が知られている。相欠き接合とは、
図10A及び
図10Bに示すように、2つの部材の対向面にそれぞれ切欠き部を形成し、互いの切欠き部を嵌め合わせて接合する方法である。しかし、相欠き接合の場合、接合部において2つの部材の断面欠損が生じる。そのため、接合部を支点とした曲げモーメント(2つの梁の場合では上下方向の曲げモーメント)に対する剛性や耐力が大きく低下してしまう。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、部材を交差させた接合構造において、剛性及び耐力の低下を抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために本発明は、第1方向を長手方向とする第1部材と、前記第1方向と交差する第2方向を長手方向とする第2部材とが接合されている接合構造であって、前記第1部材は、前記第1方向及び前記第2方向に交差する第3方向において、前記第2部材と対向する側に、第1切欠き部を有し、前記第2部材は、前記第3方向において、前記第1部材と対向する側に、前記第1切欠き部に篏合する第2切欠き部を有し、前記第3方向において、前記第1部材の、前記第2部材と対向しない側に、前記第2方向に沿って前記第1部材を跨いで配置され、かつ、前記第2部材に接合された第1補強板を有することを特徴とする接合構造である。
【0007】
このような接合構造によれば、第1部材と第2部材を交差させて接合させつつ、その接合部(交差部)において、第3方向の曲げモーメントに対する第2部材の剛性及び耐力の低下を抑えることができる。
【0008】
かかる接合構造であって、前記第1部材は、前記第3方向における前記第2部材と対向しない側において、前記第1補強板が篏合する第3切欠き部を有することが望ましい。
【0009】
このような接合構造によれば、第1補強板が目立ち難くなり、接合構造の外観を良くすることができる。
【0010】
かかる接合構造であって、前記第3方向において、前記第2部材の、前記第1部材と対向しない側に、前記第1方向に沿って前記第2部材を跨いで配置され、かつ、前記第1部材に接合された第2補強板を有することが望ましい。
【0011】
このような接合構造によれば、第1部材と第2部材を交差させて接合させつつ、その接合部(交差部)において、第3方向の曲げモーメントに対する第1部材の剛性及び耐力の低下を抑えることができる。
【0012】
かかる接合構造であって、前記第2部材は、前記第3方向における前記第1部材と対向しない側において、前記第2補強板が篏合する第4切欠き部を有することが望ましい。
【0013】
このような接合構造によれば、第2補強板が目立ち難くなり、接合構造の外観を良くすることができる。
【0014】
また、かかる目的を達成するために本発明は、第1方向を長手方向とする第1部材と、前記第1方向と交差する第2方向を長手方向とし、前記第2方向における前記第1部材の一方側の面に当接する第2部材と、前記第2方向を長手方向とし、前記第2方向における前記第1部材の他方側の面に当接する第3部材と、が接合されている接合構造であって、前記第1方向及び前記第2方向に交差する第3方向における前記第1部材の一方側に、前記第2方向に沿って前記第1部材を跨いで配置され、かつ、前記第2部材と前記第3部材に接合された第1補強板と、前記第3方向における前記第1部材の他方側に、前記第2方向に沿って前記第1部材を跨いで配置され、かつ、前記第2部材と前記第3部材に接合された第2補強板と、を有することを特徴とする接合構造である。
【0015】
このような接合構造によれば、第1部材に第2部材及び第3部材を交差させて接合させつつ、その接合部(交差部)において、第3方向の曲げモーメントに対する剛性及び耐力の低下を抑えることができる。
【0016】
かかる接合構造であって、前記第2部材と前記第3部材の間の前記第3方向のせん断力を、前記第1部材を介して伝達するせん断力伝達手段を有することが望ましい。
【0017】
このような接合構造によれば、第2部材と第3部材の間で、第3方向のせん断力を相互に伝達できる。
【0018】
かかる接合構造であって、前記せん断力伝達手段は、ガセットプレートと当該ガセットプレートを貫通する貫通部材、又は、コッターと溝部であることが望ましい。
【0019】
このような接合構造によれば、第2部材と第3部材の間で、第3方向のせん断力を相互に伝達できる。
【0020】
かかる接合構造であって、前記第1補強板及び前記第2補強板は、前記第1部材及び前記第2部材よりも強度の強い材料で形成されていることが望ましい。
【0021】
このような接合構造によれば、第1部材と第2部材の交差部、又は、第1部材と第2部材及び第3部材との交差部において、第3方向の曲げモーメントに対する剛性及び耐力の低下を、さらに抑えることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、部材を交差させた接合構造において、剛性及び耐力の低下を抑えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】第1実施形態の接合構造1を示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態の接合構造1の構成を示す分解斜視図である。
【
図3】
図3Aは、Y方向から見た接合構造1の分解側面図である。
図3Bは、接合部1Jにおける第1補強板31と第2梁材20の断面を説明する図である。
【
図4】第1補強板31及び第2補強板32の厚さを検討したグラフを示す図である。
【
図5】第2実施形態の接合構造2を示す斜視図である。
【
図6】第2実施形態の接合構造2の構成を示す分解斜視図である。
【
図9】第1補強板31及び第2補強板32の厚さを検討したグラフを示す図である。
【
図10】
図10Aは比較例の接合構造3を示す斜視図であり、
図10Bは比較例の接合構造3の構成を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る接合構造を用いた梁同士の接合構造を、図を用いて説明する。以下に説明する接合構造において、互いに直交するX方向、Y方向、Z方向を定め、Z方向を上下方向(第3方向、鉛直方向)とする。また、以下に説明する接合構造は、X方向(第1方向、水平方向)を長手方向とする第1梁材と、Y方向(第2方向、水平方向)を長手方向とする第2梁材を、交差させて接合するものである。
本実施形態について説明する前に、まず、比較例について説明する。
【0025】
===比較例の接合構造3===
図10Aは、比較例の接合構造3を示す斜視図である。
図10Bは、比較例の接合構造3の構成を示す分解斜視図である。
【0026】
比較例の接合構造3では、X方向を長手方向とする第1梁材80とY方向を長手方向とする第2梁材90が直角に交差して接合されている。第1梁材80及び第2梁材90(母材)は、上下方向に切った断面の寸法、及び、形状が同じであり、断面形状は長方形である。比較例では、接合構造3を有する建物を木造建物とし、第1梁材80及び第2梁材90は木質の部材である。
【0027】
第1梁材80及び第2梁材90は相欠き接合されている。接合部3Jでは、第1梁材80の方が第2梁材90よりも上側に配置されている。そのため、第1梁材80は、上下方向において、第2梁材90と対向する下側に、第1切欠き部81を有する。第1切欠き部81は、第1梁材80の下面の幅全体に亘り、上側に向かって梁成Dの半分まで、直方体形状に切欠かれた部位である。第2梁材90は、上下方向において、第1梁材80と対向する上側に、第2切欠き部91を有する。第2切欠き部91は、第2梁材90の上面の幅全体に亘り、下側に向かって梁成Dの半分まで、直方体形状に切欠かれた部位である。
【0028】
第1切欠き部81に第2切欠き部91が篏合し、第1切欠き部81に第2梁材90が収まり、第2切欠き部91に第1梁材80が収まる。これにより、第1梁材80と第2梁材90は交差して接合される。接合部3Jでは、第1梁材80と第2梁材90を接着剤や釘等で固定するとよい。
【0029】
ただし、相欠き接合の場合、接合部3J(交差部)において第1梁材80と第2梁材90の断面欠損が生じる。そのため、第1梁材80と第2梁材90の接合部3Jを支点とする曲げモーメント、詳しくは、第1梁材80と第2梁材90に交差する方向である上下方向の曲げモーメントに対して、接合部3Jの剛性や耐力が大きく低下してしまう。剛性の低下により接合部3Jが変形したり、耐力の低下により接合部3Jが破損したりするおそれがある。
【0030】
具体的に説明すると、長方形断面である梁(母材)の梁幅を「b」とし、梁成(上下方向の長さ)を「D」とした場合、上下方向の曲げモーメントに対する梁の剛性を表す断面2次モーメントIは「bD3/12」となる。比較例の接合部3Jでは第1梁材80と第2梁材90がそれぞれ母材の梁成Dの半分を切欠かれているため、各梁成が「D/2」となる。そのため、接合部3Jでの各梁の断面2次モーメントIは「b(D/2)3/12」となる。よって、比較例の接合構造3では、梁が切欠かれずに接合された接合構造に比べて、接合部3Jの剛性が1/8(=12.5%)まで低下してしまう。
【0031】
同様に、上下方向の曲げモーメントに対する梁(母材)の耐力を表す断面係数Zは「bD2/6」となる。これに対して、相欠き接合された接合部3Jでの各梁の断面係数Zは「b(D/2)2/6」となる。そのため、比較例の接合構造3では、梁が切欠かれずに接合された接合構造に比べて、接合部3Jの耐力が1/4(=25%)まで低下してしまう。
【0032】
そこで、本実施形態では、2つの部材(ここでは2つの梁)を交差させた接合構造において、接合部を支点とした2つの部材に交差する方向(上下方向)の曲げモーメントに対する剛性や耐力の低下を抑えることを目的とする。
【0033】
===第1実施形態の接合構造1===
図1は、第1実施形態の接合構造1を示す斜視図である。
図2は、第1実施形態の接合構造1の構成を示す分解斜視図である。
図3Aは、Y方向から見た接合構造1の分解側面図である。
図3Bは、接合部1Jにおける第1補強板31と第2梁材20の断面を説明する図である。
図4は、第1補強板31及び第2補強板32の厚さを検討したグラフを示す図である。
【0034】
第1実施形態の接合構造1は、X方向を長手方向とする第1梁材10(第1部材)と、Y方向を長手方向とする第2梁材20(第2部材)と、Y方向を長手方向とする第1補強板31と、X方向を長手方向とする第2補強板32を有する。第1実施形態では、接合構造1を有する建物を木造建物とし、第1梁材10及び第2梁材20は木質の部材である。
【0035】
第1梁材10及び第2梁材20(母材)は、上下方向に切った断面の寸法、及び、形状が同じであり、断面形状は長方形である。また、第1補強板31の寸法と、第2補強板32の寸法も同じである。第1補強板31の幅(X方向の長さ)と、第2補強板32の幅(Y方向の長さ)は、第1梁材10及び第2梁材20の梁幅bと同じ長さである。
【0036】
第1実施形態の接合構造1も、比較例の接合構造3と同様に、第1梁材10と第2梁材20が直角に交差して相欠き接合されている。
図2に示すように、接合部1Jでは、第1梁材10の方が第2梁材20よりも上側に配置されている。
【0037】
第1梁材10は、上下方向において、第2梁材20と対向する下側に、第1切欠き部11を有する。第1切欠き部11は、第1梁材10の下面の幅全体に亘り、上側に向かって切欠かれた部位である。第1実施形態の第1切欠き部11は、比較例の第1切欠き部81とは異なり、X方向に長く、段差を有する階段形状を成す。
【0038】
X方向における第1切欠き部11の中央部111は、上側に向かって深く(梁成Dの半分まで)切欠かれた部位である。第1切欠き部11の中央部111は、第2梁材20と第2補強板32が収まる部位であり、そのX方向の長さは、第2梁材20の梁幅bと同じ長さである。
【0039】
X方向における第1切欠き部11の両端部112には、第2補強板32が収まる、詳しくは、X方向において第2梁材20の両側に延出する第2補強板32の部位が収まる。そのため、第1切欠き部11の両端部112は、上側に向かって浅く(第2補強板32の厚さ分だけ)切欠かれた部位となっている。また、第1切欠き部11全体のX方向の長さは、第2補強板32のX方向の長さLと同じである。
【0040】
また、第1梁材10は、上下方向において、第2梁材20と対向しない上側に、第3切欠き部12を有する。第3切欠き部12は、第1梁材10の上面の幅全体に亘り、下側に向かって浅く(第1補強板31の厚さ分だけ)切欠かれた部位である。第3切欠き部12のX方向の長さは、第1補強板31の幅(X方向の長さ)と同じである。
【0041】
第2梁材20は、上下方向において、第1梁材10と対向する上側に、第2切欠き部21を有する。第2切欠き部21は、第2梁材20の上面の幅全体に亘り、下側に向かって切欠かれた部位である。第2切欠き部21は、Y方向に長く、段差を有する階段形状を成す。
【0042】
Y方向における第2切欠き部21の中央部211は、下側に向かって深く(梁成Dの半分まで)切欠かれた部位である。第2切欠き部21の中央部211は、第1梁材10と第1補強板31が収まる部位であり、そのY方向の長さ、第1梁材10の梁幅bと同じ長さである。
【0043】
Y方向における第2切欠き部21の両端部212には、第1補強板31が収まる、詳しくは、Y方向において第1梁材10の両側に延出する第1補強板31の部位が収まる。そのため、第2切欠き部21の両端部212は、下側に向かって浅く(第1補強板31の厚さ分だけ)切欠かれた部位となっている。また、第2切欠き部21全体のY方向の長さは、第1補強板31のY方向の長さLと同じである。
【0044】
また、第2梁材20は、上下方向において、第1梁材10と対向しない下側に、第4切欠き部22を有する。第4切欠き部22は、第2梁材20の下面の幅全体に亘り、上側に向かって浅く(第2補強板32の厚さ分だけ)切欠かれた部位である。第4切欠き部22のY方向の長さは、第2補強板32の幅(Y方向の長さ)と同じである。
【0045】
第1実施形態の接合構造1では、第1切欠き部11に第2切欠き部21が篏合し、第1切欠き部11の中央部111に第2梁材20が収まり、第2切欠き部21の中央部211に第1梁材10が収まっている。これにより、第1梁材10と第2梁材20は交差して接合されている。
【0046】
さらに、第1補強板31が、第1梁材10の第3切欠き部12と、第2梁材20の第2切欠き部21の両端部212に収まり、第2補強板32が、第2梁材20の第4切欠き部22と、第1梁材10の第1切欠き部11の両端部112に収まっている。接合部1Jでは、第1梁材10、第2梁材20、第1補強板31、及び、第2補強板32の、互いに当接する面同士が、接着剤や釘等で固定(接合)されている。
【0047】
このように、第1実施形態の接合構造1では、第1梁材10と第2梁材20が相欠き接合されつつ、第1梁材10の、第2梁材20と対向しない上側に、Y方向に沿って第1梁材10を跨いで、第1補強板31が配置されている。つまり、第1補強板31は、Y方向において、接合部1Jの両端(すなわち第1梁材10の両端10a及び10b)を跨ぎ、第1梁材10からY方向の両外側に延出している。
【0048】
かつ、第1補強板31は、第1梁材10と第2梁材20に接合されている(なお、第1補強板31と第1梁材10は接合されていなくてもよい)。このように、Y方向を長手方向とする第1補強板31と第2梁材20は、互いに接合されているため、相互に力が伝達される。そのため、第1補強板31は、上下方向の曲げモーメントにより第2梁材20に作用する圧縮引張荷重を、第2梁材20と共に分担できる。また、第1補強板31は、接合部1Jにおいて断面欠損している第2梁材20と重なる位置に配置されている。そのため、接合部1Jに位置する第2梁材20の部位に作用する荷重が第1補強板31に分担される。よって、接合部1Jに位置する第2梁材20の部位の、上下方向の曲げモーメントに対する剛性及び耐力の低下を抑えることができる。
【0049】
特に、第1実施形態では、第1補強板31が、Y方向において第1梁材10を跨いで配置され、断面欠損している第2梁材20の部位の全てと重なる。そのため、Y方向における接合部1Jの全域に亘り、第2梁材20の剛性及び耐力の低下を抑えることができる。
【0050】
同様に、第2梁材20の、第1梁材10と対向しない下側に、X方向に沿って第2梁材20を跨いで、第2補強板32が配置されている。つまり、第2補強板32は、X方向において、接合部1Jの両端(すなわち第2梁材20の両端)を跨ぎ、第2梁材20からX方向の両外側に延出している。
【0051】
かつ、第2補強板32は、第1梁材10と第2梁材20に接合されている(なお、第2補強板32と第2梁材20は接合されていなくてもよい)。このように、X方向を長手方向とする第2補強板32と第1梁材10は、互いに接合されているため、相互に力が伝達される。また、第2補強板32は、接合部1Jにおいて断面欠損している第1梁材10と重なる位置に配置されている。そのため、接合部1Jに位置する第1梁材10の部位に作用する荷重(上下方向の曲げモーメントにより作用する荷重)が第2補強板32に分担される。よって、接合部1Jに位置する第1梁材10の部位の、上下方向の曲げモーメントに対する剛性及び耐力の低下を抑えることができる。
【0052】
特に、第1実施形態では、第2補強板32が、X方向において第2梁材20を跨いで配置され、断面欠損している第1梁材10の部位の全てと重なる。そのため、X方向における接合部1Jの全域に亘り、第1梁材10の剛性及び耐力の低下を抑えることができる。
【0053】
以上のように、第1実施形態の接合構造1によれば、相欠き接合する場合であっても、接合部1Jの剛性及び耐力の低下を抑えることができる。また、第1実施形態の接合構造1は、第1補強板31及び第2補強板32の両方を有するが、これに限定されない。つまり、第1梁材10及び第2梁材20の何れか一方(本発明の第2部材)を補強する補強板(本発明の第1補強板)のみを有し、他方(本発明の第1部材)を補強する補強板(本発明の第2補強板)を有さない接合構造であってもよい。
【0054】
また、第1補強板31及び第2補強板32は、上下方向に厚みのある板状の部材である。そのため、例えば接合部1Jにシート状の補強部材を貼り付ける場合に比べて、補強効果が高く、剛性や耐力の低下をより確実に抑えることができる。
【0055】
具体的に説明する為に、第1補強板31で補強される第2梁材20の、上下方向の曲げモーメントに対する断面2次モーメントI及び断面係数Zを算出する。ここでは、第1梁材10及び第2梁材20の梁成を「D=1000mm」とし、梁幅を「b」とする。また、第1補強板31及び第2補強板32の厚さを「t=100mm」とする。この場合、接合部1Jにおける第1梁材10及び第2梁材20の残存梁成は「Dj=400mm=(1000-100×2)/2)」となる。
【0056】
まず、第1補強板31と第2梁材20の上下方向の重心位置eを取得する。
図3Bに示すように、第1補強板31の上面の位置を、上下方向の基準位置(原点O)とする。重心位置e、すなわち原点Oから重心位置eまでの上下方向の距離h
1は、各部材の「断面積」×「原点Oから各部材の重心位置e
1,e
2までの上下方向の距離」の「合計値」を、「各部材の断面積の合計値」で除することで得られる。次式により、原点Oから下方に570mm(=h
1)離れた位置が重心位置eであると得られる。
h
1={(bt×0.5t+bD
j×(t+D
j+0.5D
j)}/(bt+bD
j)
={b(0.5t
2+D
jt+1.5D
j
2)}/{b(t+D
j)}
={0.5×100
2+400×100+1.5×400
2}/(100+400)
=570mm
【0057】
次に、上下に離れた第1補強板31及び第2梁材20の断面2次モーメントIを求める。ここで、第1補強板31の重心位置e1から2つの部材の重心位置eまでの上下方向の距離を「h2=520mm(=570-100/2)」とし、第2梁材20の重心位置e2から2つの部材の重心位置eまでの上下方向の距離を「h3=130mm(=1000-570-100-400/2)」とする。このとき、第1補強板31及び第2梁材20の断面2次モーメントIは、次式により得られる。
I=bt3/12+bth2
2+bDj
3/12+bDjh3
2
=b(1003/12+100×5202+4003/12+400×1302)
=b×39216.7cm4
【0058】
これに対して、切欠かれていない第2梁材20(母材)の断面2次モーメントI0は「bD3/12」である。具体的な数値を入れると「I0=b×10003/12=b×83333.3cm4となる。そのため、第1実施形態の接合構造1では、梁が切欠かれずに接合された接合構造に対する剛性の比率が、47%(=(b×39216.7)/(b×83333.3)×100)となる。よって、剛性が12.5%まで低下してしまう比較例の接合構造3に比べて、第1実施形態の接合構造1では、剛性の低下を抑えることができている。
【0059】
次に、上下に離れた第1補強板31及び第2梁材20の断面係数Zを求める。ここで、2つの部材の重心位置eから2つの部材の上面(第1補強板31の上面)までの上下方向の距離を「h1=570mm」とし、2つの部材の重心位置eから2つの部材の下面(第2梁材20の下面)までの上下方向の距離を「h4=330mm(=900-570)」とする。このとき、2つの部材の上部の断面係数Zuと下部の断面係数Zlは、次式により得られる。
Zu=I/h1
=b×39216.7/57
=b×688.0cm3
Zl=I/h4
=b×39216.7/33
=b×1188.4cm3
【0060】
これに対して、切欠かれていない第2梁材20(母材)の断面係数Z0(上部及び下部それぞれの断面係数)は「bD2/6」である。具体的な数値を入れると「Z0=b×1002/6=b×1666.7cm3となる。そのため、第1実施形態の接合構造1では、梁が切欠かれずに接合された接合構造に対する耐力の比率が、41%(=(b×688.0)/(b×1666.7)×100)~71%(=(b×1188.4)/(b×1666.7)×100)となる。よって、耐力が25%まで低下してしまう比較例の接合構造3に比べて、第1実施形態の接合構造1では、耐力の低下を抑えることができている。なお、第2補強板32及び第1梁材10についても同様に計算でき、同様の結果が得られる。
【0061】
また、第1補強板31及び第2補強板32は、第1梁材10及び第2梁材20と同じ材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。ただし、第1補強板31及び第2補強板32が、第1梁材10及び第2梁材20よりも強度の強い材料で形成されていることで、上下方向の曲げモーメントに対する接合部1Jの剛性や耐力の低下をさらに抑えることができる。強度の強い材料とは、曲げに対するヤング係数と許容曲げ応力度の少なくとも一方が、第1梁材10及び第2梁材20の材料よりも大きい材料である。
【0062】
例えば、第1梁材10及び第2梁材20に杉を採用した場合、第1補強板31及び第2補強板32には、杉よりも強度の強いヒノキやカラマツを採用するとよい。また、木質の部材よりも強度の強い金属部材を、第1補強板31及び第2補強板32に採用してもよい。そうすることで、接合部1Jの剛性や耐力の低下をより一層抑えることができる。ただし、第1補強板31及び第2補強板32を、第1梁材10及び第2梁材20と同じ木質の部材とすることで、第1補強板31及び第2補強板32が目立ち難く、接合構造1の外観を良くすることができる。
【0063】
また、例えば、第2梁材20よりも第1補強板31の方が強い材料であり、第1補強板31のヤング係数が大きい場合、第1補強板31の幅が広いと想定して断面2次モーメントI及び断面係数Zを求めることで、補強効果を確認できる。例えば、第2梁材20のヤング係数Eに対して、第1補強板31のヤング係数がα倍である場合、第1補強板31の幅を、実際の幅bのα倍である「αb」として考える。そうすると、原点Oから2つの部材の重心位置eまでの上下方向の距離h1は次式となる。
h1={(αb×t×0.5t+bDj×(t+Dj+0.5Dj)}
/(αbt+bDj)
【0064】
そして、断面2次モーメントI’と断面係数Zu’,Zl’は次式となる。この式からも、第1補強板31と第2梁材20の材料が同じである場合に比べて、ヤング係数の大きい材料を第1補強板31に採用する方が、剛性(I’>I)と、耐力(Zu’>Zu、Zl’>Zl)の低下を抑えられることが分かる。なお、次式において、厳密には、2つの部材の重心位置eが変わるのでh1~h4も変わるが、同じ記号で示している。
I’=αbt3/12+αbth2
2+bDj
3/12+bDjh3
2
I’>I=bt3/12+bth2
2+bDj
3/12+bDjh3
2
Zu’=I’/h1>Zu
Zl’=I’/h4>Zl
【0065】
また、許容曲げモーメントMは、材料の許容曲げ応力度Fに、断面係数Zを乗じることで求められる(M=F×Z)。そのため、第2梁材20よりも第1補強板31の方が強い材料であり、第1補強板31の許容曲げ応力度Fが大きい場合、許容曲げモーメントMが大きくなり、耐力の低下をより抑えられることが分かる。
【0066】
また、第1梁材10は、上下方向における第2梁材20と対向しない上側において、第1補強板31が篏合する第3切欠き部12を有する。また、第2梁材20の上部に設けられた第2切欠き部21も、第1補強板31が収まる形状(階段形状)に切欠かれている。そのため、第1梁材10の上面から第1補強板31が上側に突出しないので、又は突出する部位が小さくなるので、第1補強板31が目立ち難く、接合構造1の外観を良くすることができる。
【0067】
同様に、第2梁材10は、上下方向における第1梁材10と対向しない下側において、第2補強板32が篏合する第4切欠き部22を有する。また、第1梁材10の下部に設けられた第1切欠き部11も、第2補強板32が収まる形状(階段形状)に切欠かれている。そのため、第2梁材20の下面から第2補強板32が下側に突出しないので、又は突出する部位が小さくなるので、第2補強板32が目立ち難く、接合構造1の外観を良くすることができる。
【0068】
特に、第1実施形態では、第1梁材10の上面と第1補強板31の上面が面一となるように、また、第2梁材20の下面と第2補強板32の下面が面一となるように、切欠き部11,12,21,22の深さが調整されている。そのため、接合構造1の外観をより良くすることができる。
【0069】
ただし、上記に限定されず、接合構造1は第3切欠き部12と第4切欠き部22の一方又は両方を有していなくてもよいし、第1補強板31の厚さの一部分だけが第1梁材10に収まっていたり、第2補強板32の厚さの一部分だけが第2梁材20に収まっていたりしてもよい。
【0070】
また、第1補強板31及び第2補強板32の幅も、第1梁材10と第2梁材20の幅bと同じとしている。そのため、第1補強板31及び第2補強板32が、Y方向又はX方向に突出することがなく、接合構造1の外観を良くすることができる。
【0071】
また、第1補強板31及び第2補強板32の厚さt(上下方向の長さ)を大きくすることで、上下方向の曲げモーメントに対する第1補強板31及び第2補強板32の補強効果は高まる。しかし、第1補強板31及び第2補強板32を収める第3切欠き部12及び第4切欠き部22を第1梁材10及び第2梁材20に設ける場合、第1補強板31及び第2補強板32の厚さtを大きくするにしたがって、第1梁材10及び第2梁材20の残存断面積(梁成Dの残存率)が小さくなる。
【0072】
そこで、梁成Dに対する第1補強板31及び第2補強板32の厚さtの比率(t/D)を変化させたときの補強効果を計算し、最適な厚さtを決定するとよい。補強効果とは、切欠かれていない第1梁材10及び第2梁材20(母材)の断面2次モーメントI
0及び断面係数Z
0に対する、第1補強板31及び第2補強板32を設けた場合の断面2次モーメントI及び断面係数Zの比率(I/I
0、Z/Z
0)である。その結果を、
図4のグラフに示す。
【0073】
図4のグラフの結果から、上部の断面係数Zuは、板厚tが大きくなる程に重心位置eが上がるため(h1が小さくなるため)、大きくなることが分かる。一方、断面2次モーメントI及び下部の断面係数Zlは、板厚tが0.125D~0.15Dであるときに大きくなる。また、板厚tを大きくし過ぎてしまうと、第1梁材10及び第2梁材20のせん断力に対する耐力も低下してしまう。そのため、梁成Dに対する板厚tの比率が0.125~0.15程度となるような、第1補強板31及び第2補強板32の厚さtを採用するとよい。
【0074】
また、第1補強板31の下面及び第2補強板32の上面は、それぞれ、第1梁材10と第2梁材20に接合されている(第1実施形態では接着剤により接合固定されている)。この接合は、第1補強板31及び第2補強板32に作用する引張荷重により第1補強板31及び第2補強板32が破壊するまで、剥がれないように設定するとよい。例えば、第1補強板31にはY方向の引張荷重が作用する。そのため、第1補強板31の下面の接合強度が、第1補強板31のY方向の引張に対する許容応力よりも大きくなるようにする。
【0075】
具体的に説明すると、第1補強板31の下面が接着剤で接合されている場合、第1補強板31の下面の接合強度は、接着剤のせん断強度σaに、第1補強板31の下面の面積(b×L)を乗じることで求められる。第1補強板31の下面が釘で接合されている場合、第1補強板31の下面の接合強度は、釘のせん断強度σbに、釘の本数nを乗じることで求められる。一方、第1補強板31のY方向の引張に対する許容応力は、第1補強板31のY方向の引張強度faに、第1補強板31のY方向の断面積A(=b×t)を乗じることで求められる。よって、次式が成立するようにするとよい。
σa×b×L>fa×A
σb×n>fa×A
【0076】
そのために、第1補強板31の長さLや、接着剤又は釘の種類、第1補強板31の材料を決定するとよい。また、第1補強板31を釘で接合する場合には、必要な釘の本数nと釘の配置(ピッチ等)に基づき、第1補強板31の長さLを決定するとよい。第2補強板32についても同様である。
【0077】
===第2実施形態の接合構造2===
図5は、第2実施形態の接合構造2を示す斜視図である。
図6は、第2実施形態の接合構造2の構成を示す分解斜視図である。
図7及び
図8は、せん断力伝達手段60,70を説明する図である。
図9は、第1補強板31及び第2補強板32の厚さを検討したグラフを示す図である。
【0078】
第2実施形態の接合構造2は、X方向を長手方向とする第1梁材40(第1部材)と、Y方向を長手方向とする第2梁材50と、Y方向を長手方向とする第1補強板31及び第2補強板32を有する。第2実施形態では、接合構造2を有する建物を木造建物とし、第1梁材40及び第2梁材50は木質の部材である。
【0079】
第1梁材40及び第2梁材50(母材)は、上下方向に切った断面の寸法、及び、形状が同じであり、断面形状は長方形である。また、第1補強板31の寸法と、第2補強板32の寸法も同じである。第1補強板31及び第2補強板32の幅(X方向の長さ)は、第1梁材40及び第2梁材50の梁幅bと同じ長さである。
【0080】
第2実施形態の接合構造2は、相欠き接合とは異なり、接合部2Jにおいて第2梁材50が分断されており、分断された部分に第1梁材40が通されることで、第1梁材40と第2梁材50が直角に交差して接合されている。以下の説明では、第2梁材50の分断された一方を第1分断部材51と称し、他方を第2分断部材52と称す。
【0081】
第1分断部材51(第2部材)は、Y方向を長手方向とし、Y方向における第1梁材40の一方側の面に当接する。第2分断部材52(第3部材)は、Y方向を長手方向とし、Y方向における第1梁材40の他方側の面に当接する。
【0082】
第1梁材40は、第1補強板31が収まる第1切欠き部41と、第2補強板32が収まる第2切欠き部42を有する。第1切欠き部41は、第1梁材40の上面の幅全体に亘り、下側に向かって浅く(第1補強板31の厚さ分だけ)切欠かれた部位である。第2切欠き部42は、第1梁材40の下面の幅全体に亘り、上側に向かって浅く(第2補強板32の厚さ分だけ)切欠かれた部位である。第1切欠き部41及び第2切欠き部42のX方向の長さは、第1補強板31及び第2補強板32の幅bと同じである。
【0083】
また、第2梁材50である第1分断部材51及び第2分断部材52も、それぞれ、第1補強板31が収まる第3切欠き部53と、第2補強板32が収まる第4切欠き部54を有する。第3切欠き部53は、第1分断部材51及び第2分断部材52の上面の幅全体に亘り、下側に向かって浅く(第1補強板31の厚さ分だけ)切欠かれた部位である。第4切欠き部54は、第1分断部材51及び第2分断部材52の下面の幅全体に亘り、上側に向かって浅く(第2補強板32の厚さ分だけ)切欠かれた部位である。
【0084】
そして、第2実施形態の接合構造2では、第1補強板31のY方向における中央部が、第1梁材40の第1切欠き部41に収まり、第1補強板31のY方向における両端部が、第1分断部材51及び第2分断部材52の第3切欠き部53に収まっている。同様に、第2補強板32のY方向における中央部が、第1梁材40の第2切欠き部42に収まり、第2補強板32のY方向における両端部が、第1分断部材51及び第2分断部材52の第4切欠き部54に収まっている。そして、第1梁材40、第1分断部材51、第2分断部材52、第1補強板31、及び、第2補強板32の、互いに当接する面同士が、接着剤や釘等で固定(接合)されている。
【0085】
このように、第2実施形態の接合構造2では、第1梁材40及び第2梁材50の上側と下側に、Y方向に沿って第1梁材40を跨いで第1補強板31と第2補強板32が配置されている。かつ、第1補強板31と第2補強板32は、それぞれ、第1梁材40と第1分断部材51と第2分断部材52に接合されている。つまり、第1補強板31と第2補強板32は、Y方向において第1梁材40の両外側に延出して第1分断部材51と第2分断部材52に接合されており、第1分断部材51と第2分断部材52を一体化する役割を果たす。そのため、上下方向の曲げモーメントにより第1分断部材51と第2分断部材52に作用する圧縮引張荷重は、第1補強板31と第2補強板32を介して、相互に伝達される。なお、第1梁材40は、第1分断部材51及び第2分断部材52と接合されていなくてもよい。
【0086】
また、第1補強板31と第2補強板32自体も、第1分断部材51と第2分断部材52に作用する圧縮引張荷重を分担できる。そのため、第2梁材50は、接合部2Jにおいて分断されているが、第1補強板31及び第2補強板32によって、第2梁材50に作用する上下方向の曲げモーメントに対抗でき、接合部2Jの剛性及び耐力の低下を抑えることができる。
【0087】
一方、第1梁材40は、接合部2Jにおいて、第1補強板31と第2補強板32の厚さ2t分だけ切欠かれている。そのため、比較例の接合構造3のように梁成Dの半分が切欠かれてしまう場合に比べて、断面欠損が小さい。よって、接合部2Jに位置する第1梁材40の部位の、上下方向の曲げモーメントに対する剛性及び耐力の低下を抑えることができる。
【0088】
具体的に説明する為に、第1梁材40及び第2梁材50の梁成を「D=1000mm」とし、梁幅を「b」とする。また、第1補強板31及び第2補強板32の厚さを「t=100mm」とする。この場合、接合部2Jにおいて第1補強板31と第2補強板32のみで繋がっている第2梁材50の断面2次モーメントI、及び、断面係数Zは、次式により得られる。
I=bD3/12-b(D-2t)3/12
=b(10003-8003)/12
=b×40666.7cm4
Z=bD2/6-b(D-2t)2/6
=b(10002-8002)/6
=b×600cm3
【0089】
これに対して、分断されていない第2梁材50(母材)の断面2次モーメントI0は「bD3/12=b×10003/12=b×83333.3cm4」となる。そのため、第2実施形態の接合構造2では、梁が切欠かれずに接合された接合構造に対する剛性の比率が、49%(=(b×40666.7)/(b×83333.3)×100=48.8)となる。また、分断されていない第2梁材50(母材)の上部及び下部の断面係数Z0は「bD2/6=b×1666.7cm3」となる。そのため、第2実施形態の接合構造2では、梁が切欠かれずに接合された接合構造に対する耐力の比率が、36%(=(b×600)/(b×1666.7)×100=35.9)となる。よって、剛性が12.5%まで低下し、耐力が25%まで低下してしまう比較例の接合構造3に比べて、第2実施形態の接合部2Jにおける第2梁材50(剛性が49%、耐力が36%)の方が、剛性及び耐力の低下を抑えることができている。
【0090】
また、接合部2Jにおいて、第1補強板31及び第2補強板32の厚さ分だけ切欠かれている第1梁材40の断面2次モーメントI、及び、断面係数Zは、次式により得られる。
I=b(D-2t)3/12
=b8003/12
=b×42666.6cm4
Z=b(D-2t)2/6
=b8002/6
=b×1066.6cm3
【0091】
そのため、第2実施形態の接合構造2の第1梁材40では、梁が切欠かれずに接合された接合構造に対して、剛性の比率が51%(=(b×42666.6)/(b×83333.3)×100=51.2)となり、耐力の比率が64%(=(b×1066.6)/(b×1666.7)×100=63.9)となる。よって、剛性が12.5%まで低下し、耐力が25%まで低下してしまう比較例の接合構造3に比べて、第2実施形態の接合部2Jにおける第1梁材40(剛性が51%、耐力が64%)の方が、剛性及び耐力の低下を抑えることができている。
【0092】
また、第1補強板31及び第2補強板32は、第1梁材40及び第2梁材50と同じ材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。ただし、第1補強板31及び第2補強板32が、第1梁材40及び第2梁材50よりも強度の強い材料で形成されていることで、上下方向の曲げモーメントに対する接合部2Jの剛性や耐力の低下をさらに抑えることができる。
【0093】
また、第2実施形態の接合構造2の場合、第1分断部材51と第2分断部材52が第1補強板31と第2補強板32のみで接合されているだけでは、第1分断部材51と第2分断部材52の間で上下方向のせん断力が伝達されない。そのため、第2実施形態の接合構造2は、
図7及び
図8に示すように、第1分断部材51と第2分断部材52の間の上下方向のせん断力を、第1梁材40を介して伝達するせん断力伝達手段60,70を有することが望ましい。
【0094】
図7に示すせん断力伝達手段60は、一対のガセットプレート61と、当該ガセットプレートを貫通する貫通部材である。貫通部材はドリフトピン62(丸鋼)である。ガセットプレート61は、断面T字型のプレートであり(梁に差し込まれる接合金具であり)、そのフランジ部が第1梁材40に取り付けられている。また、Y方向における第1梁材10の両面にそれぞれガセットプレート61が取り付けられている。なお、
図7では、第1梁材40にガセットプレート61を取り付ける為のボルト等を省略している。また、ガセットプレート61のウェブ部は、第1梁材40からY方向に突出し、ドリフトピン62をX方向に挿通するための複数の貫通孔611を有する。
【0095】
一方、第1分断部材51及び第2分断部材52(
図7では不図示)の、Y方向における第1梁材40と当接する側の端部には、ガセットプレート61を挿入するスリット511が設けられている。さらに、前記端部には、ドリフトピン62をX方向に挿通するための複数の貫通孔512が設けられている。
【0096】
そして、接合構造2では、第1分断部材51又は第2分断部材52の貫通孔512と、スリット511に挿入されたガセットプレート61の貫通孔611に、複数のドリフトピン62がX方向に沿って挿通されている。こうして、第1分断部材51と第1梁材40の上下方向の動きが規制され、第2分断部材52と第1梁材40の上下方向の動きが規制される。
【0097】
これにより、第1分断部材51と第1梁材40の間で上下方向のせん断力が伝達され、第1梁材40と第2分断部材52の間で上下方向のせん断力が伝達される。よって、第1分断部材51と第2分断部材52の間でも、第1梁材40を介して、上下方向のせん断力が伝達される。なお、
図7に例示するせん断力伝達手段60は一例であり、これに限定されず、例えば第2梁材50側にガセットプレート60を取り付けてもよい。また、ガセットプレート61を貫通する貫通部材がボルトであり、そのボルトをナットで固定してもよい。
【0098】
また、
図8に示すせん断力伝達手段70は、コッター71と、溝部72である。第1分断部材51及び第2分断部材52(
図8では不図示)の、Y方向における第1梁材40との当接面に、第1梁材40側に突出するコッター71(突起部)が設けられている。一方、Y方向における第1梁材40の両面には、コッター71が篏合する溝部72が設けられている。そして、接合構造2では、コッター71が溝部72に篏合し、接着剤等で接合固定される。
【0099】
これにより、第1分断部材51と第1梁材40の間で上下方向のせん断力が伝達され、第1梁材40と第2分断部材52の間で上下方向のせん断力が伝達される。よって、第1分断部材51と第2分断部材52の間でも、第1梁材40を介して、上下方向のせん断力が伝達される。なお、
図8に例示するせん断力伝達手段70は一例であり、例えば、第1梁材40側にコッター71が設けられていてもよい。また、コッター71の形状や数も
図8に示すものに限定されない。
【0100】
また、第1梁材40と第2梁材50(第1分断部材51及び第2分断部材52)の上部及び下部には、第1補強板31と第2補強板32を収める切欠き部41,42,53,54が設けられている。そのため、第1梁材40と第2梁材50の上面から第1補強板31が上側に突出せず、又は突出する部位が小さく、第1梁材40と第2梁材50の下面から第2補強板32が下側に突出せず、又は突出する部位が小さくなる。よって、第1補強板31と第2補強板32が目立ち難く、接合構造2の外観を良くすることができる。
【0101】
特に、第2実施形態では、第1梁材40及び第2梁材50の上面と第1補強板31の上面が面一となるように、また、第1梁材40及び第2梁材50の下面と第2補強板32の下面が面一となるように、切欠き部41,42,53,54の深さが調整されているため、接合構造2の外観をより良くすることができる。ただし、上記に限定されず、接合構造2は第1切欠き部41~第4切欠き部54の一部又は全部を有していなくてもよいし、第1補強板31や第2補強板32の厚さの一部分だけが切欠き部41,42,53,54に収まっていてもよい。
【0102】
また、第1補強板31及び第2補強板32の幅も、第1梁材40及び第2梁材50の幅bと同じとしている。そのため、第1補強板31及び第2補強板32が、Y方向又はX方向に突出することがなく、接合構造2の外観をより良くすることができる。
【0103】
また、
図9には、第1梁材40及び第2梁材50の梁成Dに対する第1補強板31及び第2補強板32の厚さtの比率(t/D)を変化させたときの、補強効果(母材の断面2次モーメントI
0及び断面係数Z
0に対する第2実施形態の断面2次モーメントI及び断面係数Zの比率、I/I
0、Z/Z
0)の変化を示す。第2実施形態の接合構造2の場合、第1補強板31及び第2補強板32の厚さtが大きくなるほど、第2梁材50の補強効果は高まる。一方、第1梁材40は、板厚tが大きくなるほど、切欠き部41,42の深さが深くなるため、補強効果は低下する。そのため、所望の補強効果に応じて、第1補強板31及び第2補強板32の厚さtを決定するとよい。
【0104】
===その他の実施形態===
以上、上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。
【0105】
上記実施形態では、第1部材及び第2部材(第3部材)を梁とした梁同士の接合構造を例示したが、これに限定されず、本発明に係る接合構造は、柱梁の接合構造であってもよい。また、上記実施形態では、第1部材及び第2部材(第3部材)を、木質の部材と例示したが、これに限定されず、金属製の部材であってもよい。また、上記実施形態では、第1梁材及び第2梁材を同じ寸法の同じ形状の部材としたが、これらが異なる部材であってもよい。また、第1補強板及び第2補強板の寸法が異なっていてもよい。また、第1部材及び第2部材(第3部材)は直角以外の角度で交差していてもよい。
【符号の説明】
【0106】
1 (第1実施形態の)接合構造、
10 第1梁材(第1部材)、11 第1切欠き部、12 第3切欠き部、
20 第2梁材(第2部材)
21 第2切欠き部、22 第4切欠き部、
31 第1補強板、32 第2補強板、
2 (第2実施形態の)接合構造、
40 第1梁材(第1部材)、
41 第1切欠き部、42 第2切欠き部、
50 第2梁材、
51 第1分断部材(第2部材)、52 第2分断部材(第3部材)、
53 第3切欠き部、54 第4切欠き部、
60 せん断力伝達手段、
61 ガセットプレート、62 ドリフトピン(貫通部材)、
70 せん断力伝達手段、
71 コッター、72 溝部、
3 (比較例の)接合構造、80 第1梁材、90 第2梁材、