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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022078044
(43)【公開日】2022-05-24
(54)【発明の名称】コロニー形成培地及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20220517BHJP
   C07K 14/50 20060101ALI20220517BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220517BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20220517BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20220517BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20220517BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220517BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220517BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20220517BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220517BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220517BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220517BHJP
   A61P 37/00 20060101ALI20220517BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
C12N5/0775 ZNA
C07K14/50
C12N5/10
A61K35/28
A61K35/545
A61P1/04
A61P9/00
A61P9/10
A61P19/00
A61P21/00
A61P25/00
A61P25/28
A61P37/00
A61P37/06
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022016667
(22)【出願日】2022-02-04
(62)【分割の表示】P 2018568463の分割
【原出願日】2017-03-14
(31)【優先権主張番号】2016900983
(32)【優先日】2016-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(31)【優先権主張番号】2016904039
(32)【優先日】2016-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(31)【優先権主張番号】2017900318
(32)【優先日】2017-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】518327992
【氏名又は名称】サイナータ セラピューティクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100125081
【弁理士】
【氏名又は名称】小合 宗一
(72)【発明者】
【氏名】スルクヴィン、イゴール
(72)【発明者】
【氏名】ウエニシ、ジーン
(72)【発明者】
【氏名】ヘイ、デレク
(72)【発明者】
【氏名】ドリエル、ダイアナ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】iPSCを含むPSCをMSCに分化させるための、改良され、拡張可能な方法を提供する。
【解決手段】間葉系幹細胞(MSC)の製造方法であって、該方法が、以下:
(a)LiCl及びFGF2を含むがPDGFを含まない間葉系コロニー形成培地(M-CFM)中、正常酸素条件下で、間葉系コロニーを形成させるのに十分な時間、原始中胚葉細胞を培養すること;並びに
(b)MSCを製造するために、(a)の間葉系コロニーを接着培養すること
を含み、(b)のMSCが、前記M-CFM中で製造されたのではないMSCと比べて、優れたT細胞免疫抑制性の性質を有する、方法である。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
miR-145-5p、miR-181b-5p及びmiR-214-3pを発現するが、miR-127-3pやmiR-299-5pを発
現しない、間葉系幹細胞 (MSC)。
【請求項2】
CD73+CD105+CD90+CD146+CD44+CD10+CD31-CD45-表現型を有する、請求項1に記載のMSC。
【請求項3】
間葉系幹細胞(MSC)の製造方法であって、該方法が以下:
(a)LiCl及びFGF2を含むがPDGFを含まない間葉系コロニー形成培地 (M-CFM)中、
正常酸素条件下で、間葉系コロニーを形成させるのに十分な時間、原始中胚葉細胞を培養すること;並びに
(b)MSCを製造するために、(a)の間葉系コロニーを接着培養すること
を含み、(b)のMSCが、前記M-CFM中で製造されたのではないMSCと比べて、優れたT細胞免
疫抑制性の性質を有する、方法。
【請求項4】
前記原始中胚葉細胞が、間葉血管芽細胞(MCA)の潜在性を有する原始中胚葉細胞である
、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記MCAの潜在性を有する原始中胚葉細胞が、EMHlin-KDR+APLNR+PDGFRアルファ+表現型を有する、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記間葉系コロニーを形成するために十分な時間が約8日~約14日、約10日~約14日、
約11~約13日又は約12日である、請求項3~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記MSCのT細胞免疫抑制性の性質が、以下:
(a')FGF2、及び任意選択で、PDGFを含むが、LiClを含まない培地中、正常酸素条件下で、間葉系コロニーを形成させるのに十分な時間、原始中胚葉細胞を培養すること;並びに
(b')MSCを製造するために、(a')の間葉系コロニーを接着培養すること
を含む方法によって製造されたMSCと比べて決定される、請求項3~6のいずれか一項に
記載の方法。
【請求項8】
前記MSCのT細胞免疫抑制性の性質が、FGF2、BMP4、アクチビンA及びLiClを含む分化培
地中、低酸素条件下で、約2日間、PSCから分化させた原始中胚葉細胞から製造されたMSC
と比べて決定される、請求項3~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
T細胞免疫抑制性の性質が、ヘルパーT(CD4+)リンパ球の増殖の抑制を含む、請求項3~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記M-CFMが、約1 mMのLiClを含む、請求項3~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記M-CFMが、約5 ng/mL~約100 ng/mLのFGF2、又は約10 ng/mL~約50 ng/mLのFGF2、約10 ng/mL又は約20 ng/mLのFGF2を含む、請求項3~10のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項12】
前記M-CFMが、約1 mMのLiCl及び約10 ng/mLのFGF2、又は約1 mMのLiCl及び約20 ng/mLのFGF2を含む、請求項3~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
原始中胚葉細胞を培養することに先立って、以下:
原始中胚葉を形成するために、PSCを、FGF2、BMP4、アクチビンA及びLiClを含む
分化培地中、低酸素条件下で、約2日間培養すること;並びに
分化培地を、LiCl及びFGF2を含むがPDGFを含まないM-CFMで置換すること
を含む、多能性幹細胞 (PSC)を原始中胚葉細胞に分化させることを更に含む、請求項3~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞がヒトのである、請求項3~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記PSCが、人工PSC(iPSC)である、請求項13又は請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記分化培地が、以下:
約10 ng/mL~約50 ng/mLのFGF2、若しくは約50 ng/mLのFGF2;
約50 ng/mL~約250 ng/mLのBMP4、若しくは約50 ng/mLのBMP4;
約1 ng/mL~約15 ng/mLのアクチビンA、約10 ng/mL~約15 ng/mLのアクチビンA、約12.5 ng/mLのアクチビンA、若しくは約1.5 ng/mLのアクチビンA;及び/又は
約1 mM~約2 mMのLiCl
を含む、請求項13~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記分化培地が、以下:
約50 ng/mLのFGF2;
約50 ng/mLのBMP4;
約1.5 ng/mLのアクチビンA;及び
約2 mMのLiCl
を含む、請求項13~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
コラーゲンIV及び/又はテネイシンC上で培養することを含む、請求項3~17のいず
れか一項に記載の方法。
【請求項19】
間葉系コロニー及び/又はMSCを継代することを更に含む、請求項3~18のいずれか
一項に記載の方法。
【請求項20】
継代することが以下:
間葉系コロニー及び/若しくはMSCを、約3日間培養すること;
フィブロネクチン及び/若しくはコラーゲンI上で、間葉系コロニー及び/若し
くはMSCを培養すること;並びに/又は
1、2、3、4、5若しくは6継代
を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
請求項3~20のいずれか一項に記載の方法によって製造されたMSC。
【請求項22】
請求項1、2又は21のいずれか一項に記載のMSCを含む、MSCの集団。
【請求項23】
請求項1、2若しくは21のいずれか一項に記載のMSC、又は請求項22に記載のMSCの集団を含む、治療用組成物。
【請求項24】
請求項1、2若しくは21のいずれか一項に記載のMSC、請求項22に記載のMSCの集団、又は請求項23に記載の治療用組成物を含む容器を含む、キット。
【請求項25】
約1 mMのLiCl、及び約5 ng/mL~約100 ng/mLのFGF2又は約10 ng/mL~約50 ng/mLのFGF2、約10 ng/mLのFGF2又は約20 ng/mLのFGF2を含むが、PDGFを含まない、間葉系コロニー形成培地 (M-CFM)。
【請求項26】
約1 mMのLiCl及び約10 ng/mLのFGF2、又は約1 mMのLiCl及び約20 ng/mLのFGF2を含む、請求項25に記載のM-CFM。
【請求項27】
水を含む液体と混合した場合に、約1 mMのLiCl、及び約5 ng/mL~約100 ng/mLのFGF2又は約10 ng/mL~約50 ng/mLのFGF2、約10 ng/mLのFGF2又は約20 ng/mLのFGF2を含むが、PDGFを含まないM-CFMを生成する、LiCl及びFGF2を含むがPDGFを含まない組成物。
【請求項28】
水を含む液体と混合した場合に、約1 mMのLiCl及び約10 ng/mLのFGF2、又は約1 mMのLiCl及び約20 ng/mLのFGF2を含むM-CFMを生成する、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
例えば、移植片対宿主病、全身性エリテマトーデス(SLE)、クローン病、多系統萎縮症
、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、脳卒中、心血管障害、整形外科的障害、又は移植された固形臓器の拒絶等の状態を治療するための医薬の製造における、請求項1、2若しくは21のいずれか一項に記載のMSC、又は請求項22に記載のMSCの集団の使用。
【請求項30】
例えば、移植片対宿主病、全身性エリテマトーデス(SLE)、クローン病、多系統萎縮症
、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、脳卒中、心血管障害、整形外科的障害、又は移植された固形臓器の拒絶等の状態の治療方法であって、請求項1、2若しくは21のいずれか一項に記載のMSC、請求項22に記載のMSCの集団、又は請求項23に記載の治療用組成物を、対象に投与することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト多能性幹細胞 (PSC)を間葉系幹細胞 (MSC)に分化させる方法、及びそのような分化に有用である組成物に関する。本発明はまた、該方法によって分化したMSC、
該方法によって分化したMSCの集団、並びにMSC又はMSCの集団の方法及び使用にも関する
【背景技術】
【0002】
背景
多能性幹細胞 (PSC)、特に、胚性幹細胞 (ESC)及び人工多能性幹細胞 (iPSC)を含むヒ
トPSCは、in vitroにおけるヒトの発生を研究するため、及び新規な細胞ベースの治療用
生成物を開発するための機会を提供する。治療用生成物の製造のための開始材料としてのPSCの使用は、in vitroで無制限に複製し、任意の細胞型に分化するPSCの能力の結果として、単一の細胞バンクから、実質的に無制限の数の細胞を製造する可能性を含む、幾つかの利点を有する。
【0003】
殆んどのプロトコールは、マウス胚性線維芽細胞(MEF)上、又はEngelbreth-Holm-Swarm
(EHS)マウス肉腫から抽出した可溶化基底膜調製物であるMATRIGEL(登録商標)上で増殖させたヒトPSCを分化させる。化学的に定義された、ヒトPSCの誘導用及び維持用のゼノジェンフリー培地及びマトリクスが、記載されている。ヒトPSCから造血前駆細胞を誘導す
るための、化学的に定義された、ゼノジェンフリーの管理された分化プロトコールもまた、米国特許出願公開第2014/0273211 A1号に記載されている。
【0004】
特に、米国特許出願公開第2014/0273211 A1号は、ヒト多能性幹細胞を分化させる方法
であって、以下:(a)ヒト多能性幹細胞を準備すること;並びに(b)FGF2、BMP4、アクチビンA及びLiClを含む細胞培養培地中、低酸素条件下で、約2日の期間、ヒト多能性幹細胞を培養し、間葉血管芽細胞の潜在性を有するEMHlin-KDR+APLNR+PDGFRアルファ+原始中胚葉
細胞の細胞集団を形成することを含む、方法について記載する。米国特許出願公開第2014/0273211 A1号はまた、ヒト多能性幹細胞を分化させるためのゼノジェンフリー培養培地
であって、以下:約50~約250 ng/mLのBMP4;約10~約15 ng/mLのアクチビンA;約10~約50 ng/mLのFGF2;及び約1 mM~約2 mMのLiClが補充されたIF9S培地を含む、培地につ
いても記載する。
【0005】
しかしながら、米国特許出願公開第2014/0273211 A1号は、改良された間葉系コロニー
形成培地 (M-CFM)に関しては、何ら触れていない。
【0006】
間葉系幹細胞 (MSC)は、細胞療法として重要な有望性を有し、現在、移植片対宿主病を含む、多数の疾患を治療するための臨床試験中である。iPSCのin vitroでの増殖(expansion)によって、実質的に無制限にMSCの供給を提供し得るので、人工多能性幹細胞 (iPSC)由来のMSCは、直接供給されたMSC、即ち、例えば骨髄、臍帯血、脂肪組織等の組織に由
来するMSCよりも、特有の優れた利点を有する。
【0007】
それでもなお、その有望性にも関わらず、当該技術分野において理解されているように、例えば、実験室スケールからグッドマニュファクチュアリングプラクティス(good manufacturing practice:GMP)スケールへのスケールアップといった、in vitroでMSCを製
造することにおける課題が残っており、それは、如何なる生物学的産物についても、容易に取得できるものでも、必ずしも予測可能なものでもない。
【0008】
従って、iPSCを含むPSCを、MSCに分化させるための、改良され、拡張可能な方法についてのニーズがある。
【0009】
本明細書中で言及される任意の刊行物は、参照により本明細書に取り込まれる。しかしながら、任意の刊行物が本明細書で参照される場合、そのような参照は、該刊行物によってオーストラリア又は任意の他の国における当該技術分野において、一般常識の一部が形成されていると認めることを構成するものではない。
【発明の概要】
【0010】
概要
本発明者等は、PSCをMSCに分化させる分化培地のための特定の組成物であって、そのようなMSCが、本明細書で開示された分化培地の非存在下で分化したMSCと比べて優れた免疫抑制性の性質を有する、組成を特定した。更に、該方法は、GMPスケール、即ち、治療用
途のMSCを供給するために十分であるスケールに適用することができる。
【0011】
第一の態様においては、本発明は、miR-145-5p、miR-181b-5p及びmiR-214-3pを発現す
るが、miR-127-3pやmiR-299-5pを発現しないMSCを提供する。
【0012】
一実施形態においては、MSCはCD73+CD105+CD90+CD146+CD44+CD10+CD31-CD45-の表現型
を有する。
【0013】
第二の態様においては、本発明は、MSCの製造方法であって、該方法が以下:
(a)LiCl及びFGF2を含むがPDGFを含まないM-CFM中、正常酸素条件下で、間葉系コロニーを形成させるのに十分な時間、原始中胚葉細胞を培養すること;並びに
(b)MSCを製造するために、(a)の間葉系コロニーを接着培養することを含み、
(b)のMSCが、前記M-CFM中で製造されたのではないMSCと比べて、優れたT細胞免疫
抑制性の性質を有する、方法を提供する。
【0014】
一実施形態においては、原始中胚葉細胞は、間葉血管芽細胞 (MCA)の潜在性を有する原始中胚葉細胞である。一実施形態においては、MCAの潜在性を有する原始中胚葉細胞は、EMHlin-KDR+APLNR+PDGFRアルファ+の表現型を有する。
【0015】
一実施形態においては、間葉系コロニーを製造するために十分な時間は、約8日~約14
日である。一実施形態においては、間葉系コロニーを製造するために十分な時間は、約12日である。
【0016】
一実施形態においては、MSCのT細胞免疫抑制性の性質は、以下:
(a')FGF2、及び任意選択で、PDGFを含むが、LiClを含まない培地中、正常酸素条件下で、間葉系コロニーを形成させるのに十分な時間、原始中胚葉細胞を培養すること;並びに
(b')MSCを製造するために(a')の間葉系コロニーを接着培養すること、
を含む方法によって製造されたMSCと比べて決定される。
【0017】
一実施形態においては、FGF2、BMP4、アクチビンA及びLiClを含む分化培地中、低酸素
条件下で、約2日間、PSCから分化させた原始中胚葉細胞から製造されたMSCと比べて、MSCのT細胞免疫抑制性の性質が決定される。
【0018】
第三の態様においては、本発明は、第二の態様の方法により製造されたMSCを提供する
【0019】
第四の態様においては、本発明は、第一又は第三の態様のMSCを含むMSCの集団を提供する。MSCの集団(The population of MSCs)。
【0020】
第五の態様においては、本発明は、第一若しくは第三の態様のMSC又は第四の態様のMSCの集団を含む治療用組成物を提供する。
【0021】
第六の態様においては、本発明は、第一若しくは第三の態様のMSC、第四の態様のMSCの集団、又は第五の態様の治療用組成物を含む容器を含むキットを提供する。
【0022】
第七の態様においては、本発明は、約1 mMのLiCl、及び約5 ng/mL~約100 ng/mLのFGF2若しくは約10 ng/mL~約50 ng/mLのFGF2、約10 ng/mLのFGF2若しくは約20 ng/mLのFGF2を含むが、PDGFを含まない間葉系コロニー形成培地 (M-CFM)を提供する。
【0023】
第八の態様においては、本発明は、水を含む液体と混合した場合に、約1 mMのLiCl、及び約5 ng/mL~約100 ng/mLのFGF2若しくは約10 ng/mL~約50 ng/mLのFGF2、約10 ng
/mLのFGF2若しくは約20 ng/mLのFGF2を含むが、PDGFを含まないM-CFMを生成する、LiCl及びFGF2を含むがPDGFを含まない組成物を提供する。
【0024】
第九の態様においては、本発明は、例えば、骨嚢胞、骨新生物、骨折、軟骨欠損、変形性関節症、靱帯損傷、骨形成不全症、骨壊死、骨粗鬆症、再生不良性貧血、移植片対宿主病 (GvHD)、骨髄異形成症候群;1型糖尿病、2型糖尿病、自己免疫肝炎、肝硬変、肝不全
、拡張型心筋症、心不全、心筋梗塞、心筋虚血、クローン病、潰瘍性大腸炎、火傷、表皮水疱症、エリテマトーデス、関節リウマチ、シェーグレン病、全身性硬化症、気管支肺異形成、慢性閉塞性気道疾患、気腫、肺線維症、筋萎縮性側索硬化症 (ALS)、アルツハイマー病、脳の損傷、運動失調、退行性椎間板疾患、多系統萎縮症、多発性硬化症、パーキンソン病、網膜色素変性症、ロムベルグ病、脊髄損傷、脳卒中、筋ジストロフィー、四肢虚血、腎障害、ループス腎炎、子宮内膜症、及び骨髄又は固形臓器移植の合併症等の状態を治療又は予防するための医薬の製造における、第一若しくは第三の態様のMSC、又は第四
の態様のMSCの集団の使用を提供する。
【0025】
第十の態様においては、本発明は、例えば、骨嚢胞、骨新生物、骨折、軟骨欠損、変形性関節症、靱帯損傷、骨形成不全症、骨壊死、骨粗鬆症、再生不良性貧血、GvHD、骨髄異形成症候群;1型糖尿病、2型糖尿病、自己免疫肝炎、肝硬変、肝不全、拡張型心筋症、心不全、心筋梗塞、心筋虚血、クローン病、潰瘍性大腸炎、火傷、表皮水疱症、エリテマトーデス、関節リウマチ、シェーグレン病、全身性硬化症、気管支肺異形成、慢性閉塞性気道疾患、気腫、肺線維症、ALS、アルツハイマー病、脳の損傷、運動失調、退行性椎間板
疾患、多系統萎縮症、多発性硬化症、パーキンソン病、網膜色素変性症、ロムベルグ病、脊髄損傷、脳卒中、筋ジストロフィー、四肢虚血、腎障害、ループス腎炎、子宮内膜症、及び骨髄又は固形臓器移植の合併症等の状態を治療又は予防する方法であって、該方法が、第一若しくは第三の態様のMSC、第四の態様のMSCの集団、又は第五の態様の治療用組成物を、対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0026】
また、多能性幹細胞(PSC)を間葉系幹細胞 (MSC)に分化させる方法であって、該方法が
以下:
(a)原始中胚葉細胞を形成するために、FGF2、BMP4、アクチビンA及びLiClを含む分化培地中、低酸素条件下で、約2日間、PSCを培養すること;
(b)(a)の分化培地を、LiCl及びFGF2を含むがPDGFを含まない間葉系コロニー形成培地 (M-CFM)で置換すること;
(c)(b)のM-CFM中、正常酸素条件下、間葉系コロニーを形成させるのに十分な時
間、(b)の原始中胚葉細胞を培養すること;並びに
(d)MSCを製造するために、(c)の間葉系コロニーを接着して培養すること
を含み、該MSCが、前記M-CFM中で製造されたのではないMSCと比べて、優れたT細胞免疫抑制性の性質を有する、方法が開示される。
【0027】
一実施形態においては、上記方法は、以下を更に含む:
(e)(d)のMSCを増殖させること。
【0028】
一実施形態においては、原始中胚葉細胞は、間葉血管芽細胞 (MCA)の潜在性を有する原始中胚葉細胞である。一実施形態においては、MCAの潜在性を有する原始中胚葉細胞は、MCAの潜在性を有するEMHlin-KDR+APLNR+PDGFRアルファ+原始中胚葉細胞である。
【0029】
一実施形態においては、間葉系コロニーを形成するために十分な時間は約8日~約14日
である。一実施形態においては、間葉系コロニーを形成するために十分な時間は約12日である。
【0030】
一実施形態においては、MSCのT細胞免疫抑制性の性質は、FGF2、及び任意選択で、PDGFを含むが、LiClを含まない培地中で培養された原始中胚葉細胞から製造されたMSCと比べ
て決定される。
【0031】
一実施形態においては、MSCのT細胞免疫抑制性の性質は、FGF2、BMP4、アクチビンA及
びLiClを含む分化培地中、低酸素条件下で、約2日間、PSCから分化させた原始中胚葉細胞から製造されたMSCと比べて決定される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
本発明の実施形態を、添付の図を参照して、ほんの一例として以下に記載する。
図1図1は、ホモ二量体としてのヒトアクチビンAの一例であるポリペプチドを表すアミノ酸配列 (配列番号1)である。
図2図2は、ホモ二量体としてのヒトBMP4の一例であるポリペプチドを表すアミノ酸配列 (配列番号2)である。配列番号2は、完全長BMP4前駆体のアミノ酸配列のアミノ酸303~408に対応する。
図3図3は、ヒトI型コラーゲンα1鎖の一例であるポリペプチドを表すアミノ酸配列 (配列番号3)である。ヒトI型コラーゲン (コラーゲンI)は、一例として、配列番号3によって表される2本のα1鎖、及び1本のα2鎖を有する、3重へリックス三量体である。配列番号3は、完全長I型コラーゲンα1鎖前駆体のアミノ酸162~1218に対応する。
図4図4は、ヒトIV型コラーゲンα1鎖の一例であるポリペプチドを表すアミノ酸配列 (配列番号4)である。ヒトIV型コラーゲン (コラーゲンIV)は、一例として、配列番号4によって表される1本のα1鎖を含む、3重へリックスのヘテロ三量体である。配列番号4は、完全長IV型コラーゲンα1鎖前駆体のアミノ酸173~1669に対応する。
図5図5は、ヒトFGF2の一例であるポリペプチドを表すアミノ酸配列 (配列番号5)である。
図6図6は、二量体としてのヒトフィブロネクチンの一例であるポリペプチドを表すアミノ酸配列 (配列番号6)である。配列番号6は、完全長フィブロネクチン前駆体のアミノ酸32~2446に対応する。
図7図7は、ホモ二量体としてのヒトPDGF (PDGF-BB)の一例であるポリペプチドを表すアミノ酸配列 (配列番号7)である。配列番号7は、完全長PDGFサブユニットB前駆体のアミノ酸82~190に対応する。
図8図8は、六量体としてのヒトテネイシンCの一例であるポリペプチドを表すアミノ酸配列 (配列番号8)である。配列番号8は、完全長テネイシンC前駆体のアミノ酸23~2201に対応する。
図9図9は、開示されたMSC、及び本方法以外の方法で得られた71個の他のMSC試料のmiRNA発現の主成分分析を表すプロットである。AD、脂肪(■);BM、骨髄(◆);iPSC_MSC、開示されたMSC(▲);iPSC、開示されたMSCに分化前のiPSC(+)。
図10図10は、実施例6の試験の模式図である。
図11図11は、実施例6の試験の組織学の模式図である。
図12図12は、実施例6の心臓におけるMSCの生着の蛍光顕微鏡写真 (ヒト核染色)を含む。ヒト核染色は、LV中央の全てのレベルで行った (凍結切片)。28日目での細胞の生着の証拠はなかった。ヒトミトコンドリア染色をLV基部で行った (パラフィン切片)。28日目での細胞の生着の証拠はなかった。
図13図13は、機能評価 (TTE)を示し、ベースライン及び1ヶ月時点での、実施例6のビヒクル、BM MSC及びPSC-MSCのレシピエントの心臓のMモード画像の短軸を含む。画像は、ビヒクル及びBM MSCのレシピエントと比較して、PSC-MSCのレシピエントにおける、心室拡張の減少、及び心室収縮性の増大を示す。
図14図14は、機能評価 (TTE)を示し、個別の評価を示す線グラフ、及び実施例6の梗塞した心臓の短縮率(FS: fractional shortening)の群の評価を示す棒グラフを含む。ビヒクル群においては、ビヒクルを注射した1匹のラットでベースラインFSが高かったが、1匹のラットを除き、0日目と比較して、28日目においては、全体的にFSにおける変化が無いか又は最小の変化であった (増加の平均は1.39%)。BM MSC群においては、3/3ラットは、0日目と比較して、28日目にFSが悪化していた (減少の平均は2.3%)。PSC-MSC群においては、4/4ラットは、0日目と比較して、28日目にFSが増加していた (増加の平均は5.48%)。
図15図15は、実施例6の梗塞した心臓において、ピクロシリウスレッド(picosirius red)染色を使用して、瘢痕サイズを示す顕微鏡写真を含む。画像は、ビヒクル及びBM-MSCで処理した群と比較して、PSC-MSC処理群において、ピクロシリウスレッド(Picosirius Red)染色を使用して、瘢痕サイズが明らかに減少したことを示す。
図16図16は、実施例6の心臓における、血管新生を評価する蛍光顕微鏡写真(vWF染色)を含む。画像は、群間で、サイズ及び血管数における差異が無いことを示す。
図17図17は、実施例6と同様の試験の模式図である。
図18図18は、GvHDに関する実施例7のマウスの+19日目での、体重変化%の散布図である。
図19図19は、実施例7のマウスにおけるGvHD病の重篤度を示す線グラフである。
図20図20は、実施例7のマウスのGvHDの生存を示すKaplan-Meierプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
詳細な説明
本発明者等は、特に、改良され化学的に定義されたゼノジェンフリーの間葉系コロニー形成プロトコールを含む、改良され化学的に定義されたゼノジェンフリーの分化プロトコールを定義した。驚くべきことに、改良されたプロトコールは、従来の分化及び間葉系コロニー形成プロトコールと比較した場合に、優れた免疫抑制性の性質を有するMSCを提供
する。
【0034】
改良された間葉系コロニー形成プロトコールを含む、改良され化学的に定義されたゼノジェンフリーの分化プロトコールの開発において、本発明者等は、以下:PDGFの存在/非存在;LiClの存在/非存在;低い/高いアクチビンA濃度;及び低い/高い播種密度を含
む、幾つかの可変要素を研究した。
【0035】
米国特許第7,615,374号において、「PDGF-BBが、間葉細胞の増殖を改善したが、コロニー形成には必須でなかった」ということが主張されたので、PDGFをテストした。しかしながら、驚くべきことに、この先行する教示に反して、本発明者等は、PDGFを含む培地にお
ける分化によって製造されたMSCと比べて、PDGFなしで、優れた免疫抑制性の性質を有す
るMSCが製造されたことを、本明細書に記載する。
【0036】
アクチビンAに関して、驚くべきことに、本発明者等は、より高濃度のアクチビンAと比べて、より低濃度のアクチビンAを含む培地中で分化させたMSCにおいて、免疫抑制が改善されたことを見出した。
【0037】
LiClは、Wntシグナル伝達を活性化し、分化の最初の48時間での中胚葉誘導を改善する
ために分化培地に含められており、このことは当該技術分野において理解されている。
【0038】
しかしながら、本発明の前には、LiClは、M-CFMにおいて、クローン化培養におけるコ
ロニー形成を改善するために使用されていなかった。また、これは、本明細書で開示された方法の驚くべき利点であった。
【0039】
従って、定義された条件下での、PSC (例、ヒトESC又はヒトiPSC)を分化させるための
方法が、本明細書に開示されている。そのような分化によって、これらの系列の機能的研究のためのソース、及び臨床治療のソースであり得る、MSC又はMSC集団が提供される。
【0040】
特にT細胞を抑制することによって、免疫調節性/免疫抑制性の効果を発揮するMSCの能力は、GvHD、自己免疫疾患を含む免疫疾患、心血管障害、整形外科的障害、及び移植した固形器官の拒絶を含む、幅広い状態における、MSCの治療効果の中心にあると考えられる
。幾つかの特定の例としては、骨嚢胞、骨新生物、骨折、軟骨欠損、変形性関節症、靱帯損傷、骨形成不全症、骨壊死、骨粗鬆症、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群;1型糖尿
病、2型糖尿病、自己免疫肝炎、肝硬変、肝不全、拡張型心筋症、心不全、心筋梗塞、心
筋虚血、クローン病、潰瘍性大腸炎、火傷、表皮水疱症、エリテマトーデス、関節リウマチ、シェーグレン病、全身性硬化症、気管支肺異形成、慢性閉塞性気道疾患、気腫、肺線維症、ALS、アルツハイマー病、脳の損傷、運動失調、退行性椎間板疾患、多系統萎縮症
、多発性硬化症、パーキンソン病、網膜色素変性症、ロムベルグ病、脊髄損傷、脳卒中、筋ジストロフィー、四肢虚血、腎障害、ループス腎炎、子宮内膜症、及び骨髄又は固形臓器移植の合併症が挙げられる。
【0041】
MSCは、傷害治癒における重要な役割を果たすと考えられ、消化器系における、例えば
、肝硬変及び肝不全における、筋骨格系における、歯周組織における、糖尿病性重症下肢虚血における、骨壊死における、火傷に関連する障害における、心筋梗塞における、角膜損傷における、脳における、脊髄における、肺における、並びに放射線被曝の治療におけるものを含む、組織の傷害及び変性疾患の治療において、効果的であることが示されている。
【0042】
MSCは、移植片対宿主病、全身性エリテマトーデス (SLE)、クローン病、多系統萎縮症
、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症及び脳卒中を含む、免疫疾患における治療結果を示している。
【0043】
MSCは、T細胞、B細胞、樹状細胞、マクロファージ及びナチュラルキラー細胞に対する
免疫抑制性の活性を発揮することが示されている。理論に拘束されることを希望するものでないが、根底にある機構は、免疫抑制性のメディエーター、例えば一酸化窒素、インドールアミン2,3、ジオキシゲナーゼ、プロスタグランジンE2、腫瘍壊死因子誘導性遺伝子6タンパク質、CCL-2及びプログラムド・デス・リガンド1を含み得る。これらのメディエーターは、例えば、炎症性サイトカイン、例えばIFNγ、TNFα及びIL-17等によって刺激さ
れるまで、低レベルで発現する。
【0044】
幾つかの実施形態においては、開示されるMSCは、投与及び遊走に続いて、損傷した組
織に生着し得る。
【0045】
MSCは、全身又は末梢、例えば、静脈内 (IV)、動脈内、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内(intracerobrospinal)、皮下 (SC)、関節内、滑膜内、髄腔内、冠動脈内、経心内膜(transendocardial)、外科移植、局所及び吸入 (例、肺内)を含む経路によって投与し得る。MSCは、生体適合性材料の足場と組合せて投与し得る。
【0046】
MSCは、傷害、障害又は疾患の進行の前、最中又は後に投与し得る。一実施形態におい
ては、MSCは炎症の最中に投与される。MSCは、(a)予防手段として、(b)関連する状態が診断されてすぐに、(c)他の治療が失敗した場合に、及び/又は(d)状態が予め定義された重症度に進んだ場合に投与しても良い。
【0047】
一実施形態においては、MSCは、投与に先立って、前処理される。前処理は、増殖因子
を用いてか、又は遺伝子編集によって行っても良く、例えば増殖因子によってMSCをプラ
イミングし得、遺伝子編集によってMSCに新たな治療特性を与え得る。
【0048】
本明細書中において別段に定義しない限り、本明細書で使用される技術用語及び科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって、及び公開された文書を参照することによって、普通に理解されるのと同じ意味を有する。
【0049】
用語「a」又は「an」は、1以上を指し、例えば、「a molecule」は、1以上の分子を表
すと理解されることに留意すべきである。そうであるから、用語「a」又は「an」、「1以上」及び「少なくとも1」は、本明細書において互いに交換可能に使用される場合がある
【0050】
発明の詳細な説明に続く特許請求の範囲において、及び発明の詳細な説明において、言語または必要な意味を表現するために文脈上別段の必要がある場合を除いて、用語「comprise」又は、例えば「comprises」若しくは「comprising」等の変形が、包括的な意味に
おいて、即ち、記載された特徴の存在を特定するために使用され、発明の様々な実施形態における更なる特徴の存在又は追加を排除しないように使用される。
【0051】
本明細書で用いられる場合、用語「約」は、その数字±25%の所定の大きさの数値範囲を意図する。他の実施形態においては、用語「約」は、その数字±20%、±15%、±10%又は±5%の所定の大きさの数値範囲を意図する。例えば、一実施形態においては、「約3グラム」は2.7~3.3グラム(即ち、3グラム±10%)等の値を示す、等である。
【0052】
同様に、分化プロセスは、順序付けられた順番に起こるイベントを含む一方、該イベントのタイミングは少なくとも25%変動し得る。例えば、特定の工程は、一実施形態においては、1日続くものとして開示される場合がある一方、該イベントは1日より長く又は短く続く場合がある。例えば、「1日」は約18~約30時間の期間を含み得る。他の実施形態に
おいては、期間は、その期間の±20%、±15%、±10%又は±5%変動し得る。複数日間
であると表示された期間は、「1日」の複数である場合があり、例、例えば2日は約36~約60時間等の期間に及ぶ等であり得る。別の実施形態においては、時間の変動が少ない場合があり、例えば2日目は0日目から48±3時間であり;4日目は0日目から96±3時間であり、5日目は0日目から120時間±3時間である。
【0053】
本明細書で用いられる場合、「多能性幹細胞」又は「PSC」は、それ自身を無限に複製
する能力、及び任意の他の種類の細胞に分化する能力を有する細胞を指す。多能性幹細胞は、主に2種類:胚性幹細胞 (ESC)及び人工多能性幹細胞 (iPSC)がある。
【0054】
本明細書で用いられる場合、「胚性幹細胞」又は「ESC」は、in vitroでの受精治療を
完了し、余分な胚を有する患者から同意を得て供与を受けた、5~7日齢胚から単離された細胞を指す。ESCの使用は、ヒト胚から細胞を採取することについての倫理的懸念によっ
て、ある程度、妨げられている。
【0055】
好適なヒトPSCとしては、H1及びH9ヒト胚性幹細胞が挙げられる。
【0056】
本明細書で用いられる場合、「人工多能性幹細胞」又は「iPSC」は、成人の細胞に由来するESC様の細胞を指す。iPSCは、ESCと非常に良く似た特徴を有しているが、iPSCは胚に由来しないので、ESCに関連する倫理的懸念を回避する。その代わり、典型的には、iPSC
は「リプログラム」されて多能性状態に戻されている、完全に分化した成人細胞に由来する。
【0057】
好適なヒトiPSCとしては、線維芽細胞に由来するiPSC 19-9-7T、MIRJT6i-mND1-4及びMIRJT7i-mND2-0、並びに骨髄単核細胞に由来するiPSC BM119-9が挙げられるが、それらに限定されない。他の好適なiPSCは、Cellular Dynamics International (CDI;Nasdaq:ICEL;Madison、WI、USA)から入手し得る。
【0058】
幾つかの実施形態においては、PSCは、約5000細胞/cm2~約15,000細胞/cm2、例、6000細胞/cm2、7000細胞/cm2、8000細胞/cm2、9000細胞/cm2、10,000細胞/cm2、11,000細胞/cm2、12,000細胞/cm2、13,000細胞/cm2、又は14,000細胞/cm2の初期密度でプレーティングする。
【0059】
一実施形態においては、間葉系コロニーを製造するために十分な時間は、約8日~約14
日である。一実施形態においては、間葉系コロニーを製造するために十分な時間は、約10日~約14日である。一実施形態においては、間葉系コロニーを製造するために十分な時間は、約11日~約13日である。一実施形態においては、間葉系コロニーを製造するために十分な時間は、約8日、約9日、約10日、約11日、約13日又は約14日である。一実施形態においては、間葉系コロニーを製造するために十分な時間は、約12日である。
【0060】
本明細書で用いられる場合、「間葉血管芽細胞(MCA)の潜在性を有するEMHlin-KDR+APLNR+PDGFRアルファ+原始中胚葉細胞」は、典型的な原始線条及び側板/胚外中胚葉遺伝子を発現する細胞を指す。これらの細胞は、血清フリー培地中で、FGF2に応答して、間葉血管芽細胞 (MCA)及び血管芽細胞コロニーを形成する潜在性を有する。本発明の方法によれば、これらの細胞は間葉系幹細胞 (MSC)になる。
【0061】
用語EMHlin-は、CD31、VE-カドヘリン内皮マーカー、CD73及びCd105間葉/内皮マーカ
ー、並びにCD43及びCD45造血マーカーの発現を欠いていることを示す。
【0062】
本明細書で用いられる場合、「間葉(mesenchyme)」又は「間葉系(mesenchymal)」
は、中胚葉に由来し、造血組織 (リンパ系及び循環系)、及び例えば骨及び、軟骨等の結
合組織に分化する胚性結合組織を指す(reffers to to)。しかしながら、MSCは造血細胞に分化しない。
【0063】
本明細書で用いられる場合、「間葉系コロニー」は、真のMSCに先行する、CD73-間葉系前駆体を指す。CD73+MSCを製造するためには、例、フィブロネクチン/コラーゲンコートしたプレート上での間葉系コロニーの更なる接着培養が必要である。
【0064】
本明細書で用いられる場合、「間葉系幹細胞」又は「MSC」は、骨髄、脂肪組織(脂肪
)、胎盤及び臍帯血を含む、様々な組織から単離され得る、特定の型の幹細胞を指す。MSCは「間葉系間質細胞」としても知られる。本発明の方法によれば、MSCは、間葉血管芽細胞 (MCA)の潜在性を有するEMHlin-KDR+APLNR+PDGFRアルファ+原始中胚葉細胞から形成さ
れる。
【0065】
MSCは、例えば、サイトカイン、ケモカイン及び増殖因子等の生物活性分子を分泌し、
免疫系を調節する能力を有する。MSCは、生着に依存せずに、複製を促進し、免疫系に影
響することが示されている。換言すれば、MSC自身は、必ずしも宿主に取り込まれず、む
しろ、それらは短い期間内で効果を発揮し、次いで排除される。しかしながら、MSCは生
着する場合がある。
【0066】
治療用MSCは、「自己」又は「同種異系」のいずれかであり得る。本明細書で用いられ
る場合、「自己」は、例えば、患者が、骨髄又は脂肪組織から単離された自身の細胞で治療されることを意味する一方で、「同種異系」は、ドナー由来の細胞を使用して他人を治療することを意味する。本開示によれば、同種異系MSCは、iPSCを介してドナーから得ら
れる。
【0067】
同種異系MSCは、他人の中で、免疫反応を起こすことが示されておらず、それゆえ、そ
れらはレシピエントに対するドナーの免疫マッチング(immune-matching)を要求しない
。このことは重要な商業的な利点を有する。
【0068】
本明細書で用いられる場合、「間葉血管芽細胞」又は「MCA」は、MSCへの前駆体である細胞を指す。MSCは、本発明の方法によって製造し得る。
【0069】
本明細書で用いられる場合、「分化する」は、1つの細胞型から別の型、特に、より分
化していない型の細胞が、より分化した型の細胞へ変化する細胞のプロセスを指す。
【0070】
本明細書で用いられる場合、「培地(medium)」又はその複数形の「培地(media)」
は、細胞の増殖をサポートするために設計された液体又はゲルを指す。幾つかの実施形態においては、細胞培養培地はIF9S培地を含む。幾つかの実施形態においては、培地は、9S濃縮培地サプリメントを利用し、IMDM/F12基本培地中での9S濃縮培地サプリメントの希釈によって、IF9S細胞培養培地を製造する。濃縮9S培地サプリメントは以下:L-アスコルビン酸2-リン酸Mg2+塩、1-チオグリセロール (モノチオグリセロール)、追加的な亜セレン
酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、GLUTAMAXTM (又はグルタミン)、非必須アミノ酸
、化学的に定義された脂質濃縮物、ホロ-トランスフェリン及びインスリンの9つのサプリメントを含む。幾つかの実施形態においては、濃縮9S培地サプリメントは、基本培地中において希釈された時点での最終作用濃度の10×~1000×の濃度で、各成分を含む。一実施形態においては、IF9S培地は、IMDM、F12及び9Sを以下:0.5×IMDM、0.5×F12、2.1 mg/mLの重炭酸ナトリウム、L-アスコルビン酸2-リン酸Mg2+塩 (64 μg/mL)、1-チオグリセロ
ール(50 μg/mL (460 μM、40 μL/L))、亜セレン酸ナトリウム (基本培地中に存在する
すべてのものに加えて;8.4 ng/mL)、ポリビニルアルコール (10 mg/mL)、GLUTAMAXTM (1×)、非必須アミノ酸 (1×)、化学的に定義された脂質濃縮物 (1×)、ホロ-トランスフ
ェリン (10.6 μg/mL)及びインスリン(20 μg/mL) の通り含む。
【0071】
今回開示された培地は、特定の成分(例、モルフォゲン、小分子及び造血サイトカイン)を含んでも良いが、同じ、同等又は類似の性質を有する他の成分を、当該分野において公知であるように、これらの開示されたものに加えて又はそれらに代えて使用しても良いことを意図する。
【0072】
幾つかの実施形態においては、IF9S培地の成分は置換しても良い。例えば、アスコルビ
ン酸及び1-チオグリセロールは、抗酸化特性を有する化合物の任意のサプリメント及び/又はチオール含有化合物で置換し得る。GLUTAMAXTMは、L-グルタミンの任意のサプリメントで置換し得る。ヒトの体が他のアミノ酸から生成し得るアミノ酸についての一般用語である、「非必須アミノ酸」は、アミノ酸の任意のサプリメントで置換し得る。具体的にはLife Technologiesが流通させている溶液である、「化学的に定義された脂質濃縮物」は
、脂質の任意のサプリメントで置換し得る。追加的な亜セレン酸塩、インスリン及びホロ-トランスフェリンは、任意のインスリン-トランスフェリン-亜セレン酸塩のサプリメン
トで置換し得る。ポリビニルアルコールは、生物学的に不活性な培地増粘化合物の任意のサプリメントで置換し得る。
【0073】
本明細書で用いられる場合、「分化培地」は、細胞の分化をサポートするために設計された、換言すれば、1つの細胞型から別の型に変化する細胞のプロセスをサポートする培
地を指す。本発明の方法によれば、分化培地は、ヒトPSCを間葉血管芽細胞 (MCA)の潜在
性を有するEMHlin-KDR+APLNR+PDGFRアルファ+原始中胚葉細胞に変化させるプロセスをサ
ポートするために使用する。
【0074】
幾つかの実施形態においては、分化培地中における濃度は:BMP4は約10 ng/mL~約250
mg/mL;アクチビンAは約1 ng/mL~約15 ng/mL;FGF2は約5 ng/mL~約50 ng/mL;及
びLiClは約1 mM~約2 mMである。
【0075】
幾つかの実施形態においては、分化培地中におけるBMP4の濃度は、約10 ng/mL、約15 ng/mL、約20 ng/mL、約25 ng/mL、約30 ng/mL、約35 ng/mL、約40 ng/mL、約45 ng/mL、約50 ng/mL、約60 ng/mL、約70 ng/mL、約80 ng/mL、約90 ng/mL、約100 ng
/mL、約110 ng/mL、約120 ng/mL、約130 ng/mL、約140 ng/mL、約150 ng/mL、約160 ng/mL、約170 ng/mL、約180 ng/mL、約190 ng/mL、約200 ng/mL、約210 ng/mL、約220 ng/mL、約230 ng/mL、約240 ng/mL又は約250 ng/mLである。
【0076】
分化培地中におけるアクチビンAの濃度は、約1 ng/mL、約2 ng/mL、約3 ng/mL、約4
ng/mL、約5 ng/mL、約6 ng/mL、約7 ng/mL、約8 ng/mL、約9 ng/mL、約10 ng/mL、約11 ng/mL、約12 ng/mL、約13 ng/mL、約14 ng/mL又は約15 ng/mLであっても良
い。
【0077】
分化培地中におけるFGF2の濃度は、約1 ng/mL、約5 ng/mL、約10 ng/mL、約15 ng/mL、約20 ng/mL、約25 ng/mL、約30 ng/mL、約35 ng/mL、約40 ng/mL、約45 ng/mL又は約50 ng/mLであっても良い。
【0078】
分化培地中におけるLiClの濃度は、約0.5 mM、約0.6 mM、約0.7 mM、約0.8 mM、約0.9 mM、約1 mM、約1.1mM、約1.2 mM、約1.3 mM、約1.4 mM、約1.5 mM、約1.6 mM、約1.7 mM
、約1.8 mM、約1.9 mM、約2 mM、約2.1 mM、約2.2 mM、約2.3 mM、約2.4 mM又は約2.5 mMであっても良い。好ましくは、当該技術分野において理解されるように、分化培地中におけるLiClの濃度は、約2 mMであっても良い。
【0079】
幾つかの実施形態においては、分化培地は、基本培地、L-アスコルビン酸2-リン酸Mg2+塩、1-チオグリセロール、亜セレン酸ナトリウム (基本培地中に存在するすべてのものに加えて)、ポリビニルアルコール、GLUTAMAXTM、非必須アミノ酸、化学的に定義された脂
質濃縮物、ホロ-トランスフェリン及びインスリンを含む。本明細書に記載された分化培
地のために好適な基本培地としては、Iscove’s改変Dulbecco's培地/F12 (IMDM/F12)、FGF2及びTGF-ベータを含まないTeSR1基本培地 (mTeSR1TM基本培地、Stem Cell Technologies); FGF2及びTGF-ベータを含まないEssential 8TM培地 (Life Technologies;「E8」培地としても知られる)であるDF4S基本培地、DMEM/F12の代わりにIscove's改変Dulbecco's
培地 (IMDM)を含むDF4SベースであるI4S基本培地、並びにDMEM/F12の代わりにIMDM/F12を含むDF4SベースであるIF4Sベースが挙げられるが、それらに限定されない。好ましくは、使用される基本培地はアルブミンフリーである。IMDM/F12は、添加された栄養混合物を含む、急速な増殖、高密度細胞培養に適した高度濃縮合成培地である。これらの培地は、当業者に公知である。
【0080】
幾つかの実施形態においては、本明細書において「IF9S」として言及される培地は、IMDM/F12、L-アスコルビン酸2-リン酸Mg2+塩、1-チオグリセロール、亜セレン酸ナトリウム
(基本培地中に存在するすべてのものに加えて)、ポリビニルアルコール、GLUTAMAXTM
非必須アミノ酸、化学的に定義された脂質濃縮物、ホロ-トランスフェリン及びインスリ
ンを含む。
【0081】
本明細書で用いられる場合、「間葉系コロニー形成培地 (M-CFM)」は、間葉血管芽細胞
(MCA)の潜在性を有するEMHlin-KDR+APLNR+PDGFRアルファ+原始中胚葉細胞に由来する間
葉系コロニーの形成をサポートするために設計された培地を指す。
【0082】
幾つかの実施形態においては、M-CFM中の濃度は:LiClは約1 mM、FGF2は約10 ng/mLであり;又はLiClは約1 mM、FGF2は約20 ng/mLである。
【0083】
M-CFM中のFGF2の濃度は、約1 ng/mL、約5 ng/mL、約10 ng/mL、約15 ng/mL、約20 ng/mL、約25 ng/mL、約30 ng/mL、約35 ng/mL、約40 ng/mL、約45 ng/mL又は約50 ng/mLであっても良い。
【0084】
M-CFM中におけるLiCl濃度は、約0.5 mM、約0.6 mM、約0.7 mM、約0.8 mM、約0.9 mM、
約1 mM、約1.1mM、約1.2 mM、約1.3 mM、約1.4 mM、約1.5 mM、約1.6 mM、約1.7 mM、約1.8 mM、約1.9 mM、約2 mM、約2.1 mM、約2.2 mM、約2.3 mM、約2.4 mM又は約2.5 mMであ
っても良い。好ましくは、M-CFM中におけるLiCl濃度は、1 mMである。上述した通り、ク
ローン性培養中におけるコロニー形成を改善させるために、M-CFM中にLiClを含ませるこ
とは、本発明に先立って公知でなく、本明細書で開示された方法に、当該分野において公知である方法を上回る明白な利点を、提供する。
【0085】
本明細書で言及される場合、用語「定義された培地」は、培地の各成分の正体(identity)及び量が公知であることを意味する。
【0086】
幾つかの実施形態においては、本明細書に開示された培地は、ゼノジェニック材料を含む。本明細書で用いられる場合、「ゼノジェン」又は「ゼノジェニック」は、非ヒトの生物学的に生成された材料を指す。それにもかかわらず、ゼノジェニック材料は既知のものであり得る。例えば、ゼノジェニック材料は、ゼノジェニック起源の組換えタンパク質であり得る。一実施形態においては、分化培地及び/又はM-CFMは1以上のゼノジェニック (例、組換え非ヒトタンパク質)を含む。
【0087】
幾つかの実施形態においては、培地(medium)又は培地(media)はゼノジェンフリー
である。臨床治療にとって最も重要なことは、生成された細胞集団にゼノジェニック材料、即ち、非ヒトの細胞、細胞フラグメント、血清、タンパク質等を含まないことである。一実施形態においては、ゼノジェンフリーな分化細胞は、テネイシンC又はコラーゲンIV
を使用して得られ、それにより、以前の分化システムで使用されたOP9細胞との接触が、
本質的に置き換えられる。
【0088】
有利には、定義された培地はゼノジェンフリーであり得、天然のソース、例えば、胎盤若しくは他のヒト組織、又は組換え技術を使用して生成し得るそれ等から単離されたヒト
タンパク質を取り込み得る。幾つかの実施形態においては、本明細書に記載された全てのタンパク質はヒトのである。幾つかの実施形態においては、分化培地中で使用されるタンパク質の全てはヒトタンパク質である。幾つかの実施形態においては、M-CFM培地中で使
用されるタンパク質の全てはヒトタンパク質である。幾つかの実施形態においては、本明細書に記載された全てのタンパク質はヒト組換えタンパク質である。幾つかの実施形態においては、分化培地中で使用されるタンパク質の全ては組換えヒトタンパク質である。幾つかの実施形態においては、M-CFM培地中で使用されるタンパク質の全ては組換えヒトタ
ンパク質である。
【0089】
本明細書に記載された全てのタンパク質は当業者に公知であり、本明細書に記載されたタンパク質は、全てではないとしても、殆んどが市販されている。
【0090】
本明細書に開示された培地はまた、使用に先立って希釈される、乾燥させた形態を含む濃縮した形態、例えば2×、10×、100×又は1000×濃縮でも作製され得る。
【0091】
本明細書で用いられる場合、「培養すること」は、制御条件下で細胞を増殖させるプロセスを指す。
【0092】
細胞は、毒性代謝物の濃度が増加し、栄養の濃度が低下するため、及び分裂細胞に関しては、細胞数の増加のために、無限に培養中で維持することはできない。本明細書で用いられる場合、「継代すること」は、栄養の濃度がリフレッシュされ、毒性の代謝物を含まず、任意選択で、元の培養よりも低い細胞密度の新しい培養を製造するプロセスを指す。
【0093】
一実施形態においては、継代することは以下:間葉系コロニーを約3日間培養すること
;間葉系コロニーをフィブロネクチン及び/若しくはコラーゲンI上で培養すること;並
びに/又は1、2、3、4、5又は6継代を含む。継代数は、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24又は25回であり得る。好ましくは、継代数は10
回以下である。より好ましくは、継代数は5又は6回である。
【0094】
本明細書で用いられる場合、「低酸素」は、ガス混合物の酸素濃度が約3%O2~約10%O2である条件を指す。幾つかの実施形態においては、低酸素条件は約5%O2であるが、約4
%O2、約6%O2、約7%O2、約8%O2又は約9%O2であり得る。細胞培養培地を低酸素条件下で平衡化させる実施形態においては、細胞培養培地は、正常酸素条件下で平衡化した細胞培養培地と比較して、培地中に溶存する酸素濃度がより低いために、低酸素となる。
【0095】
本明細書で用いられる場合、「正常酸素」は、ガス混合物の酸素濃度が約20%O2であるが、約18%O2、約19%O2、約21%O2又は約22%O2であっても良い条件を指す。
【0096】
本明細書で用いられる場合、「AA」はアクチビンAを指す。一実施形態においては、ア
クチビンAは、図1において配列番号1として提供されるアミノ酸配列によって表されるポ
リペプチドのホモ二量体として存在する。
【0097】
本明細書で用いられる場合、「BMP4」は、骨形成タンパク質4を指す。一実施形態にお
いては、BMP4は、図2において配列番号2として提供されるアミノ酸配列によって表されるポリペプチドのホモ二量体として存在する。
【0098】
一実施形態においては、「I型コラーゲン」又は「コラーゲンI」は、図3において配列
番号3として提供されるアミノ酸配列によって表される2本のポリペプチド、及び第3のコ
ラーゲンI鎖を含む、三重へリックス三量体として存在する。
【0099】
一実施形態においては、「IV型コラーゲン」又は「コラーゲンIV」は、図4において配
列番号4として提供されるアミノ酸配列で表される1本のポリペプチド、及び2本の追加的
なコラーゲンIV鎖を含む、三重へリックスのヘテロ三量体として存在する。
【0100】
本明細書で用いられる場合、「FGF2」は、塩基性線維芽細胞増殖因子としても知られる線維芽細胞増殖因子2を指す。一実施形態においては、FGF2は、図5において配列番号5と
して提供されるアミノ酸配列で表されるポリペプチドとして存在する。
【0101】
一実施形態においては、フィブロネクチンは、図6において配列番号6として提供されるアミノ酸配列によって表されるポリペプチドの二量体として存在する。
【0102】
本明細書で用いられる場合、「PDGF」は血小板由来増殖因子を指す。一実施形態においては、PDGFは、図7において配列番号7として提供されるアミノ酸配列によって表されるB
サブユニットポリペプチドのホモ二量体(PDGF-BB)として存在する。培養中に、M-CFMにPDGF (10 ng/mL)を補充することによって、iPSC由来のMSCの免疫抑制において有意なネガ
ティブな影響(4倍低減)をもたらしたことが本明細書に開示される。
【0103】
一実施形態においては、「テネイシンC」は、図8において配列番号8として提供される
アミノ酸配列によって表されるポリペプチドの六量体として存在する。
【0104】
幾つかの実施形態においては、接着性ヒトPSCは、テネイシンC上で培養されるか、又はテネイシンCで処理した基材上で提供される。幾つかの実施形態においては、上記で参照
された細胞 (例、ヒトPSC、ヒトiPSC)のいずれかがテネイシンC上で培養される。幾つか
の実施形態においては、記載された細胞のいずれかは、基材に10,000細胞/cm2を接着さ
せるために十分な量のテネイシンCで処理した基材上に播種される。幾つかの実施形態に
おいては、テネイシンCは、(例、配列番号8によって表されるか、若しくはGenBank Accession番号CAA55309.1によって提供されるアミノ酸配列を含むか、又は例、Milliporeカタ
ログ番号CC065で市販されている)ヒトテネイシンCである。幾つかの実施形態においては
、基材は少なくとも約0.25 μg/cm2~約1 μg/cm2、例、0.3 μg/cm2、0.4 μg/cm2、0.5
μg/cm2、0.6 μg/cm2、0.7 μg/cm2、0.8 μg/cm2又は0.9 μg/cm2の濃度のテネイシンCで処理される。細胞は、例、テネイシンCでコートした細胞培養ディッシュ、マルチウェル細胞培養プレート又はマイクロキャリアビーズ上で増殖し得る。
【0105】
テネイシンC及び低酸素条件の使用によって、コラーゲンIV又はOP9細胞上で培養された細胞と比較して、より高いパーセンテージで、プラットフォーム毎にステージ毎に比較した場合、例えば10%超、又は約20%超、又は約30%超、又は約35%超、又は約40%超、又は約50%超、又は約60%超、又は約70%超、又は約80%超等で、間葉血管芽細胞 (MCA)の潜在性を有するEMHlin-KDR+APLNR+PDGFRアルファ+原始中胚葉細胞及び間葉系幹細胞の製
造を可能にし得る。
【0106】
本明細書で用いられる場合、「優れたT細胞免疫抑制性の性質」は、例えば免疫有効性
アッセイ(ImmunoPotency Assay)を使用して決定される基準と比べて、ヘルパーT(CD4+)リンパ球の増殖をより強い程度に抑制するMSCの能力を指す。
【0107】
優れたT細胞免疫抑制性の性質は、本明細書で開示された方法に従って製造されたMSC又はMSCの集団における、T細胞免疫抑制性の性質の約1%上昇、約2%上昇、約3%上昇、約4%上昇、約5%上昇、約6%上昇、約7%上昇、約8%上昇、約9%上昇、約10%上昇、約20
%上昇、約30%上昇、約40%上昇、約50%上昇、約60%上昇、約70%上昇、約80%上昇、約90%上昇、約100%、又はそれ超の上昇であり得る。代替的には、優れたT細胞免疫抑制性の性質は、本明細書で開示された方法に従って製造されたMSC又はMSCの集団における、
T細胞免疫抑制性の性質の約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約6倍、約7倍、約8倍、約9倍、
約10倍、又はそれ超の上昇であり得る。
【0108】
好適な免疫有効性アッセイは、放射線照射したテストMSC (例、本明細書で開示された
方法に従って製造されたiPSC-MSC)及び放射線照射した基準試料のMSCを使用し、それらを健常なドナー末梢血から精製した、カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル標識白血球と共に、様々な濃度で別々にプレーティングする。基準試料のサブセットに相当するヘルパーT (CD4+)リンパ球を、CD3及びCD28抗体を添加することによって刺激する
。フローサイトメトリーを使用して、CD4標識T細胞を計数し、T細胞の増殖を評価する。IC50値を基準試料の関数として記録する。より高いIC50値は、ヘルパーT (CD4+)リンパ球
の増殖の抑制の強度がより強いことを示し、従って、それは優れたT細胞免疫抑制性の性
質を示す。MSC試料は、本アッセイにおいて使用することに先立って放射線照射し、それ
らの増殖の潜在性の交絡因子を削除する。
【0109】
状態、疾患又は障害の治療のための、本方法に従って分化させた、治療有効量のMSC又
はMSCの集団を対象に投与する正確な様式は、医師の裁量であることが、当業者によって
理解される。投薬量、他の剤との組合せ、投与のタイミング及び頻度等を含む投与の様式は、MSC又はMSCの集団を用いる治療に対する対象の応答可能性の診断、並びに対象の状態及び病歴によって、影響を受ける場合がある。
【0110】
本明細書で用いられる場合、用語「治療用組成物」は、対象に投与するために製剤化されている、本明細書に記載された、MSC又はMSCの集団を含む組成物を指す。好ましくは、治療用組成物は滅菌されている。一実施形態においては、治療用組成物はパイロジェンフリーである。
【0111】
MSC又はMSCの集団は、適正な医療行為と一致した様式で、製剤化され、投薬され、投与される。この文脈において考慮される因子としては、治療されている特定の型の障害、治療されている特定の対象、対象の臨床状態、投与部位、投与方法、投与スケジュール、副作用の可能性及び医師に公知である他の要因が挙げられる。投与される治療有効量のMSC
又はMSCの集団は、そのような考慮事項に準拠する。
【0112】
MSC又はMSCの集団は、静脈内 (IV)、動脈内、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内(intracerobrospinal)、皮下 (SC)、関節内、滑膜内、髄腔内、冠動脈内、経心内膜(transendocardial)、外科移植、局所及び吸入 (例、 肺内)経路を含む任意の好適な方法によって、対象に投与され得る。最も好ましくは、MSC又はMSCの集団はIV投与される。
【0113】
用語「治療有効量」は、対象における状態、疾患又は障害を治療するために、有効であるMSC又はMSCの集団の量を指す。
【0114】
用語「治療する(treat)」、「治療すること(treating)」又は「治療(treatment)」は、治療的な手段及び予防的(prophylactic)又は予防的(preventative)な手段の両方を指し、その目的は対象における状態、疾患又は障害を予防する若しくは改善することであるか、又は対象における状態、疾患若しくは障害の進行を遅らせる(低減する)ことである。治療を必要とする対象としては、状態、疾患又は障害を既に有する者、並びに状態、疾患又は障害が予防される予定である者が挙げられる。
【0115】
用語「予防する(preventing)」、「予防(prevention)」、「予防的(preventative)」又は「予防的(prophylactic)」は、発症しないようにすること、又は異常若しくは症状を含む状態、疾患若しくは障害の発生を妨げる(hinder)、防御する(defend from
)若しくは保護する(protect from)ことを指す。予防を必要とする対象は、状態、疾患
又は障害を生じやすい傾向がある場合がある。
【0116】
用語「改善する(ameliorate)」又は「改善(amelioration)」は、異常又は症状を含む、状態、疾患又は障害の減少(decrease)、低減(reduction)又は削除(elimination)を指す。治療を必要とする対象は、状態、疾患若しくは障害を既に有している場合があるか、又は状態、疾患若しくは障害を有する傾向を有している場合があるか、又は状態、疾患若しくは障害が、該対象において予防される予定である者の場合がある。
【0117】
本明細書で用いられる場合、用語「対象」は哺乳動物を指す。哺乳動物は、霊長類、特にヒトである場合があり、又は家畜、動物園の動物若しくはコンパニオンアニマルである場合がある。本明細書に開示された方法及びそれにより生じるMSC又はMSCの集団が、ヒトの医療に好適であることが特に意図されるが、それらはまた、例えばウマ、ウシ及びヒツジなどの家畜、例えばイヌ及びネコ等のコンパニオンアニマル、又は例えばネコ科(felids)、イヌ科(canids)、ウシ科(bovid)及び有蹄類(ungulate)等の動物園の動物の
治療を含む、獣医学的な治療にも適用できる。
【実施例0118】
実施例1―試薬
【0119】
【表1】
【0120】
表1に列記された試薬は、当業者に公知であり、容認された組成物、例えばIMDM及びHam’s F12を含む。GLUTAMAXは、通常、0.85%NaCl中、200 mMで供給される、L-アラニル-L-グルタミンジペプチドを含む。GLUTAMAXは、培養されている細胞によってジペプチド結合が切断される際、L-グルタミンを放出する。化学的に定義された脂質濃縮物は、2 mg/Lのアラキドン酸、220 mg/Lのコレステロール、70 mg/Lの酢酸DL-α-トコフェロール、10 mg/Lのリノール酸、10 mg/Lのリノレン酸、10 mg/Lのミリスチン酸、10 mg/Lのオレイン酸
、10 mg/Lのパルミチン酸、10 mg/Lのパルミトレイン酸、90 g/LのプルロニックF-68、10
mg/Lのステアリン酸、2.2 g/LのTWEEN 80(登録商標)及びエチルアルコールを含む。H-1152及びY27632は、非常に強力な細胞透過性の選択的ROCK (Rho関連コイルドコイル形成
タンパク質セリン/スレオニンキナーゼ)阻害剤である。
【0121】
【表2】
【0122】
【表3】
【0123】
【表4】
【0124】
【表5】
【0125】
【表6】
【0126】
実施例2-ヒトPSCをMSCに分化させるプロトコール
1. ビトロネクチンでコートした(0.5 μg/cm2)プラスチック製品上で、E8完全培地 (DMEM/F12 基本培地+E8サプリメント)+1 μM H1152中でiPSCを解凍した。プレーティングしたiPSCを37℃、5%CO2、20%O2(正常酸素)でインキュベートした。
2. ビトロネクチンでコートした (0.5 μg/cm2)プラスチック製品上で、E8完全培地 (ROCK阻害剤を含まない)中において、iPSCを3継代して増殖させ、分化プロセスを開始するのに先立って、37℃、5%CO2、20%O2(正常酸素)でインキュベートした。
3. iPSCを回収し、コラーゲンIVでコートした (0.5 μg/cm2)プラスチック製品上で、E8完全培地+10 μM Y27632中において、5×103細胞/cm2で、シングルの細胞/小コロニーとして、iPSCを播種し、37℃、5%CO2、20%O2 (正常酸素)で、24時間インキュベート
した。
4. E8完全培地+10 μM Y27632を、分化培地で置換し、37℃、5%CO2、5%O2 (低酸素)、48時間インキュベートした。
5. 分化培地での接着培養からコロニー形成細胞をシングル細胞懸濁液として回収し、M-CFM懸濁培養に移し、37℃、5%CO2、20%O2 (正常酸素)、12日間インキュベートした。6. 回収し、フィブロネクチン/コラーゲンIでコートした (0.67 μg/cm2フィブロネクチン、1.2 μg/cm2コラーゲンI)プラスチック製品上で、M-SFEM中にコロニーを播種し(継代0)、37℃、5%CO2、20%O2 (正常酸素)で、3日間インキュベートした。
7. コロニーを回収し、フィブロネクチン/コラーゲン1でコートしたプラスチック製
品上で、M-SFEM中に、1.3×104細胞/cm2で、シングル細胞として播種し(継代1)、37℃、5%CO2、20%O2(正常酸素)で、3日間インキュベートした。
8. 回収し、フィブロネクチン/コラーゲン1でコートしたプラスチック製品上で、M-SFEM中に、1.3×104細胞/cm2で、シングル細胞として播種し(継代2)、37℃、5%CO2、20%O2(正常酸素)で、3日間インキュベートした。
9. 回収し、フィブロネクチン/コラーゲン1でコートしたプラスチック製品上で、M-SFEM中に、1.3×104細胞/cm2で、シングル細胞として播種し(継代3)、37℃、5%CO2、20%O2(正常酸素)で、3日間インキュベートした。
10. 回収し、フィブロネクチン/コラーゲン1でコートしたプラスチック製品上で、M-SFEM中に、1.3×104細胞/cm2で、シングル細胞として播種し(継代4)、37℃、5%CO2
、20%O2(正常酸素)で、3日間インキュベートした。
11. 回収し、フィブロネクチン/コラーゲン1でコートしたプラスチック製品上で、M-SFEM中に、1.3×104細胞/cm2で、シングル細胞として播種し(継代5)、37℃、5%CO2
、20%O2(正常酸素)で、3日間インキュベートした。
12. シングル細胞として回収し、最終産物を凍結した。
【0127】
2実験(TC-A-96及びDAD-V-90)を実行し、M-CFMに、PDGF-BB (10 ng/mL)及び/又はLiCl (1 mM)を補充することの、iPSC-MSCのT細胞抑制に対する影響を調査した。Waisman Biomanufacturingの免疫有効性アッセイ (IPA)を使用して生成したT細胞抑制を評価した。
【0128】
表7に概説したように、PDGF及びLiClの以下の組合せ:PDGF+/LiCl+、PDGF-/LiCl-、P
DGF+/LiCl-及びPDGF-/LiCl+を評価した。分化培地中の2つの異なるDneg1播種密度 (5×103細胞/cm2及び1×104細胞/cm2)並びに2つの異なるアクチビンA (AA)濃度 (1×AA=15ng/mL及び0.1×AA=1.5ng/mL)を、TC-A-96実験において比較したことに留意する。DAD-V-90実験においては、単一のDneg1播種密度 (5×10e3細胞/cm2)及びアクチビンA濃度 (1.5 ng/mL)を使用した。最初のIPA (IPA 1)においては単一のロイコパック(leukopak)(LPK7)を使用したこと、及び二番目のIPA (IPA 2)においては2つのロイコパック (LPK7及
びLPK8)を使用したことにも留意する。
【0129】
各MSC株がヘルパーT (CD4+)リンパ球の増殖を抑制し得る程度を評価するために、本ア
ッセイを設計する。健常な個人の末梢血から精製し、凍結保存した白血球(ロイコパック
(LPK)由来の末梢血単核細胞 (PBMC))を使用して、凍結保存したMSCをテストする。そうであるから、ドナー間のLPK細胞集団のばらつきが予想される。テストを、研究グレード
の材料については単一のPMBC試料に制限するオプション付きで、臨床グレードの材料について、2人の異なる個人に由来するPMBCに対して、各MSCテスト試料をテストする。アッセイの完全性/再現性を保証し、テスト試料を標準化するために、参照標準のMSC株と一緒
に、各MSCテスト試料についてのアッセイを行う。アッセイは、Bloomら、Cytotherapy、2015、17(2):140-51に記載されている。
【0130】
簡易には、テストMSCを21 Gyのγ放射線照射に曝露する。48ウェルの組織培養プレート中で、4×10e5、2×10e5、4×10e4及び2×10e4の放射線照射したMSCを個々のウェルにプ
レーティングする。PMBCを別々に、カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステルを用いて標識する。標識したPMBC細胞を、上記のMSCを含むウェル毎に、4×105細胞でプ
レーティングする。この結果、1:1、1:0.5、1:0.1及び1:0.05の用量設定されたPBMC
:MSC比となる。更なるウェルに、刺激されたPBMCを単独でプレーティングし、別のウェ
ルにはMSC単独で、また別には刺激せずに1:0.05比でプレーティングし、それらを全て対照とした。その後、T細胞刺激性モノクローナル抗体、抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトCD28 (R&D Systems社、Minneapolis、MN)を各ウェルに添加する。
【0131】
培養4日目に、細胞を各ウェルから回収する。各ウェル由来の細胞を、アロフィコシア
ニン標識抗ヒトCD4を用いてインキュベートする。次いで、フローサイトメーターを使用
して、カルボキシフルオレセイン強度を介して、増殖についてCD4+細胞を分析する。MSC
単独(対照)は、共培養ウェルからMSCをゲートアウトするために役立つ。PBMC単独(対
照)は、最大のT細胞増殖に対する陽性対照として役立ち、それに対するMSC媒介性抑制の程度を測定する。刺激されていない1:0.05比のウェルを使用して、陰性対照のゲートを
生成し、それに対する増殖を測定する。
【0132】
テスト試料比から、ベストフィットの曲線を使用して、IC50値を製造する。IC50値を、参照標準に対して標準化する (IC50参照標準/IC50テスト試料)。この標準化されたIC50
は、より強力(より抑制的)な試料についてはより大きい値を、より強力でない試料についてはより小さい値を生じる。
【0133】
結果
表7中で表示したIC50データは、LiClを補充したが、PDGFを補充していないM-CFM(即ち、PDGF-/LiCl+)が、免疫抑制性であるiPSC-MSCを製造するための、iPSCの分化に最適であることを示す。更に、より低濃度のアクチビンAはまた、iPSC-MSCの免疫抑制も改善し
た。
【0134】
【表7】
【0135】
実施例3-MSCマイクロRNA分析
実施例2に従って製造されたMSCを、1194のmiRNA、及びmiR-127-3p、miR-145-5p、miR-181b-5p、miR-214-3p、miR-299-5pからなる独自のmiRNAパネルを含むマイクロRNA (miRNA)マイクロアレイに対する分析に供した。パネルの5つのmiRNAの各々は、71個のMSC試料の
全てで発現していたが、94個の非MSC試料においては発現していなかった。それにより細
胞をMSC又は非MSCとして分類することが可能となる。
【0136】
実施例2に従って製造されたMSCは、miR-145-5p、miR-181b-5p及びmiR-214-3pの各々を
発現していたが、miR-127-3p及びmiR-299-5pを発現していなかった。
【0137】
テストした全ての試料について生成した標準化したデータにおいて信頼性をもって検出された、マイクロアレイの233のmiRNA(テストした試料の少なくとも1つに存在する)の
主成分分析によって、実施例2に従って製造されたMSCが他の71個のMSC試料の各々とは異
なっていたことが示された (図9)。
【0138】
実施例4-代替的な免疫有効性アッセイ1
MSCの免疫有効性を以下の通り評価する:様々なドナーに由来するヒトPBMCを、(免疫
応答における個人間の多様性を最小化するために)リン酸緩衝生理食塩水中にプールし、2×107PBMC/mLの細胞密度で、カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル (CFSE、2 μM)を用いて、暗黒下、37℃で15分間染色した。ヒト血液型ABの10%血清を補充したRPMI-1640培地を、等量添加することによって反応を停止する。プールした10%のヒト
血小板溶解物、保存料を含まない2 IU/mLのヘパリン (Biochrom)、2 mM L-グルタミン、10 mM (4-(2-ハイドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)(HEPES;Gibco)、100 IU/mLのペニシリン (Sigma)及び100 μg/mLのストレプトマイシン (Sigma)を補充したRPMI-1640培地中に懸濁した、CFSEで標識した3×105のPBMCを、次いで、96ウェル平底プレート (Corning)中に、ウェル毎に3回反復でプレーティングする。T細胞増殖を、Gallios 10色フローサイトメーター及びKaluza G1.0ソフトウェア (両方ともCoulter)を使用して決
定する。4~7日後に、7-アミノアクチノマイシン-Dを含まない(7-AAD-;BD Pharmingen)生きたCD3-APC+ (eBioscience)T細胞を分析する。増殖キネティックス及び集団の分布を、Modfit 4.1ソフトウェア (Verity)を使用して分析する。
【0139】
実施例5-代替的な免疫有効性アッセイ2
MSCの免疫有効性を以下の通り評価する:製造業者の指示に従って、CellTraceバイオレット (CTV;Invitrogen)を用いて、ヘルパーT (CD4+)リンパ球を染色し、次いで、96ウェ
ルのU底プレート中、抗CD3/CD28でコートしたビーズ (Dynabeads、Invitrogen)を用いて
、5:1のT細胞/ビーズ比で刺激する。次いで、応答性(Responder)CD4 T細胞を、参照
標準としての(100 Gyで)放射線照射したKarpas 299細胞 (K299細胞;Sigma)、又はMSCと
共にインキュベートする。共培養する細胞を、RPMI-1640培地中、37℃、5%CO2で、72時
間インキュベートする。次いで、AnnexinV結合バッファー (BD Biosciences)を用いて細
胞を洗浄し、Annexin Vフルオレセインイソチオシアネート(Annexin Vefluorescein isothiocyanate)又はAPC (BD Biosciences)を用いて、暗黒下、室温で15分間染色する。こ
のインキュベーション後、ヨウ化プロピジウム (PI)(Molecular Probes)を用いて、細胞
を染色し、次いで、直ちにLSRII Fortessa (BD Biosciences)上で取得する。FlowJoソフ
トウェア (バージョン8.8.6;Tree Star)を使用して、回収したデータを分析する。Annexin V陰性(Annexin Venegative)及びPI陰性のT細胞の集団によって、生存率を測定する
。生存細胞の割合を、CTV 弱陽性 (増殖%)について分析する。式:抑制%=100-(a/b*100)(aはサプレッサー細胞の存在下での増殖%であり、bはサプレッサー細胞の非存
在下での増殖%である)によって、T細胞増殖の抑制を計算する。
【0140】
実施例6-心筋梗塞の治療
本開示に係る間葉系幹細胞 (MSC)を、心筋梗塞 (心臓発作)のラット実験モデルにおい
て使用し、心臓発作後のラットの心臓を修復した。
合計11匹のラットにおいて心臓発作を誘発した後、28日超の期間で、心機能及び瘢痕サイズを評価した。開示に係るMSCを用いて4匹の動物を治療し、骨髄由来のMSCを用いて3匹の動物を治療し、更に4匹の動物にプラセボ(ビヒクル;対照)を投与した (図10)。
細胞の生着の評価 (図11及び12)によって以下のことが示された:
―ヒト核及びヒトミトコンドリア染色を使用して、BM-MSC及びPSC-MSC群における28日目での細胞の生着の証拠はなかった。
0日目と比較した、28日目での短縮率(FS %)を使用した機能評価 (図13及び14)によっ
て以下のことが示された:
―ビヒクル群における、LV収縮性は、最小(無)変化であった
―BM MSC群における、LV収縮性
―PSC-MSC群における、LV収縮性
瘢痕サイズの評価 (図15)によって以下のことが示された:
―ビヒクル群及びBM-MSC群と比較して、PSC-MSC群 (ピクロシリウスレッド(picosirius red))においては、28日目に瘢痕サイズが明らかに低下した。
血管新生の評価 (図16)によって以下のことが示された:
―群間における血管サイズ及び数における明らかな相違はなかった (vWF染色)。
結果によって、MSCレシピエントにおいては、他の群の両方における動物と比較して、28日目で、心機能が改良され、瘢痕サイズが低下したことが示された。結果によって、開
示に係るMSCが、心臓発作後の実質的な機能的及び構造的な改善を引き起こしたことが示
された。
図17に示される実施例6の試験の改良においては、プログラムされた心室刺激(EPS)を使用して、不整脈が評価される。
【0141】
実施例7-GvHDの治療
動物を、無作為に治療群に割り当て、全てのケースにおいて、適切な治療手段を尾部静脈に注射した。0日目に、6週齢雌性NOD.Cg-Prkdcscid Il2rgtm1Wjl/SzJ (NSG)マウスに、2.5Gyで軽く放射線照射し、次いで、4時間休憩させた。1000万のヒトPBMCの静脈(尾部静脈)移植によって、GvHDを誘発した。疾患誘発後、マウスを病原体フリーの条件下(マイクロアイソレーターケージ(micro-isolator cages))に収容し、実験手順の期間中、酸性化し、抗生物質を補充した水を与えた。試験設計は、表8に概要をまとめている。
【表8】
【0142】
表9に記載した通り、GvHD兆候/症状(即ち、体重の減少、姿勢、活動、毛並み及び皮
膚の完全性)について、動物を日々評価した。グレード1の各兆候/症状について1ポイント、グレード2の各兆候/症状について2ポイントを割り当てることによって、全体のGvHDスコアを計算した。いずれの動物においても8以上のGvHDスコアに到達したとき、安楽死
させた。
【0143】
【表9】
【0144】
主要な評価項目は生存期間であった。
【0145】
結果
iPSC-MSCを解凍し、洗浄し、滅菌PBS中に再懸濁した。日+14 (14日目、1用量投薬計画)又は日+14及び日+18 (14日目、18日目、2用量投薬計画)で、200万のiPSC-MSCを、尾部静
脈から関連する動物に投与した。
5つの異なる基準:体重の減少、姿勢、活動、毛並み及び皮膚の完全性を含む、標準化
されたスコア化システムを使用して、GvHDの重篤度を評価した。マウスを、各基準について、日々評価し、0 (最も軽い重篤度)~2 (最も重い重篤度)でスコア化した。5つの基準
についてスコアを加算することによって、臨床スコアを生成した。「8」の臨床スコアに
到達した時、マウスを試験から除外し、人道的に安楽死させた。試験から除外した日を、致死的なGvHDが誘発された日として記録した。ログランク検定を適用したKaplan-Meier分
析を使用して、生存利益(survival benefit)を決定した。≦0.05のp値を有意な差とみ
なした。
【0146】
iPSC-MSCの一用量又は二用量の投薬計画を受けた動物は、典型的にはこの臨床前モデルと関連する、体重の減少から有意に救済されることが示された (図18)。
一用量又は二用量の投薬計画で治療されたマウスは、疾患症状の有意な軽減を示し、GvHD誘発後、日+24及び+25において、一用量と二用量の治療間で、有意な相違が更にみとめられた (図19)。
生存試験においては、一用量と二用量での治療によって、GVHD対照を上回る有意な生存利益が授与された (p<0.0001)。二用量の投薬計画を受けた動物の生存は、一用量で治療
された動物を上回って相当改善されたが、この上昇は統計的有意性には到達しなかった (p=0.0715)(図20)。
これらの生存試験から、我々は、GvHDの前臨床モデルにおいては、一用量又は二用量でのいずれかの治療が施された場合、CYMERUSTMiPSC-MSCが、体重の減少からマウスを保護
し、疾患の重篤度を有意に軽減し、強力な生存利益を提供すると結論付ける。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
【配列表】
2022078044000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-03-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書及び/又は図面に開示された発明。
【外国語明細書】