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特開2022-78564リグノセルロース分解システム、及びリグノセルロースの分解方法
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  • 特開-リグノセルロース分解システム、及びリグノセルロースの分解方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022078564
(43)【公開日】2022-05-25
(54)【発明の名称】リグノセルロース分解システム、及びリグノセルロースの分解方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20220518BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20220518BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALN20220518BHJP
【FI】
C12M1/00 D
C12N1/20 F ZNA
C12Q1/6851 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020189313
(22)【出願日】2020-11-13
(71)【出願人】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤司 昭
(72)【発明者】
【氏名】多田 千佳
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 雅也
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029BB02
4B029CC01
4B029DF02
4B029DF03
4B029DF06
4B029DF10
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ05
4B063QQ50
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QX02
4B065AA01X
4B065AC20
4B065BA22
4B065BA30
4B065BB26
4B065BC02
4B065BC03
4B065BC11
4B065BC12
4B065CA03
4B065CA55
(57)【要約】
【課題】リグノセルロース系バイオマスを効率的に分解することができるリグノセルロース分解システム、及びリグノセルロースの分解方法を提供する。
【解決手段】特定の細菌の存在数量を指標として反芻動物由来のルーメン液を選定する選定工程、特定の細菌の存在数量を指標としてルーメン微生物の培養を制御する培養工程、及び特定の細菌の存在数量を指標としてリグノセルロース分解を制御する分解工程のうち少なくともいずれか一つと、選定工程で選定されたルーメン液、培養工程で得られた培養液、及び分解工程で得られた反応液のうち少なくとも一つを用いてリグノセルロース系バイオマスを分解することにより生産されたリグノセルロース分解物を基質としてメタン発酵を行うメタン発酵工程と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグノセルロース系バイオマスを分解するリグノセルロース分解システムであって、
特定の細菌の存在数量を指標として反芻動物由来のルーメン液を選定する選定手段、特定の細菌の存在数量を指標としてルーメン微生物の培養を制御する培養槽、及び特定の細菌の存在数量を指標としてリグノセルロースの分解を制御する分解槽のうち少なくともいずれか一つと、
前記選定手段において選定されたルーメン液、前記培養槽内の培養液、及び前記分解槽内の反応液のうち少なくとも一つを用いてリグノセルロース系バイオマスを分解することにより生産されたリグノセルロース分解物を基質としてメタン発酵を行うメタン発酵槽と、
を備えるリグノセルロース分解システム。
【請求項2】
前記特定の細菌は、フィブロバクター・サクシノゲネス(Fibrobacter succinogenes)、ルミノコッカス・アルブス(Ruminococcus albus)、及びプレボテラ・ルミニコラ(Prevotella ruminicola)の3種類の細菌のうち、少なくとも一種以上であることを特徴とする請求項1に記載のリグノセルロース分解システム。
【請求項3】
前記特定の細菌の存在数量を定量PCR法により測定した場合、フィブロバクター・サクシノゲネス(Fibrobacter succinogenes)は1.0×10cоpies/mL以上、ルミノコッカス・アルブス(Ruminococcus albus)は1.0×10cоpies/mL以上、又はプレボテラ・ルミニコラ(Prevotella ruminicola)は1.0×1010cоpies/mL以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のリグノセルロース分解システム。
【請求項4】
温度、pH、酸化還元電位(ORP)、水理学的滞留時間(HRT)又は固形物滞留時間(SRT)、及び培地のアンモニウム態窒素濃度を含むパラメータに基づいて、前記培養槽内での前記ルーメン微生物の培養、及び前記分解槽内での前記リグノセルロース系バイオマスの分解のうち少なくともいずれか一つを制御することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のリグノセルロース分解システム。
【請求項5】
前記培養槽、又は前記分解槽は、前記ルーメン微生物の培養と前記リグノセルロースの分解とを一槽内で行う培養槽兼分解槽であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のリグノセルロース分解システム。
【請求項6】
リグノセルロース系バイオマスを分解するリグノセルロースの分解方法であって、
特定の細菌の存在数量を指標として反芻動物由来のルーメン液を選定する選定工程、特定の細菌の存在数量を指標としてルーメン微生物の培養を制御する培養工程、及び特定の細菌の存在数量を指標としてリグノセルロースの分解を制御する分解工程のうち少なくともいずれか一つと、
前記選定工程において選定されたルーメン液、前記培養工程で得られた培養液、及び前記分解工程で得られた反応液のうち少なくとも一つを用いてリグノセルロース系バイオマスを分解することにより生産されたリグノセルロース分解物を基質としてメタン発酵を行うメタン発酵工程と、
を備えるリグノセルロースの分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロース系バイオマスを効率的に分解することができるリグノセルロース分解システム、及びリグノセルロースの分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リグノセルロース系バイオマスは、植物細胞の細胞壁、即ち植物繊維の主成分から構成され、地球上に多く存在する有機炭素源であることから、石油などの化石燃料に代わるエネルギー資源として注目されている。リグノセルロース系バイオマスは、難分解性であることから、分解の段階において多大なエネルギー、コスト、及び時間を要する。そのため、エネルギー資源としての利用の拡大が滞っているのが実情である。
【0003】
従来、反芻動物の第一胃(ルーメン)に存在するルーメン液に含まれる細菌を利用した、リグノセルロース系バイオマスを分解する技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
特許文献1には、ルーメン液によるリグノセルロース含有廃棄物を用いた有機酸発酵方法が記載されている。具体的には、古紙などのリグノセルロース系バイオマスを原料とするメタン発酵の前処理において、ルーメン液を用いた反応系に還元作用を有するシステインを共存させて嫌気性条件下とし、30~45℃の中温、6~24時間の比較的短時間の反応により、メタン発酵の基質(原料)となり得る酢酸、プロピオン酸、及び酪酸等の有機酸の生産量を増加させ、これに伴い、効率良くメタンを製造することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2012/053631号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1においては、ルーメン液の採取元となる反芻動物の個体ごとに、ルーメン液に生息する細菌の菌数が一定ではないことや、リグノセルロース分解活性にばらつきがあることについては考慮されておらず、リグノセルロース分解を安定かつ効率的に進行させるためのルーメン液の選定については記載されていない。ルーメン液によっては、リグノセルロース分解活性が十分ではないものも存在するため、バイオマスの量に応じて、ルーメン液の供給量を調整しても、リグノセルロース分解がうまく進行しない場合があるという問題があった。また、リグノセルロース分解物の生産量が低くなると、それらを基質(原料)とするメタン発酵も進行しないため、安定かつ効率的にメタンを生成させることができないといった問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、リグノセルロース系バイオマスの分解を効率的に行うことを可能とし、リグノセルロース系バイオマスの分解により生産された分解物を基質(原料)とするメタン発酵を効率的に進行させるためのリグノセルロース分解システム、及びリグノセルロースの分解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のリグノセルロース分解システムは、リグノセルロース系バイオマスを分解するリグノセルロース分解システムであって、特定の細菌の存在数量を指標として反芻動物由来のルーメン液を選定する選定手段、特定の細菌の存在数量を指標としてルーメン微生物の培養を制御する培養槽、及び特定の細菌の存在数量を指標としてリグノセルロースの分解を制御する分解槽のうち少なくともいずれか一つと、前記選定手段において選定されたルーメン液、前記培養槽内の培養液、及び前記分解槽内の反応液のうち少なくとも一つを用いてリグノセルロース系バイオマスを分解することにより生産されたリグノセルロース分解物を基質としてメタン発酵を行うメタン発酵槽と、を備えることを特徴としている。
【0009】
上記構成によれば、特定細菌の菌数を指標としてリグノセルロース分解活性の高いルーメン液の選定、又は特定細菌の菌数を指標としてルーメン微生物の培養をモニタリングしながらリグノセルロース分解活性の評価を行うことができる。そのため、リグノセルロース系バイオマスの分解が効率的に進行し、単糖類、オリゴ糖、揮発性脂肪酸等のリグノセルロース分解物の生産量を増大させることができる。それにともない、メタン発酵槽内においてリグノセルロース分解物を基質(原料)とするメタン発酵を効率的に進行させることができる。
【0010】
また、本発明は、上記リグノセルロース分解システムにおいて、前記特定の細菌は、フィブロバクター・サクシノゲネス(Fibrobacter succinogenes)、ルミノコッカス・アルブス(Ruminococcus albus)、及びプレボテラ・ルミニコラ(Prevotella ruminicola)の3種類の細菌のうち、少なくとも一種以上であることを特徴としている。
【0011】
上記構成によれば、フィブロバクター・サクシノゲネス(Fibrobacter succinogenes)、ルミノコッカス・アルブス(Ruminococcus albus)、及びプレボテラ・ルミニコラ(Prevotella ruminicola)の3種類の細菌を、リグノセルロース分解活性が特に高い細菌として特定し、これらの3種類の細菌の少なくとも一種以上の存在数量を指標として選定されたルーメン液を用いること、又は上記3種類の細菌の少なくとも一種以上の存在数量を指標としてルーメン微生物の培養をモニタリングすることによりリグノセルロース分解活性をより正確に評価することができる。その結果、リグノセルロース系バイオマスの分解を安定かつ効率的に進行させることができる。
【0012】
また、本発明は、リグノセルロース分解システムにおいて、前記特定の細菌の存在数量を定量PCR法により測定した場合、フィブロバクター・サクシノゲネス(Fibrobacter succinogenes)は1.0×10cоpies/mL以上、ルミノコッカス・アルブス(Ruminococcus albus)は1.0×10cоpies/mL以上、又はプレボテラ・ルミニコラ(Prevotella ruminicola)は1.0×1010cоpies/mL以上であることを特徴としている。
【0013】
上記構成によれば、3種類の細菌の少なくとも一種以上の存在数量が所定値以上であるルーメン液を選定することにより、リグノセルロース分解活性の高いルーメン液を得ることができる。また、培養槽において、上記3種類の細菌の少なくとも一種以上の存在数量が所定値以上となるように、ルーメン微生物を培養することにより、リグノセルロース分解活性の高い培養液を得ることができる。さらに、培養槽又は分解槽において上記3種類の細菌を定期的にモニタリングし、それらの細菌の少なくとも一種以上の存在数量が所定値以上となるように培養槽又は分解槽を運転することにより、下流のメタン発酵槽においてメタンガスの発生量を促進させることができる。
【0014】
また、本発明は、上記セルロース分解システムにおいて、温度、pH、酸化還元電位(ORP)、水理学的滞留時間(HRT)又は固形物滞留時間(SRT)、及び培地のアンモニウム態窒素濃度を含むパラメータに基づいて、前記培養槽内での前記ルーメン微生物の培養、及び前記分解槽内での前記リグノセルロース系バイオマスの分解のうち少なくともいずれか一つを制御することを特徴としている。
【0015】
上記構成によれば、温度、pH、酸化還元電位(ORP)、水理学的滞留時間(HRT)又は固形物滞留時間(SRT)、及び培地のアンモニウム態窒素濃度を含むパラメータに基づいて、培養槽内でのルーメン微生物の培養、及び分解槽内でのリグノセルロース系バイオマスの分解のうち少なくともいずれか一つを制御することにより、培養槽内又は分解槽内を反芻動物の第一胃(ルーメン)内の環境に近似させ、リグノセルロース系バイオマスを分解するのに適した状態に保つことが可能となる。その結果、リグノセルロース系バイオマスをより安定かつ効率的に分解することができる。
【0016】
また、本発明は、上記セルロース分解システムにおいて、前記培養槽、又は前記分解槽は、前記ルーメン微生物の培養と前記リグノセルロースの分解とを一槽内で行う培養槽兼分解槽であることを特徴としている。
【0017】
上記構成によれば、ルーメン微生物の培養とリグノセルロースの分解とを一槽内で行うことができるため、リグノセルロース分解システムの製造コストを低減することができるとともに、設備をコンパクト化することができる。
【0018】
上記課題を解決するために、本発明のリグノセルロースの分解方法は、リグノセルロース系バイオマスを分解するリグノセルロースの分解方法であって、特定の細菌の存在数量を指標として反芻動物由来のルーメン液を選定する選定工程、特定の細菌の存在数量を指標としてルーメン微生物の培養を制御する培養工程、及び特定の細菌の存在数量を指標としてリグノセルロースの分解を制御する分解工程のうち少なくともいずれか一つと、前記選定工程において選定されたルーメン液、前記培養工程で得られた培養液、及び前記分解工程で得られた反応液のうち少なくとも一つを用いてリグノセルロース系バイオマスを分解することにより生産されたリグノセルロース分解物を基質としてメタン発酵を行うメタン発酵工程と、を備えることを特徴としている。
【0019】
上記構成によれば、特定細菌の菌数を指標としてリグノセルロース分解活性の高いルーメン液の選定、又は特定細菌の菌数を指標としてルーメン微生物の培養をモニタリングしながらリグノセルロース分解活性を評価することができる。そのため、リグノセルロース系バイオマスの分解が効率的に進行し、単糖類、オリゴ糖、揮発性脂肪酸等のリグノセルロース分解物の生産量を増大させることができる。それにともない、メタン発酵槽内においてリグノセルロース分解物を基質(原料)とするメタン発酵を効率的に進行させることができる。その結果、メタンの収率を向上させることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態に係るリグノセルロース分解方法を実施するためのリグノセルロース分解システムを示す概略図である。図1(a)は3相型のプロセスにより構成されるリグノセルロース分解システム、図1(b)は2相型のプロセスにより構成されるリグノセルロース分解システム、図1(c)は単相型のプロセスにより構成されるリグノセルロース分解システムを示す。
図2】本実施形態に係るリグノセルロース分解方法を実施するためのリグノセルロース分解システムを構成する槽の一例を示す図である。図2(a)は、図1(a)に示す3相型のリグノセルロース分解システムを構成する培養槽の一例を示す図である。図2(b)は、図1(b)に示す2相型のリグノセルロース分解システムを構成する培養槽兼分解槽の一例を示す図である。
図3】実施例において、ルーメン液A、及びルーメン液Bによるリグノセルロース分解の評価試験を示す図である。
図4】実施例において、ルーメン液A、ルーメン液B、及び下水汚泥消化液に含まれる全細菌、及び5種類のリグノセルロース分解細菌の菌数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者らは、反芻動物の第一胃に存在するルーメン液に生息する細菌(ルーメン微生物)のリグノセルロース分解への寄与を明らかにすることを目的として、定量PCR法による細菌数の定量を行った。ルーメン液に生息する代表的な5種類のリグノセルロース分解細菌数とリグノセルロース分解活性の関係を調査したところ、これらのうち、フィブロバクター・サクシノゲネス(Fibrobacter succinogenes)、ルミノコッカス・アルブス(Ruminococcus albus)、及びプレボテラ・ルミニコラ(Prevotella ruminicola)の3種類の細菌の存在数量とルーメン液のリグノセルロース分解活性とに概ね正の比例関係があることが明らかとなった。これにより、この3種類の細菌の存在数量に着目して、リグノセルロース分解活性の高いルーメン液の選定、又は特定細菌の菌数を指標としてルーメン微生物の培養をモニタリングしながらリグノセルロース分解活性の評価を行うことによって、リグノセルロース系バイオマスの分解を効率的に行うことができるとの知見が得られた。
【0022】
本発明に係るリグノセルロース分解システム、及びリグノセルロースの分解方法に関する実施形態や図面について、以下に具体的に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載されている構成に限定されることを意図しない。
【0023】
<リグノセルロース分解システムの構成>
図1を参照しつつ、本実施形態に係るリグノセルロースの分解方法を採用した3つのタイプのリグノセルロース分解システムについて説明する。
【0024】
図1(a)は、3相型のプロセスにより構成されるリグノセルロース分解システム1を示す。また、図2(a)は、図1(a)に示すリグノセルロース分解システム1を構成する培養槽10の一例を示す図である。図1(a)に示すように、リグノセルロース分解システム1は、ルーメン微生物を培養する培養槽10、培養したルーメン微生物を用いてリグノセルロース系バイオマスを後段のメタン発酵槽30で利用されやすい形に変換(分解)する分解槽20、及びメタン発酵槽30により構成される。培養槽10には、牛などから採取されたルーメン液、人工培地(人工だ液)、及び必要に応じて粉砕機40などによって破砕・粉砕されたリグノセルロース系バイオマスが供給されると、ルーメン液に存在するリグノセルロース分解細菌がリグノセルロースを分解代謝することにより増殖すると共にリグノセルロース分解物(リグノセルロースの部分分解物や酢酸等の揮発性脂肪酸(VFA:Volatile Fatty Acid))が生産される。図2(a)に示すように、培養槽10では、培養液11が撹拌機60で攪拌され、膜70(フィルター)などで固液分離された液体(ろ過液)及び未分解もしくは部分分解されたリグノセルロース系バイオマスを含む懸濁液が、それぞれ下流の分解槽20(前処理槽ともいう)に送られる。培養液11のろ過液と懸濁液が培養槽10から引き抜かれて分解槽20に送られる量を適宜調整することによって、培養槽10内の培養液11の水理学的滞留時間(HRT:Hydraulic retention time)及び固形物滞留時間(SRT:Sludge retention time)を制御することができる。培養液11のろ過液と懸濁液には多数のリグノセルロース分解細菌が含まれるので、分解槽20にリグノセルロース系バイオマスを供給すると、リグノセルロース分解細菌のはたらきによりリグノセルロース分解反応が進行し、酢酸等の揮発性脂肪酸(VFA)やリグノセルロース部分分解物を含む反応液が生産される。分解槽20からメタン発酵槽30に、リグノセルロース分解物を多く含む反応液が供給されると、メタン発酵槽30内に収容されているメタン発酵液中において、リグノセルロース分解物を基質(原料)とするメタン発酵が進行し、メタンが生成する。その後、メタン発酵槽30内のメタン発酵残渣は脱水機50に送られる。脱水機50から排出される脱水離脱液には、窒素源やリン源となる物質が含まれているので、培養槽10に還流して添加しても良い。また、脱水機50から排出される濃縮汚泥は肥料や建築資材等として利用してもよい。図1(a)に示す3相型のプロセスにより構成されるリグノセルロース分解システム1は、(1)ルーメン微生物の培養、(2)リグノセルロースの分解(前処理)、及び(3)メタン発酵、と各工程の役割が分かれているので、運転制御が行いやすいという利点がある。
【0025】
図1(b)は、2相型のプロセスにより構成されるリグノセルロース分解システム101を示す。また、図2(b)は、図1(b)に示すリグノセルロース分解システム101を構成する培養槽兼分解槽120の一例を示す図である。図1(b)に示すように、リグノセルロース分解システム101は、ルーメン微生物の培養とリグノセルロース系バイオマスの分解(前処理)とを兼ねた培養槽兼分解槽120、及びメタン発酵槽130により構成される。培養槽兼分解槽120には、牛などから採取されたルーメン液、人工培地(人工だ液)、及び必要に応じて粉砕機40などによって破砕・粉砕されたリグノセルロース系バイオマスが供給されると、ルーメン液に存在するリグノセルロース分解細菌がリグノセルロースを分解代謝することにより増殖すると共にリグノセルロース分解細菌のはたらきによりリグノセルロース分解反応が進行し、酢酸等の揮発性脂肪酸(VFA)やリグノセルロース部分分解物を含む反応液が生産される。図2(b)に示すように、培養槽兼分解槽120では、反応液121が撹拌機60で攪拌され、膜70(フィルター)などで固液分離された液体(ろ過液)及び未分解もしくは部分分解されたリグノセルロース系バイオマスを含む懸濁液が、それぞれ下流のメタン発酵槽130に送られる。反応液121のろ過液と懸濁液が培養槽兼分解槽120から引き抜かれてメタン発酵槽130に送られる量を適宜調整することによって、培養槽兼分解槽120内の反応液121の水理学的滞留時間(HRT)及び固形物滞留時間(SRT)を制御することができる。メタン発酵槽130に、リグノセルロース分解物を含む反応液121が供給されると、メタン発酵槽130内に収容されているメタン発酵液中において、リグノセルロース分解物を基質(原料)とするメタン発酵が進行し、メタンが生成する。その後、メタン発酵槽130内のメタン発酵残渣は脱水機50に送られる。脱水機50から排出される脱水離脱液には、窒素源やリン源となる物質が含まれているので、培養槽兼分解槽120に還流して添加しても良い。また、脱水機50から排出される濃縮汚泥は肥料や建築資材等として利用してもよい。図1(b)に示す2相型のプロセスは、培養工程と分解工程(前処理工程)とを一槽(培養槽兼分解槽120)で行うことができるプロセスであり、RUDAD(Rumen Derived Anaerobic Digestion)プロセスとして知られている(非特許文献 Huub J.Gijzen他、Biotechnology and Bioengineering,Vol.31,pp.418-425(1988))。本プロセスは3相型プロセスより槽が少ないので、より安価に建設することができるとともに、設備をコンパクト化することができる。
【0026】
図1(c)は、培養槽10、分解槽20、培養槽兼分解槽120を有さず、特定細菌の菌数を指標として選定されたルーメン液をメタン発酵槽230に直接投入し、メタン発酵槽230内でリグノセルロース系バイオマスの分解とメタン発酵とを行う単相型のプロセスにより構成されるリグノセルロース分解システム201を示す。メタン発酵槽230には、牛などから採取されたルーメン液、及び必要に応じて粉砕機40などによって破砕・粉砕されたリグノセルロース系バイオマスが供給されると、ルーメン液に存在するリグノセルロース分解細菌のはたらきによりリグノセルロース分解反応が進行し、酢酸等の揮発性脂肪酸(VFA)やリグノセルロース部分分解物を含む反応液が生産され、これらを基質として、あるいは水素と二酸化炭素を基質としてメタン発酵が進行する。単相型のプロセスにおいては、リグノセルロース分解活性が高い、選定されたルーメン液をリグノセルロース系バイオマスと直接反応させるため、人工培地(人工だ液)を添加しなくてもよいが、適宜必要に応じて添加してもよい。単相型のプロセスは、培養槽10、分解槽20などを有さないため、最も安価に建設することができるとともに、設備をさらにコンパクト化することができる。
【0027】
<リグノセルロースの分解方法>
本発明におけるリグノセルロースの分解方法について、以下、詳細に説明する。植物細胞の細胞壁の主成分であるリグノセルロースは、ヘミセルロース、セルロース、及びリグニンが強固に結合されることにより構成されている。牛などの反芻動物の第一胃(ルーメン)に存在するルーメン液には、リグノセルロースを分解する酵素を産生するルーメン微生物が多数存在する。本発明におけるリグノセルロースの分解方法では、リグノセルロース分解活性の高いルーメン微生物のはたらきを利用して、リグノセルロースが分解され、酢酸等の揮発性脂肪酸が生産される。ルーメン微生物のうち、フィブロバクター・サクシノゲネス(Fibrobacter succinogenes)、ルミノコッカス・アルブス(Ruminococcus albus)、及びプレボテラ・ルミニコラ(Prevotella ruminicola)の3種類の細菌の存在数量とリグノセルロース分解活性とに正の比例関係があることに基づき、これらの3種類の細菌のうち少なくとも一つの細菌の菌数を指標として、選定されたルーメン液を用いること、ルーメン微生物の培養をモニタリングしながら、リグノセルロース分解活性を評価すること、上記二点によりリグノセルロース系バイオマスを安定かつ効率的に分解することができる。
【0028】
原料となるリグノセルロース系バイオマスとしては、森林間伐材、稲藁、籾殻、バガス、茅等の未利用農林産廃棄物のほか、野菜屑、茶殻、コーヒー滓、おから、焼酎滓、建築廃材、古紙・廃紙、都市ゴミ等のリグノセルロース系産業廃棄物、またはエリアンサスやジャイアントミスカンサス等のバイオマス資源作物が挙げられる。また、シュレッダーにより裁断化された紙は、繊維が壊れ、リサイクルし難いものとして焼却されているが、このような裁断化された紙についても原料として利用することができる。リグノセルロース系バイオマスのリグノセルロース分解が進行し、酢酸等の揮発性脂肪酸が生産されると、メタン発酵の基質(原料)とすることができるため、メタンを効率的に製造することが可能である。また、揮発性脂肪酸まで発酵が進まなくとも、リグノセルロースがセロビオース等の分子量が小さな形状まで分解される、またはグルコース等の構成糖まで分解されると、メタン発酵の基質(原料)とすることができるため、メタンを効率的に製造することが可能である。
【0029】
[ルーメン液の選定工程]
ルーメン液は、反芻動物の第一胃(ルーメン)に存在する消化液である。反芻動物としては、牛、羊、山羊、鹿、ラクダ、ラマ等が挙げられる。例えば、成牛の第一胃は、150~200Lの容量があり、ルーメン液にはリグノセルロース分解細菌、ヘミセルロース分解細菌、リグニン分解細菌、デンプン分解細菌、メタン生成細菌等が多く生息している。リグノセルロース分解細菌は、リグノセルロース(繊維質)を分解するセルラーゼ等の酵素を産生することができる。そのため、反芻動物により、草などの繊維質が摂取されると、リグノセルロース分解細菌がリグノセルロースを分解し、反芻動物にとってのエネルギー源となる酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸等の揮発性脂肪酸(VFA:Volatile Fatty Acid)が生産される。また、ルーメン液に含まれるメタン生成細菌は、リグノセルロース分解細菌によって生産された酢酸を基質として、あるいは水素と二酸化炭素を基質としてメタンを生成することができる。ルーメン液は、反芻動物の第一胃からカテーテル等の管を用いて採取したものを使用してもよく、食肉加工工場等から発生したものを使用してもよい。
【0030】
ルーメン液の選定は、リグノセルロース分解細菌である、フィブロバクター・サクシノゲネス(Fibrobacter succinogenes)、ルミノコッカス・アルブス(Ruminococcus albus)、及びプレボテラ・ルミニコラ(Prevotella ruminicola)の3種類の細菌のうち少なくとも一つの細菌の菌数を指標として行うことができる。これらの細菌の菌数の定量は、特に限定されないが、特定の細菌の菌数を迅速かつ正確に測定することが可能な、定量PCR法により行うことが好ましい。
【0031】
定量PCR法を用いてリグノセルロース分解細菌の菌数の定量を行う場合、ルーメン液からゲノムDNAを抽出して精製したものを使用する。リグノセルロース分解細菌は、16S rRNAの遺伝子配列解析により、菌種が特定されることから、PCRプライマーまたはプローブを用いて、標的遺伝子である16S rRNAの遺伝子領域の増幅(コピー)数に基づき、目的とする細菌の菌数を定量することができる。
【0032】
[ルーメン微生物の培養工程]
リグノセルロース系バイオマスの分解には、反芻動物から得られたルーメン液を使用するほか、ルーメン微生物の培養液を使用してもよい。ルーメン微生物の培養液は、ルーメン液に培養液の濃縮液を添加して培養したものでもよく、ルーメン液を遠心分離して得られた沈殿物(菌体)に液体培地を添加して培養したものであってもよい。ルーメン微生物の培養において、フィブロバクター・サクシノゲネス(Fibrobacter succinogenes)、ルミノコッカス・アルブス(Ruminococcus albus)、及びプレボテラ・ルミニコラ(Prevotella ruminicola)の3種類の少なくとも一種以上の細菌の存在数量を指標として、温度、酸化還元電位(ORP:Oxidation‐Reduction Potential)、水理学的滞留時間(HRT)又は固形物滞留時間(SRT)、及び培地のアンモニウム態窒素濃度を調整することにより、リグノセルロース分解活性の高いルーメン微生物の培養液を得ることができる。これらの細菌の菌数の定量は、特に限定されないが、特定の細菌の菌数を迅速かつ正確に測定することが可能な、定量PCR法により行うことが好ましい。定量PCR法を用いてリグノセルロース分解細菌の菌数の定量を行う場合、培養液からゲノムDNAを抽出して精製したものを使用する。ルーメン微生物の培養液は、大量に培養したり、継代培養したりすることもできるため、細菌の菌数を調整したルーメン微生物の培養液を、必要に応じてリグノセルロース分解に利用することができる。
【0033】
ルーメン微生物の培養液に使用する培地としては、培地の基材が天然物に由来する天然培地を使用してもよく、ルーメン微生物の増殖に必要な各種栄養素がすべて化学薬品で構成されている合成培地を使用してもよい。特に、ルーメン微生物にとって有用な栄養源であるアンモニウム塩のような窒素源、リン酸塩のようなリン源等の他、セルロース、ヘミセルロース等の炭素源を含むことが好ましい。また、栄養源として、図1(a)(b)に示すように、脱水機50から排出される脱水脱離液には、窒素源やリン源となる物質が含まれているので、脱水脱離液を添加しても良い。また、培養工程後の分解工程において、酢酸等の揮発性脂肪酸(VFA)が生産されると、反応液中のpHが低下したり、浸透圧が上昇したりすることにより、リグノセルロース分解細菌の存在数量や機能が変化してしまうことから、pHの変化や浸透圧の上昇を和らげるために、培地に緩衝剤を添加することが好ましい。緩衝剤としては、反芻動物のだ液は緩衝能力が高いので、それを模した人工だ液を使用することが好ましい。緩衝剤としては、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、リン酸塩、及び塩化カリウム等が挙げられる。培地のpHは、6.0~7.5、好ましくは6.5~7.0に必要に応じ酸・アルカリを添加して調整する。また、培地に使用する水は、水道水や地下水を使用することが好ましい。また、培地のアンモニウム態窒素濃度は、50~2,000mg/L、より好ましくは60~500mg/Lとなるように、加水、または脱水脱離液を供給して制御する。
【0034】
図1(a)に示す培養槽10、又は図1(b)に示す培養槽兼分解槽120において、ルーメン微生物の培養工程をルーメン内の環境と同様、嫌気性状態とするために、ルーメン微生物の培養液の酸化還元電位は、-100mv以下、より好ましくは-200mv以下、さらに好ましくは-250mv程度に調整する。ルーメン微生物(リグノセルロース分解細菌)は嫌気性細菌であるため所定のORPより高くなった場合(好気状態に近づいた場合)は、窒素ガスや二酸化炭素ガスなどの不活性ガスを注入したり、システインやL-アスコルビン酸、硫化ナトリウム、アスコルビン酸、メチオニン、チオグリコール、DTTなどの還元物質を投入したり、あるいは有機物を投入して通性嫌気性菌の作用により酸素を消費させる等の処置を施してもよい。また、培養工程を窒素又は二酸化炭素雰囲気下での閉鎖系で行ってもよい。
【0035】
リグノセルロース系バイオマスの分解処理を行うたびに、ルーメン液を採取・運搬して使用することは、多大な費用とエネルギーの消費を伴う。従って、ルーメン微生物(リグノセルロース分解細菌)を長期にわたり安定に培養してルーメン液の採取頻度を低減することが望ましい。培養槽10又は培養槽兼分解槽120におけるルーメン微生物の培養は、固形物滞留時間(SRT)が水理学的滞留時間(HRT)より長いことが重要とされる。即ち、リグノセルロース分解細菌は固形物(リグノセルロース系バイオマス)の表面に付着して増殖するため、SRTが短いと固形物と共に系外に排出される。一方、HRTが必要以上に長いと、生産された揮発性脂肪酸(VFA)によるpHの低下や微生物の増殖の阻害などの負の要因となる。具体的には、HRTは8時間~36時間、好ましくは10時間~24時間、SRTは24時間以上、好ましくは、48時間~72時間に調節する。図2(a)(b)に示すように、培養液の攪拌が行われている完全混合系の槽内ではHRTとSRTを個々に調節することはできない、つまり、HRTとSRTが同じになるため、膜70(フィルター)を利用するなどの方法でろ過液と懸濁液とを個別に培養槽10、又は培養槽兼分解槽120から排出する。また、培養工程における反応系の温度は、35~42℃、より好ましくは37~40℃になるよう温度センサー等を利用して制御する。なお、培養槽10又は培養槽兼分解槽120に投入されるリグノセルロース系バイオマスの固形物濃度は、0.05~20重量%、より好ましくは0.1~5重量%である。
【0036】
[分解工程(前処理工程)]
分解工程(前処理工程ともいう)において、リグノセルロース系バイオマスは、リグノセルロース分解細菌が生産するリグニン分解酵素により、リグニンの一部が分解されリグノセルロースの強固な構造が緩んだ後、エンドグルカナーゼやエキソグルカナーゼ、あるいはキシラナーゼ等により、それぞれセルロースやヘミセルロースに分解され、グルコース等のヘキソース(六単糖)に変換される。さらに、グルコース等のヘキソース(六単糖)から、ピルビン酸等が生成され、さらに反応が進むと酢酸、プロピオン酸、酪酸、ギ酸等の揮発性脂肪酸(VFA)が生産される。また、代謝過程で水素や二酸化炭素も生産される。酢酸や水素、二酸化炭素は、メタン発酵の基材(原料)となるため、リグノセルロースの分解促進に伴い、酢酸や水素、二酸化炭素の生産量が増加すると、メタンの生成量も増加する。分解工程(前処理工程)において、リグノセルロースはヘキソース(六単糖)や揮発性脂肪酸(VFA)まで分解・代謝される必要はなく、難分解であるリグノセルロースが後段のメタン発酵工程で利用されやすい形状、例えば、オリゴ糖程度まで分解されれば十分である。分解工程(前処理工程)において、反応液中に含まれるリグノセルロース系バイオマスは、0.5~30重量%、より好ましくは0.5~10重量%である。
【0037】
図1(a)に示す分解槽20、又は図1(b)に示す培養槽兼分解槽120において、分解工程を反芻動物のルーメン内の環境に近似させ、リグノセルロース分解の効率を向上させるために、温度、pH、酸化還元電位(ORP)、水理学的滞留時間(HRT)又は固形物滞留時間(SRT)、及び培地のアンモニウム態窒素濃度を含むパラメータに基づいて、リグノセルロース系バイオマスを分解する制御を行い、培養液または反応液中の細菌の菌数を指標としてモニタリングすることが好ましい。これらの細菌の菌数の定量は、特に限定されないが、特定の細菌の菌数を迅速かつ正確に測定することが可能な、定量PCR法により行うことが好ましい。定量PCR法を用いてリグノセルロース分解細菌の菌数の定量を行う場合、培養液11又は反応液121からゲノムDNAを抽出して精製したものを使用する。
【0038】
培地には、ルーメン液に存在するリグノセルロース分解細菌の活性を高めるために、リグノセルロース分解細菌の栄養源となる窒素源としてアンモニウム塩、リン源としてリン酸塩等を適宜添加してもよい。図1(b)に示すように、脱水機から排出される脱水脱離液は、窒素源やリン源となる物質が含まれているので、脱水脱離液を添加しても良い。また、分解工程において、酢酸等の揮発性脂肪酸(VFA)が生産されると、反応液中のpHが低下したり、浸透圧が上昇したりすることにより、セルロース分解細菌の存在数量や機能が変化してしまうことから、pHの変化や浸透圧の上昇を和らげるために、培地に緩衝剤を添加することが好ましい。緩衝剤としては、反芻動物のだ液は緩衝能力が高いので、それを模した人工だ液を使用することが好ましい。培地のpHは、6.0~7.5、好ましくは6.5~7.0に、必要に応じ酸・アルカリを添加して調整する。培地や反応液の希釈に使用する水は、水道水や地下水を使用することが好ましい。また、培地のアンモニウム態窒素濃度は、50~2,000mg/L、より好ましくは60~500mg/Lとなるように、加水、または脱水脱離液を供給して制御する。
【0039】
分解槽20、または培養槽兼分解槽120において、分解工程を反芻動物のルーメン内の環境と同様、嫌気性状態とするために、反応液の酸化還元電位は、-100mv以下、より好ましくは-200mv以下、さらに好ましくは-250mv程度に調整する。ルーメン微生物(リグノセルロース分解細菌)は嫌気性細菌であるため所定のORPより高くなった場合(好気状態に近づいた場合)は、窒素ガスや二酸化炭素ガスなどの不活性ガスを注入する、システインやL-アスコルビン酸、硫化ナトリウム、アスコルビン酸、メチオニン、チオグリコール、DTTなどの還元物質を投入する、あるいは有機物を投入して通性嫌気性菌の作用により酸素を消費させる等の処置を施す。分解工程を窒素又は二酸化炭素雰囲気下での閉鎖系で行ってもよい。
【0040】
図1(a)に示す分解槽20、又は図1(b)に示す培養槽兼分解槽120での分解工程におけるリグノセルロース系バイオマスとリグノセルロース分解細菌との反応時間は、水理学的滞留時間(HRT)、または固形物滞留時間(SRT)で管理することが望ましい。HRTは8~36時間、好ましくは10~24時間、SRTは24時間以上、好ましくは48~72時間となるように制御する。図2(b)に示すように、反応液の攪拌が行われている完全混合系ではHRTとSRTは個別に制御できない、つまり、HRTとSRTが同じになるため、培養槽兼分解槽120に膜70(フィルター)膜を設置するか、これらの槽の攪拌を穏やかにして完全混合が起こらないようにする。そして、固形物を除去した膜ろ過液や上澄みと固形物を含む懸濁液の槽外への引き抜き量を適宜調整することによりHRTとSRTを制御する。なお、図1(a)に示す分解槽20は、その上流の培養槽10においてHRTとSRTとが個別に制御されているので、分解槽20内においてHRTとSRTとが個別に制御される必要はなく、完全混合系としてもよい。この場合、分解槽20内の反応液はろ過液と懸濁液に分離されないためHRTとSRTが同じとなる。分解槽20のHRTとSRTとはいずれも4~36時間とすることが好ましい。また、分解工程における反応系の温度は、35~42℃、より好ましくは37~40℃になるよう温度センサー等を利用して制御する。分解工程における反応は、静置して行っても、攪拌して行ってもよいが、分解工程の進行をより早めるためには、攪拌して行うことが好ましい。
【0041】
培養工程と分解工程は、図1(a)に示すように、培養槽10と分解槽20においてそれぞれ独立して行われてもよく、図1(b)に示すように、培養槽兼分解槽120において一槽で行われてもよい。
【0042】
[メタン発酵工程]
ルーメン液中のリグノセルロース分解細菌とメタン生成細菌は密接な関連性があり、リグノセルロース分解細菌の活性が高まると、メタン生成細菌の活性も高まることは理論上予測できる。リグノセルロース分解細菌である、フィブロバクター・サクシノゲネス(Fibrobacter succinogenes)、ルミノコッカス・アルブス(Ruminococcus albus)、及びプレボテラ・ルミニコラ(Prevotella ruminicola)の3種類の細菌のうち少なくとも一つの細菌の菌数を指標としてルーメン液を選定し、選定されたルーメン液を用いること、上記特定の細菌の菌数を指標として培養工程をモニタリングすることにより分解工程における分解処理を評価することによって、メタン発酵が安定かつ効率的に進行し、メタンの生成を向上させることができる。
【0043】
メタン発酵工程では、難分解であるリグノセルロースがメタン発酵工程で利用されやすい形状、例えば、オリゴ糖程度まで分解されたリグノセルロース系バイオマス、あるいは分解工程(前処理工程)において生産した酢酸等の揮発性脂肪酸(リグノセルロース分解物)や水素と二酸化炭素を基質として、メタン発酵が行われる。メタン発酵は、メタン生成細菌によって行われ、リグノセルロース分解細菌による分解工程と同等、嫌気性条件下で行われる。
【0044】
メタン発酵は、湿式メタン発酵、乾式メタン発酵何れでも構わない。また、中温メタン発酵、高温メタン発酵何れでも良いが、リグノセルロース分解細菌培養工程、リグノセルロース分解工程、メタン発酵工程を全て一つの槽で行う場合は、中温メタン発酵が望ましい。中温発酵の場合、20~30日間、より好ましくは23~27日間、さらに好ましくは25日間程度、高温発酵の場合、10~20日間、より好ましくは13~17日間、さらに好ましくは15日間程度行われることが好ましい。また、メタン発酵の温度は、中温発酵の場合、20℃を超えて40℃以下、より好ましくは30℃以上37℃以下、さらに好ましくは37℃程度であり、高温発酵の場合、40℃を超えて60℃、より好ましくは50~55℃、さらに好ましくは55℃程度である。
【0045】
メタン発酵工程は、図1(a)(b)に示すようにメタン発酵槽30、130において、前処理槽(分解槽20、培養槽兼分解槽120)から送られる反応液に含まれるリグノセルロース分解物を基質として行われてもよく、図1(c)に示すように、選定されたルーメン液とリグノセルロース系バイオマスをメタン発酵槽230に投入してメタン発酵を行っても良い。
【実施例0046】
ルーメン微生物の存在数量の異なるルーメン液、及び下水汚泥消化液の[リグノセルロース分解活性の評価試験]と[全細菌およびリグノセルロース分解細菌の存在数量の定量]とを行った。
【0047】
[リグノセルロース分解活性の評価試験]
(試験例1)
150mL容のホウケイ酸ガラス製のバイアル瓶に、約1cm角に切断したコピー用紙1.5gとシステイン塩酸塩一水和物15mgを入れ、網目が1mmのふるいにより固形物を除去したルーメン液A30mLを混合した。窒素ガスを封入して嫌気状態としてからバイアルを密閉し、振とう培養器に入れ、39℃、130rpmで回転振とうした。6時間後、コピー用紙の分解(溶解)の状態を目視で確認した。
(試験例2)
ルーメン液Bを使用したこと以外は、すべて試験例1と同様に試験を行った。
(試験例3)
ルーメン液の代わりに、食品工場の嫌気性消化汚泥を使用したこと以外は、すべて試験例1と同様に試験を行った。
【0048】
図3は、ルーメン液A、及びルーメン液Bによるリグノセルロース分解の評価試験を示す図である。ルーメン液Aで処理したコピー用紙は、処理後6時間には、コピー用紙の原形を留めないまでに反応液がドロドロの状態となり、リグノセルロース分解が進行していることが確認された。ルーメン液Bで処理したコピー用紙は、処理後6時間には、コピー用紙が膨潤すると共に角が丸まっており、僅かにリグノセルロース分解が進行していることが確認された。一方で、食品工場の嫌気性消化汚泥で処理したコピー用紙は、処理後6時間となっても、全く変化が観察されず、リグノセルロース分解が進行していないことが確認された(図示せず)。以上の試験結果により、リグノセルロース分解活性は、ルーメン液Aが最も高く、次にルーメン液Bが高く、食品工場の嫌気性消化汚泥には、リグノセルロース分解活性はみられないことが明らかとなった。
【0049】
[全細菌およびリグノセルロース分解細菌の存在数量の定量]
リグノセルロース分解活性の異なるルーメン液A、ルーメン液B、及び下水汚泥消化液に生息する全細菌、及び主なリグノセルロース分解細菌5種(フィブロバクター・サクシノゲネス(Fibrobacter succinogenes)、ルミノコッカス・アルブス(Ruminococcus albus)、プレボテラ・ルミニコラ(Prevotella ruminicola)、ルミノコッカス・フラヴェファシエンス(Ruminococcus flavefaciens)、及びブチリビブリオ・フィブリソルベンス(Butyrivibrio fibrisolvens))の存在数量の定量を、定量PCR法により行った。表1に定量PCRに用いたプライマー/プローブと塩基配列、表2に定量PCRの条件を示す。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
(DNAの抽出)
ルーメン液A、B、及び下水汚泥消化液からそれぞれDNAを抽出し、精製した。このDNAを基質とし、表1及び表2に示すPCRプライマー及び/またはプローブとを用いた定量PCR法により、全細菌、及びリグノセルロース分解細菌5種の存在数量の測定を行った。
【0053】
(全細菌数の定量)
全細菌(真正細菌)の定量には、表1に示している配列番号1のフォワードプライマー(F)、配列番号2のリバースプライマー(R)、及び配列番号3のプローブ(P)を用い、TaqMan(登録商標) Probe法により行った。定量PCR試薬として、Eagel Taq Universal Master Mix (ROX)(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社製)を使用して、表2に示す条件でPCR反応を行い、標的遺伝子である16S rRNAの遺伝子領域の増幅(コピー)数に基づき、ルーメン液A、B、及び下水汚泥消化液に存在する全細菌の菌数を定量した。
【0054】
(フィブロバクター・サクシノゲネス(Fibrobacter succinogenes)の定量)
表1に示している配列番号4のフォワードプライマー(F)、及び配列番号5のリバースプライマー(R)を用い、SYBR(登録商標) Green法により定量を行った。定量PCR試薬として、Power Up SYBR(登録商標) Green Master Mix (サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)を使用して、表2に示す条件でPCR反応を行い、標的遺伝子である16S rRNAの遺伝子領域の増幅(コピー)数に基づき、ルーメン液A、B、及び下水汚泥消化液に存在する細菌の菌数を定量した。
【0055】
(ルミノコッカス・アルブス(Ruminococcus albus)の定量)
表1に示している配列番号6のフォワードプライマー(F)、及び配列番号7のリバースプライマー(R)を用い、SYBR(登録商標) Green法により定量を行った。定量PCR試薬として、Power Up SYBR(登録商標) Green Master Mix (サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)を使用して、表2に示す条件でPCR反応を行い、標的遺伝子である16S rRNAの遺伝子領域の増幅(コピー)数に基づき、ルーメン液A、B、及び下水汚泥消化液に存在する細菌の菌数を定量した。
【0056】
(プレボテラ・ルミニコラ(Prevotella ruminicola)の定量)
表1に示している配列番号8のフォワードプライマー(F)、及び配列番号9のリバースプライマー(R)を用い、SYBR(登録商標) Green法により定量を行った。定量PCR試薬として、THUNDERBIRD(登録商標) SYBR(登録商標) qPCR Mix (東洋紡株式会社製)を使用して、表2に示す条件でPCR反応を行い、標的遺伝子である16S rRNAの遺伝子領域の増幅(コピー)数に基づき、ルーメン液A、B、及び下水汚泥消化液に存在する細菌の菌数を定量した。
【0057】
(ルミノコッカス・フラヴェファシエンス(Ruminococcus flavefaciens)の定量)
表1に示している配列番号10のフォワードプライマー(F)、及び配列番11のリバースプライマー(R)を用い、SYBR(登録商標) Green法により定量を行った。定量PCR試薬として、Power Up SYBR(登録商標) Green Master Mix (サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)を使用して、表2に示す条件でPCR反応を行い、標的遺伝子である16S rRNAの遺伝子領域の増幅(コピー)数に基づき、ルーメン液A、B、及び下水汚泥消化液に存在する細菌の菌数を定量した。
【0058】
(ブチリビブリオ・フィブリソルベンス(Butyrivibrio fibrisolvens)の定量)
表1に示している配列番号12のフォワードプライマー(F)、及び配列番号13のリバースプライマー(R)を用い、SYBR(登録商標) Green法により定量を行った。定量PCR試薬として、Gene Ace SYBR(登録商標) qPCR Mix α No ROX(株式会社ニッポンジーン製)を使用して、表2に示す条件でPCR反応を行い、標的遺伝子である16S rRNAの遺伝子領域の増幅(コピー)数に基づき、ルーメン液A、B、及び下水汚泥消化液に存在する細菌の菌数を定量した。
【0059】
図4は、ルーメン液A、ルーメン液B、及び下水汚泥消化液に生息する全細菌及びリグノセルロース分解細菌5種類の各検体1mLあたりの存在数量を示す。
リグノセルロース分解活性の評価試験において、リグノセルロース分解活性が高かったルーメン液Aでは、フィブロバクター・サクシノゲネス(Fibrobacter succinogenes)、ルミノコッカス・アルブス(Ruminococcus albus)、及びプレボテラ・ルミニコラ(Prevotella ruminicola)、これら3種類の細菌が最も多く存在し、リグノセルロース分解活性がほとんどみられない下水汚泥消化液では最も少なかった。2番目にリグノセルロース分解活性が高かったルーメン液Bでは、3種類の細菌の存在数量が、ルーメン液Aと下水汚泥消化液の中間に位置した。リグノセルロース(コピー用紙)の分解活性は、ルーメン液Aがルーメン液Bよりも高いことから、これら3種の細菌の菌数とリグノセルロース分解活性は、概ね正の比例関係があることが明らかとなった。一方、上記3種の細菌以外のルミノコッカス・フラヴェファシエンス(Ruminococcus flavefaciens)、及びブチリビブリオ・フィブリソルベンス(Butyrivibrio fibrisolvens)の存在数量は、リグノセルロース分解活性に係らず、ルーメン液A、ルーメン液B、及び下水汚泥消化液において、ほぼ同数であった。
【0060】
リグノセルロース分解活性が高いルーメン液Aに存在するフィブロバクター・サクシノゲネス(Fibrobacter succinogenes)、ルミノコッカス・アルブス(Ruminococcus albus)、及びプレボテラ・ルミニコラ(Prevotella ruminicola)の3種類の存在数量は、それぞれ5.44×10cоpies/mL、3.73×10cоpies/mL、3.44×1010cоpies/mLであった。このことから、ルーメン液のフィブロバクター・サクシノゲネス(Fibrobacter succinogenes)の存在数量が1.0×10cоpies/mL以上、ルミノコッカス・アルブス(Ruminococcus albus)の存在数量が1.0×10cоpies/mL、及びプレボテラ・ルミニコラ(Prevotella ruminicola)の存在数量が1.0×1010cоpies/mLのうち、少なくとも一つ以上を指標としてルーメン液を選択することにより、リグノセルロース分解活性の高いルーメン液が得られることが想定される。
【0061】
従って、フィブロバクター・サクシノゲネス(Fibrobacter succinogenes)、ルミノコッカス・アルブス(Ruminococcus albus)、及びプレボテラ・ルミニコラ(Prevotella ruminicola)の3種類の細菌のうち、少なくとも一種以上の細菌の存在数量を指標とすることで、リグノセルロース分解活性の高いルーメン液を選定することが可能であることが明らかとなった。また、これに基づき、上記3種類の細菌のうち、少なくとも一種以上の細菌の存在数量を指標とすることで、ルーメン微生物の培養をモニタリングしながらリグノセルロース分解活性を評価することが可能であることが想定される。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のリグノセルロース分解システム、及びリグノセルロースの分解方法は、古紙や廃紙等の都市ゴミ等の産業廃棄物、農林産廃棄物、建築廃材等のリグノセルロース系産業廃棄物を分解処理し、その分解処理物を原料としてメタンを生成する用途において利用可能である。
【符号の説明】
【0063】
1、101、201 リグノセルロース分解システム
10 培養槽
11 培養液
20 分解槽
30、130、230 メタン発酵槽
40 粉砕機
50 脱水機
60 攪拌機
70 膜(フィルター)
120 培養槽兼分解槽
121 反応液
図1
図2
図3
図4