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  • 特開-熱転写シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022077215
(43)【公開日】2022-05-23
(54)【発明の名称】熱転写シート
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/382 20060101AFI20220516BHJP
   B41M 5/40 20060101ALI20220516BHJP
   B41M 5/44 20060101ALI20220516BHJP
   B41M 5/42 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
B41M5/382 800
B41M5/40 300
B41M5/40 400
B41M5/44 320
B41M5/44 420
B41M5/42 320
B41M5/42 420
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020187964
(22)【出願日】2020-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】掛川 駿太
(72)【発明者】
【氏名】有賀 友紀
【テーマコード(参考)】
2H111
【Fターム(参考)】
2H111AA26
2H111AA27
2H111AB05
2H111BA02
2H111BA03
2H111BA13
2H111BA53
2H111BA55
2H111BA61
2H111BA71
(57)【要約】      (修正有)
【課題】中抜き部への中間転写媒体からの転写の貼り付きがなく、中抜き部の輪郭にバリのない被転写体を形成可能な熱転写シートを提供する。
【解決手段】熱転写シート1から中間転写媒体への1次転写で画像を形成した後、被転写体に2次転写して被転写体に画像を形成する中間転写記録方式に用いる熱転写シートであって、基材2上に、2次転写の際に被転写体に転写されない部分であるマスキング層3を有し、該マスキング層を形成する樹脂のTgが140℃以上220℃以下であり、該マスキング層がフィラー粒子を樹脂に対して重量比0.5%以上20%以下含有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱転写シートから中間転写媒体への1次転写で画像を形成した後、被転写体に2次転写して被転写体に画像を形成する中間転写記録方式に用いる熱転写シートであって、
基材上に、2次転写の際に被転写体に転写されない部分であるマスキング層を有し、該マスキング層を形成する樹脂のTgが140℃以上220℃以下であり、該マスキング層がフィラー粒子を樹脂に対して重量比0.5%以上20%以下含有する熱転写シート。
【請求項2】
前記マスキング層に含有されるフィラー粒子は粒径0.1μm以上5μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱転写シート。
【請求項3】
前記マスキング層は膜厚が0.1μm以上3μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱転写シート。
【請求項4】
前記基材上に前記マスキング層と複数のカラー熱転写インク層が面順次に並び設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の熱転写シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中間転写記録方式に用いる熱転写シートに関し、特に中間転写媒体の受容層に熱転写画像を形成(1次転写)後、被転写体に再転写する際のバリの発生や転写抜けを抑制できる熱転写シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ICカード等への画像形成において、昇華型あるいは溶融型のインク層を有する熱転写シートを用いた熱転写記録方法が用いられている。この熱転写記録方法の中で、特に、連続転写性能や、画像形成を行う被転写体材質の汎用性、高信頼性の観点から、熱転写シートから中間転写媒体に1次転写を行い、さらに中間転写媒体から被転写体に2次転写を行う中間転写方式が広く利用されている。ところが、上記の中間転写媒体を用いた転写方式は、転写領域に中抜き部を設けたり、複雑な形状を被転写体に再転写することは困難であった。
【0003】
例えば図5に示すようなICカード20のサインパネル21や接触端子22のように、中間転写媒体の受像層が再転写されるべきではない部分に転写して貼り付いてしまう貼り付き24や貼り付かないで縁からはみ出すバリ23が発生した場合、サインパネル21の筆記性が著しく低下したり、接触端子22の接触不良を起こしたりするなどの問題を生じる。そこで、再転写を確実にするため、熱転写シートにマスキング層を設けて、中間転写媒体からの再転写時に中抜き部を形成可能とし、また、バリ等の発生がなく、安定的かつ正確に中抜き部を形成できる熱転写シートが望まれている。
【0004】
この様な中抜きを形成できる熱転写シートとして、例えば特許文献1ではアクリル樹脂を用いたマスキング層を有する熱転写シートが提案されている。しかしながら、特許文献1の構成では、被転写体における中間転写媒体の中抜き部への転写を完全に防止することは困難であり、本来中間転写媒体が転写されない領域に中間転写媒体が貼りつく不具合が生じうる。また、特許文献2では、マスキング層の代わりにピールオフ層を熱転写シートに設け、中抜きとなる部分にあたる中間転写媒体の受容層を1次転写時に予め取り除くことで、安定的に中抜きを形成可能な熱転写シートを提案している。しかし、特許文献2の構成では、受容層をピールオフ層側に取り除く際に、受容層のバリを生じやすく、本来中間転写媒体が転写されるべき領域までが中抜きとなってしまうデメリットが生じやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-254839号公報
【特許文献2】特開2003-326865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、中間転写媒体を用いた熱転写画像形成に使用する熱転写シートおいて、中間転写媒体から被転写体への転写時に中抜き部を形成する際に、中抜き部への中間転写媒体からの転写の貼り付きがなく、中抜き部の輪郭にバリのない被転写体を形成可能な、マスキング層を有する熱転写シートを提供すること課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、熱転写シートから中間転写媒体への1次転写で画像を形成した後、被転写体に2次転写して被転写体に画像を形成する中間転写記録方式に
用いる熱転写シートであって、基材上に、2次転写の際に被転写体に転写されない部分であるマスキング層を有し、該マスキング層を形成する樹脂のTgが140℃以上220℃以下であり、該マスキング層がフィラー粒子を樹脂に対して重量比0.5%以上20%以下含有する熱転写シートを提供する。
【0008】
上記熱転写シートにおいて、前記マスキング層に含有されるフィラー粒子は粒径0.1μm以上5μm以下であって良い。
【0009】
上記熱転写シートにおいて、前記マスキング層は膜厚が0.1μm以上3μm以下であって良い。
【0010】
上記熱転写シートにおいて、前記基材上に前記マスキング層と複数のカラー熱転写インク層が面順次に並び設けられていて良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱転写シートによれば、中間転写媒体を用いて被転写体に熱転写画像を形成する際に中抜きを形成した場合に、中抜き部に中間転写媒体からの貼り付きを生じることなく、また、中抜き部の輪郭にバリの発生がない熱転写シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の熱転写シートの一実施形態を示す断面図である。
図2】中間転写媒体およびカラー熱転写シートの構成例を示す断面図である。
図3】本発明の熱転写シートによる転写工程の説明図である。
図4】本発明の熱転写シートの構成例を示す平面図である。
図5】バリ、転写抜けの形状の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。また以下に示す実施形態では、発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
【0014】
図1は、本発明の熱転写シートの一実施形態を示す断面図である。熱転写シート1は、基材2の一方の面に、マスキング層3を設けた構成である。本発明の熱転写シートを用いて中間転写方式で被転写体に画像形成する場合、マスキング層3を設けた熱転写シート1と図2に例示した様な基材5上にカラー熱転写インク層6を設けたカラー熱転写シート4、基材8上に受像層9を設けた中間転写媒体7が用いられる。なお、熱転写シート1とカラー熱転写シート4は、後述する様に同一の基材上に塗り分けた構成とすることもできる。
【0015】
基材2は、従来の熱転写シートに使用されている基材を用いることができ、特に限定されるものではない。好ましい基材2の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、セロファン、アセテート、ポリカーボネート、ポリサルフォン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、芳香族ポリアミド、アラミド、ポリスチレン等の合成樹脂のフィルム、およびコンデンサー紙、パラフィン紙などの紙類等を単独、又は組み合わされた複合体などが使用可能である。基材2の厚さは、その強度及び耐熱性等が適切になるように、材料に応じて適宜選択することができるが、通常は2μm以上50μm以下の範囲のものが使用でき、転写適性や加工性等のハンドリング性を考慮すると、2μm以上9μm以下程度のものが好ましい。
【0016】
また、基材2において、マスキング層3を形成していない面に滑性や耐熱性を付与するための耐熱滑性層を設けても良く、さらに、マスキング層3を形成している面には接着処理を施すことも可能である。耐熱滑性層としては従来公知のもので対応でき、例えば、バインダー樹脂、離型性や滑り性を付与する機能性添加剤、充填剤、硬化剤、溶剤などを配合して耐熱滑性層形成用の塗布液を調製し、塗布、乾燥して形成することができる。接着処理としては、コロナ処理、火炎処理、オゾン処理、紫外線処理、放射線処理、粗面化処理、プラズマ処理、プライマー処理等の公知の技術を適用することができ、それらの処理を二種以上併用することもできる。
【0017】
マスキング層3は、バインダー樹脂、フィラー粒子、溶剤などを配合してマスキング層用塗布液を調整し、塗布、乾燥することにより、形成される。本発明のマスキング層は、バインダー樹脂のTgが140℃以上220℃以下であり、フィラー粒子を重量比0.5%以上20%以下含有することを特徴とする。
【0018】
バインダー樹脂のTgが140℃未満であると、中間転写媒体7から被転写体に再転写される際の熱圧でマスキング層3も溶融して転写されてしまうおそれがあり、Tgが220℃を超えると、熱転写シート1から中間転写媒体7へマスキング層3を転写させる際に転写させ難くなり、マスキングが完全に行えなくなってしまうおそれがある。
【0019】
また、フィラー粒子の量が重量比で0.5%未満だとフィラーの添加効果が得られず、20%を超えると、マスキング層3の接着性が低下して転写不良となり、また脆くなって揉み落ちなどが発生しやすくなる。
【0020】
バインダー樹脂としては、例えば酢酸セルロース樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリフェニルスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアリールエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などが例示できるが、これに限定されない。
【0021】
マスキング層3は、乾燥後の膜厚が0.1μm以上3μm以下であることが望ましく、含有されるフィラー粒子は粒径0.1μm以上5μm以下であることが望ましい。また、フィラー粒子の種類としては、その材質については従来公知のものが使用でき、シリカフィラー、シリコーンフィラー、有機高分子フィラー、無機フィラーが使用できる。
【0022】
なお、マスキング層3、耐熱滑性層は、いずれも従来公知の塗布方法にて、塗布、形成することで形成可能であり、例としてグラビアコーティング法、スクリーン印刷法、スプレーコーティング法、リバースロールコート法等が挙げられる。
【0023】
本発明の熱転写シートによる転写工程を、図3を用いて説明する。
まず、(a)中間転写方式のプリンタにおいて、カラー熱転写シート4のカラー熱転写インク層6と中間転写媒体7の受像層9とを対向させて、受像層9上に所定のカラー画像や文字などからなる画像6aを形成する。
続いて、(b)熱転写シート1のマスキング層3と、画像6aが形成された中間転写媒体7の受像層9を対向させて、マスクする領域にマスキング層3aを転写する。
続いて、(c)被転写体10と、マスキング層3aと画像6aが形成された受像層9を対向させて、ヒートローラーなどの加熱加圧手段により熱圧を加えて圧着し、受像層9ごと転写する。
続いて、(d)中間転写媒体7を被転写体10から剥離することで、画像6bと受像層9aが被転写体10に転写されるが、マスキング層3aの部分は転写されずに中間転写媒体7に残り、画像や受像層が転写されない中抜き10aが形成される。
【0024】
基材2のマスキンク層3を設けた面と同じ面には、従来公知のカラー熱転写インク層、検知マーク、ホログラム層、保護層といった機能を有する層を設けることも可能である。図4は上記の様にして同一の基材上にマスキンク層3とカラー熱転写インク層を形成して一体とした熱転写シートの構成例を示す平面図である。すなわち、図4(a)の例は、長尺の基材上にイエローY、マゼンタM、シアンC、墨Bkのカラー熱転写インク層とマスキング層3が面順次に形成され、検知マークSと共に1単位を形成し、繰り返し多数形成されたものである。また図4(b)の例は、上記の各層に加え、カードの裏面への転写用の墨Bkrのインク層とマスキング層3rがさらに追加されて設けられたものである。
【0025】
この様に一体とすることで、中間転写方式のプリンタにおいて、中間転写媒体へのカラー画像の形成とマスキング層の形成が1次転写工程において一連の工程として実行できるため、効率化できる。それぞれのインク層の大きさは、被転写体への記録サイズに合わせて適宜設定される。また例示した以外にもインク層を形成しても良く、例えばUVインク層、IRインク層などを設けても良く、また各色ごとの検知マークなどを設けても良い。
【実施例0026】
以下に実施例で本発明をさらに具体的に説明する。
<熱転写シートの作製>
(実施例1)
基材(厚さ4.5μmのPETフィルム)の一方の面に、下記マスキング層用塗布液をグラビアコーティング法により乾燥後の膜厚が0.3μmになるように塗布し、80℃で1分間乾燥することにより、マスキング層を形成した。
<マスキング層用塗布液>
酢酸セルロース樹脂(Tg160℃) 10部
(L-30 (株)ダイセル製)
シリコーンフィラー(粒径2μm) 1部
メチルエチルケトン 89部
実施例2~5、比較例3、4の熱転写シートは、フィラーの配合量または粒径を変更した以外は実施例1と同様にして作製した。実施例6、7、比較例1、2はバインダー樹脂種を変更したこと以外は実施例1と同様にして作製した。詳細は表1に示す。
【0027】
<ICカードへの転写>
実施例1~7及び比較例1~4の熱転写シートを用いて、市販の中間転写方式のICカードプリンタにて被転写物を形成した。
中抜き部への貼り付き、バリ、揉み落ちを評価した。各評価項目の詳細な評価方法を以下に記載する。
<中抜き部への貼りつき評価>
ICカードへの転写時に、中間転写媒体の中抜きを形成させ、中抜き部に中間転写媒体の貼りつきの有無を目視確認した。
【0028】
〇:中間転写媒体の貼りつきはない
×:中間転写媒体の貼りつきが生じる
<中抜き部バリの評価>
中抜き部の輪郭に中間転写媒体の破片(バリ)の有無を光学顕微鏡で確認した。
【0029】
◎:生じたバリの大きさ(最長辺)が0μm~50μm未満
〇:生じたバリの大きさ(最長辺)が50μm以上~100μm未満
×:生じたバリの大きさ(最長辺)が100μm以上
<揉み落ちの評価>
ICカードへの転写を施した際に、プリンタ内部にマスキング層の破片付着の有無を目視
確認した。
結果を表1にまとめる。
【0030】
【表1】
【0031】
実施例1~7は3種類いずれの評価においても良好な結果であった。実施例3はフィラー粒径を0.02μmとしたために、マスキング層の切れ性が若干低下し、若干の中抜き部バリが見られたが許容範囲内であった。実施例4はマスキング屡の膜厚が厚くなったことにより、切れ性が低下し、若干の中抜き部バリが見られたが、許容範囲内であった。
【0032】
これに対して、バインダー樹脂のTgを100℃として作製した比較例1の熱転写シートは、中間転写媒体へのマスキング層の転写(1次転写)は良好であるものの、被転写体への再転写時に中抜き部とマスキング層が密着してしまうことにより、貼りつきが発生した。また、バインダー樹脂のTgを230℃として作製した比較例2の熱転写シートは、1次転写時に中間転写媒体への密着性が低いことで転写されず、マスキング層を形成することができず、中抜き部も形成できなかった。フィラーを未添加で作製した比較例3の熱転写シートは、マスキング層の切れ性が悪く、中抜き部でバリ発生が認められた。フィラーを樹脂に対しての重量比で30%添加して作製した比較例4の熱転写シートは、基材とマスキング層の密着性が著しく低下し、プリンタ内での搬送時に揉み落ちが発生することを確認した。
【符号の説明】
【0033】
1、11、12・・・熱転写シート
2、5、8・・・基材
3・・・マスキング層
4・・・カラー熱転写シート
6・・・カラー熱転写インク層
7・・・中間転写媒体
9・・・受像層
10・・・被転写体
10a・・・中抜き
23・・・バリ
24・・・貼り付き
図1
図2
図3
図4
図5