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  • 特開-定着部構造および定着部鉄筋組立方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022077251
(43)【公開日】2022-05-23
(54)【発明の名称】定着部構造および定着部鉄筋組立方法
(51)【国際特許分類】
   E04C 5/06 20060101AFI20220516BHJP
【FI】
E04C5/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020188020
(22)【出願日】2020-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】小尾 博俊
【テーマコード(参考)】
2E164
【Fターム(参考)】
2E164AA02
2E164CA12
2E164CA39
(57)【要約】
【課題】施工手順の自由度が向上し、かつ、作業効率の向上を図ることを可能とした定着部構造および定着部配筋方法を提案する。
【解決手段】緊張材1の定着部11において緊張方向と直交するように緊張材1を挟んで対向するように配筋された一対の横鉄筋41,41と、横鉄筋41同士を連結する一対の補強筋5,5とを備えている。補強筋5は、直線状の本体部51と、本体部51の両端に形成された横鉄筋41に係止するための係止部52,53とからなり、下側の端部に形成された係止部52は本体部51の先端に摩擦圧接により固定された平板である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
緊張材の定着部を挟んで対向する位置において緊張方向と交差する方向に配筋された一対の鉄筋と、
前記鉄筋同士を連結する一対の補強筋と、を備える定着部構造であって、
前記補強筋は、直線状の本体部と、前記本体部の両端に形成された前記鉄筋に係止するための係止部と、からなり、
少なくとも一方の端部に形成された前記係止部は、摩擦圧接により固定された平板であることを特徴とする、定着部構造。
【請求項2】
前記鉄筋は、前記緊張材の軸方向に間隔をあけて複数配筋されており、
前記定着部における前記鉄筋同士の前記間隔は、前記定着部以外における前記鉄筋同士の間隔よりも小さいことを特徴とする、請求項1に記載の定着部構造。
【請求項3】
前記鉄筋は、前記緊張材の軸方向に沿って間隔をあけて複数配筋されており、
前記定着部における前記鉄筋の鉄筋径は、前記定着部以外における前記鉄筋の鉄筋径よりも大きいことを特徴とする、請求項1に記載の定着部構造。
【請求項4】
緊張材の定着部を上下から挟んで対向する位置に、緊張方向と交差する向きで一対の鉄筋を配筋する第一配筋工程と、
前記定着部を左右から挟んで対向する位置に、緊張方向と交差する向きで一対の補強筋を配筋する第二配筋工程と、を備える定着部鉄筋組立方法であって、
前記第二配筋工程では、一対の前記鉄筋の上方から前記補強筋を挿入して前記鉄筋同士を当該補強筋により連結することを特徴とする、定着部鉄筋組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレストレストコンクリート構造物の緊張材の定着部構造および定着部鉄筋組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポストテンション方式によるプレストレストコンクリート構造物では、緊張材(例えば、PC鋼棒、PC鋼線等)の定着部に生じる割裂引張応力に対向する補強構造を構成する必要がある。
例えば、特許文献1では、緊張材の定着部において、緊張材の端部(シース管)の周囲に螺旋状のスパイラル筋を配筋する定着部補強構造が開示されている。特許文献1の定着部補強構造におけるスパイラル筋は、コンクリート構造物の表面側において2周以上にわたって鉄筋同士が接触していて、残りの部分は隙間をあけた状態に形成されている。また、スパイラル筋は、緊張材の緊張方向の所定の範囲に対して、連続して緊張材の周囲に設けられている。
プレストレストコンクリート構造物に緊張材を配設する際には、主筋や配力筋の隙間に、シース管や緊張材を配設する必要があることから、スパイラル筋は、主筋などの鉄筋と緊張材等とのわずかな隙間に配筋する必要がある。そのため、スパイラル筋の配筋作業には手間がかかる。また、スパイラル筋は、シース管や緊張材を取り付ける前に予め配置しておく必要があり、施工手順が制約されてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-71937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、施工手順の自由度が向上し、かつ、作業効率の向上を図ることを可能とした定着部構造および定着部鉄筋組立方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための本発明の定着部構造は、緊張材の定着部を挟んで対向する位置において緊張方向と交差する方向に配筋された一対の鉄筋(主筋、配力筋など)と、前記鉄筋同士を連結する一対の補強筋とを備えている。前記補強筋は、直線状の本体部と、前記本体部の両端に形成された前記鉄筋に係止するための係止部とからなり、少なくとも一方の端部に形成された前記係止部は摩擦圧接により固定された平板である。
かかる定着部構造によれば、補強筋により定着部の鉄筋量を増加させるため、割裂引張応力に対して必要な耐力を確保できる。補強筋は、両端に係止部が形成された直線状の部材であるため、コンクリート構造物の主筋や配力筋(鉄筋)の隙間に挿入することができる。そのため、施工手順に制約がなく、施工時の自由度が高い。また、螺旋状のスパイラル筋を配筋する場合に比べて、簡易に配筋することができ、作業効率の向上を図ることができる。
ここで、主筋や配力筋などの鉄筋は、前記定着部における配筋ピッチを前記定着部以外における配筋ピッチよりも小さくするのが望ましい。こうすることで、定着部における鉄筋量を増加して、割裂引張応力に対する耐力の増加を図ることができる。
また、前記定着部における前記鉄筋の鉄筋径を、前記定着部以外における前記鉄筋の鉄筋径よりも大きくすることで、定着部における鉄筋量の増加、すなわち、割裂引張応力に対する耐力の増加を図ってもよい。
【0006】
また、本発明の定着部鉄筋組立方法は、緊張材の定着部を上下から挟んで対向する位置に緊張方向と交差する向きで一対の鉄筋を配筋する第一配筋工程と、前記定着部を左右から挟んで対向する位置に緊張方向と交差する向きで一対の補強筋を配筋する第二配筋工程とを備えている。前記第二配筋工程では、一対の前記鉄筋の上方から前記補強筋を挿入して前記鉄筋同士を当該補強筋により連結する。
かかる定着部鉄筋組立方法によれば、鉄筋(主筋や配力筋)が組み立てられた定着部において、上方から挿入することにより補強筋を配筋するため、スパイラル筋を配筋する従来の配筋方法に比べて、作業性に優れている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の定着部構造および定着部鉄筋組立方法によれば、従来の定着部構造のスパイラル筋に比べて補強筋を配筋しやすいため、施工手順の自由度が向上し、かつ、作業効率の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態の定着部構造を示す図であって、(a)は正面図、(b)は平面図である。
図2】補強筋の設置状況を示す拡大斜視図である。
図3】解析に用いた試験体を示す斜視図である。
図4】解析における試験体の配筋図であって、(a)は実施例、(b)は比較例1、(c)は比較例2である。
図5】解析結果を示すコンクリートの最大主ひずみの応力図であって、(a)は実施例、(b)は比較例1、(c)は比較例2である。
図6】解析結果を示す鉄筋の軸ひずみの応力図であって、(a)は実施例、(b)は比較例1、(c)は比較例2である。
図7】他の形態の定着部構造を示す図であって、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態では、ポストテンション方式によるプレストレストコンクリート構造物Cにおける緊張材1の定着部11に生じる割裂引張応力に対向する補強構造(定着部構造2)について説明する。図1に本実施形態の定着部構造2を示す。
定着部11では、図1(a)および(b)に示すように、緊張材1にシース管12が周設されていて、シース管12と緊張材1との隙間には、グラウトなどの充填材13が充填されている。また、緊張材1の先端部には、支圧板14が固定されている。
本実施形態の定着部構造2は、緊張材1に沿って配筋された主筋3と、緊張材1の緊張方向と交差する方向に配筋された配力筋(鉄筋)4と、同じく緊張材1の緊張方向と交差する方向に配筋された補強筋5とを備えている。
本実施形態では、緊張材1の周囲を囲うように、四本の主筋3が等間隔に配筋されている。
【0010】
配力筋4は、緊張材1の軸方向に間隔をあけて複数配筋されている。本実施形態の配力筋4は、緊張材1を挟んで対向する上下一対の横鉄筋41,41と、緊張材1を挟んで対向する左右一対の縦鉄筋42,42とを備えている。配力筋4は、一本の鉄筋を曲げ加工することにより一対の横鉄筋41,41と一対の縦鉄筋42,42とを備えた矩形枠状の部材である。また、配力筋4は、緊張材1および主筋3を囲うように配筋されている。緊張材1は配力筋4の中央に配設されていて、主筋3は配力筋4の角部に配筋されている。
なお、プレストレストコンクリート構造物Cの構造上必要な鉄筋量を確保することを目的として、定着部11における配力筋4同士の間隔(配筋ピッチ)を定着部11以外における配力筋4同士の間隔よりも小さくしてもよいし、定着部11における配力筋4の鉄筋径を定着部11以外における配力筋4の鉄筋径よりも大きくしてもよい。
【0011】
補強筋5は、図2に示すように、直線状の本体部51と、本体部51の両端に形成された係止部52,53とからなり、定着部11の上下に配設された横鉄筋41同士を連結するように縦向きに配設されている。すなわち、補強筋5は、定着部11の上下に配設された一対の横鉄筋41,41に端部(係止部52,53)が係止されていることで、横鉄筋41同士を連結している。図2は、補強筋の設置状況を示す斜視図である。
補強筋5の下側の端部に形成された係止部52は、本体部51を構成する鉄筋の端部に摩擦圧接により固定された平板(プレート)である。係止部52を構成する平板は、本体部51の断面形状よりも大きな平面形状の板材からなる。
補強筋5の上側の端部に形成された係止部53は、本体部を構成する鉄筋の端部を加工することによりJ字状に形成されたフックである。補強筋5は、下側の係止部52と本体部51との角部を横鉄筋41に係止するとともに、上側の係止部53(フック)を横鉄筋41に係止するように配筋する。
【0012】
プレストレストコンクリート構造物Cは、鉄筋(主筋3、配力筋4および補強筋5)の組み立ておよび型枠の組み立てを行った後、型枠内にコンクリートを打設し、コンクリートの養生後、緊張材1に緊張力を導入することにより形成する。
定着部11における鉄筋の組み立て作業(定着部鉄筋組立方法)は、以下の手順により行う。
まず、緊張材1の定着部11の周囲に主筋3および配力筋4を配筋する(第一配筋工程)。本実施形態では、所定本数の配力筋4に緊張材1および主筋3を挿通してなる鉄筋仮組み体を所定の位置に配設し、配力筋4同士の間隔を調整することにより配筋する。
次に、定着部11を左右から挟んで対向する位置に補強筋5を配筋する(第二配筋工程)。補強筋5は、一対の横鉄筋41,41の上方から補強筋5を挿入し、係止部52,53を横鉄筋41,41に係止することで、横鉄筋41同士を連結する。
【0013】
以上、本実施形態の定着部構造2によれば、補強筋5により定着部11の鉄筋量を増加させるため、割裂引張応力に対して必要な耐力を確保できる。補強筋5は、両端に係止部52,53が形成された直線状の部材であるため、プレストレストコンクリート構造物Cの主筋3や配力筋4(鉄筋)の隙間に挿入することができる。そのため、施工手順に制約がなく、施工時の自由度が高い。また、螺旋状のスパイラル筋を配筋する場合に比べて、簡易に配筋することができ、作業効率の向上を図ることができる。また、補強筋5は、係止部52,53を係止させることにより配筋作業が完了するため、結束線等を要することなく、簡易に配筋できる。
【0014】
以下、本実施形態の定着部構造2について、緊張材1の定着部11に作用する応力を解析した結果について説明する。図3に解析モデルの斜視図を示す。また、図4の(a)に実施例の配筋図、(b)に比較例1の配筋図、(c)に比較例2の配筋図を示す。
本解析では、図3に示すように、柱状の試験体Tについて解析を行うものとし、試験体Tのサイズを390×390×820mmの大きさとした。緊張材1の端部には285×285mmの大きさで厚さが40mmの支圧板14が設けられている。また、アンカーヘッドはφ185mmとし、載荷荷重(プレストレス力)を4020kNとした。
また、定着部11には、図4(a)に示すように、軸方向に沿って四本の主筋3を配筋するとともに、矩形状の配力筋4を所定の間隔で配筋した。主筋3および配力筋4には、D13の鉄筋を使用した。配力筋4は、定着部11における配筋ピッチをその他の区間における配筋ピッチより小さく(本実施例では1/2)して、密に配筋した。
【0015】
また、配力筋4の上下の横鉄筋41,41には、定着部11を挟んで対向する一対の補強筋5,5を係止させた。補強筋5は、D19により本体部51を構成した。
さらに、実施例では、定着部11における12本の配力筋4をD22とし、それ以外の区間はD13のままとした。
【0016】
また、実施例の解析のほか、図4(b)に示すように、比較例1として、補強筋5に代えて、定着部11にスパイラル筋6を配筋した場合についても、解析を行った。
スパイラル筋6は、D19の鉄筋をφ310mmで8巻にした螺旋状に加工したものを使用した。スパイラル筋6は、配力筋4の内側に配筋するとともに、緊張材1の端部(定着部11)を囲むように配筋した。比較例1では、鉄筋径を変化させることなく、配力筋4を配筋した。ここで、本解析では、実施例と比較例1との間で、定着部11における配力筋4の鉄筋径を変化させることで、定着部11における鉄筋量が同程度になるようにした。
さらに、比較例2として、図4(c)に示すように、補強筋5またはスパイラル筋6を使用しない場合についても解析を行った。
解析結果を図5および図6に示す。ここで、図5はコンクリートの最大主ひずみを示す図であって、(a)は実施例、(b)は比較例1、(c)は比較例2である。また、図6は鉄筋の軸ひずみを示す図であって、(a)は実施例、(b)は比較例1、(c)は比較例2である。
【0017】
図5(a)、(c)および図6(a)、(c)に示すように、実施例は、比較例2に比べて、コンクリートの最大主ひずみおよび鉄筋の軸ひずみのいずれにおいても、改善される結果となった。実施例と比較例2のコンクリートの最大主ひずみを比較すると、コンクリート部材の表面側に0.0008~0.0010のひずみが生じるのに対し、実施例では、0.0004以下であった。また、鉄筋の軸ひずみを比較しても、比較例2では、0.0004を超えるひずみが生じたが、実施例では、0.0003以下であった。
また、図5(a)、(b)および図6(a)、(b)に示すように、実施例と比較例1とを比較すると、コンクリート最大主ひずみおよび鉄筋の軸ひずみに大きな差は生じなかった。
したがって、従来のスパイラル筋6に代えて、本実施形態の補強筋を採用することで、緊張材1の定着部11に生じる割裂引張応力に対向する補強構造を形成することができることが確認できた。
【0018】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
前記実施形態では、補強筋5を上下方向に配筋する場合について説明したが、補強筋5の向きは限定されるものではなく、たとえば、補強筋5を横向きに配筋してもよい。すなわち、一対の縦鉄筋42,42を補強筋5で連結してもよい。
前記実施形態では、補強筋5の一方の係止部52をプレートにより形成し、他方の係止部53をフックとしたが、係止部52,53の構成は限定されるものではなく、例えば、両端がプレートにより形成されていてもよい。また、係止部52,53は、鉄筋(主筋3または配力筋4等)に係止可能であれば、プレートやフックに限定されるものではなく、例えば、本体部51の先端に固定されたナットや、本体部51の先端を鉤型に加工したものであってもよい。
前記実施形態では、配力筋4が矩形状の場合について説明したが、配力筋(鉄筋)4の形状は限定されるものではなく、例えば、図7(a)および(b)に示すように、プレストレストコンクリート構造物Cが版状の部材等で、複数の緊張材1が並設されるような場合には、複数の緊張材1を挟んで対向するように配筋された直線状の鉄筋であってもよい。なお、図7(a)および(b)における符号「43」は定着部11に配筋されたフープ筋である。
前記実施形態では、配力筋4が緊張材1と交差する方向に配筋されている場合ついて説明したが、主筋3が緊張材1と交差する方向に配筋されていてもよい。このとき、補強筋5は、主筋3に係止させる。
【符号の説明】
【0019】
1 緊張材
11 定着部
2 定着部構造
3 主筋
4 配力筋(鉄筋)
5 補強筋
51 本体部
52 係止部
53 係止部
C プレストレストコンクリート構造物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7