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  • 特開-シリコン破砕用低汚染衝撃工具 図1
  • 特開-シリコン破砕用低汚染衝撃工具 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022077680
(43)【公開日】2022-05-24
(54)【発明の名称】シリコン破砕用低汚染衝撃工具
(51)【国際特許分類】
   B25D 1/10 20060101AFI20220517BHJP
【FI】
B25D1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020188620
(22)【出願日】2020-11-12
(71)【出願人】
【識別番号】506294820
【氏名又は名称】株式会社テオス
(74)【代理人】
【識別番号】100082429
【弁理士】
【氏名又は名称】森 義明
(74)【代理人】
【識別番号】100162754
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 真樹
(72)【発明者】
【氏名】村井 剛
(72)【発明者】
【氏名】徐 義昌
【テーマコード(参考)】
2D058
【Fターム(参考)】
2D058AA02
2D058BA01
2D058BA13
2D058DA21
(57)【要約】
【課題】タングステンカーバイドを使用した工具に比べてタングステンカーバイドの付着がなく、工具自体の交換もタングステンカーバイドを用いたものに比べて大幅に少ないシリコン破砕用低汚染衝撃工具を提供するものである。
【解決手段】シリコン破砕用低汚染衝撃工具は棒状のハンドル部1と前記ハンドル部1の一端に、前記ハンドル部1に対して直交するように設けられヘッド部2と前記ヘッド部2の先端に設けられ、破砕対象を打撃する打撃部3とで構成されている。打撃部3はジルコニアブロックで形成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状のハンドル部と、前記ハンドル部の一端に、前記ハンドル部に対して直交するように設けられヘッド部と、前記ヘッド部の先端に設けられ、破砕対象を打撃する打撃部とで構成されたシリコン破砕用低汚染衝撃工具において、
打撃部がジルコニアブロックで形成されていることを特徴とするシリコン破砕用低汚染衝撃工具。
【請求項2】
打撃部は球体で形成され、前記ヘッド部の先端面は打撃部に合わせて凹球面に形成され、該凹球面に形成された先端面に球体の打撃部が接着固定されていることを特徴とする請求項1に記載のシリコン破砕用低汚染衝撃工具。
【請求項3】
前記凹球面状に形成された先端面には複数のアンカー孔が形成され、前記アンカー孔に流れ込んで固化した接着剤と、先端面に塗布されて打撃部を接着する接着剤とが一体となって前記打撃部を前記凹球面状に形成された先端面に接着して成ることを特徴とする請求項2に記載のシリコン破砕用低汚染衝撃工具。
【請求項4】
前記アンカー孔にはネジタップ加工により螺旋溝が施されていることを特徴とする請求項3に記載のシリコン破砕用低汚染衝撃工具。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に半導体級のシリコンを小片に破砕するのに有用な低汚染衝撃工具に関する。
【背景技術】
【0002】
高密度集積電子回路のようなデバイスには高純度の単結晶シリコンウエーハが要求される。特に銅、金、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、タンタル、亜鉛およびタングステンを含む遷移金属不純物、およびデバイス性能に影響を与える炭素,アルミニウムのような不純物が特に問題になる。
これらの不純物は極微量(金属汚染はpptレベル、カーボン汚染はppmレベル)であっても半導体デバイスの特性に影響を及ぼすことは知られている。
【0003】
半導体製造に用いられる高純度多結晶シリコンは、高純度トリクロロシランガスまたは高純度モノシランガスと水素を反応炉に投入炉内にセットされたシリコン製種棒を1150~1200℃に加熱して種棒表面で水素熱還元法を起こさせ、その反応を数日間維持して外径100~200mm、長さが2000~3000mmの棒状多結晶シリコンが得られる。この製造方法はシーメンス法と一般的に呼ばれている。
【0004】
シーメンス法で製造された多結晶シリコンは棒状(ロッド状)である。この多結晶シリコンを半導体デバイス製造用基板にするには 電子の流れを得るため多結晶シリコンを単結晶にする必要がある。
単結晶に加工するにはFZ法(フローテイングゾーン法)とCZ法〈チョクラルスキー法〉とが有る。
【0005】
FZ法では棒状の多結晶シリコン材料を使うが、CZ法では石英坩堝を使用するので、その石英坩堝に装填できる形状、サイズに棒状多結晶シリコン材料を破砕する必要がある。
多結晶シリコンを小さく破砕する場合、小さくなるほど適切な破砕工具と工具に応じた破砕力が必要となる。従来は、ハンマーを使用して破砕していた。ハンマーで破砕するには 数回~数十回の打撃が必要であった。
【0006】
上記のCZ法で単結晶を製造するには CZ装置にセットされた石英坩堝に破砕した高純度シリコン材料を装填し、続いてこれを溶解し、この溶融シリコン表面にシリコン単結晶の種結晶(10~15mm径)を接触させ、その種結晶が装着された種棒を1mm/min前後の速度で引き上げて行く。そうすると、種結晶と同じ結晶構造の単結晶が、種結晶の下端から成長して300mm径の棒状の単結晶となる。
【0007】
このCZ法による製造方法で棒状の単結晶を製造すると、この棒状の単結晶の純度は、投入原料である多結晶シリコン材料のバルク純度に左右され、更に投入原料の表面汚染不純物も石英坩堝内での溶解時にすべて取り込まれることになり、これら不純物が引き上げられた棒状の単結晶中に取り込まれることになる。
【0008】
半導体デバイスの製造は、このような工法で製造された棒状の単結晶を円盤状薄片に切り出し、その表面を鏡面加工し、その表面にデバイスを作るので、単結晶製造工程に投入した時の原料多結晶シリコン材料の純度とその表面の清浄度がデバイス特性に関係してくる。
【0009】
従って、CZ装置で原料多結晶シリコンから単結晶棒を製造する前の原料多結晶シリコンの破砕工程では、使用するハンマー(特許文献1)からの汚染を避ける工夫が絶対に必須となる。
特許文献1に記載のハンマーは、ハンドル部、ハンドル部の一端に一体的に設けられたヘッド部、該ヘッド部に接するように設けられ、打撃要素となるタングステンカーバイド合金で作られた打撃ブロック、及び打撃ブロックの打撃部分を外部に露出させた状態で全体を被覆する合成樹脂(ウレタン樹脂)製のカバーとで構成されている。即ち、従来のハンマーは打撃ブロックの打撃部分を除いて合成樹脂に封入され、極力金属部分が外部に露出しないような構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6-218677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、極力金属部分が外部に露出しないような構造となっていたとしても、破砕時に多結晶シリコンと接触するのはタングステンカーバイド合金で作られた打撃ブロックであり、打撃を受けた多結晶シリコン表面には、打痕転写や擦り摩擦により僅かであるがタングステンカーバイドが残る。その後、破砕された多結晶シリコン小片は化学エッチング処理されて表面の不純物が除去されるようになっているが、この付着タングステンカーバイドはエッチング液とは殆ど反応せず、この段階では除去できない。
【0012】
そこで、この付着タングステンカーバイドの除去をするために付着タングステンカーバイドの下のシリコンをエッチングで取り除き、該付着タングステンカーバイドを浮き上がらせて取り除く(リフトオフエッチング法)が行われる。
しかしながら、上記のように打撃回数が増えると、当然、付着タングステンカーバイドの量も打撃回数に比例して増加し、上記リフトオフエッチングを施しても取りきれず、これまで破砕小片にタングステンカーバイドが付着した状態で使用されていた。このようなタングステンカーバイドが付着した小片を使用すれば、その材料を使用した単結晶にWやCが当然取り込まれることになる。
【0013】
なお、現時点では、上記汚染対策として化学エッチング深さを従来の2倍又はそれ以上にすることで対処している。この対処を行うには、エッチング装置の改造が必要であるだけでなく、エッチング液の使用量や洗浄用純水の使用量が大幅に増加し、製造コストが急増するという問題がある。また、タングステンカーバイドは打撃による損耗が激しく、高い頻度で新品と交換しなければならないという実用面での問題点もある。
【0014】
本発明は上記従来例の問題点を解決するもので、本発明の目的とする処は、半導体グレード多結晶シリコンの製造が始まって以来使用されてきた打撃部分にタングステン、或いはタングステンカーバイドを使ったハンマーによる破砕時に発生する、使用したハンマーヘッドからの金属(W又はWC)の転写物残留汚染を確実に防止でき、且つ工具自体の交換もタングステン或いはタングステングステンカーバイドを用いたものに比べて大幅に少ないシリコン破砕用低汚染衝撃工具を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に記載の発明は、
棒状のハンドル部1と、
前記ハンドル部1の一端に、前記ハンドル部1に対して直交するように設けられヘッド部2と、
前記ヘッド部2の先端に設けられ、破砕対象を打撃する打撃部3とで構成されたシリコン破砕用低汚染衝撃工具であって、
打撃部3がジルコニアブロックで形成されていることを特徴とする。
【0016】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のシリコン破砕用低汚染衝撃工具において、
打撃部3は球体で形成され、前記ヘッド部2の先端面5は打撃部3に合わせて凹球面に形成され、該凹球面に形成された先端面5に球体の打撃部3が接着固定されていることを特徴とする。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のシリコン破砕用低汚染衝撃工具において、
前記凹球面状に形成された先端面5には複数のアンカー孔6が形成され、前記アンカー孔6に流れ込んで固化した接着剤4と、先端面5に塗布されて打撃部3を接着する接着剤4とが一体となって前記打撃部3を前記凹球面状に形成された先端面5に接着して成ることを特徴とする。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のシリコン破砕用低汚染衝撃工具において、
前記アンカー孔6にはネジタップ加工により螺旋溝が施されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、打撃部3をジルコニアブロックで形成しているので、破砕時の打撃によって多結晶シリコンの表面にジルコニアの付着がタングステンカーバイドと異なりこびりつき又は転写付着することがなく、従来必要としていたタングステンカーバイド除去コストを削減できるという利点がある。
加えて、打撃部3を構成するジルコニアはタングステンカーバイドに比べて損耗の度合いも小さく、工具の交換頻度も大幅に小さく出来るというメリットもある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明にかかるシリコン破砕用低汚染衝撃工具の正面図である。
図2図2の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を図示実施例に従って説明する。本発明のシリコン破砕用低汚染衝撃工具は、ハンドル部1とヘッド部2と打撃部3とで構成されている。
ハンドル部1は棒状の部材であり、その一端にヘッド部2が設けられている。
ヘッド部2は短い円柱状の部材で、中央に通孔9が穿設され、ハンドル部1の一端が挿入されて固定されている。従って、ヘッド部2はハンドル部1に対して直交するように設けられる。
ハンドル部1とヘッド部2の材質は、木製或いは金属製で、金属製の場合は全体が図示しない樹脂被膜で覆われている。ハンドル部1の他端が把持部10となる。
【0022】
打撃部3はジルコニアで形成されたブロックである。その形状は特に限定されるものでなく、円柱状、円錐台状その他さまざまな形状が選択可能であるが、本実施例では球体である。ここでは球体を代表例とする。
【0023】
上記ヘッド部2の両先端面5は、打撃部3の球面に合わせて凹半球状に形成されている。そして、凹半球状の先端面5に複数(本実施例では5~7)のアンカー孔6が穿設されている。アンカー孔6の内面にはネジタップ加工により螺旋溝が刻設されている。アンカー孔6は凹半球状の先端面5に対して垂直に穿設されている。従って、アンカー孔6の内方への延長線は打撃部3の中心点又はその近傍に集まる。
なお、図では両先端面5を凹半球状としたが一方だけでも良い。また、凹半球状の先端面5の最大深さは打撃部3の半径となる。
【0024】
打撃部3はヘッド部2の先端面5に例えばシリコンレジンのような接着剤4にて接着されている。接着剤4は先端面5の全面に塗布され、且つアンカー孔6にも流れ込み、この部分がアンカー効果を発揮する。ネジタップ加工による螺旋溝により、硬化したアンカー孔6の接着剤4はアンカー孔6から抜け落ちるようなことがない。
【0025】
このシリコン破砕用低汚染衝撃工具を用いて多結晶シリコンブロックを破砕する場合、通常のハンマーと同様、ハンドル部1の把持部10を持ち、打撃部3を多結晶シリコンブロックに打ち当てる。
打撃部3は球状であるため、打撃点に力が集中し、多結晶シリコンブロックを効果的に破砕する。この時、打撃部3は球状のジルコニアブロックで形成されているので、打点は球状となり多結晶シリコンブロックに食い込まず、打痕転写が発生しないばかりか、打撃部3がこの打撃によって損耗することはない。
多結晶シリコンブロックは所定の大きさまで破砕されるが、従来の大きさまで破砕する場合に比べて上記のように数倍~10倍程度の打撃を必要とする。しかし、破砕シリコンの表面には上記のようにジルコニアの打痕転写は発生しない。
【0026】
所定形状まで破砕が終了すると、化学エッチングが行われ、破砕多結晶シリコンの表面の不純物が除去される。最後に純水洗浄が行われ、単結晶引き上げ用の原料とされる。
【0027】
なお、上記破砕作業で、多孔質シリコンに対する打撃部3の主たる打撃位置は、打撃部3の露出面の中心部分(ヘッド部2の中心線の周囲)となるが、他の部分が打撃位置になることもある。上記のようにアンカー孔6は凹半球状の先端面5に対して垂直に穿設され、アンカー孔6の内方への延長線は打撃部3の中心点又はその近傍に集まるように形成されているので、どの部分が打撃位置となってもいずれかのアンカー孔6で硬化した接着剤アンカーがこれを受け止めることになり、打撃部3を保持する先端面5が凹球面に形成されていることと相俟って打撃部3が先端面5から脱落するようなことがない。
【符号の説明】
【0028】
1:ハンドル部、2:ヘッド部、3:打撃部、4:接着剤、5:先端面、6:アンカー孔、9:通孔
図1
図2