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  • 特開-表面処理金属板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022078567
(43)【公開日】2022-05-25
(54)【発明の名称】表面処理金属板
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/36 20060101AFI20220518BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20220518BHJP
   C22C 18/04 20060101ALI20220518BHJP
   C22C 18/00 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
C23C22/36
C23C28/00 C
C22C18/04
C22C18/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020189316
(22)【出願日】2020-11-13
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000207436
【氏名又は名称】日鉄鋼板株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】莊司 浩雅
(72)【発明者】
【氏名】植田 浩平
(72)【発明者】
【氏名】米谷 悟
(72)【発明者】
【氏名】杉谷 智和
(72)【発明者】
【氏名】白垣 信樹
【テーマコード(参考)】
4K026
4K044
【Fターム(参考)】
4K026AA07
4K026AA11
4K026AA22
4K026BB03
4K026BB04
4K026BB06
4K026BB08
4K026CA16
4K026CA23
4K026CA28
4K026CA37
4K044AA02
4K044BA10
4K044BA17
4K044BA20
4K044BA21
4K044BB03
4K044BC01
4K044BC02
4K044BC05
4K044BC06
4K044CA16
(57)【要約】
【課題】従来のクロメート被膜と同程度の潤滑性を有する被膜を備えた表面処理金属板を提供する。
【解決手段】鋼板11と、鋼板11上に形成された亜鉛を含むめっき層12と、めっき層12上に形成された被膜13と、を有し、被膜13は、有機珪素化合物、りん酸化合物及びふっ素化合物を含み、被膜13の表面の一辺5μmの矩形の領域における表面粗さを、算術平均高さSa、最大高さSz、二乗平均平方根粗さSqでそれぞれ表した場合に、算術平均高さSaが0.1~10nm、最大高さSzが1~1000nm、二乗平均平方根粗さSqが0.1~100nmを満足する表面処理金属板1を採用する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と、
前記鋼板上に形成された亜鉛を含むめっき層と、
前記めっき層上に形成された被膜と、を有し、
前記被膜は、有機珪素化合物、りん酸化合物及びふっ素化合物を含み、
前記被膜の表面の一辺5μmの矩形の領域における表面粗さを、算術平均高さSa、最大高さSz、二乗平均平方根粗さSqでそれぞれ表した場合に、算術平均高さSaが0.10~10nm、最大高さSzが1.0~1000nm、二乗平均平方根粗さSqが0.10~100nmを満足することを特徴とする表面処理金属板。
【請求項2】
前記被膜の表面の一辺1μmの矩形の領域における表面粗さを、算術平均高さSa、最大高さSz、二乗平均平方根粗さSqでそれぞれ表した場合に、算術平均高さSaが0.10~10nm、最大高さSzが1.0~1000nm、二乗平均平方根粗さSqが0.10~100nmを満足することを特徴とする請求項1に記載の表面処理金属板。
【請求項3】
前記被膜の表面の一辺1μmの矩形の領域内に、長径が10nm以上300nm以下の粒状の有機珪素化合物を、1個以上100個以下含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の表面処理金属板。
【請求項4】
前記めっき層の平均化学組成が、質量%で、
Al:4.0%超~25.0%未満、
Mg:1.0%超~12.5%未満、
Sn:0%~20%、
Bi:0%~5.0%未満、
In:0%~2.0%未満、
Ca:0%~3.0%、
Y:0%~0.5%、
La:0%~0.5%未満、
Ce:0%~0.5%未満、
Si:0%~2.5%未満、
Cr:0%~0.25%未満、
Ti:0%~0.25%未満、
Ni:0%~0.25%未満、
Co:0%~0.25%未満、
V:0%~0.25%未満、
Nb:0%~0.25%未満、
Cu:0%~0.25%未満、
Mn:0%~0.25%未満、
Fe:0%~5.0%、
Sr:0%~0.5%未満、
Sb:0%~0.5%未満、
Pb:0%~0.5%未満、
B:0%~0.5%未満を含有し、
残部がZn及び不純物である、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の表面処理金属板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面処理金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛を含有するめっき層を備えた鋼板は、従来から、6価クロム酸塩等を用いたクロメートによる防錆処理が広く行われ、必要に応じて、更に高度の耐食性、耐指紋性、耐傷つき性、潤滑性等を付与すべく有機樹脂による被覆が行われたり、更にその後各種塗料が上塗りされたりしていた。
【0003】
近年、環境問題の高まりを背景に、クロメート処理を避ける動きがある。クロメート処理層は、それ自身で高度の耐食性及び塗装密着性を有するものであるから、このクロメート処理を行わない場合には、これらの性能が著しく低下することが予想される。そのため、クロメート処理による下地処理を行わずに、有機樹脂による一段処理のみで良好な耐食性及び塗装密着性を有する防錆層を形成することが要求されることとなってきた。
【0004】
特許文献1には、金属材表面に、有機ケイ素化合物と、チタン弗化水素酸またはジルコニウム弗化水素酸から選ばれる少なくとも1種のフルオロ化合物と、りん酸と、バナジウム化合物からなる表面処理金属剤を塗布し乾燥することにより各成分を含有する複合皮膜を備えた表面金属処理材が記載されている。
【0005】
特許文献2には、金属材表面に、有機ケイ素化合物と、チタンフッ化水素酸またはジルコニウムフッ化水素酸から選ばれる少なくとも1種のフルオロ化合物と、リン酸と、バナジウム化合物と、水系分散型のポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスおよびポリテトラフルオロエチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種であって、数平均粒子径が0.01μm~1.0μmで軟化温度が100℃以上である潤滑剤とを含有する複合皮膜を備えた表面金属処理材が記載されている。
【0006】
特許文献3には、有機ケイ素化合物と、パーフルオロアルキル基を有する有機フッ素化合物と、を含有する水性処理剤を金属材表面に塗布し、乾燥又は焼付けすることにより形成された皮膜を備えたクロメートフリー表面処理金属材が記載されている。
【0007】
特許文献4には、造膜成分として有機ケイ素化合物を含み、インヒビター成分として、チタン化合物及びジルコニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属化合物と、リン酸化合物と、フッ素化合物とを含み、有機ケイ素化合物における環状シロキサン結合と鎖状シロキサン結合との存在割合が、FT-IR反射法による環状シロキサン結合を示す1090~1100cm-1の吸光度W1と鎖状シロキサン結合を示す1030~1040cm-1の吸光度W2との比W1/W2で1.0~2.0である複合皮膜を金属材の表面に有する表面処理金属材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4776458号公報
【特許文献2】特許第5335434号公報
【特許文献3】特許第4709942号公報
【特許文献4】特許第5336002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、化成処理によって被膜が形成されためっき鋼板は、その最表面の被膜によって、潤滑性の性能が決まる。潤滑性は被膜表面の動摩擦係数などによって評価される。従来のクロメート被膜を、クロメートフリーの被膜に代替する際には、クロメート被膜と同程度の潤滑性が代替品であるクロメートフリーの被膜に求められる。クロメートフリーの被膜の潤滑性が小さくなると、複数枚のめっき鋼板を平積みした際に、クロメート被膜では問題にならなかった荷崩れが起きやすくなる。また、クロメートフリーの被膜の潤滑性がクロメート被膜の潤滑性と異なるものになると、例えばめっき鋼板に対してロールフォーミング加工を行う際に、加工の設定条件の再調整が必要になる。しかしながら、クロメートフリーの被膜の潤滑性を、クロメート被膜の潤滑性に近づける試みは、これまで検討されていなかった。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、従来のクロメート被膜と同程度の潤滑性を有する被膜を備えた表面処理金属板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する手段は、以下の通りである。
[1] 鋼板と、
前記鋼板上に形成された亜鉛を含むめっき層と、
前記めっき層上に形成された被膜と、を有し、
前記被膜は、有機珪素化合物、りん酸化合物及びふっ素化合物を含み、
前記被膜の表面の一辺5μmの矩形の領域における表面粗さを、算術平均高さSa、最大高さSz、二乗平均平方根粗さSqでそれぞれ表した場合に、算術平均高さSaが0.10~10nm、最大高さSzが1.0~1000nm、二乗平均平方根粗さSqが0.10~100nmを満足することを特徴とする表面処理金属板。
[2] 前記被膜の表面の一辺1μmの矩形の領域における表面粗さを、算術平均高さSa、最大高さSz、二乗平均平方根粗さSqでそれぞれ表した場合に、算術平均高さSaが0.10~10nm、最大高さSzが1.0~1000nm、二乗平均平方根粗さSqが0.10~100nmを満足することを特徴とする[1]に記載の表面処理金属板。
[3] 前記被膜の表面の一辺1μmの矩形の領域内に、長径が10nm以上300nm以下の粒状の有機珪素化合物を、1個以上100個以下含むことを特徴とする[1]または[2]に記載の表面処理金属板。
[4] 前記めっき層の平均化学組成が、質量%で、
Al:4.0%超~25.0%未満、
Mg:1.0%超~12.5%未満、
Sn:0%~20%、
Bi:0%~5.0%未満、
In:0%~2.0%未満、
Ca:0%~3.0%、
Y:0%~0.5%、
La:0%~0.5%未満、
Ce:0%~0.5%未満、
Si:0%~2.5%未満、
Cr:0%~0.25%未満、
Ti:0%~0.25%未満、
Ni:0%~0.25%未満、
Co:0%~0.25%未満、
V:0%~0.25%未満、
Nb:0%~0.25%未満、
Cu:0%~0.25%未満、
Mn:0%~0.25%未満、
Fe:0%~5.0%、
Sr:0%~0.5%未満、
Sb:0%~0.5%未満、
Pb:0%~0.5%未満、
B:0%~0.5%未満を含有し、
残部がZn及び不純物である、[1]乃至[3]のいずれか一項に記載の表面処理金属板。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来のクロメート被膜と同程度の潤滑性を有する被膜を備えた表面処理金属板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係る表面処理金属板の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
従来のクロメート被膜と同程度の潤滑性を有し、更に塗装密着性及び耐食性を兼ね備えた被膜を実現するために、被膜表面の微小領域の粗度を制御する被膜設計を着想した。一般に粗度は、粗度計等による測定領域としてミリメートルもしくはセンチメートルの領域で測定されるが、実際に潤滑性(動摩擦係数)や塗装密着性を支配するのはマイクロメートル領域での粗度であると考え、次のようなクロメートフリーの被膜の設計を行った。
【0015】
すなわち、物理的作用による塗装密着性向上および潤滑性(動摩擦係数)制御のため、一辺が5μmの長さの矩形の領域における表面粗さを、算術平均高さSa、最大高さSz、二乗平均平方根粗さSqでそれぞれ表した場合に、算術平均高さSaが0.10~10nm、最大高さSzが1.0~1000nm、二乗平均平方根粗さSqが0.10~100nmを満足することが、潤滑性(動摩擦係数)をクロメート被膜と同等できることを見出した。
【0016】
また、一辺が1μmの長さの矩形の領域において、算術平均高さSaが0.10~10nm、最大高さSzが1.0~1000nm、二乗平均平方根粗さSqが0.10~100nmを満足することが、潤滑性をより適切に制御できることを見出した。
【0017】
更に、化学的作用による塗装密着性を向上するために、被膜を構成する主成分を有機珪素化合物とすることで、潤滑性(動摩擦係数)をクロメートと同等にするとともに、塗装密着性が向上することがわかった。
【0018】
さらに、潤滑性及び塗膜密着性に影響を与えずに耐食性を向上させる成分として、被膜にりん酸化合物及びふっ素化合物を含有させることが効果的であることを見出した。
【0019】
上記設計思想を実現するためには、粘度0.5mPa・s~2.0mPa・sの表面処理金属剤を塗布直後に10~35℃、相対湿度30~90%の雰囲気で0.2~10秒間自然乾燥し、その後、更に加熱乾燥することで、被膜表面における微小領域の粗度を上記範囲内に制御できることがわかった。
【0020】
以下、本発明の実施形態である表面処理金属板について説明する。
本実施形態の表面処理金属板は、鋼板と、鋼板上に形成された亜鉛を含むめっき層と、めっき層上に形成された被膜と、を有し、被膜は、有機珪素化合物、りん酸化合物及びふっ素化合物を含み、被膜の表面の一辺5μmの矩形の領域における表面粗さを、算術平均高さSa、最大高さSz、二乗平均平方根粗さSqでそれぞれ表した場合に、算術平均高さSaが0.10~10nm、最大高さSzが1.0~1000nm、二乗平均平方根粗さSqが0.10~100nmを満足する表面処理金属板である。
また、被膜の表面の一辺1μmの矩形の領域における表面粗さを、算術平均高さSa、最大高さSz、二乗平均平方根粗さSqでそれぞれ表した場合に、算術平均高さSaが0.10~10nm、最大高さSzが1.0~1000nm、二乗平均平方根粗さSqが0.10~100nmを満足することが好ましい。
また、被膜の表面の一辺1μmの矩形の領域内に、長径が10nm以上300nm以下の粒状の有機珪素化合物を、1個以上100個以下含むことが好ましい。
【0021】
以下の説明において、化学組成の各元素の含有量の「%」表示は、「質量%」を意味する。また、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。なお、「~」の前後に記載される数値に「超」または「未満」が付されている場合の数値範囲は、これら数値を下限値または上限値として含まない範囲を意味する。
【0022】
<鋼板11>
図1に示すように、本実施形態に係る表面処理金属板1は、めっき層12及び複合被膜13によって、クロメート被膜を形成した場合と同様の潤滑性が得られる。また、本実施形態に係る表面処理金属板1は、耐食性及び被膜の塗装密着性にも優れる。そのため、鋼板11については、特に限定されない。適用される製品や要求される強度や板厚等によって決定すればよい。鋼板11の材質は、例えば、一般鋼、Niプレめっき鋼、Alキルド鋼、極低炭素鋼、高炭素鋼、各種高張力鋼、一部の高合金鋼(Ni、Cr等の強化元素含有鋼等)などの各種の鋼板が適用可能である。また、鋼板11は、鋼板の製造方法(熱間圧延方法、酸洗方法、冷延方法等)等の条件についても、特に制限されるものではない。更に、鋼板11は、Zn、Ni、Sn、またはこれらの合金系等の1μm未満の金属膜または合金膜が形成された鋼板を使用してもよい。鋼板11の一例としては、例えば、JISG3193:2008に記載された熱延鋼板やJISG3141:2017に記載された冷延鋼板を挙げることができる。
【0023】
<めっき層12>
本実施形態に係る表面処理金属板1に備えられためっき層12は、鋼板11の表面上に形成され、亜鉛を含有する。亜鉛の含有量は例えば50質量%以上であってもよい。また、めっき層12には、アルミニウムを含有させてもよい。また、マグネシウムを更に含有させてもよい。めっき層12の耐食性は、亜鉛を含むめっき層、亜鉛及びアルミニウムを含むめっき層、亜鉛、アルミニウム及びマグネシウムを含むめっき層、の順に向上する。本実施形態では、これらのうち、いずれのめっき層を備えたものであってもよい。アルミニウムを含有させる場合は25.0質量%未満でもよく、マグネシウムを含有させる場合は12.5質量%未満でもよい。
【0024】
亜鉛を含むめっき層12としては、たとえば、亜鉛及び残部不純物からなる溶融亜鉛めっき層または電気亜鉛めっき層を例示できる。また、亜鉛及びアルミニウムを含むめっき層12としては、例えば、亜鉛、アルミニウム及び残部不純物からなる溶融めっき層や、さらに添加元素を含有させた溶融めっき層を例示できる。更に、亜鉛、アルミニウム及びマグネシウムを含むめっき層12としては、例えば、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム及び残部不純物からなる溶融めっき層や、さらに添加元素を含有させた溶融めっき層を例示できる。
【0025】
以下、亜鉛、アルミニウム、マグネシウムを含むめっき層12の化学組成について説明する。
めっき層12は、好ましくは、化学組成が、Al:4.0%超~25.0%未満、Mg:1.0%超~12.5%未満、Sn:0%~20%、Bi:0%~5.0%未満、In:0%~2.0%未満、Ca:0%~3.0%、Y:0%~0.5%、La:0%~0.5%未満、Ce:0%~0.5%未満、Si:0%~2.5%未満、Cr:0%~0.25%未満、Ti:0%~0.25%未満、Ni:0%~0.25%未満、Co:0%~0.25%未満、V:0%~0.25%未満、Nb:0%~0.25%未満、Cu:0%~0.25%未満、Mn:0%~0.25%未満、Fe:0%~5.0%、Sr:0%~0.5%未満、Sb:0%~0.5%未満、Pb:0%~0.5%未満、B:0%~0.5%未満を含み、残部がZn及び不純物である。
【0026】
[Al:4.0%超~25.0%未満]
Alは、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)を含むめっき層12において、耐食性を確保するために有効な元素である。上記効果を十分に得る場合、Al含有量を4.0%超とすることが好ましい。
一方、Al含有量が25.0%以上であると、めっき層12の切断端面の耐食性が低下する。そのため、Al含有量は25.0%未満であることが好ましい。
【0027】
[Mg:1.0%超~12.5%未満]
Mgは、めっき層12の耐食性を高める効果を有する元素である。上記効果を十分に得る場合、Mg含有量を1.0%超とすることが好ましい。
一方、Mg含有量が12.5%以上であると、耐食性向上の効果が飽和する上、めっき層12の加工性の低下を招く。また、めっき浴のドロス発生量が増大する等、製造上の問題が生じる。そのため、Mg含有量を12.5%未満とすることが好ましい。
【0028】
めっき層12は、Al、Mgを含み、残部がZn及び不純物からなってもよい。しかしながら、必要に応じてさらに以下の元素を含んでもよい。
【0029】
[Sn:0%~20%]
[Bi:0%~5.0%未満]
[In:0%~2.0%未満]
これらの元素がめっき層12中に含有されると、めっき層12中に、新たな金属間化合物相としてMgSn相、MgBi相、MgIn相等が形成される。
これらの元素は、めっき層12主体を構成するZn、Alといずれとも金属間化合物相を形成することなく、Mgのみと金属間化合物相を形成する。新たな金属間化合物相が形成されると、めっき層12の溶接性が大きく変化する。いずれの金属間化合物相も融点が高いため、溶接後も蒸発することなく金属間化合物相として存在する。本来、溶接熱により酸化してMgOを形成しやすいMgもSn、Bi、Inと金属間化合物相として形成することで酸化せず、溶接後も金属間化合物相のまま、めっき層12として残存しやすくなる。そのため、これらの元素が存在すると耐食性、犠牲防食性が向上し、溶接部周囲の耐食性が向上する。上記効果を得る場合、それぞれ含有量を0.05%以上とすることが好ましい。
これらのうちでは、Snが低融点金属でめっき浴の性状を損なうことなく容易に含有させることができるので好ましい。これらの元素の上限は、Snを20%以下、Biを5.0%未満、Inを2.0%未満とする。
【0030】
[Ca:0%~3.0%]
Caはめっき層12中に含有されると、Mg含有量の増加に伴ってめっき操業時に形成されやすいドロスの形成量が減少し、めっき製造性が向上する。そのため、Caを含有させてもよい。この効果を得る場合、Ca含有量を0.1%以上とすることが好ましい。
一方、Ca含有量が多いとめっき層12の平面部の耐食性そのものが劣化する傾向にあり、溶接部周囲の耐食性も劣化することがある。そのため、含有させる場合でもCa含有量は3.0%以下であることが好ましい。
【0031】
[Y:0%~0.5%]
[La:0%~0.5%未満]
[Ce:0%~0.5%未満]
Y、La、Ceは、耐食性の向上に寄与する元素である。この効果を得る場合、1種以上をそれぞれ0.05%以上含有することが好ましい。
一方、これらの元素の含有量が過剰になるとめっき浴の粘性が上昇し、めっき浴の建浴そのものが困難となることが多く、めっき性状が良好な表面処理金属板11を製造できない。そのため、含有させる場合でも、Y含有量を0.5%以下、La含有量を0.5%未満、Ce含有量を0.5%未満とすることが好ましい。
【0032】
[Si:0%~2.5%未満]
Siは、Mgとともに化合物を形成して、耐食性の向上に寄与する元素である。また、Siは、鋼板11上にめっき層12を形成するにあたり、鋼板11表面とめっき層12との間に形成される合金層が過剰に厚く形成されることを抑制して、鋼板11とめっき層12との密着性を高める効果を有する元素でもある。この効果を得る場合、Si含有量を0.1%以上とすることが好ましい。より好ましくは0.2%以上である。
一方、Si含有量を2.5%以上にすると、めっき層12中に過剰なSiが析出し、耐食性が低下するだけでなく、めっき層12の加工性の低下を招く。従ってSi含有量2.5%未満とすることが好ましい。より好ましくは1.5%以下である。
【0033】
[Cr:0%~0.25%未満]
[Ti:0%~0.25%未満]
[Ni:0%~0.25%未満]
[Co:0%~0.25%未満]
[V:0%~0.25%未満]
[Nb:0%~0.25%未満]
[Cu:0%~0.25%未満]
[Mn:0%~0.25%未満]
これらの元素は、耐食性の向上に寄与する元素である。この効果を得る場合、各元素の含有量を0.05%以上とすることが好ましい。
一方、これらの元素の含有量が過剰になるとめっき浴の粘性が上昇し、めっき浴の建浴そのものが困難となることが多く、めっき性状が良好な表面処理金属板1を製造できない。そのため、各元素の含有量をそれぞれ0.25%未満とすることが好ましい。
【0034】
[Fe:0%~5.0%]
Feはめっき層12を製造する際に、不純物としてめっき層12に混入する。5.0%程度まで含有されることがあるが、この範囲であれば本実施形態に係る表面金属処理板11の効果への悪影響は小さい。そのため、Fe含有量を5.0%以下とすることが好ましい。
【0035】
[Sr:0%~0.5%未満]
[Sb:0%~0.5%未満]
[Pb:0%~0.5%未満]
Sr、Sb、Pbがめっき層12中に含有されると、めっき層12の外観が変化し、スパングルが形成されて、金属光沢の向上が確認される。この効果を得る場合、Sr、Sb、Pbのそれぞれの含有量を0.05%以上とすることが好ましい。
一方、これらの元素の含有量が過剰になるとめっき浴の粘性が上昇し、めっき浴の建浴そのものが困難となることが多く、めっき性状が良好な表面処理金属板1を製造できない。そのため、Sr含有量を0.5%未満、Sb含有量を0.5%未満、Pb含有量を0.5%未満とすることが好ましい。
【0036】
[B:0%~0.5%未満]
Bは、めっき層12中に含有させるとZn、Al、Mgと化合し、様々な金属間化合物相をつくる元素である。この金属間化合物はLME(液体金属脆性)を改善する効果がある。この効果を得る場合、B含有量を0.05%以上とすることが好ましい。
一方、B含有量が過剰になるとめっき浴の融点が著しく上昇し、めっき操業性が悪化してめっき性状の良い表面処理金属板1が得られない。そのため、B含有量を0.5%未満とすることが好ましい。
【0037】
めっき層12の付着量は限定されないが、耐食性向上のため10g/m以上であることが好ましい。一方、付着量が200g/mを超えても耐食性が飽和する上、経済的に不利になる。そのため、200g/m以下であることが好ましい。
【0038】
<被膜13>
本実施形態に係る表面処理金属板1のめっき層12の表面上に備える被膜13は、有機珪素化合物、りん酸化合物及びふっ素化合物を含む。被膜13には更に、ジルコニウム化合物が含まれてもよく、バナジウム化合物が含まれてもよい。また、本実施形態に係る被膜13は、Cr化合物を含まないものであって、所謂クロメートフリーの被膜である。被膜13が有機珪素化合物、りん酸化合物及びふっ素化合物を含むことで、表面処理金属板1に、耐食性及び塗装密着性を付与することができる。
【0039】
本実施形態において、被膜13に含まれる有機珪素化合物は限定されないが、例えば分子中にアミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(A)と、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(B)を固形分質量比〔(A)/(B)〕で0.5~2.0、好ましくは0.5~1.7の割合で配合して得られるものである。
シランカップリング剤(A)とシランカップリング剤(B)の配合比率としては、固形分質量比〔(A)/(B)〕で0.5~2.0、好ましくは0.5~1.7であるとよい。固形分質量比〔(A)/(B)〕が0.5未満であると、耐指紋性および浴安定性、耐黒カス性が著しく低下する場合がある。逆に2.0を超えると、耐水性が著しく低下する場合があるので好ましくない。〔(A)/(B)〕は0.7~1.7がより好ましく、0.9~1.1であることがさらに好ましい。
【0040】
アミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(A)としては、特に限定するものではないが、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシランなどを例示することができ、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(B)としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどを例示することができる。
【0041】
本実施形態において、被膜13が含むりん酸化合物としては、特に限定されないが、りん酸、りん酸アンモニウム塩、りん酸カリウム塩、りん酸ナトリウム塩などを例示することができる。この中でも、りん酸であることがより好ましい。りん酸を用いる場合、より優れた耐食性を得ることができる。
【0042】
被膜13中におけるリン酸化合物の含有率は、りん酸化合物由来のPの固形分質量と有機珪素化合物由来のSiの固形分質量との比であるP/Siの平均値が、0.15~0.25であると、被膜13の均質性が保持されるので好ましい。P/Siの平均値が0.15以上にすることでP不足によると考えられる原因で耐食性が低下するおそれがない。また、P/Siの平均値が0.25以下とすることで被膜13の水溶化を防止できる。
【0043】
本実施形態において、被膜13が含むふっ素化合物としては、特に限定されないが、弗化水素酸、ホウ弗化水素酸、ケイ弗化水素酸、及びこれらの水溶性塩等の弗化物、並びに錯弗化物塩などを例示することができる。この中でも、弗化水素酸であることがより好ましい。弗化水素酸を用いる場合、より優れた耐食性や塗装性を得ることができる。
【0044】
被膜13において、ふっ素化合物由来のFの固形分質量と有機珪素化合物由来のSiの固形分質量との比であるF/Siの平均値が0.01~0.15であると、被膜13の均質性を保持したまま、適度に耐食性を確保できるので好ましい。
【0045】
被膜13には、ジルコニウム化合物が含まれてもよい。ジルコニウム化合物としては、特に限定されないが、ジルコン弗化水素酸、六フッ化ジルコニウム酸アンモニウム、硫酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウムなどを例示できる。この中でも、ジルコン弗化水素酸であることがより好ましい。ジルコニウム弗化水素酸を用いる場合、より優れた耐食性や塗装性を得ることができる。また、ジルコニウム弗化水素酸はふっ素化合物としても作用するので好ましい。
【0046】
更に、被膜13には、バナジウム化合物が含まれてもよい。バナジウム化合物(V)は、特に限定されないが、五酸化バナジウムV25、メタバナジン酸HVO3、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、オキシ三塩化バナジウムVOCl3、三酸化バナジウムV23、二酸化バナジウムVO2、オキシ硫酸バナジウムVOSO4、バナジウムオキシアセチルアセトネートVO(OC(=CH2)CH2COCH32、バナジウムアセチルアセトネートV(OC(=CH2)CH2COCH33、三塩化バナジウムVCl3、リンバナドモリブデン酸などを例示することができる。また、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、1~3級アミノ基、アミド基、リン酸基及びホスホン酸基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する有機化合物により、5価のバナジウム化合物を4価~2価に還元したものも使用可能である。
【0047】
被膜13において、ジルコニウム化合物由来のZrの固形分質量と有機珪素化合物由来のSiの固形分質量との比であるZr/Siの平均値が0.06~0.15であると、被膜13の均質性が保持されるので好ましい。Zr/Siの平均値が0.06以上であれば、バリヤ性が十分となり耐食性が低下するおそれがない。また、Zr/Siの平均値が0.15以下にすれば耐食性は十分確保されるので好ましい。
【0048】
また、被膜13において、バナジウム化合物由来のVの固形分質量と有機珪素化合物由来のSiの固形分質量との比であるV/Siの平均値が0.01~0.20であると、被膜13の均質性を保持したまま、適度にV化合物が耐食性の低い領域に析出している状態となるので好ましい。V/Siの平均値が0.01以上であれば、腐食抑制剤であるVが十分となり耐食性が低下するおそれがない。また、V/Siの平均値が0.20以下であれば、被膜が水溶化するおそれがない。
【0049】
F/Si、P/Si、Zr/Si、V/Siは、マイクロ蛍光X線を用いて測定できる。
具体的には、F/Si、P/Si、Zr/Si、V/Siは、マイクロ蛍光X線(アメテック製、エネルギー分散型微小部蛍光X線分析装置 Orbis、管電圧:5kV、管電流:1mA)を用いて、X線源をRhとして、スポットサイズφ30μmで、複合被膜の表面に対し、横方向約2.3mm×縦方向約1.5mmの領域を、画素数256×200で被膜13、めっき層12、鋼板11を構成する検出可能な元素におけるF、P、Zr、V及びSiの質量パーセントを測定し、その結果から算出する。
【0050】
被膜13の片面当たりの付着量は、0.05~2.0g/mであることが好ましく、0.2~1.0g/mであることが更に好ましく、0.3~0.6g/mであることが最も好ましい。被膜付着量が0.05g/m未満であると、めっき層12の表面を被覆できないため耐食性が著しく低下するため好ましくない。付着量は2.0g/m以上とすれば耐食性向上の効果が飽和するので、上限を2.0g/m以下とすればよい。
【0051】
次に、本実施形態の被膜13の表面粗さについて説明する。
本実施形態の被膜13は、その表面の一辺5μmの矩形の領域における表面粗さを、算術平均高さSa、最大高さSz、二乗平均平方根粗さSqでそれぞれ表した場合に、算術平均高さSaが0.10~10nm、最大高さSzが1.0~1000nm、二乗平均平方根粗さSqが0.10~100nmを満足する。
また、本実施形態の被膜13は、その表面の一辺1μmの矩形の領域における表面粗さを、算術平均高さSa、最大高さSz、二乗平均平方根粗さSqでそれぞれ表した場合に、算術平均高さSaが0.10~10nm、最大高さSzが1.0~1000nm、二乗平均平方根粗さSqが0.10~100nmを満足することが好ましい。
以下、表面粗さの限定理由について説明する。
【0052】
<一辺5μmの矩形の領域における表面粗さ>
本実施形態の被膜13の潤滑性を、クロメート被膜の潤滑性に近づけるためには、めっき層12の表面粗さの影響が除かれた状態で、被膜自体の表面粗さを評価する必要があることを本発明者らが見出した。被膜13は、めっき層12の上に形成されているため、被膜13の表面粗さはめっき層12の表面粗さの影響を受ける。そこで発明者らが検討したところ、測定領域を一辺5μmの矩形の領域とすることで、めっき層12の表面粗さの影響が少なくなり、被膜自体の表面粗さの評価が可能になることを見出した。よって、表面粗さの測定領域は、一辺5μmの矩形の領域とする。
【0053】
<算術平均高さSa:0.10~10nm>
<最大高さSz:1.0~1000nm>
<二乗平均平方根粗さSq:0.10~100nm>
本実施形態の被膜13の一辺5μmの矩形の領域における表面粗さを評価するパラメータとしては、算術平均高さSa、最大高さSz、二乗平均平方根粗さSqを採用し、これらがそれぞれ、所定の範囲内にある必要がある。被膜13の潤滑性を、クロメート被膜の潤滑性に近づけるためには、算術平均高さSaを0.10~10nmの範囲内とし、最大高さSzを1.0~1000nmの範囲内とし、二乗平均平方根粗さSqを0.10~100nmの範囲内とする。Sa、Sz及びSqのいずれかが、所定の範囲から外れると、被膜13の潤滑性がクロメート被膜の潤滑性とは異なる潤滑性となってしまうので好ましくない。
【0054】
<一辺1μmの矩形の領域における表面粗さ>
被膜13には、めっき層12の表面粗さに対応する表面粗さを有している。めっき層12の表面粗さは比較的大きく、このめっき層12の表面粗さが反映された被膜13の表面粗さは、測定長さとしてミリメートルからセンチメートルの単位で測定した場合、数μm~数十μmの粗さになる。このため、被膜13に別の物体が接触した場合の被膜13と当該物体との接触領域を微視的に見ると、多数の点接触領域が集合したものとなる。このため、被膜13表面の潤滑性を評価するには、点接触領域に対応する大きさの領域での表面粗さを評価することが好ましいと本発明者らが知見した。そして本発明者らは、表面粗さの測定領域として、一辺5μmの矩形の領域とともに、一辺1μmの矩形の領域を測定領域に追加することが、被膜13の潤滑性をより適切に評価可能になることを見出した。よって、一辺1μmの矩形の領域における表面粗さについても規定することが好ましい。
【0055】
<算術平均高さSa:0.10~10nm>
<最大高さSz:1.0~1000nm>
<二乗平均平方根粗さSq:0.10~100nm>
本実施形態の被膜13の一辺1μmの矩形の領域における表面粗さを評価するパラメータとしては、5μm四方の領域の場合と同様に、算術平均高さSa、最大高さSz、二乗平均平方根粗さSqを採用し、これらがそれぞれ、所定の範囲内にある必要がある。被膜13の潤滑性を、クロメート被膜の潤滑性に近づけるためには、算術平均高さSaを0.10~10nmの範囲内とし、最大高さSzを1.0~1000nmの範囲内とし、二乗平均平方根粗さSqを0.10~100nmの範囲内とする。Sa、Sz及びSqのいずれかが、所定の範囲から外れると、被膜13の潤滑性がクロメート被膜の潤滑性とは異なる潤滑性となってしまうので好ましくない。
【0056】
次に、被膜13における有機珪素化合物の形態について説明する。
本実施形態の被膜13においては、その表面の一辺1μmの矩形の領域内に、長径が10nm以上300nm以下の粒状の有機珪素化合物が、1個以上100個以下の範囲で含まれることが好ましい。これにより、被膜13の表面に塗油した場合の潤滑性を高くなり、加工などが行いやすくなる。これは、粒状の有機珪素化合物により被膜13の表面に隆起が形成され、隆起の形成に伴って隆起の間に形成した空隙に、潤滑油を有効に保持する領域が形成されるためと推定している。
【0057】
<評価方法>
以下、評価方法について説明する。
一辺が5μmの矩形の領域におけるSa、Sz及びSqの測定方法は次の通りとする。被膜13の表面において、5μm四方の測定領域として、20箇所の領域を設定する。設定箇所は任意とする。そして、各測定領域において、Sa、Sz及びSqを測定する。測定装置は、走査型プローブ顕微鏡(日立ハイテクサイエンス株式会社製 AFM5500M)を用い、測定モードはダイナミックフォーカス顕微鏡モードとする。プローブはSI-DF20を用い、先端半径を10nmとする。そして、20箇所の測定領域それぞれの測定結果の平均値を、被膜表面の一辺5μmの矩形の領域におけるSa、Sz及びSqとする。
【0058】
次に、一辺が1μmの矩形の領域におけるSa、Sz及びSqの測定方法は次の通りとする。被膜13の表面において、1μm四方の測定領域として、40箇所の領域を設定する。40箇所の測定領域のうち、20箇所の測定領域は、前述の20箇所の5μmの矩形の測定領域内で設定し、残りの20箇所は、5μmの矩形の領域とは異なる位置から任意に設定する。そして、各測定領域において、Sa、Sz及びSqを測定する。測定装置、測定モード、プローブ及び先端半径は上述の通りとする。そして、40箇所の測定領域それぞれの測定結果の平均値を、被膜表面の一辺1μmの矩形の領域におけるSa、Sz及びSqとする。
【0059】
次に、有機珪素化合物の個数密度について説明する。一辺が1μmの矩形の領域におけるSa、Sz及びSqの測定方法において設定した測定領域を、有機珪素化合物の個数密度の測定に用いる。これらの複数の測定領域において、ダイナミックフォーカス顕微鏡の測定モードで画像を測定する。画像中の有機珪素化合物を特定し、特定した有機珪素化合物の個数、サイズを測定する。複数の測定領域における測定結果から平均値を求め、それを最大径及び個数密度とする。
【0060】
ダイナミックフォーカス顕微鏡の画像における有機珪素化合物を特定手段としては、電子線マイクロアナライザ(EPMA)及びフーリエ変換式の顕微赤外分光光度計(顕微FT-IR)を用いる。顕微FT-IRの測定は反射測定モードとする。EPMAによってSiを検出し、検出されたSiの周辺を顕微FT-IRで測定し、有機珪素化合物の有機質の部分に対応する赤外スペクトルが得られた場合に、その赤外吸収スペクトルが得られる領域を有機珪素化合物と特定する。複数の測定領域における結果から平均値を求め、それを最大径及び個数密度とする。
【0061】
本実施形態の表面処理金属板によれば、従来のクロメート被膜と同程度の潤滑性を有するものとなる。また、本実施形態の表面金属板によれば、耐食性及び塗装密着性を向上できる。ここで、潤滑性は、動摩擦係数で評価することができ、本実施形態に係る被膜13は、動摩擦係数が0.2~0.5となり、クロメート皮膜と同等になる。また、耐食性については、塩水噴霧試験による耐食性評価において、72時間経過時点で白錆発生率5%未満となり、優れた耐食性を示すものとなる。更に、塗装二次密着性(白色塗料塗装後、沸騰水に浸漬して30分経過後の碁盤目剥離試験、エリクセン加工部剥離試験)で80/100以上を達成するものとなる。
【0062】
<被膜の形成方法>
次に、本実施形態に係る表面処理金属板1の好ましい製造方法について説明する。本実施形態に係る表面金属処理板は、鋼板11を、Zn、Al、Mgを含むめっき浴に浸漬して鋼板11の表面にめっき層12を形成するめっき工程と、めっき層12に表面処理金属剤を塗布する塗布工程と、表面処理金属剤が塗布された鋼板11を加熱して(焼付け)、有機珪素化合物、りん酸化合物及びふっ素化合物を含む被膜を形成する被膜形成工程とを含む製造方法によって得られる。
【0063】
[めっき工程]
めっき工程については特に限定されない。十分なめっき密着性が得られるように通常の方法で行えばよい。
また、めっき工程に供する鋼板11の製造方法についても限定されない。
【0064】
[塗布工程]
塗布工程では、鋼板11のめっき層12に、有機珪素化合物、りん酸化合物及びふっ素化合物を含む表面処理金属剤を塗布する。
有機珪素化合物に対する、りん酸化合物及びふっ素化合物の比率を、それぞれ、目標とする被膜の比率に合わせて調整することが好ましい。
表面処理金属剤のpHは、酢酸及び乳酸などの有機酸類、フッ酸などの無機酸類、アンモニウム塩やアミン類などのpH調整剤を用いて調整することができる。
【0065】
塗布方法については限定されない。
例えばロールコータ、バーコータ、スプレーなどを用いて塗布することができる。ロールコータを用いて塗布する場合、周速比を調節することで膜厚を容易に制御できるとともに、優れた生産性が得られる。
【0066】
本実施形態では、表面処理金属剤をめっき層12上に塗布して塗膜を形成してから乾燥を開始するまで、10~35℃、湿度30~90%で0.2~10秒間保持する。塗布してから乾燥するまで0.2秒間以上、より好ましくは0.5秒間以上保持することにより、塗膜の最表層の水分蒸発により、本実施形態に係る被膜13の表面状態が形成されると考えている。湿度の好ましい範囲は50~80%である。
【0067】
湿度が30%未満では乾燥が進みすぎてしまい、また、湿度が90%超では乾燥が十分に進まず、本実施形態に係る被膜13が形成できない。また、保持時間が0.2秒未満では、乾燥が十分に進まず、本実施形態に係る被膜13が形成できない。なお、塗膜を形成してから乾燥を開始するまでの時間を10秒間超えにしても効果は向上せず、生産性が低下するので、保持時間は10秒間以下とする。塗膜の状態で保持する時間は10秒間以下とすることが好ましく、5秒間以下とすることがより好ましい。
【0068】
なお、自然乾燥の保持時間の始期は表面処理金属剤の塗布直後とし、保持時間の終期は加熱乾燥の加熱開始時とする。
【0069】
次に、所定の時間保持した塗膜を加熱乾燥させる。塗膜を乾燥させる際の温度は、表面処理金属剤中の揮発性成分が揮発する温度となるように選択する。具体的には、塗膜を乾燥させる際の最高到達板温(PMT)が60~150℃の範囲内となるようにすることが好ましい。塗膜を乾燥させる際の乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥または炉内乾燥が挙げられる。
【0070】
以上により、本実施形態の表面処理金属板を製造することができる。
【実施例0071】
鋼板をめっき浴に浸漬して、表1に記載のめっき層を有する金属板M-1~M-7を得た。表1の記載において、例えば「Zn-19%Al-6%Mg-1.5%Sn-0.5%Ca-0.2%Si」とは、質量%で、Alを19%、Mgを6%、Snwo1.5%、Caを0.5%、Siを0.2%含み、残部がZn及び不純物であることを意味している。めっき層の目付量は、90g/mとした。
【0072】
鋼板としては、JISG3141:2017に記載された冷延鋼板を用いた。
【0073】
塗布は、鋼板表面を脱脂後に、M-1~M-7のめっき層を有する鋼板に、表2Aに示すように、有機珪素化合物、ふっ素化合物、りん酸化合物、バナジウム化合物(V化合物)を含み、温度の調整された表面処理金属剤を塗布液として、ロールコータを用いて、塗布した。表面処理金属剤をめっき層上へ塗布する場合、一部の例についてはめっき層に対してCo処理を行った。
【0074】
脱脂は、脱脂剤(日本パーカライジング(株)製アルカリ脱脂剤、商品名:ファインクリーナーE6406)を用いて、上記の両面にめっき層を有する鋼板を脱脂(20g/L建浴、60℃、10秒スプレー、スプレー圧50kPa)した。その後、スプレーを用いて10秒間水洗を行った。
【0075】
各例における表面処理金属剤の25℃での粘度は、粘度0.5mPa・s~2.0mPa・sの範囲内であった。
【0076】
また、表中、有機珪素化合物の「シランカップリング剤」において、A1、A2、B1は以下を示す。
A1:3-アミノプロピルトリメトキシシラン
A2:3-アミノプロピルトリエトキシシラン
B1:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
【0077】
また、V化合物において、Z1,Z2は以下を示す。
Z1:オキシ硫酸バナジウムVOSO
Z2:バナジウムオキシアセチルアセトネートVO(OC(=CH)CHCOCH
【0078】
表面処理金属剤を塗布し、保持温度25℃、かつ、表2Cに記載の保持湿度で、表2Cに記載の塗膜保持時間経過させて自然乾燥した。その後、鋼板を、表2Cの最高到達板温に加熱して乾燥させて焼き付けた。自然乾燥の塗膜保持時間の始期は表面処理金属剤の塗布直後とし、保持時間の終期は加熱乾燥の加熱開始時とした。
【0079】
得られた被膜について、被膜の表面粗さ、有機珪素化合物の個数密度、動摩擦係数、耐食性及び塗装密着性を評価した。評価方法は以下の通りとした。
【0080】
<一辺が5μmの矩形の領域におけるSa、Sz及びSq>
被膜の表面において、5μm四方の測定領域として、20箇所の領域を任意に設定した。各測定領域において、Sa、Sz及びSqを測定した。測定装置は、走査型プローブ顕微鏡(日立ハイテクサイエンス株式会社製 AFM5500M)を用い、測定モードはダイナミックフォーカス顕微鏡モードとした。プローブはSI-DF20を用い、先端半径を10nmとした。20箇所の測定領域それぞれの測定結果の平均値を、被膜表面の一辺5μmの矩形の領域におけるSa、Sz及びSqとした。
【0081】
<一辺が1μmの矩形の領域におけるSa、Sz及びSq>
被膜の表面において、1μm四方の測定領域として、40箇所の領域を設定した。40箇所の測定領域のうち、20箇所の測定領域は、前述の20箇所の5μmの矩形の測定領域内で設定し、残りの20箇所は、5μmの矩形の領域とは異なる位置から任意に設定した。各測定領域において、Sa、Sz及びSqを測定した。測定装置、測定モード、プローブ及び先端半径は上述の通りとした。そして、40箇所の測定領域それぞれの測定結果の平均値を、被膜表面の一辺1μmの矩形の領域におけるSa、Sz及びSqとした。
【0082】
<有機珪素化合物の個数密度>
一辺が1μmの矩形の領域におけるSa、Sz及びSqの測定方法において設定した測定領域を、有機珪素化合物の個数密度の測定に用いた。これらの複数の測定領域において、ダイナミックフォーカス顕微鏡の測定モードで画像を測定した。画像中の有機珪素化合物を特定し、特定した有機珪素化合物の個数、サイズを測定した。複数の測定領域における測定結果から平均値を求め、それを最大径及び個数密度とした。
【0083】
ダイナミックフォーカス顕微鏡の画像における有機珪素化合物を特定手段としては、電子線マイクロアナライザ(EPMA)及びフーリエ変換式の顕微赤外分光光度計(顕微FT-IR)を用いた。顕微FT-IRの測定は反射測定モードとした。EPMAによってSiを検出し、検出されたSiの周辺を顕微FT-IRで測定し、有機珪素化合物の有機質の部分に対応する赤外スペクトルが得られた場合に、その赤外吸収スペクトルが得られる領域を有機珪素化合物と特定した。複数の測定領域における結果から平均値を求め、それを最大径及び個数密度とした。
【0084】
<動摩擦係数>
新東科学(株)社製摩擦測定機を用いて、先端が10mmφのSUS球を擦動接触子として、移動速度150mm/min、荷重1.0Nで被膜表面の動摩擦係数を測定した。また、防錆油を塗油した状態でも測定した。評価結果は以下の通りとした。
【0085】
3 :動摩擦係数が0.2以上0.5以下
2 :動摩擦係数が0.15以上0.2未満
1 :動摩擦係数が0.15未満
【0086】
<耐食性>
平板試験片に対し、JIS Z 2371に準拠する塩水噴霧試験を所定時間まで実施した。耐食性の評価基準を以下に示す。3以上を合格とした。
【0087】
(塩水噴霧試験72時間後)
4:5%以下
3:白錆5%超15%以下
2:白錆15%超30%以下
1:白錆30%超
【0088】
<塗装密着性>
試験板に対して下記条件で塗装を施し、塗膜密着性試験を行った。
(塗装条件)
塗装条件塗料:関西ペイント(株)社製アミラック#1000(登録商標)(白塗料)
塗装法:バーコート法
焼付け乾燥条件:140℃、20分間
塗膜厚:25μm
評価方法は、以下の通りである。
【0089】
(一次密着性)
試験板に対し、1mm角、100個の碁盤目をNTカッターで切り入れ、粘着テープによる剥離テストを行い、塗膜の剥離個数にて評価した。評価基準を以下に示す(3以上が実用性能であり、合格とする。)。
なお、ここでいう「剥離個数」とは、各碁盤目の半分以上が剥離したものの個数を意味する(以下に記載する「剥離個数」も同様の意味である)。
【0090】
4:剥離個数が1個未満
3:剥離個数が1個以上、10個未満
2:剥離個数が10個以上、50個未満
1:剥離個数が50個以上
【0091】
(二次密着性)
試験板を沸騰水に2時間浸漬し、一昼夜放置後、1mm角、100個の碁盤目をNTカッターで切り入れ、粘着テープによる剥離テストを行い、塗膜剥離個数にて評価した。評価基準を以下に示す(3以上が実用性能であり、合格とする。)。
【0092】
4:剥離個数が1個未満
3:剥離個数が1個以上、10個未満
2:剥離個数が10個以上、50個未満
1:剥離個数が50個以上
【0093】
なお、表2Aにおけるシランカップリング剤(A)とシランカップリング剤(B)の配合比率(A/B)は、固形分質量比である。また、りん酸化合物の比率(Y/W)は、りん酸化合物由来のPの固形分質量と有機珪素化合物由来のSiの固形分質量との比である。ふっ素化合物の比率(X/W)は、ふっ素化合物由来のFの固形分質量と有機珪素化合物由来のSiの固形分質量との比である。V化合物の比率(Z/W)は、バナジウム化合物由来のVの固形分質量と有機珪素化合物由来のSiの固形分質量との比である。
【0094】
表1~表2Cに示すように、発明例1~37では、動摩擦係数が、無塗油の状態で0.2以上0.5以下となり、塗油の状態で動摩擦係数が0.15未満であった。これは、従来のクロメート被膜の動摩擦係数と同程度であり、複数枚のめっき鋼板を平積みした際に荷崩れが起きることがなく、また、めっき鋼板に対してロールフォーミング加工を行う際にも、クロメート被膜の場合と同様の設定条件を利用することができ、加工の設定条件の再調整は不要であった。
【0095】
また、発明例1~37は、耐食性及び塗膜密着性にも優れていた。
【0096】
一方、比較例1~6では、動摩擦係数が、無塗油の状態で0.2未満となり、塗油の状態でも0.2未満であった。これは、従来のクロメート被膜の動摩擦係数とは異なっており、特に、無塗油の状態の動摩擦係数が低く、複数枚のめっき鋼板を平積みした際に荷崩れが起きた。また、塗装密着性も十分でなかった。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2A】
【0099】
【表2B】
【0100】
【表2C】
【符号の説明】
【0101】
1…表面処理金属板、11…鋼板、12…めっき層、13…被膜。
図1