(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022077704
(43)【公開日】2022-05-24
(54)【発明の名称】桁下水位予測装置、桁下水位予測方法、桁下水位予測プログラム、および学習済みモデル
(51)【国際特許分類】
G08B 31/00 20060101AFI20220517BHJP
B61L 27/00 20220101ALI20220517BHJP
E01D 1/00 20060101ALI20220517BHJP
G08B 21/10 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
G08B31/00 B
B61L27/00 G
E01D1/00 Z
G08B21/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020188658
(22)【出願日】2020-11-12
(71)【出願人】
【識別番号】000196587
【氏名又は名称】西日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】竹内 傑
(72)【発明者】
【氏名】堀井 義浩
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 祐丞
(72)【発明者】
【氏名】沖中 大和
(72)【発明者】
【氏名】松田 篤史
【テーマコード(参考)】
2D059
5C086
5C087
5H161
【Fターム(参考)】
2D059AA05
2D059GG39
5C086AA15
5C086AA46
5C086CA01
5C086CB08
5C086DA08
5C086EA40
5C086EA41
5C086EA45
5C086FA02
5C086FA17
5C086FA18
5C087AA10
5C087AA11
5C087AA19
5C087AA32
5C087DD02
5C087DD15
5C087EE08
5C087GG08
5C087GG09
5C087GG17
5C087GG66
5C087GG70
5C087GG83
5C087GG84
5H161AA01
5H161JJ29
5H161JJ36
5H161JJ40
(57)【要約】
【課題】河川に設けられた橋梁の桁下水位について、所定時間後の桁下水位を精度良く予測することを目的とする。
【解決手段】桁下水位を取得する桁下水位取得部21と、河川の流域の計測地点における水位である流域水位を取得する流域水位取得部22と、複数の計測地点において所定の計測時刻に計測されたそれぞれの流域水位および計測時刻に計測された桁下水位を一組の学習用入力データ34として、計測時刻の異なる複数組の学習用入力データ34を用いて機械学習させることにより、所定時間後の桁下水位を予測するための学習済みモデル36を生成する学習装置23と、所定時刻におけるそれぞれの計測地点の流域水位および所定時刻における桁下水位のうちの少なくとも一方を学習済みモデル36に入力して、所定時刻より所定時間後の桁下水位を予測する桁下水位予測部25とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川に設けられる橋梁の桁下水位を予測する桁下水位予測装置であって、
前記桁下水位を取得する桁下水位取得部と、
前記河川の流域の計測地点における水位である流域水位を取得する流域水位取得部と、
複数の前記計測地点において所定の計測時刻に計測されたそれぞれの前記流域水位および前記計測時刻に計測された前記桁下水位を一組の学習用入力データとして、前記計測時刻の異なる複数組の前記学習用入力データを用いて機械学習させることにより、所定時間後の前記桁下水位を予測するための学習済みモデルを生成する学習装置と、
所定時刻におけるそれぞれの前記計測地点の前記流域水位および前記所定時刻における前記桁下水位のうちの少なくとも一方を前記学習済みモデルに入力して、前記所定時刻より所定時間後の前記桁下水位を予測する桁下水位予測部とを備える桁下水位予測装置。
【請求項2】
前記学習済みモデルは複数生成され、それぞれの前記学習済みモデルは、異なる時間後の前記桁下水位を予測するために用いられる請求項1に記載の桁下水位予測装置。
【請求項3】
前記流域水位および前記桁下水位は、所定の時間間隔で取得される請求項1または2に記載の桁下水位予測装置。
【請求項4】
前記学習用入力データは、前記桁下水位および前記流域水位を演算することにより求められた特徴量、前記河川に設けられたダムの放水量、前記ダムの放水時刻、前記橋梁における集水面積内の降水量、前記集水面積内の損失雨量のうちの少なくとも1つを含む請求項1から3のいずれか一項に記載の桁下水位予測装置。
【請求項5】
前記学習用入力データを入力して前記学習済みモデルを生成する際に、それぞれの前記学習用入力データの重要度が検証され、所定の基準以上に重要度の高い前記学習用入力データを用いて前記学習済みモデルが再度生成され、再度生成された前記学習済みモデルを用いて、前記桁下水位の予測が行われる請求項1から4のいずれか一項に記載の桁下水位予測装置。
【請求項6】
前記桁下水位予測部が予測した前記桁下水位が所定の基準値を超えると、前記桁下水位に応じた災害対処計画を実施する旨の警告を発する警告部をさらに備える請求項1から5のいずれか一項に記載の桁下水位予測装置。
【請求項7】
前記橋梁上に鉄道設備が設けられ、
前記警告部は、前記災害対処計画として前記桁下水位に応じた列車運用計画を実施する旨の警告を発する請求項6に記載の桁下水位予測装置。
【請求項8】
予測された前記桁下水位から前記橋梁の近傍における前記河川の氾濫を予測する氾濫予測部をさらに備える請求項1から7のいずれか一項に記載の桁下水位予測装置。
【請求項9】
河川に設けられる橋梁の桁下水位を予測する桁下水位予測方法であって、
前記桁下水位を取得する工程と、
前記河川の流域の計測地点における水位である流域水位を取得する工程と、
複数の前記計測地点において所定の計測時刻に計測されたそれぞれの前記流域水位および前記計測時刻に計測された前記桁下水位を一組の学習用入力データとして、前記計測時刻の異なる複数組の前記学習用入力データを用いて機械学習させることにより、所定時間後の前記桁下水位を予測するための学習済みモデルを生成する工程と、
所定時刻におけるそれぞれの前記計測地点の前記流域水位および前記所定時刻における前記桁下水位のうちの少なくとも一方を前記学習済みモデルに入力して、前記所定時刻より所定時間後の前記桁下水位を予測する工程とを備える桁下水位予測方法。
【請求項10】
河川に設けられる橋梁の桁下水位を予測する桁下水位予測プログラムであって、
前記桁下水位を取得する機能と、
前記河川の流域の計測地点における水位である流域水位を取得する機能と、
複数の前記計測地点において所定の計測時刻に計測されたそれぞれの前記流域水位および前記計測時刻に計測された前記桁下水位を一組の学習用入力データとして、前記計測時刻の異なる複数組の前記学習用入力データを用いて機械学習させることにより、所定時間後の前記桁下水位を予測するための学習済みモデルを生成する機能と、
所定時刻におけるそれぞれの前記計測地点の前記流域水位および前記所定時刻における前記桁下水位のうちの少なくとも一方を前記学習済みモデルに入力して、前記所定時刻より所定時間後の前記桁下水位を予測する機能とをコンピュータに実行させる桁下水位予測プログラム。
【請求項11】
河川に設けられる橋梁の桁下水位を予測するための学習済みモデルであって、
前記河川の流域の複数の計測地点において所定の計測時刻に計測されたそれぞれの水位である流域水位および前記計測時刻に計測された前記桁下水位を一組の学習用入力データとして、前記計測時刻の異なる複数組の前記学習用入力データを用いて機械学習させることにより生成され、
所定時刻におけるそれぞれの前記計測地点の前記流域水位および前記所定時刻における前記桁下水位のうちの少なくとも一方を入力することにより、前記所定時刻より所定時間後の前記桁下水位を予測するようにコンピュータを機能させるための学習済みモデル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
河川における橋梁の桁下水位予測に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道設備である橋梁が、河川上に設けられる場合がある。降雨等により河川が増水すると、安全な列車運行を担保するため、列車の運転が規制(運転規制)される。その後、河川の水位が低下すると、設備の点検を行ったうえで、運転規制が緩和・解除される。
【0003】
運転規制は、あらかじめ規定された河川の水位に基づいて運転規制の開始・緩和・解除が行われる。運転規制の開始・緩和・解除が行われると、列車の運行に大きな影響を及ぼす。そのため、河川水位をできるだけ早期に予測することで、最適な列車運用を行うことが重要である。特にこれまでは、あらかじめ規定された基準値を下回る時刻が予測できないために、効率的に列車運用の計画を行うことができないことが課題であった。
【0004】
河川の水位を予測するために、例えば、特許文献1では、水位変化の伝搬時間をあらかじめ計測し、上流の水位変化と伝播時間とを用いて水位予測を行う構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、河川の水位は種々の条件が複雑に連関して変化し、前もって水位変化を正確に予測することは困難であった。
【0007】
本発明は、河川に設けられた橋梁の桁下水位について、所定時間後の桁下水位を精度良く予測することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態に係る桁下水位予測装置は、河川に設けられる橋梁の桁下水位を予測する桁下水位予測装置であって、前記桁下水位を取得する桁下水位取得部と、前記河川の流域の計測地点における水位である流域水位を取得する流域水位取得部と、複数の前記計測地点において所定の計測時刻に計測されたそれぞれの前記流域水位および前記計測時刻に計測された前記桁下水位を一組の学習用入力データとして、前記計測時刻の異なる複数組の前記学習用入力データを用いて機械学習させることにより、所定時間後の前記桁下水位を予測するための学習済みモデルを生成する学習装置と、所定時刻におけるそれぞれの前記計測地点の前記流域水位および前記所定時刻における前記桁下水位のうちの少なくとも一方を前記学習済みモデルに入力して、前記所定時刻より所定時間後の前記桁下水位を予測する桁下水位予測部とを備える。
【0009】
本発明の一実施形態に係る桁下水位予測方法は、河川に設けられる橋梁の桁下水位を予測する桁下水位予測方法であって、前記桁下水位を取得する工程と、前記河川の流域の計測地点における水位である流域水位を取得する工程と、複数の前記計測地点において所定の計測時刻に計測されたそれぞれの前記流域水位および前記計測時刻に計測された前記桁下水位を一組の学習用入力データとして、前記計測時刻の異なる複数組の前記学習用入力データを用いて機械学習させることにより、所定時間後の前記桁下水位を予測するための学習済みモデルを生成する工程と、所定時刻におけるそれぞれの前記計測地点の前記流域水位および前記所定時刻における前記桁下水位のうちの少なくとも一方を前記学習済みモデルに入力して、前記所定時刻より所定時間後の前記桁下水位を予測する工程とを備える。
【0010】
本発明の一実施形態に係る桁下水位予測プログラムは、河川に設けられる橋梁の桁下水位を予測する桁下水位予測プログラムであって、前記桁下水位を取得する機能と、前記河川の流域の計測地点における水位である流域水位を取得する機能と、複数の前記計測地点において所定の計測時刻に計測されたそれぞれの前記流域水位および前記計測時刻に計測された前記桁下水位を一組の学習用入力データとして、前記計測時刻の異なる複数組の前記学習用入力データを用いて機械学習させることにより、所定時間後の前記桁下水位を予測するための学習済みモデルを生成する機能と、所定時刻におけるそれぞれの前記計測地点の前記流域水位および前記所定時刻における前記桁下水位のうちの少なくとも一方を前記学習済みモデルに入力して、前記所定時刻より所定時間後の前記桁下水位を予測する機能とをコンピュータに実行させる。
【0011】
本発明の一実施形態に係る学習済みモデルは、河川に設けられる橋梁の桁下水位を予測するための学習済みモデルであって、前記河川の流域の複数の計測地点において所定の計測時刻に計測されたそれぞれの水位である流域水位および前記計測時刻に計測された前記桁下水位を一組の学習用入力データとして、前記計測時刻の異なる複数組の前記学習用入力データを用いて機械学習させることにより生成され、所定時刻におけるそれぞれの前記計測地点の前記流域水位および前記所定時刻における前記桁下水位のうちの少なくとも一方を入力することにより、前記所定時刻より所定時間後の前記桁下水位を予測するようにコンピュータを機能させる。
【0012】
以上のような構成により、桁下水位の変化に大きく影響する、流域の複数の計測地点の流域水位と、予測対象となる桁下水位とを入力して機械学習された学習済みモデルを用いることにより、所定時間後の桁下水位を精度良く予測することができる。その結果、河川の増水および水位の低下をできるだけ早期に予測することができる。また、このように予測された桁下水位を用いることにより、事前に予測された将来時刻における桁下水位に応じて、列車の運用計画を早期に立案できる。その結果、効率良く列車の運用を行うことができる。
【0013】
上記した、桁下水位予測装置、桁下水位予測方法、桁下水位予測プログラムにおいて、前記学習済みモデルは複数生成され、それぞれの前記学習済みモデルは、異なる時間後の前記桁下水位を予測するために用いられても良い。
【0014】
このような構成により、将来にわたって、複数の異なる時間後の桁下水位を予測することができ、予測される桁下水位の変化を確認しながら、異なる時間後のうち任意に選択された時間後の桁下水位に応じて、現在行うべき行動を決定することができる。
【0015】
上記した、桁下水位予測装置、桁下水位予測方法、桁下水位予測プログラム、学習済みモデルにおいて、前記流域水位および前記桁下水位は、所定の時間間隔で取得されても良い。
【0016】
このような構成により、学習用入力データは、流域水位および桁下水位の経時的な時間変化が含まれることとなり、より精度良く所定時間後の桁下水位を予測することができる。
【0017】
上記した、桁下水位予測装置、桁下水位予測方法、桁下水位予測プログラム、学習済みモデルにおいて、前記学習用入力データは、前記桁下水位および前記流域水位を演算することにより求められた特徴量、前記河川に設けられたダムの放水量、前記ダムの放水時刻、前記橋梁における集水面積内の降水量、前記集水面積内の損失雨量のうちの少なくとも1つを含んでも良い。
【0018】
このような構成により、桁下水位に影響を及ぼす多くの情報を学習用入力データに含めて機械学習を行うことができるため、より精度良く所定時間後の桁下水位を予測することができる。
【0019】
上記した、桁下水位予測装置、桁下水位予測方法、桁下水位予測プログラム、学習済みモデルにおいて、前記学習用入力データを入力して前記学習済みモデルを生成する際に、それぞれの前記学習用入力データの重要度が検証され、所定の基準以上に重要度の高い前記学習用入力データを用いて前記学習済みモデルが再度生成され、再度生成された前記学習済みモデルを用いて、前記桁下水位の予測が行われても良い。
【0020】
このような構成により、過学習が抑制され、かつ、重要度の高い学習用入力データが選択されて機械学習に用いられるため、より精度良く所定時間後の桁下水位を予測することができる。
【0021】
上記桁下水位予測装置において、前記桁下水位予測部が予測した前記桁下水位が所定の基準値を超えると、前記桁下水位に応じた災害対処計画を実施する旨の警告を発する警告部をさらに備えても良い。また、前記橋梁上に鉄道設備が設けられ、前記警告部は、前記災害対処計画として前記桁下水位に応じた列車運用計画を実施する旨の警告を発しても良い。
【0022】
また、上記桁下水位予測方法において、予測した前記桁下水位が所定の基準値を超えると、前記桁下水位に応じた災害対処計画を実施する旨の警告を発する工程をさらに備えても良い。また、前記橋梁上に鉄道設備が設けられ、前記警告を発する工程は、前記災害対処計画として前記桁下水位に応じた列車運用計画を実施する旨の警告を発しても良い。
【0023】
また、上記桁下水位予測プログラムにおいて、予測した前記桁下水位が所定の基準値を超えると、前記桁下水位に応じた災害対処計画を実施する旨の警告を発する機能を前記コンピュータに実行させても良い。また、前記橋梁上に鉄道設備が設けられ、前記警告を発する機能は、前記災害対処計画として前記桁下水位に応じた列車運用計画を実施する旨の警告を発する機能であっても良い。
【0024】
このように、運転規制の開始・緩和・解除(列車運用計画)等の災害対処計画を実施する基準となる桁下水位が、所定時間前に予測される。そして、予想される所定時間後の桁下水位に基づいて、運転規制の開始・緩和・解除(列車運用計画)等の災害対処計画の実施、あるいはそれに伴う準備を行う旨の警告が発せられる。上記のような構成により、あらかじめ、運転規制の開始・緩和・解除(列車運用計画)等の災害対処計画の実施あるいはそれに伴う準備を行うことができ、災害に対する対処を適切なタイミングで行うことができる。例えば、列車運用計画の場合、列車の運行が混乱することを抑制できる。また、適切なタイミングで利用者に余裕をもって運行の変更を予告することもでき、運行の乱れによる混乱を最小限にとどめることができる。さらに、事前に、車両や駅設備等を避難させることができ、鉄道設備の損失を最小限にとどめながら、早期の復旧へとつなげることができる。
【0025】
上記桁下水位予測装置において、予測された前記桁下水位から前記橋梁の近傍における前記河川の氾濫を予測する氾濫予測部をさらに備えても良い。
【0026】
また、上記桁下水位予測方法において、予測された前記桁下水位から前記橋梁の近傍における前記河川の氾濫を予測する工程をさらに備えても良い。
【0027】
また、上記桁下水位予測プログラムにおいて、予測された前記桁下水位から前記橋梁の近傍における前記河川の氾濫を予測する機能を前記コンピュータに実行させても良い。
【0028】
橋梁の桁下および橋梁の周辺の護岸・堤防は、東京湾平均海面等の基準高さからの相対的な高さを算出することができる。同様に、桁下水位から、河川の東京湾平均海面等の基準高さに対する相対的な水位を算出することができる。そして、予測される所定時間後の桁下水位から、予想される所定時間後の河川の水位を算出することができる。そのため、上記構成によると、予想される桁下水位から算出される所定時間後の河川の水位と、橋梁の周辺の護岸・堤防の高さを比較することにより、河川の氾濫を予測することができる。河川の氾濫を予測することにより、災害に対する対応・避難等をあらかじめ開始することができ、災害による被害を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】橋梁における桁下水位を説明する概略図である。
【
図2】桁下水位予測装置の概略構成を例示するブロック図である。
【
図3】河川の流域における水位の計測地点を例示する図である。
【
図4】0時間後の桁下水位を予測する学習済みモデルを生成するために用いる変数および特徴量の重要度の比較結果を例示する図である。
【
図5】3時間後の桁下水位を予測する学習済みモデルを生成するために用いる変数および特徴量の重要度の比較結果を例示する図である。
【
図6】6時間後の桁下水位を予測する学習済みモデルを生成するために用いる変数および特徴量の重要度の比較結果を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
〔列車運用計画〕
図1に示すように、列車1の路線が河川2を跨いで設けられる場合、鉄道の線路3は、河川2の橋梁4上に設けられる。橋梁4は橋脚5と橋桁6を備え、橋桁6は河川2を挟んで一方の護岸7から対岸の護岸7に亘って設けられる。線路3は橋梁4の橋桁6上に設けられる。
【0031】
列車1の運用は列車運用計画に基づいて行われる。列車運用計画には、河川の増水等の異常時における運転規制の計画についても組み込まれる。
【0032】
降雨等により河川の水量が増加した場合、橋梁4における河川2の水位または桁下水位8に応じて列車1の運行が規制される。運転規制は、従来では、水位計9等により桁下水位8が継続的に計測され、列車1の運転規制の開始、あるいは設備点検の実施後にこれらの解除が行われていた。
【0033】
河床は土砂等が堆積するため日々変化する可能性があり、河床から水面までの高さである水位は一定でない。そのため、河川水量が増加した時には、河川水位の計測よりも、普遍的な橋梁4を基準とした桁下水位8の計測の方が安定して正確な計測が可能である。そのため、普遍的な桁下からの水位である桁下水位8を用いて、運転規制の開始・緩和・解除に係る列車運用計画を実施することが好ましく、本実施形態では、桁下水位8を予測する。
【0034】
運転規制は、警戒水位10、徐行水位11、停止水位12等の規制基準値に応じて行われる。予測された河川2の桁下水位8(以下、「予測水位」とも称す)が増加し警戒水位10を超えると警備体制を強化し、予測水位が徐行水位11を超えると列車1の走行速度を徐行速度に制限し、予測水位が停止水位12を超えると列車1の運行を停止する。また、事前に列車1を河川2の増水の影響の少ない場所に留置したり、河川2の近くに駅がある場合、必要に応じて駅の設備を退避したりする等の、必要な対処が行われても良い。さらに、列車1の運行が停止されている際に、河川2の水位が低下することが予測され、予測水位が停止水位12を下回ると、保守員による橋梁4や線路3等の点検が行われ、問題がないと、列車1の走行速度を徐行速度に制限した状態で、列車1の運行が再開される。また、列車1の走行速度が徐行速度に制限されている際に、河川2の水位が低下することが予測され、予測水位が徐行水位11を下回ると、保守員による橋梁4や線路3等の点検が行われ、列車運行において安全上の問題がないことが確認されると、運転規制が解除され、列車1の運行が通常の状態に戻される。
【0035】
なお、運転規制の開始・緩和・解除は、予測水位が規制基準値となった時点で行われても良いが、予測水位が規制基準値となると、運転規制の開始・緩和・解除の準備が開始され、所定時間後に運転規制の開始・緩和・解除が行われることが好ましい。この場合、予測水位に基づいた列車運用計画が実施されるタイミングに応じて、予測水位の予測時間、つまり、現在より何時間後の桁下水位8を予測するかが決定される。例えば、1時間後の予測水位が求められる場合、予測水位が規制基準値となった時点で列車運用計画に沿った運転規制の開始・緩和・解除の準備が開始され、1時間後に運転規制の開始・緩和・解除が行われる。また、6時間後の予測水位が求められる場合、予測水位が規制基準値となると、6時間後に適切に運転規制の開始・緩和・解除が行われるように、運転規制の開始・緩和・解除ための計画が行われ、その準備が開始される。その際、利用者等に、6時間後に運転規制の開始・緩和・解除が行われる予定である旨を通知するようにすることが好ましい。
【0036】
水位が急激に増加した場合、従来のように、現在の河川2の水位に応じて運転規制の開始を行うと、突然に運転規制を開始する必要性が生じ、適切に列車運用を行うことが困難になったり、列車1等の鉄道設備を河川2の増水の影響が少ない場所に退避することが遅れたりする場合があった。また、水位が急激に減少した場合、従来のように、現在の河川2の水位に応じて運転規制の緩和・解除を行うと、設備点検を適切なタイミングで行うことが困難となり、適切に列車運用を行うことが困難となる場合があった。
【0037】
本実施形態によると、所定時間後の桁下水位8を予測水位として求めることにより、水位が急激に変化する場合であっても、予測される将来的な桁下水位8に応じて、計画的に、かつ、適切に列車運用計画に基づいた運転規制の開始・緩和・解除を行うことができ、列車運用の混乱を最小限に抑えて最適な列車の運行を行うことが可能となる。また、所定時間後の桁下水位8が予測されるため、点検の準備を前もって開始することができ、より効果的な設備点検と最適な列車の運用が行われる。
〔桁下水位予測装置〕
次に、
図1を参照しながら、
図2を用いて、桁下水位予測装置20について説明する。
【0038】
桁下水位予測装置20は、桁下水位取得部21と、流域水位取得部22と、学習装置23と、記憶部24と、桁下水位予測部25とを備える。
【0039】
桁下水位取得部21は、桁下水位8を予測する対象となる橋梁4に設けられる桁下水位計26(例えば
図1の水位計9)の計測値を取得する。流域水位取得部22は、橋梁4が設けられた河川2の流域における複数の計測地点の水位をそれぞれ流域水位として取得する。流域水位取得部22が取得する流域水位は、河川2の複数の計測地点に設けられた流域水位計27により計測される。
【0040】
記憶部24は、各種のデータやプログラム等が格納される。例えば、記憶部24は、学習用入力データ34を記憶する。学習用入力データ34は、桁下水位取得部21が取得したある時刻に計測された桁下水位8と、流域水位取得部22が取得したそれぞれの計測地点において桁下水位8と同じ時刻に計測された流域水位とからなる。学習用入力データ34は、後述のように、ある時刻に計測された桁下水位8と複数の流域水位とを一組の学習用入力データ34として、計測時刻の異なる複数の学習用入力データ34が学習済みモデルを生成する機械学習に用いられ、後述の学習制御部31により生成されて、記憶部24に格納される。
【0041】
また、記憶部24は、後述するように、学習装置23で生成された学習済みモデル36を記憶する。また、記憶部24は、現在水位37を記憶する。現在水位37は、流域水位取得部22が取得した、現在時刻におけるそれぞれの計測地点で計測された流域水位である。現在水位37は、後述のように、桁下水位を予測する際に用いられる。なお、現在水位37は、流域水位のみならず、現在時刻に計測された桁下水位8が含まれても良い。また、現在水位37は、桁下水位8のみであっても良い。
【0042】
学習装置23は、AI(Artificial Intelligence)30と学習制御部31とを備える。学習装置23は、学習制御部31の制御により、記憶部24に格納された複数組の学習用入力データ34を取得し、学習用入力データ34をAI30に入力して、深層学習等の機械学習を行わせることにより学習済みモデル36を生成する。生成された学習済みモデル36は、学習制御部31の制御により、記憶部24に格納される。学習済みモデル36は、所定の時間後(所定の予測時間)の桁下水位8を予測するための1つの学習済みモデル36が生成されても良いが、異なる複数の時間後(予測時間)の桁下水位8を予測するためのそれぞれの学習済みモデル36が生成されても良い。
【0043】
桁下水位予測部25は、予測制御部39を備え、予測制御部39の制御により、学習済みモデル36を用いて現在から所定時間後の桁下水位8を予測する。具体的には、予測制御部39は、記憶部24から現在水位37を取得し、記憶部24に格納された、予測したい時間に対応する学習済みモデル36に現在水位37を入力して、現在から所定時間後の桁下水位8を予測する。所定時間(予測時間)は、上述のように、現在から1時間後や6時間後等の任意の時間であり、予測される時間に応じた学習済みモデル36が用いられる。
【0044】
なお、学習装置23で生成された学習済みモデル36は、現在から任意の時間後の桁下水位8を予測するためのモデルであっても良い。この際、予測制御部39は、桁下水位8を予測する際に、現在から何時間後の桁下水位8を予測するかを設定して、現在水位37を学習済みモデル36に入力することにより、現在からその時間後の桁下水位8を予測する。
【0045】
桁下水位予測装置20は、さらに表示部42を備えても良い。表示部42は、予測された桁下水位8を随時、あるいは人為的な操作に応じて表示する。列車運用計画の管理者は、表示された所定時間後の桁下水位8として予測された桁下水位8を確認し、予測された桁下水位8に応じて、列車運用計画に沿って列車の運行を管理する。
【0046】
さらに、桁下水位予測装置20は警告部43を備えても良い。警告部43は、予測された桁下水位8が、警戒水位10、徐行水位11、または停止水位12まで増加した際、あるいは、停止水位12または徐行水位11まで減少した際に、その旨を、管理者や保守員等に連絡する。警告部43への連絡は、警告音の発生、警告ランプの点灯、表示部42やその他の警告用の表示装置への表示、管理者や保守員等が保持する携帯端末や所定の端末へのメール等の送信、その他、種々の形態を含んでいる。警告部43による連絡は、上記のような桁下水位8の状態の変化を連絡するだけでも良いが、列車運用計画に沿った具体的な行動指示を行うものであっても良い。また、警告部43は、桁下水位8と列車運用計画とに応じて、運用規制の開始・緩和・解除を自動的に制御しても良い。
【0047】
以上のように、桁下水位8および計測地点における河川2の流域水位を学習させた学習済みモデル36を用いて、現在水位37から、所定時間後の桁下水位8を予測するため、桁下水位8を精度良く予測することができる。また、桁下水位8は、様々な要因によって変化するが、河川2における複数の計測地点の流域水位と同時刻の桁下水位8とを入力して機械学習するため、桁下水位8に影響を及ぼす多くの要因を含んで機械学習されるため、桁下水位8を精度良く予測することができる。
【0048】
特に、運転規制を緩和・解除する際には、点検の準備をあらかじめ行い、桁下水位8が下がった際に、点検計画立案の判断支援を効率的に行うことができ、迅速かつ適切なタイミングで運転規制の緩和・解除を行うことができる。その結果、適切なタイミングで列車の運行を調整でき、利用者に余裕をもって運行の変更を予告でき、運行の乱れによる混乱を最小限にとどめることができる。桁下水位8の上昇に伴い河川2が氾濫することが予測される場合、事前に、車両や駅設備を避難させることができ、鉄道設備の損失を最小限にとどめながら、早期の復旧へとつなげることができる。また、列車の利用者にも早期に運行の変更情報を提供することができ、利用者は行動計画を効率的に行うことができる。
【0049】
桁下水位予測装置20は、上述のように、河川2の流域の複数の計測地点における流域水位に基づいて、桁下水位を予測する。そのため、
図1,
図2を参照しながら、
図3を用いて、河川2における水位の計測地点について説明する。
【0050】
例えば、
図3に示すように、河川2は、橋梁4の下流において海や湖等につながり、橋梁4の上流において2つの支川が合流している。河川2の流域には、計測地点A~Hの8つの計測地点が設けられる。このうち、計測地点Aは河川2の橋梁4よりも上流のうちで最も橋梁4に近い地点に設けられる。計測地点Hは橋梁4より下流に設けられる。計測地点B~Gは2つの支川に振り分けて設けられる。そして、それぞれの計測地点A~Hには、その地点の河川2の水位(流域水位)を計測する流域水位計27が設けられ、計測地点A~Hそれぞれの河川2の流域水位が継続的に計測される。例えば、流域水位取得部22は、所定の時間間隔で継続的に計測される流域水位を随時取得する。
【0051】
計測地点A~Hの流域水位計27は、国や自治体等の機関が設置した水位計とすることができ、流域水位取得部22は、公表された水位を流域水位として経時的に取得しても良い。また、河川の断面や川幅等の河川の特徴、周辺の地理的特徴等を考慮して、流域内の任意の位置に流域水位計27が設けられても良い。
【0052】
なお、桁下水位予測装置20は、上記構成に限らず、任意の構成とすることができる。例えば、桁下水位予測装置20を構成する機能ブロックは、上記構成に限らず、任意に結合または分割することができる。また、桁下水位予測装置20は、CPU、MPU等のプロセッサが搭載され、少なくとも学習制御部31および予測制御部39はプロセッサを搭載する。また、桁下水位予測装置20の機能の一部または全部は、他の構成、方法で実現されても良く、ソフトウェアで実現されても良い。ソフトウェアで実現される場合、プログラムは、記憶部24等に記憶され、学習制御部31、予測制御部39、または他の制御部が備えるプロセッサにより実行される。
〔学習用入力データ〕
次に、
図1~4を用いて、流域水位取得部22が取得した流域水位、および桁下水位取得部21が取得した桁下水位からなる、機械学習に用いられる学習用入力データ34の構成例について説明する。
【0053】
学習用入力データ34は、任意の計測時刻に計測された桁下水位8および各流域水位からなる一組の学習用入力データ34であり、計測時刻の異なる複数組の学習用入力データ34(以下、単に学習用入力データ34と表現する場合もある)を用いて機械学習が行われる。桁下水位8および流域水位の計測は、任意に行われても良いが、所定の期間に所定の時間間隔で行われても良い。
【0054】
以下、2013年9月1日から2019年8月9日までの期間において、10分毎に桁下水位8および流域水位を計測(取得)して、学習用入力データ34を生成する3つの例について説明する。
【0055】
(1)1つ目の例では、この期間において10分毎に計測(取得)された桁下水位8および流域水位が計測時刻毎に組み分けされて、そのまま学習用入力データ34とされる。
【0056】
具体的には、上記期間に10分毎に桁下水位計26により桁下水位8が計測される。また、各計測地点に設けられた流域水位計27は、それぞれ、桁下水位8が計測された時刻と同じ時刻の流域水位を計測する。桁下水位取得部21および流域水位取得部22は、それぞれ、計測された桁下水位8および流域水位を取得する。学習制御部31は、桁下水位取得部21および流域水位取得部22が取得した桁下水位8および流域水位のうち、同時刻に計測された桁下水位8および各流域水位を一組とし、異なる時刻に計測された複数組の桁下水位8および各流域水位を複数組の学習用入力データ34とする。
【0057】
(2)河川2の水位は、通常の状態では比較的低い水位で安定する一方、大雨等で河川2が増水した場合には、一時的に通常の水位より非常に高い水位となる。そのため、継続的に水位を計測すると、通常の水位となる大多数の水位データの中に、少数の非常に高い水位データが含まれることとなり、水位データが不均衡となる。このような不均衡な水位データを含む学習用入力データを用いて機械学習が行われると、大多数のデータの影響が大きくなりすぎ、学習済みモデル36の予測精度が低下する。そのため、大多数のデータとなる、所定の水位以下のデータ(通常時の水位データ)を間引く必要がある。2つ目の学習用入力データ34の生成例では、学習制御部31は、桁下水位8を基準として、橋梁4における河川2の水位が所定の値より低いデータの一部を間引いて学習用入力データ34を生成する。
【0058】
具体的には、学習制御部31は、上記期間に10分毎に計測された、312191組の桁下水位8および各流域水位のうち、橋梁4における河川2の水位が0.5m以下である桁下水位8および各流域水位の組を分割する。例えば、河川2の水位が0.5m以下である桁下水位8および各流域水位の組が310599組あったとすると、河川2の水位が0.5mより大きい桁下水位8および各流域水位の組は1602組となる。ここで、橋梁4における河川2の水位は、河川2の川底から橋梁4までの高さがわかっているため、桁下水位8から算出することができる。すなわち、橋梁4における河川2の水位は、河川2の川底から橋梁4までの高さから桁下水位8を減じた値となる。
【0059】
河川2の水位が0.5mより大きい1602組のデータは学習用入力データ34としてそのまま用いられる。他方、河川2の水位が0.5m以下である310599組のデータは、桁下水位8を予測するデータ(学習用入力データ)としての不均衡が生じるため、データ量を間引いて学習用入力データ34に加えられる。例えば、学習制御部31は、河川2の水位が0.5m以下である310599組のデータのうち、無作為に抽出した1割のデータを学習用入力データ34として用い、残り9割のデータは使用しない。結果として、学習制御部31は、河川2の水位が0.5m以下である310599組のデータから、31059組のデータを抽出し、河川2の水位が0.5mより大きい1602組のデータと合わせて、32661組のデータを学習用入力データ34として生成する。
【0060】
このように、桁下水位8を予測するために、有効なデータを用いて機械学習を行うことができるため、精度良く桁下水位8を予測することができる学習済みモデル36を生成することができる。
【0061】
(3)3つ目の学習用入力データ34の生成例では、上記(1),(2)の方法で、複数組の学習用入力データ34として生成したデータが変数とされ、これらの変数から特徴量を求めて、変数と特徴量とを合わせて学習用入力データ34とされる。さらに、学習用入力データ34となる変数と特徴量のうち、学習済みモデル36を生成した結果、予測精度を高めるために重要度の高いと認められるもののみが抽出されて、学習用入力データ34とされても良い。学習用入力データ34としては、求められた全ての変数と特徴量を学習用入力データ34とされても良いが、以下の説明では、重要度により変数と特徴量が抽出される例を用いて説明する。結果的に、学習用入力データ34は、変数に相当する異なる計測時刻に計測された桁下水位8および流域水位の組と、複数の特徴量のうち、所定のものが組み合わされたものとなる。特徴量は、以下の4つの方法で求めた特徴量が適宜組み合わされて用いられる。
【0062】
1つ目の特徴量は水位変化量である。水位変化量は、桁下水位8および各流域水位について、単位時間当たりの水位の変化量である。例えば、学習済みモデル36として、一時間毎に1時間後から6時間後までの桁下水位を求める6つの学習済みモデル36を生成する場合、それぞれの計測地点におけるそれぞれの計測時刻における桁下水位8および各流域水位について、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間での水位の変化が水位変化量として算出される。このような水位変化量を含めて学習済みモデル36を生成することにより、特徴的な水位変化が考慮された学習済みモデル36を生成することができ、予測精度が向上する。
【0063】
2つ目の特徴量は統計的なデータである。具体的には、統計的なデータとして、桁下水位8および各流域水位について、桁下水位取得部21および流域水位取得部22がデータを取得した期間、あるいは任意の期間における分散・最大値・最小値が算出される。このような統計的データを含めて学習済みモデル36を生成することにより、特徴的な統計データが考慮された学習済みモデル36を生成することができ、予測精度が向上する。
【0064】
3つ目の特徴量は各データの相互作用を示すデータである。具体的には、上記変数および特徴量について、2つのデータが総当たり的に抽出され、これら2つのデータが加減乗除される。例えば、同時刻に計測された桁下水位8とある計測地点における流域水位とについて、加算、減算、乗算、除算された各値が特徴量となる。このような相互作用データを含めて学習済みモデル36を生成することにより、特徴的な相互作用データが考慮された学習済みモデル36を生成することができ、予測精度が向上する。
【0065】
4つ目の特徴量は平均値である。平均値は、各変数、または、各変数および特徴量について、それぞれの平均値である。例えば、平均値は、全期間における桁下水位8の平均値、ある計測地点における全期間の流域水位の平均値、ある計測地点における水位変化量の平均値等である。このような平均値を含めて学習済みモデル36を生成することにより、各変数の通常状態や安定した状態が考慮された学習済みモデル36を生成することができ、予測精度が向上する。
【0066】
桁下水位8は、非常に多くの要因が複雑に絡み合って定まり、その要因と桁下水位8に対する影響度をあらかじめ予測することは困難である。以上のような、様々な特徴量を含めて機械学習を行うことにより、桁下水位8の予測精度が高い学習済みモデル36を生成することができる。ただし、あまりに多くの変数と特徴量とが学習用入力データ34とされることは効率的ではない。そのため、後述のように、あらかじめ、各変数および特徴量の重要度を検証し、重要度の高い変数および特徴量のみを用いて学習済みモデル36を生成することが好ましい。
【0067】
具体的には、機械学習により学習済みモデル36を生成した場合、AI30は、その学習済みモデル36に対して影響の大きな変数および特徴量の影響度(重要度)を出力すると共にランク付けして出力することができる。そのため、算出した全ての変数および特徴量を入力して機械学習を行い、重要度の高い変数および特徴量を抽出することができる。抽出は、上位いくつかの変数および特徴量を抽出しても良いし、重要度の合計が所定の割合以上となるように抽出しても良い。例えば、重要度は合計が1となる係数で出力され、重要度の合計が0.9以上となるように、ランクの上位の変数および特徴量から順に抽出することができる。そして、予測に用いる学習済みモデル36を生成する際には、抽出された変数および特徴量を用いて機械学習を行うことができる。また、変数および特徴量の抽出は、生成する学習済みモデル36毎に行っても良い。例えば、1時間後の桁下水位8を予測するための学習済みモデル36の生成に用いる変数および特徴量と、2時間後、3時間後等の桁下水位8を予測するための学習済みモデル36の生成に用いる変数および特徴量とがそれぞれ個別に抽出されても良い。
【0068】
例えば、
図4~
図6に示すように、各時間(予測時間)における重要度とランキングとが出力されたとする。0時間後の桁下水位8を予測する学習済みモデル36では、
図4に示すように、計測地点Aの流域水位と、桁下水位8の1時間前との水位変化量と、計測地点Gの流域水位とが上位にランキングされ、これらの重要度の合計係数が0.9以上となる。そのため、0時間後の桁下水位8を予測する学習済みモデル36は、桁下水位8に加え、計測地点Aの流域水位と、桁下水位8の1時間前との水位変化量と、計測地点Gの流域水位とを学習用入力データ34として機械学習される。
【0069】
また、3時間後の桁下水位8を予測する学習済みモデル36では、
図5に示すように、計測地点Aの流域水位と、計測地点Eの流域水位と、計測地点Gの流域水位と、桁下水位8の1時間前との水位変化量とが上位にランキングされ、これらの重要度の合計係数が0.9以上となる。そのため、3時間後の桁下水位8を予測する学習済みモデル36は、桁下水位8に加え、計測地点Aの流域水位と、計測地点Eの流域水位と、計測地点Gの流域水位と、桁下水位8の1時間前との水位変化量とを学習用入力データ34として機械学習される。
【0070】
また、6時間後の桁下水位8を予測する学習済みモデル36では、
図6に示すように、計測地点Gの流域水位と、計測地点Dの流域水位と、計測地点Eの流域水位と、計測地点Fの流域水位と、計測地点Hの流域水位と、計測地点Aの流域水位の最大値と、桁下水位8の3時間前との水位変化量と、計測地点Aの流域水位とが上位にランキングされ、これらの重要度の合計係数が0.9以上となる。そのため、6時間後の桁下水位8を予測する学習済みモデル36は、桁下水位8に加え、計測地点Gの流域水位と、計測地点Dの流域水位と、計測地点Eの流域水位と、計測地点Fの流域水位と、計測地点Hの流域水位と、計測地点Aの流域水位の最大値と、桁下水位8の3時間前との水位変化量と、計測地点Aの流域水位とを学習用入力データ34として機械学習される。ここで、ある計測地点の流域水位は、抽出された32661個の流域水位のデータである。
【0071】
また、重要度の高い変数および特徴量を抽出する方法は、各学習済みモデル36について、別の方法を用いることもできる。この方法では、まず、上記のように重要度の高い変数および特徴量がランク付けされて出力される。次に、ランクが1位(最も重要度が高い)の変数および特徴量を用いて学習済みモデル36を生成し、この学習済みモデル36を用いて検証データで予測精度を測定する。次に、ランクが1位および2位の変数および特徴量を用いて学習済みモデル36を生成し、この学習済みモデル36を用いて検証データで予測精度を測定する。次に、ランクが1位から3位の変数および特徴量を用いて学習済みモデル36を生成し、この学習済みモデル36を用いて検証データで予測精度を測定する。そして、所定のランクまで上位の変数および特徴量を用いて、学習済みモデル36の生成と検証測定を繰り返し、予測精度が最も高くなった変数および特徴量の組み合わせを学習用入力データ34とする。これにより、より精度良く、学習用入力データ34として最適な変数および特徴量の組み合わせを決定することができる。
【0072】
さらに、学習用入力データ34として、上記変数、または変数および特徴量に加えて、付加入力データ38が加えられても良い。付加入力データ38は、例えば、各測定地点における予報降水量、集水面積内で雨量計等により計測された降雨量、河川2の上流に設けられたダムの放水量や放水時刻等の放水タイミング、河川2が流れ込む海や湖等の水位、天候、雨量と天候と水位との関係から解析された集水面積内の損失雨量等のデータのいずれかを適宜組み合わせて用いることができる。なお、これらの付加入力データ38についても、上記変数および特徴量と同時に、重要度があらかじめ検証され、重要度の合計係数が0.9以上に含まれる場合のみ、学習用入力データ34として用いられても良い。
〔学習済みモデル〕
機械学習の手法や学習済みモデル36の構造は、所定時間後の桁下水位8を予測することができれば任意である。例えば、学習済みモデル36は決定木とすることができる。学習済みモデル36が決定木である場合、機械学習は、Random Forest RegressorやLightGBM Regressor等のアルゴリズムを用いることができ、他にも、XGBoost Regressor、Cat Boost Regressor、ID3、C4.5、CART、CHAID等を用いても良い。
〔予測精度の評価〕
最後に、
図1,
図2を参照しながら
図7を用いて、本実施形態に係る桁下水位予測の評価結果について説明する。
【0073】
なお、学習済みモデル36を生成するための学習用入力データ34は、2013年9月1日から2019年8月9日までの期間において10分毎に桁下水位8および流域水位を計測し、河川2の水位が0.5m以下である桁下水位8および各流域水位の組から9割の組を間引いて32661組のデータとし、さらに特徴量を算出した後、各予測時間において重要度の合計係数が0.9となるデータを抽出したものを用いた。また、学習済みモデル36として、1時間おきに0~6時間後(Lead Time)の桁下水位を予測するための7つ学習済みモデル36を生成し、これら7つの学習済みモデル36を用いて予測した桁下水位8と、対応する時刻に実際に計測された桁下水位8とを比較することにより評価を行った。
【0074】
また、評価は、複数回の桁下水位予測を行い、警戒水位10、徐行水位11について、精度と適合率と再現率を求めることにより行った。精度は、予測した桁下水位8が、実際に計測された桁下水位8と一致した割合である。適合率(preecision)は、警戒水位10、徐行水位11に対応する桁下水位8となることが予測されなかった場合に、実際に警戒水位10、徐行水位11に対応する桁下水位8となった割合である。再現率(recall)は、実際に警戒水位10、徐行水位11に対応する桁下水位8となった場合に、警戒水位10、徐行水位11に対応する桁下水位8となることを予測できていた割合である。
【0075】
そして、上記条件で桁下水位8を予測し、評価すると、
図7に示すような結果となった。このように、本実施形態に係る桁下水位8の予測を行うと、精度良く桁下水位8を予測できることがわかる。また、警戒水位10、徐行水位11になることを、精度良く予測できると、適切な運転規制を行うことができて好ましく、その指標となるのが適合率と再現率である。
図7に示すように、適合率と再現率も十分な値となっており、適切に、警戒水位10、徐行水位11となることを精度良く予測し、適切な運転規制が可能となることがわかる。
〔別実施形態〕
【0076】
(1)学習済みモデル36は、上述のように、上記期間に限らず、任意の期間において取得された桁下水位8および流域水位に基づく学習用入力データ34を用いて生成することができ、取得間隔も任意である。さらに、桁下水位8および流域水位は、学習済みモデル36を生成した後も取得され続け、学習済みモデル36の生成後に取得された桁下水位8および流域水位を含めた学習用入力データ34を用いて機械学習を行い、学習済みモデル36を更新することもできる。また、学習済みモデル36の更新の際にも、上述のような、桁下水位8等による桁下水位8と流域水位とからなる組の間引き、特徴量の演算、影響度による変数および特徴量の抽出等が行われても良い。
【0077】
(2)上記説明では、予測した桁下水位8から、最適な列車の運用と効率的な設備点検を行う例を示したが、予測した桁下水位8は他の用途に用いられても良い。
【0078】
例えば、予測した桁下水位8から、橋梁4の周辺における河川2の氾濫を予測することができる。橋梁4の桁下の東京湾平均海面等の基準高さからの高さが特定できるため、橋梁4の桁下水位8から橋梁4における河川2の東京湾平均海面等を基準とした水位を算出することができる。そのため、予測された所定時間後の桁下水位8から、東京湾平均海面等を基準とした所定時間後の河川2の水位を予測し、橋梁4の周辺の護岸7の東京湾平均海面等を基準とした高さと比較することができる。その結果、河川2の水位が橋梁4の周辺の護岸7を超えるか否かが予測され、河川2の氾濫を予測することができる。また、このような河川2の氾濫の予測は、桁下水位予測装置20に設けられる氾濫予測部44が行っても良い。
【0079】
さらに、河川2の氾濫が予測されると、表示部42に所定時間後に河川2が氾濫することが表示されても良い。管理者は、河川2が氾濫することが予想されることを、所定の官公庁や自治体を介して、あるいは直接、付近の住民や関係施設等に連絡しても良い。また、河川2の氾濫が予測されると、警告部43が、所定の官公庁や自治体、あるいは付近の住民や関係施設等に災害対処計画が実施される旨の警告を行っても良い。
【0080】
このように、河川2が氾濫することが予想される情報を早期に受け取った、周辺自治体等は、早期に災害対処計画に沿った避難指示等の準備・発令を行うことができる。また、河川2が氾濫することが予想される情報(災害対処計画が実施される旨の情報)を早期に受け取った周辺の住民は、早期に対応を行うことができ、避難の準備や避難を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、河川における橋梁の桁下水位予測に適用することができる。
【符号の説明】
【0082】
2 河川
4 橋梁
8 桁下水位
20 桁下水位予測装置
21 桁下水位取得部
22 流域水位取得部
23 学習装置
24 記憶部
25 桁下水位予測部
30 AI
31 学習制御部
34 学習用入力データ
36 学習済みモデル
37 現在水位
38 付加入力データ
39 予測制御部
43 警告部
44 氾濫予測部