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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076730
(43)【公開日】2022-05-20
(54)【発明の名称】杭の施工方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/32 20060101AFI20220513BHJP
   E02D 27/52 20060101ALI20220513BHJP
   E02D 27/42 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
E02D27/32 A
E02D27/52 A
E02D27/42 Z
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020187269
(22)【出願日】2020-11-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】吉井 亮平
(72)【発明者】
【氏名】堀越 健次
【テーマコード(参考)】
2D046
【Fターム(参考)】
2D046DA05
2D046DA31
2D046DA62
(57)【要約】      (修正有)
【課題】杭を立て起こす際に杭の荷重を制御し、杭の緩やかで安全な立て起こし作業を実現することができる、杭の施工方法を提供する。
【解決手段】中空の本体部1を備え、前記本体部1の下端には前記本体部1よりも小径の下側のバルブ5を有している杭10を水底100に打設する杭10の施工方法であって、水101の上に横たわる杭10を、下側のバルブ5を通して本体部1内に水を流入させながら水101の上で立て起こす注水工程を備える。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空の本体部を備え、前記本体部の下端には前記本体部よりも小径の流入口を有している杭を立て起こし、水底に打設する杭の施工方法であって、
水上に横たわる前記杭を、前記流入口を通して前記本体部内に水を流入させながら水上で立て起こす注水工程を備える、
杭の施工方法。
【請求項2】
前記流入口を、外部操作により開閉する、
請求項1に記載の杭の施工方法。
【請求項3】
前記注水工程では、前記流入口から水を流入させながら、前記本体部から空気を排出する、
請求項1または2に記載の杭の施工方法。
【請求項4】
前記注水工程では、前記杭を鉛直に立て起こした状態で、前記杭内の水面が外の水面より低くなるように、前記流入口からの水の流入量を制御する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の杭の施工方法。
【請求項5】
前記杭の前記本体部の下端に止水板を有し、前記注水工程の完了後、前記杭から前記止水板を取り外す取り外し工程を含む、
請求項1から4のいずれか1項に記載の杭の施工方法。
【請求項6】
前記取り外し工程の前に、前記杭を水底に吊り降ろす工程を含む、
請求項5に記載の杭の施工方法。
【請求項7】
前記杭の前記本体部に注水開始マーキングが設けられ、前記注水開始マーキングが水面と重なったときに前記注水工程を開始する、
請求項1から6のいずれか1項に記載の杭の施工方法。
【請求項8】
前記杭の前記本体部に注水可否判断マーキングが設けられ、前記注水可否判断マーキングと水面との位置関係によって前記注水工程の開始可否を判断する、
請求項1から7のいずれか1項に記載の杭の施工方法。
【請求項9】
前記杭の上端をクレーンで吊り上げる吊り上げ工程を含み、
前記注水工程では、前記クレーンを用いて前記杭を立て起こす、
請求項1から8のいずれか1項に記載の杭の施工方法。
【請求項10】
前記注水工程において、前記クレーンの荷重に応じて前記流入口を開閉して、前記杭内への注水量を管理することで前記杭の挙動を制御する、
請求項9に記載の杭の施工方法。
【請求項11】
前記注水工程の途中に、前記杭が鉛直に立て起こされたときに注水を一度中断し、前記クレーンを起こすことで前記杭の位置を所定の打設位置に調整する位置合わせ工程を含む、
請求項9または10に記載の杭の施工方法。
【請求項12】
前記吊り上げ工程において、前記杭の高さが前記クレーンの揚程に達したときに、前記注水工程を開始する、
請求項9から11のいずれか1項に記載の杭の施工方法。
【請求項13】
前記吊り上げ工程では、前記クレーンの定格荷重を超える質量を有する前記杭を、浮力を利用して吊り上げる、
請求項9から12のいずれか1項に記載の杭の施工方法。
【請求項14】
前記注水工程では、前記クレーンの揚程を超える長さを有する前記杭を、前記杭の下部を水中に沈めることで立て起こす、
請求項9から13のいずれか1項に記載の杭の施工方法。
【請求項15】
前記注水工程の後、前記本体部内に空気を圧入し、前記流入口から水を排出する排水工程を含む、
請求項1から14のいずれか1項に記載の杭の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、固定式洋上風力発電機のモノパイル基礎等に用いられる杭の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、洋上固定式風力発電機の基礎構造の一例としてモノパイル(杭)を設置する方法が用いられている。杭は洋上の設置場所まで輸送船または作業船上に寝かせた状態で輸送し、設置場所にて立て起こす。その後、作業船上に取付けたパイルグリッパーに固定させ、海底面下に打設する方法が採られている。
モノパイルを洋上にて立て起こす際、比較的重量が小さく、短い杭の場合は輸送船または作業船上でクレーンによって立て起こすことができる。しかし、杭重量が重く、長尺である場合、クレーン吊り能力及び揚程の制約により、輸送船または作業船上で立て起こすことが出来ないことがある。
その場合、次のような施工法が用いられる。(1)杭の上端および下端に止水板を取り付ける、(2)設置場所まで輸送した杭を一度吊上げる、(3)吊上げた杭を海面に降し、浮遊状態とする、(4)杭上端をクレーンで保持する、(5)杭下端の止水板を取り外して杭内部に水を流入させることで杭を鉛直に立て起こす、(6)この時、上端の止水板に設置したバルブにより内圧を抜くことで姿勢を制御する(下記特許文献1参照)。
また、浮体式洋上風力発電機の設置では、洋上の設置場所に浮遊状態で輸送した後、風車基礎内部に水または海水を注入することにより、クレーンを使用せず、自立させる工法が用いられている(下記特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】英国特許出願公開第2560006号明細書
【特許文献2】特開2012-201217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のようにモノパイル(杭)に設けられた止水板を取り外す方法では、杭内部に急激に海水が流れ込み、杭下端が勢いよく沈む。その際、杭を保持しているクレーンに衝撃的な荷重が作用する。このとき、クレーン吊り能力が杭重量および衝撃的な荷重に対して十分でない場合、クレーンが損傷する可能性がある。更に、立て起こし中の杭の挙動の制御が出来ず、杭に設置されている機器および施工治具などを損傷させる可能性がある。また、クレーンの吊り能力に余裕がない場合、作業半径が短い位置での立て起こしが必要となり、立て起こし直後の杭の慣性力によって杭がクレーンブームと接触し、クレーンが損傷する可能性がある。
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、杭を立て起こす際にクレーンに作用する荷重を制御し、安全な立て起こしを実現することができる施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
本発明に係る方法は、中空の本体部を備え、前記本体部の下端には前記本体部よりも小径の流入口を有している杭を立て起こし、水底に打設する杭の施工方法であって、水上に横たわる前記杭を、前記流入口を通して前記本体部内に水を流入させながら水上で立て起こす注水工程を備える。
【0007】
この発明によれば、杭の下端に本体部よりも小径の流入口を有している。これにより、杭に流入口を設けず、杭の径全体を開口した場合と比較して、杭内への注水初期における立て起こし速度を緩和することで、杭を緩やかに立て起こすことができる。また、杭を緩やかに立て起こすことによって、例えば、立て起こした後の杭を打設位置に合わせる際の慣性力を低減させることができる。したがって、例えば、杭を立て起こすときに衝撃的な荷重がクレーンに作用することを防ぐことができる。更に、杭を立て起こす時に、例えば、クレーンに対する杭の見かけの重量を減少させることができる。これらのことによって、クレーンで杭を立て起こす際、クレーンにかかる杭の荷重を最小限に抑えることができる。すなわち、杭を立て起こす際に杭の荷重を制御し、安全な立て起こしを実現することができる施工方法を提供することができる。
【0008】
また、前記流入口を、外部操作により開閉してもよい。
【0009】
この発明によれば、流入口を外部操作により開閉する。これにより、杭内に流入させる水の量を随時管理することができる。これにより、より効率的に杭からクレーンに伝わる荷重を制御し、安全な立て起こしを実現することができる。
【0010】
また、前記注水工程では、前記流入口から水を流入させながら、前記本体部から空気を排出してもよい。
【0011】
この発明によれば、流入口から水を流入させながら、本体部から空気を排出する。ここで、本体部から空気を排出することには、本体部に穴を設けてその穴から本体部の空気を排出することも含まれるし、本体部とは別途設けられた止水板(後述する)のバルブなどから本体部の空気を排出することも含まれる。よって、例えば、本体部から空気を排出させない方法と比較して流入口から空気を逃がす必要がなく、より効率的に杭内部に水を流入させることができる。
【0012】
また、前記注水工程では、前記杭を鉛直に立て起こした状態で、前記杭内の水面が外の水面より低くなるように、前記流入口からの水の流入量を制御してもよい。
【0013】
この発明によれば、杭を鉛直に立て起こした状態で、杭内の水面が外の水面より低くなるように、流入口からの水の流入量を制御する。つまり、この状態の杭は外側と内側との水面の差の分だけ浮力を有している。これにより、杭内の水面と外の水面を同じにした場合と比較して、杭を立て起こす時に杭を引き上げるクレーンに作用する杭の荷重(杭の見かけの重量)を浮力の分減少させることができる。よって、杭を吊り上げる際のクレーンにかかる負担を減らすことができる。
さらに、クレーンに作用する杭の荷重が軽くなることで、クレーン能力に余裕ができる。そのため、吊り上げ時にクレーンのブームを倒すことができる。よって、立て起こし時のクレーン作業半径を延ばし、クレーンブームと杭との距離を拡大することができる。これにより、クレーンブームと杭との安全距離を拡大し、杭の立て起こし完了直後に慣性力により杭が作業船側に傾く、または接近した場合でも、杭と作業船またはクレーンとが接触することを回避することができる。
【0014】
また、前記杭の前記本体部の下端に止水板を有し、前記注水工程の完了後、前記杭から前記止水板を取り外す取り外し工程を含んでいてもよい。
【0015】
この発明によれば、注水工程の完了後、杭から止水板を取り外す。すなわち、位置合わせ工程の後に杭内への注水を再開し、完了した後、止水板を本体部から取り外す。これにより、杭の位置合わせを行う際、クレーン能力に余裕を持たせることができる。
【0016】
また、前記取り外し工程の前に、前記杭を水底に吊り降ろす工程を含んでいてもよい。
【0017】
この発明によれば、止水板の取り外し工程の前に、杭を水底に吊り降ろす。すなわち、杭を水底に吊り降ろすときに、止水板を取り外さないことで杭内の空気を抜かず、杭の浮力を維持したまま杭を水底に吊り降ろす。これにより、例えば、杭の重さに対してクレーン能力が不足している場合であっても、浮力を利用して杭を水底まで吊り降ろすことができる。
【0018】
また、前記杭の前記本体部に注水開始マーキングが設けられ、前記注水開始マーキングが水面と重なったときに前記注水工程を開始してもよい。
【0019】
この発明によれば、注水開始マーキングが水面と重なったときに注水工程を開始する。これにより、水の流入の開始のタイミングを目視により容易に判断することができる。
【0020】
また、前記杭の前記本体部に注水可否判断マーキングが設けられ、前記注水可否判断マーキングと水面との位置関係によって前記注水工程の開始可否を判断してもよい。
【0021】
この発明によれば、注水可否判断マーキングと水面との位置関係によって前記注水工程の開始可否を判断する。これにより、例えば、杭の吊り上げ工程中にクレーンの故障などの理由により杭の吊り上げ工程の継続が困難となった場合に、予定していた吊り上げ高さに達していないまま注水を開始しても、クレーンの能力を超えず、また杭が海底に接触することなく立て起こしが可能であるかを目視により容易に判断することができる。
【0022】
また、前記杭の上端をクレーンで吊り上げる吊り上げ工程を含み、前記注水工程では、前記クレーンを用いて前記杭を立て起こしてもよい。
【0023】
この発明によれば、杭の上端をクレーンで吊り上げる工程を含む。これにより、杭の下端を積極的に水面下に沈めることができる。よって、より効率的に杭内に水を流入させることができる。
【0024】
また、前記注水工程において、前記クレーンの荷重に応じて前記流入口を開閉して、前記杭内への注水量を管理することで前記杭の挙動を制御してもよい。
【0025】
この発明によれば、クレーンの荷重に応じて杭内への注水量を管理することによって、杭の挙動を制御する。これにより、より精密に杭の状態を管理することができる。すなわち、より安全に杭を立て起こすことができる。
【0026】
また、前記注水工程の途中に、前記杭が鉛直に立て起こされたときに注水を一度中断し、前記クレーンを起こすことで前記杭の位置を所定の打設位置に調整する位置合わせ工程を含んでいてもよい。
【0027】
この発明によれば、注水工程の途中に、杭が鉛直に立て起こされたときに注水を一度中断し、クレーンを起こすことで前記杭の位置を所定の打設位置に調整する。すなわち、注水工程において、クレーンを用いて杭を鉛直に立て起こす。その後、流入口を閉じて注水作業を中断する。その後、クレーンを起こし、杭の位置を所定の打設位置に調整する。その後、杭内への注水を再開する。
これにより、位置合わせ工程の時に杭に作用する浮力を維持することができる。すなわち、クレーン能力に余裕を持たせることができる。よって、風および潮流などによる杭の動揺により、クレーンに動的荷重が作用した場合でも、クレーン能力を超えることなく安全に作業を行うことができる。
また、杭の位置合わせをする際に風および潮流によって杭が動揺しても、作業船と杭との間に十分安全な離隔を確保しつつ、動揺が収まるまで待機することができる。これにより、周辺設備に杭が接触することなく、安全に杭の位置合わせを行うことができる。
【0028】
また、前記吊り上げ工程において、前記杭の高さが前記クレーンの揚程に達したときに、前記注水工程を開始してもよい。
【0029】
この発明によれば、クレーンに吊り上げられた杭の高さがクレーンの揚程に達したときに、注水工程を開始する。すなわち、杭に水を流入させる前にある程度杭の上部を持ち上げることで、杭の下部が水面下に沈んだ状態となる。このような状態から流入を開始することで、杭の上部を持ち上げる前から注水を開始する場合と比較して、流入口にかかる水圧を高くすることができる。すなわち、同じ大きさの流入口から流入する流量を増加させることができる。したがって、より短時間で杭に水を流入させることができる。
【0030】
また、前記吊り上げ工程では、前記クレーンの定格荷重を超える質量を有する前記杭を、浮力を利用して吊り上げてもよい。
【0031】
この発明によれば、クレーンの定格荷重を超える質量を有する杭を、杭に作用する浮力を利用して吊り上げる。このことによって、水上など使用することができるクレーンの性能が限られている場合においても、クレーンによって杭を立て起こすことができる。よって、杭に作用する浮力を使用しない場合と比較してクレーンに求められる性能が低くなり、施工中の安全性を向上させ、さらに施工にかかる費用を削減することができる。
【0032】
また、前記注水工程では、前記クレーンの揚程を超える長さを有する前記杭を、前記杭の下部を水中に沈めることで立て起こしてもよい。
【0033】
この発明によれば、クレーンの揚程を超える長さを有する杭を、杭の下部を水中に沈めることで立て起こす。このことによって、水上など使用することができるクレーンの性能が限られている場合においても、クレーンによって杭を立て起こすことができる。よって、杭に作用する浮力を使用しない場合と比較してクレーンに求められる性能が低くなり、施工中の安全性を向上させ、さらに施工にかかる費用を削減することができる。
【0034】
また、前記注水工程の後、前記本体部内に空気を圧入し、前記流入口から水を排出する排水工程を含んでいてもよい。
【0035】
この発明によれば、本体部内に空気を圧入し、流入口から水を排出する排水工程を含む。
ここで、杭の施工中にクレーンの故障や急激な気象悪化等が発生したとき、注水工程の中断ややり直しが必要となることがある。このとき、本体部内に空気を圧入し、流入口から水を排出する。このことによって、必要に応じて施工作業の中断及びやり直しをすることができる。よって、より施工作業の安全性を向上することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、杭を立て起こす際に、クレーンに作用する荷重を制御し、安全な立て起こしを実現することができる施工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明に係る実施形態の杭を水底に打設した状態を示す図である。
図2】本発明に係る実施形態の杭の図である。
図3図2の杭を載せた輸送台船を作業船に接舷している図である。
図4図3の杭をタグボートによって移動している図である。
図5図4の杭を立て起こす前に回転防止の対策を施している図である。
図6図5の杭を水上で立て起こしている状態を示す図である。
図7図6において、杭内部に水を流入させている図である。
図8図6の杭が鉛直となった状態を示す図である。
図9図8の杭をパイルグリッパーに設置している図である。
図10図9の杭を油圧ハンマーにより水底に打設している図である。
図11図2の杭にマーキングを施した変形例である。
図12】杭を立て起こしている最中の角度の管理方法の変形例を示す図である。
図13】本実施形態に係る杭の上端が台形状になっている変形例である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る杭及び杭の施工方法を説明する。
【0039】
図1及び図2に示すように、杭(モノパイル)10は、本体部1と、上側の止水板2と、上側のバルブ3と、下側の止水板4と、下側のバルブ5と、を備えている。杭10は、海等をはじめとする水上において、風車などを設置するための基礎として用いられる。このとき、杭10は本体部1のみによって構成され、本体部1から止水板2、4及びバルブ3、5は取り外されている。そして、杭10の下端は水底100に打設される。杭10の上端は水101から突出している。なお、杭10の内部にも水102が充填されている。杭10の内部の水102の水面は、杭10の外部の水101の水面と同等の高さである。
【0040】
本体部1は、例えば円柱状に形成されている。本体部1の内部は中空となっている。本体部1の打設後には、例えば、本体部1の上端部に風車が設置される。従って風や波等の外力に対して十分耐えうる大きさを有する必要がある。本体部1は、一例として、直径10m、板厚70mm、高さ85m、重さ1900トンのものが挙げられる。
また、図13に示すように、本体部1は、上部が台形状となっていてもよい。
【0041】
上側の止水板2は、本体部1の上端に取り外し可能に配置されている。上側の止水板2は、中空の本体部1の上端を密閉する。上側の止水板2は、例えば、円板形状を有する。上側の止水板2の外径は本体部1の内径と同程度である。上側の止水板2は、本体部1の内圧変動に耐えうる強度を有する。上側の止水板2の詳細の寸法は適宜決定される。上側の止水板2は、円柱状の本体部1の内側に嵌め込まれる。その際、本体部1との隙間は、例えば、油圧を駆動源とする機構によって、密閉及び開放が切り替え可能となっている。
【0042】
また、上側の止水板2は、吊り治具としての用途を兼ねていてもよい。吊り治具は、水上に浮遊している杭10を立て起こす時(後述する)に杭10を引き上げる設備に用いられる。
【0043】
上側のバルブ3は、上側の止水板2を上下方向に貫通する。上側のバルブ3は、本体部1の外径よりも小径である。上側のバルブ3は、例えば、本体部1内の圧力管理を可能とする耐圧ホース(不図示)を備えている。上側のバルブ3は、例えば、油圧を用いた遠隔操作によって開閉される。上側のバルブ3は、水上に浮遊している杭10を立て起こす時、必要に応じて開閉することで、本体部1内部の空気を抜く、いわゆるエアー抜きの役割を有する。本実施形態においては、エアー抜きの役割を上側の止水板2に設けられた上側のバルブ3により行う。しかしながら、本体部1に穴を設けてその穴から本体部1の空気を排出してもよい。
【0044】
下側の止水板4は、本体部1の下端に取り外し可能に配置されている。下側の止水板4は、中空の本体部1の下端を密閉する。下側の止水板4は、例えば、円板形状を有する。下側の止水板4の外径は本体部1の内径と同程度である。下側の止水板4は、本体部1の内圧変動に耐えうる強度を有し、詳細の寸法は適宜決定される。下側の止水板4は、円柱状の本体部1の内側に嵌め込まれる。その際、本体部1との隙間は、例えば、油圧を駆動源とする機構によって、密閉及び開放が切り替え可能となっている。
【0045】
上側の止水板2と下側の止水板4によって中空の本体部1を密閉することで、杭10を水上で自然浮遊可能な浮力体とする。また、上側の止水板2と下側の止水板4は、水上に浮遊している杭10を垂直に立て起こした後は本体部1から取り外される。上側の止水板2と下側の止水板4は、本体部1に離脱可能に取り付けられている。
【0046】
下側のバルブ(流入口)5は、下側の止水板4を上下方向に貫通する。下側のバルブ5は、例えば、油圧を用いた遠隔操作によって開閉される。下側のバルブ5は、水上に浮遊している杭10を立て起こす時、必要に応じて開閉することで、本体部1内部に水を流入させ、あるいは流入量を制御する役割を有する。下側のバルブ5を解放した時に、本体部1内部に急激に水が流入することが無いよう、下側のバルブ5の大きさは、本体部1の外径よりも小径に設定されている。
【0047】
本実施形態において、杭10を設置場所まで曳航し、立て起こすまでには、作業船20、輸送台船21、クレーン30、タグボート40、回転防止ロープ50、パイルグリッパー60、油圧ハンマー70と、を用いる。
【0048】
図3に示すように、杭10は、洋上の設置場所まで輸送台船21によって曳航される。輸送台船21は、前述の杭10を輸送可能な程度の大きさを有する。図3では、一度に複数の杭10を設置できるように、輸送台船21に杭10を2本積載した場合を想定している。あるいは、杭10を海上に浮かべた状態で曳航索を取付け、タグボート40で施工現場まで曳航してもよい。
【0049】
また、作業船20は、杭10の立て起こし作業を行うためのもので、クレーン30を有する。杭10は、輸送台船21によって設置場所まで曳航された後、作業船20に備えられたクレーン30を用いて立て起こされる。
【0050】
クレーン30は、本実施形態において、杭10を立て起こす際に用いる。クレーン30は、本実施形態においては一般的なジブクレーンである。クレーン30によって杭10を立て起こす時は、杭10の上側の止水板2に備えられた吊り治具(不図示)を、クレーン30に備えられた吊りフック(不図示)に掛けることで立て起こす。
また、輸送台船21から立て起こす前の杭10を降ろすときは、クレーン30は、杭10に横持用ワイヤ(不図示)を取付けることで持ち上げる。
【0051】
クレーン30は、本実施形態においては、作業船20の艫(とも)部に設置されている。そのため、杭10が大型の場合は杭10の重量がクレーン30のクレーン容量を上回ることがある。その際は、杭10を水上に浮遊させることで生じる浮力により補う。また、このような場合はクレーン30によって輸送台船21から杭10を降ろすことができない。そのため、上述のような、海上に浮かべた杭10をタグボート40で曳航する方法が好適に用いられる。
また、杭10の高さがクレーン30の揚程を上回ることがある。その際は、杭10を立て起こす際に杭10の下端を沈めることで補う。例えば、クレーン30によって杭10を持ち上げる際、杭10の高さの1/3程度を沈めることが考えられる。
【0052】
図4及び図5に示すように、タグボート40は、輸送台船21によって輸送した杭10をクレーン30によって立て起こし可能の位置に移動させる。また、クレーン30によって杭10を立て起こす時、タグボート40と杭10とを回転防止ロープ50を介して接続し、杭10が軸方向に回転することを防止する。
回転防止ロープ50は、タグボート40と杭10とを接続する。回転防止ロープ50は、例えば、ナイロン製のワイヤーロープなどが挙げられる。回転防止ロープ50は、設置場所までの輸送のしやすさやタグボート40と杭10との接続のしやすさなどによって適宜選択される。
【0053】
図9に示すように、パイルグリッパー(グリッパーフレーム)60は、クレーン30によって立て起こされた杭10を、水底100へ打設する際に保持する。パイルグリッパー60は、杭10の垂直荷重を受け持つものではなく、杭10の水平方向の位置を案内するガイドの役割を有する。パイルグリッパー60は、作業船20において、クレーン30の根元部に配置される。パイルグリッパー60は、クレーン30によって立て起こされた杭10を水平方向に挟む。
【0054】
図10に示すように、油圧ハンマー70は、杭10を垂直に立て起こした後、水底100に打設する際に用いる。油圧ハンマー70は、例えば、IHC社製のS-3000が用いられる。
【0055】
次に、本実施形態における、水上に浮遊している杭10を立て起こし、水底100に打設する施工手順を、図3から図10を用いて説明する。
【0056】
まず、図3に示すように、杭10を設置場所まで曳航した輸送台船21を、作業船20の艫部に接舷させる。このとき、輸送台船21の進行方向(杭10の長手方向)が、作業船20の進行方向に対して直角となるように接舷させる。
このとき、杭10の重心を、クレーン30によって吊り上げ可能となる作業半径内に配置する。
また、後述するように杭10を浮力体とするため、上側の止水板2及び下側の止水板4は、本体部1に組込まれている状態となっている。
【0057】
その後、杭10に横持用ワイヤを取付け、クレーン30により横持ち用ワイヤを巻き上げることで杭10を垂直に吊り上げる。輸送台船21から杭10が完全に離れた後、輸送台船21を作業船20から離舷させる。この時、杭10の長手方向と作業船20の進行方向とは直角である。
輸送台船21が作業船20から離舷した後、杭10をクレーン30から降ろすことで、杭10を水上に浮遊させる。
【0058】
図4に示すように、杭10を水上に浮遊させた後、タグボート40によって杭10を図4に示すように90°回転させる。例えば、杭10を上面視したときに、杭10の長手方向の中央を中心となるように旋回させる。
そうすることで、上側の止水板2がクレーン30の吊りフックの真下に来るように杭10を移動させる。この時、杭10の回転前後のいずれかにおいて、上側の止水板2の吊り治具とクレーン30の吊りフックとを接続する。
【0059】
その後、杭10をクレーン30によって立て起こす前に、図5に示すように、タグボート40と杭10とを回転防止ロープ50により接続する。これにより、杭10の立て起こし作業中に杭10が軸方向に回転することを防ぐ。
【0060】
その後、図6に示すように、クレーン30の吊りフックを巻き上げ、上側の止水板2に備えられた吊り治具を吊り上げることで、杭10の立て起こしを開始する。このとき、上側のバルブ3及び下側のバルブ5は開放させない。すなわち、杭10の内部は密封された状態のままとする。また、杭10を立て起こした際に、杭10が動揺した場合でも作業船20及びクレーン30と杭10とが接触することがないよう、クレーン30の作業半径を十分に確保する。
このとき、図6に示すように、杭10の上端及び上側の止水板2がクレーン30によって吊り上げられた状態となる。また、上側の止水板2から杭10の下側に向かうにつれて杭10の高さは下がる。そして、杭10の下端及び下側の止水板4が水101の中に沈んだ状態となる。
【0061】
杭10の内部が密封された状態のまま、クレーン30によって上側の止水板2を事前に決定した高さまで巻き上げる。事前に決定した高さとは、クレーン30の吊りフックを巻き上げた際の杭10の角度、クレーン30に作用する杭10の荷重、設置場所の水深などの条件や、クレーン30の容量及び揚程等の条件を考慮し、解析によって定められる。例えば、本実施形態においては、作業船20の甲板とクレーン30の吊りフックまでの距離が64mとなるまで巻き上げる。
【0062】
その後、図7に示すように、下側のバルブ5を開放し、本体部1の内部に水102を流入させる。同時に、上側のバルブ3を開放し、本体部1の内部の空気を排出する。この時、杭10の内部に勢いよく水102が流れ込み、杭10が急激に沈むと、クレーン30に対して衝撃的な荷重が発生する。このようなことが無いよう、必要に応じて上側のバルブ3と下側のバルブ5の開閉を管理する。この操作によって本体部1内部に少しずつ流入させ、徐々に沈めていく。
【0063】
ここで、杭10の施工中にクレーン30の故障や急激な気象悪化等が発生したとき、注水工程の中断ややり直しが必要となることがある。この場合は、本体部1内に空気を圧入し、下側のバルブ5から水102を排出することで、施工作業の中断及びやり直しをしてもよい。
【0064】
本体部1へ流入させる水102の量は、図8に示すように杭10が鉛直となる為に必要な最小限の量とする。例えば、本実施形態においては、杭10が鉛直となった時の本体部1内部と外部との水面差が7mになるようにする。本実施形態においては、この状態に至るまでの注水量は約1200mである。これによって、杭10に浮力を残し、次の作業を行いやすくする。
また、本体部1に流入する水102の量は、事前に解析によって求めた結果をもとに、クレーン30に作用している杭10の荷重及び杭10の姿勢によって管理する。
杭10が鉛直となった後、上側のバルブ3及び下側のバルブ5を閉じ、水102の流入を止める。その後、杭10に接続された回転防止ロープ50を取り外す。
【0065】
その後、図9及び図10に示すように、クレーン30の吊りフックの高さが変わらないように管理しつつ、クレーン30のアームを引き起こす。それによって作業船20側に杭10を引き寄せ、杭10をパイルグリッパー60に挟む。この時、上述のように杭10に対して浮力を作用させることで、クレーン30に作用する杭10の見かけの重量を減少させる。これにより、クレーン30と杭10との間に安全な離隔を確保する作業半径とし、海象が急変した場合でも海象が落ち着くまで安全に待機することが可能となる。よって、杭10の引き寄せを安全に行うことが可能となる。
【0066】
杭10をパイルグリッパー60に挟んだ後、パイルグリッパー60を閉じる。その後、再度上側のバルブ3及び下側のバルブ5を開放し、本体部1内部と外部との水面差がなくなるまで水102を流入させる。
その後、下側の止水板4、上側の止水板2を本体部1から取り外し回収する。両止水板の回収完了後、クレーン30の吊りフックを降下させ、杭10を水底100まで自沈させる。
【0067】
その後、図10に示すように、杭10を水底100に打設する。杭10の打設は、油圧ハンマー70をクレーン30に設置して行う。その際、必要に応じて騒音計を装着する。
設計深さまで杭10を打設した後、油圧ハンマーを回収する。
【0068】
以上説明したように、本実施形態の施工方法によれば、杭10の下端に本体部1よりも小径の下側のバルブ5を有している。これにより、杭10に下側のバルブ5を設けず、杭10の径全体を開口した場合と比較して、杭10内への注水初期における立て起こし速度を緩和することで、杭10を緩やかに立て起こすことができる。また、杭10を緩やかに立て起こすことによって、例えば、立て起こした後の杭10を打設位置に合わせる際の慣性力を低減させることができる。したがって、例えば、杭10を立て起こすときに衝撃的な荷重がクレーン30に作用することを防ぐことができる。更に、杭10を立て起こす時に、例えば、クレーン30に対する杭10の見かけの重量を減少させることができる。これらのことによって、クレーン30で杭10を立て起こす際、クレーン30にかかる杭10の荷重を最小限に抑えることができる。すなわち、杭10を立て起こす際に杭10の荷重を制御し、安全な立て起こしを実現することができる施工方法を提供することができる。
【0069】
また、下側のバルブ5を外部操作により開閉する。これにより、杭10内に流入させる水102の量を随時管理することができる。これにより、より効率的に杭10からクレーン30に伝わる荷重を制御し、安全な立て起こしを実現することができる。
【0070】
また、下側のバルブ5から水102を流入させながら、本体部1から空気を排出する。ここで、本体部1から空気を排出することには、本体部1に穴を設けてその穴から本体部1の空気を排出することも含まれるし、本体部1とは別途設けられた上側の止水板2の上側のバルブ3などから本体部1の空気を排出することも含まれる。よって、例えば、本体部1から空気を排出させない方法と比較して下側のバルブ5から空気を逃がす必要がなく、より効率的に杭10内部に水102を流入させることができる。
【0071】
また、杭10を鉛直に立て起こした状態で、杭10内の水102の水面が外の水101の水面より低くなるように、下側のバルブ5からの水102の流入量を制御する。つまり、この状態の杭10は外側と内側との水面の差の分だけ浮力を有している。これにより、杭10内の水102の水面と外の水101の水面を同じにした場合と比較して、杭10を立て起こす時に杭10を引き上げるクレーン30に作用する杭10の荷重(杭10の見かけの重量)を浮力の分減少させることができる。よって、杭10を吊り上げる際のクレーン30にかかる負担を減らすことができる。
さらに、クレーン30に作用する杭10の荷重が軽くなることで、クレーン30の能力に余裕ができる。そのため、吊り上げ時にクレーン30のブームを倒すことができる。よって、立て起こし時のクレーン30の作業半径を延ばし、クレーンブームと杭10との距離を拡大することができる。これにより、クレーンブームと杭10との安全距離を拡大し、杭10の立て起こし完了直後に慣性力により杭10が作業船20側に傾く、または接近した場合でも、杭10と作業船20またはクレーン30とが接触することを回避することができる。
【0072】
また、注水工程の完了後、杭10から下側の止水板4を取り外す。すなわち、位置合わせ工程の後に杭10内への注水を再開し、完了した後、下側の止水板4を本体部1から取り外す。これにより、杭10の位置合わせを行う際、クレーン30の能力に余裕を持たせることができる。
【0073】
また、下側の止水板4の取り外し工程の前に、杭10を水底に吊り降ろす。すなわち、杭10を水底に吊り降ろすときに、下側の止水板4を取り外さないことで杭10内の空気を抜かず、杭10の浮力を維持したまま杭10を水底に吊り降ろす。これにより、例えば、杭10の重さに対してクレーン30の能力が不足している場合であっても、浮力を利用して杭10を水底まで吊り降ろすことができる。
【0074】
また、第1のマーキング6a(注水開始マーキング)が水101の水面と重なったときに注水工程を開始する。これにより、水102の流入の開始のタイミングを目視により容易に判断することができる。
【0075】
また、第1のマーキング6a(注水可否判断マーキング)と水102の水面との位置関係によって前記注水工程の開始可否を判断する。これにより、例えば、杭10の吊り上げ工程中にクレーン30の故障などの理由により杭10の吊り上げ工程の継続が困難となった場合に、予定していた吊り上げ高さに達していないまま注水を開始しても、クレーン30の能力を超えず、また杭10が水底100に接触することなく立て起こしが可能であるかを目視により容易に判断することができる。
【0076】
また、杭10の上端をクレーン30で吊り上げる工程を含む。これにより、杭10の下端を積極的に水101の水面下に沈めることができる。よって、より効率的に杭10内に水102を流入させることができる。
【0077】
また、クレーン30の荷重に応じて杭10内への注水量を管理することによって、杭10の挙動を制御する。これにより、より精密に杭10の状態を管理することができる。すなわち、より安全に杭10を立て起こすことができる。
【0078】
また、注水工程の途中に、杭10が鉛直に立て起こされたときに注水を一度中断し、クレーン30を起こすことで前記杭10の位置を所定の打設位置に調整する。すなわち、注水工程において、クレーン30を用いて杭10を鉛直に立て起こす。その後、下側のバルブ5を閉じて注水作業を中断する。その後、クレーン30を起こし、杭10の位置を所定の打設位置に調整する。その後、杭10内への注水を再開する。
これにより、位置合わせ工程の時に杭10に作用する浮力を維持することができる。すなわち、クレーン30の能力に余裕を持たせることができる。よって、風および潮流などによる杭10の動揺により、クレーン30に動的荷重が作用した場合でも、クレーン30の能力を超えることなく安全に作業を行うことができる。
また、杭10の位置合わせをする際に風および潮流によって杭10が動揺しても、作業船20と杭10との間に十分安全な離隔を確保しつつ、動揺が収まるまで待機することができる。これにより、周辺設備に杭10が接触することなく、安全に杭10の位置合わせを行うことができる。
【0079】
また、クレーン30に吊り上げられた杭10の高さがクレーン30の揚程に達したときに、注水工程を開始する。すなわち、杭10に水102を流入させる前にある程度杭10の上部を持ち上げることで、杭10の下部が水101の水面下に沈んだ状態となる。このような状態から流入を開始することで、杭10の上部を持ち上げる前から注水を開始する場合と比較して、下側のバルブ5にかかる水圧を高くすることができる。すなわち、同じ大きさの下側のバルブ5から流入する流量を増加させることができる。したがって、より短時間で杭10に水102を流入させることができる。
【0080】
また、クレーン30の定格荷重を超える質量を有する杭10を、杭10に作用する浮力を利用して吊り上げる。このことによって、水上など使用することができるクレーン30の性能が限られている場合においても、クレーン30によって杭10を立て起こすことができる。よって、杭10に作用する浮力を使用しない場合と比較してクレーン30に求められる性能が低くなり、施工中の安全性を向上させ、さらに施工にかかる費用を削減することができる。
【0081】
また、クレーン30の揚程を超える長さを有する杭10を、杭10の下部を水101に沈めることで立て起こす。このことによって、水上など使用することができるクレーン30の性能が限られている場合においても、クレーン30によって杭10を立て起こすことができる。よって、杭10に作用する浮力を使用しない場合と比較してクレーン30に求められる性能が低くなり、施工中の安全性を向上させ、さらに施工にかかる費用を削減することができる。
【0082】
また、本体部1内に空気を圧入し、下側のバルブ5から水102を排出する排水工程を含む。
ここで、杭10の施工中にクレーン30の故障や急激な気象悪化等が発生したとき、注水工程の中断ややり直しが必要となることがある。このとき、本体部1内に空気を圧入し、下側のバルブ5から水102を排出する。このことによって、必要に応じて施工作業の中断及びやり直しをすることができる。よって、より施工作業の安全性を向上することができる。
【0083】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0084】
例えば、図11に示すように、杭10の立て起こし時の角度管理を目的として、本体部1にマーキング6を設けてもよい。
ここで、図11に示す第1のマーキング6aは、第1のマーキング6aが水面と一致した時に、下側のバルブ5及び上側のバルブ3を開いて本体部1への水102の流入を開始するとしたものである(注水開始マーキング)。
また、第2のマーキング6bは、水101の水面が第2のマーキング6bより上方にある場合に注水した時に、杭10が水底100に接触することを意味するものである。
【0085】
なお、マーキング6の位置は、事前の解析によって求められ、杭10の製造時または出荷岸壁からの出荷前に施すものである。すなわち、マーキングの位置については杭10の大きさにより変動する。
このように、マーキング6を設けることで、杭10の施工作業時に本体部1への水102の流入を開始するかどうかの判別を目視にて行うことができる。また、マーキング6を設けていない場合は当該の判別について杭10の角度や、クレーン30に作用する荷重及び杭10の高さにて代用することも可能であるが、目視での判別が難しい。すなわち、マーキング6を有する場合は、有していない場合と比較して施工作業を容易にすることができる。
【0086】
ここで、杭10の吊り上げ工程中に、クレーン30の故障などの理由により杭10の吊り上げ工程の継続が困難となることがある。その対策として、第1のマーキング6aを、予定していた吊り上げ高さに達していないまま注水を開始しても、クレーン30の能力を超えず、また杭10が水底100に接触することなく立て起こしが可能な位置関係であるかを判断するものとしてもよい(注水可否判断マーキング)。
【0087】
また、図12に示すように、杭10を立て起こす際、杭10の角度を管理するために本体部1に傾斜計80を取付けてもよい。これにより、傾斜計80を有していない場合と比較して杭10の立て起こし中の角度についてより正確に把握することができる。
【0088】
また、図12に示すように、ROV(遠隔操作型無人潜水機)などの遠隔操作装置90によって傾斜計80の監視を行ったり、下側のバルブ5の開閉操作を行ったりしてもよい。これにより、遠隔操作装置90を用いない場合と比較して水中の施工現場の状況を映像によってより正確に把握できる。更に、下側のバルブ5の周辺に何らかの問題が生じた場合もより迅速に対応することができる。
【0089】
また、本実施形態では、鉛直となった杭10をパイルグリッパー60に挟んだ後、上側のバルブ3及び下側のバルブ5を開放して本体部1内の水面が外側の水面と同じ高さになるまで水102を流入させることを説明したが、杭10立て起こし時に作用する衝撃的な荷重に対してクレーン能力が十分である限りにおいて、下側のバルブ5の開放に代わって下側の止水板4を外してもよい。
【0090】
また、本実施形態では、杭10を垂直に立て起こした状態で、杭10の本体部1内部の水面が外の水面より低くなるように下側のバルブ5からの水102の流入量を制御することを記述した。しかしながら、上述の制御を行わず、杭10が垂直になると同時に杭10本体部1内部の水面が外の水面と同じ高さになってもよい。
このことによって、水102の流入量を制御する場合と比較して作業に要する手間を省略することができる。
【0091】
また、本実施形態では、杭10の立て起こしにクレーン30を用い、下側のバルブ5からの水102の流入量を、クレーン30に作用する荷重と杭10の姿勢によって制御することを記述した。しかしながら、杭10への水102の流入量は、上述の方法によらなくてもよい。例えば、下側のバルブ5付近に流量計を設けて行ってもよい。このことによって、クレーン30に作用する荷重と杭10の姿勢によって制御する場合と比較してより正確に流入した水102の量を把握することができる。
【0092】
また、本実施形態では、杭10を立て起こす前に、杭10の本体部1に止水板2、4を設け、杭10を立て起こした後に止水板2、4を本体部1から取り外す作業を行うことについて記述した。しかしながら、杭10の打設に影響がない場合は、止水板2は取り外さずに、そのまま自沈させてもよい。このことによって、止水板2、4を取り外す場合と比較して、より能力の低いクレーン30での自沈作業を可能とする。
【0093】
また、本実施形態では、杭10の立て起こしにクレーン30を用い、杭10を立て起こす過程で、杭10の高さがクレーン30の揚程に達したときに、下側のバルブ5からの水102の流入を開始することを記載した。しかしながら、水102の流入は、杭10の立て起こし時に作用する衝撃的な荷重に対してクレーン能力が十分である限りにおいて、杭10をクレーン30によって吊り上げる作業と同時におこなってもよい。このことによって、クレーン30揚程に達した後に水102の流入を開始する場合と比較して、作業に要する時間を短縮することができる。
【0094】
また、本実施形態では、杭10の立て起こしにクレーン30を用い、クレーン30に作用する荷重と杭10の高さに基づいて、下側のバルブ5からの水102の流入を開始するか否かを判別することについて記述した。しかしながら、水102の流入を開始するか否かの判別については、上述の方法によらなくてもよい。例えば、杭10の下側のバルブ5付近水圧計または傾斜計を取付け、その情報によって水102の流入を開始するか否かを判別してもよい。このことによって、クレーン30に作用する荷重と杭10の高さに基づいて水102の流入を開始するか否かを判別する場合と比較して、より水102の流入の開始の判別を正確に行うことができる。
【0095】
また、本実施形態では、杭10の立て起こしにクレーン30を用い、クレーン30の定格荷重に近い重量を有する杭10を、浮力を利用して立て起こし、吊り上げることについて記述した。すなわち、立て起こしなどの作業において杭に作用する慣性力等を考慮した場合に、クレーン30の定格荷重を超える可能性がある場合を想定したものであった。しかしながら、比較的小径の杭10において同様の工程を使用してもよい。これにより、十分なクレーン容量を持つクレーン30を準備しなくても、必要最低限のクレーン容量を持つ小型のクレーン30を用いて、よりクレーン30の手配や準備に費用をかけずに施工することができる。
【0096】
また、本実施形態では、杭10の立て起こしにクレーン30を用い、クレーン30の揚程を超える長さを有する杭10を、杭10の下部を水中に沈めることで立て起こすことについて記述した。すなわち、長尺の杭10であって、クレーン30の揚程を上回っている場合を想定したものであった。しかしながら、比較的短尺の杭10において同様の工程を使用してもよい。これにより、十分な揚程を持つクレーン30を準備しなくても、必要最低限の揚程を持つ小型のクレーン30を用いて、よりクレーン30の手配や準備に費用をかけずに施工することができる。
【0097】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0098】
1 本体部
2 上側の止水板
3 上側のバルブ
4 下側の止水板
5 下側のバルブ
10 杭
30 クレーン
100 水底
101 水
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【手続補正書】
【提出日】2021-04-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空の本体部と、前記本体部の下端に配置され前記本体部の下端を密閉する下側の止水板と、前記本体部の上端に配置され前記本体部の上端を密閉し、前記本体部の内部を前記下側の止水板との間で密封する上側の止水板と、前記下側の止水板設けられ前記本体部よりも小径の流入口である下側のバルブと、前記上側の止水板に設けられた上側のバルブと、を有している杭を立て起こし、水底に打設する杭の施工方法であって、
前記流入口および前記上側のバルブを開放させずに前記杭の内部が密封された状態で水上に横たわる前記杭の上端をクレーンで吊り上げる吊り上げ工程と、
前記吊り上げ工程を実施することで前記杭の下端及び前記下側の止水板が水の中に沈んだ状態で、前記流入口を開放して前記流入口を通して前記本体部内に水を流入させながら、前記上側のバルブを開放して前記上側のバルブを通して前記本体部から空気を排出する注水工程と、
前記注水工程の後、立て起こされた前記杭を、前記本体部から前記下側の止水板および前記上側の止水板を取り外した状態で水底に打設する工程と、を備える、
杭の施工方法。
【請求項2】
前記吊り上げ工程では、前記クレーンの定格荷重を超える質量を有する前記杭を、浮力を利用して吊り上げる、
請求項に記載の杭の施工方法。
【請求項3】
前記注水工程では、前記杭を鉛直に立て起こした状態で、前記杭内の水面が外の水面より低くなるように、前記流入口からの水の流入量を制御する、
請求項1または2に記載の杭の施工方法。
【請求項4】
前記流入口を、外部操作により開閉する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の杭の施工方法。
【請求項5】
前記杭の前記本体部に注水開始マーキングが設けられ、前記注水開始マーキングが水面と重なったときに前記注水工程を開始する、
請求項1からのいずれか1項に記載の杭の施工方法。
【請求項6】
前記杭の前記本体部に注水可否判断マーキングが設けられ、前記注水可否判断マーキングと水面との位置関係によって前記注水工程の開始可否を判断する、
請求項1からのいずれか1項に記載の杭の施工方法。
【請求項7】
前記注水工程において、前記クレーンの荷重に応じて前記流入口および前記上側のバルブを開閉して、前記杭内への注水量を管理することで前記杭の挙動を制御する、
請求項1から6のいずれか1項に記載の杭の施工方法。
【請求項8】
前記注水工程の途中に、前記杭が鉛直に立て起こされたときに注水を一度中断し、前記クレーンを起こすことで前記杭の位置を所定の打設位置に調整する位置合わせ工程を含む、
請求項1から7のいずれか1項に記載の杭の施工方法。
【請求項9】
前記吊り上げ工程において、前記杭の高さが前記クレーンの揚程に達したときに、前記注水工程を開始する、
請求項からのいずれか1項に記載の杭の施工方法。
【請求項10】
前記注水工程では、前記クレーンの揚程を超える長さを有する前記杭を、前記杭の下部を水中に沈めることで立て起こす、
請求項からのいずれか1項に記載の杭の施工方法。
【請求項11】
前記注水工程の後、前記本体部内に空気を圧入し、前記流入口から水を排出する排水工程を含む、
請求項1から10のいずれか1項に記載の杭の施工方法。