(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022078290
(43)【公開日】2022-05-24
(54)【発明の名称】凍結乾燥製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 47/68 20170101AFI20220517BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220517BHJP
A61K 38/46 20060101ALI20220517BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20220517BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20220517BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220517BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20220517BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220517BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220517BHJP
C12N 9/14 20060101ALN20220517BHJP
【FI】
A61K47/68 ZNA
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K38/46
A61K9/19
A61K47/26
A61K47/02
A61K47/10
A61P25/00
A61P9/00
C12N9/14
【審査請求】有
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039459
(22)【出願日】2022-03-14
(62)【分割の表示】P 2018559632の分割
【原出願日】2017-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2016257060
(32)【優先日】2016-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000228545
【氏名又は名称】JCRファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】安川 秀仁
(72)【発明者】
【氏名】山口 裕加
(72)【発明者】
【氏名】岡部 真二
(57)【要約】
【課題】抗体とリソソーム酵素との融合蛋白質を有効成分として含有してなる,市場に流通させることが可能な程度に安定な医薬組成物を提供すること。
【解決手段】抗体とリソソーム酵素との融合蛋白質を有効成分として含有し,更に,中性塩,二糖類,非イオン性界面活性剤,及び緩衝剤を含有してなる,凍結乾燥製剤。かかる凍結乾燥製剤としては,例えば,抗トランスフェリン受容体抗体とヒトイズロン酸-2-スルファターゼとの融合蛋白質を有効成分として含有し,更に,中性塩として塩化ナトリウム,二糖類としてスクロース,非イオン性界面活性剤としてポロキサマー,及び緩衝剤としてリン酸緩衝剤を含有してなるものが挙げられる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体とリソソーム酵素との融合蛋白質を有効成分として含有してなる凍結乾燥製剤であって,中性塩,二糖類,非イオン性界面活性剤,及び緩衝剤を更に含有してなる,凍結乾燥製剤。
【請求項2】
該中性塩が塩化ナトリウムである,請求項1に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項3】
該二糖類がトレハロース,スクロース,マルトース,及び乳糖からなる群から選択されるものである,請求項1に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項4】
該非イオン性界面活性剤が,ポリソルベート又はポロキサマーである,請求項1に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項5】
該非イオン性界面活性剤が,ポリソルベート20,ポリソルベート80,及びポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールからなる群から選択されるものである,請求項1に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項6】
該緩衝剤がリン酸緩衝剤である,請求項1に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項7】
該二糖類がスクロースであり,該非イオン性界面活性剤がポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールであり,及び該緩衝剤がリン酸緩衝剤である,請求項1に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項8】
該中性塩,該二糖類,及び該非イオン性界面活性剤の含量が,該融合蛋白質の含量に対して,それぞれ,0.015~2.5(w/w),2.5~200(w/w),及び0.005~6(w/w)である,請求項1に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項9】
該中性塩,該二糖類,及び該非イオン性界面活性剤の含量が,該融合蛋白質の含量に対して,それぞれ,0.05~0.5(w/w),5~50(w/w),及び0.02~0.2(w/w)である,請求項1に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項10】
該中性塩,該二糖類,及び該非イオン性界面活性剤の含量が,該融合蛋白質の含量に対して,それぞれ,0.1~0.25(w/w),10~25(w/w),及び0.04~0.1(w/w)である,請求項1に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項11】
純水で溶解したときのpHが5.5~7.5である,請求項1に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項12】
該融合蛋白質は,該リソソーム酵素が該抗体の軽鎖又は重鎖の何れかのC末端側又はN末端側のいずれかにペプチド結合により結合したものである,請求項1に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項13】
該融合蛋白質は,該リソソーム酵素が該抗体の重鎖のC末端側にペプチド結合により結合したものである,請求項1に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項14】
該融合蛋白質は,該リソソーム酵素が該抗体の軽鎖又は重鎖のいずれかのC末端側又はN末端側のいずれかに,少なくとも1個のアミノ酸よりなるリンカーを介して結合したものである,請求項1に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項15】
該融合蛋白質は,該リソソーム酵素を該抗体の重鎖のC末端側に少なくとも1個のアミノ酸よりなるリンカーを介して結合したものである,請求項1に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項16】
該リンカーが,Gly-Serで示されるアミノ酸配列を有するものである,請求項14に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項17】
該リソソーム酵素が,ヒトリソソーム酵素である,請求項1に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項18】
該リソソーム酵素が,α-L-イズロニダーゼ,イズロン酸-2-スルファターゼ,グルコセレブロシダーゼ,β-ガラクトシダーゼ,GM2活性化蛋白質,β-ヘキソサミニダーゼA,β-ヘキソサミニダーゼB,N-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼ,α-マンノシダーゼ,β-マンノシダーゼ,ガラクトシルセラミダーゼ,サポシンC,アリルスルファターゼA,α-L-フコシダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ,酸性スフィンゴミエリナーゼ,α-ガラクトシダーゼ,β-グルクロニダーゼ,ヘパランN-スルファターゼ,α-N-アセチルグルコサミニダーゼ,アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ,N-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼ,酸性セラミダーゼ,アミロ-1,6-グルコシダーゼ,シアリダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,パルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1,トリペプチジルペプチダーゼ-1,ヒアルロニダーゼ-1,CLN1,及びCLN2からなる群から選択されるものである,請求項1に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項19】
該ヒトリソソーム酵素が,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼである,請求項17に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項20】
該抗体が,ヒト抗体又はヒト化抗体である,請求項1に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項21】
該抗体が,血管内皮細胞の表面に存在する分子を抗原として認識するものである,請求項1に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項22】
該血管内皮細胞が,ヒトの血管内皮細胞である,請求項21に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項23】
該血管内皮細胞が,脳血管内皮細胞である,請求項21に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項24】
該脳血管内皮細胞の表面に存在する分子が,トランスフェリン受容体(TfR),インスリン受容体,レプチン受容体,リポ蛋白質受容体,IGF受容体,OATP-F,有機アニオントランスポーター,MCT-8及びモノカルボン酸トランスポーターからなる群から選択されるものである,請求項23に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項25】
該抗体が,ヒト化抗ヒトトランスフェリン受容体(hTfR)抗体である,請求項20に記載の凍結乾燥製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,抗体とリソソーム酵素とを結合させた蛋白質を有効成分とする医薬の,貯蔵安定な凍結乾燥製剤に関し,詳しくは,安定化剤として,スクロースと非イオン性界面活性剤を含有する凍結乾燥製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体とリソソーム酵素とを結合させた蛋白質として,抗インスリン受容体抗体とα-L-イデュロニダーゼの融合蛋白質(特許文献1),抗インスリン受容体抗体とイズロン酸-2-スルファターゼの融合蛋白質(特許文献2)が作製されたことが報告されている。このように人工的に構築された新規な蛋白質の製剤化において,如何なる形態がそれらの製剤処方として適切であるかは未知である。
【0003】
抗体の製剤化に関してみると,抗IL-13抗体を有効性成分として含む凍結乾燥製剤(特許文献3),アルギニン,ヒスチジン,リジン等のアミノ酸又はその塩を含む抗体の凍結乾燥製剤(特許文献4),メグルミンを含む抗体の凍結乾燥製剤(特許文献5),ラクトビオン酸を含む抗EGF受容体抗体の凍結乾燥製剤(特許文献6),クエン酸,ポリソルベート80及びショ糖を含む抗ヒトIL-23p19抗体の凍結乾燥製剤(特許文献7)等,多くの報告がされている。つまり,抗体のみをとっても,その製剤化をするに当たっては,試行錯誤が必要とされているのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2010-534723号公報
【特許文献2】特表2012-521194号公報
【特許文献3】特表2016-519124号公報
【特許文献4】WO2007/074880
【特許文献5】WO2006/132363
【特許文献6】特表2009-540015号公報
【特許文献7】特表2012-501332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は,安定化剤として,スクロースと非イオン性界面活性剤を含有してなり,市場に流通させることが可能な程度に安定な,抗体とリソソーム酵素とを結合させた蛋白質を有効成分として含有してなる凍結乾燥製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的に向けた研究において,本発明者らは,抗体とヒトリソソーム酵素の一種であるヒトイズロン酸-2-スルファターゼとを結合させた蛋白質が,スクロースと非イオン性界面活性剤とを賦形剤として含有する凍結乾燥製剤の形態とすることで安定に保存できることを見出し,本発明を完成した。すなわち,本発明は以下を含むものである。
【0007】
1.抗体とリソソーム酵素との融合蛋白質を有効成分として含有してなる凍結乾燥製剤であって,中性塩,二糖類,非イオン性界面活性剤,及び緩衝剤を更に含有してなる,凍結乾燥製剤。
2.該中性塩が塩化ナトリウムである,上記1に記載の凍結乾燥製剤。
3.該二糖類がトレハロース,スクロース,マルトース,及び乳糖からなる群から選択されるものである,上記1又は2に記載の凍結乾燥製剤。
4.該非イオン性界面活性剤が,ポリソルベート又はポロキサマーである,上記1乃至3の何れかに記載の凍結乾燥製剤。
5.該非イオン性界面活性剤が,ポリソルベート20,ポリソルベート80,及びポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールからなる群から選択されるものである,上記1乃至3の何れかに記載の凍結乾燥製剤。
6.該緩衝剤がリン酸緩衝剤である,上記1乃至5の何れかに記載の凍結乾燥製剤。
7.該二糖類がスクロースであり,該非イオン性界面活性剤がポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールであり,及び該緩衝剤がリン酸緩衝剤である,上記1又は2に記載の凍結乾燥製剤。
8.該中性塩,該二糖類,及び該イオン性界面活性剤の含量が,該融合蛋白質の含量に対して,それぞれ,0.015~2.5(w/ww/w),2.5~200(w/ww/w),及び0.005~6(w/ww/w)である,上記1乃至7の何れかに記載の凍結乾燥製剤。
9.該中性塩,該二糖類,及び該イオン性界面活性剤の含量が,該融合蛋白質の含量に対して,それぞれ,0.05~0.5(w/ww/w),5~50(w/ww/w),及び0.02~0.2(w/ww/w)である,上記1乃至7の何れかに記載の凍結乾燥製剤。
10.該中性塩,該二糖類,及び該イオン性界面活性剤の含量が,該融合蛋白質の含量に対して,それぞれ,0.1~0.25(w/ww/w),10~25(w/ww/w),及び0.04~0.1(w/ww/w)である,上記1乃至7の何れかに記載の凍結乾燥製剤。
11.純水で溶解したときのpHが5.5~7.5である,上記1乃至10の何れかに記載の凍結乾燥製剤。
12.該融合蛋白質が,該ヒトリソソーム酵素が該抗体の軽鎖又は重鎖の何れかのC末端側又はN末端側の何れかにペプチド結合により結合したものである,上記1乃至11の何れかに記載の凍結乾燥製剤。
13.該融合蛋白質が,該ヒトリソソーム酵素が該抗体の重鎖のC末端側にペプチド結合により結合したものである,上記1乃至11の何れかに記載の凍結乾燥製剤。
14.該融合蛋白質が,該ヒトリソソーム酵素が該抗体の軽鎖又は重鎖の何れかのC末端側又はN末端側の何れかに,少なくとも1個のアミノ酸よりなるリンカーを介して結合したものである,上記1乃至11の何れかに記載の凍結乾燥製剤。
15.該融合蛋白質が,該ヒトリソソーム酵素が該抗体の重鎖のC末端側に少なくとも1個のアミノ酸よりなるリンカーを介して結合したものである,上記1乃至11の何れかに記載の凍結乾燥製剤。
16.該リンカーが,(Gly-Ser)で示されるアミノ酸配列を有するものである,上記14又は15に記載の凍結乾燥製剤。
17.該リソソーム酵素が,ヒトリソソーム酵素である,上記1乃至16の何れかに記載の凍結乾燥製剤。
18.該リソソーム酵素が,α-L-イズロニダーゼ,イズロン酸-2-スルファターゼ,グルコセレブロシダーゼ,β-ガラクトシダーゼ,GM2活性化蛋白質,β-ヘキソサミニダーゼA,β-ヘキソサミニダーゼB,N-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼ,α-マンノシダーゼ,β-マンノシダーゼ,ガラクトシルセラミダーゼ,サポシンC,アリルスルファターゼA,α-L-フコシダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ,酸性スフィンゴミエリナーゼ,α-ガラクトシダーゼ,β-グルクロニダーゼ,ヘパランN-スルファターゼ,α-N-アセチルグルコサミニダーゼ,アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ,N-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼ,酸性セラミダーゼ,アミロ-1,6-グルコシダーゼ,シアリダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,パルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1,トリペプチジルペプチダーゼ-1,ヒアルロニダーゼ-1,CLN1,及びCLN2からなる群から選択されるものである,上記1乃至17の何れかに記載の凍結乾燥製剤。
19.該ヒトリソソーム酵素が,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼである,上記17に記載の凍結乾燥製剤。
20.該抗体が,ヒト抗体又はヒト化抗体である,上記1乃至19の何れかに記載の凍結乾燥製剤。
21.該抗体が,血管内皮細胞の表面に存在する分子を抗原として認識するものである,上記1乃至20の何れかに記載の凍結乾燥製剤。
22.該血管内皮細胞が,ヒトの血管内皮細胞である,上記21に記載の凍結乾燥製剤。
23.該血管内皮細胞が,脳血管内皮細胞である,上記21又は22に記載の凍結乾燥製剤。
24.該脳血管内皮細胞の表面に存在する分子が,トランスフェリン受容体(TfR),インスリン受容体,レプチン受容体,リポ蛋白質受容体,IGF受容体,OATP-F,有機アニオントランスポーター,MCT-8及びモノカルボン酸トランスポーターからなる群から選択されるものである,上記23に記載の凍結乾燥製剤。
25.該抗体が,ヒト化抗ヒトトランスフェリン受容体(hTfR)抗体である,上記20に記載の凍結乾燥製剤。
26.該抗体がヒト化抗hTfR抗体であり,該ヒトリソソーム酵素がヒトイズロン酸-2-スルファターゼであり,該融合蛋白質がヒト化抗hTfR抗体とヒトイズロン酸-2-スルファターゼとの融合蛋白質であるものであり,該融合蛋白質が,以下の(a)~(c)からなる群から選択されるものである,上記20に記載の凍結乾燥製剤:
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の軽鎖と,
配列番号8で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の重鎖のC末端側に,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼがリンカー配列を介して結合したものとからなる,
融合蛋白質;
(b)配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の軽鎖と,
配列番号9で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の重鎖のC末端側に,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼがリンカー配列を介して結合したものとからなる,
融合蛋白質;
(c)配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の軽鎖と,
配列番号10で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の重鎖のC末端側に,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼがリンカー配列を介して結合したものとからなる,
融合蛋白質。
27.該抗体がヒト化抗hTfR抗体であり,該ヒトリソソーム酵素がヒトイズロン酸-2-スルファターゼであり,該融合蛋白質がヒト化抗hTfR抗体とヒトイズロン酸-2-スルファターゼとの融合蛋白質であるものであり,該融合蛋白質が,以下の(a)~(c)からなる群から選択されるものである,上記20に記載の凍結乾燥製剤:
(a)該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が,配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するものであり,
該ヒト化抗hTfR抗体の重鎖が,そのC末端側で,(Gly-Ser)で示されるアミノ酸配列を有するリンカーを介して,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼと結合し,それにより配列番号13で示されるアミノ酸配列を形成しているものである,
融合蛋白質;
(b)該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が,配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するものであり,
該ヒト化抗hTfR抗体の重鎖が,そのC末端側で,(Gly-Ser)で示されるアミノ酸配列を有するリンカーを介して,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼと結合し,それにより配列番号15で示されるアミノ酸配列を形成しているものである,
融合蛋白質;
(c)該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が,配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するものであり,
該ヒト化抗hTfR抗体の重鎖が,そのC末端側で,(Gly-Ser)で示されるアミノ酸配列を有するリンカーを介して,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼと結合し,それにより配列番号17で示されるアミノ酸配列を形成しているものである,
融合蛋白質。
28.ほう珪酸ガラス又は疎水性樹脂により形成された容器に封入されたものである,上記1乃至27の何れかに記載の凍結乾燥製剤。
29.該容器が,シクロオレフィンコポリマー,シクロオレフィン類開環重合体,又はシクロオレフィン類開環重合体に水素添加したものを用いて形成されたものである,上記28に記載の凍結乾燥製剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば,抗体とリソソーム酵素とを結合させた融合蛋白質を,市場に流通させることが可能な程度に,凍結乾燥製剤として安定化させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は,抗体とリソソーム酵素とを結合させた蛋白質を有効成分とする医薬の,凍結乾燥状態で貯蔵安定な医薬組成物に関するものである。ここで,リソソーム酵素と結合される抗体は,好ましくはヒト抗体又はヒト化抗体であるが,抗原に特異的に結合する性質を有するものである限り,抗体の動物種等に特に制限はない。例えば,抗体は,ヒト以外の哺乳動物の抗体であってもよく,またヒト抗体とヒト以外の他の哺乳動物の抗体のキメラ抗体であってもよい。
【0010】
ヒト抗体は,その全体がヒト由来の遺伝子にコードされる抗体のことをいう。但し,遺伝子の発現効率を上昇させる等の目的で,元のヒトの遺伝子に変異を加えた遺伝子にコードされる抗体も,ヒト抗体である。また,ヒト抗体をコードする2つ以上の遺伝子を組み合わせて,ある一つのヒト抗体の一部を,他のヒト抗体の一部に置き換えた抗体も,ヒト抗体である。後述するヒト化抗体についても同様である。
【0011】
ヒト抗体は,原則として,免疫グロブリン軽鎖の可変領域に3箇所の相補性決定領域(CDR)と免疫グロブリン重鎖の可変領域に3箇所の相補性決定領域(CDR)を有する。免疫グロブリン軽鎖の3箇所のCDRは,N末端側にあるものから順にCDR1,CDR2及びCDR3という。免疫グロブリン重鎖の3箇所のCDRは,N末端側にあるものから順にCDR1,CDR2及びCDR3という。ある一つのヒト抗体のCDRを,その他のヒト抗体のCDRに置き換えることにより,ヒト抗体の抗原特異性,親和性等を改変した抗体も,ヒト抗体である。後述するヒト化抗体についても同様である。
【0012】
ヒト抗体の重鎖と軽鎖の可変領域はいずれも,原則として,4個のフレームワーク領域1~4(FR1~4)を含む。FR1は,CDR1にそのN末端側で隣接する領域であり,重鎖及び軽鎖を構成する各ペプチドにおいて,そのN末端からCDR1のN末端に隣接するアミノ酸までのアミノ酸配列からなる。FR2は,重鎖及び軽鎖を構成する各ペプチドにおいて,CDR1とCDR2との間のアミノ酸配列からなる。FR3は,重鎖及び軽鎖を構成する各ペプチドにおいて,CDR2とCDR3との間のアミノ酸配列からなる。FR4は,CDR3のC末端に隣接するアミノ酸から可変領域のC末端までのアミノ酸配列からなる。但し,これに限らず,本発明においては,上記の各FR領域において,そのN末端側の1~5個のアミノ酸及び/又はC末端側の1~5個のアミノ酸を除いた領域を,フレームワーク領域とすることもできる。後述するヒト化抗体についても同様である。
【0013】
本発明において,元のヒト抗体の遺伝子を改変することにより,元の抗体のアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えた抗体も,ヒト抗体という。元の抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~20個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個である。元の抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~20個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えた抗体も,ヒト抗体である。アミノ酸を付加させる場合,元の抗体のアミノ酸配列中又はN末端側若しくはC末端側に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えた抗体も,ヒト抗体である。変異を加えた抗体のアミノ酸配列は,元の抗体のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を示し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは95%以上の相同性を示し,更により好ましくは98%以上の相同性を示すものである。つまり,本発明において「ヒト由来の遺伝子」というときは,ヒト由来の元の遺伝子に加えて,ヒト由来の元の遺伝子に改変を加えることにより得られる遺伝子も含まれる。後述するヒト化抗体についても同様である。
【0014】
例えば,配列番号2で示されるヒト化抗hTfR抗体番号1の軽鎖,配列番号4で示されるヒト化抗hTfR抗体番号2の軽鎖,及び配列番号6で示されるヒト化抗hTfR抗体番号3の軽鎖に変異を加える場合は,上記のルールが適用される。また,配列番号8で示されるヒト化抗hTfR抗体番号1の重鎖,配列番号9で示されるヒト化抗hTfR抗体番号2の重鎖,及び配列番号10で示されるヒト化抗hTfR抗体番号3の重鎖に変異を加える場合にも,上記のルールが適用される。
【0015】
元のヒト抗体の軽鎖の可変領域の全て又はその一部をコードする遺伝子に変異を加える場合にあっては,変異を加えた後の遺伝子は,元の遺伝子と,好ましくは80%以上の相同性を有するものであり,より好ましくは90%以上の相同性を有するものであるが,変異導入後の抗体が抗原に対する特異的親和性を有する限り,相同性に特に制限はない。軽鎖の可変領域のアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。軽鎖の可変領域のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。軽鎖の可変領域にアミノ酸を付加させる場合,軽鎖の可変領域のアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えた軽鎖の可変領域のアミノ酸配列は,元の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。特に,CDRのアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~5個であり,より好ましくは1~3個であり,更に好ましくは1~2個である。CDRのアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~5個であり,より好ましくは1~3個であり,更に好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。アミノ酸を付加させる場合,当該アミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~5個,より好ましくは1~3個,更に好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えた各CDRのそれぞれのアミノ酸配列は,元の各CDRのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。後述するヒト化抗体についても同様である。
【0016】
例えば,配列番号23で示されるヒト化抗hTfR抗体番号1の軽鎖の可変領域,配列番号25で示されるヒト化抗hTfR抗体番号2の軽鎖の可変領域,及び配列番号27で示されるヒト化抗hTfR抗体番号3の軽鎖の可変領域に変異を加える場合は,上記のルールが適用される。
【0017】
配列番号23で示される軽鎖の可変領域はCDR1に配列番号29又は30のアミノ酸配列を含み,CDR2に配列番号31又は32のアミノ酸配列を含み,CDR3に配列番号33のアミノ酸配列を含む。配列番号25で示される軽鎖の可変領域はCDR1に配列番号40又は41のアミノ酸配列を含み,CDR2に配列番号42又は43のアミノ酸配列を含み,CDR3に配列番号44のアミノ酸配列を含む。配列番号27で示される軽鎖の可変領域はCDR1に配列番号51又は52のアミノ酸配列を含み,CDR2に配列番号53又は54のアミノ酸配列を含み,CDR3に配列番号55のアミノ酸配列を含む。これらのCDRに変異を加える場合は,上記のルールが適用される。
【0018】
元のヒト抗体の重鎖の可変領域の全て又はその一部をコードする遺伝子に変異を加える場合にあっては,変異を加えた後の遺伝子は,元の遺伝子と,好ましくは80%以上の相同性を有するものであり,より好ましくは90%以上の相同性を有するものであるが,変異導入後の抗体が抗原に対する特異的親和性を有する限り,相同性に特に制限はない。重鎖の可変領域のアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。重鎖の可変領域のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。重鎖の可変領域にアミノ酸を付加させる場合,重鎖の可変領域のアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えた重鎖の可変領域のアミノ酸配列は,元の重鎖の可変領域のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。特に,CDRのアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~5個であり,より好ましくは1~3個であり,更に好ましくは1~2個である。CDRのアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~5個であり,より好ましくは1~3個であり,更に好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。アミノ酸を付加させる場合,当該アミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~5個,より好ましくは1~3個,更に好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えた各CDRのそれぞれのアミノ酸配列は,元の各CDRのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。後述するヒト化抗体についても同様である。
【0019】
例えば,配列番号24で示されるヒト化抗hTfR抗体番号1の重鎖の可変領域,配列番号26で示されるヒト化抗hTfR抗体番号2の重鎖の可変領域,及び配列番号28で示されるヒト化抗hTfR抗体番号3の重鎖の可変領域に変異を加える場合は,上記のルールが適用される。
【0020】
配列番号24で示される重鎖の可変領域はCDR1に配列番号34又は35のアミノ酸配列を含み,CDR2に配列番号36又は37のアミノ酸配列を含み,CDR3に配列番号38又は39のアミノ酸配列を含む。配列番号26で示される重鎖の可変領域はCDR1に配列番号45又は46のアミノ酸配列を含み,CDR2に配列番号47又は48のアミノ酸配列を含み,CDR3に配列番号49又は50のアミノ酸配列を含む。配列番号28で示される重鎖の可変領域はCDR1に配列番号56又は57のアミノ酸配列を含み,CDR2に配列番号58又は59のアミノ酸配列を含み,CDR3に配列番号60又は61のアミノ酸配列を含む。これらのCDRに変異を加える場合は,上記のルールが適用される。
【0021】
本発明において「相同性」とは,相動性計算アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列を比較した場合の,最適なアラインメントにおける,全アミノ酸残基に対する相同なアミノ酸残基の割合(%)を意味する。2つのアミノ酸配列をかかる割合で示される相同性で比較することは,本発明の技術的分野において周知であり,当業者にとって容易に理解されるものである。
【0022】
なお,上記の抗hTfR抗体の軽鎖及び重鎖のアミノ酸配列中のアミノ酸の他のアミノ酸による置換としては,例えば,芳香族アミノ酸(Phe,Trp,Tyr),脂肪族アミノ酸(Ala,Leu,Ile,Val),極性アミノ酸(Gln,Asn),塩基性アミノ酸(Lys,Arg,His),酸性アミノ酸(Glu,Asp),水酸基を有するアミノ酸(Ser,Thr)側鎖の小さいアミノ酸(Gly,Ala,Ser,Thr,Met)などの同じグループに分類されるアミノ酸が挙げられる。このような類似アミノ酸による置換は,蛋白質の表現型に変化をもたらさない(即ち,保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。保存的アミノ酸置換の具体例は当該技術分野で周知であり,種々の文献に記載されている(例えば,Bowieら,Science,247:1306-1310(1990)を参照)
【0023】
なお,本発明において,元の蛋白質(抗体を含む)のアミノ酸配列と変異を加えた蛋白質のアミノ酸配列との相同性を算出するための相同性計算アルゴリズムとして,BLAST(Altschul SF. J Mol. Biol. 215. 403-10, (1990)),Pearson及びLipmanの類似性検索法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 85. 2444 (1988)),Smith及びWatermanの局所相同性アルゴリズム(Adv. Appl. Math. 2. 482-9 (1981))等が周知である。また,アメリカ国立衛生研究所がインターネット上で提供するBLASTプログラムの一つであるblastpは,2つのアミノ酸配列の相動性を算出するための手段として周知である。
【0024】
本発明において,「ヒト化抗体」の語は,可変領域の一部(例えば,特にCDRの全部又は一部)のアミノ酸配列がヒト以外の哺乳動物由来であり,それ以外の領域がヒト由来である抗体のことをいう。例えば,ヒト化抗体として,ヒト抗体を構成する免疫グロブリン軽鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)と免疫グロブリン重鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)を,他の哺乳動物のCDRによって置き換えることにより作製された抗体が挙げられる。ヒト抗体の適切な位置に移植されるCDRの由来となる他の哺乳動物の生物種は,ヒト以外の哺乳動物である限り特に限定はないが,好ましくは,マウス,ラット,ウサギ,ウマ,又はヒト以外の霊長類であり,より好ましくはマウス及びラットであり,例えばマウスである。
【0025】
本発明において,「キメラ抗体」の語は,2つ以上の異なる種に由来する2つ以上の異なる抗体の断片が連結されてなる抗体のことをいう。
【0026】
ヒト抗体と他の哺乳動物の抗体とのキメラ抗体とは,ヒト抗体の一部がヒト以外の哺乳動物の抗体の一部によって置き換えられた抗体である。抗体は,以下に説明するFc領域,Fab領域及びヒンジ部とからなる。このようなキメラ抗体の具体例として,Fc領域がヒト抗体に由来する一方でFab領域が他の哺乳動物の抗体に由来するキメラ抗体が挙げられる。ヒンジ部は,ヒト抗体又は他の哺乳動物の抗体の何れかに由来する。逆に,Fc領域が他の哺乳動物に由来する一方でFab領域がヒト抗体に由来するキメラ抗体が挙げられる。ヒンジ部は,ヒト抗体又は他の哺乳動物の抗体のいずれに由来してもよい。
【0027】
また,抗体は,可変領域と定常領域とからなるということもできる。キメラ抗体の他の具体例として,重鎖の定常領域(CH)と軽鎖の定常領域(CL)がヒト抗体に由来する一方で,重鎖の可変領域(VH)及び軽鎖の可変領域(VL)が他の哺乳動物の抗体に由来するもの,逆に,重鎖の定常領域(CH)と軽鎖の定常領域(CL)が他の哺乳動物の抗体に由来する一方で,重鎖の可変領域(VH)及び軽鎖の可変領域(VL)がヒト抗体に由来するものも挙げられる。ここで,他の哺乳動物の生物種は,ヒト以外の哺乳動物である限り特に限定はないが,好ましくは,マウス,ラット,ウサギ,ウマ,又はヒト以外の霊長類であり,より好ましくはマウスである。
【0028】
ヒト抗体とマウス抗体のキメラ抗体は,特に,「ヒト/マウスキメラ抗体」という。ヒト/マウスキメラ抗体には,Fc領域がヒト抗体に由来する一方でFab領域がマウス抗体に由来するキメラ抗体や,逆に,Fc領域がマウス抗体に由来する一方でFab領域がヒト抗体に由来するキメラ抗体が挙げられる。ヒンジ部は,ヒト抗体又はマウス抗体の何れかに由来する。ヒト/マウスキメラ抗体の他の具体例として,重鎖の定常領域(CH)と軽鎖の定常領域(CL)がヒト抗体に由来する一方で,重鎖の可変領域(VH)及び軽鎖の可変領域(VL)がマウス抗体に由来するもの,逆に,重鎖の定常領域(CH)と軽鎖の定常領域(CL)がマウス抗体に由来する一方で,重鎖の可変領域(VH)及び軽鎖の可変領域(VL)がヒト抗体に由来するものも挙げられる。
【0029】
抗体は,本来,2本の免疫グロブリン軽鎖と2本の免疫グロブリン重鎖の計4本のポリペプチド鎖からなる基本構造を有する。但し,本発明において「抗体」というときは,この基本構造を有するものに加え,
(1)1本の免疫グロブリン軽鎖と1本の免疫グロブリン重鎖の計2本のポリペプチド鎖からなるものや,以下に詳述するように,
(2)免疫グロブリン軽鎖のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に免疫グロブリン重鎖を結合させてなるものである一本鎖抗体,及び
(3)免疫グロブリン重鎖のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に免疫グロブリン軽鎖を結合させてなるものである一本鎖抗体も含まれる。また,
(4)本来の意味での抗体の基本構造からFc領域が欠失したものであるFab領域からなるもの及びFab領域とヒンジ部の全部若しくは一部とからなるもの(Fab,F(ab’)及びF(ab’)2を含む)も,本発明における「抗体」に含まれる。更には,軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域をリンカー配列を介して結合させて一本鎖抗体としたscFvも,本発明における抗体に含まれる。
【0030】
ここでFabとは,可変領域とCL領域(軽鎖の定常領域)を含む1本の軽鎖と,可変領域とCH1領域(重鎖の定常領域の部分1)を含む1本の重鎖が,それぞれに存在するシステイン残基同士でジスルフィド結合により結合した分子のことをいう。Fabにおいて,重鎖は,可変領域とCH1領域(重鎖の定常領域の部分1)に加えて,更にヒンジ部の一部を含んでもよいが,この場合のヒンジ部は,ヒンジ部に存在して抗体の重鎖どうしを結合するシステイン残基を欠くものである。Fabにおいて,軽鎖と重鎖とは,軽鎖の定常領域(CL領域)に存在するシステイン残基と,重鎖の定常領域(CH1領域)又はヒンジ部に存在するシステイン残基との間で形成されるジスルフィド結合により結合する。Fabを形成する重鎖のことをFab重鎖という。Fabは,ヒンジ部に存在して抗体の重鎖どうしを結合するシステイン残基を欠いているので,1本の軽鎖と1本の重鎖とからなる。Fabを構成する軽鎖は,可変領域とCL領域を含む。Fabを構成する重鎖は,可変領域とCH1領域からなるものであってもよく,可変領域,CH1領域に加えてヒンジ部の一部を含むものであってもよい。但しこの場合,ヒンジ部で2本の重鎖の間でジスルフィド結合が形成されないように,ヒンジ部は重鎖間を結合するシステイン残基を含まないように選択される。F(ab’)においては,その重鎖は可変領域とCH1領域に加えて,重鎖どうしを結合するシステイン残基を含むヒンジ部の全部又は一部を含む。F(ab’)2は2つのF(ab)が互いのヒンジ部に存在するシステイン残基どうしでジスルフィド結合により結合した分子のことをいう。F(ab’)又はF(ab’)2を形成する重鎖のことをFab’重鎖という。また,複数の抗体が直接又はリンカーを介して結合してなる二量体,三量体等の重合体も,抗体である。更に,これらに限らず,免疫グロブリン分子の一部を含み,且つ,抗原に特異的に結合する性質を有するものは何れも,本発明でいう「抗体」に含まれる。即ち,本発明において免疫グロブリン軽鎖というときは,免疫グロブリン軽鎖に由来し,その可変領域の全て又は一部のアミノ酸配列を有するものが含まれる。また,免疫グロブリン重鎖というときは,免疫グロブリン重鎖に由来し,その可変領域の全て又は一部のアミノ酸配列を有するものが含まれる。従って,可変領域の全て又は一部のアミノ酸配列を有する限り,例えば,Fc領域が欠失したものも,免疫グロブリン重鎖である。
【0031】
また,ここでFc又はFc領域とは,抗体分子中の,CH2領域(重鎖の定常領域の部分2),及びCH3領域(重鎖の定常領域の部分3)からなる断片を含む領域のことをいう。
【0032】
更には,本発明において,「抗体」というときは,
(5)上記(4)で示したFab,F(ab’)又はF(ab’)2を構成する軽鎖と重鎖を,リンカー配列を介して結合させて,それぞれ一本鎖抗体としたscFab,scF(ab’),及びscF(ab’)2も含まれる。ここで,scFab,scF(ab’),及びscF(ab’)2にあっては,軽鎖のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に重鎖を結合させてなるものでもよく,また,重鎖のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に軽鎖を結合させてなるものでもよい。更には,軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域をリンカー配列を介して結合させて一本鎖抗体としたscFvも,本発明における抗体に含まれる。scFvにあっては,軽鎖の可変領域のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に重鎖の可変領域を結合させてなるものでもよく,また,重鎖の可変領域のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に軽鎖の可変領域を結合させてなるものでもよい。
【0033】
本発明において,「一本鎖抗体」というときは,免疫グロブリン軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列のC末端側にリンカー配列が結合し,更にそのC末端側に免疫グロブリン重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列が結合してなり,特定の抗原に特異的に結合することのできる蛋白質をいう。例えば,上記(2),(3)及び(5)に示されるものは一本鎖抗体に含まれる。また,免疫グロブリン重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列のC末端側にリンカー配列が結合し,更にそのC末端側に免疫グロブリン軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列が結合してなり,特定の抗原に特異的に結合することのできる蛋白質も,本発明における「一本鎖抗体」である。免疫グロブリン重鎖のC末端側にリンカー配列を介して免疫グロブリン軽鎖が結合した一本鎖抗体にあっては,通常,免疫グロブリン重鎖は,Fc領域が欠失している。免疫グロブリン軽鎖の可変領域は,抗体の抗原特異性に関与する相補性決定領域(CDR)を3つ有している。同様に,免疫グロブリン重鎖の可変領域も,CDRを3つ有している。これらのCDRは,抗体の抗原特異性を決定する主たる領域である。従って,一本鎖抗体には,免疫グロブリン重鎖の3つのCDRが全てと,免疫グロブリン軽鎖の3つのCDRの全てとが含まれることが好ましい。但し,抗体の抗原特異的な親和性が維持される限り,CDRの1個又は複数個を欠失させた一本鎖抗体とすることもできる。
【0034】
一本鎖抗体において,免疫グロブリンの軽鎖と重鎖の間に配置されるリンカー配列は,好ましくは2~50個,より好ましくは8~50個,更に好ましくは10~30個,更により好ましくは12~18個又は15~25個,例えば15個若しくは25個のアミノ酸残基から構成されるペプチド鎖である。そのようなリンカ一配列は,これにより両鎖が連結されてなる抗hTfR抗体がhTfRに対する親和性を保持する限り,そのアミノ酸配列に限定はないが,好ましくは,グリシンのみ又はグリシンとセリンから構成されるものであり,例えば,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号19),アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号20),アミノ酸配列Ser-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号21),又はこれらのアミノ酸配列が2~10回,あるいは2~5回繰り返された配列を有するものである。例えば,免疫グロブリン重鎖の可変領域の全領域からなるアミノ酸配列のC末端側に,リンカー配列を介して免疫グロブリン軽鎖の可変領域を結合させてScFvとする場合,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号19)の3個が連続したものに相当する計15個のアミノ酸からなるリンカー配列が好適である。
【0035】
本発明において,抗体が特異的に認識する抗原は,例えば,血管内皮細胞の表面に存在する分子(表面抗原)である。かかる表面抗原としては,トランスフェリン受容体(TfR),インスリン受容体,レプチン受容体,リポ蛋白質受容体,IGF受容体,OATP-F等の有機アニオントランスポーター,MCT-8等のモノカルボン酸トランスポーター,Fc受容体が挙げられるが,これらに限定されるものではない。抗原は,好ましくはヒト血管内皮細胞の表面に存在するこれら分子(表面抗原)である。
【0036】
上記の表面抗原の中でも,トランスフェリン受容体(TfR),インスリン受容体,レプチン受容体,リポ蛋白質受容体,IGF受容体,OATP-F等の有機アニオントランスポーター,MCT-8等のモノカルボン酸トランスポーターは,血液脳関門(Blood Brain Barrier)を形成する脳毛細血管内皮細胞の表面に存在するものである。これら抗原を認識できる抗体は,抗原を介して脳毛細血管内皮細胞(脳血管内皮細胞)に結合できる。そして脳毛細血管内皮細胞に結合した抗体は,血液脳関門を通過して中枢神経系に到達することができる。従って,目的の蛋白質を,このような抗体と結合させることにより,中枢神経系にまで到達させることができる。目的の蛋白質としては,中枢神経系で薬効を発揮すべき機能を有する蛋白質が挙げられる。例えば,中枢神経障害を伴うリソソーム病患者において欠損しているか又は機能不全であるリソソーム酵素が,目的の蛋白質として挙げられる。かかるリソソーム酵素は,そのままでは中枢神経系に到達することができず,患者の中枢神経障害に対して薬効を示すことがないが,これらの抗体と結合させることにより血液脳関門を通過できるようになるので,リソソーム病患者において見られる中枢神経障害を改善することができる。
【0037】
本発明において,「ヒトトランスフェリン受容体」又は「hTfR」の語は,配列番号22に示されるアミノ酸配列を有する膜蛋白質をいう。本発明の抗hTfR抗体は,その一実施態様において,配列番号22で示されるアミノ酸配列中N末端側から89番目のシステイン残基からC末端のフェニルアラニンまでの部分(hTfRの細胞外領域)に対して特異的に結合するものであるが,これに限定されない。
【0038】
抗体の作製方法をhTfRに対する抗体を例にとって以下に説明する。hTfRに対する抗体の作製方法としては,hTfR遺伝子を組み込んだ発現ベクターを導入した細胞を用いて,組換えヒトトランスフェリン受容体(rhTfR)を作製し,このrhTfRを用いてマウス等の動物を用いて免疫して得る方法が一般的である。免疫後の動物からhTfRに対する抗体産生細胞を取り出し,これとミエローマ細胞とを癒合させることにより,hTfRに対する抗体産生能を有するハイブリドーマ細胞を作製することができる。
【0039】
また,マウス等の動物より得た免疫系細胞を体外免疫法によりrhTfRで免疫することによってもhTfRに対する抗体を産生する細胞を取得できる。体外免疫法により免疫する場合,その免疫系細胞が由来する動物種に特に限定はないが,好ましくは,マウス,ラット,ウサギ,モルモット,イヌ,ネコ,ウマ及びヒトを含む霊長類であり,より好ましくは,マウス,ラット及びヒトであり,更に好ましくはマウス及びヒトである。マウスの免疫系細胞としては,例えば,マウスの脾臓から調製した脾細胞を用いることができる。ヒトの免疫系細胞としては,ヒトの末梢血,骨髄,脾臓等から調製した細胞を用いることができる。ヒトの免疫系細胞を体外免疫法により免疫した場合,hTfRに対するヒト抗体を得ることができる。
【0040】
本発明において,抗体と結合させるべきヒトリソソーム酵素に特に限定はないが,α-L-イズロニダーゼ(IDUA),イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS又はI2S),グルコセレブロシダーゼ(GBA),β-ガラクトシダーゼ,GM2活性化蛋白質,β-ヘキソサミニダーゼA,β-ヘキソサミニダーゼB,N-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼ,α-マンノシダーゼ(LAMAN),β-マンノシダーゼ,ガラクトシルセラミダーゼ(GALC),サポシンC,アリルスルファターゼA(ARSA),α-L-フコシダーゼ(FUCA1),アスパルチルグルコサミニダーゼ,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ,酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM),α-ガラクトシダーゼ,β-グルクロニダーゼ(GUSB),ヘパランN-スルファターゼ(SGSH),α-N-アセチルグルコサミニダーゼ(NAGLU),アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ,N-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼ,酸性セラミダーゼ(AC),アミロ-1,6-グルコシダーゼ,シアリダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,パルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1(PPT-1),トリペプチジルペプチダーゼ-1(TPP-1),ヒアルロニダーゼ-1,酸性α-グルコシダーゼ(GAA),CLN1,及びCLN2等のリソソーム酵素,が挙げられる。
【0041】
抗体が血管内皮細胞の表面に存在する分子(表面抗原)を特異的に認識するものである場合,抗体と結合させたヒトリソソーム酵素はそれぞれ,α-L-イズロニダーゼ(IDUA)はハーラー症候群又はハーラー・シャイエ症候群における中枢神経障害治療剤として,イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)はハンター症候群における中枢神経障害治療剤として,グルコセレブロシダーゼ(GBA)はゴーシェ病における中枢神経障害治療剤として,βガラクトシダーゼはGMl-ガングリオシドーシス1~3型における中枢神経障害治療剤として,GM2活性化蛋白質はGM2-ガングリオシドーシスAB異型における中枢神経障害治療剤として,β-ヘキソサミニダーゼAはサンドホフ病及びティサックス病における中枢神経障害治療剤として,β-ヘキソサミニダーゼBはサンドホフ病における中枢神経障害治療剤として,N-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼはI-細胞病における中枢神経障害治療剤として,α-マンノシダーゼ(LAMAN)はα-マンノシドーシスにおける中枢神経障害治療剤として,β-マンノシダーゼはβ-マンノシドーシスにおける中枢神経障害治療剤として,ガラクトシルセラミダーゼ(GALC)はクラッベ病における中枢神経障害治療剤として,サポシンCはゴーシェ病様蓄積症における中枢神経障害治療剤として,アリルスルファターゼA(ARSA)は異染性白質変性症(異染性白質ジストロフィー)における中枢神経障害治療剤として,α-L-フコシダーゼ(FUCA1)はフコシドーシスにおける中枢神経障害治療剤として,アスパルチルグルコサミニダーゼはアスパルチルグルコサミン尿症における中枢神経障害治療剤として,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼはシンドラー病及び川崎病における中枢神経障害治療剤として,酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)はニーマン・ピック病における中枢神経障害治療剤として,α-ガラクトシダーゼはファブリー病における中枢神経障害治療剤として,β-グルクロニダーゼ(GUSB)はスライ症候群における中枢神経障害治療剤として,ヘパランN-スルファターゼ(SGSH),α-N-アセチルグルコサミニダーゼ(NAGLU),アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ及びN-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼはサンフィリッポ症候群における中枢神経障害治療剤として,酸性セラミダーゼ(AC)はファーバー病における中枢神経障害治療剤として,アミロ-1,6-グルコシダーゼはコリ病(フォーブス・コリ病)における中枢神経障害治療剤として,シアリダーゼはシアリダーゼ欠損症における中枢神経障害治療剤として,アスパルチルグルコサミニダーゼはアスパルチルグルコサミン尿症における中枢神経障害治療剤として,パルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1(PPT-1)は,神経セロイドリポフスチン症又はSantavuori-Haltia病における中枢神経障害治療剤として,トリペプチジルペプチダーゼ-1(TPP-1)は,神経セロイドリポフスチン症又はJansky-Bielschowsky病における中枢神経障害治療剤として,ヒアルロニダーゼ-1はヒアルロニダーゼ欠損症における中枢神経障害治療剤として,酸性α-グルコシダーゼ(GAA)はポンペ病における中枢神経障害治療剤として,CLN1及びCLN2はバッテン病における中枢神経障害治療剤として使用できる。
【0042】
抗体が血管内皮細胞の表面に存在する分子(表面抗原)を特異的に認識するものである場合に,抗体と結合させるべきリソソーム酵素として好適なものとして,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(hI2S)を挙げることができる。I2Sは,ヘパラン硫酸やデルマタン硫酸のようなグリコサミノグリカン(GAG)分子内に存在する硫酸エステル結合を加水分解する活性を有するライソソーム酵素の一種である。ハンター症候群はこの酵素が先天的に欠失する遺伝子疾患である。ハンター症候群の患者は,ヘパラン硫酸,デルマタン硫酸が組織内に蓄積する結果,角膜混濁,精神発達遅滞等の諸症状を示す。但し,軽症の場合は精神発達遅延は観察されないこともある。従って,当該抗体とhI2Sとの融合蛋白質は,BBBを通過することにより脳組織内に蓄積したGAGを分解することができるので,精神発達遅滞を示すハンター症候群の患者に投与することにより,中枢神経障害治療剤として使用することができる。更には,精神発達遅滞を示さないハンター症候群の患者に,予防的に投与することもできる。
【0043】
本発明において,「ヒトI2S」又は「hI2S」の語は,特に野生型のhI2Sと同一のアミノ酸配列を有するhI2Sのことをいう。野生型のhI2Sは,配列番号1で示される525個のアミノ酸から構成されるアミノ酸配列を有する。但し,これに限らず,I2S活性を有するものである限り,野生型のhI2Sのアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えたものもhI2Sに含まれる。hI2Sのアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。hI2Sのアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。hI2Sにアミノ酸を付加させる場合,hI2Sのアミノ酸配列中又はN末端側若しくはC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えたhI2Sのアミノ酸配列は,元のhI2Sのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは95%以上の相同性を示し,更により好ましくは98%以上の相同性を示す。
【0044】
なお本発明において,hI2SがI2S活性を有するというときは,hI2Sを抗体と融合させて融合蛋白質としたときに,天然型のhI2Sが本来有する活性に対して,3%以上の活性を有していることをいう。但し,その活性は,天然型のhI2Sが本来有する活性に対して,10%以上であることが好ましく,20%以上であることがより好ましく,50%以上であることが更に好ましく,80%以上であることが更により好ましい。抗体と融合させたhI2Sが変異を加えたものである場合も同様である。抗体は,例えば抗hTfR抗体である。
【0045】
本発明において「融合蛋白質」というときは,抗体とヒトリソソーム酵素とを,非ペプチドリンカー若しくはペプチドリンカーを介して,又は直接に結合させた物質のことをいう。抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させる方法は,以下に詳述する。
【0046】
抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させる方法としては,非ペプチドリンカー又はペプチドリンカーを介して結合させる方法がある。非ペプチドリンカーとしては,ビオチン-ストレプトアビジン,ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,エチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体,ポリオキシエチル化ポリオール,ポリビニルアルコール,多糖類,デキストラン,ポリビニルエーテル,生分解性高分子,脂質重合体,キチン類,及びヒアルロン酸,又はこれらの誘導体,若しくはこれらを組み合わせたものを用いることができる。ペプチドリンカーは,ペプチド結合した1~50個のアミノ酸から構成されるペプチド鎖若しくはその誘導体であって,そのN末端とC末端が,それぞれ抗体又はヒトリソソーム酵素の何れかと共有結合を形成することにより,抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させるものである。
【0047】
非ペプチドリンカーとしてビオチン-ストレプトアビジンを用いる場合,抗体がビオチンを結合させたものであり,ヒトリソソーム酵素がストレプトアビジンを結合させたものであり,このビオチンとストレプトアビジンとの結合を介して,抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させてもよく,逆に,抗体がストレプトアビジンを結合させたものであり,ヒトリソソーム酵素がビオチンを結合させたものであり,このビオチンとストレプトアビジンとの結合を介して,抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させてもよい。ビオチン及びストレプトアビジンは,周知の手法により蛋白質に結合させることができる。
【0048】
非ペプチドリンカーとしてPEGを用いて本発明の抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させたものは,特に,抗体-PEG-ヒトリソソーム酵素という。抗体-PEG-ヒトリソソーム酵素は,抗体とPEGとを結合させて抗体-PEGを作製し,次いで抗体-PEGとヒトリソソーム酵素とを結合させることにより製造することができる。又は,抗体-PEG-ヒトリソソーム酵素は,ヒトリソソーム酵素とPEGとを結合させてヒトリソソーム酵素-PEGを作製し,次いでヒトリソソーム酵素-PEGと抗体とを結合させることによっても製造することができる。PEGを抗体及びヒトリソソーム酵素と結合させる際には,カーボネート,カルボニルイミダゾール,カルボン酸の活性エステル,アズラクトン,環状イミドチオン,イソシアネート,イソチオシアネート,イミデート,又はアルデヒド等の官能基で修飾されたPEGが用いられる。これらPEGに導入された官能基が,主に抗体及びヒトリソソーム酵素分子内のアミノ基と反応することにより,PEGと抗体及びヒトリソソーム酵素が共有結合する。このとき用いられるPEGの分子量及び形状に特に限定はないが,その平均分子量(MW)は,好ましくはMW=300~60000であり,より好ましくはMW=500~20000である。例えば,平均分子量が約300,約500,約1000,約2000,約4000,約10000,約20000等であるPEGは,非ペプチドリンカーとして好適に使用することができる。
【0049】
例えば,抗体-PEGは,抗体とアルデヒド基を官能基として有するポリエチレングリコール(ALD-PEG-ALD)とを,該抗体に対するALD-PEG-ALDのモル比が11,12.5,15,110,120等になるように混合し,これにNaCNBH3等の還元剤を添加して反応させることにより得られる。次いで,抗体-PEGを,NaCNBH3等の還元剤の存在下で,ヒトリソソーム酵素と反応させることにより,抗体-PEG-ヒトリソソーム酵素が得られる。逆に,先にヒトリソソーム酵素とALD-PEG-ALDとを結合させてヒトリソソーム酵素-PEGを作製し,次いでヒトリソソーム酵素-PEGと抗体を結合させることによっても,抗体-PEG-ヒトリソソーム酵素を得ることができる。
【0050】
抗体とヒトリソソーム酵素とは,抗体の重鎖又は軽鎖のC末端側又はN末端側に,リンカー配列を介して又は直接に,それぞれヒトリソソーム酵素のN末端又はC末端をペプチド結合により結合させることもできる。このように抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させてなる融合蛋白質は,抗体の重鎖又は軽鎖をコードするcDNAの3’末端側又は5’末端側に,直接又はリンカー配列をコードするDNA断片を挟んで,ヒトリソソーム酵素をコードするcDNAがインフレームで配置されたDNA断片を,哺乳動物細胞,酵母等の真核生物用の発現ベクターに組み込み,この発現ベクターを導入した哺乳動物細胞を培養することにより,得ることができる。この哺乳動物細胞には,ヒトリソソーム酵素をコードするDNA断片を重鎖と結合させる場合にあっては,抗体の軽鎖をコードするcDNA断片を組み込んだ哺乳動物細胞用の発現ベクターも,同じホスト細胞に導入され,また,ヒトリソソーム酵素をコードするDNA断片を軽鎖と結合させる場合にあっては,抗体の重鎖をコードするcDNA断片を組み込んだ哺乳動物細胞用の発現ベクターも,同じホスト細胞に導入される。抗体が一本鎖抗体である場合,抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させた融合蛋白質は,ヒトリソソーム酵素をコードするcDNAの5’末端側又は3’末端側に,直接,又はリンカー配列をコードするDNA断片を挟んで,1本鎖抗体をコードするcDNAを連結したDNA断片を,哺乳動物細胞,酵母等の真核生物用の発現ベクターに組み込み,この発現ベクターを導入したこれらの細胞中で発現させることにより,得ることができる。
【0051】
抗体の軽鎖のC末端側にヒトリソソーム酵素を結合させたタイプの融合蛋白質は,抗体が,軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列と,重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列とを含むものであり,ヒトリソソーム酵素が,この抗体の軽鎖のC末端側に結合したものである。ここで抗体の軽鎖とヒトリソソーム酵素とは,直接結合してもよく,リンカーを介して結合してもよい。
【0052】
抗体の重鎖のC末端側にヒトリソソーム酵素を結合させたタイプの融合蛋白質は,抗体が,軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列と,重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列とを含むものであり,ヒトリソソーム酵素が,この抗体の重鎖のC末端側に結合したものである。ここで抗体の重鎖とヒトリソソーム酵素とは,直接結合してもよく,リンカーを介して結合してもよい。
【0053】
抗体の軽鎖のN末端側にヒトリソソーム酵素を結合させたタイプの融合蛋白質は,抗体が,軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列と,重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列とを含むものであり,ヒトリソソーム酵素が,この抗体の軽鎖のN末端側に結合したものである。ここで抗体の軽鎖とヒトリソソーム酵素とは,直接結合してもよく,リンカーを介して結合してもよい。
【0054】
抗体の重鎖のN末端側にヒトリソソーム酵素を結合させたタイプの融合蛋白質は,抗体が,軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列と,重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列とを含むものであり,ヒトリソソーム酵素が,この抗体の重鎖のN末端側に結合したものである。ここで抗体の重鎖とヒトリソソーム酵素とは,直接結合してもよく,リンカーを介して結合してもよい。
【0055】
このとき抗体とヒトリソソーム酵素との間にリンカー配列を配置する場合,その配列は,好ましくは1~50個,より好ましくは1~17個,更に好ましくは1~10個,更により好ましくは1~5個のアミノ酸から構成されるものであるが,抗体に結合させるべきヒトリソソーム酵素によって,リンカー配列を構成するアミノ酸の個数は,1個,2個,3個,1~17個,1~10個,10~40個,20~34個,23~31個,25~29個等と適宜調整できる。そのようなリンカー配列は,これにより連結された抗体がhTfRとの親和性を保持し,且つ当該リンカー配列により連結されたヒトリソソーム酵素が,生理的条件下で当該蛋白質の生理活性を発揮できる限り,そのアミノ酸配列に限定はないが,好ましくは,グリシンとセリンから構成されるものであり,例えば,グリシン又はセリンの何れか1個のアミノ酸からなるもの,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号19),アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号20),アミノ酸配列Ser-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号21),又はこれらのアミノ酸配列が1~10個,あるいは2~5個連続してなる1~50個のアミノ酸からなる配列,2~17個,2~10個,10~40個,20~34個,23~31個,25~29個のアミノ酸からなる配列等を有するものである。例えば,アミノ酸配列Gly-Serを有するものはリンカー配列として好適に用いることができる。抗体が1本鎖抗体であっても同様である。
【0056】
なお,本発明において,1つのペプチド鎖に複数のリンカー配列が含まれる場合,便宜上,各リンカー配列はN末端側から順に,第1のリンカー配列,第2のリンカー配列というように命名する。
【0057】
抗体がヒト化抗体であり且つ抗ヒトトランスフェリン受容体抗体である場合の,抗体の好ましい形態として,以下の(x)~(z)が挙げられる。すなわち,(x)軽鎖が配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するものであり,重鎖が配列番号8で示されるアミノ酸配列を有するもの;(y)軽鎖が配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するものであり,重鎖が配列番号9で示されるアミノ酸配列を有するもの;(z)軽鎖が配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するものであり,重鎖が配列番号10で示されるアミノ酸配列を有するもの,の何れかである。なお,ここで,(x),(y)及び(z)は,実施例中に示されるヒト化抗hTfR抗体番号1,ヒト化抗hTfR抗体番号2,及びヒト化抗hTfR抗体番号3にそれぞれ相当する。
【0058】
但し,抗体がヒト化抗体であり且つ抗ヒトトランスフェリン受容体抗体である場合の,抗体の好ましい形態は,上記の(x)~(z)に限られるものではない。例えば,抗体の軽鎖のアミノ酸配列が,上記の(x)~(z)におけるそれぞれの軽鎖のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するものであり,該抗体の重鎖のアミノ酸配列が,上記の(x)~(z)におけるそれぞれの重鎖のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するものである抗体もhTfRに対して親和性を有する限り,本発明において用いることができる。また,抗体の軽鎖のアミノ酸配列が,上記の(x)~(z)におけるそれぞれの軽鎖のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するものであり,該抗体の重鎖のアミノ酸配列が,上記の(x)~(z)におけるそれぞれの重鎖のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するものである抗体も,hTfRに対して親和性を有する限り,本発明において用いることができる。また,抗体の軽鎖のアミノ酸配列が,上記の(x)~(z)におけるそれぞれの軽鎖のアミノ酸配列と95%以上の相同性を有するものであり,該抗体の重鎖のアミノ酸配列が,上記の(x)~(z)におけるそれぞれの重鎖のアミノ酸配列と95%以上の相同性を有するものである抗体も,hTfRに対して親和性を有する限り,本発明における抗体として用いることができる。
【0059】
また,軽鎖のアミノ酸配列が,上記の(x)~(z)におけるそれぞれの軽鎖のアミノ酸配列を構成するアミノ酸配列中1~10個が置換,欠失又は付加をしたものであり,及び/又は重鎖のアミノ酸配列が,上記の(x)~(z)におけるそれぞれの重鎖のアミノ酸配列を構成するアミノ酸配列中1~10個が置換,欠失又は付加をした抗体も,hTfRに対して親和性を有する限り,本発明における抗体として用いることができる。また,軽鎖のアミノ酸配列が,上記の(x)~(z)におけるそれぞれの軽鎖のアミノ酸配列を構成するアミノ酸配列中1~5個が置換,欠失又は付加をしたものであり,及び/又は重鎖のアミノ酸配列が,上記の(x)~(z)におけるそれぞれの重鎖のアミノ酸配列を構成するアミノ酸配列中1~5個が置換,欠失又は付加をした抗体も,hTfRに対して親和性を有する限り,本発明における抗体として用いることができる。更には,軽鎖のアミノ酸配列が,上記の(x)~(z)におけるそれぞれの軽鎖のアミノ酸配列を構成するアミノ酸配列中1~3個が置換,欠失又は付加をしたものであり,及び/又は重鎖のアミノ酸配列が,上記の(x)~(z)におけるそれぞれの重鎖のアミノ酸配列を構成するアミノ酸配列中1~3個が置換,欠失又は付加をした抗体も,hTfRに対して親和性を有する限り,本発明における抗体として用いることができる。
【0060】
上記の抗体の好ましい形態の(x)において,配列番号2で示される軽鎖のアミノ酸配列中,配列番号23で示されるアミノ酸配列が可変領域であり,配列番号8で示される重鎖のアミノ酸配列中,配列番号24で示されるアミノ酸配列が可変領域である。また,上記の抗体の好ましい形態の(y)において,配列番号4で示される軽鎖のアミノ酸配列中,配列番号25で示されるアミノ酸配列が可変領域であり,配列番号9で示される重鎖のアミノ酸配列中,配列番号26で示されるアミノ酸配列が可変領域である。また,上記の抗体の好ましい形態の(z)において,配列番号6で示される軽鎖のアミノ酸配列中,配列番号27で示されるアミノ酸配列が可変領域であり,配列番号10で示される重鎖のアミノ酸配列中,配列番号28で示されるアミノ酸配列が可変領域である。これら抗体の好ましい形態の(x)~(z)において,重鎖又は/及び軽鎖のアミノ酸配列を構成するアミノ酸配列中への置換,欠失又は付加は,特に,これらの可変領域に導入される。
【0061】
本発明における,抗体とヒトリソソーム酵素との融合蛋白質の好ましい一形態として,ヒト化抗ヒトトランスフェリン受容体抗体(ヒト化抗hTfR抗体)とヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(hI2S)との融合蛋白質が挙げられる。この融合蛋白質において,ヒトトランスフェリン受容体に対する親和性と,ヒトリソソーム酵素の酵素活性のいずれをも保持させることができる限り,hI2Sは,ヒト化抗hTfR抗体を構成する重鎖と軽鎖のいずれに融合させてもよい。また,hI2Sを重鎖に結合させる場合において,重鎖のN末端側のC末端側のいずれにhI2Sを融合させてもよく,hI2Sを軽鎖に結合させる場合において,軽鎖のN末端側のC末端側のいずれにhI2Sを融合させてもよい。
【0062】
かかるヒト化抗hTfR抗体とhI2Sとの融合蛋白質の好ましい一形態として,ヒト化抗hTfR抗体の重鎖のC末端側にヒト化抗hTfR抗体を結合させた融合蛋白質が挙げられる。かかる融合蛋白質の好適なものとして以下の(1)~(3)に示されるものが例示できる。
(1)配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の軽鎖と,
配列番号8で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の重鎖のC末端側に,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼがリンカー配列を介して結合したものと,
からなる融合蛋白質。
(2)配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の軽鎖と,
配列番号9で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の重鎖のC末端側に,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼがリンカー配列を介して結合したものと,
からなる融合蛋白質。
(3)配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の軽鎖と,
配列番号10で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の重鎖のC末端側に,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼがリンカー配列を介して結合したものと,
からなる融合蛋白質。
これら(1)~(3)の融合蛋白質において,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼは,好ましくは配列番号1で示されるアミノ酸を有するものであり,リンカー配列は,好ましくは(Gly-Ser)で示されるアミノ酸配列を有するものである。またこれらの融合蛋白質は,通常,2本の軽鎖と2本のヒトイズロン酸-2-スルファターゼと結合した重鎖とから構成される。
【0063】
また,かかるヒト化抗hTfR抗体とhI2Sとの融合蛋白質の好ましい一形態として,
(1)該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が,配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するものであり,
該ヒト化抗hTfR抗体の重鎖が,そのC末端側で,(Gly-Ser)で示されるアミノ酸配列を有するリンカーを介して,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼと結合しており,全体として配列番号13で示されるアミノ酸配列を有するものである融合蛋白質,
(2)該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が,配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するものであり,
該ヒト化抗hTfR抗体の重鎖が,そのC末端側で,(Gly-Ser)で示されるアミノ酸配列を有するリンカーを介して,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼと結合しており,全体として配列番号15で示されるアミノ酸配列を有するものである融合蛋白質,
(3)該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が,配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するものであり,
該ヒト化抗hTfR抗体の重鎖が,そのC末端側で,(Gly-Ser)で示されるアミノ酸配列を有するリンカーを介して,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼと結合しており,全体として配列番号17で示されるアミノ酸配列を有するものである融合蛋白質,が挙げられる。
これらの融合蛋白質は,通常,2本の軽鎖と2本のヒトイズロン酸-2-スルファターゼと結合した重鎖とから構成される。
【0064】
本発明における凍結乾燥製剤は,有効成分として抗体とヒトリソソーム酵素との融合蛋白質を含有し,更に,中性塩,二糖類,非イオン性界面活性剤,及び緩衝剤を含有してなるものである。
【0065】
凍結乾燥製剤に含まれる中性塩には,薬剤学的に許容し得るものである限り特に限定はないが,かかる中性塩としては,塩化ナトリウム,塩化マグネシウムが好適であり,特に塩化ナトリウムが好適である。
【0066】
凍結乾燥製剤における中性塩の含量は,融合蛋白質の含量に対して,好ましくは0.015~2.5(w/ww/w),より好ましくは0.05~0.5(w/ww/w),更に好ましくは0.1~0.25(w/ww/w)であり,例えば,0.16(w/ww/w)である。
【0067】
凍結乾燥製剤に含まれる二糖類には,薬剤学的に許容し得るものである限り特に限定はないが,かかる二糖類としては,トレハロース,スクロース,マルトース,乳糖又はこれらを組み合わせたものが好適であり,特にスクロースが好適である。
【0068】
凍結乾燥製剤における二糖類の含量は,融合蛋白質の含量に対して,好ましくは2.5~200(w/ww/w),より好ましくは5~50(w/ww/w),更に好ましくは10~25(w/ww/w)であり,例えば,15(w/ww/w)である。
【0069】
凍結乾燥製剤に含まれる非イオン性界面活性剤には,薬剤学的に許容し得るものである限り特に限定はないが,かかる非イオン性界面活性剤として,ポリソルベート又はポロキサマーが好適である。例えば,ポリソルベート20,ポリソルベート80,及びポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールは,非イオン性界面活性剤として好適である。特に,ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールが好適である。ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールはポロキサマー188と同義である。
【0070】
凍結乾燥製剤における非イオン性界面活性剤の含量は,融合蛋白質の含量に対して,好ましくは0.005~6(w/ww/w)であり,より好ましくは0.02~0.2(w/ww/w)であり,更に好ましくは0.04~0.1(w/ww/w)であり,例えば,0.065(w/ww/w)である。
【0071】
凍結乾燥製剤に含まれる緩衝剤には,医薬品の賦形剤として用いることができるものである限り特に限定はないが,好ましくはリン酸緩衝剤である。リン酸緩衝剤は,凍結乾燥製剤を純水で溶解したときに,好ましくはpHが5.5~7.5となるように,より好ましくはpHが6.0~7.0となるように,例えばpH6.5となるように凍結乾燥製剤に添加される。
【0072】
本発明の凍結乾燥製剤の好適な組成の例として,
(A)抗体とヒトリソソーム酵素との融合蛋白質の含量が0.5~20mgであり,融合蛋白質の含量に対する中性塩,二糖類,及びイオン性界面活性剤の含量が,それぞれ,0.015~2.5(w/ww/w),2.5~200(w/ww/w),及び0.005~6(w/ww/w)であるもの,
(B)抗体とヒトリソソーム酵素との融合蛋白質の含量が0.5~20mgであり,融合蛋白質の含量に対する中性塩,二糖類,及びイオン性界面活性剤の含量が,それぞれ,0.05~0.5(w/w),5~50(w/w),及び0.02~0.2(w/w)であるもの,
(C)抗体とヒトリソソーム酵素との融合蛋白質の含量が0.5~20mgであり,融合蛋白質の含量に対する中性塩,二糖類,及びイオン性界面活性剤の含量が,それぞれ,0.1~0.25(w/w),10~25(w/w),及び0.04~0.1(w/w)であるもの,が挙げられる。
【0073】
上記(A)~(C)において,リン酸緩衝剤は,凍結乾燥製剤を純水で溶解したときに,pHが5.5~7.5又は6.0~7.0となるように,例えばpH6.5となるように凍結乾燥製剤に添加される。
【0074】
本発明の凍結乾燥製剤のより好適な組成の例として,
(D)抗体とヒトリソソーム酵素との融合蛋白質の含量が0.5~20mgであり,融合蛋白質の含量に対する塩化ナトリウム,スクロース,及びポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールの含量が,それぞれ,0.015~2.5(w/w),2.5~200(w/w),及び0.005~6(w/w)であるもの,
(E)抗体とヒトリソソーム酵素との融合蛋白質の含量が0.5~20mgであり,融合蛋白質の含量に対する塩化ナトリウム,スクロース,及びポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールの含量が,それぞれ,0.05~0.5(w/w),5~50(w/w),及び0.02~0.2(w/w)であるもの,
(F)抗体とヒトリソソーム酵素との融合蛋白質の含量が0.5~20mgであり,融合蛋白質の含量に対する塩化ナトリウム,スクロース,及びポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールの含量が,それぞれ,0.1~0.25(w/w),10~25(w/w),及び0.04~0.1(w/w)であるもの,が挙げられる。
【0075】
上記(D)~(F)において,リン酸緩衝剤は,凍結乾燥製剤を純水で溶解したときに,pHが5.5~7.5又は6.0~7.0となるように,特にpHが6.5となるように添加される。
【0076】
本発明の凍結乾燥製剤の更に具体的な組成の例として,(G)抗体とヒトリソソーム酵素との融合蛋白質の含量が10mgであり,融合蛋白質の含量に対する塩化ナトリウム,スクロース,及びポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールの含量が,それぞれ,0.16(w/w),15(w/w),及び0.65(w/w)であり,純水で溶解したときにpHが6.0~7.0となるようにリン酸緩衝剤が添加されたものが挙げられる。
【0077】
上記(A)~(G)で示される凍結乾燥製剤において,抗体とヒトリソソーム酵素との融合蛋白質は,例えば,ヒト化抗hTfR抗体とhI2Sとの融合蛋白質である。かかるヒト化抗hTfR抗体とhI2Sとの融合蛋白質の好ましい形態として,
(1)該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が,配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するものであり,該ヒト化抗hTfR抗体の重鎖が,配列番号8で示されるアミノ酸配列を有するものであって,重鎖のC末端側に,リンカー配列を介して,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼが結合したものである融合蛋白質,
(2)該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が,配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するものであり,該ヒト化抗hTfR抗体の重鎖が,配列番号9で示されるアミノ酸配列を有するものであって,重鎖のC末端側に,リンカー配列を介して,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼが結合したものである融合蛋白質,
(3)該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が,配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するものであり,該ヒト化抗hTfR抗体の重鎖が,配列番号10で示されるアミノ酸配列を有するものであって,重鎖のC末端側に,リンカー配列を介して,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼが結合したものである融合蛋白質,が挙げられる。
上記(1)~(3)の融合蛋白質において,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼは,好ましくは配列番号1で示されるアミノ酸を有するものであり,リンカー配列は,好ましくは(Gly-Ser)で示されるアミノ酸配列を有するものである。またこれら融合蛋白質は,通常,2本の軽鎖と2本のヒトイズロン酸-2-スルファターゼと結合した重鎖とから構成される。
【0078】
上記(A)~(G)で示される凍結乾燥製剤における,ヒト化抗hTfR抗体とhI2Sとの融合蛋白質の更なる好ましい形態として,
(4)該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が,配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するものであり,
該ヒト化抗hTfR抗体の重鎖が,そのC末端側で,(Gly-Ser)で示されるアミノ酸配列を有するリンカーを介して,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼと結合しており,配列番号13で示されるアミノ酸配列を形成しているもの,
(5)該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が,配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するものであり,
該ヒト化抗hTfR抗体の重鎖が,そのC末端側で,(Gly-Ser)で示されるアミノ酸配列を有するリンカーを介して,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼと結合しており,配列番号15で示されるアミノ酸配列を形成しているもの,
(6)該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が,配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するものであり,
該ヒト化抗hTfR抗体の重鎖が,そのC末端側で,(Gly-Ser)で示されるアミノ酸配列を有するリンカーを介して,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼと結合しており,配列番号17で示されるアミノ酸配列を形成しているもの,が挙げられる。
【0079】
上記(A)又は(F)で示される凍結乾燥製剤において,抗体とヒトリソソーム酵素との融合蛋白質が上記(1)~(6)で示されるものである場合において,当該融合蛋白質の含量は,好ましくは0.5~20mgであり,例えば,2.0~10mg,2.0~6.0mg等であり,適宜,2.5mg,5.0mg等に調整される。当該融合蛋白質の好適な凍結乾燥製剤の組成の例として,
(H)当該融合蛋白質の含量が0.5~20mgであり,融合蛋白質の含量に対する塩化ナトリウム,スクロース,及びポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールの含量が,それぞれ,0.015~2.5(w/w),2.5~200(w/w),及び0.005~6(w/w)であるもの,
(I)当該融合蛋白質の含量が0.5~20mgであり,融合蛋白質の含量に対する塩化ナトリウム,スクロース,及びポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールの含量が,それぞれ,0.05~0.5(w/w),5~50(w/w),及び0.02~0.2(w/w)であるもの,
(J)当該融合蛋白質の含量が0.5~20mgであり,融合蛋白質の含量に対する塩化ナトリウム,スクロース,及びポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールの含量が,それぞれ,0.1~0.25(w/w),10~25(w/w),及び0.04~0.1(w/w)であるもの,が挙げられる。
【0080】
より具体的には,
(K)当該融合蛋白質の含量が10mgであり,融合蛋白質の含量に対する塩化ナトリウム,スクロース,及びポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールの含量が,それぞれ,0.16(w/w),15(w/w),及び0.65(w/w)であり,純水で溶解したときにpHが6.0~7.0となるようにリン酸緩衝剤が添加されたものがある。
【0081】
抗体とヒトリソソーム酵素との融合蛋白質を有効成分とする本発明の凍結乾燥製剤は,例えば,ダブルチャンバータイプのシリンジ又はバイアル等の容器に封入,充填等された形態で供給することができる。また,本発明の凍結乾燥製剤は,これを溶解するための専用の溶液と共にキットとして供給することもできる。凍結乾燥製剤は,例えば,使用前に専用の溶液,純水,リンゲル液等で溶解した後に,生理食塩水で希釈して輸注液とし,この輸注液を点滴静注する。その他,凍結乾燥製剤は,患者の筋肉内,腹腔内又は皮下等に投与することもできる。凍結乾燥製剤を封入,充填等するためのシリンジ及びバイアル等の容器の材質に特に限定はないが,ほう珪酸ガラス製のものが好適であり,この他,環状オレフィンとオレフィンの共重合体であるシクロオレフィンコポリマー,シクロオレフィン類開環重合体又は,シクロオレフィン類開環重合体に水素添加したもの等の疎水性樹脂製のものも好適である。
【実施例0082】
以下,実施例を参照して本発明を更に詳細に説明するが,本発明が実施例に限定されることは意図しない。
【0083】
〔実施例1〕hI2S-ヒト化抗hTfR抗体融合蛋白質発現用ベクターの構築
hI2S-ヒト化抗hTfR抗体融合蛋白質発現用ベクターは,配列番号2で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖と配列番号8で示されるアミノ酸配列を有する重鎖からなるヒト化抗hTfR抗体番号1,配列番号4で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖と配列番号9で示されるアミノ酸配列を有する重鎖からなるヒト化抗hTfR抗体番号2,配列番号6で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖と配列番号10で示されるアミノ酸配列を有する重鎖からなるヒト化抗hTfR抗体番号3の,3種類のヒト化抗hTfR抗体(番号1~3)をコードする遺伝子を用いて構築した。
【0084】
pEF/myc/nucベクター(Invitrogen社)を,KpnIとNcoIで消化し,EF-1αプロモーター及びその第一イントロンを含む領域を切り出し,これをT4 DNAポリメラーゼで平滑末端化処理した。pCI-neo(Invitrogen社)を,BglII及びEcoRIで消化して,CMVのエンハンサー/プロモーター及びイントロンを含む領域を切除した後に,T4 DNAポリメラーゼで平滑末端化処理した。これに,上記のEF-1αプロモーター及びその第一イントロンを含む領域を挿入して,pE-neoベクターを構築した。pE-neoベクターを,SfiI及びBstXIで消化し,ネオマイシン耐性遺伝子を含む約1 kbpの領域を切除した。pcDNA3.1/Hygro(+)(Invitrogen社)を鋳型にしてプライマーHyg-Sfi5’(配列番号11)及びプライマーHyg-BstX3’(配列番号12)を用いて,PCR反応によりハイグロマイシン遺伝子を増幅した。増幅したハイグロマイシン遺伝子を,SfiI及びBstXIで消化し,上記のネオマイシン耐性遺伝子を切除したpE-neoベクターに挿入して,pE-hygrベクターを構築した。
【0085】
配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体番号1の軽鎖の全長をコードする遺伝子を含むDNA断片(配列番号3)を合成した。このDNA断片の5’側にはMluI配列を,3’側にはNotI配列を導入した。このDNA断片をMluIとNotIで消化し,pE-neoベクターのMluI-NotI間に組み込んだ。得られたベクターをヒト化抗hTfR抗体番号1の軽鎖発現用ベクターであるpE-hygr(LC1)とした。
【0086】
配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体番号2の軽鎖の全長をコードする遺伝子を含むDNA断片(配列番号5)を合成した。このDNA断片の5’側にはMluI配列を,3’側にはNotI配列を導入した。このDNA断片をMluIとNotIで消化し,pE-neoベクターのMluI-NotI間に組み込んだ。得られたベクターを,ヒト化抗hTfR抗体番号2の軽鎖発現用ベクターであるpE-hygr(LC2)とした。
【0087】
配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体番号3の軽鎖の全長をコードする遺伝子を含むDNA断片(配列番号7)を合成した。このDNA断片の5’側にはMluI配列を,3’側にはNotI配列を導入した。このDNA断片をMluIとNotIで消化し,pE-neoベクターのMluI-NotI間に組み込んだ。得られたベクターを,ヒト化抗hTfR抗体番号3の軽鎖発現用ベクターであるpE-hygr(LC3)とした。
【0088】
配列番号8で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体番号1の重鎖のC末端側に(Gly-Ser)のアミノ酸配列を有するリンカーを介して配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するhI2Sを結合させた蛋白質をコードする遺伝子を含む,配列番号14で示される塩基配列を有するDNA断片を人工的に合成した。このDNA断片は,配列番号13で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体番号1の重鎖とhI2Sを結合させた蛋白質をコードする。このDNA断片をMluIとNotIで、消化し,pE-neoベクターのMluIとNotIの間に組み込み,pE-neo(HC-I2S-1)を構築した。
【0089】
配列番号9で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体番号2の重鎖のC末端側に(Gly-Ser)のアミノ酸配列を有するリンカーを介して配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するhI2Sを結合させた蛋白質をコードする遺伝子を含む,配列番号16で示される塩基配列を有するDNA断片を人工的に合成した。このDNA断片は,配列番号15で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体番号2の重鎖とhI2Sを結合させた蛋白質をコードする。このDNA断片をMluIとNotIで、消化し,pE-neoベクターのMluIとNotIの間に組み込み,pE-neo(HC-I2S-2)を構築した。
【0090】
配列番号10で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体番号3の重鎖のC末端側に(Gly-Ser)のアミノ酸配列を有するリンカーを介して配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するhI2Sを結合させた蛋白質をコードする遺伝子を含む,配列番号18で示される塩基配列を有するDNA断片を人工的に合成した。このDNA断片は,配列番号17で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体番号3の重鎖とhI2Sを結合させた蛋白質をコードする。このDNA断片をMluIとNotIで、消化し,pE-neoベクターのMluIとNotIの間に組み込み,pE-neo(HC-I2S-3)を構築した。
【0091】
〔実施例2〕hI2S-ヒト化抗hTfR抗体融合蛋白質の高発現細胞株の作製
CHO細胞(CHO-K1:American Type Culture Collectionから入手)を,下記の方法により,GenePulser(Bio-Rad社)を用いて,実施例1で構築したpE-hygr(LC1)とpE-neo(HC-I2S-1)との組み合わせ,実施例1で構築したpE-hygr(LC2)とpE-neo(HC-I2S-2)との組み合わせ,及び実施例1で構築したpE-hygr(LC3)とpE-neo(HC-I2S-3)との組み合わせで,それぞれ形質転換した。細胞の形質転換は概ね以下の方法で行った。
【0092】
5×105個のCHO-K1細胞をCD OptiCHOTM培地(Thermo Fisher Scientific社)を添加した3.5cm培養ディッシュに播種し,37℃,5% CO2の条件下で一晩培養した。培養後,細胞を5×106個/mLの密度となるようにOpti-MEMTMI培地(Thermo Fisher Scientific社)で懸濁した。細胞懸濁液100μLを採取し,これにCD OptiCHOTM培地で100μg/mLに希釈したpE-hygr(LC1)及びpE-neo(HC-I2S-1)プラスミドDNA溶液を5μLずつ添加した。GenePulser(Bio-Rad社)を用いて,エレクトロポレーションを実施し,細胞にプラスミドを導入した。37℃,5% CO2の条件下で一晩培養した後,細胞を,0.5mg/mLのハイグロマイシン及び0.8mg/mLのG418を含有するCD OptiCHOTM培地で選択培養した。pE-hygr(LC2)及びpE-neo(HC-I2S-2)の組み合わせ,pE-hygr(LC2)及びpE-neo(HC-I2S-3)の組み合わせでも同様にして細胞を形質転換させた。
【0093】
次いで,限界希釈法により,1ウェルあたり1個以下の細胞が播種されるように,96ウェルプレート上に選択培養で選択された細胞を播種し,各細胞が単クローンコロニーを形成するように約10日間培養した。単クローンコロニーが形成されたウェルの培養上清を採取し,ヒト化抗体含量をELISA法にて調べ,hI2S-ヒト化抗hTfR抗体融合蛋白質の高発現細胞株を選択した。
【0094】
このときのELISA法は概ね以下の方法で実施した。96ウェルマイクロタイタープレート(Nunc社)の各ウェルに,ヤギ抗ヒトIgGポリクローナル抗体溶液を0.05M炭酸水素塩緩衝液(pH9.6)で4μg/mLに希釈したものを100μLずつ加え,室温で少なくとも1時間静置して抗体をプレートに吸着させた。次いで,リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)に0.05% Tween20を添加したもの(PBS-T)で各ウェルを3回洗浄後,Starting Block(PBS)Blocking Buffer(Thermo Fisher Scientific社)を各ウェルに200μLずつ加えてプレートを室温で30分静置した。次いで,各ウェルをPBS-Tで3回洗浄した後,リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)に0.5% BSA及び0.05% Tween20を添加したもの(PBS-BT)で適当な濃度に希釈した培養上清又はヒトIgG標準品を,各ウェルに100μLずつ加え,プレートを室温で少なくとも1時間静置した。次いで,プレートをPBS-Tで3回洗浄した後,PBS-BTで希釈したHRP標識抗ヒトIgGポリクローナル抗体溶液を,各ウェルに100μLずつ加え,プレートを室温で少なくとも1時間静置した。PBS-Tで各ウェルを3回洗浄後,0.4mg/mL o-フェニレンジアミンを含むリン酸-クエン酸緩衝液(pH5.0)を100μLずつ各ウェルに加え,室温で8~20分間静置した。次いで,1 mol/L硫酸を100μLずつ各ウェルに加えて反応を停止させ,96ウェルプレートリーダーを用いて,各ウェルにつき490nmでの吸光度を測定した。高い測定値を示したウェルに対応する細胞を,hI2S-ヒト化抗hTfR抗体融合蛋白質の高発現細胞株として選択した。
【0095】
pE-hygr(LC1)とpE-neo(HC-I2S-1)の組み合わせで形質転換させて得られたhI2S-ヒト化抗hTfR抗体融合蛋白質の高発現細胞株を,hI2S-抗hTfR抗体発現株1とした。この細胞株が発現するhI2Sとヒト化抗hTfR抗体との融合蛋白質をI2S-抗hTfR抗体1とした。
【0096】
pE-hygr(LC2)とpE-neo(HC-I2S-2)の組み合わせで形質転換させて得られたhI2S-ヒト化抗hTfR抗体融合蛋白質の高発現細胞株を,hI2S-抗hTfR抗体発現株2とした。この細胞株が発現するhI2Sとヒト化抗hTfR抗体との融合蛋白質をI2S-抗hTfR抗体2とした。
【0097】
pE-hygr(LC3)とpE-neo(HC-I2S-3)の組み合わせで形質転換させて得られたhI2S-ヒト化抗hTfR抗体融合蛋白質の高発現細胞株を,hI2S-抗hTfR抗体発現株3とした。この細胞株が発現するhI2Sとヒト化抗hTfR抗体との融合蛋白質をI2S-抗hTfR抗体3とした。
【0098】
I2S-抗hTfR抗体1,I2S-抗hTfR抗体2及びI2S-抗hTfR抗体3に含まれる,ヒト化抗体の軽鎖及び重鎖のアミノ酸配列,それら軽鎖及び重鎖に含まれる可変領域のアミノ酸配列,及び,それら可変領域に含まれるCDR1~3のアミノ酸配列の配列番号を,表1にまとめて示す。
【0099】
【0100】
〔実施例3〕hI2S-抗hTfR抗体発現株の培養
I2S-抗hTfR抗体を,以下の方法で製造した。実施例2で得たhI2S-抗hTfR抗体発現株3を,細胞密度が約2×105個/mLとなるように,4mM L-アラニル-L-グルタミン,100μmol/L ヒポキサンチン及び16μmol/L チミジンを含有する,約200Lの無血清培地(EX-CELL Advanced CHO Fed-batch Medium,Sigma Aldrich社)に懸濁させた。この細胞懸濁液の140Lを培養槽に移した。培地をインペラーで89rpmの速度で撹拌し,培地の溶存酸素濃度を約40%に保持し,34~37℃の温度範囲で,約11日間細胞を培養した。培養期間中,細胞数,細胞の生存率,培地のグルコース濃度及び乳酸濃度を監視した。培地のグルコース濃度が15mmol/L未満となった場合には,直ちにグルコース濃度が37.89mmol/Lとなるように,グルコース溶液を培地に添加した。培養終了後に培地を回収した。回収した培地を,Millistak+HC Pod Filter grade D0HC(Merck社)でろ過し,更にMillistak+ HCgrade X0HC(Merck社)でろ過して,I2S-抗hTfR抗体3を含む培養上清を得た。この培養上清を,PelliconTM 3 Cassette w/Ultracel PLCTK Membrane(孔径:30kDa,膜面積:1.14m2,Merck社)を用いて限外ろ過し,液量が約17分の1となるまで濃縮した。次いで,この濃縮液をOpticap XL600(0.22μm,Merck社)を用いてろ過した。得られた液を濃縮培養上清とした。
【0101】
〔実施例4〕ウイルスの不活化
実施例3で得た濃縮培養上清に,トリn-ブチルリン酸(TNBP)及びポリソルベート80を,終濃度がそれぞれ0.3%(v/v)及び1%(w/v)となるように添加し,室温で4時間穏やかに撹拌した。この工程は培養上清中に混入するウイルスを不活化させるためのものである。但し,生物由来の成分を含まない無血清培地を用いて細胞をする限り,ウイルスの不活化工程がなくとも培養上清中に人体に有害なウイルスが混入する可能性はほとんどない。
【0102】
〔実施例5〕hI2S-抗hTfR抗体の精製
ウイルス不活化後の濃縮培養上清を,0.5倍容の140mM NaClを含有する20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.0)を添加した後に,Millipak-200 Filter Unit(孔径:0.22μm,Merck社)でろ過した。このろ過後の溶液を,カラム体積の4倍容の140mM NaClを含有する20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.0)で平衡化した,プロテインAアフィニティーカラムであるMabSelect SuRe LXカラム(カラム体積:約3.2L,ベッド高:約20cm,GE Healthcare社)に,200cm/時の一定流速で負荷し,I2S-抗hTfR抗体3をプロテインAに吸着させた。
【0103】
次いで,カラム体積の5倍容の500mM NaCl及び450mM アルギニンを含有する10mM Tris-HCl緩衝液(pH7.0)を同流速で供給してカラムを洗浄した。次いでカラム体積の2.5倍容の140mM NaClを含有する20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.0)を同流速で供給してカラムを更に洗浄した。次いで,カラム体積の5倍容の140mM NaClを含有する100mM グリシン緩衝液(pH3.5)で,プロテインAに吸着したI2S-抗hTfR抗体3を溶出させた。溶出液は,予め1M Tris-HCl緩衝液(pH7.5)の入れておいた容器に受けて,直ちに中和した。
【0104】
上記のプロテインAアフィニティーカラムからの溶出液に,200mM リン酸緩衝液(pH7.0)と,4M NaCl及び2mM リン酸緩衝液を含有する10mM MES緩衝液(pH7.3)と,1M Tris-HCl緩衝液(pH8.0)とを順次添加し,溶出液に含まれるリン酸ナトリウム及びNaClの濃度を,それぞれ2mM及び215mMに調整するとともに,溶出液のpHを7.3に調整した。次いで,この溶出液を,Opticap XL600(孔径:0.22μm,Merck社)でろ過した。このろ過後の溶液を,カラム体積の4倍容の215mM NaCl及び2mM リン酸ナトリウムを含有する10mM MES緩衝液(pH7.3)で平衡化した,ハイドロキシアパタイトカラムであるCHT TypeII 40μmカラム(カラム体積:約3.2L,ベッド高:約20cm,Bio-Rad社)に,200cm/時の一定流速で負荷し,I2S-抗hTfR抗体3をハイドロキシアパタイトに吸着させた。
【0105】
次いで,カラム体積の5倍容の同緩衝液を同流速で供給してカラムを洗浄した。次いで,カラム体積の5倍容の215mM NaClを含有する35mM リン酸緩衝液(pH7.3)で,ハイドロキシアパタイトに吸着したI2S-抗hTfR抗体3を溶出させた。なお,ハイドロキシアパタイトカラムでの精製は,プロテインAアフィニティーカラムからの溶出液を半量ずつ用いて,2回に分けて実施した。
【0106】
上記のハイドロキシアパタイトカラムからの溶出液に,希塩酸を加えてpHを6.5に調整した。次いで,PelliconTM 3 Cassette w/Ultracel PLCTK Membrane(孔径:30kDa,膜面積:1.14m2,Merck社)を用いて限外ろ過し,溶液中のI2S-抗hTfR抗体3の濃度が約2mg/mLとなるまで濃縮した。次いで,この濃縮液をOpticap XL600(0.22μm,Merck社)を用いてろ過した。
【0107】
上記の濃縮液を,カラム体積の5倍容の0.8mg/mL NaCl及び75mg/mL スクロースを含有する20mM リン酸緩衝液(pH6.5)で平衡化した,サイズ排除カラムであるSuperdex 200カラム(カラム体積:約12.6L,ベッド高:40cm,GE Healthcare社)に,19cm/時の一定流速で負荷し,更に,同緩衝液を同じ流速で供給した。このとき,サイズ排除カラムからの溶出液の流路に,溶出液の吸光度を連続的に測定するための吸光光度計を配置して,280nmの吸光度をモニターし,280nmで吸収ピークを示した画分を,I2S-抗hTfR抗体3を含む画分として回収し,これをI2S-抗hTfR抗体精製品とした。なお,サイズ排除カラムでの精製は,ハイドロキシアパタイトカラムからの溶出液を半量ずつ用いて,2回に分けて実施した。
【0108】
〔実施例6〕I2S-抗hTfR抗体を含有する凍結乾燥品の製造
実施例5で得たI2S-抗hTfR抗体精製品を用いて,表2に示す組成の水溶液を調製した。この水溶液をVacuum Filter/Storage Bottle System,0.22μm(Corning社)を用いて除菌ろ過した。ろ過後の溶液を試験薬とした。試験薬のpHが約6.5となるように,必要に応じて水酸化ナトリウム溶液又は希塩酸を添加した。
【0109】
【0110】
試験薬を2.5mLずつ,ほう珪酸ガラス製バイアルに充填し,ゴム栓(塩素化ブチル製)を半打栓して凍結乾燥した。凍結乾燥工程において,バイアル内の気相を窒素に置換してからゴム栓を全打栓して,バイアルを密封した。得られた凍結乾燥品は,バイアル中で白色の塊を形成した。
【0111】
〔実施例7〕I2S-抗hTfR抗体を含有する凍結乾燥製剤の安定性の検討
実施例6で製造した凍結乾燥品を,暗所,5℃又は25℃の環境下で6ヶ月間静置した。静置開始時,1ヶ月後,3ヶ月後,及び6ヶ月後に,バイアル中の凍結乾燥品を2.5mLの純水で溶解し,これをサンプル溶液とした。各サンプル溶液のpHを測定するとともに,白色光源のもと,2000~3750 lxの明るさで目視により異物の有無を検査した。また,各サンプル溶液中に含まれる1~100μmの粒径の微粒子数を,実施例8に示す方法で測定した。また,各サンプル溶液におけるI2S-抗hTfR抗体の重合体の比率を,実施例9に示す方法で測定した。更に,各サンプル溶液に含まれるI2S-抗hTfR抗体のヒトTfRとの親和性を実施例10に示す方法で測定した。更にまた,各サンプル溶液に含まれるI2S-抗hTfR抗体の酵素活性を実施例11に示す方法で測定した。
【0112】
暗所,5℃の環境下で6ヶ月間静置したときのI2S-抗hTfR抗体を含有する凍結乾燥製剤の安定性の測定結果を表3に示す。表3に示されるように,サンプル溶液のpHは,凍結乾燥品を6ヶ月静置した期間中,ほぼpH6.5に保たれた。また,同期間中のサンプル溶液中に目視により明らかに認められる不溶性異物はなかった。また,同期間中のサンプル溶液中に含まれるI2S-抗hTfR抗体に占める重合体比率はほぼ一定であった。また,サンプル溶液中に含まれる1~100μmの粒径の微粒子の数も,同期間中に顕著に増加することはなかった。静置後6ヶ月のサンプル溶液で微粒子数の増加が観察されたが,それは,凍結乾燥製剤の保存期間を冷所で2年間と設定したときに,許容できる範囲のものであった。また,サンプル溶液中に含まれるI2S-抗hTfR抗体の酵素活性は,同期間中ほぼ一定に保たれた。また,サンプル溶液中に含まれるI2S-抗hTfR抗体のヒトTfRに対する親和性が,同期間中に顕著に低下することもなかった(データは示さない)。
【0113】
【0114】
暗所,25℃の環境下で6ヶ月間静置したときのI2S-抗hTfR抗体を含有する凍結乾燥製剤の安定性の測定結果を表4に示す。表4に示されるように,サンプル溶液のpHは凍結乾燥品を6ヶ月静置した期間中,ほぼpH6.5に保たれた。また,同期間中に目視により明らかに認められる不溶性異物は生じなかった。また,同期間中の重合体比率はほぼ一定であった。また,サンプル溶液に含まれる1~100μmの粒径の微粒子の数も,同期間中に顕著に増加することはなかった。6ヶ月後に微粒子数の増加が観察されたが,それは,凍結乾燥製剤の保存期間を冷所で2年間と設定したときに,許容できる範囲のものであった。また,サンプル溶液中に含まれるI2S-抗hTfR抗体の酵素活性は,同期間中ほぼ一定に保たれた。また,サンプル溶液中に含まれるI2S-抗hTfR抗体のヒトTfRに対する親和性が,同期間中に顕著に低下することもなかった(データは示さない)。
【0115】
【0116】
以上の結果は,流通過程及び保管庫において,薬剤が冷所下に置かれることを前提にして,I2S-抗hTfR抗体を有効成分として含有してなる薬剤を,表2に示される組成の凍結乾燥製剤とすることで,薬理学的に安定な状態で市場に提供できることを示すものである。
【0117】
〔実施例8〕サンプル溶液中に含まれる粒子数(粒径:1~100μm)の測定
サンプル溶液中に含まれる粒子数の測定は,フローイメージング粒子解析装置であるFlowCAMTM(フルイド・イメージング・テクノロジーズ社)を用いて行った。フローイメージング粒子解析装置は,サンプル溶液をシリンジポンプによって光学系と直交するフローセルに引き込み,フローセル中を通過する粒子をリアルタイムで撮影することにより,サンプル溶液中に含まれる粒子数を測定することのできる装置である。測定は,検出すべき粒子サイズを1~100μmに設定して行った。
【0118】
〔実施例9〕サンプル溶液中に含まれるI2S-抗hTfR抗体の重合体の含有率の測定
島津HPLCシステムLC-20A(島津製作所)に,サイズ排除カラムクロマトグラフィーカラムであるTSKgel UltraSW Aggregate 3μmカラム(7.8mm径×30cm長,TOSOH社)をセットした。また,カラムの下流に吸光光度計を設置し,カラムからの流出液の吸光度(測定波長215nm)を連続して測定できるようにした。0.2M リン酸ナトリウム緩衝水溶液を0.5mL/分の流速で流してカラムを平衡化させた後,3~20μgのI2S-抗hTfR抗体を含有するサンプル溶液をカラムに負荷し,更に0.2M リン酸ナトリウム緩衝水溶液を同流速で流した。この間,カラムからの流出液の吸光度(測定波長215nm)を測定することにより,溶出プロフィールを得た。得られた溶出プロフィールから,I2S-抗hTfR抗体の単量体のピーク面積(単量体ピーク面積)と,この単量体ピークより先に現れるI2S-抗hTfR抗体の重合体のピーク面積(重合体ピーク面積)を求めた。重合体の含有率(%)を次式で求めた。
重合体の含有率(%)={重合体ピーク面積/(単量体ピーク面積+重合体ピーク面積)}×100
【0119】
〔実施例10〕サンプル溶液中に含まれるI2S-抗hTfR抗体のヒトTfRへの親和性の測定
I2S-抗hTfR抗体のヒトTfRへの親和性の測定は,バイオレイヤー干渉法(Biolayer Interferometry:BLI)を用いた生体分子相互作用解析システムであるOctetRED96(ForteBio社,a division of Pall Corporation)を用いて実施した。バイオレイヤー干渉法の基本原理について,簡単に説明する。センサーチップ表面に固定された生体分子の層(レイヤー)に特定波長の光を投射したとき,生体分子のレイヤーと内部の参照となるレイヤーの二つの表面から光が反射され,光の干渉波が生じる。測定試料中の分子がセンサーチップ表面の生体分子に結合することにより,センサー先端のレイヤーの厚みが増加し,干渉波に波長シフトが生じる。この波長シフトの変化を測定することにより,センサーチップ表面に固定された生体分子に結合する分子数の定量及び速度論的解析をリアルタイムで行うことができる。測定は,概ねOctetRED96に添付の操作マニュアルに従って実施した。ヒトTfRとしては,N末端にヒスチジンタグが付加した,配列番号1に示されるアミノ酸配列の中でN末端側から89番目のシステイン残基からC末端のフェニルアラニンまでの,hTfRの細胞外領域のアミノ酸配列を有する組換えヒトTfR(rヒトTfR:Sino Biological社)を用いた。
【0120】
実施例6で調製したサンプル溶液を,それぞれHBS-P+(150mM NaCl,50μM EDTA及び0.05% Surfactant P20を含む10mM HEPES)で2段階希釈し,0.78125~50nM(0.117~7.5μg/mL)の7段階の濃度のサンプル溶液希釈液を調製した。rヒトTfRを,HBS-P+で希釈し,25μg/mLの溶液を調製し,rヒトTfR-ECD(Histag)溶液とした。
【0121】
上記2段階希釈して調製したサンプル溶液希釈液を,96 well plate,black(greiner bio-one社)に200μL/ウェルずつ添加した。また,上記調製したrヒトTfR-ECD(Histag)溶液を,所定のウェルにそれぞれ200μL/ウェルずつ添加した。ベースライン,解離用及び洗浄用のウェルには,HBS-P+を200μL/ウェルずつ添加した。再生用のウェルには,10mM Glycine-HCl(pH1.7)を200μL/ウェルずつ添加した。活性化用のウェルには,0.5mM NiCl2溶液を200μL/ウェルずつ添加した。このプレートと,バイオセンサー(Biosensor/Ni-NTA:ForteBio社,a division of Pall Corporation)を,OctetRED96の所定の位置に設置した。
【0122】
OctetRED96を下記の表5に示す条件で作動させてデータを取得後,OctetRED96付属の解析ソフトウェアを用いて,結合反応曲線を1:1結合モデルあるいは2:1結合モデルにフィッティングし,抗hTfR抗体のrヒトTfRに対する会合速度定数(kon)及び解離速度定数(koff)を測定し,解離定数(KD)算出した。なお,測定は25~30℃の温度下で実施した。
【0123】
【0124】
〔実施例11〕サンプル溶液中に含まれるI2S-抗hTfR抗体の酵素活性測定
サンプル溶液を,垂直ポリエーテルスルホン膜(VIVASPIN2 5,000 MWCO PES,ザルトリウス社)を限外濾過膜として用いた膜濾過により脱塩し,次いで,脱塩された試料を反応緩衝液(5mM 酢酸ナトリウム,0.5mg/L BSA,0.1% TritonX-100,pH4.45)で約100ng/mLに希釈した。96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェル(FluoroNunc Plate,Nunc社)に希釈したサンプル溶液を10μLずつ添加し,37℃で15分間プレインキュベートした。基質溶液は,基質緩衝液(0.5mg/mL BSAを含む5mM 酢酸ナトリウム,pH4.45)を用いて4-メチルウンベリフェリルサルフェート(SIGMA社)を最終濃度1.5mg/mLになるように溶解することより調製した。基質溶液を,希釈したサンプル溶液を含んだ各ウェルに100μLずつ添加し,プレートを暗所に37℃で1時間静置した。インキュベーション後,停止緩衝液(0.33M グリシン,0.21M 炭酸ナトリウム緩衝液,pH10.7)を190μLずつ,サンプルを含む各ウェルに加えた。対照として,150μLの0.4μmol/L 4-メチルウンベリフェロン(4-MUF,Sigma社)溶液と150μLの停止緩衝液とを,ウェルに加えた。次いで,励起波長330nm,蛍光検出波長440nmでプレートを測定した。
【0125】
種々の濃度の4-MUF溶液の蛍光強度を測定することにより標準曲線を作成した。各試料の蛍光強度を標準曲線に外挿した。なお,結果は,37℃で1分当たりに1μモルの4-MUFが生成されるのと等しい活性を1単位(Unit)とし,Unit/mg蛋白質量で表される活性として計算した。公開された米国特許出願(公開番号2004-0229250)は,この測定を実施する上で参照された。