(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022078204
(43)【公開日】2022-05-24
(54)【発明の名称】免疫炎症性皮膚障害を予防または治療するための方法および医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/235 20060101AFI20220517BHJP
A61K 31/192 20060101ALI20220517BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220517BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20220517BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220517BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220517BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20220517BHJP
A61P 17/04 20060101ALI20220517BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20220517BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220517BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20220517BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
A61K31/235
A61K31/192
A61P17/00
A61P37/02
A61P29/00
A61P43/00 123
A61P21/00
A61P17/04
A61P1/00
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P15/00
A61P35/00
A61P43/00 111
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022033218
(22)【出願日】2022-03-04
(62)【分割の表示】P 2019538676の分割
【原出願日】2018-01-19
(31)【優先権主張番号】62/448,219
(32)【優先日】2017-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】511107980
【氏名又は名称】ティダブリューアイ・バイオテクノロジー・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】TWI Biotechnology, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カール・オスカー・ブラウン
(72)【発明者】
【氏名】ポー-ユエン・ツェン
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ-シュウ・ルゥ
(72)【発明者】
【氏名】イー-イン・リン
(72)【発明者】
【氏名】チェン-エン・ツァイ
(72)【発明者】
【氏名】チー-クワン・チェン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】免疫炎症性皮膚障害を予防または治療するための方法を提供する。
【解決手段】免疫炎症性皮膚障害を予防または治療するためのジアセレイン、レイン、モノアセチルレイン、およびその塩またはエステルもしくはプロドラッグからなる群より選択される治療有効量の化合物を含む、医薬組成物を提供する。
【選択図】
図1a
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫炎症性皮膚障害の予防または治療方法であって、それを必要としている対象に、治療有効量のベルベリンもしくは生物学的に等価なベルベリンの類似体または薬学的に許容されるその塩を含む医薬組成物を投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記免疫炎症性皮膚障害が、急性熱性好中球性皮膚症、皮膚筋炎、剥離性皮膚炎、汗疱、好中球性汗腺炎、無菌性膿疱症、妊娠性そう痒性蕁麻疹様丘疹、水疱性類天疱瘡、尋常性天疱瘡、ヘルペス状皮膚炎、妊娠性類天疱瘡、腸管関連皮膚炎性関節炎症候群、リウマチ性の好中球性皮膚症、手背の好中球性皮膚症、形質細胞限局性亀頭炎、亀頭包皮炎、ベーチェット病、遠心性環状紅斑、色素異常性固定性紅斑、多形性紅斑、環状肉芽腫、手皮膚炎、光沢苔癬、扁平苔癬、硬化性萎縮性苔癬、慢性単純性苔癬、棘状苔癬、貨幣状湿疹、壊疽性膿皮症、サルコイドーシス、角層下膿疱性皮膚症、じんま疹、掌蹠膿疱症、薬疹、急性汎発性発疹性膿疱症、接触性皮膚炎、および一過性棘融解性皮膚症からなる群より選択される、請求項1に記載方法。
【請求項3】
前記免疫炎症性皮膚障害が水疱性類天疱瘡である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記生物学的に等価なベルベリンの類似体が、ジャトロリジン、パルマチン、コプチシン、9-デメチルベルベリン、9-デメチルパルマチン、13-ヒドロイベルベリン、ベルベルビン、パルマトルビン、9-O-エチルベルベルビン、9-O-エチル-13-エチルベルベルビン、13-メチルジヒドロベルベリン N-メチル塩、テトラヒドロプロトベルベリンおよびそのN-メチル塩、ならびに9-ラウロイルベルベルビンクロリドからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記薬学的に許容される塩がベルベリンクロリドである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ベルベリンもしくは生物学的に等価なベルベリンの類似体または薬学的に許容されるその塩が、主要な薬学的活性成分である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ベルベリンもしくは生物学的に等価なベルベリンの類似体または薬学的に許容されるその塩が、唯一の薬学的活性成分である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記対象がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
免疫炎症性皮膚障害の予防または治療方法であって、それを必要としている対象に、ジアセレイン、レイン、モノアセチルレイン、およびその塩またはエステルもしくはプロドラッグからなる群より選択される治療有効量の化合物を含む医薬組成物を投与することを含む、方法。
【請求項10】
前記免疫炎症性皮膚障害が、急性熱性好中球性皮膚症、皮膚筋炎、剥離性皮膚炎、汗疱、好中球性汗腺炎、無菌性膿疱症、妊娠性そう痒性蕁麻疹様丘疹、水疱性類天疱瘡、尋常性天疱瘡、ヘルペス状皮膚炎、妊娠性類天疱瘡、腸管関連皮膚炎性関節炎症候群、リウマチ性の好中球性皮膚症、手背の好中球性皮膚症、形質細胞限局性亀頭炎、亀頭包皮炎、ベーチェット病、遠心性環状紅斑、色素異常性固定性紅斑、多形性紅斑、環状肉芽腫、手皮膚炎、光沢苔癬、扁平苔癬、硬化性萎縮性苔癬、慢性単純性苔癬、棘状苔癬、貨幣状湿疹、壊疽性膿皮症、サルコイドーシス、角層下膿疱性皮膚症、じんま疹、掌蹠膿疱症、薬疹、急性汎発性発疹性膿疱症、接触性皮膚炎、および一過性棘融解性皮膚症からなる群より選択される、請求項9に記載方法。
【請求項11】
前記免疫炎症性皮膚障害が水疱性類天疱瘡である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記化合物がジアセレインである、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記化合物が主要な薬学的活性成分である、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記化合物が唯一の薬学的活性成分である、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記対象がヒトである、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記治療有効量の前記化合物が、1日当たりの基準で、10~200mgのジアセレインと等価である、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫炎症性皮膚障害を予防または治療するための方法および医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫炎症性皮膚障害は、自己免疫性皮膚疾患、増殖性皮膚疾患、および炎症性皮膚病を含む種々の状態を包含する。免疫炎症性皮膚障害は、炎症過程、免疫系の調節不全、および望ましくない細胞増殖により、健康な組織の破壊を生ずる。
【0003】
水疱性類天疱瘡(BP)は、最もよくある自己免疫性の水疱形成性皮膚疾患であり、これは通常、高齢で発生し、発症は70歳代後半で、80歳を超える人でかなりの発生率の増加が認められる。
【0004】
BPの原因には、補体活性化、マスト細胞脱顆粒、好中球および好酸球の動員および活性化、ならびにこれらのエフェクター細胞からの基底膜領域(BMZ)分解プロテイナーゼの放出が含まれることが示唆されている。
【0005】
これらの事象の正確な順序はほとんど知られていないが、BPの水疱形成に至る最初のステップの1つは、コラーゲンXVII(COL17)としても知られるヘミデスモソーム膜貫通タンパク質BP180を標的とする自己抗体(autoAb)を含み、BP180は、真皮-表皮接合部内の主要自己抗原(autoAg)であると想定されることが提唱されている。BP180の細胞外ドメインであるNC16Aの結合後、autoAbは、基底層ケラチノサイトからのインターロイキン(IL)-6およびIL-8の用量依存性および時間依存性放出に繋がる、Fc受容体とは独立した事象を開始する。さらに、autoAbおよびBP180の結合は、BP180内部移行を誘導し、これは、BP疾患の病態形成の開始に重要な役割を果たすことが報告された(Bullous Pemphigoid IgG Induces BP180 Internalization via a Macropinocytic Pathway,Hiroyasu et al,The American Journal of Pathology,Vol.182,No.3,March 2013,p828-840)。
【0006】
本出願の発明者らは、ジアセレインおよび/またはベルベリンは、免疫炎症性皮膚障害に関連する炎症促進性サイトカインの産生ならびにBP180内部移行を抑制可能であり、したがって、免疫炎症性皮膚障害、特にBPの治療潜在能力を有することを見出した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Bullous Pemphigoid IgG Induces BP180 Internalization via a Macropinocytic Pathway,Hiroyasu et al,The American Journal of Pathology,Vol.182,No.3,March 2013,p828-840
【発明の概要】
【0008】
一実施形態では、本発明は、免疫炎症性皮膚障害の予防または治療方法を提供し、該方法は、それを必要としている対象に、治療有効量のベルベリンもしくは生物学的に等価なベルベリンの類似体または薬学的に許容されるその塩を含む医薬組成物を投与することを含む。
【0009】
別の実施形態では、本発明は、免疫炎症性皮膚障害の予防または治療方法を提供し、該方法は、それを必要としている対象に、ジアセレイン、レイン、モノアセチルレイン、およびその塩またはエステルもしくはプロドラッグからなる群より選択される治療有効量の化合物を含む医薬組成物を投与することを含む。
【0010】
本発明はまた、免疫炎症性皮膚障害の予防または治療のための医薬組成物を提供し、該医薬組成物は、治療有効量のベルベリンもしくは生物学的に等価なベルベリンの類似体または薬学的に許容されるその塩を含む。
【0011】
本発明はまた、免疫炎症性皮膚障害の予防または治療のための医薬組成物を提供し、該医薬組成物は、ジアセレイン、レイン、モノアセチルレイン、およびその塩またはエステルもしくはプロドラッグからなる群より選択される治療有効量の化合物を含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1a】IL-6の産生に対するプロピオン酸クロベタゾールの抑制効果を示す統計的棒グラフである。
【
図1b】IL-8の産生に対するプロピオン酸クロベタゾールの抑制効果を示す統計的棒グラフである。
【
図2a】IL-6の産生に対するジアセレインの抑制効果を示す統計的棒グラフである。
【
図2b】IL-8の産生に対するジアセレインの抑制効果を示す統計的棒グラフである。
【
図3a】IL-6の産生に対するベルベリンの抑制効果を示す統計的棒グラフである。
【
図3b】IL-8の産生に対するベルベリンの抑制効果を示す統計的棒グラフである。
【
図4a】IL-6およびIL-8のmRNAの産生に対するプロピオン酸クロベタゾールの抑制効果を示す統計的棒グラフである。
【
図4b】IL-6およびIL-8のmRNAの産生に対するジアセレインの抑制効果を示す統計的棒グラフである。
【
図4c】IL-6およびIL-8のmRNAの産生に対するベルベリンの抑制効果を示す統計的棒グラフである。
【
図5a】蛍光色染色(細胞核:暗青色;BP180:鮮緑色)ならびにIgG処理(右パネル)および対照(左パネル;IgG処理なし)のケラチノサイトの共焦点顕微鏡写真を示す。
【
図5b】蛍光色で染色し、IgGで処理したケラチノサイトの共焦点顕微鏡写真を示す。
【
図5c】蛍光色で染色し、異なる濃度のIgGおよびベルベリンで処理したケラチノサイトの共焦点顕微鏡写真を示す。
【
図6a】蛍光色で染色した、IgGで処理した(右パネル)および対照の(左パネル;IgGによる処理なし)ケラチノサイトの共焦点顕微鏡写真を示す。
【
図6b】蛍光色で染色し、IgGで処理したケラチノサイトの共焦点顕微鏡写真を示す。
【
図6c】蛍光色で染色し、異なる濃度のIgGおよびジアセレインで処理したケラチノサイトの共焦点顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書で使用される場合、用語の「治療有効量」は、少なくとも1人または複数人の患者の疾患の1つまたは複数の症状を軽減または減らす量を意味する。
【0014】
本明細書で使用される場合、用語の「ジアセレインまたはその類似体」は、ジアセレイン、レイン、モノアセチルレイン、またはその薬学的に許容される塩またはエステルもしくはプロドラッグを意味する。
【0015】
本明細書で使用される場合、用語の「プロドラッグ」は、その親化合物に代謝され、身体内で親化合物の形でその生理学的機能を発揮する任意の化合物を意味する。
【0016】
本明細書で別に定める場合を除き、本明細書中(特に以下の特許請求の範囲)で使用される用語の「a(an)」、「the」などは、単数形および複数形の両方を包含すると理解されるものとする。
【0017】
化学的には、レインは、式(I)の構造を有する、9,10-ジヒドロ-4,5-ジヒドロキシ-9,10-ジオキソ-2-アントラセンカルボン酸、およびそのプロドラッグの1つであるジアセレインは、式(II)の構造を有する、4,5-ビス(アセチルオキシ)9,10-ジヒドロ-4,5-ジヒドロキシ-9,10-ジオキソ-2-アントラセンカルボン酸である。ジアセレインは、体循環に到達する前にレインに完全に変換され、身体内でレインの形でその生理学的機能を発揮する。
式(I)
【化1】
式(II)
【化2】
【0018】
ジアセレインは、変形性関節症の治療に広く使用される抗炎症剤であり、インターロイキン-1(IL-1)シグナル伝達を阻害することが示されている。現在、ジアセレインカプセルは、50mgの製剤含量で入手可能であり、Art 50(登録商標)、Artrodar(登録商標)などを含む種々の商標名で、各国で市販されている。
【0019】
ベルベリン(ナチュラルイエロー18;5,6-ジヒドロ-9,10-ジメトキシベンゾ(g)-1,3-ベンゾジオキソロ(5,6-a)キノリジニウム)は、オウレン(Coptidis rhizome)、キハダ、コガネバナ、ヒイラギナンテンおよびメギなどのハーブ植物中に存在するイソキノリンアルカロイドである。ベルベリンおよびその誘導体は、抗菌性および抗マラリア活性を有することがわかっている。これは、真菌、酵母菌、寄生生物、細菌およびウイルスなどの様々な病原体に対抗して作用できる。
【0020】
本出願の発明者らは、ジアセレインおよびベルベリンは、免疫炎症性皮膚障害に関連する炎症促進性サイトカインの産生ならびにBP180内部移行を抑制可能であり、これらの障害の治療に使用できることを見出した。したがって、本発明は、免疫炎症性皮膚障害の予防または治療方法を提供し、該方法は、それを必要としている対象に、治療有効量のベルベリンもしくは生物学的に等価なベルベリンの類似体または薬学的に許容されるその塩を含む医薬組成物を投与することを含む。
【0021】
本方法における生物学的に等価なベルベリンの類似体には、限定されないが、例えば、ジャトロリジン、パルマチン、コプチシン、9-デメチルベルベリン、9-デメチルパルマチン、13-ヒドロイベルベリン、ベルベルビン、パルマトルビン、9-O-エチルベルベルビン、9-O-エチル-13-エチルベルベルビン、13-メチルジヒドロベルベリン N-メチル塩、テトラヒドロプロトベルベリンおよびそのN-メチル塩、ならびに9-ラウロイルベルベルビンクロリドが挙げられる。
【0022】
好ましくは、薬学的に許容される塩は、ベルベリンクロリドである。
【0023】
一実施形態では、ベルベリンまたは生物学的に等価なベルベリンの類似体または薬学的に許容されるその塩は、本方法における、主要な薬学的活性成分である。
【0024】
別の実施形態では、ベルベリンまたは生物学的に等価なベルベリンの類似体または薬学的に許容されるその塩は、本方法における、唯一の薬学的活性成分である。
【0025】
本発明はまた、本発明は、免疫炎症性皮膚障害の予防または治療方法を提供し、該方法は、それを必要としている対象に、ジアセレイン、レイン、モノアセチルレイン、およびその塩またはエステルもしくはプロドラッグ(すなわち、ジアセレインおよびその類似体)からなる群より選択される治療有効量の化合物を含む医薬組成物を投与することを含む。
【0026】
一実施形態では、化合物はジアセレインである。
【0027】
一実施形態では、ジアセレインまたはその類似体は、本方法における、主要な薬学的活性成分である。
【0028】
別の実施形態では、ジアセレインまたはその類似体は、本方法における、唯一の薬学的活性成分である。
【0029】
一実施形態では、前記治療有効量の前記化合物は、1日当たりの基準で、10~200mgのジアセレインと等価である。
【0030】
好ましくは、本発明の対象はヒトである。
【0031】
一実施形態では、前記免疫炎症性皮膚障害は、急性熱性好中球性皮膚症、皮膚筋炎、剥離性皮膚炎、汗疱、好中球性汗腺炎、無菌性膿疱症、妊娠性そう痒性蕁麻疹様丘疹、水疱性類天疱瘡、尋常性天疱瘡、ヘルペス状皮膚炎、妊娠性類天疱瘡、腸管関連皮膚炎性関節炎症候群、リウマチ性の好中球性皮膚症、手背の好中球性皮膚症、形質細胞限局性亀頭炎、亀頭包皮炎、ベーチェット病、遠心性環状紅斑、色素異常性固定性紅斑、多形性紅斑、環状肉芽腫、手皮膚炎、光沢苔癬、扁平苔癬、硬化性萎縮性苔癬、慢性単純性苔癬、棘状苔癬、貨幣状湿疹、壊疽性膿皮症、サルコイドーシス、角層下膿疱性皮膚症、じんま疹、掌蹠膿疱症、薬疹、急性汎発性発疹性膿疱症、接触性皮膚炎、および一過性棘融解性皮膚症からなる群より選択される。
【0032】
好ましくは、免疫炎症性皮膚障害は、水疱性類天疱瘡である。
【0033】
以降で、本発明を次の実施例に関連してさらに説明する。しかし、これらの実施例は、例証する目的のためのみで提供されており、本発明の範囲を限定するためのものではない。
【0034】
実施例
実施例1.サイトカイン産生抑制試験
抗BP180免疫グロブリンG(IgG)刺激による、ヒト成人皮膚ケラチノサイト、HaCaT細胞からの、BP関連炎症促進性サイトカイン、IL-6またはIL-8の産生を低減するジアセレインまたはベルベリンの効果を試験した。BPならびに他の種々の皮膚障害の治療によく使われるコルチコステロイドである、プロピオン酸クロベタゾールを陽性対照として用いた。
【0035】
IgGを正常またはBP患者血液から精製した。したがって、健康なドナーまたはBP患者からの採血がこの試験に含まれた。精製されたIgGを用いて、HaCaT細胞からの、IL-6およびIL-8などの炎症促進性サイトカイン産生を刺激した。
【0036】
採血
国立台湾大学病院(NTUH)皮膚科で治療された患者は、典型的な臨床所見ならびに直接免疫蛍光法(DIF)顕微鏡による真皮-表皮接合部でのIgGおよび/またはC3の線状沈着の検出または酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)(MBL Co Ltd、名古屋、日本)によるBP180-NC16Aに対する循環IgG自己抗体の検出の証拠書類に基づいたBPの確定診断がなければならない。
【0037】
BP患者ならびに健康なボランティアから、2回採血した。血液の合計量は、健康なドナー(複数可)またはBP患者(複数可)から40mLで、1回来診時の対象当たりの最大採血量は20mLとした。
【0038】
年齢、性別、BPおよび診断情報を含む病歴、ならびに循環正常IgG、抗BP180、または抗BP230 IgG自己抗体のレベルを含む人口統計が記録された。
【0039】
血液試料の採取は、NTUHの研究倫理委員会(REC)により承認を受け、ヘルシンキ宣言に従ってインフォームドコンセントを取得した。
【0040】
BP180-NC16Aタンパク質の発現
BP180-NC16A発現プラスミドを、Hiroshi Shimizu教授およびWataru Nishie教授(北海道大学大学院医学研究科皮膚科学分野、札幌、日本)から親切に提供を受けた。NC16Aドメイン(77アミノ酸)をコードする構築物をpGEX-6P1ベクターのMCS内に挿入した。プラスミドをDH5aコンピテント細胞中に形質転換した後、DNAを抽出し、配列がヒトBP180 NC16Aであることを確認した。大量のNC16Aタンパク質を得るために、プラスミドを導入することによりBL21を形質転換した後、Overnight Express Autoinductionシステム(Novagen)を用いて、製造業者の説明書に従い、NC16Aドメインタンパク質を発現させた。
【0041】
IgGの精製
健康な血液ドナー由来のIgG(健康-IgG)およびBPと診断された患者由来のIgG(BP-IgG)の全血清IgGを、Hitrap Protein A HPカラム(GE Healthcare Life Sciences)を用いて単離した。免疫グロブリンを0.1MのNaPi、pH8.0(平衡化)、0.1Mのクエン酸ナトリウム、pH6.0(洗浄)、および0.1Mのクエン酸ナトリウム、pH3.0(溶出)を用いて溶出した。その後、濃縮した免疫グロブリンをBP180-NC16Aタンパク質と結合したCNBr活性化セファロースカラム(GE Healthcare Life Sciences)によりさらに溶出し、濃縮したNC16Aに反応性の特異的IgGが単離できる(プロテインA Elu-NC16A-Elu)。親和性精製したBP IgG調製物の免疫反応性を、抗BP180-NC16A ELISA(MBL Co Ltd、名古屋、日本)により確認した。
【0042】
細胞培養
HaCaT細胞(CLS Cell Lines Service,Germany)を、4.5g/Lのグルコース、2mKのL-グルタミンおよび10%ウシ胎仔血清を補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中で培養した。細胞を24または12ウェルプレートに播種し、以下のアッセイのために、80%コンフルエンスまで増殖させた。
【0043】
細胞生存率または細胞傷害性評価
継代#3~6(100μl培地中の3000細胞/ウエル)の指数増殖期細胞を96ウェルプレートに一晩播種して細胞付着(80%集密度)を行わせた後、異なる濃度のジアセレイン(0.1、1、10μM)またはベルベリン(0.1、1、10μM)またはプロピオン酸クロベタゾール(0.1、1、10μM)、および2mg/mLの健康-IgG、BP-IgG、または特異的-IgGに、37℃で48時間、曝露した。
【0044】
薬物処理後、細胞培養培地をゆっくり除去した。その後、細胞を暖かい培地で静かに3回洗浄し、全ての脱離細胞および死細胞を除去した。細胞を細胞培地中、1.0mg/mLの最終濃度で、MTT試薬と共に2時間インキュベートした。ホルマザンの量(生存細胞の数に正比例すると想定)をELISAプレートリーダーを用いて570nmで吸光度の変化を記録することにより測定した。
【0045】
炎症促進性サイトカインの測定
以前の試験に基づいて、サイトカイン測定を実施した。手短に説明すると、細胞を培地単独でまたは2mg/mLの精製BP-IgG、または特異的-IgGと共にインキュベートし、ジアセレインまたはベルベリンまたはプロピオン酸クロベタゾール(0.1、1、および10μM)の非存在下または存在下で培養し、インキュベーションの48時間後に培養上清を収集し、-20℃での分析のために保存した。細胞培養上清中のIL-6およびIL-8レベルをELISA(BD Biosciences)により製造業者の説明書に従って分析した。
【0046】
定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応による、IL-6およびIL-8 mRNA発現の定量化
IL-6およびIL-8メッセンジャーRNA(mRNA)レベルを、以前に報告したように、定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)を用いて定量した。BP IgG処理HaCaT細胞をジアセレインまたはベルベリンまたはプロピオン酸クロベタゾールと共にまたはそれらなしで、48時間培養した。製造業者の説明書に従ってTRizol試薬(Life Technologies)を用いて、培養したHaCaT細胞から全RNAを単離した。製造業者の説明書に従って、1μgのRNAをRevert Aid First Strand cDNA Synthesis Kit(Thermo Scientific)と共にインキュベートすることにより、相補性DNA(cDNA)を単離RNAから逆転写した。SYBR(登録商標)Select Master Mix(Life Technologies)を用いて、Mastercycler(Eppendorf)により定量RT-PCRを実施した。PCR混合物には、0.5μMの各順方向および逆方向プライマーを含めた。各反応混合物を、50℃で2分間および95℃で2分間、続けて、95℃で15秒間および60℃で1分間の40サイクルに供した。データを、ハウスキーピング遺伝子グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)に対して正規化した。RT-PCRに使用したプライマーは以下の通りである:IL-8メッセンジャーRNA(mRNA)、順方向、5’-ACC GGA AGG AAC CAT CTC AC-3’、および逆方向、5’-AAA CTG CAC CTT CAC ACA GAG-3’およびIL-6メッセンジャーRNA(mRNA)、順方向、5’-GGT ACA TCC TCG ACG GCA TCT-3’、および逆方向、5’-GTG CCT CTT TGC TGC TTT CAC-3’、およびGAPDH、順方向、5’-ACA ACT TTG GTA TCG TGG AAG G-3’、および逆方向、5’-GCC ATC ACG CCA CAG TTT-3’。
【0047】
統計分析
データをスチューデントのt検定 または一元配置分散分析(ANOVA)を用いて分析した。P<0.05の場合に、統計的に有意な差異を示すと見なした。
【0048】
結果
合計13人の対象をこの試験の間に動因した。その内の6人は正常対照であり、その他の7人の対象は、最初に水疱性類天疱瘡(BP)を有すると診断された。7人のBP患者の内の1人(症例番号12)は、陰性のDIF/IIF所見のために、スクリーニング不適格症例であった。症例番号1、2、3、4、および13は、BP180 NC16Aに対する循環IgG自己抗体がELISAで分析して上昇した。
【0049】
GST-BulkキットおよびB-PER Protein Extraction Reagent(Thermo)を用いることにより大量のヒトNC16Aタンパク質を得、その後、PreScission Proteaseシステムを用いることにより、GSTタグの切断を実施した。
【0050】
健康な血液ドナー由来のIgG(健康-IgG)およびBPと診断された患者由来のIgG(BP-IgG)の血清IgGを単離するために、Hitrap Protein A HPカラムを用い、濃縮免疫グロブリンをBP180-NC16Aタンパク質に結合したCNGBr活性化セファロースカラムによりさらに溶出した。単離効率は、初期ステップ(プロテインA Elu)から、および濃縮したNC16Aに対し反応性の特異的IgG(プロテインA Elu-NC16A-Elu、すなわち、特異的IgG)から単離されたIgG中の相対倍率変化により示され、これは、最大精製倍率23.46まで、および6821 IU/mgの特異的IgGであった。
【0051】
異なる濃度のジアセレイン、ベルベリンまたはプロピオン酸クロベタゾール下でのケラチノサイト細胞傷害性をMTT試験により評価した。0.1~10μMのジアセレイン処理は、HaCaT細胞に対する有意な細胞傷害性を有し、生存率は50%に低下した。健康な対照(健康-IgG)、BP-IgGまたはBP特異的IgG由来の血清試料による処理は、HaCaTの生存率を250%高めたが、10μMのジアセレイン処理はまだ、HaCaT生存率を有意に低下させた。対照的に、0.1~10μMのベルベリンおよびプロピオン酸クロベタゾール処理は、HaCaT細胞に対する有意な細胞傷害性はなかった。
【0052】
HaCaT細胞を培地単独でまたは2mg/mLの精製BP-IgG、または特異的-IgGと共に、異なる濃度のジアセレインまたはベルベリンまたはプロピオン酸クロベタゾール(0、0.1、1、および10μM)の存在下でインキュベートしし、インキュベーションの48時間後に培養上清を収集した後、IL-6およびIL-8の変化を調査した。陽性対照のプロピオン酸クロベタゾールによる処理は、IL-6分泌(
図1a)およびIL-8分泌(
図1b)を用量依存性的に低減した。ジアセレインは、特異的抗BP180 IgGで処理したHaCaT細胞中のIL-6の分泌を有意に低減した(
図2a)。対照的に、0.1μMのジアセレインは、特異的抗BP180 IgGで処理したHaCaT細胞中のIL-8の分泌を低減しなかった。ジアセレインのIL-8分泌に対する抑制効果は、1または10μMの濃度でのみ認められた(
図2b)。
【0053】
ベルベリンは、特異的抗BP180 IgGで処理したHaCaT細胞中のIL-6の分泌を低減しなかった(
図3a)。ベルベリンは、BP特異的抗IgGで処理したHaCaT細胞中のIL-8の分泌を用量依存的に低減した。抑制効果は、BP特異的IgGで処理した細胞で有意に良好であった(
図3b)。
【0054】
BP IgG処理HaCaT細胞を異なる濃度(0、0.1、1、10μM)のジアセレイン、ベルベリンまたはプロピオン酸クロベタゾールと共に48時間培養した。全RNAを培養HaCaT細胞から単離し、定量RT-PCR(RT-qPCR)分析を実施した。結果は、プロピオン酸クロベタゾールがIL-6およびIL-8m RNA発現レベルを有意に低減させることを示し(
図4a)、一方、ジアセレインは、IL-6 mRNA発現レベルに対し、用量依存的抑制効果を有するが、IL-8 mRNAに対しては、10μMの場合のみ抑制効果を有する(
図4b)。対照的に、ベルベリンは、IL-6およびIL-8 mRNA発現の両方に対し、用量依存的抑制効果を有した(
図4c)。
【0055】
上記試験は、ジアセレインおよびベルベリンが、免疫炎症性皮膚障害に関連する炎症促進性サイトカインの産生に対し抑制効果を有し、したがって、免疫炎症性皮膚障害に対し治療の潜在能力を有し得ることを示す。
【0056】
実施例2.BP180内部移行試験
BP180は、ヘミデスモソームの重要な成分であり、ヘミデスモソームは、皮膚の基底膜へのケラチノサイトの付着状態を保つ。BP180の損傷は、ケラチノサイトの不十分な付着に繋がることがあり、また、皮膚障害または水疱形成疾患と関連する。BP180の内部移行は、水疱性類天疱瘡の病態形成における重要な役割と見なされており、したがって、この疾患の評価のための尺度となり得る。次の試験を実施して、ベルベリン、ジアセレインまたはレインのautoAb(BP-IgG)誘導BP180内部移行およびBP-IgGで処理したケラチノサイト中のヘミデスモソーム破壊に対する効果を評価した。
【0057】
方法:BP180内部移行の免疫蛍光法試験
このBP180内部移行試験のために、実施例1で記載の手順に従って、BP患者由来および異なるIgGおよび薬剤(ジアセレインまたはベルベリン)で処理した細胞培養液由来のIgGの精製を実施した。
【0058】
ガラス製カバーガラス上で増殖したケラチノサイトを、4%のパラホルムアルデヒドで固定し、PBSで完全に洗浄し、PBS中の0.1%(v/v)トリトンX-100中で10分間透過処理した。一次抗体を細胞に重ねて入れ、調製物を室温で1時間インキュベートした。カバーガラス上の細胞をPBSで洗浄し、蛍光標識二次抗体を室温で1時間適用した。PBSで洗浄後、カバーガラスをスライド上に取り付けた。細胞核用の蛍光色は、暗青色でBP180は鮮緑色であった。全ての調製物を共焦点顕微鏡により検査した。
【0059】
結果
ベルベリン処理
対照ケラチノサイト(すなわち、IgGで処理なし)および健康な対象由来のIgGで処理したケラチノサイトでは、BP180の免疫蛍光法分析(鮮緑色)は、顕著な細胞質および膜局在化を示した(
図5a)。対照的に、BP-IgGで処理した細胞中でのBP180の膜局在化は、有意に低下し、細胞質中でよりびまん性であるように見え、BP-IgG処理により誘導されたBP180内部移行およびヘミデスモソーム破壊の発生を示唆している(
図5b)。ベルベリン濃度が増加するに伴い(0.1~10μM)、BP180の膜局在化が回復し、ベルベリン処理後のBP180内部移行の抑制およびヘミデスモソーム完全性の維持を示唆する(
図5c)。
【0060】
ジアセレイン処理
対照ケラチノサイト(すなわち、IgG処理なし)および健康-IgGで処理したケラチノサイトに比べて(
図6a)、BP-IgGで処理したケラチノサイトの細胞質中で、細胞膜中のBP180分布が小さくなり、よりびまん性であるように見え、BP-IgG処理により誘導されたBP180内部移行の発生を示唆する(
図6b)。ジアセレイン濃度が増加するに伴い(0.1~10μM)、BP180の膜局在化が回復し、ジアセレイン処理後の、BP180内部移行の抑制およびヘミデスモソーム完全性の維持を示唆する(
図6c)。
【0061】
結果は、ジアセレインおよびベルベリンがBP180内部移行を抑制し、したがって、BPのための治療の潜在能力を有し得ることを示す。
【0062】
上記開示は、詳細な技術内容およびその発明の特徴に関する。当業者なら、記述された本開示および本発明の示唆に基づいて、その特徴から逸脱することなく、種々の修正および置換を行い得る。
【手続補正書】
【提出日】2022-03-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫炎症性皮膚障害の予防または治療を必要としている対象における、免疫炎症性皮膚障害を予防または治療するための医薬組成物であって、ジアセレイン、レイン、モノアセチルレイン、およびその塩またはエステルもしくはプロドラッグからなる群より選択される治療有効量の化合物を含む、医薬組成物。
【請求項2】
前記免疫炎症性皮膚障害が、急性熱性好中球性皮膚症、皮膚筋炎、剥離性皮膚炎、汗疱、好中球性汗腺炎、無菌性膿疱症、妊娠性そう痒性蕁麻疹様丘疹、水疱性類天疱瘡、尋常性天疱瘡、ヘルペス状皮膚炎、妊娠性類天疱瘡、腸管関連皮膚炎性関節炎症候群、リウマチ性の好中球性皮膚症、手背の好中球性皮膚症、形質細胞限局性亀頭炎、亀頭包皮炎、ベーチェット病、遠心性環状紅斑、色素異常性固定性紅斑、多形性紅斑、環状肉芽腫、手皮膚炎、光沢苔癬、扁平苔癬、硬化性萎縮性苔癬、慢性単純性苔癬、棘状苔癬、貨幣状湿疹、壊疽性膿皮症、サルコイドーシス、角層下膿疱性皮膚症、じんま疹、掌蹠膿疱症、薬疹、急性汎発性発疹性膿疱症、接触性皮膚炎、および一過性棘融解性皮膚症からなる群より選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記免疫炎症性皮膚障害が水疱性類天疱瘡である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記化合物がジアセレインである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記化合物が主要な薬学的活性成分である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記化合物が唯一の薬学的活性成分である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記対象がヒトである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記治療有効量の前記化合物が、1日当たりの基準で、10~200mgのジアセレインと等価である、請求項1に記載の医薬組成物。
【外国語明細書】