(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022078226
(43)【公開日】2022-05-24
(54)【発明の名称】スプレー製品
(51)【国際特許分類】
A01N 25/02 20060101AFI20220517BHJP
A01P 17/00 20060101ALI20220517BHJP
A01N 47/16 20060101ALI20220517BHJP
A01N 37/46 20060101ALI20220517BHJP
A01N 37/18 20060101ALI20220517BHJP
A01N 31/06 20060101ALI20220517BHJP
A01N 31/08 20060101ALI20220517BHJP
A01N 35/06 20060101ALI20220517BHJP
A01N 37/10 20060101ALI20220517BHJP
A01N 43/90 20060101ALI20220517BHJP
A01N 37/40 20060101ALI20220517BHJP
C11B 9/00 20060101ALI20220517BHJP
A61L 2/18 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
A01N25/02
A01P17/00
A01N47/16 A
A01N37/46
A01N37/18 Z
A01N31/06
A01N31/08
A01N35/06
A01N37/10
A01N43/90 101
A01N37/40
C11B9/00 E
C11B9/00 U
C11B9/00 N
A61L2/18
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034588
(22)【出願日】2022-03-07
(62)【分割の表示】P 2018078139の分割
【原出願日】2018-04-16
(31)【優先権主張番号】P 2017081509
(32)【優先日】2017-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100171310
【弁理士】
【氏名又は名称】日東 伸二
(72)【発明者】
【氏名】浮田 涼子
(72)【発明者】
【氏名】大野 泰史
(72)【発明者】
【氏名】向永 真也
(72)【発明者】
【氏名】杉岡 弘基
(72)【発明者】
【氏名】引土 知幸
(72)【発明者】
【氏名】川尻 由美
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
(57)【要約】
【課題】害虫忌避成分の忌避効果を増強させる新たな忌避増強成分を含有する害虫忌避組成物を提供する。
【解決手段】害虫忌避成分と、忌避増強成分としての冷感香料とを含む害虫忌避組成物である。害虫忌避成分は、ディート、3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル、及びイカリジンからなる群から選択される少なくとも一つである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
害虫忌避成分と、
忌避増強成分としての冷感香料と、
を含む飛翔害虫忌避組成物を含む飛翔害虫忌避液剤を容器に封入してなるスプレー製品であって、
前記害虫忌避成分は、ディート、3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル、イカリジン、及びp-メンタン-3,8-ジオールからなる群から選択される一つであり、
前記飛翔害虫忌避液剤における前記害虫忌避成分の濃度は、5w/v%以上であり、
前記害虫忌避成分と前記忌避増強成分との配合比が、5:1~1500:1(質量比)に設定されているスプレー製品(但し、前記容器に噴射剤が封入されている場合を除く)。
【請求項2】
前記害虫忌避成分と前記忌避増強成分との配合比が、50:1~1500:1(質量比)に設定されている請求項1に記載のスプレー製品。
【請求項3】
前記冷感香料は、l-メントール、メンチルアセテート、乳酸メンチル、l-メンチルグリセリルエーテル、メンチルピロリドンカルボン酸、N-エチル-p-メンタンカルボキシアミド、dl-カンファー、イソプレゴール、1,4-シネオール、1,8-シネオール、ボルネオール、チモール、スピラントール、酢酸リナリル、サリチル酸メチル、3-l-メトキシプロパンジオール、7-メチル-3,4-ジヒドロ-(2H)-1,5-ベンゾジオキセピン-3-オン、2,4-ジメチル-3-シクロヘキセニルカルボキシアルデヒド、及びメチル-N-3,7-ジメチル-7-ヒドロキシオクチリデン-アンスラニレートからなる群から選択される少なくとも一つである請求項1又は2に記載のスプレー製品。
【請求項4】
前記忌避増強成分の揮散期間の80%以上の期間に亘って前記害虫忌避成分が揮散するように構成されている請求項1~3の何れか一項に記載のスプレー製品。
【請求項5】
抗菌成分をさらに含む請求項1~4の何れか一項に記載のスプレー製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫に対する忌避効果を向上した害虫忌避組成物、及び当該害虫忌避組成物を含む害虫忌避液剤に関する。
【背景技術】
【0002】
害虫忌避組成物は、害虫に対する忌避効果を有する成分(以下、「害虫忌避成分」)を含有することにより、害虫を排除し、害虫による刺咬被害等を防止するものである。
【0003】
近年、害虫忌避組成物に害虫忌避成分の忌避効果を増強する成分(以下、「忌避増強成分」)を配合することが試みられており、例えば、忌避増強成分として抗菌剤を配合した害虫忌避組成物が開発されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1の害虫忌避組成物は、フェノール系抗菌剤、ベンゾチアゾール系抗菌剤及びイソチアゾリン系抗菌剤といった抗菌剤を、忌避増強成分として含有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の害虫忌避組成物は、皮膚や着衣等へ直接処理する用途を想定しており、人体への接触が考えられるため、忌避増強成分として刺激の少ない抗菌剤を用いている。
【0006】
しかしながら、刺咬被害をもたらすハチ類の防除では、ハチ又はハチの巣に対して害虫忌避組成物を処理することが想定され、害虫忌避組成物が直接人体へ接触することがない。このような用途では、忌避増強成分に必ずしも人体への刺激の少ない物質を用いなくてもよい場合がある。また、人体への刺激がある物質であっても、配合量の調整により人体への過度な刺激を抑えることも可能である。これらの観点から、忌避増強成分として有用な物質は、抗菌剤に限らず他にも存在し得ると考えられる。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、害虫忌避成分の忌避効果を増強させる新たな忌避増強成分を含有する害虫忌避組成物、及び害虫忌避液剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明に係る害虫忌避組成物の特徴構成は、
害虫忌避成分と、
忌避増強成分としての冷感香料と、
を含むことにある。
【0009】
本構成の害虫忌避組成物によれば、害虫忌避成分による通常の忌避効果が、忌避増強成分としての冷感香料により増強される。その結果、冷感香料の配合による相乗効果により、優れた忌避効果を得ることができる。
【0010】
本発明に係る害虫忌避組成物において、
前記害虫忌避成分は、ディート、3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル、及びイカリジンからなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0011】
本構成の害虫忌避組成物によれば、害虫忌避成分として上記の適切なものを使用しているため、冷感香料の配合による相乗効果が顕著となり、より優れた忌避効果を得ることができる。
【0012】
本発明に係る害虫忌避組成物において、
前記冷感香料は、l-メントール、メンチルアセテート、乳酸メンチル、l-メンチルグリセリルエーテル、メンチルピロリドンカルボン酸カンファー、N-エチル-p-メンタンカルボキシアミド、dl-カンファー、イソプレゴール、1,4-シネオール、1,8-シネオール、ボルネオール、チモール、スピラントール、酢酸リナリル、サリチル酸メチル、3-l-メトキシプロパンジオール、7-メチル-3,4-ジヒドロ-(2H)-1,5-ベンゾジオキセピン-3-オン、2,4-ジメチル-3-シクロヘキセニルカルボキシアルデヒド、及びメチル-N-3,7-ジメチル-7-ヒドロキシオクチリデン-アンスラニレートからなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0013】
本構成の害虫忌避組成物によれば、上記の適切な冷感香料を忌避増強成分として使用しているため、害虫忌避成分の忌避効果を十分に増強することができる。
【0014】
本発明に係る害虫忌避組成物において、
前記害虫忌避成分と前記忌避増強成分との配合比が、5:1~3000:1(質量比)に設定されていることが好ましい。
【0015】
本構成の害虫忌避組成物によれば、配合比が適切な範囲にあるため、忌避増強成分としての冷感香料による冷感刺激が強くなり過ぎることや、忌避増強成分が不足することで害虫忌避成分の忌避効果を十分に増強できなくなることを防ぐことができる。
【0016】
本発明に係る害虫忌避組成物において、
前記忌避増強成分の揮散期間の80%以上の期間に亘って前記害虫忌避成分が揮散するように構成されていることが好ましい。
【0017】
本構成の害虫忌避組成物によれば、害虫忌避成分の揮散期間中に忌避増強成分が全て揮散して失われることがないため、害虫忌避成分の揮散期間を通して冷感香料の配合による相乗効果が十分に発揮される。また、忌避増強成分の揮散期間と害虫忌避成分の揮散期間とが80%以上重複するように忌避増強成分の量を調節することで、過剰な添加によるコストの上昇を抑制することができる。
【0018】
本発明に係る害虫忌避組成物において、
抗菌成分をさらに含むことが好ましい。
【0019】
本構成の害虫忌避組成物によれば、抗菌成分により菌の増殖を抑制することができるので、害虫忌避組成物を人体又は着衣へ直接塗布する用途等において、発汗の際の各種の菌が発生する臭いを抑えることができる。
【0020】
上記課題を解決するための本発明に係る害虫忌避液剤の特徴構成は、
上記何れか一つに記載の害虫忌避組成物を含むことにある。
【0021】
本構成の害虫忌避液剤によれば、本発明の害虫忌避組成物を含むことで、害虫忌避成分による通常の忌避効果が、忌避増強成分としての冷感香料により増強される。その結果、冷感香料の配合による相乗効果により、優れた忌避効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の害虫忌避組成物、及び害虫忌避液剤について説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されることを意図しない。
【0023】
本発明は、害虫忌避組成物に冷感香料を配合することで、害虫忌避成分のハチ類等への忌避効果を増強することを本発明者らが新たに発見し、冷感香料を忌避増強成分として利用することを着想したものである。本発明の害虫忌避組成物(害虫忌避液剤)によって防除することが可能な害虫の種類としては、例えば、ミツバチ、クマバチ、フタモンアシナガバチ、セグロアシナガバチ、キアシナガバチ、コガタスズメバチ、モンスズメバチ、ヒメスズメバチ、オオスズメバチ、キイロスズメバチ、及びチャイロスズメバチ等のハチ類、アカイエカ、チカイエカ、ヒトスジシマカ等の蚊類、蚋、ユスリカ類、ハエ類、コバエ類、チョウバエ類、イガ類等が挙げられる。
【0024】
<害虫忌避組成物>
本発明の害虫忌避組成物は、主成分として、害虫忌避成分と、忌避増強成分とを含有する。また、本発明の害虫忌避組成物は、さらに、抗菌成分を含有してもよい。
【0025】
害虫忌避成分としては、ディート、3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル(以下、「IR3535」と表記する)、イカリジン、及びp-メンタン-3,8-ジオール等が挙げられる。上掲の害虫忌避成分のうち、ディート、IR3535、及びイカリジンが好ましく使用される。忌避増強成分の配合による相乗効果は、害虫忌避成分、及び忌避増強成分のそれぞれの種類の組み合わせによってその度合いが異なるが、特に、ディート、IR3535、及びイカリジンは、後述する忌避増強成分としての冷感香料との組み合わせにより、忌避増強成分の配合による優れた相乗効果を得ることができる。ディートは、長年にわたる使用実績がある。IR3535は、ディートとほぼ同等の忌避効果を有しながら、ディートよりも人体に対する安全性が高い。イカリジンは、忌避効果が高く、安全性も高い。なお、上掲の各害虫忌避成分は、単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0026】
忌避増強成分としては、冷感香料を用いる。冷感香料の例として、l-メントール、メンチルアセテート、乳酸メンチル、l-メンチルグリセリルエーテル、メンチルピロリドンカルボン酸カンファー、N-エチル-p-メンタンカルボキシアミド、dl-カンファー、イソプレゴール、1,4-シネオール、1,8-シネオール、ボルネオール、チモール、スピラントール、酢酸リナリル、サリチル酸メチル、3-l-メトキシプロパンジオール、7-メチル-3,4-ジヒドロ-(2H)-1,5-ベンゾジオキセピン-3-オン、2,4-ジメチル-3-シクロヘキセニルカルボキシアルデヒド、メチル-N-3,7-ジメチル-7-ヒドロキシオクチリデン-アンスラニレート等が挙げられる。なお、上掲の各冷感香料は、単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0027】
冷感香料は人体への接触により冷感刺激をもたらすが、ハチ類の防除等、害虫忌避組成物が人体へ直接接触することが想定されない用途では、冷感刺激への対処を考慮することなく使用することができる。また、害虫忌避組成物が人体へ直接接触する用途でも、冷感香料の配合量を調節することで、過度な冷感刺激を抑え爽やかな肌感覚を得ることができる。
【0028】
抗菌成分としては、各種の一般的な抗菌性化合物を用いることができる。例えば、通常のフェノール系抗菌成分や四級アンモニウム塩の抗菌成分、イソチアゾリン系抗菌成分など各種の化合物を用いることができる。これらは単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。フェノール系抗菌成分としては、特に限定はされないものの、3-メチル-4-イソプロピルフェノール、オルト-フェニルフェノール等が例示される。ベンゾチアゾール系抗菌成分としては、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メルカプトベンゾチアゾール等が例示される。さらにイソチアゾリン系抗菌成分としては、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
本発明の害虫忌避組成物には、害虫忌避成分、忌避増強成分、及び抗菌成分の各効果を阻害しないものであれば、他の成分が含まれていても構わない。そのような成分の例として、例えば、殺虫成分、消臭成分、除菌成分、持続成分等が挙げられる。
【0030】
上掲の各成分の配合にあたって、人体への過度な冷感刺激を抑制しつつ、優れた忌避効果を得るためには、害虫忌避成分と忌避増強成分との配合比(質量比)は、5:1~3000:1に調整されることが好ましく、50:1~3000:1に調整されることがより好ましく、100:1~1500:1に調整されることがさらに好ましい。害虫忌避成分と忌避増強成分との配合比が5:1未満の場合(すなわち、忌避増強成分の配合量が害虫忌避成分の配合量に対して1/5を超える場合)、忌避増強成分の比率を増やしても忌避効果の増強が頭打ちとなり、忌避増強成分の過剰分に応じたコスト面でのデメリットが生じ、さらに、害虫忌避組成物が人体へ直接接触する用途では、忌避増強成分としての冷感香料による冷感刺激が強くなり過ぎる虞がある。なお、忌避増強成分の比率を増やしても忌避効果の増強が頭打ちとならないようにするためには、忌避増強成分の揮散期間の80%以上の期間に亘って害虫忌避成分が揮散するよう調整することが好ましい。害虫忌避成分と忌避増強成分との配合比が3000:1を超える場合(すなわち、忌避増強成分の配合量が害虫忌避成分の配合量に対して1/3000未満の場合)、忌避増強成分が不足するため、害虫忌避成分の忌避効果を十分に増強できない虞がある。
【0031】
上述のように調製された本発明の害虫忌避組成物は、忌避増強成分として配合された冷感香料の作用により、害虫忌避成分の忌避効力が増強され、優れた忌避効果を発揮することができる。
【0032】
<害虫忌避液剤>
本発明の害虫忌避液剤は、上述した各成分を適切な質量比で配合し、これを溶剤に溶解させることで得られる。溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール系溶剤、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール系溶剤、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤、トルエン、キシレン、ノルマルヘキサン、n-パラフィン、イソパラフィン等の炭化水素系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、乳酸エチル等のエステル系溶剤などが挙げられる。溶剤が水溶性である場合は、適量の水を混合することも可能である。
【0033】
害虫忌避液剤中の害虫忌避成分の濃度は、好ましくは5w/v%以上、より好ましくは7w/v%以上に調整される。害虫忌避成分の濃度が5w/v%未満の場合、十分な忌避効果を発揮することが困難となる虞がある。害虫忌避成分の濃度の上限については、特に限定されないが、現実的には使用する溶剤における害虫忌避成分の飽和濃度となる。
【0034】
害虫忌避液剤中の忌避増強成分の濃度は、好ましくは0.01~0.1w/v%に調整される。忌避増強成分の濃度が0.01w/v%未満の場合、忌避増強成分が不足するため、害虫忌避成分の忌避効果を十分に増強できない虞があり、忌避増強成分の濃度が0.1w/v%を超える場合、忌避増強成分としての冷感香料による冷感刺激が強くなり過ぎる虞がある。
【0035】
また、本発明の害虫忌避液剤には、界面活性剤、可溶化剤、分散剤、安定化剤、pH調整剤、着色剤などの添加剤を加えることも可能である。
【0036】
上述のように調製された本発明の害虫忌避液剤は、スプレー剤として使用することができる。本発明の害虫忌避液剤をスプレー剤として使用する場合には、例えば、蓄圧式のポンプ式スプレーのヘッドが付いた容器に害虫忌避液剤を封入することで、スプレー製品を構成することができる。あるいは、本発明の害虫忌避液剤をシートに含侵し、シートタイプの製品を構成してもよい。
【0037】
また、上述の害虫忌避組成物と有機溶剤とを混合した害虫忌避液剤をエアゾール原液とし、噴射剤とともに耐圧容器に加圧充填することで、エアゾール製品を構成することができる。エアゾールを作製するにあたっては、作業性を考慮して、初めに有機溶剤に害虫忌避組成物を溶解させてエアゾール原液(害虫忌避液剤)を調製する。そして、このエアゾール原液を噴射剤とともに耐圧容器に封入する。
【0038】
有機溶剤の特性は、エアゾールを噴射したときの噴霧粒子の形成に影響するため、適切な粘度に調整したものが使用される。有機溶剤の粘度は、20℃において10mPa・s未満が好ましく、5mPa・s未満がより好ましい。エアゾール原液の調製に使用可能な有機溶剤を例示すると、ノルマルパラフィン、及びイソパラフィン等の炭化水素系溶剤、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール等のアルコール類、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール類、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類、ケトン系溶剤、及びエステル系溶剤等が挙げられる。なお、上掲の有機溶剤は、単独での使用に限定されず、二種以上を組み合わせて使用しても構わない。
【0039】
エアゾール原液は、水を配合して水性エアゾール剤に調製することも可能であり、この場合、必要に応じて界面活性剤が添加される。界面活性剤を例示すると、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアミノエーテル類などのエーテル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル類などの脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンスチレン化フェノール、脂肪酸のポリアルカロールアミドなどの非イオン系界面活性剤、ポリオキシエチレン(POE)スチリルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレン(POE)アルキルエーテル硫酸塩、ドデシルベンゼン硫酸塩などのアニオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0040】
噴射剤は、エアゾール原液を粒子状にして勢いよく噴射させるため、常温常圧でガス状のものが使用される。また、噴射剤には、圧力容器内において、上述の各種成分を変質させない安定性が求められる。そのような噴射剤を例示すると、液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテル(DME)、窒素ガス、炭酸ガス、亜酸化窒素ガス、及び圧縮空気等が挙げられる。これらのうち、容易に入手可能であり、且つ取扱い易いLPG、及び窒素ガスが好ましく使用される。なお、上掲の噴射剤は、単独での使用に限定されず、二種以上を組み合わせて使用しても構わない。
【0041】
噴射剤は、エアゾール原液(a)と噴射剤(b)との容量比率(a/b)が、40/60~80/20となるように調整される。容量比率(a/b)が上記の適切な範囲に調整されている場合、耐圧容器内でのエアゾール剤の内圧は、0.25~0.70MPa(25℃)となる。
【実施例0042】
〔害虫忌避効果確認試験〕
本発明の害虫忌避組成物による忌避効果を確認するため、害虫忌避成分と忌避増強成分との組み合わせ、及びその配合比を種々変更して害虫忌避液剤(実施例1~14)を調製した。また、比較のため、忌避増強成分を配合していない害虫忌避成分のみの害虫忌避液剤(比較例1~7)を調製した。実施例1~14、及び比較例1~7の各害虫忌避液剤に使用した各種成分、害虫忌避成分と忌避増強成分との配合比(質量比)を表1に示す。実施例8の害虫忌避液剤については、表1中には記載していないが、害虫忌避成分及び忌避増強成分以外の他の成分として緑茶消臭エキス0.01gをさらに含む。なお、本実施例は、任意の倍率でのスケールアップが可能である。従って、実施例中に示す各成分の質量単位g(グラム)は、質量部又は重量部と読み替えることができる。
【0043】
害虫忌避液剤の調製にあたっては、各成分を混合してエタノール55.0gに均一に溶解し、さらに精製水を加え、全量で100mLの害虫忌避組成物とした。これを蓄圧式のポンプ式スプレーのヘッドが付いた容器に充填した。
【0044】
害虫忌避効果確認試験では、密閉可能な開口部を備えたボックスにアカイエカの雌成虫20匹を放ち、害虫忌避液剤(害虫忌避組成物)を手の甲に約1mL塗布し塗り延ばした被験者の片腕を開口部からボックス内に挿入し、被験者の片腕に付着したアカイエカの数(n1)をカウントした。また、ブランクとして、同条件のボックス内に害虫忌避液剤を塗布していない被験者の片腕を挿入し、同様に被験者の片腕に付着したアカイエカの数(n0)をカウントした。そして、アカイエカの忌避率を(n0-n1)/n0〔%〕として算出した。忌避率の算出は、害虫忌避液剤の使用開始から2時間後、4時間後、6時間後、及び8時間後について行った。実施例1~14、及び比較例1~7における害虫忌避効果確認試験の結果(忌避率)を表1に示す。
【0045】
【0046】
害虫忌避効果確認試験の結果より、実施例1~14、及び比較例1~7の害虫忌避液剤は、何れも使用開始から4時間後までは、90%以上の忌避率を示し、十分な忌避効果が認められた。
【0047】
しかしながら、使用開始から6時間後に、実施例1~3、5~9、12~14の害虫忌避液剤と、比較例1、2、4~6の害虫忌避液剤との忌避率に差が生じるようになった。具体的には、実施例1の害虫忌避液剤、及び比較例1の害虫忌避液剤は、何れも害虫忌避成分として7.0gのイカリジンを含有するが、使用開始から6時間後に、実施例1では95%と高い忌避率を示したのに対し、比較例1では80%まで忌避率が低下した。実施例2、3、5、6、12、13、14の害虫忌避液剤、及び比較例2の害虫忌避液剤は、何れも害虫忌避成分として5.0gのイカリジンを含有するが、使用開始から6時間後に、実施例2、3、5、6、12、13、14では85%以上の忌避率を示したのに対し、比較例2では80%まで忌避率が低下した。なお、実施例3と実施例12との比較、及び実施例13と実施例14との比較から、イカリジンに対する忌避増強成分の配合量を10倍に増加すると、より長時間に亘って高い忌避率を維持できることが確認された。実施例7の害虫忌避液剤、及び比較例4の害虫忌避液剤は、何れも害虫忌避成分として5.0gのIR3535を含有するが、使用開始から6時間後に、実施例7では90%と高い忌避率を示したのに対し、比較例4では80%まで忌避率が低下した。実施例8の害虫忌避液剤、及び比較例5の害虫忌避液剤は、何れも害虫忌避成分として15.0gのIR3535を含有するが、使用開始から6時間後に、実施例8では100%の忌避率が維持されているのに対し、比較例5では90%まで忌避率が低下した。実施例9の害虫忌避液剤、及び比較例6の害虫忌避液剤は、何れも害虫忌避成分として10.0gのディートを含有するが、使用開始から6時間後に、実施例9では90%と高い忌避率を示したのに対し、比較例6では70%まで忌避率が低下した。
【0048】
また、実施例4、11の害虫忌避液剤、及び比較例3の害虫忌避液剤は、何れも害虫忌避成分として15.0gのイカリジンを含有し、使用開始から6時間後までは、忌避率に差が見られなかったが、使用開始から8時間後に、実施例4、11では90%と高い忌避率を示したのに対し、比較例3では80%まで忌避率が低下した。実施例10の害虫忌避液剤、及び比較例7の害虫忌避液剤は、何れも害虫忌避成分として30.0gのディートを含有し、使用開始から6時間後までは、忌避率に差が見られなかったが、使用開始から8時間後に、実施例10では90%と高い忌避率を示したのに対し、比較例7では80%まで忌避率が低下した。
【0049】
このように、同種の害虫忌避成分を同量含有する組み合わせにおいて、忌避増強成分として冷感香料を含有する実施例1~14の害虫忌避液剤は、忌避増強成分として冷感香料を含有していない比較例1~7の害虫忌避液剤に比べて、使用開始から6時間後以降も高い忌避率を維持することが示された。
【0050】
〔刺咬被害防止効果確認試験〕
ハチに対する刺咬被害防止効果を確認するため、実施例6、10の害虫忌避液剤を使用して、刺咬被害防止効果確認試験を実施した。また、比較のため、それぞれ実施例6、10と同種の害虫忌避成分を同量含有する比較例2、7を使用し、同様の試験を実施した。
【0051】
刺咬被害防止効果確認試験では、20cm2のレーヨン/ポリエステル製布地に、害虫忌避液剤をスプレーして害虫忌避成分及び忌避増強成分を含浸させ、これを1m3のガラス箱の底面中央に置き、供試検体とした。供試検体は、実施例6、10、及び比較例2、7のそれぞれについて、薬剤処理後2時間、4時間の2種を準備した。上記の供試検体上に、炭酸麻酔したフタモンアシナガバチ雌成虫を1匹置き、麻酔から覚醒した後の行動を観察した。ハチが供試検体上で、盛んに羽ばたき行動を行う、もしくはその場から飛び立とうとするといった、忌避行動を行った回数を10分間記録した。実施例6、10、及び比較例2、7に使用した各種成分とその配合比(質量比)、並びに刺咬被害防止効果確認試験の結果を表2に示す。
【0052】
【0053】
刺咬被害防止効果確認試験の結果より、実施例6、10、及び比較例2、7の害虫忌避液剤は、同種の害虫忌避成分を同量含有する組み合わせにおいて、薬剤処理から2時間後では忌避行動の回数に違いは見られなかった。しかしながら、薬剤処理から4時間後では、実施例6、10の害虫忌避液剤は、比較例2、7の害虫忌避液剤に比べて、忌避行動の回数が多く観察された。
【0054】
このように、忌避増強成分として冷感香料を含有する実施例6、10の害虫忌避液剤は、忌避増強成分として冷感香料を含有していない比較例2、7の害虫忌避液剤に比べて、ハチに対する忌避効果が高く、実施例6、10の害虫忌避液剤により、ハチに対する優れた刺咬被害防止効果が得られることが確認された。
本発明の害虫忌避組成物、及び害虫忌避液剤は、ハチ類、蚊類、蚋、ユスリカ類、ハエ類、コバエ類、チョウバエ類、イガ類などの害虫を忌避するために使用されるものであり、例えば、人の皮膚に塗布する虫除け剤、ペットや家畜の表皮に塗布する虫除け剤、衣類等の繊維製品にスプレーするスプレー剤として利用可能である。