(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076737
(43)【公開日】2022-05-20
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/28 20060101AFI20220513BHJP
H01L 21/268 20060101ALI20220513BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20220513BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20220513BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20220513BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20220513BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20220513BHJP
【FI】
H01L21/28 B
H01L21/28 301S
H01L21/28 301B
H01L21/268 F
H01L29/78 652T
H01L29/78 652C
H01L29/06 301M
H01L29/06 301V
H01L29/78 658F
B23K26/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020187280
(22)【出願日】2020-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】特許業務法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 輝顕
【テーマコード(参考)】
4E168
4M104
【Fターム(参考)】
4E168AC01
4E168DA02
4E168DA04
4E168DA06
4E168DA32
4E168DA40
4E168JA13
4M104AA03
4M104BB05
4M104BB14
4M104BB16
4M104BB21
4M104BB25
4M104BB26
4M104BB34
4M104BB38
4M104CC01
4M104DD22
4M104DD53
4M104DD81
4M104DD84
4M104FF13
4M104GG09
4M104GG18
4M104HH15
4M104HH20
(57)【要約】
【課題】レーザアニールにより低コンタクト抵抗化および素子の抗折強度の確保を両立できる半導体装置の製造方法を実現する。
【解決手段】表面に金属薄膜110を備える炭化珪素基板1にエネルギー密度の異なるレーザ光50を2回以上照射し、オーミック電極を形成する。炭化珪素基板1上の金属薄膜110に、炭化珪素を溶融させないエネルギー密度のレーザ光50を照射し、合金層113を形成する。続く2回目のレーザ光50は、合金層113、すなわち金属薄膜110のうち既にレーザ光50を照射した領域内に照射され、そのエネルギー密度が1回目のレーザ光50よりも高い。これにより、炭化珪素に過度なエネルギーを与えることなく、炭化珪素とオーミック接合された電極を形成でき、低コンタクト抵抗化および素子の抗折強度を両立できる。
【選択図】
図2E
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主表面(1a)および裏面(1b)を有する炭化珪素半導体基板(1)と、前記炭化珪素半導体基板の前記主表面の側と前記裏面の側の少なくとも一方において、炭化珪素の一面とオーミック接合させられたオーミック電極(11)とを有する炭化珪素半導体装置の製造方法であって、
前記オーミック接合させられる前記炭化珪素半導体基板の上に、少なくともシリサイドを構成する金属材料を含む金属薄膜(110)を形成することと、
前記金属薄膜に対してエネルギー密度が異なるレーザ光(50)を複数回照射し、前記金属薄膜と前記炭化珪素中のSiと反応させて、金属シリサイドを生成することと、を含み、
前記レーザ光を複数回照射することにおいては、2回目以降の前記レーザ光の照射については、前記金属薄膜のうち少なくとも前記レーザ光を照射した範囲内に、既に照射した前記レーザ光よりもエネルギー密度の高い前記レーザ光を照射する、半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記金属薄膜を形成することにおいては、前記炭化珪素の側からMo、Niが積層された構成とする、請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記レーザ光を複数回照射することにおいては、前記レーザ光のエネルギー密度を前記炭化珪素を溶融させない所定以下の値とする、請求項1または2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記レーザ光を複数回照射することにおいては、
前記金属薄膜に対して第1のレーザ光(50)を照射し、前記金属薄膜と前記炭化珪素中のSiまたはCと反応させて、前記金属シリサイドを生成する第1工程と、
前記第1工程の後に、前記金属薄膜のうち前記第1のレーザ光が照射された領域内に前記第1のレーザ光よりも高いエネルギー密度の第2のレーザ光を照射し、前記金属シリサイドの組成を変える第2工程と、を含む、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素(以下「SiC」という)等の半導体材料によりなる半導体素子におけるオーミック電極の低コンタクト抵抗化と抗折強度の確保との両立を実現する半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SiC基板等の半導体基板を用いて縦型パワーデバイス等の半導体素子を形成する場合、デバイスを電気回路等と接続するための電極、特に基板裏面側のドレイン電極を形成するに際し、接触抵抗を低減させたオーミック電極を形成することが望まれている。
【0003】
SiCにおけるオーミックコンタクトには、SiCと金属との合金層、例えば金属シリサイドや金属カーバイドの形成が必要であり、その形成には高温処理を要する。例えば、ニッケルシリサイド(NiSi)を形成する場合には、900℃以上の温度でSiC基板を加熱する。
【0004】
SiC半導体装置の場合、表面側にデバイス構造を形成した後に裏面電極を形成するが、デバイス構造を形成したウエハ全体を高温炉等で高温処理すると、表面側のデバイス構造、特性に影響を及んでしまう。そのため、裏面電極へのレーザ光照射による局所加熱(以下「レーザアニール」という)を行い、表面側のデバイス領域を高温にすることなく、裏面電極において合金層を形成する方法が提案されている。
【0005】
レーザアニールでは、裏面電極のオーミック電極の低コンタクト抵抗化および表面側のデバイスへの熱影響低減ができる一方で、SiC基板の一部が消失してSiC基板に凹凸が形成され、その凹凸に応力が集中することで抗折強度が低下してしまう。
【0006】
オーミック電極の低コンタクト抵抗化と素子の抗折強度の確保との両立のため、電極内において低コンタクト抵抗用の領域と抗折強度の確保用の領域とに分け、領域ごとに照射するレーザ光のエネルギー密度を変更する方法が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
さて、近年、この種の半導体装置では、半導体素子や装置の小型化が進められており、半導体素子には、使用時の冷熱サイクルで生じる応力に耐えられるように抗折強度の向上が求められている。
【0009】
しかしながら、半導体素子がさらに小型化されると、電極内において領域分けをし、領域ごとにエネルギー密度の異なるレーザ光を照射することが困難となり、上記の方法を採用することができない。また、電極のうち照射されるレーザ光のエネルギー密度が高い領域では低コンタクト抵抗化されるが、抗折強度が低下し、当該エネルギー密度が低い領域では抗折強度を確保できるものの、コンタクト抵抗の低減が不十分となってしまう。そのため、レーザ光照射による電極の合金層形成において、電極内において低コンタクト抵抗化および抗折強度を両立する領域を形成することができていなかった。
【0010】
本発明は、上記の点に鑑み、レーザアニールにおいて半導体素子の電極内での領域分けをすることなく、電極の低コンタクト抵抗化と半導体素子の抗折強度の確保とを両立することができる半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の半導体装置の製造方法は、主表面(1a)および裏面(1b)を有する炭化珪素半導体基板(1)と、炭化珪素半導体基板の主表面の側と裏面の側の少なくとも一方において、炭化珪素の一面とオーミック接合させられたオーミック電極(11)とを有する炭化珪素半導体装置の製造方法であって、オーミック接合させられる炭化珪素の上に、少なくともシリサイドを構成する金属材料を含む金属薄膜(110)を形成することと、金属薄膜に対してエネルギー密度が異なるレーザ光(50、51)を複数回照射し、金属薄膜と炭化珪素中のSiと反応させて、金属シリサイドを生成することと、を含み、レーザ光を複数回照射することにおいては、2回目以降のレーザ光の照射については、金属薄膜のうち少なくともレーザ光を照射した範囲内に、既に照射したレーザ光よりもエネルギー密度の高いレーザ光を照射する。
【0012】
これにより、段階的にエネルギー密度を上げつつ、複数回のレーザ光をSiC基板上の金属薄膜に照射することでSiC基板に必要以上の熱が加わることを抑制しつつも、金属薄膜中に金属シリサイドを形成することができる。そのため、SiC基板のうちレーザ光を照射した領域におけるSiCの消失およびこれによる抗折強度の低下を抑制しつつも、オーミック電極を形成することができ、低コンタクト抵抗化および抗折強度の確保を両立できる半導体装置の製造方法となる。
【0013】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係るSiC半導体装置の一例を示す断面図である。
【
図2A】
図1に示すSiC半導体装置におけるドレイン電極の形成工程を示す断面図である。
【
図2B】
図2Aに続くドレイン電極の形成工程を示す断面図である。
【
図2C】
図2Bに続くドレイン電極の形成工程を示す断面図である。
【
図2D】
図2Cに続くドレイン電極の形成工程を示す断面図である。
【
図2E】
図2Dに続くドレイン電極の形成工程を示す断面図である。
【
図2F】
図2Eに続くドレイン電極の形成工程を示す断面図である。
【
図3A】比較例のレーザアニールによるオーミック電極の形成工程を示す断面図である。
【
図3B】
図3Aに続くオーミック電極の形成工程を示す断面図である。
【
図4】表面粗さと抗折強度との関係を示す図である。
【
図5】比較例および実施例におけるオーミック電極のコンタクト抵抗を示す図である。
【
図6】比較例および実施例におけるオーミック電極の表面抵抗並びに抗折強度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0016】
(実施形態)
実施形態に係る半導体装置の製造方法について説明する前に、半導体装置の一例としてSiC半導体装置について、
図1を参照して説明する。
【0017】
本明細書では、例えばインバータに適用すると好適であるプレーナ型の縦型パワーMOSFETを備えるSiC半導体装置を代表例として説明するが、このSiC半導体装置に限定されるものではない。
【0018】
〔半導体装置〕
例えば、縦型パワーMOSFETは、
図1に示すように、炭化珪素半導体基板として、n
+型SiC基板1を用いて形成されている。n
+型SiC基板1は、上面を主表面1aとし、主表面1aの反対面である下面を裏面1bとしており、単結晶SiCからなるものである。例えば、n
+型SiC基板1としては、不純物濃度が1×10
18cm
-3以上のものを用いられうる。
【0019】
n+型SiC基板1の主表面1a上には、n+型SiC基板1よりも低いドーパント濃度を有するSiCにて構成されたn-型エピタキシャル層(以下、n-型エピ層という)2が積層されている。
【0020】
n-型エピ層2の表層部における所定領域には、所定深さを有するp-型ベース領域3a、3bが互いに離れて形成されている。このp-型ベース領域3a、3bは、一部厚さが厚くなったディープベース層30a、30bを備える。ディープベース層30a、30bは、後述するn+型ソース領域4a、4bとは重ならない部分に形成されている。p-型ベース領域3a、3bのうちディープベース層30a、30bが形成された厚みの厚くなった部分は、ディープベース層30a、30bが形成されていない厚みの薄い部分よりも不純物濃度が濃くなっている。このようなディープベース層30a、30bを形成することによって、n+型SiC基板1とディープベース層30a、30bとの間の電界強度を高くすることができ、この位置でアバランシェ・ブレークダウンをさせ易くすることができる。
【0021】
p-型ベース領域3aの表層部における所定領域には、当該p-型ベース領域3aよりも浅いn+型ソース領域4aが形成されている。また、p-型ベース領域3bの表層部における所定領域には、当該p-型ベース領域3bよりも浅いn+型ソース領域4bが形成されている。
【0022】
また、p-型ベース領域3a、3b、n+型ソース領域4a、4bの表面部には凹部6a、6bが形成されており、凹部6a、6bの底部ではp型不純物濃度が濃いディープベース層30a、30bが露出している。
【0023】
さらに、n-型エピ層2とn+型ソース領域4aおよびn+型ソース領域4bとの間におけるp-型ベース領域3a、3bの表面部をチャネル領域として、少なくともこのチャネル領域上には、シリコン酸化膜などで構成されるゲート絶縁膜7が形成されている。ゲート絶縁膜7は、チャネル領域を含めてn-型エピ層2およびn+型ソース領域4a、4bの上面に形成されている。また、ゲート絶縁膜7の上にはゲート電極8が形成されており、ゲート電極8はシリコン酸化膜などで構成される絶縁膜9により覆われている。
【0024】
そして、n+型SiC基板1の主表面1a側において、絶縁膜9の上を覆うようにソース電極10が形成され、n+型ソース領域4a、4bおよびp-型ベース領域3a、3bに接続されている。
【0025】
また、n+型SiC基板1の裏面1b側において、ドレイン電極11が形成されている。ドレイン電極11は、オーミック電極であり、レーザレーザアニールによりn+型SiC基板1の裏面1bに対して少なくとも金属シリサイドを含む合金層が形成されている。これにより、ドレイン電極11は、合金層を介してn+型SiC基板1とオーミック接合されている。このため、ドレイン電極11には、SiCと反応することで少なくとも金属シリサイドを構成する材料を含んだ構成となっている。さらに、ドレイン電極11の表面は、接合用電極12によって覆われており、この接合用電極12を介して図示しない金属板もしくは回路基板との電気的接続が行える構成になっている。
【0026】
例えば、ドレイン電極11を構成する金属としては、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)等を用いることができる。Ni、Mo、TiはSiと反応してシリサイドを形成するものであり、Mo、TiについてはCと結合してカーバイドを形成することもできる。ドレイン電極11は、シリサイドを形成する金属のほか、例えば、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)等のCと結合してカーバイドを形成する金属を含んでいてもよい。ドレイン電極11を構成する金属は一種類の材料である必要は無く、ここで挙げた材料の複数を組み合わせた材料であってもよいし、材料の複数を積層した構成であってもよく、例えばMo/Niなどとされる。また、ドレイン電極11を構成する材料に不純物が含まれていても良い。
【0027】
例えば、ドレイン電極11は、n+型SiC基板1側からMo、Niを積層した構成の金属薄膜に2回以上のレーザアニールを施すことで、金属シリサイドおよび金属カーバイドを有するオーミック電極となっている。なお、2回以上のレーザアニールによるドレイン電極11の形成については、後述のSiC半導体装置の製造方法にて説明する。
【0028】
接合用電極12を構成する金属としては、はんだ付け等の接合に適した材料であれば良く、例えばTi/Ni/Auなどを用いることができる。
【0029】
以上が、SiC半導体装置の基本的な構成である。このSiC半導体装置のように表面側にデバイス領域を、裏面側に電極をそれぞれ備える構成では、デバイス領域への熱影響を低減しつつ、裏面電極と半導体基板とをオーミック接合にするために、レーザアニールが行われる。
【0030】
〔製造方法〕
次に、
図1の縦型パワーMOSFETの製造方法について説明するが、この縦型パワーMOSFETの基本的な製造方法に関しては従来と同様であるため、従来と異なるドレイン電極11の形成方法について
図2A~
図2Fを参照して主に説明する。
【0031】
まず、
図2Aに示すように、例えば350μmの厚みで構成されたn
+型SiC基板1を用意する。n
+型SiC基板1は、例えばn型不純物をドープしたSiCインゴットをスライスしたのち研磨することによって製造される。そして、図示しないが、n
+型SiC基板1の表面側に半導体素子の構成要素の少なくとも一部を形成するデバイス形成工程を行う。すなわち、n
-型エピ層2をエピタキシャル成長させたのち、図示しないマスクを用いたイオン注入により、p
-型ベース領域3a、3bやディープベース層30a、30bの形成工程、n
+型ソース領域4a、4bの形成工程を行う。さらに、ゲート絶縁膜7の形成工程、ゲート電極8の形成工程、絶縁膜9の形成工程およびソース電極10の形成工程等を行うことで、裏面1bとは反対側にデバイス構造として縦型パワーMOSFETの各構成要素を形成する。
【0032】
その後、図示しないが、研削研磨によってn
+型SiC基板1の裏面1b側の一部を除去し、n
+型SiC基板1を薄膜化する薄化工程を行う。例えば、n
+型SiC基板1の裏面1b側を表に向け、その反対側の一面をガラス基板に貼り付けた後、CMP(Chemical Mechanical Polishingの略)などを行うことでn
+型SiC基板1の裏面1b側の一部を除去する。このとき、薄化工程後の裏面1bの表面粗さRaが例えば5nm以下となるようにする。そして、
図2B~
図2Dに示す工程を経て、薄膜化後のn
+型SiC基板1の裏面1b上にドレイン電極11を形成する工程を行う。
【0033】
具体的には、
図2Bに示す工程として、薄膜化後のn
+型SiC基板1の裏面1bに対して、金属薄膜110を形成する。例えば、金属薄膜110は、Moによりなる第1層111とNiによりなる第2層112との積層膜で構成されている。金属薄膜110は、例えば、n
+型SiC基板1の裏面1bを表面処理して活性化させた後、無電解めっきを行うことにより形成される。金属薄膜110の厚みについては、例えば50~250nmとしている。
【0034】
なお、裏面1b上の金属薄膜110をMoによりなる第1層111とNiによりなる第2層112の積層構成とする場合には、NiとMoとのモル比が例えば1~2:1のように、NiがMo以上のモル比となるようにすると良い。また、金属薄膜110は、Mo層とNi層との積層構造に限らず、NiとMoの混合金属とされていても良い。
【0035】
次に、
図2Cに示す工程として、金属薄膜110にレーザ光50を照射することによりレーザアニールを行う。例えば、LD励起固体レーザなどの固体レーザを用いて、スキャニングしながらX-Y平面上において金属薄膜110が形成されたn
+型SiC基板1を走査し、レーザ光50をn
+型SiC基板1の裏面1b側に照射する。
【0036】
より詳しくは、固体レーザの照射口にトップハットビーム成形素子および集光レンズを配置して、トップハット型のレーザが金属薄膜110に照射されるようにしている。例えば基本波長が1064nmの固体レーザを用い、波長変換アダプタにて3倍波となる355nmもしくは4倍波となる266nmの波長に変換したものをレーザ光50として用いている。これらの波長とすることで、レーザ光50がSiCを透過しないようにできる。そして、後述するエネルギー密度の調整をしつつ、例えば、スポット径が75μm、スポット照射時のオーバーラップ率、つまりレーザ光50を走査したときに連続するスポットの径に対する重複長さの割合が50~70%となるようにする。このとき、XY方向それぞれの走査方向でオーバーラップ率が同じであってもよいし、X方向では50%、Y方向では50%~70%という具合に異なっていてもよい。
【0037】
金属薄膜110へのレーザ光50の照射は、少なくとも2回以上の複数回行うと共に、2回目以降のレーザ光照射については、既にレーザ光50を照射した領域内において、かつレーザ光50のエネルギー密度が段階的に高くなるように調整して行う。例えば、SiCウエハの所定の領域について、1回目のレーザ光50の照射をエネルギー密度2.0J/cm2で行ったとする。この場合、例えば、2回目のレーザ光50の照射についてはエネルギー密度2.2J/cm2としつつ、1回目のレーザ光50を照射した範囲内にて行う。もし3回目のレーザ光50の照射を行う場合には、そのエネルギー密度を例えば2.2J/cm2よりも大きい値に設定し、2回目のレーザ光50の照射範囲内で行う。
【0038】
なお、レーザ光50の複数回の照射については、例えば、レーザ光50のエネルギー密度は、いずれもSiCが溶融しない所定以下の値とされる。これは、n+型SiC基板1においてSiCが溶融してその一部が消失し、半導体素子の抗折強度が低下することを抑制するためである。以下、SiCを溶融させない所定以下の値のレーザ光50のエネルギー密度を便宜的に「低エネルギー密度」と称することがある。
【0039】
また、レーザ光50のエネルギー密度等の照射条件は、金属薄膜110を次に説明する合金層113に変化させるために必要な熱量が得られるように設定される。例えば、金属薄膜110がMo/Niの場合、NiSiが形成される温度(例えば600℃)以上、かつSiCが溶融しない温度(例えば970℃)以下となるように、レーザ光50の照射条件(例えばエネルギー密度)を調整すればよい。
【0040】
さらに、レーザ光50の照射間隔については、金属薄膜110のうちレーザ光50の照射箇所においてシリサイド反応が終了する程度の間隔を確保できていればよく、例えば限定するものではないが、1秒以上とされる。
【0041】
金属薄膜110に1回目のレーザ光50を照射したとき、金属薄膜110のうちレーザ光50が照射された領域は、例えば
図2Dに示すように、金属シリサイドおよび金属カーバイドを有してなる合金層113が生成される。合金層113は、第1層111がMo、第2層112がNiの場合には、主に、Ni
xSi
y(x>0、y>0)およびMoCにより構成される。このとき、合金層113は、様々な組成のNi
xSi
yが混在した状態となっており、n
+型SiC基板1とのコンタクト抵抗がまだ十分に小さくなっていない。
【0042】
続いて、例えば、1回目に照射するレーザ光50を第1のレーザ光とし、2回目に照射するレーザ光50を第2のレーザ光として、第1のレーザ光よりもエネルギー密度が高い第2のレーザ光を
図2Eに示すように金属薄膜110のうち合金層113に照射する。言い換えると、金属薄膜110のうち既にレーザ光50が照射された領域内、すなわち合金層113に2回目以降のレーザ光50を照射する。これにより、合金層113に更なるエネルギーが加えられ、合金層113における金属シリサイドNi
xSi
yの組成が変化し、n
+型SiC基板1とのコンタクト抵抗が小さいNi
2Siの割合が増加する。その結果、例えば
図2Fに示すように、n
+型SiC基板1とのコンタクト抵抗が小さいドレイン電極11(オーミック電極)が形成される。
【0043】
なお、
図2C~
図2Fでは、分かり易くするため、金属薄膜110のうち一部の領域にレーザ光50を照射する例を示しているが、これに限定されるものではなく、金属薄膜110の全域にレーザ光50を照射してオーミック電極を形成してもよい。
【0044】
このように、レーザアニールのような局所的なアニールとすることで、レーザ照射されていない領域の高温化を抑制できる低温プロセスによってドレイン電極11をオーミック接合させることが可能となる。このため、n+型SiC基板1の主表面1a側に形成されたデバイスへの影響を抑制することが可能となる。また、照射するレーザ光50のエネルギー密度がSiCを溶融させない所定以下の値に設定されているため、SiCの一部消失およびこれに伴う半導体素子の抗折強度の低下が抑制される。そのため、低コンタクト抵抗化および素子の抗折強度を両立することが可能となる。
【0045】
そして、この後は図示しないが、例えば、バリアメタルとなるTi、はんだ付け時の共晶材料Ni、酸化保護剤となるAuなどを順に積層することで接合用電極12を形成することができる。そして、ドレイン電極11側にダイシングテープを貼り付けてガラス基板から剥離したのち、ダイシングを行ってチップ単位に分割することで、SiC半導体装置が完成する。
【0046】
以上が、縦型パワーMOSFETの製造方法である。上記のように、本実施形態では、低コンタクト抵抗化および素子の抗折強度を両立しつつ、オーミック電極を形成するため、レーザ光50の照射を少なくとも2回以上、エネルギー密度を段階的に上げつつ行う。
【0047】
〔複数回のレーザ光照射による効果〕
次に、実施形態のレーザアニールによる効果について参照して説明する。
【0048】
まず、比較例として、SiCを溶融させるエネルギー密度(以下、便宜的に「高エネルギー密度」という)のレーザ光50を1回照射する方式のレーザアニールによるオーミック電極の形成について、
図3A、
図3Bを参照して説明する。
【0049】
図3A、
図3Bは、n
+型SiC基板1上の金属薄膜210のうちレーザ光50の1点のスポット照射部分を拡大して示した図である。
【0050】
SiC半導体装置におけるオーミック電極形成においては、比較例のレーザアニールは、例えば
図3Aに示すように、n
+型SiC基板1上に形成された金属薄膜210にレーザ光50がスポット照射され、レーザ光50を走査することにより行われる。金属薄膜210は、金属薄膜110と同様に、金属シリサイドや金属カーバイドを形成し得る金属材料によりなり、単層あるいは積層での構成とされる。
【0051】
比較例のレーザアニールでは、レーザ光50を走査する際に連続するスポットの径に対する重複部分を除き、基本的に、同じ領域に2回以上のレーザ光50が照射されることはない。比較例のレーザアニールによれば、金属薄膜210のうちレーザ光50が照射された箇所が金属シリサイドを含む合金層に変化し、例えば
図3Bに示すように、n
+型SiC基板1とオーミック接合するオーミック電極21を形成することができる。
【0052】
しかし、このとき、n+型SiC基板1の一部が溶融し、溶融した部分にオーミック電極21が形成される。言い換えると、n+型SiC基板1の一部が消失し、n+型SiC基板1のうち金属薄膜210との界面に凹凸が形成され、表面粗さが増大してしまう。本発明者らの検討結果によれば、n+型SiC基板1の表面粗さが増大すると、基板の抗折強度が低下する傾向にあることが判明している。
【0053】
具体的には、SiC基板に金属シリサイドを形成する金属薄膜を形成し、当該金属薄膜にレーザ光50の照射条件を変えてレーザアニールをした複数のサンプルを用意し、各サンプルについてオーミック電極の表面粗さおよび当該サンプルの抗折強度の評価を行った。その結果、例えば
図4に示すように、サンプルの表面粗さRa(単位:nm)が大きくなるほど、SiC基板の抗折強度(単位:MPa)が低下する傾向が得られた。これは、レーザアニールにより生じたSiCの表面凹凸が大きくなるにつれて、表面凹凸への応力集中が大きくなることが原因と考えられる。なお、
図4の破線は、各データに基づいて最小二乗法等の方法により得られた近似曲線である。
【0054】
つまり、比較例のレーザアニールでは、高エネルギー密度のレーザ光照射により、SiC基板とのコンタクト抵抗が小さいオーミック電極を形成することができる一方で、SiC基板の抗折強度が低下してしまい、これらの両立をすることが困難であった。しかし、単にレーザ光50のエネルギー密度を小さくしただけではSiCの溶融を抑え、素子の抗折強度を維持できるものの、シリサイド反応が不十分となり、低コンタクト抵抗を実現できない。
【0055】
この課題を解決するため、金属薄膜内においてエネルギー密度が低いレーザ光を照射する第1領域と、第1領域と異なる領域、かつ第1領域よりも高いエネルギー密度のレーザ光を照射する第2領域とに領域分けをすることが提案されている(例えば特許文献1)。
【0056】
しかし、近年、半導体装置や半導体素子の更なる小型化が進められており、上記のような低コンタクト抵抗化のための領域と素子の抗折強度確保のための領域とに分けることが困難となる。そのため、オーミック電極において、低コンタクト抵抗化と素子の抗折強度確保とを両立する領域を形成することが求められる。
【0057】
本発明者らによる鋭意検討の結果、エネルギー密度の異なるレーザ光照射を2回以上に分けて段階的に行うことにより、低コンタクト抵抗化と素子の抗折強度確保とを両立可能な半導体装置の製造方法を考案するに至った。
【0058】
実施例に係るレーザアニールは、
図2C~
図2Fに示すように、SiCを溶融させない低エネルギー密度のレーザ光50の照射を2回以上行い、2回目以降のレーザ光50の照射についてはそのエネルギー密度を既に照射したレーザ光50よりも高くする。また、2回目以降のレーザ光50の照射については、低エネルギー密度かつ既に照射したレーザ光50よりも高いエネルギー密度で行い、既にレーザ光50を照射した領域内で行う。この方法によれば、例えば
図2Fに示すように、金属薄膜110下のn
+型SiC基板1におけるSiCの溶融を抑えつつ、n
+型SiC基板1とオーミック接合されたドレイン電極11を形成することができる。
【0059】
次に、比較例および実施例のレーザアニールにより得られたサンプル(以下、単に「比較例のサンプル」、「実施例のサンプル」という)におけるコンタクト抵抗、表面粗さおよび抗折強度について、
図5、
図6を参照して説明する。
【0060】
図5では、縦軸のコンタクト抵抗については対数目盛の表示となっており、縦軸の上限値と下限値との差が1桁となっている。
図6では、プロットが左の縦軸である表面粗さを示し、棒グラフが右の縦軸である抗折強度を示している。また、
図5、
図6の横軸における「比較例」は比較例のサンプルを、「実施例」は実施例のサンプルを、それぞれ示すものである。
【0061】
なお、比較例のサンプルおよび実施例のサンプルは、SiC基板上の金属薄膜にレーザ光50を照射して形成されたオーミック電極を備えるサンプルであり、レーザ光50のエネルギー密度および照射回数を除き、他の条件については同一である。
【0062】
まず、コンタクト抵抗(単位:Ω)については、例えば
図5に示すように、実施例のサンプルは、比較例のサンプルと同じ桁の抵抗値であった。これは、低エネルギー密度のレーザ光50によるレーザアニールであっても、2回同じ領域にレーザ光50の照射を繰り返すことで、高エネルギー密度のレーザ光50によるレーザアニールと同程度の低コンタクト抵抗化の効果が得られることを示している。
【0063】
表面粗さについては、例えば
図6に示すように、実施例のサンプルは、比較例のサンプルよりも小さくなっていた。これは、低エネルギー密度のレーザ光50としたことで、レーザアニール時のSiCの溶融が抑制され、SiC基板とオーミック電極との界面における凹凸が低減したことで、オーミック電極表面の表面粗さが低減されたことを示唆している。以下、説明の便宜上、SiC基板とオーミック電極との界面における凹凸を「界面凹凸」と称する。
【0064】
抗折強度については、例えば
図6に示すように、実施例のサンプルは、比較例のサンプルよりも2倍近く大きくなっていた。これは、レーザアニール時のSiCの溶融が抑制され、界面凹凸が低減した結果、SiC基板における応力集中が緩和され、抗折強度が向上したことを示すと考えられる。
【0065】
なお、素子強度を確保できる抗折強度は、1000MPa以上であり、製造される製品のすべてにおいて抗折強度が1000MPa以上になるようにするのが望ましい。比較例のサンプルは抗折強度が1000MPa未満となりうるのに対し、実施例のサンプルは、いずれも抗折強度が1000MPa以上であった。
【0066】
上記したように、レーザ光50を低エネルギー密度とし、少なくとも2段階のレーザアニールを行うことにより、オーミック電極の同じ部位においてコンタクト抵抗を下げつつ、抗折強度を確保することが可能となる。つまり、SiCの溶融を抑えた上で、合金層を形成する第1工程と、第1工程で形成した金属シリサイドの組成を変化させ、コンタクト抵抗を下げる第2工程とを含むレーザアニールによりオーミック電極を形成する。これにより、電極の同じ領域において低コンタクト抵抗化しつつも、半導体素子の抗折強度を確保することができ、信頼性の高い半導体装置を製造することができる。
【0067】
本実施形態によれば、高エネルギー密度のレーザ光50の照射やレーザ光照射の領域分けをする必要がなくなり、低コンタクト抵抗化および素子の抗折強度の確保を両立できる半導体装置の製造方法となる。また、n+型SiC基板1の裏面1b上の金属薄膜110の全域にレーザ光50を照射することができるため、半導体素子が小型化された場合であっても適用可能となる。
【0068】
(他の実施形態)
本発明は、実施例に準拠して記述されたが、本発明は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本発明は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらの一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本発明の範疇や思想範囲に入るものである。
【0069】
例えば、上記実施形態では、SiC半導体装置を代表例として説明したが、SiC半導体装置以外の半導体装置についても、複数回のレーザアニールによりオーミック電極を形成することが可能であり、SiC半導体装置に限定されない。また、レーザアニールによるオーミック電極の一例としてドレイン電極11を挙げたが、これに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0070】
1 炭化珪素半導体基板
1a 主表面
1b 裏面
11 オーミック電極
110 金属薄膜
50 レーザ光