(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022077917
(43)【公開日】2022-05-24
(54)【発明の名称】水力機械
(51)【国際特許分類】
F03B 3/02 20060101AFI20220517BHJP
【FI】
F03B3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020188992
(22)【出願日】2020-11-12
(71)【出願人】
【識別番号】511238158
【氏名又は名称】日立三菱水力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 克年
(72)【発明者】
【氏名】田村 悠太
【テーマコード(参考)】
3H072
【Fターム(参考)】
3H072AA07
3H072AA27
3H072BB15
3H072BB19
3H072CC01
3H072CC43
(57)【要約】
【課題】S字特性の発生を抑制することができる水力機械を得ること。
【解決手段】水力機械1は、ランナ2と、第1のカバー3と、第2のカバー4とを備える。第1のカバー3と第2のカバー4との間には、ランナ2を収容するランナ収容室9が形成されている。ランナ2は、複数の羽根21と、クラウン22と、バンド23とを備える。ランナ収容室9は、クラウン22とバンド23との間に形成されて羽根21が配置される流路91と、クラウン22と第1のカバー3との間に形成された第1の背圧室92と、流路91と第1の背圧室92とを連通する第1の連通路93と、バンド23と第2のカバー4との間に形成された第2の背圧室94と、流路91と第2の背圧室94とを連通する第2の連通路95とを含む。第1の連通路93および第2の連通路95のうちいずれか一方の流路断面積は、他方の流路断面積よりも大きい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線を中心に回転するランナと、
前記ランナに対して前記軸線の軸方向の一方に配置された第1のカバーと、
前記ランナに対して前記軸線の軸方向の他方に配置された第2のカバーと、
を備える水力機械であって、
前記第1のカバーと前記第2のカバーとの間には、前記ランナを収容するランナ収容室が形成されており、
前記ランナは、
複数の羽根と、
前記羽根に対して前記軸線の軸方向の一方に配置されたクラウンと、
前記羽根に対して前記軸線の軸方向の他方に配置されたバンドと、
を備え、
前記ランナ収容室は、
前記クラウンと前記バンドとの間に形成されて前記羽根が配置される流路と、
前記クラウンと前記第1のカバーとの間に形成された第1の背圧室と、
前記流路と前記第1の背圧室とを連通する第1の連通路と、
前記バンドと前記第2のカバーとの間に形成された第2の背圧室と、
前記流路と前記第2の背圧室とを連通する第2の連通路と、
を含み、
前記第1の連通路および前記第2の連通路のうちいずれか一方の流路断面積は、他方の流路断面積よりも大きいことを特徴とする水力機械。
【請求項2】
前記第1の連通路および前記第2の連通路は、環状の流路であり、
前記第1の連通路および前記第2の連通路のうちいずれか一方の内壁には、内向きに突出するリブが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の水力機械。
【請求項3】
前記リブは、互いに間隔を空けて複数配置されていることを特徴とする請求項2に記載の水力機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランナを備える水力機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ランナを備える水力機械が知られている。このような水力機械は、特許文献1に開示されているように、水力機械よりも上流に設けられた給水源から導水管を通って水が流入するケーシングと、ケーシングとランナとの間に回転可能に配置されて回転して開度を変えることによりランナに流入する水の流量を調整するガイドベーンとを備える。ランナは、クラウンと、クラウンと離れて配置されたバンドと、クラウンとバンドとの間に配置された複数の羽根とを備える。
【0003】
地震、雷などによって水力機械の負荷遮断が発生したときに、ガイドベーンの開度が小さくなることでランナへの水の流量が徐々に少なくなり、最終的にガイドベーンが全閉することでランナへの水の流れが止まることによって過渡現象が起こり、ケーシング内の水圧が上昇することが知られている。一般的に、このケーシング内の水圧の上昇はランナの回転の加速過程で発生し、水撃による過渡現象は数秒でケーシング内の水圧が変動する比較的緩やかな現象である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、水力機械の中には、ガイドベーンの開度が小さくてランナへの水の流量が少ない運転条件において、ランナの回転速度とランナへの水の流量との関係を表す特性曲線がS字形状となる、所謂S字特性を持つ水力機械が存在する。このようなS字特性と呼ばれる不安定特性を持つ水力機械においては、水撃による水圧変動以外に、比較的短い時間間隔でスパイク状の水圧変動が発生する。そのため、水力機械の負荷遮断時に、ガイドベーンの開度が小さくてランナへの水の流量が少ない運転条件になると、流量の急変による激しい水圧変動がケーシング内に発生する。
【0006】
また、S字特性を持つ水力機械においては、ランナの同一回転速度に対して複数の流量条件が定まる運転特性が存在するため、水力機械の起動時、停止時、低出力運転時等において運転条件が一点に定まらず、水力機械の全体システムに不安定な状況を引き起こす場合がある。そのため、水力機械のS字特性の発生を抑制したいという要望があった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、S字特性の発生を抑制することができる水力機械を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ガイドベーンとランナとの間に対称性を持つ双子渦が現れて、ランナからガイドベーンへ向かう逆流が発生することによって、水力機械のS字特性が発生することを見出した。そこで、水の流れの対称性を崩すことで対称性を持つ双子渦の発生を抑えて、ランナからガイドベーンへ向かう逆流の発生を抑制することにより、水力機械のS字特性の発生を抑制することができる本発明を完成するに至った。
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る水力機械は、軸線を中心に回転するランナと、ランナに対して軸線の軸方向の一方に配置された第1のカバーと、ランナに対して軸線の軸方向の他方に配置された第2のカバーと、を備える水力機械である。第1のカバーと第2のカバーとの間には、ランナを収容するランナ収容室が形成されている。ランナは、複数の羽根と、羽根に対して軸線の軸方向の一方に配置されたクラウンと、羽根に対して軸線の軸方向の他方に配置されたバンドと、を備える。ランナ収容室は、クラウンとバンドとの間に形成されて羽根が配置される流路と、クラウンと第1のカバーとの間に形成された第1の背圧室と、流路と第1の背圧室とを連通する第1の連通路と、バンドと第2のカバーとの間に形成された第2の背圧室と、流路と第2の背圧室とを連通する第2の連通路と、を含む。第1の連通路および第2の連通路のうちいずれか一方の流路断面積は、他方の流路断面積よりも大きい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る水力機械では、S字特性の発生を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例1に係る水力機械を示す断面図
【
図2】本発明の実施例1に係る水力機械のクラウン、第1のカバー、第1の背圧室および第1の連通路を示す断面斜視図であって、クラウン、第1のカバー、第1の背圧室および第1の連通路を軸方向に沿って半分に切った状態を示す図
【
図4】比較例に係るクラウン、第1のカバー、第1の背圧室および第1の連通路を示す断面斜視図であって、クラウン、第1のカバー、第1の背圧室および第1の連通路を軸方向に沿って半分に切った状態を示す図
【
図5】本発明の実施例2に係る水力機械を示す断面図
【
図6】本発明の実施例3に係る水力機械のクラウン、第1のカバー、第1の背圧室および第1の連通路を示す断面斜視図であって、クラウン、第1のカバー、第1の背圧室および第1の連通路を軸方向に沿って半分に切った状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係る水力機械の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。以下の実施例では、水力機械がフランシス水車である場合を例にして説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例0013】
図1は、本発明の実施例1に係る水力機械1を示す断面図である。
図2は、本発明の実施例1に係る水力機械1のクラウン22、第1のカバー3、第1の背圧室92および第1の連通路93を示す断面斜視図であって、クラウン22、第1のカバー3、第1の背圧室92および第1の連通路93を軸方向に沿って半分に切った状態を示す図である。
図1に示すように、水力機械1は、ランナ2と、第1のカバー3と、第2のカバー4と、主軸5と、ケーシング6と、ガイドベーン7と、吸出管8とを備える。以下、水力機械1の各構成要素について方向を説明するときには、ランナ2の軸線Cと平行な方向を軸方向、ランナ2の軸線Cと直交する方向を径方向、ランナ2の軸線Cを中心とする回転方向を周方向とする。本実施例に係る水力機械1は、ランナ2の軸線Cの軸方向と鉛直方向(上下方向)とが一致する縦軸型の水力機械であるが、ランナ2の軸線Cの軸方向と水平方向とが一致する横軸型の水力機械でもよい。なお、
図1の矢印Xは、水の主流方向を示している。
【0014】
第1のカバー3と第2のカバー4との間には、ランナ2を収容する環状のランナ収容室9が形成されている。ランナ収容室9の径方向外側には、中空形状のケーシング6が配置されている。ケーシング6内には、ケーシング6内の水の流れを整流するステーベーン61が設けられている。ランナ収容室9とケーシング6とを連通する流路には、ランナ2に流入する水の流量を調整するガイドベーン7が配置されている。ガイドベーン7の開度が大きいほどランナ2に流入する水の流量が多くなり、ガイドベーン7の開度が小さいほどランナ2に流入する水の流量が少なくなる。ランナ収容室9の下流側の開口には、円筒形状の吸出管8が接続されている。
【0015】
ランナ2は、ケーシング6から流入する水によって軸線Cを中心に回転する。ランナ2は、ケーシング6からランナ2に流入する水の圧力エネルギーを回転エネルギーに変換する。ランナ2には、主軸5が連結されている。主軸5は、図示しない発電機の回転子に回転エネルギーを伝達する。矢印Xに示すように水が、ケーシング6からガイドベーン7およびランナ2を経て吸出管8に向かって流れて、ランナ2および主軸5が回転する。ランナ2および主軸5が回転することによって、発電機の回転子を回転させて発電することができる。
【0016】
第1のカバー3、第2のカバー4、ランナ2およびランナ収容室9についてさらに詳しく説明する。第1のカバー3は、ランナ2に対して軸線Cの軸方向の一方に配置されている。第1のカバー3は、本実施例ではランナ2の上方に配置されている。
【0017】
第2のカバー4は、ランナ2に対して軸線Cの軸方向の他方に配置されている。第2のカバー4は、本実施例ではランナ2の下方に配置されている。第1のカバー3と第2のカバー4とは、軸方向に互いに間隔を空けて配置されている。
【0018】
ランナ2は、複数の羽根21と、羽根21に対して軸線Cの軸方向の一方に配置されたクラウン22と、羽根21に対して軸線Cの軸方向の他方に配置されたバンド23とを備える。複数の羽根21は、クラウン22とバンド23とにそれぞれ連結されている。図示は省略するが、複数の羽根21は、周方向に互いに等角度離隔して配置されている。
【0019】
クラウン22は、主軸5に連結されている。クラウン22は、円板状に形成されている。クラウン22は、本実施例では第1のカバー3の下方に配置されている。第1のカバー3の一部は、クラウン22の径方向外側に位置している。
【0020】
クラウン22とバンド23とは、軸方向に互いに間隔を空けて配置されている。バンド23は、円筒形状に形成されている。バンド23は、本実施例では第2のカバー4の上方に配置されている。第2のカバー4の一部は、バンド23の径方向外側に位置している。
【0021】
ランナ収容室9は、クラウン22とバンド23との間に形成されて羽根21が配置される流路91と、クラウン22と第1のカバー3との間に形成された第1の背圧室92と、流路91と第1の背圧室92とを連通する第1の連通路93とを含んでいる。また、ランナ収容室9は、バンド23と第2のカバー4との間に形成された第2の背圧室94と、流路91と第2の背圧室94とを連通する第2の連通路95とを含んでいる。
【0022】
ガイドベーン7を通過した水の多くは、流路91、羽根21、吸出管8の順に通過する。ガイドベーン7を通過した水の一部は、第1の連通路93を通過して、第1の背圧室92に流入する。また、ガイドベーン7を通過した水の一部は、第2の連通路95を通過して、第2の背圧室94に流入する。なお、第1の背圧室92に流入した水は、クラウン22に設けられた図示しない排出孔を通過して、吸出管8に導かれるようになっている。また、第2の背圧室94に流入した水は、排出路96を通過して、吸出管8に導かれるようになっている。
【0023】
流路91は、周方向に延びる環状の流路である。流路91の下流側の開口は、吸出管8に連通している。
【0024】
第1の背圧室92は、クラウン22を挟んで流路91に対して軸線Cの軸方向の一方(本実施例では上方)に設けられている。第1の連通路93は、流路91の上流側に連通している。
図2に示すように、第1の背圧室92は、周方向に延びる環状の空間である。第1の連通路93は、周方向に延びる環状の流路である。第1の連通路93は、クラウン22の外周面と第1のカバー3の内周面との間に形成された隙間である。
【0025】
図1に示すように、第2の背圧室94は、バンド23を挟んで流路91に対して軸線Cの軸方向の他方(本実施例では下方)に設けられている。第2の連通路95は、流路91の上流側に連通している。第2の背圧室94は、周方向に延びる環状の空間である。第2の連通路95は、周方向に延びる環状の流路である。第2の連通路95は、バンド23の外周面と第2のカバー4の内周面との間に形成された隙間である。
【0026】
第1の連通路93の流路断面積は、第2の連通路95の流路断面積よりも大きい。つまり、第1の連通路93は、第2の連通路95よりも広い流路になっている。逆に言うと、第2の連通路95は、第1の連通路93よりも狭い流路になっている。これにより、水は、第1の連通路93に流入しやすくなり、第2の連通路95に流入しにくくなる。
【0027】
次に、
図1から
図4を参照して、実施例1に係る水力機械1の効果について説明する。
図3は、比較例に係る水力機械1Cを示す断面図である。
図4は、比較例に係るクラウン22、第1のカバー3、第1の背圧室92および第1の連通路93を示す断面斜視図であって、クラウン22、第1のカバー3、第1の背圧室92および第1の連通路93を軸方向に沿って半分に切った状態を示す図である。
【0028】
図3に示すように、比較例に係る水力機械1Cでは、第1の連通路93の流路断面積と第2の連通路95の流路断面積とが同じである。このような水力機械1Cでは、ランナ収容室9における水の流れが対称性を持つ。一般論として、ランナ2の回転速度が速くなり、ランナ2への水の流量が少なくなるにつれて、ランナ2の出力がゼロとなる無拘束速度条件が発生する。さらに、ランナ2への水の流量が減少してゼロに近づくと、ランナ2の出力がマイナスとなる。このマイナスの出力は、ランナ2が水に対して回転エネルギー(運動エネルギー)を付加するポンプ運転を意味する。このようなポンプ運転状態が生じると、水力機械1Cでは、第1の連通路93と第2の連通路95とで水の流入量が同じでありランナ収容室9における水の流れが対称性を持つため、ガイドベーン7とランナ2との間に対称性を持つ双子渦10が発生する。双子渦10となる水の一部は、第1の連通路93を通って第1の背圧室92に流入するとともに、第2の連通路95を通って第2の背圧室94に流入する。
【0029】
双子渦10を構成する一方の渦11と他方の渦12とは、流路91の軸線Dを挟んで対称である。軸線Dを挟んだクラウン22側に現れる一方の渦11の流れは、クラウン22側でガイドベーン7からランナ2へ向かう順流11aであり、クラウン22とバンド23との間の中間領域(流路91の中心部)でランナ2からガイドベーン7へ向かう逆流11bである。また、軸線Dを挟んだバンド23側に現れる他方の渦12の流れは、バンド23側でガイドベーン7からランナ2へ向かう順流12aであり、クラウン22とバンド23との間の中間領域(流路91の中心部)でランナ2からガイドベーン7へ向かう逆流12bである。逆流11b,12bは、ランナ2によって付加された回転エネルギーを持っているため、全ヘッドの上昇をもたらし、水力機械1のS字特性が発生する。
【0030】
この点、本実施例では、
図1に示すように、第1の連通路93の流路断面積は、第2の連通路95の流路断面積よりも大きいことにより、第1の連通路93と第2の連通路95とで水の流入量が異なり、ランナ収容室9における水の流れの対称性が崩れる。そのため、
図3に示される対称性を持つ双子渦10の発生を抑えて、ランナ2からガイドベーン7へ向かう逆流11b,12bの発生を抑制することができる。したがって、水力機械1のS字特性の発生を抑制することができる。これにより、水力機械1の起動停止時等における全体システムの安定性を確保することができるとともに、水力機械1の負荷遮断時に激しい水圧変動がケーシング6内に発生することを抑制できる。