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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076677
(43)【公開日】2022-05-20
(54)【発明の名称】雄ねじ部材及び雄ねじ部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16B 39/30 20060101AFI20220513BHJP
   F16B 33/02 20060101ALI20220513BHJP
   F16B 35/00 20060101ALI20220513BHJP
   B21H 3/06 20060101ALI20220513BHJP
   B23G 7/00 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
F16B39/30 D
F16B33/02 D
F16B39/30 C
F16B35/00 Q
B21H3/06 D
B23G7/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020187181
(22)【出願日】2020-11-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】391047891
【氏名又は名称】尾張精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】藤井 孝誠
(72)【発明者】
【氏名】福満 誠
(72)【発明者】
【氏名】後藤 訓重
(57)【要約】
【課題】異なる厚みの複数種類の被締結部材に対応可能な雄ねじ部材、及び当該雄ねじ部材の製造方法を提供する。
【解決手段】雄ねじ部材は、予め雌ねじのねじ溝が形成された雌ねじ部材に対してねじ込まれる雄ねじ部材であって、頭部と、頭部から垂直に延び頭部の反対側に先端部を有する脚部と、を備える。脚部は、先端部から所定の位置まで外周にねじ溝に対応する形状に形成されたねじ山を有するねじ部を有する。ねじ部は、第1ねじ部と、第1ねじ部よりも頭部寄りに設けられた第2ねじ部と、を有する。第1ねじ部は、ねじ山の一部を膨出させた雌ねじ部材に干渉する形状である第1干渉部を有する。第2ねじ部は、ねじ山の一部を前記第1ねじ部とは異なる位置を膨出させた雌ねじ部材に干渉する形状である第2干渉部を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め雌ねじのねじ溝が形成された雌ねじ部材に対してねじ込まれる雄ねじ部材であって、
頭部と、
前記頭部から垂直に延びる軸上に形成され前記頭部の反対側に先端部を有する脚部と、
を備え、
前記脚部は、前記先端部から所定の位置まで外周に前記ねじ溝に対応する形状に形成されたねじ山を有するねじ部を有し、
前記ねじ部は、第1ねじ部と、前記第1ねじ部よりも頭部寄りに設けられた第2ねじ部と、を有し、
前記第1ねじ部は、前記ねじ山の一部を膨出させた前記雌ねじ部材に干渉する形状である第1干渉部を有し、
前記第2ねじ部は、前記ねじ山の一部を前記第1ねじ部とは異なる位置において膨出させた前記雌ねじ部材に干渉する形状である第2干渉部を有する、
雄ねじ部材。
【請求項2】
前記第2干渉部は、前記第1干渉部よりも前記ねじ山の谷部寄りに位置している、
請求項1に記載の雄ねじ部材。
【請求項3】
前記第2干渉部は、前記第2ねじ部において前記脚部の円周方向の一部に設けられている、
請求項1又は2に記載の雄ねじ部材。
【請求項4】
前記脚部の断面形状は、呼び径を直径とする円に内接する多角形である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の雄ねじ部材。
【請求項5】
予め雌ねじのねじ溝が形成された雌ねじ部材に対してねじ込まれる雄ねじ部材の製造方法であって、
脚部の先端部側から所定の位置までねじ山の一部を膨出させて第1干渉部を転造により形成する第1工程と、
前記第1干渉部を形成した範囲のうち前記先端部側から所定範囲を残して前記頭部寄りに前記ねじ山の頂部側部分を前記ねじ山の谷部に向かって潰して塑性変形させて第2干渉部を形成する第2工程と、
を備える雄ねじ部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、雄ねじ部材及び雄ねじ部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
雄ねじ山が形成された雄ねじ部材と雌ねじ溝が形成されたナット等の雌ねじ部材との間に固定対象物を挟んで固定する場合、振動等の要因で雄ねじ部材と雌ねじ部材との締結が緩んでしまうことがある。この緩みを防ぐために、雄ねじ山を雌ねじ溝に干渉させる形状とすることで、通常の締結よりも強い摩擦力を発生させて緩み止めを図る雄ねじ部材がある。
【0003】
このように雄ねじ山と雌ねじ溝との干渉により緩み止め効果を発揮させる場合、ねじ込み量が多くなると、雌ねじ溝が雄ねじ山の形状に沿って変形や摩耗し、これにより干渉による摩擦が減って緩み止め効果が低下する。そのため、従来構成では、固定対象物の厚みに合わせて雄ねじ部材の長さ及び干渉させる位置を調節する必要があるため、固定対象物の厚みが複数種類ある場合はその厚みに対応した複数種類の雄ねじ部材を使い分けることが一般的である。その結果、部品の点数が増えてしまい、部品の管理が煩わしくなる虞がある。また、固定対象物の厚みに適していない長さ寸法の雄ねじ部材を誤って使用した場合には、適切な緩み止め効果が発揮されなくなる虞もある。
【0004】
一方、被締結部材の厚みが様々であっても一種類の雄ねじ部材で緩み止め機能を発揮させるために、ねじ緩み止め用接着剤いわゆるロック材を用いることもある。この場合、ロック材は高価であるため、原料コストが嵩んでしまうとともに、ロック材を塗布する工程も増えてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-117606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、異なる厚みの複数種類の被締結部材に対応可能な雄ねじ部材、及び当該雄ねじ部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の雄ねじ部材は、予め雌ねじのねじ溝が形成された雌ねじ部材に対してねじ込まれる雄ねじ部材であって、頭部と、前記頭部から垂直に延び前記頭部の反対側に先端部を有する脚部と、を備える。前記脚部は、前記先端部から所定の位置まで外周に前記ねじ溝に対応する形状に形成されたねじ山を有するねじ部を有する。ねじ部は、第1ねじ部と、第1ねじ部よりも頭部寄りに設けられた第2ねじ部と、を有する。第1ねじ部は、前記ねじ山の一部を膨出させた前記雌ねじ部材に干渉する形状である第1干渉部を有する。第2ねじ部は、前記ねじ山の一部を前記第1ねじ部とは異なる位置を膨出させた前記雌ねじ部材に干渉する形状である第2干渉部を有する。
【0008】
また、実施形態の製造方法は、予め雌ねじのねじ溝が形成された雌ねじ部材に対してねじ込まれる雄ねじ部材の製造方法である。当該製造方法は、脚部の先端部側から所定の位置までねじ山の一部を膨出させて第1干渉部を転造により形成する第1工程と、前記第1干渉部を形成した範囲のうち前記先端部側から所定範囲を残して前記頭部寄りに前記ねじ山の頂部側部分を前記ねじ山の谷部に向かって潰して塑性変形させて第2干渉部を形成する第2工程と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態による雄ねじ部材の一例の使用状態を示す断面図
図2】実施形態による雄ねじ部材の一例の概要を示す正面図
図3】実施形態による雄ねじ部材の一例の脚部を図2のX3-X3に沿って拡大して示す横断面図
図4】実施形態による雄ねじ部材の一例の脚部を図2のX4-X4に沿って拡大して示す横断面図
図5】実施形態による雄ねじ部材の一例の第1ねじ山の概要を示す縦断面図
図6】実施形態による雄ねじ部材の一例の第1ねじ山の概要を示す縦断面図
図7】実施形態による雄ねじ部材の一例の第2ねじ山の概要を示す縦断面図
図8】実施形態による雄ねじ部材の一例の第2ねじ山の概要を示す縦断面図
図9】実施形態による雄ねじ部材の製造工程の一例を示すフローチャート
図10】実施形態による雄ねじ部材の製造に用いる一組の転造ダイスの一例の一方を示す概略図
図11】実施形態による雄ねじ部材の製造に用いる一組の転造ダイスの一例の一方を図10のX11-X11に沿って拡大して示す断面図
図12】第1ねじ部において雌ねじ部材と締結した実施形態による雄ねじ部材の一例の第1ねじ山を示す断面写真
図13】第2ねじ部において雌ねじ部材と締結した実施形態による雄ねじ部材の一例の第2ねじ山を示す断面写真
図14】実施形態による雄ねじ部材の一例のプリべリングトルクを示すチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、一実施形態について図面を参照しながら説明する。本実施形態による雄ねじ部材10は、図1に示すように、固定対象物40に形成された通し穴に通されるとともに、通し穴の先に配置されたナット等の雌ねじ部材50にねじ込まれることで、雄ねじ部材10と雌ねじ部材50との間に固定対象物40を固定可能に構成されている。なお、雌ねじ部材50は、雄ねじ部材10をねじ込むことが可能な雌ねじが形成された部材であり、ナットに限られず、雌ねじが形成された固定対象物であっても良い。また、この場合、雌ねじ部材50に形成された雌ねじは、ねじ規格に従ったものである。
【0011】
まず、本実施形態による雄ねじ部材10について図2を参照して説明する。雄ねじ部材10は、頭部11と、脚部12とを一体に備える。頭部11は、ドライバビットの先端と係合する駆動穴111を有する。脚部12は、棒状に形成されて頭部11から垂直に延びている。本実施形態において、脚部12は、雄ねじ部材10全体のうち頭部11以外の部分を意味する。
【0012】
脚部12は、先端部13と、ねじ部14とを有する。先端部13は、脚部12の頭部11と反対側に設けられている。ねじ部14は、脚部12の先端部13側から頭部11に向かって所定の位置まで形成されている。ねじ部14は、詳細を後述するねじ山15を有する。ねじ山15は、脚部12の外周に沿って螺旋状に形成されている。なお、ねじ山15は、ねじ部14の全体に亘って等ピッチに形成されている。また、本実施形態の雄ねじ部材10は、1条のねじ山15が脚部12の外周に沿って螺旋状に形成された1条ねじである。なお、雄ねじ部材10は、1条ねじに限られず、2条以上のねじ山を有するいわゆる多条ねじであっても良い
【0013】
ねじ部14は、図2に示すように、第1ねじ部20と、第2ねじ部30とを有する。第1ねじ部20は、ねじ部14の全長のうち脚部12の先端部13側から所定の位置まで形成されている。第2ねじ部30は、脚部12の第1ねじ部20よりも頭部11寄りから所定の位置まで形成されている。第1ねじ部20と第2ねじ部30とは連続して配置されている。
【0014】
第1ねじ部20は、図5図6に示すように第1干渉部21を有する。第1干渉部21は、第1ねじ部20の外周の一部を膨出させて形成されており、第1ねじ部20が雌ねじ部材50にねじ込まれた状態において雌ねじ部材50と干渉する。第2ねじ部30は、図7図8に示すように、脚部12の断面における全周のうち少なくとも一部に第2干渉部31を有する。本実施形態の場合、第2干渉部31は、具体的には脚部12の断面における全周のうち1/2程度の範囲に設けられている。そして、残り1/2の範囲には、第1干渉部21が設けられている。すなわち、本実施形態の場合、第2ねじ部30において、脚部12の断面における全周のうち第2干渉部31が設けられている範囲は、第1干渉部21が設けられている範囲と同程度である。
【0015】
第2干渉部31は、第2ねじ部30外周の一部を膨出させて形成されており、第1干渉部21とは異なった形状をしている。第2干渉部31は、第2ねじ部30が雌ねじ部材50にねじ込まれた状態において雌ねじ部材50と干渉する。この場合、第2干渉部31は、雌ねじ部材50のうち第1干渉部21が干渉する箇所以外の箇所、つまり第1干渉部21とは異なる箇所と干渉する。第1干渉部21と、第2干渉部31とは、雌ねじ部材50に干渉することで雄ねじ部材10と雌ねじ部材50との間に強い摩擦力を発生させ、緩み止め効果を発揮することができる。
【0016】
図3に示すように、脚部12は、横断面形状が呼び径を直径とする円に内接する多角形に形成されている。呼び径とは、ねじ部14の最大径、つまり、ねじ山15を含めた脚部12の外径をミリメートル又はインチで表したものである。またこの場合、脚部12の横断面形状は、多角形の角部を凸弧状としたいわゆる角丸多角形である。本実施形態では、脚部12の横断面形状は角丸三角形である。なお、他の実施形態では、脚部12の横断面形状は、角丸四角形、角丸五角形等の三角形以外の多角形であっても良いし、円形であっても良い。
【0017】
ここで、雌ねじ部材50は、図5等に点線で示すねじ溝51を備える。ねじ溝51は、雌ねじ山52と、雌ねじ谷53と、雌ねじ上フランク面54と、雌ねじ下フランク面55と、を有する。ねじ溝51は、ねじ規格に定められた形状に形成されている。雌ねじ山52は、ねじ溝51のうち内側すなわち雄ねじ部材10をねじ込んだ際に雄ねじ部材10の脚部12の半径方向に関して中心側に突出した部分を指す。雌ねじ谷53とは、ねじ溝51のうち外側すなわち雄ねじ部材10をねじ込んだ際に雄ねじ部材10の脚部12の半径方向に関して外側に窪んだ部分を指す。雌ねじ山52及び雌ねじ谷53は、ねじ溝51の形成範囲全体に亘って等ピッチに形成されている。雌ねじ上フランク面54は、雌ねじ山52と雌ねじ谷53とを繋ぐ面である。雌ねじ下フランク面55は、雌ねじ谷53と雌ねじ山52とを繋ぐ面である。この場合、雌ねじ上フランク面54の雌ねじフランク角θ1及び雌ねじ下フランク面55の雌ねじフランク角θ2は、それぞれ30°に設定されている。つまり、雌ねじ部材50のねじ溝51は、いわゆる標準雌ねじである。ここで雌ねじフランク角とは、ねじ溝51の各雌ねじ上下フランク面54、55と脚部12の軸方向に直角な直線との間の角度を言う。なお、本明細書において上フランク面及び下フランク面との用語における上下とは、説明のための定義であって、重力方向における上下を意味するものではない。
【0018】
雄ねじ部材10の第1ねじ部20は、図2図3等に示すように、ねじ山15として、第1ねじ山151を有する。第2ねじ部30は、ねじ山15として、図2図4等に示すように第1ねじ山151と、第2ねじ山152とを有する。詳細は後述するが、第1ねじ山151と第2ねじ山152とは、異なった形状を有している。第2ねじ部30において、第2ねじ山152は、脚部12の外周の少なくとも一部に設けられている。本実施形態では、第2ねじ山152は、例えば図4の脚部12の断面図に示す範囲Sの部分である。範囲Sが形成された脚部12の円周方向に関する角度を形成角θと称する。
【0019】
第1ねじ山151は、ねじ規格に定められた形状の雄ねじ山と比べて、雄ねじ部材10の先端側のフランク面の山頂部寄りの部分を雄ねじ部材10の先端側へ膨出させた形状に形成されている。すなわち、第1ねじ山151は、図5図6に示すように、谷部16と、頂部17と、第1上フランク面18と、第1下フランク面19と、を有する。谷部16は、第1ねじ山151の脚部12の半径方向に関して中心側に窪んだ部分である。谷部16は、雄ねじ部材10が雌ねじ部材50にねじ込まれた状態において、図5図6に点線で示す雌ねじ部材50に形成されたねじ溝51の雌ねじ山52と対向する。頂部17は、第1ねじ山151の脚部12の半径方向に関して外側に突出した部分である。頂部17は、雄ねじ部材10が雌ねじ部材50にねじ込まれた状態において、ねじ溝51の雌ねじ谷53と対向する。頂部17は、滑らかな弧を形成している。頂部17は、谷部16から頂部突出高さH1だけ突出している。第1上フランク面18は、谷部16と頂部17とを頭部11側で接続する面である。第1下フランク面19は、谷部16と頂部17とを先端部13側で接続する面である。
【0020】
第1下フランク面19は、緩傾斜部22と、急傾斜部23とを有する。緩傾斜部22は、第1下フランク面19の頂部17寄りすなわち頭部11寄りに設けられており、フランク角が雌ねじ下フランク面55の傾斜よりも緩やかに設定されている。急傾斜部23は、緩傾斜部22よりも第1下フランク面19の谷部16寄りすなわち先端部13に設けられており、フランク角が雌ねじ下フランク面55の傾斜よりも急傾斜に設定されている。ここでフランク角とは、ねじ山15の各第1上下フランク面18、19又は後述する各第2上下フランク面33、34と脚部12の軸方向に直角な直線との間の角度を言う。緩傾斜部22と急傾斜部23とは、接点Pで接している。緩傾斜部22と急傾斜部23とは、共に第1下フランク面19の一部が膨出した形状の第1干渉部21を形成する。第1干渉部21は、雄ねじ部材10が雌ねじ部材50にねじ込まれた状態において、雌ねじ部材50に干渉する形状に形成されている。第1干渉部21は、第1ねじ山151の一部を膨出させて形成されており、雄ねじ部材10が雌ねじ部材50のねじ溝51にねじ込まれた状態において雌ねじ部材50と干渉して摩擦力を発生させる。
【0021】
緩傾斜部22のフランク角θ3は、雌ねじ下フランク面55の雌ねじフランク角θ2よりも大きく設定されている。フランク角θ3は、例えば35°~75°に設定される。フランク角θ3は、例えば60°に設定される。急傾斜部23のフランク角θ4は、雌ねじ下フランク面55の雌ねじフランク角θ2よりも小さく設定されている。フランク角θ4は、例えば10°~25°に設定される。フランク角θ4は、例えば15°に設定される。なお、上述の緩傾斜部22のフランク角θ3と急傾斜部23のフランク角θ4との値は、代表的な値であって、フランク角θ3及びθ4はそれぞれ第1ねじ山151の丸みに沿って、変化しても良い。つまり、緩傾斜部22と急傾斜部23とは、それぞれ断面が直線を形成していなくても良い。
【0022】
第1干渉部21のうち谷部16から最も離れた位置における谷部16からの距離を高さH2と呼ぶ。また、第1干渉部21のうち谷部16に最も近い位置における谷部16からの距離を高さH3と呼ぶ。換言すると、第1ねじ部20において、第1ねじ山151は、谷部16からの距離が高さH3~高さH2の範囲で雌ねじ部材50と干渉する。
【0023】
また、緩傾斜部22と急傾斜部23との接点Pの谷部16からの距離を高さH4と呼ぶ。高さH4は、高さH2よりも低く、高さH3よりも高く設定されている。この場合、第1干渉部21は、接点Pにおいて最も雌ねじ部材50のねじ溝51側に膨出している。つまり、第1ねじ部20において、第1ねじ山151は、高さH4において最も雌ねじ部材50と干渉する。
【0024】
第1ねじ山151において、第1上フランク面18は、傾斜が雌ねじ上フランク面54の傾斜と同一に設定されている。つまり、第1ねじ山151における第1上フランク面18のフランク角θ5は、雌ねじ上フランク面54の雌ねじフランク角θ1と同様に30°に設定されている。つまり、第1ねじ山151の第1上フランク面18は、雄ねじ部材10が雌ねじ部材50にねじ込まれた状態において、雌ねじ上フランク面54と面接触する。
【0025】
ここで、図1に示すように、雄ねじ部材10を固定対象物40に対して矢印Aの方向にねじ込んで雌ねじ部材50と締結した後、頭部11は固定対象物40から矢印Bつまり矢印Aのねじ込み方向と反対の方向に反力を受ける。これにより、雄ねじ部材10は頭部11の方向つまり雄ねじ部材10が抜ける方向に引っ張られる力を受ける。その場合、従来の雄ねじ部材は雌ねじ部材のねじ溝が雄ねじ部材のねじ山よりも少し大きく設定されているため、隙間が生じる。そのため、振動が加えられると雄ねじ部材が雄ねじ部材の軸方向に動き、摩擦が生じない期間が発生して雄ねじ部材と雌ねじ部材との締結が緩むことがある。それに対し、第1上フランク面18を雌ねじ上フランク面54とぴったり係合する形状にすることで、第1上フランク面18が雌ねじ上フランク面54に押し付けられて、強い摩擦力が生じる。これにより、引っ張り力を受けても雄ねじ部材10が雌ねじ部材50からずれにくくなり、雄ねじ部材10が緩みにくくなる。
【0026】
なお、第1ねじ山151は、第1干渉部21を除いて、雌ねじ部材50のねじ溝51の形状と対応する形状に形成されている。
【0027】
ここで、雄ねじ部材10を雌ねじ部材50にねじ込む際、先端部13側からねじ込まれるので、まず第1ねじ部20が雌ねじ部材50にねじ込まれる。雌ねじ部材50は、第1干渉部21との干渉によって塑性変形する。第1干渉部21との干渉後つまり第1ねじ部20がある程度の範囲ねじ込まれた後、雌ねじ部材50は、雌ねじ下フランク面55に替えて雌ねじ下フランク面56を備える。雌ねじ下フランク面56は、図5に点線で示すように、二点鎖線で示す干渉前の雌ねじ下フランク面55と比較して第1干渉部21と対応する箇所が窪んでいる。
【0028】
雄ねじ部材10のねじ込み量が更に多くなると、第2ねじ部30が雌ねじ部材50にねじ込まれる。上述のように、第2ねじ部30は、第1ねじ山151に加えて、第2ねじ山152を有する。図7図8に示すように、第2ねじ山152は、第1ねじ山151の頂部17を谷部16に向かって潰した形状を有している。第2ねじ山152は、第1ねじ山151の頂部17に替えて上部32を有する。上部32は、縦断面形状が脚部12の軸方向と平行に延びるように形成されている。また、第2ねじ山152は第1上フランク面18と第1下フランク面19に替えて、第2上フランク面33と第2下フランク面34とを有する。第2上フランク面33は、谷部16と上部32とを第2ねじ山152の頭部11寄りにおいて接続する面である。第2下フランク面34は、谷部16と上部32とを第2ねじ山152の先端部13寄りにおいて接続する面である。
【0029】
図7に示すように、第2上フランク面33は、フランク角θ6を有する。フランク角θ6は、雌ねじ上フランク面54の雌ねじフランク角θ1よりも大きく設定されている。この場合、フランク角θ6は、例えば32°~40°に設定されている。フランク角θ6は、例えば34°~36°に設定されている。第2下フランク面34は、フランク角θ7を有する。フランク角θ7は、雌ねじ下フランク面55の雌ねじフランク角θ2よりも大きく設定されている。この場合、フランク角θ7は、例えば32°~45°に設定されている。フランク角θ7は、例えば35°~40°に設定されている。
【0030】
上部32は、雌ねじ谷53と対向し、縦断面形状が雌ねじ谷53と平行に形成されている。上部32は、頂部17よりも谷部16寄りすなわち脚部12の半径方向に関して中心側に設けられている。図8に示すように、上部32は、谷部16からの距離が上部突出高さH5の位置に設けられている。第2ねじ山152の上部突出高さH5は、第1ねじ山151の頂部17の谷部16からの距離である頂部突出高さH1よりも小さく設定されている。頂部突出高さH1と上部突出高さH5との差ΔHは、例えば頂部突出高さH1の10%~20%に設定することができる。例えば、差ΔHは、頂部突出高さH1の15%に設定することができる。また、差ΔHは、例えば0.05mm~0.2mmの範囲で設定することができる。この場合、差ΔHは、例えば0.1mmに設定されている。なお、ねじ山15の断面積は、第1ねじ山151と第2ねじ山152とで一定である。
【0031】
第2ねじ山152は、第2干渉部31を有する。第2干渉部31は、第2ねじ山152の一部を膨出させて形成されており、雄ねじ部材10が雌ねじ部材50のねじ溝51にねじ込まれた状態において雌ねじ部材50と干渉して摩擦力を発生させる。また、第2干渉部31は、第1干渉部21とねじ山15の異なる部分を異なる形状に膨出させて形成されている。
【0032】
第2干渉部31は、少なくとも第2上フランク面33又は第2下フランク面34のいずれか一方又は両方の一部を膨出させて形成されている。この場合、第2干渉部31は、図7図8に示すように第2上フランク面33及び第2下フランク面34のそれぞれの一部を膨出して形成されている。第2上フランク面33に設けられた第2干渉部31を、第2干渉部311と称する。第2下フランク面34に設けられた第2干渉部31を、第2干渉部312と称する。この場合第2干渉部311は、第1ねじ山151の対応箇所においては干渉形状が形成されていない第2上フランク面33に形成されている
【0033】
上部32は、少なくとも雌ねじ上フランク面54又は干渉後の雌ねじ下フランク面56のいずれか一方又は両方に向かって張り出している。この場合、上部32は、雌ねじ上フランク面54及び干渉後の雌ねじ下フランク面56の両方に向かって張り出している。上部32は、脚部12の軸方向の長さ寸法である幅W2を有する。この場合、上部32の幅W2は、谷部16からの距離が高さH5と同一となる位置における第1ねじ山151の幅W1よりも大きく設定されている。また、雌ねじ部材50は、雄ねじ部材10が雌ねじ部材50にねじ込まれた状態において、上部32に対応する位置における、雌ねじ上フランク面54と干渉後の雌ねじ下フランク面56との軸方向の距離Dを有する。この場合、上部32の幅W2は、雌ねじ上フランク面54と干渉後の雌ねじ下フランク面56との軸方向の距離Dよりも大きくなるように設定されている。
【0034】
図8に示すように、第2干渉部311、312それぞれの谷部16から最も離れた位置における谷部16からの距離は、上部32の上部突出高さH5に一致する。上部突出高さH5は、第1干渉部最長高さH2よりも短く、第1干渉部最短高さH3よりも長い。第2干渉部312の谷部16に最も近い位置における谷部16からの距離を、第2干渉部最短高さH6と呼ぶ。第2干渉部最短高さH6は、第1干渉部最短高さH3よりも短い。つまり、第2干渉部312は、第1干渉部21よりも全体的に谷部16寄りつまり脚部12の半径方向に関して中心寄りに設けられている。
【0035】
更にこの場合、上部32は、図6に示す第1ねじ部20の緩傾斜部22と急傾斜部23との接点Pよりも谷部16寄りつまり脚部12の半径方向に関して中心側に設けられている。換言すると、上部突出高さH5は、緩傾斜部22と急傾斜部23との接点Pの高さH4よりも低く設定されている。つまり、第2干渉部311、312は、いずれもねじ山15の第1干渉部21の最も雌ねじ部材50側に膨出した点Pよりも谷部16寄りを膨出させて形成されている。
【0036】
図4に示す第2ねじ山152が形成された範囲Sの形成角θは、所望の緩み止め効果すなわち例えば所望の締付けトルク及びプリべリングトルクを得られるように適宜設定することができる。締付けトルクとは、所定の締付け力を得るために、雄ねじ部材をねじ込むのに必要なトルクのことをいう。プリべリングトルクとは、雄ねじ部材10と雌ねじ部材50の、ねじ部のみの干渉により発生する摩擦トルクのことをいう。範囲Sの形成角θが大きいほど、締付けトルク及びプリべリングトルクは大きくなる傾向にある。範囲Sの形成角θが小さいほど、締付けトルク及びプリべリングトルクは小さくなる傾向にある。範囲Sの形成角θは、例えば90°~315°、好ましくは135°~260°に設定することができる。範囲Sの形成角θは、例えば180°に設定することができる。
【0037】
なお、第2ねじ部30の第1ねじ部20との反対側の端部は、頭部11に達していても良いし、頭部11まで達していなくても良い。本実施形態では、第2ねじ部30の第1ねじ部20との反対側の端部は頭部11に達していない。また、本実施形態では、第2ねじ部30の脚部12の軸方向の長さ寸法は、第1ねじ部20の脚部12の軸方向の長さ寸法以上となるように設定されている。なお、第1ねじ部20の脚部12の軸方向の長さ寸法と第2ねじ部30の脚部12の軸方向の長さ寸法との大小関係は、必ずしもこの通りでなくともよい。すなわち、使用目的等に応じて、第1ねじ部20の脚部12の軸方向の長さ寸法と第2ねじ部30の脚部12の軸方向の長さ寸法との大小関係は適宜変更できる。他の実施形態では、第2ねじ部30の脚部12の軸方向の長さ寸法は、第1ねじ部20の脚部12の軸方向の長さ寸法以下となるように設定されていても良い。
【0038】
次に、雄ねじ部材10の製造方法について図9も用いて説明する。まず、円筒状に形成された金属部材に、頭部11が形成される(ステップS10)。頭部11の形成方法は、任意の方法によるが、例えば圧造法によって頭部11を冷間段造しても良い。圧造法とは、金属部際の先端部をダイスとよばれる凹型の金型にあてて、パンチとよばれる凸型の金型で押し潰して成形する方法である。また、冷間鍛造とは、常温下で工具等を用いて金属を塑性加工することである。
【0039】
次に、転造法によって先端部13の側から所定の位置まで第1ねじ山151を形成する。転造法とは、一組の転造ダイスを回転している加工対象物に押し当てて、加工対象物の一部を転造ダイスの形状に沿って塑性変形させる加工法である。転造ダイスとは、断面がねじ山の形状となっている工具である。この場合、転造ダイスは、断面が第1ねじ山151に対応する形状となっている。転造ダイスの種類としては、例えば平ダイス、丸ダイス、セグメントダイスが挙げられるがこれらに限られない。この際、少なくとも先端部13側から第2ねじ部30の頭部11寄りの端部に対応する位置まで、第1ねじ山151が形成される。つまり、第1ねじ山151は、少なくとも第1ねじ部20及び第2ねじ部30に対応する部分に形成される。そしてこの際、同時に第1ねじ山151の一部に第1干渉部21が形成される(ステップS11)。つまり、転造ダイスの断面形状は、第1干渉部21に対応する窪み形状を有している。この場合、第1干渉部21は、少なくとも第1ねじ部20及び第2ねじ部30に対応する位置に形成される。また、第1干渉部21は、脚部12の円周方向に関して全体に亘ってすなわち360°に亘って形成される。第1干渉部21の形成工程を第1工程と称する。
【0040】
更に、第1工程で用いた一組の転造ダイスこの場合平ダイス60の間には、図10、11に示すように潰し用部材61が投入されている。潰し用部材61は、転造ダイス60の窪み形状の一部この場合第1工程の後に第1ねじ山151が形成された中間部材が通る部分を埋めている。この際、潰し用部材61の投入部分の長さ寸法を、第1ねじ山151が形成された中間部材が回転角度θだけ回転した場合に進む距離に対応させるように調整する。潰し用部材61の硬度は中間部材の硬度よりも高いため、中間部材は、潰し用部材61によって埋められた部分を通過することで、ねじ山15の一部が変形する。つまり、範囲Sにおいてねじ山15の頂部17が谷部16に向かって潰れるように塑性変形する。こうして、第2干渉部311、312を有する第2ねじ山152が形成される(ステップS12)。このようにして、上部突出高さH5は頂部突出高さH1よりも低くなる。なお、図10では一組の平ダイス60のうち、一方のみを図示しているが、必要に応じて、もう一方の平ダイス60の一部にも潰し用部材61が投入されても良い。
【0041】
また、第2干渉部311、312は、第1干渉部21よりも谷部16に近い位置において、第1干渉部21よりも脚部12の軸方向に張り出して形成される。第2干渉部311、312の形成工程を第2工程と称する。これらの工程を経て、雄ねじ部材10が製造される。なお、別の実施形態では第1工程を、転造法ではなく例えば切削法によって行っても良い。しかし、第2工程を転造法とすることで、金属部材を切りくずを出さないで塑性変形させるため、材料を無駄にしないで済む利点がある。また、第1工程と第2工程とが転造法である場合、一連の作業として行うことができるため、製造時の作業性も向上する。
【0042】
図12図13は、雌ねじ部材50と締結した状態における雄ねじ部材10の部分断面写真である。図12は、雄ねじ部材10が第1ねじ部20において雌ねじ部材50と締結している状態を示す。上述のように、雌ねじ下フランク面55は、膨出する第1干渉部21が干渉することで、先端部13の方向に窪んでいることが分かる。この干渉によって第1干渉部21と雌ねじ下フランク面56との摩擦力が増大する。更に、第1干渉部21と雌ねじ下フランク面56とが干渉することによる反力によって第1上フランク面18が雌ねじ上フランク面54に強く押し付けられる。これにより、第1上フランク面18と雌ねじ上フランク面54との摩擦力も増大する。これらにより、雄ねじ部材10は、第1ねじ部20において雌ねじ部材50に強固に固定される。
【0043】
図13は、雄ねじ部材10が第2ねじ部30において雌ねじ部材50と締結している状態を示す。この場合、雌ねじ上フランク面54及び第1干渉部21と干渉後の雌ねじ下フランク面56は、それぞれ膨出する第2干渉部311、312と干渉することで変形していることが分かる。この干渉によって第2干渉部312と雌ねじ下フランク面56との摩擦力が増大する。更に、第2干渉部312と雌ねじ下フランク面56とが干渉することによる反力によって第2上フランク面33が雌ねじ上フランク面54に強く押し付けられる。これにより、第2上フランク面33と雌ねじ上フランク面54との摩擦力も増大する。これらにより、雄ねじ部材10は、第2ねじ部30において雌ねじ部材50に強固に固定される。
【0044】
図14は、雄ねじ部材10を雌ねじ部材50にねじ込んだ際のねじ込み量に対するプリべリングトルクの推移を示している。二点鎖線よりも左側は、雌ねじ部材50と雄ねじ部材10とが第1ねじ部20において締結している状態のプリべリングトルクを示す。第1ねじ部20の範囲内において、プリべリングトルクは、ねじ込み始めてから徐々に増加し、その後、低下に転じる。このプリべリングトルクの減少は、雌ねじ部材50のねじ溝51の形状が、第1干渉部21の形状に馴染んでしまい、干渉による摩擦力が低下したからと考えられる。
【0045】
二点鎖線よりも右側は、雌ねじ部材50と雄ねじ部材10とが第2ねじ部30において締結している状態のプリべリングトルクを示す。第1ねじ部20の終盤で減少したプリべリングトルクは、第2ねじ部30において再び増加に転じる。つまり、雌ねじ部材50が第1干渉部21とは位置も形状も異なる第2干渉部311、312と干渉することで、再びプリべリングトルクを増大させることができる。そして、第2干渉部311、312の緩み止め効果によって、第1ねじ部20の終端部における低下したプリべリングトルクよりも大きなプリべリングトルクを示していることが分かる。すなわち、雄ねじ部材10は、脚部12の先端部13側及び頭部11寄りの複数の箇所において、緩み止め機能を発揮することができる。
【0046】
ここで、部品点数の増加や材料費の高騰を抑制するためには、厚みが異なる複数種の被締結部材に対応可能な緩み止め機能を備えた雄ねじ部材、すなわち脚部の先端部側においても、頭部寄りにおいても緩み止め機能を発揮する雄ねじ部材が望ましい。この際、雄ねじ部材の脚部全体に同一の緩み止め用の干渉形状を持たせた場合について検討する。その場合、雄ねじ部材を雌ねじ部材にねじ込むことで、次第に雌ねじ部材の雌ねじ溝が塑性変形してしまう。そのため、被締結部材が比較的厚く雄ねじ部材の雌ねじ部材との締結位置が先端部側であれば問題ないが、被締結部材が比較的薄く雄ねじ部材の雌ねじ部材との締結位置が頭部寄りとなると、ねじ込み作業によって雌ねじ溝の形状が干渉形状に馴染んでしまった後なので雄ねじ部材の緩み止め機能が発揮されない虞がある。
【0047】
これに対し、本実施形態によれば、雄ねじ部材10は、予め雌ねじのねじ溝51が形成された雌ねじ部材50に対してねじ込まれる。雄ねじ部材10は、頭部11と、脚部12と、を備える。脚部12は、頭部11から垂直に延びる軸上に形成され頭部11の反対側に先端部13を有する。脚部12は、前記先端部から所定の位置まで外周にねじ溝51に対応する形状に形成されたねじ山15を有するねじ部14を有する。ねじ部14は、第1ねじ部20と、第2ねじ部30とを有する。第1ねじ部20は、第1干渉部21を有する。第1干渉部21は、ねじ山15の一部を膨出させた雌ねじ部材50に干渉する形状である。第2ねじ部30は、第1ねじ部20よりも頭部11寄りに設けられており、第2干渉部311、312を有する。第2干渉部311、312は、ねじ山15の一部を第1ねじ部20とは異なる位置を膨出させた雌ねじ部材50に干渉する形状である。
【0048】
これによれば、雄ねじ部材10と雌ねじ部材50とのねじ込み作業によって、雌ねじ部材50のねじ溝51の形状が第1ねじ部20の干渉形状に馴染んできたとしても、再度別形状の干渉形状を有する第2ねじ部30と雌ねじ部材50とが干渉することで、緩み止め効果が発揮される。したがって、雄ねじ部材10は、雌ねじ部材50との締結位置が脚部12の先端部13側でも頭部11寄りであっても、緩み止め効果が発揮される。そのため、1種類の雄ねじ部材10で異なる厚みの複数種類の被締結部材に対応可能となり、部品点数の増加や材料費の高騰、更には製造時の作業工程の増加を抑制することができる。
【0049】
また、第2干渉部311、312は、第1干渉部21よりもねじ山15この場合第2ねじ山152の谷部16寄りに位置している。これによれば、第1干渉部21及び第2干渉部311、312のそれぞれと雌ねじ部材50との干渉位置を、脚部12の半径方向に関して異なる位置とすることができる。そのため、脚部12の半径方向に関して同じ位置において膨出形状つまり干渉形状を変形させる場合よりも、設計の自由度が高くなる。更に、第2干渉部311、312は、例えばねじ山15の頂部17を谷部16に向かって潰す等の塑性変形により形成することができるため、第2干渉部311、312を第1干渉部21よりもねじ山15の頂部17寄りに設けるよりも、簡便に形成することができる。
【0050】
更にまた、第1干渉部21の方が谷部16寄りに設けられていた場合、第1干渉部21との干渉によって雌ねじ部材50のねじ溝51が変形つまり窪んでしまうと、第2ねじ部30の第2ねじ山152と雌ねじ部材50のねじ溝51との接触面積が十分に接触できない虞がある。それに対して、第1干渉部21との干渉によって雌ねじ部材50のねじ溝51が変形した後でも、第2ねじ山152の第2上フランク面33及び第2下フランク面34は、第2干渉部311、312は雌ねじ部材50のねじ溝51と十分に接触することができる、そのため、第2ねじ部30と雌ねじ部材50との接触により、大きな摩擦トルクを発生することができる。
【0051】
ここで、第2干渉部311、312を、第2ねじ部30において脚部12の円周方向の全体つまり形成角θが360°となるように設けても良いが、その場合、雄ねじ部材10の締付けトルクやプリべリングトルクが大きくなりすぎ、作業性が落ちてしまう虞がある。
【0052】
これに対し、第2干渉部311、312は、脚部12の円周方向の一部に設けられている。これによれば、第2干渉部311、312を第2ねじ部30のうち任意の形成角θに設けることで、ユーザは、所望の締付けトルク及びプリべリングトルクを得ることができる。
【0053】
ここで、脚部12の断面形状が円形である場合、雄ねじ部材10と雌ねじ部材50とが、円周に亘って常に接触するようになる。そのため、大きな摩擦力が発生し、締付けトルクやプリべリングトルクが大きくなりすぎる虞がある。
【0054】
これに対し、脚部12の断面形状は、呼び径を直径とする円に内接する多角形である。これによれば、脚部12の断面形状が円形である場合に比較して、雄ねじ部材10と雌ねじ部材50との接触面積を抑制することができる。そのため、締付けトルクやプリべリングトルクが大きくなり過ぎず、締結時の作業性を過度に損ねることがない。
【0055】
また、本実施形態によれば、製造方法は、予め雌ねじのねじ溝51が形成された雌ねじ部材50に対してねじ込まれる雄ねじ部材10の製造方法である。製造方法は、第1工程と、第2工程とを備える。第1工程は、脚部12の先端部13側から所定の位置までねじ山15の一部を膨出させて第1干渉部21を転造により形成する工程である。第2工程は、第1干渉部21を形成した範囲のうち先端部13側から所定範囲を残して頭部11寄りにねじ山15の頂部17側部分をねじ山15の谷部16に向かって潰して塑性変形させて第2干渉部311、312を形成する工程である。
【0056】
これによれば、雄ねじ部材10は、一組の転造ダイスを用いて第1工程と第2工程とを一連の作業として第1干渉部21及び第2干渉部311、312を形成することができる。そのため、複雑な工程や多数の道具を用いなくても、第1ねじ部20と第2ねじ部30とを備える雄ねじ部材10を容易に製造することが可能となる。したがって、本実施形態によれば、複数個所で緩み止め機能を発揮する雄ねじ部材10の製造に関して、従来の一か所のみで緩み止め機能を発揮するねじ部材の製造方法に対して製造時の作業性の低下や道具管理の複雑化を抑制することができる。
【0057】
なお、本実施形態では、雄ねじ部材10は、ねじ部14に第1ねじ部20と第2ねじ部30の2つを備えているが、これに限らない。雄ねじ部材10は、例えばねじ部14に3つ以上例えば3つのねじ部を備えていても良い。この場合、雄ねじ部材10は、例えば、先端部13側から、第1ねじ部20と第2ねじ部30に続いて、外周の360°に亘って第1ねじ山151と同様の膨出形状を有する第3のねじ部を備えていても良い。この場合、第2ねじ部30をねじ込むことによって雌ねじ部材50が更に変形しても、第2ねじ山152の膨出形状とは異なる膨出形状を有する第3のねじ部がねじ込まれることによって、雄ねじ部材10と雌ねじ部材50は再度干渉し、緩み止め機能が発揮される。
【0058】
上記説明した一実施形態は、上記し且つ図面に記載した実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0059】
10…雄ねじ部材、11…頭部、111…駆動穴、12…脚部、13…先端部、14…ねじ部、15…ねじ山、151…第1ねじ山(ねじ山)、152…第2ねじ山(ねじ山)、16…谷部、17…頂部、18…第1上フランク面、19…第1下フランク面、20…第1ねじ部、21…第1干渉部、22…緩傾斜部、23…急傾斜部、30…第2ねじ部、31、311、312…第2干渉部、32…上部、33…第2上フランク面、34…第2下フランク面、40…固定対象物、50…雌ねじ部材、51…ねじ溝、52…雌ねじ山、53…雌ねじ谷、54…雌ねじ上フランク面、55…雌ねじ下フランク面、56…雌ねじ下フランク面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【手続補正書】
【提出日】2021-03-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め雌ねじのねじ溝が形成された雌ねじ部材に対してねじ込まれる雄ねじ部材であって、
頭部と、
前記頭部から垂直に延びる軸上に形成され前記頭部の反対側に先端部を有する脚部と、
を備え、
前記脚部は、前記先端部から所定の位置まで外周に前記ねじ溝に対応する形状に形成されたねじ山を有するねじ部を有し、
前記ねじ部は、第1ねじ部と、前記第1ねじ部よりも頭部寄りに設けられた第2ねじ部と、を有し、
前記第1ねじ部は、前記ねじ山の一部を膨出させた前記雌ねじ部材に干渉する形状である第1干渉部を有し、
前記第2ねじ部は、前記ねじ山の一部を前記第1ねじ部とは異なる位置において異なる形状に膨出させた前記雌ねじ部材に干渉する形状である第2干渉部を有する、
雄ねじ部材。
【請求項2】
予め雌ねじのねじ溝が形成された雌ねじ部材に対してねじ込まれる雄ねじ部材であって、
頭部と、
前記頭部から垂直に延びる軸上に形成され前記頭部の反対側に先端部を有する脚部と、
を備え、
前記脚部は、前記先端部から所定の位置まで外周に前記ねじ溝に対応する形状に形成されたねじ山を有するねじ部を有し、
前記ねじ部は、第1ねじ部と、前記第1ねじ部よりも頭部寄りに設けられた第2ねじ部と、を有し、
前記第1ねじ部は、前記ねじ山の一部を膨出させた前記雌ねじ部材に干渉する形状である第1干渉部を有し、
前記第2ねじ部は、前記ねじ山の一部を前記脚部の軸方向に沿った断面形状に関してフランク面の前記第1ねじ部とは異なる位置において膨出させた前記雌ねじ部材に干渉する形状である第2干渉部を有する、
雄ねじ部材。
【請求項3】
予め雌ねじのねじ溝が形成された雌ねじ部材に対してねじ込まれる雄ねじ部材であって、
頭部と、
前記頭部から垂直に延びる軸上に形成され前記頭部の反対側に先端部を有する脚部と、
を備え、
前記脚部は、前記先端部から所定の位置まで外周に前記ねじ溝に対応する形状に形成されたねじ山を有するねじ部を有し、
前記ねじ部は、第1ねじ部と、前記第1ねじ部よりも頭部寄りに設けられた第2ねじ部と、を有し、
前記第1ねじ部は、前記ねじ山の一部を膨出させた前記雌ねじ部材に干渉する形状である第1干渉部を有し、
前記第2ねじ部は、前記ねじ山の一部を前記第1ねじ部とは異なる位置において膨出させた前記雌ねじ部材に干渉する形状である第2干渉部を有し、
前記第2干渉部は、前記第1干渉部よりも前記ねじ山の谷部寄りに位置している
ねじ部材。
【請求項4】
前記第2干渉部は、前記第2ねじ部において前記脚部の円周方向の一部に設けられている、
請求項1から3のいずれか一項に記載の雄ねじ部材。
【請求項5】
前記脚部の断面形状は、呼び径を直径とする円に内接する多角形である、
請求項1からのいずれか一項に記載の雄ねじ部材。
【請求項6】
予め雌ねじのねじ溝が形成された雌ねじ部材に対してねじ込まれる雄ねじ部材の製造方法であって、
脚部の先端部側から所定の位置までねじ山の一部を膨出させて第1干渉部を転造により形成する第1工程と、
前記第1干渉部を形成した範囲のうち前記先端部側から所定範囲を残して前記頭部寄りに前記ねじ山の頂部側部分を前記ねじ山の谷部に向かって潰して塑性変形させて第2干渉部を形成する第2工程と、
を備える雄ねじ部材の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
実施形態の雄ねじ部材は、予め雌ねじのねじ溝が形成された雌ねじ部材に対してねじ込まれる雄ねじ部材であって、頭部と、前記頭部から垂直に延び前記頭部の反対側に先端部を有する脚部と、を備える。前記脚部は、前記先端部から所定の位置まで外周に前記ねじ溝に対応する形状に形成されたねじ山を有するねじ部を有する。ねじ部は、第1ねじ部と、第1ねじ部よりも頭部寄りに設けられた第2ねじ部と、を有する。第1ねじ部は、前記ねじ山の一部を膨出させた前記雌ねじ部材に干渉する形状である第1干渉部を有する。第2ねじ部は、前記ねじ山の一部を前記第1ねじ部とは異なる位置を異なる形状に膨出させた前記雌ねじ部材に干渉する形状である第2干渉部を有する。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0032
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0032】
第2干渉部31は、少なくとも第2上フランク面33又は第2下フランク面34のいずれか一方又は両方の一部を膨出させて形成されている。この場合、第2干渉部31は、図7図8に示すように第2上フランク面33及び第2下フランク面34のそれぞれの一部を膨出して形成されている。第2上フランク面33に設けられた第2干渉部31を、第2干渉部311と称する。第2下フランク面34に設けられた第2干渉部31を、第2干渉部312と称する。この場合第2干渉部311は、第1ねじ山151の対応箇所においては干渉形状が形成されていない第2上フランク面33に形成されている