(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022007858
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】マスク用不織布およびマスクおよび収納袋とのマスクセット
(51)【国際特許分類】
A41D 13/11 20060101AFI20220105BHJP
A62B 18/02 20060101ALI20220105BHJP
A62B 18/08 20060101ALI20220105BHJP
D04H 3/011 20120101ALI20220105BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
A62B18/02 C
A62B18/08 D
D04H3/011
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020155279
(22)【出願日】2020-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2020110275
(32)【優先日】2020-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 等
【テーマコード(参考)】
2E185
4L047
【Fターム(参考)】
2E185AA07
2E185CB11
2E185CC34
4L047AA21
4L047CA02
4L047CA05
4L047CB01
4L047CC03
(57)【要約】
【課題】着用者各自の好みに応じて、全体が柔軟にかつ立体的に変形して、その形状を保持することができるマスク用不織布およびこれを用いたマスクを提供すること。
【解決手段】繊維密度の高い第一の不織布と、前記第一の不織布よりも繊維密度が低く嵩高の第二の不織布で構成され、前記第二の不織布は180度に折り曲げて1分間保持した後開放し、解放後5分経過した時の曲げ戻り角が15度未満の特性を有する不織布が用いられる。加えて好ましい形態においては、前記第一の不織布および前記第二の不織布は、メルトブローン不織布で一体成形されたマスク用不織布が利用される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂素材により成形されたマスク用不織布であって、前記不織布は180度に折り曲げて1分間保持した後開放し、解放後5分経過した時の曲げ戻り角が15度未満であることを特徴とするマスク用不織布。
【請求項2】
繊維密度の高い第一の不織布と、前記第一の不織布よりも繊維密度が低く嵩高の第二の不織布で構成され、前記第二の不織布として請求項1に記載の不織布を用いたことを特徴とするマスク用不織布。
【請求項3】
第一の不織布は、ポリエステルの長繊維よりなることを特徴とする請求項2に記載のマスク用不織布。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の不織布を、マスク本体部に用いたことを特徴とするマスク。
【請求項5】
前記請求項4に記載されたマスクを収納するメッシュ生地の収納袋とのマスク用セットであって、
前記メッシュ生地は、ダブルラッセル編みの二重網目構造のシートであって、
マスクを挿入するための開口部を除いて封筒状に縫製され、
収納したマスクを弾性的に挟持可能としたことを特徴とする収納袋とマスクのセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状を保持することができるマスク用不織布およびこれを用いたマスクと、マスク収納袋を加えたマスクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
感染症防止、或いは花粉症対策等のために、マスクの利用が増大しており、近年においては、不織布により形成された使い捨てマスクが数多く流通している。その理由としては、不織布により形成されたマスクは、ガーゼマスクと比較して、高いフィルター性能を確保することができ、多量生産が可能であり、その製造コストも安価であることなどを挙げることができる。
【0003】
これらの不織布によるマスクは、通常2~3層、もしくはそれ以上の不織布によるシート材を重ねて成形される。このうち少なくとも一層は、メルトブロー法による高密度な不織布が用いられる。メルトブロー法は原料樹脂から1段階で不織布にする溶融紡糸法で、押出機で溶融した熱可塑性樹脂を幅方向1m当り数百から1000個以上の口金を持つダイから高温・高速の空気流で糸状に吹き出し、繊維状に延伸された樹脂をコンベアー上で集積、その間に繊維同士の絡み合い及び融着が起こりノーバインダーの自己接着型極細繊維のウェブが形成される工程となる。
また、前記した不織布によるマスクによると、着用者の例えば鼻部分にフィットさせるために、形状保持性のあるプラスチック線材を、シート材の間に差し込むことで形成したものが提供されており、その一例として特許文献1に開示されたマスクを挙げることができる。
【0004】
この特許文献1に開示されたマスクによると、マスク本体の上部に沿って形状保持性のあるプラスチック線材からなる鼻部補強部材が挿入され、また、マスク本体の中央部に、同じく形状保持性のあるプラスチック線材からなる口部補強部材が、前記鼻部補強部材に平行して挿入された構成が採用されている。
このマスクによると、鼻部補強部材により着用者の鼻と頬との間の隙間を少なくすることができ、また、口部補強部材は着用者の口元部分に、マスク本体部との間である程度の空間を確保することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に開示されたマスクによると、鼻部補強部材および口部補強部材は、マスク本体を形成する不織布によるシート材の一部に位置決めした状態で、熱溶着もしくは超音波溶着を利用して固定する必要がある。
このために、各補強部材の個別の管理および製造に際しての各部材の位置決めや熱溶着等を含む工程が繁雑となり、これが部品点数の増大と共に製造コストに反映される結果となる。
【0007】
また、前記した鼻部補強部材や口部補強部材は、それぞれ比較的長い線状または棒状に形成されているので、その一部は着用者の顔の一部に不織布を介して接することになり、この補強部材の剛性が肌触りを悪くするという問題を招くことになる。
【0008】
この発明は、形状保持性を有する補強部材を個々に配置した従来の前記したマスクにおける問題点に着目してなされたものであり、マスク本体部の全体において形状保持の機能を施すことができ、着用者各自の好みに応じて全体が柔軟にかつ立体的に変形して、その形状を保持することができるマスク用不織布およびこれを用いたマスクを提供することを主要な目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決するためになされたこの発明に係るマスク用不織布は、請求項1に記載のとおり、樹脂素材によりシート状に成形されたマスク用不織布であって、前記不織布は180度に折り曲げて1分間保持した後開放し、解放後5分経過した時の曲げ戻り角が15度未満であることを特徴とする。
【0010】
そして、マスク用不織布としての好ましい形態においては、請求項2に記載のとおり、繊維密度の高い第一の不織布と、前記第一の不織布よりも繊維密度が低く嵩高の第二の不織布で構成される。この場合、前記第二の不織布として請求項1に記載の不織布を用いた構成が採用される。
さらにこの発明に係るマスク用不織布は、前記第一の不織布および前記第二の不織布が、それぞれメルトブローン不織布で一体成形されていることが望ましい。
また、繊維密度の高い第一の不織布を、前記第一の不織布よりも繊維密度が低い少なくとも二枚の織物または編物生地よって挟んだ構成としたマスク用不織布としてもよい。例えば、付け心地を向上させるために綿やポリエステル、あるいは綿とポリエステルの混紡生地が望ましい。
さらにこの発明に係るマスク用不織布は、請求項3に記載のとおり、第一の不織布は、ポリエステルの長繊維よりなることが望ましい。
【0011】
一方、この発明に係るマスクは請求項4に記載のとおり、前記した請求項1ないし3のいずれか1項に記載の不織布を、マスク本体部に用いることで構成される。
また、前記不織布の一方の面は、マスク本体の不織布とは別の層と隣接し、互いに接触する繊維間が融着状態にあることが好ましい。
また、不織布層の繊維の太さが、織物の層の繊維の太さより細いことが好ましい。
また、不織布層の他方の面は、ポリエステルの長繊維でなる層と隣接し、互いに一定間隔でスポット溶着されてなることが好ましい。
【0012】
また、前記不織布層と別の織物の層を設け、さらに糸の織物層あるいは糸の編物層と縫い合わせることが好ましい。
また、マスク本体の幅方向中心を上下方向に結んだ中心線の左右両側を連通するステッチが設けられていることが好ましい。
また、マスク本体には耳掛け紐が設けられ、耳掛け紐は、少なくとも一部が平坦な紐で形成されていることが好ましい。また、前記耳掛け紐は、面ファスナーにより長さ調整可能に設けられていることが好ましい。
【0013】
さらに、この発明に係る収納袋とマスクのセットによると、請求項5に記載のとおり、マスクを収納するメッシュ生地の収納袋が用意され、前記メッシュ生地は、ダブルラッセル編みの二重網目構造のシートとし、マスク本体を挿入するための開口部を除いて封筒状に縫製され、収納したマスク本体を弾性的に挟持可能とした収納袋とマスクのセットで構成される。さらに、マスク用収納袋には名前タグを備え、名前タグの少なくとも裏側は無地であって、収納袋の表側に折り返し可能に固定されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
前記したこの発明に係るマスク用不織布を用いたマスクによると、マスク本体部を構成するシート状不織布の一部に、その折り曲げ戻り角が、請求項1に記載した特性を有するものを用いることで、マスク本体部の全体において形状保持の機能を施すことができる。
これにより、従来のマスクのように鼻部補強部材や口部補強部材が、不織布を介して着用者の顔の一部に接して肌触りを悪くするという問題を解消することができ、着用者各自の好みに応じて全体を柔軟にかつ立体的に変形させて、その形状を保持させることが可能な不織布マスクを実現させることが可能となる。
【0015】
また、この発明に係るマスク用収納袋は、メッシュ生地により形成され、着用者が外したマスクを収納袋に収容することで、マスクを清潔に維持することができる。また、家庭において収納袋と共に収容されたマスクを、そのまま洗濯することが可能であり、かつ収納袋はマスクを挟持して収容するように作用するので、洗濯ののち、そのまま天日干しが可能である。
また、マスク用収納袋は好ましくはダブルラッセル編みの二重網目構造のシートにより形成されるので、洗濯後の渇きも良くその取り扱いも容易であるなど、実用に則した収納袋とマスクのセットが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】この発明に係る不織布マスクの第1実施形態を示した斜視図である。
【
図2】
図1に示すマスクを着用した例を示す斜視図である。
【
図3】マスク用不織布の曲げ戻り角について示し、(A)はマスク用不織布を示した平面図、(B)および(C)は曲げ戻り角の測定順序を示す側面図である。
【
図4】この発明に係るマスク用不織布の基本構成を示した拡大断面図である。
【
図5】
図4に示すマスク用不織布を得る製造設備の一例を示した模式図である。
【
図6】この発明に係る第2実施形態のマスクを着用した状態で示す斜視図である。
【
図7】
図6に示すマスク本体に用いた不織布の断面構造を示す模式図である。
【
図8】
図6に示すマスクの耳掛け紐に名入れスペースを設けた例を示す模式図であり、(A)は第1の例を示し、(B)は第2の例を示す。
【
図9】マスク収納袋の製造過程を示し、(A)は表側のネームタグ付きの生地の例を示し、(B)は裏側生地を添えた状態を示し、(C)は三辺を縫製して収納袋とした状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明に係るマスク用不織布およびこれを用いたマスクについて、図面に基づいて説明する。
この発明に係るマスク用不織布をマスク本体部に用いて形成した第1実施形態の不織布マスクが、
図1に示されている。日常生活において使用されるこの種のマスクとしては、マスク本体にプリーツが形成され、着用者の顔のサイズに合わせて縦方向(上下方向)の寸法を調整できるプリーツマスクと、一般的な着用者の顔のサイズに合わせて形成された立体マスクとが存在する。
【0018】
図1に示すマスク1は、後者の立体マスクの例を示しており、着用者の顔面の鼻、口、顎等を覆うマスク本体2と、このマスク本体2を着用者の左耳側に係止させる一対の左側耳掛け紐3a,3b、およびマスク本体2を着用者の右耳側に係止させる一対の右側耳掛け紐4a,4bとを備えている。なお、マスク1は
図1に示す状態のマスク本体2の背面側が着用者の顔面に向けて着用される。
【0019】
左側の耳掛け紐3a,3bは、マスク本体2の左側の上下の隅角部に、各紐の端部がそれぞれ取り付けられており、各紐の他端部には、面ファスナーを構成するループ面5およびフック面6がそれぞれ取り付けられている。
同様に、右側の耳掛け紐4a,4bは、マスク本体2の右側の上下の隅角部に、各紐の端部がそれぞれ取り付けられており、各紐の他端部には、面ファスナーを構成するループ面5およびフック面6がそれぞれ取り付けられている。
【0020】
したがって、
図2に示されているように、マスクの着用者はマスク本体2に備えた左側耳掛け部3a,3bにそれぞれ取り付けられた面ファスナー、および右側耳掛け部4a,4bにそれぞれ取り付けられた面ファスナーの接離操作により、マスク1を着脱することができる。
【0021】
前記した左側の耳掛け紐3a,3bおよび右側の耳掛け紐4a,4bは、着用者の耳に直接に触れるものであるため、肌に優しい素材、例えば綿により形成され、好ましくは横幅のある平坦な紐が用いられる。
そして、左右の耳掛け紐3a,3bおよび4a,4bは、それぞれ面ファスナーにより接離可能にされるので、マスク着用者の顔サイズに合わせて、紐長さを決定することができる。これにより、マスクのフィット性を向上させることができ、着用者の顔面とマスク本体2と隙間からの漏れ込みを防止することにも寄与できる。
【0022】
一方、
図1および
図2に示すように前記マスク本体2には、幅方向の中央部に沿って上部接合部7、下部接合部8がそれぞれ施されている。
なお、これらの上下の接合部7,8は、図示するようにマスク本体2の上部と下部にそれぞれ所定の長さで設けても良いし、スポット状の熱あるいは超音波融着であれば、上下の全長にわたって設けても良い。
【0023】
この上下の接合部7,8は、マスク1の不使用時において、マスク本体2の左右の中央部において自然に折れ易くして、マスク本体2の内側面を隠す形で、二重に織り畳むことができるように作用する。
これにより、マスク1を外した際に例えば机の上に置いた状態、または床に落とした場合においても、マスクの内側面汚れる問題を避けることができ、マスクの内側面が清潔な状態を維持することができる。
【0024】
図に示したマスク本体2は、
図2に一部拡大断面図で示したように、基本構成としてマスク本体2の内側を構成する第一層11と、外側を構成する第二層12を有している。
内側の第一層11は、不織布の繊維密度の高い主にフィルター機能を果たす不織布であり、外側の第二層12は、前記第一の不織布よりも繊維密度が低く嵩高のマスク本体2の形状保持機能を果たす不織布となる。
なお、好ましくはフィルター機能を果たす第一層11の内側に、さらに着用者側に位置する不織布からなる着用者側生地13を重ね合わせて、三層以上の不織布によるマスク本体を形成することもできる。
【0025】
前記第一層11を構成する主にフィルター機能を果たす不織布は、塵埃や花粉さらには感染ウイルスなどを捕集する役割を果たす必要があることから、これらの捕集効率の高い不織布、好ましくはポリプロピレン樹脂を素材とし、平均繊維径が0.1~10μmの細い繊維径を有し、坪量20~50g/m2 の繊維密度の高いメルトブローン不織布が好適に用いられる。
【0026】
なお、第一層11を構成するメルトブローン不織布の樹脂素材としては、前記したポリプロピレン樹脂以外に、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリエステルなども好適に利用することができる。
【0027】
より好ましくは、平均繊維径が50~200μmである長繊維のポリエステルを用いることで紫外線による材料劣化の防止と放熱性能が向上してマスク本体2内に熱が籠もることを少なくすることができる。また、前記長繊維のポリエステルを第一層とは別の層としてもよい。
また、前記不織布層の一方の面は、ポリエステルの長繊維でなる織物の層と隣接し、互いに接触する繊維間が融着状態にあるとしてもよい。
また、前記不織布層と織物の層は、さらに糸の織物層あるいは糸の編物層と縫い合わせたこととしてもよい。
【0028】
マスク本体2の前記第二層12を構成する不織布は、前記したとおり主にマスク本体2の形状保持機能を果たすものとなる。
この第二層12を構成する不織布は、ポリオレフィン系の樹脂素材を用いて、例えばメルトブローン不織布を形成する工程で、この不織布を一軸方向に延伸して、分子配列を整えることで、変形後の形状保持性に優れた特性を有する不織布とするものである。
【0029】
この第二層12を構成するポリオレフィン系の不織布は、前記したとおりマスク本体2の形状保持機能を果たすものであることから、フィルター機能を果たす第一層11の不織布に比較して、繊維密度が低く嵩高に成形することが望ましい。
すなわち、第二層12を構成する不織布としては、平均繊維径が50~200μmの繊維径を有し、第一層より嵩高であっても坪量は同等未満が好ましい。第二層の製造工程は、メルトブロー製造装置を用い、押出機で溶融した熱可塑性樹脂を例えば第一層を製造するときより大口径で数を間引いた口金を用い、高温・高速の空気流の延伸効果で分子配列を整えるものとする。
【0030】
第二層12を構成するポリオレフィン系樹脂としては、例えば高密度ポリエチレン樹脂、中密度ポリエチレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂、線状低密度ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-1共重合体、エチレン-ペンテン-1共重合体、エチレン-ヘキセン-1共重合体、エチレン-オクテン-1共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-塩化ビニル共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体等を挙げることができ、特に高密度ポリエチレン樹脂およびポリプロピレン樹脂が好適に使用される。
【0031】
そして、前記した第二層12を構成するポリオレフィン系の不織布は、前記したとおり、一軸方向に延伸処理を施すことで、分子配列を整えることができ、これにより延伸方向に対して特に直角方向に屈曲させた場合の曲げ戻り特性の少ない不織布、すなわち形状保持機能を有する不織布を実現させることができる。
【0032】
図3は、第二層12を構成する形状保持機能を有する不織布の好ましい特性について示しており、
図3(A)は第二層12を構成する不織布の模式図である。この第二層12を構成する不織布は、矢印X方向に延伸される。すなわち、X方向が延伸方向であり、矢印Y方向は延伸方向に対して直角方向である。
そして、
図3(A)に示した不織布の延伸方向に対して直角方向(点線15)に沿って二つ折りにし、不織布を
図3(B)に示したように2層に重ね合わせる。その状態を1分間保持した後開放すると、重ね合わされた不織布は元の状態に復帰するように作用するので、開放後5分経過した時の曲げ戻り角度〔
図3(C)に示すθ〕が、15度未満である特性を有していることが好ましい。
【0033】
図4および
図5は、前記した第一層11の不織布と、第二層12の不織布を重ね合わせてマスク本体2の素材を得る熱溶着手段の一例を示している。
図4は、第一層11のフィルター機能を果たす不織布に対して、第二層12の形状保持機能を有する不織布を重ね合わせて得たマスク本体2の素材の状態を、断面図で示している。これら第一層11および第二層12は、共に熱可塑性樹脂を素材とした不織布であることから、適宜の位置でスポット的に互いに熱溶着させることで、マスク本体2の素材とすることができる。
【0034】
図5は、
図4に示す重ね合わせ状態のマスク用不織布を得る製造設備(熱溶着手段)の一例を模式図で示している。
上下に対向するヒートローラ21と圧着ローラ22は、上下で互いに逆方向回転されて、供給ロール23から巻き出される第一層11の不織布に対して、第二層12の不織布が熱圧着される。この時の第二層12の不織布は、すでに説明したとおり延伸処理を施すことにより、分子配列を整えて形状保持機能を有する状態になされていることが望ましい。
【0035】
なお、この例におけるヒートローラ21には、好ましくはローラ面の適宜の位置に、例えば凸パターンを形成しておくことで、マスク本体2となる不織布の同一箇所に対して、それぞれスポット的に熱溶着を施すことができる。これにより、マスク本体2の素材となる重ね合わされた不織布を、連続的に製造することができる。
【0036】
図5に示した例は、マスク本体2の素材となる第一層11と第二層12の不織布を、熱溶着手段により重ね合わせるものであるが、これは、第一層11の不織布および第二層12の不織布を、メルトブローン不織布で一体成形することも可能である。
すなわち、第一層11の不織布を、図示せぬ第一のメルトブローン製造設備によって、例えば一方向に流れるコンベアー上に集積し、このコンベアーの流れの下流側に隣接させて配置された図示せぬ第二のメルトブローン製造設備によって、第二層12の不織布を、第一層11の不織布上に集積させる。
これにより、第一層11と第二層12のメルトブローン不織布が一体に重ね合わされた状態で得ることができる。
【0037】
なお、第一層11と第二層12のメルトブローン不織布の集積順序を変えて、形状保持機能を持たせる第二層12となるメルトブローン不織布を先に集積して形成し、第二層12となるメルトブローン不織布に延伸処理を施した後に、この上にフィルター機能を持たせる第一層11となるメルトブローン不織布を集積させることで、一体成形されたメルトブローン不織布を得ることもできる。
【0038】
この発明に係るマスク用不織布およびこれを用いた第1実施形態のマスクによると、フィルター機能を果たす不織布に、特定の曲げ戻り特性(形状保持機能)を有する不織布を重ねてマスク本体2としたことで、前記した発明の効果の欄に記載したように、鼻部補強部材や口部補強部材を不織布の一部に挿入した従来の不織布マスクに比較して、着用者各自の好みに応じて全体を柔軟にかつ立体的に変形させて、その形状を保持させることが可能な不織布マスクを実現させることが可能となる。
【0039】
そして、不織布自体に形状保持性を持たせた前記したマスク1によると、
図2に示すように鼻部分に良好にフィットするだけでなく、口元からマスク本体2を放した形状を保持させることができ、化粧汚れや呼吸の不快感、夏場の蒸れを効果的に防止することができる不織布マスクが実現できるものとなる。
【0040】
次に
図6は、この発明に係る第2実施形態のマスク1を着用した状態で示しており、マスク本体2の一部は断面図で示している。
この第2実施形態のマスク1においても、マスク本体2の内側を構成する第一層11と、外側を構成する第二層12を有しており、第一層11の内側に、さらに着用者側に位置する着用者側生地13が重ね合わされて成形されている。
マスク本体2の第一層11は、繊維密度の高い不織布を含み、主にフィルター機能を果たすものとなる。その好ましい形態の断面構造が、
図7に模式図で示されている。
【0041】
図7に示す第一層11は、中央にメルトブロー不織布15が配され、その両面に第1織物16および第2織物17が配されることで、第一層11はハイブリット層を構成している。そして、中央のメルトブロー不織布15は、第1実施形態のマスク1に基づいて、すでに説明したとおり、平均繊維径が0.1~10μmの繊維密度の高い、好ましくはポリエステル素材によるメルトブロー不織布15により構成されている。
また、両面の第1織物16および第2織物17は、それぞれに縦糸16a、横糸16bおよび縦糸17a、横糸17bを有する平織りになされており、これには平均繊維径が50~200μmのポリエステル樹脂の長繊維(シングルフィラメント)が用いられる。
【0042】
この場合、一方の例えば第1織物16の面上に、メルトブロー法により、高温・高速の空気流で、好ましくはポリエステル樹脂を糸状に吹き出すことで、第1織物16に対してメルトブロー不織布15を融着させた状態で積層成形することができる。
そして、第1織物16とは反対面のメルトブロー法により成形された不織布15の面に沿って、第2織物17を重ねて、適宜の位置にスポット溶着部18を施すことで、
図7に示した第一層11としてのハイブリット層を形成することができる。
【0043】
このようにスポット溶着部18を施す手段としては、例えば
図5に例示した熱溶着手段を利用することができる。
すなわち、
図5に示すヒートローラ21の適宜の位置に、例えば凸パターンを形成し、第1織物16にメルトブロー不織布15を融着させた素材に、第2織物17の素材を重ねた状態で、ヒートローラ21と圧着ローラ22との間に送り込む。これにより、ヒートローラ21の前記凸パターンによって、
図7に示したスポット溶着部18を、第一層11に対して間欠的に施すことができる。
これにより、
図7に示すようにメルトブロー不織布15を中央にして、第1織物16および第2織物17がスポット溶着18によって、一体化されたハイブリット層(第一層11)を得ることができる。
【0044】
なお、第2実施形態として示すマスク本体2の外側の第二層12は、第1実施形態のマスク本体2と同様に、第一層11に用いるメルトブロー不織布15に比較して繊維密度が低く嵩高に成形されたマスク本体2の形状保持機能を果たす不織布または、ポリエステル等の熱可塑性樹脂を用いた織物生地が用いられる。
この場合、着用者側生地13を、ポリエステル繊維の混紡とすれば肌に優しいマスク本体2とすることが可能である。加えて外側の第二層12の素材にポリエステル繊維を採用することで、マスク本体2の熱伝導効果をさらに向上させることができる。
これにより、マスク本体2における熱の籠りを改善することができると共に、洗濯後の渇きも良く、縮みもほとんど生ずることのないマスク1を提供することができる。
そして、ポリエステル繊維は、従来の不織布マスクに多用されているポリプロピレンに比較して、紫外線による劣化の度合いが格段に少ないので、天日干しによる殺菌も可能となる。
【0045】
一方、
図6に示すマスク本体2には、左右一対の耳掛け紐が左右対象に備えられるが、図示例においては、左側耳掛け紐3のみが示されている。
この耳掛け紐3は、肌に優しい素材、好ましくは横幅のある綿生地を、長さ方向に沿って二つ折りにして利用しており、その一端部はマスク本体2の左上の隅角部に縫い付けられている。また、耳掛け紐3の他端部には、面ファスナーを構成するループ面5が装着されている。
このループ面5が、マスク本体2の下側隅角部付近に配置された面ファスナーを構成するフック面6の適宜の位置に取り付けられることで、マスク着用者の顔サイズに合わせて、紐長さを決定することができる。
【0046】
また、耳掛け紐3の一端部と他端部側には、二つ折りにした綿生地の重なる縁部に沿って、ステッチ3dがそれぞれ施されている。そして、耳掛け紐3の中央部3e付近は、ステッチ3dが施されていない非ステッチ部になされている。
この中央部3e付近の非ステッチ部は、耳に掛けているときには張力と耳掛け紐3の折りくせにより閉じているが、マスク1を外した状態においては、自然に開かれる。
【0047】
図8は、耳掛け紐3の中央部3e付近の開かれる部分を利用して、名前または識別記号19を施した例を示している。
図8(A)は、耳掛け紐3の中央部3e付近の二つ折りにした内側の生地に、ネームまたは識別記号19を記入した例を示している。また
図8(B)は、二つ折りにした内側の生地に、当て布などのネームタグ3fを縫い付けて、このネームタグ3fに、ネームまたは識別記号19を記入した例を示している。
この構成によると、マスク1の装着状態においては、ネームまたは識別記号19は耳掛け紐3の内側に隠れるので、園児や小学生などの登下校時などにおいて、不審者に名前などを見られる虞を無くすことができる。
【0048】
図9は、前記したマスク1を収容し得るマスク用収納袋31の例を示している。このマスク用収納袋31は、前面側生地31aと背面側生地31bが、マスク1を挿入するための上部開口を除いて、縫製縁取り布31eによって封筒状に縫製されて構成される。
図9(A)~(C)は、マスク用収納袋31を縫製順に記載しており、
図9(A)は前面側生地31aの上縁部に沿って、ネームタグ31dを開口部縁取り布31cと共に、縫製した状態を示している。この場合、ネームタグ31dは、少なくとも裏側は無地であって、前面側生地31aの表側に折り返し可能に縫製される。
すなわち、ネームタグ31dの裏側の無地面に名前等を記入し、ネームタグ31dの表面からは、名前等が見えずに隠れるように配慮されている。
【0049】
図9(B)は前面側生地31aの裏側に、背面側生地31bを沿わせた状態で、右側縁、下側縁、左側縁に沿って、縫製縁取り布31eと共に、前記各縁を縫製した状態を示している。この場合、前面側生地31aおよび背面側生地31bは、メッシュ生地からなり、好ましくはダブルラッセル編みの二重網目構造のシートで構成される。
そして、
図9(C)は縫製縁取り布31eの残り部分を折り返して縫製し、折り返し部にDリング31fを取り付けたマスク用収納袋31の完成状態を示している。
なお、前記した開口部縁取り布31cと縫製縁取り布31eは、前面側生地31aおよび背面側生地31bに対して、色違いの布を用いることにより、マスク用収納袋31にアクセントを持たせることができる。
【0050】
このマスク用収納袋31によると、開口部縁取り布31cに沿って形成されたマスク1を挿入するための開口部(開口部縁取り布31cと同一符号で示す。)を除いて、封筒状に縫製される。これにより、マスク用収納袋31は、開口部31cから挿入されたマスク1を弾性的に挟持可能にしており、この構造により収納袋31は、マスク1と共に洗濯および乾燥を可能とすることができる。
【0051】
したがって、前記したマスク用収納袋31とマスク1のセットによると、収納袋31と共に収容されたマスク1を、そのまま洗濯することが可能であり、かつ収納袋31はマスク1を挟持して収容するように作用するので、洗濯ののち、そのまま天日干しが可能である。
また、マスク用収納袋31とマスク1は、洗濯後の渇きも良く、その取り扱いも容易であるなど、前記した発明の効果の欄に記載した作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 マスク
2 マスク本体
3 左側耳掛け紐
3a,3b 左側耳掛け紐
3d ステッチ
3e 中央部(非ステッチ部)
3f ネームタグ(当て布)
4a,4b 右側耳掛け紐
11 第一層
12 第二層
13 着用者側生地
15 メルトブロー不織布
16 第1織物
17 第2織物
18 スポット溶着部
19 ネームまたは識別記号
21 ヒートローラ
22 圧着ローラ
23 供給ロール
31 マスク収容袋
31a 前面側生地
31b 背面側生地
31c 開口部縁取り布(収容袋開口部)
31d ネームタグ
31e 縫製縁取り布