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特開2022-77365プロトン伝導型固体電解質とその製造方法、およびプロトン伝導型燃料電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022077365
(43)【公開日】2022-05-23
(54)【発明の名称】プロトン伝導型固体電解質とその製造方法、およびプロトン伝導型燃料電池
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/45 20060101AFI20220516BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20220516BHJP
   H01M 8/1016 20160101ALI20220516BHJP
   C04B 35/447 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
C01B25/45 Z
H01B1/06 A
H01M8/1016
C04B35/447
C01B25/45 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020188188
(22)【出願日】2020-11-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 書面1:文部科学省平成29年度私立大学研究ブランディング事業 最終成果報告書のコピー 書面2:公益社団法人電気化学会 第87回大会の開催概要(大会講演プログラム)と、上記大会ホームページにおける上記開催概要(大会講演プログラム)公開日の記載画面のコピー 書面3:公益社団法人電気化学会のホームページにおける講演要旨集の公開予定日記載画面、および上記講演要旨集の「プロトン導電性トンネル型リン酸塩KNi▲1-x▼H▲2x▼(PO▲3▼)▲3▼・yH▲2▼Oの合成、熱安定性と電気化学特性」の掲載頁のコピー 書面4:イノベーションジャパン2020 大学見本市Onlineの展示の開催概要と展示概要のコピー 書面5:イノベーションジャパン2020 大学見本市Onlineの展示での配布資料のコピー 書面6:INNOVATION DAYS 2020 智と技術の見本市の展示で発表した資料のコピー 書面7:RSC Advance 2020,10,7803-7811のコピー
(71)【出願人】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100136777
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 純子
(72)【発明者】
【氏名】松田 泰明
(72)【発明者】
【氏名】東本 慎也
【テーマコード(参考)】
5G301
5H126
【Fターム(参考)】
5G301CA01
5G301CA20
5G301CA27
5G301CD01
5H126AA03
5H126GG11
(57)【要約】
【課題】室温から上限が300℃以上の高温度までの広い温度域で高プロトン導電率を発現し、高価であるか毒性の高い原料を用いずとも従来よりも低い焼成温度で製造することのできるプロトン伝導型固体電解質を提供する。
【解決手段】組成式AM1-xH2x(PO3)3・yH2Oで表され、元素AがKまたはRbであり、元素MがNi、Zn、CoおよびFeよりなる群から選択される1以上の元素、またはNi、Zn、CoおよびFeよりなる群から選択される1以上の元素およびMgである組み合わせ、または元素AがKおよびRbであり、元素MがNi、Zn、Co、FeおよびMgよりなる群から選択される1以上の元素の組み合わせであり、xは0.05以上0.30以下、yは0.3以上3.0以下の範囲内にあり、かつトンネル型構造を含む所定の構造を有しトンネル型構造内にH又はHを有するプロトン伝導型固体電解質である。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式AM1-x2x(PO・yHOで表され、
前記元素Aが、KまたはRbであり、前記元素Mが、Ni、Zn、CoおよびFeよりなる群から選択される1以上の元素、または、Ni、Zn、CoおよびFeよりなる群から選択される1以上の元素およびMgである組み合わせ、または、
前記元素Aが、KおよびRbであり、前記元素Mが、Ni、Zn、Co、FeおよびMgよりなる群から選択される1以上の元素の組み合わせであり、
前記xは、0.05以上、0.30以下の範囲内にあり、
前記yは、0.3以上、3.0以下の範囲内にあり、
前記元素Aのイオンと酸素が結合して形成される八面体と、前記元素Mのイオンと酸素が結合して形成される八面体とが、交互に、互いの八面体の酸素を共有して形成された、第1柱状体が複数平行して存在し、
複数のPOが酸素を共有して鎖状に連結したPO鎖にてなる、第1柱状体に平行な長手方向を有する、第2柱状体が複数平行して存在し、
3つの第2柱状体に囲まれたトンネル状空間が存在するトンネル型構造を有し、
前記トンネル状空間内にH又はHを有する、プロトン伝導型固体電解質。
【請求項2】
前記元素Aが、KまたはRbであり、前記元素Mが、Ni、ZnおよびCoよりなる群から選択される1以上の元素の組み合わせであるか、
前記元素Aが、KおよびRbであり、前記元素MがMgである、請求項1に記載のプロトン伝導型固体電解質。
【請求項3】
前記元素AがKであり、前記元素MがNiである、請求項1に記載のプロトン伝導型固体電解質。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のプロトン伝導型固体電解質を製造する方法であって、
前記元素Aを含む化合物と、前記元素Mを含む化合物と、リン酸を含む化合物とを、混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合物を、250℃以上、800℃以下の温度で焼成する焼成工程とを含む、プロトン伝導型固体電解質の製造方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれかに記載のプロトン伝導型固体電解質を電解質に用いたプロトン伝導型燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン伝導型固体電解質とその製造方法、およびプロトン伝導型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の普及のためには、燃料電池の更なる高性能化、長期耐久性の向上、低コスト化が求められている。上記燃料電池として、プロトン伝導型燃料電池(PCFC)の開発が進められており、その一環として、該プロトン伝導型燃料電池(PCFC)に用いられる、プロトン伝導型固体電解質に適した材料が幾つか提案されている。既に実用化されているプロトン伝導型固体電解質として、パーフルオロカーボン材料で形成されたNafion(登録商標)膜が挙げられる。この膜は、高いプロトン電気伝導性を示すが、作動に多量の水を要することに加え、その作動温度の上限が90℃程度であり、より高温度域で使用できないといった問題があった。
【0003】
作動温度がより高温度域にあるプロトン伝導型固体電解質として、固体酸化物を含むものが幾つか提案されている。例えば特許文献1には、BaZrO系、SrZrO系、CaZrO系、LaScO系、LaYbO系より選択されるプロトン伝導性固体電解質材料よりなる第一層と、BaCeO系またはBaCeZrO系のプロトン伝導性固体電解質材料よりなる第二層と、が接合されていることを特徴とするプロトン伝導性固体電解質が示されている。
【0004】
特許文献2には、プロトン伝導型の固体酸化物を用いた燃料電池システムとして、BaZrCeYXO3-δ(ただし、X=Sc、Ga、In、Gd、および、Ybのうちいずれか1または複数)で示される固体酸化物を含む固体電解質を有する燃料電池本体と、前記燃料電池本体を400℃以上700℃未満とする温度調整部と、前記固体電解質の厚みと、前記燃料電池本体の電流密度との乗算値を12.5μm・A/cm以上に維持する制御部と、を備える燃料電池システムが提案されている。
【0005】
特許文献3には、La1-yYb1-xIn3-δ(M=Ba,Sr,Ca,Mg;δは酸素空孔量;0<x<1;0<y≦0.2)の組成を有することを特徴とするプロトン伝導性固体電解質材料が示されている。
【0006】
特許文献4には、中温域温度範囲で伝導度が改善された無機イオン伝導体として、酸化数三価の金属元素、酸化数五価の金属元素、リン(P)及び酸素(O)を含む無機イオン伝導体が提案されている。
【0007】
更に本発明者らは、非特許文献1で、トンネル型構造をもつ既知のプロトン固体電解質であるKMg1-x2x(PO・yHOと、RbMg1-x2x(PO・yHOを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-175733号公報
【特許文献2】特開2019-21578号公報
【特許文献3】特開2016-131075号公報
【特許文献4】特開2013-191558号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Matsuda et al., Arrangement of water molecules and high proton conductivity of tunnel structure phosphates,KMg1-xH2x(PO3)3・yH2O, RSC Adv., 2020, 10, 7803-7811
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1~3に示された様な、例えばBaZrO等の様なペロブスカイト型プロトン固体電解質は、400℃において10-2Scm-1の高プロトン導電率を達成するが、原料が高価で、千数百℃での高温焼成が必要である。また、この材料を用いて電池を作製すると、アノードの過電圧が大きく、600℃以下での燃料電池の実用化が難しい、といった問題がある。上記特許文献4には、100℃以上の温度域で作動させる燃料電池に使用の無機イオン伝導体が示されているが、300℃以上の高温域まで高いプロトン導電率を発現させるには、更なる改善が必要であると思われる。また、上記非特許文献1のトンネル型構造をもつ既知のプロトン固体電解質は、作動温度が室温から250℃の温度域に限られる。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、室温から、上限が300℃以上の高温度までの広い温度域で高プロトン導電率を発現し、高価であるか毒性の高い原料を用いずとも、従来よりも低い焼成温度で製造することのできる、新規なプロトン伝導型固体電解質、該プロトン伝導型固体電解質の製造方法、および該プロトン伝導型固体電解質を用いたプロトン伝導型燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の態様1は、組成式AM1-x2x(PO・yHOで表され、
前記元素Aが、KまたはRbであり、前記元素Mが、Ni、Zn、CoおよびFeよりなる群から選択される1以上の元素、または、Ni、Zn、CoおよびFeよりなる群から選択される1以上の元素およびMgである組み合わせ、または、
前記元素Aが、KおよびRbであり、前記元素Mが、Ni、Zn、Co、FeおよびMgよりなる群から選択される1以上の元素の組み合わせであり、
前記xは、0.05以上、0.30以下の範囲内にあり、
前記yは、0.3以上、3.0以下の範囲内にあり、
前記元素Aのイオンと酸素が結合して形成される八面体と、前記元素Mのイオンと酸素が結合して形成される八面体とが、交互に、互いの八面体の酸素を共有して形成された、第1柱状体が複数平行して存在し、
複数のPOが酸素を共有して鎖状に連結したPO鎖にてなる、第1柱状体に平行な長手方向を有する、第2柱状体が複数平行して存在し、
3つの第2柱状体に囲まれたトンネル状空間が存在するトンネル型構造を有し、
前記トンネル状空間内にH又はHを有する、プロトン伝導型固体電解質である。
【0013】
本発明の態様2は、前記元素Aが、KまたはRbであり、前記元素Mが、Ni、ZnおよびCoよりなる群から選択される1以上の元素の組み合わせであるか、
前記元素Aが、KおよびRbであり、前記元素MがMgである、態様1に記載のプロトン伝導型固体電解質である。
【0014】
本発明の態様3は、前記元素AがKであり、前記元素MがNiである、態様1に記載のプロトン伝導型固体電解質である。
【0015】
本発明の態様4は、態様1~3のいずれかに記載のプロトン伝導型固体電解質を製造する方法であって、
前記元素Aを含む化合物と、前記元素Mを含む化合物と、リン酸を含む化合物とを、混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合物を、250℃以上、800℃以下の温度で焼成する焼成工程とを含む、プロトン伝導型固体電解質の製造方法である。
【0016】
本発明の態様5は、態様1~3のいずれかに記載のプロトン伝導型固体電解質を電解質に用いたプロトン伝導型燃料電池である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、室温から、上限が300℃以上の高温度までの広い温度域で、高プロトン導電率を発現する新規なプロトン伝導型固体電解質を、高価であるか毒性の高い原料を用いずとも、従来よりも低い焼成温度で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】従来のプロトン伝導型固体電解質の粉末X線回折測定結果を示す図である。
図2】従来のプロトン伝導型固体電解質のx値とプロトン導電率との関係を示すグラフである。
図3】本実施形態のプロトン伝導型固体電解質の長手方向の断面における一部を例示する模式図である。
図4】本実施形態のプロトン伝導型固体電解質の長手方向に垂直な断面における一部を例示する模式図である。
図5】実施例におけるTG/DTA測定結果を示す図である。
図6】実施例における粉末X線回折分析結果を示す図である。
図7】実施例における別の粉末X線回折分析結果を示す図である。
図8】実施例における別の粉末X線回折分析結果を示す図である。
図9】実施例における組成式のxとプロトン導電率との関係を求めた結果を示す図である。
図10】実施例における別の粉末X線回折分析結果を示す図である。
図11】実施例における温度とプロトン導電率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、まず従来のプロトン伝導型固体電解質であるKMg1-x2x(PO・yHOについて、250℃で約12時間焼成して得られた試料aと、300℃で約12時間焼成して得られた試料bと、800℃で約1時間焼成して得られた試料cとの合計3試料について構造を確認した。
【0020】
構造の確認のために、後記の実施例に示す条件で粉末X線回折分析を行った。その結果を図1に示す。この図1において「(a)トンネル型 KMg1-x2x(PO・yHO」と示された試料aは2θ=16.18°,17.46°,23.88°,29.72°,30.44°,32.66°,35°,28°,37.24°,38.52°,39.02°,42.62°,45.24°に空間群R3で帰属される。
【0021】
これに対し、300℃で焼成して得られた試料b(図1における「(b)300℃焼成 Benitoite型構造」)と800℃で焼成して得られた試料c(図1における「(c)800℃焼成 Benitoite型構造」)は、2θ=15.48,18.18,23.94,28.52,31.26,32.72,36.36,36.76,38.80,40.08,41.74,42.80に空間群P-6c2で帰属される、ピークを有するBenitoite型の構造に変化した。すなわち、上記KMg1-x2x(PO・yHOは、300℃以上ではBenitoite型構造が安定であることがわかった。
【0022】
また、試料aの組成式におけるx値を変化させた試料と、試料cの組成式におけるx値を変化させた試料とのそれぞれについて、150℃でのプロトン導電率を後述の実施例と同様にして測定した。その結果を図2に示す。図2において縦軸のlogσは、導電率を対数で示したものであり、この値が高いほどプロトン導電率が高いことを示す。この図2から、KMg1-x2x(PO・yHOは、トンネル型構造からBenitoite型構造に変化すると、組成式におけるx値が同じであっても、プロトン導電率が低下することがわかる。Benitoite型構造は構造中へのプロトン導入許容量がトンネル型構造よりも小さいこと等が、Benitoite型構造の試料の導電率低下の原因であると考えられる。
【0023】
上記図1および図2の結果から、300℃以上でのBenitoite型構造への相転移を抑止し、300℃以上においてもトンネル型構造を維持できれば、高いプロトン導電率を発現でき、より広い温度で作動するプロトン伝導型燃料電池の開発が可能となると考えた。
【0024】
そして本発明者らは、従来の物質では、高いプロトン導電性の発揮に寄与するトンネル型構造を高温で維持できず、250℃程度までの温度域での作動が限界であることに鑑みて、室温から、上限が300℃以上の高温度までの広い温度域で、トンネル型構造を維持できる、新規なプロトン伝導型固体電解質を、高価であるか毒性の高い原料を用いずに、かつ低い焼成温度で製造するために鋭意研究を行った。
【0025】
その結果、プロトン伝導型固体電解質として、
組成式AM1-x2x(PO・yHOで表され、
前記元素Aが、KまたはRbであり、前記元素Mが、Ni、Zn、CoおよびFeよりなる群から選択される1以上の元素、または、Ni、Zn、CoおよびFeよりなる群から選択される1以上の元素およびMgである組み合わせ、または、
前記元素Aが、KおよびRbであり、前記元素Mが、Ni、Zn、Co、FeおよびMgよりなる群から選択される1以上の元素の組み合わせであり、
前記xは、0.05以上、0.30以下、
前記yは、0.3以上、3.0以下の範囲内にあり、かつトンネル型構造を含む所定の構造を有して、前記トンネル型構造内に、H又はHを有するようにすればよいことを見出した。
【0026】
以下、本実施形態に係るプロトン伝導型固体電解質とその製造方法、およびプロトン伝導型燃料電池について詳述する。
【0027】
(プロトン伝導型固体電解質)
本実施形態におけるプロトン伝導型固体電解質は、
組成式AM1-x2x(PO・yHOで表され、
前記元素Aと前記元素Mの組み合わせが、
前記元素Aが、KまたはRbであって、前記元素Mが、Ni、Zn、CoおよびFeよりなる群から選択される1以上の元素の組み合わせ、
前記元素Aが、KまたはRbであって、前記元素Mが、Ni、Zn、CoおよびFeよりなる群から選択される1以上の元素およびMgである組み合わせ、
前記元素Aが、KおよびRbであって、前記元素Mが、Ni、Zn、Co、FeおよびMgよりなる群から選択される1以上の元素の組み合わせ
のいずれかである。
【0028】
元素A、元素Mはそれぞれ、本実施形態のプロトン伝導型固体電解質において、該固体電解質の骨格を形成するイオン(カチオン)として存在する。元素Mは、2価のイオンのイオン半径が0.61~0.74Åの元素である。
【0029】
従来のプロトン伝導型固体電解質は、元素AとしてKまたはRbと、元素MとしてMgとの組み合わせ、すなわちKMg1-x2x(PO・yHOと、RbMg1-x2x(PO・yHOであるが、該固体電解質は、300℃付近でトンネル型の結晶構造からBenitoite型(Benito石型)の結晶構造に変化した。これに対して、本実施形態に係るプロトン伝導型固体電解質は、元素AがKまたはRbである場合は、元素Mとして、Ni、Zn、CoおよびFeよりなる群から選択される1以上の元素を必須とし、元素AがKおよびRbである場合は、元素Mを、Ni、Zn、Co、FeおよびMgよりなる群から選択される1以上の元素とし、固体電解質の骨格を構成する元素を、従来のプロトン伝導型固体電解質と異なる元素とすることによって、Benitoite型(Benito石型)の構造への転移を抑止でき、その結果、室温から、上限が300℃以上の高温度までの広い温度域で高いプロトン導電率を発現できることを見出した。
【0030】
前記元素Aと元素Mの組み合わせは、好ましくは、
前記元素Aが、KまたはRbであり、前記元素Mが、Ni、ZnおよびCoよりなる群から選択される1以上の元素の組み合わせであるか、
前記元素Aが、KおよびRbであり、前記元素MがMgである。
【0031】
前記元素Aと元素Mの組み合わせは、より好ましくは、前記元素AがKであり、前記元素MがNiである。
【0032】
従来のプロトン伝導型固体電解質は、作動温度が250℃までであったのに対し、本実施形態のプロトン伝導型固体電解質によれば、前記組成式で元素Aと元素Mを組み合わせることによって、室温から上限が300℃以上の高温度までの広い作動温度域を達成できる。前記元素Aと元素Mの好ましい組み合わせとして、Kと、NiとZnのうちの1以上との組み合わせとすれば、作動温度の上限として300℃を超え、500℃以上を達成できる。
【0033】
(x値について)
前記xは、0.05以上、0.30以下の範囲内にある。xを0.05以上とし、元素Mの一部を欠損させることによって、プロトン伝導型固体電解質内にプロトンを容易に導入させることができる。前記xは、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.15以上である。また、過剰な水分吸収を抑制する観点から、xは好ましくは0.25以下であり、より好ましくは0.20以下である。
【0034】
(y値について)
yは、0.3以上、3.0以下の範囲内とすることができる。本実施形態のプロトン伝導型固体電解質は、製造時の焼成後においても構造内に水分子(結晶水)が確保され、水分子鎖が形成されていると考えられる。プロトン伝導型燃料電池の作動時に、この固体電解質内に形成された水分子鎖を介して、プロトンが高速拡散すると考えられる。よって、本実施形態のプロトン伝導型固体電解質であれば、燃料電池の作動時に大規模な加湿装置を設置しなくとも高いプロトン導電率を発現させることができる。この観点から、本実施形態のプロトン伝導型固体電解質に含まれる水分子は多いほど好ましく、yは、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上である。一方、本実施形態のプロトン伝導型固体電解質が構造上保持できる水分子(結晶水)量として、yの値は3.0以下とする。yは、好ましくは2.5以下、より好ましくは2.0以下である。
【0035】
次に本実施形態のプロトン伝導型固体電解質の構造について説明する。
本実施形態のプロトン伝導型固体電解質は、
前記元素Aのイオンと酸素が結合して形成される八面体と、前記元素Mのイオンと酸素が結合して形成される八面体とが、交互に、互いの八面体の酸素を共有して形成された、第1柱状体が複数平行して存在し、
複数のPOが酸素を共有して鎖状に連結したPO鎖にてなる、第1柱状体に平行な長手方向を有する、第2柱状体が複数平行して存在し、
3つの第2柱状体に囲まれたトンネル状空間が存在するトンネル型構造を有し、
前記トンネル状空間内にH又はHを有する。
【0036】
本実施形態のプロトン伝導型固体電解質の構造を、模式図を用いて詳述するが、本実施形態のプロトン伝導型固体電解質はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0037】
図3は、本実施形態のプロトン伝導型固体電解質の長手方向の断面における一部を例示する模式図を示し、図4は、本実施形態のプロトン伝導型固体電解質の長手方向に垂直な断面における一部を例示する模式図である。
【0038】
本実施形態のプロトン伝導型固体電解質1は、元素A(符号2、例えばK)のイオンと酸素3Aが結合して形成される八面体4と、元素M(符号5、例えばNi)のイオンと酸素3Bが結合して形成される八面体6とが、交互に、互いの八面体の酸素を共有して形成、すなわち、交互に、互いの八面体の一辺7が重複するように形成された、第1柱状体8を複数有する。更に、PO(符号9)が酸素原子3Cを共有して鎖状に連結して形成された、第1柱状体8と平行な長手方向を有する、第2柱状体10を複数有する。
【0039】
そしてPO鎖を構成する、連続または一つおきのPOの一の酸素が一の第1柱状体と酸素を共有し、一の第1柱状体と酸素を共有していないPOは隣接する他の第1柱状体と酸素を共有する。詳細には、図3に示される通り、前記元素Mのイオンと酸素が結合して形成される八面体6Aは、PO鎖を構成する2つの連続するPO9A、9Bと、酸素31D、32Dを共有している。また、前記元素Aのイオンと酸素が結合して形成される八面体4Aは、PO鎖を構成する3つの連続するPO9B、9C、9Dのうち、一つおきのPO、すなわち第1番目のPO9Bと第3番目のPO9Dと、酸素32D、33Dを共有している。そして第2番目のPO9Cは図3には示されていない他の第1柱状体と酸素を共有している。
【0040】
そして更に、図3に例示する通り、第1柱状体8と第2柱状体10とが酸素3Dを共有することで、第1柱状体8と第2柱状体10に平行してトンネル状空間11の形成されたトンネル型構造を有し、前記トンネル状空間11内に水分子12が鎖状に存在する。
【0041】
前記図4は、前記図3の第1柱状体と第2柱状体の長手方向に垂直な断面における一部の構造を示している。図4において、第2柱状体は、一つの第1柱状体を中心軸として約120度間隔に3方向、つまり、三角形の各頂点に位置している。また、第1柱状体は、一つの第2柱状体を中心軸として約120度間隔に3方向、つまり、三角形の各頂点に位置している。そして、図4に例示する通り、第2柱状体8A、第2柱状体8B、第2柱状体8Cの、3つの第2柱状体に囲まれたトンネル状空間11が存在するトンネル型構造を有している。より詳細には、前記トンネル型構造は、3つの前記第1柱状体10A、10Bおよび10Cと、3つの前記第2柱状体8A、8Bおよび8Cが、隣り合う柱状体を構成する酸素を共有することによって形成される。さらに詳細には、図4において、3つの前記第1柱状体で形成される三角形の空間内に、3つの前記第2柱状体、すなわち、3つの前記PO鎖がさらに配列することにより、3つの前記PO鎖によって囲まれたトンネル状空間が形成される。図4は、前記垂直な断面における一部の構造を示したものであって、本実施形態のプロトン伝導型固体電解質は、上記図4で示された構造が紙面上において連続した構造を有している。
【0042】
上記構造は、後記する実施例に示す通り、X線回折分析によって同定することができる。本実施形態のプロトン伝導型固体電解質の構造において「トンネル型構造」とは、X線回折分析において得られたX線回折図形をもとに決定される、空間群R3で帰属される結晶構造をいう。なお、組成や構成元素の違いにより、単位格子のサイズが若干変化するため、ピーク位置に若干のズレが観測されうるが、同じ結晶構造、すなわち空間群R3で帰属される結晶構造であれば、類似した回折パターンが観測される。そして、回折パターンのピークが空間群R3で帰属されていれば、本実施形態に係るトンネル型構造といえる。
【0043】
本実施形態のプロトン伝導型固体電解質が結晶水を含むことは、後記の図5に示すように熱測定であるTG/DTA測定から確認できる。また、元素Mを欠損させることによるプロトンの導入は、FTIR測定から確認できる。
【0044】
(プロトン伝導型固体電解質の製造方法)
本実施形態のプロトン伝導型固体電解質の製造方法について説明する。本実施形態のプロトン伝導型固体電解質の製造方法は、前記元素Aを含む化合物と、前記元素Mを含む化合物と、リン酸を含む化合物とを、混合して混合物を得る混合工程と、前記混合物を、250℃以上、800℃以下の温度で焼成する焼成工程とを含む。本実施形態のプロトン伝導型固体電解質は、共沈法、固相法により製造することができる。
【0045】
以下、各工程について説明する。
【0046】
〔前記元素Aを含む化合物と、前記元素Mを含む化合物と、リン酸を含む化合物とを混合して混合物を得る工程〕
本実施形態のプロトン伝導型固体電解質を構成する、前記元素Aを含む化合物と、前記元素Mを含む化合物と、リン酸を含む化合物を、原料として用意する。これらの化合物の種類は、焼成後に所定の組成が得られる原料であれば問わず、固体であっても液体であってもよい。これらの化合物の固体原料として、例えば、元素A、元素Mそれぞれの、炭酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩、リン酸塩等の塩、水酸化物を用いることが好ましい。硫酸塩、ハロゲン化物、炭化物、硫化物は、合成後にSO、ハロゲン元素、C、Sが残存しやすいため好ましくない。固体原料はあらかじめ粉砕されたものであってもよい。これらは水等の溶媒に溶解されていてもよい。リン酸を含む化合物として、リン酸アンモニウムのような固体粉末であってもリン酸水溶液であってもよい。上記原料は、組成式における元素A、元素M、リン酸の各モル比となるよう秤量する。本実施形態によれば、従来技術のような希土類元素等の高価な原料、毒性の強い原料を用いなくとも製造することができる。
【0047】
上記原料を混合して混合物を得る。混合するにあたり、溶媒の有無は問わない。容易に混合できる場合には、溶媒なしで混合してもよい。溶媒を用いる場合、該溶媒として、水系またはヘキサン、アセトン等の有機溶媒を用いることができる。有機溶媒を用いた場合、例えば湿式ボールミルで粉砕、混合して焼成することが挙げられる。好ましくは水溶液に上記原料を混合させることによって、上記原料を構成する塩が溶解し、十分に混合させることができる。上記混合では、原料が完全に溶解していてもよいし、一部のみが溶解していてもよい。例えば、水酸化ニッケルを用いた場合には一部のみが溶解する。
【0048】
本実施形態において、上記得られた混合物を焼成してもよいが、例えば前記混合物が溶媒を含む場合、混合工程と焼成工程の間に、加熱撹拌工程と乾燥工程を設けてもよい。
【0049】
加熱撹拌工程および乾燥工程を行う場合、例えば次の通り実施することができる。加熱撹拌工程では、例えば上記混合物を、好ましくは80℃以上、200℃以下で加熱撹拌して、濃縮された混合物を得ることができる。上記撹拌の方法は特に限定されず、例えば、マグネチックスターラー、メカニカルスターラー、ホモミキサー、ホモジナイザー等を用いた撹拌が挙げられる。撹拌の速度と時間は、製造量等に応じて適宜決定すればよい。上記加熱は、例えばホットスターラー等を用いて行うことができる。
【0050】
前記乾燥工程では、通常の操作で行うことができ、例えば100℃以上で加熱乾燥することができ、大気中100~200℃で行うことができる。乾燥時間は、必要に応じて決定すればよい。前記乾燥工程により、固体ではあるが、非晶質であってトンネル型構造を有しない前駆体を得ることができる。乾燥して得られた前駆体を、必要に応じて粉砕してから成型してもよい。成型方法として、例えば加圧成型が挙げられ、例えば一軸加圧成型、CIP(Cold Isostatic Pressing:冷間等方圧加圧)による成型を行うことができる。
【0051】
前記前駆体は、前記乾燥工程の代わりに、前記混合物を、例えば100~230℃で仮焼成を行っても得ることができる。仮焼成を行う場合、混合物を仮焼成して粉末を得た後、成型し、本焼成として下記の焼成を行えばよい。
【0052】
〔前駆体を250℃以上、800℃以下の温度で焼成する焼成工程〕
前記前駆体を250℃以上、800℃以下の温度で焼成する。250℃以上の結晶化温度で焼成することによって、トンネル型構造を有する本実施形態のプロトン伝導型固体電解質が得られる。前記焼成温度を高めとすることによって、固体電解質の緻密化を十分図ることができる。その観点から、焼成温度は、より好ましくは280℃以上、更に好ましくは300℃以上とする。一方、例えば固体電解質内の結晶水を十分確保する観点からは、焼成温度は、好ましくは600℃以下、より好ましくは400℃以下である。
【0053】
(プロトン伝導型燃料電池)
本実施形態のプロトン伝導型燃料電池は、固体電解質として、本実施形態のプロトン伝導型固体電解質を用いる以外は、従来の構成を採用することができる。例えば、上記固体電解質の形状として、例えば層としたときの厚さ、電気化学セルを構成する酸素極、水素極の材質、厚さ、これら酸素極と水素極の製造方法は、公知の方法を採用することができる。
【0054】
本実施形態のプロトン伝導型固体電解質によれば、約300℃付近での構造の変化が抑止され、室温から約300℃以上の高温度までの広い温度域で、高プロトン導電率を発現できる。プロトン伝導型固体電解質を構成する元素によっては、室温から約520℃の温度域まで作動させることができる。すなわち、本実施形態のプロトン伝導型固体電解質を備えたプロトン伝導型燃料電池は、従来のプロトン伝導型燃料電池と比較して、高プロトン導電率を発現する温度域が広い。燃料電池の発電温度として切望されていた100~500℃の温度域での作動を実現できる。更に、加湿をせずに高プロトン導電性を発現するので、燃料電池システムの開発の際に、大規模な加湿装置を必須としない。更に、貴金属や希土類のような高価な元素を含まず、また毒性の高い原料を用いずに、安価な原料で製造することができる。更には1000℃未満の低温で製造可能であるため、製造コストを抑えることもできる。
【実施例0055】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前述および後述する趣旨に合致し得る範囲で、適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0056】
〔試料の製造〕
まず、下記製造例1~6に示す通り、種々の試料を製造した。
(製造例1)
試料1:KNi1-x2x(PO・yHO(x=0~0.18)の製造
炭酸カリウムと水酸化ニッケルを所定のモル比になるように秤量し、0.5molL-1リン酸水溶液30mLに溶解し、120℃で加熱撹拌した。次いで、前記加熱撹拌により得られた濃縮溶液(約5mL)を、テフロン(登録商標)シートを置いた時計皿に移し、乾燥機にて120℃で24時間乾燥した。得られた前駆体を粉砕混合し、その粉末を直径1cmで厚み1mm程度の円柱型に成型し、400℃で6~12時間焼成して、試料1を得た。
【0057】
(製造例2)
試料2:KZn1-x2x(PO・yHO(x=0~0.20)の製造
炭酸カリウムと硝酸亜鉛六水和物を所定のモル比になるように秤量し、0.5molL-1リン酸水溶液30mLに溶解し、200℃で加熱撹拌した。次いで、前記加熱撹拌により得られた濃縮溶液(約5mL)を、テフロン(登録商標)シートを置いた時計皿に移し、乾燥機にて200℃で24時間乾燥した。得られた前駆体を粉砕混合し、その粉末を直径1cmで厚み1mm程度の円柱型に成型し、330℃で12時間焼成し、試料2を得た。
【0058】
(製造例3)
試料3:KCo1-x2x(PO・yHO(x=0~0.20)の製造
炭酸カリウムと硝酸コバルト六水和物を所定のモル比になるように秤量し、0.5molL-1リン酸水溶液30mLに溶解し、120℃で加熱撹拌した。次いで、前記加熱撹拌により得られた濃縮溶液(約5mL)を、テフロン(登録商標)シートを置いた時計皿に移し、乾燥機にて200℃で24時間乾燥した。得られた前駆体を粉砕混合し、その粉末を直径1cmで厚み1mm程度の円柱型に成型し、250~270℃で12時間焼成し、試料3を得た。
【0059】
(製造例4)
試料4:K(Ni0.82-zZn)H2x(PO・yHO(z=0.01,0.42)の製造
炭酸カリウム、水酸化ニッケル、および硝酸亜鉛六水和物を所定のモル比になるように秤量し、0.5molL-1リン酸水溶液30mLに溶解し、120℃で加熱撹拌した。次いで、前記加熱撹拌により得られた濃縮溶液(約5mL)を、テフロン(登録商標)シートを置いた時計皿に移し、乾燥機にて120℃で24時間乾燥した。得られた前駆体を粉砕混合し、その粉末を直径1cmで厚み1mm程度の円柱型に成型し、370~400℃で6-12時間焼成し、試料4を得た。
【0060】
(製造例5)
試料5:(Rb0.50.5)Mg0.90.2(PO・yHOの製造
炭酸カリウム、炭酸ルビジウムおよび水酸化ニッケルを所定のモル比になるように秤量し、0.5molL-1リン酸水溶液30mLに溶解し、120℃で加熱撹拌した。次いで、前記加熱撹拌により得られた濃縮溶液(約5mL)を、テフロン(登録商標)シートを置いた時計皿に移し、乾燥機にて120℃で24時間乾燥した。得られた前駆体を粉砕混合し、その粉末を直径1cmで厚み1mm程度の円柱型に成型し、270℃で15時間焼成し、試料5を得た。
【0061】
(製造例6)
試料6:RbNi0.950.10(PO・yHOの製造
炭酸ルビジウムと水酸化ニッケルを所定のモル比になるように秤量し、0.5molL-1リン酸水溶液30mLに溶解し、120℃で加熱撹拌した。次いで、前記加熱撹拌により得られた濃縮溶液(約5mL)を、テフロン(登録商標)シートを置いた時計皿に移し、乾燥機にて120℃で24時間乾燥した。得られた前駆体を粉砕混合し、その粉末を直径1cmで厚み1mm程度の円柱型に成型し、270℃で12時間焼成し、試料6を得た。
【0062】
〔試料の測定手段〕
得られた上記試料を用いて、X線回折分析、プロトン導電率等の測定を行った。前記プロトン導電率の測定では、上記試料をそのまま用いた。前記X線回折分析では、上記試料を粉砕して得られた、粒径がおおよそ0.5~20μmの範囲の粉末を用いた。
(粉末X線回折)
上記試料の構造は、下記の条件で粉末X線回折を行って確認した。
・使用装置:株式会社リガク製 Rint2000
・測定条件
光源:Cu管球
特性X線:CuKα=1.54Å
測定範囲:15度-60度
ステップ幅:0.02/度
【0063】
(プロトン導電率の測定)
上記試料のプロトン導電率は、日置電機株式会社のLCR meter(品番IM3536)を用いて、Nガス気流中で、交流インピーダンス法により測定した。なお、上記プロトン導電率測定時の雰囲気は、不活性雰囲気であればよく、上記Nガス気流中である他、Arガス気流中であってもよい。
【0064】
(その他の測定)
本実施形態のプロトン伝導型固体電解質が、元素Mの欠損によりプロトンの導入されたものであることは、製造例1(KNi1-x2x(PO・yHO、x=0.18)の試料を用い、株式会社島津製作所製 フーリエ変換赤外分光光度計(IRAffinity-1S)を用いてFTIR測定を行って確認した。
【0065】
また、本実施形態のプロトン伝導型固体電解質が結晶水を含み、y値が1.0であったことは、製造例1(KNi1-x2x(PO・yHO、x=0.10)の試料を用いて、熱測定であるTG/DTA測定を、エスアイアイナノテクノロジー株式会社製 示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA)6300を用いて確認した。その結果を図5に示す。図5は、Nガス気流中で10℃/minの昇温速度で測定したTG/DTA曲線である。
【0066】
〔試料の評価〕
(評価1:種々の試料の構造)
組成式AM1-x2x(PO・yHOの元素Aと元素Mが種々の試料について、粉末X線回折を行った結果を図6に示す。図6から、本実施形態に係る試料は、いずれも、空間群R3で帰属される反射(ピーク)が観測され、トンネル型構造が形成されていることを確認した。
【0067】
(評価2:x値の変更)
組成式KNi1-x2x(PO・yHO、KZn1-x2x(PO・yHOのそれぞれについて、xの値が種々の試料について、粉末X線回折を行った結果を図7図8に示す。図7のx=0~0.18の全ての試料、図8のx=0~0.20の全ての試料において、いずれも、空間群R3で帰属される反射(ピーク)のみが観測され、トンネル型構造の単一相(不純物の無い試料)が得られた。但し、x=0の物質は、前述のとおりプロトン導電性に劣るため好ましくない。
【0068】
更に、組成式KNi1-x2x(PO・yHOについて、x=0.10、0.15および0.18の場合の導電率を測定した結果を図9に示す。上記図9から、xの値が増加するほどプロトン導電率が高まることがわかる。このことについて次のように考えられる。すなわち、Ni2+の一部を欠損させた際に、試料中に2つのHが導入されることで、試料の電気的な中性(プラスマイナスのバランス)が保たれる。上記欠損の量を増やすことによって、試料中のプロトン量が多くなり、プロトン導電率の向上が見込まれると考えられる。
【0069】
(評価3:高温での構造)
製造時の焼成温度を変化させて、高温時の構造を確認した。詳細には、製造例1において焼成温度400℃で焼成して得られた試料であるKNi1-x2x(PO・yHO(x=0.18)と、焼成温度を500℃とした以外は、製造例1と同様にして得られたKNi1-x2x(PO・yHO(x=0.18)の、粉末X線回折分析を行った。その結果を図10に示す。
【0070】
図10から、500℃で焼成して得られた試料においても、空間群R3で帰属される反射(ピーク)が観測され、トンネル型構造であることが確認され、Benitoite型構造の回折図形は確認されなかった。上記焼成温度は、トンネル型構造を維持することの可能な温度とみなすことができる。このことから、従来のKMg1-x2x(PO・yHOでは高温で観測された相転移が、本実施形態に係るプロトン伝導型固体電解質では抑止されていると考えられる。
【0071】
(評価4:プロトン導電率の温度依存性について)
種々の試料を用い、室温から500℃を超える温度域でのプロトン導電率を上記の通り測定した結果を図11に示す。図11の横軸は導電率測定時の温度を示す。図11から、本実施形態に係る試料として、元素AがKで元素MがNiの組み合わせ、元素AがKで元素MがNiとZnの組み合わせは、室温から上限が300℃以上の高温度までの広い温度域で、高プロトン導電率を発現した。特に元素AがKで元素MがNiの組み合わせは、室温から上限が520℃を超えるより広い温度域で、高プロトン導電率を発現した。また、前記図11から、元素MとしてNiの一部をZnで置換した試料よりも、元素MがNi単独である試料の方がプロトン導電率は高くなった。これは、Niの一部をZnで置換することにより、粒界抵抗が増大したことが導電率低下の原因として考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本実施形態に係るプロトン伝導型固体電解質は、例えばプロトン伝導型燃料電池として好ましく使用され得る。本実施形態に係るプロトン伝導型固体電解質は、作動温度域が従来のプロトン伝導型固体電解質よりも広いため、該プロトン伝導型燃料電池に適用されたときに、発電温度域の選択性の拡大と材料および製造コストの低減を実現できる。
【符号の説明】
【0073】
1 プロトン伝導型固体電解質
2 元素A
3A、3B、3C、3D、31D、32D、33D 酸素(原子)
4、4A 元素Aのイオンと酸素が結合して形成される八面体
5 元素M
6、6A 元素Mのイオンと酸素が結合して形成される八面体
7 元素Aのイオンと酸素が結合して形成される八面体と元素Mのイオンと酸素が結合して形成される八面体の重複する一辺
8、8A、8B、8C 第1柱状体
9、9A、9B、9C、9D PO
10、10A、10B、10C 第2柱状体
11 トンネル状空間
12 水分子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11