(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076938
(43)【公開日】2022-05-20
(54)【発明の名称】細菌検査デバイス及び細菌検査システム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/22 20060101AFI20220513BHJP
G01R 27/26 20060101ALI20220513BHJP
G01R 27/22 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
G01N27/22 Z
G01R27/26 H
G01R27/22 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020187605
(22)【出願日】2020-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】319006047
【氏名又は名称】シャープセミコンダクターイノベーション株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】506208908
【氏名又は名称】学校法人兵庫医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】満仲 健
(72)【発明者】
【氏名】小川 雄一
(72)【発明者】
【氏名】菊池 正二郎
【テーマコード(参考)】
2G028
2G060
【Fターム(参考)】
2G028BC04
2G028BC10
2G028CG09
2G060AA16
2G060AA19
2G060AD08
2G060AF03
2G060AF11
2G060AG08
2G060GA02
2G060HC13
2G060KA09
(57)【要約】
【課題】細菌を含む液体の誘電率変化を短時間で検出する。
【解決手段】細菌検査デバイス(1)は、ウェル(5)内に配置され被検査体(8)の誘電率変化により発振周波数が変化する複数個の発振回路(6)を備え、発振回路(6)に対応して誘電率変化を検知可能なセンシング領域が、寸法Xμm、Yμm、及びZμmを有し、発振回路(6)の個数Nが、N≧log(0.001)・10
7/(X・Y・Z)、を満たす。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体集積回路と、
前記半導体集積回路の表面の一部を露出させるように前記半導体集積回路上に形成されて検査対象とする液体を保持するウェルと、
前記ウェル内の前記半導体集積回路に配置され、前記液体の誘電率変化により発振周波数が変化する複数個の発振回路とを備え、
前記複数個の発振回路のそれぞれに対応して、前記誘電率変化を検知可能なセンシング領域が前記液体中に存在し、
各ウェル内の前記半導体集積回路に配置された前記発振回路の個数が、231個以上であることを特徴とする細菌検査デバイス。
【請求項2】
半導体集積回路と、
前記半導体集積回路の表面の一部を露出させるように前記半導体集積回路上に形成されて検査対象とする液体を保持するウェルと、
前記ウェル内の前記半導体集積回路に配置され、前記液体の誘電率変化により発振周波数が変化する複数個の発振回路とを備え、
前記複数個の発振回路のそれぞれに対応して、前記誘電率変化を検知可能なセンシング領域が前記液体中に存在し、
前記センシング領域は、前記半導体集積回路の表面に沿って互いに交差する方向の寸法Xμm及び寸法Yμmと、前記半導体集積回路の表面に交差する方向の寸法Zμmとを有し、
前記発振回路の個数がN個であり、
前記Nが、
N≧log(0.001)・107/(X・Y・Z)、
を満たすことを特徴とする細菌検査デバイス。
【請求項3】
前記半導体集積回路が複数個設けられ、
前記ウェルが各半導体集積回路上にそれぞれ形成され、
各ウェル内の前記半導体集積回路に配置された前記発振回路の個数が、231個以上である請求項2に記載の細菌検査デバイス。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の細菌検査デバイスと、
前記細菌検査デバイスを内部に保持する筐体とを備え、
前記筐体が、その内部に保持した前記細菌検査デバイスを含む空間の温度を制御する温度制御器を有することを特徴とする細菌検査システム。
【請求項5】
前記筐体が、前記細菌検査デバイスを制御する制御回路を有する請求項4に記載の細菌検査システム。
【請求項6】
前記筐体が、複数個の細菌検査デバイスを内部に保持する請求項4又は5に記載の細菌検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路の表面に被検出体を接触させて、この被検出体の誘電率又は誘電率変化を検知するセンサIC(Integrated Circuit:半導体集積回路)を備えた細菌検査デバイス及び細菌検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の表面における同一平面上にセンサとして機能する複数の発振回路を千鳥状に配置し、半導体集積回路の表面近傍に存在する被検出体における各部分の誘電率変化の面内分布を観測するセンサICが従来技術として知られている(特許文献1、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6486740号明細書(2019年3月1日登録)
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】T.Mitsunaka, et.al, “CMOS Biosensor IC Focusing on Dielectric Relaxations of Biological Water with 120-GHz and 60-GHz Oscillator Arrays”, JSSC
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来技術は以下の問題がある。
図8は従来の細菌検査デバイスの構成を示す平面図である。
図9は従来の細菌検査デバイスの動作を説明するための平面図である。
【0006】
従来の細菌検査デバイスは、プリント配線基板上に形成された半導体集積回路94と、半導体集積回路94の表面の一部を円形状に露出させるように半導体集積回路94上に形成されて検査対象とする細菌98を含む液体を保持するウェル95と、ウェル95内の半導体集積回路94に交互に互い違いに(千鳥状に)配置され、センサとして機能するように上記液体の誘電率変化により発振周波数が変化する複数個の発振回路96とを備える。
【0007】
複数個の発振回路96のそれぞれに対して、上記誘電率変化を検知可能なセンシング領域が、上記液体中において複数個の発振回路96のそれぞれの上方に各発振回路96の形状に対応して存在する。この従来の細菌検査デバイスでは、
図8に示すように、検査対象の細菌98の菌濃度が低い場合、細菌98がセンシング領域の上に存在しない確率が高い。このため、時間をかけて細菌98を培養し、
図9に示すように、細菌98がセンシング領域を覆うコロニー98A(菌集団)に成長してから誘電率変化の検出が可能となる。従って、この従来の検出方法では、誘電率変化の検出のためには、細菌98が成長するまでの時間がかかる上に、細菌98の菌濃度が低い場合、誘電率変化を定量化できないという課題が存在する。
【0008】
本発明の一態様は、検査対象とする細菌を含む液体の誘電率変化を短時間で検出することができ、また、細菌の菌濃度が低い場合も誘電率変化を検出することができる細菌検査デバイス及び細菌検査システムを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る細菌検査デバイスは、半導体集積回路と、前記半導体集積回路の表面の一部を露出させるように前記半導体集積回路上に形成されて検査対象とする液体を保持するウェルと、前記ウェル内の前記半導体集積回路に配置され、前記液体の誘電率変化により発振周波数が変化する複数個の発振回路とを備え、前記複数個の発振回路のそれぞれに対応して、前記誘電率変化を検知可能なセンシング領域が前記液体中に存在し、各ウェル内の前記半導体集積回路に配置された前記発振回路の個数が、231個以上であることを特徴とする。
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る他の細菌検査デバイスは、半導体集積回路と、前記半導体集積回路の表面の一部を露出させるように前記半導体集積回路上に形成されて検査対象とする液体を保持するウェルと、前記ウェル内の前記半導体集積回路に配置され、前記液体の誘電率変化により発振周波数が変化する複数個の発振回路とを備え、前記複数個の発振回路のそれぞれに対応して、前記誘電率変化を検知可能なセンシング領域が前記液体中に存在し、前記センシング領域は、前記半導体集積回路の表面に沿って互いに交差する方向の寸法Xμm及び寸法Yμmと、前記半導体集積回路の表面に交差する方向の寸法Zμmとを有し、前記発振回路の個数がN個であり、前記Nが、N≧log(0.001)・107/(X・Y・Z)、を満たすことを特徴とする。
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る細菌検査システムは、本発明の一態様に係る細菌検査デバイスと、前記細菌検査デバイスを内部に保持する筐体とを備え、前記筐体が、その内部に保持した前記細菌検査デバイスを含む空間の温度を制御する温度制御器を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、検査対象とする細菌を含む液体の誘電率変化を短時間で検出することができ、また、細菌の菌濃度が低い場合も誘電率変化を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態1に係る細菌検査デバイスの概略構成を示す斜視図である。
【
図3】上記細菌検査デバイスに設けられたセンサ回路の概略構成を示すブロック図である。
【
図4】上記細菌検査デバイスに設けられた半導体集積回路の一部と被検査体との位置関係を示す断面図である。
【
図5】実施形態3に係る細菌検査デバイスの概略構成を示す斜視図である。
【
図6】実施形態4に係る細菌検査システムの概略構成を示す斜視図である。
【
図7】実施形態4に係る他の細菌検査システムの概略構成を示す斜視図である。
【
図8】従来の細菌検査デバイスの構成を示す平面図である。
【
図9】上記細菌検査デバイスの動作を説明するための平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0015】
様々な菌濃度の検体に対して、菌検出のためのセンサとして機能する複数個の発振回路の数を変えて検出実験を行った結果、細菌検査デバイスの構成では、検体中の菌数あるいはコロニー(菌集団)数が、1mL当たり105個(105CFU/ml、CFUはColony Forming Unitの略)以上あれば、複数個の発振回路のうちの少なくとも一つ以上の発振回路で、菌検出が可能であることが実験で確認された。
【0016】
また、105CFU/ml付近の濃度の検体に対しては、各センサが菌有無を1/0判定すれば、1(陽性)となるセンサの数の割合から検体の菌濃度が定量化できることもわかった。
【0017】
以下に詳細な実施の形態を
図1から
図4を参照して説明する。
【0018】
(細菌検査デバイス1の全体構成)
図1は実施形態1に係る細菌検査デバイス1の概略構成を示す斜視図である。細菌検査デバイス1は、プリント配線基板20を備える。プリント配線基板20の上に、半導体集積回路4と周波数検出回路18とが実装される。
【0019】
細菌検査デバイス1が検査対象とする液体を保持するウェル5が、半導体集積回路4の表面の円形状の部分を露出させるように半導体集積回路4の上に形成される。このウェル5は、例えばPDMS(ポリジメチルシロキサン)により構成される。
【0020】
図2は細菌検査デバイス1の要部平面図である。ウェル5の内周の位置を示す円の内部が、検査対象となる液体に半導体集積回路4の表面が接する領域となる。
図2に示す例では、半導体集積回路4の表面に縦横16×16、合計256個の発振回路6がマトリックス状に並置されている。それらの256個の発振回路6の内、塗りつぶされている232個の発振回路6は、ウェル5の内周面の内側に配置されているため、検査対象となる液体の下に配置されていて、液体の誘電率変化を検出できる検査に有効な発振回路である。
【0021】
これに対して、塗りつぶされていない四隅の16個の発振回路6はウェル5の内周面の内側に配置されていないため、検査に有効な発振回路ではない。
【0022】
従って、232個の有効な発振回路6を用いることでウェル5に収容された液体に含まれる細菌の菌検査が実現できる。なお、四隅の16個の無効な発振回路6は、実際には形成しなくてもよいし、形成しても、その無効な発振回路の出力は検査対象としなければよい。
【0023】
(センサ回路12の構成)
図3は細菌検査デバイス1に設けられたセンサ回路12の概略構成を示すブロック図である。センサ回路12は、複数の発振回路6と、複数の発振回路6のそれぞれに接続された複数の分周回路16と、複数の分周回路16に接続されたマルチプレクサ17と、マルチプレクサ17に接続された周波数検出回路18とを備える。
【0024】
ここで、発振回路6とマルチプレクサ17とは半導体集積回路4の中に形成されているが、分周回路16と周波数検出回路18とは、発振回路6と同一の半導体集積回路4の中に形成されていてもよいし、半導体集積回路4の外に形成されていてもよい。
図3においては、発振回路6と分周回路16とマルチプレクサ17とが同一の半導体集積回路4内に形成されていて、周波数検出回路18は半導体集積回路4の外に形成されている例を示している。
【0025】
また、
図3はセンサ回路12が有する発振回路6が2個の例を示している。さらに、周波数検出回路18が発振回路6の発振周波数を直接検出できる場合には分周回路16は無くてもよい。周波数を読む対象となる各発振回路6の発振信号は、分周回路16であらかじめ定められた整数Nに対してN分周されたのち、マルチプレクサ17にて選択されて、周波数検出回路18へ送られる。周波数検出回路18は発振信号の立ち上がりエッジを一定の時間カウントすることにより、発振回路6の発振周波数を推定する。
【0026】
(発振回路6の構成)
発振回路6は、共振器13と差動回路19とを備える。共振器13はインダクタ14とキャパシタ15とを含む。この発振回路6は、被検査体である液体の物性(誘電率)に応じて発振周波数を変化させ、液体の物性を感知するセンサ部として機能する。共振器13は、差動回路19の差動入力間に形成されたLC回路である。差動回路19は、例えば、互いにクロスカップルされたトランジスタから成る差動回路のような公知の差動回路を適宜用いてよい。
【0027】
(半導体集積回路4と被検査体8)
図4は細菌検査デバイス1に設けられた半導体集積回路4と被検査体8との間の位置関係を示す断面図である。半導体集積回路4は、半導体基板21と、半導体基板21の上に形成された配線層22と、配線層22の上に形成された保護膜23とを含む。配線層22には、発振回路6の共振器13に含まれるインダクタ14が配置される。このように、発振回路6のインダクタ14と被検査体8である液体とは保護膜23により絶縁される。被検査体8の誘電率の変化を感度良くとらえるためには保護膜23は薄いことが望ましい。
【0028】
(細菌検査デバイス1の検査方法)
このように構成された細菌検査デバイス1は、以下のようにして被検査体8を検査する。
【0029】
まず、菌を含まない参照液体をウェル5に注入した状態での、有効な各発振回路6の発振周波数を記録する。次に、参照液体をウェル5から取り除き、被検査体8の液体をウェル5に注入する。そして、有効な各発振回路6の発振周波数を記録し、参照液体を注入したときの発振周波数との差を確認する。この差があらかじめ実験により決定した周波数よりも大きい発振回路6のセンシング領域に菌が存在していると判定される。
【0030】
また、別の検査方法においては、被検査体8の液体をウェル5に注入して、有効な各発振回路6の発振周波数を一定時間ごとに記録し、有効な各発振回路6毎の発振周波数の変化を確認する。生菌がセンシング領域に存在する発振回路6においては、その発振周波数の変化が、生菌をセンシング領域に含まない発振回路6の発振周波数の変化よりも大きくなる。これは、生菌の周囲の水は、生菌の活動により水分子の構造が変化していくためと考えられ、実験的に確認されている。そこで、あらかじめ実験により決めた変化量よりも速い周波数変化を示す発振回路6の存在により、生菌の存在を判定することができる。
【0031】
また、生菌の存在が確認された発振回路6の数Nonと検査に用いた全発振回路6の数Ntotalにより、検査体8中の菌濃度を、
菌濃度=NON/(センシング領域体積×Ntotal)、
と推定することができる。
【0032】
この結果を考察するに、被検査体8が105CFU/ml付近の菌濃度を有する場合(CFUはColony Forming Unitの略)、各発振回路6のセンシング領域に細菌が存在する確率は低く、存在しても高々一個の細菌であることがほとんどである。これを計算により確認すると以下の通りである。
【0033】
非特許文献1に示されているように、一つの発振回路6が検出対象とするセンシング領域の体積に対応する寸法は、大きくても、発振回路6の表面に水平な方向に100μm×100μm、発振回路6の表面に垂直方向に30μmである。この体積を持つ菌濃度105CFU/mlの被検査体8のサンプルが、サンプル中に有するCFUの平均値は、
センシング領域体積/105CFU/ml
=(100μm×100μm×30μm)×(105/10mm×10mm×10mm)
=0.03
である。
【0034】
即ち、一つの発振回路6が検査対象とするセンシング領域の中には、平均で0.03個の菌又は菌集団が含まれる。センシング領域に存在する菌数の確率分布はポワソン分布になるため、この程度の低濃度の被検査体8に対しては各発振回路6が菌の有無を1/0(有無)判定すれば、その1(有)の数の割合から被検査体8の菌濃度が定量化できることが理解される。センシング領域に存在する菌数が2個以上となる確率が極めて低いためである。
【0035】
さらに、統計的考察により実施形態1は、以下のように理解することができる。サンプル中に有するCFUの平均値が平均で0.03個ということは、多くの場合、センシング領域の検査体体積中に菌が含まれないことを意味する。そこで、このような検査体体積を持つ発振回路6を複数並べることで、少なくとも一つの発振回路6はその検査体体積中に菌を含むようにすることを考える。検査体体積中に含まれる菌数の分布は、平均値0.03のポアソン分布に従うことから、一つの検査体体積中に菌が含まれない確率は、
P(0)=0.03×exp(-0.03)/0!=0.97045、
となる。N個の発振回路6がそれぞれ菌濃度105CFU/mlの検査体体積を観測したとき、少なくとも一つの発振回路6のセンシング領域中に菌が一つ以上含まれる確率は、
1-P(0)N、
である。この確率を0.999以上とするには、
1-P(0)N≧0.999、
を解いて、N≧231となる。したがって、231個以上の発振回路6が菌濃度105CFU/mlの被検査体8を観測すれば、少なくとも一つの発振回路6が、菌による誘電率の変化を観測することが99.9%以上の確率で可能となる。
【0036】
(実施形態1の効果)
実施形態1は、センシングの解像度を高くするために発振回路6を稠密に配置するなどの困難な技術的改良をセンサ回路12に加えることなく、発振回路6の数を増やすことだけで検出感度を改善できるという効果を有する。さらに、この手法では、各発振回路6は、菌の有無という0/1の判定だけをすればよく、トータルの発振回路6の数に対する陽性反応の発振回路6の数により、被検査体8の濃度を定量できるという効果も有する。
【0037】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0038】
特定の菌を対象とする迅速菌検査において、検体中の対象生菌数、あるいは対象生菌コロニー(対象菌集団)数が、1mL当たり10K個(10KCFU/ml、CFUはColony Forming Unitの略)以上である時に、対象菌が存在すると判定できる確率が99.9%以上となる場合、10KCFU/mlを、該菌検査の検出限界濃度と呼ぶこととする。
【0039】
一つの発振回路6が検出対象とするセンシング領域の寸法をセンサ回路12の表面の方向にXμm×Yμm、センサ回路12の表面に垂直な方向にZμmとする。このセンシング領域に検出限界濃度の検体サンプルがあるとき、サンプル中に存在する生菌あるいは生菌コロニーの数の期待値は、
センシング領域体積/検出限界濃度
=(Xμm×Yμm×Zμm)×(10K/104μm×104μm×104μm)
=X・Y・Z・10(K-12)
である。
【0040】
該センシング領域に含まれる生菌あるいは生菌コロニーの数の分布は、平均値X・Y・Z・10(K-12)のポワソン分布P(x)になるため、このようなセンシング領域を持つ発振回路6をN個並べた時に、少なくとも一つの発振回路6がそのセンシング領域中に生菌を一個以上含む確率は、
1-P(0)N=1-exp(-X・Y・Z・10(K-12))N、
となる。この確率が0.999以上なので、
1-P(0)N≧0.999、
となり、式を変形すると、
N≧log(0.001)・10(12-K)/(X・Y・Z) (式1)
となる。
【0041】
N個の発振回路6を、被検査体8を保持するウェル5の底面に配置した細菌検査デバイス1により、検出限界濃度が10KCFU/mlを達成することができる。
【0042】
〔実施形態3〕
図5は実施形態3に係る細菌検査デバイス1Aの概略構成を示す斜視図である。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0043】
細菌検査デバイス1Aは、プリント配線基板20を備える。プリント配線基板20の上に、2行2列に配列された4個の半導体集積回路4と、周波数検出回路18とが実装される。
【0044】
この4個の半導体集積回路4のそれぞれの表面の円形状の部分を露出させるように、4個のウェル5が各半導体集積回路4の上に形成される。この4個のウェル5は、例えばPDMSにより一体に構成される。
【0045】
このように、同一のプリント配線基板20上に4個の半導体集積回路4を実装し、各半導体集積回路4の上に検査対象の液体を保持するウェル5を形成している。これにより、複数の検査対象の検査を同時に行うことが可能となり、検査効率の改善につながる。
【0046】
半導体集積回路4は、複数個であれば良く、4個に限定されない。
【0047】
(細菌検査デバイス1Aの検査方法)
まず、4個のウェル5のうちの一つに参照となる菌を含まない液体を入れ、他のウェル5に検査対象の液体を入れる。そして、検査対象の液体を入れたウェル5の有効な各発振回路6の周波数変動を、参照となる液体を入れたウェル5の発振回路6の周波数変動と一定時間ごとに比較する。次に、参照液体を観測している発振回路6の周波数変動との差が、あらかじめ実験により定めた差よりも大きい発振回路6を、生菌を含む検査対象の液体を観測していると判定する。
【0048】
また、本実施形態に係る細菌検査デバイス1Aは、抗菌薬に対する細菌の薬剤感受性試験に用いることも可能である。まず、一つのウェル5には、生菌の存在が確認されている検査対象の液体を注入し、他の3個のウェル5には、生菌の存在が確認されている検査対象の液体に、薬剤感受性試験の対象となる3種類の抗菌薬をそれぞれ加えた液体を注入する。そして、4個のウェル5の有効な各発振回路6の発振周波数の時間的変化を記録し、抗菌薬を加えていない上記一つのウェル5の底に配置された発振回路6の中には、あらかじめ決めた閾値よりも大きな周波数変化を示す発振回路6が存在することを確認する(生菌の存在の確認)。
【0049】
次に、並行して記録した他の3個のウェル5の底に配置された発振回路6の中に、あらかじめ決めた閾値よりも大きな周波数変化を示す発振回路6が無ければ、そのウェル5に入れた抗菌薬はその液体中の生菌に有効に作用して、生菌の活動を弱めたと判断することができる。
【0050】
また、他の3個のウェル5の底に配置された発振回路6の中に、あらかじめ決めた閾値よりも大きな周波数変化を示す発振回路6が存在すれば、そのウェル5に入れた抗菌薬はその液体中の生菌に対する抗菌効果が弱いと判断できる。
【0051】
〔実施形態4〕
図6は実施形態4に係る細菌検査システム3の概略構成を示す斜視図である。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0052】
細菌検査システム3は、細菌検査デバイス1Aと、細菌検査デバイス1Aを内部に保持する筐体2とを備える。筐体2は、その内部に保持した細菌検査デバイス1Aを含む空間の温度を制御する温度制御器10を有する。
【0053】
液体の誘電率はその温度により大きく変化する。このため、細菌による誘電率変化を観測するためには、細菌を含む液体の温度を一定にすることが望ましい。本実施形態における細菌検査システム3においては、細菌検査デバイス1Aを内部に固定できる筐体2を用いる。この筐体2は内部に細菌検査デバイス1Aを1個又は複数個、固定できて、かつ、固定した細菌検査デバイス1Aを含む空間の温度が一定になるように温度制御する温度制御器10を有している。温度制御には、温度計測によりヒーター、クーラーなどを制御する一般的な方法を用いることができる。
【0054】
筐体2は、細菌検査デバイス1Aを制御する制御回路11を有する。筐体2は細菌検査デバイス1Aを固定するときに、細菌検査デバイス1Aが制御回路11と電気的に接続するように構成することが可能である。この場合、制御回路11は細菌検査デバイス1Aに必要な電力を筐体2側から供給することが可能である。また、内部に固定した細菌検査デバイス1Aの電気的制御や発振周波数の検出、記録を筐体2側の制御回路11で行うことも可能である。
【0055】
このように構成された筐体2を用いることで、細菌検査デバイス1Aを用いた生菌検査を安定的に効率よく行うことが可能となる。
【0056】
また、生菌検査においてはクロスコンタミネーションの予防のため、細菌検査デバイス1Aを生菌検査ごとに使い捨てにすることが望ましい。この場合、周波数検出回路18など、半導体集積回路4に内蔵しなくてもよい回路は筐体2側に備えてもよい。これにより、使い捨てとなる細菌検査デバイス1Aのコスト削減が可能である。
【0057】
図7は実施形態4に係る他の細菌検査システム3Aの概略構成を示す斜視図である。なお、説明の便宜上、前述した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0058】
細菌検査システム3Aは、複数個の細菌検査デバイス1Aと、この複数個の細菌検査デバイス1Aを内部に保持する筐体2とを備える。これにより、多数の検査対象の検査を同時に且つ速やかに行うことが可能となる。
【0059】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る細菌検査デバイス1・1Aは、半導体集積回路4と、前記半導体集積回路4の表面の一部を露出させるように前記半導体集積回路4上に形成されて検査対象とする液体(被検査体8)を保持するウェル5と、前記ウェル5内の前記半導体集積回路4に配置され、前記液体(被検査体8)の誘電率変化により発振周波数が変化する複数個の発振回路6とを備え、前記複数個の発振回路6のそれぞれに対応して、前記誘電率変化を検知可能なセンシング領域が前記液体(被検査体8)中に存在し、前記センシング領域は、前記半導体集積回路4の表面に沿って互いに交差する方向の寸法Xμm及び寸法Yμmと、前記半導体集積回路4の表面に交差する方向の寸法Zμmとを有し、前記発振回路6の個数がN個であり、前記Nが、N≧log(0.001)・107/(X・Y・Z)、を満たす。
【0060】
この特徴によれば、センシング領域は、半導体集積回路の表面に沿って互いに交差する方向の寸法Xμm及び寸法Yμmと、半導体集積回路4の表面に交差する方向の寸法Zμmとを有し、発振回路の個数がNが、N≧log(0.001)・107/(X・Y・Z)、を満たす。このため、検体中の対象生菌数が1mL当たり105個以上である時に、対象菌が存在すると判定できる確率が99.9%以上となる。従って、99.9%以上の確率で少なくとも一つ以上の発振回路が菌を検出することができる。この結果、細菌が成長するまで誘電率変化の検知を待つ必要が無くなり、細菌の菌濃度が低い場合も誘電率変化を検出することができる。
【0061】
本発明の態様2に係る細菌検査デバイス1・1Aは、半導体集積回路4と、前記半導体集積回路4の表面の一部を露出させるように前記半導体集積回路4上に形成されて検査対象とする液体(被検査体8)を保持するウェル5と、前記ウェル5内の前記半導体集積回路4に配置され、前記液体(被検査体8)の誘電率変化により発振周波数が変化する複数個の発振回路6とを備え、前記複数個の発振回路6のそれぞれに対応して、前記誘電率変化を検知可能なセンシング領域が前記液体(被検査体8)中に存在し、前記センシング領域は、前記半導体集積回路4の表面に沿って互いに交差する方向の寸法X=100μm及び寸法Y=100μmと、前記半導体集積回路4の表面に交差する方向の寸法Z=30μmとを有し、前記検査対象の菌濃度が105CFU/mlであり、各ウェル5内の前記半導体集積回路4に配置された前記発振回路6の個数が、231個以上である。
【0062】
この特徴によれば、センシング領域は、半導体集積回路の表面に沿って互いに交差する方向の寸法X=100μm及び寸法Y=100μmと、半導体集積回路の表面に交差する方向の寸法Z=30μmとを有し、検査対象の菌濃度が105CFU/mlであり、各ウェル内の半導体集積回路に配置された発振回路の個数が、231個以上である。このため、少なくとも一つの発振回路が、菌による誘電率の変化を観測することが99.9%以上の確率で可能となる。この結果、細菌が成長するまで誘電率変化の検知を待つ必要が無くなり、細菌の菌濃度が低い場合も誘電率変化を検出することができる。
【0063】
本発明の態様3に係る細菌検査デバイス1Aは、上記態様2において、前記半導体集積回路4が複数個設けられ、前記ウェル5が各半導体集積回路4上にそれぞれ形成され、各ウェル5内の前記半導体集積回路4に配置された前記発振回路6の個数が、231個以上であることが好ましい。
【0064】
上記構成によれば、複数の検査対象の検査を同時に且つ速やかに行うことが可能となる。
【0065】
本発明の態様4に係る細菌検査システム3・3Aは、本発明の態様1又は2に係る細菌検査デバイス1・1Aと、前記細菌検査デバイス1・1Aを内部に保持する筐体2・2Aとを備え、前記筐体2・2Aが、その内部に保持した前記細菌検査デバイス1・1Aを含む空間の温度を制御する温度制御器10を有する。
【0066】
上記構成によれば、温度により大きく変化する液体の誘電率を温度を一定にして測定することができる。
【0067】
本発明の態様5に係る細菌検査システム3・3Aは、上記態様4において、前記筐体2・2Aが、前記細菌検査デバイス1・1Aを制御する制御回路11を有することが好ましい。
【0068】
上記構成によれば、細菌検査デバイスに必要な電力を筐体側から供給することが可能となり、また、内部に固定した細菌検査デバイスの電気的制御や発振周波数の検出、記録を筐体側で行うことも可能となる。
【0069】
本発明の態様6に係る細菌検査システム3Aは、上記態様4又は5において、前記筐体2Aが、複数個の細菌検査デバイス1Aを内部に保持することが好ましい。
【0070】
上記構成によれば、多数の検査対象の検査を同時に且つ速やかに行うことが可能となる。
【0071】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0072】
1 細菌検査デバイス
2 筐体
3 細菌検査システム
4 半導体集積回路
5 ウェル
6 発振回路
8 被検査体(液体)
10 温度制御器
11 制御回路
12 センサ回路
13 共振器
14 インダクタ
15 キャパシタ
16 分周回路
17 マルチプレクサ
18 周波数検出回路
19 差動回路
20 プリント配線基板
21 半導体基板
22 配線層
23 保護膜