(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076985
(43)【公開日】2022-05-20
(54)【発明の名称】細菌の培養方法及び検出方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20220513BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALI20220513BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
C12N1/20 A ZNA
C12Q1/6844 Z
C12N1/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082384
(22)【出願日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】P 2020187611
(32)【優先日】2020-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(74)【代理人】
【識別番号】100118382
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 央子
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(72)【発明者】
【氏名】長嶺 憲太郎
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ02
4B063QQ06
4B063QQ16
4B063QQ18
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
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4B063QR75
4B063QS24
4B065AA01X
4B065AC20
4B065BC31
(57)【要約】
【課題】液体試料中の嫌気性細菌を簡単な操作で短時間に増殖させることができる培養方法、液体試料中の嫌気性細菌を簡単な操作で短時間に検出することができる検出方法、及び液体試料中で細菌を増殖させるのに適した固体培地を提供する。
【解決手段】嫌気性細菌が存在する可能性がある液体試料を、固体培地を覆った状態で培養する細菌の培養方法。嫌気性細菌が存在する可能性がある液体試料を、固体培地を覆った状態で培養する工程と、培養後の液体試料を、鋳型を含む試料として用いて、目的とする嫌気性細菌の持つ核酸の標的配列部分を増幅する核酸増幅を行う工程とを含む、嫌気性細菌の検出方法。粒状の固体培地。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
嫌気性細菌が存在する可能性がある液体試料を、固体培地を覆った状態で培養する、細菌の培養方法。
【請求項2】
固体培地が粒状に成形されたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
液体試料が生体試料、環境水試料、及び食品試料からなる群より選ばれる試料である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
嫌気性細菌が存在する可能性がある液体試料を、固体培地を覆った状態で培養する工程と、培養後の液体試料を、鋳型を含む試料として用いて、目的とする嫌気性細菌が有する核酸の標的配列部分を増幅する核酸増幅を行う工程とを含む、嫌気性細菌の検出方法。
【請求項5】
固体培地が粒状に成形されたものである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
液体試料が生体試料、環境水試料、及び食品試料からなる群より選ばれる試料である、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
粒状の固体培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料中の細菌を培養する方法であって、試料中に、ストレプトコッカス ミュータンス(Streptococcus mutans)のような嫌気性細菌が存在すればそれを増殖させることができる培養方法及び培地、液体試料中の嫌気性細菌を検出する方法、並びに粒状固体培地に関する。
【背景技術】
【0002】
ストレプトコッカス ミュータンスは、う蝕の代表的な原因菌であるのみならず、全身疾患とも関連することが知られている。
【0003】
例えば、非特許文献1は、279人の被験者について、I型コラーゲンに結合する表層cnmタンパク質を有するストレプトコッカス ミュータンス(cnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンス)を唾液中に保有するか否か、脳微小出血を有するか否か、及び認知機能を調べた結果、脳微小出血を有する被検者群は、脳微小出血を有しない被検者群に比べてcnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスを保有する頻度が高かったこと、cnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンス検出群では非検出群に比べて脳微小出血のリスクが有意に高かったこと(オッズ比=14.3)、及びcnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンス保有群は認知機能が低かったことを開示している。
非特許文献2も、同様に、51人の被験者について唾液中のcnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスの有無、及び脳微小出血の有無を調べた結果、cnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスを有する群では脳微小出血の発生が多かったことを開示している。
【0004】
また、非特許文献3は、cnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスが血中に侵入することで、炎症性腸炎が増悪することを開示している。
【0005】
また、非特許文献3、4は、ストレプトコッカス ミュータンスのうち、表層にcnmタンパク質及びPAタンパク質を有する菌株を、高脂肪食を投与したマウスに静脈内投与したところ非アルコール性脂肪性肝炎(NASH:Non-alcoholic steatohePAtitis)症状を呈したことを開示している。
近年、アルコール非摂取者でも栄養過剰摂取などにより肝障害が見られるようになり、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD:Non-alcoholic fatty liver disease)と称されている。NAFLDのうち、肝臓の脂肪化と共に炎症性変化や線維化が進行する非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は、肝硬変やさらに肝臓癌に進行することから、問題視されており、早期発見が必要である。
【0006】
このように、ストレプトコッカス ミュータンス、中でも菌体表層にcnmタンパク質やPAタンパク質を有するストレプトコッカス ミュータンスは、脳微小出血とそれによる脳卒中や認知症、炎症性腸炎、NASHといった重篤な全身疾患と関連している。従って、これらの菌の保有の有無を調べることにより、これらの疾患の発症を予測し、早期に予防することができる。
【0007】
口腔内のストレプトコッカス ミュータンスの検出方法は種々知られている。
一般的に行われているのは、非特許文献2が採用している方法である。この方法では、唾液又は歯垢をMSB(Mitis-Salivarius-Bacitracin)寒天培地に塗布し、2日間培養後、コロニーを採取し、液体培地に接種して1日間培養し、増殖した菌体を回収して、リゾチーム溶菌、RNase処理、及びエタノール沈殿によりDNAを抽出し、ストレプトコッカス ミュータンス遺伝子に特異的なプライマーを用いたPCRを行って、ストレプトコッカス ミュータンスの有無を判定する。この方法は、3~4日間を要する。
【0008】
また、特許文献1は、唾液又は歯垢をMSB固体培地に塗布して40時間以内の短い時間培養し、この固体培地上に生育した菌体を集菌用液で回収し、回収液を核酸増幅に供することで、煩雑な操作を要さず、短時間にストレプトコッカス ミュータンスの有無を判定できることを記載している。この方法は、最大1日半という短期間でストレプトコッカス ミュータンスを検出できる。
【0009】
しかし、ストレプトコッカス ミュータンスは通性嫌気性細菌であり、好気条件より嫌気条件の方が増殖し易い。特に、唾液のような菌数の少ない試料から効率よく増殖させるためには、嫌気的条件を作り出す必要がある。特許文献1の方法では、嫌気的条件を作り出すために、脱酸素剤と専用の気密容器を用いること、及び窒素ガスや水素・窒素混合ガスを充填した嫌気チャンバー(グローブボックス)を用いることが必要である。嫌気チャンバーは非常に高価であり、また脱酸素剤と専用の気密容器は、培養の度に新しいものが必要になるため、特許文献1の方法はややコスト高になる。
また、特許文献1の方法では、培養容器の蓋を開けた状態で、脱酸素剤存在下又は嫌気チャンバー内で培養しなければならず、コンタミネーションの危険性がある。
さらに、特許文献1の方法では、固体培地表面に増殖した細菌を回収するため、少量の液体培地のような集菌用液を加えて、培地表面を拭う操作が必要であり、その点でやや手間がかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】SCIENTIFIC REPORTS 6:38561(2016)
【非特許文献2】Oral Diseases(2015)21,886-893
【非特許文献3】大阪大学歯学雑誌,62(1)P.15-17
【非特許文献4】SCIENTIFIC REPORTS 6:36886(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、液体試料中の嫌気性細菌を簡単な操作で短時間に増殖させることができる培養方法、液体試料中の嫌気性細菌を簡単な操作で短時間に検出することができる検出方法、及び液体試料中で細菌を増殖させるのに適した固体培地を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決するために研究を重ね、以下の知見を得た。
(1) 唾液のような液体状の試料を、固体培地を覆った状態で固体培地ごと培養することにより、固体培地表面部分が適度に嫌気性になり、液体試料中の嫌気性細菌(通性嫌気性細菌及び偏性嫌気性菌)が効率よく増殖する。
(2) 目的とする嫌気性細菌を選択的に増殖させる固体培地を用いるか、又は目的とする嫌気性細菌が特異的に耐性を示す成分を液体試料に添加して培養することで、目的とする嫌気性細菌を選択的に増殖させることができる。
(3) 培養後の液体試料を、鋳型を含む試料として用いて、目的とする嫌気性細菌が持つ核酸上の特異的な標的配列部分を増幅する核酸増幅を行うことにより、液体試料中にその嫌気性細菌が存在していたか否かを判定することができる。
【0014】
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、下記〔1〕~〔7〕を提供する。
〔1〕 嫌気性細菌が存在する可能性がある液体試料を、固体培地を覆った状態で培養する、細菌の培養方法。
〔2〕 固体培地が粒状に成形されたものである、〔1〕に記載の方法。
〔3〕 液体試料が生体試料、環境水試料、及び食品試料からなる群より選ばれる試料である、〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕 嫌気性細菌が存在する可能性がある液体試料を、固体培地を覆った状態で培養する工程と、培養後の液体試料を、鋳型を含む試料として用いて、目的とする嫌気性細菌が有する核酸の標的配列部分を増幅する核酸増幅を行う工程とを含む、嫌気性細菌の検出方法。
〔5〕 固体培地が粒状に成形されたものである、〔4〕に記載の方法。
〔6〕 液体試料が生体試料、環境水試料、及び食品試料からなる群より選ばれる試料である、〔4〕又は〔5〕に記載の方法。
〔7〕 粒状の固体培地。
【発明の効果】
【0015】
嫌気性細菌を培養する場合、従来は、シャーレやマイクロチューブのような培養容器を脱酸素剤と共に気密容器に封入して培養したり、嫌気チャンバーのような大掛かりな装置を用いて培養していた。また、通性嫌気性細菌であっても、口腔内に存在するストレプトコッカス ミュータンス、ストレプトコッカス ソブリヌスなどのう蝕原因菌は、好気条件下より嫌気条件下の方が増殖し易いため、このような方法で培養していた。
この点、本発明方法では、液体試料で固体培地を覆うことにより、固体培地の表面及びその付近が嫌気性細菌の増殖に適した嫌気条件となるため、液体試料中に嫌気性細菌が存在していれば、増殖させることができる。従って、脱酸素剤や特殊な容器・装置を用いなくても、嫌気性細菌を簡便にかつ効率よく増殖させることができる。また、非常に安価に行える。
【0016】
また、本発明方法は、特許文献1の方法のように固体培地上に生育した菌体を液体中に回収することで核酸増幅用の鋳型試料液を調製する必要がなく、培養後の液体試料をそのまま核酸増幅に供することができ、その分、手間がかからない。
また、本発明方法は、液体試料中で増殖させた菌体から核酸を抽出する操作を行わなくても、その後の核酸増幅により標的塩基配列を検出できる。この点でも、手間がかからない方法である。
これらの特徴により、本発明方法によれば、液体試料を採取してから、最短12~13時間程度の短時間で、目的とする嫌気性細菌の有無を判定することができる。
従って、本発明方法は、多数の被験試料を扱う集団検診、病院検診に適している。
【0017】
また、脱酸素剤や嫌気チャンバーを使用する場合は、容器を密閉することができないため、コンタミネーションの恐れがあるが、本発明方法では、容器を密閉することができるため、コンタミネーションを抑制することができる。
このように、本発明方法は、培養容器の蓋を閉めた状態で培養できるため、例えば、固体培地を入れたマイクロチューブに患者自身が唾液を入れて、蓋を閉めた状態で検査機関に郵送するといったことができ、郵送検査にも適している。
【0018】
本発明方法の好適な用途として口腔内試料からのストレプトコッカス ミュータンスの検出が挙げられるが、本発明方法は、歯垢と異なり菌密度が少ない唾液を被験試料として用いても、ストレプトコッカス ミュータンスが存在していれば、その後の核酸増幅によりストレプトコッカス ミュータンスを検出することができる。
前述した通り、本発明方法は、多数の被験試料を簡便に短時間で処理できるため、病院検査や集団検診などに組み込み易く、それにより、多数の被験者について、脳微小出血とそれによる脳卒中や認知症、炎症性腸炎、NASHとそれによる肝硬変や肝臓癌の発症などを予測し、早期に予防できるようになり、医療費の削減につながる。
また、ストレプトコッカス ミュータンスが検出されれば、薬剤による口腔内洗浄、ストレプトコッカス ミュータンスの増殖を抑制するラクトバチルス ロイテリ(Lactobacillus reuteri)L8020株の摂取などにより、ストレプトコッカス ミュータンスを静菌することができる。それにより、う蝕を始めとして、脳微小出血とそれによる脳卒中や認知症、炎症性腸炎、NASHとそれによる肝硬変や肝臓癌の発症などを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】各実施例で使用した平板状のMSB寒天培地と培養容器のサイズを示す図である。
【
図2】粒状寒天培地を用いて唾液中のcnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスを検出できたことを示す図である。
【
図3】唾液を希釈しても、cnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスを検出できたことを示す図である。
【
図4】PAタンパク質遺伝子を標的としてもLAMP法によりストレプトコッカス ミュータンスを検出できたことを示す図である。
【
図5】本発明方法により、ストレプトコッカス ソブリヌスを検出できたことを示す図である。
【
図6】粒状寒天培地を用いて唾液を培養することで、唾液中でストレプトコッカス ミュータンスが増殖したことを示す図である。
【
図7】ゼラチンで固形化した固体培地を用いても、唾液中のストレプトコッカス ミュータンスを検出できたことを示す図である。
【
図8】テルライト及びバシトラシンを固体培地に添加するのに代えて、唾液に添加しても、唾液中のストレプトコッカス ミュータンス及び/又はストレプトコッカス ソブリヌスを検出できたことを示す図である。
【
図9】凍結した粒状のMSB寒天培地を用いて唾液中のストレプトコッカス ミュータンスを検出できたことを示す図である。
【
図10】凍結乾燥した粒状のMSB寒天培地を用いて唾液中のストレプトコッカス ミュータンスを検出できたことを示す図である。
【
図11】本発明方法により、偏性嫌気性菌であるビフィドバクテリウム ロンガムを検出できたことを示す図である。
【
図12】TOSプロピオン酸寒天培地の全成分濃度を3倍にする方が、ビフィドバクテリウム ロンガムの検出感度が高いことを示す図である。
【
図13】MSB寒天培地の全成分濃度を2倍にしても、唾液中のストレプトコッカス ミュータンスを検出できたことを示す図である。
【
図14】凍結乾燥したMSB寒天培地を長期保存しても、唾液中のストレプトコッカス ミュータンスを検出できたことを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)細菌の培養方法
本発明の細菌の培養方法は、嫌気性細菌が存在する可能性がある液体試料を、固体培地を覆った状態で培養する方法である。
【0021】
試料
被験試料は、液体状であればよい。本発明において、「液体状」は、固体培地を覆うように広げることができる程度の流動性を有する状態をいい、粘性を有する試料も液体試料に含まれる。
このような液体試料としては、唾液、血液、尿、歯垢懸濁液、糞便懸濁液のような生体試料や、河川水、湖沼水、海水、排水(下水)、上水のような環境水試料などが挙げられる。また、溶液状、懸濁液状の食物や、食物を水や水溶液などに溶解又は懸濁させた食品試料も挙げられる。
【0022】
後述するように、本発明方法の好適な対象となる嫌気性細菌として、ストレプトコッカス ミュータンス、ストレプトコッカス ソブリヌス(Streptococcus sobrinus)といったう蝕原因菌が挙げられる。これらは通性嫌気性細菌である。
口腔内のう蝕原因菌を検出するために、試料として、唾液や歯垢が用いられる。歯垢は細菌の塊であるため、う蝕原因菌が含まれているとすればその菌密度は非常に高い。従って、培養により菌数を増やし易く、増幅させた核酸を検出し易い。しかし、歯垢は、通常、被検者自身が採取することが困難なため、う蝕原因菌の検査を簡単に行うためには、唾液を用いることが望ましい。ところが、唾液中の菌密度は低いため、従来のう蝕原因菌の検出方法では、比較的長い時間培養しなければならなかった。この点、本発明方法であれば、唾液を用いても、短時間の培養と核酸増幅によりう蝕原因菌を検出することができる。従って、唾液は、本発明方法の好適な対象試料である。
また、脳微小出血を引き起こすほどに血液中にストレプトコッカス ミュータンスが存在することを検出する場合は、血液も本発明方法の好適な対象試料である。
【0023】
また、本発明方法の好適な対象となる嫌気性細菌として、食中毒原因菌が挙げられる。食中毒原因菌としては、サルモネラ属細菌(Salmonella spp.)、腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)、大腸菌(Escherichia coli)(腸管出血性大腸菌O157、下痢原性大腸菌など)、セレウス菌(Bacillus cereus)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、リステリア モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)のような通性嫌気性細菌;ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)のような偏性嫌気性細菌が挙げられる。食中毒原因菌を検出する対象試料として、環境水試料、食品試料や生体試料が挙げられる。
【0024】
また、本発明方法は、有用な嫌気性細菌の検出にも好適に使用できる。例えば、ラクトバチラス属細菌(Lactobacillus spp.)ラクトコッカス属細菌(Lactococcus spp.)、ストレプトコッカス属細菌(Streptococcus spp.)のような通性嫌気性細菌;ビフィドバクテリウム属細菌(Bifidobacterium spp.)(ビフィズス菌)のような偏性嫌気性細菌は、乳発酵製品の製造に使用される細菌であるが、食品試料中にこれらが含まれるか否かを本発明方法で確認することができる。それにより、食品の品質を調べたり、食品偽装がないかを確認することができる。
【0025】
固体培地
固体培地は、寒天、ゼラチンのようなゲル化剤を用いて固形化した培地であり、嫌気性細菌の生育に必要な成分を含むものであればよい。
目的とする嫌気性細菌が特異的に耐性を示す成分を固体培地に添加しておけば、目的とする嫌気性細菌を選択的に増殖させることができる。或いは、液体試料にこのような耐性を示す成分を添加することもでき、この場合も、目的とする嫌気性細菌を選択的に増殖させることができる。液体試料にこのような耐性を示す成分を添加する場合、固体培地にはこのような耐性を示す成分を添加してもよく、しなくてもよい。
【0026】
例えば、ストレプトコッカス ミュータンスやストレプトコッカス ソブリヌスに対して高い耐性を示す薬剤であるバシトラシンを用いることができる。固体培地及び/又は液体試料の中のバシトラシン濃度は、0.05~0.5Units/mL程度とすればよく、中でも0.1~0.3Units/mLが好ましく、0.2Units/mLがより好ましい。バシトラシンに加えてテルライトを用いることで、ストレプトコッカス ミュータンスやストレプトコッカス ソブリヌスの増殖の選択性が向上する。
また、固体培地及び/又は液体試料が比較的高濃度のショ糖を含むと、夾雑菌の生育は困難となるが、ストレプトコッカス ミュータンスやストレプトコッカス ソブリヌスは増殖することができる。従って、固体培地は、例えば5~40重量%、中でも10~30重量%、中でも15~20重量%のショ糖を含むことが好ましい。また、液体試料にこの濃度範囲になるようにショ糖を添加することが好ましい。
【0027】
本発明において、目的とする嫌気性細菌を選択的に増殖させることができる成分は、目的とする嫌気性細菌以外の菌を全く増殖させないものに限定されず、その他の細菌が、本発明方法の結果に影響しない程度に増殖するものであってもよい。
ストレプトコッカス ミュータンスやストレプトコッカス ソブリヌスなどのう蝕原因菌を選択的に増殖させることができる固体培地としては、MSB固体培地、TYCSB(Trypticase-yeast-cysteine-sucrose-bacitracin)固体培地などが挙げられる。また、偏性嫌気性菌であるビフィドバクテリウム属細菌(ビフィズス菌)を選択的に増殖させることができる固体培地としては、TOSプロピオン酸固体培地などが挙げられる。TOSプロピオン酸固体培地は、ビフィドバクテリウム属細菌の増殖を選択的に促進するガラクトオリゴ糖を含む。また、ラクトバチラス属細菌(乳酸菌)を選択的に増殖させることができる固体培地としては、ロゴーサ寒天培地、MRS寒天培地のような固体培地などが挙げられる。
【0028】
一般に、固体培地としては、寒天を1.5w/v%含むものが使用されており、本発明方法で使用する固体培地にも、この程度の硬さになるようにゲル化剤を配合すればよい。ゲル化剤としては、寒天、ゼラチンなどが挙げられる。
ゲル化剤濃度は、0.2w/v%以上が好ましく、0.5w/v%以上がより好ましく、1w/v%以上がさらに好ましい。また、20w/v%以下が好ましく、10w/v%以下がより好ましく、5w/v%以下がさらに好ましい。ゲル化剤が寒天である場合は、3w/v%以下、又は2w/v%以下とすることもできる。
上記範囲であれば、流通時、保存時、使用時に潰れ難い固体培地となる。また、ゲル化剤濃度が余りに高いと、液体試料中に培地成分がほとんど溶け出さず固体培地表面付近で細菌が増殖し難いが、上記範囲であれば、固体培地表面付近で細菌が増殖することができる。
固体培地は、一般に行われているように、加熱して液状にした培地を培養容器に流し入れ、冷却して固めたものとすることができる。
【0029】
固体培地の全成分濃度をメーカー規定濃度より高くすれば、試料中の細菌が増殖し易くなるため、細菌の検出感度が向上する。固体培地の全成分濃度は、メーカー規定濃度の1~10倍、1~5倍、1~3倍、又は1~2倍とすることができる。
【0030】
粒状固体培地
また、別途成形した粒状の固体培地を培養容器に入れることもできる。粒状にすることにより固体培地の比表面積が大きくなるため、液体試料と接する培地面積が増えて、嫌気性細菌の増殖効率が向上する。粒状の固体培地は液体試料よりも比重が重いものが好ましく、それにより液体試料中に沈め易くなる。粒状の固体培地とすれば、組成が異なる複数種類の固体培地を混合して用いることができるというメリットもある。
粒の形は、特に限定されず、球状、多面体、長球状、小平板状、直方体、立方体、棒状、不定形などとすることができる。比表面積を大きくするため、金平糖のような起伏凹凸の強い形状や、表面に微細な孔や溝を有する形状や、表面から内部に続く微細な空洞を有する形状とすることもできる。
粒状の固体培地の大きさは、培養容器の容量によっても異なるが、長径が0.5mm以上、中でも1.5mm以上、中でも2mm以上で、50mm以下、中でも10mm以下、中でも3mm以下であることが好ましい。特に、2.5mmが好ましい。一般に顆粒状と呼ばれるサイズの粒状の固体培地を培養容器に多数入れて使用することが好ましい。
【0031】
粒状の固体培地は、例えば、加熱して液状にした培地を、球状、多面体、長球状、小平板状、立方体等の割型等に注入し冷却固化させる方法、加熱して液状にした培地を冷水などの中に押し出して固化させ、必要に応じてカットする方法、加熱して液状にした培地を冷水などの中に射出する方法などで成型することができる。さらに、成型後に、針、レーザー、ジェット水などで孔、溝、表面から内部に続く微細な空洞などを設けることができる。
【0032】
粒状の固体培地は、凍らせた状態又は凍結乾燥させた状態で保存し、使用の際、液体試料に凍らせた状態又は凍結乾燥させた状態のものを直接入れて使用することができる。凍結乾燥品は、常温下で保存しても良いが、-80~4℃、特に-20~4℃で保存することが好ましい。保存期間は、1日~3年、中でも1日~1年、中でも1日~6カ月とすることができる。また、凍結乾燥させた固体培地は、滅菌水で湿潤状態に戻してから使用することもできる。
凍結又は凍結乾燥保存すれば、検査機関で大量に固体培地を準備して保存しておくことができるため、凍結又は凍結乾燥保存できることは大きなメリットである。また、粒状の固体培地は、フィルムや瓶などの容器内に密封して、UVやオゾンなどで非加熱滅菌した状態で、常温又は冷蔵保存することもできる。また、粒状の固体培地は、個別に包装されていてもよく、複数個(例えば1回使用量)が包装されていてもよい。
【0033】
培養容器の形状は、特に限定されず、皿状容器、筒袋状容器のような単一の凹部を有する容器、複数の皿状又は筒袋状の凹部が設けられた容器、複数の筒袋状容器のセットなどが挙げられる。例えば、マイクロチューブ、マルチウェルプレート、シャーレなどの汎用品を利用することができる。
【0034】
培養
培養に当たっては、液体試料を培養容器内に入れ、固体培地表面を液体試料で覆う。固体培地表面の全体を覆えばよい。
【0035】
液状にした培地を培養容器に流し入れて固めた固体培地を用いる場合は、固体培地表面を覆う液体試料の厚さは、1mm以上、中でも2mm以上、中でも3mm以上、中でも4mm以上であることが好ましく、これにより、固体培地表面部分を十分に嫌気的環境にすることができる。固体培地表面を覆う液体試料の厚さの上限は、特に限定されないが、50mm程度とすればよい。
なお、例えば、培養容器内に作製した斜面培地の場合や、培地表面に凹凸がある場合は、斜面培地の上部や、培地表面の凸部が液体試料の表面から上に出ていてもよい。この場合も、液体試料の使用量などを調節することにより、液体試料で覆われた固体培地表面部分を、嫌気性細菌が増殖できるだけの嫌気条件にすることができる。この場合、固体培地表面の10%以上、中でも25%以上、中でも50%以上、中でも80%以上、中でも90%以上、中でも95%以上が液体試料に覆われていればよい。
【0036】
粒状の固体培地を培養容器に入れる場合は、粒の上端より1mm以上、中でも2mm以上、中でも3mm以上、中でも4mm以上の高さまで液体試料で覆うことが好ましい。即ち、粒状固体培地を使用する場合も、固体培地表面は、1mm以上、中でも2mm以上、中でも3mm以上、中でも4mm以上の厚さの液体試料で覆うことが好ましい。これにより、固体培地表面部分を十分に嫌気的環境にすることができる。粒の上端から液体培地表面までの高さの上限は、特に限定されないが、50mm程度とすればよい。但し、液体試料に比して固体培地が多すぎる場合は、粒状固体培地の一部が液体試料の上に出ていてもよい。この場合も、容器容量や液体試料の使用量などを調節することにより、液体試料で覆われた固体培地表面部分を、嫌気性細菌が増殖できるだけの嫌気条件にすることができる。
培養容器に液体試料と粒状固体培地を入れる順序は問わない。
本発明では、粒状固体培地を用いることが好ましく、複数ないしは多数の粒状固体培地を容器内の液体試料中に浸漬して培養することが好ましい。
【0037】
培養時間は、試料や細菌の種類によって異なるが、12時間以上、中でも16時間以上、中でも20時間以上が好ましく、48時間以下、中でも37時間以下、中でも24時間以下が好ましい。この範囲であれば、培養後の試料をそのまま核酸増幅の試料液として用いた場合に、液体試料中に嫌気性細菌が存在していれば、その存在を確認することができる。
培養温度は、検出したい嫌気性細菌の至適温度とすればよく、例えば30~45℃、中でも35~40℃、中でも36~38℃程度が挙げられる。
【0038】
(2)嫌気性細菌の検出方法
本発明の嫌気性細菌の検出方法は、嫌気性細菌が存在する可能性がある液体試料を、固体培地を覆った状態で培養する工程と、培養後の液体試料を、鋳型を含む試料として用いて、目的とする嫌気性細菌の持つ核酸の標的配列部分を増幅する核酸増幅を行う工程とを含む方法である。
嫌気性細菌が存在する可能性がある液体試料を培養する方法は、上記説明した通りである。
【0039】
核酸抽出
本発明方法では、回収した細菌から核酸(DNA又はRNA)を抽出しても良いが、抽出せずに培養後の液体試料をそのまま核酸増幅法に供しても嫌気性細菌を検出することができる。
本発明でいう核酸抽出は、細胞の透過性を高めて核酸の少なくとも一部を細胞外に出す処理をいう。このような処理は、当業者に周知であり、例えば、加熱(65~100℃程度の加熱)処理、界面活性剤(TritonX-100のような非イオン性界面活性剤、SDSやグアニジン塩のようなイオン性界面活性剤など)処理、塩化カルシウム処理、酵素(リゾチームのような細胞壁溶解酵素など)処理、パルス電圧印加、浸透圧ショックの付与、電子線照射などが挙げられる。
【0040】
核酸増幅
DNAを増幅する方法としては、PCR(Polymerase chain reaction)(Science 239,487-491(1988))、LCR(Ligase chain reaction)(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:189-193(1991))のような二本鎖DNAの熱変性工程を含む方法;LAMP(Loop-mediated isothermal amplification)(国際公開00/28082)、SDA(Strand displacement amplification)(米国特許第5455166号)、ICAN(Isothermal and chimeric primer-initiated amplification of nucleic acids)(国際公開00/56877)、SMAP(Smart amplification process)(Seibutsu butsuri kagaku, 52(4):183-187,2008)、3SR(Self-stranded sequence replication)(Am.Biotechnol.Lab.8,14-25(1990))のような二本鎖DNAの熱変性工程を含まない等温増幅法などが挙げられる。
【0041】
また、DNAに代えてRNAを増幅させることもできる。RNAを増幅させる場合は、RNAは最初から1本鎖であるため熱変性させる必要がなく、等温増幅を行える。また、RNAは細胞内のコピー数が多いため検出感度が高くなり、また種間で多様性が高いため、目的とする嫌気性細菌の検出精度が高くなる。RNAを増幅させる核酸増幅法としては、TMA(Transcription Mediated Amplification)(In Ferre, F.(ed), Gene quantification, Boston, Birkhauser p189-201(1998))、NASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification)(In Ferre, F.(ed), Gene quantification, Boston, Birkhauser p169-188(1998))、TRC(Transcription-reverse transcription concerted reaction)(J.Clin.Microbiol,.42(9):4284-4292,2004)などが挙げられる。
【0042】
また、RT(reverse transcription)-PCRやRT-LAMPのようなRNAを鋳型にしてDNAを増幅させる方法も使用できる。
【0043】
中でも、等温増幅法は温度を変化させる必要がないため、簡便で、また装置が安価であり、好ましい。中でも、LAMP法は、1種類の合成酵素を用いて1ステップでDNAを増幅できるため特に簡便である。また、LAMP法は、増幅効率が高いため、標的DNAが少なくても検出可能に増幅することができると共に、極めて高い特異性を持つため、類縁の菌種の誤検出が抑えられる。
等温増幅法において増幅時の温度は、DNAポリメラーゼの種類によって異なるが、例えば50~70℃程度とすればよく、中でも60~70℃が好ましく、60~67℃がより好ましい。
【0044】
核酸増幅法で増幅させる標的配列部分は、目的とする嫌気性細菌の持つ核酸上の特異的な塩基配列部分であればよい。標的配列部分は、何れかの遺伝子の全領域又は一部とすることができ、また、遺伝子間にまたがる配列部分を増幅させることもできる。通常、100~300塩基の部分を増幅させればよい。
ストレプトコッカス ミュータンスを検出する場合、グリコシルトランスフェラーゼ遺伝子(GenBank accession number: M1736)は、ストレプトコッカス属の種間で塩基配列が比較的大きく異なっているため、グリコシルトランスフェラーゼ遺伝子の全部又は一部を含む配列部分を標的とすれば、精度よく検出できる。また、cnmタンパク質をコードする遺伝子(GenBank accession number: AB465300.1)の全領域又は一部を含む配列部分を標的とすれば、cnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスを検出することができ、PAタンパク質をコードする遺伝子(GenBank accession number: KM219946)の全領域又は一部を含む配列部分を標的とすれば、PA-陽性ストレプトコッカス ミュータンスを検出することができる。
【0045】
中でも、配列番号1に示す塩基配列からなる、ストレプトコッカス ミュータンスのトランスグルコシダーゼ遺伝子の配列部分を標的とすれば、一層特異性の高い核酸増幅を行うことができ、即ち、他菌種の誤検出やストレプトコッカス ミュータンスの検出漏れが少なくなる。
また、配列番号2に示す塩基配列からなる、ストレプトコッカス ミュータンスのcnmタンパク質遺伝子の配列部分を標的とすれば、一層特異性の高い核酸増幅を行うことができ、即ち、他菌種又はcnm-陰性ストレプトコッカス ミュータンスの誤検出や、cnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスの検出漏れが少なくなる。
【0046】
嫌気性細菌の有無の判定
目的とする嫌気性細菌の標的配列部分の増幅は、例えば、エチジウムブロミド (EtBr)、SYBR GREENのような2本鎖核酸に結合するインターカレーター存在下で増幅反応を行い、紫外線ランプ下で蛍光を確認することで行える。また、カルセインのようなキレート剤は、増幅前にはマンガンイオンと結合して消光しているが、核酸増幅反応が進行すると、生成するピロリン酸イオンにマンガンイオンを奪われることで蛍光を発し、さらに反応液中のマグネシウムイオンと結合することで蛍光が増強されるため、紫外線ランプ下で蛍光を確認することで、増幅の有無を確認することができる。
また、DNA合成酵素による伸長反応では副産物としてピロリン酸が生成するため、反応液中のマグネシウムイオンと反応してピロリン酸マグネシウムが生じる。LAMP法のように増幅産物の生成量が多い方法では、反応液中にピロリン酸マグネシウムが析出して白濁を生じるため、白濁を目視で確認することで、標的配列の増幅を確認することができる。
また、LAMPによる増幅反応が起こると反応液のpHが酸性に傾くため、反応液にpH指示薬を入れておくことにより溶液の変色が起こり、それを指標として標的配列の増幅を確認することができる。
【0047】
(3)粒状固体培地
本発明は、粒状固体培地を提供する。
従来使用されている平板状固体培地は、細菌を含む試料を塗り拡げて単一コロニーとし単一株を単離することや、細菌を含む試料を塗って細菌数を増やしかき取って次の工程に使用することなどに利用されている。これに対して、粒状固体培地は、平板状固体培地に比べて比表面積が格段に大きく、また、多様な内容量の培養容器に必要な分だけ入れて使用することができるため、細菌を含む少量の液体試料と共に小サイズの培養容器に入れた状態で、その表面に細菌を増殖させるといった使い方ができる。また、固体培地から液体試料中に、細菌を増殖させることができる成分が拡散するため、固体培地表面に限らず液体試料中でも細菌を増殖させることができる。その後、粒状固体培地の表面に増殖した細菌を回収したり、液体試料中に増殖した細菌を回収して次の工程に使用することができる。粒状固体培地の表面に増殖した細菌を回収する方法として、細菌が付着した粒状固体培地ごと次工程で使用する方法が挙げられる。次工程が核酸増幅である場合は、細菌が付着した粒状固体培地を直接、反応溶液に添加することができる。
【0048】
粒状固体培地は、中でも嫌気性細菌を効率よく増殖させることができる。
液体試料を液体培地に接種した場合、液体培地の表面から離れた部分は嫌気条件になっている可能性があるが、実際には、液体試料を液体培地に接種しても嫌気性細菌を効率良く増殖させることはできない。これに対して、粒状の固体培地は、その表面が液体試料で覆われるようにして使用すれば、固体培地表面付近が嫌気性細菌の増殖に適した嫌気条件となり、嫌気性細菌を効率良く増殖させることができる。
また、前述した通り、粒状でない平板状などの固体培地も、その表面が液体試料で覆われるようにして使用すれば、固体培地表面付近が嫌気性細菌の増殖に適した嫌気条件となり、嫌気性細菌を効率良く増殖させることができるが、粒状固体培地は、少量の液体試料であってもその表面を液体試料で覆い易い点で、特に嫌気性細菌の増殖に適している。
【0049】
本発明の粒状固体培地を使用する対象試料としては、本発明の細菌の増殖方法について例示した液体試料が挙げられる。また、好適な検出対象となる嫌気性細菌としては、本発明の細菌の増殖方法について例示した嫌気性細菌が挙げられる。
本発明の粒状固体培地は、特に、液体試料が唾液である場合に適している。また、特に、通性嫌気性細菌、中でもストレプトコッカス・ミュータンスやストレプトコッカス・ソブリヌスのようなう蝕原因菌を増殖させるのに適している。
粒状固体培地の形状、性状、製造方法、培養時の使用方法などは、「(1)細菌の培養方法」の項目で説明した通りである。
【0050】
また、粒状固体培地は、嫌気性細菌が存在する可能性がある液体試料で覆った状態で培養し、培養後の液体試料を鋳型を含む試料として用いて、目的とする嫌気性細菌が有する核酸の標的配列部分を増幅する核酸増幅を行うことにより、液体試料が少ない場合でも、嫌気性細菌を効率よく検出することができる。この場合、核酸抽出しなくてよいことや、多様な核酸増幅方法に適用できることなど、嫌気性細菌の検出方法の詳細は「(2)嫌気性の検出方法」の項目で説明した通りである。粒状固体培地で液体試料を培養すれば、特に、LAMP法で核酸増幅を行う場合に嫌気性細菌を検出し易くなる。
【実施例0051】
以下、実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
実施例1(粒状寒天培地を用いた唾液中のストレプトコッカス ミュータンスの検出)
MSB寒天培地の調製
9gのmitis salivarius agar(BD社)と15gのスクロース(Wako社)を混ぜ、蒸留水で100mLにメスアップし、オートクレーブ(121℃、15分)にかけた。オートクレーブ終了後、固まらない程度に冷めた培地に1%テルライト溶液(BBL Tellurite solution 1%)(BD社)を100μLと400U/ml バシトラシン(SIGMA社)を50μL加えた。撹拌後、シャーレに注ぎ入れ、培地が固まるまで静置した。
パスツールピペットの上端(口径が大きい方の端)をシャーレ中のMSB寒天培地に押し当て、円柱状のMSB寒天培地を切り出した(
図1a)。円柱状のMSB寒天培地は、直径約5mm、厚さ約3mm、重量約75mgであった。
【0052】
唾液の培養
円柱状のMSB寒天培地を、2mL容量のマイクロチューブ(グライナー社)(
図1b)に入れ、ここに、ピペットマン(ギルソン社)で唾液を150μL入れた。これにより、円柱状のMSB寒天培地は唾液で覆われた。唾液の液面は、円柱状のMSB寒天培地の上端より1mm高い位置となった。マイクロチューブの蓋を閉めて、37℃で24時間培養した。
唾液として、cnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスを含むことが分かっている唾液と、cnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスを含まないことが分かっている唾液を用いた。また、各唾液について、コントロールとして、円柱状のMSB寒天培地を入れずに唾液だけを同様にして培養した。
【0053】
LAMP反応
24時間培養したマイクロチューブをタッピングして内容物を混和した。マイクロチューブから培養後の唾液5μLを取り出し、鋳型を含む試料液として用いて、LAMP法試薬(Loopamp DNA増幅試薬、栄研化学社)を用いてDNAを増幅した。
LAMP反応用液25μL中に含まれる各成分量は、以下の通りである。
プライマー:1600 nM FIP、1600 nM BIP、800 nM LF、800 nM LB、400 nM F3、400n M R3
唾液(鋳型DNA):5μL
Loopamp蛍光・目視検出試薬(栄研化学社)1μL
0.8Mベタイン
上記LAMP反応用液を調製した後、64℃で90分反応させた。
用いたプライマーセットは下記の通りである。
cnmタンパク質遺伝子増幅用プライマーセット(「cnmプライマー」と称する)
F3: CCAGTAATACTGTCATTGAAAGT(配列番号3)
B3: CGCTTTGAGTTTGATGAGC(配列番号4)
FIP: AACCATTAAGCTGGAGGTTCAGGAACTGCTTTGTCTTGCGT(配列番号5)
BIP: CGTATAACCTGTTCCTCTGACTGTAATATTAAAGCAGGCGACAC(配列番号6)
LF: GCAAGTATGTTGGTGATTTG(配列番号7)
LB: CCTGAATTCTGCCAGTTAAC(配列番号8)
【0054】
紫外線ランプ下で各反応チューブを観察した結果を
図2に示す。
図2中、「ミュータンス菌」は「ストレプトコッカス ミュータンス」である(以下の図も同様)。
この結果、ストレプトコッカス ミュータンスを含む唾液だけを培養した場合は、ストレプトコッカス ミュータンスが増殖せず、その結果、LAMP法により検出できなかった(
図2のチューブ2)。一方、ストレプトコッカス ミュータンスを含む唾液に円柱状のMSB寒天培地を入れて培養した場合は、ストレプトコッカス ミュータンスが増殖し、その結果、cnmプライマーを用いたLAMP法で検出することができた(
図2のチューブ4)。
唾液を本発明の方法で培養することによりストレプトコッカス ミュータンスを増殖させることができ、培養後の唾液をDNA抽出操作なしで直接LAMP反応に用いてもストレプトコッカス ミュータンスを検出できることが分かった。
【0055】
実施例2(唾液濃度の検討)
次に、唾液中のストレプトコッカス ミュータンスが少ない状況でもLAMP法でストレプトコッカス ミュータンスの持つ核酸に特異的な配列部分を増幅できるか否かを検討した。
実施例1で用いた、cnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスを含むことが分かっている唾液を、PBSで、10倍、100倍、1000倍、10000倍にそれぞれ希釈し、実施例1と同様にして、円柱状のMSB寒天培地と共に培養し、LAMP法による核酸増幅を行った。コントロールとして、円柱状のMSB寒天培地を入れずに唾液原液だけを同様にして培養し、LAMP法による核酸増幅を行った。
【0056】
紫外線ランプ下で各反応チューブを観察した結果を
図3に示す。唾液を10倍希釈しても、ストレプトコッカス ミュータンスを検出することができた(
図3のチューブ1)。一方、唾液原液を、円柱状のMSB寒天培地を使用せずに培養したものは、ストレプトコッカス ミュータンスを検出できなかった(
図3のチューブ5)。円柱状のMSB寒天培地を入れることにより、ストレプトコッカス ミュータンスの菌数が少なくても、核酸増幅で検出できる程度に、効率よく増殖させることができた。
ドライマウスの被験者のように採取できる唾液が少ない場合にも、唾液を希釈して本発明方法に供すれば、ストレプトコッカス ミュータンスを検出できることが分かった。
【0057】
実施例3(標的塩基配列の検討)
PA-陽性ストレプトコッカス ミュータンスを含むことが分かっている唾液と、PA-陽性ストレプトコッカス ミュータンスを含まないことが分かっている唾液を、実施例1と同様にして円柱状のMSB寒天培地を用いて培養した。培養後の唾液を、鋳型を含む試料として用いて、PAタンパク質遺伝子を標的とするプライマーを用いてLAMP法による核酸増幅を行った。LAMP反応の条件は実施例1と同じである。
用いたプライマーセットは下記の通りである。
PAタンパク質遺伝子増幅用プライマーセット(「PAプライマー」と称する)
F3: AGGCATACGAAGATGAACAA(配列番号9)
B3: GCTAAAAGCATCATCCACAG(配列番号10)
FIP: GGTTCTGTTAAGTTTCCGTCTTCATGCTTCTATTAAAGCTGCACTG(配列番号11)
BIP: TGGTCTATGATCTTGAGCCAAATGAGAAGCCTTAAGGAACTTCC(配列番号12)
LB: GAACTTATCTTTGACAACAG(配列番号13)
【0058】
紫外線ランプ下で各反応チューブを観察した結果を
図4に示す。
cnmタンパク質をコードする遺伝子だけでなく、PAタンパク質をコードする遺伝子を標的としてもストレプトコッカス ミュータンスを検出することができた。ストレプトコッカス ミュータンスが持つ遺伝子であれば、どのような遺伝子を標的として核酸増幅を行っても、ストレプトコッカス ミュータンスを検出できることが分かった。
【0059】
実施例4(ストレプトコッカス ソブリヌスの検出)
ストレプトコッカス ソブリヌスは、ミュータンス菌と同様に通性嫌気性細菌であり、う蝕の原因菌として知られている。本発明方法で、ストレプトコッカス ソブリヌスを検出できるか否かを検討した。
唾液として、ストレプトコッカス ソブリヌスを含むことが分かっている4人の被験者の唾液を用いた。各唾液を、実施例1と同様にして円柱状のMSB寒天培地を使用して培養した。また、コントロールとして、各唾液を、円柱状のMSB寒天培地を使用せずに培養した。培養条件は、実施例1と同じである。
24時間培養後に、マイクロチューブをタッピングすることにより内容物を混和した。マイクロチューブから培養後の唾液1μLを取り出し、鋳型を含む試料液として用いて、LAMP法試薬(WarmStart Colorimetric LAMP 2x Master Mix、New England Biolabs社)を用いてDNAを増幅した。
LAMP反応用液25μL中に含まれる各成分量は、以下の通りである。
プライマー:1600 nM FIP、1600 nM BIP、800 nM LF、800 nM LB、400 nM F3、400n M R3
唾液(鋳型DNA):1μL
WarmStart Colorimetric LAMP 2x Master Mix (New England Biolabs社)12.5μL
Loopamp蛍光・目視検出試薬(栄研化学社)1μL
5Mベタイン (SIGMA社) 4μL
上記LAMP反応用液を調製した後、63℃で30分反応させた。
用いたプライマーセットは下記の通りである。
ストレプトコッカス ソブリヌスが有する核酸に特異的な配列部分の増幅用プライマーセット
F3: GGGAGGCTCAAAGGAACT(配列番号14)
B3: GATGATTTGCTCATCATAGTCTG(配列番号15)
FIP: GGTAGCAAAGGTTAAATAGCCCATCGCTATTTTTACTGCTACAGC(配列番号16)
BIP: TGCTTCTCTCTCTTATCAGTATCGGTCTTTATGACCAGTTGTCGA(配列番号17)
LF: TCCTACGGCAATGCCAATG(配列番号18)
LB: TTGGTCAACACACTAGAACCCG(配列番号19)
なお、上記プライマーは、下記論文を参照して調製した。
Rapid Detection of the Cariogenic pathogens Streptococcus Mutans and Streptococcus Sobrinus Using Loop-Mediated Isothermal Amplification
S Nagashima, A Yoshida, T Ansai, H Watari, T Notomi, K Maki, T Takehara
Oral Microbiol Immunol. 2007 Dec;22(6):361-8.
【0060】
紫外線ランプ下で各反応チューブを観察した結果を
図5に示す。
図5中、「ソブリヌス菌」は「ストレプトコッカス ソブリヌス」である
4人の被験者の唾液(A~D)の全てにおいて、円柱状のMSB寒天培地を入れて培養することで、LAMP法で、ストレプトコッカス ソブリヌスの持つ核酸に特異的な配列部分の増幅を確認することができた。
本発明方法は通性嫌気性細菌を広く検出できることが分かった。
【0061】
実施例5(pHを指標としたストレプトコッカス ミュータンスの増殖確認)
本発明方法で通性嫌気性細菌を検出できるのは、固体培地を液体試料で覆うことにより、固体培地表面が空気に触れないため、固体培地表面付近に嫌気的条件を作り出すことができ、それにより通性嫌気性細菌が増殖するためと考えている。
この仮定を証明するために、実際に通性嫌気性細菌が増殖したか否かを確認した。
ストレプトコッカス ミュータンスは、糖(スクロース)を分解して乳酸を作り出すことにより、その環境を酸性にすることが知られている。従って、本発明方法でストレプトコッカス ミュータンスを培養した後に、培養液が酸性になっていれば、ストレプトコッカス ミュータンスが増殖していることが分かる。そこで、培養直後(1分後)及び24時間培養後の培養液のpHを測定した。
【0062】
具体的には、円柱状のMSB寒天培地を、2mL容量のマイクロチューブ(グライナー社)に入れ、ここにcnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスを含むことが分かっている唾液を150μL入れた。37℃で24時間培養した。培養開始1分後と24時間後に、唾液1μLをサンプリングし、pH試験紙(アドバンテック東洋)を用いてpHを判定した。
pH試験紙の色を
図6のaに示す。1分間培養した唾液では、試験紙が緑色を呈しておりpH7付近であることが分かる。一方、24時間培養した唾液では、試験紙は黄色を呈しておりpH4付近であることが分かる。
【0063】
LAMP反応試薬のWarmStart Colorimetric LAMP 2x Master Mix(New England Biolabs社)には、LAMP反応が進行して核酸が増幅することにより反応液が酸性に傾くのを検出するためにpH指示薬が添加されている。WarmStart Colorimetric LAMP 2x Master Mixを用いてLAMP反応を行うと反応液が黄色に変色する。
従って、別途、1分間培養後、及び24時間培養の唾液5μLをLAMP反応液のWarmStart Colorimetric LAMP 2x Master Mix(New England Biolabs社)に添加した。
添加直後の反応チューブの外観を
図6のbに示す。1分間培養した唾液を添加した反応液は赤色であり、24時間培養した唾液を用いた反応液は黄色である。この方法でもpHを指標としてストレプトコッカス ミュータンスやストレプトコッカス ソブリヌスのような通性嫌気性細菌の存在を検出できた。
【0064】
なお、上記の通り、24時間培養後の、ストレプトコッカス ミュータンスが増殖した唾液は強い酸性であるため、LAMP反応液のWarmStart Colorimetric LAMP 2x Master Mixに添加した時点で、既に反応液は黄色くなっている。従って、LAMP反応の進行に伴い反応液が黄色になる現象を利用して標的核酸の増幅を確認しようとする場合、酸性化を黄変で検出するpH指示薬以外の手段で増幅を確認する必要がある。このため、前述の実施例4で行っているように、LAMP反応試薬としてWarmStart Colorimetric LAMP 2x Master Mix試薬を利用する場合、例えば、Loopamp蛍光・目視検出試薬(カルセイン)を添加することにより増幅の有無を確認することができる。
【0065】
以上の結果より、円柱状のMSB寒天培地を用いて唾液を培養することで、唾液中のストレプトコッカス ミュータンスやストレプトコッカス ソブリヌスのような通性嫌気性細菌が増殖したことが推測され、仮定が証明されたと考える。
【0066】
実施例6(固体培地の調製に用いるゲル化剤の種類の検討)
MSB-G培地の調整
9gのmitis salivarius agar (BD社)、15gのスクロース (Wako社)を混ぜ、蒸留水で100mLにメスアップし、オートクレーブ (121℃、15分)にかけた。オートクレーブ終了後、固まらない程度に冷めた培地に3gのゼラチン(Wako社)、1%テルライト溶液(BBL Tellurite solution 1%)(BD社)を100μLと400U/ml バシトラシン(SIGMA社)を50μL加えた。撹拌後、シャーレに注ぎ入れ、培地が固まるまで静置した。これをMSB-G培地と呼ぶ。
パスツールピペットの上端(口径が大きい方の端)をシャーレ中のMSB-G培地に押し当て、円柱状のMSB-G寒天培地を切り出した。形状は
図1aと同様である。円柱状のMSB-G寒天培地は、直径約5mm、厚さ約3mm、重量約75mgであった。
【0067】
唾液の培養
円柱状のMSB-G培地を、2mL容量のマイクロチューブ(グライナー社)に入れ、ここに、ピペットマン(ギルソン社)でcnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスを含むことが分かっている唾液を200μL入れた。これにより、円柱状のMSB-G培地は唾液で覆われた。唾液の液面は、円柱状のMSB-G培地の上端より1mm高い位置となった。マイクロチューブの蓋をして37℃で24時間培養した。コントロールとして、円柱状のMSB-G培地を入れずに唾液だけを同様にして培養した。
【0068】
LAMP反応
24時間培養したマイクロチューブをタッピングして内容物を混和した。マイクロチューブから培養後の唾液5μLを取り出し、鋳型を含む試料液として用いて、Loopamp蛍光・目視検出試薬を添加したLAMP法試薬(WarmStart Colorimetric LAMP 2x Master Mix、New England Biolabs社)を用いて、実施例1と同様にしてcnm遺伝子を増幅した。
【0069】
紫外線ランプ下で反応チューブを観察した結果を
図7に示す。ゼラチンで固めた固体培地を用いてもcnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスを検出することができた。培地の固形化に使用できるゲル化剤は、寒天に限らないことが分かった。
【0070】
実施例7(抗菌剤の使用方法の検討)
MSB培地は、mitis salivarius agar、スクロース、テルライト、及びバシトラシンを含む。これらのうちテルライト及びバシトラシンは抗菌作用を持つ。テルライトはグラム陰性菌の発育を阻害することにより抗菌作用を示し、バシトラシンは細胞壁ペプチドグリカンの合成をブロックすることにより抗菌作用を示す。これらの抗菌剤は、水溶液状態で長期間保存すると抗菌活性が低下することが知られており、水溶液状態での保存よりは冷凍保存が望ましい。しかし、一般的に、MSB培地を含む固形培地のプレートは、冷凍保存すると解凍時に濃度の濃いものが先に溶け出し培地の濃度が変わる、解凍に時間がかかる等の問題があり、調製後は冷凍保存せずに短期間のうちに使い切るのが一般的である。
本発明の細菌の検出方法を集団検診で行う場合、検査機関では予め大量の固体培地を成形し、保存しておく必要がある。また、本発明の細菌の検出方法を郵送検査で行う場合は、固体培地を含むキットを被検者に郵送し使用後に返送されるのに時間がかかる。従って、一般には長期保存できないMSB固体培地を使用せずに、本発明方法を行う方法があれば、集団検診や郵送検査を行い易い。
このため、MSB培地の成分のうち、テルライトとバシトラシンを除いた寒天培地(MSB(-)培地)を調製し、それに代えて、被験唾液中にテルライトとバシトラシンを加えることで、唾液中のストレプトコッカス ミュータンス及びストレプトコッカス ソブリヌスを選択的に増殖させて検出できるか否かを検討した。
【0071】
MSB(-)培地の調整
9gのmitis salivarius agar (BD社)、15gのスクロース (Wako社を混ぜ、蒸留水で100mLにメスアップし、オートクレーブ (121℃、15分)にかけた。オートクレーブ終了後、シャーレに注ぎ入れ、培地が固まるまで静置した。これをMSB(-)培地と呼ぶ。
パスツールピペットの上端(口径が大きい方の端)をシャーレ中のMSB(-)培地に押し当て、円柱状のMSB(-)寒天培地を切り出した(形状は
図1aと同様である)。円柱状のMSB(-)寒天培地は、直径約5mm、厚さ約3mm、重量約75mgであった。
【0072】
唾液の培養
円柱状のMSB(-)培地を2mL容量のマイクロチューブ(グライナー社)に入れ、ここに、ピペットマン(ギルソン社)で、ストレプトコッカス ミュータンスとストレプトコッカス ソブリヌスを含むことが分かっている唾液195μLにテルライトとバシトラシンを添加したものを入れた。これにより、円柱状のMSB寒天培地は唾液で覆われた。唾液の液面は円柱状のMSB寒天培地の上端より2mm高い位置となった。マイクロチューブの蓋を占めて37℃で20時間培養した。
唾液中のテルライト濃度は0.00025~0.001w/v%とし、バシトラシン濃度は0.05~0.2U/mLとした。
【0073】
LAMP反応
20時間培養したマイクロチューブ中の唾液2μLを、鋳型を含む試料液として用いて、LAMP法試薬(WarmStart Colorimetric LAMP 2x Master Mix、New England Biolabs社)にLoopamp蛍光・目視検出試薬1μLを加えたものを用いてDNAを増殖した。
LAMP反応用液25μL中に含まれる各成分量は、以下の通りである。
プライマー:1600 nM FIP、1600 nM BIP、800 nM LF、800 nM LB、400 nM F3、400n M R3
唾液(鋳型DNA):1μL
WarmStart Colorimetric LAMP 2x Master Mix)12.5μL
Loopamp蛍光・目視検出試薬(栄研化学社)1μL
5Mベタイン (SIGMA社) 4μL
プライマーセットとして、ストレプトコッカス ミュータンスの持つ核酸に特異的な配列部分の増幅用プライマーセット(PAプライマー)と、実施例4で使用したのと同じストレプトコッカス ソブリヌスの持つ核酸に特異的な配列部分の増幅用プライマーセットを用いた。
上記LAMP反応用液を調製した後、65℃(ストレプトコッカス ミュータンス)あるいは63℃(ストレプトコッカス ソブリヌス)でそれぞれ60分反応させた。
【0074】
紫外線ランプ下で各反応チューブを観察した結果を
図8に示す。
図8中「DNAなし」は、唾液に代えて蒸留水をLAMP反応用液に添加したコントロールである。
この結果、興味深いことに、唾液中にテルライト及びバシトラシンを添加することで、テルライト及びバシトラシンを含むMSB培地を用いた場合と同様に、ストレプトコッカス ミュータンス及び/又はストレプトコッカス ソブリヌスを検出できた。
【0075】
テルライト及びバシトラシンを添加した唾液は、冷凍保存しても、これらの薬剤の活性が低下し難い。従って、唾液採取後直ぐに検査できないときは、唾液採取後直ぐにテルライト及びバシトラシンを添加して冷凍しておけば、唾液中でのストレプトコッカス ミュータンス及びストレプトコッカス ソブリヌス以外の細菌の増殖を抑えることができ、安定した検査結果が得られる。
【0076】
実施例8(MSB固体培地の保存条件の検討1)
前述した通り、固体培地は凍らせないことが一般的であるが、粒状の固体培地を、凍結保存後に解凍して用いた場合に、通性嫌気性細菌を検出できるか否かを検討した。
具体的には、凍らせた円柱状のMSB寒天培地を液体試料へ入れて培養した時に、ストレプトコッカス ミュータンスが検出できるかを検討した。即ち、実施例3で用いた、PA-陽性ストレプトコッカス ミュータンスを含むことが分かっている唾液を、実施例4と同様にして、円柱状のMSB寒天培地、及び凍らせたままの状態の円柱状のMSB寒天培地と共にそれぞれ培養し、LAMP法による核酸増幅を行った。コントロールとして、円柱状のMSB寒天培地を入れずに唾液だけを同様にして培養し、LAMP法による核酸増幅を行った。
どちらの円柱状のMSB寒天培地も唾液中に沈潜し、唾液の液面は、円柱状のMSB寒天培地の上端より1mm高い位置であった。
【0077】
紫外線ランプ下で各反応チューブを観察した結果を
図9に示す。凍らせたままの状態の円柱状のMSB寒天培地と共に培養しても、ストレプトコッカス ミュータンスを検出することができた(
図9のチューブ3)。
凍らせた円柱状のMSB寒天培地でも検出することができたことから、粒状の固形培地を凍らせた状態で長期保存できることが示唆された。
【0078】
実施例9(MSB固体培地の保存条件の検討2)
凍結乾燥した粒状の固体培地を用いた場合に、通性嫌気性細菌を検出できるか否かを検討した。
具体的には、マイクロチューブに入れた円柱状のMSB寒天培地を-82℃で1時間凍結させたのち、凍結乾燥機(EYELA FDU-1200、東京理化器械)を用いて22時間減圧処理し凍結乾燥した。この凍結乾燥した円柱状のMSB寒天培地が入っているマイクロチューブに液体試料へ入れて培養した時に、ストレプトコッカス ミュータンスが検出できるかを検討した。即ち、実施例8で用いた、PA-陽性ストレプトコッカス ミュータンスを含むことが分かっている唾液を、実施例8と同様にして、円柱状のMSB寒天培地、及び凍結乾燥した円柱状のMSB寒天培地と共にそれぞれ培養し、LAMP法による核酸増幅を行った。コントロールとして、円柱状のMSB寒天培地を入れずに唾液だけを同様にして培養し、LAMP法による核酸増幅を行った。
液体試料を入れた直後の凍結乾燥した円柱状のMSB寒天培地は唾液面下に存在したが、暫くすると、唾液の液面が円柱状のMSB寒天培地の上端より1mm高い位置になるように沈潜した。
【0079】
紫外線ランプ下で各反応チューブを観察した結果を
図10に示す。凍結乾燥した円柱状のMSB寒天培地と共に培養しても、ストレプトコッカス ミュータンスを検出することができた(
図10のチューブ3)。
凍結乾燥した円柱状のMSB寒天培地でも検出することができたことから、粒状の固形培地を凍結乾燥させた状態で長期保存できることが示唆された。
【0080】
粒状に成形したMSB固体培地は凍結保存、或いは凍結乾燥保存できるため、検査機関で予め大量のMSB固体培地を調製して凍結保存、或いは凍結乾燥保存しておくことができ、本発明方法で病院検査や集団検診を行い易くなる。また、凍結又は凍結乾燥したMSB固体培地を製造して検査機関に販売するといったこともできるようになる。
【0081】
実施例10(偏性嫌気性菌の検出)
偏性嫌気性菌であるビフィドバクテリウム属細菌(ビフィズス菌)を、本発明方法で検出できるか否かを検討した。
【0082】
(1)LAMPプライマーの設計
まず初めに、LAMPプライマーを設計するために、ビフィドバクテリウム ロンガム(Bifidobacterium longum)BB536株の塩基配列の一部を決定した。
(DNAの調製)
「ビヒダス生きて届くビフィズス菌BB536」(商品名)(森永乳業)のカプセルの中身を取り出し、5mLの蒸留水に懸濁した。この懸濁液5μLを、「簡易DNA抽出キットver.2」(商品名)(カネカ社)を用いて、DNAを抽出した。
(PCR)
抽出したDNAを鋳型としてExpand long Range(商品名)(ロシュ社)を用いて、PCRを行った。方法は添付の解説書の通りとした。PCR反応は、98℃で2分の後、94℃で20秒、55℃で20秒、68℃で20秒のサイクルを35回行った。用いたプライマーは以下の通りである。
BB536F:gccacttcgccacaaat (配列番号20)BB536R:acttcgccacgcagattctg(配列番号21)
(塩基配列の決定)
PCRの増幅産物をPCR purification kit(商品名)(QIAGEN社)を用いて精製した後、ユーロフィンジェノミクス社に、DNA塩基配列決定を委託した。このDNA塩基配列決定に用いたプライマーはBB536FおよびBB536Rである。
決定した塩基配列をNCBIのNucleotide BLAST(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)を用いて同一性検索を行った。この結果、ビフィドバクテリウム ロンガムzJ1 クロムソーム,コンプリートゲノム(Bifidobacterium longum zJ1 chromosome, complete genome)(GenBank no.: CP040235.1)の塩基配列の一部と高い同一性を示した。以下に、高い同一性を示した領域の塩基配列を示す。なお、下線で示した箇所は、プライマーBB536F(後半の下線)及びプライマーBB536R(前半の下線)の塩基配列に相当する。
agttcgccacgcagattctgaataattccggtcgcgtgatgattggttggttcgttgataattccgctgtgggcatttatggcacactttcctcggtgagtaccgtttccgcaatcgtatggtcggcaattaattcttcgtttatcccattcctctatcggaatattgatgattccgaaggcaagaaaagagttcggagcctcgcttcgattctgctgctcacctatgctgcggtatgcgtattgatgactttcctagctcctgaggtggtcaagataatcgcaactgatgaatatatggcagcgatttacatcatgccgccaatttctgcagccattttccagaacgctatttccaatatgtatgcaaacgtgttgttgtatcacaaaaaatcttcatacataatgattgcctctatttgtggcgcagt(配列番号22)
(LAMPプライマーの設計)
配列番号22の塩基配列中に、ビフィドバクテリウム ロンガムBB536株を検出するためのLAMP用プライマーを設計するために、PrimerExplorer Ver.5(https://primerexplorer.jp/)を用いてプライマー作製領域を決定した。設計したプライマーは、以下の通りである。
FIP: AGCAGCAGAATCGAAGCGAG-CGGAATATTGATGATTCCGAAG(配列番号23)
BIP:TGCGTATTGATGACTTTCCTAGCTC-GCGGCATGATGTAAATCG(配列番号24)
F3: TTCGTTTATCCCATTCCTCTA(配列番号25)
B3:TGGAAATAGCGTTCTGGAA(配列番号26)
【0083】
(2)LAMPプライマーの検出限界の決定
ビフィドバクテリウム ロンガムを本発明方法で検出できるか否かを検討するにあたって、ビフィドバクテリウム ロンガムBB536株を単離し、LAMPによるDNA増幅の検出限界を知る必要がある。
(ビフィドバクテリウム ロンガムBB536株の培養)
TOSプロピオン酸寒天培地(ヤクルト薬品工業社)を、添付の説明書に従い、オートクレーブ後、シャーレに注ぎ、TOSプロピオン酸寒天培地のプレートを作製した。
DNA抽出時に調製したビフィドバクテリウム ロンガムBB536株の懸濁液をこのTOSプロピオン酸寒天培地に塗布し、脱酸素剤であるアネロパウチ嫌気(商品名)(三菱ガス化学社)と共にWチャック付きパウチ袋(三菱ガス化学社)に入れ、37℃で2日間培養した。得られたコロニーを1mLのTE溶液に懸濁した(以下、「TE懸濁液」という)。
(ビフィドバクテリウム ロンガムBB536株の増幅)
LAMPによるDNA増幅の検出限界の菌体量を見出すために、TE懸濁液を段階希釈した。この希釈溶液を鋳型を含む試料液として用い、LAMP法試薬(WarmStart Colorimetric LAMP 2x Master Mix、New England Biolabs社)を用いてDNAを増幅した。
LAMP反応用液25μL中に含まれる各成分量は、以下の通りである。
プライマー:1600nM FIP、1600nM BIP、400nM F3、400nM R3
鋳型DNA:1μL
WarmStart Colorimetric LAMP 2x Master Mix (New England Biolabs社)12.5μL
5Mベタイン (SIGMA社) 4μL
上記LAMP反応用液を調製した後、65℃で90分反応させた。
この結果、希釈しないTE懸濁液では増幅したが、10倍希釈したTE懸濁液では増幅しなかった。
以上の結果に基づき、試料を直接LAMPに供してもビフィドバクテリウム ロンガムBB536株の存在を検出できない10倍希釈したTE懸濁液を試料として用いた場合に、本発明方法であればビフィズス菌BB536株の存在を検出できるか否かを検討した。
【0084】
(3)本発明方法によるビフィドバクテリウム ロンガムBB536株の検出
(粒状TOSプロピオン酸寒天培地の調製)
パスツールピペットの上端(口径が大きい方の端)をシャーレ中のTOSプロピオン酸寒天培地に押し当て、円柱状のTOSプロピオン酸寒天培地を切り出した。形状は
図1aと同様である。円柱状のTOSプロピオン酸寒天培地は、直径約5mm、厚さ約3mm、重量約75mgであった。
(ビフィズス菌BB536株の培養)
円柱状のTOSプロピオン酸寒天培地を、2mL容量のマイクロチューブ(グライナー社)に入れ、ここに、ピペットマン(ギルソン社)で10倍希釈TE懸濁液を200μL入れた。これにより、円柱状培地は、10倍希釈TE懸濁液で覆われた。この液面は、円柱状培地の上端より2mm高い位置となった。マイクロチューブの蓋をして37℃で24時間、及び48時間、それぞれ培養した。コントロールとして、円柱状培地を入れずに10倍希釈TE懸濁液だけを同様にして培養した。
LAMP反応
24時間又は48時間培養したマイクロチューブをタッピングして内容物を混和した。マイクロチューブから培養後のTE懸濁液1μLを取り出し、鋳型を含む試料液として用いて、LAMP法試薬(WarmStart Colorimetric LAMP 2x Master Mix、New England Biolabs社)を用いて増幅した。LAMPの方法は、本実施例の「(1)LAMPプライマーの設計」の項目に記載の方法とした。
【0085】
増幅後の反応チューブの外観を
図11に示す。
円柱状培地を入れずに10倍希釈TE懸濁液を培養したチューブは赤色を呈しているが、円柱状培地が入れて10倍希釈TE懸濁液を培養したチューブは、増幅反応後の反応液の色が黄色に変わっていた。すなわち、円柱状のTOSプロピオン酸寒天培地を入れることによって、ビフィドバクテリウム ロンガムBB536株の増殖が起こり、LAMPによる検出が可能となったことが分かる。
以上より、本発明方法を用いれば、偏性嫌気性菌の検出も可能であることが示された。また、偏性嫌気性菌の懸濁液をそのままLAMPに供する場合より、検出感度が少なくとも10倍は高いことが示された。
【0086】
実施例11(固体培地の濃度の検討1)
(粒状培地の調製)
添付の説明書に従って調製したTOSプロピオン酸寒天培地(ヤクルト薬品工業社)(実施例10で調製したものと同じ)(以下、「1×TOS培地」という)と、添付の説明書に記載の全成分量の3倍量を用いて調製したTOSプロピオン酸寒天培地(以下、「3×TOS培地」という)をそれぞれ用いて円柱状培地を調製した。培地濃度以外は、実施例10と同様にした。
(ビフィドバクテリウム ロンガムBB536株の培養)
円柱状の1×TOS培地及び3×TOS培地を、それぞれ2mL容量のマイクロチューブ(グライナー社)に入れた。実施例1で調製したTE懸濁液を50倍希釈した液(以下、「50倍希釈TE懸濁液」という)を、このマイクロチューブにピペットマン(ギルソン社)で200μL入れた。これにより、円柱柱状のTOSプロピオン酸寒天培地は、50倍希釈TE懸濁液で覆われた。この液面は、円柱状培地の上端より2mm高い位置となった。マイクロチューブの蓋をして37℃で24時間又は48時間培養した。コントロールとして、円柱状培地を入れずに50倍希釈TE懸濁液だけを同様にして培養した。
(LAMP反応)
24時間又は48時間培養したマイクロチューブをタッピングして内容物を混和した。マイクロチューブから培養後の50倍希釈TE懸濁液1μLを取り出し、鋳型を含む試料液として用いて、LAMP法試薬(WarmStart Colorimetric LAMP 2x Master Mix、New England Biolabs社)を用いて増幅した。LAMPの方法は、実施例10に記載の方法とした。
【0087】
増幅後の反応チューブの外観を
図12に示す。
24時間培養(培養1日目)したTE懸濁液を試料とした場合、3×TOS培地が入っている50倍希釈TE懸濁液のみ、LAMP反応後の反応液の色が黄色に変わっていた。また、48時間培養後(培養2日目)になると、3×TOS培地だけでなく1×TOS培地が入っている50倍希釈TE懸濁液も、LAMP反応後の反応液の色が黄色に変わった。TOSプロピオン酸寒天培地の濃度を高めることによって、ビフィドバクテリウム属細菌の増殖効率が向上することが分かった。
目的とする嫌気性細菌を効率よく検出するためには、標準的に作られている固体培地の濃度、或いはメーカー規定濃度よりも濃い濃度で作製した固体培地を使用することが望ましいと考えられる。
【0088】
実施例12(固体培地の濃度の検討2)
(MSB寒天培地の調整)
9gのmitis salivarius agar(BD社) と15gのスクロース (Wako社)(以下、「1×MSB培地」という)、及び18gのmitis salivarius agar (BD社) と30gのスクロース (Wako社)(以下、「2×MSB培地」という)をそれぞれ混ぜ、蒸留水で100mLにメスアップし、オートクレーブ(121℃、15分)にかけた。オートクレーブ終了後、固まらない程度に冷めた培地にTellurite solutionを100μLとBacitracin(400U/mL)を50μL加えた。撹拌後、シャーレに注ぎ入れ、培地が固まるまで静置した。
実施例1と同様にして、円柱状MSB寒天培地を作製した。
(唾液の培養)
円柱状の1×MSB培地及び2×MSB培地を、それぞれ2mL容量のマイクロチューブ(グライナー社製)に入れ、ここに唾液を、円柱状培地を覆うまで(150μL又は300μL)、ピペットマンで入れた。唾液は、cnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスを含むことが分かっているものと、cnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンスを含まないことが分かっているものを、それぞれ用いた。チューブの蓋を閉めて、37℃で24時間培養した。
(LAMP反応)
培養後の唾液を鋳型を含む試料として用いてLAMP反応を行った。LAMP反応の方法は、実施例1と同じとした。
【0089】
LAMP反応後の各反応チューブの外観を
図13に示す。
cnmプライマーの反応性が良いため、1×MSB培地と2×MSB培地の反応性の違いは見られなかった。一方、培地濃度を2倍濃くしたものでもLAMP反応できたことから、LAMP反応を阻害しない濃度まで培地濃度を上げられることが分かった。
従って、試料中の細菌量が少ないときには、培地の全成分濃度を標準的に作られている固体培地の濃度、或いはメーカー規定濃度よりも濃くすることにより、効率よく対象細菌を増殖させることができると考えられる。
【0090】
実施例13(MSB固体培地の保存条件の検討3)
実施例9で凍結乾燥した円柱状のMSB寒天培地を-20℃で196日間保存した。
保存後の円柱状MSB寒天培地を用いて唾液を培養し、cnmプライマー及びPAプライマーをそれぞれ用いてLAMP反応を行った。培養方法及びLAMP方法は、cnmプライマーを用いた場合は実施例1と同じとし、PAプライマーを用いた場合は実施例3と同じとした。コントロールとして、円柱状MSB寒天培地を用いずに唾液を培養したものもLAMP反応に供した。
【0091】
紫外線ランプ下で各反応チューブを観察した結果を
図14に示す。長期保存した凍結乾燥した円柱状のMSB寒天培地を用いても、cnm-陽性ストレプトコッカス ミュータンス、PA-陽性ストレプトコッカス ミュータンスを検出することができた。
長期保存した凍結乾燥した円柱状のMSB寒天培地でも検出することができたことから、粒状培地は用時調製する必要がなく、一度に多量に作製して保存しておけることが分かった。
本発明の嫌気性細菌の検出方法は、簡便に短時間で行えるため、多数の被検試料を処理するのに適している。例えば、唾液を試料として用いたストレプトコッカス ミュータンスの検出を病院検査、集団検診、郵送検査などで行うのに好適である。