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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022078373
(43)【公開日】2022-05-25
(54)【発明の名称】副室式内燃機関
(51)【国際特許分類】
   F02B 19/16 20060101AFI20220518BHJP
   F02B 19/12 20060101ALI20220518BHJP
   F02B 19/18 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
F02B19/16 B
F02B19/12 B
F02B19/18 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019061130
(22)【出願日】2019-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002424
【氏名又は名称】ケー・ティー・アンド・エス特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 捷
(72)【発明者】
【氏名】田中 大
(72)【発明者】
【氏名】城田 貴之
(72)【発明者】
【氏名】井上 欣也
(72)【発明者】
【氏名】菅田 佳博
(72)【発明者】
【氏名】野中 一成
(72)【発明者】
【氏名】津田 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 遼太
【テーマコード(参考)】
3G023
【Fターム(参考)】
3G023AA01
3G023AB01
3G023AC04
3G023AD03
3G023AD13
3G023AD23
3G023AD25
3G023AD28
3G023AD30
(57)【要約】
【課題】連通路の位置を大きく制約することなく、掃気を促進させることのできる副室式内燃機関を提供する。
【解決手段】副室式内燃機関1は、吸気、圧縮、膨張および排気の各行程に応じて包囲壁40を相対変位させることで、連通路による連通面積を変化させる。そして、排気および吸気行程では、連通路の連通面積を圧縮および膨張行程よりも拡がる方向に変化させる。ここで、副室式内燃機関1は、筒状の副燃焼室20を包囲壁40が筒状に包囲する二重構造となっており、副燃焼室20の延びる方向に沿って連通面積の異なる2つの連通路が隔壁21に隣接配置されているため、この包囲壁40を副燃焼室20の延びる方向に沿って相対変位させて、一方の連通路を露出させつつ他方の連通路を閉塞させることにより、連通面積を変化させることができる。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気、圧縮、膨張および排気の各行程を繰り返す副室式内燃機関であって、
筒状に延びる燃焼空間を取り囲む構造体からなる主燃焼室と、
前記燃焼空間に向けて筒状に延びる空間を隔壁により包囲してなる副燃焼室と、
前記隔壁を内外に貫通して前記副燃焼室と前記主燃焼室とを連通する1以上の連通路と、
前記副燃焼室において前記連通路の形成された前記隔壁の表面領域を包囲した状態で、前記隔壁に対して相対的に変位可能に取り付けられてなる包囲壁と、
前記隔壁に対する前記包囲壁の位置を、前記包囲壁が前記連通路の一部を閉塞する位置関係となるように変位させる変位機構と、
を備え、
前記変位機構は、圧縮および膨張行程において、前記連通路により連通される断面積である連通面積が所定の第1連通面積となる位置に変位させる一方、排気および吸気行程において、前記第1連通面積よりも大きい第2連通面積となる位置に変位させる、
副室式内燃機関。
【請求項2】
前記連通路は、前記第1連通面積で前記隔壁を貫通する第1連通路、および、前記第2連通面積で前記隔壁を貫通する第2連通路が、前記副燃焼室の延びる方向に沿って隣接して配置されており、
前記包囲壁は、前記表面領域を包囲する筒状の部材が、前記副燃焼室の延びる方向に沿って変位可能に取り付けられており、
前記変位機構は、圧縮および膨張行程において、前記包囲壁が前記第2連通路のみを閉塞する位置関係に変位させる一方、排気および吸気行程において、前記包囲壁が前記第1連通路のみを閉塞する位置関係に変位させる、
請求項1に記載の副室式内燃機関。
【請求項3】
前記連通路は、前記主燃焼室の内壁側から前記第1連通路、前記第2連通路の順に配置されており、
前記包囲壁は、前記表面領域を少なくとも前記第2連通面積以上の断面積で貫通する貫通路と、前記副燃焼室の延びる方向に沿って前記貫通路の両側から延びる閉塞部と、が形成されており、
前記変位機構は、圧縮および膨張行程において、前記閉塞部が前記第2連通路を閉塞しつつ前記貫通路が前記第1連通路と重なる位置関係に変位させる一方、排気および吸気行程において、前記閉塞部が前記第1連通路を閉塞しつつ前記貫通路が前記第2連通路と重なる位置関係に変位させる、
請求項2に記載の副室式内燃機関。
【請求項4】
前記隔壁は、前記主燃焼室側への突出量が最大となる突出位置および前記突出量が最小となる埋設位置へと変位可能に取り付けられており、
前記包囲壁は、前記表面領域を包囲した状態で、前記主燃焼室の内壁に固定され、前記埋設位置の前記隔壁における前記第2連通路が前記閉塞部に閉塞されつつ前記第1連通路が前記貫通路と重なる位置関係となる一方、前記突出位置の前記隔壁における前記第1連通路が前記閉塞部に閉塞されつつ前記第2連通路が前記貫通路と重なる位置関係となっており、
前記変位機構は、圧縮および膨張行程において、前記隔壁を前記突出位置に変位させる一方、排気および吸気行程において、前記隔壁を前記埋設位置に変位させる、
請求項3に記載の副室式内燃機関。
【請求項5】
前記変位機構は、
吸気、圧縮、膨張および排気の各行程に応じた回転位置で回転し、排気および吸気の行程においてリフト量が最大および最小のいずれか一方となり、また、圧縮および膨張の各行程においてリフト量が最小および最大のいずれか一方となる変位カムと、
前記変位カムに従動して前記副燃焼室の延びる方向に沿って最大のリフト量から最小のリフト量までの距離を往復運動する従節と、を有し、
前記従節による往復運動を直接的または間接的に前記包囲壁または前記隔壁に伝達させて両者を相対的に変位させる、
請求項1から4のいずれか1項に記載の副室式内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主燃焼室およびその主燃焼室に隣接して設けられる副燃焼室を備えた副室式の副室式内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、主燃焼室およびその主燃焼室に隣接して設けられる副燃焼室を備えた副室式内燃機関が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような副室式内燃機関では、主燃焼室に噴射された燃料から混合気が形成される。形成された混合気は、連通路を介して副燃焼室内に供給され、副燃焼室内で点火プラグによって点火され火炎が形成される。副燃焼室内で形成された火炎は、連通路を介して主燃焼室に噴射され、主燃焼室の混合気に着火する。このように、副燃焼室で形成された火炎を主燃焼室に噴射することで、主燃焼室の燃焼速度を高めることができる。これによって、より希薄な空燃比での運転が可能となり、燃費の向上が可能となる。
【0003】
また、特許文献1の副室式内燃機関では、副燃焼室と吸気ポートとを連通する掃気通路を別途形成し、これにより副燃料室内の掃気を促進させるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-204835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の副室式内燃機関では、吸気ポートにおいて吸気弁が開いているときにのみ副燃焼室と連通する位置に掃気通路を形成する必要がある。そのうえ、掃気通路による掃気を促進させるために連通路を掃気通路から離す(掃気通路と反対側にオフセットする)必要があり、連通路としての機能とは無関係にその位置に大きな制約を受けてしまうという課題がある。
【0006】
本発明は、この課題を解決するためになされたものであり、その目的は、連通路の位置を大きく制約することなく、掃気を促進させることのできる副室式内燃機関を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため第1の副室式内燃機関は、吸気、圧縮、膨張および排気の各行程を繰り返す副室式内燃機関であって、筒状に延びる燃焼空間を取り囲む構造体からなる主燃焼室と、前記燃焼空間に向けて筒状に延びる空間を隔壁により包囲してなる副燃焼室と、前記隔壁を内外に貫通して前記副燃焼室と前記主燃焼室とを連通する1以上の連通路と、前記副燃焼室において前記連通路の形成された前記隔壁の表面領域を包囲した状態で、前記隔壁に対して相対的に変位可能に取り付けられてなる包囲壁と、前記隔壁に対する前記包囲壁の位置を、前記包囲壁が前記連通路の一部を閉塞する位置関係となるように変位させる変位機構と、を備えており、前記変位機構は、圧縮および膨張行程において、前記連通路により連通される断面積である連通面積が所定の第1連通面積となる位置に変位させる一方、排気および吸気行程において、前記第1連通面積よりも大きい第2連通面積となる位置に変位させる。
【0008】
この副室式内燃機関では、吸気、圧縮、膨張および排気の各行程に応じて包囲壁を相対変位させることで、連通路による連通面積を変化させる。そして、排気および吸気行程では、連通路の連通面積を圧縮および膨張行程よりも拡がる方向に変化させることができるため、こうして排気および吸気行程において副燃焼室の掃気を促進させることができる。
【0009】
この構成では、包囲壁により連通路の一部を閉塞できればよく、その連通路を設ける位置が制約されることなく、副燃焼室の掃気を促進させることができる。
【0010】
この副室式内燃機関において、包囲壁を相対変位させるための具体的な構成は特に限定されないが、例えば、以下に示す第2の副室式内燃機関のようにしてもよい。
【0011】
第2の副室式内燃機関において、前記連通路は、前記第1連通面積で前記隔壁を貫通する第1連通路、および、前記第2連通面積で前記隔壁を貫通する第2連通路が、前記副燃焼室の延びる方向に沿って隣接して配置されており、前記包囲壁は、前記表面領域を包囲する筒状の部材が、前記副燃焼室の延びる方向に沿って変位可能に取り付けられており、前記変位機構は、圧縮および膨張行程において、前記包囲壁が前記第2連通路のみを閉塞する位置関係に変位させる一方、排気および吸気行程において、前記包囲壁が前記第1連通路のみを閉塞する位置関係に変位させる。
【0012】
この副室式内燃機関では、筒状の副燃焼室を包囲壁が筒状に包囲するという二重構造となっており、副燃焼室の延びる方向に沿って連通面積の異なる2つの連通路が隔壁に隣接配置されている。そのため、この包囲壁を副燃焼室の延びる方向に沿って相対変位させて、一方の連通路を露出させつつ他方の連通路を閉塞させることにより、連通面積を変化させることができる。
【0013】
この副室式内燃機関において、包囲壁により連通路を露出および閉塞させるための具体的な構成は特に限定されないが、例えば、以下に示す第3の副室式内燃機関のようにしてもよい。
【0014】
第3の副室式内燃機関において、前記連通路は、前記主燃焼室の内壁側から前記第1連通路、前記第2連通路の順に配置されており、前記包囲壁は、前記表面領域を少なくとも前記第2連通面積以上の断面積で貫通する貫通路と、前記副燃焼室の延びる方向に沿って前記貫通路の両側から延びる閉塞部と、が形成されており、前記変位機構は、圧縮および膨張行程において、前記閉塞部が前記第2連通路を閉塞しつつ前記貫通路が前記第1連通路と重なる位置関係に変位させる一方、排気および吸気行程において、前記閉塞部が前記第1連通路を閉塞しつつ前記貫通路が前記第2連通路と重なる位置関係に変位させる。
【0015】
この副室式内燃機関では、貫通路および閉塞部がそれぞれ第1、第2連通路と重なる位置関係となるように包囲壁を相対変位させることにより、包囲壁により一方の連通路を露出させつつ他方の連通路を閉塞させることができる。
【0016】
この副室式内燃機関においては、包囲壁が隔壁に対して相対的に変位可能であればよく、包囲壁を変位させるように構成してもよいし、隔壁を変位させるように構成してもよい。
【0017】
ここで、隔壁を変位させるための構成としては、以下に示す第4の副室式内燃機関のようにしてもよい。
【0018】
第4の副室式内燃機関は、前記隔壁は、前記主燃焼室側への突出量が最大となる突出位置および前記突出量が最小となる埋設位置へと変位可能に取り付けられており、前記包囲壁は、前記表面領域を包囲した状態で、前記主燃焼室の内壁に固定され、前記埋設位置の前記隔壁における前記第2連通路が前記閉塞部に閉塞されつつ前記第1連通路が前記貫通路と重なる位置関係となる一方、前記突出位置の前記隔壁における前記第1連通路が前記閉塞部に閉塞されつつ前記第2連通路が前記貫通路と重なる位置関係となっており、前記変位機構は、圧縮および膨張行程において、前記隔壁を前記突出位置に変位させる一方、排気および吸気行程において、前記隔壁を前記埋設位置に変位させる。
【0019】
この副室式内燃機関では、隔壁を突出位置および埋設位置に変位させることにより、包囲壁を隔壁に対して相対変位させることができる。
【0020】
また、上記各副室式内燃機関において、変位機構の具体的な構成は特に限定されないが、例えば、以下に示す第5の副室式内燃機関のようにしてもよい。
【0021】
第5の副室式内燃機関において、前記変位機構は、吸気、圧縮、膨張および排気の各行程に応じた回転位置で回転し、排気および吸気の行程においてリフト量が最大および最小のいずれか一方となり、また、圧縮および膨張の各行程においてリフト量が最小および最大のいずれか一方となる変位カムと、前記変位カムに従動して前記副燃焼室の延びる方向に沿って最大のリフト量から最小のリフト量までの距離を往復運動する従節と、を有し、前記従節による往復運動を直接的または間接的に前記包囲壁または前記隔壁に伝達させて両者を相対的に変位させる。
【0022】
この副室式内燃機関では、カムおよび従節により、包囲壁および隔壁を相対変位させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、包囲壁により連通路の一部を閉塞できればよく、その連通路を設ける位置が制約されることなく、副燃焼室の掃気を促進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明における副室式内燃機関の概略構成を示す要部断面図
図2】本発明における副燃焼室近傍の要部断面図
図3】本発明における副室式内燃機関の各行程と隔壁の位置との関係を示す図
図4】別の実施形態における副燃焼室近傍の要部断面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
(1)全体構成
【0026】
副室式内燃機関1は、図1に示すように、筒状に延びる燃焼空間100を取り囲む構造体からなる主燃焼室10と、燃焼空間100に向けて筒状に延びる副燃焼室20と、副燃焼室20の内壁から突出する点火プラグ30と、副燃焼室20を包囲する包囲壁40と、を備えており、吸気、圧縮、膨張および排気の各行程を繰り返すように構成されている。
【0027】
主燃焼室10は、所定方向(同図の上下方向)に延びるシリンダ11、シリンダ11における一端(同図の上端)側を閉塞するシリンダヘッド13、および、シリンダ11内側をその延びる方向に沿って往復移動するピストン15により構成されており、これら構造体により燃焼空間100が取り囲まれている。この燃焼空間100には、吸気バルブ110により開閉される吸気ポート120、排気バルブ130により開閉される排気ポート140それぞれが接続されている。これら吸気バルブ110および排気バルブ130は、後述する吸気カム210および排気カム220により駆動される。
【0028】
また、この主燃焼室10には、シリンダ11における吸気ポート120近傍において、燃焼空間100内に燃料を噴射する噴射弁150が配置されている。この噴射弁150は、燃料を噴霧して供給することで燃焼空間100内に混合気を形成する。
【0029】
なお、本実施形態における主燃焼室10は、シリンダヘッド13が吸気ポート120および排気ポート140それぞれに向けて傾斜面をなすペントルーフ形状となっている。
【0030】
副燃焼室20は、図2に示すように、吸気ポート120と排気ポート140との間の位置から燃焼空間100に向けて筒状に延びる空間を隔壁21により包囲したものである。本実施形態において、副燃焼室20は、主燃焼室10におけるペントルーフ形状の斜面の交線(稜線)を跨ぐ位置に設けられる。
【0031】
この副燃焼室20は、隔壁21を内外に貫通して副燃焼室20と主燃焼室10とを連通する1以上(本実施形態では6箇所)の連通路を備えている。この連通路は、隔壁21を連通する断面積(具体的には、連通する方向と交差する断面における面積)である連通面積が所定の第1連通面積となっている第1連通路23と、第1連通面積よりも大きい第2連通面積となっている第2連通路25とからなる。これらは、副燃焼室20の延びる方向(図2における上下方向)に沿って、主燃焼室10の内壁側から副燃焼室20の先端側に向けて第1連通路23、第2連通路25の順に隣接して配置されている。
【0032】
点火プラグ30は、副燃焼室20における末端(図2における上端)側の内壁から突出した位置に配置された電極対を備えており、この電極対をなす各電極31、33間への通電により副燃焼室20内の混合気に着火する。本実施形態において、点火プラグ30は、各電極31、33が副燃焼室20における円筒の軸線と重なる位置関係で設けられているが、この軸線から離れた位置関係で設けられていてもよい。
【0033】
包囲壁40は、副燃焼室20を包囲した状態で、副燃焼室20の延びる方向に沿って、この隔壁21に対して相対的に変位可能に取り付けられている。
【0034】
また、包囲壁40は、隔壁21において連通路の形成されている表面領域を少なくとも第2連通面積以上(本実施形態では、第2連通面積と同一)の断面積で貫通する貫通路41と、副燃焼室20の延びる方向に沿って貫通路41の両側から延びる閉塞部43と、が形成されている。そして、包囲壁40は、一方の閉塞部43が第1連通路23を閉塞しつつ貫通路41が第2連通路25と重なる位置と(図2(A)参照)、他方の閉塞部43が第2連通路25を閉塞しつつ貫通路41が第1連通路23と重なる位置と(同図(B)参照)、の間で相対変位する。
【0035】
この包囲壁40の隔壁21に対する相対変位は、変位機構50により実現される。
【0036】
変位機構50は、包囲壁40が連通路の一部を閉塞する位置関係となるように、包囲壁40を隔壁21に対して相対的に変位させるものであり、副室式内燃機関1の各行程(吸気、圧縮、膨張および排気)に応じた回転位置で回転する変位カム51と、変位カム51に従動して副燃焼室20の延びる方向に沿って最大のリフト量から最小のリフト量までの距離を往復運動する従節53と、従節53による往復運動を直接的または間接的に包囲壁40または隔壁21に伝達させる伝達部55と、を備えている。
【0037】
これらのうち、変位カム51は、吸気カム210および排気カム220とともに、図示されないクランクシャフトの回転がタイミングベルト230経由で伝達されることにより、排気および吸気の行程においてリフト量が最小となり(図2(A)参照)、また、圧縮および膨張の各行程においてリフト量が最大となる(同図(B)参照)。
【0038】
この変位機構50は、上記の構成要素によって、圧縮および膨張行程において連通面積が第1連通面積となる位置に包囲壁40を相対変位させる一方、排気および吸気行程において、第2連通面積となる位置に包囲壁40を相対変位させる。
【0039】
具体的には、排気および吸気行程において、図2(A)に示すように、包囲壁40を相対変位させ、包囲壁40の貫通路41と隔壁21の第2連通路25とを重ね、包囲壁40における一方の閉塞部43と隔壁21の第1連通路23とを重ねることで、連通面積を第2連通面積とする。また、圧縮および膨張行程において、図2(B)に示すように、包囲壁40を相対変位させ、包囲壁40の貫通路41と隔壁21の第1連通路23とを重ね、包囲壁40における他方の閉塞部43と隔壁21の第2連通路25とを重ねることで、連通面積を第1連通面積とする。
【0040】
このように構成された副室式内燃機関1において、副燃焼室20の容積は、主燃焼室10よりも小さく、点火プラグ30で点火した混合気の火炎が、副燃焼室20内に素早く伝播する。副燃焼室20は、副燃焼室20で発生した火炎を、連通路を介して主燃焼室10に噴射する。主燃焼室10内に噴射された火炎は、主燃焼室10の混合気に着火して燃焼させる。こうして、主燃焼室10および副燃焼室20が一体的な燃焼室を形成することになる。
【0041】
(2)隔壁21と包囲壁40との相対変位のための構成
【0042】
上記副室式内燃機関1では、包囲壁40が副燃焼室20の隔壁21に対して相対変位できれば、そのための具体的な構成は特に限定されず、包囲壁40を変位させてもよく、隔壁21を変位させてもよい。本実施形態では、隔壁21を変位可能に取り付ける一方で、包囲壁40を主燃焼室10の内壁に固定した構成を例示して説明する。
【0043】
副燃焼室20をなす隔壁21は、隔壁21の主燃焼室10側への突出量(換言すれば、主燃焼室10の内壁からの突出量)が最大となる突出位置(図2(B))および突出量が最小となる埋設位置(図2(A))へと変位可能に取り付けられている。その一方、包囲壁40は、隔壁21において連通路の形成されている表面領域を包囲した状態で、主燃焼室10の内壁側(具体的にはシリンダヘッド13)に固定されている。
【0044】
この状態で隔壁21を突出位置とすると、図2(B)に示すように、第1連通路23が包囲壁40における一方の閉塞部43に閉塞され、かつ、第2連通路25が貫通路41と重なる位置関係となる。また、隔壁21を埋設位置とすると、図2(A)に示すように、第2連通路25が包囲壁40における他方の閉塞部43に閉塞され、かつ、第1連通路23が包囲壁40の貫通路41と重なる位置関係となる。
【0045】
そして、変位機構50は、図3に示すように、圧縮および膨張行程において、隔壁21を突出位置に変位させる一方、排気および吸気行程において、隔壁21を埋設位置に変位させる。これは、変位機構50における変位カム51が、圧縮および膨張の行程において最大のリフト量となり、排気および吸気の各行程において最小のリフト量となるからであり、この最大のリフト量から最小のリフト量までの距離の往復運動が従節53および伝達部55を介して隔壁21に伝達されるためである。
【0046】
(3)作用効果
【0047】
上記実施形態における副室式内燃機関1では、吸気、圧縮、膨張および排気の各行程に応じて包囲壁40を相対変位させることで、連通路による連通面積を変化させる。そして、排気および吸気行程では、連通路の連通面積を圧縮および膨張行程よりも拡がる方向に変化させることができるため(図3参照)、こうして排気および吸気行程において副燃焼室の掃気を促進させることができる。
【0048】
また、上記副室式内燃機関1では、包囲壁40により連通路の一部を閉塞できればよく、その連通路を設ける位置が制約されることなく、副燃焼室20の掃気を促進させることができる。
【0049】
また、上記副室式内燃機関1では、筒状の副燃焼室20を包囲壁40が筒状に包囲するという二重構造となっており、副燃焼室20の延びる方向に沿って連通面積の異なる2つの連通路が隔壁21に隣接配置されている。そのため、この包囲壁40を副燃焼室20の延びる方向に沿って相対変位させて、一方の連通路を露出させつつ他方の連通路を閉塞させることにより、連通面積を変化させることができる。
【0050】
また、上記副室式内燃機関1では、貫通路41および閉塞部43それぞれが第1、第2連通路23、25と重なる位置関係となるように包囲壁40を相対変位させることにより、包囲壁40により一方の連通路を露出させつつ他方の連通路を閉塞させることができる。
【0051】
また、上記副室式内燃機関1では、隔壁21を突出位置および埋設位置に変位させることにより、包囲壁40を隔壁21に対して相対変位させることができる。
【0052】
また、上記副室式内燃機関1では、変位カム51および従節53により、包囲壁40および隔壁21を相対変位させることができる。
【0053】
(4)他の実施形態
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた各構成は必要に応じて任意に組合せ可能である。
【0055】
例えば、上記実施形態では、包囲壁40により連通路を露出および閉塞させるために、第1連通路23および第2連通路25からなる一組の連通路のうちの一方を露出させて他方を閉塞させるようにした構成を例示した。しかし、包囲壁40により連通路を露出および閉塞させるためには、単一の連通路全体を露出させるまたは一部を閉塞させることで、この連通路による連通面積を第1連通面積と第2連通面積との間で変化させる、といった構成を採用してもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、筒状の副燃焼室20を包囲壁40が筒状に包囲するという二重構造とし、包囲壁40を副燃焼室20の延びる方向に沿って相対変位させることで連通面積を変化させるように構成されたものを例示した。
【0057】
しかし、連通面積を変化させるためには、例えば、包囲壁40を副燃焼室20の延びる軸線方向を回転軸として回転可能に取り付けるとともに、副燃焼室20の軸線と交差する平面視でこの軸線を取り囲む方向に沿って複数の連通路が隔壁21に隣接配置した構成とすることが考えられる。この構成であれば、包囲壁40を副燃焼室20の軸線で回転する方向に相対変位させることで、一方の連通路を露出させつつ他方の連通路を閉塞させて連通面積を変化させることができる。
【0058】
また上記実施形態では、包囲壁40に単一の貫通路41が形成される一方、隔壁21に一対の連通路が形成された構成を例示した。しかし、図4に示すように、包囲壁40に一対の貫通路41、45を形成する一方、隔壁21に単一の連通路23を形成した構成としてもよい。
【0059】
また、上記実施形態では変位機構50が変位カム51および従節53からなる構成を例示したが、これ以外の構成要素により変位機構50を構成できることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0060】
1…副室式内燃機関、10…主燃焼室、11…シリンダ、13…シリンダヘッド、15…ピストン、20…副燃焼室、21…隔壁、23…第1連通路、25…第2連通路、30…点火プラグ、31…電極、33…電極、40…包囲壁、41…貫通路、43…閉塞部、50…変位機構、51…変位カム、53…従節、55…伝達部、100…燃焼空間、110…吸気バルブ、120…吸気ポート、130…排気バルブ、140…排気ポート、150…噴射弁、210…吸気カム、220…排気カム、230…タイミングベルト。
図1
図2
図3
図4