(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022077158
(43)【公開日】2022-05-23
(54)【発明の名称】材質安定性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 2/26 20060101AFI20220516BHJP
C23C 2/06 20060101ALI20220516BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20220516BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
C23C2/26
C23C2/06
C22C38/00 301T
C22C38/60
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020187862
(22)【出願日】2020-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000200323
【氏名又は名称】JFE鋼板株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083253
【弁理士】
【氏名又は名称】苫米地 正敏
(72)【発明者】
【氏名】井上 紀夫
(72)【発明者】
【氏名】飛山 洋一
(72)【発明者】
【氏名】三宅 英徳
(72)【発明者】
【氏名】進 修
(72)【発明者】
【氏名】大居 利彦
【テーマコード(参考)】
4K027
【Fターム(参考)】
4K027AA05
4K027AA23
4K027AB44
4K027AC72
4K027AC87
(57)【要約】
【課題】スプリングバック特性の経時的な変動が抑えられる材質安定性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板を製造する。
【解決手段】鋼板をGI系またはGL系のめっき浴で溶融めっきし、めっき層が凝固した後のめっき鋼板を、180℃以上に再加熱することなく、スキンパス圧延または/およびテンションレベラー処理することにより鋼板に転位を導入し、次いで、コイルに巻き取られた鋼板に対して、GI系では180~410℃×3時間以上、GL系では180~370℃×3時間以上の熱処理を施す。この熱処理で鋼板が完全に時効硬化されるので、製品のスプリングバック値は安定し、スプリングバック特性の経時的な変動が抑えられる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
C含有量が0.01~0.20mass%の鋼板をAl:0.1~11mass%、Mg:0~5mass%を含有する溶融亜鉛系めっき浴に浸漬して溶融めっきし、溶融亜鉛系めっき浴から出てめっき層が凝固した後のめっき鋼板を、180℃以上に再加熱することなく、スキンパス圧延または/およびテンションレベラー処理することにより鋼板に転位を導入し、次いで、コイルに巻き取られた鋼板に対して、最高到達板温180~410℃に3時間以上保持した後、室温まで冷却する熱処理を施すことを特徴とする材質安定性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
溶融亜鉛系めっき浴が、Al:0.1~11mass%、Mg:0~5mass%を含有し、残部が亜鉛および不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1に記載の材質安定性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項3】
溶融亜鉛系めっき浴が、さらに、Ni:1mass%未満、Ceまたは/およびLaを含むミッシュメタル(合計量):1mass%未満の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項2に記載の材質安定性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】
溶融亜鉛系めっき浴が、さらに、Ni:0.005~0.2mass%、Ceまたは/およびLaを含むミッシュメタル(合計量):0.005~0.05mass%の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項2に記載の材質安定性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項5】
C含有量が0.01~0.20mass%の鋼板をAl:40~70mass%、Si:0.6~15mass%、Mg:0~25mass%を含有する溶融亜鉛系めっき浴に浸漬して溶融めっきし、溶融亜鉛系めっき浴から出てめっき層が凝固した後のめっき鋼板を、180℃以上に再加熱することなく、スキンパス圧延または/およびテンションレベラー処理することにより鋼板に転位を導入し、次いで、コイルに巻き取られた鋼板に対して、最高到達板温180~370℃に3時間以上保持した後、室温まで冷却する熱処理を施すことを特徴とする材質安定性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項6】
溶融亜鉛系めっき浴が、Al:40~70mass%、Si:0.6~15mass%、Mg:0~25mass%を含有し、残部が亜鉛および不可避的不純物からなることを特徴とする請求項5に記載の材質安定性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項7】
溶融亜鉛系めっき浴が、さらに、Cr、Ni、Co、Mn、Ca、V、Ti、B、Mo、Sn、Zr、Sr、Li、Agの中から選ばれる1種以上を各元素1mass%未満で含有することを特徴とする請求項6に記載の材質安定性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項8】
溶融亜鉛系めっき浴を出ためっき鋼板の冷却過程において、350℃~280℃間の平均冷却速度が70℃/秒以下であることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の材質安定性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項9】
溶融亜鉛系めっき浴を出ためっき鋼板の冷却過程において、350℃~280℃間の平均冷却速度が50℃/秒以下であることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の材質安定性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項10】
スキンパス圧延または/およびテンションレベラー処理によるめっき鋼板のトータル伸び率を0.5%以上とすることを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の材質安定性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項11】
鋼板が、C:0.01~0.20mass%、Si:0~0.04mass%、Mn:0~1.00mass%、Al:0~0.08mass%、B:0~0.002mass%、P:0.04mass%以下、S:0.30mass%以下、N:0.007mass%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1~10のいずれかに記載の材質安定性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかの製造方法で得られた溶融亜鉛系めっき鋼板の表面に化成処理皮膜を形成することを特徴とする材質安定性に優れた化成処理鋼板の製造方法。
【請求項13】
請求項1~11のいずれかの製造方法で得られた溶融亜鉛系めっき鋼板の表面に化成処理皮膜を形成し、次いでその上層に単層または複層の塗膜を形成することを特徴とする材質安定性に優れた塗装鋼板の製造方法。
【請求項14】
塗膜を形成する工程では、下塗り塗装を行った後、最高到達板温150~270℃で10~60秒の焼付処理を行い、次いで、上塗り塗装を行った後、最高到達板温150~280℃で15~90秒の焼付処理を行うことを特徴とする請求項13に記載の材質安定性に優れた塗装鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、溶融亜鉛系めっき鋼板(いわゆる溶融Al-Zn系合金めっき鋼板を含む)の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合金化処理を施さない溶融亜鉛系めっき鋼板(いわゆる溶融Al-Zn系合金めっき鋼板を含む)を原板とした塗装鋼板は、主として、屋根、壁、シャッターなどに加工され、薄板建材として広く使用されている。
この溶融亜鉛系めっき鋼板の代表的なめっき成分としては、0.1~11mass%のアルミニウム、5mass%以下のマグネシウム、1mass%未満のNiなどの添加元素を含有し、残部が亜鉛および不可避的不純物からなる溶融めっき(以下、GI系という)や、40~70mass%のアルミニウム、0.6~15mass%のシリコン、25mass%以下のマグネシウムなどを含有し、残部が亜鉛および不可避的不純物からなる溶融めっき(以下、GL系という)がある(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
鋼板をプレス成形した場合に、鋼板内に発生する不均一な残留応力に起因した弾性回復変形であるスプリングバックが問題となるが、この分野でも、近年、塗装鋼板を薄板建材に加工した後に発生するスプリングバックが問題視されるようになってきている。特に、加工前の塗装鋼板単位で材質が変動する場合は、加工後製品の形状が安定しないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-138285号公報
【特許文献2】特公昭46-7161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、薄板のスプリングバックの測定方法について簡単に説明する。例えば、
図1に示すようなスプリングバック測定装置を用い、鋼板から採取した幅25mm、長さ150~200mm(鋼板の長手方向)のサイズの試験片をクランプ部に挿入し、クランプねじおよび曲げローラ締付けねじを締付けることで装置にセットする。この状態で、ローラハンドルにより試験片をマンドレルに沿って180°回す。約3秒保持後、ローラハンドルを元の位置に速やかに戻し、試験片のスプリングバック角(180°曲げした後の戻り角度)目盛を読みとる。この値をスプリングバック量(SBV)とする。
このスプリングバック測定装置を用い、本発明者らが製造した溶融亜鉛系めっき鋼板(塗装鋼板)のスプリングバック量を調査したところ、特定のめっき設備で得られためっき鋼板をベースとする塗装鋼板が、他のめっき設備で得られためっき鋼板をベースとする塗装鋼板に較べてスプリングバック特性(スプリングバック量)が経時的に大きく変動していること、すなわち、時効硬化現象が生じていることが判明した。
【0006】
このように溶融亜鉛系めっき鋼板のスプリングバック特性が経時的に大きく変動すると、加工後製品の形状が安定しないという品質面での問題を生じるおそれがある。
したがって本発明の目的は、スプリングバック特性の経時的な変動が抑えられる材質安定性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板を製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、鋼板をGI系またはGL系の溶融めっき浴に浸漬して溶融めっきした後、溶融めっき浴から出てめっき層が凝固した後のめっき鋼板を、180℃以上に再加熱することなく、スキンパス圧延または/およびテンションレベラー処理することにより鋼板に転位を導入し、しかる後、コイルに巻き取られた鋼板に対して所定の条件で熱処理を施すことにより、スプリングバック特性の経時的な変動が抑えられる材質安定性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板が得られることを見出した。
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
【0008】
[1]C含有量が0.01~0.20mass%の鋼板をAl:0.1~11mass%、Mg:0~5mass%を含有する溶融亜鉛系めっき浴に浸漬して溶融めっきし、溶融亜鉛系めっき浴から出てめっき層が凝固した後のめっき鋼板を、180℃以上に再加熱することなく、スキンパス圧延または/およびテンションレベラー処理することにより鋼板に転位を導入し、次いで、コイルに巻き取られた鋼板に対して、最高到達板温180~410℃に3時間以上保持した後、室温まで冷却する熱処理を施すことを特徴とする材質安定性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
[2]上記[1]の製造方法において、溶融亜鉛系めっき浴が、Al:0.1~11mass%、Mg:0~5mass%を含有し、残部が亜鉛および不可避的不純物からなることを特徴とする材質安定性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
[3]上記[2]の製造方法において、溶融亜鉛系めっき浴が、さらに、Ni:1mass%未満、Ceまたは/およびLaを含むミッシュメタル(合計量):1mass%未満の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする材質安定性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【0009】
[4]上記[2]の製造方法において、溶融亜鉛系めっき浴が、さらに、Ni:0.005~0.2mass%、Ceまたは/およびLaを含むミッシュメタル(合計量):0.005~0.05mass%の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする材質安定性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
[5]C含有量が0.01~0.20mass%の鋼板をAl:40~70mass%、Si:0.6~15mass%、Mg:0~25mass%を含有する溶融亜鉛系めっき浴に浸漬して溶融めっきし、溶融亜鉛系めっき浴から出てめっき層が凝固した後のめっき鋼板を、180℃以上に再加熱することなく、スキンパス圧延または/およびテンションレベラー処理することにより鋼板に転位を導入し、次いで、コイルに巻き取られた鋼板に対して、最高到達板温180~370℃に3時間以上保持した後、室温まで冷却する熱処理を施すことを特徴とする材質安定性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【0010】
[6]上記[5]の製造方法において、溶融亜鉛系めっき浴が、Al:40~70mass%、Si:0.6~15mass%、Mg:0~25mass%を含有し、残部が亜鉛および不可避的不純物からなることを特徴とする材質安定性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
[7]上記[6]の製造方法において、溶融亜鉛系めっき浴が、さらに、Cr、Ni、Co、Mn、Ca、V、Ti、B、Mo、Sn、Zr、Sr、Li、Agの中から選ばれる1種以上を各元素1mass%未満で含有することを特徴とする材質安定性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
[8]上記[1]~[7]のいずれかの製造方法において、溶融亜鉛系めっき浴を出ためっき鋼板の冷却過程において、350℃~280℃間の平均冷却速度が70℃/秒以下であることを特徴とする材質安定性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【0011】
[9]上記[1]~[7]のいずれかの製造方法において、溶融亜鉛系めっき浴を出ためっき鋼板の冷却過程において、350℃~280℃間の平均冷却速度が50℃/秒以下であることを特徴とする材質安定性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
[10]上記[1]~[9]のいずれかの製造方法において、スキンパス圧延または/およびテンションレベラー処理によるめっき鋼板のトータル伸び率を0.5%以上とすることを特徴とする材質安定性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
[11]上記[1]~[10]のいずれかの製造方法において、鋼板が、C:0.01~0.20mass%、Si:0~0.04mass%、Mn:0~1.00mass%、Al:0~0.08mass%、B:0~0.002mass%、P:0.04mass%以下、S:0.30mass%以下、N:0.007mass%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする材質安定性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【0012】
[12]上記[1]~[11]のいずれかの製造方法で得られた溶融亜鉛系めっき鋼板の表面に化成処理皮膜を形成することを特徴とする材質安定性に優れた化成処理鋼板の製造方法。
[13]上記[1]~[11]のいずれかの製造方法で得られた溶融亜鉛系めっき鋼板の表面に化成処理皮膜を形成し、次いでその上層に単層または複層の塗膜を形成することを特徴とする材質安定性に優れた塗装鋼板の製造方法。
[14]上記[13]の製造方法において、塗膜を形成する工程では、下塗り塗装を行った後、最高到達板温150~270℃で10~60秒の焼付処理を行い、次いで、上塗り塗装を行った後、最高到達板温150~280℃で15~90秒の焼付処理を行うことを特徴とする材質安定性に優れた塗装鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、スプリングバック特性の経時的な変動が抑えられる材質安定性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板を安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明で使用したスプリングバック測定装置を示す説明図
【
図2】めっき設備Aで製造されたGI系めっき鋼板をベースとする塗装鋼板と、めっき設備Bで製造されたGL系めっき鋼板をベースとする塗装鋼板に対して、100℃時効促進処理を施した場合において、各時効促進処理後のスプリングバック量(SBV)と時効促進処理前のスプリングバック量(SBV)を示すグラフ
【
図3】めっき設備Aで製造されたGI系めっき鋼板をベースとする塗装鋼板の鋼部分の板厚方向断面の顕微鏡拡大写真(STEM明視野像、観察倍率115000倍)
【
図4】めっき設備Bで製造されたGL系めっき鋼板をベースとする塗装鋼板の鋼部分の板厚方向断面の顕微鏡拡大写真(STEM明視野像、観察倍率115000倍)
【
図5】めっき設備Aで溶融めっきされたGI系めっき鋼板と、めっき設備Bで溶融めっきされたGL系めっき鋼板について、めっき浴から出た後の鋼板温度の推移を示すグラフ
【
図6】めっき浴を出た鋼板の冷却速度の違いによるFe
3C析出の有無を示すグラフ
【
図7】めっき鋼板をスキンパス圧延した後、100℃時効促進処理した場合において、スキンパス圧延または/およびテンションレベラー処理によるトータル伸び率と100℃時効促進処理後のスプリングバック量(SBV)の上昇量との関係を示すグラフ
【
図8】実施例1で製造された塗装鋼板について、めっき鋼板に対するピーク温度を200℃とした熱処理時の180℃以上での板温保持時間と100℃時効促進処理後のスプリングバック量(SBV)との関係を示すグラフ
【
図9】実施例1で製造された塗装鋼板について、めっき鋼板に対するピーク温度を200℃とした熱処理時の180℃以上での板温保持時間と100℃時効促進処理後のスプリングバック量(SBV)の上昇量との関係を示すグラフ
【
図10】実施例2で製造された塗装鋼板について、めっき鋼板に対するピーク温度を200℃とした熱処理時の180℃以上での板温保持時間と100℃時効促進処理後のスプリングバック量(SBV)との関係を示すグラフ
【
図11】実施例2で製造された塗装鋼板について、めっき鋼板に対するピーク温度を200℃とした熱処理時の180℃以上での板温保持時間と100℃時効促進処理後のスプリングバック量(SBV)の上昇量との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0015】
低炭素鋼の冷延鋼板を下地鋼板として、以下のような塗装鋼板を製造し、それらについてスプリングバック再現実験を実施した。
(i)めっき設備Aで得られたGI系(Al:0.15mass%、Mg:0mass%、残部が亜鉛および不可避的不純物)めっき鋼板を塗装設備で塗装し、GI系溶融めっき鋼板をベースとする塗装鋼板(以下「GI系ベース塗装鋼板」という)を製造した。
(ii)めっき設備Bで得られたGL系(Al:55mass%、Si:1.6mass%、Mg:0mass%、残部が亜鉛および不可避的不純物)めっき鋼板を塗装設備で塗装し、GL系溶融めっき鋼板をベースとする塗装鋼板(以下「GL系ベース塗装鋼板」という)を製造した。
なお、塗装焼付は、下塗り塗装については最高到達板温200℃×焼付時間25秒、上塗り塗装については最高到達板温230℃×焼付時間35秒とした。
【0016】
上記(i)、(ii)の塗装鋼板に100℃×1時間と100℃×2時間の各条件で時効促進処理(時効硬化を促進させる処理)を施し、自然時効現象をシミュレートした。
図2は、その結果を示すものであり、100℃×1時間と100℃×2時間の各時効促進処理後のスプリングバック量(SBV)と時効促進処理前(初期)のスプリングバック量(SBV)を示している。
図2(a)はGI系ベース塗装鋼板、
図2(b)はGL系ベース塗装鋼板の各結果を示している。
図2に示されるように、めっき設備Aで製造しためっき鋼板をベースとするGI系ベース塗装鋼板は、時効促進処理前後でスプリングバック量が安定しているのに対し、めっき設備Bで製造しためっき鋼板をベースとするGL系ベース塗装鋼板は、時効促進処理前後でスプリングバック量が大きく変動していることが判明した。仮に、めっき設備AでGL系が、めっき設備BでGI系が製造できるのであれば、この原因がめっき設備の差異によるものか、めっき種類の差異によるものかを明らかにすることは容易であるが、製造可能なめっき種に関しては設備上の制約があり、この手法は選択できない。そこで、各塗装鋼板について、走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて鋼の内部を調査した。
【0017】
図3は、めっき設備Aで製造しためっき鋼板をベースとするGI系ベース塗装鋼板の鋼部分の板厚方向断面の顕微鏡拡大写真(STEM明視野像、観察倍率115000倍)、
図4は、めっき設備Bで製造しためっき鋼板をベースとするGL系ベース塗装鋼板の鋼部分の板厚方向断面の顕微鏡拡大写真(STEM明視野像、観察倍率115000倍)である。いずれも、線状に観察されるものは転位であり、粒状に観察されるものは炭化物である。
図3に示されるめっき設備Aで製造しためっき鋼板をベースとするGI系ベース塗装鋼板では、結晶粒子(マトリックス)内に炭化物がほとんど存在しないこと、これに対して、
図4に示されるめっき設備Bで製造しためっき鋼板をベースとするGL系ベース塗装鋼板では、結晶粒子(マトリックス)内に炭化物が多く存在することが確認できる。
【0018】
一般に、マトリックス内に固溶炭素が残留すると、その後、経時とともに固溶炭素が転位や結晶粒界といった安定析出サイトに移動し、転位の動きをピニング(固定)するため硬化し、スプリングバックも大きくなる。これが時効硬化現象である。
以上のことから、めっき設備Aで製造しためっき鋼板をベースとするGI系ベース塗装鋼板で時効硬化が小さく、めっき設備Bで製造しためっき鋼板をベースとするGL系ベース塗装鋼板で時効硬化が大きかったのは、固溶炭素駆動力の差による最終固溶炭素残留量の違いに起因することを突き止めた。すなわち、高過飽和炭素濃度が高いGI系ベース塗装鋼板の方がGL系ベース塗装鋼板よりも固溶炭素駆動力が大きいので、塗装焼き付け処理時の固溶炭素の安定析出サイトへの移動が促進されるものと考えられる。
【0019】
次に、めっき設備によって時効硬化に差が生じた原因を調査した。めっき後の冷却条件の違いが時効硬化に影響しているのではないかと推定し、鋼板がめっき浴を出てからの時間と鋼板温度との関係を調査した。その結果を
図5に示す。これによれば、炭化物析出温度である450℃~200℃の冷却過程のうち、特に影響の大きい350℃~280℃の温度域において、GI系(めっき設備A)は70~80℃/秒の急冷であるに対して、GL系(めっき設備B)は20℃/秒程度の緩冷となっていることが判明した。
【0020】
これらを勘案すると、鋼板がめっき浴を出た後の冷却過程において、GI系(めっき設備A)ではめっき後に固溶炭素が多くなるが、炭化物が析出するためのエネルギーは高く、スキンパス圧延で転位が導入された後、塗装設備中の焼付熱処理で炭化物の転位への析出が促進され、マトリックス中の固溶炭素は減少し、時効硬化が減少したものと考えられる。一方、GL系(めっき設備B)では、炭水化物の転位への析出が遅いと考えられる。最終プロセスである塗装焼付工程およびその後の室温時効により、時効硬化が進んだと考えると、一連の現象を説明することができる。
【0021】
以上の結果を踏まえ、めっき設備Bの冷却速度を高くすべく設備改造を検討したが、冷却設備は大型の設備であり、高額な設備改造費用が必要であることから、断念せざるを得なかった。そこで、設備改造をすることなく、スプリングバックを安定化させる方法を検討した。スプリングバックは大きい場合も小さい場合も、一定でありさえすれば、これを織り込んだ加工条件に調整し、加工後製品の形状を安定化することが可能であることに着目した。すなわち、塗装鋼板製品を出荷する前に完全に時効硬化させてしまえば、スプリングバック値は安定し、顧客の加工条件調整と組合せることにより安定した薄板建材加工商品を製造することが可能である。
【0022】
このような着想の下に検討を進めた結果、鋼板をGI系またはGL系の溶融めっき浴に浸漬して溶融めっきした後、溶融めっき浴から出てめっき層が凝固した後のめっき鋼板を、180℃以上に再加熱することなく、スキンパス圧延または/およびテンションレベラー処理することにより鋼板に転位を導入し、しかる後、コイルに巻き取られた鋼板に対して所定の条件で熱処理を施すこと、具体的には、GI系の場合には最高到達板温180℃~410℃に3時間以上保持した後、室温まで冷却する熱処理を施すこと、GL系の場合には最高到達板温180℃~370℃に3時間以上保持した後、室温まで冷却する熱処理を施すことにより、スプリングバック特性の経時的な変動が抑えられる材質安定性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板を安定して製造することができることが判った。
【0023】
以下、本発明の製造方法の詳細を説明する。
GI系を製造する場合の溶融亜鉛系めっき浴の組成は、Al:0.1~11mass%、Mg:0~5mass%(無添加の場合を含む)を含有し、必要に応じてさらに、Ni:1mass%未満、Ceまたは/およびLaを含むミッシュメタル(合計量):1mass%未満の中から選ばれる1種以上を含有し、残部が亜鉛および不可避的不純物からなる。
Alが0.1mass%未満では、めっき層-素地鋼板界面にFe-Zn系合金層が厚く形成し、加工時にめっき層の剥離を誘発するため、めっき密着性が低下する。一方、Alが11mass%を超えると、ZnとAlの共晶組織が得られず、Alリッチ層が増加して犠牲防食作用が低下するので端面部の耐食性が劣る。
Mgは、耐食性向上のために必要に応じて添加されるが、Mgが5mass%を超えるとめっき浴中の酸化マグネシウム系ドロスが発生しやすくなる。なお、上記のようなMgの添加効果を得るには、その添加量は0.1mass%以上とすることが好ましい。
【0024】
Niは、1mass%未満の範囲で適量添加することにより耐黒変性が向上するが、1mass%以上ではNiを含有するAl-Mg系ドロスが生じ、めっき外観を損なう。また、このような観点から、Niの好ましい添加量は0.005~0.2mass%である。
Ceまたは/およびLaを含むミッシュメタルは、1mass%未満(合計量)の範囲で適量添加することによりめっき浴の流動性を高めて、めっき表面を平滑化する効果が得られるが、1mass%以上ではめっき浴中に未溶解浮遊物として存在するようになり、これがめっき鋼板に付着してめっき外観を損なう。また、このような観点から、Ceまたは/およびLaを含むミッシュメタルの好ましい添加量(合計量)は0.005~0.05mass%である。
【0025】
一方、GL系を製造する場合の溶融亜鉛系めっき浴の組成は、Al:40~70mass%、Si:0.6~15mass%、Mg:0~25mass%(無添加の場合を含む)を含有し、必要に応じてさらに、Cr、Ni、Co、Mn、Ca、V、Ti、B、Mo、Sn、Zr、Sr、Li、Agの中から選ばれる1種以上を各元素1mass%未満で含有し、残部が亜鉛および不可避的不純物からなる。
Alが40mass%未満では、Alによる耐食性の向上効果が十分に得られない。一方、Alが70mass%を超えるとZnが不足するため、Znによる犠牲防食機能が低下する。
Siは、界面合金層の生成を抑制するために添加されるが、Siが0.6mass%未満では、Si添加による界面合金層の生成抑制効果が十分に得られないため加工性が低下する。一方、Si含有量が15mass%を超えた場合も耐食性が劣化する。さらに、より高いレベルで界面合金層の成長抑制および耐食性の向上を実現するには、Si含有量を1.0~5mass%とすることが好ましい。
【0026】
Mgは、耐食性向上のために必要に応じて添加されるが、Mgが25mass%を超えると耐食性の向上効果が飽和することに加え、製造コストの上昇とめっき浴中の酸化マグネシウム系ドロスの発生が顕著となる。なお、上記のようなMgの添加効果を得るには、その添加量は0.1mass%以上とすることが好ましい。また、より高いレベルで耐食性の向上、製造コストの低減およびドロスの抑制を実現するためには、Mgの含有量を10mass%以下とすることが好ましく、5mass%以下とすることがより好ましい。
Cr、Ni、Co、Mn、Ca、V、Ti、B、Mo、Sn、Zr、Sr、Li、Agは、溶融Al-Zn系合金めっきにおける腐食生成物の安定化元素として知られており、これら元素の1種以上を各々1mass%未満の範囲で適量添加すれば、本発明の効果を阻害することなく、腐食生成物の安定化効果により、さらなる耐食性向上が期待できる。
【0027】
鋼板は上述した溶融亜鉛系めっき浴に浸漬されて溶融めっきが施された後、めっき浴から出て冷却され、めっき層が凝固する。
図6に示すように、炭化物(Fe
3C)析出域である450℃~200℃での冷却速度が速い場合はFe
3Cを主体とした炭化物は析出せず、遅い場合はFe
3Cを主体とした炭化物が析出する。この結果、冷却速度が速い場合は、結晶粒内の固溶炭素は過飽和状態となり、後の塗装鋼板の焼付工程で炭化物として析出する駆動エネルギーを保持したままとなるので、本来的にスプリングバック特性の変動は小さくなる。したがって、本発明は450℃~200℃での冷却速度が遅い場合、具体的には平均冷却速度が70℃/秒以下(特に50℃/秒以下の緩冷却)の場合に効果を発揮しやすい。但し、急速冷却したとしても、時効硬化がゼロになるわけではないので、本発明は有効である。
また、350℃~280℃の温度域はFe
3C析出時間が最も短くなる領域であるので、本発明は、特に350℃~280℃の平均冷却速度が70℃/秒以下の場合、とりわけ50℃/秒以下の緩冷却の場合に大きな効果を発揮する。
【0028】
次いで、めっき鋼板(めっき層が凝固した後のめっき鋼板)を、180℃以上に再加熱することなく、スキンパス圧延または/およびテンションレベラー処理することにより鋼板に歪を与え、転位を導入する。炭素が過飽和のまま、鋼板に歪を与えた後、時効硬化処理を行うと、析出サイトである転位に炭化物が析出するために完全時効に有利である。したがって、本発明の効果を十分に得るには、めっき層が凝固した後のめっき鋼板のスキンパス圧延または/およびテンションレベラー処理前には、180℃(時効開始温度)以上に鋼板を加熱しないことが必要である。
【0029】
スキンパス圧延または/およびテンションレベラー処理は、通常の溶融めっきラインに設置されている設備を利用して実施することができる。一般にスキンパス圧延は、鋼板の表面性状や形状の向上を図るとともに、加工時のストレッチャーストレインを抑えるために施される低伸び率の圧延であり、その後、必要に応じて鋼板の平坦度向上のためテンションレベラー処理がなされる。本発明のスキンパス圧延およびテンションレベラー処理は、このような従来設備を用いてオンライン処理を行うことができるが、オフラインで同様の処理を行ってもよい。
本発明では、所定の伸び率や歪を導入できるのであれば、スキンパス圧延のみ、テンションレベラー処理のみ、スキンパス圧延およびテンションレベラー処理のいずれを選択してもよい。
【0030】
図7は、めっき鋼板をスキンパス圧延または/およびテンションレベラー処理した後、時効促進処理(100℃×1時間、100℃×2時間)した際に、スキンパス圧延または/およびテンションレベラー処理によるトータル伸び率によって時効促進処理後のスプリングバック量(SBV)の上昇量がどのように変化するかを調査したものである。この試験では、供試材(鋼板)の鋼成分(mass%)が0.047%C-0.23%Mn-0.028%sol.Al-0.0033%Nであり、この鋼板に対してめっき設備BでGL系めっきを施した後、トータル伸び率を0.3%~2.4%とするスキンパス圧延または/およびテンションレベラー処理を行った。次いで、下塗り塗装を施して200℃×30秒で焼き付けた後、上塗り塗装を施して230℃×30秒で焼き付けた。この塗装鋼板に100℃×1時間、100℃×2時間の各条件で時効促進処理を施した。
図1のスプリングバック試験装置を用いて、時効促進処理の実施前後の鋼板のスプリングバック量を測定し、スプリングバック量(SBV)の上昇量(=[時効促進処理後のスプリングバック量]-[時効促進処理前のスプリングバック量])を調べた。各条件での試験はN数=2であり、
図7のスプリングバック量の上昇量はN数=2の平均値である。
【0031】
図7によれば、スキンパス圧延または/およびテンションレベラー処理によるトータル伸び率が比較的低い場合でも転位は導入できるため、本発明の効果は得られるが、伸び率が1%以上となると効果は大きくなり、特に、伸び率が1.5%以上になると効果が顕著になる。このため、スキンパス圧延または/およびテンションレベラー処理によるトータル伸び率は0.5%以上が好ましく、1.0%以上がより好ましく、1.5%が特に好ましい。
【0032】
次いで、上記のようにスキンパス圧延または/およびテンションレベラー処理で転位を導入しためっき鋼板を熱処理する。加熱処理の方法は特に限定するものではないが、例えば、めっき鋼板をコイルに巻き取った後、オフラインにおいてバッチ式の加熱炉にて加熱処理をする方法などが挙げられる。この熱処理では炭素の拡散速度が十分に高いことが必要であり、このため熱処理温度は最高到達板温で180℃以上とする必要がある。一方、熱処理温度が高くなり過ぎると、過飽和固溶炭素の減少に伴う熱力学的駆動力の低下に加え、めっき鋼板の層間密着が起こるおそれがあるので、熱処理温度はめっき金属の完全凝固温度未満とする必要がある。このため、GI系の場合には410℃以下(完全凝固点:419℃)、GL系の場合には370℃以下(完全凝固点:381℃)とする。また、炭素の拡散を十分に確保するため、熱処理時間は3時間以上とする。したがって、本発明では、コイルに巻き取られた鋼板に対して、GI系の場合には最高到達板温180~410℃に3時間以上保持した後、室温まで冷却する熱処理を施し、GL系の場合には最高到達板温180~370℃(好ましくは180~250℃)に3時間以上保持した後、室温まで冷却する熱処理を施す。ここで、熱処理時間とは、コイル中で最も温度が低い部分が180℃以上となる時間を指す。
以上のような製造工程を経て溶融亜鉛系めっき鋼板が得られる。
【0033】
本発明で製造された溶融亜鉛めっき系鋼板は、通常、その表面に化成処理皮膜が形成されて化成処理鋼板として使用され、或いは、その表面に化成処理皮膜が形成され、さらにその上層に単層または複層の塗膜を形成されて塗装鋼板として使用される。
化成処理鋼板における化成処理皮膜は、例えば、めっき鋼板にクロメート処理液またはクロムフリー化成処理液を塗布し、水洗することなく、80~300℃(鋼板温度)で乾燥処理を行うクロメート処理またはクロメートフリー化成処理により形成することができる。化成処理皮膜は、単層でも複層でもよく、複層の場合には化成処理を順次行えばよい。
【0034】
塗装鋼板を製造する場合には、化成処理されためっき鋼板に対して、塗装ラインで塗装及び焼付処理が行われる。下地となる化成処理皮膜は上述した通りである。複層の塗膜としては、例えば、主剤樹脂の成分が異なる下塗り塗膜と上塗り塗膜が形成される。塗膜の形成方法としては、ロールコーター塗装、カーテンフロー塗装、スプレー塗装などが挙げられる。有機樹脂を含有する塗料を塗装した後、熱風乾燥、赤外線加熱、誘導加熱などの手段により加熱乾燥して塗膜を形成することができる。この塗装プロセスでの焼付条件は、塗料の種類により決められるが、通常、下塗り塗装の場合には最高到達板温150~270℃で10~60秒、上塗り塗装の場合には最高到達温度150~280℃で15~90秒である。
本発明で製造される溶融亜鉛系めっき鋼板は、すでに、熱処理にて時効硬化処理がなされており、上記焼付温度は炭化物が再固溶する温度領域ではないため、時効硬化が問題となることもない。また、多くの塗装ラインは塗料焼付炉の後にレベラー設備を有しているが、このレベラーを使用しても、固溶炭素量に影響を与える訳ではないので、本発明の効果を減じることはない。
【0035】
次に、本発明で用いるめっき用鋼板の成分組成について説明する。
本発明は炭化物析出挙動を制御するものであり、極低炭素鋼(C含有量:0.01mass%未満)では効果を発揮しないため、めっき用鋼板としては、C含有量が0.01mass%以上の鋼板を用いる必要がある。また、加工性を考慮して、鋼板のC含有量の上限は0.20mass%とする。
また、本発明において製造される溶融亜鉛系めっき鋼板は、特に薄板建材用塗装鋼板の下地めっき鋼板として好適なものであり、この場合、薄板建材に一般的に適用される化学成分をもつ原板(鋼板)を用いることができる。この鋼板の具体的な化学成分としては、mass%で、C:0.01~0.20%、Si:0~0.04%、Mn:0~1.00%、Al:0~0.08%、B:0~0.002%、P:0.04%以下、S:0.30%以下、N:0.007%以下が好ましい。残部はFeおよび不純物である。
【0036】
Cは、上述した理由で0.01~0.20%が好ましい。
Si、Mnは、高強度が要求されない場合には添加量は少ない方がよいため、下限は0%とする。一方、高強度が要求される場合、固溶強化元素として添加することが好ましいが、薄板建材を対象とする場合には、Siよりもコストが安いMnを使用することが好ましい。また、Siはめっき密着性を劣化させるために、添加量は抑制することが好ましい。これらの元素は炭化物の析出に影響を与えるものではないが、経済的な工業生産の観点から、Siは0.04%、Mnは1.00%をそれぞれ上限とすることが好ましい。
【0037】
AlやBは、Nと結合してAlNやBNを形成しやすく、このようにNと結合した場合は、Nによる時効硬化変化を抑制することができる。経済的な工業生産の観点から、Alは0~0.08%、Bは0~0.002%とすることが好ましい。
Pは、粒界に偏析して脆化の原因となるため、できるだけ少ないことが好ましいが、経済的な工業生産の観点から0.04%を上限とすることが好ましい。
Sも、脆化の原因となるため、できるだけ少ないことが求められるが、経済的な工業生産の観点から0.30%を上限とすることが好ましい。
Nは、Cと同じく侵入型固溶であり、Cよりも経時的に時効硬化の変化を起こしやすいため、できるだけ少ないことが好ましいが、経済的な工業生産の観点から0.007%を上限とすることが好ましい。
【実施例0038】
[実施例1]
鋼成分が、C:0.075mass%、Si:0.015mass%、Mn:0.5mass%、Al:0.025mass%、B:0.0001mass%、P:0.013mass%、S:0.015mass%、N:0.002mass%、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼板に、めっき設備Bにおいて、めっき浴組成がAl:55mass%、Si:1.6mass%、Mg:0mass%の溶融亜鉛系めっき浴にてGL系めっきを施し、めっき層が凝固した後のめっき鋼板に伸び率0.6%のスキンパス圧延および伸び率0.2%のテンションレベラー処理を施して鋼板に転位を導入し、次いで、コイルに巻き取られた鋼板に対して、本発明条件に従い最高到達板温200℃で180℃以上に3~48時間保持した後、室温まで冷却するバッチ式熱処理を施し、溶融亜鉛系めっき鋼板を製造した。
【0039】
この溶融亜鉛系めっき鋼板にクロメート系化成処理を施し、次いで、エポキシ樹脂系の下塗り塗装を施して200℃×25秒で焼き付けし、さらにメラミン硬化ポリエステル系の上塗り塗装を施して230℃×35秒で焼き付け、供試材を作成した。この供試材に、100℃×1時間、100℃×2時間の各条件で時効促進処理を行った。
図1のスプリングバック試験装置を用いて、時効促進処理の実施前後の供試材のスプリングバック量(SBV)を測定し、スプリングバック量(SBV)の上昇量を調べた。その結果を
図8および
図9に示す。
図8は各供試材の時効促進処理前(初期)と各条件での時効促進処理後のスプリングバック(SBV)量を、
図9は各供試材のスプリングバック量(SBV)の上昇量(=[時効促進処理後のスプリングバック量]-[時効促進処理前のスプリングバック量])を、それぞれ示している。なお、各条件での試験はN数=2であり、
図8および
図9のスプリングバック量(SBV)およびスプリングバック量(SBV)の上昇量はN数=2の平均値である。
以上の製造例は、いずれも本発明条件を満足するものであり、
図8によれば、スプリングバック量(SBV)はいずれも目標値である34~40度の範囲内である。また、
図9によれば、従来例では
図2に示すように5度程度であったスプリングバック量(SBV)の上昇量が2度以下に抑えられている。
【0040】
[実施例2]
実施例1と同様の成分組成の鋼板に、めっき設備Bにおいて、めっき浴組成がAl:55mass%、Si:1.6mass%、Mg:0mass%の溶融亜鉛系めっき浴にてGL系めっきを施し、めっき層が凝固した後のめっき鋼板に伸び率1.4%のスキンパス圧延および伸び率0.2%のテンションレベラー処理を施して鋼板に転位を導入し、次いで、コイルに巻き取られた鋼板に対して、本発明条件に従い最高到達板温200℃で180℃以上に3~48時間保持した後、室温まで冷却するバッチ式熱処理を施し、溶融亜鉛系めっき鋼板を製造した。
【0041】
この溶融亜鉛系めっき鋼板にクロメート系化成処理を施し、次いで、エポキシ樹脂系の下塗り塗装を施して200℃×25秒で焼き付けし、さらにメラミン硬化ポリエステル系の上塗り塗装を施して230℃×35秒で焼き付け、供試材を作成した。この供試材に、100℃×1時間、100℃×2時間の各条件で時効促進処理を行った。
図1のスプリングバック試験装置を用いて、時効促進処理の実施前後の供試材のスプリングバック量(SBV)を測定し、スプリングバック量(SBV)の上昇量を調べた。その結果を
図10および
図11に示す。
図10は各供試材の時効促進処理前(初期)と各条件での時効促進処理後のスプリングバック(SBV)量を、
図11は各供試材のスプリングバック量(SBV)の上昇量(=[時効促進処理後のスプリングバック量]-[時効促進処理前のスプリングバック量])を、それぞれ示している。なお、各条件での試験はN数=2であり、
図10および
図11のスプリングバック量(SBV)およびスプリングバック量(SBV)の上昇量はN数=2の平均値である。
以上の製造例は、いずれも本発明条件を満足するものであり、
図10によれば、スプリングバック量(SBV)はいずれも目標値である34~40度の範囲内である。また、
図11によれば、従来例では
図2に示すように5度程度であったスプリングバック量(SBV)の上昇量が2度以下に抑えられている。