(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022077133
(43)【公開日】2022-05-23
(54)【発明の名称】ゴルフボール
(51)【国際特許分類】
A63B 37/00 20060101AFI20220516BHJP
【FI】
A63B37/00 128
A63B37/00 142
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020187812
(22)【出願日】2020-11-11
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】393000847
【氏名又は名称】キャスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】谷本 佳亮
(57)【要約】
【課題】打球した際の飛距離が、打ち出し角やスピン量の高低に拘わらず優れたゴルフボールを提供する。
【解決手段】ゴルフボール10は、表面から窪むように形成された複数個のディンプル(12a~12d)を有する。各ディンプルは、ゴルフボール10の表面で円形状をなす開口周縁14と、第1の曲率半径R1を有する円弧状の底面部18と、該底面部18の上端に連なり、第2の曲率半径R2を有する円弧状の湾曲面部20と、該湾曲面部20の上端に連なり開口周縁14まで延在する直線状の周壁面部22とを含む。また、第2の曲率半径R2は第1の曲率半径R1の1.25%以下に設定される。さらに、周壁面部22の長さLは、0.01mm~0.25mmの範囲内である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面から窪むように形成された複数個のディンプルを有するゴルフボールにおいて、
前記ディンプルは、当該ゴルフボールの表面で円形状をなす開口周縁と、
深さ方向に沿う切断面に現れ、第1の曲率半径を有する円弧状の底面部と、
前記底面部の上端に連なり、第2の曲率半径を有する円弧状の湾曲面部と、
前記湾曲面部の上端に連なり前記開口周縁まで延在する直線状の周壁面部と、
を含み、
前記第2の曲率半径が前記第1の曲率半径の1.25%以下であり、
且つ前記周壁面部の長さが0.01mm~0.25mmであるゴルフボール。
【請求項2】
請求項1記載のゴルフボールにおいて、前記ディンプルの前記開口周縁の直径を分子、前記底面部の直径を分母とする直径比が1.06以上であり、且つ前記ディンプルの最大深さが0.20mm~0.30mmであるゴルフボール。
【請求項3】
請求項1又は2記載のゴルフボールにおいて、前記ディンプルが形成されていないと仮定したときの当該ゴルフボールの仮想球面に接し、且つ前記仮想球面から前記ディンプルの最深部に引いた仮想垂線に直交する仮想接線と、前記周壁面部から該周壁面部の延在方向と同一方向に向かって延出する仮想延出線との交差角度が45°~75°であるゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に複数個のディンプルが形成されたゴルフボールに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフボールの表面には、打球時の飛行軌道を安定させるとともに飛距離を大きくするべく、複数個のディンプルが形成される。一般的なディンプルは、ゴルフボールの表面から小さな球欠を刳り抜いたような形状であるが、近時、前記の空気力学的性能を一層向上させるべく、ディンプルの形状についての検討がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ディンプルを形成する底壁部と、該底壁部の上端から開口端まで延在する周壁部とで曲率を相違させることが提案されている。すなわち、このゴルフボールでは、ディンプルの深さ方向に沿った断面において、曲率が互いに異なる2個の曲面が現れる。
【0004】
また、特許文献2に記載されたゴルフボールでは、ディンプルの深さ方向に沿った断面に、周縁部側に形成される傾斜した直線部分と、中央部側に形成されて前記直線部分に接続する曲線部分とが現れる。前記直線部分は、周縁部側の第1直線部分と、該第1直線部分と曲線部分との間に形成され、ゴルフボールの表面に対する傾斜が第1直線部分よりも小さく設定される第2直線部分とからなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-70449号公報
【特許文献2】特開2003-79763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した従来技術では、ゴルフボールが高角度で打ち出されて高スピン量で飛行した場合、いわゆる吹き上がった弾道となって飛距離が低下することがある。また、これとは逆に低角度で打ち出されて低スピン量で飛行した場合、揚力が小さくなるとともにボールの伸びが低下することに起因して、飛距離が低下する傾向にある。
【0007】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、打ち出し角やスピン量の高低に拘わらず十分な飛距離が得られるゴルフボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明の一実施形態によれば、表面から窪むように形成された複数個のディンプルを有するゴルフボールにおいて、
前記ディンプルは、当該ゴルフボールの表面で円形状をなす開口周縁と、
深さ方向に沿う切断面に現れ、第1の曲率半径を有する円弧状の底面部と、
前記底面部の上端に連なり、第2の曲率半径を有する円弧状の湾曲面部と、
前記湾曲面部の上端に連なり前記開口周縁まで延在する直線状の周壁面部と、
を含み、
前記第2の曲率半径が前記第1の曲率半径の1.25%以下であり、
且つ前記周壁面部の長さが0.01mm~0.25mmであるゴルフボールが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高角度で打ち出されて高スピン量で飛行した場合、又は、低角度で打ち出されて低スピン量で飛行した場合のいずれにおいても、ゴルフボールは、十分な飛距離を示す。この理由は、第1の曲率半径に対する第2の曲率半径の割合と、周壁面部の長さとを上記のように設定したことにより、ゴルフボールの空気力学的性能が向上するからであると推察される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態に係るゴルフボールの概略全体平面図である。
【
図2】
図1のゴルフボールに形成されたディンプルの、深さ方向に沿った断面を示す切断図である。
【
図4】実施例ゴルフボールの各物理量を示す図表である。
【
図5】実施例ゴルフボール及び比較例ゴルフボールを打球した際のスピン量や飛距離等を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るゴルフボールにつき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、以下において「仮想球面」という場合には、ディンプルが形成されていないと仮定したときのゴルフボールの表面を指す。また、「ゴルフボールの表面」は、ゴルフボールの、ディンプルが形成されていない部分の球面を表す。さらに、「上端」は、ディンプルの底面部に近接する側の端部と、ディンプルの開口に近接する側の端部の中、後者を意味する。
【0012】
図1は、本実施の形態に係るゴルフボール10の概略全体平面図である。このゴルフボール10は、第1ディンプル12a~第4ディンプル12dを有する。これら第1ディンプル12a~第4ディンプル12dは、ゴルフボール10の表面から、該ゴルフボール10の直径に沿って窪んだ凹部である。従って、第1ディンプル12a~第4ディンプル12dはゴルフボール10の表面で開口する。第1ディンプル12a~第4ディンプル12dの開口の縁部の軌跡である開口周縁14は、いずれも円形状をなす。
【0013】
第1ディンプル12a~第4ディンプル12dは、開口周縁14の直径DM1が互いに相違する。具体的には、第1ディンプル12a~第4ディンプル12dの順に直径DM1が小さくなる。直径DM1は、例えば、第1ディンプル12aを5mmに設定し、第2ディンプル12b、第3ディンプル12c、第4ディンプル12dの順で0.5mmずつ小さくすればよい。直径DM1の差を0.5mm以外の値としてもよい。なお、第1ディンプル12a~第4ディンプル12dの各個数は任意であるが、一例として、80個、60個、120個、12個に設定することが挙げられる。
【0014】
図2は第1ディンプル12aの深さ方向に沿った深さ方向断面図であり、
図3はその要部拡大図である。これら
図2及び
図3に示されるように、第1ディンプル12aは、最深部16を含む底面部18と、湾曲面部20と、周壁面部22とを有する。以下、第1ディンプル12aを例示して説明するが、第1ディンプル12aで示される比や割合の数値範囲は、第2ディンプル12b~第4ディンプル12dにおいても成り立つ。
【0015】
底面部18は、第1の曲率半径R1で湾曲した円弧状の曲面である。第1ディンプル12aを開口周縁14側から平面視したときに視認される底面部18の直径をDM2とするとき、開口周縁14の直径DM1を分子、底面部18の直径DM2を分母とする直径比(DM1/DM2)は、1.06以上に設定される。なお、DM1/DM2が過度に大きくなると、湾曲面部20及び周壁面部22を形成することが容易でなくなる。従って、DM1/DM2を1.25以下とすることが好ましい。すなわち、DM1/DM2の好ましい範囲は1.06~1.25である。
【0016】
図2及び
図3には、仮想球面VBを併せて示している。第1ディンプル12aの最大深さDPは、仮想球面VBと最深部16の双方に直交する仮想垂線M1の、最深部16から仮想球面VBまでの距離として定義される。最大深さDPは、0.20mm~0.30mmの範囲内であることが好ましい。第2ディンプル12b~第4ディンプル12dの最大深さDPも同様に、好ましくは0.20mm~0.30mmの範囲内に設定される。
【0017】
また、湾曲面部20は、底面部18の上端に連なり、第2の曲率半径R2で湾曲した円弧状の曲面である。ここで、第2の曲率半径R2が過度に大きいと、ゴルフボール10の空気力学的性能を向上することが容易でなくなり、打球した際の飛距離が低下することがある。これを回避するべく、第2の曲率半径R2は、第1の曲率半径R1の1.25%以下に設定される。
【0018】
なお、第2の曲率半径R2が過度に小さいと湾曲面部20を形成することが容易でなくなる。従って、第2の曲率半径R2は、第1の曲率半径R1の1.05%以上であることが好ましい。例えば、第1ディンプル12aにおいて、第1の曲率半径R1が88mmである場合、第2の曲率半径R2は0.924mm以上に設定される。
【0019】
湾曲面部20の上端には、開口周縁14まで延在するように傾斜した直線状の周壁面部22が連なる。周壁面部22の、下端から開口周縁14に至るまでの間の長さLは、0.01mm~0.25mmの範囲内に設定される。長さLがこのような範囲に設定された周壁面部22は、ゴルフボール10が高スピンで飛行するときに吹き上がる弾道になることを抑制するとともに、該ゴルフボール10が前方に飛行する推進力を向上させることに寄与する。
【0020】
図3に示すように、仮想垂線M1には、仮想球面VBに接する仮想接線M2が直交する。一方、周壁面部22の上端からは、該周壁面部22の延在方向と同一方向に向かう仮想延出線M3が延出する。仮想接線M2と仮想延出線M3との交差角度θは、45°~75°であることが好ましい。
【0021】
第1の曲率半径R1に対する第2の曲率半径R2の割合、周壁面部22の長さL、直径比DM1/DM2、最大深さDP、交差角度θが以上のように設定された第1ディンプル12a~第4ディンプル12dを有するゴルフボール10は、打球の際に打ち出された角度やスピン量の高低に拘わらず、十分な飛距離が得られるものとなる。
【0022】
本発明は、上記した実施の形態に特に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0023】
例えば、第1の曲率半径R1に対する第2の曲率半径R2の割合や周壁面部22の長さLは、後述する実施例にて示す特定の物理量に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内で任意に変更することができる。また、直径比DM1/DM2、最大深さDP、交差角度θについての上記の物理量は、好ましい範囲を示している。
【実施例0024】
開口周縁14の直径DM1、底面部18の直径DM2、直径比DM1/DM2、底面部18の第1の曲率半径R1、湾曲面部20の第2の曲率半径R2、R1に対するR2の割合、最大深さDP、交差角度θ、周壁面部22の長さLが
図4に示される値である第1ディンプル12a~第4ディンプル12dを有する実施例ゴルフボール(ゴルフボール10)を作製した。なお、
図4には、第1ディンプル12a~第4ディンプル12dの各々の個数を併せて示している。
【0025】
その一方で、底面部18の第1の曲率半径R1に対する湾曲面部20の第2の曲率半径R2が上記の範囲外の12%~20%であり、且つ周壁面部22が形成されていないディンプルを有する比較例ゴルフボールを作製した。すなわち、この比較例ゴルフボールのディンプルを深さ方向に沿って切断したとき、その断面は、2つの湾曲面が連なった形状をなす。
【0026】
そして、第1のテスターが実施例ゴルフボールと比較例ゴルフボールを個別に打球し、その際の初速(ボールスピード)、打ち出し角、スピン量、最高到達点、打球箇所からボール着地点までの距離であるキャリー、打球箇所からボール停止箇所までの距離である合計飛距離を求めた。第1のテスターによる実施例ゴルフボールでの打球を実施例1、比較例ゴルフボールでの打球を比較例1とする。
【0027】
また、第1のテスターと別人である第2のテスターが実施例ゴルフボールと比較例ゴルフボールを個別に打球し、上記と同様に、初速、打ち出し角、スピン量、最高到達点、キャリー、合計飛距離を求めた。第2のテスターによる実施例ゴルフボールでの打球を実施例2、比較例ゴルフボールでの打球を比較例2とする。
【0028】
実施例1及び比較例1、実施例2及び比較例2の結果を、
図5に一括して示す。この
図5から、比較例1よりも実施例1の方がキャリー及び合計飛距離が大きいこと、比較例2と実施例2を比較してもこれと同様であることが分かる。
【0029】
実施例1及び比較例1は打ち出し角が比較的低くスピン量が比較的小さい場合の代表例であり、一方、実施例2及び比較例2は打ち出し角が比較的高くスピン量が比較的大きい場合の代表例である。すなわち、
図5に示される結果から、実施例ゴルフボールが、打ち出し角やスピン量の高低に拘わらず、比較例ゴルフボールよりも大きな飛距離が得られることが明らかである。