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特開2022-77897解析結果判定方法、妥当性判断支援方法、解析結果学習装置および解析結果判定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022077897
(43)【公開日】2022-05-24
(54)【発明の名称】解析結果判定方法、妥当性判断支援方法、解析結果学習装置および解析結果判定装置
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20220517BHJP
   G01H 1/00 20060101ALI20220517BHJP
   G01V 1/30 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
G06T7/00 350B
G01H1/00 E
G01V1/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020188959
(22)【出願日】2020-11-12
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀田 渉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 俊一
【テーマコード(参考)】
2G064
2G105
5L096
【Fターム(参考)】
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB19
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC41
2G105AA03
2G105BB01
2G105EE01
2G105MM01
5L096DA01
5L096HA09
5L096HA11
5L096KA04
5L096KA15
(57)【要約】
【課題】耐震解析業務における解析の品質確認作業を効率的に行うことができる解析結果判定方法、妥当性判断支援方法、解析結果学習装置および解析結果判定装置を提供する。
【解決手段】地震応答解析の解析結果を学習する解析結果学習装置10であって、前記地震応答解析は、解析モデルの各節点における応答時刻歴波形を動的解析によって算出するものであり、解析結果として得られる応答時刻歴波形または当該応答時刻歴波形の周波数特性を画像化した画像データFと、前記応答時刻歴波形が正常か異常かを示す解析結果判断情報との組を学習データとして取得する学習データ取得部12と、学習器を有しており、前記画像データを入力することによって前記解析結果判断情報を出力するように前記学習器を機械学習させる学習処理部13と、を備えることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震応答解析の解析結果を判定する解析結果判定方法であって、
前記地震応答解析は、解析モデルの各節点における応答時刻歴波形を動的解析によって算出するものであり、
学習データを用いて学習器を機械学習させる学習工程と、
前記学習工程で学習した学習器により地震応答解析の解析結果を判定する判定工程とを有し、
前記学習工程は、
解析結果として得られる応答時刻歴波形または当該応答時刻歴波形の周波数特性を画像化した画像データと、前記応答時刻歴波形が正常か異常かを示す解析結果判断情報との組を学習データとして生成する学習データ生成工程と、
前記画像データを入力することによって前記解析結果判断情報を出力するように前記学習器を学習させる学習処理工程とを有し、
前記判定工程では、解析を行った画像データを学習済みの学習器に入力することによって当該画像データの基になる応答時刻歴波形が正常か異常かを判定する、
ことを特徴とする解析結果判定方法。
【請求項2】
機械学習させる学習データには、正しい解析条件で解析を行った前記画像データに正常を示す解析結果判断情報を付した第一の学習データと、間違った解析条件で解析を行った前記画像データに異常を示す解析結果判断情報を付した第二の学習データとが含まれており、
前記学習データ生成工程では、解析条件として、減衰の未入力、減衰の誤入力、材料物性値の誤入力、動的解析への物性変更間違い、および側方粘性境界要素の範囲間違いの何れかを行うことによって前記第二の学習データを作成する、
ことを特徴とする請求項1に記載の解析結果判定方法。
【請求項3】
地震応答解析で用いる解析条件の妥当性の判断を支援する妥当性判断支援方法であって、
請求項1または請求項2に記載の解析結果判定方法で判定された全節点の解析結果判断情報を取得し、解析モデルに関連づけて当該解析結果判断情報を描画する描画処理工程を有する、
ことを特徴とする妥当性判断支援方法。
【請求項4】
地震応答解析の解析結果を学習する解析結果学習装置であって、
前記地震応答解析は、解析モデルの各節点における応答時刻歴波形を動的解析によって算出するものであり、
解析結果として得られる応答時刻歴波形または当該応答時刻歴波形の周波数特性を画像化した画像データと、前記応答時刻歴波形が正常か異常かを示す解析結果判断情報との組を学習データとして取得する学習データ取得部と、
学習器を有しており、前記画像データを入力することによって前記解析結果判断情報を出力するように前記学習器を機械学習させる学習処理部と、を備える、
ことを特徴とする解析結果学習装置。
【請求項5】
地震応答解析の解析結果を判定する解析結果判定装置であって、
前記地震応答解析は、解析モデルの各節点における応答時刻歴波形を動的解析によって算出するものであり、
解析結果として得られる応答時刻歴波形または当該応答時刻歴波形の周波数特性を画像化した画像データを取得する判定データ取得部と、
前記画像データを入力することによって当該画像データの基になる応答時刻歴波形が正常か異常かを示す判定結果を出力するように機械学習を行った学習済みの学習器を有する判定処理部と、を備える、
ことを特徴とする解析結果判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解析結果判定方法、妥当性判断支援方法、解析結果学習装置および解析結果判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、建設業務に関して、人工知能(AI:Artificial Intelligence)技術を用いた様々な技術が開発されている。例えば、地震計記録のランニングスペクトルを用いて低周波微動と通常の地震動のシグナルを自動的に高精度で判別する手法が開発されている(非特許文献1参照)。ランニングスペクトルは、地震等の波動シグナルに含まれる周波数成分の時間変化を表示する手法の一つである。画像の縦方向に周波数成分を示し、これを横方向に時間経過に従って表示することで、シグナルに含まれる周波数成分の継続時間と時間変化を画像として表示する手法である。この技術によれば、低周波微動と通常の地震動を自動的に高精度で判別できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】“プレスリリース「人工知能を用いて地震動と低周波微動シグナルを自動的に高精度で判別する新手法を開発」”、[online]、国立研究開発法人海洋研究開発機構、[令和2年11月2日検索]、インターネット<http://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20190116/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、未だに人間が手作業で行っている業務も多く存在し、さらなる業務の効率化や業務の精度の向上が望まれている。例えば、原子力関連施設の許認可を取得するために、耐震解析・評価を行い、これに関連する資料(「品質保証資料」と呼ぶ)を提出する必要がある。現在では、人間が耐震解析・評価で用いるインプットデータを印刷して根拠資料と照合し、チェックマークした資料を品質保証資料としている。このインプットデータのチェック作業は膨大であり、特にダブルチェック、トリプルチェックを行っていることからその労力は多大となる。
【0005】
このような観点から、本発明は、耐震解析業務における解析の品質確認作業を効率的に行うことができる解析結果判定方法、妥当性判断支援方法、解析結果学習装置および解析結果判定装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る解析結果判定方法は、地震応答解析の解析結果を判定する解析結果判定方法である。前記地震応答解析は、解析モデルの各節点における応答時刻歴波形を動的解析によって算出するものである。
この解析結果判定方法は、学習データを用いて学習器を機械学習させる学習工程と、前記学習工程で学習した学習器により地震応答解析の解析結果を判定する判定工程とを有する。前記学習工程は、学習データ生成工程と学習処理工程とを有する。
前記学習データ生成工程では、解析結果として得られる応答時刻歴波形または当該応答時刻歴波形の周波数特性を画像化した画像データと、前記応答時刻歴波形が正常か異常かを示す解析結果判断情報との組を学習データとして生成する。
前記学習処理工程では、前記画像データを入力することによって前記解析結果判断情報を出力するように前記学習器を学習させる。
前記判定工程では、解析を行った画像データを学習済みの学習器に入力することによって当該画像データの基になる応答時刻歴波形が正常か異常かを判定する。
【0007】
本発明に係る解析結果判定方法においては、解析結果として得られる応答時刻歴波形または当該応答時刻歴波形の周波数特性を画像化した画像データを含んだ学習データを用いて学習器を機械学習させる。当該学習データを用いて学習した学習器を用いると、解析結果の正常、異常の判断が人間によらずに可能である。その為、業務の効率化を実現できる。また、応答時刻歴波形や当該応答時刻歴波形の周波数特性を画像化した画像データは、動的問題で起こり得る異常応答に対して人間が見ても異常と判断できるものであり、画像データと解析結果判断情報との関連付け(ラベリング)が比較的容易である。
【0008】
機械学習させる学習データには、正しい解析条件で解析を行った前記画像データに正常を示す解析結果判断情報を付した第一の学習データと、間違った解析条件で解析を行った前記画像データに異常を示す解析結果判断情報を付した第二の学習データとが含まれている。前記学習データ生成工程では、解析条件として、減衰の未入力、減衰の誤入力、材料物性値の誤入力、動的解析への物性変更間違い、および側方粘性境界要素の範囲間違いの何れかを行うことによって前記第二の学習データを作成してもよい。
このようにすれば、動的問題で起こり得る異常応答を概ね満足できる。
【0009】
本発明に係る妥当性判断支援方法は、地震応答解析で用いる解析条件の妥当性の判断を支援する妥当性判断支援方法である。
この妥当性判断支援方法は、前記した解析結果判定方法で判定された全節点の解析結果判断情報を取得し、解析モデルに関連づけて当該解析結果判断情報を描画する描画処理工程を有する。
このようにすれば、節点ごとの解析結果の正常、異常を一目で判断できるので、間違った解析条件の特定が容易である。
【0010】
本発明に係る解析結果学習装置は、地震応答解析の解析結果を学習する解析結果学習装置である。前記地震応答解析は、解析モデルの各節点における応答時刻歴波形を動的解析によって算出するものである。
この解析結果学習装置は、学習データ取得部と学習処理部とを備える。
前記学習データ取得部は、解析結果として得られる応答時刻歴波形または当該応答時刻歴波形の周波数特性を画像化した画像データと、前記応答時刻歴波形が正常か異常かを示す解析結果判断情報との組を学習データとして取得する。
前記学習処理部は、学習器を有しており、前記画像データを入力することによって前記解析結果判断情報を出力するように前記学習器を機械学習させる。
【0011】
本発明に係る解析結果学習装置においては、解析結果として得られる応答時刻歴波形または当該応答時刻歴波形の周波数特性を画像化した画像データを含んだ学習データを用いて学習器を機械学習させる。当該学習データを用いて学習した学習器を用いると、解析結果の正常、異常の判断が人間によらずに可能である。その為、業務の効率化を実現できる。また、応答時刻歴波形や当該応答時刻歴波形の周波数特性を画像化した画像データは、動的問題で起こり得る異常応答に対して人間が見ても異常と判断できるものであり、画像データと解析結果判断情報との関連付け(ラベリング)が比較的容易である。
【0012】
本発明に係る解析結果判定装置は、地震応答解析の解析結果を判定する解析結果判定装置である。前記地震応答解析は、解析モデルの各節点における応答時刻歴波形を動的解析によって算出するものである。
この解析結果判定装置は、判定データ取得部と判定処理部とを備える。
前記判定データ取得部は、解析結果として得られる応答時刻歴波形または当該応答時刻歴波形の周波数特性を画像化した画像データを取得する。
前記判定処理部は、前記画像データを入力することによって当該画像データの基になる応答時刻歴波形が正常か異常かを示す判定結果を出力するように機械学習を行った学習済みの学習器を有する。
【0013】
本発明に係る解析結果判定装置においては、解析結果として得られる応答時刻歴波形または当該応答時刻歴波形の周波数特性を画像化した画像データを含んだ学習データを用いて機械学習した学習器によって判定する。その為、解析結果の正常、異常の判断が人間によらずに可能であり、業務の効率化を実現できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐震解析業務における解析の品質確認作業を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る妥当性判断支援システムの概略構成図である。
図2】解析モデルの例示である。
図3】画像データの例示であり、(a)は加速度時刻歴画像の例示であり、(b)は加速度時刻歴画像の周波数特性を画像化した伝達関数画像の例示である。
図4】実施形態に係る妥当性判断支援方法(解析結果判定方法を含む)のフローチャートの例示である。
図5】学習させる解析モデルの種類の例示であり、(a)は「成層モデル」、(b)は「不整形モデル」、(c)は「破砕帯モデル」、(d)は「非対称モデル」の例示である。
図6】加速度時刻歴画像の例示であり、(a)は正常応答の加速度時刻歴画像の例示であり、(b)はパルスが発生した異常応答の加速度時刻歴画像の例示であり、(c)は初期異動振動が発生した異常応答の加速度時刻歴画像の例示である。
図7】伝達関数画像の例示であり、(a)は正常応答の伝達関数画像の例示であり、(b)は高周波ノイズが発生した異常応答の伝達関数画像の例示であり、(c)は過減衰が発生した異常応答の伝達関数画像の例示である。
図8】実施形態に係る妥当性判断支援方法の判定工程の処理の流れを示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施をするための形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0017】
<実施形態に係る妥当性判断支援システムの構成について>
図1を参照して、実施形態に係る妥当性判断支援システム1について説明する。図1は、実施形態に係る妥当性判断支援システム1の概略構成図である。
妥当性判断支援システム1は、地震応答解析で用いる解析条件の妥当性の判断を支援するシステムである。妥当性判断支援システム1は、主に、解析結果学習装置10と、解析結果判定装置20とを備える。なお、解析結果学習装置10および解析結果判定装置20を一つの装置として構成することもできる。
解析結果学習装置10は、地震応答解析を行うことで出力される応答時刻歴波形と当該応答時刻歴波形の分析結果(例えば正常、異常のどちらであるか)との関係を学習する装置である。解析結果学習装置10は、例えば地震応答解析を行った結果として出力される節点の応答時刻歴波形を画像化した情報を用いて機械学習を行う。
解析結果判定装置20は、地震応答解析を行うことで出力される応答時刻歴波形から当該応答時刻歴波形が正常、異常のどちらであるかを判定する装置である。解析結果判定装置20は、例えば地震応答解析を行った結果として出力される節点の応答時刻歴波形を画像化した情報を用いて正常、異常の判定を行う。
【0018】
(解析結果学習装置)
図1に示すように、解析結果学習装置10は、地震応答解析部11と、学習データ生成部12と、学習処理部13とを備える。地震応答解析部11、学習データ生成部12および学習処理部13は、CPU(Central Processing Unit)によるプログラム実行処理や、専用回路等により実現される。これらの機能がプログラム実行処理により実現する場合、当該機能を実現するためのプログラムが図示しない記憶部に格納される。
【0019】
地震応答解析部11は、仮想的な空間を用いた数値解析によって構造物への地震の影響を計算するものであり、例えば有限要素法による地震応答解析によって構造物への地震の影響を計算する。
地震応答解析部11には、解析モデルDおよび解析条件Eが入力される。解析モデルDは、解析対象の構造物を抽象化(モデル化)したものである。解析モデルDは、二次元および三次元の何れであってもよい。図2に解析モデルDを例示する。解析モデルDは、複数の領域(これは「要素」や「メッシュ」などとも呼ばれる)に分割されている(つまり、解析モデルDは、メッシュ(要素)の集合体である)。メッシュは、例えば三角形や四角形などの単純な形状であり、頂点は「節点」と呼ばれる。解析条件Eは、例えば解析対象の構造物に関する情報、外力として与えられる地震に関する情報などである。
【0020】
地震応答解析部11は、例えば解析モデルDおよび解析条件Eを入力として、各節点における加速度時刻歴波形を計算する。加速度時刻歴波形は、応答時刻歴波形の一例であり、地震応答解析部11が解析する応答時刻歴波形は、加速度以外のものであってもよい。地震応答解析部11は、応答時刻歴波形の周波数特性をさらに求めてもよい。
地震応答解析部11は、計算した各節点の応答時刻歴波形や当該応答時刻歴波形の周波数特性を画像化した画像データFを学習データ生成部12に出力する。画像化の方法は特に限定されない。画像データFは、例えば二値画像(白黒画像)である。地震応答解析部11は、例えば、加速度時刻歴波形を画像化した加速度時刻歴画像や加速度時刻歴画像の周波数特性を画像化した伝達関数画像を作成し、学習データ生成部12に出力する。画像データFの一例を図3に示す。図3(a)は、加速度時刻歴画像の例示であり、図3(b)は、加速度時刻歴画像の周波数特性を画像化した伝達関数画像の例示である。加速度時刻歴画像および伝達関数画像には、基準となる軸が含まれていてもよいが、それ以外の補足情報は含まれていないのがよい。つまり、図3では、加速度時刻歴画像および伝達関数画像を理解しやすいように、軸の説明文(「時刻」、「加速度」、「周波数」、「伝達関数」)や数値(周波数を示す「0Hz」および「50Hz」、伝達関数を示す「0」および「20」)を付しているが、実際の加速度時刻歴画像および伝達関数画像には、これらの情報が含まれていないのがよい(後記する図6および図7についても同様)。
なお、本実施形態では、地震応答解析部11における解析機能(地震応答解析を実現する地震解析プログラム)は十分に検証がなされており、解析における計算上の間違いはないものとする。つまり、正しい解析条件を入力すれば、各節点における正常な解析結果(ここでは加速度時刻歴波形を想定)が必ず得られるものとする。その為、解析結果に異常があった場合には、解析条件に間違いがあったことになる。解析条件の間違いとは、例えば必要な情報の未入力、誤入力、前提となる条件の間違いなどである。
【0021】
学習データ生成部12は、学習で使用する学習データを生成する。ここでの学習データは、応答時刻歴波形または当該応答時刻歴波形の周波数特性を画像化した画像データFと、応答時刻歴波形が正常か異常かを示す情報(この情報を「解析結果判断情報」と呼ぶ)とを組にしたものである。解析結果判断情報は、各節点の応答時刻歴波形や周波数特性を人間が分析し、判断した結果であってよい。妥当性判断支援システム1の管理者は、例えば図示しない入力装置を用いて、画像データFに解析結果判断情報を設定する。大まかには、正しい解析条件で解析を行った結果として計算された応答時刻歴波形などに正常を示す情報(解析結果判断情報)を付し、間違った解析条件で解析を行った結果として計算された応答時刻歴波形などに異常を示す情報(解析結果判断情報)を付することになる。ここで、間違った解析条件で解析を行ったからといって全ての節点で異常応答が発生するとは限らないことに留意する必要がある。つまり、間違った解析条件で解析を行っても、ある節点では正常な応答時刻歴波形となり、ある節点では異常な応答時刻歴波形となる場合がある。異常応答が発生する節点の場所や範囲は、例えば解析条件の間違いの内容に関連する。なお、解析結果判断情報は、どのような異常が発生したかを示す情報が含まれるものであってもよい。つまり、解析結果判断情報は、正常、異常a、異常b、・・のように異常の種類によって分けられたものであってもよい。学習データ生成部12は、学習データを学習処理部13に出力する。
【0022】
応答時刻歴波形または当該応答時刻歴波形の周波数特性を画像化した画像データFと、応答時刻歴波形が正常か異常かを示す情報(この情報を「解析結果判断情報」と呼ぶ)とを組にした状態で予め記憶部に登録しておき、学習データ生成部12が登録されている情報を学習データとして取得してもよい。記憶部は、通信回線を介して接続される装置が備えるものであってもよい(例えば、クラウドシステム)。記憶部に格納される学習データを取得する機能を「学習データ取得部」と呼ぶ場合がある。なお、学習データ生成部12が地震応答解析部11から各節点の応答時刻歴波形や当該応答時刻歴波形の周波数特性を示す情報を取得し、学習データ生成部12で学習に用いる画像データFの作成を行ってもよい。
【0023】
学習処理部13は、学習器を有しており、学習データ生成部12で生成した学習データを用いて学習器を機械学習させる。学習器は、機械学習における学習システムであり、与えられたデータを基に分類・予測・判定などした結果と正答となる実際の結果とを比較し、各種パラメータを調整することで良い結果を導くことが可能になる。学習器は、例えばニューラルネットワークであり、本実施形態でもニューラルネットワークを想定して説明する。なお、学習器は、「学習モデル」や「人工知能(AI:Artificial Intelligence)」などとも呼ばれる。
【0024】
ニューラルネットワークは、周知のように人間の脳の動きをコンピュータに模倣させる目的で生まれた情報処理手法である。ニューラルネットワークは、複雑な非線形処理を得意とし、学習機能を用いることで説明変数と目的変数の関係を定式化する必要がないという特徴を持つ。ニューラルネットワークは、一般的に入力層、中間層、出力層で構成される。入力層には説明変数が入力され、出力層からは目的変数が出力される。中間層は、両者を関係づける役割を担っている。中間層の層数および各中間層のニューロン数には制約が無く、任意に設定することができる。
【0025】
学習器を学習させる方法は特に限定されず、例えば誤差逆伝播法によって学習器を学習させる。具体的には、学習データを構成する画像データFが入力層に入力され、出力層から出力される結果と学習データを構成する解析結果判断情報との誤差に基づいて中間層を調整する。つまり、学習処理部13は、画像データFを入力することによって応答時刻歴波形が正常か異常かを示す情報(解析結果判断情報)を出力するように学習器を機械学習させる。学習させる学習データの数は特に限定されず、例えば期待する精度に到達することで学習を終了する。なお、異常応答の種類に対応した学習器(AI)を作成してもよい(詳細は後記する)。
【0026】
(解析結果判定装置)
図1に示すように、解析結果判定装置20は、地震応答解析部21と、判定データ取得部22と、判定処理部23とを備える。地震応答解析部21、判定データ取得部22および判定処理部23は、CPU(Central Processing Unit)によるプログラム実行処理や、専用回路等により実現される。これらの機能がプログラム実行処理により実現する場合、当該機能を実現するためのプログラムが図示しない記憶部に格納される。
【0027】
地震応答解析部21は、仮想的な空間を用いた数値解析によって構造物への地震の影響を計算するものであり、例えば有限要素法による地震応答解析によって構造物への地震の影響を計算する。地震応答解析部21には、解析モデルDおよび解析条件Eが入力される。地震応答解析部21の処理は、学習工程における地震応答解析部11の処理と同様であるので詳細な説明を省略する。地震応答解析部21は、計算した各節点の応答時刻歴波形や当該応答時刻歴波形の周波数特性を画像化した画像データFを判定データ取得部22に出力する。画像データFは、例えば二値画像(白黒画像)である。なお、地震応答解析部21における解析機能(地震応答解析を実現する地震解析プログラム)は十分に検証がなされており、解析における計算上の間違いはないものとする。
【0028】
判定データ取得部22は、判定で使用する判定データを取得する。ここでの判定データは、応答時刻歴波形または当該応答時刻歴波形の周波数特性を画像化した画像データFである。判定データ取得部22は、他の装置から通信回線を介して判定データを取得してもよい。判定データ取得部22は、判定データを判定処理部23に出力する。なお、判定データ取得部22が地震応答解析部21から各節点の応答時刻歴波形や当該応答時刻歴波形の周波数特性を示す情報を取得し、判定データ取得部22で判定に用いる画像データFの作成を行ってもよい。
【0029】
判定処理部23は、学習済みの学習器(AI)を有している。学習済みの学習器は、解析結果学習装置10によって学習器を機械学習させたものである。つまり、学習済みの学習器は、画像データFを入力することによって加速度時刻歴波形が正常か異常かを示す情報(解析結果判断情報)を出力するように学習させたものである。判定処理部23は、判定データ取得部22で取得した判定データを学習済みの学習器に入力することによって、解析した応答時刻歴波形が正常か異常かを示す情報(判定結果)を出力する。本実施形態では、判定処理部23は、全ての節点の判定結果を描画処理部31に出力する。
【0030】
描画処理部31には、全ての節点の判定結果(解析結果判断情報に相当する)が入力される。描画処理部31は、解析モデルDの節点に関連付けて判定結果を表示する。これにより、例えば間違った解析条件で解析を行った場合に、異常応答が発生した節点の場所や範囲を一目で確認することができる。なお、本実施形態では、解析結果判定装置20に描画処理部31の機能を加えた装置を「妥当性判断支援装置30」と呼ぶことにする。
【0031】
<実施形態に係る妥当性判断支援方法(解析結果判定方法を含む)について>
図4を参照して(適宜、図1ないし図3を参照)、実施形態に係る妥当性判断支援方法(解析結果判定方法を含む)について説明する。図4は、実施形態に係る妥当性判断支援方法(解析結果判定方法を含む)のフローチャートの例示である。妥当性判断支援方法は、地震応答解析で用いる解析条件の妥当性の判断を支援するものである。
図4に示すように、妥当性判断支援方法は、学習工程(S10)と、判定工程(S20)とを有する。学習工程(S10)は、学習データを用いて学習器を機械学習する工程である。判定工程(S20)は、学習工程で学習した学習済みの学習器(AI)により地震応答解析の解析結果を判定する工程である。
【0032】
(学習工程(S10))
学習工程(S10)は、事前準備(地震応答解析)工程(S11)と、プレ処理工程(S12)と、ラベリング工程(S13)と、学習処理工程(S14)とを主に有する。
「事前準備工程(S11)」
事前準備工程では、まず動的問題で起こり得る異常応答を決定する。本実施形態では、「E1:高周波ノイズ」、「E2:過減衰」、「E3:パルス」、「E4:初期異常振動」、「E5:変位ドリフト」の五つを異常応答とする。ここに列挙した五つで、動的問題の異常応答は概ね説明できる。これらの異常応答を発生させるために、故意に間違った解析条件を設定する。ここでは、解析条件の間違いとして、例えば(1)減衰の未入力、(2)減衰の誤入力(例えば「3%(0.03)」を「3」と入力)、(3)材料物性値(変形係数、ポアソン比、密度など)の誤入力、(4)動的解析への物性変更間違い(例えば自重解析からの変更ミス)、(5)側方粘性境界要素の範囲間違いを行う。
正しい解析条件で解析を行い、全ての節点で「E0:正常応答」の加速度時刻歴波形を出力させる。また、上記した(1)~(5)の間違った解析条件で解析を行い、「E1:高周波ノイズ」、「E2:過減衰」、「E3:パルス」、「E4:初期異常振動」、「E5:変位ドリフト」の異常応答が発生した加速度時刻歴波形を出力させる。
本実施形態では、(A)「E1:高周波ノイズ」を判定(検知)できる学習器(AI)、(B)「E2:過減衰」を判定(検知)できる学習器(AI)、(C) 「E3:パルス」を判定(検知)できる学習器(AI)、(D) 「E4:初期異常振動」を判定(検知)できる学習器(AI)、(E) 「E5:変位ドリフト」を判定(検知)できる学習器(AI)の五つの学習済み学習器(AI)を作成することにする。これら五つの学習器を作成するために、入力データを各々50ケース用意し、これらの入力データを用いて解析を行った。各ケースは、例えば解析モデル、入力物性値、地震動を変えたものである。これにより、各学習器(A)~(E)の学習データ量は、「解析データ数(ここでは「50」)×節点数(例えば2,000)=約10万」となる。解析モデルは、様々なものを用いるのがよく、例えば「成層モデル」、「不整形モデル」、「破砕帯モデル」、「非対称モデル」などを用いるのがよい。図5に学習させる解析モデルの種類を示す。図5(a)は「成層モデル」、(b)は「不整形モデル」、(c)は「破砕帯モデル」、(d)は「非対称モデル」の例示である。地震動は、様々なタイプのものを用いるのがよく、例えば「海溝型」、「内陸直下型」のものを地盤種別ごとに用いるのがよい。
【0033】
「プレ処理工程(S12)」
応答時刻歴波形を画像化する。本実施形態での画像データは以下の2種類である。
(1)加速度時刻歴画像
(2)伝達関数画像
「加速度時刻歴画像」、「伝達関数画像」を用いる理由は、次の通りである。AIの学習データは、データ自体(生データ)を学習する方法と画像を学習する方法とがある。発明者は、色々な生データを用いた学習や色々な画像(例えばランニングスペクトルなど)を用いた学習を試みた結果、「どのデータを学習すれば最も正解率が向上するか」という点に着目した。また、動的問題で起こり得る異常応答に対して人間が見ても異常と判断できる画像を採用することが重要であると考えた(例えば、動的問題特有の「周波数帯」での画像作成により高周波ノイズなどを判断できる)。その結果、「加速度時刻歴画像」および「伝達関数画像」の二つを採用した。
図6に加速度時刻歴画像を例示する。図6(a)は正常応答の加速度時刻歴画像の例示であり、(b)はパルスが発生した異常応答の加速度時刻歴画像の例示であり、(c)は初期異動振動が発生した異常応答の加速度時刻歴画像の例示である。
図7に伝達関数画像を例示する。図7(a)は正常応答の伝達関数画像の例示であり、(b)は高周波ノイズが発生した異常応答の伝達関数画像の例示であり、(c)は過減衰が発生した異常応答の伝達関数画像の例示である。
なお、「E1:高周波ノイズ」および「E2:過減衰」の異常応答を判定するAIを作成するためには、特に伝達関数画像が有効である。また、「E3:パルス」および「E4:初期異常振動」の異常応答を判定するAIを作成するためには、特に加速度時刻歴画像が有効である。また、加速度時刻歴画像の作成は、「加速度」、「時刻」の上限を設けずに画像化するのがよい。伝達関数画像の作成は、「伝達関数」、「周波数」の範囲を予め設定して画像化するのがよい(例えば伝達関数を「0」~「20」の範囲とし、周波数を「0Hz」~「50Hz」の範囲として画像化するのがよい)。
【0034】
「ラベリング工程(S13)」
学習データ用画像各々に、「正常」か「異常」かのラベリングを行う。正常と異常の割合が概ね「50:50」となるように、「事前準備工程(S11)」での正解となるインプットデータからなる解析数と間違ったインプットデータからなる解析数を調整する。なお、間違ったインプットデータで解析を行ったからといって全節点が異常とはならない点に留意してラベリングを行う。ラベリング方法は、工学的に判断したものであってよく、例えば人間が画像を見て「正常」および「異常」を判断する。なお、正常と異常の割合を概ね「50:50」にするのは、過学習を避けるためである。
【0035】
「学習処理工程S14」
ラベリングを行った画像データを用いた教師あり学習によって、地震応答解析を行うことで出力される加速度時刻歴波形と当該加速度時刻歴波形の分析結果(例えば正常、異常のどちらであるか)との関係を学習器(AI)に学習させる。例えば、畳み込みニューラルネットワークによって学習器(AI)を学習させる。
【0036】
(判定工程(S20))
図4に示す判定工程(S20)は、事前準備(地震応答解析)工程(S21)と、プレ処理工程(S22)と、判定処理工程(S23)と、描画処理工程(S24)とを主に有する。事前準備(地震応答解析)工程(S21)およびプレ処理工程(S22)は、学習工程(S10)での事前準備工程(S11)およびプレ処理工程S12と同様である。
「事前準備工程(S21)、プレ処理工程(S22)」
事前準備工程では、地震解析プログラムにより解析を行い、全ての節点の加速度時刻歴波形を出力する。
プレ処理工程では、加速度時刻歴波形を画像化する。本実施形態での画像データは、「加速度時刻歴画像」および「伝達関数画像」の2種類である。
【0037】
「AI(判定処理)工程(S23)」
AI(判定処理)工程では、プレ処理を行った画像データを学習済みの学習器(AI)に入力し、全節点の応答結果に対して「正常」か「異常」かを判定する。AIによる判定結果は、例えば「0」~「1.0」の間の値が全節点に対して出力され、「0.5」未満であれば「正常」であり、「0.5」以上であれば「異常」であると判定する。本実施形態では、(A)「E1:高周波ノイズ」を判定(検知)できる学習器(AI)、(B)「E2:過減衰」を判定(検知)できる学習器(AI)、(C) 「E3:パルス」を判定(検知)できる学習器(AI)、(D) 「E4:初期異常振動」を判定(検知)できる学習器(AI)、(E) 「E5:変位ドリフト」を判定(検知)できる学習器(AI)の五つを作成しているので、その全てに画像データを入力し、各々の判定結果が出力される。
【0038】
「描画処理工程(S24)」
描画処理工程では、AI(判定処理)工程で出力された判定結果を例えば描画ツールに入力し、「異常」と判定された節点位置が分かるようにした画面を表示部に表示する。なお、「異常」と判定された節点位置を表示するのに代えて、または併せて「正常」と判定された節点位置を表示してもよい。判定結果の表示は、解析を行った解析モデルDに関連付けたものであるのがよい。五つのAIを用いて判定結果を出力する場合、五つの判定結果を別々の画像として出力してもよいし、各々の判定結果を一つの画像にまとめて出力してもよい。ここまで説明した判定工程(S20)の一連の処理の流れを示す図8に示す。
【0039】
以上のように、本実施形態に係る妥当性判断支援システム1では、解析結果として得られる応答時刻歴波形または当該応答時刻歴波形の周波数特性を画像化した画像データを含んだ学習データを用いて学習器を機械学習させる。当該学習データを用いて学習した学習器を用いると、解析結果の正常、異常の判断が人間によらずに可能である。その為、業務の効率化を実現できる。
また、応答時刻歴波形や当該応答時刻歴波形の周波数特性を画像化した画像データは、動的問題で起こり得る異常応答に対して人間が見ても異常と判断できるものであり、画像データと解析結果判断情報との関連付け(ラベリング)が比較的容易である。
また、本実施形態に係る妥当性判断支援システム1では、解析モデルに関連づけて解析結果判断情報(判定結果)を描画する。その為、節点ごとの解析結果の正常、異常を一目で判断できるので、間違った解析条件の特定が容易である。
【0040】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲の趣旨を変えない範囲で実施することができる。
【0041】
例えば、実施形態では、有限要素法による地震応答解析を行うことを想定していたが、応答解析はこれに限定されない。有限要素法による解析モデルに代えて、質点系モデル(「串団子モデル」とも呼ばれる)などを用いてもよい。
また、実施形態では構造物の種類を特定していなかったが、構造物の種類(例えば地上構造物、地下構造物など)ごとにAIを作成してもよい。
また、実施形態では「加速度時刻歴波形」を用いて学習していたが、加速度に限定されず加速度以外の「応答時刻歴波形」を用いて学習してもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 妥当性判断支援システム
10 解析結果学習装置
11 地震応答解析部
12 学習データ生成部(学習データ取得部)
13 学習処理部
20 解析結果判定装置
21 地震応答解析部
22 判定データ取得部
23 判定処理部
30 妥当性判断支援装置
31 描画処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8