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特開2022-77918貫通孔形成方法及び貫通孔を備える物品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022077918
(43)【公開日】2022-05-24
(54)【発明の名称】貫通孔形成方法及び貫通孔を備える物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 15/00 20060101AFI20220517BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20220517BHJP
   C03C 23/00 20060101ALI20220517BHJP
   H01L 23/15 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
C03C15/00 Z
B23K26/53
C03C23/00 D
H01L23/14 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020188993
(22)【出願日】2020-11-12
(71)【出願人】
【識別番号】518212241
【氏名又は名称】公立大学法人公立諏訪東京理科大学
(71)【出願人】
【識別番号】510025762
【氏名又は名称】株式会社ニチワ工業
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】橋元 伸晃
(72)【発明者】
【氏名】中澤 尊史
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 篤
(72)【発明者】
【氏名】林 隆雄
【テーマコード(参考)】
4E168
4G059
【Fターム(参考)】
4E168AE01
4E168DA02
4E168DA24
4E168DA32
4E168DA42
4E168DA45
4E168DA46
4E168DA47
4E168EA13
4E168JA14
4G059AA01
4G059AB11
4G059AC01
4G059BB14
(57)【要約】
【課題】被加工部材としての物品をエッチングする際には、改質層の形成時に生じるクラックの影響が抑制されたエッチングを可能として、所望とする円形の開口を有する貫通孔を形成することができる貫通孔形成方法を提供する。
【解決手段】超短パルスレーザー光を集光レンズを介して前記物品の前記貫通孔形成位置に照射することによって前記物品の一方の面から他方の面に達する改質層を形成する改質層形成工程(ステップST1)と、改質層が形成される際に改質層に沿って多段に生じたクラックを熱処理によって溶着させる熱処理工程(ステップST2)と、熱処理工程によってクラックが溶着された状態の物品をエッチングして、貫通孔形成位置に貫通孔を形成するエッチング工程(ステップST3)と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工部材としての物品の貫通孔形成位置に改質層を形成したのちに、当該改質層が形成された前記物品をエッチングして前記貫通孔形成位置に貫通孔を形成する貫通孔形成方法であって、
超短パルスレーザー光を集光レンズを介して前記物品の前記貫通孔形成位置に照射することによって前記物品の一方の面から他方の面に達する改質層を形成する改質層形成工程と、
前記改質層が形成される際に前記改質層に沿って多段に生じたクラックを熱処理によって溶着させる熱処理工程と、
前記熱処理工程によって前記クラックが溶着された状態の前記物品をエッチングして、前記貫通孔形成位置に前記貫通孔を形成するエッチング工程と、
を有することを特徴とする貫通孔形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の貫通孔形成方法において、
前記物品は、板状のガラス基板であることを特徴とする貫通孔形成方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の貫通孔形成方法において、
前記超短パルスレーザー光は、フェムト秒パルスレーザー光又はピコ秒パルスレーザー光であることを特徴とする貫通孔形成方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の貫通孔形成方法において、
前記熱処理工程には、
前記改質層に沿って多段に生じたクラックを包含できる範囲を前記物品における熱処理範囲として設定する工程と、
前記熱処理範囲を照射範囲として前記クラックの溶着が可能なエネルギーを有する第2レーザー光を前記物品の一方の面から他方の面までの間に集光させて照射し、前記改質層に沿って多段に生じたクラックを、前記物品の一方の面から他方の面までの間において溶着させる工程と、
が含まれており、
前記エッチング工程は、
前記改質層に沿って多段に生じたクラックが前記物品の一方の面から他方の面までの間において溶着された前記物品を所定のエッチング量でエッチングすることを特徴とする貫通孔形成方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれかにに記載の貫通孔形成方法において、
前記熱処理工程には、
前記改質層に沿って多段に生じたクラックを包含できる範囲を前記物品における熱処理範囲として設定する工程と、
当該熱処理範囲を照射範囲として前記クラックの溶着が可能なエネルギーを有する第2レーザー光を、前記物品の一方の面から第1熱処理深さまでの間に集光させて照射し、前記改質層に沿って多段に生じたクラックのうちの前記一方の面から前記第1熱処理深さまでの間に存在する前記クラックを溶着させて第1溶着層を形成する工程と、
前記熱処理範囲を照射範囲として前記クラックの溶着が可能なエネルギーを有する第2レーザー光を、前記物品の他方の面から前記第1溶着層に達しない第2熱処理深さまでの間に集光させて照射し、前記改質層に沿って多段に生じたクラックのうちの前記他方の面から前記第2熱処理深さまでの間に存在する前記クラックを溶着させて第2溶着層を形成する工程と、
が含まれており、
前記エッチング工程は、
前記第1溶着層及び前記第2溶着層が形成された前記物品の前記一方の面から前記第1熱処理深さに達しない所定深さ、及び、前記他方の面から前記第2熱処理深さに達しない所定深さをそれぞれエッチング可能なエッチング量で前記物品をエッチングすることを特徴とする貫通孔形成方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の貫通孔形成方法において、
前記クラックの溶着が可能なエネルギーを有する第2レーザー光は、ナノ秒パルスレーザー光であることを特徴とする貫通孔形成方法。
【請求項7】
請求項4~6のいずれかに記載の貫通孔形成方法において、
前記エネルギーは、パルス幅及び/又は印加エネルギーでコントロールされることを特徴とする貫通孔形成方法。
【請求項8】
請求項1~3のいずれかに記載の貫通孔形成方法において、
前記熱処理工程は、溶着炉により、前記物品の歪点又は軟化点以上の温度でアニール処理して前記クラックを溶着させ、
前記エッチング工程は、
前記改質層に沿って多段に生じたクラックが前記物品の一方の面から他方の面までの間において溶着された前記物品を所定のエッチング量でエッチングすることを特徴とする貫通孔形成方法。
【請求項9】
被加工部材としての物品の貫通孔形成位置に改質層を形成したのちに、当該改質層が形成された前記物品をエッチングして前記貫通孔形成位置に貫通孔を形成する貫通孔形成方法であって、
超短パルスレーザー光を前記物品の前記貫通孔形成位置に照射するレンズとしてアキシコンレンズを用い、当該アキシコンレンズにより形成されるベッセルビームのセントラルローブを前記貫通孔形成位置に集光させるとともに、前記ベッセルビームのサイドローブを前記貫通孔形成位置の外周領域に集光させて、前記セントラルローブによって前記物品の一方の面から他方の面までの間に改質層を形成するとともに、前記サイドローブによって、前記セントラルローブによる改質層の形成時にクラックの発生を抑制するための第2改質層を前記貫通孔形成位置の外周領域に形成する改質層形成工程と、
前記改質層形成工程によって前記改質層の形成がなされるとともに、前記クラックの発生を抑制するための第2改質層が前記貫通孔形成位置の外周領域に形成された前物品をエッチングして、前記貫通孔形成位置に前記貫通孔を形成するエッチング工程と、
を有することを特徴とする貫通孔形成方法。
【請求項10】
被加工部材としての物品の貫通孔形成位置に改質層を形成したのちに、当該改質層が形成された前記物品をエッチングして前記貫通孔形成位置に貫通孔を形成することによって貫通孔を備える物品を製造するための貫通孔を備える物品の製造方法であって、
超短パルスレーザー光を集光レンズを介して前記物品の貫通孔形成位置に照射することによって前記物品の一方の面から他方の面に達する改質層を形成する改質層形成工程と、
前記改質層が形成される際に前記改質層に沿って多段に生じたクラックを熱処理によって溶着させる熱処理工程と、
前記熱処理工程によって前記クラックが溶着された状態の前記物品をエッチングして、前記貫通孔形成位置に前記貫通孔を形成するエッチング工程と、
を有することを特徴とする貫通孔を備える物品の製造方法。
【請求項11】
被加工部材としての物品の貫通孔形成位置に改質層を形成したのちに、当該改質層が形成された前記物品をエッチングして前記貫通孔形成位置に貫通孔を形成することによって貫通孔を備える物品を製造するための貫通孔を備える物品の製造方法であって、
超短パルスレーザー光を前記物品の前記貫通孔形成位置に照射するレンズとしてアキシコンレンズを用い、当該アキシコンレンズにより形成されるベッセルビームのセントラルローブを前記貫通孔形成位置に集光させるとともに、前記ベッセルビームのサイドローブを前記貫通孔形成位置の外周領域に集光させて、前記セントラルローブによって前記物品の一方の面から他方の面までの間に改質層を形成するとともに、前記サイドローブによって、前記セントラルローブによる改質層の形成時にクラックの発生を抑制するための第2改質層を前記貫通孔形成位置の外周領域に形成する改質層形成工程と、
前記改質層形成工程によって前記改質層の形成がなされるとともに、前記クラックの発生を抑制するための第2改質層が前記貫通孔形成位置の外周領域に形成された前物品をエッチングして、前記貫通孔形成位置に前記貫通孔を形成するエッチング工程と、
を有することを特徴とする貫通孔を備える物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工部材としての物品に貫通孔を形成する貫通孔形成方法及び貫通孔を備える物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
板状基板の表面及び裏面に形成されている配線パターンの導通をとるための貫通電極が形成されているインターポーザーは、電子部品を高密度で実装可能であることから、電子機器において広く使用されている。インターポーザーの材料としては、ガラス、エポキシ樹脂、シリコンなどを例示できるが、これらの中でも、特に、ガラスは高周波特性に優れ、また、平面度が高い、反りが少ない、大面積での加工が可能、安価に大量生産が可能といった利点があることに加え、配線パターンを形成するためのフォトリソグラフィ技術も確立されていることからインターポーザーとして優れた材料であるとされている。
【0003】
ガラスを用いてインターポーザーを作成するには、平板状のガラス基板に例えば150μm以下といった微細な貫通孔(TGV:Through Glass Vias)を多数形成する必要がある。このような貫通孔を形成するにはレーザー光を使用することが一般であり、従来、様々な技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
特許文献1に記載されている貫通孔形成方法は、ピコ秒からナノ秒といったパルス幅を有するパルスレーザー光をガラス基板に照射することにより、局所的な破壊を生じさせてフィラメント状のチャネル(改質層と考えられる。)を形成し、その後、フィラメント状のチャネルの箇所を、対をなす電極で挟んで、当該対をなす電極に高電圧を印加することによって、当該フィラメント状のチャネルを所望とする孔径まで拡大する。ここで、対をなす電極は、例えば、3個の上側電極と3個の下側電極によって構成されており、上側電極のうちの1つの電極と下側電極のうちの1つの電極が必ず対をなすようにして、3個の上側電極と3個の下側電極が輪番でオンするようになっている。
【0005】
特許文献1に記載の貫通孔形成方法においては、フィラメント状のチャネル(改質層)を所望とする孔径に拡大させるための装置として、複数対の電極と、当該複数の電極を制御する制御装置とを必要とし、上述したように、上側電極のうちの1つの電極と下側電極のうちの1つの電極が必ず対をなすようにして、3個の上側電極と3個の下側電極が輪番でオンさせるといった電気的な制御を行う必要がある。また、加工対象となるガラス基板を上側電極と下側電極との間に1枚1枚セットする必要があることから大量生産向きとはいえない。
【0006】
ところで、特許文献1に記載の孔形成方法においては、ピコ秒からナノ秒といったパルス持続時間(パルス幅)を有するパルスレーザー光を用いて改質層を形成するようにしているが、パルスレーザー光の照射により発生する熱をより一層抑制するためには、さらに短いパルス幅を有するパルスレーザー光(例えば、フェムト秒パルスレーザー光)を用いることが好ましい。
【0007】
フェムト秒パルスレーザー光はピコ秒パルスレーザー光とともに超短パルスレーザー光と呼ばれており、物品に対して熱によるダメージを与えにくくすることができる。このような超短パルスレーザー光を用いて、物品として例えばガラス基板に改質層を形成すると、短時間で改質層の形成が可能となることから、ガラス基板に与える熱の影響を抑制できる。その一方で、大きなエネルギーが短時間に与えられることによるストレスによって、改質層に沿ってクラック(crack)が多段に生じてしまうといった課題もある。
【0008】
また、改質層が形成されている箇所に所望とする孔を形成する手段としては特許文献1に記載されている孔形成方法のように、対をなす電極に高電圧を印加するといった方法も一例ではあるが、より、簡素な方法でかつ大量生産が可能な方法として、フッ酸(フッ酸を含む酸)によるエッチングを採用することがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2013-534868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、ガラス基板をフッ酸によるエッチングによって貫通孔を形成しようとすると、フッ酸がクラック内に浸み込んでしまい、エッチングによって形成される貫通孔の開口の平面形状が円形とならない場合もあるといった課題が生じる。なお、以下の説明において、貫通孔の開口の平面形状を説明する場合には、例えば、「貫通孔の開口が円形」というように「平面形状」を省略して表記する。
【0011】
図10は、改質層20に沿ってクラックCrが多段に生じているガラス基板10に貫通孔30を形成する例を説明する図である。図10(a)は改質層20に沿ってクラックCrが多段に生じているガラス基板10の一方の面10a(表面10aと表記する場合もある。)を写真で示す図である。当該図10(a)は改質層20に沿って多段に生じているクラックCrを合成して示している。また、図10(b)は図10(a)のa-a矢視断面を写真で示す図であり、図10(c)は図10(b)を模式的に示す図であり、図10(d)は図10(a)及び図10(b)のガラス基板10をフッ酸でエッチングした場合に形成される貫通孔(TGV)30の開口を模式的に示す図である。なお、図10においては、1つの改質層20のみが示されているが、インターポーザーの場合には、多数の改質層20が近接した状態で形成されている。
【0012】
改質層20にクラックCrが多段に生じているガラス基板10(図10(a)、図10(b)及び図10(c)参照。)をフッ酸によってエッチングすると、毛細管現象によってフッ酸がクラックCr内に素早く浸み込んでしまい、エッチングによって形成される貫通孔の開口が円形とはならず、楕円形となったり、歪んだループ形状となったりしてしまう。
【0013】
図10(d)において、破線で示す貫通孔30は、改質層20に対応した所望とする円形の開口を有する貫通孔を示しており、実線で示す貫通孔30’は、開口が楕円形となっている貫通孔を示している。この場合、開口が楕円形となっている貫通孔30’の開口のサイズは、所望とする円形の開口を有する貫通孔30の開口のサイズよりも大きくなってしまうこととなる。
【0014】
図11は、開口が楕円形となっている貫通孔30’が形成されている状態で配線パターンを形成した場合の問題を説明するために示す図である。図11(a)は所望とする円形の開口を有する貫通孔30(貫通孔31,32とする。)にランドR1,R2が形成されているガラス基板10の表面10a側の平面図であり、図11(b)は図11(a)のb-b矢視断面である。また、図11(c)は開口が楕円形となっている2つの貫通孔30’(貫通孔31’,32’とする。)の開口にランドR1’,R2’が形成されているガラス基板10における表面10a側の平面図である。
【0015】
図11(c)に示すように、開口が楕円形となっている貫通孔31’,32’の開口のサイズが、所望とする円形の開口を有する貫通孔31,32(図11(a)参照。)の開口のサイズよりも大きいと、配線パターンPを形成した場合においては、開口が楕円形となっている貫通孔31’,32’の開口に形成されるランドR1’,R2’は、所望とする円形の開口を有する貫通孔31,32の開口に形成されるランドR1,R2よりも大きくならざるを得ない。このため、配線パターンPが密の状態で配設されている場合においては、ランドR1’,R2’と近隣の配線パターンPとに短絡部Sが生じてしまうといった問題が生じる(図11(c)参照。)。また、図示しないが、多数のランドが密に配設されている場合にも、隣り合うランド同士に短絡部が生じてしまうといった問題が生じる。
【0016】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、超短パルスレーザー光により被加工部材としての物品に改質層を形成したのちにエッチングして貫通孔を形成する貫通孔形成方法において、エッチングする際には、改質層の形成時に生じるクラックの影響が抑制されたエッチングを可能として、所望とする円形の開口を有する貫通孔を形成することができる貫通孔形成方法を提供することを目的とするとともに、所望とする円形の開口を有する貫通孔が形成された物品を製造することができる貫通孔を備える物品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
[1]本発明の貫通孔形成方法は、被加工部材としての物品の貫通孔形成位置に改質層を形成したのちに、当該改質層が形成された前記物品をエッチングして前記貫通孔形成位置に貫通孔を形成する貫通孔形成方法であって、超短パルスレーザー光を集光レンズを介して前記物品の前記貫通孔形成位置に照射することによって前記物品の一方の面から他方の面に達する改質層を形成する改質層形成工程と、前記改質層が形成される際に前記改質層に沿って多段に生じたクラックを熱処理によって溶着させる熱処理工程と、前記熱処理工程によって前記クラックが溶着された状態の前記物品をエッチングして、前記貫通孔形成位置に前記貫通孔を形成するエッチング工程と、を有することを特徴とする。
【0018】
[2]本発明の貫通孔形成方法においては、前記物品は、板状のガラス基板であることが好ましい。
【0019】
[3]本発明の貫通孔形成方法においては、前記超短パルスレーザー光は、フェムト秒パルスレーザー光又はピコ秒パルスレーザー光であることが好ましい。
【0020】
[4]本発明の貫通孔形成方法において、前記熱処理工程には、前記改質層に沿って多段に生じたクラックを包含できる範囲を前記物品における熱処理範囲として設定する工程と、前記熱処理範囲を照射範囲として前記クラックの溶着が可能なエネルギーを有する第2レーザー光を前記物品の一方の面から他方の面までの間に集光させて照射し、前記改質層に沿って多段に生じたクラックを、前記物品の一方の面から他方の面までの間において溶着させる工程と、が含まれており、前記エッチング工程は、前記改質層に沿って多段に生じたクラックが前記物品の一方の面から他方の面までの間において溶着された前記物品を所定のエッチング量でエッチングすることが好ましい。
【0021】
[5]本発明の貫通孔形成方法においては、前記熱処理工程には、前記改質層に沿って多段に生じたクラックを包含できる範囲を前記物品における熱処理範囲として設定する工程と、当該熱処理範囲を照射範囲として前記クラックの溶着が可能なエネルギーを有する第2レーザー光を、前記物品の一方の面から第1熱処理深さまでの間に集光させて照射し、前記改質層に沿って多段に生じたクラックのうちの前記一方の面から前記第1熱処理深さまでの間に存在する前記クラックを溶着させて第1溶着層を形成する工程と、前記熱処理範囲を照射範囲として前記クラックの溶着が可能なエネルギーを有する第2レーザー光を、前記物品の他方の面から前記第1溶着層に達しない第2熱処理深さまでの間に集光させて照射し、前記改質層に沿って多段に生じたクラックのうちの前記他方の面から前記第2熱処理深さまでの間に存在する前記クラックを溶着させて第2溶着層を形成する工程と、が含まれており、前記エッチング工程は、前記第1溶着層及び前記第2溶着層が形成された前記物品の前記一方の面から前記第1熱処理深さに達しない所定深さ、及び、前記他方の面から前記第2熱処理深さに達しない所定深さをそれぞれエッチング可能なエッチング量で前記物品をエッチングすることも好ましい。
【0022】
[6]本発明の貫通孔形成方法においては、前記クラックの溶着が可能なエネルギーを有する第2レーザー光は、ナノ秒パルスレーザー光であることが好ましい。
【0023】
[7]本発明の貫通孔形成方法においては、前記エネルギーは、パルス幅及び/又は印加エネルギーでコントロールされることが好ましい。
【0024】
[8]本発明の貫通孔形成方法は、前記熱処理工程は、溶着炉により、前記物品の歪点又は軟化点以上の温度でアニール処理して前記クラックを溶着させることも好ましい。
【0025】
[9]本発明の貫通孔形成方法は、被加工部材としての物品の貫通孔形成位置に改質層を形成したのちに、当該改質層が形成された前記物品をエッチングして前記貫通孔形成位置に貫通孔を形成する貫通孔形成方法であって、超短パルスレーザー光を前記物品の前記貫通孔形成位置に照射するレンズとしてアキシコンレンズを用い、当該アキシコンレンズにより形成されるベッセルビームのセントラルローブを前記貫通孔形成位置に集光させるとともに、前記ベッセルビームのサイドローブを前記貫通孔形成位置の外周領域に集光させて、前記セントラルローブによって前記物品の一方の面から他方の面までの間に改質層を形成するとともに、前記サイドローブによって、前記セントラルローブによる改質層の形成時にクラックの発生を抑制するための第2改質層を前記貫通孔形成位置の外周領域に形成する改質層形成工程と、前記改質層形成工程によって前記改質層の形成がなされるとともに、前記クラックの発生を抑制するための第2改質層が前記貫通孔形成位置の外周領域に形成された前物品をエッチングして、前記貫通孔形成位置に前記貫通孔を形成するエッチング工程と、を有することを特徴とする。
【0026】
なお、当該[9]に記載の本発明の貫通孔形成方法においても、上述の[2]及び[3]に記載の各特徴を有することが好ましい。
【0027】
[10]本発明の貫通孔を備える物品の製造方法は、被加工部材としての物品の貫通孔形成位置に改質層を形成したのちに、当該改質層が形成された前記物品をエッチングして前記貫通孔形成位置に貫通孔を形成することによって貫通孔を備える物品を製造するための貫通孔を備える物品の製造方法であって、超短パルスレーザー光を集光レンズを介して前記物品の貫通孔形成位置に照射することによって前記物品の一方の面から他方の面に達する改質層を形成する改質層形成工程と、前記改質層が形成される際に前記改質層に沿って多段に生じたクラックを熱処理によって溶着させる熱処理工程と、前記熱処理工程によって前記クラックが溶着された状態の前記物品をエッチングして、前記貫通孔形成位置に前記貫通孔を形成するエッチング工程と、を有することを特徴とする。
【0028】
なお、当該[10]に記載の本発明の貫通孔を備える物品の製造方法においても、上述の[2]~[8]に記載の各特徴を有することが好ましい。
【0029】
[11]本発明の貫通孔を備える物品の製造方法は、被加工部材としての物品の貫通孔形成位置に改質層を形成したのちに、当該改質層が形成された前記物品をエッチングして前記貫通孔形成位置に貫通孔を形成することによって貫通孔を備える物品を製造するための貫通孔を備える物品の製造方法であって、超短パルスレーザー光を前記物品の前記貫通孔形成位置に照射するレンズとしてアキシコンレンズを用い、当該アキシコンレンズにより形成されるベッセルビームのセントラルローブを前記貫通孔形成位置に集光させるとともに、前記ベッセルビームのサイドローブを前記貫通孔形成位置の外周領域に集光させて、前記セントラルローブによって前記物品の一方の面から他方の面までの間に改質層を形成するとともに、前記サイドローブによって、前記セントラルローブによる改質層の形成時にクラックの発生を抑制するための第2改質層を前記貫通孔形成位置の外周領域に形成する改質層形成工程と、前記改質層形成工程によって前記改質層の形成がなされるとともに、前記クラックの発生を抑制するための第2改質層が前記貫通孔形成位置の外周領域に形成された前物品をエッチングして、前記貫通孔形成位置に前記貫通孔を形成するエッチング工程と、を有することを特徴とする。
【0030】
なお、当該[11]に記載の本発明の貫通孔を備える物品の製造方法においても、上述の[2]及び[3]に記載の各特徴を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明の貫通孔形成方法([1] ]に記載の貫通孔形成方法)は、超短パルスレーザー光によって改質層を形成する際に、改質層に沿って多段に発生したクラックを熱処理により溶着させたのちにエッチングして貫通孔を形成するようにしている。これにより、 [1] に記載の貫通孔形成方法によれば、被加工部材としての物品をエッチングする際には、改質層の形成時に生じるクラックの影響が抑制されたエッチングがなされるため、所望とする円形の開口を有する貫通孔を形成することができる。
【0032】
また、本発明の貫通孔形成方法([9] ]に記載の貫通孔形成方法)は、ベッセルビームのセントラルローブによって物品の一方の面から他方の面までの間に改質層を形成するとともに、サイドローブによって、クラックの発生を抑制するための第2改質層を貫通孔形成位置の外周領域に形成するようにしている。これにより、[9] に記載の貫通孔形成方法によれば、被加工部材としての物品をエッチングする際には、改質層の形成時に生じるクラックの影響が抑制されたエッチングがなされるため、所望とする円形の開口を有する貫通孔を形成することができる。
【0033】
また、本発明の貫通孔を備える物品の製造方法([10]に記載の貫通孔を備える物品の製造方法)は、超短パルスレーザー光によって改質層を形成する際に、改質層に沿って多段に発生したクラックを熱処理により溶着させたのちにエッチングして貫通孔を形成するようにしている。これにより、[10]に記載の貫通孔を備える物品の製造方法によれば、被加工部材としての物品をエッチングする際には、改質層の形成時に生じるクラックの影響が抑制されたエッチングがなされるため、所望とする円形の開口を有する貫通孔が形成された物品を製造できる。
【0034】
また、本発明の貫通孔を備える物品の製造方法([11] ]に記載の貫通孔を備える物品の製造方法)は、ベッセルビームのセントラルローブによって物品の一方の面から他方の面までの間に改質層を形成するとともに、サイドローブによって、クラックの発生を抑制するための第2改質層を貫通孔形成位置の外周領域に形成するようにしている。これにより、[11] に記載の貫通孔を備える物品の製造方法によれば、被加工部材としての物品をエッチングする際には、改質層の形成時に生じるクラックの影響が抑制されたエッチングがなされるため、所望とする円形の開口を有する貫通孔が形成された物品を製造することができる。
【0035】
このように、本発明の貫通孔形成方法及び貫通孔を備える物品の製造方法によれば、所望とする円形の開口を有する貫通孔を形成することができるため、貫通孔に配線パターンのランドを形成したときに、当該ランドが必要以上に大きなサイズとなってしまうことを防止できる。これによって、ランドと当該ランドに近接した配線パターンとの短絡及び近接したランド同士の短絡を確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】実施形態1に係る貫通孔形成方法及び実施形態1に係る貫通孔を備える物品の製造方法における各工程を説明するフローチャートである。
図2】実施形態1に係る貫通孔形成方法及び実施形態1に係る貫通孔を備える物品の製造方法においてガラス基板10に改質層を形成する際に用いられるレーザー加工装置100Aの一例を模式的に示す図である。
図3】実施形態1に係る貫通孔形成方法及び実施形態1に係る貫通孔を備える物品の製造方法における熱処理工程を説明するために示す図である。
図4】実施形態1に係る貫通孔形成方法によって形成された貫通孔30及び実施形態1に係る貫通孔を有する物品の製造方法によって製造された貫通孔30を備える物品10Aをそれぞれ説明するための図である。
図5図4に示すガラス基板10に配線パターンを形成した場合の一例を示す図である。
図6】実施形態2に係る貫通孔形成方法及び実施形態2に係る貫通孔を備える物品の製造方法を説明するために示す図である。
図7】実施形態2に係る貫通孔形成方法によって形成された貫通孔30及び実施形態2に係る貫通孔を有する物品の製造方法によって製造された貫通孔30を備える物品10Bをそれぞれ説明するための図である。
図8】アキシコンレンズについて概略的に説明するために示す図である。
図9】実施形態3に係る貫通孔形成方法及び実施形態3に係る貫通孔を備える物品の製造方法における改質層形成工程を説明するために示す図である。
図10】改質層20に沿ってクラックCrが多段に生じているガラス基板10に貫通孔30を形成する例を説明する図である。
図11】楕円形の開口を有する貫通孔30’が形成されている状態で配線パターンを形成した場合の問題を説明するために示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の各実施形態について説明する。
【0038】
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係る貫通孔形成方法及び実施形態1に係る貫通孔を備える物品の製造方法の各工程を説明するフローチャートである。
図2は、実施形態1に係る貫通孔形成方法及び実施形態1に係る貫通孔を備える物品の製造方法においてガラス基板10に改質層を形成する際に用いられるレーザー加工装置100Aの一例を模式的に示す図である。
【0039】
まず、図2に示すレーザー加工装置100Aの基本的な構成について説明する。レーザー加工装置100Aは、図2に示すように、図示しないテーブルに載置された物品としてのガラス基板10にレーザー光を照射するレーザー発振器120と、レーザー発振器120から照射されるレーザー光をガラス基板10の照射位置に導く導光光学系130とを有している。
【0040】
物品としてのガラス基板10は、平板状をなしており、図示しないテーブルによってx軸とy軸とで形成されるxy平面上で移動と、z軸に沿った移動とが可能となっている。そして、テーブルをxy平面上で移動制御することによって、ガラス基板10のxy平面上におけるレーザー光の照射位置を設定することができる。また、テーブルをz軸方向に移動制御することよってガラス基板10の厚み方向(深さ方向)におけるレーザー光の集光位置を設定することができる。
【0041】
レーザー発振器120は、超短パルスレーザー光を発振するレーザー発振器(フェムト秒パルスレーザー発振器又はピコ秒パルスレーザー発振器)であり、波長は800nm~2000nmのレーザー光を出力する。例えば、RAYDIANCE社製のRシリーズ発振器(波長1553nm、出力10w~15w、パルス幅500fsec~800fsec)、COHERENT社製のMonacoシリーズ発振器(波長1035nm、出力20w~40w、パルス幅400fsec~10psec)、TRUMPF社製のTruMicroシリーズ発振器(波長1030nm、出力10W~50W、パルス幅400fsec~20psec)などを使用することができる。ここでは、パルス幅が500fsec~800fsecのフェムト秒パルスレーザー光を使用するものとし、当該フェムト秒パルスレーザー光は、波長1552nm、ビーム径3mm~6mm、平均出力10w~15wであるとする。
【0042】
導光光学系130は、ミラー131、凸レンズなどで構成される集光レンズ132及び収差制御板133を有し、レーザー発振器120から発せられるレーザー光をミラー131で90度の角度で反射させて、90度に反射したレーザー光の光軸が集光レンズ132、収差制御板133を介してガラス基板10に垂直に照射するように設定されている。収差制御板133は、集光レンズ132を通過したレーザー光に収差を与えて焦点深度を伸ばして、ガラス基板10に形成する改質層のz軸方向の長さL1を制御する機能を有している。なお、図2において、レーザー発振器120及び導光光学系130を含めてレーザー照射ユニット150とする。
【0043】
改質層20の長さ及び径などのサイズは、レーザー光のガラス基板10内での集光の状態により決まる。具体的には、改質層20のz軸方向(ガラス基板10の厚み方向)の長さL1は、この場合、収差制御板133の厚みを適宜設定することによりコントロール可能である。また、改質層20のz軸方向の位置は、レーザー照射ユニット150の高さ(z軸方向の位置)を調整することによって設定することができ、また、図示しないテーブルの高さを調整することによっても変更できる。なお、ここでは、収差制御板133とガラス基板10との間の距離を、レーザー高さとする。
【0044】
ガラス基板10に照射されたレーザー光は、当該レーザー光の振動エネルギーを熱エネルギーに変えて、ガラス基板10に例えば図10に示したような改質層20を形成する。ここでは、レーザー光はフェムト秒パルスレーザー光であるため、熱伝導が抑制された非熱加工による改質層20の形成が可能となる。
【0045】
なお、図1による説明においては、1つの改質層20の形成について示されているが、多数の改質層を連続的に形成することも可能である。この場合、ガラス基板10を一方向(例えばx方向)に所定ピッチで移動させながらレーザー光を照射すれば、多数の改質層を連続的に形成できる。レーザー光の照射ピッチは、レーザー発振器120の発振周波数とガラス基板10の移動速度とによって任意に設定できる。例えば、発振周波数を100Hz、ガラス基板10の移動速度を50mm/secとすれば、500μmのピッチで改質層を形成できる。また、発振周波数又はガラス基板の移動速度をそれぞれ変えながら照射すれば、等ピッチではなく任意のピッチで改質層を形成できる。
【0046】
ここで、超短パルスレーザー光によって改質層を形成すると、大きなエネルギーで短時間に改質層を形成することができるが、そのときの急激な熱膨張及び冷却時のストレスによって、クラックCr(例えば図10参照。)が発生してしまい、クラックCrが存在した状態で、フッ酸によるエッチングを行うと、エッチングによって形成される貫通孔の開口の平面形状が円形とはならずに、例えば楕円形となってしまうといった課題があることは前述した通りである。このような課題を解決するための貫通孔形成方法について以下に説明する。
【0047】
実施形態1に係る貫通孔形成方法及び実施形態1に係る貫通孔を備える物品の製造方法の工程は、図1に示すように、被過去部材としての物品10(ガラス基板10とする。)の貫通孔形成位置に改質層20を形成する改質層形成工程(ステップST1)と、改質層20が形成される際に当該改質層20に沿って多段に生じたクラックCrを熱処理によって溶着させる熱処理工程(ステップST2)と、熱処理工程(ステップST2)によってクラックCrが溶着されたガラス基板10をエッチングして、貫通孔形成位置(改質層が形成されている位置)に貫通孔(TGV)を形成するエッチング工程(ステップST3)と、を有している。なお、「貫通孔形成位置」を指し示す符号は各図において示されていないが、改質層20が示されている各図においては、当該改質層20が示されている位置が「貫通孔形成位置」である。このことは他の実施形態においても同様である。
【0048】
改質層形成工程(ステップST1)は、図2に示したレーザー加工装置100Aによって、超短パルスレーザー光を集光レンズ132を介してガラス基板10の貫通孔形成位置に照射する。このとき、改質層20のz軸方向の長さL1は 、収差制御板133の厚みを適宜設定することによりコントロール可能であり、ここでは、ガラス基板10の一方の面すなわち表面10aから他方の面すなわち裏面10bに達する改質層20を形成する。
【0049】
続いて、クラックCrを溶着するための熱処理工程について説明する。実施形態1においては、クラックCrの溶着が可能なエネルギーを有するレーザー光(第2レーザー光とする。)を、クラックCrを包含する範囲を熱処理範囲として照射する。ここで、クラックCrの溶着が可能なエネルギーは、パルスレーザー光のパルス幅及び/又は印加エネルギーによってコントロールすることができる。このように、パルスレーザー光のパルス幅及び/又は印加エネルギーによってコントロールすることにより、クラックCrを適切に溶着することができる。なお、クラックCrの溶着が可能なエネルギーを有する第2レーザー光としては、例えば、ナノ秒パルスレーザー光を用いることができる。このようなレーザー光としては、YAGレーザー光を例示できる。また、このとき用いるレーザー光は、クラックCrを溶着できるエネルギーを有していればよいため、連続波CW(Continuous Wave)タイプのレーザー光であってもよい。
【0050】
図3は、実施形態1に係る貫通孔形成方法及び実施形態1に係る貫通孔を備える物品の製造方法における熱処理工程を説明するために示す図である。図3(a)は改質層20に沿ってクラックCrが多段に生じているガラス基板10の表面10aを写真で示す図であり、これは、前述した図10(a)と同じものであり、改質層20に沿って多段に生じているクラックCrを合成して示している。なお、図3(a)において破線枠Aで囲まれる範囲は熱処理範囲Aを示しており、当該熱処理範囲Aについては後述する。また、図3(b)は改質層20に沿ってクラックCrが多段に生じている様子を模式的に示す図であり、これは、前述した図10(c)と同じ図である。図3(c)は、一部のクラックCrを拡大して模式的に示す図である。また、図3(d)はクラックCrを包含する範囲を熱処理範囲Aとして熱処理(溶着)を行った状態を模式的に示す図である。
【0051】
クラックCrは、図3(c)の模式図に示すように、改質層20(径Φ1を2μm~5μmとしている。)を中心に、例えば、放射状に複数方向(図3(c)において2方向)に発生しており、図3(c)に示す例においては、当該クラックCrの長さ(改質層20を挟んだ長さ)L2は約20数μm程度であるとする。
【0052】
実施形態1に係る貫通孔形成方法及び実施形態1に係る貫通孔を備える物品の製造方法における熱処理工程(ステップST2)には、下記に示すような工程が含まれている。
すなわち、改質層20に沿って多段に生じたクラックCrを包含できる平面的な範囲(図3(a)の破線枠Aで示す範囲)をガラス基板10における熱処理範囲Aとして設定する工程と、熱処理範囲Aを照射範囲として、クラックの溶着が可能なエネルギーを有する第2レーザー光をガラス基板10の表面10aから裏面10bまでの間に集光させて照射し、改質層20に沿って多段に生じたクラックCrを、ガラス基板10の表面10aから裏面10bまでの間において溶着させる工程と、が含まれている。
【0053】
改質層20に沿って多段に生じたクラックCrを溶着させる工程は、例えば、YAGレーザー光などのナノ秒パルスレーザー光を熱処理範囲Aを照射範囲として、ガラス基板10表面10aから裏面10bまでの間に集光させて照射する。これにより、改質層20に沿って多段に形成される各クラックCrが溶着される。図3(d)は熱処理工程(ステップST2)による熱処理を行った状態を模式的に示す図であり、薄い灰色で塗りつぶした領域が熱処理を行った領域である。なお、上述したように、このとき用いるレーザー光は、クラックCrを溶着できるエネルギーを有していればよいため、連続波CW(Continuous Wave)タイプのレーザー光であってもよい。
【0054】
このような熱処理工程(ステップST2)を行った後にフッ酸によるエッチング工程(ステップST3)を行う。エッチング工程は、改質層20に沿って多段に生じたクラックCrがガラス基板10の表面10aから裏面10bまでの間において溶着されたガラス基板10を所定のエッチング量でエッチングする。このようなエッチング工程を行う際には、クラックCrはすでに溶着された状態となっているため、フッ酸がクラック内に侵み込むことを抑制できる。これにより、エッチング工程によって形成される貫通孔30は、ほぼ円筒形状となり、当該貫通孔30の開口(ガラス基板10の表面10a及び裏面10bの各開口)を円形とすることができる。
【0055】
ところで、エッチングがなされる際には、フッ酸を含むエッチング液によりガラス基板10の表面10a及び裏面10bを腐食させてガラス基板を薄板化するエッチングがなされるとともに、改質層20にエッチング液が浸み込むことにより改質層20を腐食させるエッチングがなされる。
【0056】
なお、改質層20にエッチング液が浸み込むことにより改質層20を腐食させるエッチングがなされる際には、ガラス基板10の厚み方向(z軸方向)にエッチングが進む異方性エッチングと、改質層20からガラス基板10の横方向(xy平面に沿った方向)にもエッチングが進む等方性エッチングとがなされる。このとき、等方性エッチングと異方性エッチングとのエッチングレートの差によって、貫通孔の中央部付近の径が、貫通孔の開口の径よりも小さくなる傾向にある。このため、貫通孔の中央部付近の径を所望とする径(Φ1とする。)とするには、より多くのエッチング量(エッチング時間ともいえる)でエッチングを施す必要があり、その分だけ、開口の径が中心部付近の径よりも大きくなる。
【0057】
図4は、実施形態1に係る貫通孔形成方法によって形成された貫通孔30及び実施形態1に係る貫通孔を有する物品の製造方法によって製造された貫通孔30を備える物品10Aをそれぞれ説明するための図である。図4においては、貫通孔30は2個の貫通孔(貫通孔31,32とする。)が並んで存在している状態が示されている。また、貫通孔30を備える物品10Aは、その一部が示されている。なお、「貫通孔30を備える物品10A」は、この場合、ガラス基板10に貫通孔30が形成されたものであるため、「貫通孔30を備えるガラス基板10A」として説明する。また、図4において、図4(a)は貫通孔30を備えるガラス基板10Aの平面(表面10a)を示す図であり、図4(b)は図4(a)のb-b矢視断面図である。なお、図4図3に示すガラス基板10に対して各部のサイズなどが同じ基準で描かれているものではない。
【0058】
図4に示すように、貫通孔30(2つの貫通孔31,32)の開口はそれぞれ円形となり(図4(a)参照。)、所望とする円形の開口を有する貫通孔を形成することができる。但し、ガラス基板10の厚み方向の中央部付近の径Φ1に比べて、表面10a及び裏面10bのそれぞれの開口の径Φ2がやや大きくなり、貫通孔30の断面(貫通孔の中心軸Ozに沿った断面)がテーパー形状となる傾向にある(図4(b)参照。)。
【0059】
一方、当該貫通孔30(2つの貫通孔31,32)のそれぞれ開口のサイズは、クラックCrが存在した状態でエッチングされることによって形成された貫通孔(例えば、図11(c)に示す開口が楕円形となっている貫通孔30’)の開口に比べれば小さいものとなる。これにより、図4に示す貫通孔30(2つの貫通孔31,32)の開口に配線パターンのランドを形成した場合においては、ランドを必要以上に大きくしないで済む。なお、図4に示すガラス基板10の厚みt2は、エッチング工程による薄板化された後の厚みを示しており、エッチング工程前の厚みt1よりも多少薄くなっている。
【0060】
図5は、図4(a)に示す貫通孔30を備えるガラス基板10Aに配線パターンを形成した場合の一例を示す図である。図4によって説明したように、貫通孔30の開口の径Φ2が貫通孔の中央部付近の径Φ1よりも多少大きくなったとしても、当該貫通孔30の開口の径は、クラックCrの影響を受けて楕円形となった場合(例えば図11(d)参照。)に比べて、必要以上に大きくはならない。このため、図5に示すように、当該貫通孔31,32の開口に配線パターンPのランドR1,R2が形成された場合においては、当該ランドR1,R2が近接する配線パターンPに接触してしまったり、ランドR1,R2同士が接触してしまったりすることがなくなる。
【0061】
[実施形態2]
前述の実施形態1に係る貫通孔形成方法及び実施形態1に係る貫通孔を備える物品の製造方法においては、熱処理工程(図1のステップST2)は、YAGレーザー光などのナノ秒パルスレーザー光を、ガラス基板10の表面10aから裏面10bまでの間に集光させて照射することによって、改質層20に沿って多段に存在するクラックCr全体に対して熱処理するようにした。
【0062】
これに対して、実施形態2に係る貫通孔形成方法及び実施形態2に係る貫通孔を備える物品の製造方法においては、熱処理工程は、ガラス基板10の表面10a及び裏面10bからそれぞれ所定の深さまでを熱処理する。なお、実施形態2に係る貫通孔形成方法の各工程及び貫通孔を備える物品の製造方法を説明する際にも、図1に示すフローチャートを用いることとする。ここで、改質層形成工程(ステップST1)は実施形態1に係る貫通孔形成方法における改質層形成工程と同じであるため、改質層形成工程についての説明は省略し、熱処理工程(ステップST2)及びエッチング工程(ステップST3)について説明を行う。
【0063】
図6は、実施形態2に係る物品の貫通孔形成方及び実施形態2に係る貫通孔を備える物品の製造方法法を説明するために示す図である。図6(a)は改質層形成工程(ステップST3)により、改質層20に沿ってクラックCrが多段に生じている様子を模式的に示す図であり、前述した図3(b)と同じ状態を示している。また、図6(b)は図6(a)に示すガラス基板10の表面10aから所定の深さd1及び裏面10bから所定の深さd2までを、熱処理工程(ステップST2)による熱処理(溶着)を行った状態を模式的に示す図であり、図6(c)は熱処理工程(ステップST2)の後にエッチング工程(ステップST3)を行った状態を示す図である。
【0064】
実施形態2に係る貫通孔形成方法及び実施形態2に係る貫通孔を備える物品の製造方法における熱処理工程(ステップST2)には、下記に示すような工程が含まれている。
すなわち、熱処理工程(ステップST2)は、改質層20に沿って多段に生じたクラックを包含できる範囲をガラス基板10における熱処理範囲A(図3(a)参照。)として設定する工程と、当該熱処理範囲Aを照射範囲としてクラックCrの溶着が可能なエネルギーを有する第2レーザー光(例えば、YAGレーザー光などのナノ秒パルスレーザー光)を、ガラス基板10の表面10aから第1熱処理深さd1までの間に集光させて照射し、改質層20に沿って多段に生じたクラックのうちの表面10aから第1熱処理深さd1までの間に存在するクラックCrを溶着させて第1溶着層11を形成する工程と、熱処理範囲Aを照射範囲としてクラックCrの溶着が可能なエネルギーを有する第2レーザー光(例えば、YAGレーザー光などのナノ秒パルスレーザー光)を、ガラス基板10の裏面10bから第2熱処理深さd2までの間に集光させて照射し、改質層20に沿って多段に生じたクラックのうちの裏面10bから第2熱処理深さd2までの間に存在するクラックCrを溶着させて第2溶着層12を形成する工程と、が含まれている。ここで、第2熱処理深さd2は第1熱処理深さd1に達しない深さである。
【0065】
なお、実施形態2に係る貫通孔形成方法及び実施形態2に係る貫通孔を備える物品の製造方法における熱処理工程においても、第2レーザー光はクラックCrを溶着できるエネルギーを有していればよいため、連続波CW(Continuous Wave)タイプのレーザー光であってもよい。
【0066】
図6(b)において、薄い灰色で示した領域が第1溶着層11及び第2溶着層12であり、第1溶着層11及び第2溶着層12を形成することによって、第1溶着層11と第2溶着層12との間には、クラックCrが溶着されない非溶着層13が形成される。すなわち、非溶着層13に存在するクラックCr(第1熱処理深さd1と第2熱処理深さd1との間に存在するクラックCr)は、熱処理がなされないこととなる。なお、非溶着層13に存在するクラックCrを非溶着クラックCrとする。
【0067】
ここで、第1熱処理深さd1と第2熱処理深さd2は、は、同じ(d1=d2)であってもよく、また、d1≒d2であってもよい。なお、図6(b)においては、熱処理の深さd1と第2熱処理深さd2は同じ(d1=d2)とした場合を例示している。また、熱処理の深さd1及び第2熱処理深さd2は任意に設定可能であり、図6(b)に示す領域よりも浅くしてもよく、また、深くしてもよい。
【0068】
このようにして、熱処理工程が終了すると、熱処理工程が終了したガラス基板10に対してエッチング工程(ステップST3)を行う。実施形態2に係る貫通孔形成方法及び実施形態2に係る貫通孔を備える物品の製造方法におけるエッチング工程は、第1溶着層11及び第2溶着層12が形成されたガラス基板10の表面10aから第1熱処理深さd1に達しない所定深さ、及び、裏面10bから第2熱処理深さd2に達しない所定深さをそれぞれエッチング可能なエッチング量d3でガラス基板10をエッチングする。
【0069】
このようなエッチングが行われることによって、ガラス基板10はエッチング量d3だけ薄板化され、薄板化されたガラス基板10の厚みをt3とする(図6(c)参照。)。ここで、当該エッチング量d3は、d3<d1,d2である。また、同時に、フッ酸を含むエッチング液が浸み込むことにより改質層20を腐食させる。
【0070】
改質層20にエッチング液が浸み込む際には、ガラス基板10の厚み方向(z軸方向)にエッチングが進む異方性エッチングと、改質層20からガラス基板10の横方向(xy平面に沿った方向)にもエッチングが進む等方性エッチングとがなされる。このとき、等方性エッチングと異方性エッチングとのエッチングレートの差によって、貫通孔の開口が大きくなるが、エッチングが第1溶着層11及び第2溶着層12を超えて非溶着層13に達すると、当該非溶着層13に存在する非溶着クラックCrは溶着されていないため、フッ酸が素早く非溶着クラックCrに浸み込んで、当該非溶着クラックCrが延びている方向(主にxy平面に沿った方向)にエッチングが進む。このため、非溶着層13においては、貫通孔30の内周面には径が大きい広がり部が生じることとなる。
【0071】
上述したように、実施形態2に係る貫通孔形成方法及び実施形態2に係る貫通孔を備える物品の製造方法においても、等方エッチングの影響によって貫通孔30の開口は径が大きくなるが、これは、エッチング量d3をd3<d1,d2の範囲で、適宜、コントロールすることによって、所望とする円形の開口を有する貫通孔を形成することができる。
【0072】
すなわち、エッチング量d3をd3<d1,d2の範囲で、より大きく設定すれば、等方性エッチングの影響をより大きく受けるため、開口の径はより大きくなり、かつ、ガラス基板10の中央部付近(非溶着層13)に存在する非溶着クラックCrへのエッチング液の浸み込み量も増える。このため、貫通孔30の中央部付近(非溶着層13)は、横方向への広がりが大きくなる。
【0073】
一方、エッチング量をd3<d1,d2の範囲で、より小さく設定すれば、等方性エッチングの影響がより小さくなるため、開口の径をより小さく抑えることができ、かつ、ガラス基板10の中央部付近(非溶着層13)に存在する非溶着クラックCrへのエッチング液の浸み込みを量も減る。このため、貫通孔30の中央部付近(非溶着層13)が横方向に広がることを抑制できる。
【0074】
従って、エッチング量d3をd3<d1及びd3<d2の範囲内で、最適な値にコントロールすることによって、所望とする円形の開口を有する貫通孔30を形成することができる。具体的には、貫通孔30の開口の径を所望とする径に近い径とし、かつ、当該開口の径と中央部付近(非溶着層13)の径とがあまり差のない、ほぼストレート状の貫通孔とすることが可能となる。
【0075】
このようにしてエッチングされたガラス基板10、すなわち、開口の径と中央部の径とがあまり差のない、ほぼストレート状の貫通孔が形成されているガラス基板10を模式的に示したものが図6(c)である。なお、図6は模式図であるため、ストレート状の貫通孔が示されているが、実際には、貫通孔30の内周面には多少の凹凸が存在したり、開口には多少のテーパー部が存在したりする場合もある。
【0076】
図7は、実施形態2に係る貫通孔形成方法によって形成された貫通孔30及び実施形態2に係る貫通孔を有する物品の製造方法によって製造された貫通孔30を備える物品10Bをそれぞれ説明するための図である。図7においても、貫通孔30は2個の貫通孔(貫通孔31,32とする。)が並んで存在している状態が示されている。また、貫通孔30を備える物品10Bは、その一部が示されている。なお、「貫通孔30を備える物品10B」は、この場合、ガラス基板10に貫通孔30が形成されたものであるため、「貫通孔30を備えるガラス基板10B」として説明する。また、図7において、図7(a)は貫通孔30を備えるガラス基板10Bの平面(表面10a)を示す図であり、図7(b)は図7(a)のb-b矢視断面図を写真で示す図である。なお、図7(b)に示す写真は要部が拡大されている。
【0077】
図7(a)に示すように、エッチング工程(ステップST3)によって形成された貫通孔31,32の開口は円形となっている。また、図7(b)に示すように、貫通孔31,32の内部には、非溶着クラックCrによる広がり部が存在するが、貫通孔31,32の開口にはテーパー部は殆ど形成されておらず、所望とする円形の開口の径に近い径を有するものとなる。これにより、微細な径を有する開口の形成が可能となる。このような貫通孔31,32の開口にランドを形成する場合、ランドが近接する配線パターンと接触してしまったり、ランド同士が接触してしまったりすることを防止できる。
【0078】
このように、実施形態2に係る貫通孔形成方法及び実施形態2に係る貫通孔を備える物品の製造方法においては、エッチングによって形成された貫通孔30の開口は円形となり、しかも、当該貫通孔30の開口の径は、所望とする円形の開口の径に近い径を有するものとなる。一方、貫通孔30の内部には、非溶着層13に存在する非溶着クラックCrによる広がり部が存在する場合もある。非溶着クラックCrによる広がり部が存在する場合、貫通孔30の内部の断面形状(xy平面に沿った断面形状)が円形とはならずに、例えば、楕円形となったり、歪んだループ形状となったりしてしまう場合もあるが、貫通孔30の内部は、ランドや配線パターンが形成されることはないため、貫通孔30の内部の径は、開口の径と同じであることの必要性は特にはない。このため、貫通孔30の内部には、非溶着クラックCrによる広がり部が存在していても特に問題はない。
【0079】
なお、実施形態2に係る貫通孔形成方法及び実施形態2に係る貫通孔を備える物品の製造方法においても、熱処理工程を行う際のレーザー光は、クラックCrの溶着が可能なレーザー光として、例えばYAGレーザー光を用いることが可能であるが、熱溶着深さd1がガラス基板10表面10a及び裏面10bから浅くて済む場合には、CO2レーザー光であってもよい。すなわち、CO2レーザー光は波長がガラスを透過しにくい波長であるため、ガラス基板10の深い位置までを溶着する場合には不向きであるが、ガラス基板10の表面10a又は裏面10bから浅い位置までを溶着する場合には使用可能となる場合もある。
【0080】
[実施形態3]
実施形態3に係る貫通孔形成方法及び実施形態3に係る貫通孔を備える物品の製造方法は、ガラス基板10に改質層を形成する際に用いられるレーザー加工装置(レーザー加工装置100Bとする。)における集光レンズとして、アキシコンレンズ135を用いる。
【0081】
図8は、アキシコンレンズ135について概略的に説明するために示す図である。図8(a)は実施形態3に係る貫通孔形成方法及び実施形態3に係る貫通孔を備える物品の製造方法においてガラス基板10に改質層を形成する際に用いられるレーザー加工装置100Bの一例を模式的に示す図であり、図8(b)はアキシコンレンズ135によって形成されるベッセルビームBBの一例であり、図8(c)はベッセルビームBBのエネルギー分布の一例を示す図である。
【0082】
実施形態3に係る貫通孔形成方法及び実施形態3に係る貫通孔を備える物品の製造方法の工程は、改質層形成工程とエッチング工程とを有している。改質層形成工程は、アキシコンレンズ135により形成されるベッセルビームBBのセントラルローブCRを貫通孔形成位置に集光させるとともに、ベッセルビームBBのサイドローブSRを貫通孔形成位置の外周領域に集光させて、セントラルローブCRによってガラス基板10の表面10aから裏面10bまでの間に改質層20を形成するとともに、サイドローブSRによって、セントラルローブCRによる改質層の形成時にクラックの発生を抑制するための第2改質層(図9(b)において薄い灰色で示す領域)を貫通孔形成位置の外周領域に形成する。なお、第2改質層を形成する領域としての貫通孔形成位置の外周領域は、例えば、図3において示した熱処理範囲Aに対応する範囲とすることが好ましい。
【0083】
また、エッチング工程は、改質層形成工程によって改質層の形成がなされるとともに、クラックの発生を抑制するための第2改質層が貫通孔形成位置の外周領域に形成された物品をエッチングして、貫通孔形成位置に貫通孔を形成する。
【0084】
図9は、実施形態3に係る貫通孔形成方法及び実施形態3に係る貫通孔を備える物品の製造方法における改質層形成工程を説明するために示す図である。図9(a)はセントラルローブCRによってガラス基板10の表面10aから裏面10bまでの間に改質層を形成する例を模式的に示すであり、図9(b)はサイドローブによってクラックの発生を抑制するための第2改質層(図9(b)において薄い灰色で示す領域)を貫通孔形成位置の外周領域に形成する例を模式的に示す図である。なお、セントラルローブCR及びサイドローブSRは同時にガラス基板10に与えられるが、図9においては、セントラルローブCR及びサイドローブSRのそれぞれの作用を区別して示すために、セントラルローブCRの作用とサイドローブSRの作用とを別々に図示している。
【0085】
図9に示すように、実施形態3に係る貫通孔形成方法及び実施形態3に係る貫通孔を備える物品の製造方法においては、ベッセルビームBBのサイドローブSRを積極的に利用するものである。すなわち、ベッセルビームBBのセントラルローブCRを貫通孔形成位置に集光させるとともに、サイドローブSRを貫通孔形成位置の外周領域に集光させる。これにより、セントラルローブCRによってガラス基板10の表面10aから裏面10bまでの間に改質層20が形成されるとともに、サイドローブSRによって、セントラルローブCRによる改質層20の形成時にクラックの発生を抑制するための第2改質層が貫通孔形成位置の外周領域に形成される。図9(b)において、薄い灰色で示した領域が、サイドローブSRによってクラックの発生を抑制するための第2改質層が形成された領域である。
【0086】
図9(b)に示すように、セントラルローブによって、貫通孔形成位置の外周領域に、クラックの発生を抑制するための第2改質層が形成された領域が存在することにより、改質層20の外周領域にクラックが生じることを抑制することができる。なお、「改質層20の外周領域にクラックが生じることを抑制する」というのは、改質層20の外周領域にクラックが生じにくくすることと、改質層20の外周領域にクラックが生じたとしても当該クラックの大きさを最小限にとどめることとを含むものである。
【0087】
このように、実施形態3に係る貫通孔形成方法及び実施形態3に係る貫通孔を備える物品の製造方法においては、改質層20の外周領域にクラックが生じることを抑制することができる。このため、エッチングする際には、改質層の形成時に生じるクラックの影響が抑制されたエッチングがなされるため、所望とする円形の開口を有する貫通孔を形成することができる。なお、実施形態3に係る貫通孔を備える物品の製造方法によって製造された貫通孔を備える物品としては、例えば、図4に示すような物品10Aを例示できる。
【0088】
ところで、アキシコンレンズ135によって形成されるサイドローブSRのエネルギー強度及びサイドローブSRの形成領域などは、アキシコンレンズ135のアキシコン角度θ(図8(a)参照。)を変えることによって種々変更できる。従って、被加工部材としての物品(ガラス基板10)の材質、厚み、熱処理を行う範囲及び熱処理の度合いなどに応じた最適なサイドローブSRのエネルギー強度及びサイドローブの形成領域を得ることができるように、アキシコンレンズ135のアキシコン角度θを設定すればよい。
【0089】
なお、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能となるものである。たとえば、下記に示すような変形実施も可能である。
【0090】
(1)前述の実施形態1及び実施形態2においては、熱処理工程(ステップST2)は、クラックCrの溶着が可能なエネルギーを有する第2レーザー光(例えば、ナノ秒パルスレーザー光)を用いてクラックCrを溶着する場合を例示したが、溶着炉によるアニール処理によってクラックCrを溶着することも可能である。すなわち、超短パルスレーザー光による改質層形成工程(ステップST1)が終了した後に、改質層20が形成されたガラス基板10を溶着炉などに収納してアニール処理する。このとき、ガラス基板10の歪点又は軟化点以上の温度でアニール処理する。このようにしても、前述の実施形態1及び実施形態2と同様に、クラックCrを溶着できる。そして、熱処理工程としてアニール処理を終了した後に、エッチング工程(ステップST3)を行う。このエッチング工程は、実施形態1に係る貫通孔形成方法と同様に、改質層20に沿って多段に生じたクラックCrがガラス基板10の表面10aから裏面10bまでの間において溶着されたガラス基板10を所定のエッチング量でエッチングする。
【0091】
(2)前述の各実施形態においては、加工対象となる材料はガラス基板としたが、ガラス基板に限られるものではなく、例えば、エポキシ樹脂基板、シリコン基板であってもよい。
【0092】
(3)前述の各実施形態においては、インターポーザーの製造において好適な貫通孔形成方法及びインターポーザーのような貫通孔を備える物品の製造方法について説明したが、インターポーザーに限られるものではなく、種々の貫通孔、特に、多数の微細な貫通孔を隣接して形成する場合及び多数の微細な貫通孔が近接して配置されているような物品の製造に広く適用でできるものとなる。
【0093】
(4)前述の各実施形態においては、改質層20を形成するための超短パルスレーザー光としては、フェムト秒パルスレーザー光を例示したが、ピコ秒パルスレーザー光であってもよい。ピコ秒パルスレーザー光であっても熱伝導が抑制された非熱加工による改質層20の形成が可能となる。
【符号の説明】
【0094】
10・・・ガラス基板、10a・・・ガラス基板10の一方の面(表面)、10b・・・ガラス基板10の他方の面(裏面)、10A,10B・・・貫通孔を備える物品、11・・・第1溶着層、12・・・第2溶着層、13・・・非溶着層、20・・・改質層、30,31,32・・・貫通孔(開口が円形の貫通孔)、30’,31’,32’・・・貫通孔(開口が楕円形の貫通孔)、100A,100B・・・レーザー加工装置、120・・・レーザー発振器、130・・・導光光学系、131・・・ミラー、132・・・集光レンズ、135・・・アキシコンレンズ、150・・・レーザー照射ユニット、A・・・照射範囲(熱処理範囲)、BB・・・ベッセルビーム、CR・・・セントラルローブ、d1・・・第1熱処理の深さ、d2・・・第2熱処理の深さ、d3・・・エッチング量、P・・・配線パターン、R1,R2・・・ランド、SR・・・サイドローブ、t1,t2,t3・・・ガラス基板10の厚み
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10
図11