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特開2022-78356安定発現S2細胞を用いたP450活性の測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022078356
(43)【公開日】2022-05-25
(54)【発明の名称】安定発現S2細胞を用いたP450活性の測定方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20220518BHJP
   A01K 67/033 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
C12Q1/02
A01K67/033 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019001642
(22)【出願日】2019-01-09
(71)【出願人】
【識別番号】303020956
【氏名又は名称】三井化学アグロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】中尾 俊史
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 美由貴
(72)【発明者】
【氏名】番場 伸一
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ44
4B063QR77
4B063QS28
4B063QS39
4B063QX04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】外来のP450遺伝子を安定して発現する昆虫細胞株、および、該昆虫細胞株を用いて、化合物の代謝活性を測定する方法の提供。
【解決手段】動作可能に連結した、外来のプロモーター及びP450遺伝子を含む染色体を有する昆虫細胞株、並びに、該細胞株を検査化合物と接触させる工程を含む、P450の代謝活性を測定する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動作可能に連結した、外来のプロモーター及びP450遺伝子を含む染色体を有する、昆虫細胞株。
【請求項2】
細胞が、ショウジョウバエS2細胞である、請求項1記載の細胞株。
【請求項3】
外来のプロモーターが、ショウジョウバエ由来Actin 5Cプロモーターである、請求項2記載の細胞株。
【請求項4】
P450遺伝子が、昆虫に由来する、請求項3記載の細胞株。
【請求項5】
P450遺伝子が、殺虫剤抵抗性の原因遺伝子である、請求項4記載の細胞株。
【請求項6】
殺虫剤が、ネオニコチノイドである、請求項5記載の細胞株。
【請求項7】
殺虫剤が、イミダクロプリドである、請求項5記載の細胞株。
【請求項8】
P450遺伝子が、タバココナジラミCYP6CM1-B、タバココナジラミCYP6CM1-vB、タバココナジラミCYP6CM1-vQ、又はモモアカアブラムシCYP6CY3である、請求項5記載の細胞株。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の細胞株を検査化合物と接触させる工程を含む、P450の代謝活性を測定する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外来のP450遺伝子を安定して発現する昆虫細胞株を用いて、化合物の代謝活性を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
害虫は農作物の収穫量に対して重大な損失を及ぼす。害虫対策として、殺虫剤が使用されているが、殺虫剤の過度の使用により、害虫は殺虫剤抵抗性を発達させてきた。殺虫剤抵抗性の主要因の一つに代謝酵素の過剰発現による、殺虫剤の代謝が挙げられる。例えば、殺虫剤イミダクロプリドに対してタバココナジラミは代謝酵素CYP6CM1を過剰発現することにより(非特許文献1及び2)、また、モモアカアブラムシは代謝酵素CYP6CY3を過剰発現することにより(非特許文献3)殺虫剤イミダクロプリドに対して抵抗性を発達させた。
【0003】
代謝酵素による殺虫剤の抵抗性機序を解明するためには、代謝酵素を同定し、組み換え代謝酵素を強制発現させ、代謝試験を行うことが望ましい。
【0004】
組み換え代謝酵素を強制発現させ、代謝試験を行う試験方法としては、代謝酵素を昆虫細胞Sf9細胞にバキュロウイルスを用いて発現させる方法、大腸菌で発現させる方法、動物細胞で一時的に発現させる方法、昆虫細胞に一時的に発現させる方法、動物細胞で安定的に発現させる方法等が検討されてきた。中でも昆虫細胞Sf9細胞にバキュロウイルスを用いて発現させる方法は代謝酵素が高発現する方法であり、一般的に利用されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Insect Biochem. Mol. Biol., vol. 38, pp. 634-644, 2008
【非特許文献2】Insect Biochem. Mol. Biol., vol. 39, pp. 697-706, 2009
【非特許文献3】Proc. Natl. Acad. Sci., vol. 110, pp. 19460-19465, 2013
【非特許文献4】J Pestic, Sci ,vol. 42, pp. 97-104, 2017
【非特許文献5】Pestic. Biochem. Physiol., vol. 103 pp. 159-165, 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、Sf9細胞にバキュロウイルスを用いて発現させる方法は時間を要し、P450分子種により、その発現能力が大きく異なる。また、チトクロームP450還元酵素(CPR)を共発現させる必要があった。代謝酵素とCPRを一時的にショウジョウバエS2細胞で共発現させる方法も報告されている(非特許文献4)。また、代謝酵素を単独で一時的にショウジョウバエS2細胞で共発現させる方法も報告されている(非特許文献5)が、代謝酵素を単独で一過性発現させた場合とCPRと共発現させた場合に代謝活性を測定する細胞としてどちらが優れているかの記述は無い。一過性発現の場合は、代謝実験の度に遺伝子を導入する必要があり、細胞の状態によりその導入効率が変動するなど、再現性を取るのが難しい等の問題が挙げられる。また一過性発現の場合多くの労力を要するため、数多くの殺虫剤化合物の代謝を評価するには適していない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らは、上記の状況を鑑み、安定的に再現性の高い測定方法を見出すべく鋭意検討を重ねた。
【0008】
安定的に再現性の高い測定方法を可能にするためには、代謝酵素の安定発現細胞が望ましいが、現在報告されている動物細胞の安定発現細胞で発現が不安定であったりして、特別な工夫はなされていない。
【0009】
本発明者らは、昆虫細胞のショウジョウバエS2細胞を宿主として用いることによって期待を遥かに上回る安定発現株を取得できることを見出した。また、Sf9細胞にバキュロウイルスを用いた代謝酵素の発現では、CPRと代謝酵素の最適比を見出し、共発現することが必要であったが、ショウジョウバエS2細胞ではCPRを共発現させないで高い代謝活性を発現できることを見出し、発明を完成させた。即ち、本発明は以下のとおりである。
(1)動作可能に連結した、外来のプロモーター及びP450遺伝子を含む染色体を有する、昆虫細胞株。
(2)細胞が、ショウジョウバエS2細胞である、(1)記載の細胞株。
(3)外来のプロモーターが、ショウジョウバエ由来Actin 5Cプロモーターである、(2)記載の細胞株。
(4)P450遺伝子が、昆虫に由来する、(3)記載の細胞株。
(5)P450遺伝子が、殺虫剤抵抗性の原因遺伝子である、(4)記載の細胞株。
(6)殺虫剤が、ネオニコチノイドである(5)記載の細胞株。
(7)殺虫剤が、イミダクロプリドである、(5)記載の細胞株。
(8)P450遺伝子が、タバココナジラミCYP6CM1-B、タバココナジラミCYP6CM1-vB、タバココナジラミCYP6CM1-vQ、又はモモアカアブラムシCYP6CY3である、(5)記載の細胞株。
(9)請求項1から8のいずれかに記載の細胞株を検査化合物と接触させる工程を含む、P450の代謝活性を測定する方法。
【0010】
本発明において、昆虫に由来する任意の細胞を用いることができるが、好ましくは、ショウジョウバエS2細胞である。
【0011】
P450遺伝子とは、シトクロムP450(P450又はCYPとも呼ばれる。)をコードする遺伝子である。シトクロムP450は、肝臓において解毒を行う酵素であり、微生物から植物、動物まで生物界に広く分布している。P450遺伝子は、好ましくは、昆虫に由来し、より好ましくは、殺虫剤抵抗性の原因遺伝子であり、さらに好ましくは、ネオニコチノイド又はイミダクロプリド抵抗性の原因遺伝子であり、さらに好ましくは、タバココナジラミCYP6CM1-B、タバココナジラミCYP6CM1-vB、タバココナジラミCYP6CM1-vQ、又はモモアカアブラムシCYP6CY3である。
【0012】
本発明において「動作可能に連結した」とは、P450遺伝子が、プロモーターと連結され、発現可能な状態にあることをいう。プロモーターは、昆虫細胞株にとって外来のものであれば、任意のプロモーターを用いることができる。外来のプロモーターは、好ましくは、ショウジョウバエ由来Actin 5Cプロモーターである。
【0013】
本発明は、プロモーターとP450遺伝子DNAを染色体上に保有する安定発現昆虫細胞株を用いて、化合物の代謝活性を測定することを特徴とする方法であって、再現性のある活性を容易に測定するのに有用である。
【0014】
本発明でP450遺伝子を安定発現させる方法としては、P450遺伝子を昆虫ショウジョウバエS2細胞で発現可能なベクター(pMT、pAC5.1、いずれもInvitrogen社)あるいはバキュロウイルス(Invitrogen社)に組み込み、同細胞を培養し、その培養細胞を確立することで可能である。本発明のベクターは、P450遺伝子をS2細胞で発現可能なベクターあるいはバキュロウイルスであればいずれのものでもよい。これらのベクターは、市販されているものを適宜選択して使用することができる。
【0015】
必要ならば、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシンB耐性遺伝子,ピューロマイシン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子をP450遺伝子発現ベクターに含有することができる。あるいは昆虫ショウジョウバエS2細胞で発現可能なベクターにネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシンB耐性遺伝子,ピューロマイシン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子含有したプラスミドをP450遺伝子発現ベクターと共にS2細胞に共導入して適宜選択して使用することができる。
【0016】
ショウジョウバエS2細胞へのP450発現用ベクターの導入方法としては、リン酸カルシウム法、DEAE-デキストラン法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法等が挙げられるが、再現性、細胞へのダメージの少なさから、リポフェクション法が好ましい。 P450発現用DNAが導入された細胞は薬剤耐性株として選択することで、P450発現用DNAが安定的にゲノムに組み込まれた細胞株を取得することができる。
【0017】
本発明の代謝酵素活性測定方法は、本発明により取得した安定発現株を培養し、化合物と接触させ、化合物の残存量をLC-MS/MSを用いて測定することにより行うことができる。具体的には、Express Five培地(Invitrogen)等の適当な培地で安定発現株を培養し、適当な濃度のサンプル化合物を含有するHemin入りのExpress Five培地等の適当な培地に置換し、1~96時間、好ましくは、48~96時間程度培養後、培養液を等量のアセトニトリルと混合後、液体クロマトグラフィータンデム質量分析計 (LC-MS/MS) 分析を用いて化合物量を測定する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1はイミダクロプリドの代謝(A, D)とヒドロキシイミダクロプリドの生成(B, E)、ジノテフランの代謝(C, F)を示す。モモアカアブラムシCYP6CY3 をショウジョウバエCPRと共発現したS2細胞(A, B, C )または、CYP6CY3のみを発現したS2細胞(D, E, F)を1μMの化合物と96時間培養後に代謝を調べた。実験は2連で3回行った。データは平均±標準偏差で示した。*(p<0.05) and **(p<0.01)は t-test用いて コントロール(EGFPの安定発現株)との有意差を示している。CPR+CYP6CY3に比べCYP6CY3単独で、明らかにイミダクロプリドの減少、代謝体の生成が大きかった。この結果は、イミダクロプリドを代謝することにより、イミダクロプリド抵抗性を付与しているCYP6CY3の代謝活性を評価するのに、CYP6CY3を単独で安定発現したS2細胞を用いた評価系が適していることを表している。
図2図2はネオニコチノイドの代謝を示す。モモアカアブラムシCYP6CY3のみを発現したS2細胞を1μMの化合物と96時間培養後に代謝を調べた。実験は2連で3回行った。データは平均±標準偏差で示した。*(p<0.05) and **(p<0.01)は t-test用いて コントロール(EGFPの安定発現株)との有意差を示している。イミダクロプリド(IMI)、クロチアニジン(CLO)、チアクロプリド(THI)は代謝されたがたが、ジノテフラン(DTF)の代謝は認められなかった。本発明によって取得したCYP6CY3発現を用いた殺虫剤の代謝活性評価は、イミダクロプリド抵抗性害虫の交差抵抗性を予測するのに適していることが明らかとなった。
図3図3はバキュロウイルス感染によるタンパク質の発現をSodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel electrophoresis (SDS-PAGE)により分析した結果を示す。レーン2は、挿入無しのバキュロウイルスを感染したSf9細胞から調整したミクロゾーム、レーン3はCPRを発現しているミクロゾーム、レーン4はCPR とCYP6CM1-Bを発現しているミクロゾーム、レーン5はCPR とCYP6CM1-vBを発現しているミクロゾーム、レーン6はCPR とCYP6CM1-vQを発現しているミクロゾームのタンパク質を4-12%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動した。タンパクは SimplyBlue SafeStain (Invitrogen)を用いて染色した。レーン1 と7は分子量マーカを泳動した。
図4図4はCO差分スペクトラムの結果を示す。(A)はCPR、(B)はCPR とCYP6CM1-B、(C)はCPR とCYP6CM1-vB、(D)はCPR とCYP6CM1-vQを発現したミクロゾームを用いてCO差分スペクトラムを測定した。CO添加直後と10 分後の測定結果を示した。(C)と(D)では450 nmにピークが観察されたが、(B)では、観察されなかった。このことは、CYP6CM1-vBとCYP6CM1-vQは機能的な発現が期待できるが、CYP6CM1-Bは機能的な発現が期待できないことを示唆している。
図5図5はCPR、CPR+CYP6CM1-B、CPR+CYP6CM1-vB、 CPR+CYP6CM1-vQを発現したミクロゾームによるネオニコチノイドの代謝(A)とイミダクロプリドの代謝体の生成(B)を示す。イミダクロプリドを除いて他のネオニコチノイドは3連で行った。イミダクロプリドは3回の独立した実験を行った。データは平均±標準偏差で表した。CPR+CYP6CM1-vB、CPR+CYP6CM1-vQはイミダクロプリド(IMI)を代謝し、イミダクロプリドの代謝体を生成したが、CPR+CYP6CM1-Bはイミダクロプリドを代謝しなかった。CPR+CYP6CM1-vB、CPR+CYP6CM1-vQはイミダクロプリド(IMI)、クロチアニジン(CLO)を代謝したが、ジノテフラン(DTF)、チアメトキサム(TMX)は代謝しなかった。
図6図6はEGFP、CYP6CM1-B、CYP6CM1-vB、CYP6CM1-vQを安定発現したS2細胞によるネオニコチノイドの代謝(A)とイミダクロプリドの代謝体の生成(B)を示す。実験は2連で3回行った。データは平均±標準偏差で表した。Sf9からミクロゾームを調製した場合、CYP6CM1-Bで代謝活性が認められなかったが、S2安定発現細胞の場合、 CYP6CM1-B はCYP6CM1-vBと同様の阻害活性を示した。CYP6CM1-B、 CYP6CM1-vB、CYP6CM1-vQはイミダクロプリド(IMI)、クロチアニジン(CLO)を代謝したが、ジノテフラン(DTF)、チアメトキサム(TMX)は代謝しなかった。CYP6CM1-vB、CYP6CM1-vQの結果は、Sf9からミクロゾームを調製した場合と同様の結果であり、さらに、Sf9からミクロゾームを調製した場合に活性が認められなかったCYP6CM1-Bの活性もS2安定発現細胞では認められるようになったことを示す。本発明によって取得したCYP6CM1-B、 CYP6CM1-vB、CYP6CM1-vQ発現を用いた殺虫剤の代謝活性評価は、イミダクロプリド抵抗性害虫の交差抵抗性を予測するのに適していることが明らかとなった。
【実施例0019】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明を制限するものではない。
【0020】
実施例1.モモアカアブラムシCYP6CY3を恒常発現するショウジョウバエS2細胞由来安定発現株の確立と代謝実験
(1)P450 遺伝子(CYP6CY3)、CPR、EGFP遺伝子の取得
モモアカアブラムシCYP6CY3 (GenBank accession number HM009309)、ショウジョウバエNADPH cytochrome P450 reductase (CPR) (GenBank accession number X93090)、EGFP (GenBank accession number U55762)は合成した。
【0021】
(2)モモアカアブラムシCYP6CY3を恒常発現するショウジョウバエS2細胞由来安定発現株の確立
CYP6CY3遺伝子、CPR遺伝子、EGFP遺伝子の昆虫細胞での発現を目的とした発現プラスミドを構築するために、それぞれの遺伝子をGateway pENTR1A vector(Invitrogen社)に組み込んだ (Entry Clone)。
【0022】
Destination vector、pAC-lac-Hygroの作製は以下に示す。pAC5.1/V5-HisA(Invitrogen社)のSalI部位にpCoHygro(Invitrogen社)のハイグロマイシン耐性遺伝子を挿入しpAC5.1-Hygroを作製した。次に、attR1-Lacプロモーター-LacZα-attR2をコードするXbaI-MluI断片をpAC5.1-HygroのXbaI-MluI部位に挿入して、Destination vector、pAC-lac-Hygroを得た。
【0023】
LR recombinaseを用いてEntry cloneとDestination vector、pAC-lac-Hygro間で部位特異的組換えを行い、大腸菌DH5αを形質転換し、アンピシリン及びX-Galを含むLBプレート上で37℃、16時間培養後、白いコロニーを選択して、pAC-lac-HygroのLacZα遺伝子がCYP6CY3遺伝子、CPR遺伝子、EGFP遺伝子と入れ替わったプラスミド、pAC-Hygro-CYP6CY3、-CPR、-EGFPを取得した。
【0024】
pAC-Hygro-CYP6CY3、-CPR、-EGFPを単独、またはpAC-Hygro-CPRとpAC-Hygro-CYP6CY3を同時にショウジョウバエS2細胞(Invitrogen)にセルフェクチン(Invitrogen)を用いてトランスフェクションし、ハイグロマイシン耐性株を選択し、安定発現細胞を確立した。
【0025】
(3)モモアカアブラムシCYP6CY3を恒常発現するショウジョウバエ S2細胞由来安定発現株を用いた代謝実験
安定発現S2細胞を24 well plateに4 x 106 cells/wellの密度で播種し、1% FBS, 200 μg/ml hygromycin B, 2.5 μg/ml Hemin、1 μMネオニコチノイドを含有する500 μl Express Five培地で28℃で96時間培養した。播種後、0時間、96時間後に上清をサンプリングし、等量のアセトニトリルを添加した。10s攪拌し、室温で14,000 x g、5分遠心後、上清を液体クロマトグラフィータンデム質量分析計(LC-MS/MS)で分析した。
【0026】
図1には、CYP6CY3、EGFP発現細胞、CYP6CY3とCPR共発現細胞による96時間培養後のイミダクロプリドとジノテフランの代謝を示した。
96時間培養後のイミダクロプリドの減少と代謝体の生成を比べると、CPR+CYP6CY3に比べCYP6CY3単独で、明らかにイミダクロプリドの減少、代謝体の生成が大きかった。
この結果は、イミダクロプリドを代謝することにより、イミダクロプリド抵抗性を付与しているCYP6CY3の代謝活性を評価するのに、CYP6CY3を単独で安定発現したS2細胞を用いた評価系が適していることを表している。
【0027】
図2には、EGFP発現細胞、CYP6CY3発現細胞を用いて96時間培養後のイミダクロプリド、ジノテフラン、クロチアニジン、チアクロプリドの代謝を測定した結果を示した。イミダクロプリド、クロチアニジン、チアクロプリドは代謝されたが、ジノテフランの代謝は認められなかった。モモアカアブラムシのイミダクロプリド抵抗性FRC株は、イミダクロプリド、クロチアニジン、チアクロプリドに対して2500倍以上の抵抗性比を示しているが、ジノテフランの抵抗性比は54と小さい(Pest Manag. Sci., vol. 69, pp. 607-619, 2013)。
【0028】
本発明によって取得したCYP6CY3発現を用いた殺虫剤の代謝活性評価は、イミダクロプリド抵抗性害虫の交差抵抗性を予測するのに適していることが明らかとなった。
【実施例0029】
実施例2. Spodoptera Frugipedra (Sf9)細胞・バキュロウイルス発現系で調製したB-タイプタバココナジラミ CYP6CM1-B, CYP6CM1-vB, Q-タイプタバココナジラミCYP6CM1-vQ発現ミクロゾームによる代謝実験
【0030】
(1)P450 遺伝子(CYP6CM1-B、CYP6CM1-vB、CYP6CM1-vQ)とCPRの取得
B-タイプタバココナジラミ CYP6CM1-B (GenBank accession number GQ214539), CYP6CM1-vB (GenBank accession number EU642555), Q-タイプタバココナジラミCYP6CM1-vQ (GenBank accession number EU344879)、CPRは合成した。
【0031】
(2)P450 遺伝子(CYP6CM1-B、CYP6CM1-vB、CYP6CM1-vQ)のSf9細胞での発現
CYP6CM1-B遺伝子、CPR遺伝子は、それぞれの遺伝子をGateway pENTR1A(Invitrogen社)に組み込んだ (Entry Clone)。LR recombinase(Invitrogen社)を用いてEntry CloneとDestination vector、pDEST8(Invitrogen社)間で部位特異的組換えを行い、pDEST8にCYP6CM1-B遺伝子、CPR遺伝子組み込んだプラスミド(pDEST8-CYP6CM1-B、pDEST8-CPR)を作製したCYP6CM1-vB遺伝子、CYP6CM1-vQ遺伝子に関しては、pFastBac1 Vector (Invitrogen社)に挿入した。次に、Invitrogen社のBac to Bac Baculovirus Expression Systemを用いて、CYP6CM1-B、CYP6CM1-vB、CYP6CM1-vQ, CPRをウイルスDNAに組み込んだバキュロウイルスを作製した。CPR発現ウイルスを単独または、CYP6CM1-B、CYP6CM1-vB、CYP6CM1-vQ発現ウイルスと一緒にSf9細胞に発現が最適になるようなmultiplicity of infection (moi)で感染させた。γ-アミノレブリン酸とクエン酸第二鉄を感染直後と24時間後に100 μMとなるように添加し、72時間後に細胞を回収し、マイクロゾームを調製、-80°C で保存した。タンパク量は protein assay kit (Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA, USA)を用いて決定した。発現はSDS-PAGE、COスペクトラムを用いて確認した。
【0032】
図3にSDS-PAGEを行った結果を示した。予想される分子量の位置にバンドが見られた。
図4には、CO添加後0分と10分後のCOスペクトラムの結果を示した。CYP6CM1-Bは450 nmにピークが見られなかったが、CYP6CM1-vB、CYP6CM1-vQは450 nmにピークが観察された。このことは、CYP6CM1-vBとCYP6CM1-vQは機能的な発現が期待できるが、CYP6CM1-Bは機能的な発現が期待できないことを示唆している。
【0033】
(3)Sf9細胞で発現したP450 遺伝子(CYP6CM1-B、CYP6CM1-vB、CYP6CM1-vQ)による代謝実験
NADPH-regeneration system(Promega, Madison, WI; 1.3 mM NADP+, 3.3 mM of glucose-6-phosphate, 3.3 mM of MgCl2, 0.4 U/ml of glucose-6-phosphate dehydrogenase)と1 μM ネオニコチノイドを含有する200 μl Tris-HCl bufferに500 μg ミクロゾームを添加し、500 rpm、30℃で2時間攪した。アセトニトリルを等量添加して、30 s攪拌後、4 ℃ で14,000 x g、20 分遠心後、上清をLC-MS/MSで分析した。
【0034】
図5には、CPR単独、または、CYP6CM1-B、CYP6CM1-vB、CYP6CM1-vQと共発現によるイミダクロプリド、ジノテフラン、チアメトキサム、クロチアニジンの代謝を示した。
CPR単独、CPR+CYP6CM1-Bではいずれのネオニコチノイドでも減少は見られなかった。一方、CPR+CYP6CM1-vB、CPR+CYP6CM1-vQではイミダクロプリドの減少と代謝体の生成が認められた。また、CPR+CYP6CM1-vB、CPR+CYP6CM1-vQによるクロチアニジンの減少が見られた。
【0035】
実施例3. B-タイプタバココナジラミ CYP6CM1-B, CYP6CM1-vB、Q-タイプタバココナジラミCYP6CM1-vQを恒常発現するショウジョウバエ S2細胞由来安定発現株の確立と代謝実験
(1)B-タイプタバココナジラミ CYP6CM1-B, CYP6CM1-vB、Q-タイプタバココナジラミCYP6CM1-vQを恒常発現するショウジョウバエ S2細胞由来安定発現株の確立
【0036】
CYP6CM1-B遺伝子、CYP6CM1-vB遺伝子、CYP6CM1-vQ遺伝子のショウジョウバエS2細胞での発現を目的とした発現プラスミドを構築するために、それぞれの遺伝子をGateway pENTR1A vectorに組み込んだ (Entry Clone)。
【0037】
LR recombinaseを用いてEntry cloneとDestination vector、pAC-lac-Hygro間で部位特異的組換えを行い、大腸菌DH5αを形質転換し、アンピシリン及びX-Galを含むLBプレート上で37℃、16時間培養後、白いコロニーを選択して、pAC-lac-HygroのLacZα遺伝子がCYP6CM1-B遺伝子、CYP6CM1-vB遺伝子、CYP6CM1-vQ遺伝子と入れ替わったプラスミド、pAc-hygro-CYP6CM1-B、-CYP6CM1-vB、-CYP6CM1-vQを取得した。
pAC-Hygro-CYP6CM1-B、CYP6CM1-vB、CYP6CM1-vQをショウジョウバエS2細胞にセルフェクチンを用いてトランスフェクションし、ハイグロマイシン耐性株を選択し、CYP6CM1-B、CYP6CM1-vB、CYP6CM1-vQ遺伝子を発現している細胞を確立した。
【0038】
(3)B-タイプタバココナジラミ CYP6CM1-B, CYP6CM1-vB、Q-タイプタバココナジラミCYP6CM1-vQを恒常発現するショウジョウバエ S2細胞由来安定発現株を用いた代謝実験
安定発現S2細胞を24 well plateに4 x 106 cells/wellの密度で播種し、1% FBS, 200 μg/ml hygromycin B, 2.5 μg/ml Hemin、1 μMネオニコチノイドを含有する500 μl Express Five培地で28 ℃で48時間培養した。播種後、0時間、48時間後にサンプリングし、等量のアセトニトリルを添加した。10s攪拌し、室温で14,000 x g、5分遠心後、上清を液体クロマトグラフィータンデム質量分析計(LC-MS/MS)で分析した。
【0039】
図6には、EGFP、CYP6CM1-B、CYP6CM1-vB、CYP6CM1-vQ発現細胞によるイミダクロプリド、ジノテフラン、チアメトキサム、クロチアニジンの代謝を示した。Sf9細胞からミクロゾームを調製した場合、CYP6CM1-Bでいずれの化合物の代謝が認められなかったが、S2細胞で発現した場合、CYP6CM1-vBと同様の代謝が認められた。
【0040】
これは、Sf9細胞で発現が難しいP450の発現も、S2細胞安定発現系で可能であることを示している。基本的に他は、S2細胞でもSf9細胞からミクロゾームを調製した場合でも同様の代謝が認められた。
【0041】
本発明によって取得したCYP6CM1-B、CYP6CM1-vB、CYP6CM1-vQ発現を用いた殺虫剤の代謝活性評価は、イミダクロプリド抵抗性害虫の交差抵抗性を予測するのに適していることが明らかとなった。
【0042】
昆虫P450遺伝子を昆虫由来ショウジョウバエ S2細胞に安定発現させた組換え細胞は、チトクロームP450還元酵素(CPR)の共発現を必要とせず、代謝活性を示した。この細胞は、害虫に殺虫剤抵抗性を付与する代謝酵素の活性測定に有用であり、殺虫剤抵抗性害虫にも有効な殺虫剤のスクリーニングに有用であり、殺虫剤の開発に役立つ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6