(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022007809
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】炭素繊維原糸から開繊炭素繊維糸に撚り加工を施した極細炭素繊維糸及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D02G 3/38 20060101AFI20220105BHJP
D02G 3/16 20060101ALI20220105BHJP
D06C 7/00 20060101ALI20220105BHJP
D06C 29/00 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
D02G3/38
D02G3/16
D06C7/00 Z
D06C29/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020110998
(22)【出願日】2020-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】390015679
【氏名又は名称】ジャパンマテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】塚本 勝朗
(72)【発明者】
【氏名】塚本 浩晃
【テーマコード(参考)】
3B154
4L036
【Fターム(参考)】
3B154AA14
3B154AB09
3B154BA41
3B154BB12
3B154BB47
3B154BF01
3B154BF06
3B154DA05
3B154DA21
4L036MA04
4L036MA33
4L036MA39
4L036PA21
4L036RA25
4L036UA06
(57)【要約】
【課題】本発明は、極細炭素繊維糸及びその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、炭素繊維原糸から開繊炭素繊維糸に撚り加工を施した極細炭素繊維糸及びその製造方法、特に、開繊炭素繊維に各種極薄フィルムをラミネートさせた後にスリット機械にて仕上げられた極細糸およびその製造方法に関する。
【解決手段】(1)開繊炭素繊維を開繊・スリット・撚糸・複合糸との複合を行い、求める複合糸を作製すること、(2)開繊炭素繊維を開繊するプロセスと同時に、フィルム(複合材質のフィルム)をラミネートするプロセスを行って、スリット・撚糸を行い、応力除去の熱処理を行い、複合糸を作製すること。本発明の糸類は、原糸の基糸よりも10%以上の引張強度の向上があり、広範な用途に使用できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
12Kまたは24K原糸からの、炭素繊維樹脂テープの開繊処理、スリット処理、撚糸化、複合化によって得られ、前記複合化がS巻きおよびZ巻きのカバーリングである、開繊炭素繊維極細糸。
【請求項2】
12Kまたは24K原糸からの、炭素繊維樹脂テープの開繊処理、ラミネート処理、スリット処理、撚糸化によって得られ、ラミネートされたフィルムを含む、開繊炭素繊維極細糸。
【請求項3】
スリット処理後の幅が1.5~12.5mmであり、撚りが10回/m~120回/mであり、0.1~1.0m/mφの糸である、請求項1または2に記載の開繊炭素繊維極細糸。
【請求項4】
フィルムがメンブレン又は不織布から構成され、ePTFE、ナイロン66、ABS、PET、PVA、ポリエステル、絹、木綿、ポリイミドからなる群より選択される材料である、請求項2または3に記載の開繊炭素繊維極細糸。
【請求項5】
メンブレン又は不織布から構成されるフィルムの厚さが、1μm以下~30μm以下である、請求項2乃至4のいずれか1項に記載の開繊炭素繊維極細糸。
【請求項6】
請求項1~5に記載の開繊炭素繊維極細糸を、それぞれ、たて糸およびよこ糸として配列された、編み糸又は織糸。
【請求項7】
編み糸又は織糸が、編機、平織、あや織、すずめ織、丸織、ニット編み、丸編、漁網編み、編組機、くみひも機、ミシン、幅編り機、くつ下編み、手袋編み、スニーカー編みを通して用いられる、請求項6に記載の編み糸又は織糸。
【請求項8】
原糸としての炭素繊維を調製する工程(炭素繊維調製工程)と、
開繊機を用いて、原糸を開繊して開繊テープを得る工程(開繊工程)と、
連続的に最小幅2mm程度迄分裁スリットを行う工程、(スリット工程)と、
スリットにて得た極幅の開繊テープ状に連続的に撚りを行って、極細糸に加工する工程(撚り工程)と、
前記極細糸に、各種の細糸素材糸をS巻、Z巻して複合糸を製作する工程(複合糸を作る工程)、
とを備える、開繊炭素繊維極細糸の製造方法。
【請求項9】
原糸としての炭素繊維を調製する工程(炭素繊維調製工程)と、
開繊機を用いて、原糸を開繊して開繊テープを得る工程(開繊工程)と、
開繊と同時にサイジング樹脂を0.5~5%含浸させる工程(含浸工程)と、
前記開繊テープにフィルムをラミネート接着する工程(接着工程)と、
スリッター機によって1.5mm~12.5mmに連続的にスリットを行い、幅切り細幅テープを得る工程(スリット工程)と、
撚糸機によって、撚りを掛け糸に仕上げ加工する工程(撚糸工程)、
とを備える、開繊炭素繊維極細糸の製造方法。
【請求項10】
開繊工程が、開繊機を用いて、原糸の4~5倍の幅に開繊する工程である、請求項8または9に記載の製造方法。
【請求項11】
撚りが10回/m~120回/mである、請求項9に記載の製造方法。
【請求項12】
ラミネートが片面ラミネートである、請求項9に記載の製造方法。
【請求項13】
さらに、ヒーターノズルを通して、90℃~120℃にてくせづけを行って、応力除去し、完成した糸の為に撚りの戻りを防止する工程をさらに含む、請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、極細炭素繊維糸及びその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、炭素繊維原糸から開繊炭素繊維糸に撚り加工を施した極細炭素繊維糸及びその製造方法、特に、開繊炭素繊維にカバーリングによる複合化を施した極細糸およびその製造方法、ならびに開繊炭素繊維に各種極薄フィルムをラミネートさせた後にスリット機械にて仕上げられた極細糸およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(技術的背景、その1)
炭素繊維には、主としてピッチ系の炭素繊維およびアクリル系の炭素繊維が存在する。このうち、アクリル系炭素繊維には、1,250℃で焼成され、そのフィラメントの集合状態の違いにより、1K、3K、6K、12K、および24K(1Kとは、6μm~7μmのフィラメントの1,000本の集合体をいう)のものがある。炭素繊維原糸の引張り強度を基礎とした値は、それぞれ炭素繊維メーカーにより、焼成温度の違いによって算出され、公表されている。これらの原糸の強度値は、各メーカーの炭素繊維の間で大差はないというのが現状であった。
【0003】
このようなアクリル系炭素繊維の基糸の、1K、3K、6K、12K、および24Kは、それぞれ一定の強度値を示すことが知られており、出願人らは、これらのアクリル系炭素繊維の基糸の強度値について、引張り試験機にて計測確認を行い、各社の公表値とほぼ同じ値を示すことを確認した(東レ、帝人)。
【0004】
次に、この炭素繊維基糸に各々撚りを掛けた撚数が、m当りの撚りを10回~120回備えた、3K、6K、12K、24Kである炭素繊維基糸の強度値を測定する実験を行った。その引張強度(単位KN)値を別表にて説明開示する(表1)。
【0005】
表1において、区分Aは、メーカーから供給されたままの形である「原糸」3K、6K、12K、24Kのそれぞれの値を示す。区分Bは、原糸を「開繊」後の、3K、6K、12K、24Kのそれぞれの値を示す。このA、Bの値を比較すると、(B/A)×100=9.86≒10%向上していることを確認した。区分Cは、開繊の後「撚りを60回/m当り行い」各々、3K、6K、12K、24K、引張り強度の計測を行った。
【0006】
その結果、引っ張り強度が、原糸に対して、3Kでは33%増加、6Kでは31%増加、12Kでは37%増加となり、3K、6K、および12Kでは、30%以上の強度が向上することが明らかとなった。しかし、24Kでは、逆に18%減少することが判明した。なお、24Kの撚り数の糸が常に強度不足というわけではなく、別条件での実験結果では、区分Eの通り撚り数20回/mで46%増加する場合もあった。
【0007】
区分Dは、「開繊後、スリット機にて」12Kの開繊幅を基準に12K/2=6K、6K/2=3Kのスリットテープの作製を行い、各々の引張り強度を計測した。尚、24Kは開繊の後、計測を行った結果、開繊/原糸=(1.02/0.92)×100=10.9%増加が観察された。スリット後の、3K、6K、12Kの値は、区分Bの原糸と開繊の値と同じであるか、向上していることが判明した。一方、24Kでは、上記の通り10.9%の向上が見られた。このことは、開繊という処理を行うことが、引張り強度の向上に寄与していることを示す。なお、この引張り強度の向上は、サイジング剤の除去により摩擦係数の変化が原因であることも解明出来た。
【0008】
区分Eは、開繊の後、3K、6K、12K、24Kにおいて、m当り何回の撚り(回/m)を附与するかによって、引張り強度の値が上がることを実験によって確認した結果である。開繊後撚り数が[3K、90回/m][6K、60回/m][12K、90回/m][24K、20回/m]の実験値が最大であることが、開繊、スリット、撚りを加えることで強度が向上することも新たに発見した。
【0009】
区分Fは、[原糸/開繊][90回/m][撚り後]それぞれのカバーリング材を附加して、複合化した炭素繊維の引張り強度を計測した。その結果を表1に示す。
【0010】
炭素繊維基糸及び開繊炭素繊維の、スリット、撚りに関する極細糸の引張り強度実験分析結果のまとめ [単位:KN]
【0011】
【0012】
(技術的背景 その2)
各炭素繊維メーカー、例えば、東レ、帝人、三菱マテリアルなどは、アクリルニトリル繊維を950℃~3,000℃にて炭素化処理した糸類を製造している。このような糸類は原糸と称し、このフィラメントの太さは、6μm~7μmであり、フィラメントが1,000本の集合体の糸類を1Kと呼び束と称し、また24K以下をレギュラー束(トウ)と称し、24Kより大きな束をラージ束(トウ)として分類している。
【0013】
また、φ1.0mm基準の断面積の引張り強度は(φ1.0mm/kg)、衣料用ナイロンで60kg、産業用ナイロンで150kg、アラミドケブラーで320kg、高強度ポリエチレンで440kg、炭素繊維で700kgである。
【0014】
開繊炭素繊維極細糸に撚り加工を施した糸に関して、より詳しくは、撚りを数値的に与えることによって、炭素繊維原糸は、軽くて強いという特徴を有し、比重が1.8倍であって、鉄の比重7.8に比べて1/4であり、アルミの2.7あるいは、ガラス繊維の2.5と比べても軽い。その上、強度及び弾性率にも優れており、引張強度を比重で割った比強度が鉄の10倍、引張弾性を比重で割った比弾性率が鉄の約7倍すぐれている。
【0015】
この炭素繊維は、さらに炭素化温度を上げることによって、引張り強度は上がる。しかし、現在標準仕様の炭素繊維束類は、1,250℃前後で焼成を行っている。この代表的な炭素繊維束は東レ製のトレカT700である。
【0016】
しかし、本発明者らは、16年あまりの歳月を掛けた実験の結果、基糸原糸の強度を上げる方法として、焼成温度を上げて加工すること以外の、新たな製造方法を実験によって発見した。本発明者らは、この原糸の引張り強さをより向上させることによる効果を確かめるための実験を行った。この方法に関して以下に説明する。
【0017】
出願人らは、すでに開繊炭素繊維を開繊スリットして、撚りを掛け極細糸に製造する方法、及び製造装置類に関しても炭素繊維束を開繊機→スリット機→撚糸機→カバーリング機の一連の装置類についても、権利化を得ている。しかし、原糸(ストランドという)よりもさらに強度の向上ができる方法を実験によって解明した。その方法は、(1)原糸の開繊を行うことによって110%向上を得た。(2)開繊の後、スリットを行い、撚りを掛けることによって130~135%向上することを発見した。
【0018】
しかし、レギュラー束に関しては、3K、6Kについて、60回/m、12Kで90回/mにて、130%以上の上昇を確認した。一方24Kについては、10回/m、20回/mが最も引張り強度が強いことを確認した、この実験の結果、比弾性率が上がることを実験の結果証明出来た。結果から単位面積当りφ1.0mm標準値で700kgであるのに対して(東レ、T700SC 12K、4900Mpa)、表2に示す結果を得た。
【0019】
【0020】
数多くの実験の結果、次のことを確認した。それぞれ完成した開繊炭素繊維極細糸群について、樹脂を含浸附加すること及び摩擦係数を上げることによって引張強度は低下することを数多くの実験によって証明できた。
【0021】
これらの極細糸の弱点である毛羽の防止(安全性上)及び用途に応じた素材との組合せについて改良を行い、それぞれの複合糸を作製した後、引張り強度を実験により解明した。結果を表3に示す。撚り回数90回/mを基準として、5種類の複合素材の試作実験を行った(kg-N)。
【0022】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特開2018-34503号公報
【特許文献2】特開2019-131925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は、炭素繊維原糸から開繊炭素繊維糸に撚り加工を施した極細炭素繊維糸及びその製造方法、特に、開繊炭素繊維にカバーリングによる複合化を施した極細糸およびその製造方法、ならびに開繊炭素繊維に各種極薄フィルムをラミネートさせた後にスリット機械にて仕上げられた極細糸およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
かかる現状に鑑み、本発明者らは、(1)開繊炭素繊維を開繊・スリット・撚糸・複合糸との複合を行い、求める複合糸を作製すること、(2)開繊炭素繊維を開繊するプロセスと同時に、フィルム(複合材質のフィルム)をラミネートするプロセスを行って、スリット・撚糸を行い、応力除去の熱処理を行い、複合糸を作製することを行った。
【0026】
項1に係る発明は、12Kまたは24K原糸からの、炭素繊維樹脂テープの開繊処理、スリット処理、撚糸化、複合化によって得られ、前記複合化がS巻きおよびZ巻きのカバーリングである、開繊炭素繊維極細糸である。
【0027】
項2に係る発明は、12Kまたは24K原糸からの、炭素繊維樹脂テープの開繊処理、スリット処理、撚糸化、複合化によって得られた複合糸、およびラミネートされたフィルムからなる開繊炭素繊維極細糸である。
【0028】
項3に係る発明は、スリット処理後の幅が1.5~12.5mmであり、撚りが10回/m~120回/mであり、0.1~1.0m/mφの糸である、項1または2に記載の開繊炭素繊維極細糸である。
【0029】
項4に係る発明は、フィルムがメンブレン又は不織布から構成され、ePTFE、ナイロン66、ABS、PET、PVA、ポリエステル、絹、木綿、ポリイミドからなる群より選択される材料である、項2または3に記載の開繊炭素繊維極細糸である。
【0030】
項5に係る発明は、メンブレン又は不織布から構成されるフィルムの厚さが、1μm以下~30μm以下である、項2乃至4のいずれか1項に記載の開繊炭素繊維極細糸である。
【0031】
項6に係る発明は、項1~5に記載の開繊炭素繊維極細糸を、それぞれ、たて糸およびよこ糸として配列された、編み糸又は織糸である。
【0032】
項7に係る発明は、編み糸又は織糸が、編機、平織、あや織、すずめ織、丸織、ニット編み、丸編み、漁網編み、編組機、くみひも機、ミシン、幅編り機、くつ下編み、手袋編み、スニーカー編みを通して用いられる、項6に記載の編み糸又は織糸である。
【0033】
項8に係る発明は、原糸としての炭素繊維を調製する工程(炭素繊維調製工程)と、
開繊機を用いて、原糸を開繊して開繊テープを得る工程(開繊工程)と、
連続的に最小幅2mm程度迄分裁スリットを行う工程、(スリット工程)と、
スリットにて得た極細幅の開繊テープ状に連続的に撚りを行って、極細糸に加工する工程(撚り工程)と、
前記極細糸に、各種の細糸素材糸をS巻、Z巻して複合糸を作製する工程(複合糸を作る工程)、とを備える、開繊炭素繊維極細糸の製造方法である。
【0034】
項9に係る発明は、調製する工程(炭素繊維調製工程)と、
開繊機を用いて、原糸を開繊して開繊テープを得る工程(開繊工程)と、
開繊と同時にサイジング樹脂を0.5~5%含浸させる工程(含浸工程)と、
前記開繊テープにフィルムをラミネート接着する工程(接着工程)と、
スリッター機によって1.5mm~12.5mmに連続的にスリットを行い、幅切り細幅テープを得る工程(スリット工程)と、
撚糸機によって、の撚りを掛け糸に仕上げ加工する工程(撚糸工程)、
とを備える、開繊炭素繊維極細糸の製造方法である。
【0035】
項10に係る発明は、開繊工程が、開繊機を用いて、原糸の4~5倍の幅に開繊する工程である、項8または9に記載の製造方法である。
【0036】
項11に係る発明は、撚りが10回/m~120回/mである、項9に記載の製造方法である。
【0037】
項12に係る発明は、ラミネートが片面ラミネートである、項9に記載の製造方法である。
【0038】
項13に係る発明は、さらに、ヒーターノズルを通して、90℃~120℃にてくせづけを行って、応力除去し、完成した糸の為に撚りの戻りを防止する工程をさらに含む、項9に記載の製造方法である。
【発明の効果】
【0039】
本発明の糸類は、原糸の基糸よりも10%以上の引張強度の向上があり、広範な用途に使用できる。また、本発明の糸類は、たて糸・よこ糸の配列によって用途に応じた編み糸とすることもできる。したがって、本発明の糸類は、スニーカー等のスポーツ用製品、ブレーキライニング用のパッドなどの機械部品など、耐熱性や強度が要求される用途において特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】実施例1における炭素繊維複合糸の生産工程図である。
【
図2】実施例1において得られた炭素繊維複合糸の例を示す写真である。
【
図3】実施例2における炭素繊維複合糸ラミネートの生産工程図である。
【
図4】実施例2において得られた炭素繊維複合糸ラミネートの例を示す写真である。
【
図5】実施例3において得られた編み糸の例を示す写真である。
【
図6】実施例3において得られた編み糸の例を示す写真である。
【
図7】実施例4において得られた網の例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の開繊炭素繊維、極細糸(複合糸)は、以下に説明する2種類の方法によって製造される。
【0042】
(1)極細糸(複合糸)の製造方法1
炭素繊維・原糸(ストランド)から、次の工程を得て作製する。
(a)開繊工程、たとえば、12K原糸6mm束幅を24~25mm幅に広げる工程、
(b)スリット工程、24~25mm幅で連続的に最小幅2mm程度迄分裁スリットを行う工程、
(c)撚り工程、スリットにて得た極細幅の開繊テープ状に連続的に撚りを行い極細糸に加工する工程、
(d)複合糸を作る工程、連続的に撚りを掛け極細糸になった、炭素繊維、極細糸にS巻、Z巻へと各種の細糸素材糸を作製する(ナイロン、PTFE、ケブラー、金属線などの細糸を求める任意の複合糸素材を作る)工程。
【0043】
(2)極細糸(複合糸)の製造方法2
炭素繊維・原糸(ストランド)から次の工程を得て作製する。
(a)開繊工程、たとえば、12K原糸6mm束幅を24~25mm幅に広げる工程、
(b)開繊炭素繊維テープに、求める任意の薄いフィルム素材を直接熱圧着するか、接着・サイジング剤にて接合または、接着を行う工程(接着・サイジング剤はいずれでも良いが、PVA・過硫酸カリウムを含んだものが良い)、(ここで、フィルムの厚さは、5μm~10μmが良く、素材としては、ナイロン6、12、66、PP、ウレタン、e-PTFE、メンブレンなど利用できるものであれば何でも良くラミネートを行う)
(c)スリット工程(24~25mm幅から連続的に最小幅2mm程度迄分裁スリットを行う)、
(d)撚り工程(スリットにて得た極細幅ラミネート素材を撚り糸に仕上げて糸にする)。
【0044】
開繊炭素繊維極細糸及び複合糸は、(カバーリング素材の各種類も含め)原糸(ストランド)よりも引張り強度が低下する傾向が確認できた。
【0045】
なお、本発明者らは、生産現場の環境及び生産性を考慮して、複合極細糸についても実験を試みた。
【0046】
その方法は、(i)複合カバーリングの方法、(ii)樹脂を含浸する方法、(iii)開繊炭素繊維に各種極薄フィルムをラミネートさせた後にスリット機械にて細幅(1.5-12.5mm幅、好ましくは、2.0-5.0mm幅)にスリットしたのち、撚糸機にて10回/m~120回/m、好ましくは、60回/m~90回/mの撚りを加え、極細糸を仕上げる方法を含み、各種の用途製品に向くように極細の複合糸を完成させた。
【0047】
これら開繊炭素繊維から、以下の手順に沿って各種極細糸の完成から応用品に製品化を行うことを確立した。
1.炭素繊維(原糸・ストランド)の調製
2.開繊機を用いて、原糸の4~5倍の幅に開繊する。開繊と同時に各種のサイジング樹脂を0.5~5%含浸する。開繊テープへ同時にフィルムでラミネート接着を行う。この場合のテープの材質は、ePTFE、ナイロン66、ABS、PET、PVA、ポリエステル、絹、木綿、ポリイミドなどの用意できる布状、メンブレン状、又は不織布状(フィルム状)であれば何で良い。(FEP,PFAを含む)フィルムの厚さは、極細で引張りに耐えるものであれば何でも良く限定されない。1μm以下~30μm以下、1μm~30μm、特に5~10μmが良い。この場合のラミネートは、片面、両面でも良く、特に片面が良い。また必要に応じてテープは着色を行うことも重要である。
3.スリッター機によって1.5mm~12.5mmに連続的にスリットを行い、幅切り細幅テープを得る。
4.撚糸機によって、10回/m~120回/mの撚りを掛け糸に仕上げ加工する。この場合、用途に応じて、樹脂面を表面に出しても良く、炭素繊維面を表面に出しても、どちらでも良い。これらの樹脂を含む糸が完成した際に糸の撚りがもどろうとすることを防ぐためにヒーターノズルを通して、くせづけ(応力除去を行う)(90℃~120℃)を行ったほうが良い。
5.本発明による完成糸として、φ0.1~1.0m/mの糸は、多目的用途に使用出来る。本発明の糸の用途としては、織物、編物、ミシン糸、織布、テント、キャンバス、テキスタイル、ネット、漁網、スニーカー、スポーツ用品、ブレーキパッド材など、糸編みが使用出来るものなら何でも良い。
【0048】
まとめると、本発明の開繊炭素繊維の極細糸を作製する方法には、2通りの方法がある。
(方法1)開繊炭素繊維を開繊・スリット・撚糸・複合糸との複合を行い、求める複合糸を完成させる。
(方法2)開繊炭素繊維を開繊するプロセスと同時に、フィルム(複合材質のフィルム)をラミネートするプロセスを行い、スリット・撚糸を行い、応力除去の熱処理を行い、求める複合糸を完成させる。上記糸類の引張強度は、実験の結果、原糸の基糸よりも10%以上の向上があり、それぞれの用途に適することが判明した。
【実施例0049】
(実施例1 極細糸の作製1)
炭素繊維原糸は(12K、台湾プラスチック製)を用いて、12K原糸6mm束幅を24~25mm幅に広げた((a)開繊工程)。続いて、専用の設備を用いて24~25mm幅で連続的に最小幅2mm程度迄分裁スリットを行った((b)スリット工程)。スリットは、株式会社鉛市の可用性ナイロン6の変性ナイロンをNMP 9%を合成した後、開繊テープに3~6%含浸後スリットを行った。これは、カバーリングの複合糸のズレ防止、ケバ防止のために有効であった。続いて、スリットにて得た極細幅の開繊テープ状に連続的に撚りを行い(60回/m)、極細糸に加工した((c)撚り工程)。そして、連続的に撚りを掛け極細糸になった炭素繊維である極細糸に、S巻、Z巻へと各種の細糸素材糸を作製した(ナイロン、PTFE、ケブラー、金属線などの細糸)を複合して、求める任意の複合糸素材を作る)((d)複合糸を作る工程)。このようにして得られた撚り糸の例を
図2に示す。これらの撚り糸は従来の撚り糸よりも強度が10%以上増加しており、様々な用途に応用できることが期待されるものであった。
【0050】
(実施例2 極細糸の作製2)
炭素繊維原糸は(12K、台湾プラスチック製)を用いて、12K原糸6mm束幅を24~25mm幅に広げた((a)開繊工程)。ePTFEメンブレン20μm(ドナルドソン(USA)製)を過硫酸カリウムとPVAの接着剤にてラミネート((b)接着工程)の後、2.5mm幅にてスリットを行った((c)スリット工程)。なお、フィルム(メンブレン)の厚さは、5μm~10μmであった。60回/mの撚り((d)撚り工程)を行って、スリットにて得た極細幅ラミネート素材を撚り糸に仕上げた。このようにして得られた撚り糸の例を
図4に示す。これらの撚り糸は従来の撚り糸よりも強度が10%以上増加しており、様々な用途に応用できることが期待されるものであった。
【0051】
(実施例3 本発明の極細糸を利用した編み糸の作製)
実施例1で得られた複合糸を利用して、ニット編み機(丸編み)にて、ニット編みを施すことによって、編み糸を作製した。このようにして得られた編み糸の例を
図5および
図6に示す。これらの編み糸は、従来品よりも強度が10%以上増加しており、特に野外での使用や、物理的な力が加わることが予想される状況において、高い性能を発揮できるものであった。
【0052】
(実施例4 本発明の極細糸を利用した漁網の作製)
実施例1で得られた複合糸を利用して、漁網機を用いて、ナイロン複合糸を編むことによって、漁網を作製した。このようにして得られた漁網の例を
図7に示す。この漁網は、従来品よりも強度が10%以上増加しており、破れや切断が起こりにくいものであったので、実際に漁業に利用した際にも高い性能を発揮できるものであった。
一般的に、本発明の極細糸の用途としては、殆ど全ての、編機、平織、あや織、すずめ織、丸織、ニット編み、丸編、漁網編み、編組機、くみひも機、ミシン、幅編り機、くつ下編み、手袋編み、スニーカー編み機を使った糸の作製が挙げられる。従って、幅広く、テント布、キャンバス布、防火カーテン、フレキシブル布、ブレーキライニング用のパッド、高温用バグフィルター、樹脂(熱可塑・熱硬化性)との複合に合わせて家電、半導体、スマホTV、EVモーター、ドローン羽、丸棒、板材、2×4住宅用ステー、自動車、航空機、船舶等における小物部品に幅広く使用出来る他、各部品の強度設計配分の自由選定が出来る。たとえば、編み糸をそれぞれ、たて糸・よこ糸の配列によって用途選択が可能である。
本発明の開繊炭素繊維極細糸に関して、(方法1)で得られた極細糸の場合は、カバーリング工程に於いて、効率(生産性)が比較的高くない場合や、完成糸の張力とゆるみが生じる場合には、編み方が制限される可能性もある。一方、(方法2)で得られた極細糸の場合は、複合糸完成後熱処理ダイスを通過させることで、炭素繊維極細糸との複合化がよりフィットする為に、より完璧な開繊炭素繊維極細糸を完成出来る。(方法1)の極細糸と(方法2)の極細糸は、これらの特性も考慮して、様々な用途において、使い分けることも可能である。