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特開2022-78677ダイホルダの補修方法及びダイホルダの補修構造
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  • 特開-ダイホルダの補修方法及びダイホルダの補修構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022078677
(43)【公開日】2022-05-25
(54)【発明の名称】ダイホルダの補修方法及びダイホルダの補修構造
(51)【国際特許分類】
   B21D 37/20 20060101AFI20220518BHJP
【FI】
B21D37/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020189529
(22)【出願日】2020-11-13
(71)【出願人】
【識別番号】520446986
【氏名又は名称】楠精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】特許業務法人なじま特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 重幸
【テーマコード(参考)】
4E050
【Fターム(参考)】
4E050JD02
(57)【要約】
【課題】ダイホルダを常温としたままで亀裂を簡便かつ確実に補修することができる、新規なダイホルダの補修方法及びダイホルダの補修構造を提供する。
【解決手段】ダイホルダ11の表面に、両端に幅広溝部14を持つ補修用凹溝12を形成し、両端に拡大頭部を持つ金属製の締結プレート20を加熱して熱膨張させた状態でこの補修用凹溝12の内部に挿入し、締結プレート20の降温による熱収縮を利用して補修用凹溝12の両端の幅広溝部14間に圧縮応力を生じさせる。これによりダイホルダ11の表面に局部的に圧縮応力を作用させ、亀裂10の発生又は進展を防止できる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイホルダの表面に、両端に幅広溝部を持つ補修用凹溝を形成し、両端に拡大頭部を持つ金属製の締結プレートを加熱して熱膨張させた状態でこの補修用凹溝の内部に挿入し、その後の締結プレートの降温による熱収縮を利用して補修用凹溝の両端の幅広溝部間に圧縮応力を生じさせることを特徴とするダイホルダの補修方法。
【請求項2】
前記補修用凹溝を、ダイホルダ表面の亀裂をまたぐ方向に形成することを特徴とする請求項1に記載のダイホルダの補修方法。
【請求項3】
前記補修用凹溝を、ダイホルダ表面の亀裂発生が予想される部位に形成することを特徴とする請求項1に記載のダイホルダの補修方法。
【請求項4】
前記補修用凹溝の深さを、締結プレートの厚さと同等であるか、それよりも深くしたことを特徴とする請求項1~3の何れかに記載のダイホルダの補修方法。
【請求項5】
ダイホルダの表面に形成された両端に幅広溝部を持つ補修用凹溝の内部に、両端に拡大頭部を持つ金属製の締結プレートが挿入されており、この締結プレートの拡大頭部が補修用凹溝の両端の幅広溝部に密着し、ダイホルダの表面に圧縮応力を加えていることを特徴とするダイホルダの補修構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレスマシンや射出成型機等に組み込まれたダイホルダの補修方法及びダイホルダの補修構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プレスマシンや射出成型機等には、特許文献1に示されるように、金型を取付けるためのダイホルダが組み込まれている。ダイホルダは肉厚で強度に優れた合金鋼からなるものであるが、繰り返して荷重を受けるため、長期間使用すると表面に金属疲労による亀裂が発生することがある。その場合には亀裂が小さいうちに補修する必要がある。
【0003】
金属構造物に発生した亀裂の補修方法としては、特許文献2に示されるように、ガウジングと呼ばれる技術が知られている。これは亀裂部分に凹部を形成して溶接することにより亀裂を修復する方法である。しかしこの補修方法をダイホルダに適用すると、溶接部が局部的に非常に高温となるため、その影響を受けて全体が歪んだり、熱影響により近傍の鋼材組織が変化したりするおそれがある。そこで溶接前にダイホルダの全体を400℃程度に加熱して局部的な熱歪を緩和することも行われているが、多くのコストと時間を要するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公昭60-5950号公報
【特許文献2】特開2005-296986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、ダイホルダを常温としたままで亀裂を簡便かつ確実に補修することができる、新規なダイホルダの補修方法及びダイホルダの補修構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するためになされた本発明のダイホルダの補修方法は、ダイホルダの表面に、両端に幅広溝部を持つ補修用凹溝を形成し、両端に拡大頭部を持つ金属製の締結プレートを加熱して熱膨張させた状態でこの補修用凹溝の内部に挿入し、締結プレートの降温による熱収縮を利用して補修用凹溝の両端の幅広溝部間に圧縮応力を生じさせることを特徴とするものである。
【0007】
なお、前記補修用凹溝を、ダイホルダ表面の亀裂をまたぐ方向に形成することができる。また前記補修用凹溝を、ダイホルダ表面の亀裂発生が予想される部位に形成することもできる。何れの場合にも、前記補修用凹溝の深さを、締結プレートの厚さと同等であるか、それよりも深くしておくことが好ましい。
【0008】
また本発明のダイホルダの補修構造は、ダイホルダの表面に形成された両端に幅広溝部を持つ補修用凹溝の内部に、両端に拡大頭部を持つ金属製の締結プレートが挿入されており、この締結プレートの拡大頭部が補修用凹溝の両端の幅広溝部に密着し、ダイホルダの表面に圧縮応力を加えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、小型の締結プレートの熱収縮を利用してダイホルダの表面に圧縮応力を生成することができる。従って、ダイホルダの全体を昇温することなく、亀裂の進展を防止することができる。また補修用凹溝をダイホルダ表面の亀裂発生が予想される部位に形成すれば、亀裂の発生を事前に防止することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】亀裂が発生したダイホルダを模式的に示す平面図である。
図2】締結プレートを補修用凹溝の内部に挿入した状態を示す平面図である。
図3】締結プレートの平面図である。
図4】他の締結プレートの平面図である。
図5】他の締結プレートを補修用凹溝の内部に挿入した状態を示す平面図である。
図6】他の締結プレートの平面図である。
図7】他の締結プレートを補修用凹溝の内部に挿入した状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を参照しつつ、本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1は、溝中央部に金属疲労によって亀裂10が発生したダイホルダ11を模式的に示す平面図である。実機における亀裂10の発生方向、発生位置、長さは様々であるが、図1はその一例を示すものである。亀裂10はダイホルダ11の表面に作用する引張応力により発生し、放置すると伸展してダイホルダ11の破壊を招くおそれがある。
【0012】
本発明では、図2に示すようにダイホルダ11の表面に、補修用凹溝12を形成する。この補修用凹溝12は亀裂10をまたぐ一定幅の溝中央部13の両端に幅広溝部14を持つもので、回転工具によりダイホルダ11の表面を削り込むことによって形成することができる。ダイホルダ11に作用する引張応力は表層部で最大になるから、補修用凹溝12はダイホルダ11の表層部のみに形成すればよく、あまり深くしすぎるとダイホルダ11の強度低下を招くので好ましくない。補修用凹溝12の深さはダイホルダ11の厚さの10~30%程度とすることが望ましい。
【0013】
補修用凹溝12はその長手方向に圧縮応力を発生させるものであるから、図2に示すように圧縮応力を発生させたい方向、すなわち亀裂10をまたぐ方向に形成することが好ましい。なお、実際に亀裂10が発生していなくても、補修用凹溝12をダイホルダ11の表面の亀裂発生が予想される部位に形成してもよい。補修用凹溝12の幅や長さは実機の状況に応じて適宜設定することができる。図2では2本の補修用凹溝12が平行に形成されているが、その本数及び方向も適宜変更することができる。
【0014】
これらの補修用凹溝12の内部には、図3に示すような締結プレート20が挿入される。締結プレート20には大きい熱応力が生ずるので、クロム、ニッケル等を含有させて強度を高めた合金工具鋼などを使用することが好ましいが、ダイホルダ11と同一材質とすることもできる。
【0015】
締結プレート20は一定幅の中央部21の両端に、拡大頭部22を形成した形状である。図3に示す実施形態では拡大頭部22は略長方形状であって、補修用凹溝12の幅広溝部14に対向する辺23は中央部21の方向(長手方向)に対して直角に形成されている。しかし図4に示す他の実施形態のように、この部分を斜面24とすることも可能である。更に図6に示すように、拡大頭部22を円形とすることもできる。締結プレート20の形状と補修用凹溝12の形状はほぼ一致させておくことが好ましく、図4の締結プレート20を用いる場合には、補修用凹溝12を図5のような形状とする。また図6の締結プレート20を用いる場合には、補修用凹溝12を図7のような形状とする。
【0016】
この締結プレート20は中央部21をバーナーで等で集中的に加熱し、熱膨張させた状態で補修用凹溝12の内部に挿入される。このため、図2図5に示すように補修用凹溝12の全長は締結プレート20の全長よりも僅かに大きく、外側に熱膨張を吸収できる十分な隙間が形成されるようにしておく。また締結プレート20の両側の辺23,23間の距離は、熱膨張させた状態では補修用凹溝12の幅広溝部14,14の内側間距離よりも僅かに大きいが、常温まで降温させた状態では補修用凹溝12の幅広溝部14,14の内側間距離よりも僅かに小さくなるように設定しておく。加熱温度と材質の線膨張係数と締結プレート20の長さから、締結プレート20の熱膨張量は正確に計算することができる。
【0017】
締結プレート20の中央部21を集中的に加熱するためには、例えば締結プレート20の両端の拡大頭部22を断熱材で覆うという方法を採用することができる。締結プレート20の全体を均等に加熱することもできるが、両端の拡大頭部22は補修用凹溝12の幅広溝部14と密着して荷重を伝達する部位であるから、温度上昇による軟化や変形を抑制することが好ましく、そのためには中央部21を集中的に加熱して熱膨張させるか、全体を均一加熱したうえで両端の拡大頭部22を冷却することが好ましい。
【0018】
上記のようにして熱膨張させた締結プレート20を補修用凹溝12に挿入した後に放冷すれば、締結プレート20は降温して熱収縮し、補修用凹溝12の両端の幅広溝部14に拡大頭部22が密着して,幅広溝部14、14間に圧縮応力を生じさせることができる。これによってダイホルダ11の表面に局部的な圧縮応力を加えることができるので、亀裂10の進展を防止したり、亀裂10の発生を予防することができる。本発明によれば締結プレート20を加熱するだけでよく、ダイホルダ11は常温のままでよいので低コストであり、亀裂10を簡便かつ確実に補修することができる。
【0019】
なお、締結プレート20の温度変化に伴う膨張収縮量は精度よく計算することができるが、補修用凹溝12と締結プレート20の寸法もそれに合わせて精度よく加工する必要がある。補修用凹溝12に対して締結プレート20が長すぎると十分な圧縮応力を発生させることができず、逆に締結プレート20が短すぎると締結プレート20が変形したり破断するおそれがあるためである。
【0020】
このためには、図3に示すように締結プレート20の拡大頭部22の辺23を、締結プレート20の長手方向に対して直角に形成しておく方が加工精度を高め易いので好ましい。しかし図3のように辺23を直角にするとコーナー部に応力集中が生じ易いが、図4のように斜面24とすると応力集中を緩和でき、さらに図6のような形状とすると応力集中を最も小さくすることができる。このため、拡大頭部22の形状は状況に応じて適宜選択することが好ましい。図5に示すように、締結プレート20の形状に応じて補修用凹溝12の形状も変更すべきことはいうまでもない。
【0021】
ダイホルダ11の表面には金型が装着されるので、締結プレート20が補修用凹溝12よりも突出することは好ましくない場合が多い。このため、補修用凹溝12の深さを、締結プレート20の厚さと同等であるか、それよりも深くしておくことが好ましい。
【0022】
なお、上記の実施形態では、締結プレート20の拡大頭部22にはボルト挿通孔25を形成し、締結プレート20をダイホルダ11にボルト固定している。これにより、ダイホルダ11の補修用凹溝12から締結プレート20が脱落する事故を防止することができる。ボルト挿通孔25とボルトとの間にクリアランスを形成しておけば、締結プレート20の膨張収縮が阻害されることはない。なお、締結プレート20は補修用凹溝12の内面に強く密着しており、正しく施工すれば脱落の可能性はないため、ボルト挿通孔25は省略することもできる。
【0023】
以上に説明した実施形態では、ダイホルダ11の上面または下面に補修用凹溝12を形成した。しかしダイホルダ11の端面に補修用凹溝12を形成し、厚み方向の亀裂10を防止することも可能である。本発明はプレスマシン用のダイホルダ11だけではなく、その他の鍛造装置や射出成型機などのダイホルダにも適用できることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0024】
10 亀裂
11 ダイホルダ
12 補修用凹溝
13 溝中央部
14 幅広溝部
20 締結プレート
21 中央部
22 拡大頭部
23 辺
24 斜面
25 ボルト挿通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7