(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022077378
(43)【公開日】2022-05-23
(54)【発明の名称】焼成炉用の乾式吹付材
(51)【国際特許分類】
C04B 35/66 20060101AFI20220516BHJP
F27D 1/00 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
C04B35/66
F27D1/00 N
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020188211
(22)【出願日】2020-11-11
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】特許業務法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徳富 篤史
(72)【発明者】
【氏名】古賀 正徳
【テーマコード(参考)】
4K051
【Fターム(参考)】
4K051AA09
4K051BB03
4K051BB07
(57)【要約】
【課題】焼成炉用の乾式吹付材において、炉内物からの物理的な衝撃や侵食反応を抑制し、耐用を向上させる。
【解決手段】炉壁温度が1400℃以下の焼成炉用の乾式吹付材であって、粉末状の珪酸アルカリ及びリン酸アルカリのうちの1種又は2種以上を合計で0.2質量%以上10質量%以下、炭化硼素を0.3質量%以上5質量%以下、残部に主として、アルミナ原料、シリカ原料、アルミナ-シリカ質原料、炭化珪素原料、マグネシア原料、マグネシア-カルシア質原料、及びこれらの原料の少なくとも1種を含む使用後耐火物原料から選択される1種又は2種以上を含有し、当該乾式吹付材の総量100質量%中に、粒径75μm未満の原料由来のSiO2成分を7質量%以上含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉壁温度が1400℃以下の焼成炉用の乾式吹付材であって、
粉末状の珪酸アルカリ及びリン酸アルカリのうちの1種又は2種以上を合計で0.2質量%以上10質量%以下、炭化硼素を0.3質量%以上5質量%以下、残部に主として、アルミナ原料、シリカ原料、アルミナ-シリカ質原料、炭化珪素原料、マグネシア原料、マグネシア-カルシア質原料、及びこれらの原料の少なくとも1種を含む使用後耐火物原料から選択される1種又は2種以上を含有し、
当該乾式吹付材の総量100質量%中に、粒径75μm未満の原料由来のSiO2成分を7質量%以上含有する、焼成炉用の乾式吹付材。
【請求項2】
前記珪酸アルカリ及びリン酸アルカリのうちの1種又は2種以上の含有量が合計で1質量%以上5質量%以下、前記炭化硼素の含有量が0.5質量%以上3質量%以下、当該乾式吹付材の総量100質量%中の、粒径75μm未満の原料由来のSiO2成分の含有量が15質量%以上35質量%以下である、請求項1に記載の焼成炉用の乾式吹付材。
【請求項3】
前記炭化硼素の粒度構成は、粒径0.5mm未満が50質量%以上である、請求項1又は2に記載の焼成炉用の乾式吹き付け材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼却炉、流動床炉、産業廃棄物キルン処理炉、循環流動層(CFB)ボイラ用炉、セメント製造設備用炉、ガス化溶融炉、ストーカ炉等の焼成炉用の乾式吹付材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、結合剤としてアルミナセメントを適用した吹付材が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、その用途として高炉樋、混銑車等のほかにも焼却炉に適用できる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
焼却炉のように炉内物を熱処理(焼成・焼却)する焼成炉において、その炉壁となる吹付施工体は、炉内で流動している炉内物から物理的な衝撃や侵食反応を受けやすいという問題がある。
【0005】
本発明者らは、焼成炉用の吹付材として、結合剤としてアルミナセメントを適用した乾式吹付材を検討したが、吹付施工体の損傷が激しく実用化できなかった。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、焼成炉用の乾式吹付材において、炉内物からの物理的な衝撃や侵食反応を抑制し、耐用を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によれば、次の焼成炉用の乾式吹付材が提供される。
炉壁温度が1400℃以下の焼成炉用の乾式吹付材であって、
粉末状の珪酸アルカリ及びリン酸アルカリのうちの1種又は2種以上を合計で0.2質量%以上10質量%以下、炭化硼素を0.3質量%以上5質量%以下、残部に主として、アルミナ原料、シリカ原料、アルミナ-シリカ質原料、炭化珪素原料、マグネシア原料、マグネシア-カルシア質原料、及びこれらの原料の少なくとも1種を含む使用後耐火物原料から選択される1種又は2種以上を含有し、
当該乾式吹付材の総量100質量%中に、粒径75μm未満の原料由来のSiO2成分を7質量%以上含有する、焼成炉用の乾式吹付材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、詳細は後述するが、主として粒径75μm未満の原料由来のSiO2成分と珪酸アルカリ又はリン酸アルカリとの反応によりガラス被膜を形成し、さらに、炭化硼素の表面とガラス被膜とが反応して硼珪酸ガラスを生成することで、原料粒子同士(炭化硼素と他の耐火原料)の結合が強くなり、しかも、高い硬度を有する炭化硼素が残存するため、炉内物からの物理的な衝撃や侵食反応を抑制し、耐用を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の乾式吹付材は、炉壁温度が1400℃以下の焼成炉用の乾式吹付材であって、粉末状の珪酸アルカリ及びリン酸アルカリのうちの1種又は2種以上を合計で0.2質量%以上10質量%以下、炭化硼素を0.3質量%以上5質量%以下含有し、当該乾式吹付材の総量100質量%中に、粒径75μm未満の原料由来のSiO2成分を7質量%以上含有することを特徴的な構成要件としている。以下、この特徴的な構成要件による作用効果を説明する。
【0010】
炉壁温度1400℃以下という温度領域において、主として粒径75μm未満の原料由来のSiO2成分と、珪酸アルカリ又はリン酸アルカリ由来のアルカリ成分とが反応し、ガラス被膜を形成する。さらに、炭化硼素の表面とガラス被膜とが反応して硼珪酸ガラスを生成し、他の耐火原料と炭化硼素とが強固に接着する。炭化硼素とガラス被膜との反応は炭化硼素粒子の表面のみであるため、吹付施工体中には反応せず残存した炭化硼素が存在する。したがって、粒子同士(炭化硼素と他の耐火原料)の結合が強くなり、しかも、高い硬度を有する炭化硼素が残存するため、吹付施工体の耐摩耗性向上に寄与する。これにより、炉内物からの物理的な衝撃及び侵食反応による吹付施工体の損傷を低減することができる。
なお、1400℃を超える温度領域では、ガラス被膜が溶融するので上述の効果は得られない。そのため、本発明の乾式吹付材の用途は、炉壁温度が1400℃以下の焼成炉用に限定している。炉壁温度は1200℃以下であることが好ましい。炉壁温度の下限は特に限定されず、その焼成炉の焼成温度の下限により決まるが、ガラス被膜生成による効果を確実に得る点から概ね800℃以上であることが好ましい。
【0011】
珪酸アルカリ及びリン酸アルカリのうちの1種又は2種以上の含有量が合計で0.2質量%未満であるとガラス被膜生成による効果が得られない。一方、10質量%を超えると、低融物を生成して耐食性が低下する。珪酸アルカリ及びリン酸アルカリのうちの1種又は2種以上の含有量は合計で1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
ここで、珪酸アルカリは、典型的には珪酸ソーダ、珪酸リチウム、珪酸カリウム及び珪酸カルシウムのうちの1種又は2種以上からなる。またリン酸アルカリは、典型的にはリン酸ソーダ、リン酸リチウム、リン酸カリウム及びリン酸カルシウムのうちの1種又は2種以上からなる。
【0012】
炭化硼素の含有量が0.3質量%未満であると、残存する炭化硼素が少なくなり上述の耐摩耗性向上効果が得られない。また炭化硼素の含有量が5質量%超であると、低融物を生成して耐食性が低下すると共に粒子同士(炭化硼素と他の耐火原料)の結合が強くなり過ぎて耐スポーリング性が低下する。さらにコストが高くなるという問題もある。炭化硼素の含有量は0.5質量%以上3質量%以下であることが好ましい。
また、炭化硼素の粒度構成は、粒径0.5mm未満が50質量%以上であることが好ましい。粒径0.5mm未満が50質量%以上であることにより、吹付施工体中に炭化硼素が万遍なく分散されるため耐摩耗性をさらに向上させることができる。
【0013】
本発明の乾式吹付材は、上述のとおり粉末状の珪酸アルカリ及び/又はリン酸アルカリと、炭化硼素を含むが、その残部は、主として、アルミナ原料、シリカ原料、アルミナ-シリカ質原料、炭化珪素原料、マグネシア原料、マグネシア-カルシア質原料、及びこれらの原料の少なくとも1種を含む使用後耐火物原料から選択される1種又は2種以上の耐火原料からなる。なお、残部として挙げた上記の耐火原料は、残部の「主として」であり、残部には上記の耐火原料以外の耐火原料や、珪酸アルカリ及びリン酸アルカリ以外の結合剤(アルミナセメント等)、硬化調整剤(硫酸塩、消石灰等)、爆裂防止剤(有機繊維等)などを適宜含み得る。ただし、アルミナセメントを多量に含有すると水和物が多量に生成することによって、乾燥時の爆裂が起こりやすくなるので、アルミナセメントの含有量は10質量%以下(0を含む。)であることが好ましく、5質量%以下(0を含む。)であることがより好ましい。
【0014】
このような乾式吹付材の総量100質量%中の、粒径75μm未満の原料由来のSiO2成分の含有量が7質量%未満であると、上述のガラス被膜生成による効果及び耐摩耗性向上効果が得られない。粒径75μm未満の原料由来のSiO2成分含有量の上限は、ガラス被膜生成という観点からは特に限定する必要はないが、吹付施工体の性状のバランスを考慮すると概ね40質量%以下とすることができる。また、粒径75μm未満の原料由来のSiO2成分含有量の好ましい範囲は、15質量%以上35質量%以下である。
ここで、粒径75μm未満の原料由来のSiO2成分は、粒径75μm未満の耐火原料(炭化硼素、アルミナ原料、アルミナ-シリカ質原料、シリカ質原料等)及びその他原料(硬化調整剤等)に含まれる主成分又は不純物成分としてのSiO2成分、並びに粒径75μm未満の珪酸アルカリ及びリン酸アルカリに含まれる主成分又は不純物成分としてのSiO2成分の合量であり、これは乾式吹付材の原料配合により特定することができる。
【0015】
本発明の焼成炉用の乾式吹付材は、乾式吹付施工方法によって焼成炉へ吹付施工される。乾式吹付施工方法とは周知のとおり、吹付ノズルの先端部において乾粉状の吹付材(乾式吹付材)に水を添加して吹き付ける施工方法である。その添加水量は、乾式吹付材の吹付軟度が適切な範囲となるように適宜決定すればよいが、乾式吹付材の総量100質量%に対して外掛けで概ね10質量%以上15質量%以下である。
【実施例0016】
表1に示す各例の乾式吹付材について、耐摩耗性、耐食性及び耐スポーリング性を評価し、これらの評価結果に基づき総合評価を行った。また、実施例8と比較例1については実炉試験に供した。なお、表1において、「珪酸アルカリ」とは、珪酸ソーダ、珪酸リチウム、珪酸カリウム及び珪酸カルシウムのうちの1種又は2種以上であり、「リン酸アルカリ」とは、リン酸ソーダ、リン酸リチウム、リン酸カリウム及びリン酸カルシウムのうちの1種又は2種以上である。
【0017】
【0018】
各評価項目の評価方法及び評価基準は以下のとおりである。
<耐摩耗性>
適切な吹付軟度を想定した水量で混錬し、成形した試料を焼成炉の炉壁温度を想定した焼成温度(表1参照)で焼成した後、サンドブラストで摩耗量を評価した。
摩耗量が10cc未満の場合を〇(優良)、10cc以上15cc未満の場合を△(良好)、15cc以上の場合を×(不良)とした。
【0019】
<耐食性>
適切な吹付軟度を想定した水量で混練し、るつぼ形状に成形し、焼成炉の炉壁温度を想定した焼成温度(表1参照)で焼成した後、るつぼに侵食剤を30g入れ、さらに上述の炉壁温度を想定した焼成温度で12時間加熱し、侵食状態を確認した。侵食剤としては、CaO:60質量%、MgO:10質量%、K2O:10質量%、P2O5:20質量%の合成スラグを用いた。各例の最大溶損面積を測定し、実施例3を100とした相対値を求めた。この相対値が小さいほど耐食性に優れるということである。
この相対値が100未満の場合を〇(優良)、100以上120未満の場合を△(良好)、120以上の場合を×(不良)とした。
【0020】
<耐スポーリング性>
適切な吹付軟度を想定した水量で混練し、成形した試料を焼成炉の炉壁温度を想定した焼成温度(表1参照)の雰囲気に15分、空冷15分を10回繰り返し、亀裂の度合いにより評価した。
亀裂無し又は亀裂幅が1mm以内の場合を○(優良)、亀裂幅が1mm超2mm以下の場合を△(良好)、亀裂幅が2mm超の場合を×(不良)とした。
【0021】
<総合評価>
全ての評価が○の場合を〇(優良)、×がなくいずれか1つでも△がある場合を△(良好)、いずれか1つでも×がある場合を×(不良)とした。
【0022】
<実炉評価>
炉壁温度が1200℃の焼成炉の炉壁として2ケ月使用後、10カ所ランダムに測定した平均値において、元の施工厚に対して残存厚みが90%以上の場合を〇(合格)、90%未満の場合を×(不合格)とした。
【0023】
表1中、実施例1~12は本発明の範囲内にある乾式吹付材である。これらの総合評価は〇(優良)又は△(良好)であり、耐摩耗性、耐食性、耐スポーリング性のいずれも良好な評価が得られた。なかでも実施例8~11は、珪酸アルカリ及びリン酸アルカリの含有量、炭化硼素の含有量、炭化硼素の粒度構成、及び粒径75μm未満の原料由来のSiO2成分の含有量が上述の好ましい範囲内にある乾式吹付材である。その総合評価は〇(優良)であり、その他の実施例に比べてより良好な評価が得られた。
【0024】
比較例1は、炭化硼素の含有量が少ない例であり、耐摩耗性の評価が×(不良)となった。
一方、比較例2は、炭化硼素の含有量が多い例であり、耐食性及び耐スポーリング性の評価が×(不良)となった。
【0025】
比較例3は、粒径75μm未満の原料由来のSiO2成分の含有量が少ない例であり、耐摩耗性及び耐食性の評価が×(不良)となった。
【0026】
比較例4は、珪酸アルカリ及びリン酸アルカリを含有しない例であり、耐摩耗性の評価が×(不良)となった。
一方、比較例5は、珪酸アルカリの含有量が多い例であり、耐食性の評価が×(不良)となった。
【0027】
比較例6は、焼成炉の炉壁温度を想定した焼成温度が高い例であり、耐食性の評価が×(不良)となった。