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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022077016
(43)【公開日】2022-05-20
(54)【発明の名称】抗セントロメア抗体の標的抗原
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20220513BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
G01N33/53 N
C07K16/18 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021182275
(22)【出願日】2021-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2020187199
(32)【優先日】2020-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 刊行物名:Annals of the Rheumatic Diseases 2021;80:651-659 発行年月日:令和2年11月18日 令和3年4月26日 第65回日本リウマチ学会総会・学術集会(https://www.jcr2021.com/)にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】520440238
【氏名又は名称】梶尾 暢彦
(71)【出願人】
【識別番号】520440249
【氏名又は名称】竹下 勝
(71)【出願人】
【識別番号】520441039
【氏名又は名称】鈴木 勝也
(71)【出願人】
【識別番号】520441040
【氏名又は名称】竹内 勤
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【弁理士】
【氏名又は名称】間山 世津子
(72)【発明者】
【氏名】梶尾 暢彦
(72)【発明者】
【氏名】竹下 勝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 勝也
(72)【発明者】
【氏名】竹内 勤
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA50
(57)【要約】
【課題】 自己免疫疾患を診断するための新規な手段を提供する。
【解決手段】 セントロメア-キネトコアマクロコンプレックスに含まれるタンパク質を血液、血漿、及び/又は血清と接触させる工程、及び前記タンパク質と結合する血液、血漿、及び/又は血清中の抗セントロメア抗体を検出する工程を含むことを特徴とする自己免疫疾患の診断のためのデータを取得する方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己免疫疾患の診断のためのデータを取得する方法であって、セントロメア-キネトコアマクロコンプレックスに含まれるタンパク質を血液、血漿、及び/又は血清と接触させる工程、及び前記タンパク質と結合する血液、血漿、及び/又は血清中の抗セントロメア抗体を検出する工程を含み、前記タンパク質が下記のA群から選択される少なくとも一つのタンパク質、又は下記のA群から選択される少なくとも一つのタンパク質と下記のB群から選択される少なくとも一つのタンパク質であり、A群はCENP-HIKM、CENP-TWSX、CENP-LN、CENP-OPQUR、KNLI複合体、NDC80複合体、Astrin-SKAP複合体、CENP-F、RZZ複合体、Ska1複合体、CENP-K、CENP-W、CENP-S、CENP-X、CENP-L、CENP-N、CENP-U、CENP-R、KNL1、ZWINT、NDC80、NUF2、SPC24、SPC25、Astrin、SKAP、LC8、MYCBP、Rod、ZW10、Zwilch、SKA1、SKA2、SKA3、MIS12、PMF1、DSN1、及びNSL1からなり、B群はCBX5、CENP-A、CENP-B、CENP-C、CFNP-E、MIS12複合体、CENP-H、CENP-I、CENP-M、CENP-T、CENP-O、CENP-P、及びCENP-Qからなることを特徴とする自己免疫疾患の診断のためのデータを取得する方法。
【請求項2】
自己免疫疾患が、全身性硬化症、シェーグレン症候群、原発性胆汁性胆管炎、又は全身性エリテマトーデスであることを特徴とする請求項1に記載の自己免疫疾患の診断のためのデータを取得する方法。
【請求項3】
セントロメア-キネトコアマクロコンプレックスに含まれるタンパク質が、CENP-HIKM、CENP-TWSX、CENP-LN、CENP-OPQUR、KNLI複合体、NDC80複合体、及びAstrin-SKAP複合体からなる群から選択される少なくとも一つのタンパク質であることを特徴とする請求項1又は2に記載の自己免疫疾患の診断のためのデータを取得する方法。
【請求項4】
セントロメア-キネトコアマクロコンプレックスに含まれるタンパク質が、CENP-LN、NDC80複合体、KNLI複合体、及びAstrin-SKAP複合体からなる群から選択される少なくとも一つのタンパク質であることを特徴とする請求項1又は2に記載の自己免疫疾患の診断のためのデータを取得する方法。
【請求項5】
セントロメア-キネトコアマクロコンプレックスに含まれるタンパク質が、CENP-L、NSL1、CENP-K、CENP-I、及びCENP-Oからなる群から選択される少なくとも一つのタンパク質であることを特徴とする請求項1又は2に記載の自己免疫疾患の診断のためのデータを取得する方法。
【請求項6】
セントロメア-キネトコアマクロコンプレックスに含まれるタンパク質を含有する自己免疫疾患用診断薬であって、前記タンパク質が下記のA群から選択される少なくとも一つのタンパク質、又は下記のA群から選択される少なくとも一つのタンパク質と下記のB群から選択される少なくとも一つのタンパク質であり、A群はCENP-HIKM、CENP-TWSX、CENP-LN、CENP-OPQUR、KNLI複合体、NDC80複合体、Astrin-SKAP複合体、CENP-F、RZZ複合体、Ska1複合体、CENP-K、CENP-W、CENP-S、CENP-X、CENP-L、CENP-N、CENP-U、CENP-R、KNL1、ZWINT、NDC80、NUF2、SPC24、SPC25、Astrin、SKAP、LC8、MYCBP、Rod、ZW10、Zwilch、SKA1、SKA2、SKA3、MIS12、PMF1、DSN1、及びNSL1からなり、B群はCBX5、CENP-A、CENP-B、CENP-C、CFNP-E、MIS12複合体、CENP-H、CENP-I、CENP-M、CENP-T、CENP-O、CENP-P、及びCENP-Qからなることを特徴とする自己免疫疾患用診断薬。
【請求項7】
自己免疫疾患が、全身性硬化症、シェーグレン症候群、原発性胆汁性胆管炎、又は全身性エリテマトーデスであることを特徴とする請求項6に記載の自己免疫疾患用診断薬。
【請求項8】
セントロメア-キネトコアマクロコンプレックスに含まれるタンパク質が、CENP-HIKM、CENP-TWSX、CENP-LN、CENP-OPQUR、KNLI複合体、NDC80複合体、及びAstrin-SKAP複合体からなる群から選択される少なくとも一つのタンパク質であることを特徴とする請求項6又は7に記載の自己免疫疾患用診断薬。
【請求項9】
セントロメア-キネトコアマクロコンプレックスに含まれるタンパク質が、CENP-LN、NDC80複合体、KNLI複合体、及びAstrin-SKAP複合体からなる群から選択される少なくとも一つのタンパク質であることを特徴とする請求項6又は7に記載の自己免疫疾患用診断薬。
【請求項10】
セントロメア-キネトコアマクロコンプレックスに含まれるタンパク質が、CENP-L、NSL1、CENP-K、CENP-I、及びCENP-Oからなる群から選択される少なくとも一つのタンパク質であることを特徴とする請求項6又は7に記載の自己免疫疾患用診断薬。
【請求項11】
CENP-HIKMに対するモノクローナル抗体であって、配列番号42で表されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号43で表されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号44で表されるアミノ酸配列からなるCDR3を有する重鎖可変領域と配列番号45で表されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号46で表されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号47で表されるアミノ酸配列からなるCDR3を有する軽鎖可変領域を有するモノクローナル抗体。
【請求項12】
CENP-HIKMに対するモノクローナル抗体であって、配列番号48で表されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号49で表されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号50で表されるアミノ酸配列からなるCDR3を有する重鎖可変領域と配列番号51で表されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号52で表されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号53で表されるアミノ酸配列からなるCDR3を有する軽鎖可変領域を有するモノクローナル抗体。
【請求項13】
CENP-OPQURに対するモノクローナル抗体であって、配列番号54で表されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号55で表されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号56で表されるアミノ酸配列からなるCDR3を有する重鎖可変領域と配列番号57で表されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号58で表されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号59で表されるアミノ酸配列からなるCDR3を有する軽鎖可変領域を有するモノクローナル抗体。
【請求項14】
CENP-NDC80複合体に対するモノクローナル抗体であって、配列番号60で表されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号61で表されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号62で表されるアミノ酸配列からなるCDR3を有する重鎖可変領域と配列番号63で表されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号64で表されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号65で表されるアミノ酸配列からなるCDR3を有する軽鎖可変領域を有するモノクローナル抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗セントロメア抗体の標的抗原を使用した自己免疫疾患の診断のためのデータを取得する方法、抗セントロメア抗体の標的抗原を含有する自己免疫疾患用診断薬、及び抗セントロメア抗体の標的抗原に対するモノクローナル抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
抗セントロメア抗体(ACA)は、様々な自己免疫疾患で検出されるよく知られた自己抗体である。血液、血漿、及び/又は血清中のACAは全身性硬化症(SSc)患者に多く検出されるが、シェーグレン症候群(SS)や原発性胆道炎(PBC)など他の自己免疫疾患でも検出されており、ACAの存在はこれら3つの疾患の重複と関連している[1][2][3]。
【0003】
抗核抗体(ANA)検査では、ACAは、セントロメアの局在を反映したdiscrete-speckledパターンと呼ばれる特徴的な染色パターンを示す[4]。近年、セントロメアの分子構造が急速に解明されている。その骨格構造は、ヒストンH3がCENP-Aによって置換されることで特徴づけられる特異的なセントロメアクロマチンと、セントロメア特異的なヌクレオソーム上に組み立てられた超分子複合体「キネトコア」の組み合わせとして理解されている[5]。セントロメアは、細胞分裂の際に、内側と外側のキネトコア構造を介して微小管に結合する。図1に引用文献をもとに、セントロメア-キネトコア微小管界面の模式図を示す[6][7][8][9][10][11]。
【0004】
多くの構成分子のうち、CENP-A、CENP-B、CENP-C、CBX5がACAの標的として知られている[12][13]。特にCENP-Bは、抗CENP-B抗体の存在がANAテストで検出されたACAと高い一致性を示すことから、主要な自己抗原であると考えられている[14]。他のいくつかのセントロメアタンパク(CENP)もまた、ACA陽性患者の血清中に自己抗原として同定された。即ち、CENP-D、-E、-G、-H、-I、-J、-M、-T、-O、-P、-Qである[12][15]。しかし、これらの抗原の空間的な関係は考慮されておらず、新たに同定されたセントロメアタンパク質の自己抗原性は不明であった。さらに、いくつかの研究では、主要抗原(すなわち、CENP-A、-B、-C)の明瞭なエピトープ特異性に焦点を当て、SSとSSc患者を比較しているが[13][16](非特許文献1、非特許文献2)、他のCENPに対する抗体の有病率に関する研究はほとんど行われていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Tanaka N, Muro Y, Suzuki Y, et al. Anticentromere antibody-positive primary Sjogren’s syndrome: Epitope analysis of a subset of anticentromere antibody-positive patients. Mod Rheumatol 2017;27:115-21.
【非特許文献2】Gelber AC, Pillemer SR, Baum BJ, et al. Distinct recognition of antibodies to centromere proteins in primary Sjogren’s syndrome compared with limited scleroderma. Ann Rheum Dis 2006;65:1028-32.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、自己免疫疾患を診断するための新規な手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、最新のセントロメア構造情報に基づいて選択した41種のセントロメアタンパク質を含むセントロメア抗原ライブラリーを構築した。ACAの真の標的を明らかにし、疾患別の違いを明らかにするために、抗原結合ビーズアッセイを用いてこのライブラリーに対する血清自己抗体を調べ、唾液腺組織における抗体分泌細胞(ASC)の空間的な関係を調べた。
【0008】
本発明は、以下の(1)~(14)を提供する。
(1)自己免疫疾患の診断のためのデータを取得する方法であって、セントロメア-キネトコアマクロコンプレックスに含まれるタンパク質を血液、血漿、及び/又は血清と接触させる工程、及び前記タンパク質と結合する血液、血漿、及び/又は血清中の抗セントロメア抗体を検出する工程を含み、前記タンパク質が下記のA群から選択される少なくとも一つのタンパク質、又は下記のA群から選択される少なくとも一つのタンパク質と下記のB群から選択される少なくとも一つのタンパク質であり、A群はCENP-HIKM、CENP-TWSX、CENP-LN、CENP-OPQUR、KNLI複合体、NDC80複合体、Astrin-SKAP複合体、CENP-F、RZZ複合体、Ska1複合体、CENP-K、CENP-W、CENP-S、CENP-X、CENP-L、CENP-N、CENP-U、CENP-R、KNL1、ZWINT、NDC80、NUF2、SPC24、SPC25、Astrin、SKAP、LC8、MYCBP、Rod、ZW10、Zwilch、SKA1、SKA2、SKA3、MIS12、PMF1、DSN1、及びNSL1からなり、B群はCBX5、CENP-A、CENP-B、CENP-C、CFNP-E、MIS12複合体、CENP-H、CENP-I、CENP-M、CENP-T、CENP-O、CENP-P、及びCENP-Qからなることを特徴とする自己免疫疾患の診断のためのデータを取得する方法。
【0009】
(2)自己免疫疾患が、全身性硬化症、シェーグレン症候群、原発性胆汁性胆管炎、又は全身性エリテマトーデスであることを特徴とする(1)に記載の自己免疫疾患の診断のためのデータを取得する方法。
【0010】
(3)セントロメア-キネトコアマクロコンプレックスに含まれるタンパク質が、CENP-HIKM、CENP-TWSX、CENP-LN、CENP-OPQUR、KNLI複合体、NDC80複合体、及びAstrin-SKAP複合体からなる群から選択される少なくとも一つのタンパク質であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の自己免疫疾患の診断のためのデータを取得する方法。
【0011】
(4)セントロメア-キネトコアマクロコンプレックスに含まれるタンパク質が、CENP-LN、NDC80複合体、KNLI複合体、及びAstrin-SKAP複合体からなる群から選択される少なくとも一つのタンパク質であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の自己免疫疾患の診断のためのデータを取得する方法。
【0012】
(5)セントロメア-キネトコアマクロコンプレックスに含まれるタンパク質が、CENP-L、NSL1、CENP-K、CENP-I、及びCENP-Oからなる群から選択される少なくとも一つのタンパク質であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の自己免疫疾患の診断のためのデータを取得する方法。
【0013】
(6)セントロメア-キネトコアマクロコンプレックスに含まれるタンパク質を含有する自己免疫疾患用診断薬であって、前記タンパク質が下記のA群から選択される少なくとも一つのタンパク質、又は下記のA群から選択される少なくとも一つのタンパク質と下記のB群から選択される少なくとも一つのタンパク質であり、A群はCENP-HIKM、CENP-TWSX、CENP-LN、CENP-OPQUR、KNLI複合体、NDC80複合体、Astrin-SKAP複合体、CENP-F、RZZ複合体、Ska1複合体、CENP-K、CENP-W、CENP-S、CENP-X、CENP-L、CENP-N、CENP-U、CENP-R、KNL1、ZWINT、NDC80、NUF2、SPC24、SPC25、Astrin、SKAP、LC8、MYCBP、Rod、ZW10、Zwilch、SKA1、SKA2、SKA3、MIS12、PMF1、DSN1、及びNSL1からなり、B群はCBX5、CENP-A、CENP-B、CENP-C、CFNP-E、MIS12複合体、CENP-H、CENP-I、CENP-M、CENP-T、CENP-O、CENP-P、及びCENP-Qからなることを特徴とする自己免疫疾患用診断薬。
【0014】
(7)自己免疫疾患が、全身性硬化症、シェーグレン症候群、原発性胆汁性胆管炎、又は全身性エリテマトーデスであることを特徴とする(6)に記載の自己免疫疾患用診断薬。
【0015】
(8)セントロメア-キネトコアマクロコンプレックスに含まれるタンパク質が、CENP-HIKM、CENP-TWSX、CENP-LN、CENP-OPQUR、KNLI複合体、NDC80複合体、及びAstrin-SKAP複合体からなる群から選択される少なくとも一つのタンパク質であることを特徴とする(6)又は(7)に記載の自己免疫疾患用診断薬。
【0016】
(9)セントロメア-キネトコアマクロコンプレックスに含まれるタンパク質が、CENP-LN、NDC80複合体、KNLI複合体、及びAstrin-SKAP複合体からなる群から選択される少なくとも一つのタンパク質であることを特徴とする(6)又は(7)に記載の自己免疫疾患用診断薬。
【0017】
(10)セントロメア-キネトコアマクロコンプレックスに含まれるタンパク質が、CENP-L、NSL1、CENP-K、CENP-I、及びCENP-Oからなる群から選択される少なくとも一つのタンパク質であることを特徴とする(6)又は(7)に記載の自己免疫疾患用診断薬。
【0018】
(11)CENP-HIKMに対するモノクローナル抗体であって、配列番号42で表されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号43で表されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号44で表されるアミノ酸配列からなるCDR3を有する重鎖可変領域と配列番号45で表されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号46で表されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号47で表されるアミノ酸配列からなるCDR3を有する軽鎖可変領域を有するモノクローナル抗体。
【0019】
(12)CENP-HIKMに対するモノクローナル抗体であって、配列番号48で表されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号49で表されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号50で表されるアミノ酸配列からなるCDR3を有する重鎖可変領域と配列番号51で表されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号52で表されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号53で表されるアミノ酸配列からなるCDR3を有する軽鎖可変領域を有するモノクローナル抗体。
【0020】
(13)CENP-OPQURに対するモノクローナル抗体であって、配列番号54で表されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号55で表されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号56で表されるアミノ酸配列からなるCDR3を有する重鎖可変領域と配列番号57で表されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号58で表されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号59で表されるアミノ酸配列からなるCDR3を有する軽鎖可変領域を有するモノクローナル抗体。
【0021】
(14)CENP-NDC80複合体に対するモノクローナル抗体であって、配列番号60で表されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号61で表されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号62で表されるアミノ酸配列からなるCDR3を有する重鎖可変領域と配列番号63で表されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号64で表されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号65で表されるアミノ酸配列からなるCDR3を有する軽鎖可変領域を有するモノクローナル抗体。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、全身性硬化症、シェーグレン症候群、原発性胆汁性胆管炎、全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患を高い精度で診断する手段を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】セントロメア-キネトコア微小管界面の模式図。CENP-AはヒストンH3を置換し、セントロメア特異的なヌクレオソームを形成している。CBX5とCENP-BはそれぞれH3ヌクレオソームとセントロメアDNAに結合する。キネトコアコンプレックスはCENP-Aヌクレオソーム上に構築され、微小管と相互作用する。主要なキネトコアサブコンプレックスは、構成的セントロメア関連ネットワーク(CCAN;CENP-C、CENP-HIKM、CENP-TWSX、CENP-LN、CENP-OPQURに分割)及びKMNネットワーク(KNL1複合体、MIS12複合体、及びNDC80複合体に分割)である。Astrin-SKAP複合体とSka1複合体は、キネトコア-微小管結合を安定化する。CENP-E、CENP-F、RZZ複合体はキネトコア-微小管結合と染色体輸送に関与している。* 自己免疫疾患における既知の自己抗原[12][15][17]。
図2】血清IgG ACAのプロファイリング。各セントロメア抗原に対する血清IgG自己抗体価を、SS(n=86)、SSc(n=35)、PBC(n=10)、重複疾患(n=42)の患者、及び健常対照(HC;n=68)の血清を用いて、抗原結合ビーズアッセイによって分析した。(A)各記号は、個人の血清中の抗体レベルを表し、点線は、HCにおけるMFIの中央値プラス5IQRによって決定されたカットオフ値を示す。(B)棒グラフは、各疾患群におけるMFIとして測定したセントロメア抗原に対する自己抗体の有病率を示す。上段にANAテストによるdiscrete-speckledパターンの有病率、ELISAによる抗CENP-B抗体の有病率を示す。*各疾患群とHC群との間でp<0.05; †複合体の形態としての新規自己抗原(少なくとも1つの構成分子が自己抗原として知られている); ‡本アッセイで同定された新規自己抗原; ANA, 抗核抗体; ELISA、酵素結合免疫吸着アッセイ; MFI, 平均蛍光強度。CBX5, CENP-A, CENP-B, CENP-C, MIS12 複合体のデータは先の研究から得たものである[17]。
図3】セントロメア抗原と個人のクラスタリング解析。SS(n=86)、SSc(n=35)、PBC(n=10)、又は重複疾患(n=42)を有する患者(HC;n=68)、及び健常対照(HC;n=68)の血清を、抗原結合ビーズアッセイにより分析した。各個体(列)における各標的抗原に対する血清抗体陽性率(行)は、適切な色で示されている。階層的クラスタリングにより、標的抗原(左)と個体(下)の間のデンドログラムを作成した。マトリックスの下の色付きの線は、個人の病状を示している。
図4】抗原結合ビーズアッセイと従来法との比較;ANAテストとELISAによる抗CENP-B抗体。(A)抗CENP-B抗体の力価に対して、血清中に陽性を示す抗体の数をプロットした。線形回帰線、相関係数、回帰線のp値を示す。点線はELISAによるカットオフ値を示す。(B)各種カットオフ値によるビーズアッセイ陽性の有無の個体数を示す。(C)円グラフは、ELISA法及びセントロメア抗原結合ビーズアッセイによる抗CENP-B抗体の陽性率を示す。セントロメア抗原に対する抗体を二つ以上持っていることを陽性とみなした。ビーズアッセイで追加的にACA陽性と確認された個人を青で示している。
図5】CENP-Bに対するASCの欠如にもかかわらず、唾液腺連続切片で観察された様々なキネトコア抗原に対するASCの分布(倍率、x200)。血清ACA陽性患者(LB117)から得られた唾液腺サンプルの連続切片を、GFP-セントロメア抗原(黄色)、CD138(マゼンタ)、及びDAPI(シアン)で染色した。矢印は、セントロメア抗原に対するASCを示す。CENP-C、CENP-HIKM、CENP-OPQUR、及びMIS12複合体に対する抗体は、異なるASCから唾液腺の同じ領域で分泌された。スケールバー, 100μm。
図6】セントロメア-キネトコアマクロコンプレックスの自己抗原性の概略。セントロメア抗原, CCAN(CENP-C、CENP-HIKM、CENP-TWSX、CENP-LN、及びCENP-OPQUR)、及びMIS12複合体は、SS、SSc、及びPBC患者の血清抗体の主な標的であった。対照的に、SS患者の唾液腺の抗体分泌細胞はキネトコア抗原に特異的であった。
図7】セントロメア抗原ライブラリーのタンパク質発現。SBP-GFPタグ付き抗原を、ストレプトアビジンビーズを用いて精製し、電気泳動した後、銀染色した。各抗原の構成タンパク質を電気泳動し、抗GFP抗体でブロッティングした。
図8】血清IgA ACAのプロファイリング。SS患者(n=86)、SSc患者(n=35)、PBC患者(n=10)、重複疾患患者(n=42)、及び健常対照者(HC;n=68)の血清を用いて、各セントロメア抗原に対する血清IgG自己抗体価を抗原結合ビーズアッセイ法により分析した。(A)各記号は個人の血清中の抗体レベルを示し、点線はカットオフ値を示す。カットオフ値は、中央値にHCにおけるMFIの5IQRを加えた値で決定した。(B)棒グラフは、各疾患群におけるセントロメア抗原に対する自己抗体の有病率をMFIとして測定したものである。上段はELISAによる抗CENP-B抗体の有病率を示す。*各疾患群とHC群との間でp<0.05; †複合体の形態としての新規自己抗原(少なくとも1つの構成分子が自己抗原として知られている); ‡このアッセイで同定された新規自己抗原; ANA, 抗核抗体; ELISA, 酵素結合免疫吸着アッセイ; MFI, 平均蛍光強度。CBX5、CENP-A、CENP-B、CENP-C、MIS12複合体のデータは、本発明者の過去の研究から得たものである[17]。
図9】血清抗セントロメアIgG抗体の関連性を定量的に分析した。(A)ヒートマップは、SS、SSc、PBC、又は重複疾患の患者とHCにおける各セントロメア自己抗原に対する血清IgG抗体の力価の相関関係を示す。(B)二つ以上のACAを持つ患者における16の抗原に対する血清IgG抗体価の主成分分析。各ドットは、SS(n=23)、SSc(n=21)、PBC(n=5)、又はオーバーラップ(n=36)の個人を表す。色付きの円は、各疾患群の95%信頼楕円を示し、重複した分布を示している。
図10】SS患者の唾液腺に存在する抗セントロメア抗体分泌細胞(ASC)の代表的な共焦点画像(倍率,x400)。血清ACA陽性の患者(S3)から得られた唾液腺サンプルの切片を、GFPを結合したセントロメア抗原(黄色)、形質細胞のマーカーとしてのCD138(マゼンタ)、及びDAPI(シアン)で染色した。矢頭はセントロメア抗原に対するASCを示す;CENP-HIKM、CENP-OPQUR、NDC80複合体。スケールバー, 50μm。
図11】抗CENP-HKIM抗体、抗CENP-OPQUR抗体、及び抗NDC80C抗体の相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列を示す図。
図12】セントロメア-キネトコアマクロコンプレックスを構成するタンパク質のアミノ酸配列を示す図。
図13】MIS12複合体とそれを構成する個別タンパク質との相関を示す図。
図14】CENP-HIKM複合体とそれを構成する個別タンパク質との相関を示す図。
図15】CENP-OPQUR複合体とそれを構成する個別タンパク質との相関を示す図。
図16】CENP-LN複合体とそれを構成する個別タンパク質との相関を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)自己免疫疾患の診断のためのデータを取得する方法
本発明の自己免疫疾患の診断のためのデータを取得する方法は、セントロメア-キネトコアマクロコンプレックスに含まれるタンパク質を血液、血漿、及び/又は血清と接触させる工程、及び前記タンパク質と結合する血液、血漿、及び/又は血清中の抗セントロメア抗体を検出する工程を含み、前記タンパク質が下記のA群から選択される少なくとも一つのタンパク質、又は下記のA群から選択される少なくとも一つのタンパク質と下記のB群から選択される少なくとも一つのタンパク質であることを特徴とするものである。
【0025】
ここで、A群はCENP-HIKM、CENP-TWSX、CENP-LN、CENP-OPQUR、KNLI複合体、NDC80複合体、Astrin-SKAP複合体、CENP-F、RZZ複合体、Ska1複合体、CENP-K、CENP-W、CENP-S、CENP-X、CENP-L、CENP-N、CENP-U、CENP-R、KNL1、ZWINT、NDC80、NUF2、SPC24、SPC25、Astrin、SKAP、LC8、MYCBP、Rod、ZW10、Zwilch、SKA1、SKA2、SKA3、MIS12、PMF1、DSN1、及びNSL1からなり、B群はCBX5、CENP-A、CENP-B、CENP-C、CFNP-E、MIS12複合体、CENP-H、CENP-I、CENP-M、CENP-T、CENP-O、CENP-P、及びCENP-Qからなる。
【0026】
CBX5、CENP-A、CENP-B、CENP-C、CENP-H、CENP-I、CENP-K、CENP-M、CENP-T、CENP-W、CENP-S、CENP-X、CENP-O、CENP-P、CENP-Q、CENP-U、CENP-R、CENP-L、CENP-N、KNL1、ZWINT、MIS12、PMF1、DSN1、NSL1、NDC80、NUF2、SPC24、SPC25、Astrin、SKAP、LC8、MYCBP、CENP-E、CENP-F、Rod、Zw10、Zwilch、Ska1、Ska2、及びSka3のアミノ酸配列としては、それぞれ配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、及び41に示すアミノ酸配列を例示できる(図11)。また、これらのタンパク質のアミノ酸配列は、前記した配列番号に示すアミノ酸配列と高い同一性を示すアミノ酸配列であってもよい。ここで「高い同一性」とは、通常90%以上の同一性、好ましくは95以上の同一性、より好ましくは97%以上の同一性、更に好ましくは99%以上の同一性を意味する。更に、これらのタンパク質は、抗セントロメア抗体を検出可能である限り、そのアミノ酸配列は、前記した配列番号に示すアミノ酸配列において複数個、好ましくは1若しくは数個のアミノ酸に欠失、置換、付加等の変異が生じたものであってもよい。加えて、これらのタンパク質は、抗セントロメア抗体を検出可能である限り、天然のタンパク質のN末端側のアミノ酸残基及び/又はC末端側のアミノ酸残基を1つ以上欠損させたタンパク質であってもよい。
【0027】
自己免疫疾患としては、全身性硬化症、シェーグレン症候群、原発性胆汁性胆管炎、全身性エリテマトーデスを挙げることができる。
【0028】
セントロメア-キネトコアマクロコンプレックスに含まれるタンパク質は、CENP-HIKM、CENP-TWSX、CENP-LN、CENP-OPQUR、KNLI複合体、NDC80複合体、及びAstrin-SKAP複合体からなる群から選択される少なくとも一つのタンパク質であってもよく、CENP-LN、NDC80複合体、KNLI複合体、及びAstrin-SKAP複合体からなる群から選択される少なくとも一つのタンパク質であってもよく、CENP-L、NSL1、CENP-K、CENP-I、及びCENP-Oからなる群から選択される少なくとも一つのタンパク質であってもよい。
【0029】
セントロメア-キネトコアマクロコンプレックスに含まれるタンパク質は、診断対象の血液、血漿、及び/又は血清と接触させればよいが、診断対象の血清と接触させることが好ましい。
【0030】
セントロメア-キネトコアマクロコンプレックスに含まれるタンパク質を血液、血漿、及び/又は血清と接触させる方法は特に限定されず、例えば、診断対象から採取した血液、血漿、及び/又は血清にセントロメア-キネトコアマクロコンプレックスに含まれるタンパク質を添加すればよい。診断対象は主にヒトであるが、ヒト以外の動物であってもよい。ヒト以外の動物としては、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、サルなどを挙げることができる。血液、血漿、及び/又は血清と接触させるタンパク質は、タグ(例えば、ストレプトアビジンタグ、Hisタグ、GSTタグ、MBPタグ等)、標識(例えば、GFP、HRP、ALP等の酵素、化学発光物質、蛍光発光物質、色素、金属コロイド粒子、ラテックス粒子、セルロース粒子)、ビーズなどと結合していてもよい。
【0031】
抗セントロメア抗体の検出は、セントロメアタンパク質を用いた抗原抗体反応に基づく既知の検出方法(例えば、CENP-Bを用いた検出方法)と同様に行うことができ、例えば、酵素免疫測定(ELISA、EIA)、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)、化学発光免疫測定法(CLIA)、電気化学発光免疫測定法(ECLIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、放射免疫測定法(RIA)、イムノクロマトグラフィー法(イムノクロマト法)、免疫比濁法、ラテックス比濁法、ラテックス凝集反応測定法、赤血球凝集反応法、または粒子凝集反応法などにより行うことができる。検出する抗セントロメア抗体のクラスは正確性や感度の観点からIgGが好適であるが、IgM、IgA、IgD、IgEおよびこれらを全て含む総免疫イムノグロブリンであっても良い。
【0032】
(2)自己免疫疾患用診断薬
本発明の自己免疫疾患用診断薬は、上記のA群から選択される少なくとも一つのセントロメア-キネトコアマクロコンプレックスに含まれるタンパク質、又は上記のA群から選択される少なくとも一つのセントロメア-キネトコアマクロコンプレックスに含まれるタンパク質と上記のB群から選択される少なくとも一つのセントロメア-キネトコアマクロコンプレックスに含まれるタンパク質を含有することを特徴とするものである。
【0033】
本発明の自己免疫疾患用診断薬は、体外診断薬であり、診断対象から採取した血清等(例えば、血液、血漿、及び/又は血清)に含まれる抗セントロメア抗体を検出し、自己免疫疾患であるかどうか診断するものである。
【0034】
「セントロメア-キネトコアマクロコンプレックスに含まれるタンパク質」及び「自己免疫疾患」は、上記の自己免疫疾患の診断のためのデータを取得する方法と同じでよい。
【0035】
本発明の自己免疫疾患用診断薬は、セントロメア-キネトコアマクロコンプレックスに含まれるタンパク質以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分は、セントロメアタンパク質を含有する既知の自己免疫疾患用診断薬や既知の抗セントロメア抗体検出薬(例えば、CENP-Bを含有する検出薬)と同様の成分でよい。
【0036】
本発明の自己免疫疾患用診断薬中のセントロメア-キネトコアマクロコンプレックスに含まれるタンパク質の含有量は特に限定されず、タンパク質の種類や診断対象とする疾患に応じて適宜決めることができる。
【0037】
(3)モノクローナル抗体
【0038】
本発明のモノクローナル抗体は、以下の(a)~(d)を含む。
(a)CENP-HIKMに対するモノクローナル抗体であって、配列番号42で表されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号43で表されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号44で表されるアミノ酸配列からなるCDR3を有する重鎖可変領域と配列番号45で表されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号46で表されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号47で表されるアミノ酸配列からなるCDR3を有する軽鎖可変領域を有するモノクローナル抗体、
【0039】
(b)CENP-HIKMに対するモノクローナル抗体であって、配列番号48で表されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号49で表されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号50で表されるアミノ酸配列からなるCDR3を有する重鎖可変領域と配列番号51で表されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号52で表されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号53で表されるアミノ酸配列からなるCDR3を有する軽鎖可変領域を有するモノクローナル抗体、
【0040】
(c)CENP-OPQURに対するモノクローナル抗体であって、配列番号54で表されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号55で表されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号56で表されるアミノ酸配列からなるCDR3を有する重鎖可変領域と配列番号57で表されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号58で表されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号59で表されるアミノ酸配列からなるCDR3を有する軽鎖可変領域を有するモノクローナル抗体、
【0041】
(d)CENP-NDC80複合体に対するモノクローナル抗体であって、配列番号60で表されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号61で表されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号62で表されるアミノ酸配列からなるCDR3を有する重鎖可変領域と配列番号63で表されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号64で表されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号65で表されるアミノ酸配列からなるCDR3を有する軽鎖可変領域を有するモノクローナル抗体。
【0042】
これらのモノクローナル抗体は、セントロメア-キネトコアマクロコンプレックスに含まれるタンパク質であるCENP-HIKM、CENP-OPQUR、又はCENP-NDC80複合体の検出に使用できる。モノクローナル抗体は、組み換え的に合成した抗体も含み、抗体フラグメント、例えば、Fab、Fab/c、Fv、Fab‘、F(ab)2等の断片、一本鎖抗体(scFv)や抗体融合タンパク質のような抗体構成物であっても良い。また、これらのモノクローナルのアミノ酸配列は、前記した配列番号に示すアミノ酸配列と高い同一性を示すアミノ酸配列であってもよい。ここで「高い同一性」とは、通常90%以上の同一性、好ましくは95以上の同一性、より好ましくは97%以上の同一性、更に好ましくは99%以上の同一性を意味する。更に、これらのモノクローナル抗体は、CENP-HIKM、CENP-OPQUR、又はCENP-NDC80複合体を検出可能である限り、そのアミノ酸配列は、前記した配列番号に示すアミノ酸配列において複数個、好ましくは1若しくは数個のアミノ酸に欠失、置換、付加等の変異が生じたものであってもよい。加えて、これらのモノクローナル抗体は、CENP-HIKM、CENP-OPQUR、又はCENP-NDC80複合体を検出可能である限り、天然のタンパク質のN末端側のアミノ酸残基及び/又はC末端側のアミノ酸残基を1つ以上欠損させたタンパク質であってもよい。
【実施例0043】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
〔実施例1〕
〔方法〕
〔臨床サンプル〕
血清サンプルはSS、SSc、又はPBCの患者から得、慶應義塾大学病院で唇生検を受けた臨床的にSSが疑われる患者から唾液腺サンプルを採取した。診断は、原発性SSに対する2016年のAmerican College of Rheumatology/European League Against Rheumatism(ACR/EULAR)分類基準 [18]、SScに対する2013年のACR/EULAR分類基準 [19]、及び2017年に制定されたPBCに対する臨床実践ガイドライン [20] に基づいて行った。健常対照者の血清を対照とした。
【0045】
〔セントロメア抗原ライブラリーの調製〕
合計41のセントロメアタンパク質をセントロメアタンパク質ライブラリーとしてpEFsベクター又はpcDNA3.4ベクターにクローニングし、ストレプトアビジン結合ペプチド(SBP)タグと緑色蛍光タンパク質(GFP)をN末端に結合させ、293T細胞で発現させた。その多くは、セントロメアの分子構造に応じたサブコンプレックスを構築するためにコトランスフェクションされたものである[8][21][9][22][23]。抗原をストレプトアビジンビーズで精製し、SDS-PAGEで電気泳動した後、銀染色(Aproscience, Tokushima, Japan)し、抗ヒトGFP抗体(非標識、1GFP63、BioLegend, CA, USA))とHRP標識ヒツジ抗マウスIgG抗体(GE healthcare, Buckinghamshire, UK)でウエスタンブロットした(図7参照)。CENP-Eの核酸は、かずさDNA研究所(Chiba, Japan)から購入した。その他の詳細な方法は以前の文献に記載されている[17]。
【0046】
〔抗原結合ビーズアッセイによる血清自己抗体検出〕
ビーズ結合及び血清抗体価の測定のためのプロトコルは以前の文献に記載されている[17] 。要するに、293T細胞で発現した抗原をDynabeads M-280 Streptavidin (Thermo Fisher Scientific, MA, USA)に結合させた。抗原結合ビーズを被験者の血清とインキュベートし、洗浄した後、抗ヒトIgG-Fc抗体(APC、ヤギ-F(ab')2フラグメント、Jackson ImmunoResearch, PA, USA)及び抗ヒトIgA-Fc抗体(DL405、ヤギ-F(ab')2フラグメント、Jackson ImmunoResearch)で染色した。抗体の力価は、FACSVerse及びFlowJoソフトウェア(BD Biosciences, CA, USA)を用いて分析した。抗CENP-B抗体は、製造者の指示に従って抗CENP-BELISA(ORGENTEC, Mainz, Germany)により測定した。
【0047】
〔新たに同定されたセントロメア自己抗原に対するモノクローナル抗体〕
唾液腺から抗体をクローニングして病変抗体の特異性を調べ、組換えセントロメア抗原に対する反応性を解析した[17]。本研究では、新たに開発したセントロメア抗原ライブラリーを用いて、これらのクローニング抗体を総合的に解析した。詳細な方法は実施例2に記載されている。
【0048】
〔唾液腺における抗体産生細胞の直接検出〕
唾液腺サンプルの新鮮凍結切片を、GFP融合抗原、抗CD138抗体、抗マウスIgG1抗体でインキュベートした。ASCを、共焦点顕微鏡を用いて半定量化した。詳細な方法は実施例2に記載されている。
【0049】
〔統計情報〕
特定の抗原に対する血清抗体のカットオフ値は、健常対照68人の平均蛍光強度の中央値に5IQRを加えたものである。健常対照者の分布の歪度が1以上の場合は、第3四分位と中央値(Q3-Q2)の差の2倍をIQRに代用した[24]。例外的に、抗CENP-B IgG抗体のカットオフ値は、ELISAによる抗CENP-B抗体が陽性の患者を陽性と定義する、受信者動作特性解析によって決定された。連続変数の比較にはWilcoxon順位和検定を適用した。両側フィッシャーの厳密検定が、カテゴリカル変数を比較するために適用された。P値<0.05は統計的に有意と考えられた。血清自己抗体プロファイルを分析するために、Ward's法による教師なし階層的クラスタリング及び主成分分析(PCA)を実施した。解析には、GraphPad Prism 8 (GraphPad Software, CA, USA)及びJMP 13 (SAS Institute, NC, USA)を使用した。
【0050】
〔結果〕
〔血清中抗セントロメア抗体分析〕
SS(n=86)、SSc(n=35)、PBC(n=10)、又は上記の2つ以上の疾患(重複;n=42)を有する個人と、健常対照者(HC;n=68)の合計241人を血清抗体分析のために募集した。被験者の臨床的特徴を表1に示す。
【0051】
セントロメア抗原に対する個々の血清のIgG反応性を図2Aに示す。CENP-HIKM、CENP-TWSX、CENP-OPQUR、及びCENPLNに対する反応性は、以前に知られていた自己抗原(CBX5、CENP-A、CENP-B、CENP-C、及びMIS12複合体(MIS12C))に対するものと同様の傾向で観察された。NDC80複合体(NDC80C)、KNL1複合体(KNL1C)、Astrin-SKAP複合体、CENP-E及びCENP-Fに対する反応性も比較的低い頻度で認められた。RZZ複合体とSka1複合体は、血清中で無視できるほど低い反応性を示した。また、IgA抗体を用いて同様の解析を行ったが、力価や抗体陽性率が低く、HC群と各疾患群との差はIgG抗体の場合と比較してあまり見られなかった(図8)。
【0052】
図2Bに示すように、CENP-HIKM、CENP-TWSX、CENP-OPQUR、CENP-LN、NDC80C、KNL1C、及びAstrin-SKAP複合体に対する抗体の陽性率は、少なくとも一つの疾患群でHC群よりも有意に高かった。CENP-LN、NDC80C、KNL1C、及びAstrin-SKAP複合体は、新たにセントロメア自己抗原として同定された。CENP-HIKM、CENP-TWSX、CENP-OPQURでは、少なくとも1つの構成分子が自己抗原として報告されていたが、複合体の形で検討したのは今回が初めてである。
【0053】
〔自己抗原と個人のクラスタリング〕
次に、各個人の血清自己抗体プロファイルを可視化するためにクラスタリング分析を行い、抗原間の相関関係を分析した。教師なし階層型クラスタリングにより、2つの抗原クラスターが同定された(図3)。CBX5、CENP-A、CENP-B、CENP-C、CENP-HIKM、CENP-TWSX、CENP-OPQUR、CENPLN、MIS12Cを含む第一のクラスターを「メジャー抗原」クラスター、その他を含む第二のクラスターを「マイナー抗原」クラスターと呼ぶこととした。メジャー自己抗原クラスターでは、有病率に加えて各抗体の力価が相互に相関していた(図9A)。
【0054】
病状に着目すると、参加者は3つのグループに分類されているようであった。クラスターAの合計54人は、主要抗原に対する広範な自己抗体のスペクトルを示した。残りの参加者については、クラスターB(50人)は、メジャー抗原又はマイナー抗原に対する1~7個の抗体をもっていたのに対し、クラスターC(137人)は、ほとんど抗体を持たないか、あるいは全く持たなかった。重複する疾患を持つ患者はクラスターAに分類される傾向があり、健常対照者の多くはクラスターCに属していたが、抗体プロファイルに基づくクラスター化の結果は疾患特異性とは一致しなかった。さらに血清IgG抗体反応性のPCAを実施したところ、SS群、SSc群、PBC群、及びオーバーラップ群の患者間で95%信頼度楕円が重複しており、これらの疾患における抗体特異性の類似パターンが示唆された(図9B)。これらの結果は、ACAの特異性が疾患表現型間で一般的に共有されていることを示している。
【0055】
〔抗原ビーズアッセイにより、潜在的なACA陽性患者が同定された〕
次に、標準的なACA検出法、ANA検査、ELISAによる抗CENP-B抗体と比較して、包括的なビーズを用いた自己抗体検出の臨床的意義を分析した。図4Aに示すように、セントロメアタンパク質に対する自己抗体の数は、ELISAによる抗CENP-B抗体の力価とよく相関していた(r2=0.6190、p<0.0001)。また、ANA テストでは、discrete-speckledパターンの存在は ELISA による抗-CENP-B 抗体の陽性と著しく一致していた。
【0056】
ほとんどの健常対照者は一つ以上の抗体を持たないが、標準的なACA検出法によるACAのない患者の中には二つ以上の抗体を持つ者もいる。ビーズアッセイ陽性を二つ以上の抗体を有するものと定義すると、ビーズアッセイは高い特異性でSS、SSc又はPBC患者を明確に区別することができた(図4B、表3)。図4Cに示すように、ビーズアッセイでは、各疾患群で標準的な方法と比較して、14~23%の患者が追加でACA陽性と同定された(SSでは15%、SScでは23%、PBCでは20%、オーバーラップでは14%)。
【0057】
追加で同定されたACAの臨床的意義を確認するため、抗CENP-B抗体を持つ患者と持たない患者の特徴を比較した。ビーズアッセイ陽性のSS患者のELISAによる抗CENP-B抗体の有無による臨床的特徴は2群間で同程度であった(表4)。SSc患者については、2群間で臨床的特徴が異なっていた(表5)。抗CENP-B抗体陽性患者はすべて限定的な皮膚SScを呈したが、ビーズアッセイ陽性患者及びELISA陰性患者の半数は、抗トポイソメラーゼ1抗体(ATA)でびまん性の皮膚SScを呈した。PBC患者の数が少なすぎて、臨床的特徴を比較することができなかった(表6)。
【0058】
〔SS唾液腺由来のモノクローナル抗体は、新たに同定されたセントロメア抗原を認識した〕
先行研究では、SS唾液腺のASCから256個の抗体を作製したが、その中には既知のセントロメア自己抗原に反応するものもあった[17]。 本研究では、新たなセントロメア自己抗原を認識する抗体を探索した。その結果を表7に示す。これまでに同定されたACAに加えて、CENP-HIKMに対する抗体が二つ、CENP-OPQURに対する抗体が一つ、NDC80Cに対する抗体が一つ同定された。
【0059】
〔唾液腺におけるACAの抗原特異性〕
次に、セントロメア抗原ライブラリーを用いて、標的臓器におけるASCの特異性を包括的に解析した。サンプル収集に制限があったため、本研究はSS患者の唾液腺に限定した。口唇唾液腺の新鮮凍結切片をGFP融合セントロメア抗原で染色し、ASCの細胞表面マーカーとしてCD138を用いた。代表的な画像を図10に示す。
【0060】
結果を表2にまとめた。ACA陽性患者(n=8)のうち、6名の患者がセントロメア抗原を標的とした病変ASCを有していた。最も頻度の高い標的抗原はCENP-C(n=6)及びMIS12C(n=6)であり、次いでCENP-HIKM(n=4)、NDC80C(n=3)及びCENP-OPQUR(n=2)であった。他の主要抗原を標的としたASCは、唾液腺ではほとんど見られなかったか、又は同定されなかった。ACA陰性のSS患者(n=5)とSS診断を満たさずに乾燥症候群を呈した患者(n=2)のASCは陰性であった。これらの結果は、ACA陽性pSSの唾液腺からのモノクローナル抗体の特異性の結果と一致していた。
【0061】
また、連続切片を解析したところ、様々な抗原(CENP-C、CENP-HIKM、CENP-OPQUR、MIS12C)に対するASCが同一部位に分布していることが確認された(図5)。この結果は、セントロメア複合体、特にキネトコアタンパク質複合体に対する抗体がSS唾液腺内のASCで産生されていることを示唆している。
【0062】
最後に、様々な自己免疫疾患患者の血清中及びSS唾液腺中のセントロメア-キネトコア複合体及びその自己抗原性の模式図を示した(図6)。血清抗体は、セントロメリッククロマチン(CENP-A、CENPB、CBX5)、構成的セントロメア関連ネットワーク(CCAN;CENP-C、CENP-HIKM、CENP-TWSX、CENP-LN、CENP-OPQUR)、MIS12Cを標的とするが、病変ASCの標的はキネトコア複合体が優勢であった。
【0063】
〔議論〕
本発明者は、自己免疫疾患におけるACAターゲットの包括的なマッピングを提供した。本発明者は、SS、SSc、PBC患者において、既知の自己抗原であるCBX5、CENP-A、CENP-B、CENP-C、MIS12Cに加え、CCANが血清自己抗体の主要標的であることを示した。これらの結果から、セントロメア-キネトコアマクロコンプレックスが血清ACAの主な標的であることが示唆された。また、セントロメア抗原の自己抗原性はSS、SSc及びPBC患者で共有されていた。SSの唾液腺におけるASCに関しては、血清ACAとは対照的に、CENP-Bのようなセントロメアタンパク質よりもキネトコア抗原がASCの主要な標的であった。
【0064】
先行研究では、血清ACAはCENP-A、CENP-B、及びCENP-C以外のCENPに対する反応性が比較的低いか、あるいは全くないことが示されているが[12]、分子間の関連性にかかわらず、非哺乳類細胞由来の個々のタンパク質を使用しているため、その反応性は過小評価されている可能性がある。本発明者は以前、ヒト細胞由来の抗原を用い、その複合体タンパク質を共発現させることで、高感度な自己抗体検出が可能であることを報告している。セントロメアの分子構造に関するエビデンスの蓄積[21][6]により、分子間構造を考慮したセントロメア抗原ライブラリーの構築が可能となった。本研究では、CENP-HIKM、CENP-TWSX、CENP-OPQUR、CENP-LN、NDC80C、KNL1C、Astrin-SKAP複合体など、複数の新規ACA標的を同定した。本発明者は、抗体検出のためにコンフォメーション抗原を使用するこの概念は、他の自己免疫疾患における新規な自己抗体の同定にも応用できると考えている。
【0065】
SSとSSc患者を比較した際のエピトープ特異性の違いに注目した研究がいくつかあり、SSではCBX5とCENP-Cに対する抗体がSScに比べて多く見られることが示されているが[13][16]、今回の研究では9つの主要な自己抗原に対する血清自己抗体の類似性が明らかになった。いくつかの報告では、ACAの存在下でSS/SSc、SS/PBC、及びSSc/PBCが頻発することが示されている[25][26]。さらに、ACAの存在は、分類基準を満たすか否かにかかわらず、レイノー現象、強直性、乾燥症候群などの特徴的な症状と関連している[27][28]。以上の結果から、ACA陽性のSS、SSc、PBC患者には共通の臨床的・免疫学的特徴があることがわかり、「ACA関連疾患」という新しい疾患分類が追加されるのではないかという考えが強まった。
【0066】
さらに、複数のセントロメア抗原を用いた ELISA 法の臨床応用の可能性を示した。これまでの研究では、抗CENP-B抗体のELISA結果は、ANA テストのdiscrete-speckledパターンと高度に対応することが示されていたので[31]、これらの主要な2つの方法では、共通の集団を検出することしかできなかった。本発明者のデータでは、SS、SSc、PBC患者の14-23%が複数のセントロメア抗原に対する自己抗体を持っていたが、CENP-Bは持っていなかった。さらに、これらの抗体は自己免疫疾患に非常に特異的であった。また、SS患者では、抗CENP-B抗体の有無にかかわらず臨床的特徴が類似していたため、同定されたACA陽性は抗CENP-B抗体と同等の臨床的意義を持つ可能性があると考えられた。SSc患者では、抗CENP-B抗体を持つACA陽性患者と持たないACA陽性患者の臨床的特徴は、ATAの有病率に応じて異なっていたが、この結果は、ATAとACAは相互に排他的ではなく、ATAとACAの二重陽性患者の臨床症状はATA単一陽性患者と類似しているというこれまでの報告と一致していた[32][33]。
【0067】
ACA陽性のSS患者の唾液腺内のASCは、様々なセントロメア抗原に対する反応性を示し、キネトコア抗原に対する特異性を特徴とした。全身性自己免疫疾患の標的臓器における局所抗体産生のエビデンスが蓄積されている[34]。SSでは、唾液腺内のB細胞からの抗原駆動型免疫応答と自己抗体産生がいくつかの研究で報告されている[35][36]。今回の研究では、キネトコアタンパク質に対するASCの多様性が観察され、自己免疫疾患における血清中の様々なACAの存在が裏付けられた。血清自己抗体はセントロメアクロマチンとキネトコアタンパク質の両方を含む主要な自己抗原に対して同様の反応性を示したが、唾液腺のASCはキネトコアタンパク質に対して特異性を示した。さらに、様々なキネトコア抗原を用いた連続切片を免疫染色したところ、キネトコア抗原の局在的な集積が認められた。このことから、キネトコア複合体はB細胞に提示され、SSの唾液腺炎の中で自己免疫反応を起こすことが示唆された。
【0068】
結論として、本研究では、ACAの標的を正確にマッピングし、セントロメア-キネトコアマクロコンプレックスが血清ACAの主要な標的であること、また、ACA陽性のSS、SSc、PBC患者は、抗体の特異性の類似性という点で異なるサブグループを形成することを示した。ACAの獲得は、罹患臓器におけるキネトコアコンプレックス主導の抗体選択の結果であると考えられる。
【0069】
表1. 血清分析を受けた患者の臨床的特徴
【表1】

ACA, 抗セントロメア抗体; AMA, 抗ミトコンドリア抗体; dcSSc, びまん性全身性皮膚硬化症;HC、健常対照;lcSSc、限定的な全身性皮膚硬化症硬化症; NA、評価されていない; PBC, 原発性胆管炎; RNAPIII,RNAポリメラーゼIII; SS, シェーグレン症候群; SSc, 全身性硬化症; Topo1, トポイソメラーゼ1
【0070】
表2. 唾液腺の病変抗体分泌細胞の臨床的特徴及び抗体特異性
【表2】
スライドを200倍の倍率で調べた。-, 検出不能; ±, 複数のフィールドに1細胞, +, 1フィールドに1~3細胞; ++, 1フィールドに4~8細胞; +++, 1フィールドに8細胞以上。*免疫抑制療法1年後にACAが陽性に転換; †プレドニゾロン10mg/日で治療。C, 細胞質; D, discrete-speckled; F, 女性; H, 同質; LB, 唇生検; MCTD, 混合性結合組織病; N, Nucleolar; NA, 評価不能; PH, 肺高血圧症; PMR, リウマチ性多発筋痛症; PSL, プレドニゾロン; pSS, 原発性シェーグレン症候群; S, 唾液腺; Sp, speckled; SS, シェーグレン症候群; sSS, 二次性シェーグレン症候群。患者IDは、本発明者の過去の研究のものに対応している[17]。
【0071】
〔実施例2〕
〔新たに同定されたセントロメア自己抗原に対するモノクローナル抗体〕
抗原結合ビーズを、ヒト唾液腺の抗体分泌細胞からクローニングされたモノクローナル抗体と1μg/mlで染色バッファー(リン酸緩衝生理食塩水に2mMエチレンジアミン四酢酸と0.5%ウシ血清アルブミンを加えたもの)中でインキュベートした。染色バッファーで洗浄した後、ビーズをAPC結合抗ヒトIgG-Fc抗体で染色した。洗浄後、ビーズをFACSVerseとFlowJoソフトウェアで分析した。
【0072】
〔唾液腺における抗体産生細胞の直接検出〕
SBP-GFP融合抗原を293T細胞で発現させ、Streptavidin Sepharose High Performance (Cytiva Japan, Tokyo, Japan)で精製した。抗原の純度はCoomassie Brilliant Blue染色で評価し、濃度はQuick Start Bradford Protein Assay(Bio-Rad, CA, USA)で測定した。口唇唾液腺サンプルの新鮮な凍結切片を、GFP融合抗原及び抗CD138抗体(非標識、MI15, BioLegend)とインキュベートした。洗浄後、抗マウスIgG1抗体(Alexa Fluor 594, goat, Thermo Fisher Scientific)で染色した。ASCは、LSM 710顕微鏡とZEN 3.0ソフトウェア(ZEISS,Oberkochen,Germany)を用いて半定量化した。詳細な方法は以前の文献に記載したとおりである[17]。
【0073】
表3. 様々なカットオフ値による抗原結合ビーズアッセイの診断性能
【表3】
【0074】
表4. ELISAによる抗CENP-B抗体陽性又は陰性の場合における抗原結合ビーズ法による二つ以上のACAを持つSS患者の臨床的特徴の比較
【表4】
RF, リウマトイド因子; sSS, 二次性SS。
【0075】
表5. ELISAによる抗CENP-B抗体陽性又は陰性の場合における抗原結合ビーズ法による二つ以上のACAを持つSSc患者の臨床的特徴の比較
【表5】
GI, 胃腸; mRSS, 修正ロドナン全皮膚厚スコア。
【0076】
表6. ELISAによる抗CENP-B抗体陽性又は陰性の場合における抗原結合ビーズ法による二つ以上のACAを持つPBC患者の臨床的特徴の比較
【表6】
【0077】
表7. セントロメア抗原に対する病変抗体の特異性
【表7】
*抗CBX5抗体、抗CENP-A抗体、抗CENP-B抗体、抗CENP-C抗体、抗MIS12複合体抗体
【0078】
〔実施例3〕
複合体とそれを構成する個別タンパク質に対する、シェーグレン症候群、全身性強皮症、原発性胆汁性胆管炎のいずれか又は複数を罹患する170人の患者血清の反応性の相関を調べた。複合体は、MIS12複合体、CENP-HIKM複合体、CENP-OPQUR複合体、及びCENP-LN複合体の4種類使用した。結果を図13~16に示す。
【0079】
図13~16に示すように、それぞれの複合体の反応性に、1-2種の個別タンパク質の反応性が相関していた。具体的には、MIS12複合体はNSL1と高い相関を示し、CENP-HIKM複合体はCENPK及びCENPIと高い相関を示し、CENP-OPQUR複合体はCENPOと高い相関を示し、CENP-LN複合体はCENPLと高い相関を示した。
【0080】
以上の結果は、個別タンパク質を使うことで、複合体を使うよりも簡易に複合体に準じる結果を得ることができることを示す。
【0081】
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【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の医薬に関するものなので、医薬に関連する産業において利用可能である。
図1
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図10
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【配列表】
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