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  • 特開-石綿の処理方法 図1
  • 特開-石綿の処理方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022077683
(43)【公開日】2022-05-24
(54)【発明の名称】石綿の処理方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/20 20220101AFI20220517BHJP
   B09B 3/00 20220101ALI20220517BHJP
【FI】
B09B3/00 301J
B09B3/00 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020188627
(22)【出願日】2020-11-12
(71)【出願人】
【識別番号】508335668
【氏名又は名称】株式会社クォークテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 勝
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA17
4D004AB05
4D004AC05
4D004CA24
4D004CA29
4D004CA50
4D004DA02
(57)【要約】
【課題】石綿含有層中の石綿を無害化すると共に、当該石綿含有層を基材表面から除去する際の作業性を顕著に向上させる技術を提供する。
【解決手段】石綿の処理方法は、基材表面に下地層を介して形成された石綿含有層を処理する方法であり、石綿含有層にレーザ光を照射することにより、当該石綿含有層を、熱分解、溶融、及びレーザアブレーションの少なくとも何れか1つで処理し、下地層にもレーザ光を照射することにより、当該下地層を炭化させる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に下地層を介して形成された石綿含有層を処理する方法であり、
前記石綿含有層にレーザ光を照射することにより、当該石綿含有層を、熱分解、溶融、及びレーザアブレーションの少なくとも何れか1つで処理し、
前記下地層にも前記レーザ光を照射することにより、当該下地層を炭化させる、
石綿の処理方法。
【請求項2】
前記レーザ光の照射により、前記石綿含有層の処理に並行して前記下地層を炭化させる、請求項1に記載の石綿の処理方法。
【請求項3】
前記基材表面の一部又は全部の領域を前記レーザ光で走査することにより、前記石綿含有層の処理及び前記下地層の炭化を行う、請求項1又は2に記載の石綿の処理方法。
【請求項4】
前記下地層を炭化させた後、当該下地層を、剥離用工具によって前記基材表面から剥離することにより、処理後の前記石綿含有層を、前記下地層と共に前記基材表面から除去する、請求項1~3の何れかに記載の石綿の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材表面に形成された石綿含有層を処理する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
石綿は、耐熱性に優れた材料であるため、従来、建材(鉄骨等の耐火被覆材、吸音材、結露防止材、内装材など)として、基材表面(壁、天井、屋根などの表面)に使用されることが多かった。一方、石綿は、塵肺、肺線維症、肺癌、悪性中皮腫など、人体に重大な悪影響を及ぼすおそれがあるため、現在では、石綿の使用が、日本だけでなく世界の多くの国々で禁止されている。
【0003】
しかし、石綿は、過去に建材として多用されてきたため、現在においても、過去に建築された多くの建物において使用された状態のまま残っている。
【0004】
そこで、近年、それらの石綿を除去する作業が進められており、石綿を除去する方法として、高圧水洗工法とケレン工法が多く用いられている。ここで、高圧水洗工法は、基材表面に固着した石綿含有層に洗浄水を高圧で吹き付けることにより、当該石綿含有層を、湿潤させた状態で基材表面から剥離する方法である。また、ケレン工法は、基材表面に固着した石綿含有層を、スクレーパや皮すきなどの剥離用工具を用いた手作業で剥離する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-28717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、高圧水洗工法では、石綿含有層を剥離した後における洗浄水と石綿含有層との分別や使用後の洗浄水の処理などが必要であり、多大な労力とコストが必要になる。ケレン工法では、基材表面に固着した石綿含有層を手作業で剥離するため、多大な労力が必要となり、また、飛散防止幕や集塵装置などを設置して石綿の飛散を防止する必要があるため、多大なコストが必要になる。更に、ケレン工法には、石綿含有層に剥離剤を含浸させ、それによって柔らかくなった石綿含有層を剥離用工具で剥離する方法も存在するが、石綿含有層の種類によっては剥離剤の効果が現れない場合がある。
【0007】
これらの問題に鑑み、例えば特許文献1では、石綿含有層にレーザ光を照射することにより、石綿含有層中の石綿を無害化する方法が提案されている。しかし、この方法では、石綿を無害化できたとしても、基材表面には石綿含有層が残ったままになるため、改めて高圧水洗工法やケレン工法を用いて基材表面から石綿含有層を除去することが必要になる。一方、石綿含有層は基材表面に固着したままであるため、石綿を無害化できたとしても、石綿含有層を除去する際の作業性が顕著に向上するわけではない。
【0008】
そこで本発明の目的は、石綿含有層中の石綿を無害化すると共に、当該石綿含有層を基材表面から除去する際の作業性を顕著に向上させる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る石綿の処理方法は、基材表面に下地層を介して形成された石綿含有層を処理する方法であり、石綿含有層にレーザ光を照射することにより、当該石綿含有層を、熱分解、溶融、及びレーザアブレーションの少なくとも何れか1つで処理し、下地層にもレーザ光を照射することにより、当該下地層を炭化させる。
【0010】
上記処理方法によれば、石綿含有層を、熱分解、溶融、及びレーザアブレーションの少なくとも何れか1つで処理することにより、石綿含有層中の石綿を無害化することができる。また、下地層は、炭化によって脆化する。よって、上記処理方法によれば、剥離用工具を用いて手作業で下地層を剥離する場合でも、当該下地層を容易に剥離することが可能になる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、石綿含有層中の石綿を無害化すると共に、当該石綿含有層を基材表面から除去する際の作業性を顕著に向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】石綿の処理方法で除去される石綿含有層を例示した概念図である。
図2】実施形態に係る石綿の処理方法の説明に用いられる概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、以下に説明する石綿の処理方法で処理される石綿含有層Laを例示した概念図である。図1に示されるように、石綿含有層Laは、基材表面S(壁、天井、屋根などの表面)に下地層Lbを介して形成されたものである。ここで、下地層Lbは、接着剤などの樹脂材料で形成された層であり、石綿含有層Laを基材表面Sに固着させる接着層として用いられる。石綿含有層Laは、石綿の紡織品などを接着剤(下地層Lb)で基材表面Sに貼り付けて固着させたものや、セメントや石膏などの塗材に石綿を混ぜたものを下地層Lbに吹き付けて又は塗って基材表面Sに固着させたものである。
【0014】
そして、以下に説明する石綿の処理方法は、上述した石綿含有層Laを処理する方法であり、石綿含有層La中の石綿を無害化すると共に、当該石綿含有層Laを基材表面Sから除去する際の作業性を顕著に向上させることを可能にするものである。
【0015】
[1]実施形態
図2(A)及び(B)は、実施形態に係る石綿の処理方法の説明に用いられる概念図である。図2(A)に示されるように、本実施形態の処理方法では、石綿含有層Laの処理にレーザ光が用いられる。具体的には、石綿含有層Laにレーザ光を照射することにより、当該石綿含有層La中の石綿に、熱分解、溶融、及びレーザアブレーションの少なくとも何れか1つの現象を生じさせる。これにより、石綿含有層La中の石綿が無害化される。
【0016】
更に、本実施形態の処理方法では、石綿含有層Laだけでなく下地層Lbにも上記レーザ光を照射することにより、下地層Lbを炭化させる。具体的には、基材表面Sに向けてレーザ光を照射することにより、石綿含有層Laの処理に並行して下地層Lbを炭化させる。このとき、レーザ光は、石綿の無害化と下地層Lbの炭化とを実現できるものであればよく、特に限定されないが、一例として、波長が100nm~2000nmであり、出力パワーが数W~数十Wであるものが使用される。
【0017】
そして、基材表面Sのうちの処理対象になっている一部又は全部の領域をレーザ光で走査することにより、当該一部又は全部の領域の全体において、石綿含有層Laの処理と下地層Lbの炭化とを何れも完了させることができる。一例として、レーザ光の走査は、レーザ発信器内においてレーザ光の出力角度を走査レンズで変化させることによって行われる。このとき、レーザ光のスポット径が一定に保たれるように、レーザ光は、fθレンズを介して基材表面Sに照射されることが好ましい。他の例として、レーザ発信器から光ファイバを通じて供給されるレーザ光を用いて、手作業で基材表面Sの一部又は全部の領域を走査してもよい。
【0018】
下地層Lbを炭化させた後、図2(B)に示されるように、当該下地層Lbを、剥離用工具K(スクレーパや皮すきなど)によって基材表面Sから剥離する。ここで、下地層Lbは、炭化によって脆化する。このため、剥離用工具Kを用いて手作業で下地層Lbを剥離する場合でも、当該下地層Lbを容易に剥離することができる。よって、下地層Lbを炭化させることにより、石綿含有層Laを基材表面Sから除去する際の作業性を顕著に向上させることができる。そして、下地層Lbを基材表面Sから剥離することにより、処理後の石綿含有層Laが、下地層Lbと共に基材表面Sから除去される(図2(B)参照)。
【0019】
このように、本実施形態の処理方法によれば、石綿含有層La中の石綿を無害化すると共に、当該石綿含有層Laを基材表面Sから除去する際の作業性を顕著に向上させることが可能になる。
【0020】
[2]変形例
上述した石綿の処理方法において、石綿含有層Laの処理と、下地層Lbの炭化とを、別工程で行ってもよい。例えば、石綿含有層Laの処理後に、別途、下地層Lbにレーザ光を照射することにより、下地層Lbを炭化させてもよい。
【0021】
また、上述した石綿の処理方法において、石綿含有層Laの処理と下地層Lbの炭化とを行った後、剥離用工具Kによって下地層Lbを基材表面Sから剥離することに代えて、水洗工法などを用いて下地層Lbを基材表面Sから剥離してもよい。
【0022】
上述の実施形態及び変形例の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態又は変形例ではなく、特許請求の範囲によって示される。更に、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0023】
K 剥離用工具
S 基材表面
La 石綿含有層
Lb 下地層
図1
図2