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特開2022-78291スミス‐マゲニス症候群を治療するためのタシメルテオン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022078291
(43)【公開日】2022-05-24
(54)【発明の名称】スミス‐マゲニス症候群を治療するためのタシメルテオン
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/343 20060101AFI20220517BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20220517BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
A61K31/343
A61P25/14
A61P25/20
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022039475
(22)【出願日】2022-03-14
(62)【分割の表示】P 2020097599の分割
【原出願日】2015-08-29
(31)【優先権主張番号】62/169,635
(32)【優先日】2015-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/044,856
(32)【優先日】2014-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】313006588
【氏名又は名称】バンダ・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】VANDA PHARMACEUTICALS INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】ラヴダン、 クリスティン
(72)【発明者】
【氏名】ポリメロポロス、 マイケル、 エイチ.
(57)【要約】      (修正有)
【課題】スミス‐マゲニス症候群(SMS)を有する個人における睡眠障害の治療方法を提供する。
【解決手段】スミス‐マゲニス症候群(SMS)を有する患者を治療するための、タシメルテオンを含む医薬組成物であって、毎日就寝前に体内投与されるための医薬組成物であり、前記治療は、かんしゃく、多動、注意欠陥、及び睡眠発作からなる群より選択される1又は複数のSMSの症状の減少として現れる、医薬組成物。1日1回投与されることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スミス‐マゲニス症候群(SMS)を有する患者における睡眠障害を治療する方法であって、前記患者に有効量のタシメルテオンを毎日体内投与することを含む方法。
【請求項2】
前記睡眠障害の治療が夜間睡眠の改善として現れる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記夜間睡眠の改善が、前記患者の睡眠間隔の中の覚醒期間の割合の減少として現れる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記睡眠障害の治療が、夜間睡眠の総量;夜間覚醒の数、タイミングおよび長さ;睡眠の開始;覚醒時間;日中の居眠りの数、タイミングおよび長さ;変化の臨床全般評価尺度(CGI-C)の改善;重症度の臨床全般評価尺度(CGI-S)の改善;ならびに行動の改善、の1つ以上の改善として現れる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記タシメルテオンを1日1回投与する、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記タシメルテオンの用量が約5mg/日から約100mg/日の間である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記タシメルテオンの用量が約20mg/日である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記タシメルテオンを就寝前に投与する、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記タシメルテオンを就寝の30分前から就寝の2時間前までの間に投与する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記タシメルテオンを就寝の30分前から就寝の1時間半前までの間に投与する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記タシメルテオンを就寝の1時間前に投与する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記治療の効果をタシメルテオンの継続的な毎日の投与によって維持する、請求項5に記載の方法。
【請求項13】
覚醒時間中、前記患者においてメラトニン活性を抑制することをさらに含む、請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
メラトニン活性の抑制を、前記患者の眼の光への暴露を低減すること、メラトニン産生を抑制する活性医薬成分を前記患者に体内投与すること、またはメラトニン活性に拮抗する活性医薬成分を前記患者に体内投与することの1つ以上によって生じさせる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
スミス‐マゲニス症候群(SMS)に罹患している個人において睡眠障害を治療する方法であって、
覚醒時間中、前記個人におけるメラトニン産生を抑制すること、および
睡眠の前に有効量のメラトニンアゴニストを前記個人に投与すること、
を含む方法。
【請求項16】
メラトニン産生を抑制することが、前記個人の眼の光への暴露を低減することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記個人の眼の光への暴露を低減することが、前記個人が光を遮断するアイウエアを装着することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記個人の眼の光への暴露を低減することが、前記個人が光フィルタとなるアイウエアを装着することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
メラトニン産生を抑制することが、前記個人に有効量のベータ遮断薬を投与することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記メラトニンアゴニストがタシメルテオンである、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記タシメルテオンを約5mg/日から約100mg/日の用量で投与する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記タシメルテオンを約20mg/日から約50mg/日の用量で投与する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記タシメルテオンを約20mg/日の用量で投与する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記メラトニンアゴニストを就寝の30分前から就寝の2時間前までの間に投与する、請求項15に記載の方法。
【請求項25】
前記メラトニンアゴニストを就寝の30分前から就寝の1時間半前までの間に投与する、請求項15に記載の方法。
【請求項26】
前記メラトニンアゴニストを就寝の約1時間前に投与する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
光誘発性メラトニン産生を示す個人においてメラトニン産生を調節する方法であって、
覚醒時間中、前記個人におけるメラトニン産生を抑制すること、および
睡眠中、前記個人におけるメラトニン産生を刺激すること、
を含む方法。
【請求項28】
前記個人におけるメラトニン産生を刺激することが、睡眠の前に有効量のメラトニンアゴニストを前記個人に投与することを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記個人におけるメラトニン産生を刺激することが、前記個人の眼を光に暴露することを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記個人の眼を光に暴露することが、前記個人の眼をバースト光(bursts of light)に暴露することを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
スミス‐マゲニス症候群(SMS)に罹患している個人において睡眠障害を治療する方法であって、
覚醒時間中、前記個人におけるメラトニン産生を抑制すること、および
睡眠中、前記個人におけるメラトニン産生を刺激すること、
を含む方法。
【請求項32】
前記個人におけるメラトニン産生を刺激することが、睡眠の前に有効量のメラトニンアゴニストを前記個人に投与することを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記個人におけるメラトニン産生を刺激することが、前記個人の眼を光に暴露することを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記個人の眼を光に暴露することが、前記個人の眼をバースト光に暴露することを含む、請求項33に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2014年9月2日に出願された米国特許出願第62/044,856号および2015年6月2日に出願された同時係属中の米国特許出願第62/169,635号の優先権を主張するものであり、これらの各々は、参照により完全に明記されているかのごとくに本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
スミス‐マゲニス症候群(SMS)は、染色体17p11.2の中間部欠失またはRAI1遺伝子の突然変異から生じる、まれで(出生者数25,000人につき1人)、臨床的に認識可能な症候群である。
【0003】
SMSは、軽度の脳顔面頭蓋および骨格異常の独特のパターン、発話音声/言語発達遅滞、精神運動および成長遅延、ならびに顕著な神経行動学的表現型を特徴とする。この表現型には、常同症、自傷行為および攻撃的行動が含まれる。
【0004】
SMSの一般的な症状は、すべての年齢で認められる、慢性的な睡眠パターンの乱れである。重度の睡眠障害は、実質的にSMS患者全員に共通し(75%~100%の個人/ 介護者が症状を報告している)、したがって患者と家族に対する大きな課題である。睡眠障害は一生を通じて継続し、小児は、典型的には過眠症を呈する。年少期には、しかしながら、眠りに落ちることの困難さ、レム(急速眼球運動)睡眠に入るまたは維持することの不可能性、夜間睡眠の減少、頻繁な夜間および早朝の覚醒と過度の日中の眠気を伴う睡眠周期の短縮および乱れを含む、極度の睡眠障害がほんのよちよち歩きの時期から始まり、成人期まで続く。さらに、睡眠障害は、かんしゃく、多動、注意欠陥および「睡眠発作」を含む、SMSを有する小児における不適応行動の最強の予測因子であると思われる。
【0005】
これらの睡眠障害の考えられる寄与因子の1つは、通常は夜間にのみ放出され、その産生が光によって抑制されるホルモン、メラトニンの明らかな「逆」概日パターンである。いくつかの試験は、SMS患者における血漿メラトニンが日中は高く、夜間は低いことを報告しており、これは通常のパターンの逆である。この日中のメラトニン分泌パターンの乱れの基礎となる原因が不明であるので、この明らかな「逆転した」メラトニン分泌パターンが同じ個人内で一定であるのか、SMS患者全体に普遍的であるのかどうかはまだ不明確である。しかし、メラトニン分泌パターンおよび光誘発性抑制が正常であった2名の患者について報告された所見は、それらが、SMSにおける睡眠障害が単に日中のメラトニン分泌異常だけに起因するのではない可能性があることを示唆するので、重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
SMS症候群の遺伝的基盤についての理解は大きな進歩を遂げた。しかし、概日リズム障害および表現型の他の特定の特徴の分子基盤はまだ十分には特徴付けられておらず、概日時計および松果体機能の細胞および分子制御のより大きな理解は、この疾患の最も重篤な症状に対処することができる薬理学的介入の選択肢を提供する。SMSにおいて存在する生物学的異常の正確な理解が得られるまでは、ベータ遮断薬および外因性メラトニン(米国において)のような従来の薬剤での治療はSMS患者における異常な睡眠パターンおよび行動を満足のいくようには改善せず、それゆえ患者とその家族への負担を一貫して軽減することはないであろう。現在のところ、SMSにおける睡眠障害のための有効な治療は存在しない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの実施形態では、本発明は、SMSを有する患者における睡眠障害を治療する方法であって、患者に有効量のタシメルテオンを毎日体内投与することを含む方法を提供する。
【0008】
別の実施形態では、本発明は、SMSに罹患している個人において睡眠障害を治療する方法であって、覚醒時間中、個人におけるメラトニン産生を抑制すること、および睡眠の前に有効量のメラトニンアゴニストを個人に投与することを含む方法を提供する。
【0009】
別の実施形態では、本発明は、光誘発性メラトニン産生を示す個人においてメラトニン産生を調節する方法であって、覚醒時間中、個人におけるメラトニン産生を抑制すること、および睡眠中、個人におけるメラトニン産生を刺激することを含む方法を提供する。
【0010】
さらに別の実施形態では、本発明は、SMSに罹患している個人において睡眠障害を治療する方法であって、覚醒時間中、個人におけるメラトニン産生を抑制すること、および睡眠中、個人におけるメラトニン産生を刺激することを含む方法を提供する。
【0011】
本発明のこれらや他の特徴は、本発明の様々な実施形態を示す付属の図面と合わせて、本発明の様々な態様についての以下の詳細な説明からより容易に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】試験の連続3日間に、SMSを有する個人について測定されたコルチゾールレベルおよび光暴露レベルを示す。
図2】試験の連続3日間に、SMSを有する個人について測定されたコルチゾールレベルおよび光暴露レベルを示す。
図3】試験の連続3日間に、SMSを有する個人について測定されたコルチゾールレベルおよび光暴露レベルを示す。
図4】試験の連続3日間に、SMSを有する個人について測定されたメラトニンレベルおよび光暴露レベルを示す。
図5】試験の連続3日間に、SMSを有する個人について測定されたメラトニンレベルおよび光暴露レベルを示す。
図6】試験の連続3日間に、SMSを有する個人について測定されたメラトニンレベルおよび光暴露レベルを示す。
【0013】
本発明の図面は正確な縮尺ではないことに留意されたい。図面は本発明の典型的な態様を示すことだけを意図しており、それゆえ本発明の範囲を限定するとみなされるべきではない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
出願人は、血漿メラトニンおよびコルチゾールによって測定される、SMSを有する個人の概日リズムを特徴付け、メラトニンまたはコルチゾールの概日パターン(遅延、前進、非24時間、不規則)とSMS表現型の様々な態様(例えば睡眠パターン、行動上の問題)との間に関連性が存在するかどうかを評価し、遺伝子変異の特徴(例えば17p11.2欠失の程度、RAI1突然変異)とメラトニンおよびコルチゾールのレベルおよび概日パターンならびに/またはメラトニン抑制試験(MST)に対する応答との間に関連性が存在するかどうかを判定し、メラトニン抑制試験(MST)によって判定される、SMSを有する個人における光感受性を評価することを目的として試験を実施した。
【0015】
この試験は、3つの段階、すなわちスクリーニング段階とそれに続く評価段階および場合により、概日メラトニンプロフィールがさらなる検討を必要とする被験者についての可変的な段階から成った。
【0016】
スクリーニング段階の間に、参加者に同意/受諾書が与えられ、初期適格性が評価された。被験者は、自らの事前のSMS診断に関する情報を提供し、すべての基線行動評価およびクオリティ・オブ・ライフ質問書の全項目に記入し、遺伝子検査のために血液試料を提供することを求められた。試料は、RAI1遺伝子の詳細な分析のために中央遺伝子検査室に送られた。分析の結果は、診断が適格性基準に合致している場合は被験者が治験を開始するまで返送される必要がなかった。
【0017】
評価段階の間、3つの試験セグメント(TS1、TS2およびTS3)を、1週間の間隔をおいてそれぞれ1、2および4週目に実施した。これらのセグメントには36時間のメラトニンおよびコルチゾール評価が含まれ、留置カテーテルから1時間ごとに血液試料を採取した。被験者がTS1のために到着したとき、光暴露を評価し、活動を観測するためにアクチグラフィの腕時計を装着した。血液採取は最初の夜の20:00時に開始し、各試験期間中36時間にわたって1時間ごとに継続した。
【0018】
可変的な段階は、遅延、前進または非24時間の概日プロフィールを有すると判定された個人に関して場合により実施されるメラトニン抑制試験(MST)から成った。MSTの間、メラトニンの測定のために1時間ごとに血漿試料を採取した。メラトニンの開始から1~2時間後に、被験者を180分間高照度光に暴露し、暴露の時間は血漿メラトニン濃度の予想ピークと一致するように決定した。光暴露の期間中、30分ごとに血液試料を採取した。
【0019】
結果
重度の睡眠障害の病歴および細胞遺伝学的に確認されたSMS診断を有する7歳から35歳までの8名の参加者が評価段階を完了した。メラトニンおよびコルチゾールの頂点位相のタイミングは、約24.0時間の概日周期で、4週間の評価期間中一貫していた。メラトニン分泌は主として日中に起こり、平均頂点位相は約2:00pmから5:30pmの間であり、メラトニン分泌頂点位相がおよそ5:00amに起こった1名の参加者を除き、夜間のメラトニン産生は非常に低いレベルであるかまたは全く産生されなかった。平均コルチゾール頂点位相は、すべての参加者において約9:00amから11:30amまでの範囲であった。アクチグラフィによって記録された睡眠/覚醒パターンは、複数の活動発作を伴う重度に寸断された夜間睡眠期間、および日中の居眠りまたは全くもしくはほとんど活動のない期間を示した。これらのパターンは参加者間でおよび日によって変動した。
【0020】
SMSを有する個人は、重度の睡眠障害の原因であると考えられる、血漿メラトニンの異常な日中の、しかし安定した分泌パターンを示した。これに対し、SMSを有する個人のコルチゾールリズムは正常であると思われる。SMSを有する個人は、特に、睡眠期間を頻繁に中断する夜間活動の複数の期間を特徴とする重度の夜間睡眠障害に罹患しており、これは低い睡眠効率、不規則な睡眠開始と朝の覚醒、および予測できない睡眠の質をもたらす。
【0021】
攻撃的行動、かんしゃく、多動、注意欠陥を含む、SMSの個人における不適応行動の最強の予測因子であると考えられる睡眠障害は、患者とその家族に対する大きな課題である。その詳細な特徴付けは、強く求められている有効な治療を開発するうえで不可欠である。
【0022】
タシメルテオン
タシメルテオンは、2つの高親和性メラトニン受容体、Mel1a(MT1R)およびMel1b(MT2R)に特異的に結合する概日リズム調節剤である。これらの受容体は、我々の睡眠/覚醒周期を同調化させる役割を担う脳の視交叉上核(SCN)中に高密度で認められる。タシメルテオンは、概日時計の脱同調化をシミュレートした以前の臨床試験で睡眠パラメータを改善することが示されている。タシメルテオンは、これまでのところ数百名の個人において検討されており、良好な耐容性プロフィールを示している。
【0023】
タシメルテオンの化学名は、トランス-N-[[2-(2,3-ジヒドロベンゾフラン-4-イル)シクロプロプ-1イル]メチル]プロパンアミドであり、式Iの構造を有する。
【0024】
【化1】
【0025】
タシメルテオンは、米国特許第5,856,529号および米国特許出願公開第2009/0105333号に開示されており、どちらも、参照により完全に明記されているかのごとくに本明細書に組み込まれる。
【0026】
タシメルテオンは、融点約78℃(DSC)の白色からオフホワイト色の粉末であり、95%エタノール、メタノール、アセトニトリル、エチルアセテート、イソプロパノール、ポリエチレングリコール(PEG-300およびPEG-400)に非常によく溶けるかまたは溶けやすく、水にはわずかしか溶けない。水中のタシメルテオンの飽和溶液の自然pHは8.5であり、その水溶解度はpHによって実質的に影響されない。タシメルテオンは、MT1Rに比べてMT2Rに2~4倍大きい親和性を有する。MT1Rに対するその親和性(K)は0.3から0.4であり、MT2Rに対しては0.1から0.2である。タシメルテオンはメラトニンアゴニストであるので、本発明の実施において有用である。
【0027】
関連態様では、本発明は、メラトニンアゴニストとしてのタシメルテオン代謝産物の使用に関する。タシメルテオン代謝産物には、例えばフェノール-カルボン酸類似体(M9)およびヒドロキシプロピル-フェノール類似体(M11)が含まれる。各々がタシメルテオンの経口投与後にヒトにおいて形成される。
【0028】
具体的には、本発明の態様は、非晶質または結晶形態の、タシメルテオンまたは式IIもしくは式IIIの化合物の塩、溶媒和物および水和物を含む、タシメルテオンまたは式IIもしくは式IIIの化合物の使用を包含する。
【0029】
【化2】
【0030】
【化3】
【0031】
本明細書ではR-トランス型立体配置で表示されているが、本発明は、それにもかかわらず、その立体異性体、すなわちR-シス、S-トランスおよびS-シスの使用を含む。加えて、本発明は、タシメルテオンまたは式IIもしくは式IIIの化合物のプロドラッグの使用を含み、これには、例えばそのような化合物のエステルが含まれる。以下の考察はタシメルテオンに言及するが、式IIおよびIIIの化合物も本発明の態様の実施において有用であることが理解されるべきである。
【0032】
タシメルテオンの代謝産物には、例えば、参照により本明細書に組み込まれる、“Preclinical Pharmacokinetics and Metabolism of BMS-214778,a Novel Melatonin Receptor Agonist”by Vachharajani et al.,J.Pharmaceutical Sci.,92(4):760-772に記載されているものが含まれる。タシメルテオンの活性代謝物も本発明の方法において使用することができ、タシメルテオンまたはその活性代謝物の薬学的に許容される塩も同様に使用できる。例えば、上記の式IIおよびIIIの代謝産物に加えて、タシメルテオンの代謝産物には、モノヒドロキシル化類似体である式IVのM13、式VのM12および式VIのM14が含まれる。
【0033】
【化4】
【0034】
【化5】
【0035】
【化6】
【0036】
タシメルテオンは、当分野で公知の手順によって合成することができる。4-ビニル-2,3-ジヒドロベンゾフランシクロプロピル中間体の調製は、参照により完全に明記されているかのごとくに本明細書に組み込まれる、米国特許第7,754,902号に記載されているように実施することができる。
【0037】
プロドラッグ、例えばエステル、および薬学的に許容される塩は、当分野の通常技術の使用によって調製することができる。
【0038】
SMSに関連する睡眠障害の治療
SMSを有する少なくとも一部の個人において、メラトニン産生は、予想されたのと反対のパターンである、光暴露と共に増大する、光誘発性メラトニン産生である。例えば、図4~6は、試験の1、2および3日目の間のメラトニン分泌(太線)および患者の光暴露(細線)を示す。光暴露とメラトニン産生の間には強い相関が見られる。図1~3は、患者のコルチゾール分泌(太線)についての同様の結果を示す。
【0039】
SMS患者、または光誘発性メラトニン産生を示す他の個人、の睡眠パターンの乱れは、覚醒時間中のメラトニン産生を抑制することによっておよび/または睡眠中のメラトニン産生を増大させることによって治療し得る。例えば、メラトニン産生は、例えば光を遮断するまたは光フィルタとなるアイウエアを使用して個人の眼の光への暴露を低減することによって抑制し得る。当業者に明らかなように、そのようなアイウエアには眼鏡、コンタクトレンズ等が含まれ得る。光フィルタとなるアイウエアは、広帯域の光または、例えばメラトニン産生を刺激すると決定された波長または波長範囲のフィルタとなるように操作可能であり得る。
【0040】
本発明の他の実施形態では、メラトニン産生は、有効量のベータ遮断薬を個人に投与することによって抑制し得る。本発明の一部の実施形態では、そのような投与は、例えば光センサ、光メータまたは機器に接続されたもしくは機器に組み込まれた同様の装置を使用して測定される個人の光への暴露に比例したベータ遮断薬の用量を個人に送達するように操作可能な装置を用いて行い得る。
【0041】
メラトニン産生を増大させることは、メラトニンアゴニストを個人に投与することを含み得る。本発明の一部の実施形態では、メラトニンアゴニストはタシメルテオンであってよく、約5mgから100mg、例えば約20mgから約50mg、例えば約20mgを1日1回睡眠の前に、例えば睡眠の約0.5時間から約1.5時間前に、例えば睡眠の約1時間前に投与し得る。
【0042】
睡眠障害の改善は様々な方法で測定してよく、これには例えば、患者の睡眠間隔の中の覚醒期間の割合の減少を含み得る、夜間睡眠の改善;以下の1つ以上の改善:夜間睡眠の総量;夜間覚醒の数、タイミングおよび長さ;睡眠の開始;覚醒時間;日中の居眠りの数、タイミングおよび長さ、の1つ以上の改善;変化の臨床全般評価尺度(CGI-C)の改善;重症度の臨床全般評価尺度(CGI-S)の改善;ならびに行動の改善が含まれる。
【0043】
タシメルテオン投与での治療の場合、タシメルテオンの継続的な毎日の投与によって治療効果を維持し得る。タシメルテオンの投与は、本発明の一部の実施形態によれば、例えば、患者の眼の光への暴露を低減すること、メラトニン産生を抑制する活性医薬成分を患者に体内投与すること、またはメラトニン活性に拮抗する活性医薬成分を患者に体内投与することの1つ以上による、覚醒時間中の患者におけるメラトニン活性の抑制と組み合わせてもよい。
【0044】
本発明の他の態様および実施形態は、上記の説明および付属の試験の要約から当業者に明らかになり、これらは本発明の範囲内である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2022-03-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スミス‐マゲニス症候群(SMS)を有する患者を治療するための、タシメルテオンを含む医薬組成物であって、
毎日就寝前に体内投与されるための医薬組成物であり、
前記治療は、かんしゃく、多動、注意欠陥、及び睡眠発作からなる群より選択される1又は複数のSMSの症状の減少として現れる、医薬組成物。
【請求項2】
1日1回投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記タシメルテオンの用量が5mg/日から100mg/日の間である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記タシメルテオンの用量が20mg/日である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
就寝の30分前から就寝の2時間前までの間に投与する、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
就寝の30分前から就寝の1時間半前までの間に投与する、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
就寝の1時間前に投与する、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0044
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0044】
本発明の他の態様および実施形態は、上記の説明および付属の試験の要約から当業者に明らかになり、これらは本発明の範囲内である。
(付記)
本開示は、以下の態様を含む。
<1> スミス‐マゲニス症候群(SMS)を有する患者における睡眠障害を治療する方法であって、前記患者に有効量のタシメルテオンを毎日体内投与することを含む方法。
<2> 前記睡眠障害の治療が夜間睡眠の改善として現れる、<1>に記載の方法。
<3> 前記夜間睡眠の改善が、前記患者の睡眠間隔の中の覚醒期間の割合の減少として現れる、<2>に記載の方法。
<4> 前記睡眠障害の治療が、夜間睡眠の総量;夜間覚醒の数、タイミングおよび長さ;睡眠の開始;覚醒時間;日中の居眠りの数、タイミングおよび長さ;変化の臨床全般評価尺度(CGI-C)の改善;重症度の臨床全般評価尺度(CGI-S)の改善;ならびに行動の改善、の1つ以上の改善として現れる、<1>に記載の方法。
<5> 前記タシメルテオンを1日1回投与する、<1>から<4>のいずれか一項に記載の方法。
<6> 前記タシメルテオンの用量が約5mg/日から約100mg/日の間である、<5>に記載の方法。
<7> 前記タシメルテオンの用量が約20mg/日である、<6>に記載の方法。
<8> 前記タシメルテオンを就寝前に投与する、<5>に記載の方法。
<9> 前記タシメルテオンを就寝の30分前から就寝の2時間前までの間に投与する、<8>に記載の方法。
<10> 前記タシメルテオンを就寝の30分前から就寝の1時間半前までの間に投与する、<9>に記載の方法。
<11> 前記タシメルテオンを就寝の1時間前に投与する、<10>に記載の方法。
<12> 前記治療の効果をタシメルテオンの継続的な毎日の投与によって維持する、<5>に記載の方法。
<13> 覚醒時間中、前記患者においてメラトニン活性を抑制することをさらに含む、<1>から<12>のいずれか一項に記載の方法。
<14> メラトニン活性の抑制を、前記患者の眼の光への暴露を低減すること、メラトニン産生を抑制する活性医薬成分を前記患者に体内投与すること、またはメラトニン活性に拮抗する活性医薬成分を前記患者に体内投与することの1つ以上によって生じさせる、<13>に記載の方法。
<15> スミス‐マゲニス症候群(SMS)に罹患している個人において睡眠障害を治療する方法であって、
覚醒時間中、前記個人におけるメラトニン産生を抑制すること、および
睡眠の前に有効量のメラトニンアゴニストを前記個人に投与すること、
を含む方法。
<16> メラトニン産生を抑制することが、前記個人の眼の光への暴露を低減することを含む、<15>に記載の方法。
<17> 前記個人の眼の光への暴露を低減することが、前記個人が光を遮断するアイウエアを装着することを含む、<16>に記載の方法。
<18> 前記個人の眼の光への暴露を低減することが、前記個人が光フィルタとなるアイウエアを装着することを含む、<16>に記載の方法。
<19> メラトニン産生を抑制することが、前記個人に有効量のベータ遮断薬を投与することを含む、<15>に記載の方法。
<20> 前記メラトニンアゴニストがタシメルテオンである、<15>に記載の方法。
<21> 前記タシメルテオンを約5mg/日から約100mg/日の用量で投与する、<20>に記載の方法。
<22> 前記タシメルテオンを約20mg/日から約50mg/日の用量で投与する、<21>に記載の方法。
<23> 前記タシメルテオンを約20mg/日の用量で投与する、<22>に記載の方法。
<24> 前記メラトニンアゴニストを就寝の30分前から就寝の2時間前までの間に投与する、<15>に記載の方法。
<25> 前記メラトニンアゴニストを就寝の30分前から就寝の1時間半前までの間に投与する、<15>に記載の方法。
<26> 前記メラトニンアゴニストを就寝の約1時間前に投与する、<25>に記載の方法。
<27> 光誘発性メラトニン産生を示す個人においてメラトニン産生を調節する方法であって、
覚醒時間中、前記個人におけるメラトニン産生を抑制すること、および
睡眠中、前記個人におけるメラトニン産生を刺激すること、
を含む方法。
<28> 前記個人におけるメラトニン産生を刺激することが、睡眠の前に有効量のメラトニンアゴニストを前記個人に投与することを含む、<27>に記載の方法。
<29> 前記個人におけるメラトニン産生を刺激することが、前記個人の眼を光に暴露することを含む、<27>に記載の方法。
<30> 前記個人の眼を光に暴露することが、前記個人の眼をバースト光(bursts of light)に暴露することを含む、<29>に記載の方法。
<31> スミス‐マゲニス症候群(SMS)に罹患している個人において睡眠障害を治療する方法であって、
覚醒時間中、前記個人におけるメラトニン産生を抑制すること、および
睡眠中、前記個人におけるメラトニン産生を刺激すること、
を含む方法。
<32> 前記個人におけるメラトニン産生を刺激することが、睡眠の前に有効量のメラトニンアゴニストを前記個人に投与することを含む、<31>に記載の方法。
<33> 前記個人におけるメラトニン産生を刺激することが、前記個人の眼を光に暴露することを含む、<31>に記載の方法。
<34> 前記個人の眼を光に暴露することが、前記個人の眼をバースト光に暴露することを含む、<33>に記載の方法。
【外国語明細書】