(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022078500
(43)【公開日】2022-05-25
(54)【発明の名称】鉛蓄電池用負極板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/04 20060101AFI20220518BHJP
【FI】
H01M4/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020189212
(22)【出願日】2020-11-13
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】特許業務法人河崎・橋本特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 悦子
(72)【発明者】
【氏名】安藤 和成
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA09
5H050CA01
5H050CA02
5H050CB02
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高い放電容量を確保しながら高い回生受入性を確保した、鉛蓄電池用負極板の製造方法を提供する。
【解決手段】鉛蓄電池用負極板2の製造方法は、硫酸バリウム粉末と液体とを混合して分散液を調製する第1工程と、前記分散液と鉛酸化物を主成分とする粉末とを混合して負極ペーストを調製する第2工程と、を備える。前記液体は、硫酸水溶液または純水である。前記液体が硫酸水溶液である場合、前記硫酸バリウム粉末の平均粒子径は、1μm以下である。前記液体が純水である場合、前記硫酸バリウム粉末の平均粒子径は、0.4μm以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池用負極板の製造方法であって、
前記製造方法は、
硫酸バリウム粉末と液体とを混合して分散液を調製する第1工程と、
前記分散液と鉛酸化物を主成分とする粉末とを混合して負極ペーストを調製する第2工程と、を備え、
前記硫酸バリウム粉末の平均粒子径は、1μm以下であり、
前記液体は、硫酸水溶液である、鉛蓄電池用負極板の製造方法。
【請求項2】
前記硫酸水溶液の20℃における密度は、1.03g/cm3以上である、請求項1に記載の鉛蓄電池用負極板の製造方法。
【請求項3】
鉛蓄電池用負極板の製造方法であって、
前記製造方法は、
硫酸バリウム粉末と液体とを混合して分散液を調製する第1工程と、
前記分散液と鉛酸化物を主成分とする粉末とを混合して負極ペーストを調製する第2工程と、を備え、
前記硫酸バリウム粉末の平均粒子径は、0.4μm以下であり、
前記液体は、純水である、鉛蓄電池用負極板の製造方法。
【請求項4】
前記硫酸バリウム粉末の平均粒子径は、0.01μm以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用負極板の製造方法。
【請求項5】
前記鉛酸化物を主成分とする粉末100質量部に対する前記硫酸バリウム粉末の量は、0.5質量部以上である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用負極板の製造方法。
【請求項6】
前記鉛酸化物を主成分とする粉末100質量部に対する前記硫酸バリウム粉末の量は、7質量部以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用負極板の製造方法。
【請求項7】
前記分散液中の硫酸バリウムの含有量は、55質量%以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用負極板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池用負極板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池は、正極板および負極板と、これらの間に介在するセパレータと、電解液と、を備えている。
【0003】
鉛蓄電池用負極板は、負極電極材料と負極電極材料を保持する負極集電体とを備える。負極板は、例えば、鉛酸化物を主成分とする粉末を含む負極ペーストを、負極集電体に充填し、乾燥することにより未化成の負極板を作製し、未化成の負極板を化成することにより形成される。負極ペーストは、例えば、鉛酸化物を主成分とする粉末と、必要に応じて添加剤と、硫酸水溶液とを混合することにより調製される。添加剤として、有機防縮剤、硫酸バリウムなどが使用されている。硫酸バリウムは、水または硫酸水溶液に対する溶解性が低く、一般に、粉末の形態で負極ペーストの調製に使用される。硫酸バリウム粉末は凝集性が高く、負極ペースト中に均一に分散させることが難しい。
【0004】
特許文献1は、硫酸バリウムの凝集粉末を界面活性剤配合の溶液中で解砕し、得られた硫酸バリウム懸濁液を負極活物質の添加剤として鉛蓄電池用負極ペーストを製造することを特徴とする鉛蓄電池用負極ペーストの製造方法を提案している。
【0005】
特許文献2は、バリウムイオンと硫酸イオンとの反応により硫酸バリウムを析出せしめた反応液、またはこれを濃縮した反応液、或いはその濾過により分取したスラリー状の硫酸バリウム反応液を調製すること、次で、これを負極活物質ペーストの調製時に添加し、混練して負極活物質ペーストを調製することから成る工程を特徴とする鉛蓄電池の負極板の製造法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-257432号公報
【特許文献2】特開2001-332252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
硫酸バリウム粒子は、鉛蓄電池の放電時に生成する硫酸鉛の結晶核となり、硫酸鉛の粗大化を抑制する作用を有する。そのため、硫酸バリウムを負極板に用いると、充電時に硫酸鉛から鉛への還元反応が起こり易くなることで、充電受入性が向上して、回生受入性が高まる傾向がある。一方で、硫酸バリウムを用いると、相対的に鉛の含有量が減少するため、放電容量は低下する傾向がある。高い放電容量を確保しながら、高い回生受入性を確保する観点からは、負極電極材料中に粒子径が小さな硫酸バリウム粒子を均一に分散させることが有利である。しかし、硫酸バリウム粒子は、粒子径が小さくなるほど、凝集性が高まる。そのため、粒子径の小さな硫酸バリウム粒子を負極電極材料中により均一な状態で分散させることは実際には難しく、未だ、回生受入性の十分な向上効果を引き出せていない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1側面は、鉛蓄電池用負極板の製造方法であって、
前記製造方法は、
硫酸バリウム粉末と液体とを混合して分散液を調製する第1工程と、
前記分散液と鉛酸化物を主成分とする粉末とを混合して負極ペーストを調製する第2工程と、を備え、
前記硫酸バリウム粉末の平均粒子径は、1μm以下であり、
前記液体は、硫酸水溶液である、鉛蓄電池用負極板の製造方法に関する。
【0009】
本発明の第2側面は、鉛蓄電池用負極板の製造方法であって、
前記製造方法は、
硫酸バリウム粉末と液体とを混合して分散液を調製する第1工程と、
前記分散液と鉛酸化物を主成分とする粉末とを混合して負極ペーストを調製する第2工程と、を備え、
前記硫酸バリウム粉末の平均粒子径は、0.4μm以下であり、
前記液体は、純水である、鉛蓄電池用負極板の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
鉛蓄電池の回生受入性を向上できる負極板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る製造方法により得られる負極板を備える鉛蓄電池の外観と内部構造を示す一部切り欠き斜視図である。
【
図2】実施例の鉛蓄電池E15の充電状態が50%のときの負極板の走査型電子顕微鏡画像である。
【
図3】比較例の鉛蓄電池C5の充電状態が50%のときの負極板の走査型電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
鉛蓄電池の高い回生受入性を確保する観点からは、小さな粒子径の硫酸バリウム粒子が負極電極材料中に均一に分散されていることが有利である。しかし、負極スラリーの調製に用いられる硫酸バリウム粉末の粒子径が小さくなると、粒子間の相互作用の影響を受け易く、凝集し易くなる。平均粒子径が小さな硫酸バリウムの粉末を他の成分と混合して負極スラリーを調製しても、凝集した状態で分散されてしまう。そのため、放電時に生成する硫酸鉛の粒子径を小さくする効果はほとんど得られず、回生受入性の向上効果を十分に引き出すことは難しい。
【0013】
特許文献1のように、分散剤として機能するような界面活性作用を有する成分を含む溶液中で、硫酸バリウムを解砕すると、硫酸バリウム粒子の分散性が向上し、高い回生受入性が得られると期待される。しかし、この場合、実際には、回生受入性の向上効果はほとんど得られない。これは、硫酸バリウム粒子の分散性の向上効果が不十分であるためと考えられる。加えて、硫酸バリウム粒子の表面が、界面活性作用を有する成分で覆われた状態となることで、鉛イオンおよび硫酸イオンなどとの反応性が低下し、硫酸バリウム粒子を核とした硫酸鉛の生成が阻害されることも要因であると考えられる。特に、硫酸バリウム粒子の粒子径が小さい場合には、界面活性作用を有する成分で覆われる硫酸バリウム粒子の表面積が相対的に大きくなるため、放電時に硫酸鉛の生成が阻害されることによる影響が顕在化する。また、特許文献2の方法で得られる反応液中の硫酸バリウム粒子は、粒子径のばらつきが大きいため、反応液を用いて負極板を形成しても、回生受入性を高めることが難しい。
【0014】
このような知見に鑑み、本発明の第1側面に係る鉛蓄電池用負極板の製造方法は、硫酸バリウム粉末と液体とを混合して分散液を調製する第1工程と、分散液と鉛酸化物を主成分とする粉末とを混合して負極ペーストを調製する第2工程と、を備える。硫酸バリウム粉末の平均粒子径は、1μm以下である。液体は、硫酸水溶液である。
【0015】
本発明の第2側面に係る鉛蓄電池用負極板の製造方法は、硫酸バリウム粉末と液体とを混合して分散液を調製する第1工程と、鉛酸化物を主成分とする粉末とを混合して負極ペーストを調製する第2工程と、を備える。硫酸バリウム粉末の平均粒子径は、0.4μm以下である。液体は、純水である。
【0016】
このように第1側面および第2側面によれば、硫酸バリウム粉末を硫酸水溶液または純水を用いて分散液を調製し、この分散液を負極ペーストの調製に用いる。硫酸バリウムは、硫酸水溶液に対する親和性が高い。そのため、平均粒子径が小さな硫酸バリウム粉末を硫酸水溶液中に添加して撹拌するだけでも、硫酸バリウム粒子が帯電して、ファンデルワールス力により、凝集が軽減され、硫酸水溶液中により均一な状態で微分散される。この分散液を負極ペーストの調製に用いることで、負極電極材料中に粒子径が小さな硫酸バリウム粒子が高い分散性で分散された状態の負極板を形成できる。このような負極板を用いた鉛蓄電池では、放電時に粒子径が小さな硫酸バリウム粒子を核として硫酸鉛が結晶成長するため、硫酸鉛の粗大化が抑制される。そのため、充電時に硫酸鉛から鉛への還元反応が起こり易くなることで、充電受入性が向上する。その結果、回生受入性を向上することができる。また、負極電極材料中に小さな粒子径の硫酸バリウム粒子を高い分散性で分散できることで、負極活物質である鉛の単位体積当たりの硫酸バリウム含有量が比較的低くても、高い回生受入性が得られる。負極電極材料中の鉛の比率を相対的に高めることができるため、高い放電容量を確保することができる。
【0017】
分散液の調製に純水を用いる場合でも、硫酸バリウム粉末の平均粒子径が0.4μm以下の場合には、硫酸水溶液の場合と同様の効果が得られる。硫酸バリウム粉末を純水に分散させる場合でも、ファンデルワールス力により、硫酸バリウム粒子の凝集が軽減され、硫酸水溶液中により均一な状態で微分散されるためと考えられる。
【0018】
第1側面および第2側面では、界面活性作用を有する成分を含む溶液に硫酸バリウム粉末を分散させる場合とは異なり、分散液中の硫酸バリウム粒子の表面が硫酸鉛の結晶成長を阻害するような成分で覆われることもない。そのため、鉛蓄電池の放電時に、硫酸バリウム粒子を核とした硫酸鉛の結晶成長が阻害されることが抑制され、高い充電受入性を確保できる。この点からも、高い回生受入性を確保することができる。
【0019】
第1側面および第2側面において、分散液は、通常、有機防縮剤および界面活性剤からなる群より選択される少なくとも一種を含まない。有機防縮剤は、親水性の部分と疎水性の部分とを有しており、界面活性作用を有する。分散液が、有機防縮剤または界面活性剤などの界面活性作用を有する成分を含まないことで、高い充電受入性が得られ、高い回生受入性を確保することができる。また、分散液の段階で硫酸バリウム粒子の表面に付着した有機防縮剤は、負極ペーストを調製する際には、最早、界面活性作用をほとんど有しておらず、負極電極材料中で鉛の細孔を小さく保つ効果を発揮できないため、高い放電性能を確保することが難しい。
【0020】
第1側面において、硫酸水溶液の20℃における密度は、1.03g/cm3以上が好ましい。密度が高まることで、硫酸バリウム粒子がさらに帯電し、分散液中における硫酸バリウム粒子の分散性がさらに向上する。よって、より高い回生受入性を確保することができる。
【0021】
硫酸バリウム粉末の平均粒子径は、例えば、0.01μm以上である。このように平均粒子径が小さい場合でも、分散液中に高い分散性で硫酸バリウム粒子を分散することができ、高い回生受入性を確保することができる。
【0022】
鉛酸化物を主成分とする粉末100質量部に対する硫酸バリウム粉末の量は、0.5質量部以上であることが好ましい。この場合、硫酸バリウム粒子の凝集による分散性の低下が顕在化し易い。このような場合であっても、硫酸水溶液または純水を用いて分散液を予め調製することで、硫酸バリウム粒子の高い分散性を確保することができる。よって、より高い回生受入性を確保することができる。
【0023】
鉛酸化物を主成分とする粉末100質量部に対する硫酸バリウム粉末の量は、7質量部以下であることが好ましい。この場合、高い回生受入性を確保しながら、より高い初期容量を確保することができる。
【0024】
分散液中の硫酸バリウムの含有量は、55質量%以下が好ましい。この場合、分散液における硫酸バリウム粒子の分散性がさらに高まることで、負極ペースト中における硫酸バリウム粒子の分散性をさらに高めることができる。
【0025】
このような製造方法により得られる負極板では、負極電極材料中において放電時に生成する硫酸鉛の結晶性が低い。また、負極電極材料中に粒子径が小さな硫酸バリウム粒子が高い分散性で分散されており、凝集粒子の比率が少ない。負極電極材料中で放電時に生成する硫酸鉛の結晶性は、例えば、X線回折スペクトルにおける硫酸鉛の[211]面に相当するピークの半値全幅により評価することができる。また、負極電極材料中で硫酸バリウム粒子の凝集が低減され、高い分散性で分散されていることは、例えば、負極板の断面を電子線マイクロアナライザで分析した画像のBa分布におけるBaの特性X線の強度に基づいて評価することができる。
【0026】
鉛蓄電池は、制御弁式(密閉式)鉛蓄電池(VRLA型鉛蓄電池)および液式(ベント式)鉛蓄電池のいずれでもよい。
【0027】
(用語の説明)
(電極材料)
負極電極材料および正極電極材料の各電極材料は、通常、集電体に保持されている。電極材料とは、極板から集電体を除いた部分である。極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材とも称する)は極板と一体として使用されるため、極板に含まれる。極板が貼付部材(マット、ペースティングペーパなど)を含む場合には、電極材料は、極板から集電体および貼付部材を除いた部分である。
【0028】
なお、正極板のうち、クラッド式正極板は、複数の多孔質のチューブと、各チューブ内に挿入される芯金と、複数の芯金を連結する集電部と、芯金が挿入されたチューブ内に充填される正極電極材料と、複数のチューブを連結する連座とを備えている。クラッド式正極板では、正極電極材料は、極板から、チューブ、芯金、集電部、および連座を除いた部分である。クラッド式正極板では、芯金と集電部とを合わせて正極集電体と称する場合がある。
【0029】
(硫酸バリウム粉末の平均粒子径)
硫酸バリウム粉末の平均粒子径とは、硫酸バリウム粒子の一次粒子の平均粒子径である。硫酸バリウム粉末の平均粒子径は、レーザー回折または散乱式の粒度分布測定装置により測定される体積基準の粒度分布において、積算値の50%に相当する粒子径(メディアン径(D50))である。
【0030】
(純水)
純水とは、電気抵抗率が0.1MΩ・cm以上1.5MΩ・cm以下である水である。純水には、例えば、イオン交換、蒸留、および逆浸透膜濾過からなる群より選択される少なくとも一種の処理で得られる水が包含される。
【0031】
以下、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池用負極板の製造方法、この製造方法により得られる負極板、およびこの負極板を備える鉛蓄電池について、図面を参照しながらより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0032】
[負極板の製造方法]
鉛蓄電池用負極板の製造方法は、分散液を調製する第1工程と、負極ペーストを調製する第2工程と、を備える。製造方法は、通常、さらに、負極ペーストを用いて負極板を作製する第3工程を備える。以下に、各工程についてより具体的に説明する。
【0033】
(第1工程)
第1工程では、硫酸バリウム粉末と液体とを混合して分散液を調製する。液体としては、硫酸水溶液または純水が用いられる。
【0034】
硫酸バリウム粉末の平均粒子径(D50)は、1μm以下であり、0.7μm以下または0.6μm以下であってもよく、0.4μm以下または0.3μm以下であってもよい。液体として硫酸水溶液を用いる場合には、硫酸バリウム粉末の平均粒子径が1μm以下であれば、回生受入性の向上効果が得られる。液体として純水を用いる場合には、硫酸バリウム粉末の平均粒子径が0.4μm以下であれば、回生受入性の向上効果が得られる。硫酸バリウム粉末の平均粒子径の下限は特に制限されない。硫酸バリウム粉末の平均粒子径は、例えば、0.01μm以上である。硫酸バリウム粉末の平均粒子径は、分散液の調製に用いられる原料としての硫酸バリウム粉末の平均粒子径である。
【0035】
より高い回生受入性を確保する観点からは、硫酸バリウム粉末の最大粒子径は、例えば、2.5μm以下であり、2μm以下が好ましい。硫酸バリウム粉末の最大粒子径は、分散液の調製に用いられる原料としての硫酸バリウム粉末の一次粒子径の最大値である。
【0036】
硫酸バリウム粉末の平均粒子径および最大粒子径は、レーザー回折式の粒度分布測定装置により測定される。レーザー回折式の粒度分布測定装置としては、Malvern Panalytical社製のマスターサイザー3000を用いる。硫酸バリウム粉末の平均粒子径は、硫酸バリウム粉末を、ヘキサメタリン酸ナトリウム(NaHMP)水溶液(NaHMPの濃度:0.05質量%)中に、添加し、1分間の超音波分散を行うことにより得られた分散液を用いて測定される。
【0037】
硫酸水溶液の密度は、1g/cm3より大きければよい。硫酸水溶液の密度は、1.03g/cm3以上が好ましい。この場合、密度が高まることで、分散液中における硫酸バリウム粒子の分散性がさらに向上する。よって、より高い回生受入性を確保することができる。硫酸水溶液の密度が高くなると、回生受入性が高くなる傾向がある。そのため、硫酸水溶液の密度の上限は特に制限されず、例えば、1.4g/cm3以下であってもよい。なお、硫酸水溶液の密度は、20℃における密度である。
【0038】
分散液は、硫酸バリウム粉末と液体とを混合することにより得られる。混合の方法は特に制限されない。例えば、公知の撹拌機、ミキサーを用いてもよい。混合は、ボールミルなどの粉砕機を用いて行ってもよい。しかし、硫酸バリウム粉末の硫酸水溶液または純水に対する親和性は比較的高いため、硫酸バリウム粉末は、硫酸水溶液または純水に比較的分散し易い。そのため、粉砕機などを用いなくても、撹拌機またはミキサーなどにより、硫酸水溶液または純水中に、硫酸バリウム粒子を高い分散性で分散させることができる。
【0039】
鉛蓄電池において、放電時に生成する硫酸鉛の粗大化をより効果的に抑制する観点からは、第1工程で得られる分散液は、界面活性作用を有する成分(有機防縮剤および界面活性剤からなる群より選択される少なくとも一種など)を含まないことが望ましい。特に、硫酸バリウム粉末と液体との混合を、界面活性作用を有する成分の非存在下で行うことが望ましい。なお、鉛酸化物を主成分とする粉末との混合に先立って、分散液に界面活性作用を有する成分を添加し、得られる分散液を、鉛酸化物を主成分とする粉末と混合する場合を除外することを意図していない。しかし、より高い回生受入性を確保する観点からは、負極ペーストに界面活性作用を有する成分を添加する場合には、分散液とは別に添加することが好ましい。
【0040】
硫酸バリウム粉末と液体との混合は、液体が固化しない温度で行うことができ、例えば、10℃以上で行ってもよく、20℃以上で行ってもよい。混合は、例えば、60℃以下の温度で行うことができ、40℃以下で行ってもよい。
【0041】
硫酸バリウム粉末と液体との混合は、10℃以上(または20℃以上)60℃以下、あるいは10℃以上(または20℃以上)40℃以下で行ってもよい。
【0042】
硫酸バリウム粉末と液体との混合は、不活性ガス(窒素ガスなど)の雰囲気下で行ってもよく、大気雰囲気下で行ってもよい。
【0043】
硫酸バリウム粉末と液体との混合は、減圧下で行ってもよく、大気圧下で行ってもよい。
【0044】
硫酸バリウム粉末と液体との混合時間は、特に制限されず、混合のスケール、および混合方法などに応じて調節される。
【0045】
分散液中の硫酸バリウム(つまり、硫酸バリウム粒子)の含有量は、55質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下または25質量%以下であってもよい。硫酸バリウムの含有量がこのような範囲である場合、分散液における硫酸バリウム粒子の分散性がさらに高まることで、負極ペースト中における硫酸バリウム粒子の分散性をさらに高めることができる。分散液中の硫酸バリウムの含有量は、例えば、0.1質量%以上であり、1質量%以上または5質量%以上であってもよい。
【0046】
分散液中の硫酸バリウムの含有量は、0.1質量%以上55質量%以下(または40質量%以下)、0.1質量%以上30質量%以下(または25質量%以下)、1質量%以上55質量%以下(または40質量%以下)、1質量%以上30質量%以下(または25質量%以下)、5質量%以上55質量%以下(または40質量%以下)、あるいは5質量%以上30質量%以下(または25質量%以下)であってもよい。
【0047】
第1工程では、必要に応じて、添加剤を用いてもよい。しかし、硫酸バリウム粒子の表面に添加剤が付着して、放電時の硫酸鉛の結晶生成が阻害されないように、添加剤を用いないことが好ましい。
【0048】
(第2工程)
第2工程では、分散液と鉛酸化物を主成分とする粉末とを混合することにより負極ペーストを調製する。分散液および鉛酸化物を主成分とする粉末とともに、必要に応じて、添加剤を混合してもよい。添加剤としては、炭素質材料、有機防縮剤、補強材、その他の公知の添加剤などが挙げられる。有機防縮剤などを分散液と別に添加することで、放電時の硫酸バリウム粒子を核とする硫酸鉛の結晶成長が妨げられることが低減されるとともに、有機防縮剤の防縮効果を効果的に発揮させることができる。
【0049】
混合の順序は特に制限されない。例えば、全ての成分を一度に混合してもよく、一部の成分を予め混合し、残りの成分とともにさらに混合してもよい。例えば、分散液以外の成分(例えば、鉛酸化物を主成分とする粉末、炭素質材料、有機防縮剤および補強材)を予め混合し、得られる混合物を分散液と混合してもよい。分散液以外に、さらに液状成分(純水および硫酸水溶液の少なくとも一方など)を用いて混合してもよい。例えば、分散液以外の成分を予め混合し、純水を加えてさらに混合し、硫酸水溶液を用いた分散液を加えてさらに混合してもよい。また、分散液以外の成分を予め混合し、純水を用いた分散液を加えてさらに混合し、硫酸水溶液を加えてさらに混合してもよい。
【0050】
混合は、特に制限されず、例えば、混練機を用いて行うことができる。
【0051】
混合は、例えば、10℃以上で行うことができ、20℃以上で行ってもよい。混合は、例えば、40℃以下で行ってもよい。
【0052】
混合は、大気雰囲気下で行うことができる。混合は、通常、大気圧下で行われる。
【0053】
鉛酸化物を主成分とする粉末は、鉛酸化物として一酸化鉛を含んでいる。鉛酸化物を主成分とする粉末中の鉛酸化物の割合は、50質量%より多く、通常、70質量%以上である。鉛酸化物を主成分とする粉末は、一酸化鉛の粉末のみを含んでもよい。また、鉛酸化物を主成分とする粉末は、鉛酸化物の粉末に加え、鉛の粉末などの他の成分を含んでいてもよい。鉛酸化物を主成分とする粉末に占める他の成分の割合は、通常、30質量%以下である。鉛酸化物を主成分とする粉末は、一般に、「鉛粉」と呼ばれることもある。鉛酸化物を主成分とする粉末としては、鉛蓄電池の電極材料の製造に利用される一般的な鉛粉を利用してもよい。なお、充電状態の負極活物質は、海綿状鉛である。
【0054】
分散液と鉛酸化物を主成分とする粉末との混合比は、鉛酸化物を主成分とする粉末100質量部に対する硫酸バリウム(または硫酸バリウム粉末)の量が、例えば、0.1質量部以上、好ましくは0.5質量部以上または1質量部以上となるように調節される。硫酸バリウムの量が0.5質量部以上の場合、通常は、硫酸バリウム粒子の凝集による分散性の低下が顕在化し易いが、この場合であっても、分散液を用いることより、負極電極材料中での硫酸バリウム粒子の高い分散性を確保することができる。また、分散液と鉛酸化物を主成分とする粉末との混合比は、鉛酸化物を主成分とする粉末100質量部に対する硫酸バリウム(または硫酸バリウム粉末)の量が、例えば、7質量部以下、好ましくは5質量部以下となるように調節される。この場合、高い初期容量を確保することができる。
【0055】
鉛酸化物を主成分とする粉末100質量部に対する硫酸バリウムの量は、0.1質量部以上7質量部以下(または5質量部以下)、0.5質量部以上7質量部以下(または5質量部以下)、あるいは1質量部以上7質量部以下(または5質量部以下)であってもよい。
【0056】
炭素質材料としては、カーボンブラック、黒鉛(人造黒鉛、天然黒鉛など)、ハードカーボン、ソフトカーボンなどが挙げられる。負極ペーストは、炭素質材料を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0057】
炭素質材料の量は、鉛酸化物を主成分とする粉末100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上である。炭素質材料の量は、鉛酸化物を主成分とする粉末100質量部に対して、例えば、3.5質量部以下である。
【0058】
有機防縮剤としては、リグニン、リグニンスルホン酸またはその塩、合成有機防縮剤(フェノール化合物のホルムアルデヒド縮合物など)などが挙げられる。負極ペーストは、有機防縮剤を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0059】
有機防縮剤の量は、鉛酸化物を主成分とする粉末100質量部に対して、例えば、0.01質量部以上である。有機防縮剤の量は、鉛酸化物を主成分とする粉末100質量部に対して、例えば、1.2質量部以下である。
【0060】
補強材としては、例えば、繊維(無機繊維、有機繊維など)が挙げられる。有機繊維を構成する樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、およびセルロース化合物(セルロース、レーヨンなど)からなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0061】
補強材の量は、鉛酸化物を主成分とする粉末100質量部に対して、例えば、0.03質量部以上である。補強材の量は、鉛酸化物を主成分とする粉末100質量部に対して、例えば、0.6質量部以下である。
【0062】
(第3工程)
第3工程では、第2工程で調製した負極ペーストを用いて負極板を作製する。より具体的には、負極集電体に、負極ペーストを充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製する。次いで、未化成の負極板を化成することにより負極板が形成される。形成される負極板は、負極電極材料と負極電極材料を保持する負極集電体とを備える。
【0063】
負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工、および打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。負極集電体として格子状の集電体を用いると、負極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0064】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。鉛または鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、およびCuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。負極集電体は、表面層を備えていてもよい。負極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なってもよい。表面層は、負極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、負極集電体の耳部に形成されていてもよい。耳部の表面層は、SnまたはSn合金を含有してもよい。
【0065】
熟成工程では、室温(例えば、20℃以上35℃以下)より高温で、かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0066】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状鉛が生成する。
【0067】
[鉛蓄電池]
鉛蓄電池は、極板群および電解液を備える少なくとも1つのセルを備える。極板群は、負極板と、正極板と、負極板および正極板の間に介在するセパレータとを備える。
【0068】
(負極板)
鉛蓄電池は、上記の製造方法により得られた負極板を備える。このような負極板では、負極電極材料中において放電時に生成する硫酸鉛の結晶性が低い。また、負極電極材料中に粒子径が小さな硫酸バリウム粒子が高い分散性で分散されている。
【0069】
負極電極材料中で放電時に生成する硫酸鉛の結晶性は、例えば、X線回折スペクトルにおける硫酸鉛の[211]面に相当するピークの半値全幅により評価することができる。より具体的に説明すると、上記の製造方法において、分散液の調製条件を変化させた場合、負極電極材料のXRDスペクトルにおける硫酸鉛に起因する主なピークのうち、[211]面に相当するピークの半値全幅に変化が見られ、その他の面に相当するピークの半値全幅には大きな変化が見られない。鉛蓄電池の回生受入性は、[211]面に相当するピークの半値全幅の変化に応じて変化しており、放電時に生成する硫酸鉛の結晶性と関連することが明らかとなった。なお、[211]面に相当するピークは、2θが28.5°以上30.5°以下の範囲(通常、29.6°付近)に観測される。
【0070】
鉛蓄電池を満充電した後、5時間率電流で50%の充電状態まで放電したときの負極電極材料のX線回折(XRD:X-ray diffraction)スペクトルにおける硫酸鉛の[211]面に相当するピークの半値全幅は、0.137°以上である(以下、条件(a)と称することがある)。条件(a)により、充電時に硫酸鉛から鉛への還元反応が進行し易くなり、充電受入性が向上するため、高い回生受入性が得られる。さらに高い回生受入性を確保する観点からは、上記ピークの半値全幅は、0.139°以上が好ましい。放電時の鉛から硫酸鉛への反応がスムーズに進行し易くなり、高い放電性能を確保し易い観点からは、上記ピークの半値全幅は、0.2°以下が好ましく、0.19°以下がより好ましい。
【0071】
上記ピークの半値全幅は、0.137°以上(または0.139°以上)0.2°以下、あるいは0.137°以上(または0.139°以上)0.19°以下であってもよい。
【0072】
なお、鉛蓄電池を満充電した後、5時間率電流で50%の充電状態(SOC:State of charge)まで放電したときの負極板を、単に、SOC50%における負極板と称することがある。
【0073】
また、負極電極材料中で硫酸バリウム粒子の凝集が低減され、高い分散性で分散されていることは、例えば、負極板の断面を電子線マイクロアナライザで分析した画像におけるBaの特性X線の強度に基づいて評価することができる。
【0074】
より具体的には、負極板の厚み方向に平行な断面を、電子線マイクロアナライザ(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer)で分析した250dpi以上350dpi以下の解像度の画像の画素数がX方向200×Y方向400の領域(以下、領域Aと称することがある)において、Baの特性X線に帰属されるRGBのRの強度を最大値に調節し、最大値の1/2の強度を閾値として二値化処理したときの閾値以上の強度を示す部分のうち、領域Aの0.05%以上の面積割合を有する島の個数が1個以下である(以下、条件(b)と称することがある)。島の個数は、1個未満であることが好ましい。このような面積割合を有する島は、硫酸バリウム粒子の凝集粒子に相当する。条件(b)により、凝集粒子の個数比率が少ないことで、放電時の硫酸鉛の粗大化を抑制する効果がさらに高まる。充電時に硫酸鉛から鉛への還元反応が進行し易くなることで、充電受入性が向上するため、高い回生受入性が得られる。1つの島の面積割合は、例えば、0.5%以下であり、0.3%以下または0.1%以であってもよい。これより大きな面積割合を有する島は、領域Aにおいて観察されない(または含まれない)ことが好ましい。なお、EPMA画像は、信号強度の最も高い点が赤(R)になり、それより信号強度が下がるに従って寒色系に移行するものとする。
【0075】
負極板は、条件(a)および条件(b)の双方を充足してもよい。
【0076】
さらに高い回生受入性を確保する観点からは、上記閾値以上の強度を示す部分の領域Aに占める比率は、2.8%以下であることが好ましく、2.5%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましい。この場合、負極電極材料中で硫酸バリウム粒子がより高い分散性で分散されており、充電受入性が高まることで、高い回生受入性が得られる。
【0077】
なお、液式の鉛蓄電池の満充電状態とは、JIS D 5301:2019の定義によって定められる。より具体的には、25℃±2℃の水槽中で、定格容量として記載の数値(単位をAhとする数値)の0.2倍の電流(A)で、15分ごとに測定した充電中の端子電圧(V)または20℃に温度換算した電解液密度が3回連続して有効数字3桁で一定値を示すまで、鉛蓄電池を充電した状態を満充電状態とする。また、制御弁式の鉛蓄電池の場合、満充電状態とは、25℃±2℃の気槽中で、定格容量に記載の数値(単位をAhとする数値)の0.2倍の電流(A)で、2.23V/セルの定電流定電圧充電を行い、定電圧充電時の充電電流が定格容量に記載の数値(単位をAhとする数値)の0.005倍の値(A)になった時点で充電を終了した状態である。
【0078】
満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電した鉛蓄電池をいう。鉛蓄電池の満充電は、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい(例えば、化成後で、使用中(好ましくは使用初期)の鉛蓄電池を満充電してもよい)。
【0079】
使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池をいう。
【0080】
(負極板、負極電極材料、またはその構成成分の分析)
以下、負極電極材料のXRDスペクトルの測定およびEPMA分析の手順について記載する。XRDスペクトルは、満充電状態から5時間率電流でSOC50%まで放電した状態の鉛蓄電池から取り出した負極板から採取した負極電極材料を用いて行われる。EPMA分析は、満充電状態の鉛蓄電池から取り出した負極板またはこの負極板から採取した負極電極材料を用いて行われる。
【0081】
《サンプル調製》
(サンプルA)
満充電状態の鉛蓄電池をJIS D5301:2019に定義される5時間率電流でSOC50%まで放電する。放電直後の鉛蓄電池を解体して分析対象の負極板を入手する。入手した負極板を水洗し、負極板から電解液を除去する。水洗は、水洗した負極板表面にpH試験紙を押し当て、試験紙の色が変化しないことが確認されるまで行う。ただし、水洗を行う時間は、2時間以内とする。水洗した負極板は、減圧環境下、60±5℃で6時間程度乾燥する。乾燥後に、負極板に貼付部材が含まれる場合には、剥離により負極板から貼付部材が除去される。次に、負極板から負極電極材料を分離してすることにより、XRDスペクトル測定用のサンプル(以下、サンプルAと称する)を得る。
【0082】
(サンプルB)
満充電状態の鉛蓄電池を解体して分析対象の負極板を入手する。入手した負極板を用いる以外は、サンプルAの手順と同様にして、負極板を水洗、乾燥する。乾燥後に、負極板に貼付部材が含まれる場合には、剥離により負極板から貼付部材が除去される。得られた負極板全体に、エポキシ樹脂を含浸させ、硬化させる。硬化した状態で所定の箇所を負極板の厚み方向に切断し、切断された断面(厚み方向に平行な断面)を研磨する。このようにしてEPMA分析用のサンプルBを作製する。
【0083】
《XRDスペクトル測定》
粉砕したサンプルAを用いて、負極電極材料のXRDスペクトルを下記の条件で測定し、硫酸鉛の[211]面に相当するピークの半値全幅(°)を求める。
使用装置:RIGAKU社製の全自動多目的X線回折装置 Smart Lab(水平ゴニオメータθ-θ型、Cu-Kα線)
解析ソフト:RIGAKU社製の統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL2
印加電圧:40kV
印加電流:30mA
試料ホルダー:直径18mmの円形ホルダー
標準物質:シリコン
【0084】
《EPMA分析》
サンプルBを用いて、負極板の厚み方向に平行な断面のBaの分布を、EPMA(島津製作所製の電子線マイクロアナライザ EPMA-1600)により分析し、解像度250dpi以上350dpi以下の画像を得る。得られた画像の画素数がX方向200×Y方向400の領域(領域A)において、Baの特性X線に帰属されるRGBのRの強度を最大値(具体的には、255)に調節し、当該最大値の1/2の強度(=255/2≒128)を閾値として、画像処理ソフトにより二値化処理する。二値化処理した画像において、閾値以上の強度を示す部分の、領域Aに占める比率(%)を求める。この比率は、閾値以上の強度を示す部分の面積の、領域Aの面積に占める比率(%)である。また、領域Aの0.05%以上の面積割合を有する島の個数は、二値化処理した画像において計測される。画像処理ソフトとしては、JTrim(ver.1.53c)を用いる。
【0085】
(正極板)
鉛蓄電池の正極板としては、ペースト式およびクラッド式のいずれの正極板を用いてもよい。ペースト式正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを具備する。クラッド式の正極板の構成は前述の通りである。
【0086】
正極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工および打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。正極集電体として格子状の集電体を用いると、正極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0087】
正極集電体に用いる鉛合金としては、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金などが挙げられる。正極集電体は、表面層を備えていてもよい。正極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なってもよい。表面層は、正極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、正極集電体の格子部分のみ、耳部分のみ、または枠骨部分のみに形成されていてもよい。
【0088】
正極板に含まれる正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤(補強材など)を含んでもよい。
【0089】
添加剤の補強材としては、例えば、繊維(無機繊維、有機繊維(負極ペーストの補強材について例示した樹脂で形成された有機繊維など)など)が挙げられる。
【0090】
未化成のペースト式正極板は、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。正極ペーストは、鉛酸化物を主成分とする粉末、添加剤、水、および硫酸を混練することで調製される。未化成のクラッド式正極板は、集電部で連結された芯金が挿入された多孔質なチューブに、正極電極材料の構成成分を含むスラリーまたは鉛酸化物を主成分とする粉末を充填し、複数のチューブを連座で結合することにより形成される。その後、これらの未化成の正極板を化成することにより正極板が得られる。鉛酸化物を主成分とする粉末としては、例えば、負極ペーストについて記載した鉛酸化物を主成分とする粉末が使用される。
【0091】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の正極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0092】
(極板群)
極板群は、少なくとも1つの正極板と少なくとも1つの負極板と、正極板および負極板の間に介在するセパレータとを備えている。極板群が2つ以上の負極板を備える場合、少なくとも1つの負極板が上記の製造方法により得られた負極板であればよい。より高い回生受入性を確保し易い観点からは、極板群に含まれる負極板の数の50%以上(好ましくは80%以上)が上記の製造方法により得られた負極板であることが好ましい。極板群に含まれる負極板のうち、上記の製造方法により得られた負極板の数の割合は100%以下である。極板群に含まれる負極板の全てが上記の製造方法により得られた負極板であってもよい。
【0093】
鉛蓄電池は、極板群を1つ備えてもよく、2つ以上備えてもよい。鉛蓄電池が、2つ以上の極板群を備える場合、少なくとも1つの極板群が、上記の製造方法により得られた負極板を備えていればよい。より高い回生受入性を確保し易い観点からは、鉛蓄電池に含まれる極板群の数の50%以上(好ましくは80%以上)において、極板群が上記の製造方法により得られた負極板を備えていることが好ましい。鉛蓄電池に含まれる極板群のうち、上記の製造方法により得られた負極板を備える極板群の割合は100%以下である。鉛蓄電池に含まれる極板群の全てにおいて、上記の製造方法で得られた負極板が含まれることが好ましい。
【0094】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液である。電解液は、さらに、Naイオン、Liイオン、Mgイオン、およびAlイオンからなる群より選択される少なくとも一種などを含んでもよい。電解液は、必要に応じてゲル化させてもよい。
【0095】
電解液の20℃における比重は、例えば、1.10以上である。電解液の20℃における比重は、1.35以下であってもよい。なお、これらの比重は、既化成で満充電状態の鉛蓄電池の電解液についての値である。
【0096】
図1に、鉛蓄電池の一例の外観を示す。
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収容されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で閉じられる。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0097】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状のセパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3を並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続され、正極棚部5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0098】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0099】
《電池E1~E26およびR1~R2》
(1)負極板の作製
表に示す平均粒子径を有する硫酸バリウム粉末と表に示す液体とを容器に入れ、25℃および大気雰囲気下にて、スターラーおよび撹拌子を用いて混合することにより分散液を調製した。分散液中の硫酸バリウム粒子の含有量は、9~23質量%とした。液体のうち、リグニン水溶液としては、リグニン(リグニンスルホン酸ナトリウム)を純水に溶解させた水溶液(リグニン濃度:0.05質量%)を用いた。
【0100】
鉛酸化物を主成分とする粉末、カーボンブラック、補強材(合成樹脂繊維)、および必要に応じてリグニン(リグニンスルホン酸ナトリウム)を混合し、混合物Aを得た。混合物Aに、純水、リグニン水溶液を用いた分散液、または純水を用いた分散液を添加して、混合し、混合物Bを得た。混合物Aに純水を添加した場合には、混合物Bに硫酸水溶液を用いた分散液を添加し、混合した。混合物Aに分散液を添加した場合には、混合物Bに硫酸水溶液を添加して、混合した。このようにして、負極ペーストを調製した。なお、混合物Bにリグニン水溶液を用いた分散液を用いる場合には、混合物Aの調製にはリグニンは用いなかった。
【0101】
負極ペーストをPb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成、乾燥して、未化成の負極板(幅100mm、高さ115mm、厚さ1.2mm)を得た。カーボンブラック、リグニンおよび合成樹脂繊維の量は、既化成の満充電の状態で測定したときに、それぞれ0.3質量%、0.1質量%および0.1質量%になるように調節した。分散液の添加量は、鉛酸化物を主成分とする粉末100質量部に対する硫酸バリウムの量(質量部)が表に示す値となるように調節した。
【0102】
(2)正極板の作製
鉛酸化物を主成分とする粉末、補強材(合成樹脂繊維)、水および硫酸を混合して正極ペーストを調製した。正極ペーストをPb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成し、乾燥して、未化成の正極板(幅100mm、高さ115mm、厚さ1.6mm)を得た。
【0103】
(3)鉛蓄電池の作製
未化成の負極板を、袋状セパレータに収容し、正極板と積層し、未化成の負極板7枚と未化成の正極板6枚とで極板群を形成した。
【0104】
正極板の耳部同士および負極板の耳部同士を、それぞれ、正極棚部および負極棚部と溶接した。極板群をポリプロピレン製の電槽に挿入し、電解液を注液して、電槽内で化成を施して、定格電圧12Vおよび定格容量が30Ah(5時間率容量(定格容量に記載のAhの数値の1/5の電流(A)で放電するときの容量))の液式の鉛蓄電池E1~E26およびR1~R2を組み立てた。なお、電槽内では6個の極板群が直列に接続されている。
【0105】
電解液としては、硫酸水溶液を用いた。化成後の電解液の20℃における比重は1.285であった。
【0106】
《鉛蓄電池C1~C8》
表に示す平均粒子径を有する硫酸バリウム粉末、鉛酸化物を主成分とする粉末、カーボンブラック、リグニン(リグニンスルホン酸ナトリウム)、および補強材(合成樹脂繊維)を混合した。混合物に純水を添加し、混合した。得られた混合物に硫酸水溶液を添加し、混合することにより負極ペーストを調製した。得られた負極ペーストを用いたこと以外は、鉛蓄電池E1~E26と同様にして、負極板を作製するとともに、鉛蓄電池を作製した。
【0107】
《評価》
(1)回生受入性
上記で作製した鉛蓄電池を、既述の手順で満充電状態にして、25℃±2℃で、回生受入性を下記の手順で評価した。
鉛蓄電池をJIS D5301:2019に定義される5時間率電流で0.5時間放電し、SOCを90%に調整した。次いで、鉛蓄電池を12時間放置(休止)した。鉛蓄電池を、2.42V/セルの定電圧にて、最大電流100Aで充電した。このとき、充電開始から10秒間に充電された電気量を求める。この電気量に基づいて、回生受入性を評価する。各鉛蓄電池の回生受入性は、鉛蓄電池C1で得られた値を100%としたときの相対値(%)で示した。
【0108】
(2)負極電極材料のXRDスペクトルの測定
既述の手順で、SOC50%のときの負極板から採取した負極電極材料のXRDスペクトルを測定し、硫酸鉛の[211]面に相当する2θ=29.6°付近のピークの半値全幅を求めた。
【0109】
(3)EPMA分析
既述の手順で、負極板の断面のEPMA分析を行い、Baの特性X線に帰属されるRGBのRの強度を最大値に調節し、最大値の1/2の強度を閾値として二値化処理したときの閾値以上の強度を示す部分の領域Aに占める比率を求めた。また、閾値以上の強度を示す部分のうち、領域Aの0.05%以上の面積割合を有する島の個数を求めた。
【0110】
(4)走査型電子顕微鏡による画像撮影
鉛蓄電池E15およびC5のそれぞれについて、既述の手順でサンプルAを調製する過程の負極電極材料を分離する前の負極板を、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)により撮影した。
【0111】
回生受入性の評価結果を表1および表2に示す。表には、分散液の調製に使用した液体の比重も示す。
【0112】
【0113】
表1に示されるように、硫酸バリウム粉末を、予め分散液を調製することなく、鉛酸化物を主成分とする粉末と混合する場合、硫酸バリウム粉末の平均粒子径が小さくなると、回生受入性が低下する傾向がある(C1~C6)。それに対し、予め、純水または硫酸水溶液を用いて硫酸バリウム粉末を分散させた分散液を調製すると、硫酸バリウム粉末の平均粒子径が小さくなっても、高い回生受入性が得られる(E1~E18)。
【0114】
【0115】
表2に示されるように、硫酸バリウム粉末を、予め分散液を調節することなく鉛酸化物を主成分とする粉末と混合する場合、硫酸バリウム粉末の量が多くなるほど、回生受入性は低下する傾向がある(C7、C5、およびC8)。それに対し、予め、純水または硫酸水溶液を用いて硫酸バリウム粉末を分散させた分散液を調製すると、硫酸バリウム粉末の量が多くなるほど、回生受入性が向上する(C7、C5およびC8と、E12~E15およびE19~E26との比較)。また、分散液の調製に使用する液体の密度が大きくなるほど、高い回生受入性が得られる。
【0116】
鉛蓄電池C1、E2、C5、E12~E15、およびE26について、XRDスペクトルにおける硫酸鉛の[211]面に相当するピークの半値全幅、EPMA分析における閾値以上の強度を示す部分の領域Aに占める比率および領域Aの0.05%以上の面積割合を有する島の個数を表3に示す。
【0117】
【0118】
表3に示されるように、負極板が条件(a)または条件(b)を充足する場合、高い回生受入性が得られた。より高い回生受入性を確保する観点からは、閾値以上の強度を示す部分の領域Aに占める比率は、2.8以下が好ましく、2.5以下がより好ましく、1.0以下であることがさらに好ましい。なお、表3には、一部の鉛蓄電池における結果を示したが、他の鉛蓄電池E1~E11およびE16~E25についても、表3に示す結果と同様のまたは類似の結果が得られる。
【0119】
鉛蓄電池E15およびC5のSOC50%における負極板のSEM画像を
図2および
図3にそれぞれ示す。
図2および
図3に示されるように、鉛蓄電池E15では、鉛蓄電池C5に比べて、放電時に生成する硫酸鉛の粒子径が小さくなっており、粗大化が抑制されていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の第1側面および第2側面に係る製造方法は、高い回生受入性が求められる鉛蓄電池の負極板の製造に適している。得られる負極板は、車両(自動車、バイクなど)の始動用電源、産業用蓄電装置(例えば、電動車両(フォークリフトなど)などの電源)などに用いられる鉛蓄電池に好適である。しかし、負極板の用途はこれらに限定されない。
【符号の説明】
【0121】
1:鉛蓄電池
2:負極板
3:正極板
4:セパレータ
5:正極棚部
6:負極棚部
7:正極柱
8:貫通接続体
9:負極柱
11:極板群
12:電槽
13:隔壁
14:セル室
15:蓋
16:負極端子
17:正極端子
18:液口栓