(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076884
(43)【公開日】2022-05-20
(54)【発明の名称】接近警告システム
(51)【国際特許分類】
B66C 23/88 20060101AFI20220513BHJP
【FI】
B66C23/88 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020187530
(22)【出願日】2020-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】515332263
【氏名又は名称】株式会社インフォキューブLAFLA
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】片山 三郎
(72)【発明者】
【氏名】太田 兵庫
(72)【発明者】
【氏名】石井 喬之
(72)【発明者】
【氏名】田中 健吾
(72)【発明者】
【氏名】田中 大輔
【テーマコード(参考)】
3F205
【Fターム(参考)】
3F205HC05
(57)【要約】
【課題】作業員への吊り荷の接近を従来よりも精度よく知らせることができる接近警告システムを提供する。
【解決手段】接近警告システム1は、ジブを有するクレーン2と、前記作業員の位置情報を取得する第一位置情報取得手段5Aと、前記吊り荷が前記作業員に接近しているか否かを判定する接近判定装置としての管理PC4と、を備え、クレーン2は、前記ジブの先端部の位置情報を取得する第二位置情報取得手段5Bを有し、前記接近判定装置は、取得した前記ジブの先端部の位置情報の経時変化から、当該位置情報を最後に取得した時点よりも後の時点における前記ジブの先端部の位置を推定する位置推定手段4bと、推定した前記先端部の位置を基準にして警告領域を水平面内に設定し、前記作業員の水平面上での位置が前記警告領域に含まれているか否かを判定する接近判定手段4cとを有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーンに吊持された吊り荷と作業員との接近を警告する接近警告システムであって、
ジブを有するクレーンと、
前記作業員の位置情報を取得する第一位置情報取得手段と、
前記吊り荷が前記作業員に接近しているか否かを判定する接近判定装置と、
前記作業員および前記クレーンの操作者の少なくとも何れか一方に判定結果を通知する通知手段と、を備え、
前記クレーンは、前記ジブの先端部の位置情報を取得する第二位置情報取得手段を有し、
前記接近判定装置は、
取得した前記ジブの先端部の位置情報の経時変化から、当該位置情報を最後に取得した時点よりも後の時点における前記ジブの先端部の位置を推定する位置推定手段と、
推定した前記先端部の位置を基準にして警告領域を水平面内に設定し、前記作業員の水平面上での位置が前記警告領域に含まれているか否かを判定する接近判定手段と、を有する、
ことを特徴とする接近警告システム。
【請求項2】
前記クレーンは、移動手段と、
前記ジブの基端部の位置情報を取得する第三位置情報取得手段と、を有し、
前記位置推定手段は、取得した前記ジブの先端部および基端部の位置情報の経時変化から、当該位置情報を最後に取得した時点よりも後の時点における前記ジブの基端部に対する先端部の位置を推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の接近警告システム。
【請求項3】
前記ジブは、旋回動作が可能であり、
前記位置推定手段は、取得した前記先端部の位置情報の経時変化から前記ジブの角速度または角加速度を算出し、算出した角速度または角加速度に基づいて前記ジブの先端部の水平面上での位置を推定する、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の接近警告システム。
【請求項4】
前記ジブは、起伏動作、伸縮動作および屈曲動作の何れかが可能であり、
前記位置推定手段は、取得した前記先端部の位置情報の経時変化から前記先端部の速度または加速度を算出し、算出した速度または加速度に基づいて前記ジブの先端部の水平面上での位置を推定する、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか一項に記載の接近警告システム。
【請求項5】
前記警告領域は、推定した前記先端部の位置を中心とした円形の領域である、ことを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れか一項に記載の接近警告システム。
【請求項6】
前記位置推定手段は、前記クレーンの周囲に存在する他のクレーンにおける前記ジブの位置をさらに推定し、
前記接近判定手段は、クレーン同士が接近しているか否かを判定する、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項5の何れか一項に記載の接近警告システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接近警告システムに関する。
【背景技術】
【0002】
クレーンの吊り荷の落下事故を防止するため、クレーンの安全監視は細心の注意を払って行われている。クレーンの安全監視は、例えばクレーンを監視する専属の監視員を配備して行われるのが一般的であり、監視員は、クレーンの吊り荷の接近を作業員に知らせる。また、クレーンの作業をより安全なものにするために、従来から様々な技術の開発が進められている(例えば、特許文献1を参照)。
特許文献1に記載される技術は、クレーンのブーム(「ジブ」とも呼ばれる)の先端またはフック部に位置情報を取得する位置情報取得手段(例えば、GPS(Global Positioning System)受信機)を設け、クレーンの吊り荷と作業員とが平面的に所定の距離範囲内に接近した場合に警告を発生させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、GPSの受信遅延や無線通信の通信遅延が考慮されていなかった。その為、GPS電波や通信電波の受信状況がよくない工事現場においては、クレーンの吊り荷と作業員とが予め設定した距離よりも接近してから警告を知らせることがある。
このような観点から、本発明は、作業員への吊り荷の接近を従来よりも精度よく知らせることができる接近警告システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る接近警告システムは、クレーンに吊持された吊り荷と作業員との接近を警告する接近警告システムである。この接近警告システムは、ジブを有するクレーンと、前記作業員の位置情報を取得する第一位置情報取得手段と、前記吊り荷が前記作業員に接近しているか否かを判定する接近判定装置と、前記作業員および前記クレーンの操作者の少なくとも何れか一方に判定結果を通知する通知手段とを備える。
前記クレーンは、前記ジブの先端部の位置情報を取得する第二位置情報取得手段を有する。前記接近判定装置は、取得した前記ジブの先端部の位置情報の経時変化から、当該位置情報を最後に取得した時点よりも後の時点における前記ジブの先端部の位置を推定する位置推定手段と、推定した前記先端部の位置を基準にして警告領域を水平面内に設定し、前記作業員の水平面上での位置が前記警告領域に含まれているか否かを判定する接近判定手段とを有する。
【0006】
本発明に係る接近警告システムにおいては、算出した推定位置に基づいて警告を通知するか否かを判定するので、クレーンのジブの位置情報を取得するまでに様々な遅延(例えば、GPSの受信遅延や無線通信の通信遅延)が発生する工事現場でも適切に吊り荷と作業員との接近を判定できる。
【0007】
前記クレーンは、移動手段と、前記ジブの基端部の位置情報を取得する第三位置情報取得手段とを有していてもよい。その場合、前記位置推定手段は、取得した前記ジブの先端部および基端部の位置情報の経時変化から、当該位置情報を最後に取得した時点よりも後の時点における前記ジブの基端部に対する先端部の位置を推定する。
このようにすると、移動式のクレーンであっても適切に吊り荷と作業員との接近を判定できる。
【0008】
前記ジブは、旋回動作が可能である場合、前記位置推定手段は、取得した前記先端部の位置情報の経時変化から前記ジブの角速度または角加速度を算出し、算出した角速度または角加速度に基づいて前記ジブの先端部の水平面上での位置を推定してもよい。
また、前記ジブは、起伏動作、伸縮動作および屈曲動作の何れかが可能である場合、前記位置推定手段は、取得した前記先端部の位置情報の経時変化から前記先端部の速度または加速度を算出し、算出した速度または加速度に基づいて前記ジブの先端部の水平面上での位置を推定してもよい。
このようにすると、クレーンが有するジブの種類に応じて、適切に吊り荷と作業員との接近を判定できる。
【0009】
前記警告領域は、推定した前記先端部の位置を中心とした円形の領域にしてもよい。
このようにすると、吊り荷の周囲にいる作業員の接近を漏れなく判定できる。
また、前記位置推定手段は、前記クレーンの周囲に存在する他のクレーンにおける前記ジブの位置をさらに推定し、前記接近判定手段は、クレーン同士が接近しているか否かを判定してもよい。
このようにすると、クレーン同士の接近を適切に判定できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、作業員への吊り荷の接近を従来よりも精度よく知らせることができる接近警告システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る接近警告システムの概略構成図である。
【
図2】クレーンの構成を説明するための図であり、(a)はクレーンの概略外観図であり、(b)はクレーンの概略平面図である。
【
図3】作業員用端末の構成例を示す概略外観図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係る接近警告システムのブロック図である。
【
図5】本発明の第1実施形態に係る接近警告システムの動作を示すフローチャートの例示である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係る接近警告システムの概略構成図である。
【
図7】本発明の第2実施形態に係る接近警告システムのブロック図である。
【
図8】本発明の第2実施形態に係る接近警告システムの動作を示すフローチャートの例示である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施をするための形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0013】
[第1実施形態]
<第1実施形態に係る接近警告システムの構成>
図1を参照して、第1実施形態に係る接近警告システム1の構成について説明する。
図1は、第1実施形態に係る接近警告システム1の概略構成図である。
接近警告システム1は、クレーン2に吊持された物体(「吊り荷」と呼ぶ場合がある)と作業員との接近を監視および警告するシステムである。なお、接近警告システム1に用いるクレーン2の種類や吊り荷の種類は特に限定されない。
【0014】
図1に示すように、接近警告システム1は、主に、物体を吊り上げて運ぶクレーン2と、作業員が所持する作業員用端末3と、吊り荷と作業員との距離(接近具合)を監視する管理PC4とを備える。クレーン2と管理PC4とは通信可能であり、また、作業員用端末3と管理PC4とは通信可能である。詳細は後記するが、クレーン2および作業員用端末3は、位置情報取得手段(第一位置情報取得手段5A、第二位置情報取得手段5B、第三位置情報取得手段5C(
図2および
図3を参照))を有しており、管理PC4は、位置情報取得手段で取得した位置情報を用いて吊り荷と作業員との距離(接近具合)を判定する。位置情報取得手段は、例えばGPS(Global Positioning System)受信機である。なお、管理PC4は、クレーン2に搭載されていてもよい。
【0015】
図2を参照して、クレーン2の構成について説明する。
図2(a)は、クレーン2の概略外観図であり、
図2(b)はクレーン2の概略平面図である。なお、
図2に示すクレーン2はあくまで例示である。
クレーン2は、例えば旋回動作、起伏動作、伸縮動作および屈曲動作の何れか、またはこれらの動作の組合せによって、吊り上げた物体(吊り荷)の前後上下左右方向の位置を変更できる。本実施形態に係るクレーン2は、移動手段2dを有する移動式クレーンを想定しているが、移動手段2dを備えない固定式クレーンであってもよい。
【0016】
図2(a)に示すクレーン2は、主に、本体部2aと、ジブ2bと、フック2cとを備える。
本体部2aは、操作者が操作を行う操作室、吊り荷を吊り上げる動力を発生させる動力源などを備える。操作室には、操作を行うために必要な情報を操作者に通知するためのモニタやスピーカが設置されている。本体部2aは、鉛直方向を回動軸として回動(旋回)可能である。なお、操作室に設置されるモニタやスピーカは、通知手段の一例である。
ジブ2bは、長尺な形状を呈している。ジブ2bの一方の端部(基端部)は、本体部2aに連結されている。ジブ2bは、基端部を支点として上下動が可能である。ジブ2bの構造は特に限定されず、ジブ2bが複数の部品(例えば、第一ジブ、第二ジブなど)によって構成されていてもよい。ジブ2bは、例えば延伸方向の伸縮が可能な構造であったり、ジブ2bの先端部と基端部とが接近する方向に屈曲が可能な構造であってもよい。ジブ2bは、「ブーム」と呼ばれる場合もある。
フック2cは、金属製のロープによって本体部2aの動力源に繋がれており、ジブ2bの先端部から垂れ下がった状態になっている。フック2cは、物体を吊り上げることが可能な構造である。
これらの構成により、クレーン2は、動力源が発生する動力によって物体(吊り荷)を吊り上げ、吊り上げた状態の吊り荷を水平に運搬することができる。
【0017】
図2(a),(b)に示すように、クレーン2は、第二位置情報取得手段5Bおよび第三位置情報取得手段5Cを有する。第二位置情報取得手段5Bおよび第三位置情報取得手段5Cは、図示しない測位用衛星からの電波(測位用信号)を受信するアンテナを有しており、受信した電波を用いて位置(緯度、経度、高度)を計算する装置である。測位用衛星は、例えば自身の位置情報(軌道位置情報)や時刻情報を周期的に送信する。測位用衛星は、例えば、GPS(Global Positioning System)衛星、GLONASS(Global Navigation Satellite System)衛星、Galileo衛星、全球測位衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)、準天頂衛星などであってよい。なお、第二位置情報取得手段5Bおよび第三位置情報取得手段5Cは、自身で位置の計算を行わず、他の機器や他の装置で位置の計算を行ってもよい。
【0018】
第二位置情報取得手段5Bは、ジブ2bの先端部に取り付けられており、ジブ2bの先端部の位置情報を取得する。
第三位置情報取得手段5Cは、ジブ2bの基端部に取り付けられており、ジブ2bの基端部の位置情報を取得する。ジブ2bの基端部は、本体部2aに連結されているので、第三位置情報取得手段5Cは、本体部2a(ジブ2bの近傍であるのがよい)に取り付けられていてもよい。
【0019】
図1に示す作業員用端末3は、工事現場で作業する作業員によって所持される。作業員用端末3は、他の装置との通信手段、作業員への通知手段、位置情報を取得する位置情報取得手段を備える装置である。作業員用端末3は、複数の装置で構成されるものであってもよく、その場合に、各々の装置が前記した三つの全ての手段を必ず備えていなくてもよい。例えば、二つの装置で作業員用端末3が構成されている場合、一方の装置が通信手段および位置情報取得手段を備え、他方の装置が通信手段および通知手段を備える構成であってもよい。
【0020】
図3を参照して、本実施形態における作業員用端末3の具体的な構成について説明する。
図3は、作業員用端末3の構成例を示す概略外観図である。
図3に示すように、本実施形態における作業員用端末3は、第一作業員用端末3Aと、第二作業員用端末3Bとで構成される。
第一作業員用端末3Aは、例えばスマートフォンや携帯型電話機であり、通信手段と、位置情報取得手段(ここでは「第一位置情報取得手段5A」と呼ぶ)とを備える。第一作業員用端末3Aは、作業員によって所持されており、第一位置情報取得手段5Aは、作業員の位置情報を取得する。
第二作業員用端末3Bは、例えば腕時計型のウェアラブルデバイス(「スマートウォッチ」と呼ぶ場合がある)であり、通信手段と、通知手段とを備える。
【0021】
図1に示す管理PC4は、建設工事の管理のために用いられる端末であり、例えば建設工事用のアプリケーションプログラムを有するPC(Personal Computer)である。本実施形態に係る管理PC4は、「接近判定装置」の一例であり、吊り荷が作業員に接近しているか否かを判定する。
図4を参照して、接近警告システム1における主なデータの流れについて説明する。
図4は、本発明の第1実施形態に係る接近警告システム1のブロック図である。
図4に示すように、クレーン2は演算手段2eおよび通信手段2fを備える。クレーン2の通信手段2fは、第二位置情報取得手段5Bで取得したジブ2bの先端部の位置情報および第三位置情報取得手段5Cで取得したジブ2bの基端部の位置情報を管理PC4に送信する。同様にして、第一作業員用端末3Aは、第一位置情報取得手段5Aで取得した作業員の位置情報を管理PC4に送信する。これらの位置情報は、何らかの時刻情報に関連付けられているのがよい。位置情報に関連付けられる時刻情報は、例えば測位用衛星から送信される電波に含まれる時刻情報や、クレーン2(または第一作業員用端末3A)が管理PC4に位置情報を送信する時刻情報などであってよい。
【0022】
図4に示すように管理PC4は、通信手段4aと、位置推定手段4bと、接近判定手段4cとを備える。通信手段4aは、例えば無線通信を実現するモジュールであり、通信手段4aによる無線通信の方式は特に限定されない。位置推定手段4bおよび接近判定手段4cは、例えばCPU(Central Processing Unit)が図示しないROM(Read Only Memory)等から所定のプログラムを読み出して実行することにより実現される。
【0023】
管理PC4は、通信手段4aを介してクレーン2からジブ2bの先端部および基端部の位置情報を取得(受信)する。また、管理PC4は、通信手段4aを介して第一作業員用端末3Aから作業員の位置情報を取得(受信)する。管理PC4が取得する位置情報は、無線通信による通信遅延の影響などがあり、管理PC4が位置情報を取得した時点で実際の位置と多少のずれが発生している場合がある。
【0024】
位置推定手段4bは、吊り荷の位置を推定する。ここでの吊り荷の推定位置は、作業員と吊り荷とが接近しているか否かを判定するための基準となる情報であり、例えば現時点や近い未来(例えば、数秒後)における吊り荷の位置である。位置推定手段4bは、様々な遅延を考慮して吊り荷の位置を計算するものとし、また、ジブ2bの先端部の位置を吊り荷の位置と仮定して現時点や近い未来(例えば、数秒後)におけるジブ2bの位置を計算してもよい。本実施形態においてもジブ2bの先端部の位置を吊り荷の位置と仮定して計算することを想定し、位置推定手段4bは、取得したジブ2bの先端部の位置情報の経時変化から、当該位置情報を最後に取得した時点よりも後の時点におけるジブ2bの先端部の位置を推定する。なお、計算する吊り荷の位置は、二次元の位置(緯度、経度)および三次元の位置(緯度、経度、高度)の何れであってもよい。吊り荷の落下を考慮して吊り荷の下方に作業員が入らないように警告する場合、吊り荷と作業員との位置関係は二次元で考慮すればよいので、吊り荷の二次元の位置を計算してもよい。本実施形態でも二次元での位置関係によって作業員に警告を行うことにする。
【0025】
例えば、ジブ2bの旋回動作を可能であるクレーン2を想定する。この場合、位置推定手段4bは、例えば取得したジブ2bの先端部の位置情報の経時変化からジブ2bの角速度または角加速度を算出し、算出した角速度または角加速度に基づいてジブ2bの先端部の水平面上での位置を推定する。
また、ジブ2bの起伏動作、伸縮動作および屈曲動作を可能であるクレーン2を想定する。この場合、位置推定手段4bは、例えば取得したジブ2bの先端部の位置情報の経時変化から水平面上での先端部の速度または加速度を算出し、算出した速度または加速度に基づいてジブ2bの先端部の水平面上での位置を推定する。
また、クレーン2が移動手段2dを有する移動式クレーンの場合を想定する。この場合、位置推定手段4bは、取得したジブ2bの先端部および基端部の位置情報の経時変化から、ジブ2bの基端部に対する先端部の水平面上の位置を推定するのがよい。
【0026】
接近判定手段4cは、推定したジブ2bの先端部の位置を基準にして警告領域K(
図1参照)を水平面内に設定し、作業員の水平面上での位置が警告領域Kに含まれているか否かを判定する。接近判定手段4cは、警告領域K内にいる作業員に対して警告を通知し、警告領域K外にいる作業員に対しては警告を通知しない。接近判定手段4cは、例えば対象の作業員が所持する第二作業員用端末3Bに対して警告を送信し、第二作業員用端末3Bの通知手段は、作業員に警告をメッセージ、警告音、振動などで発信する。第二作業員用端末3Bへの警告の送信は、スマートフォンである第一作業員用端末3Aを介して行われてもよい。作業員に対する警告は、作業員に吊り荷の接近を認識させるものであればよい。
【0027】
警告領域Kの形状や大きさは、特に限定されない。警告領域Kは、例えば推定したジブ2bの先端部の直下(ジブ2bの先端部を作業面に投影した位置)を中心とした円形の領域である。警告領域Kは、複数の分割領域で構成されていてもよく、
図1に示すように、第一警告領域K1と第二警告領域K2とで構成されていてもよい。作業員に振動で吊り荷の接近を知らせる場合、例えば第一警告領域K1では第二警告領域K2に比べて振動間隔を短くするのがよい。
【0028】
<第1実施形態に係る接近警告システムの動作>
図5を参照して、第1実施形態に係る接近警告システム1の動作について説明する。
図5は、第1実施形態に係る接近警告システム1の動作を示すフローチャートの例示である。
図5に示す一連の動作は、例えば予め決められた間隔で実行される。なお、クレーン2が動かず、ジブ2bの基端部(つまりクレーン2自体)の位置が変化しない場合、ジブ2bの基端部(または車両の本体部2a)の位置情報をその都度取得せずに予め登録しておいてもよい。
【0029】
(ステップS1)
第三位置情報取得手段5Cは、ジブ2bの基端部(または車両の本体部2a)の位置情報(緯度、経度)を取得する。また、第二位置情報取得手段5Bは、ジブ2bの先端部(つまり、第二位置情報取得手段5B)の位置情報(緯度、経度)を取得する。また、第一位置情報取得手段5Aは、作業員の位置情報(緯度、経度)を取得する。そして、取得されたこれらの位置情報は、管理PC4に送信される。
(ステップS2)
管理PC4の位置推定手段4bは、ジブ2bの基端部(または車両の本体部2a)の位置情報およびジブ2bの先端部(つまり、第二位置情報取得手段5B)の位置情報から、ジブ2bの角度(二次元方位)および距離(二次元距離)を計算する。ジブ2bの角度は、例えば水平面上に設定される基準となる方位に対する角度であってよい。また、ジブ2bの距離は、例えば水平面上に設定されるジブ2bの先端部の基準位置からの距離であってよい。
【0030】
(ステップS3)
管理PC4の位置推定手段4bは、前回の計算値(つまり、ジブ2bの基端部(または車両の本体部2a)の位置情報、ジブ2bの先端部(つまり、第二位置情報取得手段5B)の位置情報、推定したジブ2bの推定位置)およびステップS2で計算したジブ2bの角度・距離からジブ2bの角速度を算出し、算出したジブ2bの角速度を基にしてジブ2bの推定位置を算出する。なお、ここではジブ2bの旋回を想定して角速度からジブ2bの推定位置を算出しているが、旋回以外の動作が含まれる場合には角速度以外の情報を算出するのがよい。なお、角速度に代えて、または角速度に加えて角加速度を算出してもよい。
(ステップS4,S5)
管理PC4の位置推定手段4bは、GPSの受信遅延が発生している場合に、その遅延を補正する処理をさらに行ってもよい。例えば上記で説明した位置の推定に加えて、過去の緯度経度情報を基にカルマンフィルター等で位置の補正を行ってもよい。この補正は、上記で説明した位置の推定とは異なるタイミングで行うこともできる。遅延の補正を行った場合、位置推定手段4bは、例えば補正後の角速度量からジブ2bの推定位置を再び計算する。
【0031】
(ステップS6)
管理PC4の接近判定手段4cは、推定したジブ2bの位置とステップS1で取得した作業員の位置とが予め設定した距離よりも近い場合に、該当する作業員またはクレーン2の操作者に対して警告を発報する。なお、本実施形態では、作業員は特定の作業エリア内に留まることが多く短時間の間に大きく移動しないこと、吊り荷の移動速度が作業員の歩行速度を上回る場合が多いことなどを考慮し、ジブ2bの先端部の位置のみを推定したが、作業員の位置についても推定するようにしてもよい。
【0032】
以上のように、第1実施形態に係る接近警告システム1では、算出した推定位置に基づいて警告を通知するか否かを判定するので、クレーン2のジブ2bの位置情報を取得するまでに様々な遅延(例えば、GPSの受信遅延や無線通信の通信遅延)が発生する工事現場でも適切に吊り荷と作業員との接近を判定できる。
【0033】
[第2実施形態]
第1実施形態では、クレーン2に吊持された吊り荷と作業員との接近を監視および警告していた。第2実施形態では、クレーン2同士(例えば、二つのクレーン2)の接近をさらに監視および警告する。
【0034】
<第2実施形態に係る接近警告システムの構成>
図6を参照して、第2実施形態に係る接近警告システム101の構成について説明する。
図6は、第2実施形態に係る接近警告システム101の概略構成図である。接近警告システム101は、クレーン2に吊持された吊り荷と作業員との接近、およびクレーン2同士の接近を監視および警告するシステムである。
図6に示すように、接近警告システム101は、主に、物体を吊り上げて運ぶ複数のクレーン2A,2Bと、作業員が所持する作業員用端末3と、吊り荷と作業員との距離(接近具合)およびクレーン2A,2B間の距離(接近具合)を監視する管理PC104とを備える。以下では、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0035】
本実施形態のクレーン2A,2Bが有するジブ2bは、本体部2a側の第一ジブと、フック2c(
図2参照)側の第二ジブとによって構成されている。以下では、本体部2a側の第一ジブを「ブーム2b1」と表記し、フック2c(
図2参照)側の第二ジブを「ジブ2b2」と表記する。第二位置情報取得手段5Bは、ジブ2b2の先端部に取り付けられており、また、第三位置情報取得手段5Cは、ブーム2b1の基端部に取り付けられている。
【0036】
図7を参照して、接近警告システム101における主なデータの流れについて説明する。
図7は、本発明の第2実施形態に係る接近警告システム101のブロック図である。
図7に示すように、クレーン2A,2Bの通信手段2fは、第二位置情報取得手段5Bで取得したジブ2b2の先端部の位置情報および第三位置情報取得手段5Cで取得したブーム2b1の基端部の位置情報を管理PC104に送信する。これらの位置情報は、何らかの時刻情報に関連付けられているのがよい。位置情報に関連付けられる時刻情報は、例えば測位用衛星から送信される電波に含まれる時刻情報や、クレーン2(または第一作業員用端末3A)が管理PC4に位置情報を送信する時刻情報などであってよい。
【0037】
図7に示すように管理PC104は、通信手段104aと、位置推定手段104bと、接近判定手段104cとを備える。位置推定手段104bおよび接近判定手段104cは、例えばCPU(Central Processing Unit)が図示しないROM(Read Only Memory)等から所定のプログラムを読み出して実行することにより実現される。
通信手段104aは、第1実施形態の通信手段4aと同じであり、クレーン2A,2Bや作業員用端末3との通信を実現する。
位置推定手段104bは、吊り荷の位置を推定すると共に、クレーン2A,2Bのジブ2bの位置を推定する。本実施形態でのジブ2bは、ブーム2b1およびジブ2b2で構成される場合を想定しているが、ジブ2bの位置の推定においてはブーム2b1およびジブ2b2の位置を別々に計算するのではなく、一つの棒状部材として計算してもよい。つまり、二次元での位置関係によって作業員に警告を行う場合、ジブ2bの角度と距離は、ジブ2bの基端部(つまり、本体部2a)の位置情報およびジブ2bの先端部の位置情報の二点から求めてもよい。
接近判定手段104cは、吊り荷と作業員との接近を判定すると共に、クレーン2A,2B同士の接近を判定する。
【0038】
<第2実施形態に係る接近警告システムの動作>
図8を参照して、第2実施形態に係る接近警告システム101の動作について説明する。
図8は、第2実施形態に係る接近警告システム101の動作を示すフローチャートの例示である。
図8に示す一連の動作は、例えば予め決められた間隔で実行される。
【0039】
(ステップS11)
第三位置情報取得手段5Cによって取得するブーム2b1の基端部(つまり、本体部2a)の位置情報(緯度、経度)の精度が悪い場合は、クレーン2を管理する管理者(例えば、クレーンオペレータ)の判断でブーム2b1の基端部(つまり、本体部2a)の位置情報(緯度、経度)を固定してもよい。クレーン2の作業中は、クレーン2が移動することがない(または少ない)ので、ブーム2b1の基端部(つまり、本体部2a)の位置情報(緯度、経度)を固定することが可能である。位置情報の固定は、管理PC104や管理者が所持する図示しない管理者用端末(例えば、タブレット端末)を操作することにより実現される。例えばこれらの装置の画面に表示される工事現場のマップ上で場所を指定することにより、指定された場所にブーム2b1の基端部の位置情報(緯度、経度)が固定される。
(ステップS12)
クレーン2A,2Bの第三位置情報取得手段5Cは、ブーム2b1の基端部(つまり、本体部2a)の位置情報(緯度、経度)を取得する。また、第二位置情報取得手段5Bは、ジブ2b2の先端部の位置情報(緯度、経度)を取得する。また、第一位置情報取得手段5Aは、作業員の位置情報(緯度、経度)を取得する。そして、取得されたこれらの位置情報は、管理PC104に送信される。
【0040】
(ステップS13)
管理PC104の位置推定手段104bは、ブーム2b1の基端部(つまり、本体部2a)の位置情報およびジブ2b2の先端部(つまり、第二位置情報取得手段5B)の位置情報から、ジブ2bの角度(二次元方位)および距離(二次元距離)を計算する。ジブ2bの角度は、例えば水平面上に設定される基準となる方位に対する角度であってよい。また、ジブ2bの距離は、例えば水平面上に設定されるジブ2b2の先端部(つまり、第二位置情報取得手段5B)の基準位置からの距離であってよい。
【0041】
(ステップS14)
管理PC4の位置推定手段104bは、前回の計算値(つまり、推定したジブ2bの推定位置)およびステップS13で計算したジブ2bの角度・距離からジブ2bの角速度を算出し、算出したジブ2bの角速度を基にしてジブ2bの推定位置を算出する。なお、ここではジブ2bの旋回を想定して角速度からジブ2bの推定位置を算出しているが、旋回以外の動作が含まれる場合には角速度以外の情報を算出するのがよい。なお、角速度に代えて、または角速度に加えて角加速度を算出してもよい。
(ステップS15,S16)
管理PC104の位置推定手段104bは、GPSの受信遅延が発生している場合に、その遅延を補正する処理を行う。遅延を補正する処理は、第1実施形態と同様である。遅延の補正を行った場合、位置推定手段104bは、補正後の角速度量からジブ2bの推定位置を再び計算する。
【0042】
(ステップS17,S18)
管理PC104の接近判定手段104cは、推定したジブ2bの位置とステップS12で取得した作業員の位置とが予め設定した距離よりも近いか否かを判定する。また、接近判定手段104cは、クレーン2Aのジブ2bの推定位置と、クレーン2Bのジブ2bの推定位置とによって、クレーン2A,2B間の距離が予め設定した距離よりも近いか否かを判定する。
また、接近判定手段104cは、クレーン2Aのジブ2bの現在位置と、クレーン2Bのジブ2bの現在位置とによって、作業員の位置が予め設定した距離よりも近いか否か、クレーン2A,2B間の距離が予め設定した距離よりも近いか否かを判定してもよい。この現在位置による判定は補助なものであってよく、遅延が例えばn秒以上やn秒以下(nは予め設定した値)である場合、現在位置に基づいて接近判定を行ってもよい。また、推定位置による接近判定に加えて現実位置による接近判定を行うようにしてもよい(例えば、推定位置に基づく警告領域Kに現実位置に基づく警告領域Kを含めて、接近判定の範囲を広げてもよい)。
【0043】
(ステップS19)
管理PC104の接近判定手段104cは、吊り荷と作業員との距離が接近している場合、またはクレーン2A,2B同士が接近している場合に、該当する作業員またはクレーン2A,2Bの操作者に対して警告を発報する。
【0044】
以上説明した第2実施形態に係る接近警告システム101によっても、第1実施形態と略同等の効果を奏することができる。
また、第2実施形態に係る接近警告システム101では、クレーン2A,2B同士の接近を適切に判定できる。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲の趣旨を変えない範囲で実施することができる。
第1実施形態および第2実施形態での警告領域Kの形状は、推定したジブ2bの先端部を中心とした円形の領域であった。しかしながら、警告領域Kは楕円形状であってもよく、特にジブ2bの進行方向に長い楕円形状であるのがよい。また、ジブ2bが動く速度に応じて警告領域Kの大きさを調整してもよく、例えばジブ2bが動く速度が遅いときに比べて速いときは、警告領域Kの大きさを大きくしてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1,101 接近警告システム
2,2A,2B クレーン
2a 本体部
2b ジブ
2b1 ブーム
2b2 ジブ
2c フック
2d 移動手段
3 作業員用端末
3A 第一作業員用端末
3B 第二作業員用端末
4,104 管理PC(接近判定装置)
4a,104a 通信手段
4b,104b 位置推定手段
4c,104c 接近判定手段
5A 第一位置情報取得手段
5B 第二位置情報取得手段
5C 第三位置情報取得手段
K 警告領域