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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022077608
(43)【公開日】2022-05-24
(54)【発明の名称】作業環境監視システム並びに方法
(51)【国際特許分類】
   G21C 17/00 20060101AFI20220517BHJP
   G21F 9/00 20060101ALI20220517BHJP
   G21F 9/28 20060101ALI20220517BHJP
   G01T 1/16 20060101ALI20220517BHJP
   G01T 1/167 20060101ALI20220517BHJP
   G01T 1/00 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
G21C17/00 500
G21F9/00 Z
G21F9/28 A
G01T1/16 A
G01T1/167 C
G01T1/167 G
G01T1/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020188478
(22)【出願日】2020-11-12
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】上野 克宜
(72)【発明者】
【氏名】平野 克彦
(72)【発明者】
【氏名】鳥谷部 祐
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮介
【テーマコード(参考)】
2G075
2G188
【Fターム(参考)】
2G075BA03
2G075CA50
2G075DA08
2G075FA18
2G075FB09
2G075FC06
2G075GA35
2G075GA37
2G188AA07
2G188AA09
2G188AA19
2G188BB17
2G188EE21
2G188JJ06
(57)【要約】
【課題】物品移動に伴う線量推移を予測し計画修正に反映することで予防的に危険を回避可能な作業環境監視システム並びに方法を提供する。
【解決手段】1つ以上の高線量率物品を物品取り出し作業計画に従って施設内を移動させ作業を行うための作業環境監視システムであって、高線量率物品の線量率を計測する局所線量率計測装置と、物品を物品取り出し作業計画に従って施設内を移動させたときに、1つ以上の高線量率物品を対象とするそれぞれの局所線量率計測装置で計測した線量率を用いて施設内に設定された線量率監視点における線量率を推定する線量率分布計測装置と、推定した線量率監視点における線量率が予め設定された許容線量率を超過しないように、物品取り出し作業計画を修正することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高線量率物品を物品取り出し作業計画に従って施設内を移動させ作業を行うための作業環境監視システムであって、
1つ以上の高線量率物品の線量率を計測するそれぞれの局所線量率計測装置と、前記物品を前記物品取り出し作業計画に従って前記施設内を移動させたときに、1つ以上の高線量率物品を対象とするそれぞれの前記局所線量率計測装置で計測した線量率を用いて前記施設内に設定された線量率監視点における線量率を推定する線量率分布計測装置と、推定した前記線量率監視点における線量率が予め設定された許容線量率を超過しないように、前記物品取り出し作業計画を修正することを特徴とする作業環境監視システム。
【請求項2】
請求項1に記載の作業環境監視システムであって、
前記線量率監視点は、作業員が作業する作業エリア、あるいは前記施設内と外部の敷地境界であることを特徴とする作業環境監視システム。
【請求項3】
請求項1に記載の作業環境監視システムであって、
前記局所線量率計測装置は、前記高線量率物品に取り付けられ、あるいは前記高線量率物品の近傍に配置された局所放射線検出器からの信号を用いて線量率を計測することを特徴とする作業環境監視システム。
【請求項4】
請求項1に記載の作業環境監視システムであって、
前記線量率分布計測装置は、前記高線量率物品を線源とし、前記高線量率物品と前記線量監視点間の減衰を考慮して前記施設内に設定された線量率監視点における線量率を時系列的に推定することを特徴とする作業環境監視システム。
【請求項5】
請求項1に記載の作業環境監視システムであって、
前記施設内各所に設けたエリアモニタにより線量率を計測し、
前記線量率分布計測装置は、前記高線量率物品を線源とし、前記エリアモニタが計測した線量率と前記高線量率物品と前記線量監視点間の減衰を考慮して前記施設内に設定された線量率監視点における線量率を時系列的に推定することを特徴とする作業環境監視システム。
【請求項6】
高線量率物品を物品取り出し作業計画に従って施設内を移動させ作業を行うための作業環境監視方法であって、
高線量率物品の線量率を計測し、前記物品を前記物品取り出し作業計画に従って前記施設内を移動させたときに、複数個所で計測した線量率を用いて前記施設内に設定された線量率監視点における線量率を推定し、推定した前記線量率監視点における線量率が予め設定された許容線量率を超過しないように、前記物品取り出し作業計画を修正することを特徴とする作業環境監視方法。
【請求項7】
請求項6に記載の作業環境監視方法であって、
前記施設内に設定された線量率監視点における線量率を時系列的に推定することを特徴とする作業環境監視方法。
【請求項8】
請求項6に記載の作業環境監視方法であって、
推定した前記線量率監視点における線量率が予め設定された許容線量率を超過し、この前記線量監視点の近くに複数の高線量率物品が存在するとき、前記複数の高線量率物品が前記線量率監視点の近くを移動する時刻をずらすことを特徴とする作業環境監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高線量率物品が施設内各所に存在する環境内の限られた作業エリアにおける作業環境を監視するための作業環境監視システム並びに方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントや放射線医療設備、放射性物質を取り扱う施設においては、必要に応じて放射線管理区域を設けることで、作業従事者の被ばく線量を管理している。このような施設における放射線管理区域内においては、従来から放射性物質や放射性物質が付着した物品を取り扱う高線量率物品施設内作業においては、作業員の被ばくを低減するための各種対策が実行されている。最も基本的な対策は、放射線源となる物品(以降は高線量率物品と記載する)との距離を取ることや接近する時間を短くすること、対象となる放射線の特性に基づいた遮蔽物質を設けることなどが挙げられる。
【0003】
これらの対策は1つ1つの単体作業において考慮されるものであり、複数の作業で構築される工事においては、複数の単体作業において対策される。このような作業の一例として、原子力プラントや放射線医療設備、放射性物質を取り扱う施設の解体工事が挙げられる。特許文献1では、解体工程において、作業員の被ばく歴と被ばく見積結果に基づいて、作業員の従事する作業工程を含む解体工程を作成する工程生成処理部を備えるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6588732号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高線量率物品を取り扱う施設内では、安全に作業できる作業エリアを設定し、作業員はその作業エリア内で作業する。このような施設内には高線量率物品を保管するエリアが備えられており、保管時にはこれら高線量率物品による作業員の被ばくは最低限に抑えることができる。高線量率物品を保管場所から他施設へ移動させる作業においては、施設内移動を実施するための各種単体作業を実施しながら、高線量率物品を逐次施設内移動させる。
【0006】
この場合に、高線量率物品の施設内移動は物品取り出し作業計画に則って行われているわけであるが、その場合であっても高線量率物品取り扱いによって作業エリアやその周辺の線量率分布は時々刻々と変化する。かつ複数エリアで同時間帯にそれぞれ取り扱われる高線量率物品の取り扱い一連作業の影響で、敷地境界線量や作業員被ばくの管理の上で問題となりうる線量率分布の形成を回避可能で信頼性の高い物品取り扱い流通スケジュールを計画及び更新する必要がある。
【0007】
以上のことから本発明においては、物品移動に伴う線量率推移を予測し計画修正に反映することで予防的に危険を回避可能な作業環境監視システム並びに方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上のことから本発明においては、1つ以上の高線量率物品を物品取り出し作業計画に従って施設内を移動させ作業を行うための作業環境監視システムであって、1つ以上の高線量率物品の線量率を計測するそれぞれの局所線量率計測装置と、物品を物品取り出し作業計画に従って施設内を移動させたときに、1つ以上の高線量率物品を対象とするそれぞれの局所線量率計測装置で計測した線量率を用いて施設内に設定された線量監視点における線量率を推定する線量率分布計測装置と、推定した線量率監視点における線量率が予め設定された許容線量率を超過しないように、物品取り出し作業計画を修正することを特徴とする。
【0009】
また本発明においては、1つ以上の高線量率物品を物品取り出し作業計画に従って施設内を移動させ作業を行うための作業環境監視方法であって、1つ以上の高線量率物品の線量率を計測し、物品を物品取り出し作業計画に従って施設内を移動させたときに、1つ以上の高線量物品を対象に計測された線量率を用いて施設内に設定された線量率監視点における線量率を推定し、推定した線量率監視点における線量率が予め設定された許容線量率を超過しないように、物品取り出し作業計画を修正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
物品移動に伴う線量率推移を予測し計画修正に反映することで予防的に危険を回避可能な作業環境監視システム並びに方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明が適用される施設内の建屋、物品の配置例を示す図。
図2】局所線量率計測装置の構成例を示す図。
図3】局所線量率計測装置の他の構成例を示す図。
図4】放射線管理上は好ましくない物品取り出し作業計画の一例を示す図。
図5】線量率管理上避けたい流通例と線量率管理に基づいた流通例を示した。
図6】見直しにより作成された線量率超過を回避する新しい物品取り出し作業計画例を示す図。
図7】本発明に係る作業環境監視方法の処理フローを示す図。
図8】線量率分布計測方法の一例として、距離関数を用いた例を示す図。
図9】実施例2に係る局所線量率計測手法例を示す図。
図10】実施例2に係る線量率分布計算手法を示す図。
図11】実施例2に係る作業環境監視システムの構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例について、図面を用いて説明する。
【実施例0013】
図1は、本発明が適用される施設内の建屋、物品の配置例を示す図である。この図において、1は高線量率物品を取り扱う施設内であり、施設内各所には建物B(BA、BB、BC、BD、BE)あるいは作業員が作業を行う作業エリアS(SA、SB、SC)が存在している。係る施設内では、内部作業者の被ばく管理、あるいは外部に対する被ばく管理の観点から、施設内と外部の境界や作業エリアごとに許容線量Xとして、例えば外部境界についてXO(μSv/h)、作業エリアについてそれぞれXA、XB、XC(μSv/h)が設定され、これを順守するように管理がなされている。また施設内の適宜個所にはエリアモニタM(M1からM8)が固定設置されており、当該箇所での線量率を計測し、監視している。
【0014】
これに対し、環境中の線量率の変動要因である高線量率物品P(PA、PB、PC、PD、PE:以下取り出し物品という)は、施設内の何処かに留め置かれるのではなく、物品取り出し作業計画に従って、移動させる。例えば、取り出し物品PAは当面建屋BA内に留め置かれるが、取り出し物品PB、PB、PC、PD、PEは現在の屋外位置から、それぞれ建屋BC、BD、BEに搬送されることがその作業時期のデータとともに施設内における物品取り出し作業計画に記述されている。
【0015】
このため物品取り出し作業計画次第では、複数の取り出し物品Pが作業エリアSの近傍で近距離に配置され、作業エリアの線量率に影響を与えるような状況も発生し得、このことから本発明では係る接近状態での線量率を推定し、適宜係る接近状態を避けるように施設内における物品取り出し作業計画を変更させようとしている。
【0016】
本発明では最初に、取り出し物品Pの線量率を計測すべく、取り出し物品の近傍(周囲や内部)に計測器を配置する。局所線量率計測装置の構成例を示す図2の例では、取り出し物品P自体に局所放射線検出器11を取り付け、有線または無線で接続した信号処理装置12とともに、局所線量率計測装置13を形成する。そのうえで、取り出し物品Pごとの複数の局所線量率計測装置13からの出力信号を線量率分布計測装置14に集約する。これにより、局所線量率計測装置13のみでは点的な線量率把握であったものを、施設内における面的分布として把握することができる。物品取り出し計画更新装置15では、作業エリアSに影響を与える接近状態での線量率を推定し、適宜施設内における物品取り出し作業計画の変更に反映させる。
【0017】
取り出し物品Pの線量率を計測する手法としては、図3に例示するように局所放射線検出器11を移動機構15に備え、移動機構15に取り出し物品Pを積載したときに局所放射線検出器11で検知した線量率を無線で信号処理装置に送るような構成の局所線量率計測装置13を構成する。このように流通経路において複数の移動機構15を使う場合には、異なる個体の局所線量率計測装置13を利用することもある。この場合には、取り出し物品Pについて、そのIDに線量率データを紐づけるのがよい。これを実現するために複数の局所線量率計測装置13の出力はこれに連動するものとする。さらに取り出し物品Pの線量を計測する手法としては、図1に示した施設内各所のエリアモニタを利用することもできる。
【0018】
図4は、放射線管理上は好ましくない物品取り出し作業計画の一例を示す図である。ここの計画PL1では、取り出し物品PAを建屋BAに長期間留め置き、建屋BAにある取り出し物品PBを外部に取り出し、その後建屋BCに移し、さらに外部に取り出して最終的に建屋BDに移す。また建屋BBにある取り出し物品PCを外部に取り出し、その後建屋BCに移し、さらに外部に取り出して最終的に建屋BEに移すというものである。図4の物品取り出し作業計画PL1は、初期段階における物品取り出し作業計画ということができる。
【0019】
各場所における時間配分は図示したとおりであり、図1の施設内構成において作業員が所在する作業エリアと各取り出し物品Pのおかれる場所及びそこに置かれる時間によっては、作業エリアにおける線量率が大きくなることが考えられる。特に、複数の取り出し物品Pが作業エリアの近傍に長時間置かれる物品取り出し作業計画の場合に、その影響が顕著となる。なおこの図では、外部の特定の個所に留め置かれるということばかりではなく、建屋間をゆっくり移動している通過過程をも想定している。
【0020】
図5は、線量率管理上避けたい流通例と線量率管理に基づいた流通例を示したものであり、図5の左側に示した線量率管理上避けたい流通例によれば、例えば図4の期間T1前後のときに、取り出し物品PA、PB、PCと作業エリアSAとの間の距離を示している。この例では取り出し物品PAとの距離は一定であるが、取り出し物品PBとPCは、ともにこの期間に作業エリアSAに近い位置に置かれることになり、結果として作業エリアSAの管理すべき線量率はそのしきい値を超過することが想定される。
【0021】
このように図4に図示の例では、取り出し物品PBと取り出し物品PCが、その移動中に共に作業エリアSAに近づいた期間T1での線量率の大きさが管理しきい値を超過する状態を示している。また図示の例では、期間T2において敷地境界線量の大きさが管理しきい値を超過する状態を示している。
【0022】
これに対し本発明では、当初の物品取り出し作業計画を用いて、この計画の時の管理すべき各所における線量率の大きさを推定し、図4の期間T1、T2のような状態が発生することを確認し、この場合には、当初の物品取り出し作業計画を見直し、線量率超過を回避する新しい物品取り出し作業計画を作成するというものである。
【0023】
図5の右側に示した線量率管理に基づいた流通例によれば、例えば図4の期間T1前後のときに、取り出し物品PBを先に作業エリアに近づけ、その通貨後に取り出し物品PCを作業エリアに近づけている。これにより結果として、作業エリアSAの管理すべき線量率は取り出し物品Pの通過の都度高い値を示すことにはなるが、その合計値がそのしきい値を超過することが回避される。
【0024】
図6は、見直しにより作成された線量率超過を回避する新しい物品取り出し作業計画例PL2を示す図である。この例では先行して取り出し物品PBを建屋BCに移し、その後取り出し物品PCを建屋BCから外に出し、取り出し物品PBを建屋BCが建屋BDに移すために再度外に出されたタイミングで、取り出し物品PBを建屋BCに入れるように、計画を見直したものである。
【0025】
図7は、本発明に係る作業環境監視方法の処理フローを示す図である。この図7の処理は、図2の局所線量率計測装置13における処理である処理ステップS1と、線量率分布計測装置14における処理である処理ステップS2と、物品取り出し計画更新装置15における処理である処理ステップS3に分けて把握することができる。なお処理ステップS3での処理は、時間経過的にS3AとS3Bの2段階に分けて順次実行される。
【0026】
処理ステップS1は、取り出し物品Pの線量率を計測すべく、取り出し物品の近傍(周囲や内部)に計測器を配置する処理ステップS11と、局所線量率を計測する処理ステップS12とで構成され、この処理を施設内1に保有するすべての取り出し物品Pに対して行う。
【0027】
次に処理ステップS3での処理が実行されるが、ここでの処理は、時間経過的にはS3AとS3Bの2段階に分けて順次実行され、その前段処理S3Aの処理ステップS31において初期段階における物品取り出し作業計画PL1を作成する。ここで作成される初期段階物品取り出し作業計画PL1の例が図4に示されているように、これは横軸の各時刻のときに、すべての取り出し物品Pが施設内のどの位置に置かれているかを示したものである。従って、この前提としては施設内1における建屋及び作業エリアの配置情報が全て把握されている。
【0028】
なお配置情報としては、他の機器、機材や樹木などの位置情報も含んでいるのがよい。これらは、後述するように放射線源が監視点に及ぼす影響を推定するときに、これらの間に介在する遮蔽効果を有する物体となりえることから、遮蔽体となりえる物体の配置や遮蔽率の情報を含めて保有しておくのがよい。
【0029】
また前段処理S3Aの処理ステップS32において、線量監視点(各作業エリアSおよび施設内と外部を区分している敷地境界)における許容線量率を設定しておく。これらは、どの線量監視点も一律に同じ値となるわけではなく、個別条件を勘案して適宜可変に設定される。
【0030】
線量率分布計測装置14に対応する処理ステップS2の処理では、最終的に処理ステップS23において線量率分布を計算する。なおこの場合に、線量率分布は必ずしも施設内全域に対して求める必要はなく、少なくとも線量監視点として設定した各作業エリアS、および施設内1と外部を区分している敷地境界における線量率分布が求められれば良い。また線量率分布は、必ずしも作業エリアSの全域に対して求める必要はなく、例えば作業エリア内に代表監視点を設定してもよい。なお代表監視点とする場合には、取り出し物品Pの移動に応じた作業エリア内の最も近い位置であり、影響を強く受ける位置とするのがよい。従ってこのときには、取り出し物品Pの移動に応じて代表監視点の位置も移動するようにするのがよい。
【0031】
線量率分布を計算する手法には、種々のものがあり、本発明はいずれの手法を採用するものであってもよい。処理ステップS21と、S22の例では、モデルを作成して行うことを例示している。ここでは処理ステップS21において、流通計画のうち、取り出し物品の各配置と線量率分布の関係を示す構成エリアモデルを作成し、処理ステップS22において、取り出し物品Pごとにこれを放射線源とする線源モデルを作成する。これらモデルの組み合わせからすべての作業エリアにおける線量率の時間推移を作成する。
【0032】
図8には、線量率分布計測(あるいは解析)方法の一例として、距離関数とする(1)式により求めることについて説明している。ただし、ここでの前提は取り出し物品Pを点線源として取り扱うことであり、この式においてDは測定線量率、Aはパラメータ変換係数であり、空気遮蔽のみを考慮している。
[数1]
D=D*A/r-2 (1)
図8の左は、横軸に時間を取り、一つの物品と作業エリアとの距離rが時間的に変化して、近づいた後に離れた場合の線量率が増加後減少する様子を示している。図8の右には、係る時系列の特定の時刻t1に着目した時の取り出し物品から作業エリアまでの距離rと取り出し物品における線量率Dの関係をログスケールで示したものである。これによれば、線量率Dは距離rの二乗に比例して小さくなるが、区間r1とr2には何らかの構造物があり、その遮蔽効果により単なる空間よりも大きな遮蔽効果が生じている結果、線量率の低下が大きいことを表している。
【0033】
この関係が予め判明していれば、一つの物品により作業エリアがうける線量が判明し、かつ時系列的な距離の変動を含めて考慮することで、作業エリアがうける線量の時間的な変化が求められる。さらに、他の一つの物品により作業エリアがうける線量の時間的な変化も同様の求めることができ、最終的にすべての取り出し物品Pによる1か所の作業エリアがうける線量の時間的な変化が求められる。同様にして他の作業エリアに対しても求めることができる。
【0034】
なお上記では、線量率分布計測(あるいは解析)方法の一例として、距離関数を利用したが、他の解析手法として、離散座標法(ANISN、DORT、TORT、PARTISN、SCALEコードシステム、ENSENBLE、 PALLAS、他)、モンテカルロ法(MCNP、PHITS、GIANT、MVP、他)などを利用した線量率解析手法が適用可能である。
【0035】
図7に戻り、物品取り出し計画更新装置15における処理である処理ステップS3の後段処理S3Bでは、初期段階における物品取り出し作業計画PL1を修正して修正後物品取り出し作業計画PL2を作成する。
【0036】
例えば具体的には、処理ステップS33において処理ステップS32で設定された許容線量率と処理ステップS23で求めた作業エリアでの線量率の時間経過を比較する。これは、図5左側最下段の関係を判断することであり、処理ステップS34の判断で閾値超過が生じていない場合には処理ステップS31に戻り、初期段階における物品取り出し作業計画PL1の内容のままとしこれを変更しない。処理ステップS34の判断で閾値超過が生じている場合には処理ステップS35に移り、初期段階における物品取り出し作業計画PL1を修正して、修正後物品取り出し作業計画PL2を作成する。
【0037】
修正後物品取り出し作業計画PL2を作成する上での考え方は種々あるが、一つのやり方は複数の取り出し物品Pが特定の作業エリアに接近したことに原因があることから、作業エリアに接近することはやむを得ないとしても、時間差をつけた接近を許容することとすることである。図5右には、取り出し物品PBが接近した後に取り出し物品PCが接近するような時間差移動をするように物品取り出し作業計画PL1を修正したものである。
【0038】
以上述べた本発明によれば、新たな物品取り出し作業計画による物品の取り扱いが行われることになり、環境監視点における線量率順守が可能となる。
【実施例0039】
実施例2では、図2の局所放射線検出器11の他に図1の施設内1の各所に取り付けられたエリアモニタMの検出値も加味した計測並びに線量率分布算出を行うものである。
【0040】
図9は、実施例2に係る局所線量率計測手法例であり、取り出し物品P自体に局所放射線検出器11を取り付け、有線または無線で接続した信号処理装置12とともに、局所線量率計測装置13を形成するとともに、別途放射線モニタ(施設内1の各所に取り付けられたエリアモニタM)の検出値も含めて線量率の検出値として扱い、線量率分布計測装置14に集約する。
【0041】
図10は、実施例2に係る線量率分布計算手法を示す図であり、図8と同じ距離r-線量率D平面上で任意点の線量率を求めるに際し、局所放射線検出器11の検出値を線源とするとともに、エリアモニタMの設置位置に相当する箇所(距離)の線量率を基準点として特性を求めたものである。
【0042】
この実施例2では、各エリアに1台以上配置される放射線モニタの計測値を作業エリアにおける線量率決定の補助的な情報として用い、線量率分布を計測する線量率分布計測装置としたものである。これにより、測定値を増やすことで線量率分布の測定精度を向上可能であり、作業状況に適した線量率分布を測定し、物品流通計画を最適化可能である。
【実施例0043】
実施例3は、実施例1の構成を、予測機能を用いて構成したものである。図11は、予測機能を備えた作業環境監視システムの構成例を示す図である。図11作業環境監視システムでは、さらに遮蔽データベースDB1と作業進捗時間データベースDB2、線量率分布予測装置19を備えている。
【0044】
このうち遮蔽データベースDB1には、取り出し物品の周囲構造物による放射線透過率とビルドアップ係数を備えることで、作業エリアSの線量率を推定する上で図8の減衰特性をより正確に推定することが期待できる。作業進捗時間データベースDB2は、それぞれの取り出し物品を流通させる作業における作業進捗状況を逐次更新し、それぞれの取り出し物品の流通計画(配置とその時間)を備えるものであり、初期状態から逐次更新されていく物品取り出し作業計画を備えたデータベースということができる。
【0045】
線量率分布予測装置19は、局所線量率計測装置14と遮蔽データベースDB1と作業進捗時間データベースDB2の出力を組み合わせて、ある配置におけるその時間の線量率分布を予想するものであり、物品取り出し作業計画の当初時刻から完了時刻までの各時刻における演算を時系列的に順次実行させ、適宜計画修正しながら進める予測装置として機能せしめたものである。
【0046】
実施例3によれば、線量率分布の予測精度を向上可能であり、作業時間に即した線量率分布を予測可能であり、作業状況に適した線量率分布を予測し、物品流通計画を最適化可能とすることができる。
【0047】
以上説明した実施例1、実施例2、実施例3の作業環境監視システム並びに方法によれば、取り出し物品の近傍に備えた局所線量率計と、取得値を点線源の表面線量率として取り扱う線量率分布計測装置を備えることで、線量率分布の大規模計算を簡素化することができる。
【0048】
この効果は、物品取り扱い工程で予測される線量率分布に基づいて、任意に定めた許容線量率(敷地境界線量等)を満足する取り出し物品配置と流通計画を策定・更新する作業環境監視システム並びに方法を構成したことで達成されている。
【符号の説明】
【0049】
1:施設内
11:局所放射線検出器
12:信号処理装置
13:局所線量率計測装置
14:線量率分布計測装置
15:物品取り出し計画更新装置
19:線量率分布予測装置
B(BA、BB、BC、BD、BE):建物
DB1:遮蔽データベース
DB2:作業進捗時間データベース
S(SA、SB、SC):作業エリア
M(M1からM8):エリアニタ
P(PA、PB、PC、PD、PE):取り出し物品
PL1:初期段階における物品取り出し作業計画
PL2:修正後物品取り出し作業計画
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11