(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076713
(43)【公開日】2022-05-20
(54)【発明の名称】クライオポンプおよびクライオポンプ再生方法
(51)【国際特許分類】
F04B 37/16 20060101AFI20220513BHJP
F04B 37/08 20060101ALI20220513BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
F04B37/16 C
F04B37/08
B01D53/86 150
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020187235
(22)【出願日】2020-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】望月 健生
【テーマコード(参考)】
3H076
4D148
【Fターム(参考)】
3H076AA25
3H076BB24
3H076BB43
3H076CC54
3H076CC99
4D148AA17
4D148AB03
4D148BA07Y
4D148BA27Y
4D148BA35Y
4D148BA36Y
4D148BA41Y
4D148BA42Y
4D148BB01
4D148BD01
4D148BD10
4D148CA01
4D148CA06
4D148CC53
4D148CD01
4D148CD10
4D148DA01
4D148DA02
4D148DA07
4D148DA13
4D148DA20
4D148EA01
(57)【要約】
【課題】クライオパネルに付着した有機物の除去を可能にするクライオポンプを提供する。
【解決手段】クライオポンプ10は、表面に光触媒層50を有する少なくとも1つのクライオパネル38などの極低温面と、光触媒層50を活性化させる励起光62を光触媒層50に照射するように配置された励起光源60と、を備える。光触媒層50は、可視光応答型光触媒材料を含有し、励起光源60は、励起光62として、可視光応答型光触媒材料を活性化させる可視光波長域を含む光を発してもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に光触媒層を有する少なくとも1つのクライオパネルと、
前記光触媒層を活性化させる励起光を前記光触媒層に照射するように配置された励起光源と、を備えることを特徴とするクライオポンプ。
【請求項2】
前記光触媒層は、可視光応答型光触媒材料を含有し、前記励起光源は、前記励起光として、前記可視光応答型光触媒材料を活性化させる可視光波長域を含む光を発することを特徴とする請求項1に記載のクライオポンプ。
【請求項3】
前記励起光源は、赤外光を発することを特徴とする請求項1または2に記載のクライオポンプ。
【請求項4】
前記少なくとも1つのクライオパネルは、第1冷却温度に冷却される高温クライオパネルと、前記第1冷却温度よりも低温の第2冷却温度に冷却される低温クライオパネルと、を備え、
前記光触媒層は、前記高温クライオパネルと前記低温クライオパネルそれぞれに設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のクライオポンプ。
【請求項5】
表面に光触媒層を有する少なくとも1つのクライオパネルと、
前記光触媒層を活性化させる励起光を取り込むための窓を有し、前記クライオパネルを収容するクライオポンプ容器と、を備えることを特徴とするクライオポンプ。
【請求項6】
クライオパネル上の光触媒層を活性化させる励起光を前記光触媒層に照射することと、
前記光触媒層に付着した有機物を前記励起光の照射下で分解することによって前記クライオパネルから除去することと、を備えることを特徴とするクライオポンプ再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クライオポンプおよびクライオポンプ再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クライオポンプは、極低温に冷却されたクライオパネルに気体分子を凝縮または吸着により捕捉して排気する真空ポンプである。クライオポンプは半導体回路製造プロセス等に要求される清浄な真空環境を実現するために一般に利用される。クライオポンプはいわゆる気体溜め込み式の真空ポンプであるから、捕捉した気体を外部に定期的に排出する再生を要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クライオポンプには真空排気運転中に半導体製造装置からさまざまな化学物質が気体として流入するが、そうした気体には、例えば、ウェハに塗布されたフォトレジストやウェハへの種々の表面処理に使用された有機溶剤などに由来する有機物の蒸気が含まれる。気体はクライオパネル上に凝縮して付着し、クライオパネルを汚染しうる。こうした有機付着物はクライオパネルに一度付着すると、既存のクライオポンプ再生方法ではクライオポンプから容易に排出されにくく、クライオパネル上に徐々に蓄積されていく。この付着物がクライオパネルとこれに堆積する水やアルゴンなどの氷層との間に存在すると、氷層のクライオパネルへの密着性が低下し、氷層がクライオパネル上で割れたり剥離したりしやすくなる。氷層の割れや剥離は、氷層とクライオパネルの間に隙間をもたらし両者の良好な熱接触を妨げ、その結果、クライオパネルによる氷層の冷却を弱め、氷層の温度上昇とクライオポンプ内の蒸気圧の高まりを招きうる。これにより、最終的にはクライオポンプの排気性能が低下しうる。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、クライオパネルに付着した有機物の除去を可能にするクライオポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によると、クライオポンプは、表面に光触媒層を有する少なくとも1つのクライオパネルと、光触媒層を活性化させる励起光を光触媒層に照射するように配置された励起光源と、を備える。
【0007】
本発明のある態様によると、クライオポンプは、表面に光触媒層を有する少なくとも1つのクライオパネルと、光触媒層を活性化させる励起光を取り込むための窓を有し、クライオパネルを収容するクライオポンプ容器と、を備える。
【0008】
本発明のある態様によると、クライオポンプ再生方法は、クライオパネル上の光触媒層を活性化させる励起光を光触媒層に照射することと、光触媒層に付着した有機物を励起光の照射下で分解することによってクライオパネルから除去することと、を備える。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、クライオパネルに付着した有機物の除去を可能にするクライオポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態に係るクライオポンプを模式的に示す。
【
図2】実施の形態に係るクライオポンプの再生方法を示すフローチャートである。
【
図3】実施の形態に係るクライオポンプの他の例を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0013】
図1は、実施の形態に係るクライオポンプ10を模式的に示す。クライオポンプ10は、例えばイオン注入装置、スパッタリング装置、蒸着装置、またはその他の真空プロセス装置の真空チャンバーに取り付けられて、真空チャンバー内部の真空度を所望の真空プロセスに要求されるレベルまで高めるために使用される。例えば10
-5Pa乃至10
-8Pa程度の高い真空度が真空チャンバーに実現される。
【0014】
クライオポンプ10は、圧縮機12と、冷凍機14と、クライオポンプ容器16とを備える。クライオポンプ容器16は、クライオポンプ吸気口17を有する。また、クライオポンプ10は、ラフバルブ18と、パージバルブ20と、ベントバルブ22と、切替制御弁24とを備え、これらはクライオポンプ容器16に設置されている。クライオポンプ10は、クライオポンプ容器16に収容された放射シールド36と少なくとも1つのクライオパネル38を備える。
【0015】
圧縮機12は、冷媒ガスを冷凍機14から回収し、回収した冷媒ガスを昇圧して、再び冷媒ガスを冷凍機14に供給するよう構成されている。冷凍機14は、膨張機またはコールドヘッドとも称され、圧縮機12とともに極低温冷凍機を構成する。圧縮機12と冷凍機14との間の冷媒ガスの循環が冷凍機14内での冷媒ガスの適切な圧力変動と容積変動の組み合わせをもって行われることにより、寒冷を発生する熱力学的サイクルが構成され、冷凍機14は極低温冷却を提供することができる。冷媒ガスは、通例はヘリウムガスであるが、適切な他のガスが用いられてもよい。理解のために、冷媒ガスの流れる方向を
図1に矢印で示す。極低温冷凍機は、一例として、二段式のギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機であるが、パルス管冷凍機、スターリング冷凍機、またはそのほかのタイプの極低温冷凍機であってもよい。
【0016】
冷凍機14は、室温部26、第1シリンダ28、第1冷却ステージ30、第2シリンダ32、および第2冷却ステージ34を備える。冷凍機14は、第1冷却ステージ30を第1冷却温度に冷却し、第2冷却ステージ34を第2冷却温度に冷却するよう構成されている。第2冷却温度は第1冷却温度よりも低温である。例えば、第1冷却ステージ30は65K~120K程度、好ましくは80K~100Kに冷却され、第2冷却ステージ34は10K~20K程度に冷却される。第1冷却ステージ30及び第2冷却ステージ34はそれぞれ、高温冷却ステージ及び低温冷却ステージとも称しうる。
【0017】
第1シリンダ28は第1冷却ステージ30を室温部26に接続し、それにより第1冷却ステージ30は室温部26に構造的に支持される。第2シリンダ32は第2冷却ステージ34を第1冷却ステージ30に接続し、それにより第2冷却ステージ34は第1冷却ステージ30に構造的に支持される。第1シリンダ28と第2シリンダ32は同軸に延在しており、室温部26、第1シリンダ28、第1冷却ステージ30、第2シリンダ32、及び第2冷却ステージ34は、この順に直線状に一列に並ぶ。
【0018】
冷凍機14が二段式のGM冷凍機の場合、第1シリンダ28及び第2シリンダ32それぞれの内部には第1ディスプレーサ及び第2ディスプレーサ(図示せず)が往復動可能に配設されている。第1ディスプレーサ及び第2ディスプレーサにはそれぞれ第1蓄冷器及び第2蓄冷器(図示せず)が組み込まれている。また、室温部26は、第1ディスプレーサ及び第2ディスプレーサを往復動させるためのモータなど駆動機構(図示せず)を有する。駆動機構は、冷凍機14の内部への作動気体(例えばヘリウム)の供給と排出を周期的に繰り返すよう作動気体の流路を切り替える流路切替機構を含む。
【0019】
クライオポンプ容器16は、容器胴体16aと冷凍機収容筒16bを有する。クライオポンプ容器16は、クライオポンプ10の真空排気運転中に真空を保持し、周囲環境の圧力(例えば大気圧)に耐えるように設計された真空容器である。容器胴体16aは、その一端にクライオポンプ吸気口17を有し、他端が閉じられた筒型の形状を有する。容器胴体16aには、放射シールド36が収容され、放射シールド36内にはクライオパネル38が第2冷却ステージ34とともに収容されている。冷凍機収容筒16bは、一端が容器胴体16aに結合され他端が冷凍機14の室温部26に固定されている。冷凍機収容筒16bには、冷凍機14が挿入され、第1シリンダ28が収容されている。
【0020】
この実施の形態では、クライオポンプ10は、冷凍機14が容器胴体16aの側部に設けられたいわゆる横型のクライオポンプである。容器胴体16aの側部には、冷凍機挿入口が設けられ、冷凍機収容筒16bは、この冷凍機挿入口で容器胴体16aの側部に結合されている。同様に、容器胴体16aの冷凍機挿入口に隣接して、放射シールド36の側部にも冷凍機14を通す穴が設けられている。これらの穴を通じて冷凍機14の第2シリンダ32と第2冷却ステージ34が放射シールド36の中に挿入され、放射シールド36はその側部の穴の周囲で第1冷却ステージ30と熱的に結合されている。
【0021】
クライオポンプは、使用される現場で様々な姿勢で設置されうる。一例として、クライオポンプ10は、図示される横向きの姿勢、すなわちクライオポンプ吸気口17を上方に向けた姿勢で設置されることができる。このとき、容器胴体16aの底部がクライオポンプ吸気口17に対して下方に位置し、冷凍機14は水平方向に延在する。
【0022】
放射シールド36は、クライオポンプ10の外部またはクライオポンプ容器16からの輻射熱からクライオパネル38を保護するための極低温表面を提供するために、第1冷却ステージ30に熱的に結合され、第1冷却温度に冷却される。放射シールド36は、クライオパネル38と第2冷却ステージ34を包囲する例えば筒型の形状を有する。クライオポンプ吸気口17側の放射シールド36の端部は開放されており、クライオポンプ10の外からクライオポンプ吸気口17を通じて進入する気体を放射シールド36内に受け入れることができる。クライオポンプ吸気口17と反対側の放射シールド36の端部は閉塞され、または開口を有し、または開放されていてもよい。放射シールド36はクライオパネル38との間に隙間を有しており、放射シールド36はクライオパネル38と接触していない。放射シールド36はクライオポンプ容器16とも接触していない。
【0023】
クライオポンプ吸気口17には放射シールド36の開放端に固定された入口クライオパネル37が設けられてもよい。入口クライオパネル37は放射シールド36と同温度に冷却され、その表面にいわゆるタイプ1ガス(水蒸気などの比較的高温で凝縮する気体)を凝縮することができる。入口クライオパネル37は、例えばルーバーまたはバッフルであるが、クライオポンプ吸気口17の一部を占めるように配置された例えば円形状または他の形状のプレートまたは部材であってもよい。
【0024】
クライオパネル38は、タイプ2ガス(例えばアルゴン、窒素などの比較的低温で凝縮する気体)を凝縮する極低温表面を提供するために、第2冷却ステージ34に熱的に結合され、第2冷却温度に冷却される。クライオパネル38は、例えば板状または傘状の形状を有してもよく、その上面をクライオポンプ吸気口17に向けて配置されてもよい。図示されるように、複数のクライオパネル38が設けられてもよく、これらクライオパネル38がクライオポンプ吸気口17から放射シールド36の底部に向かって配列されていてもよい。また、クライオパネル38には、タイプ3ガス(例えば水素などの非凝縮性気体)を吸着するために、少なくとも一部の表面(例えばクライオポンプ吸気口17とは反対側の表面)に例えば活性炭またはその他の吸着材が配置されている。クライオポンプ10の外からクライオポンプ吸気口17を通じて放射シールド36内に進入する気体はクライオパネル38に凝縮または吸着により捕捉される。
【0025】
第1冷却温度に冷却される放射シールド36と入口クライオパネル37は、高温クライオパネルと総称されてもよい。クライオパネル38は、第1冷却温度より低い第2冷却温度に冷却されるから、低温クライオパネルと呼ぶこともできる。放射シールド36やクライオパネル38の配置や形状など、これらがとりうる形態は、種々の公知の構成を適宜採用することができるので、ここでは詳述しない。
【0026】
クライオパネル38は、その表面の少なくとも一部に光触媒層50を有する。光触媒層50は例えば、光触媒材料の粒子を含有したコーティングであってもよい。光触媒層50の配置は、とくに限定されない。図示されるように、光触媒層50は、低温クライオパネルに設けられ、例えば、クライオポンプ吸気口17に最も近接して配置されたクライオパネル38の上面(クライオポンプ吸気口17側の面)の少なくとも一部に形成されてもよい。光触媒層50は、この最も上方のクライオパネル38の下面の少なくとも一部に形成されてもよく、または、他のクライオパネル38の表面の少なくとも一部に形成されてもよい。
【0027】
上述のようにクライオパネル38の少なくとも一部の表面に吸着材が配置され吸着領域が形成されている場合には、光触媒層50は、クライオパネル38上でこの吸着領域を避けて配置されてもよい。つまり、光触媒層50は、クライオパネル38上で吸着領域を除く領域の少なくとも一部に形成されてもよい。典型的に、吸着材は接着剤を用いてクライオパネル38に接着される。光触媒層50を吸着領域に設けないことによって、光触媒層50が接着剤に作用し劣化させることを防ぐことができる。
【0028】
また、光触媒層50は、第2冷却温度に冷却される他の部位、例えば、冷凍機14の第2冷却ステージ34の外表面の少なくとも一部に形成されてもよい。光触媒層50は、第2シリンダ32の外表面の少なくとも一部に形成されてもよい。
【0029】
光触媒層50は、高温クライオパネルに設けられてもよく、例えば、入口クライオパネル37の表面の少なくとも一部に形成されてもよい。光触媒層50は、放射シールド36の表面(例えば内面)の少なくとも一部に形成されてもよい。必要とされる場合には、光触媒層50は、冷凍機14の第1冷却ステージ30と第1シリンダ28の外表面の少なくとも一部に形成されてもよい。光触媒層50は、クライオポンプ容器16の内面の少なくとも一部に形成されてもよい。
【0030】
光触媒層50は、紫外光照射下で光触媒作用を発現する紫外光応答型の光触媒材料、例えば酸化チタンを含有してもよい。
【0031】
しかし、近年、可視光照射下で光触媒作用を発現することができる可視光応答型の光触媒材料が見出されている。そこで、紫外光応答型光触媒材料に代えて、光触媒層50は、可視光応答型光触媒材料を含有してもよい。可視光応答型光触媒材料としては例えば、鉄系化合物修飾酸化チタン、銅系化合物修飾酸化チタン、銅系化合物修飾酸化タングステンなどが知られている。
【0032】
また、クライオポンプ10は、光触媒層50を活性化させる励起光62を光触媒層50に照射するように配置された励起光源60を備える。励起光源60は、クライオポンプ容器16内に励起光62を照射するようにクライオポンプ容器16に設置される。例えば、励起光源60は、クライオポンプ吸気口17とクライオパネル38の間の空間に励起光62を照射するようにクライオポンプ容器16の容器胴体16aに設置されてもよい。放射シールド36には、励起光源60からクライオポンプ容器16内に入射する励起光62を通すための開口部36aが形成されていてもよい。励起光62を光触媒層50に照射する限り、励起光源60の配置はとくに限定されない。複数の励起光源60が設けられてもよい。
【0033】
光触媒層50が可視光応答型光触媒材料を含有する場合、励起光源60は、励起光62として、可視光応答型光触媒材料を活性化させる可視光波長域を含む光を発するように構成される。光触媒層50が紫外光応答型光触媒材料を含有する場合、励起光源60は、励起光62として、紫外光応答型光触媒材料を活性化させる紫外光を発するように構成される。
【0034】
励起光源60が紫外光を発する場合、クライオパネル38に吸着材を接着する接着剤に長期的に劣化をもたらすリスクがある。可視光の励起光源60はこのリスクを低減でき、また、取り扱いも容易である。
【0035】
励起光源60は、赤外光を発するように構成されてもよい。例えば、励起光源60は、励起光62とともに赤外光を発する広帯域の光源(例えばハロゲンランプなど)を備えてもよい。あるいは、励起光源60は、励起光62を発する第1発光素子と赤外光を発する第2発光素子とを備えてもよく、発光素子は例えばLEDであってもよい。このようにしって、励起光源60は、赤外光を利用して、クライオポンプ10の再生中にクライオパネル38など被照射物を加熱することができる。
【0036】
クライオポンプ10は、第1冷却ステージ30の温度を測定するための第1温度センサ40と、第2冷却ステージ34の温度を測定するための第2温度センサ42と、を備える。第1温度センサ40は、第1冷却ステージ30に取り付けられている。第2温度センサ42は、第2冷却ステージ34に取り付けられている。第1温度センサ40は、放射シールド36の温度を測定し、放射シールド36の測定温度を示す第1測定温度信号を出力することができる。第2温度センサ42は、クライオパネル38の温度を測定し、クライオパネル38の測定温度を示す第2測定温度信号を出力することができる。また、クライオポンプ容器16の内部に圧力センサ44が設けられている。圧力センサ44は例えば、冷凍機収容筒16bに設置され、クライオポンプ容器16の内圧を測定し、測定圧力を示す測定圧力信号を出力することができる。
【0037】
また、クライオポンプ10は、クライオポンプ10を制御するコントローラ46を備える。コントローラ46は、クライオポンプ10に一体に設けられていてもよいし、クライオポンプ10とは別体の制御装置として構成されていてもよい。
【0038】
コントローラ46は、第1温度センサ40からの第1測定温度信号を受信するよう第1温度センサ40と接続され、第2温度センサ42からの第2測定温度信号を受信するよう第2温度センサ42と接続されていてもよい。コントローラ46は、圧力センサ44からの測定圧力信号を受信するよう圧力センサ44と接続されていてもよい。
【0039】
コントローラ46は、クライオポンプ10の真空排気運転においては、放射シールド36及び/またはクライオパネル38の冷却温度に基づいて、冷凍機14を制御してもよい。また、コントローラ46は、クライオポンプ10の再生運転においては、クライオポンプ容器16内の圧力に基づいて(または、必要に応じて、クライオパネル38の温度およびクライオポンプ容器16内の圧力に基づいて)、冷凍機14、ラフバルブ18、パージバルブ20、ベントバルブ22、励起光源60を制御してもよい。
【0040】
ラフバルブ18は、クライオポンプ容器16、例えば冷凍機収容筒16bに設置されている。ラフバルブ18は、クライオポンプ10の外部に設置されたラフポンプ(図示せず)に接続される。ラフポンプは、クライオポンプ10をその動作開始圧力まで真空引きをするための真空ポンプである。コントローラ46の制御によりラフバルブ18が開放されるときクライオポンプ容器16がラフポンプに連通され、ラフバルブ18が閉鎖されるときクライオポンプ容器16がラフポンプから遮断される。ラフバルブ18を開きかつラフポンプを動作させることにより、クライオポンプ10を減圧することができる。
【0041】
パージバルブ20は、クライオポンプ容器16、例えば容器胴体16aに設置されている。パージバルブ20は、クライオポンプ10の外部に設置されたパージガス供給装置(図示せず)に接続される。コントローラ46の制御によりパージバルブ20が開放されるときパージガスがクライオポンプ容器16に供給され、パージバルブ20が閉鎖されるときクライオポンプ容器16へのパージガス供給が遮断される。パージガスは例えば窒素ガス、またはその他の乾燥したガスであってもよく、パージガスの温度は、たとえば室温に調整され、または室温より高温に加熱されていてもよい。パージバルブ20を開きパージガスをクライオポンプ容器16に導入することにより、クライオポンプ10を昇圧することができる。また、クライオポンプ10を極低温から室温またはそれより高い温度に昇温することができる。
【0042】
ベントバルブ22は、クライオポンプ容器16、例えば冷凍機収容筒16bに設置されている。ベントバルブ22は、クライオポンプ10の内部から外部に流体を排出するために設けられている。ベントバルブ22は、排出される流体を受け入れるクライオポンプ10の外部の貯留タンク(図示せず)に接続されてもよい。あるいは、排出される流体が無害である場合には、ベントバルブ22は、排出される流体を周囲環境に放出するよう構成されてもよい。ベントバルブ22から排出される流体は基本的にはガスであるが、液体または気液の混合物であってもよい。
【0043】
ベントバルブ22は、コントローラ46から入力される指令信号に従って開閉される。ベントバルブ22は、例えば再生中などのようにクライオポンプ容器16から流体を放出するときにコントローラ46によって開放される。放出すべきでないときはコントローラ46によってベントバルブ22は閉鎖される。ベントバルブ22は、例えば常閉型の制御弁であってもよい。加えて、ベントバルブ22は、所定の差圧が作用したときに機械的に開放されるいわゆる安全弁としても機能するよう構成されている。そのため、クライオポンプ内部が何らかの理由で高圧となったときに制御を要することなくベントバルブ22は機械的に開放される。それにより内部の高圧を逃がすことができる。
【0044】
コントローラ46の内部構成は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現されるが、図では適宜、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0045】
たとえば、コントローラ46は、CPU(Central Processing Unit)、マイコンなどのプロセッサ(ハードウェア)と、プロセッサ(ハードウェア)が実行するソフトウェアプログラムの組み合わせで実装することができる。ソフトウェアプログラムは、クライオポンプ10の再生をコントローラ46に実行させるためのコンピュータプログラムであってもよい。
【0046】
図2は、実施の形態に係るクライオポンプ10の再生方法を示すフローチャートである。実施の形態に係るクライオポンプ10の再生シーケンスは、既存のクライオポンプ再生と同様に昇温工程(S10)、排出工程(S40)、及びクールダウン工程(S60)を含むのに加えて、光触媒層50と励起光62を利用して有機付着物を分解除去することを含む(S20、S30、S50)。この再生シーケンスは、コントローラ46によって実行される。
【0047】
昇温工程(S10)においては、パージバルブ20を通じてクライオポンプ容器16に供給されるパージガス、またはその他の加熱手段によって、クライオポンプ10は、極低温から室温またはそれより高い再生温度に昇温される(例えば約290Kないし約300K)。クライオポンプ10の昇温は、例えば冷凍機14による逆転昇温を利用してもよいし、クライオポンプ10に電気ヒータが設置されている場合にはこれを利用してもよい。こうして、クライオパネル38に捕捉されている気体が再び気化される。
【0048】
励起光源60が点灯される(S20)。励起光源60から励起光62が発せられ、クライオパネル38上またはクライオポンプ10内の他の部位(例えば入口クライオパネル37、クライオパネル38)上の光触媒層50に照射される。これにより、光触媒層50は光触媒作用を発現することができる。
【0049】
また、励起光源60が赤外光を発することができる場合には、赤外光の照射によりクライオパネル38など極低温面を加熱することができる。冷凍機14の逆転昇温による加熱では、冷凍機14からの伝熱距離が長くなる部位(例えばクライオパネル38の末端部、入口クライオパネル37など)は冷凍機14に近い部位に比べて温まりにくくなるが、赤外光照射による加熱はこれを補完しうる。また、電気ヒータによる加熱にはヒータと加熱対象物の熱接触が不十分であった場合にヒータがオーバーヒートするリスクがありうるが、赤外光照射による加熱はこうしたリスクが小さいと考えられる。したがって、赤外光照射による加熱は他の加熱手段よりも有用であるかもしれない。
【0050】
励起光源60の点灯は、昇温工程の開始と同時に、または昇温工程中に、または昇温工程の終了後に行われてもよい。励起光源60が加熱手段の一つとして使用される場合には、昇温時間を短縮するために、励起光源60は、昇温工程の開始と同時に、または昇温工程中に点灯され、他の加熱手段と併用されることが好ましい。
【0051】
光触媒層50に付着した有機物が励起光62の照射下で分解されることによってクライオパネル38から除去される(S30)。この有機付着物は、クライオポンプ10が取り付けられた真空プロセス装置の真空チャンバーからクライオポンプ容器16内に他の被排気気体(例えば水やアルゴンなど)とともに流入してクライオパネル38に堆積したものであり、例えば、ウェハに塗布されたフォトレジストやウェハへの種々の表面処理に使用された有機化学物質に由来する。このような有機付着物は、上述の再生温度で揮発性をほとんど又はまったく有しないので、単に再生温度に昇温するだけではクライオパネル38から除去することはできない。
【0052】
有機物は、励起光62の照射下で光触媒層50の光触媒作用により、二酸化炭素と水に分解される。二酸化炭素と水は気体としてベントバルブ22またはラフバルブ18を通じてクライオポンプ容器16から排出されることができる。光触媒層50が例えば入口クライオパネル37などクライオポンプ10内の他の部位に設けられていれば、この部位の光触媒層50に付着した有機物も分解され除去される。有機付着物の分解除去工程は、励起光62が照射されていれば、昇温工程中でも排出工程中でも起こりうる。
【0053】
排出工程(S40)においては、クライオポンプ容器16からベントバルブ22またはラフバルブ18を通じて外部に気体が排出される。排出工程では、いわゆるラフアンドパージが行われてもよい。ラフアンドパージとは、ラフバルブ18を通じたクライオポンプ容器16の粗引きとパージバルブ20を通じたクライオポンプ容器16へのパージガスの供給を交互に繰り返すことによって、クライオポンプ容器16に残留する気体(例えばクライオパネル38上の例えば活性炭などの吸着材に吸着されている例えば水蒸気などの気体)をクライオポンプ容器16から排出することをいう。
【0054】
排出工程を完了するか否かは、圧力上昇率テストによって判断される。圧力上昇率テストは、RoR(Rate of Rise)テストとも呼ばれる。圧力上昇率テストにおいては、クライオポンプ容器16を真空保持し所定時間を経過するときの基準圧力からの圧力上昇の大きさが検出され、この圧力上昇の大きさがしきい値未満であれば合格、しきい値以上であれば不合格と判定される。クライオポンプ容器16を真空保持するために、クライオポンプ10に設けられたバルブはすべて閉鎖される。
【0055】
励起光源60が消灯される(S50)。励起光源60の消灯は、クライオポンプ10の再生中の任意のタイミングで行われてもよい。励起光源60が加熱手段の一つとして使用される場合には、クールダウンを妨げないように、クールダウン工程を開始する前に励起光源60は消灯される。
【0056】
クールダウン工程(S60)においては、クライオポンプ10は、再生温度から極低温に再び冷却される。このようにして、再生は完了し、クライオポンプ10は、再び真空排気運転を始めることができる。
【0057】
本書の冒頭で述べたように、もし、クライオパネル38などの極低温面が有機付着物で汚染され、有機付着物が極低温面とそこに凝縮する水やアルゴンなどの氷層との間に介在したとすると、氷層の極低温面への密着性が低下し、氷層が割れたり剥離したりしやすくなる。氷層の割れや剥離は、氷層と極低温面の良好な熱接触を妨げ、その結果、氷層の温度上昇とクライオポンプ容器内の蒸気圧の高まりを招きうる。これにより、最終的にはクライオポンプの排気性能が低下しうる。例えば、クライオポンプが取り付けられた真空プロセス装置では、処理済みのウェハと未処理のウェハを入れ替えるとき一時的に低下した真空度を所望の時間内に目標真空度まで回復させることが要請される。しかし、極低温面に付着した有機物が除去されない場合には、真空度回復にかかる時間が延び、最悪の場合目標真空度まで回復することができなくなるかもしれない。
【0058】
従来、汚染された極低温面は、クライオポンプのメンテナンスの際に、クライオポンプから分解され洗浄されることを必要としうる。洗浄されたクライオパネルは、再利用可能な場合には、再び組み立てられ使用される。再利用できない場合には、廃棄され、新たなクライオパネルと交換される。いずれにしても、このようなメンテナンスには手間と費用がかかる。
【0059】
これに対して、実施の形態によれば、クライオポンプ10は、低温クライオパネル(または高温クライオパネル)の表面に設けられた光触媒層50に励起光源60から励起光62を照射することによって、クライオパネルに付着した有機物を分解し除去することができる。これにより、上記の問題は緩和され又は解消される。例えば、有機物汚染によるクライオポンプ10の排気性能への低下を抑制することができる。
【0060】
また、有機付着物は多くの場合有害物質であり、仮に有機付着物がそのままクライオポンプ10から排出された場合には、ラフバルブ18、ベントバルブ22、さらにはこれより下流の排出経路に有機物が再付着して悪影響を及ぼす可能性が想定される。しかし、実施の形態によれば、有機付着物を水と二酸化炭素に分解し無害化することができるので、そうしたリスクも緩和され又は解消される。
【0061】
図3は、実施の形態に係るクライオポンプ10の他の例を模式的に示す。
図3に示されるクライオポンプ10は、励起光源60に代えて、窓70を備える。その余の構成は
図1に示されるクライオポンプ10と同様である。窓70は、光触媒層50を活性化させる励起光62を外界から取り込むためにクライオポンプ容器16に設けられている。窓70は、例えば容器胴体16aに設けられたビューポートでもよい。このようにしても、窓70から励起光62を取り込み、光触媒層50に励起光62を照射することによって低温クライオパネル(または高温クライオパネル)に付着した有機物を分解し除去することができる。なお、ある実施の形態では、クライオポンプ10は、励起光源60と窓70の両方を備えてもよい。
【0062】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0063】
10 クライオポンプ、 16 クライオポンプ容器、 36 放射シールド、 37 入口クライオパネル、 38 クライオパネル、 50 光触媒層、 60 励起光源、 62 励起光、 70 窓。