IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社 ゆうちょ銀行の特許一覧

特開2022-77766情報システム、情報処理方法およびプログラム
<>
  • 特開-情報システム、情報処理方法およびプログラム 図1
  • 特開-情報システム、情報処理方法およびプログラム 図2
  • 特開-情報システム、情報処理方法およびプログラム 図3
  • 特開-情報システム、情報処理方法およびプログラム 図4
  • 特開-情報システム、情報処理方法およびプログラム 図5
  • 特開-情報システム、情報処理方法およびプログラム 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022077766
(43)【公開日】2022-05-24
(54)【発明の名称】情報システム、情報処理方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 40/04 20120101AFI20220517BHJP
【FI】
G06Q40/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020188754
(22)【出願日】2020-11-12
(71)【出願人】
【識別番号】507417422
【氏名又は名称】株式会社 ゆうちょ銀行
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康平
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼元 政典
【テーマコード(参考)】
5L055
【Fターム(参考)】
5L055BB53
(57)【要約】
【課題】所定期間での投資家の心理状態またはその変化を定量的に把握できるようにする。
【解決手段】本情報システムは、オプション取引のデータを取得する手段と、前記オプション取引のデータ中のオプション価格を行使価格で二階偏微分して得られる状態価格を得る微分手段と、オプション取引の条件(行使価格、満期日)を変更して得られる複数の状態価格を算出し、行列の第1方向に前記行使価格を対応付けるとともに前記行列の第2方向に前記オプション取引の満期日を対応付けて前記算出された複数の状態価格を配置した第1行列と前記第1行列に対して前記第2方向における前記オプション取引の満期日を一期間ずらして算出した複数の状態価格を配置した第2行列の逆行列との演算で状態価格の推移行列を得て、その固有ベクトルを取得し、前記固有ベクトルから投資家の心理状態を示す情報を出力する出力手段と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金融資産を取り扱う市場における原資産に対するオプション取引の行使価格と前記オプション取引の満期日と前記原資産をオプション取引する権利の価格であるオプション価格とを組み合わせたデータを取得する手段と、
前記オプション価格を前記行使価格で二階偏微分して得られる状態価格を得る微分手段と、
前記行使価格と前記オプション取引の満期日とをそれぞれ変更して得られる複数の状態価格を算出し、行列の第1方向に前記行使価格を対応付けるとともに前記行列の第2方向に前記オプション取引の満期日を対応付けて前記算出された複数の状態価格を配置した第1行列と前記第1行列に対して前記第2方向における前記オプション取引の満期日を一期間ずらして算出した複数の状態価格を配置した第2行列の逆行列との演算を行うことによって状態価格の推移行列(Π)を得る第1取得手段と、
前記状態価格の推移行列(Π)の固有ベクトル(1/φ’(i),iは固有ベクトルの要素番号)を取得する第2取得手段と、
前記固有ベクトル(1/φ’(i),iは固有ベクトルの要素番号)を基に、状態価格の推移
行列(Π)の前記第2方向の各状態から前記第1方向の各状態への遷移における前記投資家の心理状態を示す情報PK=φ’(j)/φ’(s)(ここで/は除算、jとsは、それぞれ推移行列Πの第1方向の要素番号と第2方向の要素番号)を出力する出力手段と、を備える情報システム。
【請求項2】
前記状態価格の推移行列(Π)のそれぞれの要素(πs,j)に前記情報PKの効果を反
映することにより、実推移確率配列(P(s,j))を得る第3取得手段と、
前記実推移確率配列(P(s,j))を基に、前記原資産の予測値を算出する手段と、をさらに備える請求項1に記載の情報システム。
【請求項3】
前記状態価格の推移行列(Π)の要素(πs,j)間で非線形関数を介した非線形回帰計
算による平滑化を実施する第1平滑化手段をさらに備える請求項1または2に記載の情報システム。
【請求項4】
前記行使価格と前記オプション取引の満期日とをそれぞれ変更して得られる複数の前記状態価格間で非線形関数を介した非線形回帰計算による平滑化を実施する第2平滑化手段をさらに備える請求項1から3のいずれか1項に記載の情報システム。
【請求項5】
前記データを取得する手段は、
前記金融資産を買う権利についてのコールオプション価格を取得するコール取得手段と、
前記金融資産を売る権利についてのプットオプション価格を取得するプット取得手段と、
前記取得したプットオプション価格をコールオプション価格に変換する手段と、をさらに有する請求項1から4のいずれか1項に記載の情報システム。
【請求項6】
複数の前記オプション価格間で非線形回帰計算による平滑化を実施する第3平滑化手段をさらに備える請求項1から5のいずれか1項に記載の情報システム。
【請求項7】
コンピュータが、金融資産を取り扱う市場における原資産に対するオプション取引の行使価格と前記オプション取引の満期日と前記原資産をオプション取引する権利の価格であるオプション価格との組み合わせデータを取得するステップと、
前記オプション価格を前記行使価格で二階偏微分して得られる状態価格を得る微分ステップと、
前記行使価格と前記オプション取引の満期日とをそれぞれ変更して得られる複数の状態価格を算出し、行列の第1方向に前記行使価格を対応付けるとともに前記行列の第2方向に前記オプション取引の満期日を対応付けて前記算出された複数の状態価格を配置した第1行列と前記第1行列に対して前記第2方向における前記オプション取引の満期日を一期間ずらして算出した複数の状態価格を配置した第2行列の逆行列との演算を行うことによって状態価格の推移行列(Π)を得る第1取得ステップと、
前記状態価格の推移行列(Π)の固有ベクトル(1/φ’(i),iは固有ベクトルの要素番号)を取得する第2取得ステップと、
前記固有ベクトル(1/φ’(i),iは固有ベクトルの要素番号)を基に、状態価格の推移
行列(Π)の前記第2方向の各状態から前記第1方向の各状態への遷移における前記投資家の心理状態を示す情報PK=φ’(j)/φ’(s)(ここで/は除算、jとsは、それぞれ推移行列Πの第1方向の要素番号と第2方向の要素番号)を出力する出力ステップと、を備える情報処理方法。
【請求項8】
コンピュータに、金融資産を取り扱う市場における原資産に対するオプション取引の行使価格と前記オプション取引の満期日と前記原資産をオプション取引する権利の価格であるオプション価格とを組み合わせたデータを取得するステップと、
前記オプション価格を前記行使価格で二階偏微分して得られる状態価格を得る微分ステップと、
前記行使価格と前記オプション取引の満期日とをそれぞれ変更して得られる複数の状態価格を算出し、行列の第1方向に前記行使価格を対応付けるとともに前記行列の第2方向に前記オプション取引の満期日を対応付けて前記算出された複数の状態価格を配置した第1行列と前記第1行列に対して前記第2方向における前記オプション取引の満期日を一期間ずらして算出した複数の状態価格を配置した第2行列の逆行列との演算を行うことによって状態価格の推移行列(Π)を得る第1取得ステップと、
前記状態価格の推移行列(Π)の固有ベクトル(1/φ’(i),iは固有ベクトルの要素番号)を取得する第2取得ステップと、
前記固有ベクトル(1/φ’(i),iは固有ベクトルの要素番号)を基に、前記状態価格の
推移行列(Π)の前記第2方向の各状態から前記第1方向の各状態への遷移における前記投資家の心理状態を示す情報PK=φ’(j)/φ’(s)(ここで/は除算、jとsは、それぞれ推移行列Πの第1方向の要素番号と第2方向の要素番号)を出力する出力ステップと、を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金融資産を取り扱う市場における取引の情報を処理する情報システム、情報処理方法、およびプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
売り手と買い手とが一般の商品、通貨、金融商品などを取引する市場は、需給に関する理論により説明されることがある。しかし、市場は様々な要因で不安定化する場合があり、市場の動きが予測困難となる場合も生じえる。
【0003】
市場の不安定さに対するヘッジ手段(リスク軽減手段)としてオプション商品が広く利用されている。オプション商品の価格が内包する投資家のリスク選好を反映した、実測度による分布を推定するRecovery Theoremが注目されている(下記非特許文献4参照)。例
えば、非特許文献1では、Recovery Theoremを用いてオプション価格から原資産価格の実分布を推定する方法について述べられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】伊藤、霧生、枇々木「Generalized Recovery Theorem を用いた収益率分布の推定」2016年度冬季JAFEE(日本金融・証券計量・工学学会)第46回大会予稿集
【非特許文献2】白塚、中村「金融市場における期待形成の変化」日本銀行金融研究所/金融研究/1998. 10 p.129-P172
【非特許文献3】Breeden, D. and Litzenberger, R“Prices of State-contingent Claims Implicit in Option Prices” Journal of Business, 51(4), 1978, pp. 621-651.
【非特許文献4】Stephen A. Ross“THE RECOVERY THEOREM”, Journal of Finance, 70(2), 2015 p.615-648
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、発明者らは、市場の不安定さを検出するためには、所定期間における投資家期待または投資家不安等を含む投資家の心理状態またはその変化を定量的に把握することが重要であるとの認識に至った。そこで、本発明の目的は、所定期間での投資家の心理状態またはその変化を定量的に把握できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの側面は、以下の情報システムによって例示できる。本情報システムは、金融資産を取り扱う市場における原資産に対するオプション取引の行使価格と前記オプション取引の満期日と前記原資産をオプション取引する権利の価格であるオプション価格とを組み合わせたデータを取得する手段と、前記オプション価格を前記行使価格で二階偏微分して得られる状態価格を得る微分手段と、前記行使価格と前記オプション取引の満期日とをそれぞれ変更して得られる複数の状態価格を算出し、行列の第1方向に前記行使価格を対応付けるとともに前記行列の第2方向に前記オプション取引の満期日を対応付けて前記算出された複数の状態価格を配置した第1行列と前記第1行列に対して前記第2方向における前記オプション取引の満期日を一期間ずらして算出した複数の状態価格を配置した第2行列の逆行列との演算を行うことによって状態価格の推移行列(Π)を得る第1取得手段と、前記状態価格の推移行列(Π)の固有ベクトル(1/φ’(i),iは固有ベクトルの
要素番号)を取得する第2取得手段と、前記固有ベクトル(1/φ’(i),iは固有ベクトル
の要素番号)を基に、状態価格の推移行列(Π)の前記第2方向の各状態から前記第1方
向の各状態への遷移における前記投資家の心理状態を示す情報PK=φ’(j)/φ’(s)(
ここで/は除算、jとsは、それぞれ推移行列Πの第1方向の要素番号と第2方向の要素番
号)を出力する出力手段と、を備える。ここで、情報PKはプライシングカーネルと呼ばれるものである。
【0007】
以上のように、オプション取引は、原資産に対するオプション取引の行使価格と前記オプション取引の満期日と前記金融資産をオプション取引する権利の価格であるオプション価格によって特徴づけられる。すなわち、行使価格は、将来の時点である満期日の配当を決定づけるものであり、権利の価格であるオプション価格は、その将来の配当の現在価値に対応するものと理解できる。また、このオプション価格を行使価格で二階偏微分することにより、状態価格が得られる。
【0008】
一方、例えば、原資産を株式とした場合、状態価格は、ファイナンス理論によれば、無裁定の条件下で、満期日であるT期先に株価Kとなる状態になったときに1円が得られる証券を、無リスク金利を用いて現在に戻して判断した価値である。また、状態価格は、金利を定数とすれば、リスク中立測度の推移確率(リスク中立推移確率)の定数倍であることが知られている。リスク中立推移確率は、ある状態(行使価格Kj)から別の状態(行使価格Ki)になる確率であって、取引市場における投資家の期待効用を考慮しない確率である。また、取引市場における投資家の期待効用を考慮しないとは、投資をするかしないかを期待リターン(配当)の水準だけで判断し、リスクを考慮しないリスク中立の投資家だけが存在する取引市場を前提にすることをいう。したがって、オプション価格に上記演算を行うことで、原資産の価格である行使価格のリスク中立推移確率に対応する情報を得ることができる。
【0009】
ところで、実際の取引市場には、リスク中立である投資家の他、例えば、リスク回避的投資家およびリスク愛好的投資家が存在する。リスク回避的投資家は、期待リターン(配当)が同一ならば、リスクの小さい投資を行う投資家である。また、リスク愛好的投資家は、期待リターン(配当)が同一ならば、リスクの大きい投資を行う投資家である。このため、様々な投資家心理が反映される結果、実際の取引市場の推移確率はリスク中立推移確率とは異なるものとなる。
【0010】
ところで、Stephen A. Rossの論文“THE RECOVERY THEOREM”によれば、取引市場にお
けるリスク中立推移確率と、実測度の確率(実推移確率)は、プライシングカーネルPKによって対応付けできることが知られている。また、“THE RECOVERY THEOREM”によれば、プライシングカーネルPKは、複数のある状態から他の状態への遷移に対応する状態価格の推移行列(Π)の固有ベクトルから計算できることが知られている。
【0011】
そこで、本情報システムは、取引市場におけるオプション取引のデータに着目し、状態価格の推移行列(Π)から、その固有ベクトルを求めることで、投資家心理に対応するプライシングカーネルPKを求める。
【0012】
さらに、本情報システムは、状態価格の推移行列(Π)のそれぞれの要素(πs,j)に
前記プライシングカーネルPKによる効果を反映することにより、実推移確率配列(P(s,j))を得る第3取得手段と、前記実推移確率配列(P(s,j))を基に、前記原資産の予測値を算出する手段と、をさらに備える。以上から、本情報システムは、オプション取引のデータを基に、オプション取引における原資産の将来の価格を計算し、推定することが可能となる。
【0013】
また、前記データを取得する手段は、前記金融資産を買う権利についてのコールオプション価格を取得するコール取得手段と、前記金融資産を売る権利についてのプットオプション価格を取得するプット取得手段と、前記取得したプットオプション価格をコールオプション価格に変換する手段と、をさらに有する。このような構成により、本情報システムは、オプション取引のデータのうち、コールオプションに加えてプットオプションの取引データを活用して処理を実行できる。
【0014】
さらに、本情報システムは、前記状態価格の推移行列(Π)の要素(πs,j)間で非線
形関数を介した非線形回帰計算による平滑化を実施する。さらに、本情報システムは、前記行使価格と前記オプション取引の満期日とをそれぞれ変更して得られる複数の前記状態価格間で非線形関数を介した非線形回帰計算による平滑化を実施する。さらにまた、本情報システムは、複数の前記コールオプション価格間で非線形回帰計算による平滑化を実施する。以上の3つの平滑化の少なくとも1つにより、情報システムによる計算結果の変動が抑制され、安定した計算結果が得られる。
【発明の効果】
【0015】
本情報システムによれば、所定期間での投資家の心理状態またはその変化を定量的に把握できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、情報処理装置のハードウェア構成を例示する図である。
図2図2は、オプション取引における取引データの構成を例示する図である。
図3図3は、情報処理装置の処理を例示するフローチャートである。
図4図4は、計算結果の一例を示す図である。
図5図5は、プライシングカーネルPKの計算結果を例示する図である。
図6図6は、平滑化処理を実行しない場合のプライシングカーネルPKの計算結果を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本実施の形態における情報処理装置を例示する。本情報処理装置は、ネットワークを介して様々な形態で情報処理方法を実行し、サービスを提供できるので、情報システムということもできる。情報システムは、コンピュータである情報処理装置がコンピュータプログラムを実行することで上記サービスを提供する。本実施の形態では、本情報処理装置は、様々な、金融資産を取り扱う市場における取引データに対するサービスを提供する。
【0018】
図1は、本実施の形態における情報処理装置10のハードウェア構成を例示する図である。なお、図1では、情報処理装置10とネットワークNを介して接続される取引所サーバ20も例示されている。例えば、情報処理装置10は、コンピュータプログラムの処理により取引所サーバ20において公開されている取引データを取得する。
【0019】
情報処理装置10は、CPU11と、主記憶装置12と、インターフェース(I/F)を通じて接続される外部機器を有し、コンピュータプログラムにより情報処理を実行する。CPU11はプロセッサということもできる。外部機器としては、外部記憶装置13、表示装置14、操作部15、および通信装置16を例示できる。CPU11は、単一のプロセッサに限定される訳ではない。すなわち、CPU11は、マルチプロセッサ構成であってもよい。また、CPU11は、数値演算専用のプロセッサ、Artificial Intelligence(AI)向けのプロセッサ、Graphics Processing Unit(GPU)等を含んでもよい。
【0020】
CPU11は、主記憶装置12に実行可能に展開されたコンピュータプログラムを実行
し、情報処理装置10の機能を提供する。主記憶装置12は、CPU11が実行するコンピュータプログラム、CPU11が処理するデータ等を記憶する。主記憶装置12は、Dynamic Random Access Memory(DRAM)、Static Random Access Memory(SRAM)
、Read Only Memory(ROM)等である。外部記憶装置13は、例えば、主記憶装置12を補助する記憶領域として使用され、CPU11が実行するコンピュータプログラム、CPU11が処理するデータ等を記憶する。外部記憶装置13は、ハードディスクドライブ、Solid State Disk(SSD)等である。さらに、情報処理装置10には、着脱可能記憶媒体の駆動装置を設けてもよい。着脱可能記憶媒体は、例えば、ブルーレイディスク、Digital Versatile Disk(DVD)、Compact Disc(CD)、フラッシュメモリカード等である。
【0021】
また、情報処理装置10は、表示装置14、操作部15、通信装置16を有する。表示装置14は、例えば、液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスパネル等である。操作部15は、例えば、キーボード、ポインティングデバイス等である。本実施の形態では、ポインティングデバイスとしてマウスが例示される。通信装置16は、ネットワーク上の他の装置とデータを授受する。例えば、CPU11は、通信装置16を通じて、ネットワークNにアクセスし、ネットワーク上の他の情報処理装置等と通信する。
【0022】
取引所サーバ20の構成は、情報処理装置10と同様である。取引所サーバ20は、金融市場での取引データを情報処理装置10に提供する。取引データは、例えば、株式市場のデータ、ディリバティブ取引のデータ、商品取引のデータ等を含む。また、ディリバティブ取引のデータは、オプション取引、先物の取引、スワップ取引等を含む。オプション取引は、コールオプション取引とプットオプション取引を含む。コールオプションは、行使価格で商品を買う権利のことをいう。また、プットオプションは、行使価格で商品を売る権利のことをいう。アメリカン・タイプのオプションとは、満期日までの期間であれば、いつでも権利行使が可能なオプションをいい、ヨーロピアン・タイプのオプションとは、満期日にのみ行使可能なオプションをいう。
【0023】
図2に、情報処理装置10が、取引所サーバ20から取得するオプション取引における取引データの構成を例示する。情報処理装置10は、例えば、毎日、取引所サーバ20から、その日成立した取引結果である取引データを取得する。取引データは、行使価格、満期日、コール価格、およびプット価格を含む。
【0024】
行使価格は、満期日において、または、満期日までにオプション取引の権利を行使するか否かを判断するための基準価格である。例えば、コール(買い)オプションの権利者は、満期日に商品の価格が行使価格より高い場合に、コールオプションを行使することで、満期日の価格より低い価格で取引対象(原資産ともいう)を購入できる。一方、コールオプションの権利者は、満期日に商品の価格が行使価格より低い場合に、コールオプションの行使をやめることで、満期日の価格より高い価格での取引対象の購入をやめることができる。原資産としては、特定銘柄の株価、株価指数、通貨のペアの為替、金利、債権、先物、商品(作物、貴金属など)等を例示できる。株価指数としては、経済情報を報道する新聞社が公表する平均株価、証券取引所株価指数等が例示できる。
【0025】
また、例えば、プット(売り)オプションの権利者は、満期日に商品の価格が行使価格より低い場合に、プットオプションを行使することで、満期日の価格より高い価格で商品を売ることができる。一方、プットオプションの権利者は、満期日に商品の価格が行使価格より高い場合に、プットオプションを行使しないことで、満期日の価格より低い価格で商品を売ることを回避できる。
【0026】
満期日は、オプションが行使される予定日である。コール価格は、コール(買い)オプ
ションの権利を取得するための価格である。また、プット価格はプット(売り)オプションの権利を取得するための価格である。
【0027】
図3は、情報処理装置10の処理を例示するフローチャートである。まず、情報処理装置10は、取引所サーバ20からネットワークNを通じて取得した取引所データを整形し、図2に例示したフォーマットのデータを作成する(S1)。情報処理装置10は、原資産に対するオプション取引の行使価格とオプション取引の満期日と原資産をオプション取引する権利の価格であるオプション価格とを組み合わせたデータを取得する手段の一例として、S1の処理を実行する。
【0028】
次に、情報処理装置10は、S1の処理で得られたデータのプットオプション価格のデータを次に例示する(式1)によってコールオプション価格のデータに変換する(S2)。取引所データには、コールオプション価格とプットオプション価格の両方が含まれている。以下の計算では、コールオプション価格に対して解析を実行するため、プットオプション価格のデータをコールオプション価格のデータに変換する。ただし、本実施の形態の情報処理装置10の処理がS2の処理に限定される訳ではない。例えば、単に、取引所データからコールオプション価格のみを抽出し、プットオプション価格を無視してもよい。また、プットオプション価格のデータに代えて、コールオプション価格のデータを用いて、以下の解析を行ってもよい。
【0029】
C(K,T)-P(K,T)=S0-Kexp(-γT); (式1)
【0030】
(式1)は、プット・コール・パリティと呼ばれる式である。プット・コール・パリティは、同一の原資産、満期日、行使価格のコールオプションとプットオプションとの間のオプション価格(プレミアムともいう)の関係を示す式である。ここで、C(K,T)は、行使価格K、満期日Tのコールオプション(買う権利の)価格である。また、P(K,T)は、行使価格K、満期日Tのプットオプション(売る権利の)価格である。また、Sは原資産の現在価格である。また、γはリスクフリーレートである。リスクフリーレートとは、リスクがないものと判断できるか、リスクが全くない金融商品から得られる利回りをいう。リスクフリーレートとしては、日本国債の利回り、米国財務省券の利回りが例示される。リスクフリーレートは、将来の価値を現在の価値に変換するときの利率として用いることがある。なお、exp()は、eを指数とする指数関数である。ここで、exp(-γT)は、リスクフリーレートにより、期間T後の配当を現在価格に変換するための
近似的な係数である。情報処理装置10は、取得したプットオプション価格をコールオプション価格に変換する手段の一例として、S2の処理を実行する。したがって、S1の処理は、コール取得手段およびプット取得手段による処理の一例ということもできる。
【0031】
次に、情報処理装置10は、S2でコールオプションに統一されたデータを平滑化する(S3)。ここで、平滑化は、S2の処理で得られた行使価格K、満期日T、およびこれらに対するコールオプション価格C(K,T)のデータ列を補間して、変動の小さなデータを得る処理である。本実施形態の情報処理装置10は、補間方法として、非線形補間を用いる。より具体的には、情報処理装置10は、放射基底関数(Radial Basis Function Interpolation, RBF)補間を用いる。RBF補間は、行使価格K、満期日T、コールオプション価格C(K,T)をRBF関数に対して重み付けた、関数の組み合わせによって関数フィッティングする処理である。ただし、本実施の形態の補間方法がRBF補間に限定される訳ではない。
【0032】
補間は、一般的には、(Ki, Ti, C(Ki, Tj))(i=1,…,M, j=1,…,N)という値の組に
対して、値の決まっていない(K, T, C(K, T))の値を推定する処理ということができる
。本実施形態では、非線形補間は、関数フィッティングであり、ばらつきが存在するデー
タ群から、元のデータ群に適合するもっともらしい関数形を求めるものということができる。また、本実施形態では、解析対象の取引データに対して、何らかの分布を前提としない、ノンパラメトリックな方法により、解析する手法ということができる。
【0033】
なお、本実施の形態において、S3の処理は必須ではなく、平滑化がなされなくてもよい。S3の処理を省略することによって、最終的な解析結果に、取引データのばらつきによる影響が残ることあり得るが、省力してもよい。ただし、S3の処理によって、S4以降の処理おいて、取引データのばらつきが抑制された解析結果を得ることが可能となる。情報処理装置10は、コールオプション価格間で非線形回帰計算による平滑化を実施する第3平滑化手段の一例として、S3の処理を実行する。
【0034】
次に、情報処理装置10は、S3の処理によってばらつきが抑制された取引データから状態価格を計算する(S4)。行使価格K、満期日Tのコールオプションの取引の価格C(K,T)についての状態価格RK,Tは、次の(式2)によって求めることができる。
【0035】
【数1】

【0036】
(式2)は、コールオプション価格を行使価格Kで二階偏微分する式である。状態価格は、数理ファイナンスの理論において、得られる将来の配当が確実には予測できない状態(無裁定)である市場において、満期日であるT期先に株価Kとなる状態になったときに1円が得られる証券を、無リスク金利を用いて現在に戻して判断した価値である。状態価格は、後述するリスク中立測度の確率の定数倍であることが知られている。
【0037】
(式2)において、C(K-h,T),-2C(K,T),C(K+h,T)は、それぞれ、行使価格K-h,K,K+hにおけるコールオプションの買いの取り引き価格、コールオプションの2倍の売りの取り引き価格、コールオプションの買いの取り引き価格を表す。そして、例えば、原資産価格に応じて満期時点のコールオプション価格が傾き1で増加する直線を仮定すると、hが十分小さい場合に、(式2)のRK,Tは、値1となる。すなわち、(式2)は、満期日Tにおいて、行使価格Kのときだけ配当1が得られる証券の価値である、状態価格を定性的に例示している。情報処理装置10は、オプション価格を行使価格で二階偏微分して得られる状態価格を得る微分手段の一例として、S4の処理を実行する。
【0038】
次に、情報処理装置10は、S4の処理で得られた状態価格を平滑化する(S5)。上述したS4の処理では、情報処理装置10は、S1の処理で得られる複数の行使価格K、満期日Tの組み合わせに対して、対応する複数の状態価格RK,Tを計算する。情報処理装置10は、S5の処理において、これら複数の行使価格K、満期日Tに対して得られた状態価格RK,Tの値を非線形補間、例えば、RBF補間により、平滑化する。情報処理装置10がS5の処理を実行しない場合には、次のS6の処理で計算されるリスク中立推移確率行列の各行列成分が相互にばらついた値となる。そこで、情報処理装置10は、S6の計算の前に、状態価格RK,Tを平滑化するのである。ただし、本実施の形態において、S5の処理が必須という訳ではない。情報処理装置10は、行使価格とオプション取引の満期日とをそれぞれ変更して得られる複数の状態価格間で非線形関数を介した非線形回帰計算による平滑化を実施する第2平滑化手段の一例として、S5の処理を実行する。
【0039】
次に、情報処理装置10は、状態価格の推移行列を計算する(S6)。上述のように、状態価格は、金利を定数とすれば、リスク中立測度の推移確率(リスク中立推移確率)の定数倍であることが知られている。したがって、状態価格の推移行列を求めることは、リスク中立推移確率の行列と同等のものを求める結果となる。ここでは、まず、情報処理装置10は、S5の処理で平滑化された状態価格RK,TをS1の処理で得られる複数の行使価格K、満期日Tの組み合わせに対して求め(それぞれrT,Kとする)、この状態価格rT,Kを成分とする状態価格行列R(rT,K)に配列する。ここで、状態価格行列R(rT,K)は、行の並び(1つの列における列方向の要素の位置)が満期日T、列の並び(1つ行における行方向の要素の位置)が行使価格Kに対応しており、それぞれの行列位置(T,K)に該当する満期日T,行使価格Kにより(式2)で計算される状態価格rT,K=RK,Tを該当する位置(T,K)配置したものである。以降、状態価格を行使価格s1,s2,…,sm、満期日t1,t2,…,tnにおいて計算するとものする。
【0040】
そして、情報処理装置10は、状態価格行列R(rT,K)のうち、最終行(最後の満期日の行)を除いた行列をAとし、第1行(最初の満期日の行)を除いた行列をBとして、2つの行列を生成する。最後の満期日をTとすると、行列Aは、第1期から第T-1期までの状態価格を各行とし、行使価格Kを各列として状態価格RK,Tを配置した行列である。また、行列Bは、第2期から第T期までの状態価格を各行とし、行使価格Kを各列として配置した行列である。こうして、情報処理装置10は、以下の(式3)により、推移確率行列Π(πs,j)を計算する。異なる列が配置される方向(行の要素の配置方向)が第1方向の一例である。また、異なる行が配置される方向(列の要素の配置方向)が第2方向の一例である。行列Bは、行列Aの行の並び(1つの列の要素の並びの方向、第2方向)において、オプション取引の満期日を一期間ずらして算出した行列の一例である。行列Aは第1行列の一例であり、Bは第2行列の一例といえる。
【0041】
【数2】

ここで、A-1は行列Aの逆行列である。逆行列を乗算することは、割り算に該当し、行列Aで表される状態価格(リスク中立測度の確率の定数倍)が発生した条件付きで、行列Bの各行列の状態が発生する状態価格の推移行列となっている。より具体的には、状態価格の推移行列Π(πs,j)の各要素は、次の状態がjになったときに1円が得られる証券の状
態sにおける価値であり、リスク中立測度の確率の定数倍である。(式3)は1期前の確率を条件とした場合の、その状態から1期経過後の条件付き確率を計算することに相当する。
情報処理装置10は、状態価格の推移行列(Π)を得る第1取得手段の一例として、S6の処理を実行する。なお、(式3)において、太字のΠ、A、Bはそれぞれが配列であることを表している。
【0042】
次に、情報処理装置10は、推移行列Π(πs,j)の各要素を行方向および列方向で、
平滑化する(S7)。平滑化の方法は、上記S3の処理で述べた非線形補間、例えばRBF補間である。情報処理装置10がS7の処理を実行しない場合には、次のS8の処理で計算されるプライシングカーネルPKが行使価格Kに対して不規則に変化する値となる(後述する図6参照)。そこで、情報処理装置10は、S8の計算の前に、推移行列Π(πs,j)の各要素を行方向および列方向で、平滑化するのである。ただし、S7の処理は必
須ではなく、情報処理装置10は、S7の処理を省略してもよい。情報処理装置10は、リスク中立遷移確率配列の要素間で非線形関数を介した非線形回帰計算による平滑化を実施する第1平滑化手段の一例としてS7の処理を実行する。
【0043】
次に、情報処理装置10は、平滑化された推移行列Π(πs,j)を基に、プライシング
カーネルPKを基に(式4)にしたがって、実測度の推移確率行列P(ps,j)を求める(S
8)。(式4)は、数理ファイナンスの分野におけるStephen A. Rossの論文“THE RECOVERY THEOREM”で導き出された理論式である。
【0044】
【数3】

ここで、ギリシャ文字ファイで表される関数φ(s)、φ(j)は、行使価格s,j(株価s,j)における投資家の期待効用を示す関数と理解することができる。また、φ’(s)、φ’(j)は、行使価格(株価)による関数φ(s)、φ(j)の微分である。さらに、ギリシャ文字で表されるラムダは、行使価格j(株価j)の時点の投資家の期待効用を行使価格s(株価s)の時点の投資家の期待効用に調整するための調整項である。また、ラムダは、主観的割引率とも呼ばれ、将来価値(効用)を現在価値(効用)に引き戻す際に投資家が想定する割引率である。
ところで、“THE RECOVERY THEOREM”によれば、ラムダは、状態価格の推移行列Π(πs,j)の固有値であり、(1/φ’(s), s=s1,s2,…,sm)は、推移行列Π(πs,j)の固有
ベクトルであること示されている。そこで、情報処理装置10は、状態価格の推移行列Π(πs,j)の固有値ラムダおよび固有ベクトル(1/φ’(s), s=s1,s2,…,sm)を計算し、
(式4)により、状態価格の推移行列Π(πs,j)から、実測度の推移確率行列P(ps,j)を計算する。また、このときの(式4)の係数のうち、φ’(s)/φ’(j)の逆数φ’(j)/φ
’(s)は、状態s(配当s)から将来の状態j(配当j)への変化における投資家の期待効
用の微分値の比であり、投資家の期待効用の加速度に対応し、プライシングカーネルPKと呼ばれる。プライシングカーネルPKは、リスク中立測度の推移確率を実測度の推移確率に変換する係数であり、投資家の心理、あるいは、投資家のリスク選好を示す。情報処理装置10は、実推移確率配列を得る第3取得手段の一例として、S8の処理を実行する。また、情報処理装置10は、S8の処理において、プライシングカーネルPKを計算するため、状態価格の推移行列Πの固有ベクトル(1/φ’(i),iは固有ベクトルの要素番号)を取得する。このため、S8の処理は、第2取得手段の一例ということもできる。また
、情報処理装置10がS8においてプライシングカーネルPKを計算する処理は、固有ベクトル(1/φ’(i),iは固有ベクトルの要素番号)を基に、状態価格の推移行列(Π)の
前記第2方向の各状態から前記第1方向の各状態への遷移における前記投資家の心理状態を示す情報PK=φ’(j)/φ’(s) (ここで/は除算、jとsは、それぞれ推移行列Πの第
1方向の要素番号と第2方向の要素番号)を出力すること、および出力手段の一例といえる。
次に、情報処理装置10は、実測度の推移確率行列P(ps,j)を現在の取引データに適用
し、将来の各時点の原資産の価格分布を計算する(S9)。なお、状態価格の推移行列Πおよびこれを基に計算される実測度の推移確率行列P(ps,j)は、時間区間tだけ先の将来
において、状態sから状態jに遷移する確率を表している。ここで、時間区間tは、上記(式3)を計算するために準備した行列A、B(または、状態価格行列R(rT,K))の時間方向の要素間の時間間隔である。そして、情報処理装置10は、プライシングカーネルPKおよび実測度の推移確率による将来の価格分布を出力する。すなわち、情報処理装置10は、現在の原資産価格の状態ベクトルS0と、実測度の推移確率行列P(ps,j)と
の間の演算を繰り返すことで、時間区間tだけ先の将来における原資産価格の状態ベクトルSj(j=1,・・・)を順次求めることができる。
【0045】
図4は、計算結果の一例を示す図である。図4は、株式会社日本経済新聞(登録商標)社が発表する日経平均(登録商標)株価(日経平均株価は登録商標)の実績値と予測値との関係を例示する図である。図4では、併せて、予測値に対して、標準偏差(σ)の2倍(2σ)の範囲も例示されている。図4のように、本実施の形態の情報処理装置10によ
る株価予測値は、株価実績値から準偏差(σ)の2倍(2σ)の正負の範囲に収まってい
る。図4から、オプション価格のデータを基に計算した原資産価格(株価)の分布が原資産価格(株価)の実績値を精度よく再現していることがわかる。
【0046】
図5は、プライシングカーネルPKの計算結果を例示する図である。すなわち、図5では、状態価格の推移行列Π(πs,j)の固有ベクトルの値が現在時点を基準に例示されて
いる。図5で、横軸は、行使価格Kであり、縦軸は、プライシングカーネルPKの値である。本実施のように、情報処理装置10は、図3のS3、S5、S7の平滑化処理を実行することにより、図5に例示する滑らかなプライシングカーネルPKを得ることができる。図5は、下に凸な曲線、つまり、高価格帯ほど高くなる傾向を示している。高価格帯でPKが高くなると(式4)からその価格帯の実確率は小さくなる。図5は効用を示す関数の微分であるプラシングカーネルPKの分子の数値が大きいほど、株価に対する効用の変化幅が大きいことを意味し、株価に対する投資家の不安が大きいことを表している。図5では、投資家が高価格帯ほど大きな株価下落を見込むことにより、高価格帯のPKが大きくなっていると解釈できる。
【0047】
図6は、図3のS3、S5、S7の平滑化処理を実行しない場合のプライシングカーネルPKの計算結果の一例である。図6のように、平滑化処理を実行しない場合、プライシングカーネルPKは、不規則な変化を含み、解析結果が不安定となる。
【0048】
<実施の形態の効果>
以上述べたように、本実施形態の情報処理装置10は、金融市場の商品の1つであるコールオプション価格の日次の取引データ(行使価格K、満期日T、コールオプション価格C(K,T))に基づき、状態価格RK,Tを計算する。状態価格は、満期日であるT期先に株価Kとなる状態になったときに1円が得られる証券を、無リスク金利を用いて現在に戻して判断した価値であり、リスク中立確率の定数倍である。そして、情報処理装置10は、行列位置(T,K)に該当する満期日T,行使価格Kの状態価格RK,Tを配置した状態価格行列Rから、満期日Tを1期ずらした2つの行列A,Bの間の行列演算により、状態価格の推移行列Π(πs,j)を求める。さらに、情報処理装置10は、状態価格の
推移行列Π(πs,j)の固有値ラムダおよび固有ベクトルを計算し、状態価格の推移行列
Π(πs,j)から、実測度の推移確率行列P(ps,j)を算出する。すなわち、本実施形態の情報処理装置10は、金融市場の商品の1つであるコールオプション価格の日次の取引データを基に、行使価格Kと満期日Tとコールオプション価格C(K,T)の関係を利用し、行使価格Kの実推移確率行列P(ps,j)を求め、株価の期待分布を求めることができる。また、情報処理装置10は、上記計算に伴い、投資家の心理を反映したプライシングカーネルPKを計算することができる。
【0049】
また、情報処理装置10は、リスク中立遷移確率配列の要素間で非線形関数を介した非線形回帰計算による平滑化を実施する。本実施の形態では、情報処理装置10は、非線形回帰計算の一例として、RBF補間を実施した。これにより、上記株価の期待分布およびプライシングカーネルPKとして、変動を抑制した安定した結果を得ることができる。
【0050】
また、情報処理装置10は、行使価格と前記オプション取引の満期日とをそれぞれ変更して得られる複数の前記状態価格間で非線形関数を介した非線形回帰計算による平滑化を実施する。これにより、上記株価の期待分布およびプライシングカーネルPKとして、変動を抑制した安定した結果を得ることができる。
【0051】
また、情報処理装置10は、上記取引データから得られる複数のコールオプション価格間で非線形回帰計算による平滑化を実施する。これにより、上記株価の期待分布およびプライシングカーネルPKとして、変動を抑制した安定した結果を得ることができる。
【0052】
さらにまた、情報処理装置10は、取引データから得られるプットオプション価格をコールオプション価格に変換して利用する。これにより、情報処理装置10は、取引データのうち、コールオプションとプットオプションの両方を有効利用できる。
【0053】
<その他の実施の形態>
上記実施の形態では、情報処理装置10がコールオプション価格による処理を実施した。また、情報処理装置10は、上記(式1)にしたがってプットオプション価格をコールオプション価格に変換した。しかし、逆に情報処理装置10は、プットオプション価格の取引データを用いて上記と同様の手順で、株価の期待分布およびプライシングカーネルPKを計算してもよい。また、情報処理装置10は、上記(式1)にしたがってコールオプション価格をプットオプション価格に変換してもよい。この場合には、上記S3の平滑化(例えばRBF回帰)の処理は、当然、プットオプション価格に対して実行される。
【0054】
上記実施の形態では、情報処理装置10は、取引データのうちのオプション取引のデータを用いて、原資産である株式の価格の期待分布およびプライシングカーネルPKを計算した。しかし、原資産が株価に関連するものに限定される訳ではない。情報処理装置10は、オプション取引の原資産となり得る様々な商品に対して、上記のような価格の期待分布を計算できる。
【0055】
すなわち、情報処理装置10の処理が、株式オプション取引のデータに限定される訳ではない。情報処理装置10は、オプションの性質がある金融商品、例えば為替オプションの取引データを用いて、本実施の形態の手順を適用し、原資産の期待分布およびプライシングカーネルPKを計算すればよい。
【符号の説明】
【0056】
10 情報処理装置
11 CPU
12 主記憶装置
13 外部記憶装置
14 表示部
15 操作部
16 通信部
図1
図2
図3
図4
図5
図6