(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022078368
(43)【公開日】2022-05-25
(54)【発明の名称】鏡、及び鏡の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 17/40 20060101AFI20220518BHJP
【FI】
C03C17/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019057240
(22)【出願日】2019-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】391020355
【氏名又は名称】大東プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】吉田 隆司
【テーマコード(参考)】
4G059
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AB11
4G059AB19
4G059AC18
4G059DA01
4G059DA02
4G059DA03
4G059DA04
4G059DA05
4G059DA06
4G059DA07
4G059DA08
4G059DB02
4G059GA01
4G059GA04
4G059GA13
(57)【要約】
【課題】例えば、トラックや建設機械等での使用に適した高い反射率を達成することができるとともに、鏡としての機能を長期に亘って保つことができる鏡を提供する。
【解決手段】ガラス基板10と、ガラス基板10の表面上に真空蒸着により形成されるアルミニウムを含む反射層20と、反射層20の表面上に真空蒸着により形成される遷移金属を含む保護層30とを備え、遷移金属が、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、チタン、モリブデン、タンタル、銅、銀、金、及び白金からなる群から選択される少なくとも一種の金属である鏡1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板と、
前記ガラス基板の表面上に形成されるアルミニウムを含む反射層と、
前記反射層の表面上に形成される遷移金属を含む保護層と、
を備える鏡。
【請求項2】
前記遷移金属は、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、チタン、モリブデン、タンタル、銅、銀、金、及び白金からなる群から選択される少なくとも一種の金属である請求項1に記載の鏡。
【請求項3】
前記反射層及び前記保護層は、nmオーダー乃至サブμmオーダーで相互に侵入する接合界面により接合されている請求項1又は2に記載の鏡。
【請求項4】
ガラス基板の表面上にアルミニウムを含む反射層を形成する反射層形成工程と、
前記反射層の表面上に遷移金属を含む保護層を形成する保護層形成工程と、
を包含する鏡の製造方法。
【請求項5】
前記反射層形成工程及び前記保護層形成工程は、真空蒸着、又はスパッタリングにより実行される請求項4に記載の鏡の製造方法。
【請求項6】
前記反射層形成工程及び前記保護層形成工程は、共通の真空チャンバを用いて実行される請求項5に記載の鏡の製造方法。
【請求項7】
前記遷移金属は、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、チタン、モリブデン、タンタル、銅、銀、金、及び白金からなる群から選択される少なくとも一種の金属である請求項4~6の何れか一項に記載の鏡の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、トラックや建設機械等において、後方を視認するための後視鏡として用いられて好適な鏡、及び鏡の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車で使用される後視鏡としては、例えば、ガラス基板上、又は樹脂板上にクロムから形成される反射層を備えたものが主流である(例えば、特許文献1,2を参照)。一方、例えば、トラックや建設機械等で使用される後視鏡としては、気温変化等の影響による歪が少なく、且つ、後方の様子が明るくはっきりと映る反射率の高いものが望まれており、平均反射率が40~50%程度のクロムよりも格段に高い平均反射率のアルミニウム(平均反射率:80~90%程度)により形成される反射層をガラス基板上に備えたものが使用されることが多い。
【0003】
ガラス基板上にアルミニウムの反射層を備えた後視鏡では、アルミニウムの酸化を防止するために、アルミニウムの反射層上に塗料を塗布して保護層を形成しているものがある(例えば、特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-261378号公報
【特許文献2】特開2002-120648号公報
【特許文献3】特開平6-284948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
保護層の形成に使用される塗料は、有機物であり、しかも近時は鉛フリーのため、塩害等による腐食や、付着力そのものの低下に起因して、反射層から剥がれ落ち、使用が進むにしたがって、保護層が無くなってしまう。
【0006】
保護層が無くなると、反射層を形成するアルミニウムが空気に触れて酸化するため、ガラス基板から反射層が剥がれ落ち、鏡としての機能が無くなってしまう。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、例えば、トラックや建設機械等での使用に適した高い反射率を達成することができるとともに、鏡としての機能を長期に亘って安定的に保つことができる鏡、及び鏡の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明に係る鏡の特徴構成は、
ガラス基板と、
前記ガラス基板の表面上に形成されるアルミニウムを含む反射層と、
前記反射層の表面上に形成される遷移金属を含む保護層と、
を備えることにある。
【0009】
本構成の鏡によれば、ガラス基板の表面上にアルミニウムを含む反射層が形成され、この反射層の表面上に遷移金属を含む保護層が形成されるので、平均反射率が40~50%程度のクロムよりも格段に高い反射率のアルミニウム(平均反射率:80~90%程度)を含む反射層によって、例えば、トラックや建設機械等での使用に適した高い反射率を達成することができるとともに、反射層を構成するアルミニウムが空気中の酸素と触れないように保護層によって保護されることでアルミニウムの酸化が防止されることから、鏡としての機能を長期に亘って安定的に保つことができる。
【0010】
本発明に係る鏡において、
前記遷移金属は、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、チタン、モリブデン、タンタル、銅、銀、金、及び白金からなる群から選択される少なくとも一種の金属であることが好ましい。
【0011】
本構成の鏡によれば、保護層に含まれる遷移金属が、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、チタン、モリブデン、タンタル、銅、銀、金、及び白金からなる群から選択される少なくとも一種の金属であり、該遷移金属を含む保護層によって反射層が保護される。ここで、クロム、マンガン、コバルト、チタン、及びタンタルは、本来、空気中で酸化されやすいが、腐食作用に抵抗する酸化物の膜である不動態被膜が金属表面に形成され、それ以上酸化が進まず、結果的に不動態被膜が酸素を通さない層となる。従って、クロム、マンガン、コバルト、チタン、タンタルを含む保護層、又はこれらを主として含有する合金から構成される保護層により、反射層を空気中の酸素と触れないように確実に保護することができる。また、鉄、クロム、ニッケルを含む合金であるステンレスは、上述したクロム等と同様に、表面に不動態被膜が形成される。従って、ステンレスから構成される保護層、又はステンレス成分を主として含有する合金から構成される保護層により、反射層を空気中の酸素と触れないように確実に保護することができる。なお、モリブデンは、クロムによるバリア機能をより高める作用があり、耐食性をより高めることができるので、鉄、クロム、ニッケルに加え、モリブデンを添加したステンレスを用いるのがより好ましい。また、銅は、空気中の酸素と化合した酸化第一銅や、空気中の水分と二酸化炭素等が反応して生じる緑青、空気中で強く熱して酸化させた酸化第二銅が金属表面を膜のように覆い、当該膜が酸素を通さない層となる。従って、銅から構成される保護層、又は銅を主として含有する合金から構成される保護層により、反射層を空気中の酸素と触れないように確実に保護することができる。また、銀、金、及び白金のような貴金属は、標準還元電位が高く、元々空気中で酸化されにくい金属である。従って、銀、金、及び白金のような貴金属から構成される保護層、又はこれらの貴金属を主として含有する合金から構成される保護層により、反射層を空気中の酸素と触れないように確実に保護することができる。
【0012】
本発明に係る鏡において、
前記反射層及び前記保護層は、nmオーダー乃至サブμmオーダーで相互に侵入する接合界面により接合されていることが好ましい。
【0013】
本構成の鏡によれば、反射層及び保護層が、nmオーダー乃至サブμmオーダーで相互に侵入する接合界面により接合されているので、反射層に対する保護層の付着状態をより強固、且つ安定的に保つことができる。
【0014】
次に、上記課題を解決するための本発明に係る鏡の製造方法の特徴構成は、
ガラス基板の表面上にアルミニウムを含む反射層を形成する反射層形成工程と、
前記反射層の表面上に遷移金属を含む保護層を形成する保護層形成工程と、
を包含することにある。
【0015】
本構成の鏡の製造方法によれば、ガラス基板の表面上にアルミニウムを含む反射層を形成する反射層形成工程と、反射層の表面上に遷移金属を含む保護層を形成する保護層形成工程とが包含されるので、ガラス基板の表面上にアルミニウムを含む反射層が形成され、この反射層の表面上に遷移金属を含む保護層が形成されることになり、例えば、トラックや建設機械等での使用に適した高い反射率を達成することができるとともに、鏡としての機能を長期に亘って安定的に保つことができる鏡を得ることができる。
【0016】
本発明に係る鏡の製造方法において、
前記反射層形成工程及び前記保護層形成工程は、真空蒸着、又はスパッタリングにより実行されることが好ましい。
【0017】
本構成の鏡の製造方法によれば、反射層形成工程及び保護層形成工程が、真空蒸着、又はスパッタリングにより実行されるので、全体に亘って均一な厚みの反射層、及び保護層を形成することができる。
【0018】
本発明に係る鏡の製造方法において、
前記反射層形成工程及び前記保護層形成工程は、共通の真空チャンバを用いて実行されることが好ましい。
【0019】
本構成の鏡の製造方法によれば、反射層形成工程及び保護層形成工程が、共通の真空チャンバを用いて実行されるので、反射層形成工程を実行するための真空チャンバと、保護層形成工程を実行するための真空チャンバとを個別に設ける必要がなく、設備の簡素化、及び生産効率の向上を図ることができる。
【0020】
本発明に係る鏡の製造方法において、
前記遷移金属は、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、チタン、モリブデン、タンタル、銅、銀、金、及び白金からなる群から選択される少なくとも一種の金属であることが好ましい。
【0021】
本構成の鏡の製造方法によれば、保護層に含まれる遷移金属が、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、チタン、モリブデン、タンタル、銅、銀、金、及び白金からなる群から選択される少なくとも一種の金属であり、該遷移金属を含む保護層によって反射層が保護される。ここで、クロム、マンガン、コバルト、チタン、及びタンタルは、本来、空気中で酸化されやすいが、腐食作用に抵抗する酸化物の膜である不動態被膜が金属表面に形成され、それ以上酸化が進まず、結果的に不動態被膜が酸素を通さない層となる。従って、クロム、マンガン、コバルト、チタン、タンタルを含む保護層、又はこれらを主として含有する合金から構成される保護層により、反射層を空気中の酸素と触れないように確実に保護することができる。また、鉄、クロム、ニッケルを含む合金であるステンレスは、上述したクロム等と同様に、表面に不動態被膜が形成される。従って、ステンレスから構成される保護層、又はステンレス成分を主として含有する合金から構成される保護層により、反射層を空気中の酸素と触れないように確実に保護することができる。なお、モリブデンは、クロムによるバリア機能をより高める作用があり、耐食性をより高めることができるので、鉄、クロム、ニッケルに加え、モリブデンを添加したステンレスを用いるのがより好ましい。また、銅は、空気中の酸素と化合した酸化第一銅や、空気中の水分と二酸化炭素等が反応して生じる緑青、空気中で強く熱して酸化させた酸化第二銅が金属表面を膜のように覆い、当該膜が酸素を通さない層となる。従って、銅から構成される保護層、又は銅を主として含有する合金から構成される保護層により、反射層を空気中の酸素と触れないように確実に保護することができる。また、銀、金、及び白金のような貴金属は、標準還元電位が高く、元々空気中で酸化されにくい金属である。従って、銀、金、及び白金のような貴金属から構成される保護層、又はこれらの貴金属を主として含有する合金から構成される保護層により、反射層を空気中の酸素と触れないように確実に保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の第一実施形態に係る鏡の積層構造を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の第一実施形態に係る鏡の製造方法の説明図で、(a)は初期セット状態図、(b)は反射層形成状態図、(c)は保護層形成状態図である。
【
図4】
図4は、本発明の第二実施形態に係る鏡の製造方法の説明図で、(a)は初期セット状態図、(b)は反射層形成状態図、(c)は保護層形成状態図である。
【
図5】
図5は、本発明の第三実施形態に係る鏡の製造方法の説明図で、(a)は初期セット状態図、(b)は反射層形成状態図、(c)は保護層形成状態図である。
【
図6】
図6は、本発明の第四実施形態に係る鏡の製造方法の説明図で、(a)は初期セット状態図、(b)は反射層形成状態図、(c)は保護層形成状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について、
図1~
図6を参照しながら説明する。なお、各図において、鏡の積層構造における各層の厚み関係や、接合界面の凹凸形状のサイズの関係は、実際の鏡における構造物間のサイズ関係を厳密に再現したものではなく、説明容易化のため適宜誇張してある。以下の実施形態では、例えば、トラックや建設機械等において、後方を視認するための後視鏡として用いられて好適な鏡を例に挙げて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることは意図しない。
【0024】
〔第一実施形態〕
図1には、本発明の第一実施形態に係る鏡の積層構造を模式的に示す断面図が示されている。
【0025】
<全体構成>
図1に示されるように、第一実施形態の鏡1は、ガラス基板10と、ガラス基板10の板厚方向一側の表面(
図1において下側の表面)上に形成される反射層20と、反射層20の一側の表面(
図1において下側の表面)上に形成される保護層30とを備え、ガラス基板10の板厚方向他側の表面(
図1において上側の表面)に対する光が入射する方向(
図1において下方向)に向かってガラス基板10、反射層20、及び保護層30が、この記載順に積層されて構成されている。
【0026】
<ガラス基板>
ガラス基板10は、特に制限されるものではなく、例えば、酸化物ガラスが用いられる。酸化物ガラスとしては、例えば、ケイ酸塩ガラス、リン酸塩ガラス、ホウ酸塩ガラスが挙げられる。ケイ酸塩ガラスとしては、例えば、ソーダ石灰ガラス(ソーダライムガラス)、ケイ酸ガラス、ケイ酸アルカリガラス、カリ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス等が挙げられる。ガラス基板10の厚みは、1~5mmが好ましい。
【0027】
図1では、ガラス基板10を平板状のものとして模式的に示したが、例えば、トラックや建設機械等での後視鏡として使用する場合、ガラス基板10は、図示されないミラーハウジングの外方に向けて凸状に湾曲した形状とされる。この場合、鏡1は、曲率半径が80mm~無限大(平面)の凸面鏡であることが好ましい。
【0028】
<反射層>
反射層20としては、アルミニウム、又はアルミニウム合金からなる層が用いられる。なお、例えば、トラックや建設機械等での使用に適した高い反射率を達成することができれば、反射層20の全てがアルミニウム、又はアルミニウム合金で構成されていなくても良く、アルミニウム、又はアルミニウム合金を主として含む層によって反射層20を構成するようにしても良い。
【0029】
反射層20の厚みは、例えば、鏡1の種類、所望する鏡像の深み、鮮明度等に基づいて設定され、例えば、トラックや建設機械等での後視鏡として使用する場合、好ましくは1~50μmであり、より好ましくは5~25μmであり、最も好ましくは10μm程度である。
【0030】
<保護層>
保護層30としては、遷移金属からなる層を用いることができる。遷移金属としては、例えば、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、チタン、モリブデン、タンタル、銅、銀、金、及び白金からなる群から選択される少なくとも一種の金属である。なお、反射層20を酸化から保護することができれば、保護層30の全てが遷移金属から構成されていなくても良く、遷移金属を主として含む層によって保護層30を構成するようにしても良い。
【0031】
保護層30の厚みは、例えば、鏡1の使用環境等に基づいて設定することができ、例えば、トラックや建設機械等での後視鏡として使用する場合、好ましくは1~50μmであり、より好ましくは2~15μmであり、最も好ましくは3μm程度である。
【0032】
上記の遷移金属のうち、クロム、マンガン、コバルト、チタン、及びタンタルは、本来、空気中で酸化されやすいが、腐食作用に抵抗する酸化物の膜である不動態被膜が金属表面に形成され、それ以上酸化が進まず、結果的に不動態被膜が酸素を通さない層となる。従って、クロム、マンガン、コバルト、チタン、タンタルを含む保護層30、又はこれらを主として含有する合金から構成される保護層30により、反射層20を空気中の酸素と触れないように確実に保護することができる。
【0033】
上記の遷移金属のうちの鉄、クロム、ニッケルを含む合金であるステンレスは、上述したクロム等と同様に、表面に不動態被膜が形成される。従って、ステンレスから構成される保護層30、又はステンレス成分を主として含有する合金から構成される保護層30により、反射層20を空気中の酸素と触れないように確実に保護することができる。なお、モリブデンは、クロムによるバリア機能をより高める作用があり、耐食性をより高めることができるので、鉄、クロム、ニッケルに加え、モリブデンを添加したステンレスを用いるのがより好ましい。
【0034】
銅は、空気中の酸素と化合した酸化第一銅や、空気中の水分と二酸化炭素等が反応して生じる緑青、空気中で強く熱して酸化させた酸化第二銅が金属表面を膜のように覆い、当該膜が酸素を通さない層となる。従って、銅から構成される保護層30、又は銅を主として含有する合金から構成される保護層30により、反射層20を空気中の酸素と触れないように確実に保護することができる。
【0035】
上記の遷移金属のうち、銀、金、及び白金のような貴金属は、標準還元電位が高く、元々空気中で酸化されにくい金属である。従って、銀、金、及び白金のような貴金属から構成される保護層30、又はこれらの貴金属を主として含有する合金から構成される保護層30により、反射層20を空気中の酸素と触れないように確実に保護することができる。
【0036】
<接合界面構造>
図2は、
図1のX部拡大図である。
図2に示されるように、反射層20と保護層30とは、アンカー効果を含む界面結合によって接合されている。すなわち、反射層20における保護層30が付着される側の面に形成された凹凸構造における凹部21内には、保護層30を構成する金属材料が侵入(含浸)されている。その結果、保護層30における凹凸構造の凸部31が反射層20における凹凸構造の凹部21に入り込んだ状態となる。また、反射層20における凹凸構造の凸部22に保護層30を構成する金属材料を被せて、結果的に保護層30における凹凸構造の凹部32に反射層20における凹凸構造の凸部22が入り込んだ状態となる。こうして、反射層20と保護層30との境界面において互いに入り込ませる状態とすることにより、反射層20と保護層30とが強固に固着される。
【0037】
アンカー効果は、一方の金属材料に形成された凹凸構造内に他の金属材料が侵入することにより接合力を発揮する。凹凸構造内部に対し金属材料を侵入させる方法としては、加圧力を作用させるというものがある。しかし、加圧力を作用させると、ガラス基板10や、反射層20、保護層30等が歪む虞がある。一方、後述する真空蒸着法、スパッタリング法、溶射法では、そのような加圧力を作用させることなく、一方の金属材料に形成された凹凸構造内に他方の金属材料を容易に侵入させることができ、上述の歪の発生を未然に防ぐことができる。
【0038】
第一実施形態では、強力な接合力を得るために、反射層20、及び保護層30におけるそれぞれの凹凸構造をnm乃至サブμmオーダーの微細凹凸構造にし、
図2中記号Tで示される範囲においてnmオーダー乃至サブμmオーダーで相互に侵入する接合界面により接合するようにしている。ここで、「サブμm」とは、1μm以下であることを意味する。これにより、反射層20に対する保護層30の付着状態をより強固、且つ安定的に保つことができる。また、反射層20を構成する金属材料と保護層30を構成する金属材料とが異種金属材料であっても、上記のアンカー効果によって強固に結合することができる。なお、後述する真空蒸着法やスパッタリング法では、nmオーダー(例えば、1nm~90nm程度)の厚み(凹凸構造の厚み)の接合界面を形成することができ、後述する溶射法では、サブμmオーダー(例えば、0.1μm~0.9μm程度)の厚み(凹凸構造の厚み)の接合界面を形成することができる。
【0039】
<鏡の製造方法>
以上に述べたように構成される鏡1において、ガラス基板10の表面上に反射層20を、反射層20の表面上に保護層30を、それぞれ形成する方法としては、例えば、真空蒸着法や、スパッタリング法、溶射法等が挙げられる。
【0040】
ここで、真空蒸着法とは、上述した金属材料を成膜材料として真空チャンバ内で加熱し、溶融・蒸発、又は昇華させて、薄膜形成対象物(ガラス基板10、反射層20)の表面上に蒸発、昇華した粒子(原子・分子)を付着・堆積させて薄膜を形成するというものである。また、スパッタリング法とは、真空チャンバ内に上述した金属材料を成膜材料(ターゲット)として設置し、高電圧をかけてイオン化したアルゴン等の希ガス元素や、空気由来の窒素元素を前記ターゲットに衝突させて、ターゲットを構成する粒子(原子・分子)を弾き出し、弾き出した粒子を薄膜形成対象物(ガラス基板10、反射層20)の表面上に付着・堆積させて薄膜を形成するというものである。また、溶射法とは、上述した金属材料を加熱することで溶融、又はそれに近い状態にした粒子を薄膜形成対象物(ガラス基板10、反射層20)の表面上に吹き付けて薄膜を形成するというものである。
【0041】
反射層20や、保護層30を形成する方法としては、上記の真空蒸着法、スパッタリング法、溶射法の何れを採用しても良いが、以下においては、真空蒸着法、及びスパッタリング法により形成する例を順に説明することとする。
【0042】
図3には、本発明の第一実施形態に係る鏡の製造方法の説明図で、初期セット状態図(a)、反射層形成状態図(b)、及び保護層形成状態図(c)がそれぞれ示されている。第一実施形態に係る鏡の製造方法は、真空蒸着装置40を用いて反射層20、及び保護層30を形成するものである。
【0043】
図3(a)に示される真空蒸着装置40は、内部に所要の空間を有する真空チャンバ41と、真空チャンバ41内の底部に配設される加熱装置42と、加熱装置42の上方に配される基板ホルダ43とを備えて構成されている。真空蒸着装置40においては、図示されない真空ポンプの作動にて真空チャンバ41内を真空状態にし、加熱装置42によって成膜材料を加熱して、成膜材料を溶融・蒸発、又は昇華させ、基板ホルダ43に保持されている薄膜形成対象物の表面に蒸発、昇華した粒子(原子・分子)を付着・堆積させて薄膜を形成することができるようになっている。なお、成膜材料の加熱法には、代表的なものとして、抵抗加熱法、高周波誘導加熱法、電子ビーム加熱法の3種類の方法がある。抵抗加熱法は、抵抗体に電流を流して発熱させ、発熱した抵抗体に成膜材料を供給して、成膜材料を加熱するというものである。高周波誘導加熱法は、坩堝(
図3では加熱装置42に相当)内に収納した成膜材料を、高周波誘導加熱により加熱するというものである。電子ビーム加熱法は、坩堝内に収納した成膜材料に対し、電子ビームを照射することにより、成膜材料を加熱するというものである。
【0044】
まず、
図3(a)に示されるように、反射層20を形成するための第一金属材料51(例えば、アルミニウム)を加熱装置42にセットするとともに、ガラス基板10を基板ホルダ43にセットし、図示されない真空ポンプの作動にて真空チャンバ41内を真空の状態にする。
【0045】
<反射層形成工程>
次いで、
図3(b)に示されるように、加熱装置42によって第一金属材料51を加熱して、第一金属材料51を溶融・蒸発、又は昇華させ、基板ホルダ43に保持されているガラス基板10の一側の表面(
図3(b)において下面)に蒸発、昇華した第一金属材料51の粒子(原子・分子)を付着・堆積させて薄膜状の反射層20を形成する。このようにして、反射層形成工程が真空蒸着により実行されることで、全体に亘って均一な厚みの反射層20を形成することができる。
【0046】
<保護層形成工程>
そして、上記反射層形成工程にて反射層20が形成された状態のガラス基板10は基板ホルダ43にセットしたままの状態にする一方で、
図3(c)に示されるように、保護層30を形成するための第二金属材料52(例えば、クロム)を加熱装置42にセットし、図示されない真空ポンプの作動にて真空チャンバ41内を真空状態として、第二金属材料52を加熱装置42によって加熱し、第二金属材料52を溶融・蒸発、又は昇華させ、基板ホルダ43に保持されているガラス基板10の下面側に既に形成された反射層20の下面に蒸発、昇華した第二金属材料52の粒子を付着・堆積させて薄膜状の保護層30を形成する。このようにして、保護層形成工程が真空蒸着により実行されることで、全体に亘って均一な厚みの保護層30を形成することができる。
【0047】
上記の反射層形成工程と保護層形成工程とは、共通の真空チャンバ41を用いて実行される。このため、反射層形成工程を実行するための真空チャンバ41と、保護層形成工程を実行するための真空チャンバ41とを個別に設ける必要がなく、設備の簡素化、及び生産効率の向上を図ることができる。
【0048】
第一実施形態においては、上記の反射層形成工程の実施により、ガラス基板10の表面上にアルミニウムの反射層20が形成され、上記の保護層形成工程の実施により、反射層20の表面上に遷移金属の一種であるクロムの保護層30が形成される。このようにして作製された鏡1は、平均反射率が40~50%程度のクロムよりも格段に高い反射率のアルミニウム(平均反射率:80~90%程度)を含む反射層20によって、例えば、トラックや建設機械等での使用に適した高い反射率を達成することができるとともに、反射層20を構成するアルミニウムが空気中の酸素と触れないようにクロムからなる保護層30によって保護されることで反射層20を構成するアルミニウムの酸化が防止されることから、鏡1としての機能を長期に亘って安定的に保つことができる(後述する第二、第三、第四実施形態においても同様)。
【0049】
〔第二実施形態〕
図4には、本発明の二実施形態に係る鏡の製造方法の説明図で、初期セット状態図(a)、反射層形成状態図(b)、及び保護層形成状態図(c)がそれぞれ示されている。なお、上記第一実施形態に係る鏡の製造方法で用いられた装置と同一、又は同様の構成のものについては図に同一符号を付すに留めてその詳細な説明を省略することとし、以下においては第二実施形態に特有の部分を中心に説明することとする。
【0050】
上記第一実施形態では、加熱装置42を一つだけ備える構成の真空蒸着装置40(
図3(a)~(c)参照)を用いて反射層20、及び保護層30を形成する例を示したが、これに限定されるものではなく、
図4(a)~(c)に示されるように、加熱装置42と同構造の二つの加熱装置、すなわち第一加熱装置42A、及び第二加熱装置42Bを備える構成の真空蒸着装置40´を用いて反射層20、及び保護層30を形成する態様もある。この場合、
図4(a)に示されるように、ガラス基板10を基板ホルダ43にセットするとともに、反射層20を形成するための第一金属材料51(例えば、アルミニウム)を第一加熱装置42Aに、保護層30を形成するための第二金属材料52(例えば、クロム)を第二加熱装置42Bに、それぞれセットし、図示されない真空ポンプの作動にて真空チャンバ41内を真空の状態にする。次いで、
図4(b)に示されるように、第一加熱装置42Aによって第一金属材料51を加熱して、第一金属材料51を溶融・蒸発、又は昇華させ、基板ホルダ43に保持されているガラス基板10の一側の表面(
図4(b)において下面)に蒸発、昇華した第一金属材料51の粒子(原子・分子)を付着・堆積させて薄膜状の反射層20を形成する(反射層形成工程)。次いで、
図4(c)に示されるように、第二金属材料52を第二加熱装置42Bによって加熱し、第二金属材料52を溶融・蒸発、又は昇華させ、基板ホルダ43に保持されているガラス基板10の下面側に既に形成された反射層20の下面に蒸発、昇華した第二金属材料52の粒子を付着・堆積させて薄膜状の保護層30を形成する(保護層形成工程)。こうして、加熱装置42を一つだけ備える構成の真空蒸着装置40と比べて、第二金属材料52を別途セットするための工程が省ける分、生産効率を向上することができる。また、真空チャンバ41内の真空状態を維持したまま、連続して反射層形成工程及び保護層形成工程を実施することができる。
【0051】
〔第三実施形態〕
図5には、本発明の第三実施形態に係る鏡の製造方法の説明図で、初期セット状態図(a)、反射層形成状態図(b)、及び保護層形成状態図(c)がそれぞれ示されている。第三実施形態に係る鏡の製造方法は、スパッタリング装置60を用いて反射層20、及び保護層30を形成するものである。
【0052】
図5(a)に示されるスパッタリング装置60は、内部に所要の空間を有する真空チャンバ61と、真空チャンバ61内の底部に配設される負電極となる裏板62と、裏板62の上方に配される正電極となる基板ホルダ63とを備えて構成されている。スパッタリング装置60においては、図示されない真空ポンプの作動にて真空チャンバ61内を真空状態にし、裏板62上に成膜材料(ターゲット)を設置し、裏板62と基板ホルダ63との間に高電圧をかけてイオン化したアルゴン等の希ガス元素をターゲットに衝突させて、ターゲットを構成する粒子(原子・分子)を弾き出し、弾き出した粒子を薄膜形成対象物(ガラス基板10、反射層20)の表面上に付着・堆積させて薄膜を形成することができるようになっている。
【0053】
まず、
図5(a)に示されるように、反射層20を形成するための第一金属材料51(例えば、アルミニウム)を裏板62にセットするとともに、ガラス基板10を基板ホルダ63にセットし、図示されない真空ポンプの作動にて真空チャンバ61内を真空の状態にする。
【0054】
<反射層形成工程>
次いで、
図5(b)に示されるように、裏板62と基板ホルダ63との間に高電圧をかけてイオン化したアルゴン等の希ガス元素を第一金属材料51に衝突させて、第一金属材料51を構成する粒子(原子・分子)を弾き出し、弾き出した粒子を基板ホルダ63に保持されているガラス基板10の一側の表面(
図5(b)において下面)に付着・堆積させて薄膜状の反射層20を形成する。このようにして、反射層形成工程がスパッタリングにより実行されることで、全体に亘って均一な厚みの反射層20を形成することができる。
【0055】
<保護層形成工程>
次いで、上記反射層形成工程にて反射層20が形成された状態のガラス基板10は基板ホルダ43にセットしたままの状態にする一方で、
図5(c)に示されるように、保護層30を形成するための第二金属材料52(例えば、クロム)を裏板62にセットし、図示されない真空ポンプの作動にて真空チャンバ41内を真空状態とする。そして、裏板62と基板ホルダ63との間に高電圧をかけてイオン化したアルゴン等の希ガス元素を第二金属材料52に衝突させて、第二金属材料52を構成する粒子(原子・分子)を弾き出し、弾き出した粒子を、基板ホルダ43に保持されているガラス基板10の下面側に既に形成された反射層20の下面に付着・堆積させて薄膜状の保護層30を形成する。このようにして、保護層形成工程がスパッタリングにより実行されることで、全体に亘って均一な厚みの保護層30を形成することができる。
【0056】
上記の反射層形成工程と保護層形成工程とは、共通の真空チャンバ61を用いて実行される。このため、反射層形成工程を実行するための真空チャンバ61と、保護層形成工程を実行するための真空チャンバ61とを個別に設ける必要がなく、設備の簡素化、及び生産効率の向上を図ることができる。
【0057】
〔第四実施形態〕
図6には、本発明の第四実施形態に係る鏡の製造方法の説明図で、初期セット状態図(a)、反射層形成状態図(b)、保護層形成状態図(c)がそれぞれ示されている。なお、上記第三実施形態に係る鏡の製造方法で用いられた装置と同一、又は同様の構成のものについては図に同一符号を付すに留めてその詳細な説明を省略することとし、以下においては第二実施形態に特有の部分を中心に説明することとする。
【0058】
上記第三実施形態では、裏板62を一つだけ備える構成のスパッタリング装置60(
図5(a)~(c)参照)を用いて反射層20、及び保護層30を形成する例を示したが、これに限定されるものではなく、
図6(a)~(c)に示されるように、裏板62と同構造の二つの裏板62、すなわち第一裏板62A、及び第二裏板62Bを備える構成のスパッタリング装置60´を用いて反射層20、及び保護層30を形成する態様もある。この場合、
図6(a)に示されるように、ガラス基板10を基板ホルダ63にセットするとともに、反射層20を形成するための第一金属材料51(例えば、アルミニウム)を第一裏板62Aに、保護層30を形成するための第二金属材料52(例えば、クロム)を第二裏板62Bに、それぞれセットし、図示されない真空ポンプの作動にて真空チャンバ61内を真空の状態にする。次いで、
図6(b)に示されるように、第一裏板62Aと基板ホルダ63との間に高電圧をかけてイオン化したアルゴン等の希ガス元素を第一金属材料51に衝突させて、第一金属材料51を構成する粒子(原子・分子)を弾き出し、弾き出した粒子を基板ホルダ63に保持されているガラス基板10の一側の表面(
図6(b)において下面)に付着・堆積させて薄膜状の反射層20を形成する。次いで、
図6(c)に示されるように、第二裏板62Bと基板ホルダ63との間に高電圧をかけてイオン化したアルゴン等の希ガス元素を第二金属材料52に衝突させて、第二金属材料52を構成する粒子(原子・分子)を弾き出し、弾き出した粒子を、基板ホルダ63に保持されているガラス基板10の下面側に既に形成された反射層20の下面に付着・堆積させて薄膜状の保護層30を形成する。こうして、裏板62を一つだけ備える構成のスパッタリング装置60と比べて、第二金属材料52を別途セットするための工程が省ける分、生産効率を向上することができる。また、真空チャンバ61内の真空状態を維持したまま、連続して反射層形成工程及び保護層形成工程を実施することができる。
【0059】
〔別実施形態〕
上記の各実施形態では、反射層20を保護する保護層30として遷移金属を含むものを例示したが、遷移金属に加えて、又は遷移金属に代えて、遷移金属以外の金属を用いて保護層を構成することも可能である。例えば、亜鉛、又は亜鉛を主として含有する合金からなる保護層を採用することができる。亜鉛は、銅と同様に錆が金属本体を守る典型的な金属であり、白錆が亜鉛自体を覆って保護する作用をする。従って、亜鉛から構成される保護層30、又は亜鉛を主として含有する合金から構成される保護層30により、反射層20を空気中の酸素と触れないように確実に保護することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の鏡、及び鏡の製造方法は、例えば、トラックや建設機械等における、後方を視認するための後視鏡の用途において利用可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 鏡
10 ガラス基板
20 反射層
30 保護層
41,61 真空チャンバ
51 第一金属材料(アルミニウム)
52 第二金属材料(遷移金属(クロム))