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特開2022-77967レーザ干渉型フローサイトメトリー装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022077967
(43)【公開日】2022-05-24
(54)【発明の名称】レーザ干渉型フローサイトメトリー装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/14 20060101AFI20220517BHJP
【FI】
G01N15/14 D
G01N15/14 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021167409
(22)【出願日】2021-10-12
(31)【優先権主張番号】63/112,694
(32)【優先日】2020-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】512155478
【氏名又は名称】学校法人沖縄科学技術大学院大学学園
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】新竹 積
(57)【要約】      (修正有)
【課題】フフローサイトメトリーにおける粒子径測定の校正されたスケールを提供する。
【解決手段】レーザ干渉型フローサイトメトリー装置1は、サンプル流路2、レーザ光源3、光学系4、およびセンサ5から構成される。レーザ光源3は、レーザ光を照射する。光学系4は、レーザ光源3から出射されたレーザ光を受光し、2本のレーザ光を交差させて、サンプル流路2に干渉縞領域100を形成する。センサ5は、干渉縞領域100を走行する粒子から放出される散乱光および蛍光光の少なくとも一方を受光する。このレーザ干渉型フローサイトメトリーシステム1では、センサが受光した散乱光および蛍光光の少なくとも一方における変調振幅に基づいて、粒子の大きさが判定される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ干渉型フローサイトメトリー装置であって、
サンプル流路と、
レーザ光を照射するレーザ光源と、
前記レーザ光源から出射されたレーザ光を受光して、2本のレーザ光を交差させ、前記サンプル流路内に干渉縞領域を形成する光学系と、
前記干渉縞領域を通過する粒子から放出される散乱光および蛍光光の少なくとも一方を受光するセンサと、
を有し、
前記粒子の大きさが、前記センサで受光した前記散乱光および前記蛍光光の少なくとも一方の変調振幅に基づいて判定される、レーザ干渉型フローサイトメトリー装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ干渉型フローサイトメトリー装置であって、
前記光学系は、前記レーザ光源から出射されたレーザ光を2つのレーザ光に分岐させるビームスプリッターを含む、レーザ干渉型フローサイトメトリー装置。
【請求項3】
請求項2に記載のレーザ干渉型フローサイトメトリー装置であって 、
前記光学系は、前記2つのレーザ光を交差させて干渉縞領域を形成する対物レンズをさらに含む、レーザ干渉型フローサイトメトリー装置。
【請求項4】
請求項1に記載のレーザ干渉型フローサイトメトリー装置であって 、
前記光学系は、2つのレーザ光を交差させて前記干渉縞領域を形成する空洞共振器を含む、レーザ干渉型フローサイトメトリー装置。
【請求項5】
請求項4に記載のレーザ干渉型フローサイトメトリー装置であって、
前記光学系は、
前記レーザ光源から出射されたレーザ光を受光する第1の部分反射キャビティミラーと、
前記第1部分反射キャビティミラーを透過したレーザ光を、ミラーを介して前記サンプル流路へ集光する対物レンズと、
前記レーザ光を前記サンプル流路に向けて反射して前記干渉縞領域を形成する第2のキャビティミラーと、
をさらに含む、レーザ干渉型フローサイトメトリー装置。
【請求項6】
請求項1に記載のレーザ干渉型フローサイトメトリー装置であって、
前記センサで受光した前記散乱光および前記蛍光光の少なくとも一方に基づいて、レーザ干渉効果により、粒子の大きさを判定する、レーザ干渉型フローサイトメトリー装置。
【請求項7】
請求項1に記載のレーザ干渉型フローサイトメトリー装置であって、
前記サンプル流路が液体で満たされており、粒子が生体物質である、レーザ干渉型フローサイトメトリー装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ干渉型フローサイトメトリーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
フローサイトメトリーは、光散乱、蛍光、吸光などの測定法を用いて、大量の細胞を個別に迅速に分析するための一般的な方法である。近年のフローサイトメトリーの成功は、最新のデータ収集・解釈ソフトウェアを備え、堅牢性と汎用性の双方を有する市販のフローサイトメトリー装置と、進歩した多種の染色蛍光測定法とに基づいている。従来のフローサイトメトリー装置は、例えば、非特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Marco Rieseberg, Cornelia Kasper, Kenneth F. Reardon, Thomas Scheper, “Flow cytometry in biotechnology”, Appl Microbiol Biotechnol (2001) 56:350-360 DOI 10.1007/s002530100673
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、サイズ測定は屈折率に大きく影響され、実質的に300nm以上のサイズに限られる。細胞外小胞やウイルスなどの生理学的に重要な粒子を研究する必要があるが、このサイズ以下になると、散乱光の強度が急激に低下するため、サイズ測定することが困難になる。
【0005】
本発明の目的は、フローサイトメトリーにおける粒子径測定の校正されたスケールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものである。上述の課題を解決するために、本発明の第1の側面は、レーザ干渉型フローサイトメトリー装置であって、サンプル流路と、レーザ光を出射するレーザ光源と、レーザ光源から出射されたレーザ光を受光し、2つのレーザ光を交差させてサンプル流路内に干渉縞領域を形成する光学系と、干渉縞領域を通過する粒子から放出される散乱光および蛍光光の少なくとも一方を受光するセンサと、を有し、粒子の大きさが、センサが受信した散乱光および蛍光光の少なくとも一方の変調振幅に基づいて判定される。
【0007】
本発明の第2の側面は、第1の側面のレーザ干渉型フローサイトメトリー装置であって、光学系が、レーザ光源から出射されたレーザ光を2つのレーザ光に分割するビームスプリッターを含む。
【0008】
本発明の第3の側面は、第2の側面のレーザ干渉型フローサイトメトリー装置であって、光学系が、2つのレーザ光を交差させて干渉縞領域を形成する対物レンズをさらに含む。
【0009】
本発明の第4の側面は、第1の側面のレーザ干渉型フローサイトメトリー装置であって、光学系が、2つのレーザ光を交差させて干渉縞領域を形成する空洞共振器を含む。
【0010】
本発明の第5の側面は、第4の側面のレーザ干渉型フローサイトメトリー装置であって、光学系が、レーザ光源から出射されたレーザ光を受光する第1の部分反射キャビティミラーと、第1の部分反射キャビティミラーを透過したレーザ光をミラーを介してサンプル流路へ集光する対物レンズと、レーザ光をサンプル流路に向けて反射して干渉縞領域を形成する第2のキャビティミラーと、をさらに含む。
【0011】
本発明の第6の側面は、第1の側面のレーザ干渉型フローサイトメトリー装置であって、センサで受光した散乱光および蛍光光の少なくとも一方に基づいて、レーザ干渉効果により、粒子の大きさを判定する。
【0012】
本発明の第7の側面は、第1の側面のレーザ干渉型フローサイトメトリー装置であって、サンプル流路が液体で満たされており、粒子が生体物質である。
【発明の効果】
【0013】
本願において、レーザ干渉法を用いたフローサイトメトリーを提案している。これにより、粒子径測定において校正されたスケールと、長い相互作用長によるより多くの散乱光子、および高周波変調信号による高いS/N比が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、細胞外小胞(EV)とウイルスのサイズ分布の概念図である。
図2図2は、従来のスプリットレーザ方式のフローサイトメトリーの模式図である。
図3図3は、本発明の第1実施形態に係るレーザ干渉型フローサイトメトリーの模式図である。
図4図4は、従来のフローサイトメトリーと、レーザ干渉縞を用いた本発明の第1の実施形態による粒子径測定とについて、相互作用領域の比較を示している。
図5図5は、2本のレーザ光が試料の流れの上を交差して干渉縞が生じている様子を示している。
図6図6は、干渉縞内部の電磁界を示している。
図7図7は、粒子径の関数としての変調深度を示している。
図8図8は、干渉縞の中に粒子を走らせ、光量(light intensity)を発生させる様子を示した概念図である。
図9図9は、本発明の第2実施形態の空洞共振器型フローサイトメトリーの模式図である。
図10図10は,空洞共振器内部の電磁界を示している。
図11図11は、フローサイトメトリーに基づく高速ウイルス検出システムの模式図である。
図12図12は、スポットサイズモニターのシステム図である。
図13図13は、変調深度がスポットサイズに依存することを示した図である。
図14図14は、最終焦点テストビームのスポットサイズモニターであるビームサイズの関数としての変調深度を示している。
図15図15はFFTB実験における測定データ例である。
図16図16は、特許公報から引用したシステム図である。
図17図17は、論文から引用した、同心円状の照明波と小物体から放射される二次波の干渉を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<1.発明の概要>
本発明者は、フローサイトメトリーにおいて、ナノメートルスケールの細胞外小胞(EV)やウイルスなどの小さなバイオ粒子のサイズを測定するためのレーザ干渉法について述べている。従来のフローサイトメトリーの光学系の代わりに、新しいレーザ構成を導入することで、干渉縞(周期的な強度変調、すなわち明るい領域の周期的な積み重ね)がフロー内に形成され、サイズ測定のための校正されたスケールが得られる。干渉縞のピッチ(明るい領域の間隔)は、レーザビームの交差角と波長によって正確に判定される。明るい領域の横方向のサイズは、例えば30マイクロメートルというように、波長よりもはるかに大きくすることができ、レーザとフローの位置関係に高い精度が要求されず、従来のシステムで確立されたフローセル設計を使用することができる。
【0016】
試料とレーザの相互作用の長さが約30マイクロメートルと長くなるため、散乱光や蛍光光の信号が非常に大きくなる。重要なのは、これらの信号が干渉縞の周期的な強度変調に関連するMHzの周波数範囲で変調されていることである。変調深度を測定することで、粒子径を知ることができる。また、バンドパスフィルタやFFTのデジタル信号処理を導入することで、試料に含まれる様々なデブリによるノイズや、光検出器の信号に含まれる低周波のショットノイズを効果的に除去することができ、結果として、S/N比を飛躍的に向上させることができる。上記のメリットにより、EVやウイルスを粒子ごとに、しかもナノメートル単位の解像度の信頼性の高いスケールで測定することが可能になる。
【0017】
<2.はじめに>
フローサイトメトリーは、光散乱、蛍光、吸光の各測定法を用いて、大量の細胞を個別に迅速に分析する一般的な方法である。近年のフローサイトメトリーの成功は、最新のデータ収集・解釈ソフトウェアを備え、堅牢性と汎用性の双方を有する市販のフローサイトメトリー装置と、進歩した多種の染色蛍光測定法とに基づいている。
【0018】
しかしながら、サイズ測定は屈折率に大きく影響され、実質的に300nm以上のサイズに限られる。細胞外小胞やウイルスなどの生理学的に重要な粒子を研究する必要があるが、このサイズ以下になると、散乱光の強度が急激に低下するため、サイズ測定することが困難になる。
【0019】
すべての体液には、細胞由来の膜で覆われた小胞、すなわち細胞外小胞(EV)が含まれている。このような小胞は、原核生物や真核生物の細胞から排出され、生体環境へのメッセージを含んでいる。細胞外小胞(EV)やドラッグデリバリー用リポソームのサイズ特性は、疾患の診断や治療に応用する上で非常に重要である。図1は、細胞外小胞とウイルスのサイズ分布の概念図である。縦軸は、レーザ光に含まれるレイリー散乱光子の期待値であり、10 nmの大きさで100光子という任意の値で校正されている。
【0020】
レイリー散乱断面積は、式(1)で与えられる。
【数1】
ここで、dは粒子径、δnはその媒質(水)の屈折率差である。断面積は粒子の大きさの6乗に比例する。すなわち、粒子が小さいと十分な数の光子を散乱させることができない。図1では、10nmから100nmの間で散乱光子が10倍に変化している。200nm以上では、d>λ/πとなり、散乱光子はMie散乱理論に従い、最終的に物理的な円盤の断面積に近づく。
【0021】
小さなサイズにおける小さな断面に挑戦するためには、次のような改良を加えることが考えられる。
(1)レーザの波長を短くする
(2)レーザ出力密度の向上
(3)光子捕捉効率の向上
(4)相互作用長を長くする(相互作用時間を長くする)
(5)検知システムのノイズ低減
(6)サンプル流路中のノイズ源の低減
【0022】
フローサイトメトリーの機能をナノメートルサイズに拡張するための研究開発が盛んに行われている。それらは主に(1)、(2)、(3)の項目に焦点を当て、より高い開口数を持つ高解像度の対物レンズを導入したが、そのようなレンズシステムには、より微細なサンプル流路と厳密な精度の装置配置が必要であった。中には、ナノメートルサイズのプラスチックビーズの観察に成功し、そのサイズに応じて分離できたものもあった。しかし、プラスチックビーズは実際のEV(1.36~1.40)よりも屈折率が高く(ポリスチレン1.65、シリカ1.45)、比較的実験がしやすいことに留意する必要がある。
【0023】
この中で、(4)は、従来のシステムにおいてより微細なサイズの検出を行う、すなわち、レーザスポットが小さいことが望ましいという目的に反するものである。本願で提案する方法では、レーザ干渉法を導入することで、(4)と(5)の項目が大幅に改善される。また、この方法では、サイズ測定に絶対的なスケールを与えることができ、人工ビーズを用いた校正が不要である。
【0024】
<3.フローサイトメトリーにおけるレーザ干渉計の導入>
以下、第1実施形態のレーザ干渉型フローサイトメトリーについて、図2図4を参照しつつ説明する。図2は、従来のスプリットレーザ方式のフローサイトメトリーの模式図である。図3は、本発明の第1実施形態のレーザ干渉型フローサイトメトリーの模式図である。図4は、従来のフローサイトメトリーと、レーザ干渉縞を用いた本発明の第1の実施形態による粒子径測定とについて、相互作用領域の比較を示している。
【0025】
従来のシステムでは、図2に示すように、レーザ光が平行な2本のビームに分かれて試料の流れに照射される。2つのレーザスポット間の距離は既知であるため、2つのスポット間の移動時間を測定することで、流速を測定することができる。上流側のスポットを通過するサンプルのパルス幅から、サンプルサイズを判定する。散乱光の信号には2つのパルスがあり、それに応じて、分離時間Tおよび幅δTがある。粒子径は次のようにして求められる。
【数2】
【0026】
粒子径が小さい場合は、レーザスポットサイズによる影響を補正する必要がある。検出可能な粒子径はレーザスポットサイズによって制限される。
【0027】
提案された方法(本発明の第1実施形態)は、図3に示すように、レーザ干渉効果を利用して試料の大きさを判定するものである。レーザビームは、ビームスプリッターで平行な2本のビームに分割された後、フローセルに集光される。
【0028】
本発明の第1実施形態に係るレーザ干渉型フローサイトメトリー装置1は、サンプル流路2、レーザ光源3、光学系4、およびセンサ5を備える。レーザ光源3は、レーザ光を出射する。光学系4は、レーザ光源3から出射されたレーザ光を受光し、2本のレーザ光を交差させて、サンプル流路2内に干渉縞領域100を形成する。 センサ5は、干渉縞領域100を通過する粒子から放出される散乱光および蛍光光の少なくとも一方を受光する。このレーザ干渉型フローサイトメトリーシステム1では、センサが受光した散乱光および蛍光光の少なくとも一方の変調振幅に基づいて、粒子の大きさが判定される。
【0029】
光学系4は、ビームスプリッター41を含む。ビームスプリッター41は、レーザ光源3から出射されたレーザ光を、2つのレーザ光に分岐させる。光学系は、さらに、対物レンズ42を含む。対物レンズ42は、2つのレーザ光を交差させて、干渉縞領域100を形成する。
【0030】
このレーザ干渉型フローサイトメトリー装置1では、さらに、センサ5が受光した散乱光および蛍光光の少なくとも一方に基づいて、レーザ干渉効果により、粒子の大きさが判定される。このレーザ干渉型フローサイトメトリー装置1を使用する場合、サンプル流路2は液体で満たされており、粒子は生体物質である。
【0031】
図5は、2本のレーザ光が試料の流れの上を交差し、干渉縞が生じている様子を示している。図5に示すように、2つのレーザ光は開き角θ'で重なり合い、ピッチpの干渉縞が形成される。
【数3】
流れの中の波長は空気中よりも短い。
【数4】
ここで、nは液体の媒質の屈折率である。媒質中ではレーザの交差角が狭くなる。これは、シェルの法則で次のように与えられる。
【数5】
気水界面の臨界角は48.6度(水の屈折率1.33)であり、この臨界角以上ではレーザの交差角を実現できない可能性があることに注意が必要である。
【0032】
式(3)~(5)を用いて、pは次のようになる。
【数6】
青色レーザの波長を488nm、交差角を45度(媒質では33度)とすると、干渉縞のピッチはp=638nmとなる。直径が100nm程度のコロナウイルスを見つけるためには、より短い干渉縞のピッチ(p<400nm)が必要である。266nm(BBO高調波発生ダイオード励起Nd:YVO4レーザの4次高調波)を用いると、同じ交差角でp=348nmとなる。
【0033】
同様の方法は、本発明者によって考案され、高エネルギー電子ビームのサイズを測定することに成功した。将来のe+e-リニアコライダーの研究開発の一環として、1990年にSLACスタンフォード加速器センターに建設されたFFTB試験加速器施設において、50GeVの電子ビームを60~80nmのスポットに集光し、波長1.06μmのYAGレーザを用いて干渉縞によりそのサイズを測定した。詳細は付記2を参照のこと。
【0034】
<4.光信号を周波数変調して高S/Nを実現>
前方散乱パワーはキャリア周波数で周期的に変調される。
【数7】
は流速で、例えばv=1m/secとすると、p=638nmの場合、f=1.6MHzとなる。この周波数は、高感度APD(アバランシェフォトダイオード)の応答周波数の範囲内に十分収まっている。光検出器の統計的ノイズは周波数領域で大きく広がり、特に低周波(1/f)ではポアソンノイズが支配的となるため、キャリア周波数付近で狭帯域のバンドパスフィルタを使用することで、これらのノイズ信号を効果的に除去することができ、高いS/Nを実現できる。
【0035】
試料に対して染色蛍光法を用いる場合、大きな利点がある。蛍光光は同じ周波数で強度変調されているので、狭帯域の周波数フィルターを使ってS/N比を向上させることができる。また、溶液からの蛍光光は低周波のバイアス信号を発生させるが、これを周波数フィルターで除去することができるため、洗浄工程を簡略化することができる。
【0036】
<5.干渉縞の電磁場および前方散乱光の詳細>
図6は、干渉縞内部の電磁界を示している。
【0037】
2つのビームの干渉により、x方向に定在波、y方向に進行波が発生し、マイクロ波立体回路の導波管内の電磁場と全く同じになる。x方向の電界強度は定在波パターン、すなわち、時間平均でピーク(明るい領域)とゼロ(暗い領域)とを繰り返す。これが、干渉パターンである。生体粒子がこのパターンの中をx方向に進行すると、電磁場に接触する。粒子の速度は光の速度よりはるかに遅いため、磁場の寄与はゼロとなる。物質からの散乱光は、実は、電子の雲による電磁場の散乱が原因である(原子核は重すぎて光の周波数に反応しないので何もしない)。電子にかかるローレンツ力は式(8)で与えられる。
【数8】
【0038】
電界Eは光周波数で振動しており、電子はこの電界に応答し、その結果、電子は周囲に双極子の放射をすることになる。
【0039】
波長よりも小さい巨視的な物体からの光の散乱は、レイリー散乱によって見積もることができる。散乱パワーは、前方と後方、すなわち図6のy方向にピークを持つ。総レイリー散乱断面積は式(1)で与えられる。
【0040】
干渉縞の内側にある粒子からの散乱力は、式(9)で与えられる。
【数9】
【0041】
ここで、Pはレーザ出力、σはレーザスポットサイズ(断面積)、x は粒子の位置、はx方向の波数であり、kp=πである。また、z、zは円形粒子を表す積分限界である。式(9)は、散乱光の強度変調を表しており、2k=0で最大、2k=±πで最小となる。式(9)は、粒子形状のフーリエ変換であり、干渉縞にある粒子からの散乱光を測定することで、変調周波数におけるフーリエ成分を求めることができる。
【0042】
ここでは、変調深度を次のように定義する。
【数10】
式(9)を積分すると、変調深度は次のようになる(付記1参照)。
【数11】
【0043】
変調曲線を図7に示す。散乱光の振幅変調を測定することで、この図から粒子径を推測することができる。仮に、我々の検出システムが変調深度を0.03の精度で測定できるとすると、検出範囲はM=0.03~0.97となり、粒子径はd/p=0.17~1.4に確認できる。P=638nmの場合、108nm~890nmとなる。d/p=1.3~1.5とd/p=1.5~2.5の2つの領域では同じ変調深度が得られることに注意が必要である。式(1)によると、2つのゾーンは異なる光散乱力を持つことになるので、簡単に見分けることができる。
【0044】
蛍光光は同じ変調曲線を持っているが、細胞内の分布が異なると若干異なる場合がある。
【0045】
図8に示すように、粒子径が小さい場合、光信号は非常によく変調され、逆に、粒子径が大きくなり光信号が大きくなると、変調深度は低くなる。この変調深度の測定結果から、式(11)により粒子径を求めることができる。
【0046】
<6. 空洞共振器型のフローサイトメトリー>
以下、第2実施形態のレーザ干渉型フローサイトメトリーについて、図9を参照しつつ説明する。図9は、最短の干渉ピッチが得られる空洞共振器型フローサイトメトリーを示す。
【0047】
本発明の第2実施形態のレーザ干渉型フローサイトメトリー装置1Aは、サンプル流路2Aと、レーザ光源3Aと、光学系4Aと、センサ5Aとを備えている。レーザ光源3Aは、レーザ光を出射する。光学系4Aは、レーザ光源3Aから出射されたレーザ光を受光し、2本のレーザ光を交差させて、サンプル流路2A内に干渉縞領域100Aを形成する。センサ5Aは、干渉縞領域100Aを通過する粒子から放出される散乱光および蛍光光の少なくとも一方を受光する。このレーザ干渉型フローサイトメトリーシステム1Aによれば、センサが受光した散乱光および蛍光光の少なくとも一方における変調振幅に基づいて、粒子の大きさが判定される。
【0048】
光学系4Aは、2つのレーザ光を交差させて干渉縞領域を形成する空洞共振器43Aを含む。光学系4Aは、さらに、第1の部分反射キャビティミラー44Aと、対物レンズ45Aと、第2のキャビティミラー46Aとを含む。第1の部分反射キャビティミラー44Aは、レーザ光源3Aから出射されたレーザ光を受光する。対物レンズ45Aは、第1の部分反射キャビティミラー44Aを透過したレーザ光を、ミラー47Aを介してサンプル流路2Aへ集光する。第2のキャビティミラー46Aは、レーザ光をサンプル流路2Aに向けて反射させて、干渉縞ゾーン100Aを形成する。
【0049】
このレーザ干渉型フローサイトメトリーシステム1Aでは、さらに、センサ5Aが受光した散乱光および蛍光光の少なくとも一方に基づくレーザ干渉効果によって、粒子の大きさが判定される。このレーザ干渉型フローサイトメトリーシステム1Aを使用する場合、サンプル流路2Aは液体で満たされており、粒子は生体物質である。
【0050】
レーザ光は、部分反射キャビティミラー[1](第1部分反射キャビティミラー44A)を介して空洞共振器に入射し、対物レンズ(45A)によりフローセル(サンプル流路2A)に集光される。45度のミラー(ミラー47A)により、レーザ光の方向がフローセルに合わせられ、スポットに集光された後、下流側のキャビティミラー[2](第2キャビティミラー46A)で反射される。フローセルは45度ミラーとキャビティミラー[2]を貫通しているため、レーザ光源(3A)から供給されたレーザ光の一部はこれらの穴から漏れる。反射された光はアイソレーターを介して(センサ5Aによって)モニターされ、キャビティミラー[1]の位置を調整するピエゾムーバーにエラー信号を与えることによって、空洞共振を維持するために利用され、その結果、焦点でのレーザ強度が安定する。空洞内の循環光パワーは、レーザ源の光パワーよりもはるかに高く、より多くの散乱光子を提供することができる。
【0051】
空洞の中には、前方の波と後方の波の2つの流れがあり、それらが重なり合って定在波、すなわち干渉縞ができる。交差角はθ=πとなり、干渉縞のピッチは最も短くなる。
【数12】
488nmの青色レーザを使用すると、水はn=1.33であることから、p=183nmとなる。30nmから260nmの粒子を検出することができる。図1によると、SARSコロナウイルスをはじめとするさまざまなウイルスや、EVを観測することができる。
【0052】
レーザの焦点のウエスト部分での電界強度。ガウスビームを仮定すると、レイリー長は次式で与えられる。
【数13】
ここで、2Zはウエストの長さ、wはウエストの大きさである。ウエストの長さは、多くの光子を得るために十分な長さを選択する一方で、多粒子の放出が重なるのを回避するために長くし過ぎない必要がある。例えば、2Z=30μmとした場合、ウエストサイズは1.5μmとなる。ガウシアン・ビームの全角度の広がりは、
【数14】
となり、0.2ラジアンとなる。45度のミラーおよびキャビティミラー2の位置を集光点から2cmのところにした場合、ガウスビームの大きさは直径4mmになるため、直径が4mm以上のミラーを使用する必要がある。フローセルを貫通させるために1mmの穴を開けた場合、リークするパワーは2×(1mm/4mm)=0.12となるため、空洞のQファクタは8となり、循環パワーは光源レーザパワーの8倍となる。キャビティフィネスは~47であり、空洞のチューニングコントロールは厳密ではないだろう。
【0053】
図10は、空洞共振器内部の電磁界を示したものである。ここでは、TEM00ガウスモードが支配的であると仮定しているので、磁場は軸上に局在する。レーザの偏光をY軸方向が電界となるように選択すると、磁界はZ軸方向となる。粒子の速度は光の速度よりはるかに遅いため、磁場は粒子に影響を与えない。粒子上の電子群は、y軸方向の光周波数で周期的に加速され、双極子放射、すなわちレイリー散乱を行う。放射パターンはy軸に垂直なcosθ依存のメインローブを持ち、フローサイトメトリーに側方散乱(SSC)信号を与える。空洞共振器タイプでは、前方散乱(FSC)信号は得られない。
【0054】
<7.高速ウイルス検出システムへの応用 >
COVID-19のパンデミックに対抗するためには、高速なウイルス検出システムが必要である。例えば、検出時間を10秒以下に短縮することができれば、このシステムを使って、空港やその他の重要な場所で多くの乗客をスクリーニングすることができるだろう。
【0055】
なぜなら、提案されているフローサイトメトリーは、粒子径の信頼できるスケールを提供し、汚染や他のパラメータの変化に対して堅牢であるからである。さらに、自然界に感謝すべきことに、ウイルスの構造は独特かつ安定しており、直径100nmの丸い球体で、内部にはmRNAが高密度に詰め込まれており、その結果、屈折率が高くなっている。エンベロープは主に脂質二重層で構成されているが、これはウイルスのライフサイクルの組み立て/出芽の段階で宿主細胞から採取されたものであり、したがって、脂質二重層の構成は独特なものとなる。幸いなことに、サイズの異なるSARS-CoV-2の変異は報告されていない。ウイルスのmRNAには変異型があるだろうが、mRNAの長さは変わらない。なぜなら、大きく変化したmRNAは感染機能を失い、生き残ることができないからである。したがって、SARS-CoV-2を効率的かつ確実に検出するには、サイズの測定に頼ることができる。
【0056】
図11は、SARS-CoV-2の検出への可能な適用例を示している。この図は、レーザクロス方式の場合である。空洞共振器方式でも適用可能である。
【0057】
このシステムを以下のように運用することができる。
(1)蛍光標識なしで、機械を動作させて粒子を検出する。人が声を出すと、声帯が振動して粘液がミクロン単位の液滴に分離する。その人が感染している場合には、当該液滴には、ウイルスが含まれる。シャッターを閉じて、その液滴を溶液中に洗い流す。
(2)連続した多孔質フィルターを用いて、花粉やホコリなどのミクロン単位の粒子を除去する。同時に、凝集したウイルスを分離する。
(3) 検出された粒子径のヒストグラムで、100nm(SARS-CoV-2の典型的なサイズ)付近にピークが見られなければ、「陰性」。ほとんどの場合はこのようになる。
(4) ヒストグラムにピークがあれば、「非陰性」と判断し、再度、機械を動作させる。コロナウイルスのスパイクタンパク質を検出するために、蛍光標識を行う。
(5) 蛍光光によるヒストグラム測定で、ピークがあれば 「陽性」、なければ「陰性」 となる。
【0058】
PCR検査センターが併設されている場合は、蛍光標識なしで本機を稼働させ、「非陰性」の場合はPCR検査に回すことができる。こうすることで、蛍光標識検査のための洗浄時間とコストを削減することができる。並列機を導入することで、操作時間を10秒以下に短縮することができるが、1台あたりの洗浄時間は長くなる。
【0059】
<8.結論 >
本願において、本発明者は、レーザ干渉計を用いたフローサイトメトリーを提案した。これにより、粒子径測定の校正スケールが得られ、相互作用長が長くなることでより多くの散乱光子が得られ、高周波変調信号により高いS/N比が得られる。本発明者は、細胞外小胞(EV)やナノメートルスケールのウイルスの研究が、このサイトメトリーによって加速されることを期待している。また、高速ウイルス検出システムは、呼吸器系の感染症が蔓延するリスクを排除することで、パンデミック下でも国際空港の開港を維持することを可能にする。
【0060】
<9.付記1:変調深度の導出について>
干渉縞の内側にある粒子からの散乱力は、式(15)で与えられる。
【数15】
【0061】
ここで、Pはレーザ出力、σはレーザスポットサイズ(断面積)、xは粒子の位置、kはx方向の波数でありkp=π、zおよびzは円形粒子を表す積分限界である。式(15)は、散乱光の強度変調を表しており、2k=0で最大、2k=πで最小となる。
【数16】
【数17】
【数18】
【数19】
【0062】
対称条件を用いて
【数20】
この式を近似的に積分する。第1項は次のように近似できる。
【数21】
ここで、kd=πである。
【数22】
【0063】
最小出力についても、余弦項に負の符号をつけて同じ式を求めることができる。ここで、変調強度を次のように定義する。
【数23】
【数24】
【0064】
<10.付記2:先行技術「新竹モニター」>
従前、高エネルギー粒子加速器内の電子ビームサイズの測定にレーザ干渉法を用いることに成功し、現在では「新竹モニター」と呼ばれている。まず、1990年代にSLACスタンフォードにおけるFFTB実験で波長1064nmのYAGレーザを用いて50GeV電子ビームの60nm前後の横断面サイズを測定した。また、2000年代には、日本のKEKのATF施設で波長532nmのYAGレーザの第2高調波を用いて30nmのスポットサイズを測定した。
【0065】
図12は、新竹モニターの概略図である。YAGレーザは、波長1064nmの赤外光を出射し、当該赤外光はハーフミラーによって2本のビームに分割され、高エネルギー加速器の真空管内の共通相互作用点に導かれる。2本のレーザ光を重ねると、周期的な干渉縞が形成される。当該干渉縞のピッチpは式(25)で与えられる。
【数25】
ここで、θは交差角度、λはレーザの波長である。向かい合わせ交差を用いることで、レーザの半波長分の最小ピッチサイズが得られる。一方、小さな角度で交差させると、波長よりもはるかに大きなピッチサイズとなり得る。したがって、交差角度を適切に選択することで、ターゲットのサイズに合わせて感度範囲を調整することができる。
【0066】
高エネルギーの電子ビームが相互作用点を通過すると、電子の一部がレーザの光子に衝突し、コンプトン散乱ガンマ線を発生させて下流の検出器に入射する。相互作用点における電子ビームの垂直方向の位置をスキャンして、ガンマ線の強度を測定した。
【0067】
図13に示すように,電子ビームサイズが干渉縞ピッチよりもはるかに小さい場合,ガンマ線の数は干渉縞内の光強度に応じて変化する。電子ビームサイズが大きくなると、高域と低域の寄与が相殺され、変調深度が小さくなる。この変調深度の測定から、スポットサイズを求めることができる。
【0068】
電子と光子が衝突する確率は放射結合で与えられる。この過程は、レーザ電界の電界強度の2乗で扱うことができる。
【数26】
直角交差θ=90度では変調深度がゼロになるため、この方法は機能しないということを留意しなければならない。これは、電界と磁界の寄与が互いに相殺されるためである。フローサイトメトリーでは、粒子の速度は光の速度よりもはるかに遅いため、磁場の寄与は無視できるほど小さくなり、θ=90度の直角交差でも機能する。
【0069】
電子ビームにガウス型の密度分布があると仮定すると、ガンマ線の数は次のように推定できる。
【数27】
ここで、N(y)は任意に規格化されたものである。yは電子ビームの垂直方向の位置である。kは垂直方向の波数である。これは、フーリエ変換であり、すなわち、N(y)は2kというスペシャルな周波数のガウス密度分布のフーリエ成分であることを意味する。
【数28】
【数29】
ピーク対平均値比をアベレージで割って求められる変調深度は
【数30】
【0070】
図14は、変調深度Mをビームサイズの関数として示したもので、最終焦点テストビームのスポットサイズモニター:交差角174度、30度および6度を示している。
【0071】
図15に測定データの一例を示しており、レーザ干渉縞に伴う周期的な変化が明瞭に見られる。この変調深さから、電子ビームの垂直スポットサイズを求めた。
【0072】
<11.先行技術:インラインホログラフィ >
図16を参照して先行技術を説明する。図16は、Giglio Marzio et. al,の「A METHOD FOR MEASURING PROPERTIES OF PARTICLES BY MEANS OF INTERFERENCE FRINGE ANALYSIS AND CORRESPONDING APPARATUS」, EP 1 721 144 B1, 2007の特許公報から引用したシステム図である。
【0073】
上記のシステムは、D. Gaborが発明したインラインホログラフィと同じである(“A New Microscopic Principle”, Nature May 15, 1948)。電子顕微鏡では、拡大対物レンズの性能が、その非線形球面収差のために分解能を制限してしまう。この問題を回避するために、D. Gaborは拡大レンズを取り除く試みを行い、現在では「ホログラフィー」と呼ばれている「干渉検出方式」を導入した。(下図参照、ガボールの論文からの引用)。焦点から発生した球状の波は、画像を拡大する役割を果たす。干渉縞パターン(複数のリング)は、球状の参照波と物体(小粒子)からの散乱波との干渉効果によって生じる。
【0074】
デジタル技術が発達した現在では、記録されたパターンを簡単に解析することができる。CCDやCMOSを使ってスクリーン上に2次元の強度マップを描き、そのマップにフーリエ変換を施した後に波のバックプロパゲーションを行い、最後に逆フーリエ変換を施すと、サンプルの位置に物体のイメージが浮かび上がる。この技術は「デジタルホログラフィー」と呼ばれている。重要なことは、記録された2Dマップは強度情報であるのに対し、求められた物体像は複素数であり、振幅と位相の情報、すなわち試料による減衰と位相の変化を含んでいることである。したがって、このシステムを使えば、吸収画像と位相画像を同時に観察することができる。小型の生体試料はほとんどが透明であるため、位相イメージングは非常に重要なスキームとなる。先行技術のGiglio Marzio 2007は、この点で重要な発明である。
【0075】
しかしながら、インラインホログラフィの特殊な分解能は、点焦点の大きさによって制限される。D. Gaborは、球状の波源として「点焦点」を想定したが、実際の点焦点の大きさはゼロではない。そのスポットサイズは、物理的な回折現象によって制限される。集光レンズを使った場合、利用可能なスポットサイズは次のように与えられる。
【数31】
【0076】
これは、対物レンズの解像度と全く同じ式である。例えば、最先端のレンズである油浸タイプのNA=1.4のレンズと、代表的な488nmの青色レーザとを使用すると、焦点の大きさは212nmとなる。このサイズがインラインホログラフィの最高の解像度となる。
【0077】
コロナウイルスの平均直径は80-120nmであり、この解像度よりもはるかに小さい。そのため、青色レーザを用いた上記のインラインホログラフィでは、SARS-CoV-2を含むコロナウイルスを識別することはできない。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【手続補正書】
【提出日】2022-03-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0039
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0039】
波長よりも小さい微視的な物体からの光の散乱は、レイリー散乱によって見積もることができる。散乱パワーは、前方と後方、すなわち図6のy方向にピークを持つ。総レイリー散乱断面積は式(1)で与えられる。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0041
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0041】
ここで、Pはレーザ出力、σはレーザスポットサイズ(断面積)、x は粒子の位置、 はx方向の波数であり、kp=πである。また、z、zは円形粒子を表す積分限界である。式(9)は、散乱光の強度変調を表しており、2k=0で最大、2k=±πで最小となる。式(9)は、粒子形状のフーリエ変換であり、干渉縞にある粒子からの散乱光を測定することで、変調周波数におけるフーリエ成分を求めることができる。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0069
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0069】
電子ビームにガウス型の密度分布があると仮定すると、ガンマ線の数は次のように推定できる。
【数27】
ここで、N(y)は任意に規格化されたものである。yは電子ビームの垂直方向の位置である。kは垂直方向の波数である。これは、フーリエ変換であり、すなわち、N(y)は2kという空間周波数のガウス密度分布のフーリエ成分であることを意味する。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0073
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0073】
上記のシステムは、D. Gaborが発明したインラインホログラフィと同じである(“A New Microscopic Principle”, Nature May 15, 1948)。電子顕微鏡では、拡大対物レンズの性能が、その非線形球面収差のために分解能を制限してしまう。この問題を回避するために、D. Gaborは拡大レンズを取り除く試みを行い、現在では「ホログラフィー」と呼ばれている「干渉検出方式」を導入した。(図17参照、ガボールの論文からの引用)。焦点から発生した球状の波は、画像を拡大する役割を果たす。干渉縞パターン(複数のリング)は、球状の参照波と物体(小粒子)からの散乱波との干渉効果によって生じる。
【外国語明細書】