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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022077456
(43)【公開日】2022-05-23
(54)【発明の名称】細胞間接着因子の発現増大剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20220516BHJP
   A61K 36/185 20060101ALI20220516BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220516BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220516BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61K36/185
A61P43/00 105
A61P17/00
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020188339
(22)【出願日】2020-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】多田 明弘
(72)【発明者】
【氏名】三谷 信
(72)【発明者】
【氏名】梶原 篤史
【テーマコード(参考)】
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083AC112
4C083AC122
4C083AC17
4C083AC432
4C083BB51
4C083CC02
4C083CC04
4C083DD27
4C083EE12
4C083EE13
4C088AB12
4C088AC05
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZC01
(57)【要約】
【課題】新規な細胞間接着因子の発現増大剤を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、アケビ科(Lardizabalaceae)アケビ属(Akebia)に属する植物の抽出物を有効成分とする、細胞間接着因子の発現増大剤である。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アケビ科(Lardizabalaceae)アケビ属(Akebia)に属する植物の抽出物を有効成分とする、細胞間接着因子の発現増大剤。
【請求項2】
アケビ科(Lardizabalaceae)アケビ属(Akebia)に属する植物が、アケビ(Akebia quinata)及び/又はミツバアケビ(Akebia trifoliata)である、請求項1に記載の細胞間接着因子の発現増大剤。
【請求項3】
血管及び/又はリンパ管における細胞間接着を促進するための、請求項1又は2に記載の細胞間接着因子の発現増大剤。
【請求項4】
前記細胞間接着因子がタイトジャンクション関連因子である、請求項1~3の何れか一項に記載の細胞間接着因子の発現増大剤。
【請求項5】
前記タイトジャンクション関連因子が、タイトジャンクションプロテイン-1(Zonula occludens-1,ZO-1)である、請求項4に記載の細胞間接着因子の発現増大剤。
【請求項6】
前記抽出物の含有量が、乾燥質量を基準として、0.2~4.0質量%であることを特徴とする、請求項1~5の何れか一項に記載の細胞間接着因子の発現増大剤。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載の細胞間接着因子の発現増大剤を含む、細胞間接着因子の発現を増大させるための皮膚外用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞間接着因子の発現増大剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の上皮組織では、上皮細胞どうしが密接に結合しあうことにより、細胞の層を形成している。上皮細胞の接着は、タイトジャンクション(TJ)やアドへレンスジャンクション(AJ)、デスモソーム(DS)といった細胞接着構造により構成されている。
このうち、タイトジャンクションは、外界と接する上皮細胞が有害物質等を細胞内に透過させないよう、障壁としての機能を発揮するために存在する。タイトジャンクションを構成している因子として、細胞膜タンパク質のクローディンやオクルディン、これらのタンパク質と結合するZonula occludens proteinが知られている。
【0003】
このようなタイトジャンクションを構成する因子は、血管、リンパ管等の内皮細胞においても、組織内外を隔てる障壁として機能することにより、恒常性維持に深くかかわることが知られている。そのため、タイトジャンクションを構成する因子が減少した場合、タイトジャンクションの構造が破壊され、種々の疾患が引き起こされる。
【0004】
近年、このような疾患等を予防、改善するために、上皮組織のタイトジャンクションの形成を促進する成分の探索がなされている。例えば、マンダリンオレンジ抽出物を有効成分とするタイトジャンクション形成促進剤(特許文献1)、含硫ニンニク成分を高濃度に含む加工ニンニク抽出物を有効成分とする上皮タイトジャンクション形成促進剤(特許文献2)、トウニン(Prunus persica Batsch)の抽出物を有効成分とする細胞間接着低下抑制剤(特許文献3)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-222558号公報
【特許文献2】特開2016-113368号公報
【特許文献3】特開2020-132546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、細胞間接着機能の低下により、体内において種々の不調を引き起こすことが明らかとなっている。
そこで、本発明は、新規な細胞間接着因子の発現増大剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明は、アケビ科(Lardizabalaceae)アケビ属(Akebia)に属する植物の抽出物を有効成分とする、細胞間接着因子の発現増大剤である。
本発明の細胞間接着因子の発現増大剤は、細胞間接着因子の発現量を促進し、細胞間接着を強化することができる。また、本発明の細胞間接着因子の発現増大剤は、細胞間接着の機能低下に起因する生体機能の低下の予防又は改善に有用である。
【0008】
本発明の好ましい形態では、アケビ科(Lardizabalaceae)アケビ属(Akebia)に属する植物が、アケビ(Akebia quinata)及び/又はミツバアケビ(Akebia trifoliata)である。
【0009】
本発明の好ましい形態では、本発明は、血管及び/又はリンパ管における細胞間接着を促進するための細胞間接着因子の発現増大剤である。
【0010】
本発明の好ましい形態では、前記細胞間接着因子がタイトジャンクション関連因子である。
【0011】
本発明の好ましい形態では、前記タイトジャンクション関連因子が、タイトジャンクションプロテイン-1(Zonula occludens-1,ZO-1)である。
【0012】
本発明の好ましい形態では、前記抽出物の含有量が、乾燥質量を基準として、0.2~4.0質量%である。
上記の含有量とすることで、細胞間の接着強化の効果がより発揮される。
【0013】
本発明は、上記細胞間接着因子の発現増大剤を含む、細胞間接着因子の発現を増大させるための皮膚外用剤にも関する。
本発明の皮膚外用剤は、細胞間接着因子の発現量を促進し、細胞間接着を強化することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の細胞間接着因子の発現増大剤は、細胞間接着因子の発現を向上させることができる。また、本発明の細胞間接着因子の発現増大剤は、細胞間の接着を強化することで、細胞間接着の低下に起因する上皮組織のバリア機能の低下、及びむくみ等の疾患を予防又は改善する効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】試験例1における、アケビ抽出物をリンパ管内皮細胞に添加し、添加後2日目のZO-1タンパク質発現を示す、免疫組織染色写真である。写真中のスケールバーは100μmである。
図2】試験例1における、アケビ抽出物をリンパ管内皮細胞に添加し、添加後5日目のZO-1タンパク質発現を示す、免疫組織染色写真である。写真中のスケールバーは100μmである。
図3図1の免疫組織染色画像から、ZO-1タンパク質の染色部分を抽出し、染色面積を算出したグラフである。
図4図2の免疫組織染色画像から、ZO-1タンパク質の染色部分を抽出し、染色面積を算出したグラフである。
図5】試験例2における、アケビ抽出物を血管内皮細胞に添加し、添加後5日目のZO-1タンパク質発現を示す、免疫組織染色写真である。
図6】試験例2における、アケビ抽出物を血管内皮細胞に添加し、添加後7日目のZO-1タンパク質発現を示す、免疫組織染色写真である。
図7図5の免疫組織染色画像から、ZO-1タンパク質の染色部分を抽出し、染色面積を算出したグラフである。
図8図6の免疫組織染色画像から、ZO-1タンパク質の染色部分を抽出し、染色面積を算出したグラフである。
図9】試験例3における、アケビ抽出物を配合した化粧水、又は前記抽出物を未配合の化粧水を添加した場合における、リンパ管内皮細胞のZO-1タンパク質発現を示す免疫組織染色写真である。
図10】試験例3における、アケビ抽出物を配合した化粧水、又は前記抽出物を未配合の化粧水を添加した場合における、血管内皮細胞のZO-1タンパク質発現を示す免疫組織染色写真である
【発明を実施するための形態】
【0016】
(1)アケビ科(Lardizabalaceae)アケビ属(Akebia)に属する植物の抽出物
本発明の細胞間接着因子の発現増大剤は、アケビ科(Lardizabalaceae)アケビ属(Akebia)に属する植物の抽出物(以下、単にアケビ抽出物ともいう)を含む。
前記アケビ科(Lardizabalaceae)アケビ属(Akebia)に属する植物としては、アケビ(Akebia quinata)及び/又はミツバアケビ(Akebia trifoliata)が特に好ましく挙げられる。
【0017】
アケビ属に属する植物の抽出部位は、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、葉部、茎部、花部、果実部、根部などが挙げられるが、これらの中でも、特に茎部が好ましい。
【0018】
抽出に際して、アケビ属に属する植物の抽出部位又はその乾燥物は、予め、粉砕或いは細切して抽出効率を向上させるように加工することが好ましい。抽出部位の乾燥は、天日で行ってもよいし、通常使用されている乾燥機を用いて行ってもよい。
【0019】
抽出は、常圧、若しくは加圧、減圧下で、室温、冷却又は加熱した状態で抽出溶媒に浸漬させて抽出する方法、水蒸気蒸留などの蒸留法を用いて抽出する方法並びに抽出部位を圧搾して抽出物を得る圧搾法などが例示され、これらの方法を単独で、又は2種以上を組み合わせて抽出を行うこともできる。
【0020】
浸漬によって抽出する場合、アケビ属に属する植物の植物体、地上部、根茎部、及び/又は種子の乾燥物1質量部に対して溶媒を1~30質量部加え、室温であれば数日間、溶媒の沸点付近の温度であれば数時間浸漬することにより行うことができる。浸漬後は、室温まで冷却し、所望により不要物を除去した後、溶媒を減圧濃縮等により除去すればよい。しかる後、シリカゲルやイオン交換樹脂を充填したカラムクロマトグラフィーなどで分画精製して、所望の抽出物を得ることができる。
【0021】
抽出溶媒としては、極性溶媒が好ましく、水、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール及びブタノール等のアルコール類、1,3-ブチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びグリセリン等の多価アルコール類、アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン類、並びにジエチルエーテル及びテトラヒドロフラン等のエーテル類から選択される1種又は2種以上が好適に例示でき、中でも水、又は1,3-ブチレングリコール等を用いて抽出することが好ましい。
このようにして得られた抽出物、又はこれを適宜濃縮したものを本発明の細胞間接着促進因子の発現増大剤とすることができる。
【0022】
また、アケビ抽出物は、市販のものを用いることができ、これを本発明の細胞間接着促進因子の発現増大剤とすることができる。例えば、「アケビア(登録商標)エキスBG(日油株式会社製)」を用いることができる。
【0023】
本発明の細胞間接着因子の発現増大剤全量に対し、アケビ抽出物の含有量は、乾燥質量を基準として、好ましくは0.2~4.0質量%であり、より好ましくは0.3~2.0質量%であり、さらに好ましくは0.5~1.3質量%である。
【0024】
(2)細胞間接着因子
細胞間接着因子とは、細胞-細胞間の接着を構成するタンパク質である。本発明における細胞間接着因子としては、細胞間のタイトジャンクション関連因子が好ましく例示でき、例えば、タイトジャンクションの骨格タンパク質であるクローディン、オクルディンや、これらのタンパク質と結合し、裏打ち構造を形成するタイトジャンクションタンパク質(Zonula occludens protein)が挙げられる。
【0025】
タイトジャンクションタンパク質としては、Zonula occludens protein-1(ZO-1)、Zonula occludens protein-2(ZO-2)、及びZonula occludens protein-3(ZO-3)が挙げられる。本発明の細胞間接着因子の発現増大剤は、特にZO-1の発現増大作用に優れる。
【0026】
また、本発明の細胞間接着因子の発現増大剤は、上皮組織における細胞間接着因子の発現を促進する効果を有する。本発明は、上皮組織のうち、特に血管又はリンパ管の細胞における細胞間接着因子の発現を向上する効果に優れる。
【0027】
(3)剤形
本発明の細胞間接着因子の発現増大剤は、細胞間接着因子の発現増大剤を原液で体内投与等により利用しても良いし、細胞間接着因子の発現増大剤を任意の濃度に希釈して利用してもよい。また、本発明の細胞間接着因子の発現増大剤は、製剤化に用いられる任意の成分と適宜組み合わせて配合することにより、皮膚外用剤又は経口剤の形態とすることができる。
本発明においては、細胞間接着因子の発現増大剤を含む皮膚外用剤の形態とすることが好ましい。
【0028】
皮膚外用剤としては、例えば、化粧料、医薬部外品、皮膚外用医薬等の形態が挙げられ、日常的に使用できることから、化粧料、医用部外品がより好ましい。また、それらの剤形は特に制限されない。
化粧料として利用する場合には、ローション剤、乳化剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤等の形態とすることが好ましい。より具体的には、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、パック、ヘアクリーム、スプレー等の形態が挙げられ、特に化粧水、乳液又はクリームの形態とすることが好ましい。
【0029】
本発明の細胞間接着因子の発現増大剤を経口剤として利用する場合には、本発明の細胞間接着因子の発現増大剤を有効成分として含む食品用組成物の形態とすることが好ましい。より具体的には、一般食品、錠剤、顆粒剤、ドリンク剤等の剤形を有するサプリメントの形態とすることが好ましい。
【0030】
本発明の細胞間接着因子の発現増大剤を、皮膚外用剤として使用する場合、本発明の細胞間接着因子の発現増大剤は、皮膚外用剤全量に対し、好ましくは0.0001質量%~10質量%、より好ましくは、0.001質量%~5質量%、さらに好ましくは、0.01質量%~3質量%含有することができる。植物抽出物の溶媒除去物(乾燥物)を使用する場合は、皮膚外用剤全量に対し、好ましくは0.0000001質量%~10質量%、より好ましくは、0.0001質量%~5質量%、さらに好ましくは、0.001質量%~3質量%含有することができる。上記下限値以上であれば、本発明の皮膚外用剤の効果が発揮され、上限値以下であれば効果の頭打ちを避けることができると考えられる。
【0031】
(4)その他の成分
以下、化粧料等の皮膚外用剤に適用される場合、皮膚外用剤中に含有させることができる成分について説明する。例えば、炭化水素類、エステル類、トリグリセライド類、脂肪酸、高級アルコール等の油性成分、アニオン界面活性剤類、両性界面活性剤類、カチオン界面活性剤類、非イオン界面活性剤類等の界面活性剤、多価アルコール類、増粘・ゲル化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色剤、防腐剤、粉体等を任意に配合することができる。
また、本発明の細胞間接着因子の発現増大剤の効果を妨げない限り、本発明の細胞間接着因子の発現促進剤以外の有効成分を含有してもよい。有効成分としては、特に限定されないが、美白成分、シワ改善成分、抗炎症成分、動植物由来の抽出物等が挙げられる。
【0032】
本発明の皮膚外用剤は、本発明の細胞間接着因子の発現促進剤と、上記に記載の任意成分等を常法により処理することにより調製することができる。
【0033】
本発明の細胞間接着因子の発現増大剤は、細胞の細胞間接着に起因する疾患、皮膚状態の悪化の予防又は改善の用途で用いることができ、特に細胞間のタイトジャンクションの脆弱化に伴う上皮細胞又は内皮細胞のバリア機能低下に起因する疾患、皮膚状態の悪化等に対し、好適に用いることができる。
【0034】
また、本発明の細胞間接着因子の発現増大剤は、血管又はリンパ管の細胞間接着を強化することで、管構造の不安定化に起因する体液の漏出による様々な疾患、例えば、むくみ等の予防又は改善の用途で用いることができる。
【実施例0035】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の例示であり、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0036】
<試験例1>アケビ抽出物を用いた、リンパ管内皮細胞におけるタイトジャンクション関連因子の発現解析
(1)細胞の調製
凍結したリンパ管内皮細胞(HLEC)を、Endothelial Cell Medium 内皮細胞用培地(コスモバイオ株式会社製)を含むフラスコに播種し、培養を行った。翌日培地交換を行い、その5日後、4wellスライドチャンバーへ播種し、培養を継続した。
新たな内皮細胞用培地にアケビ抽出物(アケビア(登録商標)エキスBG(日油株式会社製)を0.5%、0.25%、0.125%(乾燥質量で、それぞれ0.004、0.002、0.001%)の濃度となるように添加した。スライドチャンバーへ播種してから2日後に、前記抽出物を添加した培地にリンパ管内皮細胞を移してさらに培養し、抽出物添加培地に移動させてから2日後、及び5日後にリンパ管内皮細胞を回収した。コントロールとしては、アケビ抽出物を未添加の培養液を添加し、同様の手順で培養したものを用いた。
【0037】
(2)細胞の固定及び免疫組織染色
回収したリンパ管内皮細胞をPBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで固定した。0.5%TritonX-100を含むPBSを添加し10分間培養することで透過処理を行い、さらに10%ブロックエースで30分間ブロッキングを行った。
【0038】
続いて、以下の抗体を用いて免疫組織染色を行った。すなわち、リンパ管内皮細胞をPBSで洗浄後、一次抗体を添加して4℃で一晩培養した。再びPBSで洗浄後、二次抗体を添加して30分間培養した。Dapi-Fluoromount-G(登録商標)(Southern Biotechnology Associates,Inc.)を用いて、核染色及びスライド封入を行った。得られたリンパ管内皮細胞について蛍光顕微鏡を用いて観察し、解析用に画像を取得した。アケビ抽出物添加後2日目の結果を図1に、5日目の結果を図2に示す。
(抗体)
・一次抗体:Rabbit anti ZO-1(10%ブロックエースで200倍希釈したもの)
・二次抗体:Alexa 488(10%ブロックエースで250倍希釈したもの)
【0039】
(3)タイトジャンクション関連因子の発現解析
蛍光顕微鏡を用いて撮影された画像から、Image Jを用いてZO-1タンパク質染色部分を抽出し、画像中におけるZO-1タンパク質の染色部分の面積の割合を細胞間接着の染色面積(%)として算出した。結果を図3及び4に示す。
【0040】
(4)結果
図1~4より、アケビ抽出物を0.5%含む培地で培養した場合には、前記抽出物を未添加の場合と比して、前記抽出物の添加後2日目及び5日目の何れにおいてもZO-1タンパク質の発現が増加していることが分かった。また、アケビ抽出物を0.125%、0.25%含有する培地で培養した場合には、前記抽出物の添加後5日目にZO-1タンパク質の発現の増加が確認された。
したがって、アケビ抽出物には、タイトジャンクション関連因子の発現増加に起因する、リンパ管細胞の細胞間接着強化作用を有することが明らかとなった。
【0041】
<試験例2>アケビ抽出物を用いた、血管内皮細胞におけるタイトジャンクション関連因子の発現解析
(1)細胞の調製
凍結した正常ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC、Lot:05004)を、正常ヒト血管内皮細胞増殖用低血清液体培地(HuMedia-EG2)(倉敷紡績株式会社製)を含むフラスコに播種し、培養を行った。翌日培地交換を行い、その3日後、4wellスライドチャンバーへ播種し、培養を継続した。
新たな正常ヒト血管内皮細胞増殖用培地にアケビ抽出物(アケビア(登録商標)エキスBG(日油株式会社製)を0.5%、0.25%、0.125%(乾燥質量で、それぞれ0.004、0.002、0.001%)の濃度となるように添加した。スライドチャンバーへ播種してから2日後に、前記抽出物を添加した培地にリンパ管内皮細胞を移してさらに培養し、抽出物添加培地に移動させてから5日後、及び7日後にリンパ管内皮細胞を回収した。コントロールとしては、アケビ抽出物を未添加の培養液を添加し、同様の手順で培養したものを用いた。
【0042】
(2)細胞の固定及び免疫組織染色
上記試験例1(2)と同様の手順で、血管内皮細胞における免疫組織染色を行った。アケビ抽出物を添加後5日目の蛍光写真を図5に、7日目の蛍光写真を図6に示す。
【0043】
(3)タイトジャンクション関連因子の発現解析
上記試験例1(3)と同様に、図5及び図6の画像を用いてImage Jにより画像中におけるZO-1タンパク質の染色部分の面積の割合を細胞間接着の染色面積(%)として算出した。結果を図7及び8に示す。
【0044】
(4)結果
図5~8より、0.125%、0.25%、0.5%の何れの濃度のアケビ抽出物を含む場合であっても、前記抽出物を未添加の場合と比して、前記抽出物の添加後5日目及び7日目の何れにおいてもZO-1タンパク質の発現が増加していることが分かった。
したがって、アケビ抽出物は、血管内皮細胞においても、タイトジャンクション関連因子の発現増加に起因する細胞間接着強化作用を発揮することが明らかとなった。
【0045】
<試験例3>アケビ抽出物を有効成分とする化粧水を用いた、タイトジャンクション関連因子の評価
(1)化粧水の製造
以下に示す処方に従って、皮膚外用剤である化粧水を作製した。即ち、処方成分を80℃ に加熱し、攪拌、可溶化した後に、攪拌冷却して実施例1の化粧水を得た。また、下記のアケビ抽出物を等量の水に替えた比較例1(アケビ抽出物を未添加)も作製した。
【0046】
【表1】
【0047】
(2)タイトジャンクション関連因子の評価
(2-1)細胞の調製
(リンパ管内皮細胞の培養)
凍結したリンパ管内皮細胞(HLEC、試験例1(1)と同様)を、Endothelial Cell Medium 内皮細胞用培地(コスモバイオ株式会社製)を含むフラスコに播種し、培養を行った。翌日培地交換を行い、その5日後、4wellスライドチャンバーへ播種し、培養を継続した。
新たな内皮細胞用培地に実施例1又は比較例1を32倍希釈となるように添加し、化粧水含有培地とした。スライドチャンバーへ播種してから2日後に、各化粧水含有培地にリンパ管内皮細胞を移してさらに培養し、各化粧水含有培地に移動させてから5日後にリンパ管内皮細胞を回収した。
【0048】
(血管内皮細胞の培養)
凍結した正常ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC、試験例2(1)と同様)を、正常ヒト血管内皮細胞増殖用低血清液体培地(HuMedia-EG2)(倉敷紡績株式会社製)を含むフラスコに播種し、培養を行った。播種3日後、4wellスライドチャンバーへ播種し、培養を継続した。
新たな正常ヒト血管内皮細胞増殖用培地に実施例1又は比較例1を32倍希釈となるように添加し、希釈培地とした。スライドチャンバーへ播種してから2日後に、各希釈培地に血管内皮細胞を移してさらに培養し、各希釈培地に移動させてから7日後に血管内皮細胞を回収した。
【0049】
(2-2)細胞の固定及び免疫組織染色
回収したリンパ管内皮細胞又は血管内皮細胞をPBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで固定した。0.5%TritonX-100を含むPBSを添加し10分間培養することで透過処理を行い、さらに10%ブロックエースで30分間ブロッキングを行った。
【0050】
続いて、試験例1(2)と同様の抗体を用いて免疫組織染色を行った。すなわち、リンパ管内皮細胞又は血管内皮細胞をPBSで洗浄後、一次抗体を添加して4℃で一晩培養した。再びPBSで洗浄後、二次抗体を添加して30分間培養した。Dapi-Fluoromount-G(登録商標)(Southern Biotechnology Associates,Inc.)を用いて、核染色及びスライド封入を行った。得られた細胞について蛍光顕微鏡を用いて観察し、解析用に画像を取得した。リンパ管内皮細胞を用いた場合の蛍光写真を図9に、血管内皮細胞を用いた場合の蛍光写真を図10に示す。
【0051】
(3)結果
図9及び10より、リンパ管内皮細胞及び血管内皮細胞の何れにおいても、アケビ抽出物を含む実施例1を添加した場合は、当該抽出物を含まない比較例1を添加した場合と比して、ZO-1タンパク質の発現が増加していることが分かった。
したがって、アケビ抽出物を配合した化粧水は、リンパ管細胞及び血管内皮細胞において、タイトジャンクション関連因子の発現増加に起因する細胞間接着強化作用を有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、医薬品及び化粧料等に応用できる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10