(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022078006
(43)【公開日】2022-05-24
(54)【発明の名称】インバータ、電気駆動装置、車両、並びに、インバータの制御可能なスイッチを制御する方法、および対応するコンピュータプログラム製品
(51)【国際特許分類】
H02P 21/22 20160101AFI20220517BHJP
H02P 27/04 20160101ALI20220517BHJP
【FI】
H02P21/22
H02P27/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021184220
(22)【出願日】2021-11-11
(31)【優先権主張番号】10 2020 214 224.6
(32)【優先日】2020-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】521219051
【氏名又は名称】ヴァレオ、シーメンス、イーオートモーティブ、ジャーマニー、ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】VALEO SIEMENS EAUTOMOTIVE GERMANY GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100208188
【弁理士】
【氏名又は名称】榎並 薫
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー、ランベティウス
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ロータの過熱を防止できるインバータを備えた電気駆動装置の提供。
【解決手段】インバータ(110)は、入力端子(IT+、IT-)と、-出力端子(OT)と、前記入力端子および前記出力端子に接続された制御可能なスイッチ(Q、Q’)と、制御装置と、を備え、前記制御装置は、制御可能な前記スイッチを制御して、前記入力端子におけるDC電圧を、非同期電気モータを駆動して目標トルク(T
*)を達成することが意図された前記出力端子におけるAC電圧に、前記目標トルク(T
*)がトルク決定方法に従って決定される第1動作モードにおいて、およびロータ温度(Tr)に応じた第2運転モードであって、前記ロータにおける損失を前記第1動作モードに比べて減少させつつ、前記目標トルク(T
*)を前記第1動作モードの前記トルク決定方法に従って決定されたままに維持する第2運転モードにおいて、選択的に変換するように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
-入力端子(IT+、IT-)と、
-出力端子(OT)と、
-前記入力端子(IT+、IT-)および前記出力端子(OT)に接続された制御可能なスイッチ(Q、Q’)と、
-制御装置(116)と、
を備えるインバータ(110)において、
前記制御装置(116)は、制御可能な前記スイッチ(Q、Q’)を制御して、前記入力端子(IT+、IT-)におけるDC電圧を、非同期電気モータ(108)を駆動して目標トルク(T*)を達成することが意図された前記出力端子(OT)におけるAC電圧に、
-前記目標トルク(T*)がトルク決定方法に従って決定される第1動作モードにおいて、および
-ロータ温度(Tr)に応じた第2運転モードであって、前記ロータにおける損失を前記第1動作モードに比べて減少させつつ、前記目標トルク(T*)を前記第1動作モードの前記トルク決定方法に従って決定されたままに維持する第2運転モードにおいて、
選択的に変換するように構成されている、
インバータ(110)。
【請求項2】
前記第2動作モードにおいて、前記制御装置(116)は、前記モータ(108)のステータにおける損失を前記第1動作モードに比べて増加させるように、制御可能な前記スイッチ(Q、Q’)を制御するように構成されている、
請求項1に記載のインバータ(110)。
【請求項3】
前記第2動作モードにおいて、前記制御装置(116)は、前記モータ(108)のすべりを前記第1動作モードに比べて減少させるように、制御可能な前記スイッチ(Q、Q’)を制御するように構成されている、
請求項1または2に記載のインバータ(110)。
【請求項4】
前記第2動作モードにおいて、前記制御装置(116)は、ステータ直角位相電流を前記第1動作モードに比べて減少させるように、制御可能な前記スイッチ(Q、Q’)を制御するように構成されている、
請求項3に記載のインバータ(110)。
【請求項5】
前記制御装置(116)は、前記ロータ温度(Tr)が所定の閾値を超えたとき、前記第1動作モードから前記第2動作モードに移行するように構成されている、
請求項1~4のいずれか一項に記載のインバータ(110)。
【請求項6】
前記制御装置(116)は、前記ロータ温度(Tr)に加えて、前記モータ(108)のステータ温度(Ts)に従って、前記第1動作モードから前記第2動作モードに移行するように構成されている、
請求項1~7のいずれか一項に記載のインバータ(110)。
【請求項7】
前記制御装置(116)は、前記ステータ温度(Ts)が所定の閾値未満であるとき、前記第1動作モードから前記第2動作モードに移行するように構成されている、
請求項6に記載のインバータ(110)。
【請求項8】
前記第1動作モードにおいて、前記制御装置(116)は、前記トルク目標に達するように、最大トルク/電流法に従って制御可能な前記スイッチ(Q、Q’)を制御するように構成されている、
請求項1~7のいずれか一項に記載のインバータ(110)。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のインバータ(110)と、前記インバータ(110)により駆動される電気モータ(108)と、を備える電気駆動装置(104)。
【請求項10】
車輪(102)と、前記車輪(102)のうちの少なくとも1つを少なくとも間接的に駆動するための請求項9に記載の電気駆動装置(104)と、備える車両(100)。
【請求項11】
インバータ(110)の制御可能なスイッチ(Q、Q’)を制御する方法であって、制御可能な前記スイッチ(Q、Q’)は、前記インバータ(110)の入力端子(IT+、IT-)および出力端子(OT)に接続されており、
前記方法は、制御可能な前記スイッチ(Q、Q’)を制御して、前記入力端子(IT+、IT-)におけるDC電圧を、非同期電気モータ(108)を駆動して目標トルク(T*)を達成することが意図された前記出力端子(OT)におけるAC電圧に、
-前記目標トルク(T*)がトルク決定方法に従って決定される第1動作モードにおいて、および
-ロータ温度(Tr)に応じた第2運転モードであって、前記ロータにおける損失を前記第1動作モードに比べて減少させつつ、前記目標トルク(T*)を前記第1動作モードの前記トルク決定方法に従って決定されたままに維持する第2運転モードにおいて、
変換する工程を備える方法。
【請求項12】
コンピュータプログラム製品であって、前記プログラムがコンピュータにより実行されたとき、前記コンピュータに請求項11に記載のインバータを制御するための方法を実施させる命令を備えたコンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ、ならびにこのようなインバータを備えた電気駆動装置および車両に関する。また、本発明は、インバータの制御可能なスイッチを制御する方法、および対応するコンピュータプログラム製品に関する。本発明は、特に自動車で使用されることが意図されている。
【背景技術】
【0002】
インバータは、例えばバッテリから供給されるDC電圧からAC電圧を生成するために使用される。このAC電圧は、ステータおよびロータを備える非同期電気モータを駆動するために使用され得る。場合により、ロータが過熱することがある。
【発明の概要】
【0003】
本発明の目的は、ロータの過熱を防止できるようにすることである。
【0004】
本発明の目的は、
-入力端子と、
-出力端子と、
-前記入力端子および前記出力端子に接続された制御可能なスイッチと、
-制御装置と、
を備えるインバータにおいて、
前記制御装置は、制御可能な前記スイッチを制御して、前記入力端子におけるDC電圧を、非同期電気モータを駆動して目標トルクを達成することが意図された前記出力端子におけるAC電圧に、
-前記目標トルクがトルク決定方法に従って決定される第1動作モードにおいて、および
-ロータ温度に応じた第2運転モードであって、前記ロータにおける損失を前記第1動作モードに比べて減少させつつ、前記目標トルクを前記第1動作モードの前記トルク決定方法に従って決定されたままに維持する第2運転モードにおいて、
選択的に変換するように構成されているインバータにより達成され得る。
【0005】
本発明によれば、第2動作モードにおいて、第1動作モードに比べて目標トルクを変更することなく、ロータ損失を減少させることでロータ温度を低下させ得る。
【0006】
このことは、ステータまたはロータのいずれかが高温になり過ぎた場合にトルクを減少させることからなる解決策に対して有利である。実際に、トルクを減少させると、ステータ損失の減少、並びにロータ損失の減少がもたらされる。しかしながら、特にモータによって車輪が駆動される電気自動車においては、トルクの損失は加速の損失を招き得る。これにより、運転のしやすさや、例えばトラックを動かすためにトルクが必要な場合には安全性にも影響が及ぼされ得る。さらに、本発明により、ロータ冷却システムが単純化され得る。
【0007】
組み合わせても別個でもよい本発明のさらなる選択的特徴を以下に述べる。
【0008】
前記第2動作モードにおいて、前記制御装置は、前記モータのステータにおける損失を前記第1動作モードに比べて増加させるように、制御可能な前記スイッチを制御するように構成され得る。
【0009】
前記第2動作モードにおいて、前記制御装置は、前記モータのすべりを前記第1動作モードに比べて減少させるように、制御可能な前記スイッチを制御するように構成され得る。
【0010】
前記第2動作モードにおいて、前記制御装置は、ステータ直角位相電流(quadrature current)を前記第1動作モードに比べて減少させるように、制御可能な前記スイッチを制御するように構成され得る。この特徴により、本発明は容易に実施され得る。なぜならば、直流電流および直角位相電流は、一般にモータを駆動するために制御されるパラメータであるからである。
【0011】
前記制御装置は、前記ロータ温度が所定の閾値を超えたとき、前記第1動作モードから前記第2動作モードに移行するように構成され得る。この特徴により、ロータの過熱を回避すべく第2動作モードに切り替わるための単純な条件が提供される。
【0012】
前記制御装置は、前記ロータ温度に加えて、前記モータのステータ温度に従って、前記第1動作モードから前記第2動作モードに移行するように構成され得る。この特徴により、ステータを犠牲にし得る状況下で、第2動作モードに切り替わることを回避することができる。
【0013】
前記制御装置は、前記ステータ温度が所定の閾値未満であるとき、前記第1動作モードから前記第2動作モードに移行するように構成され得る。この特徴により、ロータの過熱を回避すべく第2動作モードに切り替わるための単純な条件が提供される一方で、ステータが第2動作モードを支持可能であることが保証される。
【0014】
前記第1動作モードにおいて、前記制御装置は、前記トルク目標に達するように、最大トルク/電流法に従って制御可能な前記スイッチを制御するように構成され得る。この特徴により、ロータ温度が正常であるとみなされる場合、モータの効率的な制御が達成され得る。
【0015】
また、本発明は、本発明によるインバータと、前記インバータにより駆動される電気モータと、を備える電気駆動装置に関する。モータは、好適には誘導モータである。
【0016】
また、本発明は、車輪と、前記車輪のうちの少なくとも1つを少なくとも間接的に駆動するための本発明による電気駆動装置と、備える車両に関する。
【0017】
また、本発明は、
インバータの制御可能なスイッチを制御する方法であって、制御可能な前記スイッチは、前記インバータの入力端子および出力端子に接続されており、
前記方法は、制御可能な前記スイッチを制御して、前記入力端子におけるDC電圧を、非同期電気モータを駆動して目標トルクを達成することが意図された前記出力端子におけるAC電圧に、
-前記目標トルクがトルク決定方法に従って決定される第1動作モードにおいて、および
-ロータ温度に応じた第2運転モードであって、前記ロータにおける損失を前記第1動作モードに比べて減少させつつ、前記目標トルクを前記第1動作モードの前記トルク決定方法に従って決定されたままに維持する第2運転モードにおいて、
変換する工程を備える方法に関する。
【0018】
また、本発明は、コンピュータプログラム製品であって、前記プログラムがコンピュータにより実行されたとき、前記コンピュータに本発明によるインバータを制御するための方法を実施させる命令を備えたコンピュータプログラム製品に関する。
【0019】
本発明を、以下の図面を参照してより具体的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明によるインバータを備えた車両の実施形態の概略図である。
【
図3】
図3は、インバータにより駆動されるモータのトルクを、モータの直流電流および直角位相電流の関数として示すグラフである。
【
図4】
図4は、インバータの2つの異なる動作モードについての、モータのすべりに対するトルクを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1を参照して、本発明による車両100を説明する。記載例において、車両100は、自動車である。
【0022】
車両100は、車輪102と、車輪102のうちの少なくとも1つを少なくとも間接的に駆動するように構成された電気駆動装置104と、を備えている。車両100は、電気駆動装置100に電力を供給するためのバッテリ等のDC電圧源106をさらに備えている。DC電圧源106は、DC電圧Eを供給するように構成されている。
【0023】
電気駆動装置104は、電気非同期モータ108と、例えば電力を供給することによりモータ108を駆動するように構成されたインバータ110と、を備えている。例えば、モータ108は、ステータと、ステータに対して回転軸を中心として回転するように構成されたロータとを備える回転電気モータである。モータは、メインインダクタンスLhを有している。記載の実施例に関して、モータ108は誘導モータである。
【0024】
ステータは、ステータ相を有している。記載例において、モータ108は、3つのステータ相を有する三相電気モータである。ステータ108は、p極対の相を有する。
【0025】
インバータ110は、ステータ相にそれぞれ相電流が流れるようにモータを駆動することで、回転軸を中心に回転する回転磁界を生成することが意図されている。これらのステータ電流は、ベクトルとして考察され得るため、結果として得られる電流ベクトルは、回転フレームにおいて、DQZ(Direct-Quadrature-Zero(直流-直角位相-ゼロ))変換または同等の変換によって、直流電流idおよび直角位相電流iqとして表すことができる。
【0026】
モータ108は、本実施形態において誘導モータである。したがって、ロータは、トルクを発生させるために、磁界の速度よりも遅い速度で回転しなければならない。この差は、例えば周波数差として表されるモータ108のすべりとして定義される。
【0027】
インバータ110は、DC電圧源106に接続された入力端子IT+、IT-を備えている。これにより、DC電圧Eが、入力端子IT+、IT-に存在する。より正確には、入力端子IT+、IT-は、DC電圧源106の正端子に接続された正入力端子IT+と、DC電圧源106の負端子および電気的なグランドGNDに接続された負入力端子IT-と、を含んでいる。
【0028】
インバータ110は、モータ108に接続された出力端子OTをさらに備えている。電気モータ108に給電するように、AC電圧が出力端子OTに存在することが意図されている。AC電圧は、単相または多相のAC電圧であり得る。モータ108が三相電気モータである記載例において、AC電圧は、三相AC電圧である。
【0029】
インバータ110は、入力端子IT+、IT-および出力端子OTに接続された、メインスイッチと呼ばれる制御可能なスイッチQ、Q’をさらに備えている。メインスイッチQ、Q’は、例えばトランジスタを備える半導体スイッチであってもよい。各メインスイッチQ、Q’は、例えば金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)、炭化ケイ素MOSFET(SiC MOSFET)のうちの1つを備えている。
【0030】
記載例において、インバータ110は、モータ108のステータ相にそれぞれ関連付けられたスイッチレッグ1141-3を備えている。各スイッチレッグ1141-3は、正入力端子IT+に接続されたハイサイド(HS)メインスイッチQ’と、負入力端子IT-に接続されたローサイド(LS)メインスイッチQと、を備えている。HSメインスイッチQ’とLSメインスイッチQとは、モータ108の関連するステータ相に接続された出力端子OTに接続された中間点において、互いに接続されている。
【0031】
各スイッチレッグ1141-3は、2つの構成の間で切り替えるように制御されることが意図されている。ハイサイド(HS)構成と呼ばれる第1構成において、HSメインスイッチQ’が閉じ(オン)、LSメインスイッチQが開く(オフ)ことで、DC電圧Eが、関連するステータ相に本質的に印加される。ローサイド(LS)構成と呼ばれる第2構成において、HSメインスイッチQ’が開き(オフ)、LSメインスイッチQが閉じる(オン)ことで、ゼロ電圧が、関連するステータ相に本質的に印加される。
【0032】
インバータ100は、メインスイッチQ、Q’がDC電圧EをAC電圧に変換するように、メインスイッチQ、Q’を制御するように構成された制御装置116をさらに備えている。記載例において、制御装置116は、上述の2つの構成間で各スイッチレッグ114を切り替えるように構成されている。
【0033】
電気駆動装置104は、ロータの温度Trおよびステータの温度Tsをそれぞれ測定するための温度センサをさらに備え得る。あるいは、ロータ温度Trおよびステータ温度Tsは、測定に代えて推定され得る。
【0034】
図2を参照して、制御装置116の一例について説明する。以下の説明において、本発明の理解に有用な制御装置116の特徴のみを説明する。
【0035】
制御装置116に対する入力信号は、例えば車両100の「アクセル」ペダルを制御することにより提供されるトルク目標T*である。
【0036】
制御装置116は、トルク目標T*から、ステータ直流電流目標id*およびステータ直角位相電流目標iq*を決定するように構成された電流決定モジュール204をさらに備えている。
【0037】
制御装置116は、ステータ直流電流目標id*およびステータ直角位相電流目標iq*から、スイッチレッグ1141-3に対するコマンドを決定するように構成されたコマンド決定モジュール206をさらに備えている。これらのコマンドは、ステータ電流が目標id*、iq*に到達するように、スイッチレッグ1141-3をそれらのHS構成とLS構成との間で切り替えさせることが意図されている。例えば、コマンドは、空間ベクトル変調に従って決定される。
【0038】
制御装置116は、ロータ温度Trと、記載例においてステータ温度Tsとに応じて、通常動作モードから保護動作モードに切り替わるように構成されている。
【0039】
この目的のために、制御装置116は、記載例において(測定または推定された)ロータ温度Trと、記載例において(測定または推定された)ステータ温度Tsとをモニタリングするための温度モニタモジュール208をさらに備えている。ロータ温度が上昇したこと(例えば所定の閾値を超えたこと)や、ステータ温度が低いこと(例えば所定の閾値未満であること)をモジュール208が検出すると、制御装置は、通常動作モードから保護動作モードに移行する。
【0040】
より正確には、記載例において、通常動作モードでは、目標トルクT*は、ロータ温度Trに依存しないトルク決定方法に従って決定され、電流決定モジュール204は、通常電流決定方法に従って電流目標id*、iq*を決定する。例えば、この通常電流決定方法は、MTPA(最大トルク/電流(Maximum Torque Per Ampere))法である。
【0041】
保護動作モードにおいて、トルクは、通常動作モードと同じトルク決定方法により決定される。このようにして、決定された目標トルクは、通常動作モードでも保護動作モードでも同じである。具体的には、動作モードの切り替え時に、トルク目標T*を決定するための条件が実質的に同一のままであれば、トルク目標T*は実質的に一定のままである。しかしながら保護動作モードでは、電流決定モジュール204は、依然として目標トルクT*を達成しつつも、通常動作モードに比べてロータ損失を減少させるように電流目標id*、iq*を決定する。例えば、電流決定モジュール204は、すべりを減少させるように電流目標id*、iq*を決定する。
【0042】
より正確には、すべりの減少は、例えば直角位相電流iqを減少させることでモータの動作点を変更することにより達成され得る。
【0043】
また、非同期モータ108のトルクTは、式:T=(3/2)*p*Lh(id)*id*iqで表すことができる。ここで、pはステータの極対の個数であり、Lhはモータ108のメインインダクタンス(これは、直流電流idの関数であってもよい)である。この式から分かるように、直流電流idおよび直角位相電流iqの種々の値により、同一トルクに達し得る。このため、所望のトルクを達成しつつ、直角位相電流iqを減少させることができる。
【0044】
したがって、記載例において、電流決定モジュール204は、通常動作モードと同じトルク目標T*を維持しつつ、保護動作モードにおける直角位相電流iqを通常動作モードに比べて減少させるように電流目標id*、iq*を決定する。この結果、直流電流目標id*が増加して、直角位相電流目標iq*の減少が補償される。
【0045】
図3は、直流電流iqおよび直角位相電流idに従うトルクTを示す。より正確には、等トルク(isotorque)線(線L等)が示されている。トルクTは、実線の矢印で示す方向に増加している。また、
図3は、MTPAポイント(○印)、および等しい直流位相電流ポイントおよび直角位相電流ポイント(×印)も示している。
【0046】
目標トルクT
*が等トルク線Lのうちの1つであることを考慮すると、通常動作モードにおいて、電流決定モジュール204は、例えば、MTPAを達成し得るとともに、これによりポイントP1の直流相電流目標および直角位相電流目標を選択し得る。これに対し、保護動作モードにおいて、電流決定モジュール204は、より小さい直角位相電流目標iq
*を有する等トルク線Lの別のポイント、すなわち
図3で破線の矢印で示された等トルク線Lの部分におけるポイントを選択し得る。例えば、電流決定モジュール204は、直流電流目標および直角位相電流目標を等しい値として設定することにより、ポイントP2の直流電流目標および直角位相電流目標を選択するように構成され得る。実際に、
図3に示すように、(過熱が発生しにくい)非常に低いトルクを除き、等しい直流電流ポイントと直角位相電流ポイントは、MTPAポイントに比べて小さい直角位相電流を有している。
【0047】
したがって、電流決定モジュール204は、保護動作モードにおいて、直流電流目標と直角位相電流目標とを等しい値として設定するように構成され得る。
【0048】
図4は、すべりSに応じたトルクTであって、MPTAの場合(実線)と、所定の最大ステータ電流Imaxに達した場合、すなわち、id
2+iq
2=Imax
2の場合とを示している。Imaxは、通常、インバータ100およびその最大電流容量により決定されるが、モータやプロジェクトの要件によっても決定され得る。
【0049】
図2に示す例において、MPTAの場合、ステータ電流は、最大ステータ電流の2/3であり、トルクは198Nであり、2Hzのすべりで達成されている(ポイントP3)。
【0050】
ステータ電流(すなわち(id2+iq2)の正の平方根)を最大ステータ電流Imaxに設定することで、1.242Hzというより低いすべりが、トルクを198Nmで維持するように使用され得る(ポイントP4)。このより小さいすべりは、本例において、ロータ損失の40%の減少をもたらす。したがって、ロータの温度が低下し得る。これは、上述の例においてステータ損失が225%増加するという犠牲を伴うため、ステータ温度が上昇し得る。しかしながら、状況により、特にステータはロータより容易に冷却され得るため、このような温度上昇は許容される場合がある。
【0051】
したがって、電流決定モジュール204は、トルク目標T*に達することを可能にするすべりで、最大ステータ電流に達するように直流電流目標および直角位相電流目標を設定するように構成され得る。
【0052】
制御装置116は、データ処理ユニット(例えばマイクロプロセッサ)と、処理ユニットがアクセス可能なメインメモリとを備えるコンピュータ装置を備え得る。コンピュータ装置は、上述のモジュールの機能を実現するために、処理ユニットに対する命令を含むコンピュータプログラムをさらに備えている。このコンピュータプログラムは、例えば、メインメモリにロードされることが意図されている。これにより、処理ユニットはその命令を実行し得る。あるいは、これらのモジュールの全部または一部が、ハードウェアモジュールの形態で、すなわち、コンピュータプログラムを伴わない例えば微細配線された電子回路の形態で実現され得る。
【0053】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではないことに留意されたい。今まで開示してきた教示に照らして、上述の実施形態に様々な変更を加える得ることは、当業者に明確であろう。
【0054】
例えば、トルク目標T*は、制御装置116によって明示的に決定されなくてもよい。例えば、制御装置116は、直流電流目標id*および直角位相電流目標iq*を、速度目標およびロータの速度から直接決定するように構成され得る。
【0055】
上述の発明の詳細な説明において、使用された用語は、本発明を本明細書に示された実施形態に限定するものと解釈されるべきではなく、当業者がその一般的な知識を上に開示された教示の実施に適用することにより、上記範囲にあるすべての等価なものを含むものと解釈されるべきである。
【外国語明細書】