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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022077728
(43)【公開日】2022-05-24
(54)【発明の名称】防護柵
(51)【国際特許分類】
   E01F 7/04 20060101AFI20220517BHJP
【FI】
E01F7/04
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020188704
(22)【出願日】2020-11-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】397034327
【氏名又は名称】有限会社吉田構造デザイン
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】吉田 博
【テーマコード(参考)】
2D001
【Fターム(参考)】
2D001PA05
2D001PA06
2D001PB04
2D001PC03
2D001PD06
2D001PD11
(57)【要約】
【課題】落下物の乗り越えを抑制して防護ネットによる落下物の捕捉効果を高めた防護柵を提供すること。
【解決手段】支柱10の上部に対して防護ネット20の上辺を変位不能に取り付け、支柱10に下部に挿通したネット支持ロープ30の一方を山側アンカー31に付設したブレーキ装置32に支持させ、ネット支持ロープ30の他方を防護ネット20の下辺に接続し、ネット支持ロープ30に作用する張力がブレーキ装置32のブレーキ力を超えるとスリップしながらネット支持ロープ30と共に、防護ネット20の下辺を谷側へ変位可能に取り付ける。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隔を隔てて立設した支柱と、支柱の谷側に配置して阻止面を構成する防護ネットとを具備し、受撃時に防護ネットが谷側へ向けて変形可能な防護柵であって、
支柱の上部に対して防護ネットの上辺を変位不能に取り付け、
支柱の下部に対して防護ネットの下辺を谷側へ変位可能に取り付けたことを特徴とする、
防護柵。
【請求項2】
支柱に下部に挿通したネット支持ロープの一方を山側アンカーに付設したブレーキ装置に支持させ、ネット支持ロープの他方を防護ネットの下辺に接続し、ネット支持ロープに作用する張力がブレーキ装置のブレーキ力を超えるとスリップしながらネット支持ロープと共に、防護ネットの下辺を谷側へ変位可能に取り付けたことを特徴とする、請求項1に記載の防護柵。
【請求項3】
支柱の上下方向に向けて縦ロープを配置し、縦ロープの下端をネット支持ロープの他方および防護ネットの下辺に固定したことを特徴とする、請求項2に記載の防護柵。
【請求項4】
支柱の上部または下部に設けた緩衝具により前記縦ロープの上端部近くまたは下端部近くを保持し、該緩衝具を介して縦ロープを摺動可能に取り付けたことを特徴とする、請求項3に記載の防護柵。
【請求項5】
前記防護ネットがリング製ネットであることを特徴とする、請求項1乃至3の何れか一項に記載の防護柵。
【請求項6】
前記支柱の上部と山側アンカーの間に山側控えロープが張設してあることを特徴とする、請求項1乃至3の何れか一項に記載の防護柵。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は落石、崩落土砂、雪崩等の落下物の捕捉性能を改善した防護柵に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の防護柵は、斜面に立設した複数の支柱と、隣り合う支柱の上下間に取り付け、落下物を捕捉する阻止面として機能する防護ネットとを具備する。
支柱の谷側に防護ネットを取り付ける形態として、一般に防護ネットの上、下辺部をそれぞれ対応する支柱の上、下部に変位不能に取り付けることが知られている(特許文献1,2)。
この防護柵は受撃時に谷側へはらみ変形する防護ネットを支柱で支持することで落石等の落下物を捕捉する構造である。
【0003】
緩衝性能を高めるため、防護ネットの上、下辺を、支柱の上、下部に貫挿した上、下スライドロープに連結し、上、下スライドロープの基端側を共通のブレーキ装置に接続した防護柵も知られている(特許文献3)。
この防護柵は受撃時に防護ネットが谷側へはらみ変形をする際に、上、下スライドロープが谷側へ引き出される際のブレーキ力で衝撃エネルギーの一部を吸収しつつ、支柱の曲げ力を小さくして支柱の軸力で以て落下物の衝撃力を支持するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-88527号公報
【特許文献2】特開2008-144381号公報
【特許文献3】特開2002-256517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の防護柵はつぎのような問題点を内包している。
<1>特許文献1,2に記載の防護柵は、受撃時において、支柱上部および防護ネット上部が谷側に大きく変形する一方で、支柱下部に取り付けた防護ネットの下部の変形量が極端に小さい。
そのため、受撃前と比べて防護ネットの上辺までの高さ(柵高)が低くなって、後続の落下物が捕捉されずに防護ネットを乗り越え易くなる。
<2>受撃時に上、下スライドロープを谷側へスライドして防護ネット全体が谷側へ変位する防護柵にあっては、落石等の落下物が回転しながら防護ネットに衝突することから、落下物が自転しながら防護ネットを乗り越えていき、防護ネットによる落下物の捕捉効果を十分に発揮できない。
<3>防護ネットの下部の変形量を大きくする方法として、支柱下端を谷側に滑り移動させることが考えられる。
斜面に接地させた支柱下端を複数のアンカーとロープ材を用いて半固定状態で設置することが知られているが、支柱下端を滑り移動させることが技術的に難しい。
また、修復にも多大の費用を必要とする。
<4>支柱上下端が山側アンカーと山側控えロープで支持されていることにより、谷側へ向けた防護ネット上部の変形は、防護ネット自体の変形と支柱上端の変位の和となる。
一方、防護ネットの下部の変形は、防護ネット自体の変形量のみであって、支柱下部の変位は加算されない。
<5>そのため、場合によっては支柱が想定しない方向に折れ曲がって、落下物が防護ネットの上端を乗り越えて落下するおそれがある。
【0006】
本発明は以上の点に鑑みて成されたもので、その目的とするところは、落下物の乗り越えを抑制して防護ネットによる落下物の捕捉効果を高めた防護柵を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、間隔を隔てて立設した支柱と、支柱の谷側に配置して阻止面を構成する防護ネットとを具備し、受撃時に防護ネットが谷側へ向けて変形可能な防護柵であって、支柱の上部に対して防護ネットの上辺を変位不能に取り付け、支柱の下部に対して防護ネットの下辺を谷側へ変位可能に取り付けた。
本発明の他の形態において、支柱に下部に挿通したネット支持ロープの一方を山側アンカーに付設したブレーキ装置に支持させ、ネット支持ロープの他方を防護ネットの下辺に接続し、ネット支持ロープに作用する張力がブレーキ装置のブレーキ力を超えるとスリップしながらネット支持ロープと共に、防護ネットの下辺を谷側へ変位可能に取り付ける。
本発明の他の形態において、支柱の上下方向に向けて縦ロープを配置し、縦ロープの下端をネット支持ロープの他方および防護ネットの下辺に固定してもよい。
本発明の他の形態において、支柱の上部または下部に設けた緩衝具により前記縦ロープの上端部近くまたは下端部近くを保持し、該緩衝具を介して縦ロープを摺動可能に取り付けてもよい。
本発明の他の形態において、前記防護ネットがリング製ネットである。
本発明の他の形態において、前記支柱の上部と山側アンカーの間に山側控えロープが張設してある。
【発明の効果】
【0008】
本発明は少なくともつぎの一つの効果奏する。
<1>支柱の上部に対して防護ネットの上辺を変位不能に取り付け、支柱の下部に対して防護ネットの下辺を谷側へ変位可能に取り付けることで、落下物の乗り越えを抑制して防護ネットによる落下物の捕捉効果を高めることができる。
<2>支柱の変位の影響を受けずに防護ネットの下辺を変形できるので、支柱によって防護ネットによるエネルギー吸収作用が阻害されない。
<3>縦ロープに緩衝具を設けることで、受撃時に支柱が転倒することなく、適切に変形することにより、支柱自身の変形によるエネルギー吸収が期待できるとともに、防護ネットも変形させて、全体としてのエネルギー吸収性能が向上する。
<4>縦ロープの下端と防護ネット下辺と縦ロープの谷側端が荷重を伝達可能に連結してあるので、防護ネットに作用する荷重の一部が縦ロープに作用する。
縦ロープはその上下が支柱に連結されているので、支柱に作用する曲げモーメントは、支柱の中心から縦ロープまでの距離と縦ロープの引張力の積しか発生しない。
軸力が主体となるが、支柱の最下端(貫通孔の下)では、縦ロープの上端部では下向きの軸力が発生し、支柱の下端では上向きの軸力が発生する。
したがって、支柱の最下端の軸力は小さくなる。
同様に支柱の上端部の曲げモーメントの向きと下端の曲げモーメントの向きが逆になるので、支柱の最下端では小さい値になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一部省略した本発明に係る防護柵の斜視図
図2】斜面谷側から見た防護ネットと支柱の取付部の斜視図
図3】例示した防護ネットの平面図
図4】本発明に係る防護柵の捕捉作用の説明図で、(A)は受撃前における防護柵のモデル図、(B)は受撃時における防護柵のモデル図、(C)は落下部が変位した後の防護柵のモデル図
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照しながら本発明について説明する。
【0011】
<1>防護柵の概要
図1を参照して説明する。本発明が前提とする防護柵は、間隔を隔てて立設した支柱10(中間支柱10aと端末支柱10b)と、支柱10の谷側に配置して阻止面を構成する防護ネット20とを具備し、受撃時に防護ネット20が谷側へ向けて変形可能な構成であればよい。
以降に防護柵の詳細について説明する。
【0012】
<2>支柱
図2を参照して説明する。支柱10はその上部の谷側外周面に縦ロープ11を取り付けるための支持ブラケット12を有し、支柱10の下部にはネット支持ロープ30を貫挿可能な貫通孔13を有している。
ネット支持ロープ30の摺動を円滑に行うため、挿通孔13の開口端部を拡径してラッパ状に形成するとよい。
【0013】
支柱10は例えば、鋼管、コンクリート充填鋼管、コンクリート柱、H鋼等の公知の支柱を適用できる。
支柱10の立設手段は、地山への建込み式、基礎コンクリートへ埋設した固定式、支柱下端に設けた支圧板を地面に接地する半固定式の何れでもよい。
更に、支柱10はヒンジ機構等を介して傾倒可能に構成してもよい。
【0014】
<2.1>縦ロープ
本例では、支柱10の谷側外周面に配設した縦ロープ11を介して防護ネット20を取り付ける形態について説明するが、縦ロープ11は必須の要素ではない。
また本例では支柱10の上部に支持ブラケット12を設け、支持ブラケット12に搭載した緩衝具14により縦ロープ11の上端部近くを摺動可能な状態で把持して取り付ける形態について説明するが、支柱10の下部に支持ブラケット12を設けて、縦ロープ11の下端部近くを、緩衝具14を介して摺動可能に把持してもい。
この場合、縦ロープ11の上端は支柱10の上部に摺動不能に固定しておく。
【0015】
なお、緩衝具14を省略して、縦ロープ11を支持ブラケット12に摺動不能に固定してもよい。
【0016】
<2.2>縦ロープ用の緩衝装置
緩衝具14は縦ロープ11に設定した張力以上の張力が作用したときに縦ロープ11が摺動して張力を吸収できる構造であればよく、例えば公知の摩擦摺動式の緩衝装置を適用できる。
【0017】
<2.3>支柱の控えロープ
図1を参照して説明する。支柱10の上部と山側アンカー31との間には山側控えロープ33が張設してあり、山側控えロープ33および山側アンカー31が協働して支柱10の谷側へ向けた傾倒を規制する。
支柱10の上部と側方アンカー34との間には側方控えロープ35が張設してある。
必要に応じてこれらの支柱控えロープ33,35の一部に緩衝装置を介装し、緩衝装置の緩衝作用によって支柱10の傾倒力を減衰するように構成してもよい。
【0018】
本例では、便宜的にネット支持ロープ30および山側控えロープ33を共通の山側アンカー31とブレーキ装置32に支持する形態を示しているが、ネット支持ロープ30および山側控えロープ33をそれぞれ個別の山側アンカー31とブレーキ装置32で支持するようにしてもよい。
【0019】
<3>防護ネット
防護ネット20は上辺と下辺を有する帯状のネット状物であり、2本以上の支柱10間に亘って横架可能な長さを有する。
本例で例示した防護ネット20は、特開2011-32829号公報に開示してあるリング製ネットを適用している。
【0020】
図3を参照して説明すると、リング製の防護ネット20は、1本のロープ21をループ状に巻き、ループの交差部を閉鎖用緩衝具22で固定しながら複数の輪要素23を横向きに連鎖的に形成する。これら複数の輪要素23を、上下に隣り合う複数の輪要素23の間を連結用緩衝具24で連結した構造になっている。
防護ネット20をリング製ネットで構成する場合、防護ネット20の最上辺と最下辺に複数の輪要素23を貫挿可能な別途の2本の横ロープを横架する。
【0021】
防護ネット20は既述したリング製ネットの他に、縦横方向に配置した複数のロープの交点を拘束した格子状ネットでもよく、さらにこれらのロープ製ネットの片面に金網(菱形金網、高強度金網等)を重合して付設した公知のネット状物を含む。
さらにネット素材は金属製に限定されず繊維製や樹脂製でもよい。
【0022】
<4>ネット支持ロープ
ネット支持ロープ30は支柱10の下部に形成した貫通孔13を貫挿して防護ネット20の下辺を支持するためのロープ材である。
ネット支持ロープ30の山側の上端部近くは支柱10の山側アンカー31に付設したブレーキ装置32にスリップ可能に支持している。
支柱10に縦ロープ11を設置している場合は、ネット支持ロープ30の谷側の下端は防護ネット20の下辺および縦ロープ11の下端と連結している。
縦ロープ11とネット支持ロープ30は連続した一体構造のロープを使用するが、縦ロープ11とネット支持ロープ30は別体のロープで構成してもよい。
【0023】
<4.1>ブレーキ装置
ブレーキ装置32は、ネット支持ロープ30に設定した張力以上の張力が作用したときにネット支持ロープ32をスリップさせてその張力を吸収する装置である。
ブレーキ装置32としては、ネット支持ロープ30の外周面を把持した把持部の摩擦抵抗により張力を吸収できる摩擦抵抗式のブレーキ装置の他に、変形抵抗式(塑性変形または弾性変形)のブレーキ装置を適用することもできる。
【0024】
<4.2>緩衝具とブレーキ装置の関係
縦ロープ11に緩衝具14を設けた場合、緩衝具14による縦ロープ11の摺動開始力と、ブレーキ装置32によるネット支持ロープ30のスリップ開始力との関係はつぎのとおりである。
一般的に防護ネットの端部と支柱は固定されており、受撃時には支柱と同じ変位をする。
すなわち、防護ネットは支柱により変形が拘束され、防護ネットのエネルギー吸収を阻害することになる。
縦ロープ11の緩衝具14は、支柱10による変形の拘束を適切に調整するためのものである。
一方、ブレーキ装置32は、支柱10の変形を制御するための装置であり、受撃時に支柱10が転倒することなく、適切に変形することにより、支柱10自身の変形によるエネルギー吸収を期待できるとともに、防護ネット20も変形させて、全体としてエネルギー吸収性能が向上する。
【0025】
<5>支柱に対する防護ネットの上下辺の取付構造
支柱10の上下部に対する防護ネット20の上下辺の取付形態について説明する。
【0026】
<5.1>防護ネットの上辺の取付構造
防護ネット20の上辺は縦ロープ11を介してに支柱10の上部に取り付けてある。
具体的には、支柱10に垂下した縦ロープ11に対して防護ネット20を構成するロープ21との交点を固定具25で連結する。
両ロープ11,21の交点部は摺動不能または摺動可能の何れでもよいが、摺動可能が好ましい。
【0027】
<5.2>防護ネットの下辺の取付構造
既述したように、支持ロープ30の下端は、支柱10下部の貫通孔13を挿通して防護ネット20の下部および縦ロープ11の下端と連結している。
【0028】
このように本発明に係る防護柵は、受撃時において、防護ネット20の上辺の谷側へ向けた孕み変形を抑制しつつ、防護ネット20の下辺の谷側へ向けた孕み変形を促進させるため、支柱10の上部に対して防護ネット20の上辺を変位不能に取り付ける一方で、支柱10の下部に対して防護ネット20の下辺を谷側へ変位可能に取り付けてある。
【0029】
[防護柵の受撃特性]
図4を参照して防護柵の捕捉作用について説明する。
【0030】
<1>受撃前
図4(A)は落下物40の落下前における防護柵のモデル図を示している。
防護柵の補強のために、山側アンカー31の頭部に設置したブレーキ装置32に接続したネット支持ロープ30および山側控えロープ33を通じて、防護柵の耐力を増大している。
【0031】
<2>受撃時における柵高
図4(B)は防護ネット20の一部に落下物40が衝突したときのモデル図を示している。
防護柵の阻止面である防護ネット20の一部に落下物40が衝突した場合、落下物40の衝突位置で防護ネット20が谷側へ向けて大きく変形する。
【0032】
防護ネット20の上辺は支柱10の上部に対して変位不能に取り付けてあるので、防護ネット20の上辺側が谷側へ向けた孕み変形が抑制されている。
そのため、支柱10間に位置する防護ネット20の柵高(地表から防護ネット20の上辺までの高さ)は極端に低くならない。
したがって、落下物40が後続する場合でも落下物40の乗り越えを効果的に阻止できる。
【0033】
<3>落下物の乗り越えの抑制作用
一方、防護ネット20の下辺はネット支持ロープ30およびブレーキ装置32を通じて谷側へ変位可能に取り付けてある。
ネット支持ロープ30に作用する張力が、ブレーキ装置32のブレーキ力に満たない場合はネット支持ロープ30にスリップが生じない。
【0034】
ネット支持ロープ30に作用する張力が、ブレーキ装置32のブレーキ力を超えると、スリップしながら支持ロープ30を谷側へ伸出する。
支持ロープ30が谷側へ伸出することで支持ロープ30に連結した防護ネット20の下辺が谷側へ向けた孕み変形が促進される。
【0035】
このように本発明では、阻止面である防護ネット20の上部及び下部における谷側ヘ向けた変形量に大きな差が生じるため、衝突時に落下物40がネットの乗り越え方向に向けて回転していても、落下物40を強制的に防護ネット20の下方へ変位(誘導)できる。
そのため、従来の防護柵と比較して、落下物40による防護ネット20の乗り越えを効果的に阻止できて、落下物40の捕捉効果が向上する。
【0036】
防護ネット20に衝突した落石等の落下物40は斜面を転がって落下する場合が多い。
防護ネットの上下辺を支柱の上下部にそれぞれ固定した一般の防護柵では、受撃した際に支柱間の中央付近の防護ネット上部の谷側への孕みが防護柵下部の孕みと比較して極端に大きくなって、落下物が防護柵の上部を乗り越え易い。
また防護ネットの上下辺を支柱の上下部に対して延出可能に構成した防護柵では、受撃した際に落下物の回転により、防護ネットの上部が谷側ヘ引き出されて落下物が防護柵の上部を乗り越え易くなる。
【0037】
また、回転しながら落下物40が防護ネット20の阻止面に衝突すると、落下物40が防護ネット20を駆け上がる傾向にある。
本発明では、図4(B),(C)に示すように、受撃時に落下物40が防護ネット20を駆け上がる方向に向けて回転することに着目し、落下物40の回転力を防護ネット20の下部の孕みだしの促進に利用することで、落下物40の駆け上りを抑制して落下物40が防護柵の上方から落下することを防止できる。
【0038】
<4>崩落エネルギーの吸収
防護ネット20に作用した衝撃荷重は支柱10の強度およびネット支持ロープ30の支持力で以て支持される。
【0039】
より具体的には、支柱10に作用した衝撃荷重は山側控えロープ33に支持され、山側控えロープ33に作用する張力がブレーキ装置のブレーキ力を超えると、山側控えロープ33のスリップと支柱10の曲げ変形に伴い、崩落エネルギーの一部が吸収される。
【0040】
防護ネット20が谷側へ向けて孕み変形をする際に、ネット支持ロープ30とブレーキ装置32の間でスリップが生じ、ネット支持ロープ30のスリップ抵抗により崩落エネルギーの一部が吸収される。
要は支柱10の上部の谷側への変形と防護ネット20の上部の孕みだしに基く大きい谷側への変形に対し、防護ネット20の下部の変形をできるだけ大きくして、落下物40による吸収エネルギーを大きくし、落下物40を安定した状態で捕捉することができる。
【符号の説明】
【0041】
10・・・・・支柱
10a・・・・中間支柱
10b・・・・端末支柱
11・・・・・縦ロープ
12・・・・・支持ブラケット
13・・・・・貫通孔
14・・・・・緩衝具
20・・・・・防護ネット
21・・・・・防護ネットを構成するロープ
22・・・・・閉鎖用緩衝具
23・・・・・輪要素
24・・・・・連結用緩衝具
30・・・・・ネット支持ロープ
31・・・・・山側アンカー
32・・・・・ブレーキ装置
33・・・・・山側控えロープ
34・・・・・側方アンカー
35・・・・・側方控えロープ
40・・・・・落下物
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2021-02-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隔を隔てて立設した支柱と、支柱の谷側に配置して阻止面を構成する防護ネットとを具備し、受撃時に防護ネットが谷側へ向けて変形可能な防護柵であって、
支柱の上部に対して防護ネットの上辺を変位不能に取り付け、
支柱の下部に対して防護ネットの下辺を谷側へ変位可能に取り付け
支柱の下部に挿通したネット支持ロープの一方を山側アンカーに付設したブレーキ装置に支持させ、ネット支持ロープの他方を防護ネットの下辺に接続し、ネット支持ロープに作用する張力がブレーキ装置のブレーキ力を超えるとネット支持ロープがスリップして、防護ネットの下辺が谷側へ変位することを特徴とする、
防護柵。
【請求項2】
支柱の上下方向に向けて縦ロープを配置し、縦ロープの下端をネット支持ロープの他方および防護ネットの下辺に固定したことを特徴とする、請求項に記載の防護柵。
【請求項3】
支柱の上部または下部に設けた緩衝具により前記縦ロープの上端部近くまたは下端部近くを保持し、該緩衝具を介して縦ロープを摺動可能に取り付けたことを特徴とする、請求項に記載の防護柵。
【請求項4】
前記防護ネットがリング製ネットであることを特徴とする、請求項1または2に記載の防護柵。
【請求項5】
前記支柱の上部と山側アンカーの間に山側控えロープが張設してあることを特徴とする、請求項1または2に記載の防護柵。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
本発明は、間隔を隔てて立設した支柱と、支柱の谷側に配置して阻止面を構成する防護ネットとを具備し、受撃時に防護ネットが谷側へ向けて変形可能な防護柵であって、支柱の上部に対して防護ネットの上辺を変位不能に取り付け、支柱の下部に対して防護ネットの下辺を谷側へ変位可能に取り付け、支柱下部に挿通したネット支持ロープの一方を山側アンカーに付設したブレーキ装置に支持させ、ネット支持ロープの他方を防護ネットの下辺に接続し、ネット支持ロープに作用する張力がブレーキ装置のブレーキ力を超えるとネット支持ロープがスリップして、防護ネットの下辺谷側へ変位する。
本発明の他の形態において、支柱の上下方向に向けて縦ロープを配置し、縦ロープの下端をネット支持ロープの他方および防護ネットの下辺に固定してもよい。
本発明の他の形態において、支柱の上部または下部に設けた緩衝具により前記縦ロープの上端部近くまたは下端部近くを保持し、該緩衝具を介して縦ロープを摺動可能に取り付けてもよい。
本発明の他の形態において、前記防護ネットがリング製ネットである。
本発明の他の形態において、前記支柱の上部と山側アンカーの間に山側控えロープが張設してある。