(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076842
(43)【公開日】2022-05-20
(54)【発明の名称】鉄筋籠およびコンクリート構造物の構築方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/12 20060101AFI20220513BHJP
E02D 5/34 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
E04G21/12 105A
E04G21/12 105B
E02D5/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020187455
(22)【出願日】2020-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】山野辺 慎一
【テーマコード(参考)】
2D041
【Fターム(参考)】
2D041AA01
2D041BA02
2D041BA12
2D041BA33
2D041CA03
2D041CB05
2D041DA03
2D041EB01
2D041EB10
(57)【要約】
【課題】鉄塔深礎等のコンクリート構造物を好適に補強できる鉄筋籠等を提供する。
【解決手段】鉄筋籠1は、コンクリート構造物の構築時に用いられ、上下に伸縮可能である。鉄筋籠1は、鉄筋籠1の周方向に間隔を空けて複数本配置された可とう性を有するストランド11と、上下複数段に配置された鉄筋籠1の周方向の帯筋12と、を有し、ストランド11と帯筋12とが回転可能に接合され、上下の帯筋12に、コンクリート構造物の補強用鋼材4の両端部が取り付けられ、補強用鋼材4は、可とう性を有し、ストランド11がらせん状に捩じれた鉄筋籠1の収縮状態からストランド11の捩じれを解消して鉄筋籠1を伸長させる際、上下の帯筋12が鉄筋籠1の周方向に相対回転することで補強用鋼材4が平面において外側に膨らむ。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の構築時に用いる上下に伸縮可能な鉄筋籠であって、
鉄筋籠の周方向に間隔を空けて複数本配置された可とう性を有する軸方向鋼材と、
上下複数段に配置された鉄筋籠の周方向の帯筋と、
を有し、
前記軸方向鋼材と前記帯筋とが回転可能に接合され、
上下の前記帯筋に、コンクリート構造物の補強用鋼材の両端部が取り付けられ、
前記軸方向鋼材がらせん状に捩じれた前記鉄筋籠の収縮状態から前記軸方向鋼材の捩じれを解消して前記鉄筋籠を伸長させる際、上下の前記帯筋が鉄筋籠の周方向に相対回転することで前記補強用鋼材が平面において外側に膨らむことを特徴とする鉄筋籠。
【請求項2】
前記補強用鋼材は、前記鉄筋籠の周方向に間隔を空けて複数本設けられることを特徴とする請求項1記載の鉄筋籠。
【請求項3】
前記補強用鋼材は、前記鉄筋籠の下端部に設けられることを特徴とする請求項1または請求項2記載の鉄筋籠。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の鉄筋籠を、拡幅部を有する立坑内で伸長させて前記補強用鋼材を前記拡幅部に配置し、
前記立坑にコンクリートを打設することを特徴とすることを特徴とするコンクリート構造物の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋籠とこれを用いたコンクリート構造物の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄塔深礎などでは、地盤中の基礎底部を顎状に拡幅することで、拡幅部上の地盤の重量を基礎の引揚抵抗として考慮でき、基礎の軽量化や施工コストの低減が可能になる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
基礎内部には鉄筋籠が埋設され、鉄筋籠の下端部は基礎の底部のコンクリートに定着される。基礎の引揚力は、当該定着部から拡幅部を経由して拡幅部の上面に伝達され、拡幅部上の地盤の重量により支持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
引揚力の伝達のためには、基礎の拡幅部が無筋状態であるよりも、拡幅部に配筋がされている方が良い。しかしながら、鉄塔深礎などの比較的細径の基礎では、立坑上から円筒状の鉄筋籠を挿入することで配筋が行われており、立坑内部に人が入って拡幅部への配筋作業を行うことは難しい。
【0006】
また、基礎の引揚抵抗の観点からは、鉄筋籠の下端部が基礎の底部で確実に定着されていることが重要である。通常の鉄筋籠は鉄筋とコンクリートの付着による定着を期待する構成となっているところ、それのみでは定着力の面で懸念もある。
【0007】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、鉄塔深礎等のコンクリート構造物を好適に補強できる鉄筋籠等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決するための第1の発明は、コンクリート構造物の構築時に用いる上下に伸縮可能な鉄筋籠であって、鉄筋籠の周方向に間隔を空けて複数本配置された可とう性を有する軸方向鋼材と、上下複数段に配置された鉄筋籠の周方向の帯筋と、を有し、前記軸方向鋼材と前記帯筋とが回転可能に接合され、上下の前記帯筋に、コンクリート構造物の補強用鋼材の両端部が取り付けられ、前記軸方向鋼材がらせん状に捩じれた前記鉄筋籠の収縮状態から前記軸方向鋼材の捩じれを解消して前記鉄筋籠を伸長させる際、上下の前記帯筋が鉄筋籠の周方向に相対回転することで前記補強用鋼材が平面において外側に膨らむことを特徴とする鉄筋籠である。
【0009】
本発明の鉄筋籠は、可とう性を有する軸方向鋼材を帯筋と回転可能に接合したものであり、軸方向鋼材と帯筋の交差角が変化することにより上下の帯筋の間隔が増減し、軸方向鋼材が帯筋と直交する伸長状態と、軸方向鋼材が帯筋に対し傾斜しらせん状に捩じれて配置される収縮状態とを実現するものである。この鉄筋籠を収縮状態から伸長させることで、軸方向鋼材の捩じれが解消され、当該軸方向鋼材に接合した上下の帯筋が鉄筋籠の周方向に相対回転し、補強用鋼材が外側に膨らむ。この補強用鋼材により鉄筋籠の下端部がコンクリート内に確実に定着され、また立坑等の拡幅部にも補強用鋼材を容易に配置できる。
【0010】
前記補強用鋼材は、前記鉄筋籠の周方向に間隔を空けて複数本設けられることが望ましい。
これにより、鉄筋籠から外側に膨らんだ補強用鋼材を鉄筋籠の周囲全体に配置できる。
【0011】
前記補強用鋼材は、前記鉄筋籠の下端部に設けられることが望ましい。
これにより、立坑等の底部に、鉄筋籠から外側に膨らんだ補強用鋼材を配置できる。
【0012】
第2の発明は、第1の発明の鉄筋籠を、拡幅部を有する立坑内で伸長させて前記補強用鋼材を前記拡幅部に配置し、前記立坑にコンクリートを打設することを特徴とすることを特徴とするコンクリート構造物の構築方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、鉄塔深礎等のコンクリート構造物を好適に補強できる鉄筋籠等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
(1.基礎100)
図1は、本発明の実施形態に係る鉄筋籠1を含むコンクリート構造物である基礎100を示す図である。基礎100は例えば鉄塔深礎であるが、これに限ることはない。
【0017】
基礎100は、地盤2に形成した立坑3内にコンクリートを打設して構築され、コンクリートの内部に鉄筋籠1が埋設される。基礎100の下端部には拡幅部101が設けられ、鉄筋籠1に取り付けられた補強用鋼材4がこの拡幅部101に埋設される。
【0018】
(2.鉄筋籠1)
図2は鉄筋籠1を示す図である。鉄筋籠1は上下に伸縮可能であり、
図2(a)は鉄筋籠1が完全に伸びた状態、(c)は鉄筋籠1を完全に縮小させた状態、(b)はその中間の状態を示している。
【0019】
鉄筋籠1はストランド11と帯筋12を有する。ストランド11は鉄筋籠1の軸方向鋼材であり、鉄筋籠1の周方向に間隔を空けて複数本配置される。帯筋12はストランド11を囲むように鉄筋籠1の周方向に設けられる鉄筋であり、上下複数段に配置される。帯筋12とストランド11は、その交差部で回転可能に接合される。
【0020】
ストランド11は複数本のPC鋼線を撚り合わせたものであり、可とう性を有する。鉄筋籠1は、
図2(a)の矢印Aで示すようにストランド11を鉄筋籠1の周方向に捩じることで、
図2(b)、(c)に示すようにストランド11と帯筋12の交差角を変化させ、ストランド11を帯筋12に対し傾斜したらせん状とし、上下の帯筋12の間隔を縮めて鉄筋籠1の全長を縮小する事ができる。一方、ストランド11を直線状に伸ばすことで、ストランド11と帯筋12が直交して上下の帯筋12の間隔が元に戻り、
図2(a)に示すように鉄筋籠1を元の長さに戻すことが可能である。
【0021】
前記の補強用鋼材4は鉄筋籠1の下端部に取り付けられる。補強用鋼材4には複数本のPC鋼線を撚り合わせたものを用いることができ、ストランド11と同様可とう性を有する。複数本のPC鋼線を撚り合わせたものを複数条用意してこれらを1セットとし、1個の補強用鋼材4として用いてもよい。補強用鋼材4は、
図2(c)に示す鉄筋籠1の収縮状態では鉄筋籠1の外周部に沿って配置され、鉄筋籠1の伸長に伴って、
図2(a)に示すように補強用鋼材4が鉄筋籠1から外側に膨らむようになっている。
【0022】
なお、補強用鋼材4としては、その両端がネジ棒を用いたピン結合機構(例えば、特開2006-274726号公報参照)等で帯筋12にピン結合されていれば、異形鉄筋のような剛な鋼材を用いることもできる。さらに、例えば補強用鋼材4に一般的な降伏点が345N/mm2で呼び径16mmの鉄筋を用いる場合、直径(ここでは、曲率半径の2倍の値をいう。以下同様)2.0mに曲げ加工したものは直径2.5m程度まで弾性変形で径を変形させることが可能であるから、帯筋12の外周径が2m程度以上であれば、補強用鋼材4に断面径16mm程度の鉄筋を使用し、両端を帯筋12に溶接して接合することも可能である。このように、帯筋12の径と使用する補強用鋼材4の太さによっては、補強用鋼材4に異形鉄筋を用い、両端を帯筋12に溶接で接合することも可能である。
【0023】
図3(a)は鉄筋籠1の下端部を示す図であり、左図は鉄筋籠1が収縮した状態、右図は鉄筋籠1が伸長した状態である。また
図3(b)は、
図3(a)の鉄筋籠1について、補強用鋼材4および補強用鋼材4を取り付けた帯筋12のみを図示したものである。
【0024】
図3(a)、(b)に示すように、補強用鋼材4は上下の帯筋12を接続するように設けられ、補強用鋼材4の両端部が上下の帯筋12のそれぞれに取付けられる。本実施形態では補強用鋼材4の両端部を上下の帯筋12に溶接するが、これに限らず、補強用鋼材4の両端部を上下の帯筋12に回転可能に接合してもよい。
【0025】
鉄筋籠1の収縮状態では補強用鋼材4が鉄筋籠1の外周部に沿って取付けられているが、鉄筋籠1を伸長させると、ストランド11の捩りの解消に伴って上下の帯筋12が鉄筋籠1の周方向に相対回転し、これにより補強用鋼材4が撓んで平面において曲線状に鉄筋籠1の外側に膨らむ。
【0026】
本実施形態では、補強用鋼材4の両端部を取り付けた帯筋12について、
図3(b)の矢印bに示すように上側の帯筋12が下側の帯筋12に対し半周程度相対回転し、これにより補強用鋼材4が外側に膨らむ。補強用鋼材4が外側に膨らむ距離は、補強用鋼材4と鉄筋籠1を所定長の紐等で結ぶなどして、当該所定長に規制することができる。
【0027】
なお補強用鋼材4は鉄筋籠1の周方向に間隔を空けて複数本設けられるが、
図3(a)(b)では説明のためこのうち1本の補強用鋼材4のみ図示した。
図3(c)は上記複数本の補強用鋼材4が外側に膨らんだ時の平面における配置の例を示したものであり、複数本の補強用鋼材4が鉄筋籠1の周囲全体に広がり、また上から見たときに、複数本の補強用鋼材4が上下に重なっている。
【0028】
なお
図3(a)では、ストランド11についても、鉄筋籠1の周方向に間隔を空けて配置された複数本のストランド11のうち1本のストランド11のみを図示している。
【0029】
(3.基礎100の構築方法)
次に、
図4等を参照して鉄筋籠1を用いた基礎100の構築方法について説明する。
【0030】
図4(a)に示すように、本実施形態ではまず地盤2に立坑3を形成する。立坑3の底部には拡幅部31が形成される。
【0031】
その後、
図4(b)に示すように、鉄筋籠1を立坑3の上部に配置する。鉄筋籠1は紐などの固縛材(不図示)で固縛して収縮状態とし、鉄筋籠1の上端部と下端部が、それぞれ別の吊り装置(不図示)からワイヤ等の線材5a、5bにより吊られる。
【0032】
この状態から、鉄筋籠1の固縛を解除して、鉄筋籠1の下端部に取り付けた線材5bを下方に繰り出すと、鉄筋籠1の下端部が下方に伸展する。
【0033】
これにより、
図4(c)に示すように鉄筋籠1が伸長するとともに鉄筋籠1の下端部に設けた補強用鋼材4が外側に膨らみ、
図4(d)に示すように鉄筋籠1の下端部が立坑3の底部に達した時に、外側に膨らんだ補強用鋼材4が立坑3の拡幅部31内に配置される。
【0034】
こうして立坑3内に鉄筋籠1を配置した後、立坑3内にコンクリートを打設することで、
図1で説明した基礎100が構築される。
【0035】
以上説明したように、本実施形態では、鉄筋籠1を収縮状態から伸長させることで、ストランド11の捩じれが解消され、ストランド11に接合した上下の帯筋12が鉄筋籠1の周方向に相対回転し、これにより補強用鋼材4が外側に膨らむ。この補強用鋼材4により鉄筋籠1の下端部がコンクリート内に確実に定着され、また立坑3の拡幅部31にも補強用鋼材4を容易に配置できる。
【0036】
また補強用鋼材4は鉄筋籠1の周方向に複数本設けられるので、鉄筋籠1から外側に膨らんだ補強用鋼材4を鉄筋籠1の周囲全体に配置できる。
【0037】
また本実施形態では補強用鋼材4が鉄筋籠1の下端部に設けられており、立坑3の底部の拡幅部31に、鉄筋籠1から外側に膨らんだ補強用鋼材4を配置できる。
【0038】
しかしながら、本発明は上記の実施形態に限定されない。例えば
図5(a)に示すように、上下複数段に補強用鋼材4を取り付けた鉄筋籠1aを用い、上下複数段の拡幅部101のそれぞれに補強用鋼材4を埋設した基礎100aを構築してもよい。また
図5(b)に示すように、拡幅部101を有しない基礎100bに鉄筋籠1を埋設し、鉄筋籠1の下端部の補強用鋼材4により定着効果を高めることも可能である。
【0039】
また本実施形態では、補強用鋼材4の両端部を上下の帯筋12に取り付けているが、補強用鋼材4の両端部を取り付ける上下の帯筋12の間隔は自由に設定でき、当該上下の帯筋12の間では帯筋12を設けないようにすることも可能である。
【0040】
また本実施形態ではコンクリート構造物として基礎100を構築する例を説明したが、本発明はその他のコンクリート構造物、例えば筒状構造物を立坑3内に構築する際にも適用可能である。
【0041】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0042】
1、1a:鉄筋籠
2:地盤
3:立坑
4:補強用鋼材
11:ストランド
12:帯筋
31、101:拡幅部
100、100a、100b:基礎