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特開2022-7767機械学習装置、固形物含水率測定装置、推論装置及び機械学習方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022007767
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】機械学習装置、固形物含水率測定装置、推論装置及び機械学習方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/17 20060101AFI20220105BHJP
   C02F 11/127 20190101ALI20220105BHJP
   B01D 21/26 20060101ALI20220105BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20220105BHJP
【FI】
G01N21/17 A
C02F11/127 ZAB
B01D21/26
G06T7/00 350C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020110892
(22)【出願日】2020-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】591162022
【氏名又は名称】巴工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 路明
(72)【発明者】
【氏名】荻原 徹也
【テーマコード(参考)】
2G059
4D059
5L096
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB08
2G059BB15
2G059CC09
2G059DD13
2G059EE02
2G059EE13
2G059FF01
2G059FF08
2G059KK04
2G059MM09
2G059MM10
4D059AA00
4D059BB01
4D059BE38
4D059BE54
4D059CB04
4D059CB06
4D059CB07
4D059CB30
4D059EA01
4D059EA20
4D059EB02
4D059EB11
4D059EB20
5L096CA02
5L096HA09
5L096HA11
5L096KA04
(57)【要約】
【課題】分離装置によって分離された固形物の含水率を比較的短時間で且つ高精度に測定あるいは推定すること。
【解決手段】本開示の機械学習装置20は、所定領域に配置された液体含有固形物Mを所定画角から撮像した画像データと、撮像された前記液体含有固形物Mの含水率と、を備える学習用データセットを複数組記憶するデータセット記憶ユニット22と;前記学習用データセットを複数組入力することで、前記画像データから前記含水率を推論する学習モデルを学習する学習ユニット23と;前記学習ユニット23によって学習された後の前記学習モデルを記憶する学習済モデル記憶ユニット24と;を含む。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定領域に配置された液体含有固形物を所定画角から撮像した画像データと、撮像された前記液体含有固形物の含水率と、を備える学習用データセットを複数組記憶するデータセット記憶ユニットと;
前記学習用データセットを複数組入力することで、前記画像データから前記含水率を推論する学習モデルを学習する学習ユニットと;
前記学習ユニットによって学習された後の前記学習モデルを記憶する学習済モデル記憶ユニットと;を備える、
機械学習装置。
【請求項2】
前記画像データは、前記液体含有固形物の表面が撮像できる画角から撮像することで取得されたものである、
請求項1に記載の機械学習装置。
【請求項3】
所定領域に配置された液体含有固形物を所定画角から撮像した画像データを取得するデータ取得ユニットと;
請求項1又は請求項2に記載の機械学習装置によって生成された学習済モデルに、前記画像データを入力することで、前記液体含有固形物の含水率を推論する推論ユニットと;を備える、
固形物含水率測定装置。
【請求項4】
前記液体含有固形物は、遠心分離機又は汚泥脱水機により抽出された固形物を含む、
請求項3に記載の固形物含水率測定装置。
【請求項5】
前記データ取得ユニットは、前記液体含有固形物を充填可能な所定の深さを備えるトレーと、前記トレーに充填された前記液体含有固形物の表面を平坦にするためのスクレーパと、前記トレー内の前記液体含有固形物の表面を撮像するカメラと、を備える、
請求項3に記載の固形物含水率測定装置。
【請求項6】
前記データ取得ユニットは、前記遠心分離機又は前記汚泥脱水機に接続されて前記液体含有固形物を搬送する搬送路に取り付けられて前記搬送路内を搬送される前記液体含有固形物の表面を撮像するカメラを備える、
請求項4に記載の固形物含水率測定装置。
【請求項7】
メモリと、少なくとも1つのプロセッサとを備え、
前記少なくとも1つのプロセッサは:
所定領域に配置された液体含有固形物を所定画角から撮像した画像データを取得する処理と;
前記画像データを入力すると、前記液体含有固形物の含水率を推論する処理と;を実行するように構成される、
推論装置。
【請求項8】
コンピュータを用いた機械学習方法であって、
所定領域に配置された液体含有固形物を所定画角から撮像した画像データと、撮像された前記液体含有固形物の含水率と、を備える学習用データセットを複数組記憶するステップと;
前記学習用データセットを複数組入力することで、前記画像データから前記含水率を推論する学習モデルを学習するステップと;
学習された後の前記学習モデルを記憶するステップと;を備える、
機械学習方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固形物の含水率の測定に適用可能な機械学習装置、固形物含水率測定装置、推論装置及び機械学習方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上下水、産業排水、又はし尿等の被処理液を処理する水処理設備において、圧搾や遠心力を利用して固液分離を行う、汚泥脱水機又は遠心分離機(以下、これらをまとめて「分離装置」という)が従来から用いられている。このような分離装置として、例えばデカンタ式遠心分離装置や回転加圧脱水機が知られている(下記特許文献1、2参照)。また、このような分離装置により分離された固形物を乾燥させて焼却又は廃棄処理する際、乾燥された固形物の乾燥度合いを監視等するために、固形物を撮像した撮像画像における輝度情報を用いて固形物の含水率を測定することが行われている(下記特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5442099号明細書
【特許文献2】特開2007-326011号公報
【特許文献3】特開2014-25720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1、2に記載されたような分離装置において、分離結果を評価する一指標として、被処理液から分離された固形物の含水率が用いられることがある。この含水率の値が適正な値の範囲内である場合には、良好な分離処理が実施できていると判断することができる。しかし、分離処理段階においてこの含水率に基づいて各種パラメータを特定し分離処理に反映することは、含水率の測定に要する時間や精度の観点で実現が困難であった。詳しくは、含水率の測定手法としては、例えば固形物サンプルを蒸発皿に入れて乾燥させ、前後の質量を比較する方法や、固形物サンプルに赤外線を照射して加熱乾燥させ、前後の質量を比較する赤外線分水計を用いた方法が知られている。しかし、これらの手法はその測定精度は比較的高いものの、測定途中に乾燥工程を要するため、測定に長時間(少なくとも数時間程度)を要するものである。また、含水率の測定時間を短縮しオンライン連続測定が可能な手法として、マイクロ波を用いた含水率の測定方法も知られているが、測定装置自体が高価であり、また測定精度は上述した手法に劣る。このような事情から、実際の現場においては、作業員が固形物を目視にて確認し、固形物の含水率を類推して分離装置の各種パラメータの調整を行っているのが実情である。しかしこのような調整手法は作業員の経験や技量に依存するものであるため、調整に要する時間や精度にバラツキが発生しやすい。
【0005】
本開示は上述した課題に鑑み、分離装置によって分離された液体含有固形物の含水率を比較的短時間で且つ高精度に測定あるいは推定するための、機械学習装置、固形物含水率測定装置、推論装置及び機械学習方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本開示の第1の態様に係る機械学習装置20は、例えば図4に示すように、所定領域に配置された液体含有固形物Mを所定画角から撮像した画像データと、撮像された前記液体含有固形物Mの含水率と、を備える学習用データセットを複数組記憶するデータセット記憶ユニット22と;前記学習用データセットを複数組入力することで、前記画像データから前記含水率を推論する学習モデルを学習する学習ユニット23と;前記学習ユニット23によって学習された後の前記学習モデルを記憶する学習済モデル記憶ユニット24と;を含むものである。
【0007】
このように構成すると、液体含有固形物の含水率をその液体含有固形物の画像データのみに基づいて推論可能な学習済モデルを提供することができるようになる。
【0008】
また、本開示の第2の態様に係る機械学習装置20は、例えば図2に示すように、上記第1の態様に係る機械学習装置20において、前記画像データは、前記液体含有固形物Mの表面が撮像できる画角から撮像することで取得されたものである。
【0009】
このように構成すると、液体含有固形物Mの表面を撮像するだけで、液体含有固形物の含水率の推論が可能となり、例えば液体含有固形物Mの内部の状態といった比較的撮像に設備や手間を要する画像データを準備する必要がないため、容易に取得が可能な画像データを用いた学習済モデルを生成することができる。
【0010】
また、本開示の第3の態様に係る固形物含水率測定装置30は、例えば図7に示すように、所定領域に配置された液体含有固形物Mを所定画角から撮像した画像データを取得するデータ取得ユニット31と;上述した態様に係る機械学習装置20によって生成された学習済モデルに、前記画像データを入力することで、前記液体含有固形物Mの含水率を推論する推論ユニット32と;を含むものである。
【0011】
このように構成すると、液体含有固形物の含水率の推論結果を短時間で取得することができる。また、含水率の推論に際して必要な情報は液体含有固形物の画像データのみであるため、推論結果を比較的簡単に得ることができる。
【0012】
また、本開示の第4の態様に係る固形物含水率測定装置30は、例えば図2に示すように、上記第3の態様に係る固形物含水率測定装置30において、前記液体含有固形物Mは、遠心分離機又は汚泥脱水機1により抽出された固形物を含むものである。
【0013】
このように構成すると、遠心分離機又は汚泥脱水機で抽出された固形物の含水率を短時間で推論することが可能となり、得られた含水率をこれら遠心分離機又は汚泥脱水機の制御パラメータの調整等に利用することができるようになる。
【0014】
また、本開示の第5の態様に係る固形物含水率測定装置30は、例えば図2及び図7に示すように、上記第3の態様に係る固形物含水率測定装置30において、前記データ取得ユニット31は、前記液体含有固形物Mを充填可能な所定の深さを備えるトレー16と、前記トレー16に充填された前記液体含有固形物Mの表面を平坦にするためのスクレーパ19と、前記トレー16内の前記液体含有固形物Mの表面を撮像するカメラ17と、を含む。
【0015】
このように構成すると、比較的少ない構成要素で所望の画像データを得ることができるようになる。
【0016】
また、本開示の第6の態様に係る固形物含水率測定装置30Aは、例えば図8に示すように、上記第4の態様に係る固形物含水率測定装置30Aにおいて、前記データ取得ユニット31Aは、前記遠心分離機又は前記汚泥脱水機1に接続されて前記液体含有固形物Mを搬送する搬送路7、10に取り付けられて前記搬送路7、10内を搬送される前記液体含有固形物Mの表面を撮像するカメラ17Aを含む。
【0017】
このように構成すると、比較的少ない構成要素で所望の画像データを得ることができるようになる。
【0018】
また、本開示の第7の態様に係る推論装置は、メモリと、少なくとも1つのプロセッサとを備え、前記少なくとも1つのプロセッサは:所定領域に配置された液体含有固形物を所定画角から撮像した画像データを取得する処理と;前記画像データを入力すると、前記液体含有固形物の含水率を推論する処理と;を実行するように構成される。
【0019】
このように構成すると、推論装置の形態で種々の遠心分離機や汚泥脱水機に適用すれば、含水率の推論機能を比較的簡単に具現化することができる。
【0020】
また、本開示の第8の態様に係る機械学習方法は、例えば図6に示すように、コンピュータを用いた機械学習方法であって、所定領域に配置された液体含有固形物Mを所定画角から撮像した画像データと、撮像された前記液体含有固形物Mの含水率と、を備える学習用データセットを複数組記憶するステップS11と;前記学習用データセットを複数組入力することで、前記画像データから前記含水率を推論する学習モデルを学習するステップS13~S16と;学習された後の前記学習モデルを記憶するステップS17と;を含むものである。
【0021】
このように構成すると、液体含有固形物の含水率をその液体含有固形物の画像データのみに基づいて推論可能な学習済モデルを提供することができるようになる。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、分離装置によって分離された液体含有固形物の含水率を比較的短時間(具体的には数分程度)で且つ高精度に測定あるいは推定することが可能な、機械学習装置、固形物含水率測定装置、推論装置及び機械学習方法を提供することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本開示の一実施の形態に関連するデカンタ式遠心分離装置を示す模式図である。
図2】脱水固形物の画像データを取得する手法の一例を示す説明図である。
図3図2に示す手法によって撮像された画像データの一例を示す画像である。
図4】本開示の一実施の形態に係る機械学習装置の概略ブロック図である。
図5】本開示の一実施の形態に係る機械学習装置において実施される教師あり学習のためのニューラルネットワークモデルの例を示す図である。
図6】本開示の一実施の形態に係る機械学習方法の例を示すフローチャートである。
図7】本開示の一実施の形態に係る固形物含水率測定装置を示す模式図である。
図8】本開示の一実施の形態に係る固形物含水率測定装置をデカンタ式遠心分離装置に適用した場合における含水率測定プロセスの例を示すフローチャートである。
図9】本開示の他の実施の形態に係る固形物含水率測定装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本開示を実施するための一実施の形態について説明する。なお、以下では本開示の目的を達成するための説明に必要な範囲を模式的に示し、本開示の該当部分の説明に必要な範囲を主に説明することとし、説明を省略する箇所については公知技術によるものとする。
【0025】
<遠心分離装置>
本開示に係る機械学習装置等を説明する前に、本開示の一実施の形態に係る固形物含水率測定装置の測定結果が適用される装置としての汚泥脱水機又は遠心分離機の一例を簡単に説明する。ここでは、具体的には横型のデカンタを含むデカンタ式遠心分離装置1を例示する。本実施の形態においては、このデカンタ式遠心分離装置1から排出された液体含有固形物に対して、本開示の機械学習装置、固形物含水率測定装置、推論装置及び機械学習方法を適用することで、この液体含有固形物の含水率を測定あるいは推定する。なお、本開示に係る分離装置の具体的な態様はここに示すものに限定されるものではなく、例えば縦型や直胴型のデカンタを含む遠心分離機や、上記特許文献2に示されているようなスクリュープレス式又はベルトプレス式の圧搾機、あるいは反応式の分離装置等にも適用可能である。
【0026】
図1は、本開示の一実施の形態に関連するデカンタ式遠心分離装置1を示す模式図である。デカンタ式遠心分離装置1は、図1に示すように、主に一端部が錘状に加工された筒状の部材で構成され水平軸周りに回転可能なボウル2と、ボウル2内に同軸状に配置されボウル2内の固形物を搬送及び/又は圧搾するスクリューコンベア3と、ボウル2に回転力を付与する駆動モータ4と、ボウル2とスクリューコンベア3の回転速度間に差速を発生させるための差速発生装置5と、ボウル2及びスクリューコンベア3を支持すると共にこれらを覆うケーシング6とを含む。
【0027】
このデカンタ式遠心分離装置1による固液分離は、先ず、所定の回転数で回転するボウル2内に給液管9を介して薬剤(凝集剤)が添加された被処理液(スラリー)が投入されると、駆動モータ4により発生された遠心力によって被処理液内の(薬剤の効果によりフロック状となっている)固形物がボウル2の内壁面に沈降する。沈降した固形物は、差速発生装置5の作用によりボウル2の回転数よりも僅かに小さな回転数でボウル2に対して連れ周りするスクリューコンベア3のスクリュー羽根3aによって、ボウル2の錘状に加工された一端側に向かって圧搾されつつ搬送され、液体含有固形物(脱水固形物)Mとして固形物シュート6aから固形物排出導管7へ排出される。また、上記のように固形物が沈降除去された後の被処理液は、分離液としてボウル2内に一定期間滞留した後、分離液シュート6bから分離液排出導管8へ排出される。
【0028】
ところで、本実施の形態に係る機械学習装置においては、後述する学習済モデルを学習するために、学習用データセットを構成する脱水固形物Mの画像データを取得する必要がある。そこで、以下にはデカンタ式遠心分離装置1から排出される脱水固形物Mの画像データを取得する手法の一例を説明する。
【0029】
図2は、脱水固形物Mの画像データを取得する手法の一例を示す説明図である。また、図3は、図2に示す手法によって撮像された画像データの一例を示す画像である。脱水固形物Mの画像データは、図2に示すような撮像装置15を用いて取得される。この撮像装置15は、主にトレー16と、カメラ17と、撮影ボックス18とで構成されている。なお、この撮像装置15の構成は、後述する固形物含水率測定装置30における撮像環境と同様の環境を再現したものとすべきであることに留意すべきである。
【0030】
トレー16は、上部が開口した箱状の容器であって、その内部には、例えば上述したデカンタ式遠心分離装置1の固形物排出導管7内を通過する脱水固形物Mが採取されて収容される。このトレー16に収容される脱水固形物Mは、撮像面である表面の状態が一様となるよう、トレー16内に収容された後にスクレーパ19(図7参照。)等を用いて表面が略平坦に均されると好ましい。
【0031】
カメラ17は、トレー16内に収容されその表面が均された脱水固形物Mを所定画角から撮像する、2次元画像撮像装置である。このカメラ17の画角や脱水固形物Mに対する距離等については、任意に調整することが可能である。また、このカメラ17としては3次元画像を撮像可能なものを採用することもできるが、コストの観点等から2次元画像撮像装置を採用することが好ましい。
【0032】
撮影ボックス18は、脱水固形物Mの撮像環境を一様とするための撮影空間を構成するためのものである。この撮影ボックス18の内部には、脱水固形物Mを収容したトレー16が載置される支持台18aと、脱水固形物Mに対して光を照射する光源18bとが設けられている。この撮影ボックス18を用いることで、撮影環境を一様とすることができる。
【0033】
上述した構成を備える撮像装置15を用いて撮像された脱水固形物Mの画像データの一例を図3に示す。図3に示す2つの画像は、その含水率のみが異なる同一の脱水固形物Mを撮像したものである。脱水固形物Mの含水率によって撮像された画像データの色情報や輝度情報に変化が認められることが、図3から理解できる。なお、撮像対象である脱水固形物Mは、含有率だけでなく、その含有成分によっても色情報や輝度情報に大きな違いが生じ得る。そのため、撮像される脱水固形物Mは、後述する学習済モデルにおける推論の精度を確保するために、含有成分の異なる種々の脱水固形物Mを撮像対象とすることが好ましい。
【0034】
<機械学習装置>
次に、上述した撮像装置15で撮像された脱水固形物Mの画像データを用いた本実施の形態に係る機械学習装置20について、以下に説明を行う。
【0035】
図4は、本開示の一実施の形態に係る機械学習装置の概略ブロック図である。本実施の形態に係る機械学習装置20は、図4に示すように、学習用データセット取得ユニット21と、学習用データセット記憶ユニット22と、学習ユニット23と、学習済モデル記憶ユニット24とを備えている。
【0036】
学習用データセット取得ユニット21は、例えば有線又は無線の通信回線を介して接続されたコンピュータPC1から学習(トレーニング)用データセットを構成する複数のデータを取得するインタフェースユニットである。このコンピュータPC1は、上述した撮像装置15に接続され、撮像装置15において取得された画像データを取得及び閲覧可能なものである。また、このコンピュータPC1は、例えば熟練のオペレータENが、画像データが取得された脱水固形物Mを目視して判断した含水率の推定値、あるいは例えば上記特許文献1に記載されているような含水率測定装置によって測定された、画像データが取得された脱水固形物M含水率の測定値を取得可能なものであることが好ましい。このように取得された含水率の推定値あるいは測定値(以下、これらをまとめて単に「含水率」という。)は、学習用データセットの一部として、画像データと同様に、学習用データセット取得ユニット21に送信される。なお、本実施の形態に係る学習用データセット取得ユニット21は、コンピュータPC1から所望のデータを取得するものとして説明したが、これに限定されるものではなく、例えば予め学習用データセットが格納されたデータサーバ等からネットワーク等を介して所望のデータを取得するものであってもよい。
【0037】
学習用データセット記憶ユニット22は、学習用データセット取得ユニット21で取得した学習用データセットを構成する複数のデータを、関連する入力データと出力データ(「教師データ」ともいう)とを関連付けて1つの学習用データセットとし、格納するためのデータベースである。ここで格納される学習用データセットは、入力データとして、撮像装置15で撮像された画像データを含み、出力データとして、当該画像データに対応する脱水固形物Mの含水率を含む。この学習用データセット記憶ユニットを構成するデータベースの具体的な構成については適宜調整することができる。例えば、図4においては、説明の都合上、この学習用データセット記憶ユニット22と後述する学習済モデル記憶ユニット24とを別々の記憶手段として示しているが、これらは単一の記憶媒体(データベース)によって構成することもできる。
【0038】
ところで、学習用データセットは、上述したように、1つの画像データと、この1つの画像データに対応する含水率とで構成されている。しかし、上述した通り、含水率は、熟練のオペレータENが目視により特定する、あるいは含水率測定装置によって測定することで得られるものであり、その取得に比較的時間を要する。他方、学習ユニットにおいて1つの学習済モデルを生成するためには、多くの学習用データセット(例えば数千~数万セット)を用いて学習を行う必要がある。そこで、多量の学習用データセットを比較的短時間で準備するために、この学習用データセット記憶ユニット22において、データオーギュメンテーション(data augmentation)を行うことが好ましい。このデータオーギュメンテーションの具体的な方法としては、例えば、1つの矩形の原画像データから、当該原画像データよりも小さな正方形の部分画像データをランダムにa個(例えば100個)抽出し、抽出されたa個の部分画像データそれぞれと原画像データに対応する含水率とを関連付けることで、a個の学習用データセットを取得する方法を採用することができる。
【0039】
学習ユニット23は、学習用データセット記憶ユニット22に記憶された複数の学習用データセットを用いて機械学習を実行し、学習済モデルを生成するものである。本実施の形態においては、後に詳しく説示するように、機械学習の具体的な手法としてニューラルネットワークを用いた教師あり学習(深層学習)を採用している。ただし、機械学習の具体的な手法については、これに限定されるものではなく、入出力の相関関係を学習用データセットから学習することができるものであれば他の学習手法を採用することも可能である。例えば、アンサンブル学習(ランダムフォレスト、ブースティング等)を用いることもできる。
【0040】
学習済モデル記憶ユニット24は、学習ユニット23で生成された学習済モデルを記憶するためのデータベースである。この学習済モデル記憶ユニット24に記憶された学習済モデルは、要求に応じて、インターネットを含む通信回線や記憶媒体を介して実際の装置へ適用される。実際の装置(固形物含水率測定装置30)に対する学習済モデルの具体的な適用態様については、後に詳述する。
【0041】
次に、上述の構成によって得られた複数の学習用データセットを用いた、学習ユニット23における学習手法について簡単に説明する。図5は、本開示の一実施の形態に係る機械学習装置において実施される教師あり学習のためのニューラルネットワークモデルの例を示す図である。図5に示すニューラルネットワークモデルにおけるニューラルネットワークは、入力層にあるl個のニューロン(x1~xl)、第1中間層にあるm個のニューロン(y11~y1m)、第2中間層にあるn個のニューロン(y21~y2n)、及び出力層にあるo個のニューロン(z1~zo)から構成されている。第1中間層及び第2中間層は、隠れ層とも呼ばれており、ニューラルネットワークとしては、第1中間層及び第2中間層の他に、さらに複数の隠れ層を有するものであってもよく、あるいは第1中間層のみを隠れ層とするものであってもよい。
【0042】
また、入力層と第1中間層との間、第1中間層と第2中間層との間、第2中間層と出力層との間には、層間のニューロンを接続するノードが張られており、それぞれのノードには、重みwi(iは自然数)が対応づけられている。
【0043】
本実施の形態に係るニューラルネットワークモデルにおけるニューラルネットワークは、学習用データセットを用いて、学習用データセット記憶ユニット22内に記憶された複数組の学習用データセットを用いて、画像データと含水率との相関関係を学習する。具体的には、画像データを複数のデータに分割し、分割した複数のデータを入力の状態変数として、各状態変数と入力層のニューロンを対応付け、出力層にあるニューロンの値を、一般的なニューラルネットワークの出力値の算出方法、つまり、出力側のニューロンの値(目的変数)を、当該ニューロンに接続される入力側のニューロンの値と、出力側のニューロンと入力側のニューロンとを接続するノードに対応づけられた重みwiとの乗算値の数列の和として算出することを、入力層にあるニューロン以外の全てのニューロンに対して行う方法を用いることで、算出する。なお、入力の状態変数を入力層のニューロンに対応付けるに際し、入力の状態変数として取得した情報をどのような形式で対応付けるかは、生成される学習済モデルの精度等を考慮して適宜設定することができる。例えば、2次元画像で構成される画像データを入力の状態変数として入力層に対応付けるに際し、画像データをピクセル単位で分割した上で、分割された各ピクセルの色値(例えばRGB値)情報及び/又は輝度情報を入力層にそれぞれ対応付けることができる。
【0044】
そして、算出された出力層にあるo個のニューロンz1~zoの値、すなわち本実施の形態においては含有率の値と、学習用データセットの出力データを構成する、同じく含水率からなる教師データt1~toとを、それぞれ比較して誤差を求め、求められた誤差が小さくなるように、各ノードに対応づけられた重みwiを調整する(バックプロパゲーション)ことを反復する。
【0045】
そして、上述した一連の工程を所定回数反復実施した、あるいは前記誤差が許容値より小さくなること等の所定の条件が満たされた場合には、学習を終了して、そのニューラルネットワークモデル(のノードのそれぞれに対応づけられた全ての重みwi)を学習済モデルとして学習済モデル記憶ユニット24に記憶する。
【0046】
<機械学習方法>
上記に関連して、本開示は機械学習方法を提供する。図6は、本開示の一実施の形態に係る機械学習方法の例を示すフローチャートである。以下に示す機械学習方法においては、上述した機械学習装置20に基づいて説明を行うが、前提となる構成については、上記機械学習装置20に限定されない。また、この機械学習方法はコンピュータを用いることで実現されるものであるが、コンピュータとしては種々のものが適用可能であり、例えばデカンタ式遠心分離装置1のコントロールユニットを構成するコンピュータ、ネットワーク上に配されたサーバ装置、あるいは図4に示すコンピュータPC1等を挙げることができる。また、このコンピュータの具体的構成については、例えば、少なくともCPUやGPU等からなる演算装置と、RAMやROMに代表される揮発性又は不揮発性メモリ等で構成される記憶装置と、ネットワークや他の機器に通信するための通信装置と、これら各装置を接続するバスとを含むものを採用することができる。
【0047】
本実施の形態に係る機械学習方法としての教師あり学習は、機械学習を開始するための事前準備として、所望の数の学習用データセットを準備し、準備した複数個の学習用データセットを学習用データセット記憶ユニット22に記憶する(ステップS11)。ここで準備する学習用データセットの数については、最終的に得られる学習済みモデルに求められる推論精度を考慮して設定するとよい。また、学習用データセットを準備する方法については、その一例を既に上で例示しているため、ここでは説明を省略する。
【0048】
ステップS11が完了すると、次いで学習ユニット23における学習を開始すべく、学習前のニューラルネットワークモデルを準備する(S12)。ここで準備される学習前のニューラルネットワークモデルは、その構造として上記図5で示した構造を有し、各ノードの重みが初期値に設定されているものとすることができる。そして、学習用データセット記憶ユニット22に記憶された複数個の学習用データセットから、例えばランダムに一の学習用データセットを選択し(ステップS13)、当該一の学習用データセット中の入力データを、準備された学習前のニューラルネットワークモデルの入力層(図5参照。)に入力する(ステップS14)。なお、学習用データセット中の入力データを学習前のニューラルネットワークモデルの入力層に入力する手法としては、種々のものを採用することができる。例えば、入力層に入力される入力データの数を調整するために、1つの入力データを構成するピクセル数を調整するといった、所定の前処理を実行してもよい。
【0049】
ここで、上記ステップS14の結果として生成された出力層(図4参照。)の含水率は、学習前のニューラルネットワークモデルによって生成されたものであるため、ほとんどの場合望ましい結果とは異なる値である。そこで、次に、ステップS13において取得された一の学習用データセット中の教師データとしての含水率とステップS13において生成された出力層の含水率とを用いて、機械学習を実施する(ステップS15)。ここで行う機械学習とは、例えば、教師データを構成するパラメータと出力層を構成するパラメータとを比較し、両者の誤差を検出し、この誤差が小さくなるような出力層が得られるよう、学習前のニューラルネットワークモデル内の各ノードに対応付けられた重みを調整する処理(バックプロパゲーション)であってよい。また、学習前のニューラルネットワークモデルの出力層に出力される含水率のデータ形式は、学習対象としての学習用データセット中の教師データと同様の形式である。
【0050】
ステップS15において機械学習が実施されると、さらに機械学習を継続する必要があるか否かを、例えば学習用データセット記憶ユニット22内に記憶された未学習の学習用データセットの残数に基づいて特定する(ステップS16)。そして、機械学習を継続する場合(ステップS16でNo)にはステップS13に戻り、機械学習を終了する場合(ステップS16でYes)には、ステップS17に移る。上記機械学習を継続する場合には、学習中のニューラルネットワークモデルに対してステップS13~S15の工程を未学習の学習用データセットを用いて複数回実施する。最終的に生成される学習済モデルの精度は、一般にこの回数に比例して高くなるため、本実施の形態においては学習用データセット記憶ユニット22内の全学習用データセットを学習することとする。これは、学習用データセットの数が比較的少ないと、それらの学習用データセットの値の偏り等に起因して過学習が生じるという問題を回避するためである。他方、学習用データセット記憶ユニット22内に記憶された全学習用データセットを学習する必要は必ずしもない。これは、学習済モデルが利用される固形物含水率測定装置30は、多くの場合その測定対象が比較的制限されているため、測定対象となる固形物の含水率の推定に有用な学習用データセットのみを学習すれば、十分な推論精度を得ることができるためである。そこで、得られる学習済モデルの利用環境等を考慮し、任意の選定手法を用いて学習に用いる学習用データセットをデータセット記憶ユニット22内の全学習用データセットの中から選定してもよい。このような選定を行うことで、利用環境の異なる複数種類の学習済モデルを効率よく生成することができるようになる。また、このような選定を行う場合を考慮して、データセット記憶ユニット22に記憶される学習用データセットを、例えば撮像対象である脱水固形物Mの種類や脱水固形物が採取された環境に応じて事前にグループ分けしておくとより好ましい。
【0051】
機械学習を終了する場合(ステップS16でYes)には、各ノードに対応付けられた重みが一連の工程によって調整され生成されたニューラルネットワークを学習済モデルとして、学習済モデル記憶ユニット24に記憶し(ステップS17)、一連の学習プロセスを終了する。ここで記憶された学習済モデルは、固形物の含水率を測定する種々の装置に適用され使用され得るものであるが、当該装置の詳細については後述する。
【0052】
上述した機械学習装置の学習プロセス及び機械学習方法においては、1つの学習済モデルを生成するために、1つの(学習前の)ニューラルネットワークモデルに対して複数回の機械学習処理を繰り返し実行することでその精度を向上させ、実際の装置への適用に足る学習済モデルを得ようとするものを説示しているが、本開示はこのような取得方法に限定されない。例えば、所定回数の機械学習を実施した学習済モデルを一候補として複数個学習済モデル記憶ユニット24に格納しておき、この複数個の学習済モデル群に妥当性判断用のデータセットを入力して出力層(のニューロンの値)を生成し、出力層で特定された制御データの精度を比較検討して、実際の装置に適用する最良の学習済モデルを1つ選定するようにしてもよい。なお、妥当性判断用データセットは、学習に用いた学習用データセットと同様のデータセットで構成され、且つ一連の機械学習方法において学習に用いられていないものであればよい。
【0053】
オプションとして、上記ステップS12において準備されるノードの重みが初期値に設定された学習前のニューラルネットワークモデルに代えて、例えば任意の画像認識のために予め生成された学習済モデルを利用することもできる。この場合には、いわゆるファインチューニング又は転移学習により所望の学習済モデルを生成することとなる。そのため、上述した通常の機械学習プロセスに比して少ない学習用データセットの数で高精度の学習済モデルを生成できる。
【0054】
以上説明した通り、本実施の形態に係る機械学習装置及び機械学習方法を適用することにより、脱水固形物Mの2次元撮像画像データから、撮像された脱水固形物Mの含水率を導出することが可能な学習済モデルを得ることができる。
【0055】
<固形物含水率測定装置>
次に、図7を参照して、上述した機械学習装置及び機械学習方法によって生成された学習済モデルの適用例について説示する。図7は、本開示の一実施の形態に係る固形物含水率測定装置30を示す模式図である。本実施の形態に係る固形物含水率測定装置30は、図7に示すように、主にデータ取得ユニット31と、推論ユニット32と、モニタ33とを備えている。なお、本実施の形態に係る固形物含水率測定装置30では、上述したデカンタ式遠心分離装置1の固形物排出導管7に設けられたサンプリング装置40によりサンプリングされた脱水固形物Mの含水率を特定するものを例示している。また、ここでいうサンプリング装置40は、固形物排出導管7内を通過する脱水固形物Mを任意のタイミングで抽出するための装置である。具体的な構成は、例えば固形物排出導管7内に突出するように設けられた固形物抽出用のスクリューコンベア等を採用することができるが、脱水固形物Mを固形物排出導管7外に抽出可能な構成であれば他の構成であってもよい。
【0056】
データ取得ユニット31は、サンプリング装置40により固形物排出導管7内から抽出された脱水固形物Mの画像データを取得するためのものである。具体的には、このデータ取得ユニット31は、上述した撮像装置15Aと、この撮像装置15Aの各構成を制御するコントローラ34とを備えている。ここで、データ取得ユニット31に含まれる撮像装置15Aは、上述した学習用データセットを構成する画像データを取得する際に利用された撮像装置15と実質的に同一の構成を備えていることは、特に留意すべき事項である。このように、学習用データセットのための画像データを撮像した撮像装置15と、固形物含水率測定装置30の撮像装置15Aとを実質的に同一の構成とすると、画像データの撮像環境を合わせることができるため、後述する含水率の推論精度を確保する意味で重要である。なお、上述した通り、データ取得ユニット31の撮像装置15Aは撮像装置15と実質的に同一の構成を備えているため、具体的な各部構成には同一の符号を付してその説明を省略するものとする。
【0057】
データ取得ユニット31内の撮像装置15Aは、撮像装置15と同様の構成に加えて、更にトレー16内の脱水固形物Mの表面を均すためのスクレーパ19を備えている。スクレーパ19は、水平方向(図7中の矢印X方向)に動作させることで支持台18aに載置されるトレー16内の脱水固形物Mの表面を均すことができる。スクレーパ19によりトレー16外に排出された脱水固形物Mや画像データが生成された後のトレー16内の脱水固形物Mは、固形物排出導管7又はこの固形物排出導管7に連結されて脱水固形物Mを乾燥装置や汚泥焼却炉へ搬送するための主搬送路10内に戻される。また、コントローラ34は、撮像装置15Aの各構成、特にカメラ17やスクレーパ19の動作制御や光源18bの調整、及びトレー16の図示しない搬送手段の制御等を行うものである。そしてカメラ17をコントローラ34により動作させて生成された画像データは、有線又は無線の伝送手段を介して推論ユニット32に送られる。
【0058】
推論ユニット32は、データ取得ユニット31で取得された画像データから画像データに含まれる脱水固形物Mの含水率を推論するための演算装置である。この推論ユニット32は、例えば上述した機械学習装置20及び機械学習方法により生成された1又は複数の学習済モデルを記憶する学習済モデル格納ユニット35を備えている。推論ユニット32は、学習済モデル格納ユニット35内に格納された1乃至複数の学習済モデルを参照することで、データ取得ユニット31で取得した入力の状態変数としての画像データから、含水率を推論するものである。詳しくは、入力の状態変数としての画像データを、学習済モデル格納ユニット35内に格納された一の学習済モデルの入力層に対応付けることで、当該学習済モデルの出力層に脱水固形物Mの含水率の推定値を出力する。学習済モデル格納ユニット35に記憶されている学習済モデルは、その用途や各種条件(例えば季節、天候及び温度・湿度といった環境条件、あるいは被処理液の種類等)に合わせて複数個記憶されていると好ましい。そしてまた、複数個の学習済モデルから適切な一の学習済モデルを選択する作業は、各種センサ等を用いて自動的に選択できるようにしてもよいし、オペレータENによって手動で選択できるようにしてもよい。
【0059】
モニタ33は、推論ユニット32において推論された脱水固形物Mの含水率をオペレータENに報知するための報知手段である。モニタ33上に含水率が表示されると、オペレータENは、当該含水率を考慮した、デカンタ式遠心分離装置1の各種制御パラメータの調整の要否を判断することができる。本実施の形態においては、オペレータENへの含水率の報知手段にモニタ33を用いているが、スピーカ等の他の報知手段を採用することもできる。また、推論ユニット32で推論された含水率は、モニタ33に表示するだけでなく、データ取得ユニット31で取得された画像データと合わせて、周知の記録媒体で構成された図示しないデータベースに格納されると好ましい。このようにデータベース内に過去の推論結果を蓄積しておけば、オペレータENが過去の含水率情報を参照できることに加え、当該データを用いたオンライン学習を実施することもでき、利便性がより向上する。
【0060】
上述した構成を備える固形物含水率測定装置30によれば、データ取得ユニット31に搬入された液体含有固形物の画像データを生成した後、推論ユニット32において画像データを所定の学習済モデルに入力するだけで、液体含有固形物の含水率の推論を実行することができる。したがって、液体含有固形物の含水率を短時間で得ることができる。そのため、分離装置の作動中に分離結果としての固形物の含水率をタイムリーに把握することができ、この含水率を分離装置の作動制御に利用することができる。そこで、以下には、上述した固形物含水率測定装置30をデカンタ式遠心分離装置1に適用して、デカンタ式遠心分離装置1の作動制御に固形物含水率測定装置30が出力する含水率を利用した例を説明する。
【0061】
図8は、本開示の一実施の形態に係る固形物含水率測定装置30をデカンタ式遠心分離装置1に適用した場合における含水率測定プロセスの例を示すフローチャートである。固形物含水率測定装置30が適用されたデカンタ式遠心分離装置1の駆動が開始されると、図8に示すように、固形物含水率測定装置30は、オペレータENからの含水率測定指示の受信の有無を判断する(ステップS21)。ここで、オペレータENからの含水率を測定する旨の指示を受信すると(ステップS21でYes)、サンプリング装置40を動作させて固形物排出導管7内を通過する脱水固形物Mをサンプリング抽出する(ステップS22)。ここで抽出された所定量の脱水固形物Mは、トレー16に収容されて撮像装置15Aへ搬送されると共に、スクレーパ19によりその表面が均され撮影ボックス18内の支持台18aに載置される。次いで、コントローラ34によりカメラ17が動作されて脱水固形物Mの表面を撮像した2次元撮像画像データが生成される(ステップS23)。
【0062】
次いで、生成された2次元撮像画像データが推論ユニット32に送られ、推論ユニット32において予め特定された一の学習済モデルの入力層に入力されることにより、画像データ内の脱水固形物Mの含水率を推論する(ステップS24)。そして、ここで推論された含水率はモニタ33に表示されることで、オペレータENに報知される(ステップS25)。これを確認したオペレータENは、デカンタ式遠心分離装置1の現在の作動状態が適切に固液分離処理を行えているかどうかや、デカンタ式遠心分離装置1から排出された後の脱水固形物Mの、搬送不良や汚泥焼却炉における焼却不良の可能性を判断あるいは予見することができる。したがって、例えば分離処理が適切に行えていないと判断した場合には、デカンタ式遠心分離装置1の制御パラメータ、例えばボウル2の遠心力を調整するとよい。同様に、汚泥焼却炉における焼却不良が予見される場合には、汚泥焼却炉で使用する燃焼剤の量や脱水固形物Mの投入量を調整するとよい。固形物含水率測定装置30は、推論結果としての含水率のオペレータENへの報知が完了すると、ステップS21に戻り、オペレータENからの含水率測定指示の待機状態となる。
【0063】
以上の例に示すように、本実施の形態に係る固形物含水率測定装置30を分離装置に適用すれば、極めて短時間(数秒~10分程度)で分離された脱水固形物Mの含水率を知ることができ、分離装置の動作制御においてオペレータENの経験や技量に依存する余地を小さくすることができる。
【0064】
なお、上述の固形物含水率測定装置30は、サンプリング装置40とは別構成部材として説示しているが、サンプリング装置40と固形物含水率測定装置30とをユニット化して固形物排出導管7に取り付けることもできる。また、固形物含水率測定装置30をデカンタ式遠心分離装置1に適用する場合には、固形物含水率測定装置30の一部(例えば推論ユニット32やモニタ33)をデカンタ式遠心分離装置1のコントロールユニット内に適用することも可能である。また、本実施の形態に係る固形物含水率測定装置30は、デカンタ式遠心分離装置1のような汚泥脱水機又は遠心分離機に限らず、例えば医療分野や化学分野において用いられる分離装置にも適用することができる。このように、固形物含水率測定装置30は、適用可能な対象が多岐にわたるため、学習済モデル格納ユニット35に記憶される学習済モデルは、その処理内容(被処理液の種類や単位時間当たりの処理量等)や周辺環境(気候等)に合わせて、その学習プロセス等は適宜調整すべきである。
【0065】
<他の実施の形態>
上述した一実施の形態に係る固形物含水率測定装置30では、固形物排出導管7に設けられたサンプリング装置40を用いて所定量の脱水固形物Mを抽出し、抽出した脱水固形物Mの含水率を測定するものを例示したが、本開示の固形物含水率測定装置はこれに限定されない。具体的には、サンプリング装置40による脱水固形物Mの抽出工程を省略してもよい。そこで以下には、測定対象としての脱水固形物Mを搬送路から抽出することなくその含水率を測定可能な、他の実施の形態に係る固形物含水率測定装置30Aについて説明を行う。なお、ここで説明する固形物含水率測定装置30Aにおいて上述した固形物含水率測定装置30と共通する構成については、同様の符号を付しその説明を省略するものとする。
【0066】
図9は、本開示の他の実施の形態に係る固形物含水率測定装置30Aを示す模式図である。本実施の形態に係る固形物含水率測定装置30Aは、図9に示すように、データ取得ユニット31Aの構成が上述した固形物含水率測定装置30のものと大きく異なっている。詳しくは、データ取得ユニット31Aは、脱水固形物Mの搬送路を構成する固形物排出導管7及び主搬送路10のうち、主搬送路10の適所にカメラ17Aを備えている。このカメラ17Aは、主搬送路10内のベルトコンベア11に向けて固定されることで、ベルトコンベア11で搬送される脱水固形物Mが撮像可能となっている。
【0067】
上述の構成を備える固形物含水率測定装置30Aによれば、先ずはデータ取得ユニット31Aにおいて、コントローラ34Aによりカメラ17Aを制御し、主搬送路10内を搬送される脱水固形物Mの画像データを生成する。そして推論ユニット32Aにおいて、データ取得ユニット31Aにおいて生成された画像データを所定の学習済モデルに入力することで、撮像された脱水固形物Mの含水率の推論を実行することができる。したがって、液体含有固形物Mの含水率をより短時間で得ることができる。そのため、分離装置の作動中に分離結果としての固形物の含水率をタイムリーに把握することができ、この含水率をモニタ33を介してオペレータENに報知することで、分離装置の作動制御に利用することができる。なお、推論ユニット32Aの学習済モデル格納ユニット35内に格納されて推論に利用される学習済モデルは、データ取得ユニット31Aと同様の環境において取得された学習用データセットを用いて学習を行ったものであることが推論精度を高める意味において好ましい。また、本実施の形態ではカメラ17Aを主搬送路10に取り付けたものについて説明したが、固形物排出導管7に取り付け、固形物排出導管7内を通過する脱水固形物Mを直接撮像することも可能である。
【0068】
以上の通り、本開示の固形物含水率測定装置30、30Aにおいては、脱水固形物Mの撮像手法として種々のものを採用することができる。なお、上述した実施の形態に係る固形物含水率測定装置は、いずれも一のデカンタ式遠心分離装置1に適用したものを説示しているが、本開示の固形物含水率測定装置は分離装置とは独立して機能するものであるから、例えば種々の分離装置から抽出された脱水固形物Mの含水率を一の固形物含水率測定装置で測定することも可能である。また、本開示の固形物含水率測定装置はその測定対象が分離装置により分離された固形物である必要もないため、例えば焼却炉に投入される種々の固形物の含水率を測定し、測定結果を焼却炉の制御に用いるといったことも可能である。
【0069】
<推論装置>
本開示は、上述した固形物含水率測定装置30、30Aの態様によるもののみならず、推論を行うための推論装置の態様で提供することもできる。その場合、推論装置としては、メモリと、少なくとも1つのプロセッサとを含み、このうちのプロセッサが、メモリに格納されたプログラム等に基づいて、一連の処理を実行するものとすることができる。当該一連の処理とは、所定領域に配置された脱水固形物Mを所定画角から撮像した画像データを取得する処理と、この画像データから脱水固形物Mの含水率を推論する処理とを含む。本開示を上述した推論装置の態様で提供することで、簡単に上述した含水率の測定を実現することができる。
【0070】
本開示は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本開示の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能である。そして、それらはすべて、本開示の技術思想に含まれるものである。
【符号の説明】
【0071】
1 デカンタ式遠心分離装置
2 ボウル
3 スクリューコンベア
4 駆動モータ
5 差速発生装置
6 ケーシング
7 固形物排出導管
10 主搬送路
15 撮像装置
16 トレー
17、17A カメラ
18 撮影ボックス
19 スクレーパ
20 機械学習装置
21 学習用データセット取得ユニット
22 学習用データセット記憶ユニット
23 学習ユニット
24 学習済モデル記憶ユニット
30、30A 固形物含水率測定装置
31、31A データ取得ユニット
32、32A 推論ユニット
33 モニタ
34、34A (撮像装置用)コントローラ
35 学習済モデル格納ユニット
40 サンプリング装置
M 脱水固形物(液体含有固形物)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9