(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022078704
(43)【公開日】2022-05-25
(54)【発明の名称】溶融スラグからの有価物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/70 20220101AFI20220518BHJP
C01B 33/12 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
B09B3/00 304A
C01B33/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020189574
(22)【出願日】2020-11-13
(71)【出願人】
【識別番号】592141927
【氏名又は名称】JFE環境テクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100205730
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 重輝
(74)【代理人】
【識別番号】100213551
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 智貴
(72)【発明者】
【氏名】遠山 朋子
(72)【発明者】
【氏名】和田 恵
(72)【発明者】
【氏名】山本 誠
(72)【発明者】
【氏名】藤田 理人
【テーマコード(参考)】
4D004
4G072
【Fターム(参考)】
4D004AA43
4D004AB03
4D004AC04
4D004CA12
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4G072AA25
4G072GG01
4G072GG03
4G072HH38
4G072JJ15
4G072KK01
4G072LL06
4G072MM03
4G072MM22
4G072MM23
4G072MM31
4G072PP05
4G072RR07
4G072RR12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ゾル状のSiO
2をゲル状のSiO
2にゲル化する際に、酸を外添することなく、ゲル化を制御することが可能な、溶融スラグからの有価物の製造方法を提供する。
【解決手段】SiO
2と、CaOと、Al
2O
3とを少なくとも含む溶融スラグと硫酸を第1タンク10に添加し、液中で得られるSiO
2ゾルと、Al
2O
3を溶解して得られる硫酸アルミニウムと、余剰の硫酸とからなる液体成分と、第1タンク10内で、CaOと硫酸との反応により得られる石膏からなる固形分とを、固液分離する第1工程と、第1工程で生じた成分を第2タンク20内で、SiO
2ゾルをゲル化してSiO
2ゲルを固形分として生成し、該固形分を固液分離してSiO
2ゲルと硫酸アルミニウムを含む液体成分を分離取得する第2工程とを有し、第2工程において、第1タンク10から送られてくる液体成分中の余剰の硫酸を酸成分を触媒してゲル化を促進する処理を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO2と、CaOと、Al2O3とを少なくとも含む溶融スラグから有価物を製造する方法であり、
前記溶融スラグと、硫酸を第1タンクに添加し、
前記硫酸の添加量は、該スラグに含まれるCaOおよびAl2O3の反応に必要な硫酸のモル当量よりも、1.05~1.5倍のモル当量であり、
前記第1タンク内で、液中で得られるSiO2ゾルと、Al2O3を溶解して得られる硫酸アルミニウムと、消費されたモル当量分を除いた余剰の硫酸とからなる液体成分と、該第1タンク内で、CaOと硫酸との反応により得られる石膏からなる固形分とを、固液分離する第1工程と、
前記第1工程で生じるSiO2ゾル、硫酸アルミニウム、余剰の硫酸からなる液体成分を第2タンクに移行して、該第2タンク内でSiO2ゾルをゲル化してSiO2ゲルを固形分として生成し、該固形分を固液分離してSiO2ゲルと硫酸アルミニウムを含む液体成分を分離取得する第2工程とを有し、
前記第2工程において、前記第2タンク内の液体成分中に前記第1タンクから送られるSiO2ゾル粒子と水素イオンが存在する系を形成する際に、
該第2タンク内で酸成分を新たに添加することなく第1タンクから送られてくる液体成分中の余剰の硫酸を酸成分として用いて水素イオンが存在する系を形成し、
前記形成された系内で水素イオンを触媒とするゲル化を促進する処理を行うことを特徴とする溶融スラグからの有価物の製造方法。
【請求項2】
前記硫酸の添加量は、該スラグに含まれるCaOおよびAl2O3の反応に必要な硫酸のモル当量よりも、1.05~1.1倍のモル当量であることを特徴とする請求項1記載の溶融スラグからの有価物の製造方法。
【請求項3】
前記第2工程におけるゲル化を促進する処理が、前記系内の溶液中のSiO2ゾル濃度を高くする処理であることを特徴とする請求項1又は2記載の溶融スラグからの有価物の製造方法。
【請求項4】
前記第2工程におけるゲル化を促進する処理が、前記系内の溶液中の水素イオン濃度を高くする処理であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の溶融スラグからの有価物の製造方法。
【請求項5】
前記第2工程におけるゲル化を促進する処理が、前記系内の溶液の温度を95℃以上に加熱する処理であることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の溶融スラグからの有価物の製造方法。
【請求項6】
前記溶融スラグが、Pbを含み、
前記第1工程で、PbをPbSO4として固液分離し、
Pbを含まない硫酸アルミニウムからなる有価物を取得することを特徴とする請求項1~5の何れかに記載の溶融スラグからの有価物の製造方法。
【請求項7】
前記第2工程で得られた硫酸アルミニウムを含む液体を、再び前記第1工程で用いる硫酸の一部として再利用することを特徴とする請求項1~6の何れかに記載の溶融スラグからの有価物の製造方法。
【請求項8】
前記第1工程又は前記第2工程で分離した固形分を洗浄する洗浄水を、前記第1工程で用いる硫酸調整の希釈水とすることを特徴とする請求項1~7の何れかに記載の溶融スラグからの有価物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融スラグからの有価物の製造方法に関し、詳しくは溶融スラグを硫酸で溶解して得られる硫酸アルミニウムを液状成分の有価物として回収でき、ゾル状のSiO2をゲル化してゲル状のSiO2を固体状の有価物として回収できる溶融スラグからの有価物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、溶融スラグに対して、酸を加えて溶解処理して、未溶解物を取得する溶融スラグの処理方法と、環境エネルギー施設から発生する溶融スラグに対し、酸を加えて、溶解処理して未溶解物を取得するシリカ製造方法が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載する未溶解物は、塩酸溶液で溶解した際の未溶解物はSiO2以外にない(0019)。特許文献1の溶融スラグにCaを含むのであるから、未溶解物に石膏がない以上、酸として硫酸を使うことはなく、明細書の記載や実施例を見ても酸として使用するのは塩酸である。
【0004】
特許文献1の方法は、ゾル化とゲル化が同時に起こるため、スラグの溶け残りによって不純物が混ざるおそれがあり、溶融スラグから得られる有価物の種類が少ないという課題が残されている。
【0005】
一方、特許文献2には、スラグを硫酸と反応させて石膏を生成させ、析出した石膏を固液分離し、分離された液の酸濃度を1規定以上に高めて非晶質シリカを析出させる手法が記載されている。
【0006】
特許文献2は、鉄鋼スラグとして、製鉄所、精錬所等で発生する高炉スラグを用いており、高炉スラグの化学組成は、シリカ:33%、アルミナ:14%、酸化カルシウム:41%、マグネシア:7%、イオウ:1%と記載されており、鉛は含まれていない。この特許文献2は、鉛を含む溶融スラグから有価物を回収する技術は開示されていない。
【0007】
特許文献2の実施例1によると以下の記載がある。高炉水砕スラグ粉末10重量部に対し、3規定硫酸を100重量部添加して室温で30分間攪拌した。析出した固形分は二水石膏であった。ついで、上記濾液に更に濃硫酸を10重量部加え、攪拌しながら90℃で、約1/2となるまで加熱濃縮したところ、ゲル状物質が析出した。
この記載からすると、ゲル状物質を析出する際に、濃硫酸を加えているので、酸使用量が増加し、コスト高となる欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2018-149538号公報
【特許文献2】特開平9-286611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、ゾル状のSiO2をゲル状のSiO2にゲル化する際に、濃硫酸などの酸を外添する必要がなく、ゲル化の促進処理を可能にし、ゲル化時間を短縮できたり、ゲル化を制御できたりすることが可能な溶融スラグからの有価物の製造方法を提供することにある。
【0010】
また本発明の課題は、溶融スラグを硫酸で溶解して得られる硫酸アルミニウムを液状成分の有価物として回収でき、ゾル状のSiO2をゲル化してゲル状のSiO2を固体状の有価物として回収でき、高純度のSiO2を回収できる溶融スラグからの有価物の製造方法を提供することにある。
【0011】
さらに本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0013】
(請求項1)
SiO2と、CaOと、Al2O3とを少なくとも含む溶融スラグから有価物を製造する方法であり、
前記溶融スラグと、硫酸を第1タンクに添加し、
前記硫酸の添加量は、該スラグに含まれるCaOおよびAl2O3の反応に必要な硫酸のモル当量よりも、1.05~1.5倍のモル当量であり、
前記第1タンク内で、液中で得られるSiO2ゾルと、Al2O3を溶解して得られる硫酸アルミニウムと、消費されたモル当量分を除いた余剰の硫酸とからなる液体成分と、該第1タンク内で、CaOと硫酸との反応により得られる石膏からなる固形分とを、固液分離する第1工程と、
前記第1工程で生じるSiO2ゾル、硫酸アルミニウム、余剰の硫酸からなる液体成分を第2タンクに移行して、該第2タンク内でSiO2ゾルをゲル化してSiO2ゲルを固形分として生成し、該固形分を固液分離してSiO2ゲルと硫酸アルミニウムを含む液体成分を分離取得する第2工程とを有し、
前記第2工程において、前記第2タンク内の液体成分中に前記第1タンクから送られるSiO2ゾル粒子と水素イオンが存在する系を形成する際に、
該第2タンク内で酸成分を新たに添加することなく第1タンクから送られてくる液体成分中の余剰の硫酸を酸成分として用いて水素イオンが存在する系を形成し、
前記形成された系内で水素イオンを触媒とするゲル化を促進する処理を行うことを特徴とする溶融スラグからの有価物の製造方法。
(請求項2)
前記硫酸の添加量は、該スラグに含まれるCaOおよびAl2O3の反応に必要な硫酸のモル当量よりも、1.05~1.1倍のモル当量であることを特徴とする請求項1記載の溶融スラグからの有価物の製造方法。
(請求項3)
前記第2工程におけるゲル化を促進する処理が、前記系内の溶液中のSiO2ゾル濃度を高くする処理であることを特徴とする請求項1又は2記載の溶融スラグからの有価物の製造方法。
(請求項4)
前記第2工程におけるゲル化を促進する処理が、前記系内の溶液中の水素イオン濃度を高くする処理であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の溶融スラグからの有価物の製造方法。
(請求項5)
前記第2工程におけるゲル化を促進する処理が、前記系内の溶液の温度を95℃以上に加熱する処理であることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の溶融スラグからの有価物の製造方法。
(請求項6)
前記溶融スラグが、Pbを含み、
前記第1工程で、PbをPbSO4として固液分離し、
Pbを含まない硫酸アルミニウムからなる有価物を取得することを特徴とする請求項1~5の何れかに記載の溶融スラグからの有価物の製造方法。
(請求項7)
前記第2工程で得られた硫酸アルミニウムを含む液体を、再び前記第1工程で用いる硫酸の一部として再利用することを特徴とする請求項1~6の何れかに記載の溶融スラグからの有価物の製造方法。
(請求項8)
前記第1工程又は前記第2工程で分離した固形分を洗浄する洗浄水を、前記第1工程で用いる硫酸調整の希釈水とすることを特徴とする請求項1~7の何れかに記載の溶融スラグからの有価物の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ゾル状のSiO2をゲル状のSiO2にゲル化する際に、濃硫酸などの酸を外添する必要がなく、ゲル化の促進処理を可能にし、ゲル化時間を短縮できたり、ゲル化を制御できたりすることが可能な溶融スラグからの有価物の製造方法を提供することにある。
【0015】
また本発明によれば、溶融スラグを硫酸で溶解して得られる硫酸アルミニウムを液状成分の有価物として回収でき、ゾル状のSiO2をゲル化してゲル状のSiO2を固体状の有価物として回収でき、高純度のSiO2を回収できる溶融スラグからの有価物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の溶融スラグからの有価物の製造方法の一例を示すフロー図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について好ましい実施の形態について説明する。
本発明は、SiO2と、CaOと、Al2O3とを少なくとも含むスラグから有価物を製造する方法である。
スラグは、ごみ焼却設備等から発生する溶融スラグ、製鉄所、精錬所等で発生する鉄鋼スラグなどが挙げられる。
製鉄所、精錬所等では、例えば、温度が1800℃以上、つまり鉛の沸点以上の温度で溶融された鉄鋼スラグが発生する。この場合、鉛の沸点以上の温度であるため、鉄鋼スラグに鉛が残留することはない。
しかしながら、ごみ焼却設備等では、例えば、温度が1200℃程度、つまり鉛の沸点未満の温度で溶融された溶融スラグが発生する。この場合、鉛の沸点未満の温度であるため、溶融スラグに鉛が残留することになる。
溶融スラグが発生するプラント設備の溶融温度は、プラント設計の段階で定められているため、プラント設備を容易に設計変更はできない。
したがって、溶融スラグが発生する設備によらず、つまり鉛が含まれる溶融スラグが発生する場合についても、様々な有価物を製造する方法が求められた。
【0018】
本発明において、溶融スラグの主要組成はSiO2(30~55%)、CaO(20~35%)、Al2O3(10~22%)であり、これ以外に、Fe2O3、PbO2を含むこともできる。
【0019】
本実施形態においては、酸との接触効率を高めるために溶融スラグの粒径は細かい方が好ましい。例えば、後述する第1工程の前に、例えば、溶融スラグを破砕、磨砕等の前処理手段を用いることができる。
【0020】
これにより、溶融スラグの溶け残りを最小限に抑えることができ、更に一様にゾル化・ゲル化を進行することができる。この結果、シリカの回収効率を向上させることができる。
【0021】
更に、細かくする溶融スラグの粒径を、同程度の粒径に揃えることが好ましい。これにより、シリカの回収効率を更に向上させることができる。
【0022】
溶融スラグの粒径としては、例えば、300μm未満に細かくすることが好ましい。これによって、上述したシリカの回収効率を向上させることができる。
【0023】
<第1工程>
第1工程は、
図1に示すように、溶融スラグと硫酸を第1タンク10に添加する。
【0024】
ここで、第1工程での第1タンク10内の温度は、20~40℃の範囲であることが好ましい。つまり、常温近傍の範囲で反応させることが好ましい。
溶融スラグに硫酸を添加すると、反応熱を生じるため、溶融スラグと硫酸との固液比によっては、上記範囲を超える場合があり、冷却の必要が生じる場合がある。この場合、第1タンク内の温度が、20~40℃の範囲になるように、温度を制御しながら反応させることが好ましい。
【0025】
硫酸の添加量は、該スラグに含まれるCaOおよびAl2O3の反応に必要な硫酸モル当量を計算し、その計算された硫酸モル当量よりも1.05~1.5倍のモル当量過剰な硫酸量であることが好ましい。より好ましくは、計算された硫酸モル当量よりも、1.05~1.1倍の硫酸モル当量であることが好ましい。
【0026】
ここで、硫酸添加量(当量比)について説明する。
本発明において、「スラグ中で硫酸塩生成に使われる硫酸必要量」を「1モル当量」と定義する。
酸イオンと反応して硫酸塩を生成する主要成分は、CaOおよびAl2O3である。
なお、SiO2の反応はゾル化であり、硫酸イオンとは反応しないので含まない。
【0027】
本発明においては、CaOおよびAl2O3の量から、1モル当量あたりの硫酸必要量を計算し、その量よりも少し多めの硫酸量をゾル生成タンクに添加することで、酸使用量を最小限に抑えつつ、シリカのゾルゲル化が可能となる。
【0028】
ここで、「1モル当量」の計算方法を説明する。
〔1〕スラグの組成から、スラグ重量xgあたりの重量を計算する。
(例)スラグ組成CaO:28.2%、Al2O3:10.8%の場合、
スラグ10gには、
CaO …10×28.2/100=2.82g
Al2O3 …10×10.8/100=1.08g
含まれる。
〔2〕CaOおよびAl2O3の分子量から、Ca、Alのモル数を計算する。
CaO : 56.08g/mol
Al2O3:101.96g/mol
(例)CaO:2.82g、Al2O3:1.08gの時、
それぞれのモル数は
CaO :2.82/ 56.08=0.0503mol…(a)
Al2O3:1.08/101.96=0.0106mol…(b)
と算出することができる。
〔3〕Ca2+およびAl3+の反応に必要なSO4
2-数を確認すると、
Ca2++SO4
2- → CaSO4↓
この反応から、1個のCa2+にSO4
2-が1個必要であることがわかる。
2Al3++3SO4
2- → Al2(SO4)3
この反応から、1個のAl3+にSO4
2-が1.5個必要であることがわかる。
〔4〕〔3〕から、必要な硫酸のモル当量は(a)×1+(b)×1.5molとなる。
この量を「1モル当量」と定義する。
【0029】
(例)〔1〕~〔3〕の条件を使うと、
(a)×1+(b)×1.5=0.0503×1+0.0106×1.5
=0.0662mol …(c)
【0030】
次に、(例1)3N硫酸を100g添加した場合の当量比を計算する。
3N硫酸の比重は、1.09kg/lなので、
100/1000(kg)÷1.09(kg/l)=0.092
3N硫酸のモル濃度は、1.5mol/lなので、
0.092×1.5=0.14mol …(d)
当量比は(d)÷(c)=0.14/0.0662=2.1となる。
【0031】
また、(例2)1.5N硫酸を100g添加した場合の当量比を計算する。
1.5N硫酸の比重1.05kg/lなので、
100/1000(kg)÷1.05(kg/l)=0.095
1.5N硫酸のモル濃度は、0.75mol/lなので、
0.095×0.75=0.071mol …(e)
当量比は(e)÷(c)=0.071/0.0662=1.1となる。
【0032】
本発明において、硫酸モル当量よりも、好ましくは1.05~1.5倍のモル当量、より好ましくは、1.05~1.1倍過剰の硫酸量としているが、この過剰量は、後述の第2工程のゲル化反応において、必要とされる酸の必要量を考慮して定めたものである。
【0033】
第1タンク10内で、液中で得られるSiO2ゾルと、Al2O3を溶解して得られる硫酸アルミニウムと、消費されたモル当量分を除いた余剰の硫酸とからなる液体成分と、第1タンク10内で、CaOと硫酸との反応により得られる石膏からなる固形分とを、固液分離する処理を行う。
【0034】
<第2工程>
第2工程は、
図1に示すように、第1工程で固液分離された液体成分を第2タンク20に移行して、液体成分中のSiO
2ゾルをゲル化してSiO
2ゲルを固形分として生成し、例えば、液体成分に含まれる硫酸アルミニウムを分離取得することにより、硫酸アルミニウムを有価物として回収する。これにより、液体成分を分離取得されたことにより、残った固形分であるSiO
2ゲルを有価物として取得することができる。
【0035】
第2工程において重要なのは、第2工程において、第2タンク20内の溶液中に第1タンク10から送られるSiO2ゾル粒子と水素イオンが存在する系を形成する際に、第2タンク20に、新たに酸成分を添加することなく第1タンク10から送られてくる液体成分中の余剰の硫酸を酸成分として用いて水素イオンが存在する系を形成する点である。
【0036】
本発明では、第2工程において、前記形成された系内でゲル化を促進する処理を行う。
本発明においては、溶融スラグを硫酸で処理した場合には、石膏とSiO2ゲルの二つの固形物を回収できるが、第1工程と第2工程の間に固液分離を挟むことにより、石膏とSiO2ゲルを分けて回収できる効果がある。
以下に、第1工程及び第2工程について詳しく説明する。
【0037】
第1工程において、第一に、溶融スラグのSiO2網目構造内に入っていたCaOやAl2O3が酸で溶出し、可溶性もしくは難溶性の塩を形成する。硫酸で処理した場合、CaはCaSO4・2H2Oに、AlはAl2(SO4)3の形態になる。
【0038】
第1工程において、第二に、残ったスラグのSiO2網目構造から、徐々にシリカが、下記反応のように加水分解の形を経てゾル化する。ここで、加水分解の形を経てゾル化するものには、溶融スラグの全てのシリカ成分が加水分解反応まで至らなくても、網目構造内のCaやAlが溶解することにより、脆くなった網目構造が自然崩壊して、ゾルに近いサイズになったものも含まれる。
【0039】
(加水分解反応)
SiO2+2H2O → Si(OH)4
【0040】
次に、第2工程において、Si(OH)4粒子が接触することにより縮重合が始まる。この時、H+(水素イオン)が触媒として働く。
【0041】
【0042】
第2工程において、上記反応式による反応工程で、縮重合反応が進行すると、目視可能な一つの大きなカタマリとなる。これがゲル化した状態である。
【0043】
本発明においては、第2工程において、SiO2ゾルをSiO2ゲルにゲル化する際に、溶液中にSiO2ゾル粒子と水素イオンが存在するような系内で、ゲル化を促進する処理を行う。
【0044】
第2工程において、ゲル化を促進する処理の第1は、系内の溶液中のSiO2ゾル濃度を高くする処理を行うことである。
【0045】
この処理としては、溶媒が蒸発してシリカ粒子間の距離が小さくなると、縮重合が進行し短時間でゲル化する。すなわち、水分蒸発により、SiO2粒子の粒子間距離が、15mμm(=nm)になると、SiO2粒子が相互に接触するところまで接近すると、縮合反応が活発化し、塊状のAmorphousシリカを形成するものと考えられる。
【0046】
次に、第2工程におけるゲル化を促進する処理の第2は、系内の溶液中の水素イオン濃度を高くする処理を行うことである。
水素イオンはSiO2ゾルの縮重合において、触媒として寄与する。酸濃度・酸使用量に反映される部分である。
【0047】
次に、第2工程におけるゲル化を促進する処理の第3は、前記系内の溶液の温度を95℃以上に加熱する処理を行うことである。
ゲル化する系を、例えば95℃で加熱することにより、水分蒸発の結果、SiO2ゾル濃度が高くなる。また、溶液中の粒子運動が活発化することにより粒子の接触が促進される。
【0048】
上述したゲル化を促進する処理の第1~第3のうち、何れか一つ又は複数の処理をすることにより、ゲル化が促進されるため、シリカの製造時間の短縮化を図ることができる。
【0049】
本発明において、第2工程において、ゲル化の促進処理を行う理由は、以下の通りである。すなわち、上記処理を、第1工程のゾル化のステップ工程(石膏を固液分離する前)で行ってしまうと、第1工程でゾル化とゲル化が同時に起こってしまい、第2工程で純度の高いSiO2ゾルを回収することができない。
【0050】
そのため、第2工程に移る時点で、あるいは移った後に、ゲル化の促進処理を行うと、ゲル化のタイミングを制御し、第2工程で純度の高いSiO2ゾルを回収できる。
【0051】
次に、本発明における溶融スラグが、Pbを含む場合について説明する。
Pbはスラグ中において酸化物と含まれているので、第1工程で、PbO2と硫酸との反応で、PbSO4の固形物が生成し、その固形物を固液分離すれば、Pbを含まない硫酸アルミニウムからなる有価物を取得することができる。PbやPbO2を含む溶融スラグは、ごみ焼却設備から発生する溶融スラグが挙げられる。
【0052】
図1において、PbO
2を含む溶融スラグと硫酸を第1タンク10に添加されると、第1工程で、PbO
2と硫酸が反応し、PbSO
4を生成する。PbSO
4は固形分として沈殿するために、第1タンク10内で、固液分離できる。
液中で加水分解して得られるSiO
2ゾルと、Al
2O
3を溶解して得られる硫酸アルミニウムと、余剰の硫酸とからなる液体成分は、第2タンク20へ送られる。
【0053】
従って、第1タンク10内で、CaOと硫酸との反応により得られる石膏と、PbO2と硫酸との反応により得られるPbSO4からなる固形分が回収される。
【0054】
この方法によると、PbO2が第1工程で除去されるので、Pbを含まない硫酸アルミニウムからなる付加価値の高い有価物を取得することができる。
【0055】
以上の説明において、前記第2工程で得られた硫酸アルミニウムを含む液体を、再び第1工程で用いる硫酸の一部として再利用してもよい。これにより、硫酸アルミニウムの濃度を上げると共に、酸の有効活用ができる。更に、水の使用量を削減し、排水(廃酸)の削減を図ることができる。
【0056】
また、第1工程又は第2工程で分離した固形分に、洗浄水を使用して洗浄する。この洗浄水を第1工程で用いる硫酸調整の希釈水として使用してもよい。これにより、更に、水の使用量を削減し、排水(廃酸)の削減を図ることができる。
【実施例0057】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、かかる実施例によって限定されない。
【0058】
実施例1
(1)試験工程
<第1工程>
3Nに調整した硫酸100gに溶融スラグ10gを加えて、常温で30分攪拌した。
0.45μmのメンブレンフィルターで固液分離し、得られた固形物を水洗浄後乾燥させて固形物Aとした。
ろ液は、第2工程に使用する。
【0059】
<第2工程>
ろ液は、攪拌させながら、95℃のオイルバスで加熱させた。
加熱を開始してから、100分程度で、液にトロミが付いてきたのを確認できた。
10分後には、ろ液全てがゲル化し、容器を傾けても液面が動かなくなった。
ゲルを0.45μmのメンブレンフィルターで固液分離し、得られた固形物を水洗浄後乾燥させて固形物Bとした。
ろ液は回収して、ろ液Cとした。
【0060】
(2)分析方法
SiO2 ・・・重量法
Ca(元素ベース) ・・・ICP発光分光分析法
Al(元素ベース) ・・・ICP発光分光分析法
Pb(元素ベース) ・・・フレーム原子吸光分析法
【0061】
(3)分析結果
分析結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
*1 検出限界 0.01% *2 検出限界 0.1mg/kg
【0063】
(4)評価
表1から、溶融スラグの各組成は以下のように移行し有価物として製造されたことがわかる。
SiO2は、34%程度が固形物Aに、58%程度が固形物Bに移行していることがわかる。
固形物Bの純度は100%近くであり、高純度のSiO2が回収できていることがわかった。
Caは、90%が固形物Aに移行していることがわかった。X線回折の結果、石膏(CaSO4・1/2H2O)であることがわかった。この石膏は有価物である。
Alは、73%程度が、ろ液Cに移行していることがわかった。ろ液Cには、SiO2ゾルも含まれるが、硫酸アルミニウム液も含まれ、この硫酸アルミニウム液は、硫酸バンドとして活用できる有価物である。
Pbは、固形物Bと、ろ液Cでは検出限界以下であり、固形物Aでのみ検出された。固形物Aは、硫酸鉛である。
また第2工程で、濃硫酸を添加することなく、第1工程から送られる余剰分硫酸を使用したので、SiO2ゲルの製造において、硫酸使用量を削減できた。