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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022077394
(43)【公開日】2022-05-23
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20220516BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20220516BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020188240
(22)【出願日】2020-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宇人
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ12
5H029AK01
5H029AL01
5H029AM12
5H029BJ04
5H029DJ02
5H029HJ00
5H029HJ04
5H029HJ07
(57)【要約】
【課題】マーカが剥離するのを防止すること。
【解決手段】正極活物質を含む正極層、固体電解質層、及び負極活物質を含む負極層の各々が複数積層され、前記正極層が表出する第1の面と、前記負極層が表出する第2の面と、前記第1の面及び前記第2の面の各々と異なる面であって前記正極層と前記負極層の各々に平行な第3の面を備えた積層体と、前記第1の面に設けられ、かつ前記正極層に接続された第1の外部電極と、前記第2の面に設けられ、かつ前記負極層に接続された第2の外部電極と、前記第3の面を覆うカバー層と、前記第3の面と前記カバー層の表面との間に設けられ、前記カバー層を介して透視可能であって、前記第1の外部電極と前記第2の外部電極とを区別するマーカとを有することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極層、固体電解質層、及び負極活物質を含む負極層の各々が複数積層され、前記正極層が表出する第1の面と、前記負極層が表出する第2の面と、前記第1の面及び前記第2の面の各々と異なる面であって前記正極層と前記負極層の各々に平行な第3の面を備えた積層体と、
前記第1の面に設けられ、かつ前記正極層に接続された第1の外部電極と、
前記第2の面に設けられ、かつ前記負極層に接続された第2の外部電極と、
前記第3の面を覆うカバー層と、
前記第3の面と前記カバー層の表面との間に設けられ、前記カバー層を介して透視可能であって、前記第1の外部電極と前記第2の外部電極とを区別するマーカと、
を有することを特徴とする全固体電池。
【請求項2】
前記カバー層を介して透視したときの前記マーカの明度と、前記カバー層の明度との差が1以上であることを特徴とする請求項1に記載の全固体電池。
【請求項3】
前記マーカの材料は、前記正極層と前記負極層のいずれかの材料と同じであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の全固体電池。
【請求項4】
前記カバー層の厚さが50μmよりも大きい場合は、前記カバー層の表面から前記マーカまでの深さが50μm以下であり、
前記カバー層の厚さが50μm以下の場合は、前記カバー層の表面から前記マーカまでの深さが、前記カバー層の厚さの0.8倍以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の全固体電池。
【請求項5】
前記マーカの厚さは、前記カバー層の厚さの0.8倍以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の全固体電池。
【請求項6】
前記マーカの面積は、前記第1の外部電極と前記第2の外部電極で覆われていない部分の前記第3の面の面積の0.9倍以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の全固体電池。
【請求項7】
前記マーカと前記第1の外部電極との間の第1の間隔と、前記マーカと前記第2の外部電極との間の第2の間隔とが異なることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の全固体電池。
【請求項8】
前記マーカの形状は、前記第1の外部電極から前記第2の外部電極に向かう方向に垂直な直線に関して非対称であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池が様々な分野で利用されている。電解液を用いた二次電池には電解液の漏液等の問題があるが、電解質や他の構成要素も固体で構成した全固体電池は液漏れの問題がないという利点がある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-216235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
その全固体電池においては、正負の極性を間違えて配線基板等に実装すると、電子機器の誤動作や発熱事故等を招いてしまう。これを防ぐために、極性を示す視認可能なマーカを全固体電池に設けることがある。
【0005】
しかしながら、全固体電池の製造途中にマーカが剥離すると、全固体電池の極性を人やカメラで判別することができなくなり、極性を逆にして全固体電池を配線基板等に実装してしまうおそれがある。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、マーカが剥離するのを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る全固体電池は、正極活物質を含む正極層、固体電解質層、及び負極活物質を含む負極層の各々が複数積層され、前記正極層が表出する第1の面と、前記負極層が表出する第2の面と、前記第1の面及び前記第2の面の各々と異なる面であって前記正極層と前記負極層の各々に平行な第3の面を備えた積層体と、前記第1の面に設けられ、かつ前記正極層に接続された第1の外部電極と、前記第2の面に設けられ、かつ前記負極層に接続された第2の外部電極と、前記第3の面を覆うカバー層と、前記第3の面と前記カバー層の表面との間に設けられ、前記カバー層を介して透視可能であって、前記第1の外部電極と前記第2の外部電極とを区別するマーカとを有することを特徴とする。
【0008】
上記全固体電池において、前記カバー層を介して透視したときの前記マーカの明度と、前記カバー層の明度との差が1以上でもよい。
【0009】
上記全固体電池において、前記マーカの材料は、前記正極層と前記負極層のいずれかの材料と同じでもよい。
【0010】
上記全固体電池において、前記カバー層の厚さが50μmよりも大きい場合は、前記カバー層の表面から前記マーカまでの深さが50μm以下であり、前記カバー層の厚さが50μm以下の場合は、前記カバー層の表面から前記マーカまでの深さが、前記カバー層の厚さの0.8倍以下でもよい。
【0011】
上記全固体電池において、前記マーカの厚さは、前記カバー層の厚さの0.8倍以下でもよい。
【0012】
上記全固体電池において、前記マーカの面積は、前記第1の外部電極と前記第2の外部電極で覆われていない部分の前記第3の面の面積の0.9倍以下でもよい。
【0013】
上記全固体電池において、前記マーカと前記第1の外部電極との間の第1の間隔と、前記マーカと前記第2の外部電極との間の第2の間隔とが異なってもよい。
【0014】
上記全固体電池において、前記マーカの形状は、前記第1の外部電極から前記第2の外部電極に向かう方向に垂直な直線に関して非対称でもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、マーカが剥離するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】全固体電池の基本構造を示す模式的断面図である。
図2】全固体電池の上面図である。
図3】マーカとその周囲の拡大断面図(その1)である。
図4】マーカとその周囲の拡大断面図(その2)である。
図5】全固体電池の他の例について示す上面図である。
図6】全固体電池の別の例について示す上面図である。
図7】マーカの面積について説明するための模式上面図である。
図8】本実施形態に係る全固体電池の製造方法のフローチャートである。
図9】比較例1に係る全固体電池の断面図である。
図10】比較例2に係る全固体電池の上面図である。
図11】比較例3に係る全固体電池の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0018】
(実施形態)
図1は、全固体電池100の基本構造を示す模式的断面図である。図1に示すように、全固体電池100は、固体電解質層11、正極層12、及び負極層14の各々を複数積層した積層体60を有する。その積層体60においては、正極層12と負極層14との間に固体電解質層11が介在する。
【0019】
このうち、正極層12は、導電性材料からなる第1の集電体層12bの両方の主面に第1の電極層12cを積層してなる。第1の電極層12cは、正極活物質を含有した導電層であればその材料は特に限定されない。ここでは正極活物質としてオリビン型結晶構造をもつ材料を使用する。このような正極活物質としては、例えば遷移金属とリチウムとを含むリン酸塩がある。オリビン型結晶構造は、天然のカンラン石(olivine)が有する結晶であり、X線回折において判別することができる。
【0020】
オリビン型結晶構造をもつ電極活物質としては、例えばCoを含むLiCoPO等がある。この化学式において遷移金属のCoが置き換わったリン酸塩等を用いてもよい。ここで、価数に応じてLiやPOの比率は変動し得る。なお、遷移金属として、Co,Mn,Fe,Niなどを用いてもよい。
【0021】
また、負極層14は、導電性材料からなる第2の集電体層14bの両方の主面に第2の電極層14cを積層してなる。第2の電極層14cは、負極活物質を含有した導電層であればその材料は特に限定されない。ここでは、チタン酸化物、リチウムチタン複合酸化物、リチウムチタン複合リン酸塩、カーボン、及びリン酸バナジウムリチウムのいずれかを負極活物質として使用する。
【0022】
なお、第2の電極層14cにオリビン型結晶構造をもつ電極活物質を含有させてもよい。これにより、放電容量を増大させたり、放電に伴う動作電位を上昇させたりすることができる。
【0023】
更に、第1の電極層12cと第2の電極層14cを作製する際に、これらの電極層に酸化物系固体電解質材料や、カーボンや金属等の導電助剤を添加してもよい。導電助剤の金属としては、例えばPd、Ni、Cu、及びFeのいずれかがある。更に、これらの金属の合金を導電助剤として使用してもよい。
【0024】
また、この例では第1の集電体層12bと二層の第1の電極層12cとで正極層12を構成したが、正極活物質を含む単層の第1の集電体層12bのみで正極層12を構成してもよい。同様に、負極活物質を含む単層の第2の集電体層14bのみで負極層14を構成してもよい。
【0025】
一方、固体電解質層11の材料としては、例えばNASICON構造を有するリン酸塩系固体電解質がある。NASICON構造を有するリン酸塩系固体電解質は、高いイオン導電率を有すると共に、大気中で化学的に安定である。リン酸塩系固体電解質は特に限定されないが、ここではリチウムを含んだリン酸塩を使用する。当該リン酸塩は、例えばTiとの複合リン酸リチウム塩(LiTi(PO)をベースとし、Li含有量を増加させるためにAl,Ga,In,Y,Laなどの3価の遷移金属に一部置換させた塩である。そのような塩としては、Li1+xAlGe2-x(PO、Li1+xAlZr2-x(PO、及びLi1+xAlTi2-x(PO等のLi-Al-M-PO系リン酸塩(Mは、Ge,Ti,Zr等)がある。
【0026】
また、第1の電極層12c中のリン酸塩に含まれる遷移金属を予め添加したLi-Al-Ge-PO系リン酸塩を固体電解質層11の材料として用いてもよい。例えば、第1の電極層12cにCoとLiのいずれかを含むリン酸塩が含有される場合には、Coを予め添加したLi-Al-Ge-PO系リン酸塩を固体電解質層11に含有させてもよい。これにより、第1の電極層12cから固体電解質層11に遷移金属が溶出するのを抑制することができる。
【0027】
このような積層体60は、正極層12と負極層14との積層方向Zに平行な第1の面60aと第2の面60bとを有する。このうち、第1の面60aには固体電解質層11と正極層12とが表出する。第1の面60aには更に第1の外部電極40aが設けられており、正極層12が第1の外部電極40aと接続される。
【0028】
一方、第2の面60bは、第1の面60aと相対しており、固体電解質層11と負極層14とが表出する。第2の面60bには第2の外部電極40bが設けられており、負極層14が第2の外部電極40bと接続される。
【0029】
更に、積層体60は、正極層12と負極層14の各々と平行な第3の面60cと第4の面60dとを有する。第3の面60cは、配線基板に全固体電池100を実装するときに上側となる上面である。また、第4の面60dは、実装時に下側となる下面である。
【0030】
この例では、正極層12や負極層14を大気から保護するためのカバー層19を第3の面60cと第4の面60dの各々に形成する。カバー層19の材料も特に限定されないが、固体電解質層11と同じ材料をカバー層19の材料として使用し得る。
【0031】
また、本実施形態では、第1の外部電極40aと第2の外部電極40bとを区別するためのマーカ70を、第3の面60c側のカバー層19の内部に設ける。マーカ70は、カバー層19を介して透視可能であって、カメラや目視によってその位置や形状を視認できる。なお、マーカ70は、第1の外部電極40aと第2の外部電極40bのいずれかと接続されてもよいし、外部電極40a、40bの両方と接続されなくてもよい。
【0032】
なお、マーカ70を容易に認識できるようにするために、マーカ70をカバー層19とは異なる色彩とするのが好ましい。例えば、カバー層19が白色の場合には、マーカ70にカーボンを添加してその色彩を黒色とすることにより、マーカ70とカバー層19との間に明確な明度差が生じ、カメラや目視でマーカ70を視認するのが容易となる。なお、カーボンを添加しなくてもマーカ70を視認可能な場合には、マーカ70にカーボンを添加しなくてもよい。また、この例では、カバー層19と各外部電極40a、40bのいずれとも異なる材料でマーカ70を構成する。
【0033】
マーカ70の視認性を高めるには、マーカ70とカバー層19との明度差をなるべく大きくするのが好ましい。本実施形態では、明度L*として、L*a*b*表色系の明度L*を採用する。L*a*b*表色系は、物体の色を表わすための標準的な規格である(JIS Z8781-4:2013)。L*a*b*表色系では、明度をL*、色相と彩度を示す色度をa*、b*で表す。a*、b*は、色の方向を示しており、a*は赤方向、-a*は緑方向、そしてb*は黄方向、-b*は青方向を示す。数値が大きいほど色あざやかであり、数値が小さいほどくすんだ色になる。a*方向及びb*方向の絶対値の大きさが色のあざやかさに関連するパラメータであり、本実施形態では明度L*値に着目する。カバー層19を介して透視したときのマーカ70の明度と、カバー層19の明度との明度差ΔL*を1以上とすることにより、人やカメラがマーカ70を視認するのが容易となる。なお、明度差ΔL*を更に5以上とするのが好ましい。これにより、マーカ70の視認性が更に向上し、カメラでマーカ70を認識する際の光量や画像処理等を簡素化できる。
【0034】
また、正極層12や負極層14と同じ材料でマーカ70を形成することにより、マーカ70用の新規の材料の開発費を抑制し、全固体電池100のコスト上昇を抑えてもよい。なお、正極層12と負極層14の各々と異なる材料でマーカ70を形成してもよい。
【0035】
図2は、全固体電池100の上面図である。図2に示すように、本実施形態では上面視でマーカ70を第1の外部電極40aに寄せることにより、マーカ70により第1の外部電極40aを指し示す。この場合は、第1の外部電極40aとマーカ70との間の間隔L1は、第2の外部電極40bとマーカ70との間隔L2よりも短くなる。なお、間隔L1、L2の各々を0よりも大きな値とすることにより各外部電極40a、40bからマーカ70を離してもよい。
【0036】
また、マーカ70の形状は、第1の外部電極40aから第2の外部電極40bに向かう方向Xに垂直な直線Pに関して対称な長方形とする。なお、マーカ70が第1の外部電極40aで完全に覆われるとマーカ70を視認できなくなる。そのため、マーカ70の少なくとも一部が第1の外部電極40aから表出するのが好ましい。
【0037】
図3は、マーカ70とその周囲の拡大断面図である。図3に示すように、カバー層19の表面からマーカ70までの深さD1は例えば5μm~50μm程度である。また、カバー層19の厚さD3は、5μm~200μm程度である。そして、正極層12と負極層14との間の固体電解質層11の厚さD4は例えば5μm~50μm程度である。
【0038】
なお、カバー層19の厚さD3が50μmよりも大きい場合には、深さD1を50μm以下とすることにより、カバー層19を介してマーカ70が視認可能となる。また、カバー層19の厚さD3が50μm以下の場合には、深さD1を厚さD3の0.8倍以下とすることにより、マーカ70を明確に視認することができる。
【0039】
また、マーカ70が厚すぎると、カバー層19とマーカ70とを焼成するときにクラックや剥離が生じる可能性がある。これを防止するために、マーカ70の厚さD2を、カバー層19の厚さD3の0.8倍以下にするのが好ましい。一方、マーカ70が薄すぎると、マーカ70が光を透過し易くなってマーカ70と背景とを区別するのが難しくなり、マーカ70の視認性が低下する。これを防ぐために、マーカ70の厚さD2を、カバー層19の厚さD3の0.2倍以上にするのが好ましい。クラックや剥離の発生と視認性の低下とを防止する厚さD2の一例として、本実施形態では厚さD2を5μm~20μmとする。
【0040】
なお、図3の例では正極層12とマーカ70との間にカバー層19が介在しているが、図4の拡大断面図のように正極層12の上にマーカ70を直接設けてもよい。
【0041】
図5は、全固体電池の他の例について示す上面図である。図5の例では、間隔L2を間隔L1よりも小さくして第2の外部電極40bにマーカ70を寄せることにより、マーカ70で第2の外部電極40bを指し示す。
【0042】
図6は、全固体電池の別の例について示す上面図である。図6の例では、上面視で全固体電池100の略中央に三角形のマーカ70を設ける。そして、マーカ70の頂点70aを第1の外部電極40aに向けることにより、マーカ70で第1の外部電極40aを指し示す。
【0043】
この場合、マーカ70の形状は、第1の外部電極40aから第2の外部電極40bに向かう方向Xに垂直な直線Pに関して非対称となる。このような非対称性により、人やカメラが第1の外部電極40aと第2の外部電極40bとを判別することができる。
【0044】
なお、マーカ70の面積が大きすぎると、マーカ70をその周囲のカバー層19と区別するのが難しくなるため、マーカ70の面積に上限を設けるのが好ましい。
【0045】
図7は、マーカ70の面積について説明するための模式上面図である。図7では、上面視において第1の外部電極40aと第2の外部電極40bのいずれにも隠れていない部分の第3の面60cの面積をS1とし、マーカ70の面積をS2としている。この場合、面積S2を面積S1の90%以下とすることによりマーカ70を周囲のカバー層19から区別し易くなり、マーカ70の視認性を高めることができる。更に、面積S2を面積S1の40%以下とするのが好ましい。これにより、カバー層19とマーカ70とを焼成するときにクラックや剥離が発生するのを抑えることができる。また、面積S2を面積S1の5%以上とするのが好ましく、更に10%以上とするのがより好ましい。
【0046】
以上説明した本実施形態によれば、全固体電池100にマーカ70を設けたため、カメラや目視によりマーカ70を視認することにより第1の外部電極40aと第2の外部電極40bとを判別することができる。そのため、配線基板に反対の極性で全固体電池100を実装するのを防止することができ、電子機器の誤動作や発熱事故を防ぐことができる。
【0047】
しかも、本実施形態ではマーカ70がカバー層19で覆われる。そのため、衝撃等によってマーカ70が剥離するのをカバー層19で防止でき、全固体電池100の検査時や実装時にマーカ70を頼りにして極性を確実に確認することができる。
【0048】
次に、本実施形態に係る全固体電池の製造方法について説明する。図8は、本実施形態に係る全固体電池の製造方法のフローチャートである。
【0049】
(セラミック原料粉末作製工程)
まず、上述の固体電解質層11を構成するリン酸塩系固体電解質の粉末を作製する。例えば、原料と添加物とを混合し、固相合成法などを用いることにより、固体電解質層11を構成するリン酸塩系固体電解質の粉末を作製することができる。得られた粉末を乾式粉砕することにより、所望の平均粒径に調整することができる。例えば、5mmφのZrOボールを用いた遊星ボールミルで、所望の平均粒径に調整する。
【0050】
添加物には焼結助剤が含まれる。焼結助剤として、例えば、Li-B-O系化合物、Li-Si-O系化合物、Li-C-O系化合物、Li-S-O系化合物,及びLi-P-O系化合物のいずれかのガラス成分を使用し得る。
【0051】
(グリーンシート作製工程)
次に、得られた粉末を、結着材、分散剤、及び可塑剤等と共に、水性溶媒又は有機溶媒に均一に分散させて、湿式粉砕を行うことにより所望の平均粒径を有する固体電解質スラリを得る。このとき、ビーズミル、湿式ジェットミル、各種混錬機、高圧ホモジナイザーなどを用いることができ、粒度分布の調整と分散とを同時に行うことができる観点からビーズミルを用いることが好ましい。
【0052】
そして、得られた固体電解質スラリにバインダを添加して固体電解質ペーストを得る。固体電解質ペーストを塗工することにより、固体電解質層11用のグリーンシートが得られる。また、カバー層19用のグリーンシートもこれと同様に作製できる。塗工方法は特に限定されず、スロットダイ方式、リバースコート方式、グラビアコート方式、バーコート方式、ドクターブレード方式などを用いることができる。湿式粉砕後の粒度分布は、例えば、レーザ回折散乱法を用いたレーザ回折測定装置を用いて測定することができる。
【0053】
(電極層用ペースト作製工程)
次に、第1の電極層12cと第2の電極層14cとを作製するための電極層用ペーストを作製する。例えば、電極活物質及び固体電解質材料をビーズミル等で高分散化し、セラミックス粒子のみからなるセラミックスペーストを作製する。また、カーボンブラック等のカーボン粒子を含むカーボンペーストを作製し、セラミックスペーストにカーボンペーストを混錬してもよい。
【0054】
(集電体用ペースト作製工程)
次に、上述の第1の集電体層12bと第2の集電体層14bとを作製するための集電体用ペーストを作製する。例えば、Pdの粉末、バインダ、分散剤、及び可塑剤等を水や有機溶剤に均一分散させることで集電体用ペーストを得ることができる。
【0055】
(マーカ用ペースト作製工程)
次いで、上述のマーカ70を作製するためのマーカ用ペーストを作製する。ここでは、セラミック粒子にカーボンブラック等のカーボン粒子を混錬することによりマーカ用ペーストを作製する。
【0056】
(積層工程)
まず、グリーンシートの一方の主面に、電極層用ペースト、集電体用ペースト、及び電極層用ペーストをこの順に印刷する。次いで、印刷後の複数のグリーンシートを交互にずらして積層することにより積層体60を得る。その後、積層体60の第3の面60cの上に、カバー層19用の複数のグリーンシートを積層する。このとき、カバー層19用の複数のグリーンシートのうちの一つにマーカ70用のペーストを印刷し、グリーンシートの層間にマーカ70が挿入された構造を得る。
【0057】
(焼成工程)
次に、酸素を含む焼成雰囲気中で積層体60を焼成する。電極層用ペーストに含まれるカーボン材料の消失を抑制するために、焼成雰囲気の酸素分圧を2×10-13atm以下とすることが好ましい。一方、リン酸塩系固体電解質の融解を抑制するために酸素分圧を5×10-22atm以上とすることが好ましい。
【0058】
その後、積層体60の各面60a、60bに金属ペーストを塗布してそれを焼き付けることにより第1の外部電極40aと第2の外部電極40bを形成する。なお、スパッタ法やめっき法で第1の外部電極40aと第2の外部電極40bを形成してもよい。以上により、全固体電池100の基本構造が完成する。
【実施例0059】
以下、実施形態に従って全固体電池を作製し、特性について調べた。
(実施例1)
Co、LiCO、リン酸2水素アンモニウム、Al、GeOを混合し、固体電解質材料粉末としてCoを所定量含むLi1.3Al0.3Ge1.7(POを固相合成法により作製した。得られた粉末を粉砕し、固体電解質スラリを作製した。得られたスラリに、バインダを添加して固体電解質ペーストを得て、グリーンシートを作製した。LiCoPO、Coを所定量含むLi1.3Al0.3Ti1.7(POを上記同様に固相合成法にて合成し、湿式混合、分散処理してスラリを作製し、バインダとPdペーストとを添加して電極層用ペーストを作製した。
【0060】
グリーンシートの上に、電極層用ペースト、集電体用ペースト、及び電極層用ペーストをそれぞれ2μmの厚さにスクリーン印刷法で印刷した。印刷後のグリーンシートを、左右に電極が引き出されるようにずらして11枚積層し、積層体60を作製した。その積層体60の上下に、複数のグリーンシートをカバー層19として貼り付けた。なお、そのグリーンシートのうちの一つには、マーカ70を印刷した。その後、熱加圧プレスによりグリーンシートを圧着し、ダイサーにて積層体60を所定のサイズにカットした。
【0061】
カットした積層体60を300℃以上500℃以下で熱処理して脱脂し、900℃以下で熱処理して焼結させた。焼結後の積層体60の断面をSEM(Scanning Electron Microscope)で観察し、カバー層19とマーカ70の厚さを計測した。
【0062】
その結果、カバー層19の厚さD3は60μmであり、マーカ70の厚さD2は10μmであった。また、カバー層19の表面からマーカ70までの深さD1は10μmであった。
【0063】
(実施例2)
実施例2では、本実施形態に係る図6の構造の全固体電池100を作製した。なお、全固体電池100の製造方法は実施例1と同様である。
【0064】
その結果、カバー層19の厚さD3は60μmであり、マーカ70の厚さD2は10μmとなった。また、カバー層19の表面からマーカ70までの深さD1は10μmとなった。
【0065】
(比較例1)
図9は、比較例1に係る全固体電池201の断面図である。なお、図9において、図1で説明したのと同じ要素には図1と同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。また、積層体60の製造方法は実施例1と同様である。
【0066】
図9に示すように、比較例1ではカバー層19の表面にマーカ70を設け、マーカ70が露出した状態にした。カバー層19の厚さD3は60μmであり、マーカ70の厚さD2は10μmとなった。
【0067】
(比較例2)
図10は、比較例2に係る全固体電池202の上面図である。なお、図10において、図5で説明したのと同じ要素には図10と同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。これについては後述の比較例3でも同様である。
【0068】
図10に示すように、比較例2では、上面視でマーカ70の全体を第1の外部電極40aで覆った。なお、積層体60の製造方法は実施例1と同様である。
【0069】
カバー層19の厚さD3は60μmであり、マーカ70の厚さD2は10μmとなった。また、カバー層19の表面からマーカ70までの深さD1は10μmとなった。
【0070】
(比較例3)
図11は、比較例3に係る全固体電池203の上面図である。図11に示すように、比較例3では、L1=L2とすることにより、上面視で全固体電池203の中央にマーカ70を設ける。また、マーカ70の形状は、第1の外部電極40aから第2の外部電極40bに向かう方向Xに垂直な直線Pに関して対称な長方形とする。なお、積層体60の製造方法は実施例1と同様である。
【0071】
カバー層19の厚さD3は60μmであり、マーカ70の厚さD2は10μmとなった。また、カバー層19の表面からマーカ70までの深さD1は10μmとなった。
【0072】
(比較例4)
実施例1と同様に積層体60を作製した。但し、カバー層19の厚さD3は100μmであり、マーカ70の厚さD2は10μmとなった。また、カバー層19の表面からマーカ70までの深さD1は80μmであった。
【0073】
(比較例5)
実施例1と同様に積層体60を作製した。但し、カバー層19の厚さD3は100μmであり、マーカ70の厚さD2が80μmとなった。また、カバー層19の表面からマーカ70までの深さD1は10μmであった。
【0074】
次に、実施例1~2、比較例1~5についてマーカ70の視認性について調べた。その結果を表1に示す。
【0075】
【表1】
表1において、マーカ形状は、上面視でマーカ70が直線Pについて対称である場合には「対称」とし、対象でない場合に「非対称」とした。総合判定は、(a)カメラや人がマーカ70を視認でき、(b)マーカ70が剥離する可能性がなく、(c)カメラや人がマーカ70によって第1の外部電極40aと第2の外部電極40bとを判別でき、(d)製造上の不具合がない場合に「〇」とした。一方、(a)~(d)のうちのいずれか一つでも満たされない場合には総合評価を「×」とした。
【0076】
表1に示すように、実施例1と実施例2ではいずれも総合判定が「〇」となった。
【0077】
一方、比較例1では、マーカ70を視認できるものの、マーカ70が剥離する可能性があるため総合評価は「×」となった。
比較例2では、マーカ70を視認できないため総合評価は「×」となった。
【0078】
比較例3では、マーカ70を視認でき、かつマーカ70が剥離する可能性もない。但し、マーカ70が第1の外部電極40aと第2の外部電極40bのどちらを指し示しているのかが分からないため総合評価は「×」となった。
【0079】
比較例4では、マーカ70がカバー層19の表面から深いところにあるため視認できず、総合評価が「×」となった。
【0080】
比較例5では、マーカ70が厚く焼成工程で全固体電池100にクラックが生じるという製造上の不具合があるため、総合評価は「×」となった。
【0081】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0082】
11 :固体電解質層
12 :正極層
14 :負極層
19 :カバー層
40a :第1の外部電極
40b :第2の外部電極
60 :積層体
70 :マーカ
100 :全固体電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11