(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022077310
(43)【公開日】2022-05-23
(54)【発明の名称】マルテンサイト系ステンレス鋼
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20220516BHJP
C22C 38/52 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
C22C38/00 302E
C22C38/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020188109
(22)【出願日】2020-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】藤島 真一
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 良樹
(57)【要約】 (修正有)
【課題】耐食性能と高硬度を有しつつ、疲労強度にも優れたマルテンサイト系ステンレス鋼を提供する。
【解決手段】重量%で、C:0.65~0.74%、Si:0.30~0.40%以下、Mn:0.70~0.80%以下、P:0.030%以下、S:0.010%以下、Cr:17.00~19.00%、Ni:0.30%以下、Cu:0.25%以下、Mo:1.60~1.80%、W:0.40%以下、V:0.25~0.35%、Co:0.25%以下、Al:0.10%以下、N:0.16~0.25%であり、残余がFeおよび不可避不純物からなるマルテンサイト系ステンレス鋼とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.65~0.74%、Si:0.30~0.40%以下、Mn:0.70~0.80%以下、P:0.030%以下、S:0.010%以下、Cr:17.00~19.00%、Ni:0.30%以下、Cu:0.25%以下、Mo:1.60~1.80%、W:0.40%以下、V:0.25~0.35%、Co:0.25%以下、Al:0.10%以下、N:0.16~0.25%であり、残余がFeおよび不可避不純物からなることを特徴とするマルテンサイト系ステンレス鋼。
【請求項2】
表面硬さがロックウェルCスケールで61HRC以上であることを特徴とする請求項1に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に歯科工具や電食軸受部品等の用途に使用されるマルテンサイト系ステンレス鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
従来は、ステンレス鋼の中でもシャフトや軸受部品など耐食性能および耐摩耗性能が要求される分野では、SUS420J2やSUS440Cなどに代表されるマルテンサイト系ステンレス鋼が多用されている。例えば、特許文献1および2では耐食性能に加えて、加工性能などの諸特性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼に関する発明が開示されている。
【0003】
特許文献1にはSUS420J2と同等以上の耐食性能と加工性を有し、SUS440Cと同等以上の表面硬さを兼ね備えたマルテンサイト系ステンレス鋼に関する発明が開示されている。また、特許文献2には、SUS420J2と同等以上の耐食性能と加工性を有し、SUS420J2と同等以上の表面硬さを有する高窒素マルテンサイト系ステンレス鋼が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-138425号公報
【特許文献2】特開2010-24486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1および2に開示されたマルテンサイト系ステンレス鋼がSUS420J2と同様の物性を有する場合、その耐食性能は確保できているが、含有する炭素量が少ないために硬さはロックウェル硬さ(Cスケール)で53HRC程度となる。
【0006】
また、上述のマルテンサイト系ステンレス鋼がSUS440Cと同様の物性を有する場合、表面硬さは60HRC程度まで向上するので耐摩耗性は向上するが、同鋼に含有する炭素量が多くなるので耐食性能はSUS420J2よりも劣る。
【0007】
さらに、SUS420J2およびSUS440Cのいずれの場合であってもミクロ組織中に比較的に大きな炭化物が現れるので、金属材料としての疲労強度はSUS403やSUS431等の他のマルテンサイト系ステンレス鋼種に比べて低下するという問題があった。
【0008】
そこで、本発明においては、弁座やバルブ部品などに多用されているSUS420J2に代表される従来のマルテンサイト系ステンレス鋼と同等の耐食性能を持ちながら、60HRC以上の硬さ(表面および内部)を有しつつ、疲労強度にも優れたマルテンサイト系ステンレス鋼を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した課題を解決するために、本発明のマルテンサイト系ステンレス鋼は、重量%でC:0.65~0.74%、Si:0.30~0.40%以下、Mn:0.70~0.80%以下、P:0.030%以下、S:0.010%以下、Cr:17.00~19.00%、Ni:0.30%以下、Cu:0.25%以下、Mo:1.60~1.80%、W:0.40%以下、V:0.25~0.35%、Co:0.25%以下、Al:0.10%以下、N:0.16~0.25%であり、残余がFeおよび不可避不純物から構成される。また、表面硬さについてはロックウェルCスケールで61HRC以上とすることもできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、従来のマルテンサイト系ステンレス鋼に対して、所定量のC,N,Crをそれぞれ含有させることで、耐食性と高硬度を維持しつつ、疲労強度の向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のマルテンサイト系ステンレス鋼について実施形態の一例を説明する。本発明のマルテンサイト系ステンレス鋼の各化学成分について、所定の範囲に規定した理由を以下に説明する。まず、C(炭素)は0.65~0.74%とする。0.65%を下回ると、組織中の硬質な炭化物の形成量が少なくなり、結果として焼入焼戻し後の硬さが確保できない。また、0.74%を上回ると、組織中の炭化物の形成量が多量になり、母相中のCr、Mo等の固溶量が低下するので耐食性が低下する。また、組織中の巨大炭化物が析出して、靱性や疲労強度も低下させる。
【0012】
Si(ケイ素)は0.30~0.40%とする。0.40%を上回ると、マルテンサイト系ステンレス鋼としての熱間および冷間での加工性が低下して、靱性も低下する。また、Mn(マンガン):0.60%以下についても、0.60%を上回ると、マルテンサイト系ステンレス鋼としての熱間および冷間での加工性が低下する。
【0013】
P(リン)は0.030%以下とする。0.030%を上回ると、結晶粒界に偏析が起こり、靱性が低下する。また、S(硫黄):0.010%以下については、0.010%を上回ると、組織中に硫化物を形成して、靱性が低下する。
【0014】
Cr(クロム)は17.00~19.00%とする。17.00%を下回るとマルテンサイト系ステンレス鋼として十分な耐食性が得られない。また、19.00%を上回ると、組織中に巨大炭化物が析出して、靱性が低下する。
【0015】
Ni(ニッケル)は0.30%以下とする。0.30%を上回ると、組織中に残留オーステナイト量が増加して、寸法の経年変化を起こす。また、冷間での加工性も低下する。また、Cu(銅)は0.25%以下とする。0.25%を上回ると、組織中の残留オーステナイト量が増加して、寸法の経年変化を起こす。また、熱間での加工性も低下する。
【0016】
Mo(モリブデン)は1.60~1.80%とする。1.60%を下回ると耐食性が低下し、合わせて焼戻し2次硬化も充分に得られない。また、1.80%を上回ると、組織中に巨大炭化物が析出して、靱性が低下する。W(タングステン)は0.40%以下とする。0.40%を上回ると、組織中に巨大炭化物が析出して、靱性が低下する。
【0017】
V(バナジム)は0.25~0.35%とする。0.25%を下回ると焼戻し2次硬化が充分に得られない。また、0.35%を上回ると、組織中に巨大炭化物が析出して、靱性が低下する。
【0018】
Co(コバルト)は0.25%以下とする。0.25%を上回ると材料費用の増加を招き、製造費用が上昇する。また、Al(アルミニウム)は0.10%以下とする。0.10%を上回ると組織中のO(酸素)と結合して粗大な酸化物を形成して、靱性や疲労強度が低下する。
【0019】
N(窒素)は0.16~0.25%(重量ppmで1600~2500ppm)とする。0.16%を下回ると耐食性や焼入焼戻し硬さが充分に得られない。また、0.25%を上回ると、材料内部においてブローホール(鋳巣)が発生する。